IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋紙工株式会社の特許一覧

特開2022-124422育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法
<>
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図1
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図2
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図3
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図4
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図5
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図6
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図7
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図8
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図9
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図10
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図11
  • 特開-育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124422
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/02 20180101AFI20220818BHJP
   A01G 9/029 20180101ALI20220818BHJP
   A01M 29/34 20110101ALI20220818BHJP
   A01M 21/04 20060101ALI20220818BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20220818BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20220818BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20220818BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
A01G9/02 620Z
A01G9/02 620A
A01G9/029 C
A01M29/34
A01M21/04 C
A01G7/06 A
A01P17/00
A01N37/36
A01N43/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022173
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000166649
【氏名又は名称】五洋紙工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 龍
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航太
【テーマコード(参考)】
2B022
2B121
2B327
4H011
【Fターム(参考)】
2B022AA05
2B022EA01
2B022EB10
2B121AA16
2B121AA19
2B121BB28
2B121CC02
2B121CC05
2B121CC22
2B121EA26
2B121EA28
2B121FA13
2B327NC02
2B327NC23
2B327NC24
2B327NC39
2B327NC52
2B327ND03
2B327ND09
2B327NE05
2B327QA02
2B327QB03
2B327QB14
2B327QB23
2B327QC11
2B327QC23
2B327QC38
2B327QC50
2B327QD03
2B327VA20
4H011AC06
4H011BB06
4H011BB08
4H011DA07
(57)【要約】
【課題】 育苗中および土壌への移植後の両方において、植物苗類の栽培を簡便に行うことのできる育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の育苗ポットは、側面部を有するカップ本体と、該側面部の上端近傍に設けられている薬効帯とを備え、該カップ本体が生分解性材料で構成されており、該カップ本体の該側面部に複数の透孔部が設けられており、そして該薬効帯が生物活性剤を含有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面部を有するカップ本体と、該側面部の上端近傍に設けられている薬効帯とを備え、
該カップ本体が生分解性材料で構成されており、該カップ本体の該側面部に複数の透孔部が設けられており、そして該薬効帯が生物活性剤を含有する、育苗ポット。
【請求項2】
前記生分解性材料が、紙および生分解性高分子からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項1に記載の育苗ポット。
【請求項3】
前記生分解性材料が紙である、請求項1に記載の育苗ポット。
【請求項4】
前記生物活性剤が、動物忌避剤、植物活性化剤、および農薬からなる群から選択される少なくとも1種の薬剤である、請求項1から3のいずれかに記載の育苗ポット。
【請求項5】
前記生物活性剤が動物忌避剤を含み、該動物忌避剤が、サポニン、パラオキシ安息香酸ブチル、およびパラオキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの化学物質である、請求項4に記載の育苗ポット。
【請求項6】
前記薬効帯が前記カップ本体の外周に沿って配置されている、請求項1から5のいずれかに記載の育苗ポット。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の育苗ポット内に植物苗類および培土が収容されている、植物苗類製品。
【請求項8】
