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特開2022-124478成人スティル病の検査方法及び検査キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124478
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】成人スティル病の検査方法及び検査キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220818BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220818BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220818BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220818BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220818BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20220818BHJP
【FI】
G01N33/53 X
C12Q1/06 ZNA
C07K16/18
C12N15/13
G01N33/68
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020290
(22)【出願日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2021021500
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519390667
【氏名又は名称】一般社団法人日本・多国間臨床試験機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昌昭
(72)【発明者】
【氏名】黄 政龍
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋巳
(72)【発明者】
【氏名】保田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 康雄
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045DA36
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QS33
4B063QX02
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CA20
4B064CC24
4B064CE06
4B064DA13
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA10
(57)【要約】
【課題】成人スティル病(ASD)の判定に有用な方法を提供すること。
【解決手段】以下が提供される。
(I)下記(1)及び(2)を含む、成人スティル病の検査方法:
(1)被験体から採取された血液試料において変性CRP濃度を測定する工程;並びに
(2)測定された変性CRP濃度及び/又はそれに基づく指標値を基準値と比較する工程。
(II)変性CRP特異的な抗体;並びに
(III)成人スティル病の検査キット。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)を含む、成人スティル病の検査方法:
(1)被験体から採取された血液試料において変性CRP濃度を測定する工程;並びに
(2)測定された変性CRP濃度及び/又はそれに基づく指標値を基準値と比較する工程。
【請求項2】
被験体が、炎症性疾患に罹患した被験体、又は炎症性疾患に罹患したと疑われる被験体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験体が、感染症以外の疾患に罹患した被験体、又は感染症以外の疾患に罹患したと疑われる被験体である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、成人スティル病を血管炎、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症または全身性エリテマトーデスから鑑別するための方法である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記指標値が、変性CRP濃度とCRP値との間の関係式から算出される値である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
変性CRP濃度とCRP値との間の関係式から算出される値が、変性CRP濃度とCRP値との間の相対関係式から算出される値である、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
被験体が、CRP値が測定されている被験体である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
被験体が、基準値よりも高いCRP値を示す被験体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
被験体が、CRP値が測定されていない被験体であり、
被験体から採取された血液試料において、CRP値を測定する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
測定されたCRP値が基準値よりも高い被験体を選別して、前記比較する工程に供することをさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
変性CRP濃度が、変性CRP特異的な抗体を用いて測定される、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
変性CRP濃度が、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる変性CRP特異的な抗体又はその組合せを用いて測定される、請求項11記載の方法:
(1)下記(1a)及び(1b)を含む抗体
(1a)配列番号4のアミノ酸配列における20~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(1b)配列番号9のアミノ酸配列における20~131位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、
(2)下記(2a)及び(2b)を含む抗体
(2a)配列番号14のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(2b)配列番号19のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、並びに
(3)下記(3a)及び(3b)を含む抗体
(3a)配列番号24のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖;及び
(3b)配列番号29のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖。
【請求項13】
下記(1)~(3)からなる群より選ばれる、変性CRP特異的な抗体:
(1)下記(1a)及び(1b)を含む抗体
(1a)配列番号4のアミノ酸配列における20~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(1b)配列番号9のアミノ酸配列における20~131位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、
(2)下記(2a)及び(2b)を含む抗体
(2a)配列番号14のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(2b)配列番号19のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、並びに
(3)下記(3a)及び(3b)を含む抗体
(3a)配列番号24のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖;及び
(3b)配列番号29のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖。
【請求項14】
変性CRP特異的な抗体を含む、成人スティル病の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成人スティル病の検査方法及び検査キットなどに関する。
【背景技術】
【0002】
C-反応性タンパク質(CRP)は、炎症マーカーとして汎用されている。CRPとしては、コンホメーションが異なるタイプ、すなわち、ネイティブCRPである五量体CRP(pCRP)、及び五量体CRPの変性により構成因子が解離した変性CRP、代表的には、単量体CRP(mCRP)が存在し、それぞれ、異なる生理学的役割を果たすことが示唆されている。
【0003】
炎症の指標に利用されているCRPの臨床検査試薬はネイティブCRPの濃度の測定を意図されており、mCRPのような変性CRPの濃度を特異的に測定できるものではないため、臨床の現場では、変性CRPの濃度測定は、一般的ではない。変性CRPの濃度としては、急性心筋梗塞患者由来の血漿中の変性CRP濃度(20.96ng/mL)(非特許文献5)、並びに乾癬、湿疹及び蕁麻疹(皮膚関連自己免疫疾患)患者由来の血漿中の変性CRP濃度(それぞれ、35.4ng/mL、30.0ng/mL及び59.8ng/mL)(非特許文献6)が報告されている。
【0004】
成人スティル病(Adult Still’s Disease:ASD)は、発熱、関節炎、皮疹の3症状を主徴とする疾患である。ASDには、成人で発症するタイプである成人発症スティル病(Adult Onset Still’s Disease:AOSD)、及び若年で発症する全身型若年性特発性関節炎(sJIA)から移行するASDがある。ASDは、類似症状を呈する類似疾患と混同され易い(非特許文献1~3)。そのため、ASDの診断は、Yamaguchiらの分類基準(非特許文献4)にしたがい類似疾患の除外診断が基本とされている。このような類似疾患の一つとして、血管炎がある。しかし、血管炎では、発熱及びCRP高値のみを呈する症例が認められることがある。このような血管炎の症例では、ASDとの鑑別が困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】永井弥生,2006,日本皮膚科学会雑誌,116(4):429-436.
【非特許文献2】荻野昇,2009,日本内科学会雑誌,98(10):2421-2431.
