(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124027
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
F16F 9/32 20060101AFI20220818BHJP
F16F 9/19 20060101ALI20220818BHJP
F16F 9/36 20060101ALI20220818BHJP
F16F 9/44 20060101ALI20220818BHJP
F16F 9/46 20060101ALI20220818BHJP
B62K 25/08 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
F16F9/32 K
F16F9/19
F16F9/32 N
F16F9/36
F16F9/44
F16F9/46
B62K25/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021555
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】KYBモーターサイクルサスペンション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】菅原 英利
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】林口 拓未
(72)【発明者】
【氏名】前田 啓勝
【テーマコード(参考)】
3D014
3J069
【Fターム(参考)】
3D014DD01
3D014DD08
3D014DE02
3D014DE15
3J069AA46
3J069CC11
3J069CC15
3J069DD47
3J069EE03
3J069EE35
3J069EE63
(57)【要約】
【課題】電気機器を備えていても操作部を小型化でき、操作部の操作に電線が邪魔とならず、設計自由度を向上できるフロントフォークを提供する。
【課題を解決するための手段】
本発明のフロントフォーク1は、車体側チューブ3と車軸側チューブ4とを有するフォーク本体2と、車体側チューブ3に装着されるキャップ5と、車軸側チューブ4内に設けられるシリンダ6と、シリンダ6内に軸方向へ移動自在に挿入されるロッド7と、シリンダ6内に収容される電気機器8と、電気機器8に接続される電線9と、フォーク本体2を伸長方向へ付勢する懸架ばね10と、ばね受12の支持位置を調節可能なアジャスタ11とを備え、電線9がキャップ5におけるフォーク本体2の軸心線Aから偏心した位置からフォーク本体2外へ引き出され、アジャスタ11の操作部17がキャップ5における軸心線Aから偏心した位置に設けられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車軸側チューブとを有して伸縮可能なテレスコピック型のフォーク本体と、
前記車体側チューブの車体側端に装着されるキャップと、
前記車軸側チューブ内に設けられるシリンダと、
前記シリンダ内に軸方向へ移動自在に挿入されるとともに、一端が前記キャップに連結されるロッドと、
前記シリンダ内に収容される電気機器と、
前記電気機器に接続される電線と、
前記フォーク本体内に収容されるとともに前記フォーク本体を伸長方向へ付勢する懸架ばねと、
前記懸架ばねを支持するばね受の支持位置を調節可能なアジャスタとを備え、
前記電線は、前記キャップにおける前記フォーク本体の軸心線から偏心した位置から前記フォーク本体外へ引き出され、
前記アジャスタの操作部は、前記キャップにおける前記フォーク本体の軸心線から偏心した位置であって前記電線から離間した位置に設けられた
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記ロッドは、筒状であって、
前記電線は、前記ロッド内を通して前記シリンダ外へ引き出されている
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記キャップは、円盤状の蓋部と、前記蓋部のフォーク側端から前記フォーク本体内側へ向けて突出するとともに中心が前記軸心線に一致した円筒部と、前記蓋部の反フォーク本体側端から前記円筒部内に通じるとともに前記蓋部の反フォーク側端の開口の中心が前記軸心線から偏心している電線用孔とを有し、
環状であって前記電線用孔内に収容されるとともに内周に前記電線が挿通されるガイドを備え、
前記電線は、前記円筒部内および前記ガイド内に挿通されて屈曲される
ことを特徴とする請求項1または2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記ガイドの外周と前記キャップとの間をシールする外周シールリングと、
前記ガイドに積層されて前記ガイドと前記電線との間をシールする環状のパッキンとを備えた
ことを特徴とする請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記ガイドの内周と前記電線の外周をシールする内周シールリングを備えた
ことを特徴とする請求項4に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
前記ガイドは、フォーク本体側の内周にフォーク本体側へ向けて拡径するテーパ部を有する
ことを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載のフロントフォーク。
【請求項7】
前記電線の外周に前記円筒部のフォーク本体側端に対向するストッパを設けた
ことを特徴とする請求項3から6のいずれか一項に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鞍乗車両の前側の操向輪を支持するフロントフォークとしては、たとえば、車体側チューブと車体側チューブ内に移動自在に挿入される車軸側チューブとを備えたフォーク本体と、フォーク本体内に収容されてフォーク本体の伸縮に伴って伸縮するダンパとを備えたテレスコピック型のフロントフォークが知られている。
【0003】
ダンパは、シリンダと、シリンダ内を作動液体が充填される伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダ内に軸方向へ移動自在に挿入されるとともにピストンに連結されるピストンロッドとを備えている。そして、ダンパは、たとえば、ピストンロッドが車体側チューブの上端を閉塞するキャップに連結され、シリンダが車軸側チューブの下端に固定されてフォーク本体内に収容される。
【0004】
このようなフロントフォークでは、鞍乗車両の乗心地向上のためにダンパが発生する減衰力をフロントフォーク外に設置されるコントローラによって調節できるものがある。減衰力の自動調節が可能なフロントフォークは、たとえば、電気粘性流体或いは電磁粘性流体をダンパの作動液体としてピストン内に収容されるコイルへ供給する電流量の調節によって作動液体の粘度を変化させて減衰力を変化させる。また、減衰力の自動調節が可能な他のフロントフォークとしては、ピストン内にソレノイドバルブを収容していてソレノイドバルブへの通電量を調節してダンパの減衰力を調節するものもある。
