(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012372
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】筒型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020114174
(22)【出願日】2020-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】永溝 喜也
(72)【発明者】
【氏名】袴田 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】芝原 大智
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB06
5H641BB18
5H641GG03
5H641GG08
5H641HH02
5H641JA02
(57)【要約】
【課題】コアやサイドピースに寸法誤差や積層誤差が生じてもコギング推力の低減が可能な筒型リニアモータの提供を目的としている。
【解決手段】上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータ1は、軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6と、界磁6の内方に配置されて界磁6に対して軸方向移動可能な電機子Eとを備え、電機子Eは、筒状であって界磁6に対向する外周に環状のスロット2cを有するコア2と、スロット2cに装着される巻線3と、環状であってコア2の軸方向の両端に隣接する磁性体でなるサイドピース10,10とを有し、サイドピース10,10は、反コア側端の界磁6に対向する周囲にコア2の軸線Aに対して傾斜するスキュー面10bを有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向にN極とS極とが交互に配置される筒状の界磁と、
前記界磁の内方或いは外方に配置されて前記界磁に対して軸方向移動可能な電機子とを備え、
前記電機子は、
筒状であって前記界磁に対向する内周或いは外周に環状のスロットを有するコアと、
前記スロットに装着される巻線と、
環状であって前記コアの軸方向の両端に隣接する磁性体でなるサイドピースとを有し、
前記サイドピースは、反コア側端の前記界磁に対向する周囲に前記コアの軸線に対して傾斜するスキュー面を有する
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
前記スキュー面の前記界磁に対向する内周或いは外周における軸方向の始端から終端までの長さをLとし、前記界磁の磁極ピッチをPとすると、0.7×P≦L≦1.3×Pを満たすように前記スキュー面が前記サイドピースに形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【請求項3】
前記界磁内に軸方向移動可能に挿入されるとともに外周に前記コアと前記サイドピースが装着されるロッドと、前記ロッドに固定されて前記コアおよび前記各サイドピースを挟持する一対のストッパとを備え、
前記コアは、前記界磁の内方に挿入されており、軸方向両端に前記軸線に対して直交する端面を有し、
前記サイドピースは、前記軸線に直交し前記コアの端面と当接するコア側の端面と、前記スキュー面の内周側であって反コア側に前記軸線に直交する端面を有し、反コア側の前記端面を前記ストッパに当接させている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筒型リニアモータ。
【請求項4】
前記界磁の内周に嵌合される非磁性体のインナーチューブを備え、
前記ストッパ部材は、それぞれ前記インナーチューブの内周に摺接している
ことを特徴とする請求項3に記載の筒型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒型リニアモータは、たとえば、筒状の固定子ケースと固定子ケースの内周に装着されて内周に軸方向に並べて配置される複数のティースを備えたコアとティース間のスロットに装着されるU相、V相およびW相の巻線を有する固定子と、電機子の内周に移動自在に挿入されて複数の永久磁石を外周に設けられた可動子とを備えるものがある。
【0003】