植物苗類の移植方法であって、土壌に設けられた孔に請求項7に記載の植物苗類製品を該植物苗類製品の前記薬効帯が該土壌の表面から露出するように配置する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業または園芸分野では、草花、果樹、庭木または樹木の生産のために、育苗ポットが多用されている。具体的には、例えば育苗ポット内で播種および発芽を行い、そのまま当該育苗ポット内で所定の大きさの苗(植物苗)になるまで成長させ、その後この苗を所定の土壌に移植することが行われている。一方で、その過程でナメクジ、カタツムリ、アブラムシなどの害虫による被害、特に芽から苗の状態ではナメクジやカタツムリなど柄眼目の軟体動物による食害が深刻である。
【0003】
これらを抑える手立てとしていくつかの技術が提案されている。例えば、特許文献1は、害虫の忌避剤を含む、ネットや織布、不織布、シートなどの部材を植物体の根元、あるいは植物体の幹または茎への巻き付けにより配置することにより、当該植物体の食害を防止することを開示している。
【0004】
しかし、こうした忌避剤を含む部材の配置では食害を十分に防止できず、さらに幹または茎への当該部材の巻き付けは植物体の成長自体に不適当となることもある。
【0005】
他方、特許文献2は、裏面には粘着剤などを付着させ、表面にはナメクジの忌避剤であるサポニンを付着させた合成樹脂製テープを植物の根元や茎に巻き付けることを開示している。特許文献3は、サポニンを含有する生分解性プラスチックフィルムからなる軟体動物用忌避剤を開示している。特許文献4は、軟体動物の忌避のために、パラヒドロキシ安息香酸アルキルを含有するエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(EEA樹脂)を含む樹脂組成物の使用について開示する。特許文献5は、紙製基材に生分解性樹脂を積層し、これを育苗ポットに使用することを開示している。
【0006】
しかし、上記を用いて育苗した植物苗を土壌に移植しても、移植後はナメクジなどの軟体動物をそのままで撃退することが難しい。さらにこれを解決するためには忌避剤や忌避材のさらなる使用が必要となるためである。
【0007】
さらに、育苗ポットを用いた植物の栽培には、所定の植物活性化剤や農薬などの薬剤を施用することがある。ここで、例えば栽培経験が不慣れな者が家庭用園芸を行う場合には、専門知識の不足により当該薬剤を過剰にまたは極端に少量で施用して、むしろ栽培する植物の適切な成長を妨げることがある。このことから、栽培経験や専門知識の有無に関わらず、多くの人が所定の植物を簡便に栽培できる技術開発が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8-298915号公報
【特許文献2】特開2002-171892号公報
【特許文献3】特開2017-137261号公報
【特許文献4】特開2020-055950号公報
【特許文献5】特開2002-101761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、育苗中および土壌への移植後の両方において、植物苗類の栽培を簡便に行うことのできる育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、側面部を有するカップ本体と、該側面部の上端近傍に設けられている薬効帯とを備え、
該カップ本体が生分解性材料で構成されており、該カップ本体の該側面部に複数の透孔部が設けられており、そして該薬効帯が生物活性剤を含有する、育苗ポットである。
【0011】
1つの実施形態では、上記生分解性材料は、紙および生分解性高分子からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む。
【0012】
1つの実施形態では、上記生分解性材料は紙である。
【0013】
1つの実施形態では、上記生物活性剤は、動物忌避剤、植物活性化剤、および農薬からなる群から選択される少なくとも1種の薬剤である。
【0014】
さらなる実施形態では、上記生物活性剤は動物忌避剤を含み、該動物忌避剤は、サポニン、パラオキシ安息香酸ブチル、およびパラオキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの化学物質である。
【0015】
1つの実施形態では、上記薬効帯は上記カップ本体の外周に沿って配置されている。
【0016】
本発明はまた、上記育苗ポット内に植物苗類および培土が収容されている、植物苗類製品である。
【0017】
本発明はまた、植物苗類の移植方法であって、土壌に設けられた孔に上記植物苗類製品を該植物苗類製品の前記薬効帯が該土壌の表面から露出するように配置する工程を含む、方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、育苗中および土壌への移植後の両方において植物苗類を効果的に栽培できる。本発明の育苗ポットは、少なくともカップ本体が生分解性を有することにより、植物苗類とともに土壌にそのまま移植でき、これにより使用済のポットが廃棄ゴミとして残存する懸念から解放される。さらに、土壌への移植後であっても、本発明の育苗ポットに含まれる生物活性剤の薬効が持続的に発揮され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の育苗ポットの一例を示す図であって、(a)は当該育苗ポットの模式図であり、(b)は当該育苗ポットの縦方向断面図である。
図2図1の(a)に示す育苗ポットの透孔部を模式的に表した拡大図である。
図3】本発明の育苗ポットにおけるカップ本体に設けられる透孔部の他の例を表す図であって、(a)はスリット状の透孔部を表す図であり、(b)は(a)に示すスリット状の透孔部から植物苗類の根が外部に延びた状態を説明するための図である。
図4】本発明の育苗ポットを構成するカップ本体の作製手順の一例を説明するための図であって、(a)は端部にフック状の突出部とそれに対応する挿入穴とが設けられた扇状基材を示す模式図であり、(b)は、(a)に示す扇状基材を用いてカップ本体を形成した状態を説明する模式図である。
図5】本発明の育苗ポットにおけるカップ本体と薬効帯との位置的関係を説明するための図であって、(a)はカップ本体の側面部上端が薬効帯の端部よりも上方に位置するように配置された当該育苗ポットの縦方向断面図であり、(b)は薬効帯の端部がカップ本体の側面部の上端よりも上方に位置するように配置された当該育苗ポットの縦方向断面図である。
図6図1の(a)および(b)に示す育苗ポットの分解斜視図である。
図7】本発明の育苗ポットの他の例を示す当該ポットの分解斜視図である。
図8】本発明の育苗ポットのさらに別の例を示す当該ポットの斜視図である。
図9】本発明の育苗ポットのさらに別の例を示す当該ポットの縦方向断面図である。
図10】本発明の育苗ポットのさらに別の例を示す当該ポットの縦方向断面図であって、(a)はカップ本体の上方を外側に折り曲げて薬効帯を形成した状態を説明する当該育苗ポットの縦方向断面図であり、(b)はカップ本体の上方を内側に折り曲げて薬効帯を形成した状態を説明する当該育苗ポットの縦方向断面図である。
