(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124425
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】セルロース繊維束の分離の判断方法および操作方法
(51)【国際特許分類】
C08B 15/08 20060101AFI20220818BHJP
D21C 3/20 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C08B15/08
D21C3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021064455
(22)【出願日】2021-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】520423297
【氏名又は名称】下川 達之
(72)【発明者】
【氏名】下川 達之
【テーマコード(参考)】
4C090
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090BA24
4C090BA81
4C090BC09
4C090CA08
4L055AA01
4L055AB14
4L055AF09
4L055AF10
4L055EA20
4L055FA01
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】 短い時間で効率よく、酸やアルカリを使用することなく処理してセルロース繊維束を分離・回収できる、セルロース繊維束分離のための加熱温度保持継続・終了の判断方法を提供する。
【解決手段】 ヘミセルロース、セルロース及びリグニンを主成分とする木質系原料からセルロース繊維束を分離する操作として、エチレングリコール類が分離剤として収蔵された溶解槽(1)に、木質系原料を投入し、溶解槽(1)内の分離剤を200°C~280°Cの範囲内の温度に加熱・保持することで、木質系原料中のセルロースとヘミセルロース及びリグニンを分離する方法において、分離剤中に分散されるリグニンの濃度変化および凝集液(蒸留液)のpH変化により、ヘミセルロース及びリグニンの分離状況進行の情報を把握することで、必要とする性状のセルロース繊維束分離を可能とする機能を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘミセルロース、セルロース及びリグニンを主成分とする木質系原料からセルロース繊維束を分離する操作として、エチレングリコール類が分離剤として収蔵された溶解槽に、木質系原料を投入し、溶解槽内の分離剤を200°C~280°Cの範囲内の温度に加熱・保持することで、木質系原料中のセルロースとヘミセルロース及びリグニンを分離する方法において、
木質系原料から分離剤へ分離・移行するリグニンの分離状況進行を、分離液中に分散しているリグニン濃度の変化によって判断させる、セルロース繊維束分離のための分離操作の判断方法。
【請求項2】
ヘミセルロース、セルロース及びリグニンを主成分とする木質系原料からセルロース繊維束を分離する操作として、エチレングリコール類が分離剤として収蔵された溶解槽に、木質系原料を投入し、溶解槽内の分離剤を200°C~280°Cの範囲内の温度に加熱・保持することで、木質系原料中のセルロースとヘミセルロース及びリグニンを分離する方法において、
分離液中に分散しているリグニン濃度の変化から把握する、木質系原料から分離剤へ分離・移行するリグニンの分離状況進行と、
分離剤から蒸発するヘミセルロース成分を凝縮させた後の凝縮液のpHの変化から把握する、木質系原料から分離剤へ分離・移行するヘミセルロースの分離状況進行と、
の2つの情報をもとに、ヘミセルロース及びリグニンのそれぞれが適切な分離状態となるように、分離剤温度等の操作条件を修正して、ヘミセルロース及びリグニンのそれぞれを望ましい残留程度に含有させた状態のセルロース繊維束として分離するための分離操作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース繊維束の分離方法に関し、特に短い時間で効率よく、しかも酸やアルカリを使用することなく処理してヘミセルロース、セルロース及びリグニンを分離してセルロース繊維束を回収するようにした方法に関する。
【0002】
なお、ここでいうセルロース繊維束とは、各種セルロース分離方法において第一段階として回収される、ヘミセルロース及びリグニンを内部に含む複数本のセルロースの束を示す。セルロース繊維束は、その後の二次処理を経て紙やCNFに転換される。
【背景技術】
【0003】
近年、木材などの木質系バイオマスを石油代替エネルギーとして有効利用する技術が注目されている。木材を材料や燃料として利用する以外に、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの成分を利用することが提案されている。
【0004】
その方法として、酸やアルカリを使用して、木質原料中のセルロース、ヘミセルロース、リグニンからセルロース繊維束を分離回収する方法が多く実用化されているが、酸やアルカリを使用しない方法も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1記載の方法は、セルロース繊維束の分離の程度の判定をヘミセルロース成分の分離に関する情報のみ行い、リグニンの分離に関する情報は把握していないために、目的回収物であるセルロース繊維束中に残るリグニンの残存程度が「不定」となってしまい、目的回収物であるセルロース繊維束の品質安定化が難しいという問題がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑み、酸やアルカリを使用しないセルロース繊維束分離回収方法において、セルロース繊維束中のリグニン残存程度を把握可能とするセルロース繊維束の分離の判断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセルロース繊維束の分離方法は、ヘミセルロース、セルロース及びリグニンを主成分とする木質系原料からセルロース繊維束を分離し回収する方法であって、エチレングリコール類が分離剤として収蔵された溶解槽に、木質系原料を投入し、溶解槽内の分離剤を200°C~280°Cの範囲内の温度まで加熱し、木質系原料を分離剤と反応させ、リグニンが分離液に分散されていく中で、分離したリグニンの分離液中の濃度変化を各種濃度変化検出装置で把握し、リグニン分離の進行状況把を把握して、セルロース繊維束分離のための加熱温度保持継続・終了の判断を可能としたことを特徴とする。