筒型リニアモータでは、端効果と称される可動子端の不均衡な磁気回路によってコギング力が発生するため、筒型リニアモータの推力が変動してしまう推力リップルが発生する。このように筒型リニアモータでは、コギング推力の低減が要望されるため、コアの両端における磁束の変化を滑らかにして、可動子が固定子に対して軸方向へ移動する際に生じるコギング推力を低減するべく、コアの軸方向両端に補助突極と称されるサイドピースを設けた筒型リニアモータが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような筒型リニアモータでは、コギング推力を生じさせる永久磁石からコアが受ける吸引力をコアの両端へのサイドピースの設置によって打ち消すことで端効果によるコギング推力の低減を狙っている。また、サイドピース自体も界磁との間に生じる磁力で吸引され、当該磁力は、界磁に対するサイドピースの位置によって周期的に変化する。よって、コアの軸方向の左右両側に配置された2つのサイドピースをコアに対して適切な位置に配置すると、左側のサイドピースに作用する吸引力と右側のサイドピースに作用する吸引力で打ち消すことができ、コギング推力をより低減できる。
【0006】
よって、サイドピースの設置によってコギング推力の低減を図る場合、両端のサイドピースと可動子側の磁極の軸方向の位置関係を高精度に管理する必要がある。ところが、従来の筒型リニアモータでは、コアに補助突極を積層する構造を採用しているため、コアとサイドピースに寸法誤差や積層誤差が生じると左右のサイドピースの吸引力の位相にずれが生じて吸引力の打ち消し効果が減殺され、コギング推力のリップル(脈動振幅)が大きくなってコギング推力を十分に低減できなくなってしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、コアやサイドピースに寸法誤差や積層誤差が生じてもコギング推力の低減が可能な筒型リニアモータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータは、軸方向にN極とS極とが交互に配置される筒状の界磁と、界磁の内方或いは外方に配置されて界磁に対して軸方向移動可能な電機子とを備え、電機子は、筒状であって界磁に対向する内周或いは外周に環状のスロットを有するコアと、スロットに装着される巻線と、環状であってコアの軸方向の両端に隣接する磁性体でなるサイドピースとを有し、サイドピースは、反コア側端の界磁に対向する周囲に前記コアの軸線に対して傾斜するスキュー面を有している。このように構成された筒型リニアモータは、サイドピースを設けたので端効果によるコギング推力を低減できるとともに、サイドピースがスキュー面を備えているのでコアとサイドピースとに軸方向の寸法誤差や積層誤差が生じてサイドピースの位置が変化してもコギング推力のリップルを低減できる。
【0009】
また、スキュー面の界磁に対向する内周或いは外周における軸方向の始端から終端までの長さをLとし、界磁の磁極ピッチをPとすると、0.8×(P/2)≦L≦1.2×(P/2)を満たすようにスキュー面がサイドピースに形成されてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、コギング推力のリップルを効果的に低減できる。
【0010】
さらに、筒型リニアモータは、界磁内に軸方向移動可能に挿入されるとともに外周にコアとサイドピースが装着されるロッドとロッドに固定されてコアおよび各サイドピースを挟持する一対のストッパとを備え、コアが界磁の内方に挿入されており、軸方向両端に軸線に対して直交する端面を有し、サイドピースがコアの軸線に直交しコアの端面と当接するコア側の端面と、スキュー面の内周側から反コア側に突出するとともに反コア側にコアの軸線に直交する端面を有し、反コア側の端面をストッパに当接させていてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、サイドピースに対してロッドの径方向の荷重が作用するのを防止でき、その分サイドピースを軽量化できコギング推力を低減しつつも筒型リニアモータの質量推力密度(筒型リニアモータの最大推力を質量で割った数値)の悪化を防止できる。
【0011】
また、筒型リニアモータは、界磁の内周に嵌合される非磁性体のインナーチューブを備え、ストッパ部材がそれぞれインナーチューブの内周に摺接してもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、ストッパ部材によって電機子のロッドへの固定と界磁に対する円滑な電機子の軸方向移動を実現できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の筒型リニアモータによれば、コアやサイドピースに寸法誤差や積層誤差が生じてもコギング推力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
【
図2】一実施の形態の筒型リニアモータの電機子の部分拡大図である。
【
図3】界磁に対するサイドピースの位置とサイドピースに作用する界磁の吸引力との関係を示した図である。
【
