(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022123961
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】プリンタ、印字制御方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/355 20060101AFI20220818BHJP
【FI】
B41J2/355 B
B41J2/355 L
B41J2/355 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021445
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000130581
【氏名又は名称】サトーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】平藤 拓磨
【テーマコード(参考)】
2C066
【Fターム(参考)】
2C066AB09
2C066AC01
2C066CC05
2C066CC06
2C066CE04
2C066CE06
2C066CE12
2C066DA08
(57)【要約】
【課題】サーマルヘッドの発熱素子に対して効率的に熱エネルギーを印加する。
【解決手段】本発明のある態様は、感熱発色層を有する印字媒体に対して印字を行うプリンタであって、ライン状に配列された複数の発熱素子を有するサーマルヘッドと、イメージデータに基づき、1ラインの印字周期において予め設定された複数の期間に対する通電パルスの印加有無によって複数の発熱素子に対する熱エネルギーを制御する制御部と、を備える。ここで、印字周期において複数の期間は、長い期間から短い期間の順に設定されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感熱発色層を有する印字媒体に対して印字を行うプリンタであって、
ライン状に配列された複数の発熱素子を有するサーマルヘッドと、
イメージデータに基づき、1ラインの印字周期において予め設定された複数の期間に対する通電パルスの印加有無によって前記複数の発熱素子に対する熱エネルギーを制御する制御部と、
を備え、
前記印字周期において前記複数の期間は、長い期間から短い期間の順に設定されている、
プリンタ。
【請求項2】
前記複数の期間は、長さがそれぞれ異なる、
請求項1に記載されたプリンタ。
【請求項3】
前記複数の期間のうち最短である期間の長さは、当該期間に通電パルスを印加した場合に前記印字媒体が発色しない程度の長さである、
請求項1又は2に記載されたプリンタ。
【請求項4】
前記複数の期間のうち最短である期間の長さは、1ライン分のイメージデータの転送時間より短い、
請求項1から3のいずれか一項に記載されたプリンタ。
【請求項5】
前記制御部は、印字濃度を調整する場合、1ラインの印字周期内で、前記複数の期間の各々の長さを、印字濃度を調整しない場合の対応する長さに対して同一の比例定数を乗じた値とする、
請求項1から4のいずれか一項に記載されたプリンタ。
【請求項6】
印字対象ラインにおける注目ドットの印字有無の情報、及び、前記印字対象ラインの前後のラインにおいて前記注目ドットに対応するドットの印字有無の情報と、前記注目ドットに対応する発熱素子に対する前記複数の期間の各々の通電パルスの印加有無とを対応付けたパルス印加情報を記憶する記憶部を有し、
前記制御部は、前記パルス印加情報を参照して、前記印字対象ラインの各ドットに対して、前記複数の期間の各々の通電パルスの印加有無を決定する、
請求項1から5のいずれか一項に記載されたプリンタ。
【請求項7】
前記パルス印加情報では、さらに、前記注目ドットに隣接するドットの各々の印字有無の情報と、前記注目ドットに対応する発熱素子に対する前記複数の期間の各々の通電パルスの印加有無とが対応付けられている、
請求項6に記載されたプリンタ。
【請求項8】
感熱発色層を有する印字媒体に対してライン状に配列された複数の発熱素子を有するサーマルヘッドにより印字を行うプリンタの印字制御方法であって、
1ラインの印字周期において予め複数の期間が設定されており、
印字制御方法は、
イメージデータのライン毎のデータを順次転送するステップと、
印字対象ラインにおける注目ドットの印字有無の情報、及び、前記印字対象ラインの前後のラインにおいて前記注目ドットに対応するドットの印字有無の情報と、に基づいて、前記印字対象ラインの各ドットに対して、前記複数の期間の各々の通電パルスの印加有無を決定するステップと、
を含み、
前記印字周期において前記複数の期間は、長い期間から短い期間の順に設定されている、
