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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124160
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】PEEKフィルム積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20220818BHJP
   B32B 37/04 20060101ALI20220818BHJP
   B32B 37/06 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
B29C65/16
B32B37/04
B32B37/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021762
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】803000045
【氏名又は名称】株式会社キャンパスクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】麻生 勉
(72)【発明者】
【氏名】須田 信光
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】三徳 正孝
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 美里
【テーマコード(参考)】
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
4F100AK54A
4F100AK54B
4F100AK56A
4F100AK56B
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA11B
4F100DD01A
4F100EC03
4F100JA11A
4F100JA12B
4F100JJ10C
4F100YY00A
4F100YY00B
4F211AA32A
4F211AC03
4F211AD08
4F211AG03
4F211TA01
4F211TC02
4F211TD11
4F211TJ22
4F211TN27
4F211TQ11
(57)【要約】
【課題】複数のPEEKフィルムを重ねたフィルム束にレーザ光を照射し、これらのフィルムが互いに溶着したPEEKフィルム積層体を製造する方法を提供する。
【解決手段】複数の低結晶PEEKフィルム(1)を重ねたフィルム束(2)を準備し、その一方の最表面に高結晶PEEKフィルムからなる第一の非溶着緩衝フィルム(4)を重ね、前記第一の非溶着緩衝フィルムの前記フィルム束が接する面と反対面にヒートシンク(3)を圧接させて配置する配置工程と、レーザ光(LB)を、前記ヒートシンクを通して前記第一の非溶着緩衝フィルム及び前記フィルム束に照射して、前記複数の低結晶PEEKフィルムを互いに溶着することにより前記複数の低結晶PEEKフィルムからなる積層体を得る溶着工程と、前記積層体から前記第一の非溶着緩衝フィルムを離すことにより取得する取得工程と、を含むPEEKフィルム積層体の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の低結晶PEEKフィルムを重ねたフィルム束を準備し、
前記フィルム束の一方の最表面に高結晶PEEKフィルムからなる第一の非溶着緩衝フィルムを重ね、
前記第一の非溶着緩衝フィルムの前記フィルム束が接する面と反対面にヒートシンクを圧接させて配置する配置工程と、
レーザ光を、前記ヒートシンクを通して前記第一の非溶着緩衝フィルム及び前記フィルム束に照射して、前記複数の低結晶PEEKフィルムを互いに溶着することにより前記複数の低結晶PEEKフィルムからなる積層体を得る溶着工程と、
前記積層体から前記第一の非溶着緩衝フィルムを離すことにより取得する取得工程と、
を含むPEEKフィルム積層体の製造方法。
【請求項2】
前記配置工程において、さらに、前記フィルム束の他方の最表面に高結晶PEEKフィルムからなる第二の非溶着緩衝フィルムを重ね、
前記溶着工程において、前記レーザ光を、前記ヒートシンクを通して前記第一の非溶着緩衝フィルム、及び前記フィルム束及び前記第二の非溶着緩衝フィルムに照射して前記複数の低結晶PEEKフィルムを互いに溶着することにより前記複数の低結晶PEEKフィルムからなる前記積層体を得て、
前記取得工程において、前記積層体から前記第一の非溶着緩衝フィルムおよび前記第二の非溶着緩衝フィルムを離すことにより取得する、請求項1に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
【請求項3】
前記溶着工程において、前記ヒートシンクと前記第一の非溶着緩衝フィルム、及び、前記第一の非溶着緩衝フィルムと前記フィルム束を、それぞれ互いに溶着させない請求項1に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
【請求項4】
前記溶着工程において、前記ヒートシンクと前記第一の非溶着緩衝フィルム、前記第一の非溶着緩衝フィルムと前記フィルム束、及び、前記第二の非溶着緩衝フィルムと前記フィルム束とを、それぞれ互いに溶着させない請求項2に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
【請求項5】
前記第一の非溶着緩衝フィルム及び前記第二の非溶着緩衝フィルムが、それぞれ片表面に複数の凹凸構造が形成されている高結晶PEEKフィルムであり、前記配置工程において、これら凹凸構造形成面と前記フィルム束とが接するように、前記フィルム束と前記第一の非溶着緩衝フィルム及び前記第二の非溶着緩衝フィルムを配置するとともに、
前記溶着工程において、少なくとも前記第二の非溶着緩衝フィルムの前記凹凸構造が前記フィルム束の表面に反転して転写される転写工程をさらに含む請求項2又は4に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
【請求項6】
前記第一の非溶着緩衝フィルムが1枚以上の高結晶PEEKフィルムからなり、その総厚が30~300μmである請求項1~5の何れか一項に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
【請求項7】
前記第一の非溶着緩衝フィルム及び前記第二の非溶着緩衝フィルムが1枚以上の高結晶PEEKフィルムからなり、それぞれの総厚が30~300μmである請求項2、4又は5に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
【請求項8】
前記低結晶PEEKフィルムの水分含有率が、前記低結晶PEEKフィルムの総質量に対して1000ppm~4000ppmである、請求項1~7の何れか一項に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光照射を用いたPEEKフィルム積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2個の熱可塑性樹脂成形体を接触配置して、一方の樹脂成形体側から赤外線レーザ光を照射することにより、これらを溶着する方法が開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4279674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、樹脂成形体同士の接触部の温度Tiと、樹脂成形体の赤外線照射側表面温度Tsを管理することが必要である。この方法を、複数の樹脂フィルムを重ねたフィルム束を溶着させることに適用すると、フィルム束の赤外線照射側の表面が焦げないようにその表面温度の上昇を抑制する必要があるため、フィルム束を構成する樹脂フィルムの枚数を増やすことが難しいという問題がある。特に、優れたエンジニアリングプラスチックであるPEEKフィルムを複数枚重ねて厚さ800μm以上にしたフィルム束をレーザ光の照射で溶着することが困難であった。
