(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124571
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】25-OHC誘導性グリア細胞死の抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/015 20060101AFI20220819BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220819BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20220819BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/538 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/5415 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/4453 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/4418 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/4468 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/136 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/28 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/16 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/499 20060101ALI20220819BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220819BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
A61K31/015
A61P25/02
A61K38/06
A61P43/00 105
A61K31/355
A61K31/353
A61K31/538
A61K31/5415
A61K31/44
A61K31/4453
A61K31/4418
A61K31/4468
A61K31/198
A61K31/05
A61K31/136
A61K31/122
A61K31/28
A61K31/16
A61K31/499
A61K45/00
A61P21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022287
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 泰臣
(72)【発明者】
【氏名】野口 範子
(72)【発明者】
【氏名】岩垣 あなん
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA15
4C084BA23
4C084NA14
4C084ZA22
4C084ZC41
4C086AA01
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4C086BC21
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4C086CB09
4C086HA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA22
4C086ZC41
4C206AA01
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4C206FA53
4C206GA25
4C206JA80
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA22
4C206ZC41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】25-OHC誘導性グリア細胞死の抑制剤を提供すること。
【解決手段】フェロトーシス阻害剤を含有する、25-OHC誘導性グリア細胞死の抑制剤。フェロトーシス阻害剤がトコフェロール以外のフェロトーシス阻害剤であり、脂溶性抗酸化剤及び鉄キレート剤からなる群より選択され、例としてトコトリエノール、β-カロテン、グルタチオン、N-アセチルシステイン、ジブチルヒドロキシトルエン、エブセレン、トロロックス、ジアリールアミン、フェノキサジン、フェノチアジン等が挙げられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェロトーシス阻害剤を含有する、25-OHC誘導性グリア細胞死の抑制剤。
【請求項2】
前記グリア細胞がシュワン細胞である、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
前記フェロトーシス阻害剤が、脂溶性抗酸化剤及び鉄キレート剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の抑制剤。
【請求項4】
前記フェロトーシス阻害剤がトコフェロール以外のフェロトーシス阻害剤である、請求項1~3のいずれかに記載の抑制剤。
【請求項5】
前記フェロトーシス阻害剤がトコトリエノール、β-カロテン、グルタチオン、N-アセチルシステイン、ジブチルヒドロキシトルエン、エブセレン、トロロックス、Ferrostatin-1、Liproxstatin-1、SSRS11-92、SRS16-86、XJB-5-131、ジアリールアミン、フェノキサジン、フェノチアジン、Tetrahydronapthyridinols、PMC、TEMPO、Deferoxamine、シクロピロクスオラミン、2,2'-ビピリジン、塩化アンモニウム、バフィロマイシンA1、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれかに記載の抑制剤。
【請求項6】
グリア細胞異常により増悪又は惹起される疾患の予防又は改善に用いるための、請求項1~5のいずれかに記載の抑制剤。
【請求項7】
前記グリア細胞がシュワン細胞である、請求項6に記載の抑制剤。
【請求項8】
前記疾患が筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び脱髄疾患からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6又は7に記載の抑制剤。
【請求項9】
フェロトーシス阻害剤を含有する、グリア細胞異常により増悪又は惹起される疾患の予防又は改善剤。
【請求項10】
フェロトーシス阻害剤を含有する、脂質過酸化誘導性グリア細胞死の抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、25-OHC誘導性グリア細胞死の抑制剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
25-OHC(25-hydroxycholesterol)は全身で発現しているcholesterol 25 hydroxylase (CH25H)等 によって生成され、主に体内のコレステロール代謝の役割を担っている。また、高濃度の25-OHCがヒト神経芽細胞腫であるSH-SY5Y細胞に対して細胞死を誘導することが報告されている(特許文献1)。
【0003】
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが選択的に変性死滅する疾患で、筋力低下、筋萎縮を伴い、発症から3~5年で人工呼吸が必要となる。ALS患者の血清及び脳脊髄液中で25-OHCが増加しており、運動ニューロンに細胞死を誘導することが報告されている。また末期のALSモデルマウスの脊髄における25-OHCの値が正常マウスの約10倍に上昇していること、25-OHCを生成するために必要な酵素CH25HのmRNAの値が通常マウスの約30倍以上に上昇していることが報告されている。
【0004】
グリア細胞は中枢神経の軸索にミエリンを形成するオリゴデンドロサイトと末梢神経の軸索にミエリンを形成するシュワン細胞があり、どちらも運動ニューロンの軸索における活動電位の伝導を迅速にしている。ALSモデルマウスの脊髄において発症前に灰白質オリゴデンドロサイトの広範な変性が認められることや、ALS患者の運動野と脊髄で灰白質脱髄が認められることが報告されている。またシュワン細胞は酵素活性が保たれた、活性型変異SOD1の発現に依存している神経栄養因子Insulin-like Growth Factor 1 (IGF-1) を産生しているため、ALSモデルマウスから活性型変異SOD1を取り除くと,ALSの進行が顕著に加速することが報告されている。これらの先行研究より,グリア細胞の変性がALSの発症につながることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Cell Death and Differentiation (2016) 23, 369-379.
