(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124570
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】トランス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 30/10 20060101AFI20220819BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20220819BHJP
H01F 27/30 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
H01F30/10 C
H01F30/10 H
H01F27/28 K
H01F27/30 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022286
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000214836
【氏名又は名称】長野日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 拓也
【テーマコード(参考)】
5E043
【Fターム(参考)】
5E043AA06
5E043BA03
5E043BA04
(57)【要約】
【課題】 製作工数の低減に伴う製作コストの削減を図るとともに、自動化容易性を含む製作容易性を高め、加えて、一体化したコイル部により、製作時のバラツキを無くしてトランス全体の性能向上及び品質向上に寄与する。
【解決手段】 一次コイル部C1又は二次コイル部C2における一方のコイル部(例えば、コイル部C2)を、中間シート部C2mを介して連続する第一のコイル半部C2uと第二のコイル半部C2dにより一体に形成するとともに、当該中間シート部C2mを湾曲させることにより、当該コイル半部C2u,C2d同士が所定間隔Gcを介して対面するU字状に形成し、かつ他方のコイル部C1を、コイル半部C2u,C2d同士間に配する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する一次コイル部とシート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する二次コイル部とを積層状に構成したトランスにおいて、前記一次コイル部又は前記二次コイル部における一方のコイル部を、中間シート部を介して連続する第一のコイル半部と第二のコイル半部により一体に形成するとともに、当該中間シート部を湾曲させることにより、当該コイル半部同士が所定間隔を介して対面するU字状に形成し、かつ他方のコイル部を、前記コイル半部同士間に配してなることを特徴とするトランス。
【請求項2】
前記コイル半部を含む前記コイルメンバの相互間には、絶縁スペーサを介在させることを特徴とする請求項1記載のトランス。
【請求項3】
前記コイル半部と前記絶縁スペーサ間には、正規の組付位置で係止する当該コイル半部に設けた孔部を含む凹部と前記絶縁スペーサに設けた凸部からなる位置規制部を備えることを特徴とする請求項2記載のトランス。
【請求項4】
シート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する一次コイル部とシート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する二次コイル部とを積層状に構成したトランスを製造するトランスの製造方法において、前記一次コイル部又は前記二次コイル部における一方のコイル部を、中間シート部を介して連続する第一のコイル半部と第二のコイル半部により一体に形成するとともに、当該中間シート部を湾曲させることにより、当該コイル半部同士が所定間隔を介して対面するU字状に形成するコイル製作工程と、このコイル製作工程により得られた前記コイル半部同士間に、他方のコイル部を挿入して組付けるコイル組付工程とを有することを特徴とするトランスの製造方法。
【請求項5】
前記コイル製作工程は、一枚のシート材を打ち抜くことにより、前記各コイル半部及び前記中間シート部を一体に有するコイル原材を製作する原材製作工程と、この原材製作工程により得られた前記中間シート部をヘミング曲げ加工する曲げ加工工程とを備えることを特徴とする請求項4記載のトランスの製造方法。
【請求項6】
前記コイル原材には、中間タップ部を一体形成することを特徴とする請求項5記載のトランスの製造方法。
【請求項7】
