(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124305
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】シート及びこれを用いた包装容器
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220818BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20220818BHJP
C08J 3/22 20060101ALN20220818BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
B65D65/02 F
C08J3/22 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021021990
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 愛沙子
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼山 徹三
(72)【発明者】
【氏名】小沼 健太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優絵
【テーマコード(参考)】
3E086
4F070
4F071
【Fターム(参考)】
3E086AA22
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4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】高いバリア性を保持することが可能な、層状鉱物含有シート及び包装容器を提供する。
【解決手段】層状鉱物3を内包する第1の樹脂相2と、第1の樹脂相2が分散する第2の樹脂相4とを含む層状鉱物含有シート1であり、第1の樹脂相2を構成する樹脂の、層状鉱物含有シート1を構成する全樹脂に対する含有率が10重量%以上50重量%以下であり、第1の樹脂相2は、層状鉱物含有シート1を一方の面側から見た透視図において、前記一方の面全域に隙間なく第1の樹脂相2同士が重なって存在している。第1の樹脂相2は、層状鉱物3によって水蒸気や酸素の透過度が下げられ、第1の樹脂相2同士の隙間が形成する迷路構造によって第2の樹脂相4がバリア性を発現する為、高いバリア性を保持することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状鉱物を内包する第1の樹脂相と、前記第1の樹脂相が分散する第2の樹脂相とを含むシートであり、
前記第1の樹脂相を構成する樹脂の、当該シートを構成する全樹脂に対する含有率が10重量%以上50重量%以下であり、
当該シートを一方の面側から見た透視図において、前記一方の面全域に隙間なく前記第1の樹脂相同士が重なって存在していることを特徴とするシート。
【請求項2】
請求項1に記載のシートにおいて、前記第1の樹脂相を構成する樹脂の、前記第2の樹脂相に対する含有率が、25重量%以上100重量%以下であること
を特徴とするシート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシートにおいて、前記第1の樹脂相の厚み方向の最長幅dsと当該シートの幅方向の幅及び流れ方向の幅のうちの最長幅dlとの比dl/dsで算出されるアスペクト比が8以上64以下であること
を特徴とするシート。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシートにおいて、前記第2の樹脂相がオレフィン系樹脂からなること
を特徴とするシート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシートにおいて、当該シートの破断伸度の低下率が、前記第2の樹脂相単相からなるシートの10%以内であること
を特徴とするシート。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のシートにおいて、前記第1の樹脂相を構成する樹脂に対する、前記層状鉱物の含有量は、3重量%以上80重量%以下であること
を特徴とするシート。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のシートを用いてなること
を特徴とする包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート及びこれを用いた包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチックフィルムは、軽量である、化学的に安定である、加工がしやすい、柔軟で強度がある、大量生産が可能などの性質を有する。このため、プラスチックフィルムは、様々なものに利用されている。プラスチックフィルムの用途は、例えば、食料品や医薬品等を包装する包装材、点滴パック、買物袋、ポスター、粘着テープ、液晶テレビ等に利用される光学フィルム、保護フィルム、窓に貼合するウィンドウフィルム、ビニールハウス、建装材等々、多岐にわたる。このような用途に対し、用途に応じて適正なプラスチック材料が選択される。さらに、プラスチックフィルムを複数種類重ねて積層体とすることもなされている。また、複数のプラスチック材料を1つの層中に混ぜることで、単一材料の欠点を補う用い方もある。多くの場合、耐熱性や機械強度、透明性などの観点から、適正なフィルム材料を選択している。
【0003】
一般に、プラスチックフィルムの機械特性やバリア性は、プラスチックフィルムの材料や層構成によって決まる。例えば、バリア性が必要な場合には、バリア性の良い材料に限定して使用するか、別の工程でバリア層を積層する必要が出てくるなど、製造時の手間やコストが問題となってくる場合がある。
これとは別に、層状鉱物を高分子中に分散させて、様々な特性を引き出す試みがなされている(特許文献1、非特許文献1~4)。期待される特性の一つにはバリア性の向上が挙げられており、射出成型や押出成形にて層状鉱物と高分子を混合させて製膜する検討も種々行われている(特許文献1、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松本一昭、吉田龍史、奥山喜久夫、「表面修飾シリカナノ粒子の二軸押出機による樹脂中への分散」、粉体工学会誌、2003年、第40巻、7号、p489-496
【非特許文献2】山中寿行、外7名、「マイカ充填ポリオレフィン系複合材料の機械的性質」、東京都立産業技術研修センター研究報告、2015年、第10号、p82-83
【非特許文献3】門川泰子、山口知宏、高橋勤子、福田徳生、「マイカ/PET系コンポジットの作製と物性評価」、愛知県産業技術研究所 研究報告2010、p6-9
