(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124533
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】水処理システム及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 21/30 20060101AFI20220819BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20220819BHJP
C02F 1/56 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
B01D21/30 A
B01D21/01 B
B01D21/01 D
B01D21/01 101A
C02F1/56 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022229
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】397028016
【氏名又は名称】株式会社日水コン
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】野田 慎治
【テーマコード(参考)】
4D015
【Fターム(参考)】
4D015BA06
4D015BA09
4D015BA21
4D015BB05
4D015CA01
4D015DB04
4D015DB15
4D015DC02
4D015DC07
4D015EA06
4D015EA32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】SSの除去に効果的なカチオン性高分子凝集剤を用いて水処理を行う場合の、効率的かつ経済的な水処理システム及び水処理方法を提供する。
【解決手段】有機性排水にカチオン性高分子凝集剤を添加し、撹拌装置により有機性排水中にカチオン性高分子凝集剤を分散させる凝集剤分散部10と、凝集剤分散部から流出する凝集剤分散水を受け入れて、有機性排水に含まれる懸濁物質とカチオン性高分子凝集剤との凝集物を沈殿させる沈殿部20と、凝集剤分散部における分散条件が、下記式(1)及び(2):
GT≧500・・・(1)
5≦T≦240・・・(2)
(式中、Gは、速度勾配(sec
―1)を表し、Tは、撹拌時間(sec)を表す。)を満たすように撹拌装置を制御する制御部30と、を備える水処理システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水にカチオン性高分子凝集剤を添加し、撹拌装置により前記有機性排水中に前記カチオン性高分子凝集剤を分散させる凝集剤分散部と、
前記凝集剤分散部から流出する凝集剤分散水を受け入れて、前記有機性排水に含まれる懸濁物質と前記カチオン性高分子凝集剤との凝集物を沈殿させる沈殿部と、
前記凝集剤分散部における分散条件が、下記式(1)及び(2):
GT≧500・・・(1)
5≦T≦240・・・(2)
(式中、Gは、下記式(3):
【数1】
に示す速度勾配(sec
―1)を表し、Tは、撹拌時間(sec)を表し、Pは、単位時間及び単位体積あたりの仕事量(kg・m
2/(sec
3・m
3))を表し、μは、前記有機性排水の粘性係数(kg/(m・sec))を表す。)
を満たすように前記撹拌装置を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする水処理システム。
【請求項2】
前記分散条件が、式(2)に代えて、式(4):
2≦G≦100・・・(4)
(Gは、請求項1と同じ意味を表す。)
である請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記有機性排水の温度を測定する手段をさらに備え、
前記制御部は、測定された温度に基づいて式(3)における前記有機性排水の粘性係数を算出する、請求項1又は2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記有機性排水の濁度を測定する手段をさらに備え、