【非特許文献3】長澤浩平,2010,日本内科学会雑誌,99(10):2460-2466.
【非特許文献4】Yamaguchi et al.,1992,The Journal of Rheumatology,19:424-430.
【非特許文献5】Wang et al.,Atherosclerosis,2015,vol.239,p.343-349
【非特許文献6】Zhang et al.,Frontiers in Immunology,2018,vol.9,Article 511
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、ASDの判定に有用な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、変性CRP濃度及び/又はそれに基づく指標値(例、CRP変性度)がASDの検査に有用であることを見出した(実施例5)。興味深いことに、また予想外なことに、ASD患者由来の血液試料中の変性CRP濃度は、本発明者らが把握している既報の変性CRP濃度よりも顕著に高く、また、ASDは、他の炎症性疾患に比し、最高のCRP変性度を示した(実施例5)。
【0008】
上記のような知見に基づき、本発明者らは、変性CRP濃度及び/又はそれに基づく指標値に基づきASDを検査及び鑑別できることを見出した。
【0009】
すなわち、本開示は、以下などに関する。
【0010】
一実施形態では、下記(1)及び(2)を含む、成人スティル病の検査方法が開示される:
(1)被験体から採取された血液試料において変性CRP濃度を測定する工程;並びに
(2)測定された変性CRP濃度及び/又はそれに基づく指標値を基準値と比較する工程。
【0011】
別の実施形態では、変性CRP特異的な抗体を含む、成人スティル病の検査キットが開示される。
【0012】
特定の実施形態では、上記方法およびキットにおける被験体は、炎症性疾患に罹患した被験体、又は炎症性疾患に罹患したと疑われる被験体であってもよい。
【0013】
特定の実施形態では、上記方法およびキットにおける被験体は、感染症以外の疾患に罹患した被験体、又は感染症以外の疾患に罹患したと疑われる被験体であってもよい。
【0014】
特定の実施形態では、上記方法およびキットは、成人スティル病を血管炎、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症または全身性エリテマトーデスから鑑別するための方法およびキットであってもよい。
【0015】
特定の実施形態では、上記方法およびキットで利用される指標値は、変性CRP濃度とCRP値との間の関係式から算出される値であってもよい。
【0016】
特定の実施形態では、上記方法およびキットで利用される、変性CRP濃度とCRP値との間の関係式から算出される値は、変性CRP濃度とCRP値との間の相対関係式から算出される値であってもよい。
【0017】
特定の実施形態では、上記方法およびキットにおける被験体は、CRP値が測定されている被験体であってもよい。
【0018】
特定の実施形態では、上記方法およびキットにおける被験体は、基準値よりも高いCRP値を示す被験体であってもよい。
【0019】
特定の実施形態では、上記方法およびキットにおける被験体は、CRP値が測定されていない被験体であってもよく、上記方法およびキットは、被験体から採取された血液試料において、CRP値を測定する工程、またはCRPに対する抗体をさらに含んでいてもよい。
【0020】
特定の実施形態では、上記方法およびキットは、測定されたCRP値が基準値よりも高い被験体を選別して、前記比較する工程に供することをさらに含む検査に対応するものであってもよい。
【0021】
特定の実施形態では、上記方法およびキットは、変性CRP濃度を、変性CRP特異的な抗体を用いて測定するためのものであってもよい。
【0022】
特定の実施形態では、上記方法およびキットは、変性CRP濃度を、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる変性CRP特異的な抗体又はその組合せを用いて測定するためのものであってもよい:
(1)下記(1a)及び(1b)を含む抗体
(1a)配列番号4のアミノ酸配列における20~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(1b)配列番号9のアミノ酸配列における20~131位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、
(2)下記(2a)及び(2b)を含む抗体
(2a)配列番号14のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(2b)配列番号19のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、並びに
(3)下記(3a)及び(3b)を含む抗体
(3a)配列番号24のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖;及び
(3b)配列番号29のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖。
【0023】
別の実施形態では、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる、変性CRP特異的な抗体が開示される:
(1)下記(1a)及び(1b)を含む抗体
(1a)配列番号4のアミノ酸配列における20~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(1b)配列番号9のアミノ酸配列における20~131位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、
(2)下記(2a)及び(2b)を含む抗体
(2a)配列番号14のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(2b)配列番号19のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、並びに
(3)下記(3a)及び(3b)を含む抗体
(3a)配列番号24のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖;及び
(3b)配列番号29のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、ASDの検査、並びにASDを血管炎、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症または全身性エリテマトーデスから鑑別することが可能となり、臨床診断を補助することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、ヒトCRPのアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号:AAL48218)、並びにヒト変性CRP特異的な中和抗体により認識されるヒトCRP中の中和エピトープ(配列番号2)(全長アミノ酸配列における99~108位。シグナル除去配列における81~90位)を示す図である。
図2図2は、ハイブリドーマmCRP-3Cを培養して得られた培養上清から精製されたIgGを、阻害ELISA(inhibition ELISA)により解析した結果を示す図である。阻害(-):ハイブリドーマの培養上清から精製されたIgGを、ヒト単量体CRP(mCRP)及びヒト五量体(pCRP)(単なる「CRP」と同義)の双方を含まない溶液とプレインキュベートした溶液を使用した場合の実験結果(コントロール);mCRP阻害:ハイブリドーマの培養上清から精製されたIgGを、過剰量のヒトmCRPを含む溶液とプレインキュベートした溶液を使用した場合の実験結果;pCRP阻害:ハイブリドーマの培養上清から精製されたIgGを、過剰量のヒトpCRPを含む溶液とプレインキュベートした溶液を使用した場合の実験結果(図3、4も同様)。
図3図3は、ハイブリドーマmCRP-12Cを培養して得られた培養上清から精製されたIgGを、阻害ELISAにより解析した結果を示す図である。
図4図4は、ハイブリドーマmCRP-3C、mCRP-12C、mCRP-18Aを培養して得られた培養上清から精製されたIgGを、阻害ELISAにより解析した結果を示す図である。
図5図5は、ハイブリドーマmCRP-3Cを培養して得られた培養上清から精製された抗体(3C)における重鎖中のシグナル配列、並びにCDR1(配列番号5)、CDR2(配列番号6)及びCDR3(配列番号7)を示す図である。
図6図6は、ハイブリドーマmCRP-3Cを培養して得られた培養上清から精製された抗体(3C)における軽鎖中のシグナル配列、並びにCDR1(配列番号10)、CDR2(配列番号11)及びCDR3(配列番号12)を示す図である。
図7図7は、ハイブリドーマmCRP-12Cを培養して得られた培養上清から精製された抗体(12C)における重鎖中のシグナル配列、並びにCDR1(配列番号15)、CDR2(配列番号16)及びCDR3(配列番号17)を示す図である。
図8図8は、ハイブリドーマmCRP-12Cを培養して得られた培養上清から精製された抗体(12C)における軽鎖中のシグナル配列、並びにCDR1(配列番号20)、CDR2(配列番号21)及びCDR3(配列番号22)を示す図である。
図9図9は、ハイブリドーマmCRP-18Aを培養して得られた培養上清から精製された抗体(18A)における重鎖中のシグナル配列、並びにCDR1(配列番号25)、CDR2(配列番号26)及びCDR3(配列番号27)を示す図である。
図10図10は、ハイブリドーマmCRP-18Aを培養して得られた培養上清から精製された抗体(18A)における軽鎖中のシグナル配列、並びにCDR1(配列番号30)、CDR2(配列番号31)及びCDR3(配列番号32)を示す図である。
図11図11は、成人発症スティル病(AOSD)、関節リウマチ(RA)、リウマチ性多発筋痛症(PMR)、および血管炎の患者それぞれにおいて、CRP濃度に対する変性CRP濃度の比率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(成人スティル病の検査方法)
本開示は、成人スティル病(ASD)の検査方法に関する。
【0027】
検査方法は、下記(1)及び(2)を含む:
(1)被験体から採取された血液試料において変性CRP濃度を測定する工程;並びに
(2)測定された変性CRP濃度及び/又はそれに基づく指標値を基準値と比較する工程。
【0028】
検査方法では、測定された変性CRP濃度が基準値よりも高い場合に成人スティル病の指標とすることができる。また、変性CRP濃度に基づく指標値が変性CRP濃度の高さを反映して高く算出される値である場合、測定された変性CRP濃度に基づく指標値が基準値よりも高いときに成人スティル病の指標とすることができる。さらに、変性CRP濃度に基づく指標値が変性CRP濃度の高さを反映して低く算出される値である場合、測定された変性CRP濃度に基づく指標値が基準値よりも低いときに成人スティル病の指標とすることができる。
