(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124287
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】ワーク保持装置
(51)【国際特許分類】
B23B 23/00 20060101AFI20220818BHJP
【FI】
B23B23/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021966
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】緒方 房充
【テーマコード(参考)】
3C045
【Fターム(参考)】
3C045FE03
(57)【要約】
【課題】加工時のビビリ振動やワークの偏肉に起因した遠心力によってセンターを押し戻す力が発生した場合でも、センターが押し戻されることなく、ワークを保持した状態を維持するワーク保持装置を提供する。
【解決手段】ワーク保持装置Mは、工作機械の主軸と対向するように設置されており、対向主軸台1、治具ベース2、フランジ3、スリーブ4、センター5、弾性体であるコイルバネ7、クーラント供給装置21等によって構成されている。そして、スリーブ4に固着された基端部材25の外周と、円筒状部材22の内周との間に、密封可能な円筒状の空間であるバネ室6が形成された状態になっており、当該バネ室6に、コイルバネ7が設置された状態になっている。さらに、バネ室6と対向主軸台1の本体の外側に設置されたクーラント供給装置21とが、供給孔9を介して取込配管8によって接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの軸方向に移動可能なスリーブに装着されたセンターと、前記スリーブに対してワークを支持する方向に推力を与える弾性体とによってワークを保持するワーク保持装置であって、
前記弾性体が、密封可能な収納室内に収納されているとともに、
前記収納室への非圧縮性流体の供給および前記収納室からの非圧縮性流体の排出を制御する切換弁と、その切換弁による非圧縮性流体の排出制御時以外における前記収納室からの非圧縮性流体の流出を防止する逆止弁とを備えた流体供給手段が設けられていることを特徴とするワーク保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NC工作機械を制御して加工負荷によるワークの変形に起因するワーク形状の誤差を抑制するためのワーク保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械である旋盤の一種として、対向主軸である心押台が、主軸台に対向した状態でベッド上に設置されており、当該心押台をベッド上で前後に移動させることによって、主軸台に装着された被工作物(ワーク)を支持するものが知られている。また、そのような心押台を備えた旋盤の中には、ワークを押圧するためのセンターを装着したスリーブが、ベッドに対してスライド可能に設けられているとともに、当該スリーブが、弾性体であるバネによってワークを支持する方向に付勢されているものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のワーク保持装置は、加工時のビビリ振動やワークの偏肉に起因した遠心力により、センターを押し戻す力が発生し、バネが撓んでセンターが押し戻されて、ワークがセンターから外れて飛び出してしまう虞れがある。
【0005】
本発明の目的は、特許文献1の如き上記従来のワーク保持装置が有する問題点を解消し、加工時のビビリ振動やワークの偏肉に起因した遠心力によってセンターを押し戻す力が発生した場合でも、センターが押し戻されることなく、ワークを保持した状態を維持するワーク保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ワークの軸方向に移動可能なスリーブに装着されたセンターと、前記スリーブに対してワークを支持する方向に推力を与える弾性体とによってワークを保持するワーク保持装置であって、前記弾性体が、密封可能な収納室内に収納されているとともに、前記収納室への非圧縮性流体の供給および前記収納室からの非圧縮性流体の排出を制御する切換弁と、その切換弁による非圧縮性流体の排出制御時以外における前記収納室からの非圧縮性流体の流出を防止する逆止弁とを備えた流体供給手段が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係るワーク保持装置は、加工時のビビリ振動やワークの偏肉に起因した遠心力によってセンターを押し戻す力(弾性体による付勢力よりも大きな力)が発生した場合でも、収納室内に充填された非圧縮性流体によって弾性体の急激な変形が抑制されるため、センターが押し戻されることなく、ワークを保持した状態を確実に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ワーク保持装置の概要を示す説明図(保持装置本体の鉛直断面およびクーラント供給装置のブロック図)である。
【
図2】ワーク保持装置の作動内容を示す説明図(保持装置本体の鉛直断面およびクーラント供給装置のブロック図)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の一例を図面に基づき詳細に説明する。
【0010】
<ワーク保持装置の構成>
図1は、本発明に係るワーク保持装置の一例を示す説明図である。工作機械の対向主軸装置(サブ主軸)であるワーク保持装置Mは、工作機械の主軸台と対向するように設置されており、本体が、対向主軸台1、治具ベース2、フランジ3、スリーブ4、センター5、弾性体であるコイルバネ7等によって構成されており、その本体の基端側に、流体供給手段であるクーラント供給装置21が付設されている。そして、当該ワーク保持装置Mは、ワーク(被加工物)Wを把持した工作機械の主軸台(図示せず)に対して近接、離反するように、ワークWの軸方向(
図1の左右方向)に沿ってスライド可能になっている。
【0011】
対向主軸台1の基台の主軸(対向主軸)14の先端側(工作機械の主軸台との対向側、
