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特開2022-124211ペン先、ペン先を備える液体塗布具、及び、液体塗布方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124211
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】ペン先、ペン先を備える液体塗布具、及び、液体塗布方法
(51)【国際特許分類】
   A45D 34/04 20060101AFI20220818BHJP
   B43K 1/00 20060101ALI20220818BHJP
   B43K 1/12 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
A45D34/04 510B
B43K1/00 110
B43K1/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021842
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000109440
【氏名又は名称】テイボー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千尋
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350HA15
2C350NA17
2C350NC02
2C350NC20
2C350NC28
2C350NC32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細い線幅での塗布において、一定の範囲の線幅で安定して塗布可能なペン先、該ペン先を備えた液体塗布具、及び、該液体塗布具を用いた液体塗布方法を提供する。
【解決手段】ペン先1は多孔質のペン先であって、該ペン先は、先端部に向かって外径が徐々に小さくなる尖鋭形状であり、前記ペン先の先端部分にはペン先先端塗布部2が設けられ、前記ペン先先端塗布部の後端部を起点として、該起点より前記ペン先の後端側に3つ以上の環状溝3が連続して設けられ、前記ペン先先端塗布部の長さは、用途に応じて所望される塗布線の幅の最大値の8倍以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質のペン先であって、
該ペン先は、先端部に向かって外径が徐々に小さくなる尖鋭形状であり、
前記ペン先の先端部分にはペン先先端塗布部が設けられ、
前記ペン先先端塗布部の後端部を起点として、該起点より前記ペン先の後端側に3つ以上の環状溝が連続して設けられ、
前記ペン先先端塗布部の長さは、用途に応じて所望される塗布線の幅の最大値の8倍以下である、ペン先。
【請求項2】
前記3つ以上の環状溝は、同じ溝幅及び同じ溝深さを有する、請求項1に記載のペン先。
【請求項3】
所望される塗布線の幅が0.2mm~0.3mm程度の液体塗布具に備えられるペン先の場合、前記ペン先先端塗布部の長さが0.7mm以上2.2mm以下である、請求項1又は2に記載のペン先。
【請求項4】
前記環状溝間の距離である溝幅は、0.3mm以上1.0mm以下である、請求項1~3いずれか一項に記載のペン先。
【請求項5】
請求項1~4いずれか一項に記載のペン先を備える、液体塗布具。
【請求項6】
請求項5に記載の液体塗布具を用い、
塗布線の幅が、前記ペン先先端塗布部の長さの1/8~1の間の任意の数値でほぼ一定となるように、前記液体塗布具に荷重をかけながら該塗布線を被塗布物に塗布する液体塗布方法であって、
前記荷重は、前記ペン先先端塗布部の後端部を起点に連続して3つ以上設けられる前記環状溝が撓ることにより応力が分散され、
前記荷重がわずかに変動しても、前記塗布線の幅をほぼ一定にすることができる、液体塗布方法。
【請求項7】
前記荷重の前記変動は、0.3gfから1.0gfの間の変動である、請求項6に記載の液体塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧用具や筆記具等の液体塗布具に用いられるペン先、該ペン先を備える液体塗布具、及び、該液体塗布具を用いた液体塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛筆タイプの化粧用具や筆記具に使用される多孔質のペン先は、繊維を長手方向に集束して樹脂バインダで接着後、研削等で先端を毛筆状等の所望の形状に成形したものである。かかるペン先は、筆の穂先から筆先の基部にかけて束ねられた繊維のコントロールが必要な毛筆より手軽に取り扱えるため、化粧用具や筆記具等に欠かせないものとして広く普及している。
