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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123828
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】発光酵素活性を有するポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20220817BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220817BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220817BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220817BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220817BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220817BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20220817BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20220817BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20220817BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K19/00
C12Q1/00
C12N9/02
C12N1/15
C07K14/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199158
(22)【出願日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2021021069
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大室 有紀
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050CC05
4B050LL03
4B050LL10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ79
4B063QR02
4B063QR55
4B063QS32
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD14
4B065CA28
4B065CA46
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA89
4H045EA50
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】分子量が小さい新たな発光酵素を提供する。
【解決手段】発光酵素活性を有する、(A)または(B)に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドが提供される。
(A)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位および204位~221位のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列、
(B)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位のアミノ酸残基が欠損し、146位~156位のアミノ酸残基の少なくとも1個が欠損または置換されたアミノ酸配列。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光酵素活性を有する、(A)または(B)に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(A)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位および204位~221位のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列、
(B)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位のアミノ酸残基が欠損し、146位~156位のアミノ酸残基の少なくとも1個が欠損または置換されたアミノ酸配列。
【請求項2】
配列番号1に示されたアミノ酸配列の70位~74位のアミノ酸残基の少なくとも1個がさらに欠損したアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
(a)~(c)のいずれかの配列を含む、請求項1または2に記載のポリペプチド;
(a)配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列、
(b)配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、または
(c)配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列。
【請求項4】
前記発光酵素活性は、温度50℃、10分間の熱処理により80%以上の残存活性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記発光酵素活性は、セレンテラジンを基質としたときに発光の波長ピークが470nm以上490nm以下である、または
セレンテラジンhを基質としたときに発光の波長ピークが470nm以上490nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を含むベクター。
【請求項8】
請求項6に記載の核酸が導入された形質転換細胞。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドからなる、レポータータンパク質。
【請求項10】
請求項9に記載のレポータータンパク質を用いたレポーター分析法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドと、標的タンパク質または標的タンパク質に結合するタンパク質と、を含む融合タンパク質。
【請求項12】
請求項11に記載の融合タンパク質をコードする核酸を含むベクター。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドと、蛍光物質とを備えた、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)分子プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光酵素活性を有するポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
基礎生物学分野、診断技術、検査技術において、標的タンパク質を検出するためにレポータータンパク質として発光酵素が利用される。レポータータンパク質としては、発光酵素の他に、蛍光タンパク質、蛍光色素、quantum dot、ペルオキシダーゼ等が汎用されている。蛍光タンパク質、蛍光色素およびquantum dotは、蛍光強度が高いものの、励起光が必要であるため、(1)細胞への光毒性がある、(2)励起光スペクトルが蛍光スペクトルに重なり、Signal/Background比が低くなりやすく、微量検出に不適である、(3)検出器に励起光照射機および分光フィルターを内蔵する必要がある等の短所があった。発光酵素は励起光を要しないため、上記の短所がない。また、発光酵素による検出はペルオキシダーゼ等を利用した比色法よりも微量検出に適している。
【0003】
これまでに、発光酵素として野生型ホタル由来発光酵素(FLuc)、NanoLuc、TurboLuc、カイアシ類(Gaussia princeps)由来発光酵素(GLuc)、ウミシイタケ科(Renilla reniformis)由来発光酵素()、カイアシ類(Metridia longa)由来発光酵素(MLuc)が報告されている。特開2014-100137号公報(特許文献1)および国際公開第2017/057752号(特許文献2)には、カイアシ類の発光酵素のアミノ酸配列から頻出アミノ酸を選定して作製した人工発光酵素(Aluc)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-100137号公報
【特許文献2】国際公開第2017/057752号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発光酵素と標的タンパク質との融合タンパク質を細胞内で発現させる場合、発光酵素が大きいと、融合タンパク質が正常に発現しなかったり、立体障害により標的タンパク質が正常に機能しないことがある。また、サイズが大きい発光酵素は、発光値が低分子化合物の影響を受けやすいことが報告されており、薬剤スクリーニングに適さない。生体発光共鳴エネルギー転移(BRET)を利用して分子間相互作用の解析を行う場合、シグナルの強度は、発光酵素と蛍光タンパク質との間の距離の6乗に反比例するため、発光酵素が小さい方がシグナルが強くなる。
【0006】
従って、発光酵素のサイズが小さいことは、発光酵素の利用に際して有用である。本発明は、分子量が小さい新たな発光酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、発光酵素活性を有する、(A)または(B)に記載のポリペプチドに関する。
(A)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位および204位~221位のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列、
(B)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位のアミノ酸残基が欠損し、146位~156位のアミノ酸残基の少なくとも1個が欠損または置換されたアミノ酸配列。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分子量が小さい発光酵素が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例において作製したALuc30の変異体の構造を示す図である。
図2】picALuc30とpicALuc16とのアミノ酸配列同一性を示す図である。
図3】picALuc30とpicALuc48とのアミノ酸配列同一性を示す図である。
図4】picALuc48とpicALuc16とのアミノ酸配列同一性を示す図である。
