(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123859
(43)【公開日】2022-08-24
(54)【発明の名称】医療用成型品
(51)【国際特許分類】
A61L 29/06 20060101AFI20220817BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20220817BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20220817BHJP
C08G 18/40 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
A61L29/06
C08G18/75 010
C08G18/32 003
C08G18/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017740
(22)【出願日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2021020394
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 伸哉
【テーマコード(参考)】
4C081
4J034
【Fターム(参考)】
4C081AC08
4C081BB07
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4J034RA02
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、体内への挿入前後の環境変化(温度等の変化)があっても、硬さ(ヤング率)の変化が小さく、かつ、優れた強度(十分な引張破壊応力及び引張破壊ひずみ)を維持できる医療用成型品を提供することにある。
【解決手段】 ポリオール(A)及びポリイソシアネート(B)を必須構成単量体とするウレタン樹脂を成型してなる医療用成型品であって、
前記医療用成型品が、体内に挿入して用いる医療用成型品であり、
前記ポリイソシアネート(B)が、特定の構造の脂環式ポリイソシアネート(b1)を含有し、
前記ポリオール(A)が、水酸基価が30~300mgKOH/gであるジオール(a1)を含有する医療用成型品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール(A)及びポリイソシアネート(B)を必須構成単量体とするウレタン樹脂を成型してなる医療用成型品であって、
前記医療用成型品が、体内に挿入して用いる医療用成型品であり、
前記ポリイソシアネート(B)が、一般式(1)で表される脂環式ポリイソシアネート(b1)を含有し、
前記ポリオール(A)が、水酸基価が30~300mgKOH/gであるジオール(a1)を含有する医療用成型品。
【化1】
[一般式(1)において、R
1は、炭素数1~4のアルキレン基であるか直接結合を表し;R
2は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し;一般式(1)における全てのR
1は同じ基又は結合であり;一般式(1)における全てのR
2は同じ基である。]
【請求項2】
前記ポリオール(A)が、水酸基価が500mgKOH/g以上であるジオール(a2)を含有する請求項1に記載の医療用成型品。
【請求項3】
前記ポリオール(A)が、1分子あたりの水酸基の数が3~6であるポリオール(a3)を含有する請求項1又は2に記載の医療用成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、カテーテル等の医療用成型品として、ポリテトラフルオロエチレン等を用いた成型品が用いられている。カテーテル等の医療用成型品を、挿入及び留置する際、生体内組織への損傷を避けるためは、カテーテルは適度な柔軟性を有していることが望ましい。そこで、ウレタン樹脂を成型したカテーテルを用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、従来のウレタン樹脂を用いた成型品だと、体内への挿入中に、環境変化(温度変化・周囲の水分量の変化)に伴い、成型品の物理特性(硬さ及び強度等)が変化してしまうという問題点があった。例えば、体内への挿入中に、樹脂が柔らかくなりすぎると(ヤング率が低下しすぎると)、体内の奥に更に挿入することが困難になり、また、樹脂強度も低下する(引張破壊応力及び引張破壊ひずみが低下する)おそれがある。また、この事態を回避するために、ウレタン樹脂の硬さを上げ過ぎると、生体内への挿入初期に、生体組織を損傷しやすくなるという問題があった。
緊急の手術等の場合、温度環境を十分に整えられず、体内と大きく異なる温度(室温以下の温度等)・湿度環境で保管したカテーテルを使わざるを得ない状況も発生し得るため、特に上記の問題の解決が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、体内への挿入前後の環境変化(温度等の変化)があっても、硬さ(ヤング率)の変化が小さく、かつ、優れた強度(十分な引張破壊応力及び引張破壊ひずみ)を維持できる医療用成型品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち本発明は、
ポリオール(A)及びポリイソシアネート(B)を必須構成単量体とするウレタン樹脂を成型してなる医療用成型品であって、
前記医療用成型品が、体内に挿入して用いる医療用成型品であり、
前記ポリイソシアネート(B)が、一般式(1)で表される脂環式ポリイソシアネート(b1)を含有し、
