(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123928
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】ノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタおよび電気機器
(51)【国際特許分類】
H01L 21/337 20060101AFI20220818BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
H01L29/80 C
H01L29/80 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021398
(22)【出願日】2021-02-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】301041553
【氏名又は名称】株式会社パウデック
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】河合 弘治
(72)【発明者】
【氏名】八木 修一
(72)【発明者】
【氏名】成井 啓修
【テーマコード(参考)】
5F102
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD04
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GK04
5F102GK08
5F102GL04
5F102GL07
5F102GM04
5F102GM07
5F102GM08
5F102GQ01
5F102GS01
5F102GT01
5F102HC01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】Al
x Ga
1-x N層に溝を形成するなど素子構造を複雑化させることなく、容易にノーマリーオフ型トランジスタを実現することができるノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】トランジスタは、アンドープGaN層11、Al
x Ga
1-x N層12(0<x<1)、島状のアンドープGaN層13、p型GaN層14、p型In
y Ga
1-y N層15(0≦y<1)、p型In
y Ga
1-y N層15上のゲート電極16、Al
x Ga
1-x N層12上のソース電極17およびドレイン電極18を有する。Al
x Ga
1-x N層12とアンドープGaN層11との間のヘテロ界面およびAl
x Ga
1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の分極電荷量をN
PZ、Al
x Ga1
-x N層12の厚さをdとしたとき、N
PZd≦2.64×10
14[cm
-2nm]が成立する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0≦y<1)と、
上記p型Inx Ga1-x N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型Inx Ga1-x N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項2】
上記Alx Ga1-x N層と上記第1アンドープGaN層との間のヘテロ界面および上記Alx Ga1-x N層と上記第2アンドープGaN層との間のヘテロ界面の分極電荷量をNPZ、上記Alx Ga1-x N層の厚さをdとしたとき、
NPZd≦2.64×1014[cm-2nm]
である請求項1記載のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項3】
基板の全面に上記第1アンドープGaN層、上記Alx Ga1-x N層、上記第2アンドープGaN層、上記p型GaN層および上記p型Iny Ga1-y N層が積層された状態のエピ基板のシート抵抗が20kΩ/□以上である請求項2記載のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項4】
上記エピ基板のシート抵抗が45kΩ/□以上である請求項3記載のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項5】
少なくとも一つのトランジスタを有し、
前記トランジスタが、
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0≦y<1)と、
上記p型Inx Ga1-x N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型Inx Ga1-x N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタである電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ノーマリーオフ型分極超接合GaN(窒化ガリウム)系電界効果トランジスタおよびこのノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタを用いた電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワートランジスタとして分極超接合(polarization super junction;psj)GaN系電界効果トランジスタ(FET)が知られている(特許文献1、2参照。)。この分極超接合GaN系電界効果トランジスタは、アンドープGaN層、Alx Ga1-x N層およびアンドープGaN層が順次積層された構造を含む分極超接合領域を有する。この分極超接合GaN系電界効果トランジスタは、シリコン(Si)系のパワートランジスタでは実現が難しい、高耐圧、高出力、高効率、高速動作が可能である。
【0003】
なお、AlGaN/GaN HEMT(high electron mobility transistor)においては、AlGaN層上にアンドープInGaN層あるいはp型InGaN層を設け、その上にゲート電極を設けた構造とすることでノーマリーオフ型とすることが知られている(非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5828435号明細書