前記コイル半部を含む前記コイルメンバの相互間には、絶縁スペーサを介在させることを特徴とする請求項4記載のトランスの製造方法。
【請求項8】
前記コイル組付工程は、前記一方のコイル部に対して、前記他方のコイル部を挿入して組付けるとともに、前記一方のコイル部への挿入時に当該一方のコイル部に当接する前記絶縁スペーサのエッジ部には傾斜面を形成することを特徴とする請求項7記載のトランスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次コイル部と二次コイル部を積層状に構成することにより高電圧交流を低電圧交流に変換する際に用いて好適なトランス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高電圧交流を低電圧交流に変換するトランス、特に、プレーナ型トランスを使用した機器類としては、特許文献1で開示されるDC-DCコンバータが知られている。
【0003】
この種のDC-DCコンバータでは、一般に、一次コイル(一次巻線)に印加される400〔V〕程度の高電圧を、二次コイル(二次巻線)により12〔V〕程度の低電圧に変換して出力するプレーナ型トランスを内蔵するため、トランスの二次コイルには、100〔A〕程度の高電流が流れる。したがって、コイルには、十分な電流容量を確保し、かつ接続時の無用な電力損失をできるだけ低減するため、平角導線を使用する。また、二次コイルに、センタタップを設けるタイプのトランスでは、特許文献1に記載されるように、通常、巻数の多い一次コイルを内側に配し、かつこの一次コイルの両側に一対のコイル半部を配することにより、サンドイッチ状の積層構造とし、このコイル半部同士を接続部により接続して巻数の少ない二次コイルを構成するとともに、この接続部をセンタタップ端子として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来におけるトランス及びその製造方法は、次のような問題点があった。
【0006】
第一に、一次コイルの上側と下側に離間した一対の独立したコイル半部を備え、このコイル半部同士を固定ネジ等により接続して一体化した二次コイルを製作するため、二次コイルを製作するための製作工程が必要になる。特に、コイル半部同士の接続部が追加されるため、製作工数の増加に伴うコストアップを招くとともに、製作工程の煩雑化により、製作容易性の観点からもマイナス要因になる。しかも、一対のコイル半部同士の正確な位置決めが容易でないため、製作時のバラツキに伴うトランスにおける性能上及び品質上のバラツキも生じやすい。
【0007】
第二に、一対のコイル半部同士を接続する接続部をセンタタップ端子として用いるため、接続部をシンプルな構成にすることができない。即ち、一対のコイル半部同士の銅板線がオーバラップするとともに、これに伴って導出される銅板線が長くなり、銅板線に無駄が生じやすいとともに、銅損によるエネルギロスも無視できない。しかも、トランス全体における大型化,煩雑化及び重量化を招きやすい。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したトランス及びその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るトランス1は、上述した課題を解決するため、シート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する一次コイル部C1とシート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する二次コイル部C2とを積層状に構成したトランスを構成するに際し、一次コイル部C1又は二次コイル部C2における一方のコイル部(例えば、コイル部C2)を、中間シート部C2mを介して連続する第一のコイル半部C2uと第二のコイル半部C2dにより一体に形成するとともに、当該中間シート部C2mを湾曲させることにより、当該コイル半部C2u,C2d同士が所定間隔Gcを介して対面するU字状に形成し、かつ他方のコイル部C1を、コイル半部C2u,C2d同士間に配してなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るトランスの製造方法は、上述した課題を解決するため、シート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する一次コイル部C1とシート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する二次コイル部C2を積層状に構成してトランス1を製造するに際し、一次コイル部C1又は二次コイル部C2における一方のコイル部、例えば、コイル部C2を、中間シート部C2mを介して連続する第一のコイル半部C2uと第二のコイル半部C2dにより一体に形成するとともに、当該中間シート部C2mを湾曲させることにより、当該コイル半部C2u,C2d同士が所定間隔Gcを介して対面するU字状に形成するコイル製作工程(S2)と、このコイル製作工程(S2)により得られたコイル半部C2u,C2d同士間に、他方のコイル部C1を挿入して組付けるコイル組付工程(S3)とを有してなることを特徴とする。