【0003】
たとえば、特許文献1には、一般に市販されている合成繊維と、合成樹脂エラストマとを組合わせてゴム状弾性体としての特定の繊維構造体を構成することにより、長手方向にそろった繊維束よりなり、筆記先端が非常にすぐれた柔軟性、弾力性、耐久性および耐摩耗性を有するペン芯が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59-184679
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂バインダで接着された繊維で成形されたペン先であっても、細い線で塗布したい場合は、塗布する際のわずかな力加減(わずかな荷重の違い)で線幅が変わってしまうため、所望の線幅で安定した塗布を行うことが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、細い線幅での塗布において、一定の範囲の線幅で安定して塗布可能なペン先、該ペン先を備えた液体塗布具、及び、該液体塗布具を用いた液体塗布方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のペン先は多孔質のペン先であって、該ペン先は、先端部に向かって外径が徐々に小さくなる尖鋭形状であり、前記ペン先の先端部分にはペン先先端塗布部が設けられ、前記ペン先先端塗布部の後端部を起点として、該起点より前記ペン先の後端側に3つ以上の環状溝が連続して設けられ、前記ペン先先端塗布部の長さは、用途に応じて所望される塗布線の幅の最大値の8倍以下であることを特徴とする。
【0008】
前記3つ以上の環状溝は、同じ溝幅及び同じ溝深さを有することが好ましい。
【0009】
所望される塗布線の幅が0.2mm~0.3mm程度の液体塗布具に備えられるペン先の場合、前記ペン先先端塗布部の長さが0.7mm以上2.2mm以下であることが好ましい。
【0010】
前記環状溝間の距離である溝幅は、0.3mm以上1.0mm以下であってもよい。
【0011】
本発明の液体塗布具は、上記ペン先を備える。
【0012】
本発明の液体塗布方法は、上記液体塗布具を用い、塗布線の幅が、前記ペン先先端塗布部の長さの1/8~1の間の任意の数値でほぼ一定となるように、前記液体塗布具に荷重をかけながら該線を被塗布物に塗布するものであり、前記荷重は、前記ペン先先端塗布部の後端部を起点に連続して3つ以上設けられる前記環状溝が撓ることにより分散され、前記荷重がわずかに変動しても、前記塗布線の幅をほぼ一定にすることができることを特徴とする。
【0013】
前記荷重の前記変動は、0.3gfから1.0gfの間の変動であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のペン先により、特に細い線幅での液体の塗布において、液体塗布具にかかる荷重がわずかに変動しても、一定の範囲の線幅で安定して塗布することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のペン先の一例であり、(a)は上面図、(b)は(a)の拡大図を示す。
図2】本発明の液体塗布具の一例を示す。
図3】本発明のペン先の一例である試料1について、(a)は上面図、(b)は試料1を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図4】本発明のペン先の一例である試料2について、(a)は上面図、(b)は試料2を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図5】本発明のペン先の一例である試料3について、(a)は上面図、(b)は試料3を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図6】本発明のペン先の一例である試料4について、(a)は上面図、(b)は試料4を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図7】本発明のペン先の一例である試料5について、(a)は上面図、(b)は試料5を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図8】本発明のペン先の一例である試料6について、(a)は上面図、(b)は試料6を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図9】本発明のペン先の一例である