前記制御部は、測定された前記有機性排水の濁度に基づいて前記カチオン性高分子凝集剤の添加量を調節する請求項1~3のいずれか一項に記載の水処理システム。
【請求項5】
有機性排水にカチオン性高分子凝集剤を添加する凝集剤添加工程と、
前記カチオン性高分子凝集剤が添加された有機性排水を攪拌する凝集剤分散工程と、
前記有機性排水に含まれる懸濁物質と前記カチオン性高分子凝集剤との凝集物を沈殿させる沈殿工程と、
を備え、
前記凝集剤分散工程は、下記式(1)及び(2):
GT≧500・・・(1)
5≦T≦240・・・(2)
(式中、Gは、下記式(3):
【数2】
に示す速度勾配(sec
―1)を表し、Tは、撹拌時間(sec)を表し、Pは、単位時間及び単位体積あたりの仕事量(kg・m
2/(sec
3・m
3))を表し、μは、前記有機性排水の粘性係数(kg/(m・sec))を表す。)
の分散条件を満たすように撹拌することを特徴とする水処理方法。
【請求項6】
前記分散条件が、式(2)に代えて、式(4):
2≦G≦100・・・(4)
(Gは、請求項5と同じ意味を表す。)
である請求項5に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記有機性排水の温度を測定する工程と、
測定された温度に基づいて式(3)における前記有機性排水の粘性係数を算出する工程と、
をさらに備える請求項5又は6に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記カチオン性高分子凝集剤が、重量平均分子量900万~1300万、カチオン基比率が10~40モル%のカチオン性高分子凝集剤である請求項5~7のいずれか一項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システム及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機性排水(有機物を含む排水)の処理方法として、凝集沈殿法や活性汚泥法、あるいはそれらを組み合わせた方法が知られている。凝集沈殿法は、凝集剤を使用して汚水中に含まれるCODやSS(浮遊懸濁物質)、重金属類の除去を目的とする水処理方法である。近年では、この方法は都市下水からのリン酸イオンを物理的に除去する方法として重要視されている。凝集剤には、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウムやポリ硫酸第二鉄などがあり、有機凝集剤として高分子凝集剤や有機凝結剤などがある。また、活性汚泥法は、好気性微生物を利用し、曝気槽中で有機物を生物分解する方法である。
【0003】
汚水に凝集剤を注入する凝集沈殿システムは、高いSS除去率を得るための有効な処理方法として知られている。このシステムでは凝集剤を汚水中に分散させることが必要であり、その凝集剤分散のための撹拌条件として、速度勾配G値(sec-1)と撹拌継続時間T値(sec)との積であるGT値が用いられる。速度勾配G値は、攪拌槽の容量や備えられた撹拌機の形状や撹拌速度、処理水の動粘性係数などに依存し、個々の攪拌槽の運転状態に固有の数値であって、攪拌槽における撹拌状態、撹拌強度を表す数値である。速度勾配G値は広い概念であり、機械式撹拌機を使わない撹拌、例えば、阻流壁を設置し水位差を生じさせる撹拌にも適用される。なお、GT値は、上記G値のほかに撹拌継続時間T値が関係するので、時間の経過を要素とする値である。
【0004】
特許文献1では、無機凝集剤を用いた分散条件として、GT値が、20万以上、G値300sec-1以上、T値300sec以上という値が示されている。G値が大きいと消費エネルギー量が大きくなり、T値が大きいと急速撹拌部の規模が大きくなることから、GT値は小さい方が経済性に優れる方法といえる。
【0005】
特許文献2では、無機凝集剤とカチオン性高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤を併用する場合におけるカチオン性高分子凝集剤の急速撹拌方法として、G値が100~500sec-1、T値が1~10分を示しており、実施例では、カチオン性高分子凝集剤の急速撹拌条件として、G値200sec-1、T値2分(120sec)が記載されている。この条件を基にしてGT値を算出すると24000となり、特許文献1で示されたGT値の約1/10レベルとなる。