図5】実験2において、picALucの発光値を示すグラフである。エラーバーは±1 SD(n=3)を示す。
図6】picALuc30の立体構造を示す図である。
図7】実験4において、ΔloopN1の発光値を示すグラフである。
図8】実験5において、発光酵素に基質としてセレンテラジン(0.5μM)を添加したときの発光値を示すグラフである。エラーバーは±1 SD(n=3)を示す。
図9】実験5において、発光酵素に基質としてセレンテラジン(5μM)を添加したときの発光値を示すグラフである。エラーバーは±1 SD(n=3)を示す。
図10】実験5において、発光酵素に基質としてセレンテラジンh(5μM)を添加したときの発光値を示すグラフである。エラーバーは±1 SD(n=3)を示す。
図11】実験5において、発光酵素に基質としてセレンテラジンh(25μM)を添加したときの発光値を示すグラフである。エラーバーは±1 SD(n=3)を示す。
図12】実験5において、発光酵素に基質としてフリマジンを添加したときの発光値を示すグラフである。エラーバーは±1 SD(n=3)を示す。
図13】実験5において、発光酵素に基質としてフリマジンを添加したときの発光値を示すグラフである。エラーバーは±1 SD(n=3)を示す。
図14】実験6において、上清中の酵素タンパク質をウエスタンブロットにより検出した図である。左の図はflag-tagを、右の図はHis-tagを検出した。
図15】実験7において、発光酵素に基質としてセレンテラジンを添加したときの比活性を示すグラフである。
図16】実験7において、発光酵素に基質としてセレンテラジンhを添加したときの比活性を示すグラフである。
図17】実験8において、発光酵素に基質としてセレンテラジンを添加したときの発光スペクトルを示す図である。
図18】実験8において、発光酵素に基質としてセレンテラジンhを添加したときの発光スペクトルを示す図である。
図19】実験9において、分泌発現させたpicALucの熱処理後の発光値を示すグラフである。
図20】実験10において、分泌発現させたpicALucおよび大腸菌発現させたpicALucの発光値を示すグラフである。
図21】実験10において、大腸菌発現させたpicALucの熱処理後の発光値を示すグラフである。エラーバーは±1 SD(n=3)を示す。
図22】実験11において使用したプラスミドマップを示す図である。
図23】実験11において、NanoLucとYFPとの融合タンパク質に基質としてセレンテラジンhを添加したときのスペクトルを示す図である。
図24】実験11において、picALuc30とYFPとの融合タンパク質に基質としてセレンテラジンhを添加したときのスペクトルを示す図である。
図25】実験11において、NanoLucとYFPとの融合タンパク質のBRETシグナルを示す図である。
図26】実験11において、picALuc30とYFPとの融合タンパク質のBRETシグナルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ポリペプチド>
本発明に係るポリペプチドは、発光酵素活性を有する。発光酵素(ルシフェラーゼ)とは、発光基質(ルシフェリン)を酸化する酵素であり、その酸化過程において発光を生ずる。本明細書における発光酵素活性とは、発光酵素と基質による酵素反応の活性を表し、基質が発光酵素との酵素反応によって励起状態になった後、基底状態に戻る際に発する光(発光スペクトル)を検出することによって測定される。基底状態に戻る際に発する光は、公知のルミノメーター(例えばPromega社製、「GloMax」シリーズ)、または分光光度計(例えばTECAN社製、「Infinite200PRO」)を用いて検出することができる。特定の波長での強度を毎分計測することで、発光の経時的変化およびその安定性を検出できる。発光の長波長へのシフトは、全波長を測定することにより検出することができる。
【0011】
発光酵素活性の至適pHおよび至適温度は、公知の発光酵素(例えばカイアシ類の発光酵素または人工発光酵素)と同じであってよい。発光酵素活性は、好ましくはカイアシ類の発光酵素活性と同じである。発光酵素活性の至適pHは5.0~8.0であり、好ましくはpH7.0であり、至適温度は4℃~30℃であり、好ましくは25℃である。
【0012】
発光基質は特に限定されず、発光酵素に合わせて適宜選択すればよい。発光基質は、セレンテラジン系、ホタルルシフェリン系、ウミホタルルシフェリン系、フリマジン等公知の基質であってよいが、好ましくはセレンテラジン系の基質である。セレンテラジン系の基質としては、天然型のセレンテラジン、セレンテラジンip、セレンテラジンi、セレンテラジンhcp、セレンテラジン400A、セレンテラジン、セレンテラジンcp、セレンテラジンf、セレンテラジンh、セレンテラジンn等が挙げられる。発行基質は、好ましくはセレンテラジンまたはセレンテラジンhを含む。
【0013】
本発明に係るポリペプチドの一態様は、
(A)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位および204位~221位のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列を含む。
【0014】
本発明に係るポリペプチドの一態様は、
(A1)配列番号1に示されたアミノ酸配列の75位~203位のアミノ酸残基を含み、アミノ酸残基数が140個以下であってもよい。本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されたアミノ酸配列の75位~203位のアミノ酸残基からなってもよい。
【0015】
(A2)本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されたアミノ酸配列の75位~203位のアミノ酸残基を含み、ポリペプチドの分子量が20kDa以下であってもよい。
【0016】
本発明に係るポリペプチドの一態様は、
(B)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位のアミノ酸残基が欠損し、146位~156位のアミノ酸残基の少なくとも1個が欠損または置換されたアミノ酸配列を含む。
【0017】
本発明に係るポリペプチドの一態様は、
(B1)配列番号1に示されたアミノ酸配列の70位~221位のアミノ酸残基を含み、146位~156位のアミノ酸残基の少なくとも1個が欠損または置換されたアミノ酸配列であってよい。本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されたアミノ酸配列の70位~221位のアミノ酸残基からなり、146位~156位のアミノ酸残基の少なくとも1個が欠損または置換されたポリペプチドであってもよい。
【0018】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されたアミノ酸配列の70位~74位のアミノ酸残基の少なくとも1個がさらに欠損していてもよく、70位~74位のアミノ酸残基の全てが欠損していてもよい。
【0019】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されたアミノ酸配列の146位~156位のアミノ酸残基が、好ましくは2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上または7個以上欠損している。欠損した部位に1~数塩基のリンカー配列が挿入されていてもよい。本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されたアミノ酸配列の146位~156位の間のアミノ酸残基数が6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、1個以下または0個であってもよい。
【0020】
本発明に係るポリペプチドの分子量は、好ましくは20kDa以下であり、より好ましくは18kDa以下であり、さらに好ましくは15kDa以下であり、さらに好ましくは14kDa以下であり、特に好ましくは13kDa以下である。本発明に係るポリペプチドの分子量は、例えば10kDa以上である。
【0021】
本発明に係るポリペプチドのアミノ酸残基数は、例えば160個以下であり、好ましくは155個以下、150個以下、146個以下、143個以下、140個以下、136個以下、133個以下、130個以下、126個以下、123個以下、122個以下、121個以下、120個以下、119個以下、118個以下、117個以下である。本発明に係るポリペプチドのアミノ酸残基数は、例えば100個以上である。
【0022】
配列番号1中のXaaで表されるアミノ酸のうち、3,20-29,31,32,35,37,64-66,69,76-77,85-86,89-90,129,140-144,148-151,159,161,188,191,202,206位のアミノ酸残基はどのようなアミノ酸であってもよい。このうち、22-23,39-40,76-77,140,148-151位のアミノ酸残基は欠失していてもよい。好ましくは、3位のアミノ酸残基がEまたはGであり、20-29位のアミノ酸残基がPTENKDDI配列(2残基欠失、配列番号2),ATINEEDI配列(2残基欠失、配列番号3),ATINENFEDI配列(配列番号4),HHHHHHHH配列(2残基欠失、配列番号5),EKLISEE配列(2残基欠失、配列番号6),MMYPYDVP配列(2残基欠失、配列番号7)またはMMDYKDDD配列(2残基欠失、配列番号8)であり、31位のアミノ酸残基がI,L,YまたはKであり、32位のアミノ酸残基がVまたはAであり、35位のアミノ酸残基がEまたはGであり、37位のアミノ酸残基がKまたはSであり、64-66位のアミノ酸残基がANS配列またはDAN配列であり、69位のアミノ酸残基がDまたはGであり、76-77位のアミノ酸残基がGG配列若しくはK(1残基欠失)であるかまたは欠失していてもよく、85-86位のアミノ酸残基がLE,KAまたはKE配列であり、89-90位のアミノ酸残基がKE配列,IE配列,LE配列またはKI配列であり、129位のアミノ酸残基がE,GまたはAであり、140-144位のアミノ酸残基がTEEET配列(配列番号9),GEAI配列(1残基欠失、配列番号10)またはVGAI配列(1残基欠失、配列番号11)であり、148-151位のアミノ酸残基がGVLG配列(配列番号12)もしくはI(3残基欠失)であるかまたはすべて欠失してもよく、159位のアミノ酸残基がD,E,N,F,YまたはWであり、161位のアミノ酸残基がE,AまたはLであり、188位のアミノ酸残基がK,F,YまたはWであり、191位のアミノ酸残基がD,A,N,F,YまたはWであり、202位のアミノ酸残基がAまたはKであり、206位のアミノ酸残基はS,D,N,F,YまたはWである。
【0023】
