(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124246
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】PCBの処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20220818BHJP
C08J 11/10 20060101ALI20220818BHJP
A62D 3/172 20070101ALI20220818BHJP
A62D 101/22 20070101ALN20220818BHJP
【FI】
B09B3/00 304P
C08J11/10 ZAB
A62D3/172
A62D101:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021902
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】519309887
【氏名又は名称】株式会社FDH
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香川 義孝
【テーマコード(参考)】
4D004
4F401
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004AA50
4D004AB02
4D004AB06
4D004CA15
4D004CC03
4D004CC11
4F401AA40
4F401CA13
4F401CA14
4F401CA62
4F401CA75
4F401EA10
4F401EA12
4F401EA18
4F401EA22
4F401EA48
(57)【要約】
【課題】高価な設備によらず、低廉で簡略化された設備によって処理対象物に含まれるPCBの含有率を低下できる、PCBの処理方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るPCBの処理方法は、PCBを含む処理対象物に対し、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化鉄及び二酸化ケイ素を含む固定化剤と、二酸化ケイ素を主成分とする粘土鉱物を焼成して得られる焼結セラミック粉を含むコーティング剤と、生石灰と、水とを混合する工程(a)と、工程(a)で得られた混合物を、外部から加温をすることなく撹拌する工程(b)とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBの処理方法であって、
PCBを含む処理対象物に対し、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化鉄及び二酸化ケイ素を含む固定化剤と、二酸化ケイ素を主成分とする粘土鉱物を焼成して得られる焼結セラミック粉を含むコーティング剤と、生石灰と、水とを混合する工程(a)と、
前記工程(a)で得られた混合物を、外部から加温をすることなく撹拌する工程(b)とを有することを特徴とする、PCBの処理方法。
【請求項2】
前記工程(a)は、
前記生石灰と、前記固定化剤と、PCBを含む前記処理対象物と、水とを混合する工程(a1)と、
前記工程(a1)で得られた混合物に対して、前記コーティング剤を混合する工程(a2)とを有し、
前記工程(b)は、前記工程(a2)で得られた混合物が反応熱によって温度上昇した後、温度が低下するまで実行されることを特徴とする、請求項1に記載のPCBの処理方法。
【請求項3】
前記焼結セラミック粉は、1000Bq/kg未満のγ線を発することを特徴とする、請求項1又は2に記載のPCBの処理方法。
【請求項4】
前記工程(a)において、イオウを混合しないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のPCBの処理方法。
【請求項5】
前記コーティング剤は、前記焼結セラミック粉と、酢酸マグネシウムと、有機酸金属塩と、水溶性高分子とを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のPCBの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象物に含まれるPCBの含有率を低下させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビフェニル(以下、「PCB」という。)は、環境中で分解されにくく、人や野生生物等の体内に蓄積されやすく、地球上を長距離移動し、環境影響を及ぼすおそれがある化学物質に該当するとして、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)における規制対象物質の一つに挙げられている。