【特許文献2】特許第5669119号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Mizutani et al.,“AlGaN/GaN HEMTs with thin InGaN cap layerfor normally-off operation”,IEEE Electron Device Letters, Vol.28, No.7,p.549,July(2007)
【非特許文献2】李旭、他、“p-InGaN cap層を用いたノーマリーオフ型AlGaN/GaN HEMTs”,信学技報(IEICE technical report),2008
【非特許文献3】O.Ambacher et al.,“Two dimensional electron gas induced byspontaneous and piezoelectric polarization charges in N-face and Ga-face AlGaN/GaN heterostructures ”,J.Appl.Phys.,85,pp.3222-3233,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載の分極超接合GaN系電界効果トランジスタは、主として、平衡状態のときにゲート電極直下の部分も含めて、下層のアンドープGaN層とAlx Ga1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層に2次元電子ガス(2DEG)が存在しているため、ゲート電圧Vg =0Vやオープン状態のときに、ソース電極とドレイン電極との間に電圧を印加したとき、ソース電極とドレイン電極との間に電流が流れる、所謂ノーマリーオン型のトランジスタであった。
【0007】
一方、トランジスタには、制御信号(ゲート信号)喪失のときにトランジスタがオフ状態である、所謂フェールセーフ動作が求められることも多い。特許文献1、2に記載の分極超接合GaN系電界効果トランジスタでもノーマリーオフ型のものを得ることは可能であるが、Alx Ga1-x N層に溝を形成する必要があるなど、素子構造が複雑化する点で不利であった。
【0008】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、Alx Ga1-x N層に溝を形成するなど素子構造を複雑化させることなく容易にノーマリーオフ型トランジスタを実現することができるノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタおよびこのノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタを用いた高性能の電気機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は、
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0≦y<1)と、
上記p型Inx Ga1-x N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型Inx Ga1-x N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタである。
【0010】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタにおいては、ゲート閾値電圧>0Vである。このノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタにおいては、非動作時(熱平衡状態)において、Alx Ga1-x N層と第2アンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における第2アンドープGaN層に2次元正孔ガス(2DHG)が形成され、かつ、ゲート電極の直下の部分を除いて第1アンドープGaN層とアンドープAlx Ga1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における第1のアンドープGaN層に2次元電子ガス(2DEG)が形成されている。典型的には、Alx Ga1-x N層と第1アンドープGaN層との間のヘテロ界面およびAlx Ga1-x N層と第2アンドープGaN層との間のヘテロ界面の分極電荷量をNPZ、Alx Ga1-x N層の厚さをdとしたとき、
NPZd≦2.64×1014[cm-2nm]
が成立する。また、基板の全面に第1アンドープGaN層、Alx Ga1-x N層、第2アンドープGaN層、p型GaN層およびp型Iny Ga1-y N層が積層されたエピ基板のシート抵抗は、好適には20kΩ/□以上、より好適には45kΩ/□以上である。これらの条件については後に詳述する。p型Iny Ga1-y N層のIn組成yは、典型的には0<y<1である。
【0011】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタが特許文献1と類似の構造を有する場合、分極超接合領域は、p型GaN層が存在しない部分の第1アンドープGaN層、Alx Ga1-x N層および第2アンドープGaN層からなる。第1アンドープGaN層の厚さ、第2アンドープGaN層の厚さなどは、典型的には、特許文献1に準拠して選択される。このノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタが特許文献2と類似の構造を有する場合、分極超接合領域は、第1アンドープGaN層、Alx Ga1-x N層、第2アンドープGaN層およびp型GaN層からなる。第1アンドープGaN層の厚さ、第2アンドープGaN層の厚さ、p型GaN層の厚さおよび不純物濃度などは、典型的には、特許文献2に準拠して選択される。Alx Ga1-x N層は、典型的にはアンドープであるが、ドナー(n型不純物)またはアクセプタ(p型不純物)がドープされたn型またはp型のAlx Ga1-x N層、例えばSiがドープされたn型Alx Ga1-x N層であってもよい。Alx Ga1-x N層は典型的にはアンドープである。