【0006】
次に、特許文献3では、無機凝集剤とノニオン又はアニオン及び両性高分子凝集剤を併用する場合における高分子凝集剤の急速撹拌方法として、T値が0.3~0.6分と特許文献2のT値よりも短くできることが示されている。しかし、G値とGT値に関する情報が示されていない。
【0007】
また、特許文献4では、無機凝集剤とカチオン性高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤を併用する場合におけるカチオン性高分子凝集剤の急速撹拌方法として、G値が100~500sec-1、T値が1分以上を示しているが、GT値に関する情報が示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-75750号公報
【特許文献2】特許第5907273号公報
【特許文献3】特開2003-145168号公報
【特許文献4】特開2019-198806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、凝集沈殿法を行うために必要な凝集剤は、消耗品であるため連続的に流れる排水の処理をし続けるためには、ランニングコストがかかるという問題点がある。また、凝集剤を分散させるためには、添加直後に急速攪拌する必要があるといわれており、その装置や攪拌エネルギーの供給にも大きなコストがかかる。さらに、上記従来技術のいずれにも高分子凝集剤を単独で使用する場合における高分子凝集剤分散のための急速撹拌のGT値条件が明示されていない。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、SSの除去に効果的なカチオン性高分子凝集剤を用いて水処理を行う場合の効率的かつ経済的な凝集剤分散条件を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであって、カチオン性高分子凝集剤を単独で用いた場合には、従来よりも短時間且つ効率的な条件下において当該凝集剤を分散可能であることを見出して本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
[1]有機性排水にカチオン性高分子凝集剤を添加し、撹拌装置により有機性排水中にカチオン性高分子凝集剤を分散させる凝集剤分散部と、
凝集剤分散部から流出する凝集剤分散水を受け入れて、有機性排水に含まれる懸濁物質とカチオン性高分子凝集剤との凝集物を沈殿させる沈殿部と、
凝集剤分散部における分散条件が、下記式(1)及び(2):
GT≧500・・・(1)
5≦T≦240・・・(2)
(式中、Gは、下記式(3):
【0013】
【数1】
に示す速度勾配(sec
-1)を表し、Tは、撹拌時間(sec)を表し、Pは、単位時間及び単位体積あたりの仕事量(kg・m
2/(sec
3・m
3))を表し、μは、有機性排水の粘性係数(kg/(m・sec))を表す。)を満たすように撹拌装置を制御する制御部と、を備えることを特徴とする水処理システム。
1つの実施形態としては、攪拌装置が、攪拌羽根を備える撹拌機を有し、制御部が、凝集剤分散部の容量、撹拌羽根の大きさ、枚数に合わせて、回転数を制御する水処理システムである。
【0014】
[2]分散条件が、式(2)に代えて、下記式(4):
2≦G≦100・・・(4)
(Gは、[1]と同じ意味を表す。)である[1]に記載の水処理システム。
[3]有機性排水の温度を測定する手段をさらに備え、上記制御部は、測定された温度に基づいて式(3)における有機性排水の粘性係数μを算出する、[1]又は[2]に記載の水処理システム。
[4]有機性排水の濁度を測定する手段をさらに備え、制御部は、測定された有機性排水の濁度に基づいてカチオン性高分子凝集剤の添加量を調節する[1]から[3]のいずれか一項に記載の水処理システム。
【0015】
[5]有機性排水にカチオン性高分子凝集剤を添加する凝集剤添加工程と、
カチオン性高分子凝集剤が添加された有機性排水を攪拌する凝集剤分散工程と、
有機性排水に含まれる懸濁物質とカチオン性高分子凝集剤との凝集物を沈殿させる沈殿工程と、を備え、
