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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124158
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】減衰装置
(51)【国際特許分類】
   B65D 90/22 20060101AFI20220818BHJP
   B65D 90/00 20060101ALI20220818BHJP
   B65D 90/52 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
B65D90/22 D
B65D90/00 Z
B65D90/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021758
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000145471
【氏名又は名称】株式会社十川ゴム
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(71)【出願人】
【識別番号】302064382
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ワイ・ケイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】平野 廣和
(72)【発明者】
【氏名】石川 友樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 泰介
(72)【発明者】
【氏名】井田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】大野 紗希
【テーマコード(参考)】
3E070
3E170
【Fターム(参考)】
3E070AA05
3E070AB01
3E070BG10
3E070DA08
3E070JB02
3E070SA02
3E070SA05
3E070VA22
3E170AA05
3E170AB01
3E170BA06
3E170DA08
3E170JA05
3E170SA02
3E170SA05
3E170VA17
(57)【要約】
【課題】バルジング現象に対する液体用貯蔵タンクの耐震性と安全性とを向上させる減衰装置を提供すること。
【解決手段】矩形の横断面形状を有する液体用貯蔵タンク内に配設される減衰装置1において、液体用貯蔵タンクの内壁の第1側面S1に固定される第1固定部2、液体用貯蔵タンク内の第2側面S2に固定される第2固定部3、及び第1固定部2と第2固定部3とを連結する連結部材6を備え、第1側面S1及び第2側面S2は互いに隣接しており、第1固定部2及び第2固定部3は、中空弾性部材4と、中空弾性部材4を支持する支持部材5とを備え、連結部材6が、第1固定部2の中空弾性部材4と第2固定部3の中空弾性部材4とを連結することを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の横断面形状を有する液体用貯蔵タンク内に配設される減衰装置において、
前記液体用貯蔵タンクの内壁の第1側面に固定される第1固定部、前記液体用貯蔵タンク内の第2側面に固定される第2固定部、及び前記第1固定部と前記第2固定部とを連結する連結部材を備え、
前記第1側面及び前記第2側面は互いに隣接しており、
前記第1固定部及び前記第2固定部は、中空弾性部材と、該中空弾性部材を支持する支持部材とを備え、
前記連結部材が、前記第1固定部の中空弾性部材と前記第2固定部の中空弾性部材とを連結することを特徴とする減衰装置。
【請求項2】
前記第1側面と前記第2側面が、前記液体用貯蔵タンクの内壁の4つの隅角部を構成することを特徴とする請求項1に記載の減衰装置。
【請求項3】
前記液体用貯蔵タンク内に上下方向に複数段で配設されることを特徴とする請求項1又は2に記載の減衰装置。
【請求項4】
前記液体用貯蔵タンクが複数のパネルを接合してなるパネル式タンクであって、前記第1固定部が前記第1側面における前記パネル間の接合部分に固定され、前記第2固定部が前記第2側面における前記パネル間の接合部分に固定されることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の減衰装置。
【請求項5】