配列番号1の13,16,174,218位のアミノ酸残基は、疎水性アミノ酸(例えば、V,F,A,L,I,G。)であって、好ましくは、13位のアミノ酸残基がVまたはFであり、16位のアミノ酸残基がVまたはAであり、174位のアミノ酸残基がVまたはAであり、218位のアミノ酸残基がAまたはLである。
【0024】
配列番号1の5,67,75,101,119,214位のアミノ酸残基は、親水性アミノ酸(例えばQ,K,D,R,H,E,T。)であって、好ましくは、5位のアミノ酸残基がQまたはKであり、67位のアミノ酸残基がDまたはRであり、75位のアミノ酸残基がK,H,RまたはEであり、101位のアミノ酸残基がTまたはHであり、119位のアミノ酸残基がK,EまたはQであり、211位のアミノ酸残基がKまたはTである。
【0025】
配列番号1の4,6,7,10,11,15,33,34,39-41,63,68,74,78,83,137,160,203位のアミノ酸残基は、脂肪族アミノ酸である。ただし、39,40,70位のアミノ酸残基は、欠失していてもよい。4,6,7,10,11,15,34,63,78,83,160位のアミノ酸残基は、好ましくは高分子量脂肪族アミノ酸(例えば、I,V,L,M。)であるが、低頻度に低分子量脂肪族アミノ酸が入る場合もある。より好ましくは、4位のアミノ酸残基がIまたはVであり、6位のアミノ酸残基がVまたはLであり、7位のアミノ酸残基がLまたはIであり、10位のアミノ酸残基がLまたはVであり、11位のアミノ酸残基がIまたはLであり、15位のアミノ酸残基がLまたはVであり、34位のアミノ酸残基がIまたはVであり、63位のアミノ酸残基がLまたはVであり、78位のアミノ酸残基がLまたはMであり、83位のアミノ酸残基がLまたはMであり、160位のアミノ酸残基がLまたはMである。33,39-41,68,74,137,203位のアミノ酸残基は、好ましくは低分子量脂肪族アミノ酸(例えば、A,G,T)であるが、低頻度に高分子量脂肪族アミノ酸が入る場合もある。より好ましくは、33位のアミノ酸残基がG,LまたはAであり、39位のアミノ酸残基がGもしくはAであるかまたは欠失していてもよく,SまたはFであり、40位のアミノ酸残基がTであるかまたは欠失していてもよく、41位のアミノ酸残基がTまたはAであり、68位のアミノ酸残基がAまたはGであり、74位のアミノ酸残基がGであるかまたは欠失していてもよく、137位のアミノ酸残基がGまたはAであり、203位のアミノ酸残基がTまたはGである。
【0026】
配列番号1の72,73,97,110位のアミノ酸残基は、正電荷を有するアミノ酸(塩基性アミノ酸。例えば、K,R,H。)である。ただし、72位および73位のアミノ酸残基は、欠失していてもよい。好ましくは、72位および73位のアミノ酸残基がRであるかまたは欠失していてもよく、97位のアミノ酸残基がKまたはRであり、110位のアミノ酸残基がHまたはKである。
【0027】
配列番号1の62位および211位のアミノ酸残基は、負電荷を有するアミノ酸(酸性アミノ酸。例えば、N,D,Q,E。)であり、好ましくは、62位のアミノ酸残基がNまたはDであり、211位のアミノ酸残基がQまたはEである。
【0028】
配列番号1に示されたアミノ酸配列を有する発光酵素の具体例として、ALuc10(配列番号13),ALuc15(配列番号14),ALuc16(配列番号15),ALuc17(配列番号16),ALuc18(配列番号17),ALuc19(配列番号18),ALuc21(配列番号19),ALuc22(配列番号20),ALuc23(配列番号21),ALuc24(配列番号22),ALuc25(配列番号23),ALuc26(配列番号24),ALuc27(配列番号25),ALuc28(配列番号26),ALuc29(配列番号27),ALuc30(配列番号28),ALuc31(配列番号29),ALuc32(配列番号30),ALuc33(配列番号31)、ALuc34(配列番号32)、ALuc41(配列番号33)、Aluc42(配列番号34)、ALuc43(配列番号35)、Aluc44(配列番号36)、ALuc45(配列番号37)、Aluc46(配列番号38)、ALuc47(配列番号39)、ALuc48(配列番号40)、ALuc49(配列番号41)、Aluc50(配列番号42)、ALuc51(配列番号43)、Aluc52(配列番号44)、ALuc53(配列番号45)、ALuc55(配列番号46)、Aluc56(配列番号47)、ALuc57(配列番号48)等が挙げられる。配列番号1に示されたアミノ酸配列を有する発光酵素は、1位~19位(分泌シグナル)、20位~31位(抗原認識部位等)、217位~221位(GSリンカー配列)のアミノ酸残基の一部または全部が欠損していてもよい。
【0029】
配列番号1に示されたアミノ酸配列のうち1-71位の領域として、配列番号49に示すアミノ酸配列を有してもよい。この配列を有する発光酵素の典型例として、ALuc15,ALuc16,ALuc17,ALuc18,ALuc24が挙げられる。
【0030】
配列番号1に示されたアミノ酸配列のうち1-157位の領域として、配列番号50に示すアミノ酸配列を有してもよい。この配列を有する発光酵素の典型例として、ALuc22,ALuc25,ALuc26,ALuc27,ALuc28,ALuc29が挙げられる。
【0031】
本発明に係るポリペプチドによれば、発光酵素のサイズを小さくすることができる。小さい発光酵素であれば、発光酵素と、標的タンパク質または抗体等との融合タンパク質を細胞内で発現させた場合、融合タンパク質が正常に発現しやすく、また、標的タンパク質が正常に機能しない可能性を下げることができる。小さい発光酵素は、発光値が低分子化合物の影響を受けにくいため、薬剤またはリガンドスクリーニングのレポータータンパク質に好適に用いることができる。生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)を利用して分子間相互作用の解析を行う場合にも、小さい発光酵素を用いれば、強いシグナルを検出することができる。小さい発光酵素は、分泌型の発光酵素に用いられ得る。分泌型の発光酵素によれば、発光値の測定のために細胞を溶解する必要がなく、遺伝子発現の経時的変化を測定することができる。小さい発光酵素は、細胞内で発現しやすいため、大量の発現および精製を行うことができる。小さい発光酵素は、様々な発現系で発現が可能である。また、小さい発光酵素は、構造安定性にも優れる。
【0032】
本発明に係るポリペプチドは、高い発光値を有することができる。本発明に係るポリペプチドは、発光のピーク値が好ましくは公知の発光酵素、例えばNanoLuc、ALuc等と同程度またはそれ以上である。発光値が高い発光酵素は、発光の高感度検出が可能であり、検出限界濃度を低くすることができる。
【0033】
本発明に係るポリペプチドは、好ましくは熱安定性が高く、例えば温度50℃、10分間の熱処理により80%以上の残存活性を有し、好ましくは温度60℃、10分間の熱処理により80%以上の残存活性を有する。熱安定性が高い発光酵素は、輸送時等の温度上昇に対して失活しにくく、診断および検査等の現場において実用性に優れる。
【0034】
本発明に係るポリペプチドの酵素活性は、好ましくは発光スペクトルの長波長側の裾野が広く、例えば従来のカイアシ類の発光酵素に比べて発光スペクトルが長波長側にシフトする。長波長は生体透過性に優れるため、長波長側の裾野が広い発光スペクトルを有する発光酵素は、ライブイメージングに適する。本発明に係るポリペプチドは、セレンテラジンを基質としたときに発光の波長ピークが好ましくは470nm以上490nm以下であり、より好ましくは約482nmである。本発明に係るポリペプチドは、セレンテラジンhを基質としたときに発光の波長ピークが好ましくは470nm以上490nm以下であり、より好ましくは約488nmである。
【0035】
ALucのC末端は、基質との結合に必須であると考えられていた。本発明の一態様に係るポリペプチドは、ALucのC末端を有さず、発光酵素活性を有する。従って、ALucのC末端を有さないポリペプチドの基質結合部位は、ALucとは異なる構造を有すると考えられる。
【0036】
本発明に係るポリペプチドは、その内部または端部に抗体認識部位を有してもよい。抗体認識部位の例としては、His-tag(HHHHHH)(配列番号67)、FLAG-tag(DYKDDDDK)(配列番号68)、Myc-tag(EQKLISEEDL)(配列番号69)、HA-tag(YPYDVPDYA)(配列番号70)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本発明に係るポリペプチドは、N末端またはC末端に機能性ペプチドを付加されてもよい。例えばN末端またはC末端に、細胞膜局在化シグナル(membrane localization signal;MLS)をつけることによって発光酵素を細胞膜に局在させることができる。なお、本明細書において、特に明記していない場合でも、シグナルペプチドを含め2種類以上のペプチドを結合する場合には、適宜周知のリンカーを用いてその長さ、読み枠などを調節してよい。発光酵素が細胞膜に局在することによって、外部からの基質や酸素の供給が円滑になり、発光酵素を基盤とした発光プローブ(例えば、発光カプセル)においては、外部の信号に速やかに反応できる利点がある。
【0038】
本発明に係るポリペプチドは、(a)配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むことが好ましく、配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列からなってもよい。配列番号51に記載のアミノ酸配列は、人工発光酵素のひとつであるALuc30のアミノ酸配列から、N末端およびC末端を除いた配列(図1のpicALuc30)である。配列番号54に記載のアミノ酸配列は、ALuc30のアミノ酸配列から、N末端配列および中間の配列を除いた配列(図1のALuc30Δloop2N1)である。同様に、配列番号52および53に記載のアミノ酸配列は人工発光酵素のひとつであるALuc16およびALuc48のアミノ酸配列から、それぞれN末端およびC末端を除いた配列である。配列番号55および56に記載のアミノ酸配列は、ALuc16およびALuc48のアミノ酸配列から、それぞれN末端配列および中間の配列を除いた配列である。
【0039】
本発明に係るポリペプチドは、(b)配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましく、配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなってもよい。ポリペプチドは、配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列と好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または99.5%以上の同一性を有する。
【0040】