【0029】
被験体としては、例えば、哺乳動物(例、ヒト、サル等の霊長類;マウス、ラット、ハムスター等の齧歯類;イヌ、ネコ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウマ、ウシ、ブタ等のペット又は使役動物)が挙げられる。好ましくは、被験体は、ヒトである。
【0030】
一実施形態では、被験体は、炎症性疾患に罹患した被験体、又は炎症性疾患に罹患したと疑われる被験体であってもよい。このような被験体において、炎症性疾患としてASDに罹患している可能性があるか検査できる。ASDと鑑別されるべき炎症性疾患としては、例えば、血管炎、関節炎(例、関節リウマチ、乾癬性関節炎、変形性関節炎、若年性関節炎)、全身性エリテマトーデス、リウマチ性多発筋痛症、感染症(例、ウイルス、微生物、寄生虫)、心筋梗塞、皮膚関連炎症性疾患(例、乾癬、湿疹及び蕁麻疹)が挙げられる。上記方法によれば、基準値等の条件を適宜設定することにより、ASDを、このような炎症性疾患から鑑別することができる。
【0031】
別の実施形態では、被験体は、感染症以外の疾患に罹患した被験体、又は感染症以外の疾患に罹患したと疑われる被験体であってもよい。感染症は、その症状に応じて診断がしばしば容易な場合がある。また、感染症は病原体(例、ウイルス、微生物)の特定(例、遺伝子・ゲノムの検出)により確定診断できるため、ASDは、感染症と判別し易い場合も多い。よって、ASDの検査では、感染症以外の炎症性疾患に罹患した被験体、又は感染症以外の炎症性疾患に罹患したと疑われる被験体が検査されてもよい。
【0032】
さらに別の実施形態では、被験体は、ASDと血管炎、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症または全身性エリテマトーデスとの鑑別が所望される被験体であってもよい。
【0033】
特定の実施形態では、被験体は、CRP値が測定されている被験体であってもよい。この場合、基準値よりも高いCRP値を示す被験体を検査方法に供することができる。CRPの臨床検査では、検査機関や各国で基準が異なり得るものの、正常範囲にあるCRP濃度の一つの目安として、3μg/mL(0.3mg/dL)未満の濃度が採用されることが多い。したがって、このような基準値は、3μg/L以上の濃度、好ましくは5μg/mL以上の濃度、より好ましくは10μg/mL以上の濃度、さらにより好ましくは20μg/mL以上の濃度、特に好ましくは30μg/mL以上の濃度、40μg/mL以上の濃度、又は50μg/mL以上の濃度であってもよい。このような基準値はまた、100μg/mL以下の濃度、好ましくは90μg/mL以下の濃度、より好ましくは80μg/mL以下の濃度、さらにより好ましくは70μg/mL以下の濃度、特に好ましくは60μg/mL以下の濃度であってもよい。より具体的には、このような基準値は、3~100μg/mL、好ましくは5~90μg/mL、より好ましくは10~80μg/mL、さらにより好ましくは20~70μg/mL、特に好ましくは30~60μg/mL、40~60μg/mL、又は50~60μg/mLであってもよい。
【0034】
また、被験体においてCRP値が既に測定されている場合、再度のCRP値の測定を省略できるため、変性CRP濃度に基づく指標値(例、後述するような、変性CRP濃度とCRP値との間の関係式から算出される値)を簡便に算出することができる。
【0035】
別の特定の実施形態では、被験体は、CRP値が測定されていない被験体であってもよい。この場合、検査方法は、被験体から採取された血液試料において、CRP値を測定する工程をさらに含んでいてもよい。このような工程により、CRP値の測定後に、測定されたCRP値が基準値よりも高い被験体を選別すること、及び変性CRP濃度に基づく指標値(例、後述するような、変性CRP濃度とCRP値との間の関係式から算出される値)を算出することが可能である。
【0036】
血液試料としては、例えば、全血(末梢血)、血漿及び血清、並びにこれらを処理した試料が挙げられる。このような処理としては、例えば、遠心分離、分画、抽出、ろ過、沈殿、冷蔵、凍結、及び加熱が挙げられる。
【0037】
濃度は、単位溶液量あたりの目的物質の含有量(例、g/L、モル濃度等の相対値で規定される値)である。したがって、濃度は、所定量の溶液中の目的物質の絶対値(例、グラム、モル数)として評価されてもよい。
【0038】
変性CRP濃度の測定は、変性CRPの量を測定できる任意の方法により行うことができる。このような方法としては、例えば、イムノアッセイ、及びクロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー)が挙げられる。イムノアッセイとしては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、サンドイッチELISA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、免疫クロマト法、ルミネッセンス免疫測定法、ブロッティング法(例、ウエスタンブロット法)、ラテックス凝集法が挙げられる。イムノアッセイでは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、改変抗体(例、単鎖抗体、Fcフラグメント)等の任意の抗体を用いることができる。
【0039】
変性CRP濃度の測定がイムノアッセイにより行われる場合、イムノアッセイは、変性CRP特異的な抗体を用いて行うことができる。
【0040】
「変性CRP特異的な抗体」とは、ネイティブCRPに対する結合能よりも、変性CRP(好ましくは、ヒト単量体CRP)に対する結合能が高い抗体をいう。
【0041】
「ヒト単量体CRP」(mCRP)とは、配列番号1のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号:AAL48218)を有する、ヒトCRPの単量体タンパク質(シグナル配列は除去されていてもよい)又はその天然に生じる変異体(例、天然バリアント、又はSNP若しくはハプロタイプ)をいう。
【0042】
「ネイティブCRP」とは、上記ヒト単量体CRPから構成される五量体タンパク質をいう。
【0043】
「変性CRP」とは、上記ネイティブCRPの変性により構成因子が解離した変性CRPをいう。変性CRPとしては、例えば、単量体CRP(mCRP)、二量体CRP、三量体CRP、及び四量体CRP、並びにこれらの1種以上(例、2種、3種、4種)の組み合わせが挙げられる。
【0044】
イムノアッセイによる変性CRP濃度の測定では、2種以上の抗体が用いられてもよい。変性CRP濃度の測定において2種以上の抗体が用いられる場合(例、サンドイッチアッセイ)、変性CRP特異的な2種の抗体(同種又は異種、好ましくは異種)を含む抗体のセットを用いることができる。あるいは、変性CRP特異的な1種の抗体及びネイティブCRPに対する1種の抗体の組み合わせを含む抗体のセットが用いられてもよい。少なくとも1種の抗体が変性CRP特異的な抗体であれば、変性CRPを測定できるためである。好ましくは、変性CRPに対する特異性の向上の観点から、変性CRP特異的な2種の抗体を含む抗体のセットが用いられてもよい。例えば、2種以上の抗体が用いられる場合、少なくとも1種の抗体は固相抗体として用いることができ、少なくとも1種の抗体は標識抗体として用いることができる。
【0045】
変性CRP特異的な抗体は、1)抗原として変性CRP(好ましくは、ヒト単量体CRP)を用いることにより、変性CRPに対する抗体を産生するハイブリドーマを作製し、2)抗原として変性CRP及び五量体CRPを用いて、五量体CRPに対する結合能よりも、単量体CRPに対する結合能が高い抗体を産生するハイブリドーマを選択し、3)選択されたハイブリドーマの培養上清から抗体を単離することにより、又はハイブリドーマにより産生される抗体の遺伝子を組み込んだ形質転換細胞の培養物から抗体を単離することにより、得ることができる。変性CRP特異的な抗体の確認は、抗原として変性CRP及び五量体CRPを用いて、試験抗体が、五量体CRPに対する結合能よりも、変性CRPに対する結合能が高いことを確認することにより行うことができる(例、実施例に記載される阻害ELISAを参照)。あるいは、変性CRP特異的な抗体としては公知の抗体(例、非特許文献3及び4)が存在するので、このような公知の抗体を変性CRP特異的な抗体として利用することもできる。
【0046】
好ましくは、変性CRP特異的な抗体は、後述する抗体であってもよい。
【0047】
一実施形態では、測定された変性CRP濃度が、基準値と比較される。ASDでは、血液試料中の変性CRP濃度が高いことが明らかにされている(実施例5)。したがって、測定された変性CRP濃度と基準値との比較の結果、測定された変性CRP濃度が基準値よりも高い場合、被験体がASDに罹患している可能性があると判定できる。
【0048】
別の実施形態では、測定された変性CRP濃度に基づく指標値が、基準値と比較される。このような指標値は、変性CRP濃度の高さを反映できる指標である限り特に限定されない。また、ASDにおいて血液試料中のCRP値が高いこと、及びASDにおいてCRP値に対する変性CRP濃度の相対比率(変性CRP濃度/CRP値)であるCRP変性度が高いという知見が明らかにされているので(実施例5)、指標値は、このような相対比に基づき設定することができる。
【0049】
CRP値の測定は、CRPの量を測定できる任意の方法により行うことができる。このような方法としては、例えば、上述したようなイムノアッセイ、及びクロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー)が挙げられる。
【0050】
CRP値の測定がイムノアッセイにより行われる場合、イムノアッセイは、CRPに対する抗体を用いて行うことができる。炎症の指標に利用されている、CRPに対する抗体を含むCRPの臨床検査試薬は、ネイティブCRPの濃度の測定を通常は意図されているものの、変性CRPへの結合性が確認又は開示されていない場合がある。これは、ネイティブCRPは古典的な炎症マーカーとして従来から汎用されていたものの、変性CRPの存在及び意義は従来不明であり、変性CRPへの結合性を確認する動機付けに欠け、又は変性CRPへの結合性を開示する必要性が無い又は低いためであったと考えられる。したがって、CRPの臨床検査試薬は、その種類によっては、ネイティブCRP及び少なくとも一部の変性CRPに結合できる抗体を含み、ネイティブCRP及び少なくとも一部の変性CRPの合計濃度を測定している場合もあると考えられる。したがって、CRP値は、ネイティブCRP濃度、又はネイティブCRP濃度及び少なくとも一部の変性CRPの濃度の合計濃度であってもよい。CRPの測定では、ネイティブCRPの濃度のみを測定できるCRPの臨床検査試薬、並びにネイティブCRP及び少なくとも一部の変性CRPの合計濃度を測定できるCRPの臨床検査試薬のいずれも使用することができる。また、ネイティブCRP及び変性CRPに結合できる抗体は公知であるため(例、特開2004-189665号公報)、このような公知の抗体が測定に用いられてもよい。