【0005】
このように減衰力の自動調節が可能なフロントフォークでは、ダンパ内に減衰力を調節するためのコイルやソレノイドバルブといった電気機器を備えており、外部電源やコントローラから電気機器へ電力供給する必要がある。そこで、従来のフロントフォークでは、ピストンロッドを筒状とするとともにキャップの軸心に電線を通す通し孔を設け、電気機器に接続された電線をシールしつつピストンロッド内とキャップの通し孔を通してフォーク本体外へ引き出して外部電源等に接続している(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
他方、一般的なフロントフォークは、鞍乗車両の車体を弾性支持するために内部に懸架ばねを備えるとともに、鞍乗車両の車高をユーザが好む高さに設定できるように、懸架ばねの上端の支持するばね受の支持位置を調整可能なアジャスタを備えている。
【0008】
このようなアジャスタは、ユーザの操作性を考慮してフロントフォークの車体側チューブの上端を閉塞するキャップに設けられており、前述した電気機器を搭載したフロントフォークでは、ばね受を上下動させるアジャスタの操作部を筒状として、操作部をキャップに設けられた通し孔内に螺合して、操作部内を通して電線をフォーク本体外へ引き出している。
【0009】
このように構成されたフロントフォークでは、ユーザが操作部を周回りに回転させて送り螺子の要領で上下方向へ移動させると、操作部に連携されたばね受が上下動する仕組みを採用して、フォーク本体内の電気機器への通電と車高調整とを両立させている。
【0010】
しかしながら、前述のフロントフォークを実用化する場合、電線回りを密にシールする必要があるためにアジャスタにおける操作部が大型化して、ユーザが操作部を操作する際に電線が邪魔となるとともに、電線と操作部の配置が固定的で設計自由度が極めて低くなってしまうという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、内部に電気機器を備えていてもアジャスタの操作部を小型化でき、操作部の操作に電線が邪魔とならず、設計自由度を向上できるフロントフォークの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段におけるフロントフォークは、車体側チューブと車軸側チューブとを有して伸縮可能なテレスコピック型のフォーク本体と、車体側チューブの車体側端に装着されるキャップと、車軸側チューブ内に設けられるシリンダと、シリンダ内に軸方向へ移動自在に挿入されるとともに一端がキャップに連結されるロッドと、シリンダ内に収容される電気機器と、電気機器に接続される電線と、フォーク本体内に収容されるとともにフォーク本体を伸長方向へ付勢する懸架ばねと、懸架ばねを支持するばね受の支持位置を調節可能なアジャスタとを備え、電線がキャップにおけるフォーク本体の軸心線から偏心した位置からフォーク本体外へ引き出され、アジャスタの操作部がキャップにおけるフォーク本体の軸心線から偏心した位置であって電線から離間した位置に設けられている。
【0013】
このように構成されたフロントフォークでは、アジャスタの操作部と電線とがキャップに対してフォーク本体の軸心線から偏心した位置に配置されており、操作部が電線の外周回りに配置されていないので電線の径とは無関係に小型化でき、ユーザが操作部を操作する際に電線に干渉せずに済むとともに、電線と操作部とをキャップに比較的自由に配置できる。
【0014】
また、フロントフォークは、ロッドが筒状であって、電線がロッド内を通してシリンダ外へ引き出されていてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、シリンダに対するロッドの相対変位に対して電線が邪魔となることがなく、フォーク本体が円滑に伸縮できる。
【0015】
さらに、フロントフォークは、キャップが、円盤状の蓋部と、蓋部のフォーク側端からフォーク本体内側へ向けて突出するとともに中心が軸心線に一致した円筒部と、蓋部の反フォーク本体側端から円筒部内に通じるとともに蓋部の反フォーク側端の開口の中心が軸心線から偏心している電線用孔とを備え、環状であって電線用孔内に収容されるとともに内周に電線が挿通されるガイドを備え、電線が、円筒部内およびガイド内に挿通されて屈曲されてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、電線より大きな開口を持つ電線用孔にガイドを利用して電線をキャップに対して位置決めするため、電線の電線用孔内への挿入が容易となるとともに、ガイドと円筒部とで電線を屈曲させているので電線にキャップから引き抜く力が加わっても電線の屈曲部が抵抗となって電線のキャップからの引き抜きを抑制できる。また、ガイドを利用することで、電線のキャップの反フォーク本体側端における配置を軸心線から偏心した位置に簡単に位置決めできるとともに電線を屈曲させ得る。
【0016】
また、フロントフォークは、ガイドの外周とキャップとの間をシールする外周シールリングと、ガイドに積層されてガイドと電線との間をシールする環状のパッキンとを備えてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、電線をキャップの電線用孔から外方へ引き出しても電線とキャップとの間がシールされてフォーク本体の内部への水や埃等の侵入を防止できる。
【0017】
さらに、フロントフォークは、ガイドの内周と電線の外周をシールする内周シールリングを備えていてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、電線の外周がパッキンだけでなく内周シールリングによってもシールされるため、フォーク本体の内部を厳重に密閉でき、フロントフォークを搭載した鞍乗車両を高圧洗浄機で洗浄してもフォーク本体の内部への水の侵入を効果的に防止できる。
【0018】
また、フロントフォークは、ガイドがフォーク本体側の内周にフォーク本体側へ向けて拡径するテーパ部を備えてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、電線がテーパ部の面に倣って屈曲するので、電線の屈曲部に過大な負荷がかかりにくく、また、電線に引出方向の力が加わった際にテーパ部の周面で屈曲部を支えることができ電線を保護できる。
【0019】
そして、フロントフォークは、電線の外周に円筒部のフォーク本体側端に対向するストッパを備えてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、電線にフォーク本体外へ抜く方向に大きな力が作用してもストッパが円筒部に当接して電線のそれ以上の引き抜き方向への変位を規制でき、電線のフォーク本体外への引き抜きを阻止できる。
【発明の効果】
