(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124319
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】圧電薄膜共振器、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20220818BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20220818BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022017
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】矢神 義之
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB08
5J108DD01
5J108EE03
5J108EE07
5J108FF02
5J108KK02
(57)【要約】
【課題】圧電膜からの放熱性を向上させた弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、基板10と、基板10上に設けられた下部電極12と、下部電極12上に設けられた上部電極16と、下部電極12と上部電極16との間に設けられ、平面視において下部電極12と上部電極16とが重なる共振領域50に囲まれた閉じた領域に設けられ上部電極1の開口17を介し上部電極16から突き出した突起14cを有する圧電膜14とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた下部電極と、
前記下部電極上に設けられた上部電極と、
前記下部電極と前記上部電極との間に設けられ、平面視において前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域に囲まれた閉じた領域に設けられ前記上部電極の開口を介し前記上部電極から突き出した突起を有する圧電膜と、
を備える圧電薄膜共振器。
【請求項2】
前記圧電膜の熱伝導率は前記上部電極の熱伝導率より高い請求項1に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項3】
前記圧電膜は窒化アルミニウムを主成分とする請求項1または2に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項4】
前記上部電極は、ルテニウム、モリブデンおよびタングステンの少なくとも1つを主成分とする膜を備える請求項3に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項5】
前記突起の表面の少なくとも一部はガスに露出する請求項1から4のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項6】
前記突起は複数設けられている請求項1から5のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項7】
前記上部電極上に設けられた保護膜を備え、
前記突起は前記保護膜から突出する請求項1から6のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項8】
前記共振領域の外周内で規定される第1領域の平面視の重心と第2領域の平面視の重心が一致し、前記第2領域の平面形状が前記第1領域の平面形状の相似形であり、前記第2領域の平面視の面積が前記第1領域の1/4の平面視の面積を有する前記第2領域内における前記突起の平面視の面積は、前記第2領域外における前記突起の平面視の面積より大きい請求項1から7のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項9】
前記共振領域において、前記基板と前記下部電極との間に空隙が設けられている請求項1から8のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器を含むフィルタ。
【請求項11】
請求項10に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜共振器、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用に圧電薄膜共振器を有するフィルタやマルチプレクサが用いられている。圧電薄膜共振器は、下部電極、圧電膜および上部電極が積層された積層膜を有している。圧電膜の少なくとも一部を挟み下部電極と上部電極とが対向する領域は弾性波が振動する共振領域である(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-95729号公報
【特許文献2】特開2011-91639号公報
【特許文献3】国際公開第2007/119556号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電薄膜共振器において、下部電極と上部電極との間に高周波信号を印加すると圧電膜を熱源として自己発熱する。圧電膜の温度が上昇すると、共振周波数の変化、各膜の界面における剥離、および集電破壊等の問題が発生する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、圧電膜からの放熱性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた下部電極と、前記下部電極上に設けられた上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられ、平面視において前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域に囲まれた閉じた領域に設けられ前記上部電極の開口を介し前記上部電極から突き出した突起を有する圧電膜と、を備える圧電薄膜共振器である。
【0007】