前記ポリオール(A)が、水酸基価が30~300mgKOH/gであるジオール(a1)を含有する医療用成型品である。
【化1】
[一般式(1)において、R
1は、炭素数1~4のアルキレン基であるか直接結合を表し;R
2は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し;一般式(1)における全てのR
1は同じ基又は結合であり;一般式(1)における全てのR
2は同じ基である。]
【発明の効果】
【0006】
本発明の医療用成型品は、体内への挿入前後の環境変化(温度等の変化)があっても、硬さ(ヤング率)変化が小さく、かつ、優れた強度(十分な引張破壊応力及び引張破壊ひずみ)を維持できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の医療用成型品は、ポリオール(A)及びポリイソシアネート(B)を必須構成単量体とするウレタン樹脂を成型してなる医療用成型品であって、前記医療用成型品は、体内に挿入して用いる医療用成型品である。
前記のポリイソシアネート(B)は、上記の一般式(1)で表される脂環式ポリイソシアネート(b1)を含有する。
また、前記のポリオール(A)は、水酸基価が30~300mgKOH/gであるジオール(a1)を含有する。
【0008】
前記のポリオール(A)は、上記の通り、水酸基価が30~300mgKOH/gであるジオール(a1)を含有する。
なお、本願において、水酸基価は、JIS K0070-1992に準拠した方法で測定される値である。
【0009】
前記のジオール(a1)としては、活性水素原子を2個有する炭素数2~20の化合物(a10)への炭素数2~4のアルキレンオキサイド付加物、化合物(a10)とジカルボン酸[後に詳述する化合物(a10)の内、ジカルボン酸である化合物]とのポリエステル、ポリラクトンジオール及びポリカーボネートジオール等が挙げられる。
上記のジオール(a1)の原料[化合物(a10)等]は、それぞれ1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0010】
活性水素原子を2個以上有する炭素数2~20の化合物(a10)としては、水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、カルボキシ基含有化合物及びチオール等の、水酸基、1級又は2級アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基から選ばれる基を有する化合物等が挙げられる。
これらの化合物の内、前記の水酸基含有化合物(ジオール)としては、脂肪族ジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール及びドデカンジオール等)及び芳香族ジオール(ビスフェノールA等)等が挙げられる。
これらの化合物の内、前記のカルボキシ基含有化合物(ジカルボン酸)としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フマル酸及びマレイン酸等)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸及びフタル酸等)等が挙げられる。
【0011】
ポリラクトンジオールは、前記のジオールへのラクトンの重付加物であり、ラクトンとしては、炭素数4~12のラクトン(γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン及びε-カプロラクトン等)等が挙げられる。
ポリラクトンジオールの具体例としては、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール等が挙げられる。
【0012】
ポリカーボネートジオールとしては、前記の化合物(a10)と、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1~6のジアルキルカーボネート、炭素数2~6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート及び炭素数6~9のアリール基を有するジアリールカーボネート)とを、脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0013】
ポリカーボネートジオールの具体例としては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール及びポリ(テトラメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール(例えば1,4-ブタンジオールと1,6-ヘキサンジオールをジアルキルカーボネートと脱アルコール反応させながら縮合させて得られるジオール)等が挙げられる。
【0014】
炭素数2~4のアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、1,2-又は1,3-プロピレンオキサイド、1,2-、1,3-、1,4-又は2,3-ブチレンオキサイド等が挙げられる。
【0015】
前記のジオール(a1)としては、強度の観点から、前記の化合物(a10)への炭素数2~4のアルキレンオキサイド付加物が好ましく、ポリテトラメチレングリコール及びポリプロピレングリコールが更に好ましい。
【0016】
前記のジオール(a1)の水酸基価は、上記の通り、30~300mgKOH/gである。
30mgKOH/g未満であると、引張破壊応力が低下し、300mgKOH/gを超えるとヤング率が高くなりすぎる。