印字制御方法。
【請求項9】
感熱発色層を有する印字媒体に対してライン状に配列された複数の発熱素子を有するサーマルヘッドにより印字を行うために、コンピュータに所定の方法を実行させるプログラムであって、
1ラインの印字周期において予め複数の期間が設定されており、
前記方法は、
イメージデータのライン毎のデータを順次転送するステップと、
印字対象ラインにおける注目ドットの印字有無の情報、及び、前記印字対象ラインの前後のラインにおいて前記注目ドットに対応するドットの印字有無の情報と、に基づいて、前記印字対象ラインの各ドットに対して、前記複数の期間の各々の通電パルスの印加有無を決定するステップと、
を含み、
前記印字周期において前記複数の期間は、長い期間から短い期間の順に設定されている、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ、印字制御方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、サーマルヘッドは、ライン状に配列された複数の発熱素子に独立して所定の電流を流すことによって発熱させ、感熱発色層を有する印字媒体にドットパターンを形成することで情報を印字する。このとき、発熱素子に電流を流す時間(つまり、通電パルス幅)によって当該発熱素子に対応するドットの発色有無が制御される。
また、サーマルヘッドは、同じ発熱素子に通電が続くとその熱が発熱素子に蓄積されるという蓄熱特性を有するため、発熱素子に通電した履歴に応じて通電パルス幅を調整し、発熱素子に対する熱エネルギーを一定にする熱履歴制御が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1には、熱履歴パターンに応じて、現ラインの印刷データの画素に対応する発熱素子のON時間を制御することは記載されているが、発熱素子に対して効率的に熱エネルギーを印加することについては考慮されていない。例えば、発熱素子のON時間を決定した後に、ON時間を1ラインの印字周期の間にどのように設定(配置)するかについて記載されていない。
【0005】
そこで、本発明は、サーマルヘッドの発熱素子に対して効率的に熱エネルギーを印加することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、感熱発色層を有する印字媒体に対して印字を行うプリンタであって、
ライン状に配列された複数の発熱素子を有するサーマルヘッドと、
イメージデータに基づき、1ラインの印字周期において予め設定された複数の期間に対する通電パルスの印加有無によって前記複数の発熱素子に対する熱エネルギーを制御する制御部と、
を備え、
前記印字周期において前記複数の期間は、長い期間から短い期間の順に設定されている、プリンタである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、サーマルヘッドの発熱素子に対して効率的に熱エネルギーを印加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態のプリンタによる印字動作を説明するためのプリンタの概略的な断面図である。
【
図2】一実施形態のプリンタの機能ブロック図である。
【
図3】一実施形態のプリンタにおいて制御部とサーマルヘッドに着目した機能ブロック図である。
【
図4】一実施形態のサーマルヘッドの概略的な回路図である。
【
図5】一実施形態に係る熱履歴制御において、ストローブレベルと、印字周期中にストローブ信号が印加される各期間に実質的に発熱素子に電流が流れるタイミングとの関係を示す図である。
【
図6】熱履歴データテーブルの一例を示す図である。
【
図7】
図6の熱履歴データテーブルとストローブ信号の印加パターンの一例を示す図である。
【
図8】一実施形態のプリンタにおいて、印字周期におけるデータ信号の転送タイミングとストローブ信号の印加タイミングを示すタイミングチャートである。
【
図9】比較例において、印字周期におけるデータ信号の転送タイミングとストローブ信号の印加タイミングを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に一実施形態に係るプリンタ1を例示する。プリンタ1は、片面に感熱発色層を有するラベルに印字するサーマルプリンタである。
図1に示すように、プリンタ1は、ロール紙収容室9、プラテンローラ10、サーマルヘッド15、プリンタカバー25、及び、コイルばね29等を有する。ロール紙Rは、プリンタカバー25を開閉することによりロール紙収容室9に装填可能である。