本発明に係るポリペプチドは、(c)配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むことが好ましく、配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなってもよい。本明細書において数個とは、例えば2~20個、2~10個、2~5個、または2~3個であってよい。
【0041】
本発明に係るポリペプチドは、1位のアミノ酸残基の前に、開始コドンに相当するアミノ酸(多くはメチオニン)を含んでもよい。配列番号51~56のアミノ酸配列の1位にメチオニンが付加された配列を配列番号57~62に示す。
本発明に係るポリペプチドの一態様は、下記(a1)~(c1)を含んでもよく、下記(a1)~(c1)からなってもよい。
(a1)配列番号57~62のいずれかに記載のアミノ酸配列、
(b1)配列番号57~62のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、または
(c1)配列番号57~62のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列。
ポリペプチドは、配列番号57~62のいずれかに記載のアミノ酸配列と好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または99.5%以上の同一性を有する。
【0042】
<ポリペプチドをコードする核酸>
本発明の一実施形態に係る核酸は、上述のポリペプチドをコードする。上述のポリペプチドをコードする核酸からは、上述のポリペプチドを製造できる。核酸は、好ましくはDNAまたはRNAである。ポリペプチドをコードする核酸は、上述のポリペプチドに対応する塩基配列の5’末端側に開始コドンを、3’末端に終止コドンを含んでいてもよい。核酸はイントロン配列を含んでもよい。本発明の一実施形態に係る核酸は、化学合成またはPCR等によって得ることができる。
【0043】
一実施形態に係る核酸は、コード領域において各アミノ酸をコードするコドンを同じアミノ酸をコードする他のコドンに置換した塩基配列を含む核酸が含まれる。ポリペプチドの発現を向上させる観点から、本発明に係る核酸は、宿主生物または形質転換細胞種に適するようにコドン出現頻度(codon usage)を変更した塩基配列を含む核酸であってもよい。
【0044】
<ベクター>
本発明の一実施形態に係るベクターは、上述の核酸を含む。ベクターは、DNAを増幅または維持できる核酸分子であり、例えば発現ベクターおよびクローニングベクターが挙げられる。一例において、上述の核酸は、発現ベクターに挿入された形で宿主細胞等に導入され、発光酵素活性を有するポリペプチドを発現する。発現ベクターは、組み込まれた遺伝子を発現するためのプロモーター配列およびターミネーター配列を有してもよい。本発明の一実施形態に係るベクターは,上述の核酸を適当なベクターに挿入して得ることができる。
【0045】
ベクターは、例えば細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、ファージミドベクター、人工染色体ベクター等であってよい。ベクターとしては、pBR322、pUCプラスミドベクター、pET系プラスミドベクター等が挙げられる。具体的には、大腸菌を宿主細胞とする場合にはpUC19、pUC18、pUC119、pBluescriptII、pET32等を挙げることができる。哺乳動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えばpRc/RSV、pRc/CMV、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等を挙げることができる。
【0046】
<形質転換細胞>
本発明の一実施形態に係る形質転換細胞は、上述の核酸が導入された細胞である。核酸は、ベクターに含まれた形態で細胞に導入されてもよい。形質転換細胞は、発光酵素を発現できる。発光酵素は上清中に分泌されてもよい。細胞に核酸を導入する方法としては、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、カチオニックリポソーム法などの化学的手法;アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、HVJリポソームなどの生物学的手法;エレクトロポレーション、DNA直接注射、遺伝子銃などの物理的手法などが例示される。導入する細胞に応じて、適切な導入方法を選択することができる。
【0047】
核酸が導入される細胞としては、真核生物または原核生物の細胞を用いることができ、細菌、真菌、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞が挙げられる。細胞は、酵母、大腸菌または哺乳動物の細胞であってよい。哺乳動物には、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ等が含まれる。
【0048】
<レポータータンパク質およびレポーター分析法>
本発明に係るポリペプチドをレポータータンパク質として用いて、レポーター分析を行うことができる。本発明に係るポリペプチドは、従来の発光酵素または各種蛍光タンパク質を用いたレポーター分析法において、発光または蛍光物質の代替として用いることができる。
【0049】
本明細書において、レポータータンパク質とは、細胞内での標的タンパク質、標的核酸または標的遺伝子の挙動を調べるために用いる発光標識である。本明細書においてレポーター分析法とは、本発明に係るポリペプチドをレポータータンパク質として用いて、外部刺激に応じた細胞内における標的タンパク質または標的遺伝子の挙動を、発光の有無もしくは発光量、発光時期またはその発光位置等に置き換えて観察する分析法である。具体的には、レポーター分析法は、標的遺伝子の発現位置、発現時期または発現量を、レポータータンパク質の発光位置、発光時期または発光量として定性的または定量的に測定する方法であるといえる。レポーターアッセイは、異なる波長の光を発する複数の酵素またはタンパク質と多重化して使用してもよい。
【0050】
レポーター分析は、哺乳動物等の生体内、培養細胞内または試験管内で行い得る。生体内等のin vivo条件で用いる場合には、例えば上述のポリペプチドを構成するアミノ酸配列をコードする核酸からなるレポーター遺伝子と標的遺伝子とを繋いでベクターに組み込み、ターゲットとなる細胞内に導入する。培養細胞としては、一般的な遺伝子組換えに用いられる哺乳動物細胞のCOS細胞、CHO-K1細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、NIH3T3細胞、酵母、大腸菌等の細菌、昆虫細胞が挙げられる。
【0051】
以下、本発明に係るレポーター分析法を、Niuら、Theranostics,2、2012、413.において示された3つの分類である“basic”、“inducible”および“activatable”の3種類に分けて、本発明に係るポリペプチドのそれぞれの分析法への適用について説明する。
【0052】
(1)basic法
basic法とは、もっとも単純なレポーター分析系であって、挙動を調べたい標的タンパク質に発光酵素を繋いで標識するレポーター分析系である。本発明に係るポリペプチドをレポータータンパク質としてbasic法に適用する場合、本発明に係るポリペプチドと標的タンパク質または標的タンパク質に結合するタンパク質とを含む融合タンパク質を作製すればよい。融合タンパク質が非制御型プロモーターで発現する点が他のレポーター分析法とは異なる。融合タンパク質は、標的タンパク質のin vivoイメージングにも使用できる。
【0053】
融合タンパク質は、標的タンパク質のN末端またはC末端にレポータータンパク質を融合して作製される場合が典型的であるが、N末端とC末端に2分割したレポータータンパク質と標的タンパク質とが直接または他のペプチド配列を介して融合される場合もある。
【0054】
融合タンパク質は、(i)本発明に係るポリペプチドと、標的タンパク質または標的タンパク質を認識するタンパク質(ペプチドを含む。)とを含む融合タンパク質をコードする核酸から一体として発現させたもの、(ii)本発明に係るポリペプチドと、標的タンパク質または標的タンパク質を認識するタンパク質とを別々に発現させ、これらを化学反応により連結させたものを包含する。別々に発現させたタンパク質等を化学反応により連結させる手段としては、例えばクロスリンカーによる連結、アビジン-ビオチンの結合能を利用した連結、アミノ酸残基の化学反応性を利用した結合などが例示される。
【0055】
融合タンパク質としては、発光酵素を抗体に繋げた発光酵素標識抗体が挙げられる。この融合タンパク質においては、例えば抗体の単鎖可変領域フラグメント(scFv)のcDNAの上流または下流にレポーター遺伝子を繋げたキメラDNAを作成する。DNAを適当な発現ベクターに挿入し、細胞に導入し、発現させて融合タンパク質を得ることができる。
【0056】
(2)inducible法
inducible法は、basic法と比較して、レポーターの発現がプロモーターによって制御されている点が異なる。発光酵素をレポータータンパク質としてinducible法に適用することは、組換えDNA技術によって組換えタンパク質が作製される際の遺伝子発現の時期および発現量の解析のために従来から用いられており、特に外部刺激に応答した発現時期および発現量変化を示す指標として広く用いられている。inducible法に含まれる分析システムとしては、レポータージーンアッセイ、酵母ツーハイブリットアッセイ、哺乳類ツーハイブリットアッセイ、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)、タンパク質スプライシングアッセイ(PSA)、タンパク質相補性アッセイ(PCA)、circular permutation assay等が挙げられる。これらの分析法に用いられるレポーター遺伝子として、本発明のポリペプチドを用いることで、アッセイの計測性能を飛躍的に向上できる。
【0057】
(i)レポータージーンアッセイ
レポータージーンアッセイ法は、外部刺激による転写因子の活性化および遺伝子の発現調節の解析手段として汎用されている。一例としては核内受容体を介したシグナル伝達を攪乱する内分泌攪乱物質(環境ホルモン)の検出に用いられている。核内受容体を介したシグナル伝達に関連した標的遺伝子(例えば、ホルモン応答性遺伝子)の発現は、リガンドと受容体との複合体が当該遺伝子の転写調節するシス領域(ホルモン応答配列;hormone response element)に結合することで引き起こされる。この各種ホルモン応答性遺伝子のシス領域の下流にレポーター遺伝子を組み込んだプラスミドを細胞内に導入し、リガンドとなり得るホルモン分子または内分泌攪乱物質の量を発光値として検出する。
【0058】