試料7について、(a)は上面図、(b)は試料7を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図10】本発明のペン先の一例である試料8について、(a)は上面図、(b)は試料8を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図11】本発明のペン先の一例である試料9について、(a)は上面図、(b)は試料9を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図12】本発明のペン先の一例である試料10について、(a)は上面図、(b)は試料10を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図13】本発明のペン先の一例である試料11について、(a)は上面図、(b)は試料11を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図14】本発明のペン先の一例である試料12について、(a)は上面図、(b)は試料12を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図15】比較例のペン先の試料13について、(a)は上面図、(b)は試料13を用いて行った線幅の評価試験結果を示す。
図16】評価試験において、ペン先先端塗布部の長さによる、線幅平均の平均値、及び、バラつき幅の平均値を示したグラフである。
図17】評価試験において、ペン先に設けられた環状溝の数による、線幅平均の平均値、及び、バラつき幅の平均値を示したグラフである。
図18】評価試験において、ペン先に設けられた環状溝間の溝幅による、線幅平均の平均値、及び、バラつき幅の平均値を示したグラフである。
図19】手書きにより角度70°で低荷重にて筆記したときの写真の例を示す。
図20A】試料7を機械筆記した場合の、荷重と線幅の関係のグラフを示す。
図20B】試料8を機械筆記した場合の、荷重と線幅の関係のグラフを示す。
図20C】試料9を機械筆記した場合の、荷重と線幅の関係のグラフを示す。
図20D】試料3を機械筆記した場合の、荷重と線幅の関係のグラフを示す。
図20E】試料13を機械筆記した場合の、荷重と線幅の関係のグラフを示す。
図21】角度90°で筆記したときの、荷重と線幅の個別グラフを示す。
図22】角度90°で筆記したときの、荷重と線幅の平均グラフを示す。
図23】角度90°で筆記したときの、荷重とペン先の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本願明細書において、「先端部」は各部品における液体塗布具のペン先側の最先端部(位置)を指し、「後端部」は各部品における液体塗布具のペン先側と反対側の最後端部(位置)を指し、「先端部分」は各部品における先端部及び先端部の近辺部分を指し、「後端部分」は各部品における後端部及び後端部の近辺部分を指す。「先端側」はペン先側を指し、「後端側」はペン先側と反対側を指す。「中央部分」は各部品における先端部分及び後端部分以外の概ね中央部近辺を指す。また、「先端方向」は先端部への方向、「後端方向」は後端部への方向を指す。
図面及び符号を用いて本発明を実施するための形態を説明するが、本発明は該実施例に限定するものではない。
【0017】
図1の(a)及び(b)に例示されるように、本発明のペン先1は、多孔質であり、ペン先1の先端部に向かって外径が徐々に小さくなる尖鋭形状であり、ペン先1の先端部分にはペン先先端塗布部2が設けられ、該ペン先先端塗布部2の後端部を起点として、該起点よりペン先1の後端側に3つ以上の環状溝3が連続して設けられるものである。
さらに、ペン先1の後端部分は、液体が充填されている液体タンクや液体を含ませた中綿に、直接又は間接的に差し込まれるようにして、マウスピース5や把持部6、キャップ7とともに液体塗布具4として組み立てられる(図2参照)。
【0018】
ペン先1は多孔質の材料で形成される。このため、ペン先1の後端部を液体に浸漬すると、毛細管力により液体をペン先1の先端部分に供給することができる。
多孔質の材料は、液体塗布具4の長手方向に繊維を束ねた繊維束を樹脂で接着したものでもよいし、合成樹脂を押出成形したものであってもよい。さらには、合成繊維をニードルパンチ加工したフェルトをさらに熱接着又は樹脂加工して形成、または羊毛等を縮絨して樹脂加工して形成されるフェルト製のもの、熱可塑性樹脂製の各粒状粒子が互いに部分的に融着し、かつ、各粒状粒子間に相互に連通状の連続気孔を形成している焼結法で成形されるもの、相互に連通状の連続気孔を有する立体網目構造で、かつ、保形性と適度な可撓性を備えた、ポリオレフィン系フォーム等の熱可塑性生成物からなるものであってもよい。
