(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124498
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】キャビテーション処理水の洗浄力評価方法及び被処理物の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/22 20060101AFI20220819BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220819BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20220819BHJP
G01N 21/76 20060101ALN20220819BHJP
【FI】
C12Q1/22
C12Q1/68
G01N33/18 F
G01N21/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022181
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】309003957
【氏名又は名称】株式会社 JAPAN STAR
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 博毅
【テーマコード(参考)】
2G054
4B063
【Fターム(参考)】
2G054AA02
2G054AB10
2G054BB01
2G054CA22
2G054CB10
2G054CE02
2G054EA02
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ02
4B063QQ05
4B063QQ16
4B063QQ22
4B063QQ63
4B063QR02
4B063QR42
4B063QS02
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バイオフィルムが介在した形で微生物が付着していると考えられる被洗浄物に対するキャビテーション処理水の洗浄力を、同一の被処理物を用いて的確かつ簡便に評価する方法を提供する。
【解決手段】キャビテーション処理水を用いて行う試験洗浄の前後にて、第一の被処理物の表面に対しATPふき取り試験を実施することにより、第一の被処理物の表面の洗浄前後における清浄度の変化を測定する。また、液体処理ノズルを流通させない非キャビテーション処理水を用いて行う試験洗浄の前後にて、第一の被処理物と同種の第二の被処理物の表面に対しATPふき取り試験を実施することにより、第一の被処理物の表面の洗浄前後における清浄度の変化を測定する。第一の被処理物及び第二の被処理物について得られる清浄度の変化の比較に基づいてキャビテーション処理水の洗浄力評価を行なう。
【選択図】
図39
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体流路の途中にキャビテーション処理部が形成された液体処理ノズルに洗浄水を流通させ、該流通により得られるキャビテーション処理水を用いて微生物を含む汚れ層が付着した被処理物を洗浄する際の、前記キャビテーション処理水の洗浄力を評価する方法であって、
前記キャビテーション処理水を用いて行う試験洗浄の前後にて、第一の被処理物の表面に対しATPふき取り試験を実施することにより、前記第一の被処理物の表面の洗浄前後における清浄度の変化を測定する工程と、
前記液体処理ノズルを流通させない非キャビテーション処理水を用いて行う試験洗浄の前後にて、前記第一の被処理物と同種の第二の被処理物の表面に対しATPふき取り試験を実施することにより、前記第二の被処理物の表面の洗浄前後における清浄度の変化を測定する工程と、
前記第一の被処理物及び前記第二の被処理物について得られる前記清浄度の変化の比較に基づいて前記キャビテーション処理水の洗浄力評価を行なう工程と、
を有することを特徴とするキャビテーション処理水の洗浄力評価方法。
【請求項2】
前記被処理物が野菜又は果物である請求項1記載のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法。
【請求項3】
前記被処理物が人体の手指である請求項1記載のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法。
【請求項4】
前記清浄度の変化を測定する際に、前記試験洗浄の前後にて前記被処理物の表面に対するふき取り位置を変更する形で前記ATPふき取り試験を実施する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法。
【請求項5】
前記第一の被処理物と前記第二の被処理物は、洗浄前に測定される前記清浄度が予め定められた範囲内に揃ったものが使用される請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法。
【請求項6】
前記試験洗浄は、洗浄槽に充填された前記洗浄水に前記被処理物を浸漬するとともに、他部材による表面への積極的な摩擦を排除した状態にて実施される請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法。
【請求項7】
前記試験洗浄は、前記洗浄槽内にて前記被処理物の表面における前記洗浄水の流速が1m/秒以下となる条件にて実施される請求項6記載のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法。
【請求項8】
前記キャビテーション処理水及び前記非キャビテーション処理水のそれぞれについて、前記試験洗浄の実施時間を複数種類設定し、各実施時間に個別に対応する形で被処理物を複数用意して前記清浄度の変化を前記実施時間ごとに測定するとともに、その測定結果に基づいて前記キャビテーション処理水と前記非キャビテーション処理水との前記清浄度の変化の差が予め定められた値以上となる臨界洗浄時間を見出す形で前記洗浄力評価を行なう請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法。
【請求項9】
前記キャビテーション処理水を用いて微生物を含む汚れ層が付着した所望の被処理物を洗浄した場合に、前記非キャビテーション処理水を用いて同種の被処理物の洗浄を行った場合よりも洗浄結果が有利となる臨界洗浄時間を、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の洗浄力評価方法に基づいて決定する工程と、前記被処理物を前記臨界洗浄時間以上の洗浄時間にて前記キャビテーション処理水により洗浄する工程と、
を有することを特徴とする被処理物の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キャビテーション処理水の洗浄力評価方法及び被処理物の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャビテーション効果(水が高流速化して通過する際の減圧効果)により溶存空気を微細気泡として析出させるノズルが種々提案されている(特許文献1~7)。典型的には、水の流路にベンチュリやオリフィスにより絞り部を設け、絞り部を液体が増速して通過する際のキャビテーション効果を利用するものが知られている(特許文献1~6)。また、特許文献7には、軸線方向のスリットを周方向に多数形成した円筒部材を流路内に配置し、水流内で円筒部材を回転させることによりキャビテーションを生じさせる構造が提案されている。また、特許文献8には、流路の途中に水流方向と直角にねじ部材を配置し、そのねじ谷をキャビテーションポイントとして利用する液体処理ノズルが提案されている。
【0003】
上記のような液体処理ノズルを通水することにより得られるキャビテーション処理水を、例えば手洗いや野菜・果物といった食品の洗浄に適用しようと考えた場合、使用者が最も大きな関心を寄せる除去対象汚れの一つに微生物(細菌)による汚れが挙げられる。手指や野菜・果物などを洗浄対象物と考えた場合、その表面に生きた微生物が付着すると、微生物は該表面の微細な凹凸の隅々にまで入り込むとともに、バイオフィルムを形成する。バイオフィルムは、微生物が都合の良い生息条件を獲得して仲間を増やすために、微生物自体が創成する菌体外多糖などの生産物が集まって形成される構造物である。
【0004】
例えば、非特許文献2によると、固体表面に付着した微生物の細胞は表面上で増殖を始め、いくつかの細胞が集まってマイクロコロニーが形成されるとバイオフィルムの生成が始まる。この段階でコロニーを作る微生物は細胞外多糖を合成し、それを足がかりにした不可逆な相互作用によってバイオフィルムは強固なものとなる。しっかりと固体表面に固着したバイオフィルムは、微生物に対する保護膜として機能するようになり、流水と接触させても簡単には除去できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-110468号公報
【特許文献2】特許6609819号公報
【特許文献3】特許6579547号公報
【特許文献4】特許4915962号公報
【特許文献5】WO2018/185866号公報
【特許文献6】特許4999996号公報
【特許文献7】特開2017-136513号公報
【特許文献8】特許5731650号公報
【特許文献9】特開2003-35673号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】NanotechJapan Bulletin Vol. 8, No. 4, 2015、企画特集Collabo ナノテクノロジー第4回「ナノバブル水中のナノバブルの解析」
【非特許文献2】「バイオフィルムの生成と衛生管理」、「イーズ」No.21(2003年1月発行)
【非特許文献3】「学生を対象とした手洗い前後の細菌数に関する研究」、東京福祉大学・大学院紀要 第8巻 第2号189~195ページ(2018年3月発行)
【非特許文献4】「キュウリ果実の低温障害に伴う表皮構造の変化」(辰巳他、園芸学会雑誌556(2):187~192、1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固体表面に発達したバイオフィルムは、いわゆる「ぬめり汚れ」の原因となることが知られている。本発明者が鋭意検討した結果によると、上記液体処理ノズルによりキャビテーション処理した水(キャビテーション処理水)は、非処理水と比較してバイオフィルムに由来したぬめり汚れに対する洗浄力が極めて高いことが判明している。その理由は主に、固体表面とバイオフィルム層との付着界面に対し、キャビテーション処理水が非処理水よりも浸透しやすい性質を有しているためであると考えられる。