【0003】
PCBは、不燃性で化学安定性及び電気絶縁性に優れるため、従来、電気機器の絶縁油などとして使用されていた。しかし、その有害性から現在では使用が禁止され、保管されているPCB及びPCBを含有する廃油等についても、国内法(PCB特措法)等の規定によって、所定の期日までに処理を完了することが義務付けられているところである。
【0004】
PCBは化学安定性に優れているが故に、無害化処理が難しいとされている。現在、PCBの無害化処理の方法としては、高温下で燃焼処理を行う方法が一般的に知られており、この方法が広く利用されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6-006177号公報
【特許文献2】特開2013-184089号公報
【特許文献3】特開2011-56504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法によれば、1000℃以上の高温条件下で燃焼処理をする必要がある。また、特許文献2~3の方法においても、550℃~950℃程度の温度で燃焼処理する必要がある。このため、高温処理のための相当の設備及び高い処理コストが必要となり、例えばPCBを含む処理対象物の保有者が、他の処理業者に依頼等をする必要が生じることが考えられる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、高価な設備によらず、低廉で簡略化された設備によって処理対象物に含まれるPCBの含有率を低下できる、PCBの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るPCBの処理方法は、
PCBを含む処理対象物に対し、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化鉄及び二酸化ケイ素を含む固定化剤と、二酸化ケイ素を主成分とする粘土鉱物を焼成して得られる焼結セラミック粉を含むコーティング剤と、生石灰と、水とを混合する工程(a)と、
前記工程(a)で得られた混合物を、外部から加温をすることなく撹拌する工程(b)とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明者の鋭意研究の結果、上記の方法によれば、生石灰と水の水和反応によって生じる熱(高々180℃程度)によって処理対象物に含まれるPCBが分解され、工程(b)の後に得られた混合物(処理済品)に含まれるPCBの含有濃度を、最終処分が可能な程度にまで低下できることが確認された。特に、この処理済品に対して溶出試験を行ったところ、PCBの溶出が確認されなかった。つまり、この方法によれば、別途の燃焼・加熱装置が不要となるため、簡易な設備によってPCBの処理が可能となる。
【0010】
更に、この方法によれば、処理の際にCO2を発生しないため、地球温暖化に対する影響も生じない。
【0011】
更に、この方法によって得られた処理済品は、主成分として消石灰を含む材料であるため、そのままコンクリート補助剤として再利用することが可能である。
【0012】
前記工程(a)は、
前記生石灰と、前記固定化剤と、PCBを含む前記処理対象物と、水とを混合する工程(a1)と、
前記工程(a1)で得られた混合物に対して、前記コーティング剤を混合する工程(a2)とを有し、
前記工程(b)は、前記工程(a2)で得られた混合物が反応熱によって温度上昇した後、温度が低下するまで実行されるものとしても構わない。
【0013】
このとき、前記工程(b)は、温度が常温まで低下するまで実行されるものとしても構わない。
【0014】
前記焼結セラミック粉は、1000Bq/kg未満のγ線を発するものとしても構わない。
【0015】
上記の焼結セラミック粉がPCBを含む処理対象物に混合されることで、焼結セラミック粉から発せられるγ線由来のエネルギーによって、PCB分子に含まれるC-Cl結合が切断された結果、PCBが分解されたものと推察される。より詳細には、固定化剤と処理対象物が水和熱発生下で混合・撹拌されることで、固定化剤に含まれる物質とPCBとの間で化学的又は物理的に結合されることで固定化され、この固定化された状態で、焼結セラミックを含むコーティング剤が更に混合される結果、PCBが分解されたものと推察される。
【0016】
この焼結セラミック粉としては、泥岩を焼成してできるセラミックを粉状に粉砕したものを利用できる。
【0017】
前記工程(a)において、イオウを混合しないものとして構わない。
【0018】