【0051】
好ましい実施形態では、変性CRP濃度に基づく指標値は、変性CRP濃度とCRP値との間の関係式から算出される値である。ASDでは、上述のとおり、変性CRP濃度が高いこと、CRP値が高いこと、及びCRP値に対する変性CRP濃度の相対比率が高いという知見が明らかにされているためである。変性CRP濃度に基づく指標値は、鑑別されるべき被験体の種類(例、健常被験体、炎症性疾患患者、血管炎患者、関節リウマチ患者、リウマチ性多発筋痛症患者、全身性エリテマトーデス患者)、並びに所望される診断感度及び診断特異度等の因子に応じて異なり、検査目的に応じて適宜設定することができる。
【0052】
変性CRP濃度とCRP値との間の関係式から算出される値としては、例えば、変性CRP濃度とCRP値との間の相対関係式から算出される値、及び変性CRP濃度とCRP値との間の非相対関係式から算出される値が挙げられる。
【0053】
変性CRP濃度とCRP値との間の相対関係式から算出される値としては、例えば、下記式から算出される値が挙げられる。
(A)(変性CRP濃度)n1/(CRP値)m1
〔ここで、n1は、任意の指数(簡潔には1の整数)であり、m1は、任意の指数(簡潔には1の整数)である〕
(B)(CRP値)n2/(変性CRP濃度)m2
〔ここで、n2は、任意の指数(簡潔には1の整数)であり、m2は、任意の指数(簡潔には1の整数)である〕
(A)の関係式から算出される値は、変性CRP濃度の高さを反映して高く算出される値である。したがって、(A)の関係式から算出される値が指標値として使用される場合、指標値が基準値よりも高いときに、被験体がASDに罹患している可能性があると判定できる。
一方、(B)の関係式から算出される値は、変性CRP濃度の高さを反映して低く算出される値である。したがって、(B)の関係式から算出される値が指標値として使用される場合、指標値が基準値よりも低いときに、被験体がASDに罹患している可能性があると判定できる。
【0054】
簡潔には、変性CRP濃度とCRP値との間の上記相対関係式から算出される値は、下記式から算出される値であってもよい。
(A’)CRP値に対する変性CRP濃度の比率(変性CRP濃度/CRP値)(すなわち、CRP変性度)
(B’)変性CRP濃度に対するCRP値の比率(CRP値/変性CRP濃度)
【0055】
変性CRP濃度とCRP値との間の非相対関係式から算出される値としては、例えば、下記式から算出される値が挙げられる。
(C)(変性CRP濃度)n5×(CRP値)m5
〔ここで、n5は、任意の指数(最も簡潔には1の整数)であり、m5は、任意の指数(最も簡潔には1の整数)である〕
(C)の関係式から算出される値は、変性CRP濃度の高さを反映して高く算出される値である。したがって、(C)の関係式から算出される値が指標値として使用される場合、指標値が基準値よりも高いときに、被験体がASDに罹患している可能性があると判定できる。
【0056】
簡潔には、変性CRP濃度とCRP値との間の上記非相対関係式から算出される値は、下記式から算出される値であってもよい。
(C’)変性CRP濃度×CRP値
【0057】
変性CRP濃度とCRP値との間の関係式から算出される値としては、変性CRP濃度とCRP値との間の相対関係式から算出される値が好ましく、上記式(A)又は(B)から算出される値がより好ましく、上記式(A)から算出される値(すなわち、CRP変性度)が特に好ましい。
【0058】
変性CRP濃度又はそれに基づく指標値の基準値は、鑑別されるべき被験体の種類(例、健常被験体、炎症性疾患患者、血管炎患者、関節リウマチ患者、リウマチ性多発筋痛症患者、全身性エリテマトーデス患者)、並びに所望される診断感度及び診断特異度等の因子に応じて異なり得る。例えば、このような基準値としては、比較被験体(例、健常被験体、炎症性疾患患者、血管炎患者、関節リウマチ患者、リウマチ性多発筋痛症患者、全身性エリテマトーデス患者)の血液試料における変性CRP濃度又はそれに基づく指標値について通常の範囲内にある値を適宜用いることができる。また、このような基準値としては、例えば、カットオフ値、又は比較被験体由来の血液試料中の変性CRP濃度又はそれに基づく指標値の平均値、もしくは当該平均値に一定の値を加算した値(例、平均値+SD、平均値+2SD)が使用されてもよい。カットオフ値は、当業者であれば適宜設定することができる。このような基準値はまた、変性CRP濃度及びCRP値の測定方法の種類(例、イムノアッセイに用いた抗体の種類)、及びCRP値による被験体の選別のためのカットオフ値としてのCRP値の使用の有無等の因子に応じて変動することがある。
【0059】
より具体的には、変性CRP濃度又はそれに基づく指標値の例を示すとすれば、変性CRP濃度の基準値は、例えば、200ng/mL以上の値、好ましくは300ng/mL以上の値、より好ましくは400ng/mL以上の値、さらにより好ましくは500ng/mL以上の値であってもよい(表5、7)。また、変性CRP濃度の基準値として、上限値を便宜的に設けてもよい。例えば、このような上限値は、3000ng/mL以下の値、2500ng/mL以下の値、2000ng/mL以下の値、又は1500ng/mL以下の値であってもよい。
【0060】
あるいは、変性CRP濃度に基づく指標値としてCRP変性度(変性CRP濃度/CRP値)を示すと、変性CRP濃度(ng/mL)およびCRP値(μg/mL)という異なる濃度単位で比率を計算すると、CRP変性度の基準値は、2.2以上の値、好ましくは2.3以上の値、より好ましくは2.4以上の値、さらにより好ましくは2.6以上の値であってもよい(表5、7)。また、CRP変性度の基準値として、上限値を便宜的に設けてもよい。例えば、このような上限値は、100以下の値、50以下の値、20以下の値、10以下の値、8以下の値、又は6以下の値であってもよい。当然のことながら、同じ濃度単位(ng/mL)で比率を計算する場合、上記基準値は、10-3の値となる。
【0061】
変性CRP濃度又はそれに基づく指標値は、複数組み合わせて用いられてもよい。例えば、組合せとして、変性CRP濃度とそれに基づく1以上の指標値の組み合わせ、及び変性CRP濃度に基づく2以上の指標値の組み合わせを用いることができる。このような場合、各基準値の値を緩やかに設定することもできる。
【0062】
ASD患者の変性CRP濃度は、CRP値が高い値を示す炎症性疾患の中でも突出して高い。したがって、上述の方法によれば、ASD(例、AOSD)患者を、所定の被験体(例、健常被験体、炎症性疾患患者、血管炎患者、関節リウマチ患者、リウマチ性多発筋痛症患者、全身性エリテマトーデス患者)から鑑別することができる。したがって、上述の方法は、ASD(例、AOSD)の検査に有用である。
【0063】
(抗体)
本開示は、変性CRP特異的な抗体及びそれに関連する発明に関する。
【0064】
抗体は、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる抗体であってもよい。
(1)下記(1a)及び(1b)を含む抗体
(1a)配列番号4のアミノ酸配列における20~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(1b)配列番号9のアミノ酸配列における20~131位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、
(2)下記(2a)及び(2b)を含む抗体
(2a)配列番号14のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖、及び
(2b)配列番号19のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖、並びに
(3)下記(3a)及び(3b)を含む抗体
(3a)配列番号24のアミノ酸配列における20~141位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体重鎖;及び
(3b)配列番号29のアミノ酸配列における21~133位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む可変領域を含む抗体軽鎖。
【0065】
好ましくは、抗体は、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる抗体であってもよい。
(1)下記(1a)及び(1b)を含む抗体
(1a)配列番号4のアミノ酸配列における20~469位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む抗体重鎖、及び
(1b)配列番号9のアミノ酸配列における20~238位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む抗体軽鎖、
(2)下記(2a)及び(2b)を含む抗体
(2a)配列番号14のアミノ酸配列における20~465位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む抗体重鎖、及び
(2b)配列番号19のアミノ酸配列における21~240位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む抗体軽鎖、並びに
(3)下記(3a)及び(3b)を含む抗体
(3a)配列番号24のアミノ酸配列における20~476位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む抗体重鎖;及び
(3b)配列番号29のアミノ酸配列における21~240位のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む抗体軽鎖。
【0066】
あるいは、抗体は、(a)配列番号61、配列番号63、配列番号65、配列番号67、配列番号69、または配列番号71のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む抗体重鎖、及び(b)配列番号73、配列番号75、配列番号77、または配列番号79のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含む抗体軽鎖を含む抗体であってもよい。
【0067】
上記同一性は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上であってもよい。同一性の算出は、アルゴリズムblastpにより行うことができる。より具体的には、同一性の算定は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)において提供されているアルゴリズムblastpにおいて、デフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11 Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて行うことができる。