前記中空弾性部材が、熱硬化性エラストマー又は熱可塑性エラストマーからなることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の減衰装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体用貯蔵タンク内に配設される減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震動によって、貯水槽等の液体用貯蔵タンクが破壊される現象として、スロッシング現象が知られている。スロッシング現象とは、地震動と、タンク内の液体の固有振動数とが一致して、共振により液体が大きく揺れることによって、タンクの天井や上部側面のパネルが主に破損する現象である。
【0003】
さらに、近年の地震によるタンクの破壊状態を分析すると、上述のスロッシング現象だけでなく、バルジングという現象によってもタンクが破壊されることが明らかになりつつある。バルジング現象とは、地震動によって、タンク内の液体が一つの塊(質量体)として、タンクの側面のパネルと連成振動する現象である。タンク内の液体の静水圧は、その深さに比例するため、タンクの底側ほど高くなる。従って、バルジング現象が発生すると、タンクの下部に応力が集中し易く、タンクの下部における側面のパネルや隅角部が破損する虞が高くなる。
【0004】
このバルジング現象に対する対策案としては、例えば、以下の特許文献1に記載されるような減衰装置を液体用貯蔵タンク内に配設する方法が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-117269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載される減衰装置によれば、バルジング現象によって液体用貯蔵タンクのパネルが外側に膨張しようとする挙動に対しては、その運動エネルギーを効率良く吸収して、タンクの破損を防ぐことができるが、液体用貯蔵タンクのパネルが内側にへこむような挙動に対しては、運動エネルギーの減衰効果は必ずしも十分なものではなく、改善する余地が残されている。
【0007】
本発明は、バルジング現象に対する液体用貯蔵タンクの耐震性と安全性とを向上させる減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の減衰装置は、矩形の横断面形状を有する液体用貯蔵タンク内に配設される減衰装置において、
前記液体用貯蔵タンクの内壁の第1側面に固定される第1固定部、前記液体用貯蔵タンク内の第2側面に固定される第2固定部、及び前記第1固定部と前記第2固定部とを連結する連結部材を備え、
前記第1側面及び前記第2側面は互いに隣接しており、
前記第1固定部及び前記第2固定部は、中空弾性部材と、該中空弾性部材を支持する支持部材とを備え、
前記連結部材が、前記第1固定部の中空弾性部材と前記第2固定部の中空弾性部材とを連結することを特徴とする。
【0009】
本構成によれば、地震動等による運動エネルギーが、例えば液体用貯蔵タンクの内壁の第1側面に加えられることによって、第1側面が外側に膨らんだり、あるいは内側に凹んだりしようとすると、主に第1固定部が当該運動エネルギーを受けて、第1固定部の中空弾性部材が弾性変形する。中空弾性部材が弾性変形すると、抵抗が生じて運動エネルギーが熱エネルギーに変換されるため、地震動等による振動を減衰させることができる。
【0010】
また、地震動等による運動エネルギーが、液体用貯蔵タンク内の、今度は第2側面に加えられた場合には、上記第1固定部の場合と同様に、主に第2固定部が当該運動エネルギーを受けて、第2固定部の中空弾性部材が弾性変形して地震動等による振動を減衰させる。
【0011】
即ち、液体用貯蔵タンクの内壁の第1側面及び第2側面の両面に対して地震動等による運動エネルギーが加えられた場合は、第1固定部の中空弾性部材と第2固定部の中空弾性部材の両方が弾性変形して、地震動等による振動を減衰させることになる。
【0012】
従って、地震動等による運動エネルギーが、減衰装置の一つの中空弾性部材に集中することがなく、2つの中空弾性部材に分散されるため、地震動等による振動を効率良く減衰させることができる。その結果、バルジング現象が弱められるため、液体用貯蔵タンクの側面が外側に膨らんだりする場合だけでなく、液体用貯蔵タンクの側面が内側にへこもうとする場合においても、液体用貯蔵タンクが破損し難くなる。
【0013】
本発明においては、前記第1側面と前記第2側面が、前記液体用貯蔵タンクの内壁の4つの隅角部を構成すると好適である。