【0019】
繊維束を樹脂で接着した多孔質の材料に用いられる繊維には、合成繊維や獣毛等が用いられる。合成繊維としては、ポリアミド繊維のナイロン(登録商標)等、ポリエステル繊維のポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等、アクリル繊維等が例示される。なかでも、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。獣毛としては、馬、羊の毛等が例示される。
また、繊維束を樹脂で接着した多孔質の材料に用いられる樹脂には、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が例示される。繊維の材料と接着性が高い樹脂バインダであることが好ましく、ナイロン繊維やポリエステル繊維には、ポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0020】
合成樹脂を押出成形した多孔質の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、ABS樹脂、AS樹脂、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエステルエラストマー等の各種エラストマー等の熱可塑性樹脂が例示される。目的に応じ、充填剤、各種添加剤等が配合されてもよい。
【0021】
ペン先1は、いわゆる毛筆形状となっており、液体塗布具4のマウスピース5に組み込まれた際に該マウスピースの先端部と接する部分からペン先1の先端部に向かって、外径が徐々に小さくなる尖鋭形状を有する。
マウスピース5の先端部より先端側の、マウスピース5に覆われないペン先1の出長さはL1であり、マウスピース5の先端部に接する部分のペン先基部外径はB1である。
【0022】
ペン先1の先端部分には、複数の環状溝3が設けられ、該環状溝3のうち最も先端側の環状溝3とペン先1の先端部の間に、ペン先先端塗布部2が設けられる。
【0023】
環状溝3は、ペン先先端塗布部2の後端部を起点として、該起点よりペン先1の後端側に3つ以上連続して設けられる。環状溝3を形成することによって、ペン先先端塗布部2にかけられた荷重(力)の応力を分散することができ、特に細い線を塗布する場合、線幅のバラつきを抑えて塗布することが可能となる。
環状溝3はペン先1を周方向に溝を研削して形成される。環状溝3の溝深さDは、ペン先1の材料やサイズ、用途、所望される塗布線の幅により適宜設定される。所望される塗布線の幅が0.2mm~0.3mm程度の場合、環状溝3の溝深さDは0.03mm~0.11mmの範囲が好ましく、0.04mm~0.09mmの範囲、0.04mm~0.07mmの範囲がより好ましい。
環状溝3は、応力分散するように撓らせる観点から、3つ以上連続して設けられる。環状溝3の間の距離である溝幅Wも、ペン先の材料やサイズ、用途、所望される塗布線の幅により適宜設定される。所望される塗布線の幅が0.2mm~0.3mm程度の場合、環状溝3の間の溝幅Wは0.3mm以上1.0mm以下であることが好ましく、0.4mm以上1.0mmの範囲がより好ましい。
また、環状溝3の個数は、最小は3つであるが、最大はペン先出長さL1からペン先塗布部長さL2を引いて溝幅Wで割った数であってよい。すなわち、最小の3個から該最大の個数の間で適宜設定される。
3つ以上の環状溝3は、応力分散の観点から、連続して設けらる。環状溝3が連続せずに離れた距離で設けられると、塗布時にかけられた荷重を効果的に分散させてペン先を撓らせることができないからである。また、溝幅Wも溝深さDも応力分散が可能であれば特に限定されないが、撓り効果の観点から、溝幅Wを同じにし、溝深さDも同じとすることが好ましい。
【0024】
ペン先先端塗布部2は、軸方向の長さをペン先塗布部長さL2とし、最も先端側の環状溝3に接する部分の外径をペン先先端塗布部外径B2とすると、ペン先先端塗布部長さL2は、用途に応じて所望される塗布幅の最大値の8倍以下に設定される。
特に細い線幅の塗布が必要な場合、肌や紙等の被塗布物にはペン先先端塗布部2の一部が接触するように塗布される。その際、ペン先先端塗布部2にかけられる荷重が一定しないときは線幅がバラつきやすいが、ペン先先端塗布部2の後端部を起点として設けられる環状溝3により、該荷重は環状溝3に分散させることができるため、塗布線の線幅のバラつきを抑えることが可能である。さらには、荷重を環状溝3に分散させることができるため、ペン先先端塗布部2の繊維のばらけや潰れも抑えることが可能となる。