【0011】
一方、本発明は、発明の好適な態様により、トランス1を構成するに際し、コイル半部C2u,C2dを含むコイルメンバcp1,cp2の相互間には、絶縁スペーサSu,Sm,Sdを介在させることができるとともに、特に、コイル半部C2u,C2dと絶縁スペーサSu,Sd間には、正規の組付位置Xsで係止する当該コイル半部C2u,C2dに設けた孔部を含む凹部5uc,5dcと絶縁スペーサSu,Sdに設けた凸部5us,5dsを用いた位置規制部5を設けることができる。さらに、トランス1を製造するに際し、コイル製作工程(S2)には、一枚のシート材を打ち抜くことにより、各コイル半部C2u,C2d及び中間シート部C2mを一体に有するコイル原材6を製作する原材製作工程(S2a)と、この原材製作工程(S2a)により得られた中間シート部C2mをヘミング曲げ加工する曲げ加工工程(S2c)を設けることができ、この際、コイル原材6には、中間タップ部7を一体形成することができる。また、コイル組付工程では、一方のコイル部C2に対して、他方のコイル部C1を挿入して組付けるとともに、一方のコイル部C2への挿入時に当該一方のコイル部C2に当接する絶縁スペーサSu,Sdのエッジ部には傾斜面Sus,Sdsを形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明に係るトランス1及びその製造方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 他方のコイル部(例えば、コイル部C1)の両側に、一方のコイル部C2を構成する一対のコイル半部C2u,C2dを配することにより、サンドイッチ状の積層構造のトランス1を製作する場合であっても、一体化したコイル部C2を使用することができるため、製作工数の低減に伴うコストダウンを図ることができるとともに、製作工程の単純化により、自動化容易性を含む製作容易性を高めることができる。一体化したコイル部C2により、製作時のバラツキが無くなるため、トランス1全体の性能向上及び品質向上に寄与できる。
【0014】
(2) 好適な態様により、コイル半部C2u,C2dを含むコイルメンバcp1,cp2の相互間に、絶縁スペーサSu,Sm,Sdを介在させれば、コイル半部C2u,C2dを含むコイルメンバcp1,cp2と絶縁スペーサSu,Sm,Sdを容易に積層できるため、コイル部C1のユニット化も容易に行うことができる。しかも、コイル部C2に対するコイル部C1の組付けも迅速かつ容易に行うことができる。
【0015】
(3) 好適な態様により、コイル半部C2u,C2dと絶縁スペーサSu,Sd間に、正規の組付位置Xsで係止する当該コイル半部C2u,C2dに設けた孔部を含む凹部5uc,5dcと絶縁スペーサSu,Sdに設けた凸部5us,5dsを用いた位置規制部5を設ければ、絶縁スペーサSu,Sdを含むユニット化したコイル部C1を、コイル部C2に挿入するのみで組付けできるため、製作工程の容易化に加えて、コイル部C1とC2の位置決め及び離脱防止を確実に行うことができる。
【0016】
(4) 好適な態様により、トランス1の製造に際し、コイル製作工程に、一枚のシート材を打ち抜くことにより、各コイル半部C2u,C2d及び中間シート部C2mを一体に有するコイル原材6を製作する原材製作工程と、この原材製作工程により得られた中間シート部C2mをヘミング曲げ加工する曲げ加工工程を設ければ、既存の打抜機や曲げ加工機等を利用して容易に製作できるなど、量産性に優れ、かつ均質性の高いコイル部C2を得ることができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、コイル原材6に、中間タップ部7を一体形成すれば、コイル部C2の製作時に、このコイル部C2の一部として中間タップ部7を一体に形成できるため、独立した中間タップを別途設ける場合に比べ、シンプルな中間タップ部7を容易に設けることができる。しかも、中間タップ部7を設ける位置を容易に選定できるため、設計自由度を高めることができる。加えて、トランス1全体の小型化及び軽量化に寄与できるとともに、銅線部の無駄や銅損によるエネルギロスの低減にも寄与できる。