【非特許文献2】Front Pharmacol. 2020; 11: 239.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、研究を進める中で、25-OHCがグリア細胞(特にシュワン細胞)の細胞死を誘導することを見出した。この25-OHC誘導性グリア細胞死を抑制することができれば、ALS等のグリア細胞異常により増悪又は惹起される疾患の予防又は治療に有用であると考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、25-OHC誘導性グリア細胞死の抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、フェロトーシス阻害剤が、25-OHC誘導性グリア細胞死を抑制できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0010】
項1. フェロトーシス阻害剤を含有する、25-OHC誘導性グリア細胞死の抑制剤。
【0011】
項2. 前記グリア細胞がシュワン細胞である、項1に記載の抑制剤。
【0012】
項3. 前記フェロトーシス阻害剤が、脂溶性抗酸化剤及び鉄キレート剤からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の抑制剤。
【0013】
項4. 前記フェロトーシス阻害剤がトコフェロール以外のフェロトーシス阻害剤である、項1~3のいずれかに記載の抑制剤。
【0014】
項5. 前記フェロトーシス阻害剤がトコトリエノール、β-カロテン、グルタチオン、N-アセチルシステイン、ジブチルヒドロキシトルエン、エブセレン、トロロックス、Ferrostatin-1、Liproxstatin-1、SSRS11-92、SRS16-86、XJB-5-131、ジアリールアミン、フェノキサジン、フェノチアジン、Tetrahydronapthyridinols、PMC、TEMPO、Deferoxamine、シクロピロクスオラミン、2,2'-ビピリジン、塩化アンモニウム、バフィロマイシンA1、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~4のいずれかに記載の抑制剤。
【0015】
項6. グリア細胞異常により増悪又は惹起される疾患の予防又は改善に用いるための、項1~5のいずれかに記載の抑制剤。
【0016】
項7. 前記グリア細胞がシュワン細胞である、項6に記載の抑制剤。
【0017】
項8. 前記疾患が筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び脱髄疾患からなる群より選択される少なくとも1種である、項6又は7に記載の抑制剤。
【0018】
項9. フェロトーシス阻害剤を含有する、グリア細胞異常により増悪又は惹起される疾患の予防又は改善剤。
【0019】
項10. フェロトーシス阻害剤を含有する、脂質過酸化誘導性グリア細胞死の抑制剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、25-OHC誘導性グリア細胞死の抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】試験例1のWST-8 assayの結果を示す。縦軸は細胞生存率を示し、横軸は25-OHCの培地中濃度を示す。n=3, mean±S.D. , **p<0.01 versus DMSO only, Tukey Kramer, ANOVA
【
図2】試験例2のWestern Blottingの結果を示す。写真上方に添加した薬剤を示す。写真右側にバンドのタンパク質を示す。
【
図3】試験例3のWST-8 assayの結果を示す。縦軸は細胞生存率を示し、横軸は薬剤の培地中濃度又は薬剤の有無を示す。Aは薬剤としてα-Toc(α- Tocopherol)単独を使用した場合であり、Bは薬剤としてα-Toc3(α- Tocotrienol)単独を使用した場合であり、CはさらにCHP(Cumene Hydroperoxide)を使用した場合である。A及びB:n=3, mean±S.D. , **p<0.01 versus DMSO only, ## p<0.01 versus 25-OHC only, Tukey Kramer, ANOVA、C:n=2, mean±S.D. , **p<0.01 versus DMSO only, ## p<0.01 versus CHP only, Tukey Kramer, ANOVA
【
図4】試験例4のWST-8 assayの結果を示す。縦軸は細胞生存率を示し、横軸は薬剤の培地中濃度を示す。A及びB:n=3, mean±S.D. , **p<0.01 versus DMSO only, ## p<0.01 versus 25-OHC only, Tukey Kramer, ANOVA、C及びD:n=3, mean±S.D. , **p<0.01 versus DMSO only, ## p<0.01 versus RSL3 only, Tukey Kramer, ANOVA
【
図5】試験例5の蛍光観察写真を示す。各写真上方に使用した薬剤を示す。スケールバー:500 μm
【
図6】試験例6の蛍光観察写真を示す。各写真上方に使用した薬剤を示す。スケールバー:500 μm
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0023】
本発明は、その一態様において、フェロトーシス阻害剤を含有する、25-OHC誘導性グリア細胞死の抑制剤(本明細書において、「本発明の抑制剤」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0024】