【0014】
本構成によれば、減衰装置が、液体用貯蔵タンクの内壁の隅角部に設置されることになるため、設置方法が容易であり、尚且つ、バルジング現象による応力が集中し易い隅角部において、その破損をより効果的に防止することができる。
【0015】
本発明においては、前記液体用貯蔵タンク内に上下方向に複数段で配設されると好適である。
【0016】
本構成によれば、液体用貯蔵タンクの上下方向におけるより広い範囲において、地震動等による振動をより効率良く減衰させてバルジング現象を弱めることができる。
【0017】
本発明においては、前記液体用貯蔵タンクが複数のパネルを接合してなるパネル式タンクであって、前記第1固定部が前記第1側面における前記パネル間の接合部分に固定され、前記第2固定部が前記第2側面における前記パネル間の接合部分に固定されると好適である。
【0018】
パネル式タンクにおいてバルジング現象が発生すると、パネル間の接合部分に損傷を受けることがある。しかしながら、本構成によれば、第1固定部及び第2固定部が、パネル間の接合部分に固定されて当該接合部分が補強されるため破損し難くなる。
【0019】
本発明においては、前記中空弾性部材が、熱硬化性エラストマー又は熱可塑性エラストマーからなるものであると好適である。
【0020】
本構成のごとく、中空弾性部材が、熱硬化性エラストマー又は熱可塑性エラストマーからなることによって、中空弾性部材がより柔軟に弾性変形し易くなり、地震動等による振動をより効率良く減衰させてバルジング現象を弱めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】減衰装置を配設した液体用貯蔵タンクの平面図である。
図2】減衰装置の斜視図である。
図3】減衰装置の側面図である。
図4】減衰装置の別実施形態の側面図である。
図5】減衰装置の別実施形態の側面図である。
図6】減衰装置の別実施形態の斜視図である。
図7】減衰装置の別実施形態の斜視図である。
図8】壁面応答変位を示すグラフである。
図9】壁面応答変位を示すグラフである。
図10】壁面応答加速度を示すグラフである。
図11】壁面応答加速度を示すグラフである。
図12】壁面変位のレインフロー解析を示すグラフである。
図13】壁面変位のレインフロー解析を示すグラフである。
図14】壁面応答加速度のレインフロー解析を示すグラフである。
図15】壁面応答加速度のレインフロー解析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔実施形態〕
本発明に係る減衰装置の実施形態について図面に基づいて説明する。
(液体用貯蔵タンク)
本発明における液体用貯蔵タンクTとは、水、燃料、化学薬液等の貯蔵液体Lを収容・貯蔵することが可能なタンク全般を意味するものであって、また耐震性の有無も特に関係するものではない。
【0023】
本発明に係る減衰装置1を適用可能な液体用貯蔵タンクTとしては、例えば、矩形(正方形又は長方形)の横断面形状を有する一般的な箱型タンクが挙げられる。
【0024】
タンクの形態としては、特に限定されるものではないが、例えば図1に示すように、複数のパネルPによって構成されるパネル式タンクが挙げられる。そのようなパネル式タンクとしては、例えば、複数のステンレス製パネルを備える公知のステンレスパネルタンクや、複数の繊維強化プラスチック(FRP)製パネルを備える公知のFRPパネルタンクなどが挙げられる。
【0025】
タンクの大きさについては特に限定されるものではなく、例えば高さ3m×幅3m×奥行3mといった一般的な受水槽に相当するものから、あるいは例えば有効水深が7mを超えるような大型のタンクに至るまで幅広く適用することができる。
【0026】
(減衰装置)
図1及び図2に示されるように、本実施形態に係る減衰装置1は、液体用貯蔵タンクTの内壁の第1側面S1に固定される第1固定部2、液体用貯蔵タンクTの内壁の第2側面S2に固定される第2固定部3、及び第1固定部2と第2固定部3とを連結する連結部材6を備える。
【0027】
液体用貯蔵タンクTの内壁の第1側面S1及び第2側面S2は、互いに隣接している状態にあるものを意味する。例えば、本実施形態における矩形の横断面形状を有する液体用貯蔵タンクTの場合、その内壁の第1側面S1と第2側面S2とは、平面視において互いに略直交する側面を意味する。
【0028】