前記のジオール(a1)の水酸基価は、引張破壊応力の観点から100mgKOH/g以上であることが好ましい。
【0017】
前記のポリオール(A)は、引張破壊応力の観点から、水酸基価が500mgKOH/g以上であるジオール(a2)を含有することが好ましい。
前記のジオール(a2)としては、エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール及び1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
【0018】
前記のジオール(a2)の水酸基価は、上記の通り、500mgKOH/g以上であり、引張破壊応力の観点から、500~1810mgKOH/gであることが好ましく、1000~1810mgKOH/gであることが更に好ましい。
【0019】
前記のポリオール(A)は、引張破壊応力の観点から、1分子あたりの水酸基の数が3~6であるポリオール(a3)を含有することが好ましい。
前記のポリオール(a3)としては、活性水素原子を3個以上有する炭素数2~20の化合物(a30)、及び、化合物(a30)への炭素数2~4のアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
また、化合物(a30)への炭素数2~4のアルキレンオキサイドの付加モル数は、活性水素原子1モルにつき、1~5モルであることが好ましい。
【0020】
活性水素原子を3個以上有する炭素数2~20の化合物(a30)としては、水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、カルボキシ基含有化合物及びチオール等の、水酸基、1級又は2級アミノ基、カルボキシ基及びメルカプト基から選ばれる基を有する化合物等が挙げられる。
これらの化合物の内、前記の水酸基含有化合物としては、グリセリン、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトール等が挙げられる。
また、前記のアミノ基含有化合物としては、エチレンジアミン(活性水素原子を4個有する化合物)等が挙げられる。
前記のポリオール(a3)として、好ましいものとしては、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミンへのプロピレンオキサイド4モル付加物(水酸基を4個有する化合物)等が挙げられる。
【0021】
前記のポリオール(A)は、ジオール(a1)、ジオール(a2)及びポリオール(a3)以外のその他のポリオール(a4)を含有していても良い。
【0022】
前記のポリオール(A)におけるジオール(a1)の重量割合は、引張破壊応力及び引張破壊ひずみの観点から、ポリオール(A)の重量を基準として80~99重量%であることが好ましく、更に好ましくは83~98重量%であり、特に好ましくは85~95重量%である。
前記のポリオール(A)におけるジオール(a2)の重量割合は、ヤング率及び引張破壊応力の観点から、ポリオール(A)の重量を基準として0.05~19重量%であることが好ましく、更に好ましくは1~15重量%であり、特に好ましくは2~8重量%である。
前記のポリオール(A)におけるポリオール(a3)の重量割合は、ヤング率、引張破壊応力及び引張破壊ひずみの観点から、ポリオール(A)の重量を基準として0.05~15重量%であることが好ましく、更に好ましくは1~10重量%であり、特に好ましくは3~7重量%である。
【0023】
前記のポリイソシアネート(B)は、上記の通り、一般式(1)で表される脂環式ポリイソシアネート(b1)を含有する。
前記のポリイソシアネート(B)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
【0025】
一般式(1)において、R1は、炭素数1~4のアルキレン基(メチレン基、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基等)であるか直接結合を表す。R1は、引張破壊応力の観点から直接結合又はメチレン基であることが好ましく、メチレン基であることが更に好ましい。
また、一般式(1)において、R2は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等)を表す。R2は、引張破壊応力の観点から水素原子であることが好ましい。
また、一般式(1)における全てのR1は同じ基又は結合である。
また、一般式(1)における全てのR2は同じ基である。
本発明の医療用成型品は、前記の一般式(1)で表される脂環式ポリイソシアネート(b1)を構成単位として有するウレタン樹脂を用いており、体内への挿入前後の環境変化(温度等の変化)があっても、硬さ(ヤング率)の変化が小さく、かつ、優れた強度(十分な引張破壊応力及び引張破壊ひずみ)を維持できるという効果を奏する。そのメカニズムとしては以下の内容が推定される。
前記の一般式(1)で表される脂環式ポリイソシアネート(b1)は、1つのシクロヘキサン環を中心に左右対称となるように、イソシアネート基が直接又はアルキレン基を介して結合し、また、1つのシクロヘキサン環を中心に左右対称となるように、水素原子又はアルキル基が結合している。このため、脂環式ポリイソシアネート(b1)を構成単位として有するウレタン分子同士の相互作用が強くなり、温度等の変化に伴う物性の変化も小さくなっているものと推定される。
【0026】
前記の脂環式ポリイソシアネート(b1)として、好ましいものとしては、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0027】
