(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123909
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】結晶性材料の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/205 20180101AFI20220818BHJP
【FI】
G01N23/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021369
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敏彦
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA22
2G001CA01
2G001DA09
2G001FA16
2G001KA07
(57)【要約】
【課題】環境放射線等によるノイズが混在する環境下でも計測が可能な結晶性材料の評価方法の提供を目的とする。
【解決手段】対象物にX線を照射し、当該対象物にてX線が回折して形成される回折環を二次元検出器にて検出して解析する結晶性材料の評価方法であって、前記X線を照射して得られた二次元検出器による回折X線データと、X線を照射しない状態で検出した二次元検出器による環境放射X線データとの差分にて、解析することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にX線を照射し、当該対象物にてX線が回折して形成される回折環を二次元検出器にて検出して解析する結晶性材料の評価方法であって、
前記X線を照射して得られた二次元検出器による回折X線データと、X線を照射しない状態で検出した二次元検出器による環境放射X線データとの差分にて、解析することを特徴とする結晶性材料の評価方法。
【請求項2】
前記X線を照射するON状態とX線を照射しないOFF状態を、X線のパルス照射により同期化して前記二次元検出器にて検出することを特徴とする請求項1記載の結晶性材料の評価方法。
【請求項3】
前記二次元検出器は半導体型検出器であり、前記照射したX線のエネルギーに基づいてフォトンカウンティング法により、前記回折X線データを前記環境放射X線データと弁別することを特徴とする請求項1又は2記載の結晶性材料の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料等の結晶性材料にX線等を照射して、この材料の結晶構造等によりX線が回折して形成される回折環に基づいて材料を評価する方法に関し、特に原子力関連施設、研究施設、さらには企業の研究開発や製品管理において、ノイズとなる放射線や蛍光X線が混在する環境下にあっても評価可能な方法に係る。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電プラント等においては高温高圧状態にて長期間使用されることから経年劣化が問題となる。
【0003】
原子力発電施設には多くの金属材料等の結晶性材料が使用されており、例えば溶接部位等にはこれまでも耐応力腐食割れや耐金属疲労の観点からピーニング処理等と称される強度改善処理が施されるが、このような処理等を施しても稼動時の熱履歴等の影響を受けることから長期にわたり、残留応力等の特性を評価する必要がある。
しかし、稼働中の原子力発電プラント等においては、使用環境から放射された、いわゆる環境放射線が大きなノイズとなり適切な計測をする際の障害になっている。
また、原子力分野の他にも研究開発や製品管理等において評価対象物によっては、蛍光X線が発生し、環境からの放射線と同様にノイズとなる場合がある。
【0004】
本発明者らは、これまでにSOIピクセル検出器を用いたX線照射による残留応力の測定方法を提案している(非特許文献1)。
本発明者は、環境放射線等のノイズの大きい分野にても適用できないか検討し、本発明に至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Toshihiko Sasaki, Shingo Mitsui, Masayoshi Shin-ya; Kayoko Yanagi; Ryutaro Nishimura, Toshinobu Miyoshi, Yasuo Arai, Study on application of a monolithic SOI pixel detector to residual stress measurement using X-rays, Nuclear Inst. And Methods in Physics Research, A, Volume 924, 21 April 2019, Pages 452-456.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、環境放射線等によるノイズが混在する環境下でも計測が可能な結晶性材料の評価方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る結晶性材料の評価方法は、対象物にX線を照射し、当該対象物にてX線が回折して形成される回折環を二次元検出器にて検出して解析する結晶性材料の評価方法であって、前記X線を照射して得られた二次元検出器による回折X線データと、X線を照射しない状態で検出した二次元検出器による環境放射X線データとの差分にて、解析することを特徴とする。
二次元検出器にて回折されたX線を検出する際に、周囲の環境放射X線が重畳的に加わり、特にこの環境放射X線の量が多いと無視できなくなるので、X線を照射しない状態で環境放射X線の強度を検出し、その差分解析を行った点に本発明の特徴がある。
ここで環境放射X線には評価材料及び、その環境下から放射されているX線のみならず、評価材料等から発生する蛍光X線等、回折環の解析においてノイズなるX線が含まれ、本明細書では、これらを含めて環境放射X線という。
【0008】