【0018】
(6) 好適な態様により、コイル組付工程では、一方のコイル部C2に対して、他方のコイル部C1を挿入して組付けるとともに、一方のコイル部C2への挿入時に当該一方のコイル部C2に当接する絶縁スペーサSu,Sdのエッジ部に傾斜面Sus,Sdsを形成すれば、傾斜面Sus,Sdsがコイル部C1の挿入時におけるガイド面として機能させることができるため、一方のコイル部C2と他方のコイル部C1の組付けを円滑かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好適実施形態に係るトランスの断面側面図、
【
図2】同トランスを構成する二次コイル部の斜視図、
【
図3】同トランスを構成する絶縁スペーサを含む一次コイル部の分解斜視図、
【
図4】本発明の好適実施形態に係るトランスの製造方法の手順を説明するための製作工程図、
【
図5】同トランスを構成する二次コイル部のコイル原材の平面図、
【
図7】同トランスの製造方法のコイル組付時の説明図、
【
図8】同トランスの製造方法のコア組付時の説明図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係るトランス1の基本構成及び主要部品について、
図1-
図3,
図5及び
図6を参照して説明する。
【0022】
例示するトランス1は、DC-DCコンバータに使用するプレーナ型トランスであり、一次コイル部C1に印加される400〔V〕程度の高電圧を、二次コイル部C2により12〔V〕程度の低電圧に変換して出力する。このため、トランス1の二次コイル部C2には、100〔A〕程度の高電流が流れる。
【0023】
最初に、トランス1に使用する主要部品、特に、
図1に示す巻線部Cに使用する主要部品について説明する。トランス1に使用する主要部品には、
図1-
図3に示す、一次コイル部C1、二次コイル部C2、絶縁セパレータSu,Sm,Sdを備える。
【0024】
図3は、一次コイル部C1と絶縁セパレータSu,Sm,Sdにより構成する一次コイルユニットM1の分解図を示す。一次コイル部C1は、シート状に形成した二つのコイルメンバ、即ち、第一コイルメンバcp1と第二コイルメンバcp2を備える。
【0025】
第一コイルメンバcp1は、一定の厚さ(例えば、1〔mm〕程度)を有する銅板を、打抜機等により打抜形成したものであり、全体が矩形枠形となるシート状の銅線部21として形成される。そして、銅線部21の外側に位置する所定長さの端部は直角に折曲して一方の端子部21sに形成するとともに、内側に位置する端部は、第二コイルメンバcp2との接続部21jに使用する。第二コイルメンバcp2も第一コイルメンバcp1と同様に形成することができる。この場合、銅線部22は、全体が矩形枠形となるシート状に形成し、銅線部22の内側に位置する端部を第一コイルメンバcp1との接続部22jに使用するとともに、外側に位置する所定長さの端部は直角に折曲して他方の端子部22sに形成する。例示する第一コイルメンバcp1及び第二コイルメンバcp2の巻数は、それぞれ四ターンであり、接続部21jと22jが接続されることにより八ターンの一次コイル部C1が構成される。
【0026】
絶縁セパレータSu,Sm,Sdは、合成樹脂素材により一定の厚さ(例えば、1〔mm〕程度)を有する全体が矩形枠形のシート状に一体形成したものであり、第一コイルメンバcp1の上面に付設する第一絶縁セパレータSu,第一コイルメンバcp1と第二コイルメンバcp2間に介在させる中間絶縁セパレータSm,第二コイルメンバcp2の下面に付設する第二絶縁セパレータSdを備える。なお、第一絶縁セパレータSuは、第一コイルメンバcp1と後述する二次コイル部C2を構成するコイル半部C2u間に介在されるとともに、第二絶縁セパレータSdは、第二コイルメンバcp2と後述する二次コイル部C2を構成するコイル半部C2d間に介在される。したがって、各絶縁セパレータは、第一コイルメンバcp1,第二コイルメンバcp2を覆う大きさ及び形状を有するとともに、前述した接続部21j,22jが位置する中間絶縁セパレータSmの部位には、切欠部Smcを形成することにより、接続部21jと22j同士を接続可能にする。
【0027】
そして、一次コイルユニットM1は、
図1及び
図3に示すように、下から上に、第二絶縁セパレータSd,第二コイルメンバcp2,中間絶縁セパレータSm,第一コイルメンバcp1,第一絶縁セパレータSuの順に一体化した積層構造になるとともに、
図1に示すように、接続部21jと22jは切欠部Smcを通して接続され、一次コイルC1が構成される。
【0028】