【0068】
また、目的のアミノ酸配列に対して所望の同一性を示すアミノ酸配列は、目的のアミノ酸配列に対する所望の数のアミノ酸残基の変異によって特定することができる。アミノ酸残基の変異は、アミノ酸残基の欠失、置換、付加及び挿入からなる群より選ばれる1、2、3又は4種の変異である。アミノ酸残基の変異は、アミノ酸配列中の1つの領域に導入されてもよいが、複数の異なる領域に導入されてもよい。例えば、目的のアミノ酸配列が400個以上のアミノ酸残基から構成される場合、目的のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列は、目的のアミノ酸配列に対して40個以下のアミノ酸残基の変異が許容され、目的のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を示すアミノ酸配列は、目的のアミノ酸配列に対して20個以下のアミノ酸残基の変異が許容される。また、目的のアミノ酸配列が300個以上のアミノ酸残基から構成される場合、目的のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列は、目的のアミノ酸配列に対して30個以下のアミノ酸残基の変異が許容され、目的のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を示すアミノ酸配列は、目的のアミノ酸配列に対して15個以下のアミノ酸残基の変異が許容される。さらに、目的のアミノ酸配列が200個以上のアミノ酸残基から構成される場合、目的のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列は、目的のアミノ酸配列に対して20個以下のアミノ酸残基の変異が許容され、目的のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を示すアミノ酸配列は、目的のアミノ酸配列に対して10個以下のアミノ酸残基の変異が許容される。また、目的のアミノ酸配列が100個以上のアミノ酸残基から構成される場合、目的のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列は、目的のアミノ酸配列に対して10個以下のアミノ酸残基の変異が許容され、目的のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を示すアミノ酸配列は、目的のアミノ酸配列に対して5個以下のアミノ酸残基の変異が許容される。
【0069】
ヒト変性CRP特異的な抗体のアイソタイプとしては、例えば、IgG(例、IgG1,IgG2,IgG3,IgG4)、IgM、IgA(例、IgA1,IgA2)、IgDあるいはIgEが挙げられ、好ましくはIgG又はIgM、さらに好ましくはIgGである。
【0070】
本開示はまた、ヒト変性CRP特異的な抗体をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドとしては、DNA及びRNAを挙げることができ、DNAが好ましい。
【0071】
本開示はまた、上記ポリヌクレオチド及びそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現ベクターに関する。プロモーターとしては、例えば、所望の宿主細胞で高発現している遺伝子のプロモーター、及びウイルス由来のプロモーターが挙げられる。プロモーターはまた、構成的プロモーターであっても、誘導性プロモーターであってもよい。
【0072】
発現ベクターはまた、宿主細胞で機能するターミネーター、リボゾーム結合部位、及び薬剤耐性遺伝子等のエレメントをさらに含んでいてもよい。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する耐性遺伝子が挙げられる。
【0073】
発現ベクターはまた、宿主細胞のゲノムDNAとの相同組換えのために、宿主細胞のゲノムとの相同組換えを可能にする領域をさらに含んでいてもよい。例えば、発現ベクターは、それに含まれる発現単位が一対の相同領域(例、宿主細胞のゲノム中の特定配列に対して相同なホモロジーアーム、loxP、FRT)間に位置するように設計されてもよい。発現単位が導入されるべき宿主細胞のゲノム領域(相同領域の標的)としては、特に限定されないが、宿主細胞において発現量が多い遺伝子のローカスであってもよい。
【0074】
発現ベクターは、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、又は人工染色体であってもよい。発現ベクターはまた、組込み型(integrative)ベクターであっても非組込み型ベクターであってもよい。組込み型ベクターは、その全体が宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。あるいは、組込み型ベクターは、その一部(例、発現単位)のみが宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。発現ベクターはさらに、DNAベクター、又はRNAベクター(例、レトロウイルス)であってもよい。
【0075】
本開示はまた、上記ポリヌクレオチド及びそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位を含む形質転換細胞に関する。
【0076】
「発現単位」とは、タンパク質として発現されるべき所定のポリヌクレオチド及びそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む、当該ポリヌクレオチドの転写、ひいては当該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の産生を可能にする最小単位をいう。発現単位は、ターミネーター、リボゾーム結合部位、及び薬剤耐性遺伝子等のエレメントをさらに含んでいてもよい。発現単位は、DNAであってもRNAであってもよいが、DNAであることが好ましい。発現単位はまた、タンパク質として発現されるべき1つのポリヌクレオチド、及びそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位(すなわち、モノシストロニックmRNAの発現を可能にする発現単位)、又はタンパク質として発現されるべき複数のポリヌクレオチド(例えば、重鎖をコードするポリヌクレオチド、及び軽鎖をコードするポリヌクレオチド)、並びにそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位(すなわち、ポリシストロニックmRNAの発現を可能にする発現単位)であってもよい。発現単位は、1又は2以上(例、1、2、3、4、又は5)の異なる位置においてゲノム領域中に含まれていてもよい。非ゲノム領域に含まれる発現単位の具体的な形態としては、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、及び人工染色体が挙げられる。プロモーターは、上述のものと同様である。
【0077】
形質転換細胞は、当該分野において公知の任意の方法により作製することができる。例えば、形質転換細胞は、発現ベクターを用いる方法(例、コンピテント細胞法、エレクトロポレーション法)、又はゲノム改変技術により作製することができる。発現ベクターが宿主細胞のゲノムDNAと相同組換えを生じる組込み型(integrative)ベクターである場合、発現単位は、形質転換により、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれることができる。一方、発現ベクターが宿主細胞のゲノムDNAと相同組換えを生じない非組込み型ベクターである場合、発現単位は、形質転換により、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれず、宿主細胞内において、発現ベクターの状態のまま、ゲノムDNAから独立して存在できる。あるいは、ゲノム編集技術(例、CRISPR/Casシステム、Transcription Activator-Like Effector Nucleases(TALEN))によれば、発現単位を宿主細胞のゲノムDNAに組み込むことが可能である。形質転換細胞の宿主細胞としては、例えば、真核細胞〔例、動物細胞(例、哺乳動物細胞)、植物細胞、真核微生物〕、及び原核細胞(例、原核微生物)が挙げられる。
【0078】
(検査キット)
本開示はまた、変性CRP特異的な抗体を含む検査キットに関する。
【0079】
変性CRP特異的な抗体の詳細は、上述のとおりである。
【0080】
一実施形態では、キットは、ASDの検査キットである。
【0081】
別の実施形態では、キットは、CRPに対する抗体又はCRPの臨床検査試薬をさらに含んでいてもよい。すなわち、キットは、変性CRP特異的な抗体と、CRPに対する抗体又はCRPの臨床検査試薬との組合せを含む疾患の検査キットであってもよい。本発明者らが把握する限り、変性CRP特異的な抗体により測定できる変性CRP濃度と、CRPに対する抗体又はCRPの臨床検査試薬により測定できるCRP値との比率(例、CRP変性度)が疾患の診断に有用であることは、今回初めて見出されたものである。すなわち、本発明者らの研究成果によれば、これらの組合せを用いる動機付けが初めて生じるものの、このような比率に着目していない先行技術では、これらを組み合わせる動機付けはない。したがって、疾患の診断におけるこのような組合せの使用は、先行技術から容易に想到できるものではない。
【0082】
特定の実施形態では、キットは、変性CRP濃度の測定(例、サンドイッチイムノアッセイ)のため、2種以上の抗体を含んでいてもよい。このような2種以上の抗体としては、変性CRP特異的な2種の抗体(同種又は異種、好ましくは異種)を含む抗体のセットを用いることができる。あるいは、変性CRP特異的な1種の抗体及びネイティブCRPに対する1種の抗体の組み合わせを含む抗体のセットが用いられてもよい。少なくとも1種の抗体が変性CRP特異的な抗体であれば、変性CRPを測定できるためである。好ましくは、変性CRPに対する特異性の向上の観点から、変性CRP特異的な2種の抗体を含む抗体のセットが用いられてもよい。例えば、2種以上の抗体が用いられる場合、少なくとも1種の抗体は固相抗体として用いることができ、少なくとも1種の抗体は標識抗体として用いることができる。
【0083】
別の特定の実施形態では、キットは、イムノアッセイ用キットである。キットは、好ましくはELISA用キットであり、より好ましくはサンドイッチELISA用キットである。したがって、キットは、以下を含んでいてもよい:
(1)変性CRP特異的な第1抗体(固相抗体);
(2)変性CRP特異的な第2抗体(標識抗体);及び
(3)固相。
