(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124525
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】紫外線照射装置および紫外線照射方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20220819BHJP
【FI】
A61L2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022217
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】大橋 広行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信二
(72)【発明者】
【氏名】大和田 樹志
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA03
4C058AA05
4C058BB06
4C058CC07
4C058CC08
4C058DD03
4C058KK02
4C058KK14
(57)【要約】
【課題】人が存在する空間において、紫外線による効果的な殺菌防臭を行うことができる紫外線照射装置および紫外線照射方法を提供する。
【解決手段】紫外線照射装置は、波長200nm~240nmの紫外線を放射する光源を有する光源部と、光源から放射される紫外線をセルロース編状体(セルロース体を編んだもの)に向けて照射するべく光源部を支持する支持体と、を備える。また、紫外線照射装置は、気流をセルロース編状体に向けて当てる送風部をさらに備えていてもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から波長200nm~240nmの紫外線を放射させるステップと、
前記光源から放射された前記紫外線をセルロース編状体に照射するステップと、を含むことを特徴とする紫外線照射方法。
【請求項2】
前記紫外線を前記セルロース編状体に照射することで当該セルロース編状体に含有される水分からOHラジカルを生成し、生成された前記OHラジカルを前記セルロース編状体に作用させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の紫外線照射方法。
【請求項3】
前記セルロース編状体への前記紫外線の照射中に、前記セルロース編状体に気流を当てるステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の紫外線照射方法。
【請求項4】
前記気流を当てるステップでは、
前記気流を、前記セルロース編状体の下方から当てることを特徴とする請求項3に記載の紫外線照射方法。
【請求項5】
波長200nm~240nmの紫外線を放射する光源を有する光源部と、
前記光源から放射される前記紫外線をセルロース編状体に向けて照射させるべく前記光源部を支持する支持体と、を備えることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項6】
前記セルロース編状体に気流を当てる送風部をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の紫外線照射装置。
【請求項7】
前記光源部による紫外線の照射と前記送風部による気流の発生とを同期させる制御部をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の紫外線照射装置。
【請求項8】
前記送風部は、前記気流を前記セルロース編状体の下方から当てるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の紫外線照射装置。
【請求項9】
前記光源部は、前記光源を内部に収容し、前記光源から発せられる光の少なくとも一部を出射する光出射窓を有する筐体を備え、
前記光出射窓には、波長230nmよりも長波長側のUV-C波の透過を阻止する光学フィルタが設けられていることを特徴とする請求項5に記載の紫外線照射装置。
【請求項10】
前記光源は、エキシマランプおよびLEDのいずれか一方であることを特徴とする請求項5に記載の紫外線照射装置。
【請求項11】
前記光源は、中心波長222nmの紫外線を放射することを特徴とする請求項5に記載の紫外線照射装置。
【請求項12】
前記光源はLEDであって、
前記LEDは、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LEDおよび酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LEDのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の紫外線照射装置。
【請求項13】
前記光源はLEDであって、
前記光源部は、前記LEDを冷却する冷却部材を有することを特徴とする請求項5に記載の紫外線照射装置。
【請求項14】
前記光源はエキシマランプであって、
前記光源部は、前記エキシマランプを収容し、導電性の金属からなる筐体を有することを特徴とする請求項5に記載の紫外線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射対象物に紫外線を照射する紫外線照射装置および紫外線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗濯物の洗濯時や乾燥時に光を照射する技術がある。