【0005】
本発明は、複数のPEEKフィルムを重ねたフィルム束にレーザ光を照射し、これらのフィルムが互いに溶着したPEEKフィルム積層体を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]
複数の低結晶PEEKフィルムを重ねたフィルム束を準備し、
前記フィルム束の一方の最表面に高結晶PEEKフィルムからなる第一の非溶着緩衝フィルムを重ね、
前記第一の非溶着緩衝フィルムの前記フィルム束が接する面と反対面にヒートシンクを圧接させて配置する配置工程と、
レーザ光を、前記ヒートシンクを通して前記第一の非溶着緩衝フィルム及び前記フィルム束に照射して、前記複数の低結晶PEEKフィルムを互いに溶着することにより前記複数の低結晶PEEKフィルムからなる積層体を得る溶着工程と、
前記積層体から前記第一の非溶着緩衝フィルムを離すことにより取得する取得工程と、
を含むPEEKフィルム積層体の製造方法。
[2]
前記配置工程において、さらに、前記フィルム束の他方の最表面に高結晶PEEKフィルムからなる第二の非溶着緩衝フィルムを重ね、
前記溶着工程において、前記レーザ光を、前記ヒートシンクを通して前記第一の非溶着緩衝フィルム、及び前記フィルム束及び前記第二の非溶着緩衝フィルムに照射して前記複数の低結晶PEEKフィルムを互いに溶着することにより前記複数の低結晶PEEKフィルムからなる前記積層体を得て、
前記取得工程において、前記積層体から前記第一の非溶着緩衝フィルムおよび前記第二の非溶着緩衝フィルムを離すことにより取得する、[1]に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
[3]
前記溶着工程において、前記ヒートシンクと前記第一の非溶着緩衝フィルム、及び、前記第一の非溶着緩衝フィルムと前記フィルム束を、それぞれ互いに溶着させない[1]に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
[4]
前記溶着工程において、前記ヒートシンクと前記第一の非溶着緩衝フィルム、前記第一の非溶着緩衝フィルムと前記フィルム束、及び、前記第二の非溶着緩衝フィルムと前記フィルム束とを、それぞれ互いに溶着させない[2]に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
[5]
前記第一の非溶着緩衝フィルム及び前記第二の非溶着緩衝フィルムが、それぞれ片表面に複数の凹凸構造が形成されている高結晶PEEKフィルムであり、前記配置工程において、これら凹凸構造形成面と前記フィルム束とが接するように、前記フィルム束と前記第一の非溶着緩衝フィルム及び前記第二の非溶着緩衝フィルムを配置するとともに、
前記溶着工程において、少なくとも前記第二の非溶着緩衝フィルムの前記凹凸構造が前記フィルム束の表面に反転して転写される転写工程をさらに含む[2]又は[4]に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
[6]
前記第一の非溶着緩衝フィルムが1枚以上の高結晶PEEKフィルムからなり、その総厚が30~300μmである[1]~[5]の何れか一項に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
[7]
前記第一の非溶着緩衝フィルム及び前記第二の非溶着緩衝フィルムが1枚以上の高結晶PEEKフィルムからなり、それぞれの総厚が30~300μmである[2]、[4]又は[5]に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
[8]
前記低結晶PEEKフィルムの水分含有率が、前記低結晶PEEKフィルムの総質量に対して1000ppm~4000ppmである、[1]~[7]の何れか一項に記載のPEEKフィルム積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のPEEKフィルム積層体の製造方法によれば、レーザ光を照射したフィルム束の表面の溶融による変形やいわゆるアブレーションを発生させずに、フィルム束の最表面のPEEKフィルムの外観を変化させずに、その表面状態を維持してPEEKフィルム同士を溶着させることができる。また、総厚が800μmを超えるフィルム束を溶着させたPEEKフィルムの積層体を得ることができる。さらに溶着する際にフィルム束を構成するPEEKフィルムの厚さがほとんど変化しないため積層体の厚さを制御しやすく厚さばらつきも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一態様の模式図である。
図2】本発明の第二態様の模式図である。
図3】加工実験装置の一例を示す模式斜視図である。
図4】フィルム束にレーザ光を照射する方法の概念図である。
図5】レーザ溶着幅を測定した一例を示す写真と表である。
図6】(a)PEEKフィルム1を厚さ方向に重ね合わせて作製したフィルム束2の断面図である。(b)フィルム束2の最上層にヒートシンク3を重ね置いた断面図である。(c)フィルム束2の最上層にさらに非溶着緩衝フィルム4を重ね置いた断面図である。
図7】レーザ光照射により溶着したフィルム束2の断面の写真である。
図8】第一態様の試験例No.1~No.10を説明する内容で、試験条件ならびに試験結果を示す表である。
図9】第一態様の試験例No.11~No.20を説明する内容で、試験条件ならびに試験結果を示す表である。
図10】第一態様の試験群1~2を補完する試験の条件と結果を示す表である。
図11】第二態様の試験例No.21~No.24を説明する内容で、試験条件を示す表である。
図12】第二態様の試験例No.21~No.24の試験結果を示す表である。
図13】第二態様の試験例No.25~No.30を説明する内容で、試験条件を示す表である。
図14】第二態様の試験例No.25~No.27の試験結果を示す表である。
図15】第二態様の試験例No.28~No.30の試験結果を示す表である。
図16】第二態様の試験例No.31~No.41を説明する内容で、試験条件を示す表である。
図17】第二態様の試験例No.31~No.41の試験結果の一部示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第一態様≫
本発明の第一態様は、第一配置工程と、第二配置工程と、レーザ光照射工程、溶着・一体化工程とを含むPEEKフィルムの製造方法である。
第一配置工程は、複数のPEEKフィルムを重ねたフィルム束を準備し、前記フィルム束の一方の最表面のフィルムの表面にヒートシンクを圧接させて固定配置する工程である。
第二配置工程は、前記ヒートシンク表面に非接触にレーザ光照射手段を配置する工程である。
レーザ光照射工程は、前記レーザ光照射手段により前記ヒートシンク表面にレーザ光を照射し、前記フィルム束内部にレーザ光を照射する工程である。
溶着・一体化工程は、前記レーザ光照射手段と前記フィルム束および前記ヒートシンクとを二次元状に相対的に移動させ前記複数のPEEKフィルムを互いに溶着させて積層体を得る工程である。
本態様で用いる前記ヒートシンクは、波長1~2μmの入射光に対する透過率が80%以上であり、25℃における熱伝導度が40W/m・K以上であり、前記フィルム束に照射するレーザ光の波長が1~2μmである。
【0010】
<第一配置工程>
実施形態の一例として、図1に示すように、複数枚のPEEKフィルム1を重ね合わせてフィルム束2を得る。さらにフィルム束2の一方の最表面を構成するPEEKフィルム1の表面に、ヒートシンク3を圧接させて配置する。
【0011】