凝集剤分散工程は、下記式(1)及び(2):
GT≧500・・・(1)
5≦T≦240・・・(2)
(式中、Gは、下記式(3):
【0016】
【数2】
に示す速度勾配(sec
-1)を表し、Tは、撹拌時間(sec)を表し、Pは、単位時間及び単位体積あたりの仕事量(kg・m
2/(sec
3・m
3))を表し、μは、有機性排水の粘性係数(kg/(m・sec))を表す。)の分散条件を満たすように撹拌することを特徴とする水処理方法。
[6]分散条件が、式(2)に代えて、式(4):
2≦G≦100・・・(4)
(Gは、[5]と同じ意味を表す。)である[5]に記載の水処理方法。
[7]有機性排水の温度を測定する工程と、測定された温度に基づいて前記有機性排水の粘性係数を算出する工程と、をさらに備える[5]又は[6]に記載の水処理方法。
[8]カチオン性高分子凝集剤が、重量平均分子量900万~1300万、カチオン基比率が10~40モル%のカチオン性高分子凝集剤である[5]から[7]のいずれか一項に記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、排水中のSSを効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る水処理システムの模式図である。
【
図2】
図2は、実施例においてポリマー分散試験に用いた小型混和装置の模式図である。
【
図3】
図3は、実施例におけるポリマー分散試験の結果、GT値(横軸)に対するSS除去率(縦軸、%)を示したグラフである。
【
図4】
図4は、実施例におけるポリマー分散試験の結果、攪拌時間T値(横軸、秒)に対するSS除去率(縦軸、%)を示したグラフである。
【
図5】
図5は、実施例におけるポリマー分散試験の結果、速度勾配G値(横軸、sec
-1)に対するSS除去率(縦軸、%)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
(水処理システムについて)
図1は、本発明の一実施形態に係る水処理システムの模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る水処理システム1は、排水導入ラインL1と、凝集剤分散部10と、凝集剤分散水導出ラインL2と、沈殿部20と、沈殿処理水排出ラインL3と、沈殿汚泥流出ラインL4と、凝集剤添加ラインL5と、凝集剤注入ポンプ16と、制御部30とを有する。排水導入ラインL1には、流量センサ14、濁度センサ15及び温度センサ16を備えてもよい。水処理システム1は、有機性排水Wを処理するシステムであり、排水導入ラインL1から流入してくる原水W
0に対して以下説明する処理を実行し、沈殿処理水W
2として図示していない消毒槽又は生物処理槽に排出する。なお、以下、水処理システム1を経る過程で、原水W
0、凝集剤分散水W
1、沈殿処理水W
2について説明するが、これらを区別しない場合は、汚水Wと記載する。
【0021】
(原水)
水処理システムに供給する有機性排水(原水)については、特に制限はなく、凝集沈殿の分野で公知の原水を、適宜使用できる。原水として、例えば、都市下水、工場から排出される有機性排水などが挙げられる。排水導入ラインL1には、凝集剤分散部10へ流入する有機性排水W0の流量、温度、浮遊懸濁物(SS)及び濁度などを検出する1つ又は複数のセンサを備えてもよい。
【0022】
(凝集剤分散部)
図1に示す水処理システムにおいて、凝集剤分散部10は、攪拌機13と、凝集剤注入ポンプ17と、凝集剤添加ラインL5と、を備える。ここで、攪拌機13は、モータ等の駆動装置による駆動力を攪拌翼12へ伝達する攪拌軸11を有する。なお、攪拌機13としては、必ずしも上記の構成に限らず、例えば、循環水流ポンプを利用した循環攪拌装置、散気撹拌等、適宜用いても良い。また、撹拌機13に代えて配管内に凝集剤を直接注入するとともに配管内に阻流壁を組み込んだ攪拌装置を用いてもよい。以下では、攪拌翼12及び駆動装置を備える攪拌機13を、一例として説明する。
【0023】
(沈殿部)