【0008】
一方、手や野菜あるいは果物の表面は、手で触ってもぬめりを感じない一見乾燥状態に見える表面であっても、バイオフィルムにより微生物のコロニーが強固に付着した状態は普遍的に創出されているとも考えられる。この場合、ぬめり汚れ除去について優位性を示すキャビテーション処理水であれば、このような状態の表面に付着した微生物のコロニーについても、非処理水に対して有利な洗浄効果を有していると考えられる。よって、キャビテーション処理水による洗浄除去の対象に、固体表面に付着した微生物(あるいはその死骸)が含まれている場合、バイオフィルムに対する除去能力を適切に評価する手法が求められる。
【0009】
例えば一般的な洗浄試験においては、インクや油脂類が汚れのモデルとして使われることが多い。しかし、インクはバイオフィルムよりも流動性が高く、水と混ぜれば速やかに均一に拡散混合してしまうものであり、洗浄水の浸透能力の相違を的確に反映できるかどうかには疑問がある。一方、油脂は疎水性であり、キャビテーション処理水と非処理水のずれについても付着表面との界面への浸透は、親水性のバイオフィルムとの界面よりも格段に小さい問題がある。そもそも、キャビテーション処理水と非処理水とは化学組成上はほとんど差がなく、バイオフィルムが介在しつつ付着する微生物への洗浄能力の差を的確に反映しうる評価方法についても、従来ほとんど検討されることはなかった。
【0010】
一方、より直接的な評価方法として、洗浄後の被処理物に残留する生菌数を測定する方法がある。例えば、被処理物が野菜や果物の場合は、洗浄後の検体を丸ごと均一にすりつぶし、培地に定量接種して培養することにより、培養前の検体の単位体積当たりの生菌数を見積もる検査方法が広く採用されている。しかし、この方法は完全な破壊検査であり、洗浄前と洗浄後の生菌数の変化を同一検体を用いて評価することができない、という致命的な欠点がある。さらに、被処理物が人体である場合、適用不可能な方法であることは言うまでもない。
【0011】
一方、被処理物をゴム袋に無菌水とともに封入し、その状態で被処理物をもみ洗いした後、袋内の水を回収して水に移動した生菌数を測定する方法も知られており、検体が人体手指の場合はゴム手袋を用いることから、グローブジュース法と称されている(非特許文献3を参照)。非特許文献3においては、同一人物の手洗い前の右手と、手洗い後の左手の残留生菌数をそれぞれグローブジュース法で測定することにより、手洗い前後の生菌数変化についての評価がなされている。しかし、この方法も、洗浄前と洗浄後の生菌数を、同一人物の同じ側の手について評価することができない点で、前述の破壊検査方式と何ら変わりはない。そして、いずれの手法も、生菌数測定のための検体調製と菌コンタミ除外のための技術的配慮が煩雑であり、菌培養を経て評価結果が判明するまでに相当の時間を要する欠点がある。
【0012】
本発明の課題は、バイオフィルムが介在した形で微生物が付着していると考えられる被洗浄物に対するキャビテーション処理水の洗浄力を、同一の被処理物を用いて的確かつ簡便に評価する方法と、それを用いた被処理物の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法は、液体流路の途中にキャビテーション処理部が形成された液体処理ノズルに洗浄水を流通させ、該流通により得られるキャビテーション処理水を用いて微生物を含む汚れ層が付着した被処理物を洗浄する際の、キャビテーション処理水の洗浄力を評価する方法であって、キャビテーション処理水を用いて行う試験洗浄の前後にて、第一の被処理物の表面に対しATPふき取り試験を実施することにより、第一の被処理物の表面の洗浄前後における清浄度の変化を測定する工程と、液体処理ノズルを流通させない非キャビテーション処理水を用いて行う試験洗浄の前後にて、第一の被処理物と同種の第二の被処理物の表面に対しATPふき取り試験を実施することにより、第二の被処理物の表面の洗浄前後における清浄度の変化を測定する工程と、第一の被処理物及び第二の被処理物について得られる清浄度の変化の比較に基づいてキャビテーション処理水の洗浄力評価を行なう工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の被処理物の洗浄方法は、キャビテーション処理水を用いて微生物を含む汚れ層が付着した所望の被処理物を洗浄した場合に、非キャビテーション処理水を用いて同種の被処理物の洗浄を行った場合よりも洗浄結果が有利となる臨界洗浄時間を、上記本発明の洗浄力評価方法に基づいて決定する工程と、被処理物を臨界洗浄時間以上の洗浄時間にてキャビテーション処理水により洗浄する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法においては、試験洗浄の対象として、微生物を含む汚れ層が付着した被処理物を用いるとともに、キャビテーション処理水を用いた第一の被処理物の試験洗浄と、非キャビテーション処理水を用いた第二の被処理物の試験洗浄とを個別に行う。そして、いずれの試験洗浄においても同一の被処理物に対し試験洗浄の前後にてATPふき取り試験を実施し、洗浄前後における清浄度の変化をそれぞれ測定する。
【0016】
ATPふき取り試験の原理は周知であり(例えば、特許文献9を参照)、概要は以下の通りである。すなわち、綿棒等のプローブにより被処理物の表面に対しふき取り操作を行ない、綿棒に付着した生物細胞あるいはその残渣を所定の抽出液により抽出する。そして、その抽出液にATPと反応して発光する酵素を含有した発光試薬を添加することにより抽出液の発光を促し、その発光量を測定するものである。プローブに付着した生物細胞や残渣の量が多いほど、これに含まれるATPに由来した発光量も大きくなる。検体表面に細菌や残渣などの汚染物質が残っているとATPが存在するため、測定された発光量(一般には、相対発光単位(Relative Light Unit;RLUにより数値化される)が被処理物表面の清浄度を示す指標となる。ATPふき取り試験は生菌数を同定することはできないが、ATPとの因果関係が深い生物細胞、特に細菌などの微生物細胞やその死骸残渣の被処理物表面における推定存在量を簡易にかつ直接的に測定できる利点がある。
【0017】
本発明においては、キャビテーション処理水の洗浄力を、特定の汚れモデルを用いるのではなく、微生物を含む汚れ層が付着した被処理物を直接試験洗浄することで評価を行なう。微生物を含む汚れ層はすでに説明したごとくバイオフィルムやその乾燥物を含み、キャビテーション処理水と通常水との洗浄力の差が特に反映されやすい。その微生物を含む汚れ層の除去の程度は、同一被処理物の洗浄前後にATPふき取り試験を行なうことで、その測定結果が示す清浄度の変化により評価することが可能となる。よって、ATPふき取り試験による該清浄度の変化を、キャビテーション処理水による試験洗浄と、非キャビテーション処理水による試験洗浄との双方について測定することで、バイオフィルムが介在した形で微生物が付着していると考えられる被洗浄物に対するキャビテーション処理水の洗浄力を、同一の被処理物を用いて的確かつ簡便に評価することが可能となる。
【0018】
また、本発明の被処理物の洗浄方法によると、上記本発明の洗浄力評価方法に基づいて、非キャビテーション処理水を用いて洗浄を行った場合よりも洗浄結果が有利となる臨界洗浄時間を決定し、被処理物をその臨界洗浄時間以上の洗浄時間にてキャビテーション処理水により洗浄するようにしたから、非キャビテーション処理水を用いる場合よりも確実に良好な洗浄結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】キャビテーション処理部が形成された液体処理ノズルを組み込んだ水道水処理装置の一例を示す正面図及び底面図
【
図2】
図1の水道水処理装置の使用形態の一例を示す正面図。
【
図3】
図1の水道水処理装置の平面図及び正面断面図
【
図4】液体処理ノズルの一構成例を示す平面図及び正面断面図
【
図7】
図4の液体処理ノズルのキャビテーション処理部に旋回流が形成される様子を説明する図
【
図10】キャビテーション処理部に生ずる旋回流により微細気泡が発生する様子を説明する図
【
図11】キャビテーション処理部の上流側半区間に連通する気体導入通路からの気体が旋回流により微粉砕される様子を説明する図
【
図12】キャビテーション処理部の下流側半区間に連通する気体導入通路からの気体が旋回流により微粉砕される様子を説明する図
【
図13】出口側テーパ部に連通する気体導入通路からの気体が旋回流により微粉砕される様子を説明する図
【
図14】気体導入通路の先端形状の具体例を示す第一の図
【
図15】気体導入通路の先端形状の具体例を示す第二の図
【
図16A】ケーシング気体流路の気体入口側の構造の詳細を示す断面図
【
図16B】逆流防止用弾性リングの吸気時の作用説明図
【
図16C】逆流防止用弾性リングの液逆流阻止時の作用説明図
【
図17】気体中継空間を廃止した水道水処理装置の構成例を示す断面図
【
図18】気体導入通路の形成形態の第一変形例を示す正面断面図
【
図19】気体導入通路の形成形態の第二変形例を示す正面断面図
【
図20】気体導入通路の形成形態の第三変形例を示す正面断面図
【
図21】気体導入通路の形成形態の第四変形例を示す正面断面図
【
図22】気体導入通路の形成形態の第五変形例を示す正面断面図
【
図23】気体導入通路の形成形態の第六変形例を示す正面断面図
【
図24】複数の気体導入通路を液体流路の上流側と下流側に振り分けて形成する第一例を示す平面模式図
【
図25】複数の気体導入通路を液体流路の上流側と下流側に振り分けて形成する第二例を示す平面模式図
【
図26】複数の気体導入通路を液体流路の上流側と下流側に振り分けて形成する第三例を示す平面模式図
【
図27】複数の気体導入通路を液体流路の上流側と下流側に振り分けて形成する第四例を示す平面模式図
【
図28A】螺旋溝の断面外形形状の第一変形例を示す図
【
図28B】螺旋溝の断面外形形状の第二変形例を示す図
【
図28C】螺旋溝の断面外形形状の第三変形例を示す図
【
図29】
図3の液体処理装置の先端側の構造の詳細を拡大して示す部分断面図。
【
図30】積層メッシュモジュールの第一の構成例を示す側面模式図
【
図31】積層メッシュモジュールの第二の構成例を示す側面模式図
【
図32】積層メッシュモジュールの第三の構成例を示す側面模式図
【
図33】絞り部に螺旋溝を形成しない液体処理ノズルを用いた水道水処理装置の一例を示す平面図及び正面断面図
【
図34】本発明のキャビテーション処理水の洗浄力評価方法に使用する洗浄装置系の一例を示す模式図
【
図39】本発明の方法によりキャビテーション処理水の洗浄力を、キュウリを用いて評価した結果の一例を示すグラフ
【
図40】
図39の結果を用いて臨界洗浄時間を決定する方法の一例を示すグラフ
