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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124162
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】食品の処理方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20220818BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20220818BHJP
【FI】
A23L5/00 Z
A23L7/109 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021767
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】399075500
【氏名又は名称】株式会社吉野家ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】春木 茂
(72)【発明者】
【氏名】菅原 諭
【テーマコード(参考)】
4B035
4B046
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE01
4B035LG35
4B035LG48
4B035LG51
4B035LP31
4B035LP41
4B035LP59
4B046LA01
4B046LA09
4B046LB20
4B046LC20
4B046LE20
4B046LG46
4B046LG48
4B046LG60
4B046LP01
4B046LP34
4B046LP80
(57)【要約】      (修正有)
【課題】主原料として小麦粉を含む食品を、大型処理設備を用いることなく汎用機器のみで乾燥させる処理方法、特に、乾燥させて減容した粉末にすることが可能な処理方法を提供する。
【解決手段】主原料として小麦粉を含む食品の処理方法であって、該食品は、食品の製造又は調理工程において、加水して捏ねる工程を含み、かつ、焼成工程及び揚げ工程を含まないものであり、該食品の処理方法は、加水分解酵素を含む材料に食品を混合して粉砕するステップ、食品を粉砕して加水分解酵素を含む材料を添加するステップ、又は、加水分解酵素を含む材料に食品を混合するのと並行してあるいは交互に食品を粉砕するステップと、粉砕された食品を保温し、加水分解反応を行うステップと、加水分解反応を行った食品を、乾燥させるステップと、を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料として小麦粉を含む食品の処理方法であって、
前記食品は、前記食品の製造又は調理工程において、加水して捏ねる工程を含み、かつ、焼成工程及び揚げ工程を含まないものであり、
該食品の処理方法は、
加水分解酵素を含む材料に前記食品を混合して粉砕するステップ、前記食品を粉砕して加水分解酵素を含む材料を添加するステップ、又は、加水分解酵素を含む材料に前記食品を混合するのと並行してあるいは交互に前記食品を粉砕するステップと、
前記粉砕された前記食品を保温し、加水分解反応を行うステップと、
前記加水分解反応を行った食品を、乾燥させるステップと、
を含む、食品の処理方法。
【請求項2】
前記加水分解酵素はアミラーゼ群である、請求項1に記載の食品の処理方法。
【請求項3】
前記材料は、米麹である、請求項1に記載の食品の処理方法。
【請求項4】
前記食品を粉砕するステップにおいて、30℃~50℃の水(湯)を配合する、請求項1~3いずれか一項に記載の食品の処理方法。
【請求項5】
前記加水分解反応を行うステップにおいて、前記粉砕された前記食品を30℃~50℃に保温する、請求項1~4いずれか一項に記載の食品の処理方法。
【請求項6】
前記乾燥させるステップは、濾過を含み、前記濾過で濾液を分離したあとの残渣を加熱乾燥させる、請求項1~5いずれか一項に記載の食品の処理方法。
【請求項7】
前記食品は、うどん、きしめん、ひもかわ、ほうとう等の麺類、スパゲティ、マカロニ、ニョッキ等のパスタ類、餃子の皮、シューマイの皮、ワンタンの皮である、請求項1~6いずれか一項に記載の食品の処理方法。
【請求項8】