【0020】
よって、本発明のフロントフォークによれば、内部に電気機器を備えていてもアジャスタの操作部を小型化でき、操作部の操作に電線が邪魔とならず、設計自由度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施の形態におけるフロントフォークの縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態におけるフロントフォークの上端部分の拡大縦断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態のフロントフォークを軸方向から見た拡大平面図である。
【
図4】本発明の一実施の形態のフロントフォークにおけるアジャスタ部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態におけるフロントフォーク1は、
図1および
図2に示すように、車体側チューブ3と車軸側チューブ4とを有して伸縮可能なテレスコピック型のフォーク本体2と、車体側チューブ3の車体側端に装着されるキャップ5と、車軸側チューブ4内に設けられるシリンダ6と、シリンダ6内に軸方向へ移動自在に挿入されるとともに一端がキャップ5に連結されるロッドとしてのピストンロッド7と、シリンダ6内に収容される電気機器としてのソレノイド8と、ソレノイド8に接続される電線9と、フォーク本体2内に収容されるとともにフォーク本体2を伸長方向へ付勢する懸架ばね10と、懸架ばね10を支持するばね受12の支持位置を調節可能なアジャスタ11とを備えて構成されている。フロントフォーク1は、車体側チューブ3が図示しない鞍乗車両における車体に連結されるとともに車軸側チューブ4が図示しない鞍乗車両の前輪に連結されて鞍乗車両に利用され、鞍乗車両の走行中の振動で車体側チューブ3と車軸側チューブ4とがフォーク本体2の軸心線Aに沿って相対変位して伸縮する。
【0023】
以下、一実施の形態のフロントフォーク1の各部について詳細に説明する。
図1および
図2に示すように、フロントフォーク1は、車体側チューブ3と、車体側チューブ3内に摺動自在に挿入される車軸側チューブ4とを有して構成されるテレスコピック型のフォーク本体2を備えている。フォーク本体2は、振動が作用すると、車軸側チューブ4が車体側チューブ3に出入りしてフォーク本体2が伸縮する。なお、本実施の形態では、フォーク本体2は、車体側チューブ3内に車軸側チューブ4が挿入される倒立型になっているが、車体側チューブ3が車軸側チューブ4内に挿入される正立型とされてもよい。
【0024】
つづいて、フォーク本体2の車体側端となる車体側チューブ3の
図2中上端には、キャップ5が装着されていて、当該キャップ5によって車体側チューブ3の上端の開口部が閉塞されている。また、フォーク本体2の下端となる車軸側チューブ4の
図1中下端は、車軸側のブラケット30で塞がれている。さらに、車体側チューブ3と車軸側チューブ4の重複部の間にできる筒状の隙間は、車体側チューブ3の下端に装着されて車軸側チューブ4の外周に摺接する環状のシール部材20で塞がれている。
【0025】
このようにしてフォーク本体2内は密閉空間とされており、そのフォーク本体2内にダンパDが収容されている。このダンパDは、車軸側チューブ4内に収容されるシリンダ6と、シリンダ6内に摺動自在に挿入されるピストン21と、下端がピストン21に連結されるとともに上端がシリンダ6外へと突出してキャップ5にロッドアダプタ13を介して連結されるピストンロッド7とを備えている。
【0026】
前述したように、ピストンロッド7はキャップ5を介して車体側チューブ3に連結されており、シリンダ6は、車軸側チューブ4に連結されている。このように、ダンパDは、車体側チューブ3と車軸側チューブ4との間に介装されており、フォーク本体2の伸縮に伴ってシリンダ6に対してピストンロッド7が軸方向に相対移動して伸縮する。
【0027】
また、ピストンロッド7は、本実施の形態では、ピストン21に連結される筒状のピストン保持ロッド7aと、キャップ5に連結されるロッドアダプタ13の下端に連結されるとともにピストン保持ロッド7aの上端に螺子締結される筒状のコネクタ収容ロッド7bと、コネクタ収容ロッド7bとロッドアダプタ13とを連結する筒状の連結ナット7cとを備えている。ピストン保持ロッド7aは、
図1中上端外周に設けられた螺子部7a1と、螺子部7a1の至近の外周に装着されたシールリング7a2とを備えている。
【0028】
また、コネクタ収容ロッド7bは、ピストン保持ロッド7aより大径であって、
図1中下端内周に螺子部7b1を備えている。そして、ピストン保持ロッド7aの上端の螺子部7a1とコネクタ収容ロッド7bの
図1中下端内周の螺子部7b1に螺合させることで、ピストン保持ロッド7aとコネクタ収容ロッド7bとが螺子締結によって連結される。このように連結されたピストン保持ロッド7aとコネクタ収容ロッド7bとの間は、前述のシールリング7a2によってシールされる。なお、ピストン保持ロッド7aとコネクタ収容ロッド7bとは、一体の一部品で構成されてもよい。
【0029】
さらに、コネクタ収容ロッド7bは、
図1中上端外周にフランジ7b2を備えるとともに、フランジ7b2よりピストン保持ロッド7a側の外周に間隔をあけて設けられた止め輪7b3を備えている。連結ナット7cは、環状であって、コネクタ収容ロッド7bの外周に嵌合されており、途中で
図1中上方側の内径が拡径していてコネクタ収容ロッド7bのフランジ7b2の
図1中下面に対向する段部7c1を備える他、段部7c1よりを
図1中上方側となるロッドアダプタ13側の内周に螺子部7c2を備えている。連結ナット7cは、コネクタ収容ロッド7bの外周であってフランジ7b2と止め輪7b3との間に嵌合しており、フランジ7b2と止め輪7b3とによってコネクタ収容ロッド7bから脱落しないようになっている。
【0030】
シリンダ6は、筒状であって、
図1中上端が環状のロッドガイド22が装着されている。そして、ロッドガイド22の内側には、ピストンロッド7におけるピストン保持ロッド7aが軸方向へ移動自在に挿通されている。ロッドガイド22は、ピストンロッド7を摺動自在に支えており、ピストンロッド7の
図1中上下方向への移動を案内している。
【0031】
つづいて、シリンダ6内には、作動油等の液体が充填された液室Lが形成されており、この液室Lがピストン21で伸側室R1と圧側室R2とに区画されている。ここでいう伸側室R1とは、ピストンで区画された二室のうち、ダンパDの伸長時にピストン21で圧縮される方の部屋のことである。その一方、圧側室R2とは、ピストン21で区画された二室のうち、ダンパDの収縮時にピストン21で圧縮される方の部屋のことである。また、ピストン21は、ピストンロッド7におけるピストン保持ロッド7aの下端に連結されている。
【0032】
このように、本実施の形態のフロントフォーク1におけるダンパDは片ロッド型で、ピストンロッド7がピストン21の片側からシリンダ6外へ延びている。しかし、ダンパDが両ロッド型になっていて、ピストンロッドがピストンの両側からシリンダ外へ延びていてもよい。