ロール紙Rは、帯状の連続紙Pがロール状に巻回されたものである。図示しないが、一実施形態では、連続紙Pは、例えば、帯状の台紙と、台紙上に予め決められた間隔毎に仮着された複数枚のラベルとを有している。台紙のラベル貼付面には、ラベルを容易に剥離することが可能なようにシリコーン等のような剥離剤で被覆されている。
別の実施形態では、連続紙Pは台紙なしラベルであってもよい。
【0010】
図1に示すように、プリンタ1には、プラテンローラ10が正逆方向に回動自在の状態で支持されている。プラテンローラ10は、ロール紙Rから引き出される連続紙Pを搬送する搬送手段であり、連続紙Pの幅方向に沿って延在した状態で形成されている。このプラテンローラ10のプラテン軸の一端には、ギア(図示せず)が設けられており、このギアがローラ駆動用のステッピングモータ(図示せず)に機械的に接続されている。回路基板(図示せず)から送信される信号に基づいて動作するステッピングモータの回転に応じて、プラテンローラ10が回転する。
【0011】
サーマルヘッド15は、例えば、文字、記号、図形またはコード等の情報を、連続紙P上のラベルに印字する印字手段である。サーマルヘッド15は、連続紙Pの幅方向に沿って配列される複数の発熱素子(発熱抵抗体)を備え、回路基板から送信される信号に基づいて複数の発熱素子を選択的に通電することで印字を行う。
サーマルヘッド15は、プリンタカバー25が閉鎖状態のときにはプラテンローラ10に対向するように配置され、プラテンローラ10とともに連続紙Pを挟持する。コイルばね29は、サーマルヘッド15をプラテンローラ10に向けて付勢する付勢手段であり、サーマルヘッド15とプラテンローラ10の間に印字に適切なニップ圧を生成する。
以下の説明において、連続紙Pの搬送方向と直交する方向(つまり、発熱素子が配列されている方向)を「主走査方向」といい、連続紙Pの搬送方向と同じ方向を「副走査方向」という。
サーマルヘッド15については、後により詳細に説明する。
【0012】
次に、
図2を参照して、プリンタ1の内部構成について説明する。
図2は、プリンタ1の内部構成を示すブロック図である。
図2に示すように、プリンタ1は、例えば、制御部11、ストレージ12、駆動回路13、プラテンローラ10に機械的に連結されたモータ14、サーマルヘッド15、及び、通信インタフェース(I/F)16を含む。
【0013】
制御部11は、コントローラとメモリを含み、プリンタ1の動作を制御する。プロセッサは、プリンタ1の起動時にROMに記憶されているファームウェアを読み出して実行する。
コントローラは、後述するようにCPU(Central Processing Unit)を含み、ファームウェアを実行することによって、サーマルヘッド15がラベルに所定の情報を印字するように制御する。
ストレージ12は、例えばSSD(Solid State Drive)等の記憶装置である。ストレージ12には、例えば通信インタフェース16を介してホストコンピュータから取得した印字用のファイルを格納する。ストレージ12は、各ラベルに情報を印字するときの印字フォーマットの情報を格納してもよい。
【0014】
駆動回路13は、制御部11からの搬送要求に応じて、プラテンローラ10の回転を制御するモータ14を駆動する回路である。モータ14は、例えばステッピングモータである。搬送要求には、例えば、搬送方向(順方向あるいは逆方向)および搬送量(例えばステップ数)の情報が含まれる。
【0015】
制御部11は、印字対象となるイメージデータに基づいて、サーマルヘッド15に含まれる複数の発熱素子の各々に選択的に電流を流すように制御することで印字処理を実行する。イメージデータは、印字用のファイルをビットマップデータに描画したデータである。電流により発熱したサーマルヘッド15の発熱素子がプラテンローラ10によって搬送された連続紙CP上のラベルに押し当てられると、発熱素子が押し当てられたラベルの感熱発色層が発色することでラベルに情報が印字される。
【0016】
通信インタフェース16は、例えばホストコンピュータ等の外部装置との通信を行うための通信回路を含む。
【0017】
次に、
図3及び
図4を参照して、プリンタ1の印字動作について説明する。
図3は、一実施形態のプリンタ1において制御部とサーマルヘッドに着目した機能ブロック図である。
図4は、一実施形態のサーマルヘッド15の概略的な回路図である。
【0018】
図3に示すように、制御部11は、CPU111、ヘッドコントローラ112、及び、メモリ113(記憶部の一例)を含み、バス114を介して各部が通信可能となるように構成されている。
CPU111は、制御部11における印字動作の全体を制御する。ヘッドコントローラ112は、CPU111による制御の下、サーマルヘッド15に対して印字を行うための各種信号を供給する。