この場合に、前記X線を照射するON状態とX線を照射しないOFF状態を、X線のパルス照射により同期化して前記二次元検出器にて検出するのが好ましい。
ここで、パルス照射の方法としてはX線の照射電源をパルス電源とする場合や、X線照射源と対象物との間にスリット状の回転盤等を設ける等、その手段に制限はない。
【0009】
本発明において、前記二次元検出器は半導体型検出器であり、前記照射したX線のエネルギーに基づいてフォトンカウンティング法により、前記回折X線データを前記環境放射X線データと弁別するようにすると、さらに好ましい。
X線は電磁波であるものの波長が短いため、波の性質の他に光子(フォトン)の性質を有している。
従って、半導体型の二次元検出器にあっては、検出器に飛び込んでくるフォトンが作る電荷量はX線のエネルギーに依存しているため、計測のためのX線照射により得られる回折X線のエネルギー帯と、その他のノイズによるエネルギー帯をフォトンカウンティング法により弁別した後に上記差分法を適用してもよい。
【0010】
本発明に用いる半導体型の二次元検出器は、ピクセル型が好ましく、光学系の条件や評価する材料の結晶構造に合せて適切なピクセルサイズを選択することで解析精度が向上する。
例えば、SOI(Silicon On Insulator)素子からなるSOIピクセル検出器、またCMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサ等でもよい。
【0011】
回折環は、デバイ環,デバイリング,デバイ・シェラーリングとも称され、材料内の結晶によるX線回折現象によって発生する。
したがって、本発明における結晶性材料には金属材料,結晶性セラミックス、並びにそれからなる薄膜,メッキ層,複合材料等が含まれる。
回折環を分析することで応力ひずみ,塑性ひずみ,硬さ,転位密度,疲労強度等の計測及び解析が検討されている。
回折環を用いた解析方法としては本発明者らが、これまでに多くの方法を提案している。
例えば、cosα法(三軸応力解析),フーリエ解析法,εα-cosα近似法等である。
<cosα法(三軸応力解析)>
回折環上にて得られた複数のデータを組み合せてパラメータとすることで、cosαに対する直線の傾きから三軸応力状態を求める方法である。
なお、本方法は、一軸応力(単軸応力),二軸応力(平面応力)に対しても解析可能である。
<フーリエ解析法>
回折環上にて得られた複数のデータを単独にパラメータとするとともに、フーリエ級数にて表現し、その係数を利用して応力を求める方法である。
<εα-cosα近似法>
回折環上にて得られた個々のデータを単独にパラメータとすることで、cosαに対する直線の傾きから応力を求める方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る結晶性材料の評価方法は、対象物にX線を照射して得られる回折X線を検出する際に、環境放射線等によるノイズを差分法やフォトンカウンティング法を利用して除去できるので、結晶性材料評価の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は対象物にX線を照射して得られる回折環から回折X線を検出する模式図を示し、(b)は環境放射線を検出している状態を示す。
【
図3】(a)は回折X線の強度(I)分布と環境放射X線の強度が混在していることを模式的に示し、(b)はX線照射OFFの状態、(c)は差分を示す。
【
図4】(a)はフォトンカウンティング法でカットオフ値を定める模式図を示し、(b)はそれにより弁別した状態、(c)は差分法により得られた状態を模式図として示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1(a)に回折環を模式的に示す。
X線ビームを測定サンプルに照射すると、X線照射領域中に存在する結晶格子の内、以下のBraggの法則を満足するものから回折X線が発生する。
【数1】
ここで、
d : 格子面間隔
θ : Bragg角
λ : X線の波長
n : 回折次数 (以下,n=1)
結晶性材料のX線照射領域中には、通常、微細な結晶粒が多数存在するため、Braggの法則を満たす結晶格子は多数存在する。
この結果、回折した各X線ビームはX線照射点を頂点とする円錐の側面を形成することになる。
そのため、X線の二次元検出器を入射X線ビームに対して垂直にセットすると、計測される回折X線は円環を描く。
この円環を回折環またはデバイリング,デバイ・シェラーリングと呼ぶ。
図1(a)にて、ψ
0:X線の入射角,α:回折環の中心角,2θ:回折角,σ
x:測定される垂直応力,Z:表面に対して垂直な方向を示す(法線方向)。
【0015】
X線照射にて得られる回折環の回線X線を二次元検出器で検出することで、結晶性材料に存在する応力状態等が解析できる。
この際に、
図1(b)に示すように、測定サンプルからノイズとして放射される環境放射X線や蛍光X線等も二次元検出器にて検出される。
そこで本発明は、
図2に示すようにX線をON-OFFパルス状に照射することで、
図3(a)に示した混在状態から
図3(b)に示す環境放射X線等によるノイズを差分により除去することで、
図3(c)に示すような精度の高い回折X線が得られる。
図3は、横軸に2θ,縦軸に回折X線シグナルの強度(I)を示したものである。
環境放射X線等が混在する下で対象物にX線ビームを照射すると、
図1に示したように二次元検出器には回折X線データと、環境放射X線データとが重畳して検出される。
この状態を
図3(a)では、X線照射ONの状態で回折X線データに環境放射X線が含まれていることを模式的に表現したものである。
これに対して
図3(b)は、X線照射をOFFの状態にすると、環境放射X線のみが検出されることを示したものである。
また、
図4にフォトンカウンティング法を用いた例を示す。
図4(a)は回折X線データ領域のエネルギー帯の前後にカットオフ値を設けた状態を示す。
この状態からカットオフ値の上限以上、下限以下を除いた状態を
図4(b)に模式的に示す。
さらに差分法にて、ノイズを除去すると
図4(c)の状態になる。