【0012】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタにおいては、必要に応じて、第1アンドープGaN層とAlx Ga1-x N層との間、および/または、第2アンドープGaN層とAlx Ga1-x N層との間に、典型的にはアンドープのAlu Ga1-u N層(0<u<1、u>x)、例えばAlN層が設けられる。第2アンドープGaN層とAlx Ga1-x N層との間にAlu Ga1-u N層を設けることで、第2アンドープGaN層とAlx Ga1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における第2アンドープGaN層に形成される2次元正孔ガスのAlx Ga1-x N層側への染み込みを少なくすることができ、正孔の移動度を格段に増加させることができる。また、第1アンドープGaN層とAlx Ga1-x N層との間にAlu Ga1-u N層を設けることで、第1アンドープGaN層とAlx Ga1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における第1アンドープGaN層に形成される2次元電子ガスのAlx Ga1-x N層側への染み込みを少なくすることができ、電子の移動度を格段に増加させることができる。このAlu Ga1-u N層またはAlN層は一般的には十分に薄くてよく、例えば0.5~2nm程度で足りる。
【0013】
また、この発明は、
少なくとも一つのトランジスタを有し、
上記トランジスタが、
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0≦y<1)と、
上記p型Inx Ga1-x N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型Inx Ga1-x N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタである電気機器である。
【0014】
ここで、電気機器は、およそ電気を用いるもの全てを含み、用途、機能、大きさなどを問わないが、例えば、電子機器、移動体、動力装置、建設機械、工作機械などである。電子機器は、ロボット、コンピュータ、ゲーム機器、車載機器、家庭電気製品(エアコンディショナーなど)、工業製品、携帯電話、モバイル機器、IT機器(サーバーなど)、太陽光発電システムで使用するパワーコンディショナー、送電システムなどである。移動体は、鉄道車両、自動車(電動車両など)、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船などである。
【0015】
この電気機器の発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、上記のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタの発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、Alx Ga1-x N層に溝を形成するなど素子構造を複雑化させることなく、非動作時(熱平衡時)においてゲート電極の直下の部分に2次元電子ガスが存在しないノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタを容易に実現することができ、このノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタを用いて高性能の電子機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETを示す断面図である。
【
図2】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製したFET1のドレイン電流-ドレイン電圧特性を示す略線図である。
【
図3】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製したFET2のドレイン電流-ドレイン電圧特性を示す略線図である。
【
図4】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製したFET1のドレイン電流-ゲート電圧特性を示す略線図である。
【
図5】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製したFET2のドレイン電流-ゲート電圧特性を示す略線図である。
【
図6】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製したFET1のドレイン電流-ドレイン電圧特性を示す略線図である。
【
図7】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製したFET2のドレイン電流-ドレイン電圧特性を示す略線図である。
【
図8】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製したFET3、4、5のドレイン電流-ゲート電圧特性を示す略線図である。
【
図9】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製したFET1、2、3、4、5のAl
x Ga
1-x N層(x=0.21)の厚さdに対して閾値電圧V
thをプロットした略線図である。
【
図10】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製した試料1、2、3のAl
x Ga
1-x N層(x=0.21)の厚さdに対してエピ基板のシート抵抗をプロットした略線図である。
【
図11】この発明の第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの考察のために作製したFET1、2、3、4、5のAl
x Ga
1-x N層のAl組成xと分極電荷量との関係を示す略線図である。
【
図12】この発明の第2の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施の形態という。)について説明する。
〈第1の実施の形態〉
[ノーマリーオフ型分極超接合GaN系FET]
【0019】
図1に示すように、第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETにおいては、基板10上に、バッファ層(図示せず)を介して、アンドープGaN層11、Al
x Ga
1-x N層12およびアンドープGaN層13が順次積層されている。基板10は、好適には、GaN系半導体がC面成長する基板、例えば、C面サファイア基板、Si基板、SiC基板などである。バッファ層は、例えば、多結晶あるいは非晶質のGaNやAlNやAlGaN、さらにはAlGaN/GaN超格子などからなる。Al
x Ga