一方、液体用貯蔵用タンクTの横断面形状が矩形ではない場合は、その内壁の第1側面S1と第2側面S2は、平面視において必ずしも互いに直交するものとはならない。つまり、矩形断面を有する液体用貯蔵タンク以外のタンクに対して本発明の減衰装置1を適用することができないということを意味するものではない。
【0029】
また、第1側面S1と第2側面S2は、液体用貯蔵タンクTの内壁の隅角部Cを構成する部分であることが望ましい。
【0030】
尚、本発明において、液体用貯蔵用タンクTの内壁とは、側壁だけでなく、天井部、及び底部をも含む。また、第1側面S1は内壁に限られるが、第2側面S2は内壁だけに限らず、液体用貯蔵用タンク内に設けられている他の部材、例えば、複数の鉛直フレームと複数の水平フレームとをジャングルジム状に組み合わせてなる補強部材などの側面をも含む。
【0031】
本実施形態における第1固定部2及び第2固定部3は、同じ構成を有するものであり、中空弾性部材4と、中空弾性部材4を支持する支持部材5とを備える。
【0032】
本実施形態における中空弾性部材4は、半円形部分と矩形部分とを合わせた断面形状(図3参照)を有する筒状の弾性部材であるが、当該構成に限定されるものではなく、他にも例えば、断面形状が単なる円形や矩形を有する筒状形状のものなどを使用しても良い。
【0033】
中空弾性部材4の構成素材としては、例えば、ゴム等の熱硬化性エラストマーや、あるいは、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル樹脂系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられるが、これに限定されるものではない。しかしながら、例えば、水道水を貯留する受水槽に本発明の減衰装置1を適用するような場合は、水道水の水質に悪影響を与えない材料で構成する必要がある。
【0034】
中空弾性部材4については、上述の構成素材を材料として、例えば、公知の押出成形方法によって細長い板状に成形した後、所定の大きさと形状に切断することにより製造することができる。
【0035】
本実施形態における支持部材5は、矩形断面を有する中空の角管50と、L字断面を有する2つのアングル部材51とを備え、2つのアングル部材51のそれぞれが、角管50の断面の短辺側の2つの側面のそれぞれにボルトとナットによって固定されている。尚、アングル部材51には、ボルトやビス等を挿通するための貫通孔が複数形成されている。
【0036】
中空弾性部材4の半円形断面部分を構成する湾曲面が、支持部材5の角管50の断面の長辺側の一側面に対してボルトとナットによって固定されている。
【0037】
本実施形態における連結部材6は、2つの板状部材60と、平面視においてL字状の2本のフレーム部材61とを備え、2本のフレーム部材61の両端部が、板状部材60に対して溶接により固定されている。
【0038】
連結部材6の2つの板状部材60のそれぞれが、第1固定部2及び第2固定部3のそれぞれにおける中空弾性部材4の平坦な外側面(湾曲面とは反対側の面)に対して、ボルトとナットによって固定されている。これにより、第1固定部2の中空弾性部材4と第2固定部3の中空弾性部材4とが、連結部材6を介して連結される。
【0039】
上述の支持部材5における角管50とアングル部材51、並びに、連結部材6の板状部材60とフレーム部材61は、例えば、比較的軽量なアルミニウムなどで構成されることが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0040】
(減衰装置の使用方法)
次に、本実施形態に係る減衰装置1の使用方法について説明する。ここでは、矩形の横断面形状を有する一般的な箱状躯体として構成される液体用貯蔵タンクTを使用し、当該液体用貯蔵タンクTに上述の本実施形態の減衰装置1を適用した例を説明する。
【0041】
図1に示すように、液体用貯蔵タンクTは、複数の鉛直フレームと複数の水平フレームとを組み合わせてジャングルジムのような籠状に組み上げられた構造体の側面に、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)等で構成されたパネルP(内壁)が取付けられて構成されている。
【0042】
本実施形態における液体用貯蔵タンクTの内壁の第1側面S1と第2側面S2とは、平面視において互いに略直交する側面を意味する。
【0043】
図1及び図2に示すように、液体用貯蔵タンクTの平面視における4つの隅角部Cにおいて、中空弾性部材4の軸心が略水平となるような姿勢で、減衰装置1の第1固定部2と第2固定部3のそれぞれを、隅角部Cを構成するパネルPに対して、略同じ高さ位置に配置させる。