前記食品は、前記食品の製造工程又は調理工程において、茹で工程、又は、蒸し工程を含む、請求項1~7いずれか一項に記載の食品の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の処理方法に関する。特に、主原料として小麦粉を含む食品の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉には、タンパク質が約6質量%~約15質量%含まれる。該タンパク質としてグリアジンとグルテニンがほぼ同量含まれ、合わせて小麦粉タンパク質全量の80%強を占める。このようなタンパク質を含有する小麦粉に水を加えて捏ねると、粘着力があるグリアジンと弾力性があるグルテニンが絡み合い、粘着力と弾力性を備えたグルテンが形成される。なお、このグルテンの形成度合いや粘弾性の度合いは、小麦粉の種類、水分量、捏ね方等の条件により異なる。
【0003】
このため、主原料として小麦粉を含む食品は、製造や調理の過程で水を加えて捏ねられると、上記2つのタンパク質が絡み合ったグルテンの形成により、いわゆるコシが生まれる。また、小麦粉に含まれる約70質量%~約75質量%の炭水化物や、もともと食品に含まれる水分、コシを出すために加えられた水、あるいは、茹でる/蒸す等の工程で食品に入り込んだ水は、絡み合った網目構造のグルテン中を中心に食品中に保持されやすいと考えられる。
【0004】
ところで、このように製造・調理された主原料として小麦粉を含む食品は、廃棄処理の段階において、食品内に強く保持された水分や炭水化物等の成分を簡単に取り除くことが難しいという問題があった。すなわち、グルテンの網目構造の間等に水分や炭水化物等が保持された食品は、時間が経過するにつれ水分を取り込みやすくなる傾向があり、水分を飛ばすための加熱乾燥前に攪拌するとますますゲル状になり、あるいは糊化し、また、汎用装置での加熱乾燥も凍結乾燥もできないという課題があった。このため、水分や炭水化物を含んだままのかさばってかつ重たい廃棄食品を、大型処理設備を持つ廃棄処理場まで運搬して処理する必要があった(特許文献1等参照)。この場合、大型処理設備による処理費用もかさむと共に、毎日のように各店舗から廃棄処理場までの運搬費用もかさむという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-236878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、主原料として小麦粉を含む食品を、大型処理設備を用いることなく汎用機器のみで乾燥・減容させる処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の食品の処理方法は、主原料として小麦粉を含む食品の処理方法であって、前記食品は、前記食品の製造又は調理工程において、加水して捏ねる工程を含み、かつ、焼成工程及び揚げ工程を含まないものであり、該食品の処理方法は、加水分解酵素を含む材料に前記食品を混合して粉砕するステップ、前記食品を粉砕して加水分解酵素を含む材料を添加するステップ、又は、加水分解酵素を含む材料に前記食品を混合するのと並行してあるいは交互に前記食品を粉砕するステップと、前記粉砕された前記食品を保温し、加水分解反応を行うステップと、前記加水分解反応を行った食品を、乾燥させるステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
前記加水分解酵素はアミラーゼ群であることが好ましい。
【0009】
前記材料は、米麹であってもよい。
【0010】
前記食品を粉砕するステップにおいて、30℃~50℃の水(湯)を配合することが好ましい。
【0011】
前記加水分解反応を行うステップにおいて、前記粉砕された前記食品を30℃~50℃に保温することが好ましい。
【0012】
前記乾燥させるステップは、濾過を含み、前記濾過で濾液を分離したあとの残渣を加熱乾燥させてもよい。
【0013】
前記食品は、うどん、きしめん、ひもかわ、ほうとう等の麺類、スパゲティ、マカロニ、ニョッキ等のパスタ類、餃子の皮、シューマイの皮、ワンタンの皮であることが例示される。
【0014】
前記食品は、前記食品の製造工程又は調理工程において、茹で工程、又は、蒸し工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の食品の処理方法によれば、主原料として小麦粉を含む食品を、大型処理設備を用いることなく汎用機器のみで乾燥させることができる。特に、主原料として小麦粉を含む食品を、乾燥させて重量減少させた粉末にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の処理方法の概要を示す。
図2】茹でたうどんを粉砕した直後(反応時間0時間)の外観写真を示す。
図3】茹でたうどんを粉砕し、加水分解酵素を含む材料を用いなかった場合の、反応時間1時間後の外観写真を示す。
図4】茹でたうどんを粉砕し、加水分解酵素を含む材料として米麹を用いた場合の、反応時間1時間後の外観写真を示す。
図5】茹でたうどんを粉砕し、加水分解酵素を含む材料を用いなかった場合の、反応時間3時間後の外観写真を示す。