本発明の方法によれば、焼結セラミック粉が混合されることでPCBの分子構造を変化できていると考えられるため、PCBをスルホニル化するためにイオウを混合する必要はない。このため、スルホニル化のための300℃程度の加温処理も不要である。
【0019】
前記コーティング剤は、前記焼結セラミック粉と、酢酸マグネシウムと、有機酸金属塩と、水溶性高分子とを含むものとしても構わない。
【0020】
有機酸金属塩としては、ステアリン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸、安息香酸、P-ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、ナフトエ酸、タンニン酸等の芳香族カルボン酸等と、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、ニッケル、マンガン、コバルト等の金属との塩などを使用できる。典型的には、ステアリン酸ナトリウムが利用できる。
【0021】
水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、デンプン及びその誘導体、メトキシセルロース、ヒドロキシセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、アルキル酸ソーダ、ゼラチン、カゼインなどを使用できる。典型的には、カルボキシメチルセルロースが利用できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、加熱・燃焼設備を用いることなく、簡易な設備の下で、処理対象物に含まれるPCBの含有率を低下できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るPCBの処理方法の一手順を模式的に示すフローチャートである。
【
図2】実施例で利用された反応槽の外観写真である。
【
図4】反応槽に対してPCB廃油を注入している様子を示す写真である。
【
図5】反応槽に注液部材が取り付けられている状態を示す写真である。
【
図6】注液部材のみを抽出して上下方向から撮影した写真である。
【
図7】処理S4の実行中において反応槽の蓋を開放したときの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るPCBの処理方法の実施形態について、以下説明する。
図1は、本発明に係るPCBの処理方法の一手順を模式的に示すフローチャートである。
【0025】
本発明に係る方法は、PCBを含有する処理対象物Xに対して、PCBの含有率を低下させるために実施される。なお、このような処理対象物Xとしては、例えば変圧器等の電力機器に内蔵されていた絶縁油が挙げられる。
【0026】
(混合処理S1)
処理対象物Xに対する処理に利用される、生石灰Q及び固定化剤Aを準備し、これらを混合する。固定化剤Aは、生石灰Qを10質量部に対して、3~5質量部混合される。以下、「質量部」は単に「部」と略記される。
【0027】
固定化剤Aは、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化鉄及び二酸化ケイ素を含む材料である。固定化剤Aの配合組成例としては、生石灰Qを10部に対して、酸化アルミニウム0.7~1.3部、酸化マグネシウム0.35~0.75部、酸化マンガン0.21~0.39部、酸化鉄0.35~0.75部、二酸化ケイ素1.4~2.6部の範囲とすることが、処理対象物Xに含まれるPCBを迅速に固定化し得る点で好ましい。ただし、本発明は、この配合割合の範囲に限定されない。以下の数値においても同様である。
【0028】
混合処理S1は、例えば混合槽によって行われる。混合槽には、撹拌用の羽根部材が取り付けられているものとしても構わない。
【0029】
(混合処理S2)
混合処理S1によって得られた混合物M1と、処理対象物Xとを混合する。処理対象物Xの処理量は、適宜調整可能であるが、例えば、利用した生石灰Qを10部に対して、3.5部~6.5部の処理対象物Xが混合される。
【0030】
ここで、処理対象物XがPCB廃油等の液体である場合には、高い反応性を維持する観点から、混合物M1に対して一定の流量で混合されるようにするのが好適である。例えば、所定の大きさの開口部(後述する
図6の「排液穴12b」に対応する。)を通じてPCB廃油が混合槽内に滴下されるようにしても構わない。
【0031】
例えば、処理対象物Xは、4.5mg/kgの濃度でPCBを含有している。
【0032】
(混合処理S3)
混合処理S2によって得られた混合物M2と、水Wとを混合する。処理に利用される水Wの量は、混合処理S1で利用された生石灰Qを10部に対して、7部~13部程度とすることができ、典型的には生石灰Qと実質的に同量とすることができる。