フェロトーシスは、Caspase非依存的、鉄依存性で過酸化脂質の蓄積を特徴とする細胞死である。フェロトーシスを引き起こすメカニズムは次の通りである。まずLipoxygenases (LOXs) によって酸化された細胞膜内の脂質が過酸化脂質 (LOOH) に変換され、鉄イオンを介したフェントン反応によって脂質ペルオキシラジカル (LOO・) や脂質アルコキシルラジカル (LO・) に変換される。変換されたこれらのラジカルが細胞内の脂質と反応することで連鎖的に過酸化脂質を生成し、蓄積させ、細胞死を引き起こす。
【0025】
フェロトーシス阻害剤は、フェロトーシスを阻害又は抑制することができる物質である限り、特に制限されない。フェロトーシス阻害剤として、各種物質が報告されている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2)。フェロトーシス阻害剤としては、好ましくは脂溶性抗酸化剤、鉄キレート剤等が挙げられる。脂溶性抗酸化剤としては、好ましくはビタミンE(例えばトコトリエノール、トコフェロール(好ましくはトコトリエノール、より好ましくはα-トコトリエノール))、β-カロテン、グルタチオン、N-アセチルシステイン、ジブチルヒドロキシトルエン、エブセレン、トロロックス、Ferrostatin-1、Liproxstatin-1、SSRS11-92、SRS16-86、XJB-5-131、ジアリールアミン、フェノキサジン、フェノチアジン、Tetrahydronapthyridinols、PMC、TEMPO等が挙げられる。鉄キレート剤としては、フェントン反応を阻害可能な物質である限り特に制限されないが、好ましくはDeferoxamine、シクロピロクスオラミン、2,2'-ビピリジン、塩化アンモニウム、バフィロマイシンA1等が挙げられる。
【0026】
フェロトーシス阻害剤としては、上記例示した具体的な物質以外にも、例えばシクロヘキシミド、アミノオキシ酢酸、2-メルカプトエタノール、Diphenyleneiodonium、GKT137831、6-アミノニコチンアミド、SU6656、U0126、Zileuton、SB202190、SP600125、NDGA、PD146176、CDC、AA-861、BW A4C、Baicalein、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン等が挙げられる。
【0027】
フェロトーシス阻害剤としては、上記に例示した低分子化合物以外にも、フェロトーシスにおいて機能するタンパク質の発現促進剤又は発現抑制剤であるポリヌクレオチドを使用することができる。例えば、フェロトーシスを抑制するタンパク質(例えばGPx4)の発現促進剤(例えば、GPx4発現ベクター等)は、フェロトーシス阻害剤として使用することが可能である。また、フェロトーシスを促進するタンパク質の発現抑制剤(例えば、対象遺伝子特異的small interfering RNA(siRNA)、対象遺伝子特異的microRNA(miRNA)、対象遺伝子特異的アンチセンス核酸、これらの発現カセット; RSL3特異的リボザイム; CRISPR/Casシステムによる対象遺伝子遺伝子編集剤等)は、フェロトーシス阻害剤として使用することが可能である。
【0028】
なお、発現促進とは、対象タンパク質、対象 mRNAなどの発現量を、例えば1.5倍、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、300倍、500倍、1000倍、10000倍以上に促進することを意味する。また、発現抑制とは、対象タンパク質、対象 mRNAなどの発現量を、例えば1/2、1/3、1/5、1/10、1/20、1/30、1/50、1/100、1/200、1/300、1/500、1/1000、1/10000以下に抑制することを意味し、これらの発現量を0とすることをも包含する。
【0029】
発現ベクターは、対象遺伝子のコード配列が発現可能な状態で(典型的にはプロモーター下流に)配置されてなるベクターである限り、特に制限されない。プロモーターとしては、動物細胞で高転写活性のプロモーター(例えばCMVプロモーター等)、細胞種特異的プロモーター等を使用することができる。
【0030】
対象遺伝子特異的siRNAは、対象遺伝子の発現を特異的に抑制する二本鎖RNA分子である限り特に制限されない。一実施形態において、siRNAは、例えば、18塩基以上、19塩基以上、20塩基以上、又は21塩基以上の長さであることが好ましい。また、siRNAは、例えば、25塩基以下、24塩基以下、23塩基以下、又は22塩基以下の長さであることが好ましい。ここに記載するsiRNAの長さの上限値及び下限値は任意に組み合わせることが想定される。
【0031】
対象遺伝子特異的miRNAは、対象遺伝子をコードする遺伝子の翻訳を阻害する限り任意である。例えば、miRNAは、siRNAのように標的mRNAを切断するのではなく、標的の3’非翻訳領域(UTR)に対合してその翻訳を阻害してもよい。miRNAは、pri-miRNA(primary miRNA)、pre-miRNA(precursor miRNA)、及び成熟miRNAのいずれでもよい。miRNAの長さは特に制限されず、pri-miRNAの長さは通常数百~数千塩基であり、pre-miRNAの長さは通常50~80塩基であり、成熟miRNAの長さは通常18~30塩基である
対象遺伝子特異的アンチセンス核酸とは、対象遺伝子のmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含む核酸であって、該mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、対象遺伝子タンパク質合成を抑制する機能を有する核酸である。アンチセンス核酸はDNA、RNA、DNA/RNAキメラのいずれでもよい。
【0032】
「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAを意味するが、本願では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものは、ウイロイドやウイルソイドなどの感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型などが知られている。