沈殿部20として、凝集沈殿の分野で公知の沈殿槽を使用することができる。例えば凝集剤分散水W1が沈殿槽内に流入する前に凝集反応を完了させ、その後に沈殿槽に流入させるタイプの沈殿槽がある。あるいは、凝集剤分散水導出ラインL2や沈殿部20の入口付近で凝集反応が起こってもよい。沈殿部20では、これら凝集剤分散水W1中の固形成分をカチオン性高分子凝集剤により成長、粗大化させてフロックを形成する。沈殿部20では、このフロックを沈殿させることで凝集剤分散水W1中の液体成分と沈殿しなかった微細フロックを沈殿処理水W2として沈殿処理水排出ラインL3から排出し、一方、沈殿したフロックは沈殿汚泥として沈殿汚泥流出ラインL4から排出する。
【0024】
(制御部)
制御部30では、流量センサ14で測定した、排水導入ラインL1から凝集剤分散部10に流入する排水W0の流量に基づいて、分散部の撹拌時間Tを演算する。流量センサ14としては、例えば質量流量計、面積流量計、超音波流量計、差圧流量計、電磁流量計などが使用可能である。また、温度センサ15により排水の温度を測定し、粘性係数を演算する。そして、それらに基づいて所定の分散条件を満たすように攪拌機13の駆動エネルギーを制御する。速度勾配G値は、下記式(3):
【0025】
【0026】
(Pは、単位時間及び単位体積あたりの仕事量(kg・m2/(sec3・m3)を表し、μは、有機性排水の粘性係数(kg/(m・sec))を表す。)に示すように、単位体積当たりの水に与えられるエネルギーの割合であり、P=P’/V(P’は攪拌エネルギー(W)、Vは分散部の容量(m3)であるから、G値を大きくするには、攪拌エネルギーP’を大きくするか、分散部の容量Vを小さくしなければならない。また、水温が下がると水の粘性μが上がるのでG値は小さくなる。したがって、それぞれの分散部の構造に応じて駆動エネルギーを変動させて、所定のG値となるように制御するとともに、排水導入ラインL1から流入する原水W0の水温を測定して、その温度に基づいて算出される凝集剤分散部10のG値を算出するフィードバック制御システムを構築することが好ましい。フィードバック制御とは、制御変数の目標値からのずれを計算し、ずれがなくなるように操作変数の値を調節する仕組みである。
【0027】
一方、T値は、排水W0の流量及び分散部の容量Vに依存するため、これらの一方又は両方を変動させることで制御することができる。本実施形態では、分散条件が上記式(1)及び(2)の両方、又は式(1)及び(3)の両方を満たすように、G値とT値のいずれか一方又は両方を制御することができる。すなわち、式(2)で表されるT値の範囲内:5≦T≦240において、GT≧500となるようにG値を制御してもよく、あるいは、式(4)で表されるG値の範囲内:2≦G≦100において、GT≧500となるようにT値を制御してもよい。
【0028】
また、排水導入ラインL1に備えた濁度センサ14にて流入する有機性排水の濁度を計測し、その測定値と予め設定した目標値との関係を用いて、凝集剤注入ポンプ16からのカチオン性高分子凝集剤の吐出量を制御することができる。濁度センサ14としては、例えば、JIS K0101に示されているような、試料水の濁り度合を透過光強度から判定する透過光式センサや、散乱光強度から判定する散乱光式光センサや、散乱光強度と透過光強度との比から判定する積分球式センサなどを用いることができる。
【0029】
(カチオン性高分子凝集剤)
カチオン性高分子凝集剤は、主に都市下水や有機物を多く含む工場廃水の処理で発生する汚泥(濃厚な懸濁液)の脱水促進に使用されている。カチオン性高分子凝集剤は、分子内に多数のカチオンを有する高分子電解質であるので、無機凝集剤と同様に排水中の懸濁物質の電荷を中和する目的で使用される。また、カチオン性高分子凝集剤は、無機凝集剤よりもカチオンの電荷密度が高いために、その凝集作用は無機凝集剤よりもはるかに大きいという特徴を有する。
【0030】