例えば特許文献1には、洗濯機の内部に紫外線光源を配置し、洗濯槽を、240nm~280nmの紫外線で洗浄殺菌する技術が開示されている。
さらに、特許文献2には、洗濯機の内部に紫外線光源を配置し、洗濯後の洗濯物に紫外線を照射して殺菌し、臭いを抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-196620号公報
【特許文献2】特開平10-043481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、殺菌用途においては、波長254nm付近の紫外線が広く利用されている。
しかしながら、波長254nm付近の紫外線は、人体に対して悪影響を及ぼす光である。そのため、上記特許文献1および2においては、人に紫外線が照射されないように、閉塞空間である洗濯機の中で、紫外線を洗濯槽や洗濯物に向けて照射するようにしている。つまり、上記技術は、人が存在する開放空間では使用することができない。
【0005】
そこで、本発明は、人が存在する空間において、紫外線による効果的な殺菌防臭を行うことができる紫外線照射装置および紫外線照射方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る紫外線照射方法の一態様は、光源から波長200nm~240nmの紫外線を放射させるステップと、前記光源から放射された前記紫外線をセルロース編状体に照射するステップと、を含む。
このように、紫外線透過率の高いセルロース体を編んだセルロース編状体に、微生物やウイルスを不活化することができる波長の紫外線を照射するので、セルロース編状体の表面のみならず、セルロース編状体の内部に存在する菌やウイルスを効果的に不活化することができる。また、人や動物の細胞に悪影響の少ない200nm~240nmの波長範囲にある紫外線を照射するので、人が存在する開放空間においても紫外線を照射することができる。
【0007】
また、上記の紫外線照射方法は、前記紫外線を前記セルロース編状体に照射することで当該セルロース編状体に含有される水分からOHラジカルを生成し、生成された前記OHラジカルを前記セルロース編状体に作用させるステップをさらに含んでいてもよい。
この場合、生成されたOHラジカルによっても、菌やウイルスの不活化を行うことができる。つまり、紫外線とOHラジカルとによって効率的に不活化を行うことができる。
【0008】
さらに、上記の紫外線照射方法は、前記セルロース編状体への前記紫外線の照射中に、前記セルロース編状体に気流を当てるステップをさらに含んでいてもよい。
この場合、紫外線による菌やウイルスの不活化を行いつつ、気流による臭い除去を行うことができる。
【0009】
さらに、上記の紫外線照射方法において、前記気流を当てるステップでは、前記気流を、前記セルロース編状体の下方から当ててもよい。
この場合、吊り下げるなどされたセルロース編状体の下方から気流を当て、紫外線照射中にセルロース編状体を積極的に動かすことができる。そのため、紫外線をセルロース編状体に万遍なく照射させることができ、より効果的に不活化を行うことができる。
【0010】
また、本発明に係る紫外線照射装置の一態様は、波長200nm~240nmの紫外線を放射する光源を有する光源部と、前記光源から放射される前記紫外線をセルロース編状体に向けて照射させるべく前記光源部を支持する支持体と、を備える。
このように、紫外線透過率の高いセルロース体を編んだセルロース編状体に、微生物やウイルスを不活化することができる波長の紫外線を照射するので、セルロース編状体の表面のみならず、セルロース編状体の内部に存在する菌やウイルスを効果的に不活化することができる。また、人や動物の細胞に悪影響の少ない200nm~240nmの波長範囲にある紫外線を照射するので、人が存在する開放空間においても紫外線を照射することができる。
【0011】
さらに、上記の紫外線照射装置は、前記セルロース編状体に気流を当てる送風部をさらに備えていてもよい。
この場合、気流によってセルロース編状体の臭いを除去することができる。
【0012】
また、上記の紫外線照射装置は、前記光源部による紫外線の照射と前記送風部による気流の発生とを同期させる制御部をさらに備えていてもよい。
この場合、セルロース編状体への紫外線照射中に、セルロース編状体に気流を当てることができる。したがって、紫外線による菌やウイルスの不活化を行いつつ、気流による臭い除去を行うことができる。
【0013】
さらにまた、上記の紫外線照射装置において、前記送風部は、前記気流を前記セルロース編状体の下方から当てるように構成されていてもよい。
この場合、吊り下げるなどされたセルロース編状体の下方から気流を当て、紫外線照射中にセルロース編状体を積極的に動かすことができる。そのため、紫外線をセルロース編状体に万遍なく照射させることができ、より効果的に不活化を行うことができる。
【0014】
また、上記の紫外線照射装置において、前記光源部は、前記光源を内部に収容し、前記光源から発せられる光の少なくとも一部を出射する光出射窓を有する筐体を備え、前記光出射窓には、波長230nmよりも長波長側のUV-C波の透過を阻止する光学フィルタが設けられていてもよい。
この場合、人体や動物への悪影響の少ない波長域の光のみを照射することができる。
【0015】
さらに、上記の紫外線照射装置において、前記光源は、エキシマランプおよびLEDのいずれか一方であってもよい。