【
図41】本発明の方法によりキャビテーション処理水の洗浄力を、被験者の手洗いにより評価した結果の例を示すグラフ
【
図43】キュウリの果皮表面の走査電子顕微鏡による拡大画像
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照しつつ詳しく説明する。まず、キャビテーション処理部が形成された液体処理ノズルの具体例について詳細に説明する。
図1はキャビテーション処理部が形成された液体処理ノズルを組み込んだ水道水処理装置(液体処理装置)の一例を示す正面図及び底面図である。水道水処理装置100は、金属又は樹脂にて構成される筒状のケーシング部40と、該ケーシング部40の下端部に着脱可能に装着される筒状の出口キャップ60とを備える。出口キャップ60の端側開口部には水流出口61を覆う水流分散用の積層メッシュモジュール63がはめ込まれている。
図2に示すように、水道水処理装置100は、水流入口を形成するケーシング部40の上端面側にて、キッチンシンク93(あるいは洗面台等)に併設されている水道蛇口ユニット91の末端に取り付けて使用される。水道蛇口ユニット91から供給される空気を溶存した水道水は、水道水処理装置100を通過することによりキャビテーション処理され、溶存空気が析出して生ずる微細気泡を含んだキャビテーション処理水DXWとなって、水流出口61から流出する。
【0021】
図3は、
図1の水道水処理装置100の平面図及び正面断面図である。ケーシング部40は、軸線Oの方向にて両端が開口する筒状部材として構成されており、以下の要素を備える。
・ノズル収容孔44:液体処理ノズル1が同軸的に挿入され該液体処理ノズル1を軸線Oの方向に位置保持しつつ収容する。
・ケーシング側継手部42:軸線Oの方向の一端に形成され液体供給配管の継手部と係合する。
・ケーシング側開口部45:軸線Oの方向の他端側に形成され液体処理ノズル1の液体出口4から流出する処理済み液体を排出する。
・ケーシング気体流路46:ノズル収容孔44を形成する壁部を貫通するとともに一端がノズル本体10の気体入口20Eに連通し、他端が壁部の外面に開口する。
【0022】
ケーシング部40には上端面に開口する継手座ぐり41と、該継手座ぐり41の下流側に連通するノズル収容孔44と、該ノズル収容孔44の下流側に連通するケーシング側開口部45とが、ケーシング部40を貫通する形で同軸的に一体形成されている。継手座ぐり41の内周面には、
図2の水道蛇口ユニット91側に形成されている金具取付用雄ねじ部(図示せず:例えばM22/ピッチ1.25の泡沫金具取付用雄ねじ)と螺合するケーシング側継手部42が形成されるとともに、その底部周縁部には水道蛇口ユニットとの間を水密にシールするためのシールリング43が装着されている。
【0023】
ケーシング部40には、ケーシング側開口部45に続く形でケーシング部40の本体部分の底面から突出する出口スリーブ64を有する。出口スリーブ64は、ケーシング部40の下端側にて段付き面40aにより縮径された筒状をなし、外周面に雄ねじ部60bが形成されている。ケーシング部40に対し出口キャップ60は、内周面に形成された雌ねじ部60bを、出口スリーブ64の外周面に形成された雄ねじ部64bに螺合させる形で取り付けられている。出口スリーブ64の雄ねじ部64bの基端位置には、出口スリーブ64の外周面と出口キャップ60の内周面との間をシールするためのシールリング33がはめ込まれている。
【0024】
また、出口キャップ60の先端側開口周縁部は半径方向内向きに張り出す支持フランジ62を形成しており、積層メッシュモジュール63は外周縁部が出口スリーブ64の下端面と、出口キャップ60の支持フランジ62との間で軸線方向に挟持された形で保持されている。出口スリーブ64の内側空間は液体処理ノズル1の液体出口4よりも径大の水滞留空間64aを形成し、液体出口4から流出する細い水流は該水滞留空間64a内にて軸線Oに関する半径方向外向きに広がりつつ、積層メッシュモジュール63を介して整流され、より太い水流となって流出するようになっている。
【0025】
図29に示すように、積層メッシュモジュール63は、複数のメッシュ部材の積層体からなる。
図30は、
図29の積層メッシュモジュール63を拡大して示すものであり、メッシュ部材63D,63A,63Aの2以上のもの(
図30では、メッシュ部材63A,63Aの2つ)が目開き0.020mm以上0.11mm以下、開口率25.0%以上42%以下に設定されたもの(#150~#635:細目メッシュ部材)で構成されている。ケーシング部40のケーシング側開口部45は、積層メッシュモジュール63により処理済み液体の流出を許容した状態で覆われている。メッシュ部材は金属ワイヤ(例えば、ステンレス鋼線)の編み込み体として構成される。また、細目メッシュ部材は、より望ましくは#200~#500(目開き0.026mm以上0.077mm以下、開口率25.8%以上36.8%以下)であるのがよい。
【0026】
図30において、積層メッシュモジュール63は、目開きの異なる複数種類のメッシュ部材63D,63Aが、液体流入側から液体流出側に向けて目開きが減少するように積層配置されている。このうち、液体流入側にて一層目に位置するメッシュ部材63Dは、線径0.08mm以上、目開き0.13mm以上の補強用メッシュ部材とされている。これにより、積層メッシュモジュール63は気泡粉砕効果を確保しつつモジュール全体の剛性を増すことができ、例えば流出水圧が高まった場合においてもたわみ変形を生じにくくすることができる。本実施形態において、補強用メッシュ部材63Dは、線径0.1mm、目開き0.154mm、開口率36.5%(#100)である。また、2つの細目メッシュ部材63は、線径0.03mm、目開き0.034mm、開口率27.8%(#400)である。
【0027】
なお、
図31に示すように、3種類以上の積層メッシュモジュール63は、目開きの異なるメッシュ部材63D,63C,63B,63Aを、液体流入側から液体流出側に向けて目開きが減少するように積層配置して構成してもよい。また、積層メッシュモジュール63の剛性を十分確保できる場合は、
図32に示すように、全てのメッシュ部材を細目メッシュ部材63Aで形成するようにしてもよい。
【0028】
また、出口キャップ60の内側にて、積層メッシュモジュール63と出口スリーブ64の先端面との間にゴム又は樹脂からなるリング状のメッシュシール部材63Pが配置されている。メッシュシール部材63Pは、本実施形態ではポリ四フッ化エチレン(商標名:テフロン(登録商標))やフッ素系エラストマー等のフッ素樹脂にて構成されている。
【0029】
図29に示すように、メッシュシール部材63Pは板状に形成され、出口キャップ60の内周面には板状のメッシュシール部材63Pの外周縁部を嵌合させるシール嵌合用溝部65が形成されている。
【0030】
次に、ケーシング部40のノズル収容孔44には液体処理ノズル1がはめ込まれている。ノズル収容孔44は円筒面状に形成されるとともに、ケーシング側開口部45の周縁部が半径方向内向きに張り出す支持フランジ44aを形成しており、液体処理ノズル1は下端面の外周縁部が該支持フランジ44aに当て止めされた形で保持されている。
【0031】
液体処理ノズル1は、樹脂製又は金属製のノズル本体10を備える。ノズル本体10には、一方の端面(上端面)に液体入口3を開口し他方の端面(下端面)に液体出口4を開口する貫通形態の液体流路2が形成されている。本実施形態では、ノズル本体10は円柱状であり、液体流路2は該ノズル本体10をその軸線O(中心軸線)の向きに貫通する形で形成されている。
【0032】
図4は液体処理ノズル1を取出して示す平面図及び正面断面図である。液体流路2は、内周面の軸線Oの方向において液体入口3を含む上流側区間と該上流側区間に続く下流側区間とを有し、下流側区間の少なくとも上流端を含む部分、本実施形態では、その中間をなす一部区間が、上流側区間(入り口側テーパ部21)よりも流通断面積が縮小された絞り部とされている。
図4の液体処理ノズル1においては、軸線Oを螺旋中心線とする螺旋溝50が絞り部に刻設され、キャビテーション処理部5を形成している。キャビテーション処理部5にて螺旋溝50が2周回分以上に形成されているのがよく、本実施形態では4周回分形成されている。
【0033】
図5に示す如く、キャビテーション処理部5の内周面において、螺旋溝50の軸線Oの方向に隣接する周回部を区画する領域を溝間領域52として、該溝間領域21の最小内径を溝間領域内径D1としたとき、軸線O方向における螺旋溝50の刻設ピッチPが溝間領域内径D1よりも大きく設定されている。また、螺旋溝50の深さdは、刻設ピッチPよりも小さい値、本実施形態においては、溝間領域内径D1の10%以上40%以下(望ましくは15%以上25%以下)の値に設定されている。
【0034】
また、軸線Oを含む断面において、溝間領域52は、外形線が平坦(円筒面状)に形成され、螺旋溝50は溝間領域52に対し外向きに膨出する形態に形成されている。さらに、溝間領域52は軸線Oの方向における幅W1が螺旋溝50の幅W2よりも大きく設定されている(
図6参照)。螺旋溝50の軸線Oの方向に隣接する周回部が平坦な溝間領域52により区画される結果、螺旋溝50全体の形状は弦巻状となる。
【0035】
軸線Oを含む断面において螺旋溝50は、軸線O方向にて溝底51の位置から隣接する溝間領域52に向け、溝深さが連続的に減ずる外形形状をなすように形成されている。例えば、
図6に拡大して示すように、螺旋溝50の断面形状はV字状であり、螺旋溝50の深さdは螺旋溝50の幅W2の80%以上120%以下の値に定めることができる。
【0036】
また、キャビテーション処理部5の区間長をL、溝間領域内径をD1としたとき、L/D1は例えば1以上10以下(望ましくは1以上7以下)の値に設定されている。さらに、
図8及び
図9に示すように、軸線Oを含む平面上にて、軸線Oを法線とする基準面αと溝底51とのなす角度λ1は、例えば3°以上80°以下であり、望ましくは、45°以上70°以下であるのがよい。
【0037】
次に、キャビテーション処理部5の下流側には、キャビテーション処理部5の出口から液体出口4に向けて内径が漸増する出口側テーパ部22が、螺旋溝50の刻設ピッチPよりも区間長Jが大きくなるように形成されている。出口側テーパ部22に形成されている液体出口4の開口面積は、キャビテーション処理部5の溝間領域52の最小内径位置における軸断面積の1.2倍以上2倍以下(望ましくは、1.3倍以上1.7倍以下:本実施形態では1.5倍)に調整されている。出口側テーパ部22の形成区間長Jは、螺旋溝50の溝間領域内径D1の例えば3倍以上5倍以下であり、軸線Oを含む断面において出口側テーパ部22のテーパ角度θ2は例えば4°以上8°以下である。なお、出口側テーパ部22は省略されていてもよい。