上記構成において、前記圧電膜の熱伝導率は前記上部電極の熱伝導率より高い構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記圧電膜は窒化アルミニウムを主成分とする構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記上部電極は、ルテニウム、モリブデンおよびタングステンの少なくとも1つを主成分とする膜を備える構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記突起の表面の少なくとも一部はガスに露出する構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記突起は複数設けられている構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記上部電極上に設けられた保護膜を備え、前記突起は前記保護膜から突出する構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記共振領域の外周内で規定される第1領域の平面視の重心と第2領域の平面視の重心が一致し、前記第2領域の平面形状が前記第1領域の平面形状の相似形であり、前記第2領域の平面視の面積が前記第1領域の1/4の平面視の面積を有する前記第2領域内における前記突起の平面視の面積は、前記第2領域外における前記突起の平面視の面積より大きい構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記共振領域において、前記基板と前記下部電極との間に空隙が設けられている構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記圧電薄膜共振器を含むフィルタである。
【0016】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、放熱性を向上させることを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図5】
図5(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の共振領域付近の断面模式図、
図5(b)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器をサーモグラフィを用い観察した平面模式図である。
【
図6】
図6は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の共振領域付近の断面模式図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、それぞれ実施例1およびその変形例1における共振領域付近の平面図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、それぞれ実施例1の変形例2および3における共振領域付近の平面図である。
【
図9】
図9は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、それぞれ実施例1の変形例5および6に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図11】
図11(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図11(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例0020】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。基板10の法線方向をZ軸、共振領域50から上部電極16が引き出される方向をX方向、基板10の平面方向のうちX方向に直交する方向をY方向とする。
図1(a)および
図1(b)に示すように、基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。下部電極12上に、圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、例えば(0001)方向を主軸とする窒化アルミニウムを主成分とする窒化アルミニウム膜である。
【0021】
圧電膜14上に上部電極16が設けられている。上部電極16には複数の開口17が設けられている。圧電膜14の上面には突起14cが設けられ、突起14cは開口17を介し上部電極16の上面から突出する。共振領域50は、圧電膜14を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる領域であり、厚み縦振動モード等の弾性波が共振する領域である。平面視において空隙30は共振領域50を含む。平面視において、空隙30の大きさは共振領域50と同じまたは共振領域50より大きい。共振領域50の平面形状は楕円形状である。
【0022】
共振領域50外の下部電極12および上部電極16上に金属層20が設けられている。金属層20は、圧電薄膜共振器間を接続する配線またはパッドとして機能する。基板10上に下部電極12および上部電極16を覆うように保護膜22が設けられている。保護膜22は周波数調整膜として機能してもよい。共振領域50内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、上部電極16および保護膜22を有する。
【0023】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等の絶縁基板または半導体基板である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。
【0024】
圧電膜14は、窒化アルミニウム(AlN)、タンタル酸リチウム(TaLiO3)、ニオブ酸リチウム(NbLiO3)または水晶である。圧電膜14は多結晶でもよく単結晶でもよい。圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、スカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン、ジルコニウム(Zr)またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル、ニオブ(Nb)またはバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、ボロン(B)を含んでもよい。