ヘッドコントローラ112によってサーマルヘッド15に供給される信号は、クロックパルスCLK、ラッチパルスLATCH、データ信号DATA、及び、ストローブ信号STBを含む。
【0019】
メモリ113は、例えばRAM(Random Access Memory)であり、FIFO(First In First Out)構成のイメージバッファ、ラインバッファ、及び、熱履歴データテーブルを有する。
【0020】
CPU111は、熱履歴制御を行って印字を実行する。熱履歴制御とは、発熱素子に過去に通電したデータ、及び/又は、発熱素子に通電する予定のデータに基づいて通電パルス幅(つまり、ストローブ信号STBの幅;以下では、適宜「ストローブ印加期間」という。)を調整し、発熱素子に対する熱エネルギーを一定にする制御である。
熱履歴制御を行うために、CPU111は、オリジナルの印字対象となるイメージデータにおいて注目するドットの印字データと当該ドットの周辺のドットの印字データとに基づいてオリジナルのイメージデータを変更したデータ(以下、「熱履歴反映データ」という。)を生成する。熱履歴反映データは、イメージバッファに格納される。
以下の説明において、「イメージデータ」とは、熱履歴反映データに変更される前のオリジナルのイメージデータを意味する。
【0021】
熱履歴制御では、一印字周期中(つまり、1ラインの印字周期)に複数回のデータ信号と、各データ信号に応じた複数回のストローブ信号とが生成される。後述する例では、一印字周期中に4回のデータ信号とストローブ信号とが生成される。この場合、例えば、サーマルヘッド15においてライン状にM本の発熱素子が配置され、イメージデータの1ラインのデータ(ラインデータ)がMビットである場合には、熱履歴反映データの1ラインのデータ(ラインデータ)は、M×4ビットのデータとなる。
【0022】
イメージデータのラインデータには、各ドットに対する印字有無を示す印字データ(印字有無の情報の一例)が含まれる。印字データは、「印字」又は「非印字」のいずれかである。
それに対して、イメージデータの1ラインデータに対応する熱履歴反映データのラインデータの各ドットに対するデータは、複数回のデータ信号に相当し、「通電」又は「非通電」のいずれかを示すデータとなっている。
【0023】
ラインバッファには、熱履歴反映データのラインデータが順次格納される。
前述したように、熱履歴データテーブルは、熱履歴反映データを生成する際に参照される。熱履歴データテーブルの詳細については後述する。
【0024】
ヘッドコントローラ112は、ラインバッファから順次転送されるラインデータを基にデータ信号DATAを生成するとともに、所定タイミングでストローブ信号STBを生成する。なお、ラインバッファからヘッドコントローラ112へのラインデータの転送は、例えばDMA(Direct Memory Access)により行われる。
【0025】
サーマルヘッド15は、駆動回路2及び発熱素子群3を含む。
発熱素子群3は、ライン上に配列された複数の発熱素子(発熱抵抗体)から構成される。
駆動回路2は、ヘッドコントローラ112から供給される各種信号を基に、発熱素子群3の各発熱素子に選択的に電流を流して発熱させる。
駆動回路2及び発熱素子群3の詳細な構成例については後述する。
【0026】
図4に示すように、一実施形態の駆動回路2は少なくとも、1ライン分のデータ信号DATAを一時的に記憶するためのシフトレジスタ(S/R)21と、ラッチ回路(L)22と、ゲート回路群23と、トランジスタ群24とを含む。
発熱素子群3は、発熱素子(発熱抵抗体)31_1~31_Mを含む。
【0027】
駆動回路2は、データ信号DATA、クロックパルスCLK、ラッチパルスLATCH、及び、ストローブ信号STBによって動作するが、これらのデータおよび信号は、ヘッドコントローラ112から入力又は転送される。1ライン分のデータ信号DATAの転送は、転送時間を短縮するために、複数のラインバッファを利用して分割して転送してもよい。その場合、各ラインバッファに1ライン分のデータ信号DATAの分割された一部が格納され、各ラインバッファからシリアル転送される。
【0028】
なお、
図4の駆動回路2においてストローブ信号STBは正論理(ハイレベルのときに発熱素子に電流が流れて発熱する)である。別の実施形態では、ストローブ信号STBを負論理(ローレベルのときに発熱素子に電流が流れて発熱する)としてもよい。
【0029】