図4】一実施の形態の第一変形例における筒型リニアモータのコギング推力の波高値を示した図である。
【
図5】一実施の形態の第一変形例における筒型リニアモータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、
図1に示すように、軸方向にN極とS極とが交互に配置される筒状の界磁6と、界磁6の内方に配置されて界磁6に対して軸方向移動可能な電機子Eと備え、電機子Eは、筒状であって界磁6に対向する外周に環状のスロット2cを有するコア2と、スロット2cに装着される巻線3と、環状であってコア2の軸方向の両端に隣接する磁性体でなるサイドピース10,10とを備えて構成されている。
【0015】
以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。本実施の形態では、界磁6は、軸方向に交互に積層されて挿入される環状の主磁極の永久磁石6aと環状の副磁極の永久磁石6bとを備えて構成されて筒状とされている。また、界磁6の外周には筒状のバックヨーク8が装着されている。界磁6とバックヨーク8は、円筒状の非磁性体のアウターチューブ7と、アウターチューブ7内に挿入される円筒状の非磁性体のインナーチューブ9との間に形成される環状隙間に収容されている。
【0016】
なお、
図1中で主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石6aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石6bの着磁方向は軸方向となっている。主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bは、ハルバッハ配列で配置されており、界磁6の内周側では、軸方向にS極とN極が交互に現れるように配置されている。
【0017】
また、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1は、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2よりも長くなっており、本実施の形態では、0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2が設定されている。主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を長くすればコア2との間の主磁極の永久磁石6aとの間の磁気抵抗を小さくできコア2へ作用させる磁界を大きくできるので筒型リニアモータ1の質量推力密度を向上できる。
【0018】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けている。バックヨーク8を設けない場合、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2が短くなると主磁極の永久磁石6aの軸方向中央部分における磁石外部の磁気抵抗が増大し、界磁磁束が小さくなるため、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を長くする際の筒型リニアモータ1の推力向上度合が小さくなる。これに対して、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2の短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2よりも長くするとともに永久磁石6a,6bの外周に筒状のバックヨーク8を設けると筒型リニアモータ1の質量推力密度を大きく向上させ得る。バックヨーク8の肉厚は、主磁極の永久磁石6aの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。
【0019】
なお、副磁極の永久磁石6bは、主磁極の永久磁石6aより高い保磁力を有する永久磁石とされている。永久磁石における残留磁束密度と保磁力は、互いに密接に関係しており、一般的に残留磁束密度を高めると保磁力は低くなり、保磁力を高めると残留磁束密度が低くなるという、互いに背反する関係にある。ハルバッハ配列では、副磁極の永久磁石6bには減磁方向に大きな磁界が印加されるため、副磁極の永久磁石6bの保磁力を高くして減磁を抑制し、大きな磁界をコア2に作用させ得るようにしている。対して、コア2に対して作用する磁界の強さは、主磁極の永久磁石6aの磁力線数に左右される。そのため、主磁極の永久磁石6aに高い残留磁束密度の永久磁石を使用して大きな磁界をコア2に作用させるようにしている。本実施の形態では、副磁極の永久磁石6bを主磁極の永久磁石6aよりも保磁力を高くするのに際して、副磁極の永久磁石6bの材料を主磁極の永久磁石6aの材料よりも保磁力が高い材料としている。よって、材料の選定によって、主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bの組合せを簡単に実現できる。なお、本実施の形態では、主磁極の永久磁石6aは、ネオジム、鉄、ボロンを主成分とする残留磁束密度が高い材料で構成され、副磁極の永久磁石6bは、前記材料にジスプロシウムやテリビウム等の重希土類元素の添加量を増やした減磁しにくい磁石で構成されている。