【0038】
一方、液体流路2において、キャビテーション処理部5の上流側には、液体入口3からキャビテーション処理部5の入口に向け、出口側テーパ部22よりも大きな勾配にて内径が漸減する入口側テーパ部21が形成されている。入口側テーパ部21の液体入口3は、出口側テーパ部22の液体出口4よりも径大に形成されている。入口側テーパ部21に形成されている液体入口3の開口面積は、キャビテーション処理部5の溝間領域52の最小内径位置における軸断面積の2.5倍以上8倍以下(望ましくは、3倍以上7倍以下:本実施形態では5倍)に調整されている。入口側テーパ部21の形成区間長Kは、螺旋溝50の溝間領域内径D1の例えば1.5倍以上3倍以下であり、軸線Oを含む断面において入口側テーパ部21のテーパ角度θ1は例えば15°以上40°以下である。
【0039】
以上のようなキャビテーション処理部5を含む液体流路2を有したノズル本体10は、切削加工、射出成型等の既知の加工方法により形成できる。また、ノズル本体10を金属で構成する場合は、ロストワックス法等の鋳造にて形成してもよい。
【0040】
次に、
図4に示すように、ノズル本体10には、一端がノズル本体10の外面に開口し、他端がキャビテーション処理部5の螺旋溝50に連通する気体導入通路20が形成されている。本実施形態において気体導入通路20はノズル本体10の外周面に上記一端をなす気体入口20Eを開口し、他端をなす気体出口20Tを螺旋溝50内に開口する。そして、気体導入通路20は、気体入口20Eから気体出口20Tに至る軸線Qが液体流路2の軸線Oに対し、気体入口20Eが気体出口20Tよりも液体流路2の液体入口3側に位置するように傾斜して設けられている。軸線Qと軸線Oのなす角度λ2は、例えば30°以上70°以下であるのがよく、本実施形態では45°に設定されている。
【0041】
本実施形態において気体導入通路20は、気体出口20Tが気体入口20Eよりも径小に形成されている。具体的には、
図14に示すように、気体導入通路20の気体出口20T(以下、先端という)の開口側端部が気体出口20Tに向けて、テーパ状の縮径部20Bにより連続的に縮径された構造となっている。
【0042】
図4において、気体導入通路20は気体入口20Eが位置する基端側部20Pの内径δ2は、例えば0.8mm以上1.3mm以下(
図4においては1.0mm)である。また、これに続く部分は段付き面を経て内径が縮小された本体部20Aとされている。
図14に示すように、本体部20Aの内径δ1は例えば0.2mm以上0.7mm以下(望ましくは0.3mm以上0.6mm以下:本実施形態では0.5mm)であり、縮径部20Bの形成区間長は本体部20Aの内径の1.5倍以上3倍以下の範囲に調整されている。
【0043】
縮径部20Bの先端面は、該先端面のエッジが螺旋溝50の内周面と干渉しないように径が定められ、該先端面から螺旋溝50内面に至る部分は気体出口20Tに向けて、軸線方向に内径が均一なピンホール部20Sが形成され、該ピンホール部20Sの先端に気体出口20Tが形成されている。ピンホール部20S(気体出口20T)の内径TDは0.05mm以上0.2mm以下(望ましくは0.08mm以上0.15mm以下:本実施形態では0.1mm)であって本体部20Aの内径δ1より小さく設定されている。なお、
図15に示すように、気体導入通路20の縮径部20B’を、内径が段階的に縮小する段付き面状に形成することもできる。
【0044】
図4に戻り、気体導入通路20は、軸線Oの方向にて互いに異なる位置に複数個所に設けられている。具体的には、気体導入通路20は、キャビテーション処理部5に対し軸線O方向における上流側の半区間に連通開口するもの(区別のために符号「20」に(U)を付与している)と、軸線O方向における下流側の半区間に連通開口するもの(区別のために符号「20」に(D)を付与している)とが設けられている。いずれの気体導入通路20(U,D)も螺旋溝50の底部に気体出口20Tを連通開口している。
【0045】
図3に示すように、ケーシング部40には、気体導入通路20(U,D)の気体入口20Eと連通する気体出口46Tが一端側に開口し、ケーシング部40の外周面に開口する気体入口46Eが他端側に開口するケーシング気体流路46が、ノズル収容孔44を形成する壁部を貫通する形で形成されている。また、ノズル本体10の外周面とノズル収容孔44の内周面との間には、気体導入通路20の気体入口20E側とケーシング気体流路46の気体出口46T側がそれぞれ連通する気体中継空間7が形成されている。
【0046】
図3の構成においては、ノズル本体10の外周面の軸線Oの方向の中間位置にて周方向に形成された環状の空間形成凹部26の底面と、ノズル収容孔44の内周面とが形成する隙間が気体中継空間7を形成している。また、軸線Oの方向にてノズル本体10の両端部には周方向の溝部31,32が形成されており、各溝部31,32にはめ込まれたシールリング24,25によりノズル本体10の外周面とノズル収容孔44の内周面との隙間(ひいては気体中継空間7)は、軸線Oの方向における両側が液密に封止されている。ノズル本体10の両端部はノズル収容孔44の内周面に対し隙間嵌めとなっており、空間形成凹部26の深さ(軸線Oの方向における気体中継空間7の半径方向幅)は、該隙間嵌めのクリアランスよりも大きく設定されている。
【0047】
次に、ケーシング部40の外周面には周方向に沿う環状の溝部47が形成され、ケーシング気体流路46の気体入口46Eが該溝部47の底面に開口している。また、溝部47内には、気体入口46Eからケーシング気体流路46内への気体の流入は許容し、ケーシング気体流路46内の逆流液体が気体入口46Eから流出することを阻止する逆流防止用弾性リング70がはめ込まれている。
【0048】
図16A左に示すように、逆流防止用弾性リング70はゴム製であり、円形の断面形状を有する。溝部47の断面は方形であり、ケーシング部40の軸線方向(図面上下方向)にて、逆流防止用弾性リング70は溝部47の両内側面に対し外周縁両側が隙間嵌めとなるようにはめ込まれている。
図16A右に示すように、逆流防止用弾性リング70の内周縁部は溝部47の底面にてその幅方向中央位置に帯状のシール面70Cを形成しつつ、気体入口46Eを横切る形でこれを半封止している。
図16A左に示すように、逆流防止用弾性リング70の内周面と気体入口46Eとの間には気体誘導空隙47Aが形成されている。
【0049】
以下、液体処理ノズル1並びにこれを用いた水道水処理装置100の動作について説明する。
図2に示すように、水道水処理装置100を水道蛇口ユニット91に取り付け、通水バルブ91Bを開くと、気体として空気を溶存した水道水が水道水処理装置100に流れ込み、キャビテーション処理水DXWとして流出する。水道水は、
図3において、ケーシング部40内の液体処理ノズル1に対し、液体入口3から液体流路2に流れ込み、キャビテーション処理部5(絞り部)を通過することによりキャビテーション処理され、微細気泡を含んだキャビテーション処理水となり、液体出口4から水滞留空間64aに流れ込むとともに、さらに積層メッシュモジュール63を通過して流出する。また、絞り部をなすキャビテーション処理部5に生ずる負圧により、気体導入通路20(U,D)には負圧吸引力が発生し、気体入口20Eから気体(本実施形態の場合、外気をなす空気)を自吸することができる。その結果、吸引された気体はキャビテーション処理部5内で気液混合され、液体への気体の溶解や微細気泡への粉砕がなされる。
【0050】
積層メッシュモジュール63は、これに含まれる2以上のメッシュ部材63A,63Aが、目開き0.020mm以上0.11mm以下、開口率25.0%以上42%以下の細目メッシュ部材とされていることで、自吸圧に基づく気液混合により形成される比較的粗大な気泡を、気泡径が100μm未満のファインバブルあるいは1μm未満のウルトラファインバブルと称される微細気泡領域にまで効率的に粉砕することができる。積層メッシュモジュール63は水流が通過する際に、メッシュ空隙をなす線材により水流がせん断されることでキャビテーションによる新たな微細気泡の析出と乱流とを生じ、微細気泡の生成効率を向上させる効果も有する。細目メッシュ部材63Aが2層以上積層されている場合、隣接するメッシュ間では1のメッシュ部材の線材が他のメッシュ部材のメッシュ空隙を横切るように流れが生じる結果、積層メッシュモジュール63内でのキャビテーション発生効率を著しく高めることができる。
【0051】
積層メッシュモジュール63に含まれる細目メッシュ部材63Aの目開きが0.11mmを超えるか、開口率が42%を超える場合、あるいは、積層メッシュモジュール63に含まれる細目メッシュ部材63Aの数が1層以下の場合は、積層メッシュモジュール63内でもたらされるキャビテーション効果が期待できず、微細気泡の発生効率向上に十分貢献できなくなる。他方、細目メッシュ部材63Aの目開きが0.020mm未満になるか、開口率が25.0%未満になると、積層メッシュモジュール63を通過する際の液体の流通抵抗が過剰となる結果、液体処理ノズル側へ作用する背圧により、キャビテーション処理部5(絞り部)へ気体を自吸することが困難となる。
【0052】
積層メッシュモジュール63は複数のメッシュ部材63D,63A,63Aが積層されたものであり、出口スリーブ64と出口キャップ60の支持フランジ62との間で挟持されたとき、その外周縁部、特に、出口スリーブ64と1層目のメッシュ部材63Dとの間で気密性が損なわれやすい傾向にある。液体処理ノズル1からの水流は、出口スリーブ64内においても軸線O付近での流速が高く、水滞留空間64a内ではベルヌーイの原理に由来した負圧が作用しやすくなる。その結果、積層メッシュモジュール63と出口スリーブ64との積層境界を流通路として外気が負圧吸引されることがある。このような積層メッシュモジュール63の位置で負圧吸引が生じると、液体処理ノズル1の絞り部において気体導入通路20(U,D)に発生する負圧が減少し、ファインバブルあるいはウルトラファインバブル(微細気泡)の生成に寄与する絞り部での気体吸引量が減少する場合がある。
【0053】
そこで、
図29に示すように、積層メッシュモジュール63と出口スリーブ64の先端面との間にゴム又は樹脂からなるリング状のメッシュシール部材63Pを配置しておけば、積層メッシュモジュール63と出口スリーブ64ないし出口キャップ60との間の気密性、特に、出口スリーブ64と1層目のメッシュ部材63Dとの間での気密性が向上し、当該位置で負圧吸引が生じることを効果的に抑制することができる。この効果は、メッシュシール部材63Pを板状に形成し、出口キャップ60の内周面に形成されたシール嵌合用溝部65にメッシュシール部材63Pの外周縁部を嵌合させる構造とすることでより確実に達成できる。
【0054】