ここで、細い塗布線を塗布するために、低い荷重(たとえば2gf以下の荷重、好ましくは1gf以下の荷重)がかけられるとき、塗布線の幅は、ペン先先端塗布部2のペン先先端塗布部長さL2、塗布面に対する筆記角度、塗布面を上面視したときの塗布線方向に対するペン先1の角度、ペン先先端塗布部2にかかる荷重等によって変わる。このうち、たとえば、塗布面に対する筆記角度が70°程度であり(すなわち、液体塗布具4を90°より傾けて塗布する)、塗布面を上面視したときの塗布線方向に対するペン先1の角度が略ゼロ(すなわち、上面視で塗布線方向とペン先1の長手方向がだいたい同じとなるように塗布する)である場合も、ペン先先端塗布部2の被塗布物に接触する部分にかけられた荷重は環状溝3にも分散し、変動は小さくなる。所望される塗布線の幅が0.2mm~0.3mm程度の液体塗布具4に備えられるペン先1の場合、荷重の変動が0.3gf~1.0gfであっても線幅を安定して塗布できることが例示される。
ただし、このような荷重の分散は、ペン先先端塗布部2の被塗布物に接触する部分と環状溝3が一定距離離れると、荷重の分散効果は減少する。すなわち、所望される線幅に対し、ペン先先端塗布部2が大きすぎないことが必要であるため、ペン先先端塗布部長さL2は、用途に応じて所望される塗布幅の最大値の8倍以下に設定される。なお、上面視で塗布線方向とペン先1の長手方向がだいたい同じとなるように塗布する場合は、被塗布物に接触する部分の塗布方向の長さと線幅は、ペン先先端塗布部長さL2とペン先先端塗布部外径B2に概ね比例する。また、ペン先先端塗布部長さL2の下限は、ペン先先端塗布部2の全面を被塗布物に触れさせて塗布(筆記)した場合の塗布線の幅を考慮して決定される。
たとえば、所望される塗布線の幅が0.2mm~0.3mm程度の液体塗布具4に備えられるペン先1の場合、ペン先先端塗布部長さL2は0.7mm以上2.2mm以下が例示される。
【0025】
一方、ペン先先端塗布部2が被塗布物に接触可能な領域すべてが塗布に用いられた場合は、線幅は概ねペン先先端塗布部外径B2となる。このあと、最も先端側の環状溝3やそれに隣接するいくつかの環状溝3まで被塗布物に接触させてより太い線を塗布することは可能であるが、ペン先先端塗布部2のみを接触させて塗布していた場合より大きな荷重の変動が必要となる。その場合であっても、荷重は環状溝3によって分散され、塗布線の幅が安定しやすくなる。
【0026】
ペン先1は液体塗布具4に備えられる。図2にアイライナーの例を示した。
液体塗布具4としては、アイライナー、アイシャドウ、アイブロー、リップライナー、リップグロス、コンシーラー、ネイルケア製品、まつ毛ケア製品、マニュキア用ブラシ等の化粧用液体塗布具、油性マーカー、水性マーカー、ラインマーカー、修正ペン、医療用マーカーの筆記用液体塗布具、薬液塗布具、等が例示される。
【実施例0027】
(評価用試料の作製)
多孔質の材料として、0.77dtexのポリアミド繊維を長手方向に19,584本束ねて成形金型に通して熱加工してペン先の外径を3.1mmとし、ポリウレタン樹脂を含浸乾燥させて接着した後、所定の長さにカットしたものを用い、研削して先端が尖鋭形状で環状溝を有する試料1~試料12を作製した。また、比較試料として、環状溝を備えない従来のペン先の試料13を作製した。
試料1~試料13の形状は、表1及び図3図15の(a)に示した。
【0028】
(手書き評価試験)
試料1~試料13を液体塗布具に組み付け、手書きによる評価試験を行った。
3名のユーザー(A、B、C)により、それぞれの液体塗布具を約70°傾け、可能な限り細い線を10本ずつ筆記し、線幅の平均とバラつきの幅を評価した。バラつきは、各ユーザーにおける最大の線幅から最小の線幅を差し引いた値で評価した。
手書き評価試験の結果は、表1及び図3図15の(b)に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
(手書き評価試験の解析1)
得られた評価試験結果を用い、ペン先先端塗布部長さL2に対し、線幅及び線幅のバラつきを解析した。
解析結果を、表2及び図16に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2及び図16より、従来のペン先の試料13と比較し、試料1~試料6のいずれも線幅は細く、線幅のバラつきも小さくなっていることが分かった。
特に試料1、2、3、4(ペン先先端塗布部長さ:0.85mm~2.05mm)では線幅のバラつきがより抑えられていることが分かった。