レポータージーンアッセイ法において、従来から広く用いられていたホタルルシフェラーゼの場合、[1]分子量が大きくて発現までに時間がかかるので、宿主細胞に大きな負担をかけることになり、[2]発光強度が低いため、十分ルシフェラーゼ(レポーター)量が蓄積するまでに、通常刺激後1~2日の時間を待つ必要がある、という欠点があったが、本発明に係るポリペプチドをレポータータンパク質として選択することでこれらの問題点が解消される。
【0059】
本発明に係るポリペプチドをレポータータンパク質として使用すれば、レポーターの発光強度が極めて高いため、刺激後にごく短時間で測定ができる利点がある。そのため、従来のレポータータンパク質より大幅に計測時間を短縮でき、かつ経時的な発光の安定性も高いことから、遺伝子導入効率の悪い細胞株においても発光測定ができる。また、発光が長波長側にシフトしているので、細胞膜、皮膚を通しての透過性が高まる。バックグラウンド値が下がるため、測定精度も高い。
【0060】
例えば、本発明に係るポリペプチドをレポータージーンアッセイに適用するためには、上流に特殊なプロモーターを搭載している既知の真核細胞発現ベクターに当該発光酵素を繋いで、真核細胞に導入し、一定時間が過ぎた後、信号(刺激)有り無しの条件で発光値を測定すればよい。本発明に係るポリペプチドを搭載できる、レポータージーンアッセイ用の発現ベクターとしては、公知のpTransLucentベクターを利用し、既知の方法を使って簡単に搭載させることができる。
【0061】
(ii)ツーハイブリッド法
ツーハイブリッド法(two-hybrid法)はタンパク質間の相互作用を調べる手法の1つであり、1989年に酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いたyeast two-hybrid(Y2H)システムがまず構築された。転写活性化因子であるGAL4タンパク質のDNA結合ドメイン(GAL4 DBD)と転写活性化ドメインが分離可能であることを利用して、GAL4 DBDと任意のタンパク質A(bait)を融合タンパク質として発現させ、同時に細胞内で発現させた転写活性化ドメイン(TA)と融合タンパク質としたタンパク質B(prey)と相互作用をするかどうかを判定できる。タンパク質Aとタンパク質Bとが結合する場合にはDBDとTAが近接してDNA結合ドメイン(DBD)が、「UASG」塩基配列に結合するのでその下流に連結したレポーター遺伝子発現を促すことになる。レポーター遺伝子が発光酵素であれば、その特異的な基質存在下で生物発光をモニターすれば、タンパク質Aおよびタンパク質Bの両タンパク質の親和性が測定でき、タンパク質A(bait)と相互作用をするタンパク質またはペプチドのスクリーニングができる。その際のタンパク質B(prey)は発現ライブラリーによって提供させることもできる。
【0062】
宿主細胞としては、酵母細胞に限らず、大腸菌など細菌類や、哺乳動物細胞、昆虫細胞も用いられる。その際、酵母由来の転写活性化因子であるGAL4 DBD以外に、大腸菌由来のリプレッサータンパク質の「LexA」等を用いることもできる。これらをコードするDNAと、リガンド応答性転写調節因子のリガンド結合領域などbaitタンパク質(即ち、前記の任意のタンパク質A)をコードするDNAとを連結し、宿主細胞内で機能可能なプロモーターの下流に連結する。一方、「転写活性化因子の転写活性化領域」としては、例えば、GAL4の転写活性化領域、大腸菌由来のB42酸性転写活性化領域、ヘルペス単純ウイルスVP16の転写活性化領域等を用いることができる。これら転写活性化領域をコードするDNAと、preyタンパク質(即ち、前記の任意のタンパク質B)をコードするDNAとを連結し、宿主細胞内で機能可能なプロモーターの下流に連結する。
【0063】
転写調節因子GAL4のDNA結合領域をコードするDNAを有し、出芽酵母を宿主細胞において利用可能なベクターとして、プラスミドpGBT9(Clontech社製)等を挙げることができる。GAL4の転写活性化領域をコードするDNAを有し、出芽酵母において利用可能なベクターとして、プラスミドpGAD424(Clontech社製)等を挙げることができる。また、GAL4のDNA結合領域をコードするDNAを有し、哺乳類動物細胞において利用可能なベクターとして、pM(Clontech社製)、pBIND(Promega社製)等をあげることができ、単純ヘルペスウィルスVP16の転写活性化領域をコードするDNAを有し、哺乳類動物細胞において利用可能なベクターとして、pVP16(Clontech社製)、pACT(Promega社製)等をあげることができる。また、LexAのDNA結合領域をコードするDNAを有し、哺乳類動物細胞において利用可能なベクターとして、pLexA(Clontech社製)等をあげることができ、B42をコードするDNAを有し、哺乳類動物細胞において利用可能なベクターとして、pB42AD(Clontech社製)等をあげることができる。
【0064】
例えば本発明に係るポリペプチドを、GAL4が結合する領域(「UASG」)などの下流にレポーター遺伝子として挿入したベクターを構築すればよく、哺乳動物宿主の場合であれば、市販のpG5Lucベクター(Promega)やpFR-Lucベクター(Stratagene)を利用し、当該ベクターに搭載されているホタルルシフェラーゼの代わりに周知の方法で簡単に本発明に係るポリペプチドを搭載して使用することができる。また、市販のpG5CATベクター(Clontech)のChloramphenicol acetyltransferase(CAT)の代わりに用いることもできる。
【0065】
(3)activatable法
activatable法は、レポーター自体がリガンド刺激に能動的に反応して発光することを利用するレポーター分析法である。典型的には、一分子型生物発光プローブ、発光カプセルがあげられ、他にprotein complentation assay(PCA),protein splicing assay(PSA)などに適用できる。
【0066】
(i)発光性融合タンパク質(発光カプセル)の製造
本発明に係るポリペプチドのC末端側に膜局在シグナル(MLS)を結合することで、発光酵素本体を細胞膜に局在させることができる。発光酵素を細胞膜に局在する分子設計を行うことによって、基質と酸素の供給が円滑になるため、極めて高輝度で安定的な生物発光可視化が可能になる。その際、発光酵素本体とシグナルペプチドをコードする核酸の間に任意のポリペプチドやタンパク質の遺伝子をカーゴ(貨物という)として挿入することが可能である。これによりカーゴとなるタンパク質を細胞膜表面に効率的に運ぶことができ、しかも運ばれた場所が光るようになる。一例としては、各タンパク質の繋ぎ目に細胞死に応答するDEVD配列やIETD配列をカーゴとして入れ込んだ場合、細胞死の際のcaspase-3やcaspase-8の活性を信号として能動的に応答し、可視化するシステムとして働く。この構造の発光性融合タンパク質を「発光カプセル」ともいう。発光カプセルは、化学物質の毒性評価にも使用できる。
【0067】
発光カプセルは、従来の発光プローブと比較し、極めて高輝度で安定な発光特質を示し、細胞膜を透過できない検体に対しても応答する利点を持つ。この発光カプセルは「発光酵素本体のC末端」に「膜局在シグナル(MLS)」をつけた構造を基本骨格とする。酵素は本発明に係るポリペプチドをタンデムに繋いで発光量を増強してもよい。発光カプセルは、細胞死等の細胞表面の形態変化を引き起こす化合物の作用を、細胞膜表面の形態変化として可視化できるため、観察が容易になる。好ましくは、発光酵素本体のC末端とMLSとの間に、細胞膜表面の形態変化を引き起こすポリペプチドもしくはその一部認識配列、具体的には、G-protein coupled receptor(GPCR)やc-Srcなどの全長もしくは一部認識配列を挿入することが可能である。発光酵素本体のC末端とMLSとの間に細胞死を誘発するポリペプチド、もしくはその認識配列を貨物として挿入することで、細胞死の可視化が可能である。より具体的には、各種caspaseやプロテアーゼ(セリンプロティアーゼ、システインプロティアーゼなど)、消化酵素(トリプシン、アミラーゼなど)によって認識されるペプチド配列(通常20アミノ酸残基以下、好ましくは10アミノ酸残基以下)またはDEVD配列もしくはIETD配列を含むアミノ酸配列をカーゴとして挿入した場合、caspase-3活性による細胞死の可視化が可能である。更に発光酵素本体とMLSとの間に蛍光タンパク質もしくは他の発光酵素をカーゴとしてつなげることによって、細胞膜表面での光発生量が強力となるため、より細胞膜の形態観察が容易となる。発光カプセルは、細胞膜を透過できないリガンドに対しても応答するため、幅広い刺激物に対するスクリーニングが可能である。
【0068】
発光カプセルは、本発明に係るポリペプチドのC末端側と膜局在シグナル(MLS)との間に、細胞膜表面で発現させたい任意のタンパク質またはポリペプチドが挿入された発光性融合タンパク質であり、典型的には、
(a)本発明に係るポリペプチドのC末端側と膜局在シグナル(MLS)との間に、蛍光タンパク質または発光酵素(本発明に係るポリペプチド以外の酵素であってよい。)が挿入された発光性融合タンパク質、または
(b)本発明に係るポリペプチドのC末端側と膜局在シグナル(MLS)との間に、細胞膜の形態を変化させるポリペプチドまたは当該ポリペプチドが認識する20アミノ酸残基以下の、好ましくは10アミノ酸残基以下のポリペプチドが挿入された発光性融合タンパク質であってよい。細胞膜の形態を変化させるポリペプチドとして、細胞死を誘発するポリペプチドが好ましく、caspaseおよびその認識配列である「DEVD」または「IETD」を含む20アミノ酸残基以下のポリペプチドが特に好ましい。
【0069】
(ii)発光プローブへの応用
本発明に係るポリペプチドを一分子型発光プローブ、または二分子型発光プローブに組み込むことによって、リガンドの有無およびリガンドの活性強度を高輝度で観測できる。当該プローブの構成要素として、[1]2つに分割された発光酵素(NとC末側断片)の近傍に、[2]標的リガンドに応答するリガンド結合タンパク質と、[3]リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを認識する認識タンパク質を繋げた形態で高性能の発光プローブを構成できる。この発光プローブ中、前記リガンド結合タンパク質にリガンドが結合したことを前記認識タンパク質が認識した場合に、2つに分割された酵素断片が相補して酵素活性を変化させることができる。この時、当該分割酵素の高輝度と安定性のため、検出限界の向上と信頼性の高い計測が可能となる。
【0070】
一分子型発光プローブは、可視化イメージングするために用いられる全構成要素を単一融合分子内に集積したことを特徴とする、公知の生物発光プローブの一つである。例えば、本発明に係るポリペプチドを2分割したNとC末側断片を、リガンド結合タンパク質およびリガンド結合タンパク質の認識タンパク質を基本構成要素として含む融合タンパク質である。二分子型発光プローブは、本発明に係るポリペプチドのN末側断片とC末側断片を、リガンド結合タンパク質を含む融合タンパク質、および認識タンパク質を含む融合タンパク質内にそれぞれ存在させたタイプの生物発光プローブを指す。