図11図1に示す育苗ポットを用いた植物苗類製品の一例を説明するための斜視図である。
図12図11に示す植物苗類製品を土壌に移植する際の例を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について図面を用いて詳述する。
【0021】
(育苗ポット)
図1の(a)は、本発明の育苗ポットの一例を示す斜視図である。育苗ポット100は、側面部104で構成されておりかつ上方が開口するカップ本体110を備える。育苗ポット100には、通常、カップ本体110に底部102が設けられていてもよいが、例えば、底部が小さくなるような場合には、培土等の漏出も起こり難いので、省略してもよい場合がある。
【0022】
カップ本体110を構成する側面部104には、複数の透孔部112が設けられている。透孔部112は、カップ本体110の外側と内側との間で液体(例えば水)、気体(例えば空気)、その他物質(例えば生理活性物質)および/または物体(例えば培土中に存在する昆虫や微生物)の移動を可能にする側面部104に設けられた手段である。
【0023】
カップ本体110を構成する底部102は、例えば円形、楕円形または矩形、六角形等の多角形を有していてもよい。例えば、図1の(b)に示すように、育苗ポット100の底部102には、必要に応じて1つまたはそれ以上の水捌け用の孔103が設けられている。側面部104は、底部102の外周から、好ましくは上方に向けて拡径または拡大するように設けられている。底部102および上端106により構成される開口部の大きさ、ならびにカップ本体110の高さは特に限定されず、育苗の種類やサイズ等によって適切な大きさまたは高さに設定され得る。
【0024】
図2は、図1の(a)に示す育苗ポット100の透孔部112を模式的に表した拡大図である。図2に示す透孔部112は略円形の孔であり、その平均直径は必ずしも限定されず、カップ本体110の上端106により構成される開口部の大きさ等によって任意の値が当業者によって設定され得る。例えば、カップ本体110が上端106によって円形の開口部を形成し、その直径が5cm以上30cm未満である場合、当該カップ本体110に設けられる透孔部112(孔)の平均直径は、例えば1mm~10mmである。カップ本体110が上端106によって円形の開口部を形成し、その直径が30cm以上60cm以下である場合、当該カップ本体110に設けられる透孔部112(孔)の平均直径は、例えば15mm~50mmである。透孔部112が孔である場合、その形状の例としては、円形、楕円形、三角形、四角形、およびその他多角形、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
透孔部112は、図3の(a)に示すように、側面部104に設けられた切れ目(スリット)の形態を有していてもよい。透孔部112がスリットである場合、その長さは必ずしも限定されず、カップ本体110の高さ等によって任意の値が当業者によって設定され得る。例えば、カップ本体110の高さが5cm以上30cm未満である場合、当該カップ本体110に設けられる透孔部112(スリット)の長さは、例えば1mm~15mmである。カップ本体110の高さが30cm以上60cm以下である場合、当該カップ本体110に設けられる透孔部112(スリット)の長さは、例えば10mm~100mmである。透孔部112のスリットは、これらの長さに亘って連続的に切れ目が設けられていることが好ましい。スリットは、図3の(a)に示すような形状のものだけでなく、例えば、直線状、円弧状、波線状、および曲線状、ならびにそれらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0026】
こうした上記孔状およびスリット状の透孔部112は、後述のようにカップ本体110自体が生分解性材料で構成されていることにより、時間の経過に伴ってその形状が崩壊し、栽培する植物苗類の成長(特に根の生育)を妨げないという利点を奏する。透孔部112の数は、特に制限がない限りは、透孔部の作用が奏されるように適宜決定すればよく、例えば3個~12個程度が適当である。
【0027】
透孔部112はまた、図2および図3の(b)に各々示すように、栽培する植物苗類の根114を育苗ポットの外に伸ばす際の通路としても機能し得る。例えば、図2に示す実施形態では、植物苗類の根114は、透孔部112の孔を通じてカップ本体の外側に向かって成長することができる。図3の(b)に示す実施形態では、植物苗類の根114は、図3の(a)に示すスリット状の透孔部112を押し開いてカップ本体の外側に向かって成長することができる。本発明の育苗ポットがこれらの透孔部112を有することにより、栽培される植物苗類の根は、育苗ポット内に留まることなく育苗ポットの外にもストレスなく自由に伸びることができる。
【0028】
再び図1の(b)を参照すると、本発明の育苗ポット100において、透孔部112は、例えば、カップ本体110の側面部104の下方(上方の開口から底部のうち、底部の近傍)に設けられているが、本発明は当該配置のみに限定されない。例えば、側面部104の全面に亘って略均等に設けられていてもよい。カップ本体110に設けられ得る透孔部112の数もまた特に限定されず、カップ本体110を構成する材料の種類や厚み、栽培する植物苗類の種類等に基づいて当業者が適切な数を設定することができる。
【0029】
本発明の育苗ポット100において、カップ本体110は生分解性材料で構成されている。
【0030】
カップ本体110を構成し得る生分解性材料は、後述のように土壌中に放置することにより、雨、水、昆虫等の節足動物、土壌中のバクテリアなどによって徐々に分解し得る性質を有するものであり、例えば紙および生分解性高分子、ならびにそれらの組み合わせを含む。カップ本体110を構成し得る生分解性材料は、上記紙および生分解性高分子のうちの複数を用いた積層体であってもよい。
【0031】
カップ本体110を構成し得る紙は、特に限定されないが、育苗ポットとして使用することを考慮すると、上記生分解性を有する一方で、降雨や散水によって簡単に破れることのない程度の適度な耐水性を有するものであることが好ましい。このような紙の具体例としては、洋紙、和紙、晒紙、未晒紙、古紙、再生紙、上質紙、中質紙、更紙、ロール紙、クラフト紙、および工業用雑種紙、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。必要に応じて、良好な耐水性を付与するために、当該紙の表面には、ポリエチレン、スターチ(澱粉のり)、膠、ロジン(松脂)、カルナバワックス、天然ゴムラテックス、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどの材料薄膜状に塗工した、防水加工が施されていることが好ましい。特に、土壌中での分解性に適しているとの理由から、スターチ、膠、ロジン、カルナバワックス、天然ゴムラテックスなどの天然由来の素材で防水加工されていてもよい。