【非特許文献4】皆瀬慎著、「有機変性粘度鉱物の工業的利用」、オレオサイエンス、2014年、第14巻、第5号、p205-211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、層状鉱物が高分子中で種々特性を発揮するには、単分散していることが望ましいとされている。しかしながら、高分子中で無機物を種々の特性が発現するサイズにまで分散させることは容易ではなく、非常に大きなエネルギーが必要になる上に、使用する押出機やスクリュ、鉱物の種類によって最適条件が異なり、汎用条件がない状態である(例えば、特許文献1、非特許文献1、4参照。)。
また、層状鉱物の含有量が多くなり過ぎると製膜されるフィルムがぼそぼそした質感になっていき、膜質の低下を招くこともあり、一般的に層状鉱物の添加量は数%(~5重量%)程度であるが、この程度の添加量ではバリア性の発現に限界がある。
【0007】
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたもので、製造時のエネルギーを抑え、安定した条件で作製することが可能であり、高いバリア性を保持することが可能な層状鉱物を含有するシート及びこれを用いた包装容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、層状鉱物を内包する第1の樹脂相と、第1の樹脂相が分散する第2の樹脂相とを含むシートであり、第1の樹脂相を構成する樹脂の、シートを構成する全樹脂に対する含有率が10重量%以上50重量%以下であり、シートを一方の面側から見た透視図において、一方の面全域に隙間なく第1の樹脂相同士が重なって存在しているシートが提供される。
また、本発明の他の態様によれば、上記態様に記載のシートを用いてなる包装容器が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、製造時のエネルギーを抑え、安定した条件で作製することができ、高いバリア性を保持することが可能なシート及び包装容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る層状鉱物含有シートの一例を模式的に示した縦断面図である。
【
図2】幅方向の厚み部及び流れ方向の厚み部を説明するための模式図である。
【
図3】層状鉱物含有シートを一方の面側から見た一例を模式的に示した透視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る層状鉱物含有シートの作用を説明するための縦断面図である。
【
図5】第1の樹脂相の形状例におけるアスペクト比を説明する断面の概略図である。
【
図6】第1の樹脂相の形状例におけるアスペクト比を説明する断面の概略図である。
【
図7】第1の樹脂相の形状例におけるアスペクト比を説明する断面の概略図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る層状鉱物含有シートの引張試験結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、各図は模式的に示した図であり、各部の大きさや形状等は理解を容易にするために適宜誇張して示している。また、説明を簡単にするため、各図の対応する部位には同じ符号を付している。
【0012】
(層状鉱物含有シート1の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る層状鉱物含有シート1の一例の概略構成を示す縦断面図である。
本実施形態に係る層状鉱物含有シート1は、
図1に示すように、第1の樹脂からなる第1の樹脂相2と、第1の樹脂相2内に分散された層状鉱物3と、第1の樹脂相2が分散された第2の樹脂相4とを備える。層状鉱物含有シート1は、ベース樹脂相となる第2の樹脂相4の内部に、層状鉱物3を内包する第1の樹脂相2が複数分散している。層状鉱物含有シート1は、
図2に示すように、幅方向の厚みを示す断面6(以後、幅方向の厚み部という。)においても、流れ方向の厚みを示す断面7(以後、流れ方向の厚み部という。)においても、
図1に示すように、第2の樹脂相4の内部に、第1の樹脂相2が複数分散している。また、第1の樹脂相2は、層状鉱物含有シート1を一方の面側から見た透視図(
図3)において、第1の樹脂相2が層状鉱物含有シート1の一方の面全域に隙間なく重なり合って存在している。つまり、第1の樹脂相2は、
図1、
図4に示す層状鉱物含有シート1の縦断面図中に矢印5で示すように、隣り合う第1の樹脂相2同士に挟まれた第2の樹脂相4を通り、同様にして第2の樹脂相4のみを通るように層状鉱物含有シート1の厚み方向に層状鉱物含有シート1の一方の面側から他方の面側に向けてたどった時に、
図4に示すような厚み方向に直進する箇所がなく、
図1に示すようにどの位置に着目しても、少なくとも1箇所は厚み方向から外れる向きに進む箇所を有するように配置される。また、第1の樹脂相2は、
図1に示すように縦断面において、上下方向に隙間を以て存在している。なお、
図1、
図4において、第2の樹脂相4についてはハッチングを省略している。
【0013】
(第1の樹脂相2について)
図5~
図7は、層状鉱物含有シート1の縦断面における、第1の樹脂相2の形状を示したものである。
第1の樹脂相2は、
図5~
図7に示すように、厚み方向の最長幅dsよりも、シートの幅方向の幅及び流れ方向の幅のうちの最長幅dlの方が長い形状をしており、dl/dsで算出されるアスペクト比が8以上64以下であることが望ましい。この時、第1の樹脂相2の形状は、縦断面が、
図5に示したような楕円形状でもよいし、
図6に示したようなくびれを有する形状でもよいし、
図7に示すような左右非対称な形状でもよい。また、第1の樹脂相2の形状は、
図5~
図7の3例に限定されるものではなく、要件、つまり、アスペクト比が8以上64以下であることを満たす形状であれば、適用可能である。第1の樹脂相2を構成する樹脂は、第2の樹脂相4の材料と共に製膜した際にデラミネーションが生じるような樹脂でなければ、射出成型若しくは押出成形可能な種々の樹脂から適宜選択することができる。
【0014】
アスペクト比が8より小さいと、層状鉱物含有シート1を一方の面側から見た透視図において、第1の樹脂相2の厚み方向の重なりが小さくなることで、迷路構造の迂回長が短くなる為、バリア性能が低下する不具合が生じる。また、64よりも大きなアスペクト比を有する第1の樹脂相2が存在すると、第1の樹脂相2の原料が局所的に多く使われることとなり、他の箇所でアスペクト比が8を下回り、バリア性が低下する不具合が生じる。一方で、アスペクト比が8以上64以下であれば、第1の樹脂相2の厚み方向の重なりが十分大きくなり迷路構造による迂回長が長くなる為、より高いバリア性を発現することが可能となる。
【0015】