【0084】
さらに別の特定の実施形態では、キットは、変性CRP濃度に加えてCRP値を測定できるイムノアッセイ用キットである。キットは、CRPに対する1種以上の抗体をさらに含む。キットは、好ましくはELISA用キットであり、より好ましくはサンドイッチELISA用キットである。したがって、キットは、以下を含んでいてもよい:
(1)変性CRP特異的な第1抗体(固相抗体);
(2)変性CRP特異的な第2抗体(標識抗体);
(3)(a)CRPに対する第1抗体とCRPに対する第2抗体との組合せ、又は(b)CRPの臨床検査薬;及び
(4)固相。
【0085】
抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、改変抗体(例、単鎖抗体、Fcフラグメント)等の任意の抗体を用いることができる。抗体は、固相に固定されていてもよい。固相としては、例えば、プレート、支持体、膜、粒子(例、磁性粒子、ラテックス粒子)が挙げられる。例えば、キットがELISA用キットである場合、固相抗体が固定された固相、および標識抗体を含むように、キットは構成されていてもよい。また、キットが、ELISA用キット以外のキット、例えば、免疫クロマトグラフィー用キットである場合、目的物質に対する固相抗体および標識抗体が固定された支持体を含むように、キットは構成されていてもよい。
【0086】
キットはまた、補助的な手段を含んでいてもよい。このような補助的な手段としては、例えば、緩衝液、安定化剤、抗体の標識に用いられる酵素およびその酵素の基質、血液の予備処理用の容器(例、採血管)が挙げられる。
【0087】
キットは、例えば、上記方法において好適に利用することができる。
【実施例0088】
以下の実施例により本開示をより詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
実施例1:ヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体の作製
(1)抗原(ヒトmCRP)の調製
ヒト5量体CRP(C-Reactive Protein Human Pleural Fluid,Lee biosolutions,カタログ番号:140-11)(ヒトpCRP)を、8M Urea/10mM EDTA中にて37℃で2時間処理し、ヒト単量体CRP(ヒトmCRP)溶液を調製した。調製後、透析チューブを用いて、10mM リン酸バッファー(pH7.4)、15mM NaCl中にて透析した。透析した溶液を透析チューブに移した後、4℃、3,500xgにて遠心し、濃縮した。
【0090】
(2)抗原(ヒトmCRP)によるマウスの免疫
抗原(ヒトmCRP)濃度を200μg/0.5mLに調製し、アジュバントを同量加えガラスシリンジにてエマルジョンを作製した。アジュバントは、初回免疫時のみフロイント完全アジュバント(FCA, DIFCO,USA)を使用し、2回目以降はフロイント不完全アジュバント(FICA, DIFCO,USA)を使用した。4回免疫後、抗体価上昇を確認し、最終免疫(i.p./50μg/匹)を行った。
得られたエマルジョンをマウスの皮下及び皮内に27G注射針を用いて注射した。以後7日毎に合計4回免疫し、4回免疫後の7日後に尾静脈より少量採血した。ヒトmCRPを固相化したイムノプレートに、希釈抗血清を添加し、抗マウスIgG-HRP検出により、抗血清の力価を確認した。具体的には、抗血清の力価の確認は、以下の固相ELISAにより行った。
【0091】
(3)固相ELISA
固相ELISAの材料としては、以下を用いた。
(a)プレート:Nunc製 ELISA用イムノプレート(96ウェル)
(b)基質:O.P.D tablet(SIGMA)
(c)固相化用緩衝液:0.1M炭酸緩衝液,pH9.5(IBL)
(d)抗血清希釈用緩衝液:1% BSA,0.05% Tween-20(関東化学) in PBS
(e)標識抗体希釈用緩衝液:1% BSA,0.05% Tween-20 in PBS
(f)洗浄用緩衝液:0.05% Tween-20 in 0.1M リン酸バッファー
(g)基質用緩衝液:KHPO-クエン酸緩衝液(pH5.1)
(h)反応停止液:1mol/L-HSO(和光純薬)
(i)固相タンパク質:ヒトmCRP,又はBSA(コントロール)
【0092】
固相ELISAは、以下の手順により行った。
(a)タンパク質を、50ng/ウェル(50μL/ウェル)で用いて、4℃で16時間放置することによりプレートに固相化した。
(b)固相タンパク質を、ダルベッコPBS(D-PBS)(200μL/ウェル)で2回洗浄した。
(c)0.1%BSA及び0.05%NaNを含むD-PBS 200μLを各ウェルに添加して4℃で一晩放置することにより、ブロッキングを行った。
(d)各ウェルを、洗浄用緩衝液で2回洗浄した。
(e)サンプル(抗血清)を希釈用緩衝液にて希釈し、希釈液を各ウェルに添加して(50μL/ウェル)、37℃で30分間放置した。
(f)各ウェルを洗浄用緩衝液で4回以上洗浄した。
(g)標識抗体である抗マウスIgG(γ特異的)-HRPを各ウェルに添加して(50μL/ウェル)、37℃で30分間放置した。
(h)各ウェルを洗浄用緩衝液で4回以上洗浄した。
(i)基質液(400μg/mL)を各ウェルに添加(100μL/ウェル)することにより発色反応を開始させ、遮光下で室温にて15分間反応させた。
(j)15分後、1mol/L硫酸の添加(100μL/ウェル)により反応を停止させ、吸光度(490nm)を測定した。
【0093】
(4)ヒト変性CRP特異的な抗体を産生するハイブリドーマの調製
上記固相ELISAによりヒトmCRPに対する有意な力価の上昇が確認されたマウスから採取された脾臓細胞又はリンパ節細胞をミエローマ細胞(X-63.Ag8 653(ATCC))と、ポリエチレングリコール(PEG)を用いて細胞融合した(96ウェルプレート19枚)。HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン)選択培地を用いて、ハイブリドーマを選択的に培養した。その後、ハイブリドーマのコロニー形成を確認し、ハイブリドーマの培養物の上清希釈物をサンプルとして用いて、上述の固相ELISA(固相抗原:ヒトmCRP)によるスクリーニングを行い、36個の陽性クローンを選択した。
【0094】
(5)阻害ELISA(inhibition ELISA)
次に、ヒトmCRPに結合する能力を有するヒト変性CRP特異的な抗体を産生するハイブリドーマを、阻害ELISAにより選択した。
阻害ELISAでは、サンプルとして、(i)ハイブリドーマの培養上清を、過剰量のヒトmCRPを含む溶液とプレインキュベートした溶液、(ii)ハイブリドーマの培養上清を、過剰量のヒトpCRPを含む溶液とプレインキュベートした溶液、(iii)ハイブリドーマの培養上清を、ヒトmCRP及びヒトpCRPの双方を含まない溶液とプレインキュベートした溶液(コントロール)を用いて、上述したような固相ELISA(固相抗原:ヒトmCRP)を行った。このような阻害ELISAでは、ヒトmCRPに特異的に結合する能力を有する抗ヒトmCRP抗体を産生するハイブリドーマの培養上清は、(i)では、溶液中のヒトmCRPと結合するため固相抗原(ヒトmCRP)と結合できないことから、シグナルが実質的に検出されない。一方、このような培養上清は、(ii)では、溶液中のヒトpCRPと結合しないため固相抗原(ヒトmCRP)と結合できることから、十分なシグナルが検出される。また、このような培養上清は、(iii)では、溶液中にヒトmCRP及びヒトpCRPが存在しないので固相抗原(ヒトmCRP)と結合できるため、十分なシグナルが検出される。
【0095】
具体的には、阻害ELISAは、以下のとおり行った。
(a)ヒトmCRPを、希釈用緩衝液で40μg/mLに調整した(溶液a1)。又はヒトpCRPを、希釈用緩衝液で40μg/mLに調整した(溶液a2)。
(b)培養上清を、希釈用緩衝液にて2倍希釈した(溶液2)。
(c)溶液a1を溶液2と各50μLずつ混和して、培養上清中の抗体とヒトmCRPを、4℃で16時間以上反応させた。また、溶液a2を溶液2と各50μLずつ混和して、培養上清中の抗体とヒトpCRPを、4℃で16時間以上反応させた。
(d)以降の手順は、固相ELISAの上述した(a)~(j)の手順と同様であった。阻害ELISAの(c)で得られた溶液を、固相ELISAの(e)で用いられたサンプルとして用いた。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
その結果、36個の陽性クローンのうちの多くのクローンにおいて、(ii)及び(iii)に比し(i)ではシグナルが小さい値を示した。このことは、多くのクローンが、ヒトmCRPに特異的に結合する能力を有する抗ヒトmCRP抗体を産生することを示す。これらのクローンのなかから、(i)ではシグナルが実質的に検出されない一方で、(ii)及び(iii)では十分なシグナルが検出された7種のクローン(3,12,18,19,21,35,36)を選択した。このような7種のクローンは、ヒトmCRPに結合する能力を有する優れたヒト変性CRP特異的な抗体を産生できると考えられる。
【0098】
(6)ハイブリドーマの一次クローニングとサブクラスの同定
選抜した7種のクローンを限界希釈法により、1次クローニングした。2週間後、EIA法にてスクリーニングを行い陽性ウェルを選抜した。陽性ウェルを3ウェル(A,B,C)ずつ選抜し上清を採取し、固相ELISA、及び阻害ELISAを行った。その結果、1種のクローンでは、良好な抗体反応性が確認されなかったが、6種のクローン(クローン番号3,12,18,19,21,35)にそれぞれ対応する3種のサブクローン(A,B,C)において、良好な抗体反応性が確認された。以降の実験は、これらのサブクローン(3C、12C、18A、19C、21A、35A)を用いた。
【0099】
次に、各クローン1個の培養上清を用いて、サンドイッチELISAによるサブクラスチェックを実施したところ、結果は以下であった。
(a)mCRP-3C:マウスIgG2b,κ
(b)mCRP-12C:マウスIgG1,κ
(c)mCRP-18A:マウスIgG2a,κ
(d)mCRP-19C:マウスIgG1,κ
(e)mCRP-21A:マウスIgG2a,κ
(f)mCRP-35A:マウスIgG2a,κ
【0100】
(7)IgG精製
6種のハイブリドーマ(3C,12C,18A,19C,21A,35A)を常法により培養して得られた培養上清からIgGを精製し、mCRPに対する結合能を分析した。
【0101】
IgGの精製及び分析に用いた材料及び機器は、以下である。
(a)プロテインAカラム
(b)結合緩衝液(グリシン-NaCl,pH8.9)
(c)溶出緩衝液(クエン酸,pH4.0)
(d)再生緩衝液(クエン酸,pH2.0)
(e)D-PBS
(f)吸光度モニタ-280nm(ATTO)
(g)AKTAシステム(GEヘルスケア)
(h)AKTA用分析カラム(GEヘルスケア)
【0102】
IgGの精製及び分析は、以下のとおり行った。