1-x N層12は典型的にはアンドープであるが、ドナー(n型不純物)またはアクセプタ(p型不純物)がドープされたn型またはp型のAl
x Ga
1-x N層であってもよい。アンドープGaN層13は島状の形状を有し、その両側にはAl
x Ga
1-x N層12が露出している。アンドープGaN層13上には全面にp型GaN層14が積層されている。p型GaN層14のうちの後述のドレイン電極18側の片側部分の厚さは後述のソース電極17側の片側部分の厚さに比べて小さくなっている。p型GaN層14のこの厚さが小さい部分は分極超接合領域(psj領域)に対応する。厚さが大きい部分のp型GaN層14上には全面にp型In
y Ga
1-y N層15が積層されている。p型GaN層14にはp型不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされ、p型In
y Ga
1-y N層15には同じくMgがドープされている。
【0020】
p型Iny Ga1-y N層15上にゲート電極16が設けられている。ゲート電極16はp型Iny Ga1-y N層15にオーミックコンタクトさせるため、仕事関数が大きい金属、例えば典型的にはニッケル(Ni)により形成される。ゲート電極16は、Ni膜上に他の金属膜を積層した積層膜からなるものであってもよい。また、Alx Ga1-x N層12上に、アンドープGaN層13、p型GaN層14およびp型Iny Ga1-y N層15からなる島状の積層構造に関してp型Iny Ga1-y N層15側の部分にソース電極17が、反対側の部分にドレイン電極18がそれぞれ設けられている。ソース電極17およびドレイン電極18は、後述のとおり、アンドープGaN層11とAlx Ga1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層11に形成される2DEGにオーミックコンタクトすることができるように、仕事関数が小さい金属、典型的には例えばチタン(Ti)により構成される。ソース電極17およびドレイン電極18は、Ti膜の上にアルミニウム(Al)膜、ニッケル(Ni)膜、金(Au)膜などを積層した積層膜からなるものであってもよい。
【0021】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETにおいては、p型GaN層14のうちの厚さが小さい部分、この部分の直下のアンドープGaN層13、Alx Ga1-x N層12よびアンドープGaN層11が分極超接合領域(真性分極超接合領域)を構成する。p型Iny Ga1-y N層15、その直下の部分のp型GaN層14、アンドープGaN層13、Alx Ga1-x N層12およびアンドープGaN層11はゲート電極コンタクト領域を構成する。
【0022】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETにおいては、ピエゾ分極および自発分極により、基板10側のアンドープGaN層11とAlx Ga1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるAlx Ga1-x N層12に正の固定電荷が誘起され、また、基板10と反対側のアンドープAlx Ga1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるAlx Ga1-x N層12に負の固定電荷が誘起されている。このため、この分極超接合GaN系FETにおいては、非動作時(熱平衡状態)に、Alx Ga1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層13に2DHG19が形成され、かつ、アンドープGaN層11とAlx Ga1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層11に2DEG20が形成されている。
【0023】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETにおいては、非動作時(熱平衡状態)において、ゲート電極16の直下の部分においては2DEG20が形成されていない。すなわち、ゲート閾値電圧Vth>0である。ゲート電極16の直下の部分においても2DEG20を形成するためにはゲート電極16にVthより大きい正のゲート電圧Vg を印加する必要がある。
【0024】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETにおいては、Alx Ga1-x N層12とアンドープGaN層11との間のヘテロ界面およびAlx Ga1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の分極電荷量をNPZ、Alx Ga1-x N層12の厚さをdとしたとき、
NPZd≦2.64×1014[cm-2nm]
が成立する。また、基板10の全面にアンドープGaN層11、Alx Ga1-x N層12、アンドープGaN層13、p型GaN層14およびp型Iny Ga1-y N層15を積層したエピ基板のシート抵抗は、好適には20kΩ/□以上、より好適には45kΩ/□以上である。p型Iny Ga1-y N層15のIn組成yおよび厚さtは必要に応じて選ばれるが、In組成yは典型的には0.20以下に選ばれる。In組成yおよび厚さtは典型的には概ねy×t=0.20×5[nm]を満たすように選ばれる。例えば、y=0.10の場合には概ねt=10nmに選ばれる。
【0025】
[ノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの製造方法]
まず、基板10上に、例えば、従来公知のMOCVD(有機金属化学気相成長)法により、Ga原料としてTMG(トリメチルガリウム)、Al原料としてTMA(トリメチルアルミニウム)、窒素原料としてNH3 (アンモニア)、キャリアガスとしてN2 ガスおよびH2 ガスを用いて、バッファ層、アンドープGaN層11、Alx Ga1-x N層12、アンドープGaN層13、p型GaN層14およびp型Iny Ga1-y N層15を順次成長させる。アンドープGaN層11、Alx Ga1-x N層12、アンドープGaN層13およびp型GaN層14の成長温度は例えば1100℃程度、p型Iny Ga1-y N層15の成長温度はアンドープGaN層11、Alx Ga1-x N層12、アンドープGaN層13およびp型GaN層14の成長温度より例えば150℃程度低い温度、すなわち950℃程度である。基板10としては、サファイア基板(例えば、C面サファイア基板)、Si基板、SiC基板などを用いることができる。バッファ層は、GaN層、AlN層、AlGaN層、AlGaN/GaN超格子層などを用いることができる。バッファ層11として例えばGaN層を用いる場合には例えば530℃程度の低温で成長させる。p型GaN層14およびp型Iny Ga1-y N層15の成長の際のp型ドーパントとしてはビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2 Mg)を用い、p型GaN層14の成長の際のキャリアガスとしては水素(H2 )および窒素(N2 )、p型Iny Ga1-y N層15の成長の際のキャリアガスとしては典型的には100%N2 を用いる。