【0032】
カップ本体110を構成し得る生分解性高分子としては、生分解性を示す生化学材料(例えばセルロース、酢酸セルロース、キトサン、デンプン、および修飾デンプン)ならびに生分解性樹脂の1種またはそれらの組み合わせが挙げられる。生分解性樹脂としては、例えばポリ-3-ヒドロキシアルカノエート(PHA)系樹脂、ポリ乳酸(PLA)系樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)系樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)系樹脂、およびポリグリコール酸(PGA)系樹脂、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。あるいは、生分解性樹脂は、ポリヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリエチレンサクシネート、およびポリビニルアルコール、ならびにそれらの組み合わせなどの生分解性熱可塑性樹脂であってもよい。取り扱い易く、かつ土壌中での生分解が早いという理由から、カップ本体110は、セルロース、PHA、PLAまたはPBSで構成されていることが好ましい。
【0033】
カップ本体110が、上記紙および生分解性高分子のうちの複数を用いた積層体からなる場合、当該積層体の各層は、生分解速度の異なる材料で構成されていることが好ましい。例えば、図1の(b)のようにカップ本体110の外側に薬効帯120が配置されている場合には、カップ本体110を構成する積層体は、内側の層よりも外側の層の方が生分解速度の高いものが配置される。このような場合の積層体の一例としては、内側の層は例えば生分解性高分子からなり、外側の層は紙からなるものが挙げられる。
【0034】
カップ本体110は、生分解性に優れるとともに、厚み等を調整することにより、強度、耐水性等が容易に調整でき、必ずしも防水加工等を必要としない点から紙で構成されていることが好ましい。
【0035】
カップ本体110は、上記生分解性材料に加えて、当該生分解性材料の生分解性や成形性を阻害しない範囲において他の添加剤を含有していてもよい。
【0036】
カップ本体110に含有され得る他の添加剤の例としては、必ずしも限定されないが、後述の生物活性剤以外の他の薬効を有する酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、および/またはリン系酸化防止剤);紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤および/またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤);帯電防止剤(例えば、アニオン系活性剤、カチオン系活性剤、非イオン系活性剤、および/または両性活性剤);透明化剤(例えば、カルボン酸金属塩、ソルビトール類、および/またはリン酸エステル金属塩類);滑剤(例えば、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、高級アルコール系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、金属石ケン系滑剤、および/またはエステル系滑剤);難燃剤(例えば、有機系難燃剤および/または無機系難燃剤);および可塑剤(例えば、エポキシ化植物油、フタル酸エステル類、および/またはポリエステル系可塑剤);ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。カップ本体110に含有され得る上記他の添加剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0037】
カップ本体110は、例えば上記紙および/または生分解性高分子、ならびに必要に応じて上記他の添加剤から構成されている扇状基材を鉢状に丸め、端部を固定することにより作製することができる。
【0038】
例えば、図4の(a)に示すように、扇状基材116の一方の端部119aには、1つまたはそれ以上のフック状の突出部117が設けられており、他方の端部119bにはそれに対応する挿入穴118が設けられている。この扇状基材116を鉢状に丸めて、フック状の突出部117を、挿入穴118を通して当該他方の端部119bに係止することにより、一方の端部119aと他方の端部119bとを糊や接着剤で固定することなく、扇状基材116から鉢状(すなわち逆円錐台)のカップ本体110を作製することができる(図4の(b))。
【0039】
あるいは、カップ本体110は、上記フック状の突出部や挿入穴が設けられていない扇状基材を鉢状に丸め、端部を糊または接着剤などの接着性手段で固定して作製されてもよい。接着性手段の例としては、スターチ(澱粉)、膠、ロジン、カルナバワックス、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、水添ゴムなどが挙げられる。
【0040】
あるいは、カップ本体110は、上記生分解性材料を用いる場合、例えば、Tダイを用いた押出成形によって一旦シートまたはフィルムの形態に成形した後、鉢状に真空成形しその後必要に応じて底部102に排水用の孔を設けることによって作製してもよい。
【0041】
あるいは、カップ本体110は、上記生分解性材料を用いる場合、上記生分解性材料のシートまたはフィルムを底部の形状および側面部の展開図の形状に切断し、それらをヒートシール、高周波シールまたは所定の接着剤等を介して貼り合わせることにより作製してもよい。なお、上記にてヒートシールする際の温度は、使用する生分解性材料(生分解性樹脂)の種類によって変動するため必ずしも限定されないが、例えば140℃~350℃である。
【0042】
図1の(a)および(b)に示す育苗ポット100では、カップ本体110の側面部(外表面)104でかつその上端106の近傍に、例えばカップ本体110の周囲に帯状に配置された薬効帯120が設けられている。ここで、「上端の近傍」とは、薬効帯の端部と側面部の上端とが重なっている状態、および薬効帯の端部と側面部の上端とが一定の距離、例えば15mm以下程度の距離で離間している状態を包含していう。すなわち、本発明の育苗ポットでは、例えば図5の(a)に示すように、カップ本体110の側面部104の上端106が薬効帯120の端部107よりも15mm程度まで上方に設けられていてもよい。上記距離よりも大きくなると、育苗ポットにおける薬効帯の高さ方向の位置が低くなり、想定的にカップ本体内部に配置される培土の表面や育苗ポットの外側に位置する土壌の表面も低くする必要性を生じ、不都合となる場合がある。あるいは、図5の(b)に示すように薬効帯120の端部107がカップ本体110の側面部104の上端106よりも15mm程度まで(または15mm以下となるように)上方に設けられていてもよい。上記距離より大きくなると、薬効帯がカップ本体よりも上方に突出し過ぎて取り扱い性が悪くなる場合がある。