PEEKフィルム1は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)によって形成されたフィルムである。PEEKフィルム1には、PEEK以外の成分が含まれていても構わないが、レーザ光LBを吸収したり反射したりする物質(例えば金属酸化物等のフィラー)は含まれないことが好ましい。
一方、PEEKフィルム1には水分が含有されていることが、溶着状態を良好にするために好ましい。水分が溶着状態に与える要因は明らかにはなっていないが、フィルム束2にレーザ光LBを照射すると水分の蒸発による気化熱がPEEKフィルム1の融点までの温度上昇を緩やかにすることで、急激な温度上昇によるPEEKフィルム1の熱分解を抑制する効果が推測されている。
【0012】
PEEKフィルムの水分含有率は下記に記載する方法により求められるもので、その値としては1000ppm~4000ppmであり、低結晶PEEKフィルムでは1000ppm~4000ppm、好ましくは2500ppm~4000ppmであることが望ましい。また高結晶PEEKフィルムでは1500ppm~3000ppm、好ましくは2000ppm~3000ppmである。水分含有率が1000ppmを下回るとレーザ照射によるフィルムの分解(焦げ)が発生しやすくなりPEEKフィルムの状態を維持してフィルム束を溶着積層可能なレーザ加工条件が得られない。一方、水分含有率の上限は飽和水分量に相当する値であり、低結晶PEEKフィルム、高結晶PEEKフィルムではその値が異なる。水分含有率が上記範囲であると、PEEKフィルム同士の溶着効率をより高めることができる。
前記水分含有率は、JIS K7251:2002(ISO15512:1999)で定められたカールフィッシャー電量滴定法(B法)により測定された値である。なお測定器としてはCA-100(機種名:日東精工エアナリテック株式会社製)などが挙げられる。
なお、この水分含有率の制御はPEEKフィルムの乾燥または吸水処理によって行うことができる。水分含有率が多いPEEKフィルムは温度80℃~120℃に適宜設定された乾燥炉にて所望する水分含有率になるまでの時間で乾燥処理される。一方、水分含有率が少ないPEEKフィルムは常温の水あるいは40℃~80℃の温水中に浸漬し所望する水分含有率に調整することができる。
【0013】
本明細書において、結晶化度が15%以下のPEEKフィルムを低結晶PEEKフィルムと称する。また、結晶化度が20%以上のものを高結晶PEEKフィルムと称し、結晶化度が15%超20%未満のものを中間結晶PEEKフィルムと称する。
PEEKフィルムの結晶化度は、下記の方法により測定された値である。
PEEKフィルムの結晶化度は、PEEKフィルムから測定試料約8mgを秤量し、示差走査熱量計〔エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:EXSTAR7000シリーズ X-DSC7000〕を用いて昇温速度10℃/分、測定温度範囲20℃から380℃の条件で測定することができる。このときに得られる結晶融解ピークの熱量(J/g)、再結晶化ピークの熱量(J/g)から以下の式を用いて算出する。
結晶化度(%)=(△Hm-△Hc)/130×100
ここで、△HcはPEEKフィルムの10℃/分の昇温条件下での再結晶化ピークの熱量(J/g)を表し、△HmはPEEKフィルムの10℃/分の昇温条件下での結晶融解ピークの熱量(J/g)を表す。
【0014】
PEEKフィルムとして低結晶PEEKフィルムを用いることにより、PEEKフィルム同士の溶着効率をより高めることができる。PEEKフィルムの結晶部ではレーザ光の透過率が非晶部よりも低く、吸収されるレーザ光のエネルギーが溶着には不足することが考えられる。上記した特定の範囲の結晶化度であるとこの結晶部の影響が抑えられ非晶部による溶着が進むものと推測される。また、PEEKフィルムの水分含有率において、水は非晶部に吸収されると考えられるため低結晶PEEKフィルムは水分含有率を調整しやすいという利点もある。
フィルム束2を構成するPEEKフィルム1は高結晶PEEKフィルムおよび低結晶PEEKフィルムのいずれでもよいが、フィルム束2を構成するPEEKフィルム1の全てが低結晶PEEKフィルムであることがより好ましい。
【0015】
各PEEKフィルム1の厚さは、それぞれ独立に、例えば、5~250μmとすることができ、10~200μmが好ましく、10~150μmがより好ましい。溶着積層体の厚さを考慮した組み合わせで上記厚さ範囲のPEEKフィルム1から必要枚数を適宜選択してフィルム束2を作製することができる。フィルム束2に照射するレーザエネルギーがPEEKフィルム1の重ね合わせの界面に作用する効果を一定とするために同じ厚さのPEEKフィルム1によりフィルム束2を作製することが好ましいが、特に制限されるものではない。また、PEEKフィルム1は公知の押出成形法により製膜されたものを利用する。本実施態様では後述するようにフィルム束2をヒートシンク3に圧接してレーザ照射し溶融積層一体化させる。溶融積層された後の積層体はヒートシンク3の圧接力によりフィルム束2を構成するPEEKフィルム1の厚さをほぼ維持して厚さばらつきが解消された状態で積層されたものであるため、厚さ精度に優れた積層体とすることができるという大きな特徴がある。
なお、一般的に溶融押出成形によるフィルムは設定厚さに対し±5%前後の厚さばらつきを有しており、フィルム厚が厚くなるほどバラツキとしては大きくなる傾向にある。溶融押出成形法では本態様で得られる厚さ精度を有するフィルムやシートなどを得ることが困難である。
【0016】
フィルム束2を構成するPEEKフィルム1の枚数は、目標とする積層体の厚さを考慮した上で、フィルムの扱いやすさやフィルム重ね合わせ工程の効率からは、なるべく厚いフィルムを選定して積層枚数を減らし、厚さの微調整として、薄いフィルムを1~2枚使用することができる。溶着のしやすさを考慮した場合、50μm以下のフィルムを数多く積層すればよく、その積層枚数に特に制限はなくレーザ加工条件、積層体の仕上がり状態から適宜選択することができる。
【0017】
<第二配置工程>
ヒートシンク表面に非接触にレーザ光照射手段を配置するとは、ヒートシンクの表面とレーザ光の出射部とが接触しない状態で、ヒートシンクの表面とレーザ光の出射部の間に空気層又は任意のガス層がある状態とすることを意味する。
【0018】
<レーザ光照射工程>
図1において、レーザ光LBはフィルム束2の上面から下面までを透過するように照射される。レーザ光LBの出力はフィルム束2の総厚、PEEKフィルム1の結晶化度、厚さに応じて適宜調整される。この調整はフィルム束2の面方向並びに厚さ方向の溶着状態から行われる。レーザ光LBはレーザ光照射手段とフィルム束2とを二次元状に相対的に移動させ、フィルム束2の面方向に走査される。この走査方向は、例えば図3に示すようにX方向、Y方向という表現で示される。図3に示すようにレーザ光LBによるフィルム束2の表面側から観察される照射痕はビーム径と操作速度により隣接するビーム中心の間隔を設定して形成される。この間隔並びに照射するレーザ出力はフィルム束2の厚さに対応して設定される。レーザ出力が低い場合はフィルム束2のPEEKフィルム1同士が溶着しないことがあり、逆にレーザ出力が大きすぎるとフィルム束2内でPEEKフィルム1の分解温度まで温度が上昇し、気泡の発生や、分解物の発生などの不具合が生じることがある。
【0019】