【0025】
金属層20は、例えばチタン膜等の密着膜と密着膜上に設けられた金膜等の低抵抗膜である。保護膜22は、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、酸化金属膜または窒化金属膜である。共振周波数が5GHz~6GHzの圧電薄膜共振器では、下部電極12および上部電極16は、例えば厚さが100nmのルテニウム、圧電膜14は、例えば厚さが1μmの窒化アルミニウムである。
【0026】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から
図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、基板10上に犠牲層38を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜する。犠牲層38は、例えば厚さが10nmから100nmの酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)または酸化シリコン(SiO
2)等である。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38は共振領域となる領域に対し略一致する。
【0027】
図2(b)に示すように、犠牲層38および基板10上に下部電極12を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法(例えばイオンミリング法)を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0028】
図2(c)に示すように、下部電極12、犠牲層38および基板10上に圧電膜14を、例えばスパッタリング法または真空蒸着法を用い成膜する。圧電膜14上にマスク層60を形成する。マスク層60は、例えばフォトレジストであり、塗布、露光および現像により所望形状に形成する。
【0029】
図3(a)に示すように、マスク層60をマスクに圧電膜14の上部を除去する。これにより、圧電膜14の上面に突起14cが形成され、突起14c以外の圧電膜14を所望の厚さとする。
図2(b)に示すように、圧電膜14およびマスク層60上に上部電極16を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。
図3(c)に示すように、マスク層60を剥離することで、マスク層60上の上部電極16をリフトオフする。これにより、突起14cの上面が露出する。
【0030】
図4(a)に示すように、上部電極16および突起14c上に開口63を有するマスク層62を形成する。マスク層62は例えばフォトレジストである。マスク層62は例えば塗布、露光および現像により形成する。マスク層62をマスクに上部電極16および圧電膜14を除去する。例えば、上部電極16をイオンミリング法を用い、圧電膜14をウェットエッチング法を用い除去する。
【0031】
図4(b)に示すように、マスク層62を除去する。
図4(c)に示すように、基板10上に下部電極12および上部電極16を覆うように、保護膜22を形成する。保護膜は、例えばCVD法、スパッタリング法または真空蒸着法を用い成膜する。突起14c上および所望領域の保護膜22を例えばエッチング法を用い除去する。下部電極12および上部電極16上に金属層20を形成する。その後、エッチングする媒体(エッチング液)を用い犠牲層38を除去する。エッチングする媒体は犠牲層38以外の基板10および積層膜18をエッチングしない媒体であることが好ましい。積層膜18の応力を圧縮応力に設定する。これにより、犠牲層38が除去されると下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、
図1(a)および
図1(b)に示した圧電薄膜共振器が製造される。
【0032】
圧電膜14に用いられる窒化アルミニウムの熱伝導率は285W/mKであり、下部電極12および上部電極16に用いられるルテニウム、モリブデンおよびタングステンの熱伝導率はそれぞれ117W/mK、138W/mKおよび173W/mKであり、保護膜22に用いられる酸化シリコンの熱伝導率は3W/mKである。
【0033】
図5(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の共振領域付近の断面模式図である。
図5(a)に示すように、比較例1では、上部電極16に開口が設けられておらず、圧電膜14に突起が設けられていない。下部電極12と上部電極16との間に信号が印加されると、共振領域50内の圧電膜14の中央の領域64が発熱する。矢印65a~65dのように領域64から圧電膜14を介し熱が伝導する。矢印65aのように圧電膜14を+X方向に伝導した熱は、矢印66aのように、共振領域50外において基板10に伝導する。矢印65bのように圧電膜14を-X方向に伝導した熱は、矢印66bのように、下部電極12を介し共振領域50外における基板10に伝導し、矢印66cのように、圧電膜14の端面から大気に放出される。下部電極12および上部電極16の熱伝導率が低く、下部電極12は空隙30に直接接続され、上部電極16は保護膜22を介し上方の空隙に接続する。このため、矢印65cおよび65dのように、下部電極12および上部電極16に伝導した熱は、放熱に余り寄与しない。このように、比較例1では、領域64の熱は主に圧電膜14を伝導し、基板10または大気に放出される。
【0034】
比較例1に係る圧電薄膜共振器の下部電極と上部電極との間に高周波信号を印加し温度分布を観察した。実験条件は以下である。
基板10:シリコン基板
下部電極12:厚さが200nmのルテニウム膜
圧電膜14:厚さが1μmの多結晶窒化アルミニウム膜
上部電極16:厚さが200nmのルテニウム膜
共振領域50:長軸が120μm、短軸が80μmの楕円形
高周波信号:電力が1.1Wおよび周波数が3.2GHzの連続波(CW:Continuous Wave)
圧電薄膜共振器を上方からサーモグラフィを用い観察した。
【0035】
図5(b)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の温度分布を示す平面模式図である。