シフトレジスタ21には、クロックパルスCLKに同期して1ライン分のデータ信号DATAが入力され、保持される。なお、データ信号DATA(通電パルスの一例)は、「通電」の場合がハイレベルであり、「非通電」の場合がローレベルであるビット列で構成される。ラッチ回路22は、シフトレジスタ21にパラレルに接続され、シフトレジスタ21上のビット列を、同時並列的に移送して保持する。シフトレジスタ21からラッチ回路22へのデータの転送タイミングは、ラッチパルスLATCHによって制御される。
【0030】
ゲート回路群23は、1ラインの1番目からM番目のドットにそれぞれ対応するゲート回路(AND回路)23_1,23_2,…,23_Mを含む。各ゲート回路の一方の入力端子にはストローブ信号STBが供給され、各ゲート回路の他方の入力端子はラッチ回路22の出力に接続されている。
ゲート回路群23の各ゲート回路は、対応するデータ信号DATAとストローブ信号STBとの論理積を出力する。
トランジスタ群24は、MOSトランジスタ24_1~24_Mを含む。各MOSトランジスタは、対応するゲート回路の出力に応じてオン/オフする。
【0031】
ストローブ信号STBがハイレベルである間、ゲート回路群23の各ゲート回路の出力端子の論理レベルはラッチ回路22の出力レベルと一致する。例えば、ラッチ回路22の出力レベルが「通電」を示すハイレベルである場合、対応するゲート回路の出力はハイレベルとなるため、対応するMOSトランジスタがオンし、発熱素子31に電流が流れる。逆に、ラッチ回路22の出力レベルが「非通電」を示すローレベルである場合、対応するゲート回路の出力はローレベルとなるため、対応するMOSトランジスタがオフし、発熱素子31に電流が流れない。
【0032】
なお、ストローブ信号STBを負論理とする場合には、以下のように構成すればよい。
すなわち、
図4において、ゲート回路群23の各ゲート回路をNAND回路とし、ストローブ信号STBの反転信号をNAND回路に入力する。それによって、ストローブ信号STBがローレベルのときに、NAND回路がラッチ回路22の出力の反転信号を出力する。対応するMOSトランジスタは、NAND回路の出力がローレベルの場合にオンして発熱素子に電流が流れるように構成される。
【0033】
熱履歴制御を行わない場合には、1行分のラインデータに対して印字周期の間に1回のデータ信号DATAがサーマルヘッド15の駆動回路2に送られる。それに対して、熱履歴制御を行う場合には、1行分のラインデータに対して印字周期内において複数の期間にデータ信号DATA(例えば、後述するデータ信号DATA_1~DATA_4)がサーマルヘッド15の駆動回路2に送られる。
【0034】
一実施形態に係る熱履歴制御では、ヘッドコントローラ112は、印字周期の間に、クロックパルスCLKに同期した所定のタイミングで4回のデータ信号DATA_1~DATA_4を駆動回路2に供給する。
イメージデータの1ラインデータがMビットである場合には、熱履歴反映データの対応するラインデータは、M×4ビットのデータとなる。このM×4ビットのデータの各Mビットが4回に分けて、データ信号DATA_1~DATA_4として駆動回路2に供給される。
【0035】
ヘッドコントローラ112は、クロックパルスCLKに同期した所定のタイミングで、ラッチパルスLATCHと、ストローブ信号STB_1~STB_4とを、サーマルヘッド15の駆動回路2に供給する。熱履歴制御を行う場合の一印字周期におけるデータ信号の転送タイミングとストローブ信号の印加タイミングの関係ついては後述する。
【0036】
次に、熱履歴データテーブルについてさらに詳細に説明する。
熱履歴データテーブルは、イメージデータにおける印字対象ライン(以下、「注目ライン」という。)における処理対象のドット(以下、「注目ドット」という。)の印加データ、及び、注目ラインの前後のラインにおいて注目ドットに対応するドットの印字データ(つまり、過去の印字データ、未来の印字データ)と、印字周期中の注目ドットに対するストローブレベルとの関係を示したものである。
【0037】
ここで、ストローブレベルとは、注目ドットに対応する発熱素子に対する複数のストローブ印加期間の各データ信号のレベル(ハイレベル又はローレベル)を示している。データ信号のレベルは、各ストローブ印加期間における通電パルスの印加有無を示す。ストローブレベルは、印字周期において実質的に発熱素子に電流を流す時間の長さを示す。ストローブレベルが大きいほど印字期間中において長い時間、発熱素子に電流が流れるため、発熱素子に対して大きな熱エネルギーが与えられる。
【0038】
CPU111は、熱履歴データテーブルを参照して、注目ラインの各ドットに対して、複数のストローブ印加期間の各データ信号のレベル(「通電」を示すハイレベル、又は、「非通電」を示すローレベル)を決定する。それによって、現在の注目ドットの印字データと、その前後の印字データとを考慮して、現在の注目ドットに対応する発熱素子に与える熱エネルギーが適切に制御される。