【0033】
生石灰と酸化マグネシウムを含む混合物M2に対して、水Wが混合されることで、水和反応が生じ、この混合物W3は発熱する。通常、生石灰と酸化マグネシウムのみを含む混合物に対して水が混合されると、200℃程度まで温度が上昇するが、上述したように、固定化剤Aには、酸化マンガン及び二酸化ケイ素が含まれているため、これらの成分が不活性成分として作用する結果、混合物W3は150~180℃程度の加熱に抑制される。このため、この混合処理S3の実行中に、処理対象物Xに含まれるPCBが高温下に晒されることで生じる有毒ガスが発生するおそれがない。
【0034】
上記混合処理S1~S3が工程(a1)に対応する。なお、上記の説明では、生石灰Qと固定化剤Aを混合した後、処理対象物Xを混合し、その後に水Wを混合したが、これらを一括して混合しても構わない。
【0035】
(混合・撹拌処理S4)
処理対象物Xに対する処理に利用されるコーティング剤Bを準備し、混合処理S3によって得られた混合物M3に対して混合・撹拌する。コーティング剤Bは、生石灰Qを10部に対して、2.3~4.2部混合される。つまり、固定化剤Aを10部に対して、5.9部~10.9部程度混合される。典型的には、コーティング剤Bは固定化剤Aよりも1~2割程度少ない量で混合される。
【0036】
コーティング剤Bは、二酸化ケイ素を主成分とする粘土鉱物を焼成して得られる焼結セラミック粉を含み、他には、必要に応じて、酢酸マグネシウムと、有機酸金属塩と、水溶性高分子とを含む。有機酸金属塩としては、典型的にはステアリン酸カルシウムが利用でき、水溶性高分子としては、典型的にはカルボキシメチルセルロースが利用できる。
【0037】
焼結セラミック粉は、典型的には泥岩を焼成してできるセラミックを粉状に粉砕したものを利用できる。
【0038】
コーティング剤Bの配合組成例としては、焼結セラミック粉を1.5部に対して、酢酸マグネシウム、有機酸金属塩、及び水溶性高分子をそれぞれ、0.42~0.78部程度とするのが好ましい。
【0039】
処理S3~S4を経て、混合物M3に含まれていた生石灰や酸化マグネシウムは、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムに変化する。特に、この処理S4において混合されるコーティング剤Bに、水溶性高分子が含有されている場合には、この水溶性高分子から水酸基の供給を受けることで、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムにより変化しやすくなる。
【0040】
そして、混合物M3に含まれていた処理対象物X内のPCBは、前記の水酸化カルシウムや水酸化マグネシウム等の固定化物に化学的又は物理的に吸着されることで、固定される。
【0041】
コーティング剤Bに含まれる焼結セラミック粉は、泥岩等の粘土鉱物の焼成物であり、微量にγ線を放出している。このため、混合物M3に対してコーティング剤Bが混合された状態で撹拌されることで、固定化物に固定化された状態のPCB分子に対して、γ線由来のエネルギーが作用し、PCB分子に含まれるC-Cl結合が切断される。この結果、PCBが分解される。
【0042】
なお、上述したように、混合処理S3において水Wが混合されたことで、混合物M3は反応熱によって150~180℃に加熱されている。この反応熱が生じている状態の下で、コーティング剤Bが混合されて撹拌されることで、PCBの分解が促進される。なお、処理S3~S4の過程では混合槽からは水蒸気が放出される。
【0043】
撹拌処理は、混合槽の温度が低下する迄、行われるものとして構わない。典型的には、水蒸気の放出が停止し、混合槽内の温度が常温程度になるまで撹拌処理が行われるものとしても構わない。この処理S4を経て得られる処理済品Yは、溶出試験の結果、PCBの溶出量が検出限界の0.0005mg/L未満を示すことが確認された。この数値は、特別管理産業廃棄物の判定基準(廃棄物処理法施行規則第1条の2)に規定されている、0.003mg/Lの値を大幅に下回るものである。つまり、上記処理S1~S4を経て、処理対象物Xに含まれるPCBが分解される。
【0044】
得られた処理済品Yに含有されるPCBの濃度は、廃棄物処理法における「特別管理廃棄物」や「特定有害産業廃棄物」に規定された数値を大幅に下回るため、これらの廃棄物には該当しない。また、上記の方法では、処理に硫黄を利用していない。このため、得られた処理済品Yは、例えば、コンクリート補助剤等に再利用することが可能である。
【0045】
この混合・撹拌処理S4が工程(a2)及び工程(b)に対応する。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されない。