【0033】
対象遺伝子編集剤は、標的配列特異的ヌクレアーゼシステム(例えばCRISPR/Casシステム)により、対象遺伝子の発現を抑制可能なものである限り特に制限されない。対象遺伝子の発現抑制は、例えば対象遺伝子の破壊、対象遺伝子のプロモーターの改変による該プロモーターの活性抑制により可能である。典型的には、対象遺伝子又はそのプロモーターを標的とするガイドRNA発現カセット、及び対象遺伝子発現カセットを含むベクター(対象遺伝子編集用ベクター)を用いることができる。
【0034】
フェロトーシス阻害剤は、上記例示した具体的な物質の塩も包含する。塩としては、薬学的に許容される塩である限り特に制限されず、例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等の無機塩基との塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基との塩;リジン、オルニチン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩及びアンモニウム塩が挙げられる。当該塩は、酸付加塩であってもよく、かかる塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、マレイン酸、クエン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との酸付加塩が挙げられる。塩として、具体的には、例えばDeferoxamineのメタンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0035】
フェロトーシス阻害剤である上記各物質(塩も含む)は、溶媒和物の形態も包含する。溶媒は、特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0036】
本発明の好ましい一態様において、フェロトーシス阻害剤は、トコフェロール以外のフェロトーシス阻害剤であることが好ましい。この態様において、フェロトーシス阻害剤としては、好ましくはトコトリエノール、β-カロテン、グルタチオン、N-アセチルシステイン、ジブチルヒドロキシトルエン、エブセレン、トロロックス、Ferrostatin-1、Liproxstatin-1、SSRS11-92、SRS16-86、XJB-5-131、ジアリールアミン、フェノキサジン、フェノチアジン、Tetrahydronapthyridinols、PMC、TEMPO、Deferoxamine、シクロピロクスオラミン、2,2'-ビピリジン、塩化アンモニウム、バフィロマイシンA1、それらの塩等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくはトコトリエノール、Ferrostatin-1、Deferoxamine、それらの塩等が挙げられる。
【0037】
フェロトーシス阻害剤は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組合わせて使用することもできる。
【0038】
フェロトーシス阻害剤は、市販されているものを利用することができ、また公知の情報に従って製造したものを利用することもできる。
【0039】
本発明の抑制剤は、25-OHC誘導性グリア細胞死を抑制するために使用されるものである。25-OHC誘導性グリア細胞死とは、25-OHC量が亢進している細胞環境におけるグリア細胞死である。ここで、亢進とは、25-OHC量が、通常の量(例えば健常被検体の同領域における量の平均値)に対して、例えば1.2倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、7倍、又は10倍であることができる。
【0040】
細胞死を抑制する対象グリア細胞としては、好ましくはシュワン細胞、オリゴデンドロサイト等が挙げられ、特に好ましくはシュワン細胞が挙げられる。
【0041】
本発明の抑制剤の使用態様は、特に制限されず、その種類に応じて適切な使用態様を採ることができる。本発明の抑制剤は、その用途に応じて、例えばin vitroで使用する(例えば、培養細胞の培地に添加する。)こともできるし、in vivoで使用する(例えば、動物に適用する(例えば摂取させる、接種する、又は投与する))こともできる。
【0042】
本発明の抑制剤をin vivoで使用する場合、好適には、本発明の抑制剤は、グリア細胞異常により増悪又は惹起される疾患の予防又は改善(例えば、治療)のために使用することができる。この観点から、本発明は、その一態様において、フェロトーシス阻害剤を含有する、グリア細胞異常により増悪又は惹起される疾患の予防又は改善剤、にも関する。当該予防又は改善剤の構成については、本発明の抑制剤と同様である。
【0043】
上記疾患としては、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脱髄疾患等が挙げられる。脱髄疾患としては、例えば多発性硬化症、視神経脊髄炎、同心円硬化症、急性散在性脳脊髄炎、炎症性広汎性硬化症、亜急性硬化症全脳炎、進行性多巣性白質脳症等の中枢神経系脱髄疾患; ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎等の末梢神経系脱髄疾患等が挙げられる。これらの中でも、特に、筋萎縮性側索硬化症が好ましい。
【0044】
なお、本明細書において、「改善」とは、症状や状態を、軽減、緩和、回復等させること、症状や状態の悪化、増悪等を抑制すること等を包含する。
【0045】
本発明の抑制剤の適用対象は特に限定されないが、哺乳動物では、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等が挙げられる。また、細胞としては、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0046】