このように、コイル半部C2u,C2dを含むコイルメンバcp1,cp2の相互間に、絶縁スペーサSu,Sm,Sdを介在させれば、コイル半部C2u,C2dを含むコイルメンバcp1,cp2と絶縁スペーサSu,Sm,Sdを容易に積層できるため、コイル部C1のユニット化も容易に行うことができる。しかも、コイル部C2に対するコイル部C1の組付けも迅速かつ容易に行うことができる。
【0029】
一方、
図2は、二次コイル部C2を示す。この二次コイル部C2は、中間シート部C2mを介して連続する第一のコイル半部C2uと第二のコイル半部C2dにより一体に形成するとともに、当該中間シート部C2mを湾曲させることにより、当該コイル半部C2u,C2d同士が所定間隔Gcを介して対面するU字状に形成する。
【0030】
第一のコイル半部C2u及び第二のコイル半部C2dは、それぞれ一ターンであり、二次コイル部C2全体の巻数は二ターンとなる。そして、第一のコイル半部C2uは、一端側に、所定長さの端部を直角に折曲した一方の端子部C2usを形成し、かつ他端側を中間シート部C2mの一端側に連続させるとともに、第二のコイル半部C2dは、他端側に、所定長さの端部を直角に折曲した他方の端子部C2dsを形成し、かつ一端側を中間シート部C2mの他端側に連続させる。したがって、二次コイル部C2は、実質的に二つのコイルメンバを含む構成となる。なお、各端子部C2us,C2dsの形状は、ティグ溶接用の端子形状を例示したが、ネジ止用の円孔を設けた端子形状等、各種端子形状を適用可能である。
【0031】
したがって、二次コイル部C2は、
図5に示すコイル原材6を用いて製作することができる。このコイル原材6は、一定の厚さ(例示は、1.5〔mm〕程度)を有する銅板を、打抜機等により打抜形成したものであり、特に、このコイル原材6には、中間タップ部7を一体形成する。このように、コイル原材6に、中間タップ部7を一体形成すれば、二次コイル部C2の製作時に、この二次コイル部C2の一部として中間タップ部7を一体に形成できるため、独立した中間タップを別途設ける場合に比べ、シンプルな中間タップ部7を容易に設けることができる。しかも、
図6に仮想線で示す中間タップ部7x,7yのように、中間タップ部7を設ける位置を容易に選定できるため、設計自由度を高めることができる。加えて、トランス1全体の小型化及び軽量化に寄与できるとともに、銅線部の無駄や銅損によるエネルギロスの低減にも寄与できる。
【0032】
そして、このように構成される二次コイル部C2の内側に、前述した一次アセンブリユニットM1を収容することにより、本実施形態に係るトランス1の主要部の基本構成、即ち、
図1に示す巻線部Cを得ることができる。
【0033】
次に、本実施形態に係るトランス1の細部の構成(機能)を含むトランス1の製造方法について、
図1-
図3及び
図5-
図9を参照しつつ、
図4に示す製作工程図(フローチャート)に従って説明する。
【0034】
まず、一次コイル部C1を含む一次コイルユニットM1を製作する(ステップS1)。この場合、第一コイルメンバcp1及び第二コイルメンバcp2は、一枚の銅板、例示の場合、1.0〔mm〕程度の一定の厚さを有するシート状の銅板を、打抜機等により打抜形成するとともに、得られた銅線部21,22の端部を折曲して端子部21s,22sを形成する(ステップS1a)。これにより、
図3に示す第一コイルメンバcp1及び第二コイルメンバcp2を得ることができる。また、各絶縁セパレータSu,Sm及びSdは、金型成形等により合成樹脂素材を用いて一体形成する(ステップS1b)。これにより、
図3に示す各絶縁セパレータSu,Sm,Sdを得ることができる。
【0035】
そして、同図に示すように、下から上に、第二絶縁セパレータSd,第二コイルメンバcp2,中間絶縁セパレータSm,第一コイルメンバcp1,第一絶縁セパレータSuの順の接着剤等により固定すれば、一体化した積層構造の一次コイルユニットM1が得られる(ステップS1c)。これにより、一次コイル部C1は、各絶縁セパレータSu,Sm,Sdにより絶縁されるとともに、組付けられた第一コイルメンバcp1の接続部21jと第二コイルメンバcp2の接続部22j同士は、切欠部Smcを通して溶着等により接続する。
図7に得られた一次コイルユニットM1を示す。
【0036】
また、二次コイル部C2を製作する。二次コイル部C2は、中間シート部C2mを介して連続する第一のコイル半部C2uと第二のコイル半部C2dにより一体に形成するとともに、当該中間シート部C2mを湾曲させることにより、当該コイル半部C2u,C2d同士が所定間隔Gcを介して対面するU字状に形成するコイル製作工程により製作される(ステップS2)。
【0037】