【0033】
また、シリンダ6外、より詳しくは、ダンパDとフォーク本体2との間の空間は液溜室Rとされている。この液溜室Rには、シリンダ6内の液体と同じ液体が貯留されるとともに、その液面上側にエア等の気体の封入されたガス室Gが形成されている。このように、フォーク本体2は、シリンダ6内の液体とは別に、液体を貯留するタンクの外殻として機能する。
【0034】
なお、図示はしないが、液溜室Rは圧側室R2と連通されており、圧側室R2から液溜室Rへ向かう液体の流れに抵抗を与える減衰バルブと、液溜室Rから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する逆止弁とが設けられている。
【0035】
また、ピストン21には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路21aと、減衰通路21aを通過する液体の流れに抵抗を与えるソレノイドバルブSVとが設けられている。ソレノイドバルブSVは、電気機器としてのソレノイド8と、ソレノイド8によって駆動される弁体25とを備えている。
【0036】
本実施の形態におけるフロントフォーク1では、ソレノイド8は、詳しくは図示しないが、たとえば、巻線と、固定鉄心と、巻線内に軸方向へ移動可能に挿入される可動鉄心と、可動鉄心を付勢するばねとを備えており、巻線への通電によって可動鉄心を固定鉄心側へ吸引して、可動鉄心に推力を与える。そして、ソレノイド8は、可動鉄心に与える推力を弁体25へ伝達しており、巻線に流れる電流の調節によって弁体25へ与える推力を調整できる。よって、ソレノイドバルブSVは、減衰通路21aを通過する液体の流れに与える抵抗をソレノイド8への通電量によって調整できるようになっている。ソレノイドバルブSVは、開弁圧の調節が可能な可変リリーフ弁であってもよいし、減衰通路21aの開度を調節可能なスプール弁とされてもよい。なお、減衰通路21aには、ソレノイドバルブSVに対して直列或いは並列にオリフィスや減衰バルブを設けてもよい。
【0037】
そして、ソレノイドバルブSVにおける電気機器としてのソレノイド8は、ピストンロッド7内に収容される電線9を通じて図外の外部電源から電力供給を受けるようになっている。電線9は、ソレノイド8の図外の巻線に接続されるとともにピストンロッド7内に挿通されるロッド内ケーブル9aと、ロッド内ケーブル9aにコネクタ9cを介して接続されるとともにキャップ5に保持されてフォーク本体2の外方へと引き出される外方ケーブル9bとを備えている。
【0038】
外方ケーブル9bは、一端がコネクタ9cを介してロッド内ケーブル9aに接続され、他端に図外の外部電源に接続された電線への接続を可能とするカプラ9b1を備えている。よって、カプラ9b1を外部電源側の図外の電線に接続すると、電線9を通じてソレノイド8の巻線への通電が可能となる。
【0039】
コネクタ9cは、内部に外方ケーブル9bに電気的に接続される図示しないピンを備えたプラグ9c1と、内部にロッド内ケーブル9aを介してソレノイド8の巻線に電気的に接続される図示しないコンタクトを備えたレセプタクル9c2とを備えている。そして、コネクタ9cは、レセプタクル9c2にプラグ9c1を差し込むと前記ピンが前記コンタクトに挿入された状態に維持して、ロッド内ケーブル9aと外方ケーブル9bとを電気的に接続させる。レセプタクル9c2からプラグ9c1を取り外すと前記ピンと前記コンタクトの接触が断たれてロッド内ケーブル9aと外方ケーブル9bとを電気的に切り離す。なお、外方ケーブル9bをレセプタクル9c2に接続し、ロッド内ケーブル9aをプラグ9c1に接続してもよい。
【0040】
コネクタ9cの最大幅は、ピストンロッド7におけるコネクタ収容ロッド7bの内径よりも小さく、コネクタ9cをコネクタ収容ロッド7b内に収容可能であってコネクタ収容ロッド7bの上方からコネクタ収容ロッド7b内へ出し入れ可能となっている。また、ロッド内ケーブル9aは、コネクタ9cをコネクタ収容ロッド7bの上端から外方へ取り出しできるように余長を有しており、コネクタ9cがコネクタ収容ロッド7b内にある場合にコネクタ収容ロッド7b内に弛んだ状態で収容される。
【0041】
戻って、フォーク本体2が伸長してダンパDが伸長すると、シリンダ6に対してピストン21が
図1中上方へ移動して、伸側室R1が縮小されて圧側室R2が拡大され、圧縮される伸側室R1の液体は、ピストン21の減衰通路21aを通過して拡大される圧側室R2へ移動する。この液体の流れに対してソレノイドバルブSVが抵抗を与えるので伸側室R1内の圧力が上昇し、ダンパDは、フォーク本体2の伸長を妨げる減衰力を発生する。なお、ダンパDの伸長時には、ピストンロッド7がシリンダ6内から退出し、ピストンロッド7の退出分の液体がシリンダ6内で不足するので、液溜室Rから前記逆止弁を通じて不足分の液体がシリンダ6内に供給される。
【0042】
逆に、フォーク本体2が収縮してダンパDが収縮すると、シリンダ6に対してピストン21が
図1中下方へ移動して、圧側室R2が縮小されて伸側室R1が拡大され、圧縮される圧側室R2の液体は、ピストン21の減衰通路21aを通過して拡大される伸側室R1へ移動する。また、ダンパDの収縮時には、ピストンロッド7がシリンダ6内へ侵入し、ピストンロッド7の侵入分の液体がシリンダ6内で過剰となるので、圧側室R2から前記減衰バルブを通じて過剰分の液体が液溜室Rへ排出される。伸側室R1へ向かう液体の流れに対してソレノイドバルブSVが抵抗を与え、液溜室Rへ向かう液体の流れに対して減衰バルブが抵抗を与えるので圧側室R2内の圧力が上昇し、ダンパDは、フォーク本体2の収縮を妨げる減衰力を発生する。
【0043】
ここで、ソレノイドバルブSVにおけるソレノイド8へ供給する電流を調節してソレノイドバルブSVが液体の流れに与える抵抗を調節できるので、本実施の形態のフロントフォーク1では、伸長時と収縮時の両側でダンパDが発生する減衰力を調節できる。
【0044】
つづいて、キャップ5は、円盤状であって車体側チューブ3の
図2中上端開口部を閉塞する蓋部5aと、蓋部5aの
図2中下端となるフォーク側端からフォーク本体内側へ向けて突出するとともに中心が軸心線Aに一致した円筒部5bと、蓋部5aの
図2中上端となる反フォーク本体側端から円筒部5b内に通じるとともに蓋部5aの反フォーク側端の開口の中心が軸心線Aから偏心している電線用孔5cと、蓋部5aにおける軸心線Aから偏心した位置であって電線用孔5cから離間した位置に設けられて蓋部5aを軸方向となる上下方向に沿って貫通するアジャスタ用孔5dと、蓋部5aのフォーク側端の外周側からフォーク本体側へ向けて立ち上がる環状のソケット5eとを備えている。
【0045】