前記のポリイソシアネート(B)は、発明の効果を阻害しない範囲で、前記のポリイソシアネート(b1)以外のその他のポリイソシアネート(b2)[ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等]を含有していても良い。
【0028】
前記のポリイソシアネート(B)におけるポリイソシアネート(b1)の重量割合は、ヤング率の観点から、ポリイソシアネート(B)の重量を基準として60~100重量%であることが好ましく、更に好ましくは80~100重量%であり、特に好ましくは90~100重量%である。
【0029】
本発明におけるウレタン樹脂は、上記の通り、前記のポリオール(A)及び前記のポリイソシアネート(B)を必須構成単量体とするウレタン樹脂である。
【0030】
本発明におけるウレタン樹脂は、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P)[ポリオール(A)及び前記のポリイソシアネート(B)を必須構成単量体とするウレタンプレポリマー]が有するイソシアネート基と、水とを反応させてなるウレタン樹脂であることが好ましい。
【0031】
本発明におけるウレタン樹脂のウレタン基濃度は、ウレタン樹脂の重量を基準として、2~10mmol/gであることが好ましい。
2mmol/g以上であると、高温での引張破壊応力が向上し、10mmol/g以下であると、低温での引張破壊ひずみが向上する。
【0032】
本発明におけるウレタン樹脂は、以下の数式(1)で算出できる架橋密度が、0.1~2.0mmol/gであることが好ましい。
【0033】
【0034】
数式(1)において、m及びAiは、それぞれ、ウレタン樹脂を構成するポリオール(A)成分の内、1分子あたりの水酸基の数が3以上であるポリオール(pa)[前記のポリオール(a3)等が挙げられる。]における以下の値を意味する。
m:ウレタン樹脂を構成するポリオール(pa)由来単位の個数
Ai:ウレタン樹脂を構成するi番目のポリオール(pa)が有する水酸基の数から2を減算した数値
また、数式(1)において、n及びBiは、それぞれ、ウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート(B)成分の内、1分子あたりのイソシアネート基の数が3以上であるポリイソシアネート(pb)における以下の値を意味する。
n:ウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート(pb)由来単位の個数
Bi:ウレタン樹脂を構成するi番目のポリイソシアネート(pb)が有するイソシアネート基の数から2を減算した数値
【0035】
ウレタン樹脂を構成するポリオール(A)の活性水素含有基のモル当量に対する、ウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート(B)のイソシアネート基のモル当量の比率(イソシアネート基のモル当量/活性水素含有基のモル当量)は、硬さ及び強度の観点から、好ましくは0.9~1.1であり、更に好ましくは0.9~1.0である。
また、ウレタン樹脂が、前記のウレタンプレポリマー(P)と水とを反応させてなるウレタン樹脂である場合、ウレタンプレポリマー(P)を構成するポリオール(A)の活性水素含有基のモル当量に対する、ウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート(B)のイソシアネート基のモル当量の比率(イソシアネート基のモル当量/活性水素含有基のモル当量)は、硬さ及び強度の観点から、好ましくは1.01~1.1である。
また、ウレタンプレポリマー(P)を構成するポリオール(A)の活性水素含有基と水が有する活性水素含有基の合計モル当量に対する、ウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート(B)のイソシアネート基のモル当量の比率(イソシアネート基のモル当量/活性水素含有基のモル当量)は、硬さ及び強度の観点から、好ましくは0.9~1.0である。
【0036】
本発明におけるウレタン樹脂は、以下の(1)~(3)に記載の方法等により製造することが好ましい。
(1)全てのポリオール(A)成分と、全てのポリイソシアネート(B)成分とを、好ましくは20~140℃(更に好ましくは80~120℃)の温度で、好ましくは1~10時間反応させ、ウレタン樹脂を製造する。
(2)ポリオール(A)の内、ジオール(a1)と、ポリイソシアネート(B)成分とを、好ましくは20~140℃(更に好ましくは80~120℃)の温度で、好ましくは1~10時間反応させ、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P1)を製造する。次いで、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P1)と、ジオール(a2)と、ポリオール(a3)とを、好ましくは20~140℃(更に好ましくは80~120℃)の温度で、好ましくは1~10時間反応させ、ウレタン樹脂を製造する。
(3)ポリオール(A)の内、ジオール(a1)と、ポリイソシアネート(B)成分とを、好ましくは20~140℃(更に好ましくは80~120℃)の温度で、好ましくは1~10時間反応させ、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P2)を製造する。次いで、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P2)と、ジオール(a2)と、ポリオール(a3)とを、好ましくは20~140℃(更に好ましくは80~120℃)の温度で、好ましくは1~10時間反応させ、イソシアネート基を有するウレタンポリマー(P3)を製造する。イソシアネート基を有するウレタンポリマー(P3)と水(大気中の水等)とを、好ましくは20~50℃の温度及び好ましくは20~80%RHの湿度で、好ましくは1~7日間反応させて、ウレタン樹脂を製造する。