図3の装置を具体的に説明する。ベース11上に定盤12A,12Bが4本の支柱S1~S4でとともに配置されている。ベース11は除振機能を備えているものが好ましい。定盤12A上にはXYステージ13が配置されており、XYステージ上にはフィルム束2が固定テーブル(図示せず)上に固定配置される。定盤12Bにはヒートシンク3を保持及び固定するための開口部16があり、ここにヒートシンク3が配置される。支柱S1~S4は軸受け構造により定盤12A,12Bに連結されており、定盤12Aは上下方向に移動が可能な構造となっている。またレーザ発振器15から光ファイバー15’を介してレーザ光照射手段14によりレーザ光LB(図示せず)が矢印方向に照射されるように配置されている。定盤12Aを定盤12B方向に移動させXYステージ13に配置されたフィルム束2をヒートシンク3に圧接させる。この時、定盤12A、12Bはヒートシンク3とフィルム束2とが適切な圧接力が得られるように固定構造(図示せず)により固定される。適切な圧接力とはヒートシンク3とフィルム束2とが接触面の全領域で密着し、ヒートシンク3に反りや湾曲などによる変形が生じない状態をいい、さらにはフィルム束2を構成するPEEKフィルム1がレーザ光LBの照射によって溶融した際にこの圧接力により元の厚さから大きく変動したりフィルムの変形を生じたりしないことをいう。この圧接力を微調整するために定盤12Aの上下方向の移動に対して緩衝機構(図示せず)を設けることが好ましい。次にXYステージのコントローラ(図示せず)で所定の移動速度と移動量を設定し、フィルム束2とレーザ照射手段14とを二次元状に相対的に移動させながらレーザ光LBをヒートシンク3の表面に非接触な位置から照射し、ヒートシンク3を透過したレーザ光LBをフィルム束2の内部に照射する。レーザ光LBはそのビーム径を維持した状態でフィルム束2の厚さ方向の全体に照射され、ビーム径に対応した溶着部が形成される。
【0020】
図1においてフィルム束2のレーザ光が入射する最上層(第一枚目のPEEKフィルム1)から最下層(第n枚目のPEEKフィルム1)までの全体を溶着する場合、フィルム束2の厚さは、レーザ発振器の最大出力に基づく照射可能な最大レーザエネルギーにもよるが、レーザ光LBがヒートシンク3を透過する際の熱によるヒートシンク3への熱的なダメージを考慮したレーザエネルギーの限界から1500μm以下が好ましい。なお、本態様ではフィルム束2がヒートシンク3に圧接される面の最上面寄りに重ね合わされているPEEKフィルム1の厚さが50μm以下であるとレーザ照射によるフィルム束2内部の輻射熱よりもヒートシンク3の放熱効果が影響することにより、特に最上面のPEEKフィルム1は溶着せずに剥離するので、そのことを考慮してフィルム束2の厚さを設定する必要がある。一方、ヒートシンク3に接触するフィルム束2の最上面のPEEKフィルム1の厚さを厚くすることで上記の影響を解消するとともにヒートシンク効果によってフィルム表面の影響を生じさせないままフィルム束2のすべてのPEEKフィルム1を溶着して積層一体化することができる。この場合、ヒートシンク3に圧接する面のフィルム束2の最上面に位置するPEEKフィルム1の厚さは100μm以上200μm以下が好ましい。ヒートシンク3の圧接面と反対側のフィルム束2の最下面に重ね合わせるPEEKフィルム1の厚さも同様の厚さとすると最下面側の溶着状態も安定する効果がある。
【0021】
本態様で用いるヒートシンク3は、波長1~2μmのレーザ光LBの透過率が80%以上であり、かつ、その25℃における熱伝導度が40W/m・K以上の放熱材である。
ヒートシンク3の形状は特に制限されず、例えば、上面視が円形、扇形又は矩形の平板状が挙げられる。
ヒートシンク3の厚さは、上記透過率とヒートシンク3の素材を考慮して設定され、例えば、厚さ1~5mm程度のサファイア板が挙げられる。サファイアの上記透過率は80~90%であり、その25℃における熱伝導度は42W/m・Kである。またそのヤング率は300~600GPa、ポアソン比は0.2~0.4である。
本態様のヒートシンク3に適用可能なサファイア以外の材料としては、例えば、熱伝導度ではサファイアよりも若干劣るものの厚さ1~4mm程度のZnSe板(セレン化亜鉛)(25℃における熱伝導度18W/m・K、ヤング率50~80GPa、ポアソン比0.2~0.3)や厚さ1~5mm程度の単結晶シリコン板(25℃における熱伝導度157W/m・K、ヤング率150~300GPa、ポアソン比0.2~0.3)が挙げられる。ただし、一般的にシリコンは、2μm以上の波長で使用できるが透過率がサファイアほど高くなく表面コート無では約50%となる。また、1~1.5μmの波長は透過しないなどヒートシンク3としての使用は限定的である。
ヒートシンク3はフィルム束2に圧接され、その圧接力は0.01MPa~0.10MPaの範囲が好ましい。さらには0.02~0.08MPaの範囲が好ましい。圧接力が0.01MPa未満ではフィルム束2構成するPEEKフィルム1が密着せずに空隙や未溶着部分が生じやすい。一方圧接力が0.10MPaを超えると溶融したPEEKフィルム1が過度に圧縮され流動してしまいPEEKフィルム積層体の厚さが薄くなるなど不安定になるとともにヒートシンク3の撓みや破壊につながる場合もある。ヒートシンク3はこの圧接力に対して撓みの少ない材料が好ましい。そのためヤング率が大きいサファイア板が好ましく、特にはヤング率450GPa以上のサファイア板が好適である。
【0022】
本態様では、波長が1.0~1.5μm、または2μmのレーザ光が利用される。このうち波長2μmのレーザ光がPEEKフィルムの吸収波長に対して好ましい吸収状態が得られるため好適に利用される。波長2μmのレーザ光の例としてはツリウムレーザが挙げられる。レーザ発振器としては波長2μmのツリウムファイバーレーザ発振器が好適に利用され、PEEKフィルム積層体の溶着を均一に行うため連続波が好ましい。レーザ発振器の最高出力は後述する溶着工程においてフィルム束、PEEKフィルムの結晶化度および厚さ、積層体の厚さにより数十~数百Wの範囲で選択できる。また、ファイバーレーザ発振器のファイバー先端部はファイバーコリメーター構造を有し、コリメートレンズによりレーザ光は平行光として出射され、そのビーム径はレーザ光の出力、溶着の効率、溶着に必要な照射時間などを考慮しφ1.0mm~φ10.0mmに調整されることが好ましく、より好ましくはφ3.0mm~φ5.0mmである。ビーム径が小さいと加工効率が低下し、ビーム径が大きいと熱融着のためにレーザ出力を高くする必要がありヒートシンクへのダメージを与えたり、ビームプロファイルの影響を受けてフィルム束内部の照射部分の溶融の均一性が低下したりする恐れがある。なお、加工効率を上げるためにビーム径を維持しつつ回折光学素子などを用いてレーザ光を複数の分岐ビームとして照射してもよい。
【0023】
<溶着・一体化工程>
図1に例示するようにヒートシンク3を通してフィルム束2の内部に向けて波長1~2μmのレーザ光LBを照射し、フィルム束2の照射部位を溶着することにより、複数のPEEKフィルム1が互いに溶着したPEEKフィルム積層体を得る。
レーザ光LBの照射後のヒートシンク3は、フィルム束2の表面に溶着し難いので、フィルム束2の表面から容易に離すことができる。
【0024】
図4を参照してレーザ光LBの照射方法を具体的に説明する。ヒートシンク3を透過したレーザ光LBは、レーザ光照射手段14とフィルム束2とをレーザ光走査方向に対して二次元状に相対的に移動させることで、フィルム束2内部の面方向に連続的に照射される。
レーザ光LBは連続波であるため、フィルム束2の内部は連続的にレーザ加工され、溶融し、最初のレーザ加工ラインL1を形成する。この時、レーザ光照射間隔P1は、レーザ光LBのビーム径と走査速度によりビームの重なり具合や、レーザ光照射スポットLB1における照射時間などを考慮して適宜調整される。次に加工ラインL2を形成するため、レーザ照射ライン間隔LSでレーザ照射手段14とフィルム束2とをライン間隔S2で相対的に移動させ、次いでS3方向にP1の間隔でレーザ光LBを照射する。所望の面積の加工が終了するまでこれを繰り返す。なお、図4においてレーザ光照射スポットLB1は重なっていないが、未溶着部分が無いように、またレーザ光LBによる過度の熱加工によるPEEKフィルムの劣化、熱分解、あるいは溶融による気泡の発生、溶着後のフィルム束2の外観などを考慮して、レーザ光照射スポットLB1の重なり具合および隣接するレーザ加工ラインの重なり具合を適宜選択することができる。