この場合、コイル製作工程には、原材製作工程と曲げ加工工程を備える。原材製作工程では、一枚の銅板、例示の場合、1.5〔mm〕程度の一定の厚さを有する銅板を、打抜機等により打抜形成し、
図5に示すコイル原材6を製作する(ステップS2a)。このように一体形成されるシート状のコイル原材6には、矩形枠形の第一のコイル半部C2u,中間シート部C2m,矩形枠形の第二のコイル半部C2d,更には中間タップ部7,端子部C2us,端子部C2dsが連続して一体形成される。
【0038】
そして、コイル原材6が得られたなら、第一のコイル半部C2uの一端側を折曲して一方の端子部C2usを形成するとともに、第二のコイル半部C2dの他端側を折曲して他方の端子部C2dsを形成する(ステップS2b)。次いで、曲げ加工工程により、中間シート部C2mを湾曲させることにより、当該コイル半部C2u,C2d同士が所定間隔Gcを介して対面するU字状に形成する。所定間隔Gcは、前述した一次コイルユニットM1の厚さに一致させる。また、中間シート部C2mの湾曲加工は、曲げ加工機等によりヘミング曲げ加工を用いることができる(ステップS2c)。
図2に得られた二次コイル部C2を示す。
【0039】
このように、二次コイル部C2を製作するコイル製作工程に、一枚のシート材を打ち抜くことにより、各コイル半部C2u,C2d及び中間シート部C2mを一体に有するコイル原材6を製作する原材製作工程と、この原材製作工程により得られた中間シート部C2mをヘミング曲げ加工する曲げ加工工程を設ければ、既存の打抜機や曲げ加工機等を利用して容易に製作できるなど、量産性に優れ、かつ均質性の高いコイル部C2を得ることができる。
【0040】
この後、
図7に示すように、コイル製作工程により得られた二次コイル部C2におけるコイル半部C2u,C2d同士間に、一次コイル部C1を含む一次コイルユニットM1を、矢印Fc方向に挿入して組付けるコイル組付工程を行う(ステップS3)。
【0041】
ところで、コイル組付工程では、製造工程の容易化及び確実化を図るため、細部加工が施されている。
図7にその詳細を示す。まず、一次コイル部C1を含む一次コイルユニットM1の絶縁スペーサSu,Sdのエッジ部であって、二次コイル部C2の各コイル半部C2u,C2d間に挿入する際における当該コイル半部C2u,C2dに当接するエッジ部には、傾斜面Sus,Sdsを形成する。このような傾斜面Sus,Sdsを形成すれば、傾斜面Sus,Sdsが一次コイル部C1の挿入時におけるガイド面として機能させることができるため、二次コイル部C2と一次コイル部C1の組付けを円滑かつ迅速に行うことができる。
【0042】
また、二次コイル部C2におけるコイル半部C2u,C2dと一次コイルユニットM1における絶縁スペーサSu,Sm間には、正規の組付位置Xsで係止する当該コイル半部C2u,C2dに設けた凹部5uc,5dcと絶縁スペーサSu,Sdに設けた凸部5us,5dsを用いた位置規制部5を設ける。なお、凹部5uc,5dcには孔部も含まれる。例示の凹部5uc,5dcは円柱状の孔部により形成するとともに、凸部5us,5dsを略半球状に形成した。これにより、正規の組付位置Xsでは、凸部5us,5dsが凹部5uc,5dcにクリック係合する。
【0043】
このように、コイル半部C2u,C2dと絶縁スペーサSu,Sd間に、正規の組付位置Xsで係止する当該コイル半部C2u,C2dに設けた孔部を含む凹部5uc,5dcと絶縁スペーサSu,Sdに設けた凸部5us,5dsを用いた位置規制部5を設ければ、絶縁スペーサSu,Sdを含むユニット化したコイル部C1を、コイル部C2に挿入するのみで組付けできるため、製作工程の容易化に加えて、コイル部C1とC2の位置決め及び離脱防止を確実に行うことができる。
【0044】
コイル組付工程を経ることにより、
図1に示す巻線部Cを得ることができる。そして、巻線部Cが得られたなら、
図8及び
図9に示すように、巻線部Cに対して絶縁ケース51を組付ける(ステップS4)。これにより、巻線部Cの外面は絶縁ケース51により覆われる。次いで、
図8にしめすように、絶縁ケース51を組付けた巻線部Cに対して、コイル半部C2u側に、矢印Fu方向から上コア51uを組付けるとともに、コイル半部C2d側に、矢印Fd方向から下コア51dを組付ける(ステップS5)。そして、上コア51u及び下コア51dを組付けた状態において、
図9に示すように、上コア51u及び下コア51dの外面に沿って固定テープ53を巻付けるテーピング処理を行う(ステップS6)。これにより、巻線部Cに対して上コア51u及び下コア51dが固定され、目的のトランス1を得ることができる。
【0045】