【0043】
再び図1の(a)を参照すると、薬効帯120を構成する材料は、必ずしも限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂および生分解性材料、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0044】
薬効帯120を構成し得る熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(EEA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂(EMA)、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0045】
エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(EEA)は、主成分としてエチレン成分とエチルアクリレート成分との共重合体を含有する。エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂は、一般に低密度ポリエチレン(LDPE)よりも柔軟性に富み、エチルアクリレートの含有量が高いほど、融点が低下することが知られている。本発明に用いられ得るエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂は、例えば、65℃~110℃の融点を有する。
【0046】
エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂に含まれるエチルアクリレート成分の含有量は、共重合体樹脂の質量を基準にして、好ましくは10質量%~45質量%、より好ましくは15質量%~40質量%、さらにより好ましくは15質量%~35質量%である。エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂のエチルアクリレート成分の含有量がこのような範囲内にあることにより、薬効帯120の表面において後述する生物活性剤の粉吹きや所望でない粘着性やゴム弾性の出現を防止できる。
【0047】
エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂としては、例えば、株式会社NUC製押出コーティング用EEA(NUC-6220、NUC-6170、EERN-023、DPDJ-9165、DPDJ-9169、NUC-6510、NUC-6520、NUC-6570、NUC-6070、NUC-6940等)、日本ポリエチレン株式会社製レクスパールA1100、A3100、A1150、A4200、A6200、A4250等が市販されている。
【0048】
エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂(EMA)は、主成分としてエチレン成分とメチルアクリレート成分との共重合体を含有する。エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂は、一般に低密度ポリエチレン(LDPE)よりも柔軟性に富み、メチルアクリレートの含有量が高いほど、融点が低下することが知られている。本発明に用いられ得るエチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂は、例えば、65℃~110℃の融点を有する。
【0049】
エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂に含まれるメチルアクリレート成分の含有量は、共重合体樹脂の質量を基準にして、好ましくは10質量%~45質量%、より好ましくは15質量%~40質量%、さらにより好ましくは15質量%~35質量%である。エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂のメチルアクリレート成分の含有量がこのような範囲内にあることにより、薬効帯102の表面において後述する生物活性剤の粉吹きや所望でない粘着性やゴム弾性の出現を防止できる。
【0050】
エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂としては、例えば、日本ポリエチレン株式会社製のレクスパールEB050S、EB240H、EB330H、EB140F、EB230X、EB440H等が市販されている。
【0051】
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)は、主成分としてエチレン成分と酢酸ビニル成分との共重合体を含有する。エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、当該樹脂に含まれる酢酸ビニル成分の含有量によって結晶性または非晶性の性質を有する。
【0052】
結晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂に含まれる酢酸ビニル成分の含有量は、共重合体樹脂の質量を基準にして、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは19質量%以上25質量%以下である。結晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル成分の含有量がこのような範囲内にあることにより、薬効帯120の表面において後述する生物活性剤の粉吹きや所望でない粘着性やゴム弾性の出現を防止できる。
【0053】
非晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は成形加工性に優れるとの理由から軟質のものを選択することが好ましい。非晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂に含まれる酢酸ビニル成分の含有量は、共重合体樹脂の質量を基準にして、好ましくは10質量%~40質量%、より好ましくは15重量%~30重量%である。非晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル成分の含有量がこのような範囲内にあることにより、成形加工性が良好となるとともに、得られる薬効帯120の表面において、所望でない粘着性の出現を防止できる。
【0054】
本発明において、熱可塑性樹脂としてエチレン-酢酸ビニル(EVA)共重合体樹脂が採用される場合、適切な成形加工性を保持することができる点から、所定のメルトフローレート(MFR)(例えば、5g/10分~20g/10分)を有していることが好ましい。