第1の樹脂相2に内包される層状鉱物3は、ベントナイトやスクメタイト、あるいはそれらの有機修飾物等、よく知られた層状鉱物から選択することが可能である。層状鉱物3の含有量は、第1の樹脂相2を構成する樹脂に対して、3重量%以上80重量%以下であることが望ましく、3重量%以上50重量%以下であることがさらに望ましい。この時、層状鉱物3の分散状態の規定は不要であり、成り行きの状態で構わない。
【0016】
(第2の樹脂相4について)
本実施形態に係る層状鉱物含有シート1においてベース樹脂相となる第2の樹脂相4の材料としては、射出成型若しくは押出成形可能な樹脂から適宜選択することが可能であり、取り立てて、第2の樹脂相4を構成する材料樹脂がバリア性を有する必要はなく、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)といった一般的に流通しているオレフィン系樹脂を用いることが可能である。
【0017】
(作用その他について)
一般に、層状鉱物を高分子中に分散させて性能の向上、例えばバリア性の向上を図ろうとする場合、ナノコンポジットとして振舞うように凝集を崩す必要がある。しかしながら、高いエネルギーをかけて層状鉱物を、ナノサイズまで分散させることは容易ではなく、また、凝集の崩壊が不十分な状態で高分子中に分散させても、十分なバリア性の向上が見られない上に、外観不良やシートの強度低下(
図8の特性線K1参照)につながる。
図8は、シートに引っ張り力を加えたときの、伸び〔mm〕(横軸)と、シートに発生した応力〔N/mm
2〕(縦軸)との対応を示すグラフである。
図8中、特性線K1は、層状鉱物のみを高分子中に分散させたシート(層状鉱物含有量=3重量%。層状鉱物の凝集あり)、特性線K2は、本発明の一実施形態に係る層状鉱物含有シート1、特性線K3は、ベース樹脂相の材料樹脂のみからなるシートの特性を示す。
図8の特性線K1に示すように、シートに引っ張り力を加えた場合に、層状鉱物のみを高分子中に分散させたシートは、本発明の一実施形態に係る層状鉱物含有シート(K2)及びベース樹脂相の材料樹脂のみからなるシート(K3)に比較して、伸びがより短い時点で破断していることがわかる。
【0018】
さらに、層状鉱物の含有率が高くなり過ぎると、より一層凝集が崩れにくくなったり、シートがぼそぼそした質感になったりすることが懸念されることもあり、層状鉱物は、通常3~5重量%と極少量しか添加されない為、良好に分散しても、バリア性の向上には限界がある。
【0019】
一方で、層状鉱物3を内包した第1の樹脂相2を第2の樹脂相4内に分散させる構造である本実施形態の層状鉱物含有シート1は、疑似的に有機層内に無機層を挿入した形態となり、従来の、層状鉱物を高分子中に分散させてバリア性を向上させるようにした層状鉱物含有シートとは異なる機構で、バリア性を発現する。
【0020】
バリアされる対象、すなわち水蒸気や酸素は、疑似無機層となる第1の樹脂相2を透過することが困難になる為、第2の樹脂相4を選択的に透過していくことになり、この第2の樹脂相4が、厚み方向に直線的に存在するような配置を排することで、いわゆる迷路構造となり、バリア性の向上につながる。さらに、層状鉱物3は第1の樹脂相2を無機層として振舞わせる働きをすればよい為、ナノコンポジットサイズに分散する必要がない。また、層状鉱物3は第1の樹脂相2の内部にのみ存在し、第1の樹脂相2は、周辺をベース樹脂相となる第2の樹脂相4に囲まれているため、凝集状態で存在していても、層状鉱物含有シート1の外観不良につながることはない。さらに、バリア性向上の機能層となる第1の樹脂相2が第2の樹脂相4に取り囲まれていることは、層状鉱物含有シート1を使用していく上で不可避である摩擦や曲げといった外力による機能層の損傷が回避可能になったり、ベース樹脂の膜質を維持しやすくなったりするといった利点にもつながる。
【0021】
第2の樹脂相4が迷路構造となる為には、第1の樹脂相2の形状制御が重要になってくるが、2種の高分子を混合して押出成形した時、片方の樹脂が、もう片方の樹脂内に分散して散在することは広く知られており、層状鉱物3の凝集を崩すよりも簡単に、安定して分散状態を制御することが可能である。
【0022】
また、第1の樹脂相2は層状鉱物3によりバリア性を発現する為、第1の樹脂相2の材料樹脂自体はバリア性を有する必要がない。また、迷路構造を取ることで水蒸気や酸素の透過を阻害する第2の樹脂相4の材料樹脂もバリア性を有する必要がない。そのため、本実施形態に係る層状鉱物含有シート1は、一般に流通しているオレフィン系樹脂を用いても、バリア性を向上させることが可能となる。
これは、本実施形態の層状鉱物含有シート1の材料樹脂を、オレフィン系樹脂に限定するものではなく、バリア性を有する樹脂、例えばエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)のようなバリア性を有する樹脂を用いた場合は、当然更に良好なバリア性を付与することが可能になるが、安価な汎用樹脂を用いても、十分にバリア性が高いシートを提供できる例として挙げたものである。
【0023】
第1の樹脂相2の材料樹脂と第2の樹脂相4の材料樹脂との比率は、種々設定することが可能であるが、層状鉱物含有シート1を構成する全樹脂量に対する、第1の樹脂相2の材料樹脂の重量比が50%を超えると、ベース樹脂相と分散樹脂相との関係が逆転し、層状鉱物3が分散したベース樹脂相(つまり、第1の樹脂相2)中に、単相樹脂(つまり、第2の樹脂相4)が分散した状態となり、所望の構成から逸脱する為、層状鉱物含有シート1を構成する全樹脂量に対する、第1の樹脂相2の材料樹脂の重量比は50%以下に留める必要がある。
また、より効果的に迷路構造を形成する為には、層状鉱物含有シート1を構成する全樹脂量に対する、第1の樹脂相2の材料樹脂の重量比を10%以上とすることが望ましく、25%以上とすることがより望ましい。
【0024】
第1の樹脂相2の形状及びアスペクト比(第1の樹脂相2の幅方向の幅及び流れ方向の幅のうちの最長幅dl/第1の樹脂相2の厚み方向の最長幅ds)は均一である必要はなく、第2の樹脂相4が厚み方向に直線的に存在しない形態が確保されていればどのように配置されていても構わないが、アスペクト比が8以上64以下の範囲に収まっていると、迷路構造の形成に有利である。
また、第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相に対する含有率が25重量%以上100重量%以下であると、迷路構造の形成に有利である。
【0025】
前述したように、本実施形態に係る層状鉱物含有シート1は、単相樹脂と層状鉱物とを混合して作製するシートに比べて、ベース樹脂(第2の樹脂)の膜質を維持しやすい利点があるが、層状鉱物含有シート1の全樹脂量に対する層状鉱物の含有量が多くなり過ぎると、膜質の低下につながる危険性がある。そのため、