メッシュシール部材63Pの配設により積層メッシュモジュール63位置での負圧吸引が抑制されると、水滞留空間64a内は積層メッシュモジュール63からの背圧をより受けやすくなる。この背圧が大きくなると、積層メッシュモジュール63及びメッシュシール部材63Pの外周縁から、出口スリーブ64と出口キャップ60との螺合部を経由して出口キャップ60の基端位置から液体漏れを生じることがある。
【0055】
この場合、上記のようにメッシュシール部材63Pを撥水性の高いフッ素樹脂で形成しておくと、メッシュシール部材63Pと出口キャップ60との間に液体流が侵入しにくくなり、上記の液体漏れを効果的に抑制できる。該効果は、出口スリーブ64の雄ねじ部64bの基端側外周面と、出口キャップ60の内周面との間にキャップ側シール部材33を設けることでより確実に達成することができる。
【0056】
液体処理ノズル1の液体出口4側の流通負荷が何らかの要因により増大した場合は、キャビテーション処理部5(絞り部)内の液体は、該流通負荷に由来した背圧を受ける。旋回流CFに由来した負圧による気体導入通路20への気体流入圧よりも、この背圧が高くなれば、キャビテーション処理部5(絞り部)側から気体導入通路20へ液体が逆流し、気体入口20E側へ液体が流出することがある。
【0057】
気体導入通路20は、気体入口20Eが気体出口20Tよりも液体流路2の液体入口3側に位置するように傾斜して設けられていることで、キャビテーション処理部5(絞り部)生ずる背圧の影響を受けにくくなり、上記のような気体導入通路20へ液体の逆流を効果的に抑制することがきる。該効果をより顕著なものとするためには、気体入口20Eの軸線Qと、液体流路2の軸線Oのなす角度λ2は70°以下、望ましくは60°以下となっていることが有効である。また、角度λ2が極度に小さくなると、気体導入通路20に生ずる負圧吸引力が不十分となる場合があるので、λ2の下限値は例えば30°以上に定められる。
【0058】
また、
図14のように、縮径部20Bを連続的に縮径されるテーパ状の構造とすることは、
図15のように縮径部20B’を段付き面状に形成する構造と比較して、流路断面積縮小に伴なう自吸気体への圧損低減に有効である。例えば
図14の構成のごとく、縮径部20Bを圧損の小さいテーパ状の構造とすることで、気体入口20E側への液体の逆流をさらに生じにくくすることができる。
【0059】
また、縮径部20Bの形成により気体出口20Tが気体入口20Eよりも径小に形成されていることで、気体出口20Tから流れF中に供給される粗大気泡の気泡径が縮小し、微細気泡への粉砕効率が大幅に高められる。特に、気泡径1μm以上100μm未満のファインバブルや、気泡径1μm未満のウルトラファインバブルへの粉砕効率を高めるためには、
図14及び
図15に示すように、気体出口20Tの内径TDが0.05mm以上0.2mm以下(望ましくは0.08mm以上0.15mm以下:本実施形態では0.1mm)に設定されていることが極めて有効である。また、縮径部20Bの先端側に連通するピンホール部20Sにより気体出口20Tを形成することは、気体出口20Tの内径TDの寸法精度を確保する観点において有効である。
【0060】
図3の水道水処理装置100の構成においては、ケーシング部40のノズル収容孔44を形成する壁部を貫通する形でケーシング気体流路46が形成され、液体の流通に伴い、液体処理ノズル1の複数の気体導入通路20(U,D)に生ずる吸引負圧は、気体中継空間7を介してケーシング気体流路46に伝達されるようになっている。これにより、ケーシング部40に形成するケーシング気体流路46の数を減ずることができ、ケーシング部40の構造の簡略化に貢献する。また、液体逆流に由来した液漏れの懸念箇所も減ずることが可能である。
【0061】
また、ケーシング部40の外周面に環状の溝部47が形成され、該溝部47の底面に開口するケーシング気体流路46の気体入口46Eが、溝部47内にはめ込まれた逆流防止用弾性リング70により半封止されている。ケーシング気体流路46に逆流液体が侵入しても、該逆流防止用弾性リング70により気体入口46Eからの液体の漏れ出しが効果的に抑止される。
【0062】
図16A左に示すように、逆流防止用弾性リング70は円形断面のゴム製(いわゆるオーリング)であり、方形断面の溝部47に対し隙間嵌めとなるようにはめ込まれるとともに、逆流防止用弾性リング70の内周面と気体入口46Eとの間には気体誘導空隙47Aが形成されている。この構成によると、気体入口46Eからケーシング気体流路46へ気体が流入する際の流通抵抗部は、逆流防止用弾性リング70と溝部47の両内側面との間の線状の隙間嵌め空間のみであるから、気体入口46Eが逆流防止用弾性リング70により半封止されているにも関わらず、ケーシング気体流路46へ気体をスムーズに流入させることができる。
【0063】
図16Bは、吸気時における逆流防止用弾性リング70の作用を説明するものである。液体処理ノズルへの液体流通に伴い、ケーシング気体流路46に負圧NPが誘導されると、その吸気流により逆流防止用弾性リング70は気体入口46Eにてケーシング気体流路46の内部へと引っ張られる。これにより、逆流防止用弾性リング70は、気体入口46Eに臨む部分が、溝部47の幅方向に断面径を減少させる形でつぶれ変形するとともに、溝部47の内側面と逆流防止用弾性リング70との間に隙間GPが生じ、その隙間から気体誘導空隙47Aを経てケーシング気体流路46に気体流AFが吸い込み形態で発生する。
【0064】
一方、
図16Cは、液体処理ノズルからケーシング気体流路46側へ液体が逆流してきた場合の逆流防止用弾性リング70の作用を説明するものである。
図16C左に示すように、逆流しようとする液体流WFは、気体流に比べて粘性が高く大きな表面張力を有するため、溝部47と逆流防止用弾性リング70との微小な隙間(あるいは緩い密着面)を透過する際の抵抗が気体流に比べてはるかに大きい。よって、
図16C右に示すように、液体流WFは、隙間GPからの流出が阻害された状態でケーシング気体流路46側からの逆流による正圧PPにより加圧される。この加圧により逆流防止用弾性リング70は、気体入口46Eに臨む部分が、溝部47の幅方向に断面径を増加させようとする向きにつぶれ変形しようとするが、該変形は溝部47の内側面に規制されていることから逆流防止用弾性リング70と溝部47の内側面との接触面積が増大して、液体流WFがより強固に阻止される状態となる。
【0065】
次に、キャビテーション処理部5の作用効果について説明する。
液体流路2に供給される水道水(液体)は入口側テーパ部21で絞られて増速され、
図7に示すように、その流れの一部は中心流MFとなって液体流路2の断面中心付近を流通する一方、残余の流れはキャビテーション処理部5の螺旋溝50に分配されて旋回流CFを形成する。
図8に示すように、螺旋溝50の内周面に衝突した分配流は螺旋溝50にガイドされる形で旋回し、その遠心力によって増速する。
図7に示すように、螺旋溝50の内部空間は、この遠心力の旋回効果に基づき発生する旋回流CFの形成により増速効果が高められる。増速された旋回流CFの領域はベルヌーイの定理により負圧領域となり、キャビテーション効果により空気溶存濃度が過飽和となって、気泡径が1μm未満の微細気泡(いわゆるウルトラファインバブル)が多量に析出生成したキャビテーション処理水が得られる。
【0066】
キャビテーション処理水中の微細気泡は、例えばレーザー散乱式粒度測定装置を用いて検出することができる。また、キャビテーション処理水には、観測可能な気泡となる前に成長を停止した気泡析出核も多量に含まれていると考えられるが、この気泡析出核のサイズは10nm以下であると考えられ、一般的な測定装置による検出が難しいこともある。例えば非特許文献1には、水撃力を用いて気液混合する形で微細気泡を形成した処理水を凍結し、クライオ型超高圧電子顕微鏡を用いて観察することにより、気泡析出核に該当すると思われる寸法の微細気泡が確認されている事例がある。
【0067】
液体処理ノズル1によると、通常のベンチュリ管のように直線的に絞り機構が形成されたノズルと比較して、螺旋溝50に由来した旋回流CFが発生することで、キャビテーション効果ひいては微細気泡の発生効率を大幅に高めることができる。また、ベンチュリ管の絞り部をなす液体流路の内周面近傍は壁面摩擦による流量損失が通常は大きくなる。しかし、
図4の液体処理ノズル1の構成によれば、キャビテーション処理部5の内周面近傍の流速が旋回流CFの形成により高まる結果、上記の水道水処理装置100等の形で液体処理ノズル1を流路に挿入したときの圧損も低く留めることができる。
【0068】
本発明者が有限要素法を用いた流体シミュレーションシステムにより解析したところ、
図7に示すように、螺旋溝50により誘導される旋回流CFの流速は、螺旋溝50の開始端から下流側に向け、螺旋周回数を重ねるほど、すなわち下流側に向かうほど大きくなることがわかった(図中、旋回流CFを示す曲線は線幅が大きいほど大流速であることを示す)。すなわち、螺旋周回数が比較的小さい上流側は、入口側テーパ部21により絞られた直後であり、螺旋溝50に沿う流れ分配量も小さく中心流MFが主体的となるが、螺旋周回数が増す下流側では螺旋溝50に沿う流れ分配量が積分的に累積される結果、旋回流CFが発達して周方向の流速が顕著に増加する。螺旋溝50の形成長は例えば1周回分以上、望ましくは2周回分以上に形成されているのがよい。
【0069】
図8及び
図9に示すように、キャビテーション処理部5の内面に沿って軸線方向に流れる流れFは、螺旋溝50の溝間領域52を乗り越えようとする直進成分LFと、螺旋溝50に沿う旋回流CFの成分とに分解する。旋回流CFの成分は溝間領域52を乗り越えるたびに、つまり螺旋溝50の通過周回数を重ねるごとに増加すると考えられる。このとき、軸線Oを含む平面への軸線Oと溝底51とのなす角度λ1が大きいほど、つまり、螺旋溝50の刻設ピッチPが大きいほど1周回あたりに生ずる旋回流CFの分配比率が大きくなると考えられる。
【0070】
特に、
図8のように、軸線O方向における螺旋溝50の刻設ピッチPが溝間領域内径D1よりも大きく設定されていることで、螺旋溝50の形成周回数が比較的小さくとも旋回流CFを著しく形成でき、キャビテーション効果ひいては微細気泡の発生効果を顕著なものとすることができる。一方、
図9のように、螺旋溝50の刻設ピッチPが溝間領域内径D1よりも小さい場合は、1周回あたりに生ずる旋回流CFの分配比率は小さくなる。しかし、この場合も螺旋溝50の形成周回数をより大きく確保することで、キャビテーション効果を十分に達成できる場合がある。
【0071】
図6において、螺旋溝50の深さdが大きすぎると、溝間領域52を流れが乗り越える際の流体抵抗が過剰となり、キャビテーション処理部5を流れが通過する際の圧損が増加して流速低下を招き、十分なキャビテーション効果が得られなくなる場合がある。螺旋溝50の深さdを螺旋溝の刻設ピッチPよりも小さく設定することは、この観点において有効である。