【0009】
本発明の第二の形態に係るセルロース繊維束の分離方法は、ヘミセルロース、セルロース及びリグニンを主成分とする木質系原料からセルロース繊維束を分離し回収する方法であって、エチレングリコール類が分離剤として収蔵された溶解槽に、木質系原料を投入し、溶解槽内の分離剤を200°C~280°Cの範囲内の温度まで加熱し、木質系原料を分離剤と反応させ、リグニンを分離液に分散させていく操作において、セルロース繊維束の分離状況を、分離したリグニンの分離液中の濃度変化情報の他に、分離剤から蒸発するヘミセルロース成分を凝縮させた後の凝縮液のpHの変化から把握する、木質系原料から分離剤へ分離・移行するヘミセルロースの分離状況進行の情報とから、セルロース繊維束分離のための加熱温度保持継続・終了の判断利用することで、ヘミセルロース及びリグニンがそれぞれ適切な分離状態であるようにできる、セルロース繊維束分離のための加熱温度保持継続・終了の判断を可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の特徴は、回収するセルロース繊維束中に残存させるリグニン・ヘミセルロースの残存程度が調整可能である。その結果、当該セルロース繊維束を原料とした二次処理のよって生成される最終製品中のリグニン・ヘミセルロースの残存程度の調整が可能となる。。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のセルロース繊維束の分離方法の実施形態を例示するシステムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明のセルロース繊維束の分離方法の実施形態を例示するシステムの構成を示す。図において、1はエチレングリコール類が分離剤として収蔵された溶解槽である。
【0013】
溶解槽1では分離剤に竹、木、木綿、綿の群から選ばれる1つ又は複数の木質系原料が投入された状態で、分離剤を200°C~280°Cの範囲内の温度まで加熱し、0.5~1.5時間等の時間保持される。分離剤に浸漬された木質系原料は加熱によってヘミセルロースが蒸発し、リグニンは分離剤に溶解する。原料には野菜、果物及び穀物(食物繊維)やパルプ(再生繊維)を用いることもできる。
【0014】
溶解槽1には分離剤から蒸発するヘミセルロース成分を凝縮する凝縮器7が接続され、凝縮されたヘミセルロースは凝縮槽8に受けられ、そのpHが監視されるようになっている。
【0015】
また、溶解槽1は槽底から抜き出された分離剤は受槽2で受けられ、加熱炉3によって加熱され、加熱された分離剤は循環ポンプ4によって送り出され、その一部は溶解槽1に循環され、溶解槽1内の分離剤を加熱するようになっている。
【0016】
ここで、分離方法について説明すると、溶解槽1では分離剤が液温200°C以上の温度に維持されており、これにより分離剤中に入れられた木質系原料が原料内部でセルロース及びリグニンとを強固に接着させているヘミセルロース成分が分離・分解し、蒸発し始める。その蒸発気体を冷却・蒸留させて得られる凝縮液(蒸留液)のpHは、分離・分解当初強酸性を示す。木質系原料中のヘミセルロース成分の分離・分解の進行が進むと、凝縮液(蒸留液)のpHは上昇していき、ヘミセルロース成分由来の凝縮(蒸留)量は低下する。
【0017】
また、ヘミセルロース成分の分離・分解に伴い、木質系原料中でヘミセルロースによってセルロースに強固に接着されていたリグニンが分離し、分離液中に分散し始める。木質系原料中のリグニンの分離の進行が進むと、木質系原料からのリグニンの分離量は低下していき、分離液中に分散しているリグニン濃度の変化が低下する。
【0018】
本実施形態では、溶解槽1と受槽2を循環する分離液中に分散しているリグニン濃度の変化の観測を可能とする、リグニン濃度変化検知装置が設けられる。リグニン濃度変化検知装置から得られた情報から、木質系原料から分離剤へ分離・移行するリグニンの分離の進行状況を判断し、リグニン分離のための加熱温度保持継続・終了を判断させることで、処理の回収物であるセルロース繊維束中の残存リグニン量を調整することが可能となり、残存リグニン量を設定可能なセルロース繊維束の回収システムが実現可能となる。
【0019】
リグニン濃度変化検知方法としては、1)リグニンが分散した分離剤を光学的に観察する光線透過状況変化検知による方法、2)リグニンが分散した分離剤の粘度および比重の変化を流路抵抗の変化として検知する差圧検出による方法、3)リグニンが分散した分離剤中の音波伝搬速度を継続的に測定し、その変化によって判定する音波検知による方法、などが使われる。
【0020】
第二の実施形態では、前項の分離液中に分散しているリグニン濃度の変化情報把握に加え、凝縮槽8に凝集液(蒸留液)のpHを監視するpH計が設置され、凝縮槽8へ送られる凝集液(蒸留液)のpHの変化の観測をも行う。分離液中に分散しているリグニン濃度の変化情報から得られる、木質系原料から分離剤へ分離・移行するリグニンの分離の進行状況に加え、凝集液(蒸留液)のpHの変化から得られる、木質系原料から分離剤へ分離・移行するヘミセルロースの分離・分解の進行状況情報をふまえて、ヘミセルロース及びリグニンのそれぞれが適切な分離状態となるように、分離剤温度等の操作条件を修正することで、ヘミセルロース及びリグニンのそれぞれを望ましい残留程度に含有させた状態のセルロース繊維束として分離することが実現可能となる。
【符号の説明】
【0021】
1 溶解槽
2 分離剤受槽
3 加熱炉
4 循環ポンプ
6 真空蒸発槽
7 凝縮器
8 凝縮槽
9 回転切断水槽
10 漂白槽
11 遠心分離機
12 排水処理設備
13 凝縮器
14 凝縮溶媒受槽
15 真空ポンプ
16 移送ポンプ
17 煙突
18 受槽
19
20 ポンプ
21 高圧濾過機