図8に示すように、層状鉱物含有シート1の破断伸度(特性線K2)が、ベース樹脂相の材料樹脂のみからなるシートの破断伸度(特性線K3)の90%以上の値を示すように制御する、つまり、層状鉱物含有シート1の破断伸度(特性線K2)の低下率が、ベース樹脂相の材料樹脂のみからなるシートの破断伸度(特性線K3)の10%以内の値を示すように制御すると、ベース樹脂相の材料樹脂のみからなるシートの膜質が維持される利点があり、すなわち、第1の樹脂相2を構成する樹脂や層状鉱物の含有率を調整すると、必要なバリア性の発現と層状鉱物含有シート1の機械的性質保持を両立し得る。
【0026】
以上のように、一般にバリア性を示さない樹脂や、十分な分散が見られない層状鉱物を用いてシートを作製しても、各材料の比率や配置を工夫することで、製造時のエネルギーを抑え、安定した条件で作製可能であり、良質な膜質と高いバリア性を示すシートを得ることが可能となる。
【0027】
(層状鉱物含有シート1の製造方法)
本実施形態の層状鉱物含有シート1の製造方法として、押出成形による製造方法を用いることができる。
第1段階として、二軸押出機を用いて、所望の比率になるようにドライブレンドした、第1の樹脂相2の材料となる樹脂と層状鉱物3とをマスターバッチ化する。この時、層状鉱物3の凝集体が完全に崩れる必要はないので、トルクオーバー等のトラブルが起きない条件で適宜マスターバッチを作製すればよい。
【0028】
次いで、各成分が所望の比率になるように、第2の樹脂相4と、第1の樹脂相2の材料となる樹脂及び層状鉱物3を含むマスターバッチとをドライブレンドして、押出製膜する。この時、押出機の機構によっては、最初から第2の樹脂相4とマスターバッチとを混ぜて押出機に投入するのではなく、第2の樹脂相4の材料樹脂を投入して溶融状態になっている途中部分に、第2のフィーダーからマスターバッチを添加してもよい。
また、押出機のスクリュの先に、オリフィスを設置すると、第1の樹脂相2の形状を、より幅広いバリエーションを持って制御できる。Tダイから吐出された溶融状態の層状鉱物含有シート1を冷却する際、必要があれば延伸処理を施しても構わない。その他、適宜必要な工程や添加剤を加えることは制限されるものではない。
【0029】
(本実施形態の効果)
本発明の一実施形態に係る層状鉱物含有シート1は、層状鉱物3を内包する第1の樹脂相2と、第1の樹脂相2が分散する第2の樹脂相4とからなるシートであり、層状鉱物含有シート1を構成する全樹脂量に対する、第1の樹脂相2の材料樹脂の重量比が50%以下であり、層状鉱物含有シート1を一方の面側から見た透視図において、一方の面全域に隙間なく第1の樹脂相2が重なり合って存在している。つまり、層状鉱物含有シート1のいずれの縦断面においても、層状鉱物含有シート1の一方の面から他方の面に向かって、第2の樹脂相4のみをたどったときに、厚み方向に直進するのではなく、厚み方向から外れる向きに進む箇所が、少なくとも1箇所は存在する。
この構成によれば、製造時のエネルギーを抑え、安定した条件で作製することが可能であり、良好な膜質を維持し、且つ高いバリア性を示す層状鉱物含有シート1を提供することができる。
【0030】
例えば、本実施形態に係る層状鉱物含有シート1では、層状鉱物3を含有することで、第1の樹脂相2が疑似的に無機層として振舞い、水蒸気や酸素が透過しにくい機能層となる。また、層状鉱物含有シート1を一方の面側から見た透視図において、透視図全体に隙間なく第1の樹脂相2が重なり合って存在するようにし、層状鉱物含有シート1の一方の面側から他方の面に向けて第2の樹脂相4のみを通るようにたどる場合に、層状鉱物含有シート1の一方の面上のいずれの場所でも、厚み方向から外れる向きに進む箇所が少なくとも1箇所は存在する配置とすることで、水蒸気や酸素といったバリアの対象物の透過進路となる第2の樹脂相4が所謂迷路構造となり、更にバリア性を向上させることができる。
【0031】
また、本実施形態に係る層状鉱物含有シート1は、層状鉱物3によって水蒸気や酸素の透過度を下げられた分散層(第1の樹脂相2)と、該分散相同士の隙間が形成する迷路構造とによってバリア性を発現する為、それ自体がバリア性を有する高価な樹脂を用いたり、層状鉱物をナノコンポジット形態に分散させたりする必要がなく、PEやPPのような一般に流通しているオレフィン系樹脂を用いたり、分散が不十分な層状鉱物を用いて作製したとしても、膜質の低下を回避しつつ、高いバリア性を示す付与することが可能となる。
【0032】
また、従来のように単相樹脂と層状鉱物を混合して作製するシートとは異なり、本実施形態の層状鉱物含有シート1は、層状鉱物3が第1の樹脂相2の材料樹脂及び第2の樹脂相4の材料樹脂の少なくとも2種の樹脂に取り囲まれている為、層状鉱物3の凝集体が層状鉱物含有シート1から飛び出して該シートを分断したり、シートの質感がぼそぼそしたものになったりすることを回避し、単相樹脂からシートを作製した場合と同様の膜質を維持しやすい利点もある。
【0033】
本実施形態に係る層状鉱物含有シート1は、層状鉱物3を含有しないベース樹脂相の中に、層状鉱物3を内包する樹脂相が分散していることが重要である為、ベース樹脂相と分散層とが逆転することがないよう、層状鉱物含有シート1を構成する全樹脂量に対する、第1の樹脂相2の重量比が、50%以下であることが必要となる。また、層状鉱物含有シート1において、第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率が、25重量%以上100重量%以下であったり、第1の樹脂相2のアスペクト比が8以上64以下の範囲にあったりすると、第1の樹脂相2の配置によって、第2の樹脂相4が迷路構造を取りやすくなる点で有利となる。
【0034】
また、本実施形態に係る層状鉱物含有シート1において、第1の樹脂相2が密に存在すればするほど、層状鉱物3の含有量が多ければ多いほど、バリア性は向上するが、層状鉱物含有シート1に対する層状鉱物3の密度が過度に高くなると、膜質の保持が難しくなる。また、第1の樹脂相2中の層状鉱物3の密度が過度に低いと、バリア性の発現が難しくなる。以上を踏まえると、膜質維持とバリア性維持の観点から、層状鉱物3の含有率は、第1の樹脂相2の材料樹脂に対して、3重量%以上80重量%以下であることが望ましく、3重量%以上50重量%以下であることがさらに望ましい。
【0035】
このような層状鉱物含有シート1は、任意のバリア材料として使用可能であって、例えば、チューブやボトルなどの胴体部等、包装容器に使用することも可能である。
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではないことはいうまでもない。また、以上の実施の形態を組み合わせて用いることは、任意である。
【実施例0036】
以下、本発明に基づく実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例及び比較例の試験体としての層状鉱物含有シートの作製>
(実施例1)