【0055】
このようなエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂としては、例えば、三井デュポンポリケミカル株式会社製エバフレックス(登録商標)EV45LX、EV40LX、EV150、V523、EV170、EV180、EV250、EV260、EV270、EV360等が市販されている。
【0056】
薬効帯120を構成し得る生分解性材料は、上記カップ本体110を構成し得る生分解性材料と同様である。本発明において、薬効帯120を構成し得る生分解性材料と、カップ本体110を構成し得る生分解性材料とは同一であっても異なっていてもよい。薬効帯120を構成する生分解性材料は、カップ本体110が生分解した後も生物活性剤の作用を効果的に発揮させるために、カップ本体110を構成する生分解性材料よりも生分解速度が遅いものであってもよい。
【0057】
薬効帯120はまた生物活性剤を含有する。ここで、「生物活性剤を含有する」とは、生物活性剤が薬効帯120の内部に配置されていること、および生物活性剤が薬効帯120の表面に存在していることのいずれをも包含していう。
【0058】
生物活性剤とは、生物体に対して作用する物質(生物活性物質)から構成されているか、または当該生物活性物質を含有する薬剤を包含していう。生物体の例としては、植物および動物が挙げられ、より具体的な例としては、栽培される植物苗類、当該植物苗類に対して成長が所望されない他の植物(例えば雑草)、節足動物(例えば昆虫、クモ類、ムカデ類)、軟体動物(例えばナメクジ、カタツムリのような腹足類)、細菌類などが挙げられる。
【0059】
生物活性剤の例としては、動物忌避剤、植物活性化剤、および農薬、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0060】
動物忌避剤は、軟体動物、特にナメクジやカタツムリなど柄眼目に属する軟体動物の忌避に有用な薬剤であり、例えばサポニン、パラオキシ安息香酸アルキル、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0061】
パラオキシ安息香酸アルキルは、例えば、パラオキシ安息香酸とアルキルアルコールとのエステル化反応生成物である。
【0062】
パラオキシ安息香酸アルキルは、その分子構造中、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数4~7のアルキル基を含む。当該アルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のいずれであってもよい。パラオキシ安息香酸アルキルを構成するアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ペプチル基、n-オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、3-ペンチル基、t-ペンチル基などが挙げられる。
【0063】
本発明におけるパラオキシ安息香酸アルキルの具体的な例としては、パラオキシ安息香酸ブチル(例えば、パラオキシ安息香酸n-ブチル)およびパラオキシ安息香酸ヘキシル(例えば、パラオキシ安息香酸n-ヘキシル)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
植物活性化剤は、栽培する植物苗類の成長を促す薬剤であり、肥料の主要成分(窒素、リン酸、カリウム)や植物の活性を促す機能成分(例えば、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、有機酸、微量元素(例えば、マグネシウム、鉄、カルシウム)等を含む物質を含有する。
【0065】
農薬は、栽培される植物苗類(特に農作物)の保存に使用される薬剤であり、例えば、殺菌剤、防黴剤、殺虫剤、除草剤、殺鼠剤、植物ホルモン剤等が挙げられる。
【0066】
本発明においては、市販により入手が容易であり、かつナメクジ、カタツムリなど軟体動物に対して優れた忌避効果を奏することができる点から、生物活性剤は動物忌避剤を含むことが好ましく、動物忌避剤の例として、サポニン、パラオキシ安息香酸ブチル、およびパラオキシ安息香酸ヘキシル、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0067】
薬効帯120における生物活性剤の含有量は、薬効帯120の全体質量に対して好ましくは0.5質量%~60質量%、より好ましくは1質量%~50質量%、さらにより好ましくは1質量%~45質量%である。生物活性剤の含有量が0.5質量%未満であれば、得られる薬効帯120について生物活性剤の十分な薬効を発揮することができない場合がある。生物活性剤の含有量が60質量%を超えると、相対的に薬効帯120における生分解性材料の含有量が低下することにより、得られた薬効帯の表面のべとつきが大きくなる場合がある。
【0068】
薬効帯120は、上記生分解性材料の生分解性、生物活性の薬効、ならびに両者の親和性および成形性を阻害しない範囲において他の添加剤を含有していてもよい。薬効帯120に含有され得る他の添加剤の例としては、上記カップ本体110に含有され得る他の添加剤と同様である。薬効帯120に含有され得る上記他の添加剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0069】
本発明の育苗ポット100では、例えば図6に示すように薬効帯120はカップ本体110の外周に沿って配置されている。薬効帯120とカップ本体110との間は、当該分野において公知のヒートシール、高周波シールまたは接着剤を介して貼り合わされている。その際、生物活性剤130は、この貼り合わせの前に、薬効帯120内に(例えば、薬効帯120を構成する生分解性材料と生物活性剤130との混練により)添加されていてもよく、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて薬効帯120の形態に成形した後に、塗工、スプレー、含浸等の任意の手段を用いて外表面および/または内部に生物活性130が付与されていてもよい。
【0070】
あるいは、本発明においては、図7に示す育苗ポット200のように、カップ本体110の上端106と略同じ大きさに成形されたリング状または紐状の薬効帯220が、当該カップ本体110の上端106と接着剤等を介して貼り合わされていてもよい。その際、生物活性剤130は、この貼り合わせの前に、薬効帯220内に(例えば、薬効帯220を構成する生分解性材料と生物活性剤130との混練により)添加されていてもよく、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて薬効帯220の形態に成形した後に、塗工、スプレー、含浸等の任意の手段を用いてその外表面および/または内部に生物活性剤130が付与されていてもよい。