【0020】
また、固定子の内周側には、コア2が挿入されており、界磁6は、コア2に磁界を作用させている。なお、界磁6は、コア2の可動範囲に対して磁界を作用させればよいので、コア2の可動範囲に応じて永久磁石6a,6bの設置範囲を決定すればよい。したがって、アウターチューブ7とインナーチューブ9との環状隙間のうち、コア2に対向し得ない範囲には、永久磁石6a,6bを設置しなくともよい。なお、界磁6は、本実施の形態ではハルバッハ配列で積層される永久磁石6a,6bで構成されているが、内周にN極とS極とが交互に現れればよいので、ハルバッハ配列以外の配列で積層される永久磁石で構成されてもよい。
【0021】
また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図1中左端はキャップ14によって閉塞されており、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図1中右端は環状のヘッドキャップ15によって閉塞されている。
【0022】
電機子Eは、コア2と、コア2に装着される巻線3と、コア2の軸方向両端に隣接するサイドピース10,10とを備えて構成されて、インナーチューブ9内に軸方向移動自在に挿入されている。つまり、本実施の形態では、電機子Eは、界磁6の内周側に配置されており、界磁6に対して軸方向に相対移動できる。
【0023】
コア2は、本実施の形態では、パーメンジュールで形成されており、円筒状のヨーク2aと、環状であってヨーク2aの外周に軸方向に間隔を空けて設けられる複数のティース2bと、ティース2b,2b間に設けたスロット2cとを備えて構成されて可動子とされている。そして、コア2は、軸方向の両端にコア2の軸線Aに対して直交する端面2d,2eを備えている。
【0024】
ヨーク2aは、前述の通り円筒状であって、その横断面積はコア2の軸線Aを中心とした円筒でティース2bの内周から外周までのどこを切っても、ティース2bを前記筒で切断した際にできる断面の面積以上となるように肉厚が確保されている。
【0025】
本実施の形態では、
図1および
図2に示すように、ヨーク2aの外周に13個のティース2bが、軸方向に等間隔に並べて設けられており、コア2の界磁6側となる外周側であって、ティース2b,2b間に巻線3が装着される環状溝でなるスロット2cが形成されている。なお、本実施の形態では、スロット2cの断面形状が矩形となるようにティース2bの軸方向幅が一定となっているが、ティース2bの先端側の軸方向幅を狭くしてスロット2cの断面形状を等脚台形状となるようにしてもよい。ティース2bの形状は、前述した形状以外の他の形状とされてもよい。
【0026】
本実施の形態では、
図1中で隣り合うティース2b,2b同士の間には、環状溝でなるスロット2cが合計で12個設けられている。スロット2cは、コア2の周方向に沿って複数設けられており、コア2の外周に軸方向に等ピッチで並べて設けられている。
【0027】
そして、このスロット2cには、巻線3が巻き回されて装着されている。巻線3は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。各相の巻線3は、12個のスロット2cに界磁6の磁極配置に応じて適した配置となるように装着される。
【0028】
また、
図1および
図2において、電機子Eは、コア2の軸方向両端にそれぞれ隣接する磁性体で形成されたサイドピース10,10を備えている。サイドピース10は、ともに環状であって、コア2の軸方向の端面2d,2eに当接している。
【0029】
サイドピース10について詳細に説明すると、サイドピース10は、本実施の形態では、SUS430製で、反コア側端の界磁6に対向する周囲にコア2の軸線Aに対して傾斜する環状のスキュー面10bを備えるとともにコア側端に前記軸線Aに直交する端面10cを備えて外径がコア2の外径と等しいか或いは略等しい環状の本体部10aと、本体部10aのスキュー面10bの内周側から反コア側に突出するとともに反コア側にコア2の軸線Aに直交する端面10eを有する円筒部10dとをそなえて構成されている。そして、各サイドピース10は、コア側面となる本体部10aの端面10cをコア2の軸方向の端面2d,2eに当接させてコア2に積層される。