【0071】
生物発光プローブにおいて本発明に係るポリペプチドを用いる場合には、N末側断片とC末側断片とに2分割する必要があるが、その分割位置は、ALuc16の125/126、129/130、133/134、137/138、141/142、146/147に相当する切断位置が適用されてよい。
【0072】
本発明に係るポリペプチドを一分子型発光プローブとして用いる際の具体的な手法は、公知の手法に従う。具体的には、本発明に係るポリペプチドを2分割し、リガンド結合性のタンパク質および当該タンパク質にリガンドが結合した場合の立体構造変化を認識するペプチド配列とを直線上に結合させた発光プローブをコードするキメラDNAを設計する。一般には、そのキメラDNAを発現させたい細胞に適したベクター内にサブクローンし、当該ベクターを細胞内に導入して、細胞内で発現させるが、キメラDNAの上流に制御配列を繋いで細胞内に直接導入することもできる。ここで、対象の細胞としては、ヒトを含めた哺乳動物由来の細胞が好ましく、生体内に存在する状態の細胞であっても、細胞本来の機能を維持した状態の培養細胞であってもよい。酵母細胞、昆虫細胞の他、大腸菌などの原核細胞であってもよい。ベクターの具体的な種類も特に限定されず、発現に用いる宿主中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。細胞内への導入法としては、マイクロインジェクション法やエレクトロポーレーション法等の公知のトランスフェクション法を用いることができる。あるいは脂質による細胞内導入法(BioPORTER(Gene Therapy Systems社)、Chariot(Active Motif社)等)を採用することもできる。
【0073】
本発明に係るポリペプチドを用いた生物発光プローブは、キメラDNAとして細胞内に導入された後に細胞内で融合タンパク質として発現されるため、当該形質転換細胞に対してリガンド刺激を行った後、当該細胞からの発光量の変化を測定することによって、リガンドの性質、活性の程度等を評価することができる。
【0074】
本発明に係るポリペプチドを生物発光プローブ内に構成する際、当該ポリペプチドと共に搭載できる「リガンド結合タンパク質」としては、そのリガンド結合部位にリガンドが結合するタンパク質が意図される。リガンド結合タンパク質は、例えば、リガンドが結合することによって立体構造が変化するか、リン酸化を起こすか、タンパク質間相互作用を促すものであり得る。このようなリガンド結合タンパク質としては、例えば、ホルモン、化学物質または信号伝達タンパク質をリガンドとする核内受容体(NR)、サイトカイン受容体、あるいは各種タンパク質キナーゼが用いられる。リガンド結合タンパク質は、対象とするリガンドによって適宜選択される。リガンド結合タンパク質に結合するリガンドとしては、リガンド結合タンパク質に結合するものであれば特に限定されず、細胞外から細胞内に取り込まれる細胞外リガンドであってもよく、細胞外からの刺激により細胞内で産生される細胞内リガンドであってもよい。細胞外リガンドは、例えば、受容体タンパク質(例えば核内受容体、Gタンパク質結合型受容体等)に対するアゴニストまたはアンタゴニストであり得る。細胞内の情報伝達に関与するタンパク質に特異的に結合するサイトカイン、ケモカイン、インシュリン等の信号伝達タンパク質、細胞内セカンドメッセンジャー、脂質セカンドメッセンジャー、リン酸化アミノ酸残基、Gタンパク質結合型受容体リガンド等であり得る。
【0075】
例えば、リガンドとして細胞内セカンドメッセンジャー、脂質セカンドメッセンジャー等を対象とする場合には、リガンド結合タンパク質として、各セカンドメッセンジャーの結合ドメインを使用することができる。セカンドメッセンジャーとは、ホルモン、神経伝達物質等の細胞外情報伝達物質が細胞膜に存在する受容体と結合することによって、細胞内で新たに生成される別種の細胞内情報伝達物質を意図している。このセカンドメッセンジャーとして、例えば、cGMP、AMP、PIP、PIP2、PIP3、イノシトール3リン酸(IP3:inositol triphosphate)、IP4、Ca2+、diacylglycerol、arachidonic achid等が挙げられる。例えば、セカンドメッセンジャーのCa2+に対しては、リガンド結合タンパク質としてカルモジュリン(CaM)を用いることができる。
【0076】
(iii)生体発光共鳴エネルギー転移(BRET)分子プローブ
本発明に係るポリペプチドは、分子同士の相互作用、例えばリガンド-タンパク質相互作用またはタンパク質-タンパク質相互作用を検出するための任意の方法において使用され得る。一実施形態に係るBRET分子プローブは、本発明に係るポリペプチドと蛍光物質とを備える。発光ドナーから蛍光受容体へのエネルギー移動は、光の放出のスペクトル分布のシフトをもたらす。このエネルギー移動は、in vitroまたはin vivoでの分子間相互作用のリアルタイムモニタリングを可能にし得る。一例として、本発明に係るポリペプチドと標的分子(標的タンパク質、リガンド、核酸、脂質等)とを接続した融合タンパク質、および標的分子に結合する分子(タンパク質、リガンド、核酸、脂質等)と蛍光物質とを接続した融合タンパク質を作製する。本発明に係るポリペプチドと標的分子とは適切なリンカー(例えばペプチド、核酸、ポリマー、エステル結合、PEGリンカー、炭素鎖等)によって接続されていてよい。標的分子と、標的分子に結合する分子とが近接したときに、本発明に係るポリペプチドと蛍光物質とが近接し、BRETシグナルが検出される。BRET分子プローブを含むアッセイシステムは、発光基質を含んでもよい。標的分子の結合に競合する分子(例えば、標的分子に結合する分子であって蛍光物質と接続されていない分子)を添加することで、BRETシグナルが減少する。BRETシグナルの減少により分子間の相互作用を検出することもできる(競合バインディングアッセイ)。
【0077】
蛍光物質の吸収スペクトルは、通常、本発明に係るポリペプチドの発光スペクトルと重なる。発光酵素の波長ピークは、通常、蛍光物質の波長ピークと隔てられており、例えば80nm、100nm、120nm、140nm程度隔てられていてよい。蛍光物質は蛍光タンパク質、蛍光色素または発色団であってもよい。蛍光物質は、キサンテン誘導体(例えば、フルオレセイン、ローダミン、オレゴングリーン、エオシン、テキサスレッド等)、シアニン誘導体(例えば、シアニン、インドカルボシアニン、オキサカルボシアニン、チアカルボシアニン、メロシアニン等)、ナフタレン誘導体(例えば、ダンシル及びプロダン誘導体)、オキサジアゾール誘導体(例えば、ピリジルオキサゾール、ニトロベンズオキサジアゾール、ベンゾオキサジアゾール等)、ピレン誘導体(例えば、カスケードブルー)、オキサジン誘導体(例えば、ナイルレッド、ナイルブルー、クレシルバイオレット、オキサジン170等)、アクリジン誘導体(例えば、プロフラビン、アクリジンオレンジ、アクリジンイエロー等)、アリールメチン誘導体(例えば、オーラミン、クリスタルバイオレット、マラカイトグリーン等)、テトラピロール誘導体(例えば、ポルフィン、フタロシアニン、ビリルビン等)、CF dye(Biotium)、BODIPY(インビトロゲン)、ALEXA FLuoR(インビトロゲン)、DYLIGHT FLUOR(サーモサイエンティフィック、Pierce)、ATTO及びTRACY(シグマアルドリッチ)、FluoProbes(Interchim)、DY及びMEGASTOKES(Dyomics)、SULFO CY dye(CYANDYE、LLC)、SETAU及びSQUARE DYES(SETA BioMedicals)、QUASAR及びCAL FLUOR dyes(Biosearch Technologies)、SURELIGHT DYES(APC、RPE、PerCP、フィコビリソーム)(Columbia Biosciences)、APC、APCXL、RPE、BPE(Phyco-Biotech)、自動蛍光タンパク(例えば、YFP、RFP、mCherry、mKate)、量子ドットナノクリスタル等が挙げられる。蛍光物質は、ローダミン類似体(例えばカルボキシローダミン類似体)であってもよい。
【0078】
BRET分子プローブの他の例として、本発明に係るポリペプチドと蛍光物質とを、特定のプロテアーゼで消化されるタンパク質をリンカーとして結合された融合タンパク質が挙げられる。特定のプロテアーゼの非存在下では、発光酵素と蛍光物質とが近接するため、BRETの蛍光シグナルが生じる。特定のプロテアーゼの存在下では、タンパク質が消化されて発光酵素と蛍光物質とが離れるため、消光する。この方法によれば、特定のプロテアーゼの存在を検出できる。
【0079】
(iv)タンパク質相補性アッセイ(PCA)
本発明に係るポリペプチドは、タンパク質相補性アッセイ(PCA)または酵素断片化アッセイなどのリガンド-タンパク質相互作用またはタンパク質-タンパク質相互作用あるいは近接を検出するための方法において使用されてよい。PCAは、2つの生体分子、例えば、ポリペプチドの相互作用を検出するための手段を提供する。例えば本発明に係るポリペプチドを2つに断片化し、近接を検証したい分子にそれぞれ融合させる。標的の分子が相互作用する場合、2つに分断されていたポリペプチドは相互作用して完全な発光酵素となり、発光が検出される。
【0080】
(v)細胞内イメージング
本発明に係るポリペプチドをコードする遺伝子は、様々な細胞株に安定的に導入され得る。発光酵素を用いた細胞内イメージングは、公知の方法により行えばよい。一例として、胚内未分化細胞、ES細胞、人工多能性幹(iPS)細胞に当該ポリペプチドを安定的に導入できる。
【0081】
本発明に係るポリペプチドに適当なシグナルペプチドを繋げることによって、各細胞小器官の高輝度イメージングに使用できる。例えば、GAP-43由来の「MLCCMRRTKQV配列」(配列番号63)をポリペプチドのN末端またはC末端に付加すると、細胞膜に局在化できる。「GRKKRRQRRR配列」(配列番号64)を付加すると細胞質に局在できる。「KDEL」(配列番号65)の付加により小胞体(ER)に、「DPKKKRKV配列」(配列番号66)の付加により細胞核に局在化させることができる。HIS-tag(HHHHHH)(配列番号67)、FLAG-tag(DYKDDDDK)(配列番号68)、Myc-tag(EQKLISEEDL)(配列番号69)、HA-tag(YPYDVPDYA)(配列番号70)、V5-tag(GKPIPNPLLGLDST)(配列番号71)、T7-tag(MASMTGGQQMG)(配列番号72)などの抗原サイトをつけることによって、非細胞系における免疫染色、分離精製に利用できる。その際には、周知の免疫染色法、immunocytochemistry等の手法が適用できる。