図1における左側)には、円筒状に形成された治具ベース2が固着されており、その治具ベース2の前面に、基端側をフランジ状にした円筒状のフランジ3が固着されている。さらに、そのフランジ3のフランジ状部分の内側に、先端側をフランジ状に形成してなる円筒状部材22が、基端部分を治具ベース2の中心の空洞部に嵌め込んだ状態で固着されている。
【0012】
一方、スリーブ4には、基端部材25が連設(固着)されている。また、スリーブ4の前面側には、先端を円錐状に形成してなるセンター5が装着されている。当該基端部材25は、フランジ状の固着部27の基端側に、軸部材28を小径の円柱状に形成したものである。そして、当該スリーブ4は、フランジ3の中心の空洞部に挿通され、円筒状部材22の中心の装着穴に基端部材25を挿通させた状態で、中心軸に沿って前後にスライド可能に、対向主軸台1の基台に装着されている。
【0013】
さらに、スリーブ4に固着された基端部材25の外周と、円筒状部材22の内周との間に、密封可能な円筒状の空間であるバネ室(収納室)6が形成された状態になっており、当該バネ室6に、弾性体として機能するコイルバネ7が設置された状態になっている。さらに、そのバネ室6と、対向主軸台1の外側に設置されたクーラント供給装置21とが、供給孔9および取込配管8を介して接続されている。
【0014】
また、クーラント供給装置21は、上記したバネ室6内に非圧縮性流体であるクーラントを供給するとともに、バネ室6内からクーラントを排出可能とするためのものであり、クーラントを回収するためのドレン回路13、クーラントを供給するための供給ポンプ10、ソレノイドバルブ(切換弁)12、チェックバルブ11等によって構成されている。そして、ソレノイドバルブ12を作動させることによって、取込配管8をドレン回路13と供給ポンプ10とに切り換えて接続させることができるようになっている。加えて、バネ室6は、ドレン回路13に通じる供給孔9を除いて、外部へクーラントが流出しないようにシールされている。
【0015】
<ワーク保持装置の作動内容>
以下、上記の如く構成されたワーク保持装置Mの作動内容について説明する。ワーク保持装置Mの作動時においては、スリーブ4は、フランジ3に対して前進端に位置した状態になっている(
図1の状態)。そして、作業者が、図示しない制御装置を操作すると、図示しない送り軸によって、ワーク保持装置Mの本体が、主軸台(図示せず)との距離を縮めるように前進を開始する。そして、センター5がワーク(被工作物)Wのセンター穴に入り込み、センター5と主軸台(図示せず)との間でワークWを掴むと、スリーブ4は、コイルバネ7を押し潰しながらフランジ3に対して後退し、コイルバネ7による所定の付勢力によってワークWを把持する。
【0016】
しかる後、作業者が、図示しない制御装置を介して、クーラント供給装置21のソレノイドバルブ12をONにすると(
図2の状態)、供給ポンプ10によってクーラント(圧油)がチェックバルブ11を介して取込配管8に供給され、バネ室6内へ供給される。そして、バネ室6がクーラントで満たされると、圧力および流量の変化によってその事態が検知され、バネ室6内へのクーラントの供給が停止される。上記したようにバネ室6がクーラントで満たされると、バネ室6は密封された状態となり、加工時のビビリ振動やワークWの偏肉に起因した遠心力によってセンター5を押し戻す力が作用した場合でも、コイルバネ7が急激に圧縮されない状態となるため、ワークWがセンター5から外れて飛び出す虞がなくなる。
【0017】
そして、ワークWに対して設定されていた所定の加工を終了した後には、作業者は、図示しない制御装置を介して、クーラント供給装置21のソレノイドバルブ12をOFFにする。そのようにソレノイドバルブ12がOFF操作されると、バネ室6内のクーラントは、バネ室6内の密閉状態が解除されたことにより取込配管8を介して排出可能な状態となり、外力などの作用によりドレン回路13を経由してクーラントタンク等に回収される。そして、圧力変化によってバネ室6内のクーラントが排出可能な状態であることを検知すると、ワーク保持装置Mの本体が、主軸台(図示せず)との距離を拡げるように後退して、センター5と主軸台(図示せず)との間でのワークWの把持状態が解除される。
【0018】
<ワーク保持装置の効果>
ワーク保持装置Mは、上記の如く、弾性体であるコイルバネ7が、密封可能なバネ室(収納室)6内に収納されているとともに、バネ室6へのクーラントの供給およびバネ室6からのクーラントの排出を制御するソレノイドバルブ(切換弁)12と、そのソレノイドバルブ12によるクーラントの排出制御時以外におけるバネ室6からのクーラントの流出を防止するチェックバルブ11(逆止弁)とを備えたクーラント供給装置(流体供給手段)21が設けられている。そのため、ワーク保持装置Mは、ワークWのビビリ振動や偏肉に起因した遠心力によってセンター5を押し戻す力(コイルバネ7による付勢力よりも大きな力)が発生した場合でも、バネ室6内に充填されたクーラントによってコイルバネ7が急激に圧縮されない状態となるので、センター5が押し戻されることなく、ワークWを保持した状態を確実に維持することができる。
【0019】
<ワーク保持装置の変更例>
本発明に係るワーク保持装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、対向主軸台、治具ベース、フランジ、スリーブ、センター、収納室(バネ室)、弾性体(コイルバネ)、流体供給手段(クーラント供給装置)等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。たとえば、流体供給手段(クーラント供給装置)は、上記実施形態の如く、電磁弁を用いたものに限定されず、手動弁を用いたもの等に変更することも可能である。また、ソレノイドバルブ12の操作について、作業者の判断でONとOFFを切り替える例を用いて説明したが、加工プログラムや送り軸の負荷などの情報によりワークWの把持状況を判断させ、その判断に基づいてソレノイドバルブ12のONとOFFを自動的に切り替えるように制御してもよい。
【符号の説明】
【0020】
M・・ワーク保持装置(対向主軸装置)
1・・対向主軸台
2・・治具ベース
3・・フランジ
4・・スリーブ
5・・センター
6・・バネ室(収納室)
7・・コイルバネ(弾性体)
8・・取込配管
9・・供給孔
10・・供給ポンプ
11・・チェックバルブ(逆止弁)
12・・ソレノイドバルブ(切換弁)
13・・ドレン回路
21・・クーラント供給装置(流体供給手段)