エキシマランプおよびLEDは、従来の紫外線光源として利用されてきた低圧水銀ランプと比較して、振動や気圧変化、温度変化の影響を受けにくい。すなわち、振動や気圧変化、温度変化を受けても、放出される光の照度が不安定になりにくい。そのため、エキシマランプやLEDを光源として用いることで、紫外線照射装置が振動や気圧変化、温度変化を受ける環境で使用される場合であっても、安定して光を放出することができ、殺菌、不活化を適切に行うことができる。
【0016】
また、上記の紫外線照射装置において、前記光源は、中心波長222nmの紫外線を放射してもよい。
この場合、紫外線照射による人体への悪影響を適切に抑制しつつ、微生物やウイルスを効果的に不活化することができる。
【0017】
さらにまた、上記の紫外線照射装置において、前記光源はLEDであって、前記LEDは、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LEDおよび酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LEDのいずれかであってもよい。
この場合、振動や気圧変化、温度変化の影響を受けにくいLEDを用いて、例えば人体に悪影響の少ない200nm~240nmの波長範囲にある紫外線を放射し、適切に微生物やウイルスを不活化することができる。
【0018】
また、上記の紫外線照射装置において、前記光源はLEDであって、前記光源部は、前記LEDを冷却する冷却部材を有していてもよい。
この場合、LEDの熱上昇を適切に抑制することができ、LEDから安定した光を放出させることができる。
【0019】
さらに、上記の紫外線照射装置において、前記光源はエキシマランプであって、前記光源部は、前記エキシマランプを収容し、導電性の金属からなる筐体を有していてもよい。
この場合、エキシマランプから発生する高周波ノイズが筐体外部へ発信されることを抑制することができる。これにより、筐体外部に設けられた制御システムへの制御指令がエキシマランプからの高周波ノイズの影響を受けることを抑制することができ、当該制御指令の不具合を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、人が存在する空間において、紫外線による効果的な殺菌防臭を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】たんぱく質の紫外線吸光スペクトルを示す図である。
【
図2】本実施形態における紫外線照射装置の適用場面の一例を示す図である。
【
図4】微生物やウイルスの不活化に必要なエネルギー量を示す図である。
【
図5】紫外線照射ユニットの構成例を示す模式図である。
【
図6】エキシマランプの構成例を示す模式図である。
【
図7】エキシマランプの別の例を示す模式図である。
【
図8】エキシマランプの別の例を示す模式図である。
【
図9】紫外線照射ユニットの別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、人が存在する空間内において対象物に対して紫外線照射を行い、当該対象物に付着した微生物やウイルスの不活化と当該対象物の防臭とを行う紫外線照射装置について説明する。
なお、本実施形態における「不活化」とは、微生物やウイルスを死滅させる(又は感染力や毒性を失わせる)ことを指すものである。また、「人が存在する空間」は、実際に人が居る空間に限定されず、人が出入りする空間であって人が居ない空間を含む。
【0023】
ここで、上記空間は、例えば、医療施設、住宅、オフィス、商業施設、駅施設、学校、役所、劇場、ホテル、飲食店等の施設内の空間や、自動車、電車、バス、タクシー、飛行機、船等の乗物内の空間を含む。なお、上記空間は、病室、会議室、トイレ、エレベータ内などの閉鎖された空間であってもよいし、閉鎖されていない開放空間であってもよい。
【0024】
本実施形態における紫外線照射装置は、人や動物の細胞への悪影響が少ない波長200~240nmの紫外線を、照射対象物に対して照射して、照射対象物の表面等に存在する有害な微生物やウイルスを不活化する不活化装置である。
ここで、上記照射対象物は、タオルや衣類等の布、より具体的には、セルロース体を編んだセルロース編状体である。
【0025】
実用上、除染(殺菌)用途に使用される紫外線の波長域は、200nm~320nmとされており、特に、微生物やウイルスが保有する核酸(DNA、RNA)の吸収が大きい260nm付近の紫外線を用いることが一般的となっている。しかしながら、このような260nm付近の波長域の紫外線は、人や動物に悪影響を及ぼす。例えば、紅斑や皮膚のDNA損傷による癌の誘発や、目の障害(眼痛・充血・角膜の炎症など)を引き起こす。
【0026】
そのため、上記のように260nm付近の紫外線を用いて除染(殺菌)する従来の紫外線照射システムでは、人や動物の安全性を考慮し、人や動物が存在しないときに紫外線の照射を行い、照射領域に人が存在する場合は紫外線の放出を停止するように構成している。
ところが、例えば、室内に干してある布(例えば洗濯物など)に対して紫外線を照射して、当該布に存在する菌やウイルスを不活化するなど、人が存在する空間において紫外線照射を行いたいという要望がある。
【0027】
図1は、たんぱく質の紫外線吸光スペクトルを示す図である。
この
図1に示すように、たんぱく質は、波長200nmに吸光ピークを有し、波長240nm以上では紫外線が吸収されにくいことがわかる。つまり、波長240nm以上の紫外線は、人の皮膚を透過しやすく、皮膚内部まで浸透する。そのため、人の皮膚内部の細胞がダメージを受けやすい。これに対して、波長200nm付近の紫外線は、人の皮膚表面(例えば角質層)で吸収され、皮膚内部まで浸透しない。そのため、皮膚に対して安全である。