また、キャップ5は、外周に螺子部5e1を備えたソケット5eを車体側チューブ3の上端内周に設けた螺子部2aに螺合することで車体側チューブ3に螺子締結される。キャップ5の蓋部5aは、キャップ5を車体側チューブ3の上端内周に螺着されると車体側チューブ3の上端開口部を閉塞する。なお、ソケット5eの外周であって螺子部5e1よりも蓋部5a側にはシールリング26が装着されており、シールリング26によってキャップ5と車体側チューブ3との間がシールされている。なお、
図3に示すように、キャップ5の車体側チューブ3へのねじ締結の際にキャップ5を図外の工具で把持できるように、蓋部5aの外周の6箇所に周方向で等間隔に切欠5a1が設けられている。また、ソケット5eの内周にも螺子部5e2が設けられている。
【0046】
円筒部5bは、蓋部5aのフォーク本体2の軸心線Aに一致する中央を中心とする円筒であって、蓋部5aの
図2中下端となるフォーク本体側端からフォーク本体側へ向けて突出するように設けられている。
【0047】
また、電線用孔5cは、
図2および
図3に示すように、蓋部5aを軸方向となる
図2中上下方向に沿って貫通して円筒部5b内に通じている。具体的には、電線用孔5cは、蓋部5aに対して反フォーク本体側の端部から開口する断面円形状の大径孔部5c1と、大径孔部5c1の底部から開口して円筒部5b内に通じるとともに大径孔部5c1よりも小径な断面円形状の小径孔部5c2とで形成されている。
【0048】
大径孔部5c1は、
図2および
図3に示すように、断面円形状に形成されており、その開口の中心が蓋部5aの
図2中上端となる反フォーク側端において軸心線Aからずれて偏心した位置となるように蓋部5aに対して軸方向に沿って形成されている。また、小径孔部5c2は、大径孔部5c1よりも小径な断面円形状の孔とされて蓋部5aに対して大径孔部5c1に連なるように蓋部5aの軸方向に沿って形成されている。小径孔部5c2は、中心を蓋部5aの軸心線Aからずれて偏心している。本実施の形態のフロントフォーク1では、キャップ5を軸方向から見ると、大径孔部5c1の内周面に一致する円で囲まれる範囲内に、小径孔部5c2の内周面に一致する円(
図3中一点鎖線で示した円)C2および円筒部5bの内周面に一致する円(
図3中破線で示した円)C1が収まるように電線用孔5cが蓋部5aに形成されている。なお、電線用孔5cは、蓋部5aの反フォーク本体側端における開口の中心が軸心線Aから偏心した位置に配置されるように設けられればよいので、軸心線Aに対して傾斜する方向に沿って円筒部5b内に連通される態様で設けられてもよい。
【0049】
よって、電線用孔5cの蓋部5aの反フォーク本体側端における開口の中心が軸心線Aに対して偏心していれば、電線用孔5cが前記開口の内側に軸心線Aが配置される態様で蓋部5aに設置されてもよいし、電線用孔5cが前記開口の外側に軸心線Aが配置される位置関係で蓋部5aに設置されてもよい。また、小径孔部5c2を省略してもよいが、小径孔部5c2を設けることで電線用孔5cの途中に反フォーク本体側を向く段部5c3を設けることができる。なお、小径孔部5c2は、大径孔部5c1を円筒部5b内に連通させればよいので、キャップ5を軸方から見て大径孔部5c1に対して小径孔部5c2の一部のみが重なるように配置されてもよい。さらに、大径孔部5c1と小径孔部5c2は、断面が円形以外とされてもよく、大径孔部5c1の前記開口の断面形状の幾何学的中心が軸心線Aに対して偏心した位置にあればよい。
【0050】
電線用孔5cの大径孔部5c1内には、環状のガイド14が嵌合されている。ガイド14は、内周に周方向に沿って設けられた環状溝内に収容される内周シールリング14aと、外周に周方向に沿って設けられた環状溝内に収容される外周シールリング14bと、内周であって内周シールリング14aよりも
図2中下方側となるフォーク本体側にフォーク本体側へ向けて拡径するテーパ部14cとを備えている。
【0051】
ガイド14は、中心が軸心線Aから偏心している電線用孔5cに嵌合されているので、やはり中心が蓋部5aに対して軸心線Aから偏心した位置に配置される。
【0052】
このように大径孔部5c1内であってガイド14の反フォーク本体側となる
図2中で上方側には、環状のシールホルダ15が圧入される。シールホルダ15は、内周側に挿入される環状のパッキン16の外周をガイド14とともに把持できるように、ガイド側の内径が拡径されている。
【0053】
このようにキャップ5の電線用孔5c内に固定されるガイド14およびパッキン16の内周側には、電線9における外方ケーブル9bが挿通される。電線9の外周は、ガイド14の内周の内周シールリング14aおよびシールホルダ15により保持されるパッキン16によってシールされる。また、ガイド14とキャップ5との間は、ガイド14の外周の外周シールリング14bによってシールされる。
【0054】
ガイド14は、電線9の保持、内周シールリング14aと外周シールリング14bの保持および電線9のキャップ5に対する位置決めだけでなく、シールホルダ15の圧入による軸方向の荷重を受けるという役割を担っており、多数の機能を発揮している。
【0055】
また、外方ケーブル9bは、小径孔部5c2および円筒部5b内を通して
図2中下方へと延びている。電線9における外方ケーブル9bは、中心を軸心線Aに一致した円筒部5b内の上端から出て、中心が軸心線Aから偏心された電線用孔5cを通して外方へと引き出されている。よって、電線9は、キャップ5に対してフォーク本体2の軸心線Aから偏心した位置から外方へ引き出されている。
【0056】
そして、電線9における外方ケーブル9bは、円筒部5bの上端から出た辺りで屈曲されてガイド14内に挿入されているため、外方ケーブル9bにフォーク本体外へ抜く方向に力が作用しても外方ケーブル9bが屈曲された部位(屈曲部)9b2が抵抗となって電線9が容易には引き出されない。
【0057】
さらに、外方ケーブル9bの外周であって円筒部5bの下端から出た辺りには円筒部5bの
図2中下端となるフォーク本体側端に対向する環状のストッパ9dが設けられている。よって、外方ケーブル9bにフォーク本体外へ抜く方向に大きな力が作用してもストッパ9dが円筒部5bの
図2中下端に当接して外方ケーブル9bのそれ以上の引き抜き方向への変位が規制されるため、電線9のフォーク本体外への引き抜きが防止される。なお、ストッパ9dは、外方ケーブル9bの外周に装着されると円筒部5bを通り抜けできないものであればよく、外方ケーブル9bをキャップ5に装着した後に取り付けできると外方ケーブル9bのキャップ5への取り付けが容易となるので、たとえば、結束バンド等とされるとよい。
【0058】
また、ガイド14の内周がフォーク本体側へ向かうほど拡径するテーパ部14cを備えているので、外方ケーブル9bがテーパ部14cの面に倣って屈曲するので、外方ケーブル9bの屈曲部9b2に過大な負荷がかかりにくく、また、電線9に引出方向の力が加わった際にテーパ部14cの周面で屈曲部9b2を支えることができ屈曲部9b2を保護できる。
【0059】
蓋部5aに設けられるアジャスタ用孔5dは、軸心線Aから偏心した位置であって電線用孔5cから離間した位置に設けられて蓋部5aを軸方向となる上下方向に沿って貫通している。アジャスタ用孔5dは、断面円形状の孔であって、