第1の樹脂相2の材料には、樹脂材料として宇部興産株式会社製のナイロン6(PA6)1022B 22(商品名)を用い、層状鉱物3としてビックケミー・ジャパン株式会社製のCLOISITE-20A(商品名)(有機修飾ベントナイト)を用い、第2の樹脂相4の材料には、株式会社プライムポリマー社製の直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)sp3530(商品名)を用いた。
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとの重量比が95:5となるように各々用意し、株式会社東洋精機社製ラボプラストミルを用いて二軸押出により、第1の樹脂相用のマスターバッチを作製した。その後、第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6の重量比が90:10となるようにLLDPEと前記マスターバッチをドライブレンドし、同ラボプラストミルを用いて、単軸押出成形により、200μm厚のシートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は11.1重量%であった。
【0038】
(実施例2)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が75:25になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3を含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は33.3重量%であった。
【0039】
(実施例3)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が65:35になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3を含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は53.8重量%であった。
【0040】
(実施例4)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が50:50になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3を含むマスターバッチをドライブレンドしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は100重量%であった。
【0041】
(実施例5)
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとの重量比が50:50となるようにマスターバッチを作製したこと以外は、実施例3と同様の方法で、実施例5の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は53.8重量%であった。
【0042】
(実施例6)
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとの重量比が20:80となるようにマスターバッチを作製したこと以外は、実施例3と同様の方法で、実施例6の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は53.8重量%であった。
【0043】
(実施例7)
第1の樹脂相2の樹脂材料として、三井化学株式会社製オレフィン系エラストマー(TPO)ミラストマー(商品名)を用い、第2の樹脂相4の材料として株式会社プライムポリマー社製PPのプライムポリプロピロF-300SP(商品名)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7の層状鉱物含有シート1を作製した。
【0044】
(実施例8)
第1の樹脂相2の樹脂材料として、三井化学株式会社製オレフィン系エラストマー(TPO)ミラストマー(商品名)を用い、第2の樹脂相4の材料として株式会社プライムポリマー社製PPのプライムポリプロピロF-300SP(商品名)を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で、実施例8の層状鉱物含有シート1を作製した。
【0045】
(実施例9)
第1の樹脂相2の樹脂材料として、三井化学株式会社製オレフィン系エラストマー(TPO)ミラストマー(商品名)を用い、第2の樹脂相4の材料として株式会社プライムポリマー社製PPのプライムポリプロピロF-300SP(商品名)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で、実施例9の層状鉱物含有シート1を作製した。
【0046】
(実施例10)
第1の樹脂相2の樹脂材料として、三井化学株式会社製オレフィン系エラストマー(TPO)ミラストマー(商品名)を用い、第2の樹脂相4の材料として株式会社プライムポリマー社製PPのプライムポリプロピロF-300SP(商品名)を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例10の層状鉱物含有シート1を作製した。
【0047】
(実施例11)
第1の樹脂相2の樹脂材料として、三井化学株式会社製オレフィン系エラストマー(TPO)ミラストマー(商品名)を用い、第2の樹脂相4の材料として株式会社プライムポリマー社製PPのプライムポリプロピロF-300SP(商品名)を用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で、実施例11の層状鉱物含有シート1を作製した。
【0048】
(実施例12)
第1の樹脂相2の樹脂材料として、三井化学株式会社製オレフィン系エラストマー(TPO)ミラストマー(商品名)を用い、第2の樹脂相4の材料として株式会社プライムポリマー社製PPのプライムポリプロピロF-300SP(商品名)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法で、実施例12の層状鉱物含有シート1を作製した。
(実施例13)
第1の樹脂相2の樹脂材料として宇部興産株式会社製のナイロン6(PA6)1022B 22(商品名)を用い、層状鉱物3としてビックケミー・ジャパン株式会社製のCLOISITE-20A(商品名)(有機修飾ベントナイト)を用い、第2の樹脂相4の材料には、株式会社プライムポリマー社製の直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)sp3530(商品名)を用いた。