【0044】
このとき、図2及び図3に示すように、減衰装置1の第1固定部2及び第2固定部3を、上下方向に配置されるパネルP間の接合部分Jに配置させることが望ましい。
【0045】
そして、第1固定部2及び第2固定部3のそれぞれのアングル部材51の貫通孔にビス等を打ち込むことによって、減衰装置1が、液体用貯蔵タンクTの隅角部Cを構成するパネルPに固定される。
【0046】
減衰装置1は、液体用貯蔵タンクTの平面視における4つの隅角部Cに設けることが望ましいが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。
【0047】
また減衰装置1は、バルジング現象によるパネルPの振幅が大きいと見込まれる高さの位置に取り付けることが望ましい。例えば、液体用貯蔵タンクTの上下方向の中間よりも下側に取り付けるのが良く、また、一段のみならず、図2に示すように上下方向に複数段で取り付けても良い。
【0048】
上記構成によれば、地震が発生した際、減衰装置1の中空弾性部材4が変形することによって、液体用貯蔵タンクTにおける地震動等による振動を減衰させてバルジング現象を弱めることができる。その結果、液体用貯蔵タンクTにおけるパネルやフレーム等の変形・破損を防止することができる。
【0049】
〔その他の実施形態〕
1.液体用貯蔵タンクTのパネルに対する減衰装置1の設置方法については、上述の実施形態に限定されるものでなく、他にも例えば図4に示すように、減衰装置1の第1固定部2及び第2固定部3がアングル部材51を一つだけ備えており、当該アングル部材51のみを介してパネルに固定するような構成としても良い(図4では便宜上第1固定部2のみを記載)。また、図5に示すように、減衰装置1の第1固定部2及び第2固定部3のそれぞれと、パネルとの間に平板52を介在させた状態で設置しても良い(図5では便宜上第1固定部2のみを記載)。尚、平板52については、パネル間の接合部分Jを渡るように固定されていることが望ましい。
【0050】
2.本発明に係る減衰装置1の設置方法は、液体用貯蔵タンクTの内壁の隅角部Cに限るものではない。他にも例えば、図6に示すように、減衰装置1の第1固定部2を液体用貯蔵タンクTの側壁のパネルPに固定し、第2固定部3を液体用貯蔵タンクTの底部のパネルPに固定するようにしても良い。この場合、側壁のパネルPが第1側面S1となり、底部のパネルPが第2側面S2となる。また、例えば図7に示すように、減衰装置1の第1固定部2を液体用貯蔵タンクTの側壁のパネルPに固定し、液体用貯蔵タンクT内に設けられている補強部材Rの側面に第2固定部3を固定するようにしても良い。この場合、側壁のパネルPが第1側面S1となり、補強部材Rの側面が第2側面S2となる。
【0051】
3.図示しないが、上述の連結部材の構成については、上述の実施形態に限定されるものではなく、他にも例えば、フレーム部材として、平面視において等脚台形形状を有するような部材を使用しても良い。
【0052】
4.液体用貯蔵タンクに対して、本発明に係る減衰装置と、スロッシング現象を抑制する公知のスロッシングダンパー(制振装置)とを組み合わせて使用しても良い。
【実施例0053】
〔実証実験について〕
本発明の減衰装置の効果を確認する実証実験を実施した。
減衰装置の効果を検証するために、3000mm×3000mm×3000mmのFRP製貯水槽を用いて加振実験を実施した。
【0054】
このタンクに水位を通常設定水位と同じである内容量90%の水位2700mmまで注水した。ここで使用するバルジングの減衰装置は、貯水槽隅角部の4隅,貯水槽底から1000mmと2000mm位置の8ヶ所にゴムを主体とする弾性変形ダンパーを取り付けた。これにより減衰装置の有無による貯水槽側壁応答加速度の低減効果に関して地震波を用いて、比較を行った。
【0055】
本実験で用いる地震波は2種類とし、兵庫県南部地震における神戸海洋気象台で観測されたJMA神戸SN方向観測波の30%変位相当と熊本地震宇土NS方向観測波変位50%相当とし、加振方向は計測面に直交に加振した。加振実験には愛知工業大学が所有する大型振動装置を用いた。本実験において貯水槽の膨らむ方向を正(+)凹む方向を負(-)とした。
【0056】
実験結果
(壁面応答変位)
図8及び図9に1500mmの位置における壁面応答変位を示す。