【0025】
図5を参照してレーザ照射ライン間隔LSの設定方法を説明する。フィルム束の全面を溶着するために、レーザ照射ライン間隔LSはレーザ加工ライン間に隙間が開かないように設定する。図5は厚さ50μmの低結晶PEEKフィルムを20枚重ねたフィルム束の上面に、ライン照射を行い、加工ライン幅を測定した例である。レーザ出力を50W、送り速度を15mm/秒とした。図示するようにレーザ加工ラインは溶着中心部(A)と、溶着周辺部(B)(C)とが存在し、これら(A)(B)(C)の全体が溶着部になる。ここで使用したレーザ光はガウシアンモードのプロファイルを有しており、レーザ照射の中心部と周辺部で加工状態に差が生じる。このことを考慮して溶着周辺部においても溶着するようにレーザ出力、送り速度を設定すればよい。図5中の表は、所定の間隔で離れるように任意に決めたNo.1~5の測定箇所における(A)(B)(C)のレーザ溶着幅の測定値とこれらの平均値である。図示した測定結果からレーザ照射ライン間隔LS=1.56mm以下とすれば、ライン間の隙間が解消されることがわかる。なお、溶着周辺部(B)(C)の溶着幅の違いは、ヒートシンクを通してフィルム束に対するレーザ光照射角度の若干のずれが要因である。
【0026】
図6を参照してフィルム束2とヒートシンク3の配置方法を説明する。フィルム束2はPEEKフィルム1を厚さ方向に重ね合わせて作製する。PEEKフィルム1は、例えば溶融押出法などにより製造された公知のものでよく、特に限定されない。PEEKフィルム積層体の総厚はPEEKフィルム1の厚さと重ね合わせ枚数により調整することができる。すなわち目的とする総厚に対してPEEKフィルム1の厚さを適宜選択し、設定する層厚の厚さより薄くない厚さでほぼ総厚に等しくなるようにPEEKフィルム1の厚さと重ね合わせ枚数を決定してフィルム束2を作製する。このときPEEKフィルム1は異なる厚さのものを適宜選択して利用してもよい。本態様ではヒートシンク3に接触する面のPEEKフィルム1がヒートシンク効果により溶着しない場合もあるので、この点を考慮してフィルム束2の重ね合わせ枚数、厚さを設定する必要がある。
本態様の製造方法によれば、重ね合わせたPEEKフィルム1の厚さをほとんど変化させずに溶着し、積層一体化が可能である。そのため重ね合わせるPEEKフィルム1の厚さを選択するだけでシート材、板材として利用可能な任意の厚さの積層体が厚さばらつきを小さくして得られ、特に従来の押出成形によるシート材、板材と比較して厚さばらつきが小さいという大きな利点がある。
また本工程のレーザ溶着によるPEEKフィルム1の収縮はほとんど無視できるため、重ね合わせる際のPEEKフィルム1の方向(MD方向、TD方向)に制約がないという利点もあり、効率的にPEEKフィルム1を使用できる。
フィルム束2の作製においてPEEKフィルム1同士の重ね合わせの位置を合わせるため、同寸法に切り出されたものを重ね合わせることが好ましい。重ね合わせにおいて特に熱や圧力を付加する必要はないが、できるだけPEEKフィルム1のフィルム間に空気や皺がないように重ね合わせることが好ましい。
【0027】
図7を参照してフィルムの溶着状態を評価する方法を説明する。(1)の写真は、レーザ光LB照射部と非照射部とが隣接したフィルム束2の断面をデジタルマイクロスコープで拡大して撮影した写真である。レーザ光LB非照射部では、溶着していないPEEKフィルムの個々の枚葉が重ね合わさった状態が観察されている。一方、レーザ光LB照射部ではPEEKフィルムは互いに溶着・一体化している。非照射部(非溶着部)と照射部(溶着部)との総厚の差がほとんどないことがわかる。(2)の写真は、照射部の断面を拡大して撮影した写真である。レーザ光LB照射により溶着・一体化されたPEEKフィルム積層体の内部の溶着状態は、検査するPEEKフィルム積層体を刃物などで切断し、その断面を観察することで評価できる。レーザ照射条件が充分でないとPEEKフィルムの層間で、刃物の押圧より剥離する部分が生じる(写真中の矢印で示す部分)。(3)の写真は、照射部の断面を拡大して撮影した別の写真であり、PEEKフィルム同士が良好に溶着しており、断面を切り出した際に剥離した部分は生じていない。
【0028】
以上で説明したレーザ光照射工程と溶着・一体化工程は、同一工程(レーザ光照射・溶着・一体化工程)として同時に行ってもよい。
【0029】
≪第二態様≫
本発明の第二態様は、配置工程と、溶着工程と、取得工程とを含むPEEKフィルム積層体の製造方法である。
配置工程は、複数の低結晶PEEKフィルム1を重ねたフィルム束2を準備し前記フィルム束2の少なくとも一方の最表面にそれぞれ1枚以上の高結晶PEEKフィルムからなる非溶着緩衝フィルム4を重ね、前記非溶着緩衝フィルム4がヒートシンク3と圧接されるようにフィルム束2を配置する工程である。
溶着工程は、ヒートシンク3及び非溶着緩衝フィルム4を通して、フィルム束2の内部に向けてレーザ光LBを照射し、フィルム束2の照射部位を溶着する工程である。
取得工程は、フィルム束2に溶着しなかった非溶着緩衝フィルム4をフィルム束2から離すことにより、前記複数の低結晶PEEKフィルム1が互いに溶着したPEEKフィルム積層体を得る工程である。
【0030】
第二態様が第一態様と異なる点は、フィルム束2の最表面のPEEKフィルム1とヒートシンク3との間に非溶着緩衝フィルム4を挟持した状態でレーザ光LBを照射する点である(図6(c)参照)。レーザ光LBを照射してフィルム束2のPEEKフィルム1同士を溶着した後であっても、非溶着緩衝フィルム4はヒートシンク3とフィルム束2に溶着しないので、フィルム束2から容易に剥離することができる。非溶着緩衝フィルム4を配置することにより、フィルム束2の溶着後の最表面のフィルムの表面を元の良好な状態のまま維持することが容易になる。また、レーザ照射後のフィルム束2から剥離した非溶着緩衝フィルム4は再利用が可能である。これは、後述する試験例に記載されるとおり高結晶PEEKフィルムは低結晶PEEKフィルムよりも溶着に必要なレーザエネルギーが高いことに基づくものであり、高結晶PEEKフィルムと低結晶PEEKフィルムとを重ね合わせてレーザ照射をしてもこれらが溶着しない加工条件が存在することを利用するものである。
【0031】
<配置工程>
実施形態の一例として、図2に示す様に、複数枚の低結晶PEEKフィルム1重ね合わせてフィルム束2を得て、そのフィルム束2の上面に第一の非溶着緩衝フィルム4を重ね合わせ、フィルム束2の下面に第二の非溶着緩衝フィルム5を重ね合わせる。さらに第一の非溶着緩衝フィルム4をフィルム束2とヒートシンク3に挟持するように配置し、ヒートシンク3に圧接させて配置する。
【0032】
フィルム束2及びこれを構成する低結晶PEEKフィルム1の説明は第一態様の低結晶PEEKフィルムの説明と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0033】
第一及び第二の非溶着緩衝フィルム4,5は、1枚以上の高結晶PEEKフィルムからなるシートである。この枚数は特に規定されないが作業性の面では配置する枚数は1枚であることが好ましい。
高結晶PEEKフィルムは低結晶PEEKフィルムが溶着するレーザエネルギーでは溶着し難い特性を有する。このメカニズムの詳細は未解明であるが、前記のとおり高結晶PEEKフィルムは、低結晶PEEKフィルムに比べて結晶部が多く存在することが要因であると推測される。
【0034】
非溶着緩衝フィルム4,5として使用する高結晶PEEKフィルムの水分含有率は、1500ppm~3000ppm、好ましくは2000ppm~3000ppmである。
上記範囲であると、レーザ照射による高結晶PEEKフィルムの損傷を低減し、レーザ照射によって高結晶PEEKフィルムがフィルム束2に溶着することを防止し、レーザ照射後の高結晶PEEKフィルムをフィルム束2から容易に離すことができる。