(IgGの精製)
(a)培養上清を0.45μmで濾過し、硫安塩析後、結合緩衝液で希釈した。
(b)結合緩衝液に平衡化されたProteinAカラムへ添加した。
(c)結合緩衝液で夾雑蛋白の除去のためカラムを十分に洗浄した。
(d)溶出緩衝液でIgG溶出する。回収容器に、あらかじめ回収液の1/10量程度の中和緩衝液を入れておき、溶出物のpHを中和した。
(e)溶出物をPBSに冷蔵下で、透析した。
(f)IgGを回収し、0.22μmで濾過した。
(g)OD280nmを測定しIgG濃度を算出した。
(h)限外濾過法により、5mg/mL程度に濃縮し、0.22μmにてフィルトレーション後、分注凍結保存した。
【0103】
(IgGの分析)
(a)280nmの吸光度を測定し、A280=1.382を1mg/mLとしてタンパク濃度を算出した。
(b)AKTA FPLCによるゲル濾過分析により、純度を確認した。
(c)上述の固相ELISAにて力価を確認した。
その結果、6種のハイブリドーマを培養して得られた培養上清から精製されたIgGはいずれも、ヒトmCRPに対する結合能を有することが確認された。
【0104】
実施例2:ヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体の産生能を有するハイブリドーマの2次スクリーニング
実施例1で得られたハイブリドーマのサブクローン(mCRP-3C、mCRP-12C、mCRP-18A)を、限界希釈法により2次クローニングした。細胞培養、並びにIgGの精製及び分析は、それぞれ、実施例1と同様にして行った。
その結果、上述の固相ELISAにて力価を確認したところ、2次クローニングに供された3種のハイブリドーマ(mCRP-3C、mCRP-12C、mCRP-18A)を培養して得られた培養上清から精製されたIgGはいずれも、ヒトmCRPに対する結合能を有することが確認された。
また、これらのハイブリドーマを培養して得られた培養上清から精製されたIgGを、実施例1(5)に記載した阻害ELISAにより解析したところ、これらのIgGは、ヒトmCRPに結合する能力を有するヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体であることが確認された(図2~4)。
【0105】
実施例3:ヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体の構造解析
実施例2で2次スクリーニングされた3種のハイブリドーマ(mCRP-3C、mCRP-12C、mCRP-18A)よりmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを作製した。マウス重鎖及び軽鎖特異的なプライマーを用いて、5’-RACE(rapid amplification of cDNA ends)法を行い、重鎖及び軽鎖のN末の塩基配列を決定した。N末塩基配列の翻訳開始メチオニン周辺配列をN末側プライマーとして、重鎖及び軽鎖の全長cDNAを発現ベクターにクローニングした。CDR及び可変領域は、NCBIにおけるIgBLASTを利用してKabatらの定義にしたがい決定した。
その結果、各ハイブリドーマにより産生されるヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体は、下記表2に示される構造的特徴を有していた(図5~10も参照のこと)。
【0106】
【表2】
【0107】
以上より、上記のようなCDRを含む抗体がヒトmCRPを特異的に認識できることが示された。
【0108】
以降では、ヒト変性CRP特異的な抗体について、下記略称を使用することがある。
1)ハイブリドーマmCRP-3Cから産生されるヒト変性CRP特異的な抗体:3C抗体
2)ハイブリドーマmCRP-12Cから産生されるヒト変性CRP特異的な抗体:12C抗体
3)ハイブリドーマmCRP-18Aから産生されるヒト変性CRP特異的な抗体:18A抗体
【0109】
実施例4:ヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体のエピトープ解析
(1)ペプチド合成(その1)
3C抗体のエピトープを解析した。先ず、エピトープ解析に使用する下記ペプチドを合成した。下記ペプチドは、固相への固定を可能にするため、ヒトmCRPのエピトープのC末端にシステイン残基(C)が付加されている。
【0110】
1)mCRP(19):QTDMSRKAFVC(配列番号33)
2)mCRP(29):FPKESDTSYVC(配列番号34)
3)mCRP(39):SLKAPLTKPLC(配列番号35)
4)mCRP(49):KAFTVCLHFYC(配列番号36)
5)mCRP(59):TELSSTRGYSC(配列番号37)
6)mCRP(69):IFSYATKRQDC(配列番号38)
7)mCRP(79):NEILIFWSKDC(配列番号39)
8)mCRP(89):IGYSFTVGGSC(配列番号40)
9)mCRP(99):EILFEVPEVTC(配列番号41)
10)mCRP(109):VAPVHICTSWC(配列番号42)
11)mCRP(119):ESASGIVEFWC(配列番号43)
12)mCRP(129):VDGKPRVRKSC(配列番号44)
13)mCRP(139):LKKGYTVGAEC(配列番号45)
14)mCRP(149):ASIILGQEQDC(配列番号46)
15)mCRP(159):SFGGNFEGSQC(配列番号47)
16)mCRP(169):SLVGDIGNVNC(配列番号48)
17)mCRP(179):MWDFVLSPDEC(配列番号49)
18)mCRP(189):INTIYLGGPFC(配列番号50)
19)mCRP(199):SPNVLNWRALC(配列番号51)
20)mCRP(209):KYEVQGEVFTKPQLWPC(配列番号52)
【0111】
(2)エピトープ解析(その1)
エピトープ解析の材料としては、以下を用いた。
(a)プレート:Nunc製 ELISA用イムノプレート(96ウェル)
(b)基質:O.P.D tablet(SIGMA)
(c)固相化用緩衝液:0.1M炭酸緩衝液 pH9.5(IBL)
(d)抗血清希釈用緩衝液:1% BSA,0.05% Tween-20(関東化学) in PBS
(e)標識抗体希釈用緩衝液:1% BSA,0.05% Tween-20 in PBS
(f)洗浄用緩衝液:0.05% Tween-20 in 0.1MPB
(g)基質用緩衝液:KHPO-クエン酸緩衝液(pH5.1)(IBL)
(h)反応停止液:1mol/L-HSO(和光純薬)
(i)固相ペプチド
【0112】
エピトープ解析は、以下の手順により行った。
(a)ペプチドを、50ng/ウェル(50μL/ウェル)で用いて、4℃で16時間放置することによりプレートに固相化した。
(b)固相ペプチドを、ダルベッコPBS(D-PBS)(200μL/ウェル)で2回洗浄した。
(c)0.1%BSA及び0.05%NaNを含むD-PBS 200μLを各ウェルに添加して4℃で一晩放置することにより、ブロッキングを行った。
(d)各ウェルを、洗浄用緩衝液で2回洗浄した。
(e)抗体を希釈用緩衝液にて1μg/mLに希釈し、希釈液を各ウェルに添加して(50μL/ウェル)、37℃で30分間放置した。
(f)各ウェルを洗浄用緩衝液で4回以上洗浄した。
(g)標識抗体である抗マウスIgG(γ特異的)-HRPを各ウェルに添加して(50μL/ウェル)、37℃で30分間放置した。
(h)各ウェルを洗浄用緩衝液で4回以上洗浄した。
(i)基質液(400μg/mL)を各ウェルに添加(100μL/ウェル)することにより発色反応を開始させ、遮光下で室温にて15分間反応させた。
(j)15分後、1mol/L硫酸の添加(100μL/ウェル)により反応を停止させ、吸光度(490nm)を測定した。
【0113】
その結果、3C抗体は、EILFEVPEVT(配列番号2)を含むペプチドに対して、mCRPと同様の反応性を示した(表3)。また、上記(e)において、各ウェルに添加する抗体濃度を5μg/mLに変更した場合にも、同様の結果が確認された。なお、ヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体である12C抗体、18A抗体(図3、4)について、EILFEVPEVT(配列番号2)を含むペプチドに対して結合するか確認したところ、このペプチドに対して結合しなかった。このことは、これらの抗体が3C抗体と異なるエピトープを認識していることを示す。したがって、ヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体のエピトープは1種のみではなく、複数種存在すると考えられる。
【0114】
【表3】
【0115】
以上より、ヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体のエピトープとして、3C抗体のエピトープであるEILFEVPEVT(配列番号2)(図1)を含む複数のエピトープが存在すると考えられた。
【0116】
(3)ペプチド合成(その2)
3C抗体のエピトープを追試のため解析した。エピトープとしては、上記1)~20)のペプチドに代えて、より長い下記ペプチドを合成して使用した。
21)mCRP(1-30):QTDMSRKAFVFPKESDTSYVSLKAPLTKPLC(配列番号53)
22)mCRP(31-60):KAFTVCLHFYTELSSTRGYSIFSYATKRQDC(配列番号54)
23)mCRP(61-90):NEILIFWSKDIGYSFTVGGSEILFEVPEVTC(配列番号55)
24)mCRP(91-120):VAPVHICTSWESASGIVEFWVDGKPRVRKSC(配列番号56)
25)mCRP(121-150):LKKGYTVGAEASIILGQEQDSFGGNFEGSQC(配列番号57)
26)mCRP(151-180):SLVGDIGNVNMWDFVLSPDEINTIYLGGPFC(配列番号58)
27)mCRP(181-206):SPNVLNWRALKYEVQGEVFTKPQLWPC(配列番号59)
【0117】
(4)エピトープ解析(その2)
エピトープ解析の材料は、実施例4(2)と同じであった。エピトープ解析の手順は、実施例4(2)と同様にして行った。
その結果、3C抗体は、EILFEVPEVT(配列番号2)を含むペプチドに対して反応した(表4)。また、ペプチドを固相に直接固定するのではなく、ウシ血清アルブミン(BSA)を介して固相に固定した場合にも、同様の結果が確認された。
【0118】
【表4】
【0119】
以上より、3C抗体のエピトープはEILFEVPEVT(配列番号2)であることが確認された(図1)。
【0120】
実施例5:変性CRP濃度に基づく疾患の検査
(1)CRP値及び変性CRP濃度の測定
本試験は、公益財団法人 田附興風会 医学研究所 北野病院 倫理委員会、および関西電力病院 倫理委員会で承認されている。また、患者に書面を提示し、同意が得られた患者からのみ検体採取を実施した。