【0072】
一方、螺旋溝50の深さdが浅すぎる場合は、溝間領域52を流れが乗り越える際の流体抵抗が減少し、螺旋溝50に沿った旋回流CFの誘導効果が不十分となり、キャビテーション効果が不足することにつながる場合がある。螺旋溝50の深さを溝間領域内径D1の10%以上に設定することは、この観点において有効である。
【0073】
また、
図7に示す如く、軸線Oを含む断面において、溝間領域52の外形線を平坦(円筒面状:出口側テーパ部22よりも勾配の小さいテーパ面としてもよい)となし、螺旋溝50を溝間領域52に対し外向きに膨出する形態とすること(すなわち、螺旋溝50の全体を弦巻状に形成すること)により、中心流MFにより旋回流CFが螺旋溝50内に封じ込められる効果が増大する。その結果、旋回流CFがより高速化してキャビテーション効果を高めることに貢献できる。また、溝間領域52を円筒面とすることで、溝間領域52の表面を流れる中心流MFに乱れが少なくなり、旋回流CFを螺旋溝50内により効果的に封じ込めることができる。
【0074】
旋回流CFを螺旋溝50内に封じ込める効果を高める観点においては、
図6に示すように、軸線Oの方向において溝間領域52の幅W1を螺旋溝50の幅W2よりも大きく設定することが望ましい。同様に、螺旋溝50の深さdについては、溝間領域内径D1の10%以上40%以下(望ましくは15%以上25%以下)の値に設定すること、さらには、螺旋溝50の幅W2の80%以上120%以下の値に定めることが有効である。
【0075】
螺旋溝50に沿った旋回流CFの発生をより顕著なものとするためには、軸線O方向にて溝底51位置から隣接する溝間領域52に向け、溝深さが連続的に減ずる外形形状をなすように形成すること、例えば、
図6に拡大して示すように、螺旋溝50の断面形状をV字状となすことが有効である。特に、溝底に向けての溝幅の縮小率の高いV字形状を採用することは、溝底付近にて局所的に流速を増加させ、キャビテーションによる減圧レベルをさらに高める上で有利となる。なお、
図6において螺旋溝50の断面形状は内側面が外向きに多少膨らむV字形状で形成しているが、
図28Bに示すように、U字状の断面とすること、あるいは、
図28Cの左に示すように、膨出のない先鋭なV字形態としてもよい。また、
図28Cの右に示すように、V字状の螺旋溝50を、溝底を平坦化して形成することも可能である。
【0076】
また、キャビテーション処理部5の通過区間長をL、溝間領域内径をD1としたとき、L/D1の値が過度に大きすぎると、キャビテーション処理部5を液体流が通過する際の流通抵抗が大きくなりすぎ、顕著なキャビテーション効果が得られなくなる場合がある。この観点において、L/D1の値は10以下に設定することが有効であるといえる。
【0077】
図10は、螺旋溝50による微細気泡の生成・粉砕効果を取り出した形で示す説明図である(説明の便宜を図るため、気体導入通路20を省略して描いている)。キャビテーション処理部5に供給される流れFは、螺旋溝50の下流側に向かうにつれ旋回流CFの発達が顕著となり、例えばその流速が5m/秒以上に到達するとキャビテーション効果による気泡核BNが生成し始める。気泡核BNの生成量は、旋回流CFの流速が上昇する下流側ほど大きくなると考えられる。また、気泡核BNが特に発生しやすい領域は、流速がより高まりやすい螺旋溝50の溝底51付近である。
【0078】
生成した気泡核BNは、減圧状態が継続すれば液体中の過飽和気体成分を吸収して成長する。しかし、旋回流CFの形成が著しい螺旋溝50の内部では、キャビテーション効果により、新たな気泡核BNが続々と生成し、強い負圧環境のためそれらが急激に気泡へと成長するため、キャビテーション処理部5内の液体は突沸状態に近い乱流撹拌状態となり、成長した気泡もその乱流に巻き込まれ、少なくともその一部はウルトラファインバブル状態にまで微粉砕される。例えば、ねじ部材を用いた液体処理ノズルでは、キャビテーションポイントはねじ部材のねじ谷付近に限定的に形成され、気泡析出に伴う突沸領域も、ねじ部材の直下領域に限定的に形成されるにすぎないから、成長した気泡の再粉砕効果にはやや劣るといえる。これに対し、液体処理ノズル1の構成では、螺旋溝50の形成区間の全体にてキャビテーション効果ひいては気泡析出による乱流撹拌効果が確保される結果、成長した気泡の再粉砕効果にも優れ、例えばウルトラファインバブルの生成個数密度を大幅に高めることができる。
【0079】
また、キャビテーション処理部5の下流側に螺旋溝50の刻設ピッチPよりも区間長が大きくなるように出口側テーパ部22が形成されている場合、キャビテーション処理部5にて発生した旋回流CFは、螺旋溝50が非形成の出口側テーパ部22内にも継続旋回流SFとして持ちきたすことができる。これにより、キャビテーション処理部5内で発生し成長した気泡あるいは気体導入通路20から導入された気泡は、出口側テーパ部22内でも継続旋回流SFにより粉砕することができ、ファインバブルあるいはウルトラファインバブルの生成個数密度を高めることに貢献する。
【0080】
継続旋回流SFは、出口側テーパ部22内での流れ拡大に伴う圧損が少ないほど形成されやすい。この観点において、液体出口4の開口面積が、キャビテーション処理部5の溝間領域52の最小内径位置における軸断面積の1.2倍以上2倍以下(望ましくは、1.3倍以上1.7倍以下:本実施形態では1.5倍)に調整され、出口側テーパ部22の形成区間長は、螺旋溝50の溝間領域内径D1の例えば3倍以上5倍以下であるのが有効である。
【0081】
次に、
図5に示す液体処理ノズル1の構成において、気体導入通路20(U,D)はキャビテーション処理部5を形成する螺旋溝50に気体出口20Tを開口している。すでに説明した通り、螺旋溝50内には強い旋回流CFが発生しており、その旋回流CFに作用する負圧は、螺旋溝50を形成しない通常のベンチュリ間の絞り部よりも高くなっていると考えられる。よって、気体導入通路20(U,D)には、絞り部に螺旋溝50を形成しない液体処理ノズル(
図33:符号1’、後述)と比較して、より高い負圧吸引力が発生し、気体入口20Eからの気体(本実施形態の場合、外気をなす空気)の自吸能力がより向上する。螺旋溝50内に発生する旋回流CFに該気体を巻き込んで粉砕することにより、微細気泡(特に、ウルトラファインバブル)の生成量をさらに高めることができる。
【0082】
図4の液体処理ノズル1の構成においては、気体導入通路20(U)はキャビテーション処理部5(螺旋溝50)に対し軸線O方向における上流側の半区間に連通開口している。
図11に示すように、この位置で吸引された粗大気泡LBは、下流側の螺旋溝50にて強い旋回流CFと気泡析出に伴う撹拌乱流により、長い区間に渡って激しく粉砕される結果、ウルトラファインバブルの生成個数密度の増大に大きく貢献する。
【0083】
なお、螺旋溝50の上流側半区間では旋回流CFは発達途上の段階にあり、流速も比較的小さいから、旋回流CFに随伴して発生する負圧レベルも多少低くなる。その結果、吸引される気体の量はやや少なくなると考えられる。ここで、螺旋溝50の上流側にて流れに対し気体が過剰に混入すると、それよりも下流側にて、螺旋溝50の溝底51の領域は粗大気泡と直接接触する頻度が高くなる。粗大気泡と接している溝底51の領域は、旋回流CFの流速が大きくともキャビテーションによる新たな気泡核生成には貢献しないから、微細気泡の生成効率と乱流撹拌による気泡粉砕効率が損なわれ、ウルトラファインバブルの生成個数密度は却って低下することにつながる。よって、上流側半区間の気体導入通路20(U)から吸引される気体量が過度に増大しないことは、上記のような問題を生じにくくする方向に寄与し、ウルトラファインバブルの生成個数密度の増大を図る上で有利に作用するといえる。
【0084】
一方、
図4の液体処理ノズル1の構成において、気体導入通路20(D)はキャビテーション処理部5(螺旋溝50)に対し軸線O方向における下流側の半区間に連通開口している。
図12に示すように、螺旋溝50の下流側半区間では旋回流CFは十分発達しており、流速も大きいので、旋回流CFに随伴して発生する負圧レベルも高い。よって、気体導入通路20(D)においては、増速された旋回流CFにより吸引される粗大気泡LBの量は多くなるが、該旋回流CFと気泡析出に伴う撹拌乱流による粉砕を受ける区間長は短くなる。よって、該粗大気泡LBはファインバブルFBの生成個数密度の増大を図る上で有利に作用する。
【0085】
ウルトラファインバブルやそれよりもさらに小さい気泡析出核は、水の巨視的な浸透性向上作用があるといわれている。これに対し、1μm以上のファインバブル領域の微細気泡は、気泡表面の帯電による吸着作用や、イオン吸着した気泡の収縮・圧壊に伴う衝撃力による汚れ除去等の効果が顕著であるといわれている。気体導入通路20(U)及び気体導入通路20(D)のいずれを用いても、液体処理ノズル1により空気を吸引しつつ水道水を処理した場合、特に1μm以上20μm以下(特に1μm以上5μm以下)の気泡径領域のファインバブルが多量に生じやすいことが判明している。この領域のファインバブルFBの生成量が増大したキャビテーション処理水は、汚れ除去等の効果が特に顕著となることに加え、該ファインバブルFBによる光散乱により顕著に白濁した状態が長時間続くため、微細気泡が大量に含まれていることが可視的に把握しやすくなる利点も生ずる。
【0086】
気体導入通路20(U)及び気体導入通路20(D)のいずれも、気体導入通路20の気体出口20Tは、旋回流CFの流速が高められる螺旋溝50の底部に連通開口することで、気体の自吸効率が高められている。なお、
図13に示すように、気体導入通路20(D)は出口側テーパ部22に連通するように設けることもできる。出口側テーパ部22を設けた構成であれば、該出口側テーパ部22に生ずる継続旋回流SFにより、気体を自吸することが可能である。
【0087】
以下、液体処理ノズルの種々の変形実施形態について説明する。
図17に示す水道水処理装置100’においては、液体処理ノズル1に空間形成凹部が形成されず、液体処理ノズル1の外周面全体がノズル収容孔44の内周面に対し隙間嵌めとなっている(すなわち、気体中継空間が省略された構成である)。そして、ケーシング部40には、液体処理ノズル1に形成された複数の気体導入通路20にそれぞれ対応する形で、ケーシング気体流路46がそれぞれ個別に形成されている。なお、複数の気体導入通路20は、キャビテーション処理部5の前半区間と後半区間とに振り分けて形成され、前半区間の気体導入通路20(U)を受け持つ溝部47(U)及び逆流防止用弾性リング70(U)の組と、鋼板区間の気体導入通路20(D)を受け持つ溝部47(D)及び逆流防止用弾性リング70(D)の組とが個別に設けられている。