図6】茹でたうどんを粉砕し、加水分解酵素を含む材料として米麹を用いた場合の、反応時間3時間後の外観写真を示す。
図7】茹でたうどんを粉砕し、加水分解酵素を含む材料を用いなかった場合の、反応時間5時間後の外観写真を示す。
図8】茹でたうどんを粉砕し、加水分解酵素を含む材料として米麹を用いた場合の、反応時間5時間後の外観写真を示す。
図9】茹でたうどんを粉砕し、加水分解酵素を含む材料を用いなかった場合の、反応時間24時間後の外観写真を示す。
図10】茹でたうどんを粉砕し、加水分解酵素を含む材料として米麹を用いた場合の、反応時間24時間後の外観写真を示す。
図11】茹でたうどんに対し、加水分解酵素を含む材料として米麹を用いた場合、及び、加水分解酵素を含む材料を用いなかった場合の、濾過残渣の湿潤重量を、反応時間に対して示したものである。
図12】茹でたうどんに対し、加水分解酵素を含む材料として米麹を用いた場合、及び、加水分解酵素を含む材料を用いなかった場合の、濾液の沈殿物乾燥重量を、反応時間に対して示したものである。
図13】茹でたうどんに対し、加水分解酵素を含む材料として米麹を用いた場合、及び、加水分解酵素を含む材料を用いなかった場合の、濾液の上清の吸光度を、反応時間に対して示したものである。図13(a)は米麹なしの場合の360nmの吸光度、図13(b)は米麹なしの場合の660nmの吸光度、図13(c)は米麹ありの場合の360nmの吸光度、図13(d)は米麹ありの場合の660nmの吸光度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を用いて、本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
(食品の処理方法)
本発明は、主原料として小麦粉を含む食品(1)の処理方法であり、加水分解酵素を含む材料を添加して食品を粉砕し(S10)、加水分解反応を行い(S20)、乾燥させる(S30)ステップを含むものである。
【0019】
(食品)
本発明において処理する食品(1)は、主原料として小麦粉を含むものである。該食品(1)は、その製造工程又は調理工程において、加水して捏ねる工程を含み、かつ、焼成工程を含まないもの、あるいは、揚げ工程を含まないものである。
【0020】
小麦粉は、水を加えて捏ねると、小麦粉に含まれるたんぱく質のうち、粘着力があるグリアジンと弾力性があるグルテニンが絡み合い、粘着力と弾力性(粘弾性)を備えたグルテンが形成される。また、小麦粉に含まれる約70質量%~約75質量%の炭水化物や、コシを出すために加えられた水は、絡み合った網目構造のグルテン中を中心に食品中に保持されやすいやすくなる。
【0021】
ただし、その食品の製造工程又は調理工程において、焼成工程や揚げ工程といった、概ね130℃、もしくは160℃を超える加熱処理が行われている場合は、食品中のグルテンの網目構造に水や炭水化物が保持される度合いが下がる。このような食品としては、パンや揚げ麺等が例示される。
また、原料中の小麦粉の割合が少ない食品も、食品中のグルテンの形成の度合いが下がる。このような食品としては、小麦粉の割合が少ないそば等が例示される。
さらに、小麦粉を含むものの加水して捏ねる工程がない食品も、食品中にグルテンが形成しにくい。たとえば、小麦粉そのもの等が例示される。
【0022】
一方で、その食品の製造工程又は調理工程において、茹で工程や蒸し工程を含む食品は、茹でる/蒸す等の工程で食品に入り込んだ水も含めて、絡み合った網目構造のグルテン中を中心に食品中に保持されやすい。
【0023】
以上から、本発明の対象となる食品(1)は、うどん、きしめん、ひもかわ、ほうとう等の麺類(生麺、及び、茹で麺)、スパゲティ、マカロニ、ニョッキ等のパスタ類(生パスタ、及び、茹でたパスタ)、餃子の皮、シューマイの皮、ワンタンの皮(生の皮、及び、蒸した皮/茹でた皮)等が例示される。
【0024】
(処理工程S10~加水分解酵素を含む材料の添加及び食品の粉砕~)
処理工程(S10)は、加水分解酵素を含む材料に食品(1)を混合して粉砕するステップ、食品(1)を粉砕して加水分解酵素を含む材料を添加するステップ、又は、加水分解酵素を含む材料に食品(1)を混合するのと並行してあるいは交互に食品(1)を粉砕するステップを含むものである。
【0025】
(加水分解酵素を含む材料)
加水分解酵素は、加水分解反応の触媒となる酵素であり、炭水化物(デンプン、多糖)をブドウ糖等の低分子糖に、タンパク質をアミノ酸等に、脂質を脂肪酸等に分解する、加水分解反応に寄与する酵素である。
加水分解酵素としては、炭水化物を加水分解するアミラーゼ群(α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ等)、タンパク質を加水分解するプロテアーゼ群、脂質を加水分解するリパーゼ群が挙げられる。