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとの重量比が98:2となるように各々用意し、株式会社東洋精機社製ラボプラストミルを用いて二軸押出により、第1の樹脂相用のマスターバッチを作製した。その後、第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6の重量比が90:10となるようにLLDPEと前記マスターバッチをドライブレンドし、同ラボプラストミルを用いて、単軸押出成形により、200μm厚のシートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は11.1重量%であった。
【0049】
(実施例14)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が50:50になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3としてのCLOISITEを含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例13と同様の方法で、実施例14の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は106重量%であった。
【0050】
(実施例15)
第1の樹脂相2と第2の樹脂相4とが相溶することを助ける相溶化剤として、三井・ダウポリケミカル株式会社製のエチレン酢酸ビニル(EVA)EV450を用い、第2の樹脂相4としてのLLDPEと相溶化剤としてのEVAと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が78:3:19になるように、LLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEと相溶化剤としてのEVAを含むマスターバッチと、をドライブレンドしたこと以外は、実施例13と同様の方法で、実施例15の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は24.4重量%であった。
【0051】
(実施例16)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が80:20になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3としてのCLOISITEを含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例13と同様の方法で、実施例16の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は25重量%であった。
【0052】
(実施例17)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が50:50になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3としてのCLOISITEを含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例13と同様の方法で、実施例17の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は100重量%であった。
【0053】
(実施例18)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が50:50になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2してのPA6及び層状鉱物3としてのCLOISITEを含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例13と同様の方法で、実施例18の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は101重量%であった。
【0054】
(実施例19)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が65:35になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3としてのCLOISITEを含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例13と同様の方法で、実施例19の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は53.8重量%であった。
【0055】
(実施例20)
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとの重量比が97:3となるようにマスターバッチを作製したこと以外は、実施例19と同様の方法で、実施例20の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は53.8重量%であった。
【0056】
(実施例21)
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとの重量比が20:80となり、第2の樹脂相4としてのLLDPEと相溶化剤としてのEVAと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が62:3:35となるようにPA6とEVAと層状鉱物とからマスターバッチを作製したこと以外は、実施例19と同様の方法で、実施例21の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は56.5重量%であった。
【0057】
(実施例22)
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとの重量比が19:81となるようにマスターバッチを作製したこと以外は、実施例19と同様の方法で、実施例22の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は53.8重量%であった。
【0058】
(実施例23)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が81:19になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3としてのCLOISITEを含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例19と同様の方法で、実施例23の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は23.5重量%であった。
【0059】