前記水分含有率は、前述した方法により測定される。
【0035】
高結晶PEEKフィルムの結晶化度は、20%以上が好ましく、22%以上がより好ましく、24%以上がさらに好ましい。
上記の好ましい範囲であると、高結晶PEEKフィルムの結晶部により熱融着性を低下させることができる。
【0036】
第一及び第二の非溶着緩衝フィルム4,5を構成する1枚以上の高結晶PEEKフィルの厚さは、それぞれ独立に、例えば、30~300μmとすることができ、50~200μmがより好ましい。
【0037】
第二の非溶着緩衝フィルム5の厚さ(高結晶PEEKフィルムの積層方向の総厚)が充分であると、フィルム束2を透過したレーザ光LBを受け止めることができる。第二の非溶着緩衝フィルム5に入射したレーザ光LBの一部が第二の非溶着緩衝フィルム5の内部で吸収され、残部は第二の非溶着緩衝フィルム5を透過してもよい。第二の非溶着緩衝フィルム5を透過するレーザ光LBは別の任意の部材で吸収すればよい。この際、別の任意の部材が加熱されて第二の非溶着緩衝フィルム5と仮に溶着したとしても、後段で第二の非溶着緩衝フィルム5をフィルム束2から除去するので問題はない。また、第二の非溶着緩衝フィルム5(高結晶PEEKフィルム)とフィルム束2の下面(低結晶PEEKフィルム)とは溶着し難いので、目的のPEEKフィルム積層体の下面から第二の非溶着緩衝フィルム5を除去することは容易である。
【0038】
溶着・一体化工程により積層体を得るためには、フィルム束2の最下層すなわちレーザ光照射方向に対して最下層に位置する低結晶PEEKフィルム1までが完全に溶着・一体化されている状態であることが必要であり、その状態を得るために十分なレーザ出力などの加工条件を設定することが必要である。その状態を確認する方法として前記最下層に位置する低結晶PEEKフィルム1と接触して配置される第二の非溶着緩衝フィルム5の表面に意図して凹凸形状を形成しておき、溶着・一体化工程においてヒートシンク3の圧接力によってこの凹凸形状が前記最下層に位置する低結晶PEEKフィルム1表面に転写させる方法が利用できる。例えば、第二の非溶着緩衝フィルム5の上面を構成する高結晶PEEKフィルの表面に微小な複数のディンプル(凹部)を分散して予め形成しておき、上述のようにフィルム束2の最下層に配置される低結晶PEEKフィルム1表面に接してレーザ光LBを照射すると、フィルム束2(すなわちPEEKフィルム積層体)の下面に、ディンプルが反転して転写した微小な複数の転写痕(凸部)を形成することができ、これは低倍率の顕微鏡での目視により確認することが可能である。この状態は最下層に配置された低結晶PEEKフィルム1が十分に溶融したことを示し、また第二の非溶着緩衝フィルム5である高結晶PEEKフィルムが溶融していないこと、すなわち溶着していないことを示すものである。この方法により上記したレーザ出力、加工条件が適正であるかの確認および適正な加工条件を設定することができる。なお、実際のPEEKフィルム積層体の製造においては上記方法で積層・一体化工程を行ってもよいし、上記方法を加工条件の設定として利用して適正な加工条件を設定するステップと、製造においてディンプル(凹部)を有さない平滑な表面を有する第二の非溶着緩衝フィルム5を利用するステップで行ってもよい。これにより表面に転写痕のないPEEKフィルム積層体を製造することができる。
また、第一の非着緩衝フィルム4についても同様に凹凸形状を形成しておき、フィルム束2の最上層に位置する低結晶PEEKフィルム1に対するディンプル(凹部)のを転写させることも可能である。フィルム束2の最上層及び最下層の低結晶PEEKフィルム1のディンプル(凹部)の転写痕(凸部)の状態を比較することでレーザ加工条件の調整並びに適正な条件設定に利用できる。
さらに、上記ステップにおいてフィルム束2を構成する低結晶PEEKフィルム1の全てを溶着させてPEEKフィルム積層体を得る目的においては、第一の非溶着緩衝フィルム4のみを使用することでもよい。つまり、第二の非溶着緩衝フィルム5は使用してもよいし、使用しなくてもよい。
【0039】
本態様で用いるヒートシンクの説明は、第一態様のヒートシンクの説明と同様であるので重複する説明は省略する。
本態様で用いるレーザ光及びレーザ装置の説明は、第一態様のレーザ光の説明と同様であるので重複する説明は省略する。
【0040】
<溶着工程>
本態様の溶着工程の説明は、第一態様のレーザ光照射工程および溶着・一体化工程における説明と同様であるので重複する説明は省略する。
【0041】
<取得工程>
溶着工程の後、フィルム束2に溶着しなかった第一の非溶着緩衝フィルム4及び第二の非溶着緩衝フィルム5をフィルム束2の上面及び下面から離すことにより、複数の低結晶PEEKフィルム1が互いに溶着したPEEKフィルム積層体を得る。上述の通り各非溶着緩衝フィルム4,5は低結晶PEEKフィルム1に溶着し難い性質があるので、これらを除去するのは単に取り外せばよいだけである。
【0042】
以上の工程で形成されたPEEKフィルム積層体は、複数の低結晶PEEKフィルム1が互いに溶着したものである。
PEEKフィルム積層体の上面は、レーザ光LBが入射した面であるが、ヒートシンク3による放熱及び第一の非溶着緩衝フィルム4によるバッファー効果の結果、焦げによる黒化や白化が生じず、元の低結晶PEEKフィルム1と同様の平滑面を呈し得る。
また、PEEKフィルム積層体の下面は、上面と同様に概ね平滑面であり、この上面および下面に接していた第一の非溶着緩衝フィルム4および第二の非溶着緩衝フィルム5のディンプルが転写されていてもよい。さらに、PEEKフィルム積層体にこの転写が好ましくない場合は、上記したステップのように表面にディンプル(凹部)を形成していない平滑な面を有する非溶着緩衝フィルム4,5を使用して、ディンプルを有する非溶着緩衝フィルム4,5を使用して得られた適正なレーザ加工条件により溶着、積層一体化すれば、表面が平滑なPEEKフィルム積層体を得ることができる。
【実施例0043】
[試験群1]《第一態様》試験No.1~No.10 図8に試験内容と結果を示す。
高結晶PEEKフィルムのみでフィルム束を作製し、所定のレーザ加工条件で加工試験を行った。
具体的には下記の条件で図3の構成の加工装置を利用してレーザ加工を行った。
1)PEEKフィルム
高結晶PEEKフィルム
厚さ、結晶化度、水分含有率は図8に記載
2)ヒートシンク
材質:サファイア φ60mmの円形 厚さ:4mm
波長1.908μmのレーザ光透過率:85%
25℃における熱伝導率 42W・m-1・K-1
ヤング率 470GPa
ポアソン比 0.3
圧接力:0.024MPa、0.05MPa、0.06MPa
3)レーザ発振器
ツリウムファイバーレーザ(IPG社製 Model-50-1908)
波長:1.908μm
最大出力:50W
ビーム径:4.3mm
4)フィルム束の作製
縦25mm、横15mmの大きさのフィルム束を作製した。
No.1~No.6は50μm厚のフィルムのみを使用
No.7 50μm厚のフィルムを25枚重ね、その上下に150μm厚のフィルム各1枚をそれぞれ重ねてヒートシンクに接触する側と下面側に150μm厚のフィルムがくるように配置した。
No.8 20μm厚のフィルムを40枚重ね、その上下に100μm厚のフィルム各1枚をそれぞれ重ねてヒートシンクに接触する側と下面側に100m厚のフィルムがくるように配置した。
No.9 20μm厚のフィルムを25枚重ね、その上下に100μm厚のフィルム各1枚をそれぞれ重ねてヒートシンクに接触する側と下面側に100μm厚のフィルムがくるように配置した。
No.10 50μm厚のフィルムを15枚重ね、これを挟持するように150μm厚と100μm厚のフィルム各1枚をそれぞれ重ねてヒートシンクに接触する側に150μm厚のフィルムがくるように配置した。
5)レーザ加工条件
図8に記載
溶着寸法:縦20mm、横10mm(縦20mmのラインを10ライン加工)