【0082】
本明細書におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。なお、用語は基本的にはIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるものであり、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。また発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はJ.Sambrook,E.F.Fritsch & T.Maniatis,”Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)”,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989);D.M.Glover et al.ed.,”DNA Cloning”,2nd ed.,Vol.1 to 4,(The Practical Approach Series),IRL Press,Oxford University Press(1995);Ausubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,N.Y,1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人(1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸III(組換えDNA技術)」、東京化学同人(1992);R.Wu ed.,”Methods in Enzymology”,Vol.68(Recombinant DNA),Academic Press,New York(1980);R.Wu et al.ed.,”Methods in Enzymology”,Vol.100(Recombinant DNA,Part B) & 101(Recombinant DNA,Part C),Academic Press,New York(1983);R.Wu et al.ed.,”Methods in Enzymology”,Vol.153(Recombinant DNA,Part D),154(Recombinant DNA,Part E) & 155(Recombinant DNA,Part F),Academic Press,New York(1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また、本発明で使用する各種タンパク質やペプチド、あるいはそれらをコードするDNAについては、既存のデータベース(URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等から入手することができる。
【実施例0083】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
<実験1:picALucプラスミドの作製>
配列番号1の20位~221位に相当するアミノ酸配列を有する発光酵素のひとつであり、ALuc30(配列番号28)からシグナル配列を除いた20位~212位のアミノ酸配列を有する発光酵素をALuc30wtとした。ALuc30wtの配列を図1に示す。ALuc30wtの分子量は約21kDaである。ALucは、N末端から順にヘリックス構造2つ、ループ構造、ヘリックス構造、ヘリックス構造・ループ構造・ヘリックス構造、小さなヘリックス構造2つ、ヘリックス構造、小さなヘリックス構造からなる。図1に示すように、ALuc30wtのN末端とC末端を除いた、ALuc30wtの54位~175位のアミノ酸までを含むpicALuc30(配列番号51)を作製した。picALuc30はpcDNA3.1(+)ベクター(Thermo Fisher Scientific社)に挿入した。同じ方法で、ALuc30の代わりにALuc16(配列番号15)およびALuc48(配列番号40)を用いて、picALuc30に相当するアミノ酸配列を有するpicALuc16(配列番号52)およびpicALuc48(配列番号53)の発現プラスミドを作製した。picALuc30の大きさは、13kDaであった。各変異体のN末端にはHis-tagを、C末端にはFlag-tagを付加した。
【0085】
picALuc30とpicALuc16とのアミノ酸配列同一性は96%(図2)、picALuc30とpicALuc48とのアミノ酸配列同一性は85%(図3)、picALuc48とpicALuc16とのアミノ酸配列同一性は90%(図4)であった。
【0086】
<実験2:picALucの発光値の測定>
(1)アフリカミドリザル腎臓由来COS-7細胞を24ウェルディッシュに播種し、次の日にサブコンフルエントとした。
(2)Opti-MEM(Thermo Fisher Scientific社)25μLとプラスミド400ng(2μL)とP3000(Invitrogen)1μLとを混合した。
(3)Opti-MEM25μLとlipofectoamine3000(Invitrogen)1μLとを混合した。
(4)(2)と(3)とを混合し、室温で5分間インキュベーションした。
(5)混合物を(1)の培地に加えた。
(6)500μLのDulbecco’s modified Eagle’s medium培地を添加して、1日間37℃で細胞を培養した後、培地を回収した。培地には分泌発現された発光酵素が含まれる。
(7)発光酵素を含む培地100μLに基質であるセレンテラジンを終濃度5μMとなるように添加し、Enspire multi-mode plate reader (PerkinElmer)を用いて、発光値を測定した。
【0087】
picALuc30は、ALuc30wtと同等以上の発光値を示した(図5)。picALuc16およびpicALuc48についても、十分に高い発光値が測定された。
【0088】
<実験3:Δloopプラスミドの作製>
予想されるpicALuc30の立体構造を図6に示す。picALuc30は、複数のループ構造を有していた。このうち3つのループ(ループ1、ループ2およびループ3)を構成するアミノ酸配列を欠損させた変異体を作製した。ALuc30wtからループ1(ALuc30wtの96位~100位)、ループ2(ALuc30wtの122位~128位)またはループ3(ALuc30wtの156位~161位)のアミノ酸残基を削除し、Gly-Serを挿入した。さらに、ALuc30wtのN末端(1位~49位)を除いた。これにより、N末端とループが欠損したALuc30Δloop1N1、ALuc30Δloop2N1(配列番号54)およびALuc30Δloop3N1の発現プラスミドを作製した。ALuc30Δloop2N1の大きさは、14kDaであった。
【0089】
<実験4:ALucΔloopの発光値の測定>
実験2と同じ方法により、発光値を測定した。ALuc30Δloop2N1は、N末端を除いただけのALuc30ΔN1と比較して、半分程度の発光値を維持していた(図7)。ALuc30Δloop1N1およびALuc30Δloop3N1の発光値は著しく低かった。
【0090】
<実験5:公知の発光酵素との比較>
公知のNanoLuc、TurboLucおよびGLucと、実験1で作製したpicALucとを比較した。NanoLucは、サイズが約19kDaと小さく、発光値が非常に高く、熱安定性も高いことが知られている。TurboLucは、サイズが約16kDaと小さく、発光値も比較的高く、熱安定性が高いことが知られている。GLucは、サイズが20kDaと小さく、細胞から分泌発現させた場合、発光値はALucと比較して低く、熱安定性が高いことが知られている。NanoLuc、TurboLucおよびGLucの作製には、配列番号73、配列番号74および配列番号75に記載の配列がそれぞれpcDNA3.1ベクターに挿入されたプラスミドを用いた。
【0091】
セレンテラジンを終濃度0.5μMとした以外は、実験2と同じ方法によって発光値を測定した。発光値はNanoLuc>>picALuc30>TurboLuc>ALuc30wt>GLucの順に高かった(図8)。セレンテラジンを終濃度5μMとして、実験2と同じ方法によって発光値を測定した。発光値は、ALuc30wt=picALuc30>NanoLuc>TurboLuc>GLucの順に高かった(図9)。
【0092】
基質としてセレンテラジンh終濃度5μMを使用した以外は、実験2と同じ方法によって発光値を測定した。発光値はTurboLuc=ALuc30wt>>NanoLuc>picALuc30>GLucの順に高かった(図10)。基質としてセレンテラジンh終濃度25μMを使用した以外は、実験2と同じ方法によって発光値を測定した。発光値はpicALuc30>>NanoLuc=TurboLuc=ALuc30wt>>GLucの順に高かった(図11)。
【0093】
基質としてPromega社からNanoLuc用基質として販売されているフリマジンをメーカー推奨濃度で使用した以外は、実験2と同じ方法によって発光値を測定した。GLuc、ALuc30wtおよびpicALuc30は発光が検出されたが、NanoLucおよびTurboLucと比較して低かった(図12および図13)。NanoLucおよびTurboLucは高い発光値を示し、NanoLucの発光値はセレンテラジンまたはセレンテラジンh使用時と同程度であった(図13)。
【0094】
以上の結果から、picALuc30の基質として、フリマジンよりセレンテラジンおよびセレンテラジンhが適すること、および分泌発現されたpicALuc30は、高濃度のセレンテラジンまたはセレンテラジンhを基質として反応させたとき、NanoLucおよびTurboLuc以上の発光値を示すことが明らかになった。
【0095】
<実験6:タンパク質の末端の安定性>
実験2と同じ方法で、COS-7細胞にプラスミドをトランスフェクションし、培養上清を回収した。分泌発現させた各発光酵素のN末端に付加してあるFlag-tagおよびC末端に付加してあるHis-tagをウエスタンブロット(SDS-PAGE、ミニプロティアンTGXゲル StainFree 4-15% (Bio-Rad))で検出した(図14)。抗体はそれぞれAnti 6×Histidine, Monoclonal Antibody (9C11), Peroxidase Conjugated(富士フイルム和光純薬製、1:1000)およびMonoclonal ANTI-FLAG(R) M2-Peroxidase (HRP) antibody produced in mouse, clone M2(Sigma-Aldrich社製、1/1000)を用いて、検出にはAmesham Imager 680 (Cytiva)を使用した。GLucのFlag-tagおよびHis-tagは検出限界以下であった。GLucおよびTurboLucについて、Flag-tagとHis-tagのシグナル強度を比較すると、TurboLucのFlag-tagは検出値が低く、N末端が削れていることが示された。一方、ALuc30wtおよびpicALuc30の両末端は削れておらず、GLucやTurboLucに比べて安定性が高いことが示された。