カチオン性高分子凝集剤としては、一般にカチオン性高分子凝集剤として凝集沈殿の分野で公知のものを適宜使用することができる。具体的にはカチオン性モノマーとアクリルアミドとの共重合物を好適に用いることができる。カチオン性モノマーの具体例としては、ジメチルアミノエチルアクリレートやジメチルアミノエチルメタクリレート(以下、両化合物を併せて「ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート」と記す場合がある)の酸塩もしくはその4級アンモニウム塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドやジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(以下、両化合物を併せて「ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド」と記す場合がある)の酸塩もしくはその4級アンモニウム塩を好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。なお、カチオン性高分子凝集剤の製品形態は特に限定されるものではなく、粉末品、W/O型エマルション、或いは、高塩類濃度の水系媒体中にカチオン性高分子凝集剤粒子が分散しているディスパージョンなど、排水の凝集処理用に一般に流通しているのが適用できる。
【0031】
処理水のSS濃度の観点から、カチオン性高分子凝集剤のカチオン基比率(カチオン性モノマーとノニオン性モノマーの合計量に対するカチオン性モノマーの比率)は特に限定するものではないが、カチオン基比率が10~40モル%のカチオン性高分子凝集剤を使用することが好ましい。カチオン基比率とは、共重合するノニオン性モノマーとカチオン性モノマーとの合計モノマーに占めるカチオン性モノマーのモル比である。例えば、アクリルアミド80モルとジメチルアミノエチルアクリレートの4級アンモニウム塩20モルとを共重合したカチオン性高分子凝集剤の場合、カチオン基比率は20モル%である。
【0032】
カチオン性高分子凝集剤の重量平均分子量は、例えば、900万以上が好ましく、1300万以下が好ましい。一般的に分子量が大きいほど凝集能力に優れるが、排水種、汚泥脱水機種によっても最適分子量が異なるため、それらに応じて都度選定するのが良い。
【0033】
カチオン性高分子凝集剤の好ましい添加量は、有機性排水中のSS濃度によって多少変動するが、概ね、0.5~2mg/L、より好ましくは1~2mg/Lである。
【0034】
カチオン性高分子凝集剤は、予め水に溶解した溶液の状態で被処理水に添加することが好ましい。その溶液のカチオン性高分子凝集剤の濃度は、例えば0.1~0.2w/v%である。
【0035】
(水処理方法)
本発明の他の実施形態における水処理方法は、有機性排水にカチオン性高分子凝集剤を添加する凝集剤添加工程(工程1)と、カチオン性高分子凝集剤が添加された有機性排水を攪拌する凝集剤分散工程(工程2)と、有機性排水に含まれる懸濁物質とカチオン性高分子凝集剤との凝集物を沈殿させる沈殿工程(工程3)と、を備える。
【0036】
工程1におけるカチオン性高分子凝集剤の添加は、
図1に示すように凝集剤添加ラインL5から直接分散部10に添加することが好ましい。凝集剤を効率よく分散させるためには、添加直後の急速攪拌が重要であるからである。
【0037】
カチオン性高分子凝集剤の添加方法としては、例えば、この凝集剤を水に0.1~0.2質量%の濃度で溶解させた後、有機性排水に添加することが好ましい。また、2種以上のカチオン性高分子凝集剤を混合する場合もありうる。
【0038】
カチオン性高分子凝集剤の添加量は、有機性廃水中のSS、マイナス荷電成分の濃度等により、適宜設定すればよいが、大よその目安として、例えば、有機性排水中にて、0.5~2mg/Lとなる量である。また、凝集剤分散部10に流入する有機性排水の濁度を検出し、これに基づいてカチオン性高分子凝集剤の添加量を制御することができる。例えば、予め種々の濁度を有する汚水を用意し、それぞれにカチオン性高分子凝集剤の添加量を変えて所定のGT値で急速攪拌した後のSS除去率を測定することで、所定のSS除去率を達成するために必要なカチオン性高分子凝集剤の添加量の目標値を設定することができる。SS除去率とは、原水W0中のSS濃度に対する沈殿処理水W2中のSS濃度の比率である。
【0039】
カチオン性高分子凝集剤の添加は、有機性排水を撹拌しながら行うか、又は、添加の後に撹拌することが好ましい。高分子凝集剤を均一に分散させ、かつ良好な凝集フロックを形成するために、凝集剤添加時にある程度以上の急速攪拌必要であるといわれている。攪拌方法の詳細については、以下の凝集剤分散工程において説明する。