【0037】
前記の(1)~(3)における反応に際しては、反応を促進させるため、必要により一般的にウレタン反応において使用される触媒[アミン触媒(トリエチルアミン、N-エチルモルホリン及びトリエチレンジアミン等)、錫系触媒(ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート及びオクチル酸錫等)及びチタン系触媒(テトラブチルチタネート等)]等を使用してもよい。触媒の使用量はウレタン樹脂に対して0.1重量%以下であることが好ましい。
【0038】
本発明におけるウレタン樹脂について、以下の方法で測定できるヤング率、引張破壊応力、引張破壊ひずみは、以下の値であることが好ましい。
<測定方法>
前記の(1)~(3)に記載の方法等により製造したウレタン樹脂を、温度25℃、湿度65%RHに調整した室内に1日間静置した後、更に、0℃10%RH、23℃50%RH、又は、40℃100%RHの温度及び湿度に調整した室内に1日静置した後、JIS K 7161-1に従い、ヤング率、引張破壊応力、引張破壊ひずみを測定する。
<ヤング率>
0℃10%RH、23℃50%RH、及び、40℃100%RHで測定した全てのヤング率(MPa)が、15以上200以下であることが好ましく、30以上150以下であることが更に好ましい。
<引張破壊応力>
0℃10%RH、23℃50%RH、及び、40℃100%RHで測定した全ての引張破壊応力(MPa)が、50以上であることが好ましく、150以上であることが更に好ましい。
<引張破壊ひずみ>
0℃10%RH、23℃50%RH、及び、40℃100%RHで測定した全ての引張破壊ひずみ(%)が、200以上であることが好ましく、300以上であることが更に好ましい。
【0039】
本発明の医療用成型品は、上記の通り、前記のウレタン樹脂を成型してなる医療用成型品である。
【0040】
また、本発明の医療用成型品は、体内に挿入して用いる医療用成型品である。
体内に挿入して用いる医療用成型品としては、体内の目的箇所と、体外の目的箇所をつなぐことができる管状の医療用成型品(カテーテル等)等が挙げられる。
前記の管上の医療用成型品の直径としては、1~20mmであることが好ましく、2~10mmであることが更に好ましい。
【0041】
本発明の医療用成型品の製造方法としては、以下の方法等が挙げられる。
医療用成型品の形に応じた型に、ウレタン樹脂の原料等[前記のポリオール(A)、前記のポリイソシアネート(B)、前記のウレタンプレポリマー(P1)~(P3)、前記の触媒及び後述の添加剤等]を投入し、前記のウレタン化反応を進行させることで、ウレタン樹脂の製造とともに、医療用成型品を得る方法等が挙げられる。
【0042】
本発明の医療用成型品は、前記のウレタン樹脂以外にも、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有していても良い。
前記の酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール化合物〔トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]及び2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等〕及び亜リン酸エステル化合物[トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト及びテトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレン-ジ-ホスホナイト等]等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、サリチル酸誘導体(サリチル酸フェニル、サリチル酸-p-オクチルフェニル及びサリチル酸-p-第3ブチルフェニル等)、ベンゾフェノン化合物[2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-5-スルホベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノントリヒドレート、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシ)プロポキシベンゾフェノン及びビス(2-メトキシ-4-ヒドロキシ-5-ベンゾイルフェニル)メタン等]、ベンゾトリアゾール化合物{2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-n-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-[2’-ヒドロキシ-3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール及び2,2-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等};シアノアクリレート化合物(2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート及びエチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート等)等が挙げられる。