【0096】
<実験7:比活性の測定>
実験6のウエスタンブロットのシグナル強度から各酵素濃度を合わせ、NanoLuc、ALuc30wtおよびpicALuc30の比活性を測定した。セレンテラジンまたはセレンテラジンhをそれぞれ基質として反応させたとき、ALucの比活性とpicALucの比活性は同程度であることが示された(図15および図16)。ALuc30wtおよびpicALuc30の最大発光値はNanoLucと同程度であり、高い発光活性を有していることが示された。
【0097】
<実験8:発光スペクトルの測定>
picALuc30の波長ピークは、セレンテラジンと反応させたときは482nmであり(図17)、セレンテラジンhと反応させたときは488mであり(図18)であった。picALuc30の波長ピークは、ALuc30wtとほぼ同じであった。発光スペクトルは、長波長側の裾野が短波長側の裾野よりも広い特徴を有していた。
【0098】
<実験9:熱安定性の検証>
実験2と同じ方法で、COS-7細胞にプラスミドをトランスフェクションし、培地を回収した。picALuc30を含む培養上清を室温(25℃)、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃または90℃で10分間インキュベーション後、発光値を測定した。その結果、50℃10分間または60℃10分間インキュベーションで80%以上、70℃10分間インキュベーションで50%以上の活性が残存しており(図19)、十分に実用性を有することが確認された。
【0099】
<実験10:大腸菌での発光酵素の発現>
(1)picALuc30をコードしたDNA配列をpET32ベクターに挿入したプラスミドを作製した。大腸菌SHuffle T7 express lysY(New England Biolab社)に形質転換した。
(2)LBプレート(100μg/μLアンピシリンを含む。)に(1)の大腸菌を播種した。
(3)次の日、1コロニーをピックアップし、2mLのLB培地(100μg/μLアンピシリンを含む。)を入れた試験管内において、30℃で一晩振盪培養した。
(4)100mLのLB培地(100μg/μLアンピシリンを含む。)に(3)を1mL加えて、500mLのフラスコを用いて吸光度OD600が約0.4になるまで、30℃で振盪培養した。
(5)吸光度OD600が約0.4に達したとき、1Mイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを40μL添加し、16℃で一晩培養した。
(6)菌体を回収し、HisTALON Buffer SetおよびTALON Metal Affinity Resin(ともにタカラバイオ株式会社)を用いて、タンパク質を精製した。100mLの培地からは1.7mgのpicALuc30が得られた。
【0100】
western blotで濃度を合わせて比活性を測定した結果、COS-7細胞から分泌発現させたpicALuc30との比活性と、大腸菌で作製したpicALuc30の比活性は、ほぼ同じであった(図20)。picALuc30は、哺乳動物細胞からの分泌発現だけでなく、大腸菌においても発現可能であり、さらに大量に製造が可能であることがわかった。
【0101】
大腸菌から精製したpicALuc30を、室温(25℃)、60℃、70℃、80℃または90℃で10分間インキュベーション後、発光値を測定した(図21)。大腸菌で発現したpicALuc30は、60℃で10分間インキュベーションしてもほとんど活性を失わず、70℃10分間インキュベーションで90%以上、80℃10分間インキュベーションで80%以上の活性が残存しており、熱安定性に優れていることがわかった。
【0102】
<実験11:BRET分子プローブ>
pET32ベクターに発光酵素(NanoLucまたはpicALuc30)-Gly-Ser-TEVプロテアーゼ認識配列(Glu-Asn-Leu-Tyr-Phe-Gln-Ser)-Ser-YFPを挿入した(図22)。このプラスミドを用いて、実験10と同じ方法でタンパク質を発現および精製した。融合タンパク質を、TEVプロテアーゼ(コスモ・バイオ株式会社)によって30℃で一晩反応させた。プロテアーゼを添加しない溶液をコントロールとした。プロテアーゼ処理後のタンパク質をPBSで40nMに希釈し、基質としてセレンテラジンh(500nM)と反応させた。発光酵素の波長ピークは488nm程度、YFPの波長ピークは527nm程度に検出される。発光酵素としてNanoLucを使用したときのスペクトルを図23に、発光酵素としてpicALuc30を使用したときのスペクトルを図24に示す。
【0103】
NanoLucの発光の最大値を100%とし、BRET ratioを算出した。その結果、NanoLuc含むプローブのBRET ratioは26%であり(図25)、picALuc30を含むプローブのBRET ratioは44%であった(図26)。BRET効率は発光酵素と蛍光タンパク質の距離の6乗に反比例する。picALucのサイズがNanoLucと比較して小さいため、ALuc30はNanoLucと比べて高いBRET ratioが得られたと考えられる。本発明に係るポリペプチドが、BRET分子プローブとして有用であることが示唆された。
【0104】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態および実施例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0105】
(第1項)
発光酵素活性を有する、(A)または(B)に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(A)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位および204位~221位のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列、
(B)配列番号1に示されたアミノ酸配列において、1位~69位のアミノ酸残基が欠損し、146位~156位のアミノ酸残基の少なくとも1個が欠損または置換されたアミノ酸配列。
【0106】
第1項のポリペプチドによれば、発光活性を維持しながら、サイズが小さい発光酵素を得ることができる。
【0107】
(第2項)
第1項に記載のポリペプチドにおいて、配列番号1に示されたアミノ酸配列の70位~74位のアミノ酸残基の少なくとも1個がさらに欠損したアミノ酸配列を含む。
【0108】
第2項のポリペプチドによれば、発光活性を維持しながら、よりサイズが小さい発光酵素を得ることができる。
【0109】
(第3項)
第1項または第2項のポリペプチドにおいて、(a)~(c)のいずれかの配列を含む;
(a)配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列、
(b)配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、85%以上の同一性を有するアミノ酸配列、または
(c)配列番号51~56のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列。
【0110】
第3項に記載のポリペプチドによれは、発光活性が高い発光酵素を得ることができる。
【0111】
(第4項)
第1項~第3項に記載のポリペプチドにおいて、温度50℃、10分間の熱処理により80%以上の残存活性を有する。
【0112】
第4項に記載のポリペプチドによれは、熱安定性が高い発光酵素を得ることができる。
【0113】
(第5項)
第1項~第4項のポリペプチドにおいて、発光酵素活性は、セレンテラジンを基質としたときに発光の波長ピークが470nm以上490nm以下である、または
セレンテラジンhを基質としたときに発光の波長ピークが470nm以上490nm以下である。
【0114】
第5項に記載のポリペプチドによれば、発光スペクトルが長波長側にシフトしているため、発光の生体透過性がよく、検出感度に優れる。また、第5項に記載のポリペプチドはライブイメージングに好適である。
【0115】
(第6項)
第1項~第5項のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸。
【0116】
第6項に記載の核酸によれば、第1項~第5項に記載のポリペプチドを製造することができる。
【0117】
(第7項)
第6項に記載の核酸を含むベクター。
【0118】
第7項に記載のベクターによれば、第6項に記載の核酸を容易に増幅および維持することができる。また、第7項に記載のベクターを用いて、第1項~第5項のポリペプチドを製造することもできる。
【0119】
(第8項)
第6項に記載の核酸が導入された形質転換細胞。
【0120】
第8項に記載の形質転換細胞は、発光酵素を発現できる。発光酵素は上清中に分泌されてもよい。
【0121】
(第9項)
第1項~第5項のいずれかに記載のポリペプチドからなる、レポータータンパク質。
【0122】
第1項~第5項のいずれかに記載のポリペプチドは、レポータータンパク質として使用することができる。
【0123】
(第10項)
第9項に記載のレポータータンパク質を用いたレポーター分析法。
【0124】
第10項に記載のレポーター分析法によれば、標的タンパク質や標的遺伝子の挙動を効率的に検出することができる。第10項に記載のレポーター分析法において、公知のレポーター分析法に使用される発光酵素の代わりに、第1項~第5項のいずれかに記載のポリペプチドを発光酵素として用いることができる。
【0125】
(第11項)
第1項~第5項のいずれかに記載のポリペプチドと、標的タンパク質または標的タンパク質に結合するタンパク質と、を含む融合タンパク質。
【0126】
第11項に記載の融合タンパク質によれば、標的タンパク質の挙動を発光により検出することができる。
【0127】
(第12項)
第11項に記載の融合タンパク質をコードする核酸を含むベクター。
【0128】
第12項に記載のベクターによれば、第11項に記載の融合タンパク質をコードする核酸を容易に増幅および維持することができる。第12項に記載のベクターを用いて、第11項に記載の融合タンパク質を容易に製造することができる。
【0129】
(第13項)
第1項~第5項のいずれかに記載のポリペプチドと、蛍光物質とを備えた、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)分子プローブ。
【0130】
第13項に記載の分子プローブによれば、プロテアーゼなどを高感度に検出することができる。
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