【0040】
工程2は、上記で添加されたカチオン性高分子凝集剤を有機性排水中に分散させる工程である。本工程により、排水中のSS粒子の表面電荷が中和されマイクロフロックが生成した後、カチオン性高分子凝集剤の架橋作用によりフロックが粗大化する。この凝集剤分散工程は、下記式(1)及び(2)で表される分散条件を満たすように撹拌する。
【0041】
GT≧500・・・(1)
5≦T≦240・・・(2)
【0042】
ここで、G値とは、Steinの式から算出される速度勾配G値(sec-1)を示す数値であり、例えば水道施設設計指針2012(日本水道協会編、2012年7月1日発行、第187頁)に記載された計算式から算出できる。この分散方法は、上記分散条件を満たす限り、機械撹拌機による撹拌、ポンプによる撹拌、散気又はラインミキサによる撹拌などは問わない。機械的攪拌の場合は撹拌羽根の大きさ、枚数、回転数によって、ライン混合の場合は流速、圧力損失によってそれぞれG値を求めることができる。
【0043】
例えば、
図1に示した機械的攪拌装置、例えば、フラッシュミキサを用いる場合、速度勾配を表すG値は、次の式(5)によって表わされる。G値は、個々の凝集剤分散部の運転状態に固有の数値であって、凝集剤分散部の容量、備えられた撹拌機の形状、撹拌速度、及び処理水の粘性係数などによって決定される、凝集剤分散部における撹拌状態、撹拌強度を表す数値である。
【0044】
【数4】
ここで、式(5)の諸記号は下記のものを意味する。
G:速度勾配(sec
-1)
ρ:水の密度(例えば、1.0×10
3kg/m
3、20℃)
C:攪拌翼の抵抗係数(=1.5)
a
i:撹拌翼iの運動方向に直角な面積(m
2)
v
i:撹拌翼iの平均速度(m/s)
μ:水の粘性係数(例えば、=1.0×10
3kg/m・s、20℃)
V:凝集剤分散部容量(m
3)
【0045】
この速度勾配G値は、まず凝集剤分散部の容量(V)とそこに備えられた撹拌機の形状(攪拌翼の枚数や面積)によって変化する。これらの数値が一定とした場合であっても、撹拌翼の平均速度(vi)や水の粘性係数(μ)によって変化する。水の粘性係数は水の温度によって大きく変化し、温度が低下するとともに増加する。従って、速度勾配G値は凝集剤分散部の容量や撹拌機の形状が一定であっても、処理する水の温度が変化するとともに変化し、水の温度が低下すると撹拌G値も低下する。
【0046】
従って、個々の水処理施設において、上記式(5)で得られたG値(sec-1)と、撹拌時間T値(sec)とを用いて、上記式(1)及び(2)で表される分散条件を満たすように撹拌すればよい。凝集剤分散部の容量、撹拌羽根の大きさ、枚数に合わせて、回転数を制御することで上記式(1)及び(2)の条件を満たすことができる。
【0047】
冬期になると原水の温度が低くなり、水処理施設の排水の温度も低下する。冬期に排水の水温の低下とともに、浄水水質が悪化する原因は、原水と凝集剤の良好な初期混和が達成されないことが考えられる。このような問題に対応して、本実施形態の方法では、有機性排水の温度を測定する工程と、測定された温度に基づいて式(3)又は(5)における有機性排水の粘性係数を算出する工程と、をさらに備え、凝集剤分散部における攪拌機の撹拌速度を調節することによって凝集剤分散部を凝集剤によるマイクロフロックの形成に最適な撹拌状態にすることができる。
【0048】
他の実施形態では、例えば、液返送ポンプ拡散方式による速度勾配G値は下記式(6)で示すことができる。
【0049】
【数5】
ただし、式中の記号はρ:処理液の密度(kg/m
3)、μ:処理液の粘性係数(kg/m/sec)、V:処理液の容積(m
3)、Q;ノズル噴出水量(m
3/sec)、v
0:ノズル噴出水の初速度(m/sec)を表す。したがって、上記式(1)及び(2)で表される所定の分散条件とするためには、G値については処理液の容量やノズル噴出水量及びその初速度などを制御することができる。
【0050】
式(1)で表されるGT値は、500以上であれば特に限定されないが、経済性を改善する観点から、好ましくは、500以上1500以下であり、より好ましくは500以上1000以下であり、さらに好ましくは500以上700以下であり、さらになお好ましくは500以上600以下である。また、攪拌時間T値(sec)は、凝集剤分散部の規模を抑えて経済性に寄与する観点から、5以上240以下である。この範囲においてT値は小さいほうが好ましいが、G値によって影響を受ける攪拌動力コストも考慮して経済的に有利な条件に設定することができる。