図2中上端となる反フォーク本体側の内径が
図2中下方より小径となっている。
【0060】
キャップ5とピストンロッド7とを連結するロッドアダプタ13は、キャップ5のソケット5eの内周に螺合される外筒13aと、ピストンロッド7の
図2中上端に連結される内筒13bと、外筒13aと内筒13bとを連結するとともに周方向で180度位相差をもって設けられる一対の接続部13c,13cと備えている。
【0061】
外筒13aは、
図2中上端の外周にソケット5eの内周の螺子部5e2に螺合する螺子部13a1を備えている。また、内筒13bは、
図2中下端の外周にピストンロッド7における連結ナット7cが螺着される螺子部13b1を備えている。内筒13bの下端の内方には、ピストンロッド7におけるコネクタ収容ロッド7bの
図2中上端が挿入され、コネクタ収容ロッド7bの外周に嵌合された連結ナット7cが内筒13bの螺子部13b1に螺着される。すると、内筒13bに連結ナット7cを螺合して締めこんでいくと、連結ナット7cの内周の段部7c1と内筒13bの
図2中下端との間でコネクタ収容ロッド7bの外周に設けられたフランジ7b2が強く挟持されて、ピストンロッド7とロッドアダプタ13とが連結される。
【0062】
また、外筒13aと内筒13bとは、全周に亘って連結されておらず、周方向にて間隔をあけて設けられる接続部13c,13cによって連結されているので、外筒13aと内筒13bとの間に2つの円弧状の通し孔13d,13dが形成されている。
【0063】
そして、このように構成されたロッドアダプタ13の外筒13aをキャップ5のソケット5e内に挿入しつつ螺子部13a1と螺子部5e2とを螺合すると、ロッドアダプタ13がキャップ5に連結されるとともに、キャップ5の円筒部5bの先端が内筒13bの
図2中上端側の内周に挿入されて嵌合される。
【0064】
なお、
図1に示すように、ロッドアダプタ13の内筒13bにおける内周に装着されたシールリング31によって円筒部5bと内筒13bとの間がシールされ、ピストン保持ロッド7aとコネクタ収容ロッド7bとの間がシールリング7a2によってシールされている。また、電線9の外周は、パッキン16、内周シールリング14aによってシールされるとともに、ガイド14とキャップ5との間が外周シールリング14bによってシールされている。したがって、ピストンロッド7内、キャップ5における円筒部5b内および電線用孔5c内で形成される空間が外部から隔絶されていて、当該空間への液溜室R内からの液体の侵入およびフロントフォーク外からの水や塵等の侵入が阻止され、当該空間に収容される電線9が保護される。
【0065】
つづいて、アジャスタ11は、キャップ5のアジャスタ用孔5d内に挿入される操作部17と、操作部17の操作によって上下方向へ移動するプレート18と、プレート18に積層されるとともにばね受12に嵌合される可動子19とを備えている。アジャスタ11は、操作部17の操作によって可動子19をばね受12とともにキャップ5に対してフォーク本体2の軸心線Aに沿って変位させることができる。
【0066】
ばね受12は、キャップ5に対して
図1中上下方向へ移動可能であって、ロッドガイド22との間に介装されるコイルばねからなる懸架ばね10の
図1中上端を支持している。懸架ばね10は、車体側チューブ3と車軸側チューブ4を離間させる弾発力を発揮してフォーク本体2を伸長方向に付勢している。よって、フロントフォーク1は、前述の図外の鞍乗車両の前輪と車体との間に介装されると車体を弾性支持する。
【0067】
また、ばね受12は、キャップ5に対して
図1中で上下方向となるフォーク本体2の軸心線Aに沿う方向へ移動可能であってアジャスタ11の操作によって懸架ばね10の
図1中の上端の支持位置が変更される。よって、フロントフォーク1では、アジャスタ11の操作によりばね受12を上下方向へ変位させて、懸架ばね10の上端の支持位置を変更でき、前記鞍乗車両の車高を調整できる。
【0068】
以下、アジャスタ11について詳細に説明する。操作部17は、
図2に示すように、螺子軸17aと、螺子軸17aの
図2中上端に設けたフランジ17bと、フランジ17bの軸心から立ち上がる軸部17cと、軸部17cの外周に装着される環状の操作つまみ17dとを備えており、蓋部5aのアジャスタ用孔5d内に軸部17cおよび操作つまみ17dを除いて周方向に回転可能に収容されている。
【0069】
フランジ17bの外周には、シールリング17eが装着されていて、操作部17と蓋部5aとの間がシールされており、液溜室R内からフォーク本体2外への液体の漏洩が防止されている。
【0070】
螺子軸17a、フランジ17bおよび軸部17cは、一部品で構成されており、軸部17cの外周形状と操作つまみ17dの内周形状は、二面幅形状や六角形状等の円形以上外の形状であってともに符合する形状とされている。よって、軸部17cの外周に操作つまみ17dが嵌合されると軸部17cと操作つまみ17dとの周方向の相対回転が阻止される。
【0071】
また、操作つまみ17dの外周には、
図3に示すように、レンチで把持しやすいように周囲の六箇所に等間隔に設けた切欠17d1が設けられており、操作つまみ17dの外形はアジャスタ用孔5dよりも大きくアジャスタ用孔5d内に侵入できない。なお、操作つまみ17dは、軸部17cの外周に装着される符示しないCピンによって軸部17cからの脱落が防止されている。フランジ17bは、アジャスタ用孔5d内に収容されており、外径がアジャスタ用孔5dにおける最小径の反フォーク本体側の内径よりも大径となっており、操作つまみ17dと協働して蓋部5aの肉を挟持している。したがって、操作部17は、操作つまみ17dとフランジ17bとによって軸方向となる
図2中上下方向への移動が規制されている。以上より、操作つまみ17dを回転操作すると、操作部17の全体が周方向へ回転する。
【0072】
また、操作部17における螺子軸17aには、円盤状のプレート18が螺着されている。プレート18は、
図4に示すように、中央にキャップ5の円筒部5bが挿通される透孔18aと、螺子軸17aの外周に螺合する螺子孔18bとを備えており、ロッドアダプタ13の外筒13aの内周に軸方向へ移動可能に嵌合されている。
【0073】
よって、プレート18がロッドアダプタ13の外筒13aによって回り止めされるため、操作部17が回転操作されると、プレート18はロッドアダプタ13の外筒13a内で
図2中上下方向となるフォーク本体2の軸心線Aに沿う方向へ変位する。なお、プレート18の外形は、円形となっているが、ロッドアダプタ13によって回り止めされる態様となっていれば、円形以外の形状とされてもよい。
【0074】
また、可動子19は、プレート18に当接する筒部19aと、筒部19aの
図2中下端となるフォーク本体側端から立ち上がる一対の突出片19b,19bとを備えている。突出片19b,19bは、断面円弧状とされており筒部19aから軸方向へ沿って
図2中下方へと延びておりロッドアダプタ13における接続部13c,13c間を通り抜けて通し孔13d,13dを通してロッドアダプタ13の外方へ突出している。