図5(b)のように、下部電極12が共振領域50から引き出される領域の温度は30℃であり、上部電極16が共振領域50から引き出される領域の温度は25℃である。これに対し、共振領域50の温度は35°以上である。共振領域50の中心55付近の温度は90℃以上である。このように、共振領域50の中心55において発生した熱は放出されにくく、共振領域50の中心付近で温度が上昇する。温度の高い領域は下部電極12の引き出し方向-X方向に少し偏っている。これは、
図5(a)のように、+X側では圧電膜14が共振領域50の外まで設けられているのに対し、-X側では圧電膜14が共振領域50の外に設けられていないため、-X側では圧電膜14を介し放熱し難いためである。
【0036】
図6は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の共振領域付近の断面模式図である。
図6に示すように、実施例1では、上部電極16および保護膜22を貫通する開口17を介し圧電膜14の突起14cが大気中に突出している。領域64において発生した熱は、矢印65dおよび67のように、突起14cを伝導し、突起14cの表面から大気に放出される。このように、比較例1における矢印66aおよび66bの放熱経路に加え、矢印67の突起14cを介した放熱経路が設けられる。これにより、領域64からの放熱性を高めることができる。よって、領域64の温度を低くすることができる。
【0037】
実施例1によれば、圧電膜14は、平面視において共振領域50に囲まれた閉じた領域に設けられ上部電極16の開口17を介し上部電極16から突き出した突起14cを有する。これにより、圧電膜14において発生した熱が突起14cを介し放出される。よって、放熱性を向上できる。
【0038】
圧電膜14の熱伝導率は上部電極16の熱伝導率より高い。これにより、熱導電率の高い圧電膜14の突起14cを介し熱が放出されるため、放熱性をより向上できる。圧電膜14の熱伝導率は上部電極16の熱伝導率の1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2倍以上がさらに好ましい。
【0039】
圧電膜14は窒化アルミニウムを主成分とする。窒化アルミニウムは熱伝導率が高いため、放熱性をより向上できる。なお、圧電膜14が窒化アルミニウムを主成分とするとは、圧電膜14が意図的または意図せず不純物を含むことを許容し、圧電膜14が窒化アルミニウムを例えば50原子%以上または80原子%以上含む。単結晶の窒化アルミニウム等の圧電膜14は熱伝導率がより高い。よって、圧電膜14は単結晶であることが好ましい。
【0040】
上部電極16は、ルテニウム、モリブデンおよびタングステンの少なくとも1つを主成分とする膜を備える。ルテニウム、モリブデンおよびタングステンは、窒化アルミニウムより熱伝導率が低い。よって、放熱性をより向上できる。ある膜がある元素を主成分とするとは、ある膜が意図的または意図せず不純物を含むことを許容し、ある膜がある元素を例えば50原子%以上または80原子%以上含む。ルテニウム、モリブデンおよびタングステンの少なくとも1つを主成分とする膜の厚さは上部電極16の厚さの0.5倍以上が好ましく、0.8倍以上がより好ましい。
【0041】
突起14cの表面の少なくとも一部は大気等のガスに露出する。これにより、突起14cから大気等のガスに熱が放出される。突起14cは側面の少なくとも一部がガスに露出することが好ましい。
【0042】
突起14cは複数設けられている。これにより、突起14cの表面積が大きくなり、放熱性がより向上する。
【0043】
上部電極16上に保護膜22が設けられている場合、突起14cは保護膜22から突出する。これにより、放熱性をより向上できる。
【0044】
共振領域50において、基板10と下部電極12との間に空隙30が設けられている場合、下部電極12から基板10への熱が伝導し難く、圧電膜14の温度が高くなる。よって、突起14cを設けることが好ましい。
【0045】
図7(a)は、実施例1における共振領域付近の平面図である。
図7(a)に示すように、共振領域50に囲まれた閉じた領域に突起14cが設けられている。領域51の平面形状は共振領域50外周の平面形状の相似形である。共振領域50の外周内で規定される第1領域(すなわち共振領域50と突起14cとを加えた領域)の中心55(平面視の重心)と領域51の中心(平面視の重心)は略一致している。領域51の平面視の面積は、共振領域50の外周内の第1領域の平面視の面積の1/4(すなわち幅が1/2)である。突起14cは領域51内に設けられている。
図5(b)のように、共振領域50の中心55付近の温度が最も上昇する。そこで、中心55を含む領域51内に突起14cを設けることで効率的に領域51の温度を下げることができる。突起14cの領域は共振に寄与しない。このため、突起14cの平面視の合計の面積が大きくなると、共振特性が劣化する。よって、比較的温度の低い領域51の外には突起14cを設けないことが好ましい。
【0046】
突起14cが設けられる領域51の面積が第1領域の面積の1/4の例を説明したが、領域51の面積は第1領域の面積の1/9、4/9、1/16または9/16でもよい。
【0047】
共振領域50のX方向の幅Wx(短軸の幅)は例えば50μm~200μmであり、Y方向の幅Wy(長軸の幅)は例えば80μm~300μmである。突起14cの幅W1(直径)は例えば1μm~100μmであり、間隔W2は例えば1μm~100μmである。突起14cが大気に露出する高さT(
図1(b)参照)は例えば10nm~2μmである。突起14cからの放熱性を向上させるため、高さTは、突起14c以外の圧電膜14の厚さの1/3以上が好ましく、1/2以上がより好ましく、1倍以上がさらに好ましい。高さTが大きいと圧電膜14の成膜が難しくなる。よって、高さTは、突起14c以外の圧電膜14の厚さの5倍以下が好ましく、2倍以下がより好ましい。
【0048】
[実施例1の変形例1]
図7(b)は、実施例1の変形例1における共振領域付近の平面図である。
図7(b)に示すように、突起14cは実施例1の
図7(a)より-X側にシフトして設けられている。共振領域50の中心55を通りY方向に延伸する直線56の-X側の突起14cの合計の平面視の面積は、直線56の+X側の突起14cの合計の平面視の面積より大きい。下部電極12の引き出し領域では、共振領域50外に圧電膜14が設けられていない。このため、