【0026】
次に、p型Iny Ga1-y N層15上に素子形成領域に対応する形状のレジストパターンなどのマスクを形成した後、このマスクを用いてp型Iny Ga1-y N層15、p型GaN層14、アンドープGaN層13、Alx Ga1-x N層12およびアンドープGaN層11をアンドープGaN層11の厚さ方向の途中の深さまで順にエッチングして所定形状にパターニングすることにより素子分離を行う。この後、マスクを除去する。
【0027】
次に、p型In
y Ga
1-y N層15上に、
図1に示すp型In
y Ga
1-y N層15の平面形状に対応する形状のレジストパターンなどのマスクを形成した後、このマスクを用いてp型In
y Ga
1-y N層15およびp型GaN層14をp型GaN層14の厚さ方向の途中の深さまで順にエッチングして所定形状にパターニングする。この後、マスクを除去する。
【0028】
次に、p型In
y Ga
1-y N層15およびp型GaN層14を覆うようにして
図1に示すアンドープGaN層13の平面形状に対応する形状のレジストパターンなどのマスクを形成した後、このマスクを用いてアンドープGaN層13をAl
x Ga
1-x N層12が露出するまでエッチングして所定形状にパターニングする。この後、マスクを除去する。
【0029】
次に、Alx Ga1-x N層12上にソース電極17およびドレイン電極18を形成した後、p型Iny Ga1-y N層15上にゲート電極16を形成する。
【0030】
以上により、
図1に示す目的とするノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETが製造される。
【0031】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETについて考察を行った。その結果について説明する。
【0032】
まず、考察のために試料を作製した。すなわち、基板10としてC面サファイア基板を用い、その上に、MOCVD法により、厚さ30nmのGaN低温バッファ層、厚さ3000nmのアンドープGaN層11、厚さ20nmでx=0.21のAlx Ga1-x N層12、厚さ30nmのアンドープGaN層13、厚さ20nmでMg濃度[Mg]=5×1019cm-3のp型GaN層14および厚さ5nmでy=0.20、Mg濃度[Mg]=1×1020cm-3のp型Iny Ga1-y N層15を順次エピタキシャル成長させた。アンドープGaN層11、Alx Ga1-x N層12、アンドープGaN層13およびp型GaN層14の成長温度は1100℃、p型Iny Ga1-y N層15の成長温度は950℃とした。成長時のキャリアガスとしては100%N2 を用いた。こうして得られたエピ基板を試料1とする。Alx Ga1-x N層12の厚さだけ15nmに変えてC面サファイア基板上に同様なエピタキシャル成長を行った。こうして得られたエピ基板を試料2とする。
【0033】
試料1、2のシート抵抗を渦電流法で測定した。その結果、シート抵抗値(平均値)は試料1が45300Ω/□、試料2が77500Ω/□であった。
【0034】
試料1、2とは別に、試料1の基底層であるアンドープGaN層11およびAlx Ga1-x N層12だけをC面サファイア基板上にエピタキシャル成長させた。こうして得られたエピ基板を試料3とする。試料3のシート抵抗を渦電流法で測定した。その結果、シート抵抗値(平均値)は578Ω/□であった。試料3に比べて試料1、2のシート抵抗が桁違いに高いことは、試料1、2では、AlGaN/GaN基底層(アンドープGaN層11およびAlx Ga1-x N層12)の上部に積層したp型Iny Ga1-y N層15/p型GaN層14/アンドープGaN層13によってエネルギーバンドが大幅に引き上げられたために2DEG濃度が大きく減少し、ほぼ枯渇したことを示している。
【0035】
試料1、2を用いて上述の製造方法に基づき分極超接合GaN系FETを作製した。
【0036】
まず、素子分離を行うためのエッチングを、Cl系ガスによるICP(誘導結合プラズマ)-RIE(反応性イオンエッチング)により試料1、2の表面から約200nmの深さまで行った。
【0037】
次に、ゲート電極コンタクト領域をマスクしてp型GaN層14の厚さ方向の途中の深さまで、10nmを残してエッチングした。次に、ゲート電極コンタクト領域とpsj領域とをマスクしてアンドープGaN層13までエッチングしてAlx Ga1-x N層12を露出させた。
【0038】
次に、ソース電極17およびドレイン電極18を形成する部位を除いた領域の表面をSiO2 膜でマスクし、ソース電極形成部およびドレイン電極形成部に真空蒸着法によりTi/Al/Ni/Au積層膜を形成してソース電極17およびドレイン電極18を形成した後、N2 中、800℃、60秒間のオーミックアロイ処理を行った。
【0039】
次に、ゲート電極16を形成する部位を除いた領域の表面をSiO2 膜でマスクし、p型Iny Ga1-y N層15上に真空蒸着法によりTi/Ni/Au積層膜を形成してゲート電極16を形成した後、N2 中、500℃、100秒間の急速熱処理(Rapid Thermal
Annealing;RTA)を行い、オーミックアロイ処理を行った。
【0040】
この後、ポリイミドをマスクとし、ソース電極17およびドレイン電極18上に電気メッキによりAuを約2μm積層した。
【0041】
本分極超接合GaN系FETの耐圧はpsj領域の長さに依存するが、ここではpsj長は20μmとした。
【0042】
試料1を用いて作製されたFETをFET1、試料2を用いて作製されたFETをFET2とする。
【0043】
FET1およびFET2のトランジスタ特性を測定した。
【0044】
(ドレイン電流(I
d )-ドレイン電圧(V
d )特性)
図2および
図3にそれぞれFET1およびFET2のI