【0033】
(手書き評価試験の解析2)
得られた評価試験結果を用い、環状溝3の溝数に対し、線幅及び線幅のバラつきを解析した。
解析結果を、表3及び図17に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
表3及び図17より、従来のペン先の試料13と比較し、試料8、9、3(溝数3~10)では線幅は細く、線幅のバラつきも小さくなっていることが分かった。
【0036】
(手書き評価試験の解析3)
得られた評価試験結果を用い、環状溝3の溝幅Wに対し、線幅及び線幅のバラつきを解析した。
解析結果を、表4及び図18に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
表4及び図18より、従来のペン先の試料13と比較し、試料10、11、3、12(溝幅0.36~0.93)では線幅は細く、線幅のバラつきも小さくなっていることが分かった。
【0039】
(手書きによる低荷重時の写真評価)
筆記角度を70°とし、手書きにより低荷重をかけた場合のペン先写真を評価した。
試料3(環状溝あり)、試料13(環状溝なし)を用い、荷重を1gf以下、2gfとして写真を撮影した。結果を図19に示す。
【0040】
試料3では、低荷重の1gf以下の場合、撓りの様子が観察された。
【0041】
(機械筆記による荷重と線幅の評価)
表3及び図17の評価で用いた、試料7、8、9、3(溝数がそれぞれ1、3、7、10)、及び、試料13(溝無し)について、機械筆記試験を行った。
筆記角度を90°、筆記荷重を0.1gf~2.0gfの範囲でかけ、筆記速度を10mm/秒、コート紙に筆記し、n=3で試験した。線幅は平均した。
試料7の結果を図20A、試料8の結果を図20B、試料9の結果を図20C、試料3の結果を図20D、試料13の結果を図20Eに示した。
【0042】
図20B図20C図20Dより、線幅が0.4mm付近に到達してから荷重が0.9gf~1.0gf程度まで略一定であったのに対し、図20A図20Eより、線幅は0.4mm付近を通り越して0.45mmぐらいから荷重に連動して線幅も大きくなる傾向にあることが分かった。
機械筆記と手書き、筆記角度が90°と70°では、安定する線幅の値が若干異なるものの、図19の写真評価と併せ、概ね0.3gf以上1.0gf以下の範囲で荷重が変動しても、安定した線幅が得られる傾向が見られた。
【0043】
(手書きでの官能評価)
表3及び図17の評価で用いた、試料7、8、9、3(溝数がそれぞれ1、3、7、10)、及び、試料13(溝無し)について、3名のユーザーの手書きでの官能評価試験を行った。
細い線を描きやすいか(線幅を細くしやすいか)、安定して描きやすいか(線幅を揃えやすいか)について、試料13(溝無し)を基準の5点とし、10段階評価を行った。
表5に結果を示す。
【0044】
【表5】
【0045】
表5より、試料8、9、3の評点が高いことが分かった。表5の評価結果は、表3の実際の測定結果や、機械筆記の結果とも整合性が取れる傾向にあることが分かった。
【0046】
(機械筆記による低荷重から高荷重までの線幅評価)
本発明のペン先は、環状溝により荷重の応力分散により撓る効果が期待できるので、環状溝部分まで用いれば、高荷重がかかった場合においても線幅が安定する。
そこで試料3を用い、筆記角度90°、機械筆記により荷重を0.1gf~5.0gfかけた場合の線幅の測定を行った(n=3)。
結果を、図21に荷重と線幅の個別グラフとして示し、図22に荷重と線幅の平均グラフで示した。
【0047】
図21図22より、線幅が0.4mm付近の他、0.6mm付近、0.8mm付近で荷重が変動しても線幅が一定である傾向の領域が存在することが分かった。
【0048】
また、試料3及び試料13を用い、1gf~5gfのときのペン先の写真を撮影した。
結果を図23に示す。
ペン先は外径が2.0mm~4.0mm程度であるため、外径よりさらに細いペン先先端塗布部及び隣接する環状溝の撓りの量はごくわずかではあるものの、図22等の結果と併せ、本発明のペン先の構造によれば、安定した線幅で液体を塗布できることが分かった。
【符号の説明】
【0049】
1 ペン先
2 ペン先先端塗布部
3 環状溝
4 液体塗布具
5 マウスピース
6 把持部
7 キャップ
L1 ペン先出長さ
L2 ペン先先端塗布部長さ
D 溝深さ
W 溝幅
B1 ペン先基部外径
B2 ペン先先端塗布部外径
図1
図2
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図23