【0044】
試験No.1~No.10についてレーザ加工後にPEEKフィルム積層体を取り出し、フィルム束の溶着状態を確認した。その結果、フィルム束のヒートシンクに接触している面ならびにレーザ照射方向に対して下面側に未溶着のPEEKフィルムがあり、それぞれPEEKフィルム積層体から容易に剥離が可能であり、これらを剥離することで所定厚さのPEEKフィルム積層体を得た結果を図8に示す。得られたPEEKフィルム積層体は溶着寸法の全面が溶着されていること、熱によるPEEKフィルムの分解・黒化、気泡の発生がなく良好な結果であった。
すなわち本実施態様では、フィルム束を構成するPEEKフィルムの厚さ、重ね合わせ数をレーザ加工後に未溶着で剥離する枚数とこれに対応するレーザ加工条件を設定することで、所望の厚さのPEEKフィルム積層体を得ることができる。
なお、フィルム束の上面側はヒートシンクによる放熱効果により未溶着状態が得られ、また、レーザ照射方向に対して下面側の未溶着状態はレーザ出力や走査速度により調整可能である。一方で、さらに高出力のレーザ発振器によりレーザ出力を上げてフィルム束の下面側のすべてのPEEKフィルムを溶着させることも可能である。この場合、フィルム束を透過したレーザ光を吸収するとともにPEEKフィルム積層体が剥離可能な構造を設けることが必要である。
図8の外観評価は次の基準で行った。
「PEEKフィルム積層体の状態評価」は溶着寸法の全面が溶着されていること、熱によるPEEKフィルムの分解・黒化、気泡の発生がないことを「良」とした。
【0045】
[試験群2]《第一態様》試験No.11~No.20 図9に試験内容と結果を示す。
低結晶PEEKフィルムのみでフィルム束を作製し、所定のレーザ加工条件で加工試験を行った。
下記の条件で図3の構成の加工装置を利用してレーザ加工を行った。
1) PEEKフィルム
低結晶PEEKフィルム
厚さ、結晶化度、水分含有率は図9に記載
2)ヒートシンク
材質:サファイア φ60mmの円形 厚さ:4mm
波長1.908μmのレーザ光透過率:85%
25℃における熱伝導率 42W・m-1・K-1
ヤング率 470GPa
ポアソン比 0.3
圧接力:0.024MPa、0.05MPa、0.06MPa
3)レーザ発振器
ツリウムファイバーレーザ(IPG社製 Model-50-1908)
波長:1.908μm
最大出力:50W
ビーム径:4.3mm
4)フィルム束の作製
縦25mm、横15mmの大きさのフィルム束を作製した。
No.11~No.16:50μm厚のフィルムのみを使用
No.17: 50μm厚のフィルムを25枚重ね、その上下に150μm厚のフィルム各1枚をそれぞれ重ねてヒートシンクに接触する側と下面側に150μm厚のフィルムがくるように配置した。
No.18: 20μm厚のフィルムを40枚重ね、その上下に100μm厚のフィルム各1枚をそれぞれ重ねてヒートシンクに接触する側と下面側に100μm厚のフィルムがくるように配置した。
No.19: 20μm厚のフィルムを25枚重ね、その上下に100μm厚のフィルム各1枚をそれぞれ重ねてヒートシンクに接触する側と下面側に100μm厚のフィルムがくるように配置した。
No.20: 50μm厚のフィルムを15枚重ね、これを挟持するように150μm厚と100のフィルム各1枚をそれぞれ重ねてヒートシンクに接触する側に150μm厚のフィルムがくるように配置した。
5)レーザ加工条件
図9に記載
溶着寸法:縦20mm、横10mm(縦20mmのラインを10ライン加工)
【0046】
試験No.11~No.20についてレーザ加工後にフィルム束を取り出し、フィルム束の溶着状態を確認した。
その結果、フィルム束のヒートシンクに接触している面ならびにレーザ照射方向に対して下面側に未溶着のPEEKフィルムがあり、それぞれPEEKフィルム積層体から容易に剥離が可能であり、これらを剥離することで所定厚さのPEEKフィルム積層体を得た結果をそれぞれ図9に示す。得られたPEEKフィルム積層体は溶着寸法の全面が溶着されていること、熱によるPEEKフィルムの分解・黒化、気泡の発生がなく良好な結果であった。
図9の外観評価は次の基準で行った。
「PEEKフィルム積層体の状態評価」は溶着寸法の全面が溶着されていること、熱に2よるPEEKフィルムの分解・黒化、気泡の発生がないことを「良」とした。
【0047】
試験群1および試験群2から本実施態様では、フィルム束を構成するPEEKフィルム1の厚さ、重ね合わせ数をレーザ加工後に未溶着で剥離する枚数とこれに対応するレーザ加工条件を設定することで、所望の厚さのPEEKフィルム積層体を得ることができる。
なお、フィルム束の上面側はヒートシンクによる放熱効果により未溶着状態が得られ、また、レーザ照射方向に対して下面側の未溶着状態はレーザ出力や走査速度により調整可能である。一方で、さらに高出力のレーザ発振器によりレーザ出力を上げてフィルム束の下面側のすべてのPEEKフィルムを溶着させることも可能である。この場合、フィルム束2を透過したレーザ光を吸収するとともに積層体が剥離可能な構造を設けることが必要である。
【0048】
さらに、ヒートシンクに圧接される面の1枚のPEEKフィルム1の厚さを100μm、150μmとしたフィルム束をレーザ加工することにより重ね合わせたフィルムの枚数すべてが溶着したPEEKフィルム積層体を得ることができた。フィルム束最表面のフィルム厚さを厚くすることでフィルム束最表面のフィルムの状態を維持するヒートシンク効果とともに、直下のフィルムとの溶着面には十分なエネルギー状態にあるためである。高結晶フィルムは低結晶フィルムよりも光子エネルギーが必要であることから、送り速度を3mm/sec.、5mm/sec.と低結晶フィルムよりも遅い設定となっている。
【0049】
試験群1および試験群2の結果から高結晶PEEKフィルムは低結晶PEEKフィルムよりも溶着枚数が少なくなる傾向にあった。そこで、補完する試験として高結晶PEEKフィルムと低結晶PEEKフィルムの同一レーザ溶着条件による溶着枚数の違いを試験した結果を図10に示す。なおこの試験では図8のNo.5および図9のNo.1に使用したものと同様な高結晶PEEKフィルムと低結晶PEEKフィルムを用いた。
【0050】
図10の結果によると同一のレーザ加工条件で溶着可能な枚数に差があり、低結晶PEEKフィルムが溶着するレーザ加工条件は高結晶PEEKフィルムの溶着条件として不十分であることを示しており、これは高結晶PEEKフィルムと低結晶PEEKフィルムとを重ね合わせた場合に、フィルム同士が溶着しない加工条件が存在すること示唆している。
【0051】
[試験群3]≪第二態様≫ (非溶着緩衝PEEKフィルムを利用)
試験No.21~No.24
低結晶PEEKフィルムのみでフィルム束を作製し、その最表面の少なくとも片面に非溶着緩衝PEEKフィルムとして高結晶PEEKフィルムを重ね合わせ、この高結晶PEEKフィルム面をヒートシンクと接するように配置しフィルム束が圧接された状態に配置した。そして、図11に記載のとおり下記の条件で図3の構成の加工装置を利用してレーザ加工を行った。
1)PEEKフィルム
(1) フィルム束の低結晶PEEKフィルム (図11
(2) 非溶着緩衝PEEKフィルム用の高結晶PEEKフィルム (図11
2)ヒートシンク
材質:サファイア φ60mmの円形 厚さ:4mm
波長1.908μmのレーザ光透過率:85%
25℃における熱伝導率 42W・m-1・K-1
ヤング率 470GPa
ポアソン比 0.3
圧接力:0.064MPa
3)レーザ発振器
ツリウムファイバーレーザ(IPG社製 Model-50-1908)
波長:1.908μm
最大出力:50W
ビーム径:4.3mm
4)フィルム束の作製
1)の低結晶PEEKフィルムを使用して図11に示す重ね合わせ数で縦25mm、横15mmの大きさのフィルム束を作製した。
5)非溶着緩衝PEEKフィルムの配置
1)の高結晶PEEKフィルムをフィルム束の上面、下面にそれぞれ1枚ずつ、フィルム束に重ね合わせて配置した。