一方で、波長200nm未満の紫外線は、オゾン(O
3)を発生し得る。これは、波長200nm未満の紫外線が酸素を含む雰囲気中に照射されると、酸素分子が光分解されて酸素原子を生成し、酸素分子と酸素原子との結合反応によってオゾンが生成されるためである。
【0028】
したがって、波長200~240nmの波長範囲は、人や動物に安全な波長範囲であるといえる。なお、人や動物に安全な波長範囲は、好ましくは波長200~237nm、より好ましくは波長200~235nm、さらに好ましくは200~230nmである。
【0029】
本実施形態における紫外線照射装置は、人や動物に安全な波長範囲である波長200~240nmの紫外線を用い、従来のように、紫外線が人に照射されないように構成するのではなく、人が存在する空間において紫外線を照射するものである。
なお、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)によれば、人体への1日(8時間)あたりの紫外線照射量には波長ごとに許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。
したがって、上述した人に安全とされる波長域の紫外線であっても、1日の紫外線照射量(積算光量)が上記の許容限界値以下となるように紫外線の照度および照射時間を設定することが好ましい。
【0030】
図2は、本実施形態における紫外線照射装置100の適用場面として、洗濯物の部屋干しの例を示す図である。
紫外線照射装置100は、開放空間である室内に設置されており、当該室内に干された洗濯物200に対して紫外線(UV)を照射する。
ここで、紫外線照射装置100は、上記紫外線として、微生物および/またはウイルスを不活化する波長範囲の紫外線であって、人や動物に対して悪影響の少ない200nm~240nmの波長範囲にある紫外線を放射する。紫外線照射装置100は、例えば中心波長222nmの紫外線を放射する。
上記波長範囲の紫外線は、人や動物に対して悪影響の少ない光であるため、人が存在する空間内で放射することができる。
【0031】
洗濯物200は、例えば洗濯後の水分が含まれる衣類やタオル等である。上述したように、洗濯物200はセルロース編状体である。洗濯物200は、例えば
図2に示すように、ハンガーを用いて物干し竿210に干されている。
紫外線照射装置100は、例えば床面上に配置され、洗濯物200の下方から波長222nmの紫外線を照射する。
【0032】
紫外線照射装置100から放射される波長222nmの紫外線は、菌やウイルスを不活化させる光である。この波長222nmの紫外線を洗濯物200に照射することで、洗濯物200に付着した菌やウイルスを不活化させることができる。
ここで、洗濯物200を構成するセルロース体は、紫外線の透過性が高い物質である。また、セルロース編状体は、セルロース体(セルロース繊維)を編んだものであり、繊維同士の間に隙間(空隙)を有する。そのため、セルロース編状体に紫外線が照射された場合、紫外線が上記隙間を乱反射しながら抜ける。
【0033】
つまり、セルロース編状体を紫外線の照射対象とした場合、セルロース体における紫外線の透過率の高さに加えて、紫外線が繊維間の隙間で乱反射して照射対象の中に入っていくという効果により、他の布状材料を紫外線の照射対象とした場合と比較して、照射対象の内部にまで紫外線を照射することができる。例えば、波長222nmの紫外線をセルロース編状体に照射した場合、当該紫外線が6割程度透過するというデータも得られている。
したがって、セルロース編状体からなる洗濯物200に紫外線を照射することで、洗濯物200の表面のみならず、内部に潜む菌やウイルスについても適切に不活化することができる。
【0034】
また、波長222nmの紫外線を水に照射した場合、OHラジカル(ヒドロキシルラジカル)が生成される。洗濯後の洗濯物200には水分が含有されているため、波長222nmの紫外線を洗濯後の洗濯物200に照射することで、洗濯物200に含有される水分からOHラジカルを生成することができる。
このOHラジカルは、酸化力が強く、菌やウイルスの不活化に大きく寄与する。つまり、波長222nmの紫外線とOHラジカルとを併用した不活化が可能となり、より効率的に菌やウイルスの不活化を行うことができる。
【0035】
また、紫外線照射装置100は、洗濯物200に対して気流(A)を当てることができる。紫外線照射装置100は、例えば
図2に示すように、洗濯物200の下方から気流を当てる。これにより、洗濯物200の乾燥効果を促進することができるとともに、洗濯物200に付着した臭いを低減することができる。
気流の発生タイミングは特に限定されないが、例えば紫外線の照射と同期することができる。この場合、洗濯物200への紫外線の照射中に洗濯物200へ気流を当てることができ、紫外線による不活化を行いつつ、乾燥効果の促進と臭いの低減とを行うことができる。
【0036】
また、洗濯物200に対して気流を当てることで、洗濯物200を積極的に動かすことができる。したがって、洗濯物200へ気流を当てながら紫外線を照射することで、紫外線の照射方向が固定されている場合であっても、紫外線を洗濯物200に様々な方向から照射することができる。
なお、通常、洗濯物200は、