前記の添加剤を用いる場合、添加剤の重量割合は、引張破壊応力の観点から、ウレタン樹脂の重量を基準として0.1~5重量%であることが好ましい。
【0043】
本発明の医療用成型品は、体内への挿入前後の環境変化(温度等の変化)があっても、硬さ(ヤング率)の変化が小さく、かつ、優れた強度(十分な引張破壊応力及び引張破壊ひずみ)を維持できるため、体内への挿入を容易とする物理特性(硬さ及び強度)を維持しつつ、生体内組織の損傷を抑制できる。このため、本発明の医療用成型品は、体内に挿入して用いる医療用成型品として有用である。
【実施例0044】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尚、以下において部は重量部を表す。
【0045】
<実施例1:>
還流冷却管、攪拌棒及び温度計をセットした4つ口フラスコに、ジオール(a1)としてのPTMG-650(a1-1)を60.7部、ポリイソシアネート(b1)としての1,4-H6XDI(b1-1){1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(フォルティモ1,4-H6XDI;三井化学(株)製)}を32.1部投入し、110℃で8時間反応させてイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(P-1)を得た。ウレタンプレポリマー(P-1)のイソシアネート基含量は6.6重量%であった。
なお、上記のイソシアネート基含量は、JISK7301-1995、6.3イソシアネート基含有率に準拠して測定した。
前記のプレポリマー(P-1)が入った4つ口フラスコに、表1に記載のジオール(a2)及びポリオール(a3)を表1に記載の部数で混合し、シート成形金型[成型後の厚みが1mmとなるように設計]に流し込み110℃で1時間硬化させた後、温度50℃で湿度50%RHで1日間養生して1mmの厚みを有するシート状のウレタン樹脂を得た。
得られたウレタン樹脂の表面について、フーリエ変換赤外分光光度計で測定(反射型IR測定)した結果、イソシアネート基に由来するシグナル(2,270cm-1)が消失していることを確認した。
【0046】
<実施例2~11及び比較例1~2>
実施例1において、ジオール(a1)、ジオール(a2)、ポリオール(a3)及びポリイソシアネート(b1)の種類及び投入重量を、表1の通り変更した以外は、実施例1と同様にして実施し、ウレタン樹脂を得た。
なお、表1に記載した原料は以下の通りである。
(a1-1):PTMG-650[水酸基価が170mgKOH/gであるポリテトラメチレングリコール、三菱ケミカル(株)製]
(a1-2):PTMG-1000[水酸基価が112mgKOH/gであるポリテトラメチレングリコール、三菱ケミカル(株)製]
(a1-3):PTMG-2000[水酸基価が56mgKOH/gであるポリテトラメチレングリコール、三菱ケミカル(株)製]
(a1-4):サンニックスPP-400[水酸基価が280mgKOH/gであるポリプロピレングリコール、三洋化成工業(株)製]
(a1-5):サンニックスPP-3000[水酸基価が35mgKOH/gであるポリプロピレングリコール、三洋化成工業(株)製]
(a1’-1):PTMG-4000[水酸基価が28mgKOH/gであるポリテトラメチレングリコール、三菱ケミカル(株)製]
(a2-1):1,4-ブタンジオール[水酸基価が1247mgKOH/gである化合物、三菱ケミカル(株)製]
(a2-2):1,3-ブタンジオール[水酸基価が1247mgKOH/gである化合物、東京化成工業(株)製]
(a2-3):エチレングリコール[水酸基価が1807mgKOH/gである化合物、三菱ケミカル(株)製]
(a2-4):1,12-ドデカンジオール[水酸基価が554mgKOH/gである化合物、東京化成工業(株)製]
(a3-1):N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン[水酸基価が750mgKOH/gである水酸基を4つ有する化合物、東京化成工業(株)製]
(a3-2):トリメチロールプロパン[水酸基価が1254mgKOH/gである水酸基を3つ有する化合物、三菱ガス化学(株)製]
(a3-3):ペンタエリトリトール[水酸基価が1648mgKOH/gである水酸基を4つ有する化合物、東京化成工業(株)製]
【0047】
実施例1~11及び比較例1~2で得たシート状のウレタン樹脂を用いて、以下の評価方法でヤング率、引張破壊応力、引張破壊ひずみを評価した。
【0048】
得られたシート状のウレタン樹脂を温度25℃、湿度65%RHに調整した室内に1日間静置した後、更に、表1に記載の温度及び湿度に調整した室内に1日静置した後、JIS K 7161-1に従い、ヤング率、引張破壊応力、引張破壊ひずみを測定した。
なお、評価基準は以下の通りとし、結果を表1に記載した。
<ヤング率(MPa)>
◎:30以上150以下
○:15以上30未満又は150超200以下
×:15未満又は200超
<引張破壊応力(MPa)>
◎:150以上
○:50以上150未満
×:50未満
<引張破壊ひずみ(%)>
◎:300以上
○:200以上、300未満
×:200未満
【0049】
本発明の医療用成型品は、体内への挿入前後の環境変化(温度等の変化)があっても、硬さ(ヤング率)の変化が小さく、かつ、優れた強度(十分な引張破壊応力及び引張破壊ひずみ)を維持できるため、体内への挿入を容易とする物理特性(硬さ及び強度)を維持しつつ、生体内組織の損傷を抑制できる。このため、本発明の医療用成型品は、体内に挿入して用いる医療用成型品として有用である。