6)レーザ加工条件
図11に記載
溶着寸法:縦20mm、横10mm(縦20mmのラインを10ライン加工)
【0052】
試験No.21~No.24についてレーザ加工後にフィルム束を取り出し、フィルム束の溶着状態を確認した。
その結果、フィルム束のヒートシンクに接触している面ならびにレーザ照射方向に対して下面側に配置した非溶融緩衝PEEKフィルムはフィルム束と溶着しておらずフィルム束から容易に離すことが可能であり、これらを剥離することでフィルム束を構成する低結晶PEEKフィルムの全てが溶着したPEEKフィルム積層体を得ることができた。試験結果を図12に示す。得られたPEEKフィルム積層体は溶着寸法の全面が溶着されていること、熱によるPEEKフィルムの分解・黒化、気泡の発生がなく良好な結果であった。また、断面評価では切断面にPEEKフィルムの未溶着による空隙および気泡などは見られなかった。
【0053】
図12の結果は次の基準で評価した。
・積層一体化後のフィルム総厚の合否判断;目標厚さ±2.5%を合格とする。
・非溶着緩衝PEEKフィルムはフィルム束と溶着せずに剥離可能であり、かつPEEKフィルム積層体の表面状態が良好である状態を良とした。
・外観評価;
「表面状態」は溶着寸法の全面が溶着されていること、熱によるPEEKフィルムの分解・黒化、気泡の発生がないこと。
「断面評価」は断面の切断面にPEEKフィルムの層間に未溶着の空隙がないこと。
「全体評価」は積層体の厚さばらつきも含めて評価した。
【0054】
[試験群4]≪第2態様≫ (非溶着保護PEEKフィルムを利用、ディンプル転写)
試験No.25~No.30
非溶着緩衝PEEKフィルムとして片表面に径10μm、深さ10μmのディンプル(凹部)を30μm間隔に格子状に配列し形成した高結晶PEEKフィルムを用いた。低結晶PEEKフィルムのみでフィルム束を作製し、その最表面の少なくとも片面にこの高結晶PEEKフィルムをディンプル面がフィルム束の最表面側と接触する位置に重ね合わせ、この高結晶PEEKフィルム面をヒートシンクと接するように配置しフィルム束が圧接された状態に配置した。そして、図13に記載のとおり下記の条件で図3の構成の加工装置を利用してレーザ加工を行った。
1)PEEKフィルム
(1) フィルム束の低結晶PEEKフィルム(図13
(2) 非溶着緩衝PEEKフィルム用の高結晶PEEKフィルム (図13
200μm厚の高結晶PEEKフィルムの片表面に径10μm、深さ10μmのディンプル(凹部)を30μm間隔に格子状に配列し形成した。この形成方法としてはフィルムの成膜時に金型やロール表面に形成された凸構造の転写などの公知方法が利用できる。
このディンプル(凹部)形成面がフィルム束と接する面となるように非溶着緩衝PEEKフィルムを配置した。
2)ヒートシンク
材質:サファイア φ60mmの円形 厚さ:4mm
波長1.908μmのレーザ光透過率:85%
25℃における熱伝導率 42W・m-1・K-1
ヤング率 470GPa
ポアソン比 0.3
圧接力:0.024MPa、0.050MPa、0.064MPa
3)レーザ発振器
ツリウムファイバーレーザ(IPG社製 Model-50-1908)
波長:1.908μm
最大出力:50W
ビーム径:4.3mm
4)フィルム束の作製
1)の低結晶PEEKフィルムを使用して図13に示す重ね合わせ数で縦25mm、横15mmの大きさのフィルム束を作製した
5)非溶着緩衝PEEKフィルムの配置
1)の高結晶PEEKフィルムをフィルム束の上面、下面にそれぞれ1枚ずつ、もしくは上面のみに1枚をフィルム束に重ね合わせて配置した。
6)レーザ加工条件
図13に記載
溶着寸法:縦20mm、横10mm(縦20mmのラインを10ライン加工)
【0055】
試験No.25~試験No.30についてレーザ加工後にフィルム束を取り出し、溶着状態を確認した結果を図14および図15に示す。
その結果、フィルム束のヒートシンクに接触している面ならびにレーザ照射方向に対して下面側に配置した非溶融緩衝PEEKフィルムはフィルム束と溶着しておらずフィルム束から容易に離すことが可能であり、これらを剥離することでフィルム束を構成する低結晶PEEKフィルムの全てが溶着したPEEKフィルム積層体を得ることができた。PEEKフィルム積層体は溶着寸法の全面が溶着されており、熱によるPEEKフィルムの分解・黒化、気泡の発生がなく良好な結果であった。
また、PEEKフィルム積層体の表面を共焦点レーザ顕微鏡(機種名:OLS4100 オリンパス株式会社製)により観察した。その結果、PEEKフィルム積層体の両面に重ね合わされていた高結晶PEEKフィルムのディンプル(凹部)を転写した凸構造が観察され低結晶PEEKフィルムで構成されたフィルム束の表面から下面までがレーザにより十分に溶融されていることを確認できた。
【0056】
次にPEEKフィルム積層体の厚さを測定した。測定はミツトヨ製マイクロメータを使用し20点の厚さを測定し、中央値、最大値、最小値で評価し、厚さばらつき(範囲)を求めた。その結果、ディンプルの転写も含めた厚さばらつき(範囲)は2.5%以内であり厚さばらつくきが少なく、厚さ精度の良いPEEKフィルム積層体が得られた。なお、PEEKフィルム積層体の厚さは使用した低結晶PEEKフィルムの厚さ精度により若干変動するが、これは異なる厚さのフィルム、重ね合わせ枚数、ヒートシンクの圧接力などにより調整可能である。
【0057】
[試験群5]≪第2態様≫ (水分含有率の比較)
試験No.31~No.41(No.37~No.41は比較例)
水分含有率を変化させた低結晶PEEKフィルムのみでフィルム束を作製し、その最表面の少なくとも片面に非溶融緩衝PEEKフィルムとして高結晶PEEKフィルムを重ね合わせ、この高結晶PEEKフィルム面をヒートシンクと接するように配置しフィルム束が圧接された状態に配置した。そして、図16に記載のとおり下記の条件で図3の構成の加工装置を利用してレーザ加工を行った。
1)PEEKフィルム
(1)フィルム束の低結晶PEEKフィルム
吸湿:23℃水中に最大92時間浸漬し吸湿させたもの
乾燥:120℃のギヤオーブン中で48時間から72時間乾燥させたものを使用
(2) 非溶融緩衝高結晶PEEKフィルム
高結晶PEEKフィルムの片表面に径10μm、深さ10μmのディンプル(凹部)を30μm間隔に格子状に配列し形成した。
2)ヒートシンク
材質:サファイア φ60mmの円形 厚さ:4mm
波長1.908μmのレーザ光透過率:85%
25℃における熱伝導率 42W・m-1・K-1
ヤング率 470GPa
ポアソン比 0.3
圧接力:0.05MPa
3)レーザ発振器
ツリウムファイバーレーザ(IPG社製 Model-50-1908)
波長:1.908μm
最大出力:50W
ビーム径:4.3mm
4)フィルム束の作製
1)の低結晶PEEKフィルムおよび高結晶PEEKフィルムを使用して、図16に示す重ね合わせ数で縦25mm、横15mmの大きさのフィルム束を作製した
5)レーザ加工条件
図16に記載
溶着寸法:縦20mm、横10mm(縦20mmのラインを10ライン加工)
【0058】
水分含有率が十分である低結晶PEEKフィルムを利用したNo.31~No.36について、レーザ加工後にフィルム束を取り出しPEEKフィルム積層体の状態を確認した。レーザ照射による黒化は発生せず、PEEKフィルム積層体の状態も良好であった。一方、乾燥処理により水分含有率を低下させた低結晶PEEKフィルムを用いたNo.37~No.41ではレーザ照射によりフィルム束に熱分解による黒化が発生した。一部のPEEKフィルム積層体の外観写真結果を図17に示す。
【符号の説明】
【0059】
1 …PEEKフィルム
2 …フィルム束
3 …ヒートシンク
4 …第一の非溶着緩衝フィルム
5 …第二の非溶着緩衝フィルム
LB …レーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17