【0121】
患者としては、二重で疾患名で診断されている患者を除き、単一の炎症性疾患と診断された患者を対象とした。対象とした炎症性疾患は、関節リウマチ(RA)、成人発症スティル病(AOSD)、血管炎、リウマチ性多発筋痛症(PMR)、全身性エリテマトーデス(SLE)、感染症である。
【0122】
CRP値及び変性CRP濃度の測定に用いた試料として、患者由来の血漿を用いた。
【0123】
CRP値の測定は、CRPに対する抗体を含むCRPの臨床検査試薬であるN-アッセイ LA CRP-T ニットーボー、あるいはN-アッセイ LA CRP-S ニットーボー D-type(ニットーボーメディカル株式会社)を用いて行った。
【0124】
変性CRP濃度の測定は、上記実施例で得られた12C抗体(固相抗体)及び18A抗体(標識抗体)を用いたサンドイッチELISAにより行った。具体的には、変性CRP濃度の測定は、以下のとおり行った。
(a)精製した12C抗体を、固相化用緩衝液にて20μg/mL に調製し、2μg/ウェル(100μL/ウェル)で用いて、4℃で一晩放置することによりプレートに固相化した。
(b)固相抗体を、洗浄用緩衝液で2回洗浄した。
(c)0.1%BSA及び0.05%NaNを含むD-PBS 200μLを各ウェルに添加して4℃で一晩放置することにより、ブロッキングを行った。
(d)各ウェルを、洗浄用緩衝液で2回洗浄した。
(e)検体を希釈用緩衝液にて希釈し、希釈液を各ウェルに添加して(100μL/ウェル)、37℃で60分間放置した。
(f)各ウェルを洗浄用緩衝液で4回洗浄した。
(g)標識抗体であるFab’化18A抗体-HRPを、希釈用緩衝液にて0.4μg/mLに調製し、各ウェルに添加して(100μL/ウェル)、37℃で30分間放置した。
(h)各ウェルを洗浄用緩衝液で5回洗浄した。
(i)基質液を各ウェルに添加(100μL/ウェル)することにより発色反応を開始させ、遮光下で室温にて30分間反応させた。
(j)30分後、反応停止液の添加(100μL/ウェル)により反応を停止させ、吸光度(450nmおよび650nm)を測定した。
(k)測定値をもとに作成した検量線から、検体中の変性CRP濃度を算出した。検量線作成用タンパク質(標準品)として、ヒトmCRPを使用した。
結果は、以下のとおりである。
【0125】
【表5】
【0126】
次に、CRP値が基準値を超える変性CRP陽性の患者を抽出した。CRP値の基準値として≧50μg/mLを採用した。また、変性CRP陽性の基準値として≧150ng/mLを採用した。
【0127】
【表6】
【0128】
次に、CRP値が上記基準値を超える患者について、変性CRP濃度及びCRP値、並びにそれらの比率を抽出し、成人発症スティル病(AOSD)と他の疾患との間で、Dunn-Bonferroni検定によりp値を算出し、統計学的有意差を検討した。
【0129】
但し、SLEについては、変性CRP濃度が圧倒的に低く、CRP値が50μg/mLを超える患者も1例しか見出せなかったため、以降の解析を省略した。しかしながら、AOSDとSLEは、変性CRP濃度及びCRP値の双方が根本的に異なるので、以降の解析の有無にかかわらず、変性CRP濃度及び/又はCRP値の測定により、AOSDをSLEから容易に鑑別できることが理解される。
【0130】
【表7】
【0131】
【表8】
【0132】
実施例6:変性CRP濃度のみに基づく疾患の検査
症例数を増やして、実施例5記載の方法と同様にして、変性CRP濃度及びCRP値(CRP値によるカットオフなし)を測定した。
結果は、以下のとおりである。
【0133】
【表9】
【0134】
最後に、変性CRP濃度及びCRP値、並びにそれらの比率を抽出し、成人発症スティル病(AOSD)と他の疾患との間で、Dunn-Bonferroni検定によりp値を算出し、統計学的有意差を検討した。
【0135】
但し、SLEについては、変性CRP濃度が圧倒的に低いため、以降の解析を省略した。しかしながら、AOSDとSLEは、変性CRP濃度及びCRP値の双方が根本的に異なるので、以降の解析の有無にかかわらず、変性CRP濃度及び/又はCRP値の測定により、AOSDをSLEから容易に鑑別できることが理解される。
【0136】
【表10】
【0137】
(ASD)
今回、ASDとして、AOSDを評価に用いた。AOSD及び感染症は、他の炎症性疾患に比し、血漿中の変性CRP濃度が高かった(表5~10)。興味深いことに、AOSD患者由来の血漿中の変性CRP濃度は、心筋梗塞患者患者由来の血漿中の既報の変性CRP濃度(20.96ng/mL)よりも顕著に高く(Wang et al.,Atherosclerosis,2015,vol.239,p.343-349)、また、乾癬、湿疹及び蕁麻疹(皮膚関連自己免疫疾患)患者由来の血漿中の既報の変性CRP濃度(それぞれ、35.4ng/mL、30.0ng/mL及び59.8ng/mL)よりも顕著に高かった(Zhang et al.,Frontiers in Immunology,2018,vol.9,Article 511)。すなわち、興味深いことに、また予想外なことに、AOSD患者由来の体液中の変性CRP濃度は、本発明者らが把握している既報の変性CRP濃度よりも高かった。感染症は、その症状に応じて診断がしばしば容易な場合がある。また、感染症は病原体(例、ウイルス、微生物)の特定(例、遺伝子・ゲノムの検出)により確定診断できるため、AOSDは、感染症と判別し易い場合も多い。上記のとおりAOSD及び感染症が互いに判別し易いことを考慮すると、高い変性CRP濃度は、AOSDの検査に有用である。
【0138】
したがって、変性CRP濃度の高さ、及びそれに関連するCRP変性度の高さ〔例、高比率(変性CRP濃度/CRP値)〕は、AOSD等のASDの指標として有用であることが確認された。
【0139】
(血管炎)
血管炎及びSLEは、他の炎症性疾患に比し、血漿中の変性CRP濃度が低かった(表5、9)。SLEは、血漿中のCRP値が低いため(表5、9)、低いCRP値に応じて変性CRP濃度も低くなり易いことが理解できる。SLEは二本鎖DNA、尿中タンパク質及び自己抗体等のマーカーの測定により検査することができるため、血管炎は、SLEから容易に鑑別することができる。また、SLEは、血管炎とは異なり低いCRP値を示すため(表5、9)、血管炎は、SLEから容易に鑑別することができる。上記のとおり血管炎及びSLEが互いに鑑別し易いことを考慮すると、低い変性CRP濃度は、血管炎の指標として有用である。
【0140】
また、血管炎は、炎症性疾患において、高いCRP値及び著しく低い変性CRP濃度に起因して、最低の比率(変性CRP平均濃度/CRP平均値)を示した(表5~10)。
【0141】
したがって、変性CRP濃度の低さ、及びそれに関連するCRP変性度の低さ〔例、低比率(変性CRP濃度/CRP値)〕は、血管炎の指標として有用であることが確認された。
【0142】
(ASDと血管炎との鑑別)
AOSD及び血管炎は、変性CRP濃度及びCRP変性度の双方において、高度な統計学的有意差を示した(表8、10、図11)。このことは、CRP変性度がAOSDのようなASDと血管炎との鑑別のための指標として極めて優れることを示す。したがって、CRP変性度は、ASDと血管炎との鑑別に有用であることが確認された。
【0143】
(ASDとRAおよびPMRとの鑑別)
ASD、RA、PMRは共に発熱、関節痛、筋痛が共通の症状である。CRPも中等度から高度上昇を認めることが多いため、鑑別診断に難渋することが少なくない。AOSDに特徴的な皮疹が出現すれば鑑別の一助となるが、皮疹が出現しないAOSDが20-30%存在するため、その際は鑑別を一層困難にする。また、RAではいわゆるseronegativeRA(RF陰性及びCCP陰性)が30%程度存在し、PMRでは特異的なマーカーは現時点では確認されていない。血管炎でも一部のもの(ANCA関連血管炎)を除くと特異的なマーカーは存在しない。このため、AOSDのようなASDと血清学的陰性の血管炎、血清学的陰性のRA、PMRとの鑑別が臨床上極めて重要となる。この観点で、変性CRP濃度、あるいは、変性CRP濃度/CRPによる鑑別手法は、臨床的に非常に有用な手段として期待される。
【0144】
実施例7:ヒト化抗体及びキメラ抗体の作製および解析
(1)ヒト化抗体及びキメラ抗体の作製
先の実施例で得られたヒト変性CRP特異的なモノクローナル抗体(3C抗体)の重鎖(HC)及び軽鎖(LC)における相補性決定領域(CDR)1~3を共有するヒト化抗体及びキメラ抗体を作製し、それらの結合能を解析した。
【0145】
先ず、3C抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列から、Kabat および IMGT ナンバリングスキームに基づき、CDR1~3を同定した。同定されたCDR1~3を、ヒト免疫グロブリン重鎖可変遺伝子(IGHV)及びヒト免疫グロブリンカッパ可変遺伝子(IGKV)に基づく可変領域に移植した。
【0146】
次に、移植後の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を、それぞれIgG1(G1m17,1)とIgK1(Km3)の定常領域のアミノ酸配列を有する発現ベクターにクローニングして、3C抗体(マウス抗体)の重鎖中のCDR1~3をヒト抗体に移植した重鎖(HC1~5)、及び3C抗体の軽鎖中のCDR1~3をヒト抗体に移植した軽鎖(LC1~3)を含むヒト化抗体を作製した。
【0147】
なお、3C抗体(マウス抗体)の重鎖可変領域をヒト抗体の重鎖定常領域に連結した重鎖(HC0)、及び3C抗体の軽鎖可変領域をヒト抗体の軽鎖定常領域に連結した軽鎖(LC0)を含むキメラ抗体も併せて作製した。
作製した各抗体の重鎖(HC0~5)及び軽鎖(LC0~3)の情報を表11に示す。
【0148】
【表11】
【0149】
(2)ヒト化抗体及びキメラ抗体の解析
作製した各抗体の結合能を解析した。発現ベクターをCHO細胞に導入し、培養した後、発現した抗体を培養上清からAKTATM design クロマトグラフィーシステムを用いて精製した。得られた10種類の精製抗体の結合能を、2種類の方法で解析した。
【0150】
先ず、バイオレイヤー干渉法(Bio-Layer Interferometry:BLI)を利用するOctet Systemsを用いて、精製抗体の結合能を解析した。キメラ抗体(HC0/LC0)の結合能を100%として、ヒト化抗体(HCx/LCx)の結合能を百分率で評価した。
【0151】
次に、BiacoreTMにより、精製抗体の結合能を解析した。
【0152】
その結果、10種類の精製抗体はいずれも高い結合能を示すことが確認された(表12)。
【表12】
【0153】
以上述べた少なくとも一つの実施形態によれば、臨床診断を補助することができる。
【0154】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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