本発明の抑制剤は、各種分野において、例えば医薬、試薬、食品添加剤、食品組成物(健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)を包含する)などとして用いることができる。
【0047】
本発明の抑制剤の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0048】
本発明の抑制剤の形態としては、用途が医薬の場合は、任意の剤形、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口製剤形態、注射用製剤(例えば、点滴注射剤(例えば点滴静注用製剤等)、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等の非経口製剤形態を採ることができる。
【0049】
また、本発明の抑制剤の用途が医薬である場合は、投与経路としては、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、経管栄養、注腸投与等の経腸投与; 経鼻投与; 経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等の非経口投与等が挙げられる。
【0050】
本発明の抑制剤の形態としては、用途が食品添加剤、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0051】
本発明の抑制剤の形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばラーメン、ハンバーガー、揚げ物、ジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、バターなどの食用油脂、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキーなどが挙げられる。
【0052】
本発明の抑制剤は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品添加剤、食品組成物、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではない。医薬等の場合、例えば賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として使用される各種の有機又は無機担体物質を挙げることができる。
【0053】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、D-マンニトール、塩化ナトリウム、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウム、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ホウ酸末、コロイドシリカ等が挙げられる。結合剤としては、例えば、デキストリン、デンプン液、ゼラチン溶液、結晶セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0054】
崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ナミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。溶剤としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0055】
懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤、及び、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0056】
薬剤には、担体の他に、必要に応じて、防腐剤、着色剤、甘味剤等添加物を用いることもできる。防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。
【0057】
本発明の抑制剤におけるフェロトーシス阻害剤(有効成分)の含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100質量%とすることができる。当該含有割合の上限は、例えば99質量%、98質量%、97質量%、95質量%、90質量%、80質量%、70質量%、又は60質量%である。当該含有量の下限は、例えば0.001質量%、0.01質量%、0.1質量%、1質量%、2質量%、3質量%、5質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、又は50質量%である。
【0058】
本発明によればフェロトーシス阻害剤により25-OHC誘導性グリア細胞死を抑制することができるので、当該細胞死抑制作用を有する他の成分は含まなくともよい。当該細胞死抑制作用を有するフェロトーシス阻害剤以外の他の成分の含有量は、フェロトーシス阻害剤100質量部に対して、例えば50質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、1質量部以下である。
【0059】
本発明の抑制剤の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、その効果を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、フェロトーシス阻害剤の乾燥重量として、一般に一日あたり0.1~1000mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【実施例0060】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0061】
試験方法
特に断りの無い限り、各試験例における試験方法は、以下の通りとした。
【0062】
試験方法1.細胞培養
<実験材料・試薬>
・Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM) 4.5 g/L D-Glucose, L-Glutamune (Gibco)
・5% Fetal Bovine Serum (FBS) (SIGMA)
・1% 抗生物質 (0.05 unit/ml Penicillin, 0.05 μg/ml Streptomycin) (Gibco)
・滅菌PBS (Phosphate buffered saline) : 1 x PBSをオートクレーブで滅菌
→ 10 x PBS : 137 mM NaCl (Wako), 2.68 mM KH2PO4 (Wako),
8.1 mM Na2HPO4・12H2O(Wako), 1.47 mM KCl (Wako)をMilliQに溶解
→ 1 x PBS : 10 x PBSをMilliQで10倍希釈
・0.25 w/v% Trypsin,0.01 mol/ml EDTA・4Na溶液 (Trypsin EDTA) (Wako)。
【0063】
<実験方法>
実験には、コスモ・バイオ株式会社より購入したマウスシュワン細胞株IMS32を培養して用いた。培養は、37℃、5%CO2存在下で行った。培養培地には、56℃で30分間処理し、非働化した5%FBSと、1%抗生物質を添加したDMEM培地を用いた。0.25% Trypsin EDTAは滅菌PBSで5倍希釈し、0.05% Trypsin EDTAとして用いた。
(1)100 mm dish (FALCON) にサブコンフルエント状態になった細胞からアスピレーターで培地を除去した。
(2)培地を3 ml 添加してピペッティングすることで細胞を剥がし、15 mlチューブ (Thermo) に細胞を回収した。
(3)100 mm dish に残った細胞を剥がすために、0.05% Trypsin EDTAを1 ml 添加し、10秒ほど静置した。
(4)10秒後、培地を1 ml 添加し、15 mlチューブに細胞を回収した。
(5)回収した細胞を室温で1,000 rpm、5分間遠心した。
(6)上清をアスピレーターで除去し、培地を1 ml 添加して優しくピペッティングし、さらに培地を1 ml添加してピペッティングした。
(7)6の懸濁液 10 μlと培地 30 μlとを1.5 mlチューブに移して懸濁し、ノイバウエル血球計算盤(エルマ販売株式会社)を用いて、細胞数をカウントした。
(8)中1日の継代の場合、1.9 x 106 cells/ml、中2日の継代の場合、1.2 x 106 cells/ml、10 ml/dish で播種し、37℃、5%CO2インキュベーター内で培養を行った。
【0064】
試験方法2.細胞への処理
細胞への処理は下記の終濃度となるように培地で希釈し、培地交換によって処理した。25-OHCの処理は、脂肪滴様構造の観察の場合6時間、Caspase-3活性、PARPの切断の観察の場合20時間、その他の実験では24時間で行った。その他試薬の処理は、25-OHCの刺激と同時に行った。比較を行う細胞間では含まれるEtOH (Wako)、DMSO (Wako)、PBSの量が同じになるように処理を行った。
【0065】
【0066】
試験方法3.WST-8 assayによる細胞生存率の測定
WST-8 assayは細胞の還元能力を利用して、細胞生存率を測定する方法である。細胞内に取り込まれたWST-8は乳酸脱水素酵素の補酵素であるnicotinamide adenine dinucleotide (NADH) から電子伝達物質を介して、電子を受けとって還元され、オレンジ色のWST-8ホルマザンが産生される。このホルマザンの量を比色定量することで生細胞数を測定する。
【0067】
<実験材料・試薬>
・Cell Counting Kit-8 (DOJINDO Laboratories)。
【0068】
<実験方法>
(1)96 well plate (Thermo) に細胞を1.0×104 cells/mlの濃度の細胞懸濁液を100 μlずつ各wellに播種し、37℃、5%CO2インキュベーター内で24時間培養した。
(2)24時間後、1.5 mlチューブに細胞を播種したwell数 + 1 well分の培地50 μl/wellと必要な量の試薬を入れた。(培地半量交換であるため、試薬濃度に気を付けた。)
(3)well内の培地を50 μl除去し、2で作製した試薬を50 μl添加し、刺激を行った。CO2インキュベーター内で21時間培養した。
(4)21時間後、Cell Counting kit-8溶液を10 μl/well添加した。約3時間CO2インキュベーターで培養し、OPTImaxで吸光度を測定した (450 nm)。
【0069】
試験方法4.統計処理
エクセル統計に従い、三郡以上の水準間に差があると認められた際に、Tukey-Kramer法によって多重比較検定を行った。危険率5%で有意差があるものと判断した。
【0070】
試験方法5.蛍光顕微鏡によるラジカルの検出
H2DCFDAは、活性酸素に対する細胞透過性インジケータである。H2DCFDAが細胞に取り込まれるとエステラーゼにより脱アセチル化され、DCFHに変化する。DCFHはROSによりすみやかに酸化され、蛍光性のDCFに変化する。蛍光強度は細胞質のROSレベルに比例する。
【0071】
<実験材料・試薬>
・2’,7’-dichlorodihydrofliorescein diacetate (H2DCFDA) (Invitrogen)
・4%Paraformaldehyde Phosphate Buffer Solution (PFA) (Wako)
・PBS (+)
・1 x PBS
・DMSO (Wako)。
【0072】
<実験方法>
(1)ガラスボトムディッシュ(松波硝子工業株式会社)に2.0×105 cells/mlの濃度の細胞を2 mlずつ各wellに播種し、37℃、5%CO2インキュベーター内で23時間培養した。
(2)23時間後、H2DCFDAが入った容器にDSMO 8.65 μl添加し、10 mM H2DCFDAを作製した。