d -V
d 特性を示す。FET1およびFET2のゲート幅(W
g )は約190mmである。ゲート電圧V
g は0Vから+4Vまで印加した。FET1ではV
g =0VでI
d =0Aを示し、FET2ではV
g =+1VでI
d =0Aを示している。これはFET1およびFET2がノーマリーオフ型のFETであることを示している。FET1のI
d がFET2のI
d よりも大きくなっているのは、FET1のAl
x Ga
1-x N層12の厚さが20nmと、FET1のAl
x Ga
1-x N層12の厚さ(15nm)よりも大きいので、psj領域の2DEG濃度が大きく、チャネルの抵抗値が小さくなるからである。
【0045】
(ドレイン電流(I
d )-ゲート電圧(V
g )特性)
閾値電圧V
thを見積もるために、FET1およびFET2について、I
d -V
g 特性を測定した結果を
図4および
図5に示す。
図4および
図5の縦軸は対数軸である。V
g は-2Vから+4Vまでとしたが、
図4および
図5では+2Vまで表示されている。使用した測定系の理由によりI
d の最大値を1Aとしてある。
図2および
図3では飽和電流はそれぞれ20A、15Aであったが、
図4および
図5ではその1/100のI
d 値を示すV
g を示している。このV
g を仮にV
thとすると、FET1のV
thは約+0.3Vであり、FET2のV
thは+1.0Vである。なお、V
thとして、最大定格電流の1/100としたのは、ノーマリーオフ型FETとしてゲート信号喪失時に回路系を実質的に保護できる範囲であるからである。
【0046】
(耐圧特性)
FET1およびFET2の耐圧を評価するために、FET1ではV
g =-2Vに、FET2ではV
g =0Vに設定し、V
d を最大1200Vまで印加してI
d を測定した。
図6および
図7にそれぞれFET1およびFET2のI
d -V
d 特性の測定結果を示す。
図6および
図7に示すように、FET1およびFET2とも耐圧は非常に高く、V
d =1200Vにおいてもリーク電流値は1μA程度であった。
【0047】
(Alx Ga1-x N層の厚さとVthとの関係)
GaN層上のp型Iny Ga1-y N層の成長は格子定数差およびMgドーパントの溶解度の点から制約があり、良好な分極超接合GaN系FETの作製においては、In組成yは約0.2(約20%)、Mg濃度は1×1020cm-3が限界であった。従って、このp型Iny Ga1-y N層の条件は固定して、Vthに最も影響の大きなAlx Ga1-x N層12の厚さについて検討を行った。Alx Ga1-x N層12のAl組成xは0.21(21%)とした。
【0048】
新たに、Alx Ga1-x N層12の厚さを25nm、27nm、30nmの3水準に変化させ、その他は全てFET1およびFET2と同様な構造を有するFETを作製した。ただし、Wg =1mmとした。Alx Ga1-x N層12の厚さが25nmのFETをFET3、27nmのFETをFET4、30nmのFETをFET5とした。
【0049】
FET3、FET4およびFET5のI
d -V
g 特性を測定した結果を
図8に示す。
図8に示すように、Al
x Ga
1-x N層12の厚さが順次大きくなるFET3、FET4、FET5の順でV
thは深く(負側に)シフトした。
【0050】
FET3、FET4、FET5の
図8の飽和電流値の1/100のところのV
thをAl
x Ga
1-x N層12の厚さに対してプロットした図を
図9に示す。
図9には、FET1およびFET2のV
thもプロットしてある。
図9より、V
th>0となるのは、Al
x Ga
1-x N層12の厚さが22nm以下であるときであることが分かった。Al
x Ga
1-x N層12の厚さが25nmのときのエピ基板のシート抵抗を調べた。Al
x Ga
1-x N層12の厚さが25nmであるFET3を作製したエピ基板(試料3とする)の渦電流法によるシート抵抗は3.879kΩ/□(平均値)であった。
図10は試料1、試料2および試料3のシート抵抗をプロットした図である。
図10より、V
thがジャスト0Vとなる、Al
x Ga
1-x N層12の厚さが22nmのエピ基板のシート抵抗は概ね20kΩ/□となる。従って、これ以上のシート抵抗値を持つエピ基板がノーマリーオフ化の条件となる。
図10より、試料1のシート抵抗は45kΩ/□であるから、45kΩ/□以上であることによりノーマリーオフ化をより確実に図ることができる。
【0051】
(ノーマリーオフを実現するAlx Ga1-x N層の条件について)
以上の結果から、x=0.21(21%)のAlx Ga1-x N層12の厚さが概ね22nm以下であれば分極超接合GaN系FETがノーマリーオフとなることが分かった。しかし、Vth>0となる構造は上記の構造に限らないと考えられる。
【0052】
そこで、上記の知見に基づいて、分極超接合GaN系FETについてノーマリーオフを実現するための条件について改めて検討を行った。
【0053】
Alx Ga1-x N層12について改めて考察する。
【0054】
通常のAlGaN/GaN HEMTのV
thは以下の式で表される。
【数1】
ここで、φ
B はショットキ障壁高さ、qは電子電荷、ε
s は誘電率、N
PZ は分極電荷量、dはAlGaN層の厚さ、ΔE
c はAlGaN/GaNの伝導帯障壁高さである。ここで、分極電荷量N
PZ はAlGaN層のAl組成xと関係している。
【0055】
Vth=0Vとは、要するに、Vg =0Vでゲート電極下の2DEGが枯渇する条件である。
【0056】
本分極超接合GaN系FETの下地のAlGaN/GaN HEMTの電子濃度は、電子の移動度を~1000cm2 /Vsとすると、既に述べたシート抵抗の実験値よりシート抵抗は575Ω/□であるから、これから逆算して、2DEG濃度は1.08×1013cm-2程度である。この濃度は通常HEMTとしてのVthは-4Vと非常に深い負の値である。従って、本ノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETは通常のAlGaN/GaN HEMT構造では負のVthとなるところを、AlGaN/GaN HEMT構造への、p型Iny Ga1-y N層15/p型GaN層14/アンドープGaN層13の積層構造の上乗せによって、式(1)のφB を上方に持ち上げたものである。
【0057】
式(1)の第2項に着目すると、今回、実験的には、Alx Ga1-x N層12のx=0.21(21%)でd=22nmがVth=0となったのであるから、Vth≦0なる限定条件は