【0039】
別の実施形態の熱履歴データテーブルでは、さらに、注目ドットに隣接するドットの各々の印字データと、印字周期中の注目ドットに対するストローブレベルとの関係を含む。注目ドットの左右に隣接するドットの印字データを参照することで、注目ドットに対応する発熱素子が隣接する発熱素子から受ける熱エネルギーをも考慮されるため、現在の注目ドットに対応する発熱素子に与える熱エネルギーがより適切に制御される。
【0040】
以下の説明において、注目ドットの過去の印字データとは、副走査方向において注目ドットに対して前のドットを意味し、適宜「過去データ」という。
注目ドットの未来の印字データとは、副走査方向において注目ドットに対して後のドットを意味し、適宜「未来データ」という。
【0041】
図5に、一実施形態に係る熱履歴制御において、ストローブレベル(STBレベル)と、印字周期中にストローブ信号STB_1~STB_4が印加される各期間に実質的に発熱素子に電流が流れるタイミングとの関係を示す。
正論理のサーマルヘッドの場合、実質的に発熱素子に電流が流れることは、対応するデータ信号DATA_1~DATA_4がハイレベルであることを意味する。すなわち、データ信号DATA_1~DATA_4は、ストローブレベルと対応付けられる。
例えば、注目ドットに対応するデータ信号DATA_1~DATA_4は、ストローブレベルに対応した4ビットのデータとなっている。例えば、データ信号DATA_1~DATA_4は、ストローブレベルが「0」の場合に「0000」であり、ストローブレベルが「6」の場合に「0110」であり、ストローブレベルが「15」の場合に「1111」である。
【0042】
一実施形態では、ストローブレベルが4以上の場合にラベルの感熱発色層を変色させる熱エネルギーを発熱素子に与え、ストローブレベルが4未満の場合は、ラベルの感熱発色層を変色させる熱エネルギーを発熱素子には与えないが、発熱素子に対する予熱効果を発揮する。
【0043】
一実施形態では、
図5に示すように、印字周期において4つのデータ信号に対応する4つのストローブ信号STB_1~STB_4は、長い期間から短い期間の順に設定されている。つまり、4つのストローブ信号STB_1~STB_4の長さをそれぞれL1~L4とすると、L1>L2>L3>L4を満たす。このように設定する利点については後述する。
【0044】
好ましくは、4つのストローブ信号STB_1~STB_4の長さの比は、8:4:2:1である。このように長さの比を設定することで、一印字周期中に発熱素子に熱エネルギーを与える時間(つまり、発熱素子に対する通電時間;「ストローブ長」という。)の組合せの数を極力多くすることができ、精細な印加エネルギーの設定が可能になる。4つのストローブ信号STB_1~STB_4の長さの比は、8:4:2:1に限定しないが、それぞれ異なる長さとすることで、ストローブ長がそれぞれ異なる16(=24)通りのストローブ長のパターンが設定可能となる。
【0045】
例示的な熱履歴データテーブルを
図6に示す。
図6において、注目ドットは、熱履歴反映データを生成する際に、イメージデータにおける注目ラインのラインデータ(「注目ラインデータ」という。)の各ドットを意味する。
図6の熱履歴データテーブルは、注目ラインデータにおける現在の注目ドット、注目ドットの1つ前の過去データ、注目ドットの2つ前の過去データ、注目ドットの1つ後の未来データ、及び、注目ドットの2つ後の未来データの各々の印字データ(●:「印字」、〇は「非印字」)の組合せに応じた、現在の注目ドットに設定されるストローブレベルを示している。
【0046】
図6において、前後ドットパターン101は、現在の注目ドットの1つ前の過去データ(「-1」で示す)、2つ前の過去データ(「-2」で示す)、1つ後の未来データ(「+1」で示す)、及び、2つ後の未来データ(「+2」で示す)に対応する印字データの32(=2
5)通りの組合せパターンを示している。
【0047】
一実施形態では、熱履歴反映データを生成する際に、現在の注目ドットに隣接する左右のドットも考慮される。
図6において、隣接ドットパターン102は、現在の注目ドットに隣接する左右のドットの印字データの4(=2
2)通りの組合せパターンを示している。
図6において、ストローブレベルデータ103は、現在の注目ドットに対して前後ドットパターン101及び隣接ドットパターン102に基づく32×4通りの組合せの各々に対するストローブレベル(0~15のいずれかの値)を示す。
【0048】
図7は、