【0088】
また、液体処理ノズル1に形成する気体導入通路20は、
図18に示すようにキャビテーション処理部5の前半区間にのみ設けたり、
図19に示すようにキャビテーション処理部5の後半区間にのみ設けたりするようにしてもよい。また、
図20~
図23に示すように、キャビテーション処理部5に対し軸線方向にて螺旋溝50の互いに異なる位置に、複数の気体導入通路20を振り分けて形成するようにしてもよい。
図20の構成は、2つの気体導入通路20を螺旋溝50に対し、液体入口3側から1周回目の溝底と、2周回目の溝底にそれぞれ連通するように形成した例である。
図21の構成は、
図20の構成に対し、液体入口3側から3周回目の溝底に連通する3つ目の気体導入通路20を追加した例を示す。
図22の構成は、
図21の構成に対し、液体入口3側から4周回目の溝底に連通する4つ目の気体導入通路20を追加した例を示す。また、
図23の構成は、
図18の構成に対し、出口側テーパ部22に連通する気体導入通路20を2つ追加した例を示す。
【0089】
さらに、
図24~
図27に示すように、キャビテーション処理部5の前半区間(上流側)と後半区間(又は出口側テーパ部22:下流側)には、複数の気体導入通路20を種々の個数にて振り分けて形成することができる。
図24は、上流側に1つの気体導入通路20を、下流側に180°ずれた角度位相にて2つの気体導入通路20を、それぞれ形成した例を示す。
図25は、上流側に1つの気体導入通路20を、下流側に互いに120°ずれた角度位相にて3つの気体導入通路20を、それぞれ形成した例を示す。
図26は、上流側に互いに120°ずれた角度位相にて3つの気体導入通路20を、下流側に互いに60°ずれた角度位相にて6つの気体導入通路20を、それぞれ形成した例を示す。
図27は、上流側に180°ずれた角度位相にて2つの気体導入通路20を、下流側に180°ずれた角度位相にて2つの気体導入通路20を、それぞれ形成した例を示す。
【0090】
図28Aは、変形態様による螺旋溝50”を備えたキャビテーションノズル1”を示すものである。該態様にて螺旋溝50”は、軸線Oの向きに隣接する周回部分の幅が拡大されるとともに、該幅方向の対応する縁が連なって細い稜線状の溝間領域52を形成している。図中の太い実線(紙面垂直方向にて手前側に位置する部分)及び太い破線(紙面垂直方向にて向こう側に位置する部分)は溝底(谷底)51を、図中の太い一点鎖線(紙面垂直方向にて手前側に位置する部分)及び細い一点鎖線(紙面垂直方向にて向こう側に位置する部分)は、陵線状の溝間領域52を示している。これに伴い、螺旋溝50の外形形状は三角波状を呈するものとなっている(この場合、溝間領域内径D1は溝間領域52の稜線位置での内径となる)。なお、螺旋溝50の外形形状は正弦波状あるいは互いに反転関係にある半楕円曲線を交互に接続した波型等であってもよい。このような形状の螺旋溝50”は、旋回流の封じ込め効果は多少損なわれるものの、溝間領域52を含めたキャビテーション処理部5の内周面全体の抵抗が低減される。これにより、キャビテーション効果ひいては微細気泡の発生効果を比較的良好に確保することができる。
【0091】
図33は、
図3の水道水処理装置100の液体処理ノズル1を上記の液体処理ノズル1’に置き換えた水処理装置100”を示すものであり、キャビテーション処理部5と絞り部5’の相違点を除き、その余の構成は
図3と全く同じである。よって、
図3と共通する構成要素には同一の符号を付与して詳細な説明は略する。絞り部5’は螺旋溝50を有さず、旋回流の発生は見込めないが、流れが絞られることによる流速増大により負圧発生する点は同様であり、気体導入通路20を経て気体を自吸でき、気液混合ノズルとしての活用が可能である。そして、気体導入通路20が傾斜して設けられていることで、キャビテーション処理部5(絞り部)に生ずる背圧の影響を受けにくくなり、気体導入通路20へ液体の逆流を抑制できる効果が同様に達成できる。
【0092】
以下、キャビテーション処理部を有する上記の液体処理ノズルについて、本発明の洗浄力評価方法を具体的に実施する形態について説明する。
図2に示すように、キッチンシンクの水道蛇口ユニット91に液体処理ノズル1を取り付けて使用する場合、洗浄対象物は例えば食品である。また、洗面台等の水道蛇口ユニットであれば、洗浄対象物は人体の一部、例えば手指、顔面、頭髪、頭皮などとなる。
【0093】
洗浄対象物が、野菜や果物などの農産物の場合、表皮には凹凸が多数形成され、一般細菌などの微生物は凹部の奥に潜む形で付着している。例えば、
図43は非特許文献4が開示するキュウリの表皮表面の走査型電子顕微鏡による拡大画像である。表皮には、肥厚した細胞壁で囲まれた20~30μmの表皮細胞壁に由来した網目状の凹凸が形成され、さらに100μmを超える気孔が多数形成されていることがわかる。例えば一般細菌の1つである芽胞菌の大きさは1~5μm程度であり、画像に表れている凹凸や気孔よりははるかに小さい。特に、これらの凹凸や気孔の奥深くに乾燥したバイオフィルムで保護されつつ潜む細菌のコロニーを洗浄により除去することは、相応に難易度が高いことが推察される。
【0094】
また、汚れた人体の手指などの皮膚の凹凸に入り込んだ細菌の除去についても同様の事情が存在する。例えば、非特許文献3の論文には、水による手洗い前後の残留細菌数をグローブジュース試験により評価した結果が開示されている。これによると、被験者全体の40%において、手洗い前よりも手洗い後の方が残留細菌数が増加する、という一見不可解な結果が示されている。これは、1分前後の手洗いでは皮膚のごく表面にゆるく付着している細菌は洗い流せても、凹部内で乾燥したバイオフィルムに覆われた細菌のコロニーは除去されるには至らないことに起因している。具体的には、手洗い前に実施するグローブジュース試験にて手袋内の水と接触したバイオフィルムが膨潤軟化し、手洗い後の水洗で凹部奥に潜んでいた細菌が軟化したバイオフィルムから漏出してくる結果、見かけ上残留細菌数が増加したように見える測定結果になったのではないか、と考えられるのである。
【0095】
しかしながら、すでに説明したごとく、上記液体処理ノズルにより得られるキャビテーション処理水は、非処理水と比較してバイオフィルムに由来したぬめり汚れに対する洗浄力が極めて高いことが判明している。そこで、
図4に示す外形の液体処理ノズル1の試作品を作成し、
図3の水道水処理装置100に組み込むとともに、これを用いて本発明の方法により洗浄力の評価を行なった。液体処理ノズル1の各部の寸法は以下のように設定している(
図5参照)。
・螺旋溝50の形成区間長L:11mm
・螺旋溝50の深さd:0.5mm
・螺旋溝50の幅W2:0.5mm
・溝間領域内径D1:2mm
・螺旋溝形成周回数:4
・螺旋溝50の刻設ピッチP:2.75mm
・液体入口3の内径D2:4.5mm
・液体出口4の内径D3:2.5mm
・入口側テーパ部21の区間長:5mm
・出口側テーパ部22の区間長:7mm
・メッシュ部材63:目開き番手#400(目開き0.034mm、開口率27.8%)3枚積層
【0096】
気体導入通路20の形成仕様は以下の通りである。
・先端形状:
図14の通り。本体部20Aの内径は0.5mm。縮径部の区間長CLは1.5mm。気体出口20Tを形成するピンホール部20Sの区間長TLは0.15mm、内径TDは0.1mm。
・軸線Qと軸線Oのなす角度λ2:45°(
図5参照)
・気体出口20Tの開口位置:以下の3種類のいずれか、またはそれらの組み合わせとした:
上流側:螺旋溝50の起点から1周回目の溝底位置(
図5:20(U))
下流側:螺旋溝50の終点から1/4周回分戻った溝底位置(
図5:20(U))
出口側テーパ部:軸線Oの向きに液体出口4から2.5mm隔たった出口側テーパ部22の内面位置(
図13:20(D))
※気体導入通路20の気体出口20Tの開口位置は、螺旋溝50の起点から1周回目の溝底位置に1か所とした。
【0097】
被処理物として、露地栽培の市販キュウリ(JA東大阪:フレッシュクラブ東花園直販品)を50本用意した。他方、洗浄水は以下のようにして準備した。まず、
図34に示すように、水槽202に一般水道水を注水した。次に、水中ポンプ200を用意し、排水側にフレキ管201を接続するとともに、フレキ管201の先端に水道水処理装置100を取りつけた。その状態で水中ポンプ200を作動させ、5L/分で水道水処理装置100を通水することによりキャビテーション処理水DXWとなし、超音波洗浄槽205に注水して試験洗浄に供する。一方、水道水処理装置100を通水しない水道水も非キャビテーション処理水として別途超音波洗浄槽205に注水し、試験洗浄に供する。
【0098】
次に供試するキュウリ210は、まず全数の表面について洗浄前の状態でATPふき取り試験を実施する。
図35に示すように、ふき取り試験に使用するふき取るプローブ220は綿棒であり、本実施形態では、試薬とともに試験管に封入された市販品(UltraSnap(ATPふき取り検査用試薬の商品名:米国Hygiena社製))を用いている。測定により得られる後述のRLU値(清浄度)にばらつきが生じないよう、被処理物であるキュウリの被洗浄表面に対し、プローブによる拭き取り面を複数個所に設定してふき取り操作を行なっている。本実施形態では、キュウリの長さ方向の一端から他端に至る経路上で1往復3秒にてプローブ(試薬)をふき取り移動させる操作を、周方向に角度を変えて3か所にて実施している。
【0099】
図36はATPふき取り試験の測定手順を示すものである。ふき取り捜査を行なったプローブ220は、試験管221内の抽出液222に浸漬され、さらに粉末状の発光試薬が添加されて振り混ぜ操作される。発光試薬は、例えば、ホタルルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびマグネシウムイオンを含有する。このとき、測定感度を向上させるために、上記発光試薬にATP再生酵素の一種であるPPDK、ホスホエノールピルビン酸あるいはピロリン酸を添加することができる。また、発光試薬には防腐剤、pH調整剤等が添加されていてもよい。出液57は、純水あるいは適当な緩衝液であればよく、例えば、蒸留水、生理的食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等が使用できる。また、試料中の微生物を測定する場合には、微生物細胞からATPを抽出するための抽出剤を含む溶液であることが好ましい。抽出剤としては、界面活性剤、具体的には塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が使用できる。
【0100】