【0047】
表1に、この実施例で利用された各材料の利用量を示す。表2は、コーティング剤Bに含まれる焼結セラミック粉末を、蛍光X線分析法によって成分分析した結果を示す表である。表3は、焼結セラミック粉末のγ線スペクトロメトリー核種分析表であり、キャンベラ社のゲルマニウム半導体検出器(GC-4020-7500SL)を用いて分析された。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
処理対象物XとしてのPCB廃油は、環境省に規定の「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第3班)」に則した方法で分析した結果、4.5mg/kgのPCBを含有していた。
【0052】
まず、生石灰Qと固定化剤Aとを反応槽に投入し、混合した(混合処理S1)。
図2は、この実施例で利用された反応槽の外観写真である。反応槽10はSUS製で、長さ×幅×高さ=1200mm×600mm×900mmの寸法であり、容量は65Lであった。なお、反応槽10の内部には、回転軸に固定された状態で撹拌用の複数の羽根部材11が設けられており(
図3参照)、反応槽10には、回転軸を介して羽根部材11を回転させるための駆動部7が設けられている。駆動部7はモータであり、本実施例では、30rpmで回転軸を回転することで、反応槽10内に投入された混合物を羽根部材11によって撹拌した。
【0053】
羽根部材11は、長さ×幅×厚み=154.5mm×35mm×3mmの大きさを有し、反応槽10内に32枚取り付けられていた。
【0054】
次に、混合物M1(生石灰Qと固定化剤Aの混合物)が存在する反応槽10に対してPCB廃油を一定速度で投入した(混合処理S2)。この実施例では、
図4に示すように、注液部材12を用いてPCB廃油を反応槽10に対して投入した。
図5は、反応槽10に注液部材12が取り付けられている状態を示す写真であり、
図6は、注液部材12のみを抽出して上下方向から撮影した写真である。
【0055】
図4~
図6に示すように、注液部材12は、液体を注ぐための注入口12aと、注がれた液体を滴下させるための排液穴12b(
図6参照)とが設けられている。
図6(b)に示すように、注液部材12の底部には内径の小さい複数の排液穴12bが設けられており、注入口12aから注液部材12に対して液体が注入されると、排液穴12bの内径に応じて規定される一定の流量で、反応槽10内に供給されるように構成されている。
【0056】
図4は、注液部材12を用いてPCB廃油を反応槽10に投入する様子が撮影された写真である。
図4のようにPCB廃油を反応槽10に投入し、羽根部材11によって反応槽10内を撹拌した。
【0057】
次に、混合物M2(生石灰Qと固定化剤Aと処理対象物Xの混合物)が存在する反応槽10に対して水Wを一定速度で投入した(混合処理S3)。この処理においても、
図4~
図6に示したものと同様の注液部材12を用いて、反応槽10内に水Wが供給された。
【0058】
次に、混合物M3(生石灰Qと固定化剤Aと処理対象物Xと水Wの混合物)が存在する反応槽10に対して、コーティング剤Bを投入し、撹拌した(混合・撹拌処理S4)。表3に示すように、コーティング剤Bに含まれる焼結セラミック粉には、1000Bq/kg未満の微量のγ線を放出する物質が含まれていた。
【0059】
上述したように、処理S3~S4を経て、生石灰や酸化マグネシウムと水とが反応することで、反応槽10内は150℃~180℃程度に加熱されている。このため、この処理S4の実行時には、反応槽10からは水蒸気が放出される。
図7は、この処理S4の実行中において、反応槽10の蓋を開放した時の写真であり、水蒸気が放出されていることが確認される。
【0060】
撹拌処理は、コーティング剤Bを投入後、反応槽10内の温度が低下するまで継続された。具体的には、水蒸気の放出が視認できなくなった時点で撹拌処理を停止させた。ただし、室温程度に低下するまで撹拌処理を続けても良い。
【0061】
上記条件でPCB廃油を2回にわたって処理し、得られた処理済品Yを、「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」(昭和48年2月環境庁告示第13号)に則した方法で溶出した後、S46環告第59号付表4に規定のGC法に基づいて分析した結果、どちらの処理済品Yについても、含有PCBの濃度は検出限界の0.0005mg/L未満であった。この結果、上記方法によれば、PCB廃油に含まれるPCBを、燃焼・加熱装置を別途設けることなく、分解除去することができることが確認された。