【0051】
さらに、速度勾配G値(sec-1)は、消費エネルギーを抑えて経済性に寄与する観点から、2以上100以下である。この範囲においてG値は小さいほうが好ましいが、T値によって影響を受ける凝集剤分散部の設備費も考慮して経済的に有利な条件に設定することができる。
【0052】
(作用効果)
本発明の水処理方法は、凝集剤の分散条件を上記のようにGT値とT値、又はGT値とG値とを組み合わせて制御することにより、凝集剤の使用量をより減少できること、及び水処理工程の負荷を低減できることができる。加えて、カチオン性高分子凝集剤を実機に適用したときに、その適正な攪拌強度や攪拌時間の幅が広いために、適正な反応条件の設定が現実的に容易である。
【0053】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。なお、以下の実施例において、各種成分の添加量を示す数値の単位%は、質量%を意味する。
【実施例0054】
[小型混和装置を用いたポリマー分散試験]
小型混和装置に入れた汚水(下水処理場流入水)に、以下の表1に示すカチオン性高分子凝集剤を単独で注入し、50~1500の範囲でGT値を変化させた条件で急速撹拌した後、一定時間静置した時の上澄み液のSS濃度を分析した。
【0055】
【0056】
図2は、このポリマー分散試験に用いた小型混和装置の模式図である。小型混和装置2は、一辺が100mmの正方形の底面と高さ580mm(有効水深500mm)とを有する直方体の混和槽15と、高さ780mmの位置に設置したモータから直径が8mm、長さ495mmのシャフトが伸びた撹拌機16とを備える。この撹拌機16は、底部から170mmと330mmの位置に2個の撹拌翼17を取り付けている。各攪拌翼の形状は、最大直径が40mmの6枚羽からなり、各羽は高さ8mm、幅10mmの長方形である。混和槽15は、底から100mm(水深400mm)の位置に採水コック18を有する。
【0057】
次に試験方法について説明する。この混和槽15に下水処理場流入水を5L投入し、撹拌機16を300rpmで1分間回転させ、汚水を混合した。続いて、撹拌機16の回転数を6~360rpmの間の所定の値に調整した後、メスピペットを用いて水深方向に出来るだけ均等にポリマー溶液を注入した。なお、ポリマー溶液の注入量を5mLとした場合には、ポリマー濃度は0.1%となる。5~240秒の間の所定時間の経過後に撹拌機を停止させ、撹拌停止の4分後に、底から100mm(水深400mm)の採水コックを用いて200mL程度採水し、SS濃度を分析した。SS濃度の分析は、「工場排水の試験方法JIS K0102の14.1」に従って行った。別途、汚水のSS濃度を分析することで、SS除去率を算出した。カチオン性高分子凝集剤を添加しなかった条件においては、汚水の初期混合(300rpm、1分間)の後、撹拌機を停止し、4分後に採水した。その結果を次に示す。なお、GT値が0である条件は高分子凝集剤を注入しない条件である。
【0058】
図3は、撹拌時間T値が5~240(sec)、速度勾配G値が2~123(sec
―1)で攪拌したときのGT値(横軸)に対するSS除去率(縦軸、%)を示したグラフである。GT値を高くするほどSS除去率は上昇し、GT値が500以上であれば、SS除去率は概ね同程度となることが分かった。このことから、カチオン性高分子凝集剤を単独で注入する場合、好ましいGT値は500以上であると言える。
【0059】
図4は、GT値が500の条件において、攪拌時間T値(横軸、秒)に対するSS除去率(縦軸、%)を示したグラフである。GT値が500の条件であれば、T値が5sec~240secの範囲でSS除去率は概ね同程度であった。
【0060】
また、
図5は、GT値が500の条件において、速度勾配G値(横軸、sec
-1)に対するSS除去率(縦軸、%)を示したグラフである。GT値が500の条件であれば、G値が2sec
-1~100sec
-1の範囲でSS除去率は概ね同程度であった。