【0071】
あるいは、本発明においては、図8に示す育苗ポット300のように、カップ本体310の上端306の近傍部分をそのまま薬効帯320として使用してもよい。このため、図8に示す育苗ポット300では、カップ本体310と薬効帯320とは一体となっている。その際、生物活性剤130は、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて上記カップ本体310と薬効帯320とを一体成形した後、当該薬効帯320に相当する部分に、塗工、スプレー、含浸等の任意の手段を用いてその外表面および/または内部に生物活性剤130が付与されていてもよい。
【0072】
さらに、本発明においては、図9に示す育苗ポット400のように、カップ本体110の内側面部(内表面)104’に薬効帯120が配置されてもよい。薬効帯120とカップ本体110との間は、当該分野において公知のヒートシール、高周波シールまたは接着剤を介して貼り合わされている。その際、生物活性剤130は、この貼り合わせの前に、薬効帯120内に(例えば、薬効帯120を構成する生分解性材料と生物活性剤130との混練により)添加されていてもよく、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて薬効帯120の形態に成形した後に、塗工、スプレー、含浸等の任意の手段を用いて外表面および/または内部に生物活性剤130が付与されていてもよい。
【0073】
またさらに、本発明においては、図10の(a)に示す育苗ポット500のように、カップ本体110’の上方を外側に折り曲げることにより、薬効帯120’を形成し、当該薬効帯120’にスプレー、含浸等の任意の手段を用いて生物活性剤が付与されたものであってもよい。あるいは、図10の(b)に示す育苗ポット600のように、カップ本体110”の上方を内側に折り曲げることにより、薬効帯120”を形成し、当該薬効帯120”にスプレー、含浸等の任意の手段を用いて生物活性剤が付与されたものであってもよい。
【0074】
(植物苗類製品および植物苗類の移植方法)
上記のように育苗ポットは、少なくともカップ本体自体が生分解性を有し、ポット内で育てられた植物苗や播種された種子(これらをまとめて植物苗類という)をそのまま1つの植物苗類製品として市場に流通させることができる。この点において、図11に示すように、本発明の植物苗類製品700は、上記育苗ポット100内に植物苗類510および培土520が収容されている。
【0075】
植物苗類510の種類は特に限定されず、従来の育苗ポットで栽培可能な植物の苗や種子が挙げられる。具体的な例としては、トマト、キュウリ、オクラ、エンドウ、ナス、イチゴ、ハクサイ、ダイコンなどの農業用植物、アサガオ、パンジー、チューリップ、キク、アジサイなどの園芸植物の苗や種子、挿木が挙げられる。
【0076】
上記植物苗類製品によれば、育苗ポット内の植物苗類を以下のようにして土壌に移植することができる。具体的には、例えば、図12に示すように、土壌610に設けられた孔620に上記植物苗類製品500が当該植物苗類製品700の薬効帯120が土壌610の表面から露出するように配置される。この場合、図示したように薬効帯120の下方の一部が土壌510中に埋設されていてもよい。
【0077】
このように、本発明では、植物苗類510を土壌610に移植する際に植物苗類510および培土520をカップ本体110から取り出すことなく、カップ本体110に収容された状態で配置される。ここで、薬効帯120は図12に示すように高さtに相当する分が土壌610の表面から露出している。これにより、カップ本体110は土壌610に埋められており、かつ薬効帯120は土壌610の表面から露出した状態が保持される。
【0078】
このような配置によって、土壌610に移植された植物苗類510の周囲には、薬効帯120に含まれる生物活性剤が、カップ本体110の内半径に相当する距離を離れて配置される。例えば生物活性剤が動物忌避剤であるか、または動物忌避剤を含む場合、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物からの植物苗類510の食害を防止することができる。さらに、薬効帯120が土壌610の表面から高さtだけ露出することにより、軟体動物が植物苗類510に到達するためには、この薬効帯120を乗り越えなければならず、さらに食害の可能性を低減することができる。一方、カップ本体110の側面部104に設けられた透孔部112は、底部102に設けられた水捌け用の孔103とともに、培土520中に存在する余剰の水分をカップ本体110の外に排出できるとともに、培土520および土壌610内に含まれる空気、生理活性物質、および/または昆虫や微生物の移動も容易に促すことができる。さらに、少なくともカップ本体110が生分解性を有しているため、このまま土壌610中に放置しても廃棄ゴミとして環境を汚染することなく自然に分解することができる。
【0079】
これに対し、薬効帯120は、例えば熱可塑性樹脂で構成されている場合は、カップ本体110のような生分解は起こらず、植物苗類510の周囲にリング状に残存したままとなる。特に、カップ本体110の生分解が徐々に進む一方で、植物苗類510は上下方向や茎部分が成長するため、残存する薬効帯120は、植物苗類510から容易に外れ難くなる。これにより、薬効帯120は植物苗類510により風に飛ばされることが抑制され、植物苗類510の周囲において長期に亘って生理活性剤の薬効を発揮することも可能である。あるいは、薬効帯120が生分解性材料で構成されている場合は、カップ本体110の生分解と一緒にまたは前後して、薬効帯120自体の生分解も進行し、土壌610上で廃棄ゴミとして環境を汚染することなく自然に分解することができる。結果として、従来のポリエチレン等で構成される育苗ポットと比較して、廃棄ゴミとなって環境汚染の問題を引き起こす可能性を著しく低減できる。
【実施例0080】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1:育苗ポット(E1)の作製)
カップ用原紙紙(PEコートなどの耐水・防水処理をしていないもの,坪数220g/m)を、汎用の紙コップ成形機を用いて糊付けシールすることにより、図1に示すような、開口部直径7cm、底部直径6.5cm、深さ7cm、側面部に直径0.5cmの円形の孔(透孔部用)8個、底部中央に直径1cmの孔(水捌け用)1個を有するカップ状ポットを得た。次いで、このカップ状ポットの開口部を、ナメクジ用忌避剤としてサポニンを40質量%の割合で含有するエタノール乳液に、開口部の上端から約0.8cmの深さまで浸漬しかつ取り出して乾燥することにより、サポニンが含浸された薬効帯を有する育苗ポット(E1)を得た。
【0082】
(実施例2:育苗ポット(E2)の作製)