図2に示すようにハンガーを用いて物干し竿210に干すなど、吊り下げる形で干される。つまり、洗濯物200の下端は自由端であることが多い。また、洗濯物200が衣類やタオルの場合、下端は裾や袖口、ヘムなどの開放端である。そのため、洗濯物200の下方から気流を当てることで、洗濯物200を効率良く動かすことができ、洗濯物200に万遍なく紫外線を当てることができる。
【0037】
ここで、洗濯物200に当てる気流の強さは特に限定されない。上述したように、洗濯物200に紫外線が照射されることでOHラジカルが生成されるが、このOHラジカルは、洗濯物200のセルロース内部に含まれる水分から生成されるため、洗濯物200表面に強風が吹きつけられたとしてもOHラジカルの生成に支障はない。
【0038】
図3は、紫外線照射装置100の具体的構成例を示す図である。
紫外線照射装置100は、光源部110と、送風部130と、光源部110および送風部130を支持する支持体150と、を備える。
光源部110は、筐体111を備える。筐体111の内部には、紫外線光源として、例えば中心波長222nmの紫外線を放射するKrClエキシマランプが収容されている。また、筐体111には、紫外線を放射する光出射窓112が形成されている。光出射窓112には、例えば石英ガラスからなる窓部材が設けられている。また、この光出射窓112には、不要な光を遮断する光学フィルタ等を設けることもできる。
【0039】
ここで、上記光学フィルタとしては、例えば波長域200nm~230nmの光を透過し、それ以外のUV-C波長域の光(231nm~280nmの光)をカットする波長選択フィルタを用いることができる。
波長選択フィルタとしては、例えば、HfO2層およびSiO2層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることができる。
なお、波長選択フィルタとしては、SiO2層およびAl2O3層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることもできる。
このように、光出射窓112に光学フィルタを設けることで、エキシマランプから人に有害な光が僅かに放射されている場合であっても、当該光が筐体111の外に漏洩することをより確実に抑えることができる。
【0040】
送風部130は、例えば、所定の方向に気流を発生させる送風ファンとすることができる。送風部130は、例えば光源部110を挟んで水平方向両側に配置され、光源部110からの紫外線の放射方向に気流を発生させる。
支持体150は、光源部110から放射される紫外線をセルロース編状体からなる洗濯物200に向けて照射させるべく光源部110を支持するとともに、送風部130により発生される気流をセルロース編状体からなる洗濯物200に当てるべく送風部130を支持する。つまり、支持体150によって光源部110と送風部130とが位置決めされることで、光源部110から放射される紫外線の放射方向と、送風部130からの気流の発生方向とが固定される。
【0041】
光源部110による紫外線の放射および送風部130による気流の発生は、紫外線照射装置100が備える不図示の制御部により制御することができる。制御部は、光源部110と送風部130とを同期して作動させることができる。この場合、光源部110による紫外線の照射中に、送風部130による気流を洗濯物200に当てることができる。
なお、
図3では、光源部110と送風部130とが一体である紫外線照射装置100について示しているが、光源部110と送風部130とはそれぞれ別体であってもよい。
【0042】
布が放つ異臭の原因の1つは、布に残存する菌の増殖や代謝である。例えば、洗濯物を部屋干ししたときの部屋干し臭(生乾き臭)は、モラクセラ菌などの残存菌が代謝することにより発生する。また、濡れた雑巾の異臭は、雑巾が水に濡れることで残存菌が増殖することにより発生する。また、衣類についても同様に、汗をかくなどすると残存菌が増殖し、異臭を放つことがある。
【0043】
本実施形態における紫外線照射装置100は、洗濯物200などの布に対して波長222nmの紫外線を照射する。波長222nmの紫外線は、菌やウイルス自体を不活化するため、上記のような菌の増殖や代謝が起こることを防止し、異臭の発生を防止することができる。つまり、洗濯物200を部屋干ししても、部屋干し臭(生乾き臭)がしないようにすることができる。
このように、本実施形態における紫外線照射装置100は、布に存在する菌を不活化することで、布の防臭を行うことができる。なお、本実施形態における紫外線照射装置100は、消臭(におい物質の分解)を行うものではない。
【0044】
また、紫外線の照射対象となる洗濯物200として、紫外線透過率の高いセルロース体を編んだセルロース編状体を採用し、上記紫外線を照射するので、洗濯物200の表面のみならず、洗濯物200の内部に存在する菌やウイルスを適切に不活化することができる。
また、本実施形態における紫外線照射装置100は、人や動物に悪影響の少ない200nm~240nmの波長範囲の紫外線を放射するので、人が存在する開放空間においても洗濯物200に対する紫外線照射を行うことができる。
【0045】
さらに、洗濯後の水分を含む洗濯物200に紫外線を照射することで、洗濯物200に含有される水分からOHラジカルを生成し、当該洗濯物200に作用させることができる。つまり、生成されたOHラジカルによっても、洗濯物200に存在する菌やウイルスの不活化を行うことができ、紫外線とOHラジカルとによって効率的に不活化を行うことができる。
【0046】