NPZd≦NPZ(x=0.21)×22[nm] (2)
である。ここで、NPZ(x=0.21)はx=0.21のときのNPZを意味する。
【0058】
図11は、Al
x Ga
1-x N/GaN HEMT構造の分極電荷量N
PZとAl
x Ga
1-x N層12のAl組成xとの関係を示したものである(非特許文献3のFIG.9 に一部加筆して転載)。
図11より、N
PZ(x=0.21)は
1.2×10
13[cm
-2] (3)
である。
【0059】
従って、下地Alx Ga1-x N/GaNの条件は式(2)および式(3)より、
NPZd≦NPZ(x=0.21)×22[nm]=26.4×1013[cm-2nm]すなわち、
NPZd≦2.64×1014[cm-2nm] (4)
となる。
【0060】
つまり、下地Alx Ga1-x N/GaNのスタックの条件は、Al組成xを0.21に限定しないで、式(4)を条件とすることができる。
【0061】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、アンドープGaN層11、Alx Ga1-x N層12、アンドープGaN層13、p型GaN層14およびp型Iny Ga1-y N層15の積層構造に加えてNPZd≦2.64×1014[cm-2nm]などの条件の規定により、Alx Ga1-x N層12に溝を形成するなどの複雑な形状を用いることなく、容易にノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETを実現することができる。
【0062】
〈第2の実施の形態〉
[ノーマリーオフ型分極超接合GaN系FET]
【0063】
図12に示すように、第2の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETにおいては、特許文献1と同様に、分極超接合領域にp型GaN層14が存在しないことが第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETと異なる。その他のことは第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETと同様である。
【0064】
[ノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの製造方法]
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの製造方法は、分極超接合領域におけるアンドープGaN層13上に最終的にp型GaN層14を形成しないことを除いて、第1の実施の形態によるノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETの製造方法と同様である。
【0065】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0066】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0067】
例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、構造、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、形状、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…基板、11…アンドープGaN層、12…Alx Ga1-x N層、13…アンドープGaN層、14…p型GaN層、15…p型Iny Ga1-y N層、16…ゲート電極、17…ソース電極、18…ドレイン電極、19…2DHG、20…2DEG
【手続補正書】
【提出日】2021-02-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は、
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0≦y<1)と、
上記p型In
y
Ga
1-y
N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型In
y
Ga
1-y
N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタである。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタにおいては、ゲート閾値電圧>0Vである。このノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタにおいては、非動作時(熱平衡状態)において、Alx Ga1-x N層と第2アンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における第2アンドープGaN層に2次元正孔ガス(2DHG)が形成され、かつ、ゲート電極の直下の部分を除いて第1アンドープGaN層とAl
x Ga1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における第1のアンドープGaN層に2次元電子ガス(2DEG)が形成されている。典型的には、Alx Ga1-x N層と第1アンドープGaN層との間のヘテロ界面およびAlx Ga1-x N層と第2アンドープGaN層との間のヘテロ界面の分極電荷量をNPZ、Alx Ga1-x N層の厚さをdとしたとき、
NPZd≦2.64×1014[cm-2nm]
が成立する。また、基板の全面に第1アンドープGaN層、Alx Ga1-x N層、第2アンドープGaN層、p型GaN層およびp型Iny Ga1-y N層が積層されたエピ基板のシート抵抗は、好適には20kΩ/□以上、より好適には45kΩ/□以上である。これらの条件については後に詳述する。p型Iny Ga1-y N層のIn組成yは、典型的には0<y<1である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
また、この発明は、
少なくとも一つのトランジスタを有し、
上記トランジスタが、
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0≦y<1)と、
上記p型In
y
Ga
1-y
N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型In
y
Ga
1-y