【0075】
ばね受12は、環状であって上方側の径が下方側より大径となっていて軸方向の途中に段部12aが形成されている。そして、ばね受12は、段部12aで懸架ばね10の
図2中上端を支承し、大径側の内周を可動子19の突出片19b,19bの先端の外側面に嵌合させて可動子19に連結されている。
【0076】
このように構成されたアジャスタ11では、操作部17の回転操作によってプレート18を上下動させると可動子19と可動子19に連結されたばね受12もプレート18とともに上下方向へ変位する。よって、操作部17の回転操作によってばね受12の懸架ばね10の支持位置を
図1中上下方向へ調整でき、フロントフォーク1が適用された鞍乗車両の車高を調整できる。なお、前述の車高調整の調整範囲内でプレート18を上下動させる際に、蓋部5aとロッドアダプタ13に対してプレート18が干渉しないように、キャップ5の蓋部5aとロッドアダプタ13の内筒13bとの間にプレート18の移動を許容する十分な隙間が設けられている。
【0077】
フロントフォーク1は、以上のように構成されており、メンテナンス作業を行う場合、キャップ5を車体側チューブ3から取り外すとともに、ロッドアダプタ13をピストンロッド7から取り外す。つづいて、コネクタ9cをコネクタ収容ロッド7b内から引き出して、コネクタ9cのプラグ9c1をレセプタクル9c2から取り外して、ロッド内ケーブル9aと外方ケーブル9bとを切り離して外方ケーブル9bをキャップ5およびロッドアダプタ13ととともにフォーク本体2から完全に取り去る。そうすると、キャップ5およびロッドアダプタ13を車体側チューブ3から電線9の干渉を受けずに完全に取り外すことが可能となる。キャップ5およびロッドアダプタ13を車体側チューブ3から取り外すと分解作業が終了して車体側チューブ3の上端開口部が完全に開放され、フォーク本体2内の懸架ばね10やシールの交換、ダンパDおよび液溜室R内の作動油の交換或いは注油といったメンテナンス作業を行える状態となる。
【0078】
メンテナンス終了後にキャップ5、ロッドアダプタ13および外方ケーブル9bが一体となったアセンブリをフォーク本体2に取り付ける場合は、プラグ9c1とレセプタクル9c2とを接続してロッド内ケーブル9aと外方ケーブル9bとを接続する。つづいて、ピストンロッド7にロッドアダプタ13を連結ナット7dを利用して連結した後、キャップ5に対して車体側チューブ3を回転させてキャップ5の外周の螺子部5e1に車体側チューブ3を螺子締結する。本実施の形態のフロントフォーク1では、前述のようにキャップ5およびロッドアダプタ13のフォーク本体2に対する着脱が可能となるので、キャップ5のフォーク本体2からの完全分離が可能となり、キャップ5の着脱の際に電線9を捩ってしまう恐れがなく電線9の切断や疲労を防止できる。
【0079】
以上、本実施の形態のフロントフォーク1は、車体側チューブ3と車軸側チューブ4とを有して伸縮可能なテレスコピック型のフォーク本体2と、車体側チューブ3の車体側端に装着されるキャップ5と、車軸側チューブ4内に設けられるシリンダ6と、シリンダ6内に軸方向へ移動自在に挿入されるとともに一端がキャップ5に連結されるピストンロッド(ロッド)7と、シリンダ6内に収容されるソレノイド(電気機器)8と、ソレノイド(電気機器)8に接続される電線9と、フォーク本体2内に収容されるとともにフォーク本体2を伸長方向へ付勢する懸架ばね10と、懸架ばね10を支持するばね受12の支持位置を調節可能なアジャスタ11とを備え、電線9がキャップ5におけるフォーク本体2の軸心線Aから偏心した位置からフォーク本体2外へ引き出され、アジャスタ11の操作部17がキャップ5におけるフォーク本体2の軸心線Aから偏心した位置であって電線9から離間した位置に設けられている。
【0080】
このように構成されたフロントフォーク1では、アジャスタ11の操作部17と電線9とがキャップ5に対してフォーク本体2の軸心線Aから偏心した位置に配置されており、操作部17が電線9の外周回りに配置されていないので電線9の径とは無関係に小型化でき、ユーザが操作部17を操作する際に電線9に干渉せずに済むとともに、電線9と操作部17とをキャップ5に比較的自由に配置できる。
【0081】
以上より、本実施の形態のフロントフォーク1によれば、内部にソレノイド(電気機器)8を備えていてもアジャスタ11の操作部17を小型化でき、操作部17の操作に電線9が邪魔とならず、設計自由度を向上できる。
【0082】
また、本実施の形態のフロントフォーク1では、ピストンロッド(ロッド)7が筒状であって、電線9がピストンロッド(ロッド)7内を通してシリンダ6外へ引き出されている。このように構成されたフロントフォーク1によれば、シリンダ6に対するピストンロッド(ロッド)7の相対変位に対して電線9が邪魔となることがなく、フォーク本体2が円滑に伸縮できる。
【0083】
さらに、本実施の形態のフロントフォーク1では、キャップ5は、円盤状の蓋部5aと、蓋部5aのフォーク側端からフォーク本体内側へ向けて突出するとともに中心が軸心線Aに一致した円筒部5bと、蓋部5aの反フォーク本体側端から円筒部5b内に通じるとともに蓋部5aの反フォーク側端の開口の中心が軸心線Aから偏心している電線用孔5cとを備え、環状であって電線用孔5c内に収容されるとともに内周に電線9が挿通されるガイド14を備え、電線9は、円筒部5b内およびガイド14内に挿通されて屈曲されている。このように構成されたフロントフォーク1によれば、電線9より大きな開口を持つ電線用孔5cにガイド14を利用して電線9をキャップ5に対して位置決めするため、電線9の電線用孔5c内への挿入が容易となるとともに、ガイド14と円筒部5bとで電線9を屈曲させているので電線9にキャップ5から引き抜く力が加わっても電線9の屈曲部9b2が抵抗となって電線9のキャップ5からの引き抜きを抑制できる。また、ガイド14を利用することで、電線9のキャップ5の反フォーク本体側端における配置を軸心線Aから偏心した位置に簡単に位置決めできるとともに電線9を屈曲させ得る。さらに、円筒部5bが中心を軸心線Aに一致させているので、ピストンロッド(ロッド)7内を介して電線9をシリンダ6外へ引き出す場合、電線9を円筒部5bに挿入し易くなって、フロントフォーク1の組立作業が容易となる。
【0084】
なお、キャップ5に対して電線用孔5cの反フォーク本体側の開口が軸心線Aから偏心していれば、ガイド14を廃止することもできる。また、本実施の形態のフロントフォーク1では、電線用孔5cが円筒部5b内に軸方向に連続している。つまり、キャップ5を軸方向から見て、大径孔部5c1の内周面に一致する円で囲まれる範囲内に、小径孔部5c2の内周面に一致する円および円筒部5bの内周面に一致する円が収まるように電線用孔5cが蓋部5aに形成されている。このように電線用孔5cが円筒部5b内に軸方向に連続していると、キャップ5の電線用孔5cと円筒部5b内に電線9を挿通させる際に電線9を屈曲させる必要がないので、電線9のキャップ5への取り付け作業が容易となる。