図8は神戸SN30%で加振時の壁面応答変位である。非制振の場合、最大変位は+側で82.64mmであるのに対し,減衰装置付加した場合は53.12mmと36%程度低減されている。-側では、非制振時-75.76mmであるのに対し、減衰装置付加時は、-60.72mmと20%程度低減できていた。
【0057】
また、図9は熊本宇土NS50%で加振時の壁面変位である。非制振の場合の最大変位は59.44mmであるのに対し、減衰装置を付加した場合は30.88mmであり、48%程度低減することができた。-側では、非制振時は-69.36mmであり、減衰装置付加時は-43.20mmと38%程度低減できている。
【0058】
(壁面応答加速度)
図10及び図11に2000mmの位置における壁面応答加速度を示す。
図10は神戸SN30%で加振時の壁面応答加速度であり、非制振の場合の最大加速度は+側では,7.56m/sであり、-側では-7.60m/sである。また減衰装置を付加した場合+側では,7.14m/sであり、-側では、-6.67m/sとなっており、最大加速度での比較では顕著な変化は見られない。しかしながら、非制振時に対し、減衰装置を付加することで、繰り返しの加速度が抑制できており、5s以降減衰が促されていることがわかる。
【0059】
図11は熊本地震宇土NS50%で加振時の壁面応答加速度である。+側の最大加速度は非制振の場合、6.46m/sであり、減衰装置を付加した場合は、4.45m/sとなった。減衰装置の有無で比較すると1.92m/sの29%程度低減されている。また-側では、非制振の場合-7.25m/sであり、減衰装置を付加した場合は、-6.91m/sであり、0.35m/sの5%程度の低減に留まっている。しかしながら、非制振時に対し、減衰装置を付加することで、繰り返しの加速度が抑制できており、5s以降減衰が促されていることがわかる。
【0060】
(レインフロー解析)
減衰装置を付加することによる壁面応答変位と壁面応答加速度の減衰効果をより明確なものとするために、レインフロー解析を実施した。レインフロー解析は通常、不規則な繰り返し変動荷重を受ける機械や構造物などにおいて、疲労寿命を予測する手法として用いられ、雨だれの経路から、疲労寿命に寄与する振幅とその発生回数を決定するものである。本実験においてこの手法を壁面変位および加速度に当てはめ、減衰装置付加に伴う低減効果を分析した。
【0061】
図12及び図13は壁面変位のレインフロー解析の結果であり、図12が神戸SN30%加振時、図13が熊本宇土NS50%加振時である。図12において非制振の場合、全振幅100mm~130mmの発生回数が4.5回であるが、減衰装置付加時は、0.5回と大幅に低減されている。図13においても、非制振時は,全振幅80mm~120mmの発生回数が5.5回であるが、減衰装置付加時は、0回と大幅な低減ができている。このことから、大振幅に減衰装置の効果が発揮したと考えられる。
【0062】
一方、図14及び図15は壁面応答加速度のレインフロー解析結果であり、図14は神戸SN30%加振時、図15は熊本宇土NS50%加振時である。図14において、非制振の場合11~16m/sの発生回数が6.5回であるの対し、減衰装置ありの場合は2回である。また図15において、6.0~13.0m/sの発生回数は、非制振の場合が、6.5回であるのに対し、減衰装置ありの場合は4.5回である。この解析結果より、減衰装置を付加させたことで、水槽壁面の大きな応答の繰り返しを抑制し、減衰を促す効果があると考えられた。
【0063】
本発明に係る減衰装置を貯水槽に設置することで、壁面応答を低減させることができた.さらにレインフロー解析を実施することで、減衰装置により、大きな変位ならびに大きな加速度の繰り返し発生回数を抑制することができ、減衰効果を明確にすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の減衰装置は、例えば上水を貯蔵する受水槽等の小型のタンクから、例えば汚染水貯蔵用タンク等の大型のタンクに至るまで、幅広いサイズの液体用貯蔵タンクに使用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 減衰装置
2 第1固定部
3 第2固定部
4 中空弾性部材
5 支持部材
50 角管
51 アングル部材
52 平板
6 連結部材
60 板状部材
61 フレーム部材
T 液体用貯蔵タンク
P パネル(内壁)
S1 第1側面
S2 第2側面
J 接合部分
C 隅角部
L 貯蔵液体
R 補強部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15