また、本実施形態における紫外線照射装置100は、洗濯物200に気流を当てる送風部130を備えることができる。ここで、光源部110による紫外線の照射と送風部130による気流の発生とは同期させることができる。これにより、洗濯物200への紫外線照射中に洗濯物200に気流を当てることができ、洗濯物200を動かしながら紫外線を万遍なく照射することができる。つまり、紫外線が照射されない陰となる部分を少なくし、効果的に不活化を行うことができる。
また、送風部130により発生した気流を洗濯物200の下方(鉛直方向下方向)から当てるようにすれば、気流を洗濯物200の上方や側方から当てるよりも効率的に洗濯物200を動かすことができ、紫外線をより適切に照射することができる。
【0047】
なお、波長222nmの紫外線は、直接菌やウイルスに作用するので、洗濯物200が乾燥に近づいても、あるいは乾燥した後でも、
図4に示すように、芽胞菌のような耐性菌ですら殺菌することができる。ここで、
図4は、中心波長が222nmの紫外線を用いた場合の、微生物やウイルスの不活化(不活化率が99.9%)に必要なエネルギー量を測定した結果である。
つまり、上記実施形態では、洗濯後の水分を含む洗濯物200の部屋干し時に紫外線を照射する場合について説明したが、乾燥した衣類やタオルに波長222nmの紫外線を照射して、殺菌不活化するようにしてもよい。衣類やタオルに対しては、乾燥した状態である使用直前や保管直前に波長222nmの紫外線を照射して殺菌を行うことにより、衣類の着用時や、タオルの使用時に異臭のない状態とすることができる。
【0048】
図5は、上述した光源部110の構成例を示す模式図である。
この
図5では、主として紫外線照射に関する部分である紫外線照射ユニット10を示している。
紫外線照射ユニット10は、導電性の金属からなる筐体11と、筐体11内部に収容された紫外線光源12と、を備える。
紫外線光源12は、例えば、中心波長222nmの紫外線を放出するKrClエキシマランプとすることができる。なお、紫外線光源12は、KrClエキシマランプに限定されるものではなく、200nm~240nmの波長範囲にある紫外線を放射する光源であればよい。
【0049】
また、紫外線照射ユニット10は、エキシマランプ12に給電する給電部16と、エキシマランプ12の照射および非照射や、エキシマランプ12から放出される紫外線の光量等を制御する光源制御部17と、を備える。
エキシマランプ12は、筐体11内において、支持部18によって支持されている。
筐体11には、
図3の光出射窓112となる開口部11aが形成されている。この開口部11aには窓部材11bが設けられている。窓部材11bは、例えば石英ガラスからなる紫外線透過部材や、不要な光を遮断する光学フィルタ等を含むことができる。
なお、筐体11内には、複数本のエキシマランプ12を配置することもできる。エキシマランプ12の数は特に限定されない。
【0050】
上記光学フィルタとしては、例えば、波長域200nm~230nmの光を透過し、それ以外のUV-C波長域の光(231nm~280nmの光)をカットする波長選択フィルタを用いることができる。
ここで、波長選択フィルタとしては、例えば、HfO2層およびSiO2層による誘電体多層膜フィルタを用いることができる。
なお、波長選択フィルタとしては、SiO2層およびAl2O3層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることもできる。
このように、光出射窓に光学フィルタを設けることで、エキシマランプ12から人に有害な光が放射されている場合であっても、当該光が筐体11の外に漏洩することをより確実に抑えることができる。
【0051】
以下、紫外線照射ユニット10における紫外線光源として使用されるエキシマランプ12の構成例について具体的に説明する。
図6(a)は、エキシマランプ12の管軸方向における断面の模式図であり、
図6(b)は、
図6(a)のA-A断面図である。
この
図6(a)および
図6(b)に示すように、エキシマランプ12は、両端が気密に封止された長尺な直円管状の放電容器13を備える。放電容器13は、例えば、合成石英ガラスや溶融石英ガラスなどの紫外線を透過する光透過性を有する誘電体材料より構成されている。放電容器13の内部には放電空間が形成されており、この放電空間には、紫外線を発生するバリア放電用ガス(以下、「放電ガス」ともいう。)として希ガスとハロゲンガスとが封入されている。本実施形態では、希ガスとしてクリプトン(Kr)、ハロゲンガスとして塩素ガス(Cl
2)を用いる。
なお、放電ガスとしては、クリプトン(Kr)と臭素(Br
2)との混合ガスを用いることもできる。この場合、エキシマランプ(KrBrエキシマランプ)は、中心波長207nmの紫外線を放出する。
【0052】
また、放電容器13内部の放電空間には、第一電極(内部電極)14が配設されている。内部電極14は、例えばタングステンなどの電気導電性および耐熱性を有する金属よりなる金属素線が、放電容器13の内径よりも小さなコイル径によってコイル状に巻回されて形成されてなるコイル状の電極である。この内部電極14は、放電容器13の中心軸(管軸)に沿って伸び、放電容器13の内周面に接触することのないように配設されている。
また、内部電極14の両端の各々には、内部電極用リード部材14aの一端が電気的に接続されている。内部電極用リード部材14aの他端側部分は、各々、放電容器13の外端面から外方に突出している。
【0053】