(3)2で作製した10 mM H2DCFDAを終濃度が10 μM/wellになるように培地で希釈し、培地交換により各wellに添加した。(H2DCFDAは1度の刺激で使い切り、余った場合は廃棄した。)
CO2インキュベーター内で1時間培養した。
(4)1時間後、滅菌PBS1 ml/wellでwashした、培地を1.5 ml添加し、任意の試薬を加えることで、刺激を行った。CO2インキュベーター内で24時間培養した。
(5)24時間後、培地を全て除去し、PBS (+) 1 ml/wellで3回washし、4%PFAを1 ml/well添加した。遮光下で20分間静置した。(細胞を固定)
(6)20分後、PBS (-) で2回washし、PBS 1 mlを添加して蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【0073】
用いた蛍光顕微鏡は、OLYMPUS IX-73蛍光顕微鏡(OLYMPUS)で、観察にはDP Controller (OLYMPUS)、画像解析にはDP Manager (OLYMPUS)を使用した。蛍光波長は以下の通りである。
【0074】
【0075】
試験方法6.蛍光顕微鏡による過酸化脂質の観察
過酸化脂質は脂質を構成する不飽和脂肪酸が酸化を受けることで生成する物質である。
【0076】
Liperfluoは過酸化脂質検出試薬であり、トリフェニルホスフィン部で過酸化脂質と特異的に反応し、強い蛍光を発するペリレン環を蛍光基として有している。Liperfluo 酸化体は水中ではほとんど蛍光を発しないが、細胞膜等の脂溶性の高い部位では蛍光性となることから、蛍光顕微鏡による生細胞の過酸化脂質のイメージングやフローサイトメトリーによる細胞の過酸化脂質量の検出に適用できる。
【0077】
<実験材料・試薬>
・Liperfluo (DOJINDO Laboratories)
・PBS (+)
・DMSO (Wako)。
【0078】
<実験方法>
(1)ガラスボトムディッシュ(松波硝子工業株式会社)に2.0×105cells/mlの濃度の細胞を2 mlずつ各wellに播種し、37℃、5%CO2インキュベーター内で24時間培養した。
(2)培養後、well内の培地を全て除去し、培地を1.5 ml添加し、任意の試薬を加えることで刺激を行った。CO2インキュベーター内で24時間培養した。
(3)24時間後、Liperfluo (50 mg) が入ったチューブにDMSO 60 μlを加え、ボルテックス、加温によって溶解した。(この際のLiperfluo試薬の濃度は1 mMであった。)
(4)3で作製したLiperfluo試薬を終濃度10 μM/wellになるように培地で希釈し、培地交換により各wellに添加した。Liperfluo試薬は1度の刺激で使い切り、余った場合は廃棄した。CO2インキュベーター内で1時間培養した。
(5)1時間後、培地を全て除去し、PBS (+) を1 mL添加した。
(6)蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【0079】
用いた蛍光顕微鏡は、OLYMPUS IX-73蛍光顕微鏡(OLYMPUS)で、観察にはDP Controller (OLYMPUS)、画像解析にはDP Manager (OLYMPUS)を使用した。蛍光波長は以下の通りである。
【0080】
【0081】
試験方法7.タンパク質の発現量の解析
タンパク質の回収は、以下のようにして行った。
【0082】
<実験材料・試薬>
・1 x PBS
・Lysis Buffer : 10 ml
⇒1 M Tris-HCl (pH 7.4) : 200 μl
1 M NaCl (Wako) : 1,500 μl
0.5 M Ethylenediamine-N,N,N’N’-tetraacetic acid (EDTA) (DOJINDO) : 40 μl
10% Nonidet P-40 (NP-40) (SIGMA-ALDRICH) : 1,000 μl
MilliQ : 7,260 μl
10% NP-40は100% NP-40 100 μlをMilliQ 900 μlで10希釈したものを用いた。
・Protease Inhibitor cocktail (PIC) (nacalai tesque)。
【0083】
<実験方法>
(1)6 well plate (FALCON) に2.7×105 cells/mlの濃度の細胞を2 mlずつ各wellに播種し、37℃、5%CO2インキュベーター内で24時間培養した。
(2)培養後、細胞を培地と一緒にスクレーパー (IWAKI) で1.5 mlチューブに回収した。(死細胞も回収するため)
(3)8,000 rcf, 4℃で5分間遠心分離した。
(4)遠心後、上清を除去し、PBSを1 mL 加えて、8,000 rcf, 4℃で5分間遠心分離した.
(5)遠心している間、Lysis Buffer 55 μl/well とPIC 0.55 μl/well (Lysis Bufferの1/100量)を全てのwell分1.5 mlチューブにまとめて作製した。(PICは分解されやすいので、直前に加えた。)
(6)遠心後、上清を除去し、5で作製したLysis BufferとPICの混合液を55 μl/well加えて懸濁し、氷上に30分以上静置した。静置中は10分毎に懸濁液をボルテックスした。
(7)30分後、13,000 rcf、4℃で5分間遠心分離し、上清を他の1.5 mlチューブに回収した。サンプルは-20℃で保存した。
【0084】
タンパク質定量、サンプル調製、Western Blottingは常法に従って行った。使用した抗体は以下の通りである。
【0085】
<一次抗体>
・Rabbit Anti-Caspase 3 (# 9662, cell signaling) : 1:1,000
(5%スキムミルク/ 1 x TBS-T)
・Rabbit Anti-Cleaved-Caspase 3 (# 9661, cell signaling) : 1:1,000
(5%スキムミルク/ 1 x TBS-T)
・Rabbit Anti-PARP (# 9532, cell signaling) : 1:1,000