(実施例24)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が81:19になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3としてのCLOISITEを含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例19と同様の方法で、実施例24の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は23.5重量%であった。
【0060】
(実施例25)
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとの重量比が19:81となるようにマスターバッチを作製したこと以外は、実施例23と同様の方法で、実施例25の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は23.5重量%であった。
【0061】
(実施例26)
第2の樹脂相4としてのLLDPEと第1の樹脂相2としてのPA6との重量比が50:50になるようにLLDPEと、第1の樹脂相2としてのPA6及び層状鉱物3としてのCLOISITEとを含むマスターバッチとをドライブレンドしたこと以外は、実施例23と同様の方法で、実施例26の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は101重量%であった。
【0062】
(実施例27)
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとの重量比が19:81となるようにマスターバッチを作製したこと以外は、実施例27と同様の方法で、実施例27の層状鉱物含有シート1を作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は101重量%であった。
【0063】
(比較例1)
第1の樹脂相2としてのPA6と層状鉱物3としてのCLOISITEとを含むマスターバッチを用いずに、第2の樹脂相4としてのLLDPEのみをラボプラストミルにて単軸押出成形し、200μm厚のシートを製膜することで、比較例1の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は0.0重量%であった。
【0064】
(比較例2)
層状鉱物3としてのCLOISITEと第2の樹脂相4としてのLLDPEとの重量比が5:95となるようにドライブレンドしたものを材料としたこと以外は、比較例1と同様の方法で、比較例2の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は0.0重量%であった。
【0065】
(比較例3)
第1の樹脂相2としてのPA6と第2の樹脂相4としてのLLDPEとの重量比が25:75となるようにドライブレンドしたものを材料としたこと以外は、比較例1と同様の方法で、比較例3の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は33.3重量%であった。
【0066】
(比較例4)
第2の樹脂相4としてのLLDPEとマスターバッチとをドライブレンドしたものを、二軸スクリュを用いた強混練状態で押出成形したこと以外は、実施例5と同様の方法で、比較例4の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は53.8重量%であった。
【0067】
(比較例5)
第1の樹脂相2としてのPA6と第2の樹脂相4としてのLLDPEの重量比が70:30になるように、LLDPEとマスターバッチをドライブレンドしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例5の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は233.3重量%であった。
【0068】
(比較例6)
第2の樹脂相4の材料としてPPを用いたこと以外は、比較例1と同様の方法で、比較例6の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は0.0重量%であった。
【0069】
(比較例7)
第2の樹脂相4の材料としてLLDPEをPPに変更したこと以外は、比較例2と同様の方法で、比較例7の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相を構成する樹脂の、第2の樹脂相に対する含有率は0.0重量%であった。
【0070】
(比較例8)
第1の樹脂相2の材料としてPA6をTPOに変更し、第2の樹脂相4の材料としてLLDPEをPPに変更したこと以外は、比較例3と同様の方法で、比較例8の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相を構成する樹脂の、第2の樹脂相に対する含有率は33.3重量%であった。
【0071】
(比較例9)
第1の樹脂相2の材料としてPA6をTPOに変更し、第2の樹脂相4の材料としてLLDPEをPPに変更したこと以外は、比較例4と同様の方法で、比較例9の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相を構成する樹脂の、第2の樹脂相に対する含有率は53.8重量%であった。
【0072】
(比較例10)
第1の樹脂相2の材料としてPA6をTPOに変更し、第2の樹脂相4の材料としてLLDPEをPPに変更したこと以外は、比較例5と同様の方法で、比較例10の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相を構成する樹脂の、第2の樹脂相に対する含有率は233.3重量%であった。
【0073】
(比較例11)
第1の樹脂相2の材料としてのPA6と第2の樹脂相4の材料としてのLLDPEの重量比が95:5になるように、LLDPEとマスターバッチをドライブレンドしたこと以外は、実施例13と同様の方法で、比較例11の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は5.3重量%であった。
【0074】
(比較例12)
第1の樹脂相2の材料としてのPA6と第2の樹脂相4の材料としてのLLDPEの重量比が45:55になるように、LLDPEとマスターバッチをドライブレンドしたこと以外は、比較例11と同様の方法で、比較例12の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は122.2重量%であった。
【0075】
(比較例13)
第1の樹脂相2の材料としてのPA6と第2の樹脂相4の材料としてのLLDPEと相溶化剤としてのEVAの重量比が85:10:5になるように、PA6とEVAと層状鉱物からマスターバッチを作製した以外は、実施例13と同様の方法で、比較例13の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は11.8重量%であった。