放電容器13の外周面には、第二電極(外部電極)15が設けられている。外部電極15は、例えばタングステンなどの電気導電性および耐熱性を有する金属よりなる金属素線から構成される網状の電極である。この外部電極15は、放電容器13の外周面に沿って放電容器13の中心軸方向に伸びるように設けられている。
図6(a)および
図6(b)に示すエキシマランプ12においては、網状電極である外部電極15は、筒状の外形を有しており、放電容器13の外周面に密接した状態で設けられている。
このような構成により、放電空間内において、内部電極14と外部電極15とが放電容器13の管壁(誘電体材料壁)を介して対向する領域に、放電領域が形成される。
【0054】
さらに、外部電極15の一端および一方の内部電極用リード部材14aの他端には、各々、給電線16bを介して給電部16(
図5参照)が備える高周波電源16aが接続されている。高周波電源16aは、内部電極14と外部電極15との間に高周波電圧を印加することのできる電源である。
また、外部電極15の他端には、リード線16cの一端が電気的に接続されており、このリード線16cの他端は、接地されている。すなわち、外部電極15は、リード線16cを介して接地されている。なお、この
図6(a)および
図6(b)に示すエキシマランプ12においては、一方の内部電極用リード部材14aは給電線16bと一体のものとされている。
【0055】
内部電極14と外部電極15との間に高周波電力を印加すると、放電空間において誘電体バリア放電が生じる。この誘電体バリア放電により、放電空間に封入されている放電ガス(バリア放電用ガス)の原子が励起され、励起二量体(エキシプレックス)が生成される。この励起二量体が元の状態(基底状態)に戻るときに、固有の発光(エキシマ発光)が生じる。すなわち、上記放電ガスはエキシマ発光用ガスである。
【0056】
なお、エキシマランプの構成は、
図6(a)および
図6(b)に示す構成に限定されるものではない。例えば、
図7(a)および
図7(b)に示すエキシマランプ12Aのように、二重管構造の放電容器13Aを備える構成であってもよい。
このエキシマランプ12Aが備える放電容器13Aは、円筒状の外側管と、外側管の内側において外側管と同軸上に配置され、当該外側管よりも内径が小さい円筒状の内側管と、を有する。外側管と内側管とは、
図7(a)の左右方向の端部において封止されており、両者の間には円環状の内部空間が形成されている。そして、この内部空間内に放電ガスが封入されている。
【0057】
内側管の内壁面13aには膜状の第一電極(内側電極)14Aが設けられ、外側管の外壁面13bには網状またはメッシュ状の第二電極(外側電極)15Aが設けられている。そして、内側電極14Aおよび外側電極15Aは、それぞれ給電線16bを介して高周波電源16aと電気的に接続されている。
【0058】
高周波電源16aによって内側電極14Aと外側電極15Aとの間に高周波の交流電圧が印加されることにより、外側管と内側管の管体を介して放電ガスに対して電圧が印加され、放電ガスが封入されている放電空間内で誘電体バリア放電が生じる。これにより放電ガスの原子が励起されて励起二量体が生成され、この原子が基底状態に移行する際にエキシマ発光を生じる。
【0059】
また、エキシマランプの構成は、例えば、
図8(a)および
図8(b)に示すエキシマランプ12Bのように、放電容器13Bの一方の側面に一対の電極(第一電極14B、第二電極15B)を配置した構成であってもよい。ここでは、一例として、
図8(a)のZ方向に2本の放電容器13Bが並べて配置されているものとする。
図8(a)に示すように、第一電極14Bおよび第二電極15Bは、放電容器13Bにおける光取出し面とは反対側の側面(-X方向の面)に、放電容器13Bの管軸方向(Y方向)に互いに離間して配置されている。
そして、放電容器13Bは、これら2つの電極14B、15Bに接触しながら跨るように配置されている。具体的には、2つの電極14B、15BにはそれぞれY方向に延伸する凹溝が形成されており、放電容器13Bは、電極14B、15Bの凹溝に嵌め込まれている。
【0060】
第一電極14Bおよび第二電極15Bは、それぞれ給電線16bを介して高周波電源16aと電気的に接続されている。第一電極14Bと第二電極15Bとの間に高周波の交流電圧が印加されることで、放電容器13Bの内部空間において励起二量体が生成され、エキシマ光がエキシマランプ12Bの光取出し面(+X方向の面)から放射される。
ここで、電極14B、15Bは、エキシマランプ12Bから放射される光に対して反射性を有する金属材料により構成されていてもよい。この場合、放電容器13Bから-X方向に放射された光を反射して+X方向に進行させることができる。電極14B、15Bは、例えばアルミニウム(Al)やステンレスなどから構成することができる。
【0061】
なお、エキシマランプは、上述したように高周波電力が印加されて高周波点灯を行うので、高周波ノイズが発生する。しかしながら、上記のようにエキシマランプを収容する筐体11を導電性の金属によって構成することで、エキシマランプからの高周波ノイズが筐体11外部へ発信されることを抑制することができる。これにより、紫外線照射ユニット10近傍に設置された他の制御システムへの制御指令が、この高周波ノイズによる外乱を受けることを抑制することができ、当該制御指令に不具合が生じないようにすることができる。
【0062】
上記のように、本実施形態における紫外線照射装置100においては、紫外線光源であるエキシマランプとして、波長222nmにピークを有する紫外線を放出するKrClエキシマランプ、または、波長207nmにピークを有する紫外線を放出するKrBrエキシマランプを用いることが好ましい。