【0026】
また、加水分解酵素を含む材料は、麹等の天然材料の他、人工的に合成された酵素化合物、天然由来の抽出物を調製した材料、酵素サプリメント等が例示される。なかでも、食品の処理物の廃棄や再利用を考えた場合、天然材料が好ましく、麹がより好ましく、米麹がさらに好ましい。
麹は、食品発酵に有効なカビ等の微生物を、米、麦、大豆等に繁殖させたものであり、増殖する際に様々な加水分解酵素を産生する特徴を有する。米麹は、蒸し米に麹菌を繁殖させたものであり、炭水化物をブドウ糖等の低分子糖に加水分解することができ、清酒作りにも利用されるものである。
【0027】
(加水分解酵素を含む材料の準備)
加水分解酵素を含む材料に米麹等のダマになりやすい材料を用いる場合は、加水分解反応が進みやすいように、ミルやすり鉢等を用いて予め粉砕しておき、必要に応じて粉砕物を密閉容器に保管しておくことが好ましい。
また、加水分解反応をする際に、加水分解酵素を含む材料を必要量測り取って、酵素が働きやすい30℃~50℃程度の水(湯)に溶解しておいてもよい。
【0028】
(加水分解酵素を含む材料と食品の混合及び粉砕)
加水分解酵素を含む材料に、食品(1)を投入し、混合し粉砕する。粉砕に用いる器具としては、ミキサー、ブレンダー、ポテトマッシャー、すり鉢等が例示されるが、食品(1)を刃で切り込みながら混ぜて粉砕できるミキサーやブレンダーが好ましい。
また、食品(1)を粉砕するステップにおいて、ミキサーによる回転により粘り気が出て回転が止まらないように、適宜水(湯)を加えることが好ましい。該水(湯)は加水分解反応が進行しやすい30℃~50℃であることが好ましい。なお、加水分解酵素を含む材料を水(湯)に溶解してある場合は、該水(湯)で代用してもよい。
さらに、食品(1)は、加水分解酵素を含む材料と混合し粉砕する前に、湯通ししてもよい。食品(1)の表面の粘り気を取り除くことができるため、ミキサーの回転をスムーズにすることが可能となる。
【0029】
加水分解酵素を含む材料と食品(1)の混合及び粉砕の順序は任意でよく、加水分解酵素を含む材料に食品(1)を投入して混合し粉砕する順、食品(1)を粉砕し、その後加水分解酵素を含む材料を添加して混合する順でもよく、また、食品(1)の粉砕と加水分解酵素を含む材料の添加を並行して行ったり、あるいは、交互に行ったりしてもよい。
【0030】
加水分解酵素を含む材料の配合量は、粉砕する食品(1)の種類や状態、加水分解酵素を含む材料の種類やメーカー等により適宜設定される。茹でたうどん4玉(840g)に対し、米麹の配合量として3g~8g、あるいは5gが例示される。
また、混合及び粉砕にミキサーを使用した場合、ミキサーのパワーや食品(1)の種類や状態によるが、米麹5gを配合した茹でたうどん4玉(840g)に対し、水(湯)600g~1100g、好ましくは750gを加えて回転をスムーズにし、10秒~60秒程度、たとえば30秒程度ミキサーを回転させればよい。また、該水(湯)には、加水分解反応が進みやすいことが分かっている6-8pH程度、好ましくはpH7程度、すなわち水道水を用いてよい。
【0031】
(処理工程S20~保温(加水分解)~)
処理工程S20は、処理工程S10で粉砕された食品を保温し、加水分解反応を行うステップを含むものである。
混合及び粉砕された食品は、加水分解反応を促進する30℃~50℃で保温することが望ましい。50℃を超えると加水分解酵素の働きが弱くなる。保温器具としては、スープジャー、保温鍋、発酵モードでのオーブン等が例示される。
保温時間は3時間~5時間程度が好ましい。後述する評価試験結果から、5時間程度保温すると、加水分解はほぼ完了していると考えられる。
【0032】
(処理工程S30~乾燥~)
処理工程S30は、加水分解反応を行った食品を乾燥させるステップを含むものである。乾燥のしかたは、水分を飛ばす方法であれば特に限定されない。加水分解反応を行った食品は、濾液と残渣に分離することができるので、濾過を行ってから残渣を乾燥することが望ましい。
【0033】
粉砕、保温後の食品の濾過は、シノワ、布巾、ざる、布巾とざるの組み合わせ、遠心分離等が例示されるが、調理器具のシノワや布巾を使って濾過することが好ましい。
【0034】
(残渣)
濾過により得られた残渣の乾燥のしかたは、水分を飛ばす方法であれば特に限定されない。乾燥に用いる器具としては、加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、自然乾燥等が例示されるが、調理器具としても利用される加熱乾燥機による乾燥が望ましい。
また、乾燥を早めるため、残渣を平面状に置いて、なるべく薄くして乾燥機に投入することが望ましい。たとえば厚みは0.5cm~2cm程度、あるいは1cm程度が好ましい。乾燥条件は60℃程度、8時間程度が例示される。