実施例1と同様にしてカップ状ポットを作製し、開口部の上端から0.8cmまでの深さを除く全面(外側面および内側面の両方)に、予め湯煎による加熱で溶解させた液状の膠を刷毛で塗布することにより耐水性カップ状ポットを得た。
【0083】
実施例1のカップ状ポットの代わりにこの耐水性カップ状ポットを用いたこと以外は実施例1と同様にして、サポニンが含浸された薬効帯を有する育苗ポット(E2)を得た。
【0084】
(実施例3:育苗ポット(E3)の作製)
実施例1で用いたサポニンを含有するエタノール乳液の代わりに、ナメクジ用忌避剤としてパラオキシ安息香酸ヘキシル(ナメクジ用忌避剤;上野製薬株式会社製)を40質量%の割合で含有するエタノール乳液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、パラオキシ安息香酸ヘキシルが含浸された薬効帯を有する育苗ポット(E3)を得た。
【0085】
(実施例4:育苗ポット(E4)の作製)
実施例1と同様にしてカップ状ポットを作製し、開口部の上端から0.8cmまでの深さを除く全面(外側面および内側面の両方)に、カルナバワックスを刷毛で塗布することにより耐水性カップ状ポットを得た。
【0086】
この耐水性カップ状ポットを用い、かつ実施例1で用いたサポニンを含有するエタノール乳液の代わりに、ナメクジ用忌避剤としてパラオキシ安息香酸ヘキシル(ナメクジ用忌避剤;上野製薬株式会社製)を40質量%の割合で含有するエタノール乳液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、パラオキシ安息香酸ヘキシルが含浸された薬効帯を有する育苗ポット(E4)を得た。
【0087】
(比較例1:育苗ポット(C1)の作製)
実施例1のカップ用原紙紙の代わりに半晒クラフト紙(日本製紙株式会社製、坪量60g/cm)と低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂(住友化学株式会社製L405)とを押出して得た積層体(厚さ約100μm)を用い、この積層体のPE樹脂層がカップ本体の内側となるように配置したこと以外は実施例1と同様にして、サポニンが含浸された薬効帯を有する育苗ポット(C10)を得た。
【0088】
(比較例2:育苗ポット(C2)の作製)
実施例1で作製した育苗ポット(E1)と略同様の大きさを有する、市販の黒色ポリエチレン(PE)製の育苗ポット購入した。実施例1で作製したカップ状ポットの代わりにこの購入した育苗ポットを用い、かつ実施例1で用いたサポニンを含有するエタノール乳液の代わりに、ナメクジ用忌避剤としてパラオキシ安息香酸ヘキシル(ナメクジ用忌避剤;上野製薬株式会社製)を40質量%の割合で含有するエタノール乳液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、パラオキシ安息香酸ヘキシルが含浸された薬効帯を有する育苗ポット(C2)を得た。
【0089】
(評価:土壌への移植とナメクジの忌避および生分解性の各効果の確認)
実施例1~4で作製された育苗ポット(E1)~(E4)と、比較例1および2の育苗ポット(C1)および(C2)のそれぞれに、大阪市内の畑の土(培土,約200g)を詰め、これらに対して2020年5月中旬にオクラの種子4粒を播種して発芽させ、2020年6月初旬までそのまま栽培し、その後間引きして高さ10cm前後の各1本の苗を得た。
【0090】
次いで、上記畑の土(土壌)を詰めた各25cm×45cm、深さ20cmのプランターの中央に上記育苗ポットの大きさに合わせた1つの孔を掘り、この孔に上記栽培したオクラの苗を育苗ポットとともに、当該ポットの上端から1cm程の高さが土(土壌)から突出するようにして移植した。1つ育苗ポットに対して1つのプランター(以下、第1のプランターという)を使用した。
【0091】
なお、この第1のプランターよりも幾分大きな第2のプランターを用意し、この第2のプランター内に、第2のプランターの内壁と接触しないように上記第1のプランターを配置した。さらに、第2のプランターの内壁と第1のプランターの外壁の間には上記と同様の畑の土を敷き詰め、そして第2のプランターの内壁の上部周辺には、ナメクジ用忌避剤であるパラオキシ安息香酸ヘキシルを20質量%の割合で含有する幅0.3mmおよび幅1.5cmのPBS樹脂(三菱ケミカル株式会社製BioPBS FZ71PB)製の帯テープを貼り付けた。第2のプランターの内壁側にこのような帯テープを設けた理由は、試験期間中、後述のように第1のプランター内にナメクジを置いた際、ナメクジが第1のプランターの外側に移動してそのまま離散することなく、少なくとも第2のプランター内には留まるようにするためである。
【0092】
移植1週間後に軽く散水し、ナメクジ3匹をプランター内の育苗ポットの外側の土壌の表面に略等間隔に置き、遮光のためにプランター全体に黒色木綿布製のカバーをかけた。1時間後にオクラの苗についたナメクジの数を数えて記録した。その後カバーを取り外し、すべてのナメクジを取り去って1週間放置した。これを合計4週間分(4回分)となるように繰り返し、オクラの苗についたナメクジの数を合計した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示すように、実施例1~4で作製された育苗ポット(E1)~(E4)はいずれもオクラの苗にナメクジはほとんど付着しておらず、埋没後4週間を経ても優れた忌避効果を持続していたことがわかる。また、埋没後4週間を経てもポットの原型を留めていた実施例2および4の育苗ポット(E2)および(E4)はいずれも、側面部に設けた孔(透孔部)からオクラの苗の根がポットの外にまで伸びており、育苗ポット(E2)および(E4)が苗の根の成長を遮っていなかったことを確認した。これに対し、比較例1および2の育苗ポット(C1)および(C2)では、ポットの構成成分であるLDPEまたはPEがほぼ変化のないまま残存していた。さらにオクラの苗の根の伸長が空間的な制約を受けてポット内部でその内周に沿って強制的に曲げられており、育苗ポット自体が明らかにオクラの成長を阻害していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、例えば、園芸分野および農業分野において有用である。
【符号の説明】
【0096】
100,200,300,400,500,600 育苗ポット
102 底部
103 水捌け用の孔
104 側面部
104’ 内側面部
106,306 上端
107 端部
110,310 カップ本体
112 透孔部
114 根
116 扇状基材
117 フック状の突出部
118 挿入穴
120,220,320 薬効帯
130 生物活性剤
510 植物苗類
520 培土
610 土壌
700 植物苗類製品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12