N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタである電気機器である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
このノーマリーオフ型分極超接合GaN系FETにおいては、ピエゾ分極および自発分極により、基板10側のアンドープGaN層11とAlx Ga1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるAlx Ga1-x N層12に正の固定電荷が誘起され、また、基板10と反対側のAl
x Ga1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるAlx Ga1-x N層12に負の固定電荷が誘起されている。このため、この分極超接合GaN系FETにおいては、非動作時(熱平衡状態)に、Alx Ga1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層13に2DHG19が形成され、かつ、アンドープGaN層11とAlx Ga1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層11に2DEG20が形成されている。
【手続補正5】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0≦y<1)と、
上記p型In
y
Ga
1-y
N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型In
y
Ga
1-y
N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項2】
上記Alx Ga1-x N層と上記第1アンドープGaN層との間のヘテロ界面および上記Alx Ga1-x N層と上記第2アンドープGaN層との間のヘテロ界面の分極電荷量をNPZ、上記Alx Ga1-x N層の厚さをdとしたとき、
NPZd≦2.64×1014[cm-2nm]
である請求項1記載のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項3】
基板の全面に上記第1アンドープGaN層、上記Alx Ga1-x N層、上記第2アンドープGaN層、上記p型GaN層および上記p型Iny Ga1-y N層が積層された状態のエピ基板のシート抵抗が20kΩ/□以上である請求項2記載のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項4】
上記エピ基板のシート抵抗が45kΩ/□以上である請求項3記載のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項5】
少なくとも一つのトランジスタを有し、
前記トランジスタが、
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0≦y<1)と、
上記p型In
y
Ga
1-y
N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型In
y
Ga
1-y
N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタである電気機器。
【手続補正書】
【提出日】2021-06-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0<y<1)と、
上記p型Iny Ga1-y N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記Al
x
Ga
1-x
N層は溝を有せず、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型Iny Ga1-y N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項2】
上記Alx Ga1-x N層と上記第1アンドープGaN層との間のヘテロ界面および上記Alx Ga1-x N層と上記第2アンドープGaN層との間のヘテロ界面の分極電荷量をNPZ、上記Alx Ga1-x N層の厚さをdとしたとき、
NPZd≦2.64×1014[cm-2nm]
である請求項1記載のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項3】
基板の全面に上記第1アンドープGaN層、上記Alx Ga1-x N層、上記第2アンドープGaN層、上記p型GaN層および上記p型Iny Ga1-y N層が積層された状態のエピ基板のシート抵抗が20kΩ/□以上である請求項2記載のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項4】
上記エピ基板のシート抵抗が45kΩ/□以上である請求項3記載のノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタ。
【請求項5】
少なくとも一つのトランジスタを有し、
上記トランジスタは、
第1アンドープGaN層と、
上記第1アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する第2アンドープGaN層と、
上記第2アンドープGaN層上のp型GaN層と、
上記p型GaN層上のp型Iny Ga1-y N層(0<y<1)と、
上記p型Iny Ga1-y N層と電気的に接続されたゲート電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のソース電極と、
上記Alx Ga1-x N層上のドレイン電極と、
を有し、
上記Al
x
Ga
1-x
N層は溝を有せず、
上記p型GaN層は上記第2アンドープGaN層の全面または上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、
上記p型Iny Ga1-y N層は、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の全面に存在する場合は上記p型GaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在し、上記p型GaN層が上記第2アンドープGaN層の上記ソース電極側の片側部分にのみ存在する場合は上記p型GaN層の全面または一部に存在するノーマリーオフ型分極超接合GaN系電界効果トランジスタである電気機器。