残渣を加熱乾燥することにより、粉末を得ることができる。
【0035】
(濾液)
濾過により得られた濾液は、下水の基準に満たしている場合は排水することもできる。さらに濾液は、小麦粉を主原料とする食品の米麹による分解物等であり、米麹による加水分解反応時に産生する天然由来成分が豊富に含まれ、かつ、食品の処理工程で有機溶媒等も使用していないため、化粧品分野や香料分野等への再利用が可能である。具体的には、濾液に含まれる保湿効果等の美容効果を有する粘性成分や香り成分を利用し、ホホバオイル、シアバター、アロマエッセンシャルオイル、はちみつ、蜜蝋等への応用が可能である。
【0036】
本発明の食品の処理方法により、食品(1)は、上記残渣から得られた粉末に減容することができ、食品(1)の種類や処理条件によるものの、重量減少率は90%~98%、あるいは95%~98%程度となり得る。なお、残渣から得られた粉末も、肥料等として再利用することも可能である。
【0037】
―食品の分解挙動の評価試験―
食品として茹でたうどん、加水分解酵素を含む材料として米麹を用い、米麹によるうどんの分解がどのように進むのかを評価する試験を行った。
茹でたうどん1玉(210g)を、pH7に調整された水100mLとともにミキサーで10秒粉砕し、500mLビーカーに回収した。ミキサー内に水20mLをさらに加え、ミキサー内に残されたうどんを極力集めてビーカーに回収した。
ビーカーに回収した粉砕したうどんに、米麹を5mL加え、匙を用いて攪拌した。このように作成した試料を4つ用意した。また、比較対照として、米麹を加えない試料も同様に4つ用意した。
【0038】
評価試験は室温にて行った。反応時間を0時間(粉砕直後)、1時間、3時間、5時間、24時間とし、それぞれ外観を写真撮影した。写真撮影結果を、図2図10に示す。
粉砕直後は、うどんと十分に混合されなかった水分が観察されたが(図2)、米麹を加えた試料においては加水分解反応の時間が進むにつれ、徐々にうどんと水分が馴染んでいき、5時間を経過すると小さなダマを含む滑らかな液状物質となっていくことが分かった(図8図10)。
一方、米麹を加えない試料においては、1時間後では粉砕直後と同様にうどんと十分に混合されなかった水分が観察されたが(図3)、3時間後では混合していない水分は減少しているかのように観察され(図5)、5時間を経過すると分離した水分はさらに減少するものの米麹を加えた試料に比べ、滑らかではなく、ぼそぼそとした含水物質となっていくことが分かった(図7図9)。
【0039】
試料はこし布を用いて濾過し、絞ることにより、濾過残渣と濾液に分離した。濾過残渣の湿潤重量の結果を、表1及び図11に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
本評価試験では、ミキサーやこし布を使用しているため回収率を考慮する必要があるものの、米麹を添加した試料においては、加水分解反応の時間が進むにつれ、濾過残渣(湿潤重量)は減少する傾向にあることが分かった。
一方、米麹を加えない試料においては、反応時間が進むにつれ、濾過残渣(湿潤重量)は増加する傾向にあることが分かった。茹でたうどんは210gであり、ミキサー処理で加えた水分は合計120gであるから、回収率を考慮すると、特に3時間後以降は全量近く濾過残渣として残っていることが分かった。
【0042】
濾過で得られた濾液を、遠心分離機を用いて3000rpmの速度で20分間遠心分離を行い、上清除去後、50℃の乾燥機で3日間乾燥させることにより、沈殿物の乾燥重量を計測した。濾液の沈殿物の乾燥重量の測定結果を、表2及び図12に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
米麹を添加した試料においては、加水分解反応の時間が3時間程度まで進むにつれ、濾液の沈殿物の乾燥重量は増加する傾向にあることが分かった。しかし、3~5時間後以降は濾液の沈殿物の乾燥重量は増加しない傾向であることが分かった。
一方、米麹を加えない試料においては、粉砕から1時間後の濾液の沈殿物の乾燥重量は、米麹を添加した試料より多かったものの、3時間後の濾液の沈殿物の乾燥重量は、米麹を添加した試料より少なかった。さらに5時間後以降の試料においては、こし布を用いて絞っても濾液は出ず、残渣にすべてが残る傾向にあることが分かった。この結果は、上述したように、全量近く濾過残渣として存在していたことと合致する。
【0045】
濾過で得られた濾液を、遠心分離機を用いて3000rpmの速度で20分間遠心分離を行ったあとの上清を回収し、濁度を測定した。濁度は、濾液の吸光スペクトルで吸収ピークが見られた360nm、及び、濁度測定に利用される660nmの吸光度を測定することにより評価することを試みた。濾液の上清の吸光度の測定結果を、表3及び図13に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