【0030】
また、サイドピース10におけるスキュー面10bの界磁6に対向する外周における軸方向の始端xから終端yまでの長さをLとし、界磁6の磁極ピッチをPとすると、L=Pを満たすようにスキュー面10bがサイドピース10に形成されている。なお、本体部10aの軸方向長さは、長さL+αとされる。αは、0mm以上であればよいが、0mmとすると本体部10aのスキュー面10bの始端xでの厚さがなくなってしまい強度面で不利となるので、たとえば、αを1mm以上とするなど前記始端xでの強度を確保できるようにするとよい。
【0031】
このように構成されたサイドピース10,10をコア2の軸方向の両端に積層するとサイドピース10の外周が界磁6の内周に対向する。サイドピース10の反コア側端の界磁6側に対向する周囲にスキュー面10bを設けているので、界磁6に対向するサイドピース10の外周における軸方向の長さ(肉厚)が周方向で変化する。
【0032】
コア2の
図1中左側に配置されたサイドピース10が界磁6から受ける吸引力は、
図3の線A1で示すように、界磁6に対して軸方向にストロークして位置が変わると周期的に変化する。ところが、スキュー面10bを備えたサイドピース10が受ける吸引力の振幅は、
図3中で破線A2で示したスキュー面10bを備えない平板環状のサイドピースが界磁6から受ける吸引力の振幅よりも小さくなる。
【0033】
同様に、コア2の
図1中右側に配置されたサイドピース10が界磁6から受ける吸引力は、
図3の線B1で示すように、界磁6に対して軸方向にストロークして位置が変わると周期的に変化する。ところが、スキュー面10bを備えたサイドピース10が受ける吸引力の振幅は、
図3中で破線B2で示したスキュー面10bを備えない平板環状のサイドピースが界磁6から受ける吸引力の振幅よりも小さくなる。
【0034】
このように、スキュー面10bを備えたサイドピース10,10が界磁6に対して軸方向へ変位した際に界磁6から吸引力は、周期的に変化するもののスキュー面10bを備えていないサイドピースに比較して振幅が小さくなる。
【0035】
ここで、左右のサイドピース10,10の一方が界磁6から受ける吸引力の波形と他方が界磁6から受ける吸引力の波形は、完全な正弦波ではないため、コア2の軸方向両端に当接させて各サイドピース10,10を配置したときに両者の波形の位相差が180度となっても互いの吸引力を完全には打ち消すことができないものの、筒型リニアモータ1のコギング推力のストロークに応じて振動的に変化するリップル(脈動振幅)を最小とできる。ところが、コア2やサイドピース10に寸法誤差や積層誤差があると、サイドピース10,10がコギング推力の低減に理想的な位置に配置されない場合がある。
【0036】
このような状況となっても、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、サイドピース10がスキュー面10bを備えているので、スキュー面10bを備えていないサイドピースに比較して吸引力の振幅が小さくなるから、サイドピース10,10の吸引力を合成した波形の振幅は、スキュー面10bを備えていない各サイドピースの吸引力を合成した波形の振幅よりも小さくなる。
【0037】
よって、
図7中の実線で示すように、本実施の形態の筒型リニアモータ1のコギング推力のリップル(脈動振幅)は、
図7の破線で示したスキュー面10bを備えていない筒型リニアモータのコギング推力のリップルに比較して極小さくなる。
図7は、コアと左右のサイドピースの合計の軸方向長さの誤差に対する筒型リニアモータのコギング推力の波形の波高値を示しており、誤差は寸法誤差および積層誤差を含んだ誤差の総量を示しており、誤差が0となるコア2およびサイドピースの理想配置でコギング推力のリップル(脈動振幅)が最小となることが分かる。
【0038】
以上から理解できるように、サイドピース10,10にスキュー面10bを設けると、コア2やサイドピース10,10の寸法誤差や積層誤差によって、コギング推力のリップルを最小とする理想的な位置にサイドピース10,10を配置できなくとも、従来の筒型リニアモータに比較してコギング推力のリップル(脈動振幅)を極小さくできるのである。
【0039】
なお、コギング推力のリップルを低減する効果は、サイドピース10にスキュー面10bを設けると得られるが、スキュー面10bの界磁6に対向する外周における軸方向の始端xから終端yまでの長さLを0.7×P≦L≦1.3×Pを満たすように設定すると、コギング推力のリップルを低減効果が高くなることが発明者らの研究によって判明している。
【0040】
このように構成された電機子Eは、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の先端の外周に装着され、ロッド11とともに界磁6内に移動自在に挿入される。ロッド11は、アウターチューブ7の