図6に示した32×4通りの組合せのうち、現在の注目ドットに隣接する左右のドットの印字データがいずれも「印字」(●)である場合の32通りの組合せについて、各ストローブ信号が印加される期間において実質的に発熱素子に電流が流れるタイミングを示している。ストローブレベルデータ103によって特定される各パターンに対応したストローブレベルと、実質的に発熱素子に電流が流れるタイミングとの関係は、
図5に示したものと同じである。
【0049】
CPU111は、注目ラインデータの各注目ドットに対して、
図6に例示する熱履歴データテーブルを参照して、ストローブレベルデータ103からストローブレベルを決定する。CPU111は、ストローブレベルに応じた4ビットのデータを各注目ドットに割り当てることで、熱履歴反映データを生成する。
ヘッドコントローラ112は、熱履歴反映データのラインデータの各注目ドットに対して、1ビット目~4ビット目のデータをそれぞれデータ信号DATA_1~DATA_4に割り当てる。
【0050】
次に、
図8及び
図9を参照して、熱履歴制御を行って印字するときのデータ信号の転送タイミングとストローブ信号の印加タイミングについて説明する。
図8は、一実施形態のプリンタ1において、印字周期SLTにおけるデータ信号の転送タイミングとストローブ信号の印加タイミングを示すタイミングチャートである。
図9は、比較例において、印字周期SLTにおけるデータ信号の転送タイミングとストローブ信号の印加タイミングを示すタイミングチャートである。
図8及び
図9において、連続するストローブ印加期間の間には、待機時間WTが設定されている。
【0051】
また、
図8及び
図9の各タイミングチャートにおいて、「補正なし」は、標準の印字濃度で印字を行う場合のタイミングチャートを示している。
図8及び
図9の各タイミングチャートにおいて、「補正(-)」及び「補正(+)」はそれぞれ、標準より低い印字濃度、標準より高い印字濃度で印字を行う場合のタイミング補正されたタイミングチャートを示している。
印字濃度に応じたタイミング補正では、標準の印字濃度における各ストローブ信号の長さに対して、プリンタ1に設定された印字濃度に応じた所定の比例定数(補正(-)の場合は1未満の正の値、補正(+)の場合は1より大きい値)を乗算することで、補正後の各ストローブ信号の長さが決定される。
図8及び
図9の各タイミングチャートでは、最後のストローブ印字期間が周期SLT内に収まるようにタイミング補正が行われる。
【0052】
図8に示すように、一実施形態では、4つのデータ信号DATA_1~DATA_4にそれぞれ対応する4つのストローブ信号STB_1~STB_4は、長い期間から短い期間の順に設定されている。それに対して、
図9に示す比較例では、3つのデータ信号DATA_1~DATA_3にそれぞれ対応する3つのストローブ信号STB_1~STB_3は、短い期間から長い期間の順に設定されている。
図8に示すように印字周期SLT内の複数のストローブ信号を長い期間から短い期間の順に設定することで、
図9に示す比較例に対して以下の有利な効果が得られる。
【0053】
(i)例えば、
図8において、長期間のストローブ信号STB_1及び/又はSTB_2は印字目的で設定され、ストローブ信号STB_3及び/又はSTB_4の短期間のストローブ信号は予熱目的で設定されている。この予熱目的で設定されているストローブ信号を印字周期SLTの終期近くに配置することで、次の印字周期SLTの印字用のストローブ信号までの時間が短くなり、予熱効率を上げることができる。仮に、予熱目的で設定されているストローブ信号と、次の印字周期SLTの印字用のストローブ信号までの期間が長いとしたならば、その期間中に予熱を加えた発熱素子が冷却してしまい、予熱の効果を十分に発揮することができない。それに対して、
図8では、予熱目的で設定されているストローブ信号と、次の印字周期SLTの印字用のストローブ信号までの期間が比較的短いため、その期間中に予熱を加えた発熱素子が冷却することを防止することができ、予熱の効果を発揮することができる。すなわち、予熱効率を上げることができる。
【0054】
(ii)印字周期SLT内に長期間のストローブ信号から順に配置することで、待機時間WTが短くデータ転送効率が良好となる。
図9を参照すると、印字周期SLTにおける最初のストローブ信号STB_1の長さがデータ信号DATA_2のデータ転送時間よりも短いため、次のストローブ信号STB_2をハイレベルとするには、データ信号DATA_2のデータ転送時間を待機する比較的長い待機時間WTが生ずる。同様に、ストローブ信号STB_2の長さがデータ信号DATA_3のデータ転送時間よりも短いため、次のストローブ信号STB_3をハイレベルとするには、データ信号DATA_3のデータ転送時間を待機する比較的長い待機時間WTが生ずる。