米麹を添加した試料においては、加水分解反応の時間が3時間程度まで進むにつれ、濾液の上清の吸光度は、360nmにおいても660nmにおいても、増加する傾向にあることが分かった。しかし、3~5時間後以降は濾液の上清の吸光度は、360nmにおいても660nmにおいても、増加しない傾向であることが分かった。
一方、米麹を加えない試料においては、粉砕から1時間後の濾液の上清の吸光度は、360nmにおいても660nmにおいても、米麹を添加した試料より多かったものの、3時間後の濾液の上清の吸光度は、米麹を添加した試料と同等程度であった。さらに5時間後以降の試料においては、こし布を用いて絞っても濾液は出ず、濾液の吸光度は測定できなかった。
【0048】
本食品の分解挙動の評価試験から、米麹を添加した試料においては、加水分解反応の時間が3時間~5時間程度で加水分解は終了していることが推察される。また、米麹により、残渣は小麦粉に含まれる炭水化物を中心に加水分解され、該炭水化物はブドウ糖等の低分子糖となって濾液に移行し、沈殿せずに溶解していることが考えられる。さらに、加水分解されても低分子糖までは分解されずに中程度以上の分子量となっているもの、あるいはうどんに含まれる他の成分が濾液に移行し、濾液の沈殿物として測定された可能性がある。
一方、米麹を加えない試料においては、周囲に存在する水分等が、絡まりあったグルテン構造中を中心に、粉砕された食品にさらに保持されていったのではないかと推察される。
【0049】
―食品の重量減少率の評価試験―
本発明の処理方法の実施例で、食品がどの程度減容するかを、重量減少率をもとに評価した。
評価条件は以下のとおりである。
まず、ミル容器に米麹を投入して粉砕し、粉末となった米麹を密閉容器に保管した。
40℃程度の湯750mLをミキサーに入れ、米麹の粉末を25g~45g(うどん4玉あたり5g)投入し、ミキサーで溶解させる。
茹でたうどん20玉~36玉(4200g~7560g)を湯通しし、ミキサーに投入し、30秒程度粉砕する。
ミキサー内の粉砕したうどんを、スープジャーに移し、30℃~50℃の範囲の温度で4時間保温する。
シノワで濾過し、濾過残渣と濾液に分離する。
乾燥機の網にクッキングシートを敷き、濾過残渣を1cm程度の厚みで載せる。
60℃、8時間乾燥させ、乾燥後重量を測定する。その後、ミルで軽く粉砕し、保管容器で保管する。
本評価試験で分離された濾液は、東京都の水質基準をクリアしているため、東京都であれば下水道に排水することが可能であった。他の自治体においても下水道の水質基準に沿って排水してもよい。また、濾液は化粧品分野や香料分野等への再利用が可能である。具体的には、濾液に含まれる保湿効果等の美容効果を有する粘性成分や香り成分を利用し、ホホバオイル、シアバター、アロマエッセンシャルオイル、はちみつ、蜜蝋等へ応用できることが分かった。
【0050】
乾燥後重量の測定結果を表4に示す。また、上記実施例における実作業時間を表5に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
本評価試験の条件においては、重量減少率が97%を超えることが分かった。また、本実施例においては、保温(加水分解)のステップ(S20)及び乾燥のステップ(S30)を除く実作業時間は、34分から55分程度であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の食品の処理方法は、含有するタンパク質によりグルテンが形成されるが故に廃棄処理が困難となる、主原料として小麦粉を含む食品を、店舗等に備えられた汎用器具で短時間の作業で処理できる方法である。特に、加水分解酵素を含む材料を麹等の天然由来のものとする場合等、濾液を排水することも可能であるため、重量減少率も90%を超える。また、大型処理設備を使わないため、処理費用も運搬費用も大幅に削減することができるため、今後広く利用されることが期待される。
特にうどん提供店舗においては、迅速なサービスを提供するために注文を見越してうどんを茹でるものの、品質基準である所定の時間を経過すると廃棄を余儀なくされ、一定量の廃棄麺が各店舗から毎日のように出てくるという事情がある。しかし、本発明の食品の処理方法を適用することにより、環境にも優しい上に廃棄コストの大幅削減も期待される。
【符号の説明】
【0055】
1 食品
2 粉末
3 濾液等
S10 処理工程
S20 処理工程
S30 処理工程
図1
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