図1中右端に取り付けられたヘッドキャップ15内を通して筒型リニアモータ1外へ突出している。また、ロッド11の電機子Eの
図1中左右にはインナーチューブ9の内周に摺接するストッパ部材としてのスライダ12,13が装着されている。電機子Eは、スライダ12,13によって挟持されてコア2とサイドピース10,10とが密着した状態でロッド11に固定される。また、スライダ12,13がインナーチューブ9の内周に摺接しているので、電機子Eは、界磁6に対して軸ぶれしないので、インナーチューブ9に干渉することなく軸方向に移動できる。
【0041】
このように、インナーチューブ9は、コア2の外周と界磁6の内周との間の磁気ギャップを形成するとともに、スライダ12,13と協働して電機子Eの軸方向移動を案内する役割を果たしている。コア2およびサイドピース10の外径は、インナーチューブ9の内径よりも小さく、インナーチューブ9に干渉することはなく、筒型リニアモータ1は円滑に伸縮できるが、インナーチューブ9の内周に摺接してもよい。なお、インナーチューブ9は、非磁性体で形成されればよいが、合成樹脂で形成されると筒型リニアモータ1の推力密度向上効果が高くなる。インナーチューブ9を非磁性体の金属で製造すると、電機子Eが軸方向へ移動する際にインナーチューブ9の内部に渦電流が生じて、電機子Eの移動を妨げる力が発生してしまう。これに対して、インナーチューブ9を合成樹脂とすれば渦電流が生じないので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できるとともに、筒型リニアモータ1の質量を低減できる。なお、インナーチューブ9を合成樹脂とする場合、フッ素樹脂で製造すればスライダ12,13との間の摩擦および摩耗を低減できる。また、インナーチューブ9を他の合成樹脂で形成してもよく、また、摩擦および摩耗を低減するべく他の合成樹脂で形成されたインナーチューブ9の内周をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0042】
なお、ロッド11は、図示はしないが、筒状とされており、ロッド11内に通される図外の電線を通じて筒型リニアモータ1の外方に設置される外部電源から巻線3へ電力供給できる。
【0043】
そして、たとえば、巻線3の界磁6に対する電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線3の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と電機子Eの移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。また、電機子Eと界磁6とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線3への通電、あるいは、巻線3に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0044】
以上のように、本発明の筒型リニアモータ1は、軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6と、界磁6の内方に配置されて界磁6に対して軸方向移動可能な電機子Eとを備え、電機子Eは、筒状であって界磁6に対向する外周に環状のスロット2cを有するコア2と、スロット2cに装着される巻線3と、環状であってコア2の軸方向の両端に隣接する磁性体でなるサイドピース10,10とを有し、サイドピース10,10は、反コア側端の界磁6に対向する周囲にコア2の軸線Aに対して傾斜するスキュー面10bを有している。このように構成された筒型リニアモータ1は、サイドピース10,10を設けたので電機子Eの軸方向の両端部における磁束の変化を滑らかにできるとともに、サイドピース10,10がスキュー面10bを備えているのでコア2とサイドピース10とに軸方向の寸法誤差や積層誤差が生じてサイドピース10の位置が変化しても、コギング推力のリップルを低減して、界磁6に対して電機子Eが軸方向に相対移動する際に発生するコギング推力を充分に低減できる。
【0045】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、サイドピース10のスキュー面10bの界磁6に対向する外周における軸方向の始端xから終端yまでの長さLを0.7×P≦L≦1.3×Pを満たすように設定しているので、コギング推力のリップルを効果的に低減できる。
【0046】