図9の比較例では、データ信号が3回転送される場合について示しているが、
図8と同様にデータ信号を4回転送する場合には、さらに多くの待機時間WTが生ずる。
それに対して、
図8に示すように印字周期SLT内に長期間のストローブ信号から順に配置すると、複数のストローブ印加期間を集中的に配置することが可能となり、待機時間WTを短くすることができる。言い換えれば、複数のストローブ印加期間において最初のストローブ印加期間の開始時刻から最後のストローブ印加期間の終了時刻までの時間を短くでき、それによって印字周期SLTに対する当該時間の比率を低下させることができる。また、別の観点では、複数のストローブ印加期間において最初のストローブ印加期間の開始時刻から最後のストローブ印加期間の終了時刻までの時間のうちストローブ印加期間が占める時間の比率を大きくすることができる。
【0055】
(iii)印字周期SLT内に長期間のストローブ信号から順に配置することで待機時間WTが短くなり、熱エネルギー制御が安定する。
待機時間WTの間に発熱素子が冷却されるが、待機時間WTが長い場合、発熱素子がどの程度冷却するか予測することが困難である。そのため、予熱のためのストローブ信号に対して期待した効果が得られない場合がある。
また、
図8のタイミングチャートでは濃度補正に対する待機時間WTの変化が比較的小さいのに対して、
図9のタイミングチャートでは濃度補正に対する待機時間WTの変化が比較的大きい。これは、
図9のタイミングチャートでは、印字周期SLTにおいて最初に配置されているストローブ信号STB_1,STB_2の長さがデータ信号のデータ転送時間よりも短いことに起因している。つまり、
図9に示すように、印字周期SLT内に短期間のストローブ信号から順に配置した場合、待機時間WTのばらつきが大きくなり、発熱素子に対する熱エネルギー制御が安定しないという問題がある。
逆に、
図8に示すように、印字周期SLT内に長期間のストローブ信号から順に配置することで、予熱効果が予測しやすくなるとともに、発熱素子に対する熱エネルギー制御が安定するという利点がある。
【0056】
一実施形態に係る印字制御方法は、制御部11において実行され、以下のステップ(a),(b)を含む。
ステップ(a):イメージデータのラインデータを順次転送するステップ
ステップ(b):印字対象ラインにおける注目ドットの印字データ、及び、注目ラインデータの前後のラインにおいて前記注目ドットに対応するドットの印字データと、に基づいて、注目ラインの各ドットに対して、複数のストローブ印加期間の各々のDATA信号(通電パルス)の印加有無を決定するステップ
ここで、ステップ(b)では、印字周期において、複数のストローブ印加期間は、長い期間から短い期間の順に設定されている。
【0057】
一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに上記印字制御方法を実行させるプログラムである。例えば、プリンタ1の制御部11に含まれるCPU111がプログラムを実行することで、上記印加制御方法が実行される。
一実施形態では、このプログラムは、一時的でないコンピュータ可読記録媒体に記録されていてもよい。
【0058】
以上、本発明のプリンタ、印字制御方法、及び、プログラムの実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。
上記実施形態では、印字周期の間にストローブ印加期間を4回設けた例について説明したが、その限りではなく、5回以上であってもよい。ストローブ印加期間の回数を増やすことでストローブレベルを多く設定することができ、より精細な制御が可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1…プリンタ
9…収容室
10…プラテンローラ
11…制御部
111…CPU
112…ヘッドコントローラ
113…メモリ
114…バス
12…ストレージ
13…駆動回路
14…モータ
15…サーマルヘッド
2…駆動回路2
21…シフトレジスタ
22…ラッチ回路
23…ゲート回路群
23_1~23_M…AND回路
24…トランジスタ群
24_1~24_M…MOSトランジスタ
3…発熱素子群
31_1~31_M…発熱素子
16…通信インタフェース
20…発行口
25…プリンタカバー
29…コイルばね
101…前後ドットパターン
102…隣接ドットパターン
103…ストローブレベルデータ
P…連続紙
DATA_1~DATA_4…データ信号
STB_1~STB_4…ストローブ信号
L1~L4…パルス幅
R…ロール紙
WT…待機時間