試験管221内にてプローブ220から抽出液222に移行した微生物(細菌)の細胞やその残渣に含まれるATPは発光試薬と反応して発光を開始するので、プローブ220を試験管221とともに測定機器230に速やかに装着し、測定ボタン232を押して走査する。測定機器230内では、外光が遮断された状態で試験管221からの発光量が図示しない光センサ(フォトトランジスタなど)により所定時間(例えば15秒)計測され、RLU値(清浄度)としてディスプレイ231に表示される。該測定の詳細は特許文献9等により周知であるので、詳細については説明を略する。本実施形態では、測定機器230として市販品(ATP検査測定用ルミノメータSystem Sure Plus:米国Hygiena社製)を使用した。
【0101】
このようにしてキュウリの全数につきATPふき取り試験を実施した後、測定されたRLU値(清浄度)が予め定められた範囲に収まっているものを抽出する。これは、洗浄前の被処理物の清浄度に生じているばらつきが、洗浄後に測定される清浄度の値に及ぼす影響を軽減するためである。本実施形態では、測定機器230が示すRLU値が120以上140以下に収まっているキュウリのみを洗浄試験に供するようにした。
【0102】
まず、キャビテーション処理水による試験洗浄を以下のようにして実施した。
図37に示すように、バスケット240に第一の被処理物となるキュウリ220を2本投入し、バスケット240とともにキュウリ220を超音波洗浄槽205に投入する。次いで、超音波SSWを付加し、予め定められた時間だけ洗浄を行なう。洗浄中は検体が水面下に没した状態を維持しつつ、上下に振幅3cm、周期約1秒にて手動により揺動を付加した。なお、洗浄に際しては揺動のみを行ない、超音波付加は省略することも可能である。また、超音波洗浄槽205に図示しない給水部と排水部を形成し、新しい処理水が給水部から連続的に槽内に流入し、排水部から流出するようにしてもよい。
【0103】
上記の方式の試験洗浄では、洗浄槽に充填された洗浄水に被処理物を浸漬するとともに、他部材による表面への積極的な摩擦を排除した状態にて実施されている。特に被処理物の表面に付着したバイオフィルムを水洗浄により除去する際のメカニズムとして、バイオフィルムの層厚方向への水の浸透と、バイオフィルムと下地との界面への水の浸透との2つについて考慮することが重要である。キャビテーション処理水のバイオフィルムへの浸透力は、いずれの形態の浸透についても非キャビテーション処理水より優れているが、特に界面への水の浸透能力が著しいと考えられている。被処理物の表面を手で強くこすって洗浄した場合は、機械的な摩擦力によりバイオフィルムが強制的にはがし取られる作用が強くなり、キャビテーション処理水特有の界面への水の浸透能力が的確に評価できなくなる場合があるためである。また、被処理物表面に加わる洗浄水の噴射圧力が強すぎる場合も、水の運動エネルギーによりバイオフィルが強制的にはがし取られる作用が強くなる傾向にある。この観点において試験洗浄は、洗浄槽内での被処理物の表面における洗浄水の流速は1m/秒以下となる条件にて実施するのがよい。
【0104】
次に、
図38に示すように、別の水槽に非キャビテーション処理水CWを15L注水してリンス槽241を用意しておく。そして、超音波洗浄後のキュウリ220をバスケット240とともにリンス槽241に投入し、検体が水面下に没した状態を維持しつつ、上下に振幅3cm、周期約1秒にて手動により30回揺動を付加し、リンシングを実行する。これは、バスケット240及びキュウリ220に付着した超音波洗浄槽205内の洗浄水の汚れ物質の影響を軽減するためであるが、該影響が小さいと思われる場合には、リンシング処理を省略することも可能である。
【0105】
洗浄後のキュウリは、水分を拭き取らずに2回目のATPふき取り試験に供される。このATPふき取り試験は、洗浄前に実施したATPふき取り試験とは、被処理物の表面に対するふき取り位置を変更する形で実施するのがよい。これは、1回目のふき取り操作を受けた表面の汚れ残留量が、ふき取り操作を受けていない表面よりも減少していることの影響を軽減するためのである。本実施形態では、洗浄前のふき取り試験時とは周方向に異なる角度位置にて、
図35により説明したふき取り試験を同様に実施している。そして、測定により得られるRLU値(清浄度)は、洗浄前に同じキュウリ(被処理物)について測定されているRLU値(清浄度)と比較される。
【0106】
キャビテーション処理水による試験洗浄と、洗浄前後の清浄度の変化については、試験洗浄の洗浄時間設定値を複数変更しつつ個別に実施できる。この場合、設定洗浄時間を変更しつつ実施する各試験洗浄のサイクル毎に、キュウリ(第一の被処理物)は異なるものを個別に用意して試験に供する。本実施形態では、設定する洗浄時間は4水準(10秒、1分、2分及び4分)とし、それぞれ洗浄前後にATPふき取り試験を実施している。
【0107】
そして、上記一連の試験洗浄およびATPふき取り試験による評価は、キャビテーション処理水に代えて非キャビテーション処理水を用いる形でも全く同様に、第一の被処理物と同種の第二の被処理物、ここではキュウリを用いて実施され、各設定時間の試験洗浄ごとに洗浄前後のATPふき取り試験が実施される。
図39は、その結果の一例を示すグラフである。グラフ横軸は洗浄時間を、縦軸は洗浄後のATPふき取り試験により測定されたRLU値(清浄度)を示している。グラフ中、破線及び三角のマーカは非キャビテーション処理水(グラフ中では「非処理水」と略記)を用いた場合の、実線及び丸のマーカはキャビテーション処理水(グラフ中では「処理水」と略記)を用いた場合の結果を示す。また、試験時間=0分のプロット点は、洗浄前のRLU値(清浄度)を示す。
【0108】
洗浄時間が10秒の場合、非キャビテーション処理水を用いた場合とキャビテーション処理水を用いた場合とで、いずれも洗浄前よりもRLU値(清浄度)が増加していることがわかる。これは、非特許文献3に示された手洗い後の残留生菌数が示す結果と類似の傾向を示すものであり、推定される要因についてもすでに説明したものと同様であるあると考えられる。キャビテーション処理水を用いた被処理物の洗浄は、少なくともこれよりも長く設定されるべきであることは明確である。
【0109】
次に、洗浄時間が1分に設定された場合、非キャビテーション処理水を用いた場合はRLU値(清浄度)が洗浄前よりも依然、高い値を示している。一方、キャビテーション処理水を用いた場合は、RLU値(清浄度)が洗浄前よりも大幅に減少しており、キュウリ表面に付着した微生物(細菌)が効果的に除去されていることがわかる。そして、さらに洗浄時間を延長した場合、キャビテーション処理水を用いた場合は、洗浄後のRLU値は略下がり止まりの傾向を示すのに対し、非キャビテーション処理水を用いた場合のRLU値は、キャビテーション処理水のRLU値の到達レベルに対し、洗浄時間の延長とともに漸近はしているが、洗浄時間を4分まで延長してもキャビテーション処理水と同等レベルには達していないことがわかる。
【0110】
上記の方法では、キャビテーション処理水及び非キャビテーション処理水のそれぞれについて、試験洗浄の実施時間を複数種類設定し、各実施時間に個別に対応する形で被処理物を複数用意して清浄度の変化を実施時間ごとに測定するとともに、その測定結果に基づいてキャビテーション処理水と非キャビテーション処理水との清浄度の変化の差が予め定められた値以上となる臨界洗浄時間を見出す形で洗浄力評価が可能である。
図39の結果では、臨界洗浄時間は例えば1分程度に定めることができる。キャビテーション処理水により被処理物(キュウリ)を洗浄する場合、洗浄時間を該臨界洗浄時間を参照して適切な値(
図39の場合、1分~2分)に設定すれば、非キャビテーション処理水を用いた場合よりも大幅に短い洗浄時間によりながら、必要十分な洗浄レベルを確保できることがわかる。
【0111】
図40は、
図39の縦軸の値を、洗浄後のRLU値に代え、洗浄前後のRLU値の減少量を洗浄前のRLU値で除して得られるRLU値減少率とした場合のグラフである。このグラフにおいて、RLU値減少率が50%となる洗浄時間(以下、「半減洗浄時間」という)は、微生物汚れの付着レベルが、洗浄後において洗浄前の約半分となる時間を意味していると考えられる。本結果によると、非キャビテーション処理水を用いた場合の半減洗浄時間T0(50%)が3分40秒程度であるのに対し、キャビテーション処理水を用いた場合の半減洗浄時間T1(50%)は50秒前後と非キャビテーション処理水の1/4以下にも短縮されていることがわかる。
【0112】
図41は、3人の被験者の手を被処理物として用い、10Lの洗浄槽内にて両手をこすり合わせる形で1分、2分及び4分の各時間だけ手洗いする試験洗浄を実施し、ATPふき取り試験により同様の評価を行なった結果を示すグラフである。摩擦力が加わる洗浄のため、キャビテーション処理水と非キャビテーション処理水との洗浄力の差は、
図39の摩擦を加えないキュウリによる試験洗浄の場合よりもやや小さくなっているものの、1分以上の洗浄時間において明確に評価できていることがわかる。一方、
図42は、ガラス板にインクにより着色したワセリンを直径1.5cmの円形領域に塗布し、
図37と同様の方法により超音波洗浄した場合の結果を、ワセリン塗布領域の除去面積率にて評価した結果を示す。この結果によると、洗浄時間を4分まで延長しても、キャビテーション処理水と非キャビテーション処理水との洗浄力の差は、あまり大きく反映されていないことがわかる。
【0113】
以上、本発明の種々の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した必須の構成要件以外の技術的要素については、適宜取捨選択した形で実施することができる。
【0114】
1 液体処理ノズル
2 液体流路
3 液体入口
4 液体出口
5 キャビテーション処理部
7 気体中継空間
10 ノズル本体
20 気体導入通路
20A 本体部
20B 縮径部
20E 気体入口
20P 基端側部
20S ピンホール部
20T 気体出口
21 入口側テーパ部
22 出口側テーパ部
26 空間形成凹部
31,32 溝部
31,32 シールリング
33 キャップ側シール部材
40 ケーシング部
40a 段付き面
41 継手座ぐり
42 ケーシング側継手部
43 シールリング
44 ノズル収容孔
44a 支持フランジ
45 ケーシング側開口部
46 ケーシング気体流路
46E 気体入口
46T 気体出口
47 溝部
47A 気体誘導空隙
50 螺旋溝
51 溝底
52 溝間領域
60 出口キャップ
60b 雌ねじ部
61 水流出口
62 支持フランジ
63 積層メッシュモジュール
63A~63D メッシュ部材
63Pメッシュシール部材
64 出口スリーブ
64b 雄ねじ部
65 シール嵌合用溝部
70 逆流防止用弾性リング
70C シール面
91 水道蛇口ユニット
92 通水バルブ
100 水道水処理装置
DXW キャビテーション処理水