図5(b)のように、共振領域50内の下部電極12の引き出し側(つまり-X側)の温度が高くなる。そこで、共振領域50の中心55を通り下部電極12の引き出し方向(-X方向)に直交する直線56を仮定する。直線56より-X側における突起14cの合計の平面視の面積を直線56の+X側における突起14cの合計の平面視の面積より大きくする。これにより、温度が高くなる領域に突起14cを設けることができるため、放熱性が向上する。直線56の-X側の突起14cの合計の平面視の面積は、直線56の+X側の突起14cの合計の平面視の面積の1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましい。
【0049】
[実施例1の変形例2]
図8(a)は、実施例1の変形例2における共振領域付近の平面図である。
図8(a)に示すように、突起14cの個数が実施例1の
図7(a)より大きく、幅W1および間隔W2は
図7(a)の幅W1および間隔W2より小さい。一部の突起14cは領域51外に設けられている。突起14cの個数、幅W1および間隔W2は任意に設定できる。放熱性を高めるためには、大気に露出する突起14cの表面積は大きい方は好ましい。一方、突起14cの平面視の合計の面積は小さい方が好ましい。よって、突起14cの個数を多くすることが好ましい。突起14cの個数は5個以上が好ましく、10個以上がより好ましい。領域51外に一部の突起14cを設ける場合、領域51外の突起14cの合計の面積は領域51内の突起14cの合計の面積以下が好ましく、1/2以下がより好ましく、1/5以下がさらに好ましい。これにより、放熱性を高めかつ共振特性の劣化を抑制できる。
【0050】
[実施例1の変形例3]
図8(b)は、実施例1の変形例3における共振領域付近の平面図である。
図8(b)に示すように、突起14cは1個である。突起14cが1個の場合、平面視において突起14cは共振領域の中心55を含むことが好ましい。これにより、放熱性を高めることができる。
【0051】
実施例1および変形例1~3のように、第2領域51内における突起14cの平面視の合計の面積は、第2領域51外における突起14cの平面視の合計の面積より大きい。これにより、放熱されにくい領域51では、突起14cから効率的に放熱される。一方、放熱されやすい領域51外における突起14cの平面視の面積が小さいため、共振特性の劣化を抑制できる。第2領域51内における突起14cの平面視の合計の面積は、第2領域51外における突起14cの平面視の合計の面積の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。
【0052】
[実施例1の変形例4]
図9は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図9に示すように、実施例1の変形例4では、圧電膜14は、下部電極12上に設けられた下部圧電膜14aと、下部圧電膜14a上に設けられた上部圧電膜14bと、を備えている。下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は例えば酸化シリコン膜である。挿入膜28は共振領域50内の外周領域52に設けられ、中央領域54に設けられていない。挿入膜28は共振領域50の外周領域52の少なくとも一部に設けられていればよい。挿入膜28は、圧電膜14よりヤング率および/または音響インピーダンスが小さい材料である。挿入膜28は、酸化シリコン以外に、アルミニウム、金(Au)、銅、チタン、白金、タンタルまたはクロム等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。挿入膜28により、弾性波のエネルギーが共振領域50から外に漏洩することを抑制できる。
【0053】
共振領域50から下部電極12が引き出される領域では、共振領域50の外周より上部圧電膜14bの外周が外側に位置し、上部圧電膜14bの外周より下部圧電膜14aの外周が外側に位置する。挿入膜28の外周は下部圧電膜14aの外周に略一致する。これにより、圧電膜14には段差が形成される。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例1~3において、実施例1の変形例4のように、圧電薄膜共振器は挿入膜28を備えてもよい。
【0054】
[実施例1の変形例5]
実施例1の変形例5および6は、空隙の構成を変えた例である。
図10(a)は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。
【0055】
[実施例1の変形例6]
図10(b)は、実施例1の変形例6に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(b)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31aと音響インピーダンスの高い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0056】
実施例1の変形例1~4において、実施例1の変形例5と同様の空隙30を形成してもよく、実施例1の変形例6と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0057】
実施例1およびその変形例1から5のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例6のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域50を含む音響反射層は、空隙30または音響反射膜31を含めばよい。FBARの場合、下部電極12と基板10との間に空隙30が設けられているため、圧電膜14から基板10への放熱性が悪くなる。よって突起14cを設けることが好ましい。
【0058】
共振領域50の平面形状として楕円形状を例に説明したが、共振領域50の平面形状は、四角形状または五角形状等の多角形状等の任意の形状でもよい。突起14cの平面形状として円形状を例に説明したが、突起14cの平面形状は、三角形状、四角形状のような多角形状、楕円形状または長円形状等の任意の形状でもよい。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。