【0085】
また、本実施の形態のフロントフォーク1では、ガイド14の外周とキャップ5との間をシールする外周シールリング14bと、ガイド14に積層されてガイド14と電線9との間をシールする環状のパッキン16とを備えている。このように、電線9をキャップ5の電線用孔5cから外方へ引き出しても電線9とキャップ5との間がシールされてフォーク本体2の内部への水や埃等の侵入を防止できる。なお、キャップ5の電線用孔5cの内壁に環状溝を設けて、外周シールリング14bを当該環状溝内に装着してキャップ5に保持させてもよい。
【0086】
さらに、本実施の形態のフロントフォーク1では、ガイド14の内周と電線9の外周をシールする内周シールリング14aを備えている。このように構成されたフロントフォーク1によれば、電線9の外周がパッキン16だけでなく内周シールリング14aによってもシールされるため、フォーク本体2の内部を厳重に密閉でき、フロントフォーク1を搭載した鞍乗車両を高圧洗浄機で洗浄してもフォーク本体2の内部への水の侵入を効果的に防止できる。
【0087】
また、本実施の形態のフロントフォーク1では、ガイド14がフォーク本体側の内周にフォーク本体側へ向けて拡径するテーパ部14cを備えている。このように構成されたフロントフォーク1によれば、電線9がテーパ部14cの面に倣って屈曲するので、電線9の屈曲部9b2に過大な負荷がかかりにくく、また、電線9に引出方向の力が加わった際にテーパ部14cの周面で屈曲部9b2を支えることができ電線9を保護できる。また、本実施の形態のフロントフォーク1において、ガイド14は、内周シールリング14aと外周シールリング14bとを備える関係上、どうしても軸方向長さ(
図2中上下方向長さ)が長くなるため、内周にテーパ部14cを備えない場合、電線9の屈曲部9b2の軸心線A方向に対する角度が大きくなる。換言すれば、ガイド14に内周シールリング14aと外周シールリング14bを保持させてガイド14の軸方向長さが長くなっても、ガイド14の内周にテーパ部14cを設けることで電線9の屈曲部9b2の角度を緩やかにして屈曲部9b2における負担を軽減できる。なお、ガイド14におけるテーパ部14cを省略することができる。屈曲部9b2の角度を緩やかにする必要がある場合にはテーパ部14cの代わりにガイド14のフォーク本体側の内周の径を大径にしてガイド14における電線9の支持位置をなるべく
図2中で上方にするとよい。
【0088】
そして、本実施の形態のフロントフォーク1では、電線9の外周に円筒部5bのフォーク本体側端に対向するストッパ9dを設けている。このように構成されたフロントフォーク1によれば、電線9にフォーク本体2外へ抜く方向に大きな力が作用してもストッパ9dが円筒部5bに当接して電線9のそれ以上の引き抜き方向への変位を規制でき、電線9のフォーク本体2外への引き抜きを阻止できる。
【0089】
本実施の形態のフロントフォーク1におけるアジャスタ11は、前述したように、操作部17と、操作部17における螺子軸17aに螺合されるプレート18と、プレート18に当接するとともにばね受12に嵌合する可動子19とを備えている。このようにアジャスタ11が構成されると、操作部17をキャップ5に対してフォーク本体2の軸心線Aから偏心した位置であって電線9に干渉しない位置に無理なく配置できる。なお、アジャスタ11は、操作部を備えて懸架ばね10の上端を支持するばね受12の支持位置を変更可能であればよいので、これ以外の構成を採用することも可能である。たとえば、アジャスタ11は、操作部17がキャップ5に対して螺子締結されて回転操作によって上下動する場合、プレート18を廃止して操作部17の下端を可動子19の上端に直接当接させる構造を採用してもよいし、プレート18を廃止して操作部17の螺子軸17aの外周に回り止めされた筒状のナットを螺合させて、当該ナットの下端を可動子19に当接させる構造を採用することもできる。このように、アジャスタ11は、電線9と干渉しない構造を採用すれば、アジャスタ11を適宜設計変更することができる。
【0090】
なお、本実施の形態のフロントフォーク1では、ピストンロッド7がピストン21に連結される筒状のピストン保持ロッド7aと、キャップ5の下端に連結される筒状のコネクタ収容ロッド7bとを備えており、コネクタ収容ロッド7bがピストン保持ロッド7aより大径とされている。そして、本実施の形態のフロントフォーク1では、電線9よりも嵩張るコネクタ9cを大径なコネクタ収容ロッド7bに収容しつつも、ダンパDのシリンダ6内には小径なピストン保持ロッド7aのみを挿入するようにしている。このように構成されたフロントフォーク1によれば、嵩張るコネクタ9cをシリンダ6外のコネクタ収容ロッド7b内に収容しつつシリンダ6内には外径が小径のピストン保持ロッド7aのみを挿入しているので、シリンダ6を大径化することなくピストン21の受圧面積を確保でき、フロントフォーク1の大型化を回避しつつも伸側減衰力を十分に発揮できる。
【0091】
また、本実施の形態のフロントフォーク1では、電線9がロッド内ケーブル9aと外方ケーブル9bとをコネクタ9cで接続した構成となっているので、フロントフォーク1のメンテナンスが容易となるが電線9が途中で分割されずに一端がソレノイド(電気機器)8に接続されて他端がキャップ5の電線用孔5cから引き出される構成となっていてもよい。
【0092】
なお、本実施の形態のフロントフォーク1では、電気機器をソレノイド8としているが、電気機器はソレノイド8のみに限られず、ダンパDが電気粘性流体や磁気粘性流体を利用したダンパであって粘度を変化させるのにコイルを利用する場合には電気機器をコイルとしてもよい。また、電気機器は、フロントフォーク1内のダンパDの減衰力を調節するために用いられるもの以外にも、ダンパD内の圧力の検知やフォーク本体2の伸縮変位の検知を行うためのセンサ類であってもよいし、減衰力調整用の機器とセンサ類の複数の機器とで構成されていてもよい。つまり、本発明は、シリンダ6内に電気機器が収容されるフロントフォーク1に適用できる。なお、電気機器がシリンダ6に対して変位しても電気機器の少なくとも一部がシリンダ6内に挿入される状態であれば、シリンダ6内に電気機器が収容されるとの定義に合致する。また、ロッドは、ピストンを保持するピストンロッド7のみに限られず、単にシリンダ内に出入りするものであってもよい。
【0093】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1・・・フロントフォーク、2・・・フォーク本体、3・・・車体側チューブ、4・・・車軸側チューブ、5・・・キャップ、5a・・・蓋部、5b・・・円筒部、5c・・・電線用孔、6・・・シリンダ、7・・・ピストンロッド(ロッド)、8・・・ソレノイド(電気機器)、9・・・電線、9d・・・ストッパ、10・・・懸架ばね、11・・・アジャスタ、12・・・ばね受、14・・・ガイド、14c・・・テーパ部、14a・・・内周シールリング、14b・・・外周シールリング、16・・・パッキン、17・・・操作部、A・・・軸心線