さらに、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、界磁6内に軸方向移動可能に挿入されるとともに外周にコア2とサイドピース10,10が装着されるロッド11とロッド11に固定されてコア2および各サイドピース10,10を挟持する一対のスライダ(ストッパ部材)12,13とを備え、コア2が界磁6の内方に挿入されて軸方向両端に軸線Aに対して直交する端面2d,2eを有し、サイドピース10,10が軸線Aに直交しコア2の端面2d,2eと当接するコア2側の端面10cとスキュー面10bの内周側であってから反コア側に突出するとともに反コア側に軸線Aに直交する端面10eを有する円筒部10dとを有し、反コア側の端面10eがスライダ(ストッパ部材)12,13に当接するように構成されている。
【0047】
このように構成された筒型リニアモータ1では、通電によって電機子Eに対して界磁6側から軸方向の荷重が作用する。サイドピース10,10がスキュー面10bの内周から突出する円筒部10d,10dを備えているので、この軸方向の荷重のパスは、円筒部10dを通過するパスとなってスキュー面10bを通過せず、サイドピース10,10とコア2の端面同士が軸線Aに直交するため、サイドピース10,10に対してロッド11の径方向の荷重が作用するのを防止できる。このようにスキュー面10bを備えたサイドピース10,10に横方向の荷重がかかるのを防止できるので、サイドピース10,10を横荷重に耐えうるように本体部10aの肉厚を必要以上に厚くして強度を確保する必要がなくなり、その分サイドピース10,10を軽量化できコギング推力を低減しつつも筒型リニアモータ1の質量推力密度(筒型リニアモータの最大推力を質量で割った数値)の悪化を防止できる。なお、本体部10aの端面全体をスキュー面とする構造を採用した場合、スライダ12,13とサイドピース10との間に、サイドピース10と同形状の非磁性体の追加部品を介装してスライダ12,13で電機子Eを軸方向で固定する構造を採用しうるが、この場合、サイドピース10と追加部品とがスキュー面同士を突き合わせて積層される構造となるため、電機子Eに軸力が作用した際にサイドピース10と追加部品に横荷重が作用することになる。この場合、サイドピース10と追加部品の軸方向の肉厚を厚くして横荷重に耐えうる強度を確保する必要があり、追加部品の追加と、軸方向長さが長くなる追加部品とサイドピース10によって筒型リニアモータ1の質量推力密度(筒型リニアモータの最大推力を質量で割った数値)が本実施の形態の筒型リニアモータ1よりも減少することになる。
【0048】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、界磁6の内周に嵌合される非磁性体のインナーチューブ9を備え、スライダ(ストッパ部材)12,13がそれぞれインナーチューブ9の内周に摺接している。このように構成された筒型リニアモータ1によれば、スライダ(ストッパ部材)12,13によって電機子Eのロッド11への固定と界磁6に対する円滑な電機子Eの軸方向移動を実現できる。
【0049】
なお、界磁6の外周側に電機子Eが設けられる場合には、
図5に示すように、サイドピース10の反コア側端の界磁6に対向する内周側にコア2の軸線Aに対して傾斜する環状のスキュー面10bを有していればよい。この場合、サイドピース10のスキュー面10bの始端xと終端yとの長さをLとして、長さLを0.7×P≦L≦1.3×Pを満たすように設定すれば、前述したようにコギング推力のリップルを効果的に低減できる。また、この場合、スキュー面10bの外周に円筒部10fを設けて、電機子Eを収容するアウターチューブ20の内周に電機子Eを軸方向の両側から挟持する一対のストッパ部材21(一方のみを
図5中に示す)を設けて固定すればよい。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・筒型リニアモータ、2・・・コア、2c・・・スロット、2d,2e・・・コアの端面、3・・・巻線、6・・・界磁、9・・・インナーチューブ、10・・・サイドピース、10b・・・スキュー面、10c・・・サイドピースの端面、10d・・・円筒部、10e・・・円筒部の端面、11・・・ロッド、12,13・・・スライダ(ストッパ部材)、A・・・軸線、E・・・電機子
【手続補正書】
【提出日】2020-07-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
また、スキュー面の界磁に対向する内周或いは外周における軸方向の始端から終端までの長さをLとし、界磁の磁極ピッチをPとすると、0.7×P≦L≦1.3×Pを満たすようにスキュー面がサイドピースに形成されてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、コギング推力のリップルを効果的に低減できる。