KrClエキシマランプから放出される波長222nmの紫外線や、KrBrエキシマランプから放出される波長207nmの紫外線は、いずれも人や動物に安全であって、微生物の殺菌やウイルスの不活化を行うことができる光である。よって、空間内の殺菌・不活化領域に人や動物が存在していても、紫外線照射による殺菌・不活化作業を行うことができる。
【0063】
なお、上記実施形態においては、紫外線光源としてエキシマランプを用いる場合について説明したが、紫外線光源としてLEDを用いることもできる。
図9は、紫外線光源としてLED19を用いた紫外線照射ユニット10の一例である。この
図9においては、紫外線照射ユニット10は、複数のLED19を備えている。
【0064】
上記したように、除染(殺菌)用途に使用される紫外線の波長域は、200~320nmであり、特に効果的な波長は、核酸(DNA、RNA)の吸収が大きい260nm付近である。
よって、紫外線照射ユニット10に搭載される紫外線光源としてのLED19も、波長200~320nmの紫外線を放出するものが採用される。具体的には、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LED等を採用することができる。AlGaN系LEDは、アルミニウム(Al)の組成を変化させることにより200~350nmの波長範囲の深紫外域(deep UV:DUV)で発光する。また、AlN系LEDは、ピーク波長210nmの紫外線を放出する。
【0065】
ここで、AlGaN系LEDとしては、中心波長が200~237nmの範囲内となるようにAlの組成を調整することが好ましい。上記したように、この波長範囲の紫外線であれば、人や動物に安全であって、微生物の殺菌やウイルスの不活化を適切に行うことが可能である。例えば、Alの組成を調整することで、放出する紫外線の中心波長が222nmであるAlGaN系LEDとすることも可能である。
【0066】
また、LEDとして酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LEDを採用することもできる。MgZnO系LEDは、マグネシウム(Mg)の組成を変化させることにより190~380nmの波長範囲の深紫外域(deep UV:DUV)で発光する。
【0067】
ここで、MgZnO系LEDとしては、中心波長が200~237nmの範囲内となるようにMgの組成を調整することが好ましい。
上記したように、この波長範囲の紫外線であれば、人や動物に安全であって、微生物の殺菌やウイルスの不活化を適切に行うことが可能である。例えば、Mgの組成を調整することで、放出する紫外線の中心波長が222nmであるMgZnO系LEDとすることも可能である。
【0068】
ここで、上記のような紫外線(特に深紫外域の紫外線)を放出するLEDは、発光効率が数%以下と低く、発熱が大きい。また、LEDの発熱が大きくなると、当該LEDから放出される光の強度が小さくなり、また放出光の波長シフトも発生する。そのため、LEDの熱上昇を抑制するために、
図9に示すように、LED19を冷却部材(例えば、熱を放熱する放熱フィン)20に設置することが好ましい。
このとき、
図9に示すように、冷却部材20の一部を紫外線照射ユニット10の筐体11から突出させてもよい。この場合、冷却部材20の一部に外気が当たることになり、冷却部材20の放熱が効率良く進み、結果としてLED19の熱上昇を適切に抑制することができる。
【0069】
なお、上記の中心波長222nmの紫外線を放出するAlGaN系LEDおよびMgZnO系LEDは、中心波長222nmからある程度広がりを有する波長範囲の紫外線を放出し、当該LEDから放出される光には、僅かながら人や動物に安全ではない波長の紫外線も含まれる。そのため、紫外線光源がエキシマランプである場合と同様、波長範囲200~230nm以外の波長を有するUV-C波長域の光をカットする誘電体多層膜フィルタ(光学フィルタ)を用いることが好ましい。
【0070】
ただし、上記の中心波長210nmの紫外線を放出するAlN-LEDは、上記光学フィルタは不要である。
また、紫外線光源がエキシマランプであっても、LEDであっても、当該紫外線光源の光放射面での照度や紫外線光源から紫外線の被照射面までの距離等によっては、被照射面での人や動物に安全ではない波長の紫外線の照度が許容値以下となる場合がある。したがって、このような場合には、上記光学フィルタを設ける必要はない。
【0071】
本発明に係る紫外線照射装置および紫外線照射方法によれば、紫外線照射による人体への悪影響を及ぼすことなく、紫外線本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。特に、従来の紫外線照射装置及び紫外線照射方法とは異なり、人が存在する空間にいても、紫外線による効果的な殺菌防臭を行うことができる。このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに、肝炎、水系感染症およびその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【符号の説明】
【0072】
10…紫外線照射ユニット、11…筐体、12…エキシマランプ、13…放電容器、14…第一電極、15…第二電極、16…給電部、17…制御部、18…支持部、19…LED、20…冷却部材、100…紫外線照射装置、110…光源部、130…送風部、150…支持体、200…洗濯物、210…物干し竿