【0076】
(比較例14)
第1の樹脂相2の材料としてのPA6と相溶化剤としてのEVAと第2の樹脂相4の材料としてのLLDPEの重量比が45:5:50になるように、PA6とEVAと層状鉱物からマスターバッチを作製した以外は、比較例13と同様の方法で、比較例14の層状鉱物含有シートを作製した。第1の樹脂相2を構成する樹脂の、第2の樹脂相4に対する含有率は111.1重量%であった。
【0077】
<性能評価方法>
以上のようにして得た実施例1~27、比較例1~14の試験体としてのシートに対し、以下の評価を行なった。
〔断面観察〕
得られたサンプルの幅方向及び流れ方向の断面観察は、2mm×5mm(観察部が2mm)になるようにサンプルを切り出し、日本電子株式会社製 可視光硬化性包埋樹脂D-800で包埋したものを、ライカマイクロシステムズ製 ウルトラミクロトームEM UC7iを用いてガラスナイフ並びにダイヤモンドナイフで断面出しすることで実施した。観察試験片切出し箇所は、各サンプル幅方向、流れ方向共に無作為に選んだ10箇所とした。観察には、日立ハイテクノロジーズ社製走査電子顕微鏡(SEM)S-4800を用い、3000倍観察画像及び10万倍観察画像にて比較を行った。
【0078】
〔樹脂相配置確認〕
得られたサンプルの3000倍断面観察画像において、隣り合う第1の樹脂相同士に挟まれた第2の樹脂相を厚み方向にたどった時に、厚み方向から外れる箇所があるかどうかを確認した。つまり、シートを一方の面側から見た透視図において、一方の面全域に隙間なく第1の樹脂相同士が重なって存在しているかどうかを確認した。
〔アスペクト比算出〕
得られたサンプルの第1の樹脂相のアスペクト比は、画像解析ソフトimageJを用いて、3000倍観察時のSEM画像を二値化して求めた第1の樹脂相の長軸及び短軸の長さから算出した。
【0079】
〔引張試験〕
得られたサンプルの引張試験は、シートの流れ方向が長辺になるように15mm×100mmサイズに試験片を切り出し、株式会社エー・アンド・デイ社製テンシロン万能材料試験機 RTC-1250Aを用いて、伸びが0の状態からシートが破断するまで引っ張り力を付与することで実施し、破断伸度を得た。この時、チャック間距離は50mm、引張速度は100mm/minとした。
〔引張試験評価〕
各実施例及び比較例のシートの引張試験を実施し、各実施例及び比較例のシートの破断伸度の、第2の樹脂相の材料樹脂の単相シートの破断伸度に対する変化率を算出した。
【0080】
〔バリア性評価〕
各実施例及び比較例のシートのバリア性評価は、GTRテック株式会社製 高感度水蒸気透過度測定装置 GTR-3000を用いて水蒸気透湿度及び酸素透過度測定を実施し、第2の樹脂相の材料樹脂の単相シートを測定した場合に比べて、各透過度が1/50よりも小さくなっていれば「◎」、1/30よりも小さくなっていれば「○」、1/10よりも小さくなっていれば「△」、1/10以上であれば「×」とした。
【0081】
各実施例及び比較例のシートの作製条件、及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0082】
【0083】
〔評価結果〕
表1から分かるように、本発明の一実施形態に係る実施例1~27では、厚み方向から外れる第2の樹脂相が存在するため、バリア性を得ることができ、製造時のエネルギーを抑え、安定した条件で作製することが可能であり、良好な膜質を保持しつつ、高いバリア性を示すシートを提供できる事が確認された。また、実施例としては未記載だが、前述した材料以外のポリエチレン(PE)樹脂や層状鉱物を用いても、必要な要件を満たす形態を有する層状鉱物含有シートであれば、同様の結果となった。
【0084】
一方、比較例2では、層状鉱物が十分に分散しない状態でシート全体に散在していることから、膜質が低下して破断しやすくなり、十分なバリア性も発現しない結果となった。
また比較例3では、第1の樹脂相中に層状鉱物が存在しない為、バリア性が得られない結果となった。
また、比較例4では、二軸スクリュを用いた強混練状態で押出成形したシートは、第1の樹脂相のアスペクト比が小さく、厚み方向に直線的に第2の樹脂相が存在し、第2の樹脂相の重なりが小さい為に、水蒸気や酸素が通り抜けやすくなり、バリア性が得られない結果となった。
【0085】
比較例5は、第1の樹脂相の含有率が多過ぎる為に、層状鉱物を内包する第1の樹脂相中に第2の樹脂相が分散するという逆転が生じ、比較例2と同様に、膜質が低下し、バリア性も不十分となる結果であった。
比較例7~10の結果から、材料の樹脂種を変えても、必要な要件を満たしていない状態では、十分なバリア性が得られないことが確認された。
また、比較例1、比較例6では、層状鉱物が存在しないためバリア性は発現せず、また、比較例11及び比較例12に示すように、層状鉱物を含む場合であっても、第1の樹脂相の全樹脂に対する樹脂含有率が10重量%以上50重量%以下の範囲外である場合には、十分なバリア性が得られず、さらに、比較例13及び比較例14に示すように、第1の樹脂相の全樹脂に対する樹脂含有率が10重量%以上50重量%以下の範囲内であっても、厚み方向に直線的に第2の樹脂相が存在する場合にはバリア性が得られないことが確認された。
【0086】
また、実施例13、14、比較例11~14から、少なくとも、第1の樹脂相を構成する樹脂の、全樹脂に対する含有率がしきい値10重量%以上50重量%以下の範囲内であれば、アスペクト比がしきい値8を下回る場合がありまた、破断伸度の変化率がしきい値10%を多少上回るものの、厚み方向から外れる箇所が発現し、バリア性が得られることが確認された。
また、実施例15~18から、第1の樹脂相を構成する樹脂の、全樹脂に対する含有率がしきい値10重量%以上50重量%以下の範囲内である場合に、さらに第1の樹脂相を構成する樹脂の、第2の樹脂相に対する含有率がしきい値25重量%以上100重量%以下の範囲内の値であれば、アスペクト比がしきい値8を下回る場合がありまた、破断伸度の変化率がしきい値10%を多少上回るものの、厚み方向から外れる箇所が発現し、バリア性が得られることが確認された。
【0087】
また、実施例19~22から、第1の樹脂相を構成する樹脂の、全樹脂に対する含有率がしきい値10重量%以上50重量%以下の範囲内の値である場合に、さらに第1の樹脂相を構成する樹脂に対する、層状鉱物の含有量が、しきい値3重量%以上80重量%以下の範囲内の値であれば、アスペクト比がしきい値8を下回る場合がありまた、破断伸度の変化率がしきい値10%を多少上回るものの、厚み方向から外れる箇所が発現し、バリア性が得られることが確認された。
また、実施例23、24から、第1の樹脂相を構成する樹脂の、全樹脂に対する含有率がしきい値10重量%以上50重量%以下の範囲内の値である場合に、さらにアスペクト比が閾値8以上64以下の範囲内の値であれば、良好なバリア性が得られることが確認できた。