このように、本発明に係るトランス1(及び製造方法)によれば、基本構成として、一方のコイル部となる二次コイル部C2を、中間シート部C2mを介して連続する第一のコイル半部C2uと第二のコイル半部C2dにより一体に形成するとともに、当該中間シート部C2mを湾曲させることにより、当該コイル半部C2u,C2d同士が所定間隔Gcを介して対面するU字状に形成し、かつ他方のコイル部となる一次コイル部C1を、コイル半部C2u,C2d同士間に配して構成するため、一次コイル部C1の両側に、二次コイル部C2を構成する一対のコイル半部C2u,C2dを配することにより、サンドイッチとなる積層構造のトランス1を製作する場合であっても、一体化したコイル部C2を使用することができるため、製作工数の低減に伴うコストダウンを図ることができるとともに、製作工程の単純化により、自動化容易性を含む製作容易性を高めることができる。一体化したコイル部C2により、製作時のバラツキが無くなるため、トランス1全体の性能向上及び品質向上に寄与できる。
【0046】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0047】
例えば、実施形態では、二次コイル部C2を一方のコイル部とし、一次コイル部C1を他方のコイル部としたが、一次コイル部C1を一方のコイル部とし、二次コイル部C2を他方のコイル部としてもよい。また、一次コイル部C1を二つのコイルメンバにより構成した場合を示したが、一つであってもよいし、三つ以上であってもよい。即ち、一般的には、シート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する一次コイル部C1とシート状に形成した一又は二以上のコイルメンバを有する二次コイル部C2とを積層状に構成した各種トランスに適用可能である。さらに、コイル半部C2u,C2dを含む各コイルメンバcp1,cp2の相互間に、絶縁スペーサSu,Sm,Sdを介在させる形態が望ましいが、二次コイル部C2及び一次コイル部C1の各コイルメンバに絶縁塗料を塗布したり各コイルメンバを合成樹脂素材によりインサート成形するなどの他の絶縁手段を講じる場合を排除するものではない。一方、コイル半部C2u,C2dと絶縁スペーサSu,Sp間に、正規の組付位置Xsで係止する当該コイル半部C2u,C2dに設けた孔部を含む凹部5uc,5dcと絶縁スペーサSu,Spに設けた凸部5us,5dsを用いた位置規制部5を設けることが望ましいが、同様の位置決め機能及び固定機構を有する他の手段による位置規制部5であってもよいし、必ずしも必須の構成要素となるものではない。さらに、二次コイル部C2を形成するに際し、一枚のシート材を打ち抜くことにより、各コイル半部C2u,C2d及び中間シート部C2mを一体に有するコイル原材6を製作する原材製作工程と、この原材製作工程により得られた中間シート部C2mをヘミング曲げ加工する曲げ加工工程とを経て二次コイル部C2を形成する手法を示したが、中間シート部C2mを介して連続する第一のコイル半部C2uと第二のコイル半部C2dにより一体に形成するとともに、当該中間シート部C2mを湾曲させることにより、当該コイル半部C2u,C2d同士が所定間隔Gcを介して対面するU字状に形成する工程であれば、他の手法によるコイル製作工程により置換可能である。他方、コイル原材6に、中間タップ部7を一体形成する例を示したが、必ずしも必須の構成要素となるものではないとともに、絶縁スペーサSu,Sdのエッジ部に設ける傾斜面Sus,Sdsも必ずしも必須の構成要素となるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、DC-DCコンバータ等に使用する一次コイル部と二次コイル部を積層状に構成したプレーナ型トランスをはじめ、各種用途のトランス及びその製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1:トランス,5:位置規制部,5uc:孔部を含む凹部,5dc:孔部を含む凹部,5us:凸部,5ds:凸部,6:コイル原材,7:中間タップ部,C1:一次コイル部,C2:二次コイル部,C2m:中間シート部,C2u:第一のコイル半部,C2d:第二のコイル半部,Gc:所定間隔,cp1:コイルメンバ(第一のコイルメンバ),cp2:コイルメンバ(第二のコイルメンバ),Su:絶縁スペーサ(第一絶縁スペーサ),Sus:傾斜面,Sd:絶縁スペーサ(第二絶縁スペーサ),Sds:傾斜面,Sm:絶縁スペーサ(中間絶縁スペーサ),Xs:正規の組付位置,(S2):コイル製作工程,(S2a):原材製作工程,(S2c):曲げ加工工程,(S3):コイル組付工程