(5%スキムミルク/ 1 x TBS-T)
・Rabbit Anti-b-actin (Cat. A5441, SIGMA) : 1:2,000
(5%スキムミルク/ 1 x TBS-T)。
【0086】
<二次抗体>
・Anti-rabbit IgG-HRP (Cat.111-035-003, Jackson Immuno Research) 1:10,000
(5%スキムミルク/ 1 x TBS-T)
・Anti-mouse IgG-HRP (Cat.115-035-003, Jackson Immuno Research) 1:10,000
(5%スキムミルク/ 1 x TBS-T)。
【0087】
試験例1.25-OHCのシュワン細胞に与える影響の評価
25-OHCのシュワン細胞に与える影響を評価した。具体的には、10 μM、20 μM、30 μM、40 μM、又は50 μMの濃度の25-OHCでシュワン細胞を24時間処理した後、WST-8 assayにより細胞生存率を測定した。
【0088】
結果を
図1に示す。10 μMで有意に細胞死を引き起こし、濃度依存的に細胞死を引き起こすことが確認された。以下の試験例では、25-OHCを添加する際は30 μMとした。
【0089】
試験例2.25-OHC誘導性シュワン細胞死の細胞死形態の解析
25-OHC誘導性シュワン細胞死の細胞死形態を確認するために、Western blotting法を用いて、アポトーシス関連タンパクであるCaspase-3の活性とその下流で基質となるPoly (ADP ribose) polymerase (PARP) の切断を観察した。
【0090】
まず30 μMの25-OHCと60 μMのZVADを同時添加し、24時間処理をした後、回収した。この際、ポジティブコントロールとして5 μMのSTSを24時間処理して用いた。Caspase-3は15%、PARPは6%のアクリルアミドゲルを作製し、それぞれ8 μgのタンパク質を用いてSDS-PAGEを行った。b -actinは8%のアクリルアミドゲルを作製し、5 μgのタンパク質を用いて、SDS-PAGEを行った。
【0091】
結果を
図2に示す。STS処理した細胞では活性型Caspase-3とPARPの切断が観察されたが、 25-OHC単体処理では、活性型Caspase-3とPARPの切断が観察されなかった。これらの結果より、 25-OHC誘導性シュワン細胞死はCaspaseの活性を伴わない細胞死であることが示唆された。
【0092】
試験例3.25-OHC誘導性シュワン細胞死に対するビタミンEの影響の評価
25-OHC誘導性シュワン細胞死において酸化ストレスが関与しているかを確認するために、抗酸化剤であるビタミンEの効果を検証した。
【0093】
a-Tocを10 μM, 20 μM, 30 μM, 40 μM, 50 μMで、α-Toc3を2.5 μM, 5 μM, 7.5 μM, 10 μMで濃度を振り、30 μMの25-OHCと同時添加し、24時間処理をした後、WST-8 assayにより細胞生存率の測定を行った。
【0094】
結果を
図3ABに示す。α-Tocとα-Toc3は濃度依存的に25-OHC誘導性シュワン細胞死を抑制できることが確認できた。
【0095】
また、α-Tocとα-Toc3が抗酸化作用によって25-OHC誘導性シュワン細胞死を抑制しているのかを確認するために、ラジカル反応の開始剤であるCumene Hydroperoxide (CHP) との共処理を行った。
図3ABの結果より、α-Tocとα-Toc3の単独処理での毒性と25-OHCとの共処理条件による効果を加味し、α-Tocは40 μM 、α-Toc3は5 μMで5 μMのCHPと同時添加し、24時間処理をした後、WST-8 assayにより細胞生存率の測定を行った。
【0096】
結果を
図3Cに示す。α-Tocとα-Toc3共にCHP による細胞死をほぼ完全に抑制することができ、抗酸化能を発揮していることが確認できた。
【0097】
これらの結果より、25-OHC誘導性シュワン細胞死において酸化ストレスの上昇が関与していることが示唆された。
【0098】
試験例4.25-OHC誘導性シュワン細胞死に対するフェロトーシス阻害剤の影響の評価
試験例2より、25-OHC誘導性シュワン細胞死はCaspaseの活性を伴わない細胞死であることが分かった。また、試験例3より、25-OHC誘導性シュワン細胞死は抗酸化剤によって抑制されることが分かった。これらの特徴より、25-OHC誘導性シュワン細胞死はCaspase非依存的で、鉄依存性の脂質過酸化によって誘導される細胞死”フェロトーシス”である可能性が考えられた。フェロトーシスについては緒言1-7で述べたとおりである。そこで、25-OHC誘導性細胞がフェロトーシス阻害剤であるFerrostatin-1 (Fer-1) とDeferoxamine (DFO) によって抑制されるかどうか検討を行った。
【0099】
30 μMの25-OHCと5 μMのFer-1と10 μMのDFOを同時添加し、24時間処理をした後、WST-8 assayにより細胞生存率の測定を行った。この際、ポジティブコントロールとしてGPx4阻害剤であるRSL3 50 nMを用いて、5 μMのFer-1と10 μMのDFOとの24時間処理を行った。
【0100】
結果を
図4に示す。Fer-1とDFOは共に25-OHC誘導性細胞を有意に抑制することが確認できた。このことから、25-OHC誘導性シュワン細胞死においては、主としてフェロトーシスが起きていることが分かった。
【0101】
試験例5.ラジカルの検出
試験例4において、フェロトーシス阻害剤によって25-OHC誘導性シュワン細胞死は有意に抑制されることが確認できたため、フェロトーシス経路において重要な役割を持つ、ラジカルが産生されているかを、DCF assayにより確認した。
【0102】
まず終濃度10 μMとなるように培地で希釈したH2DCFDAを添加し、1時間処理をした後、30 μMの25-OHCと5 μMのFer-1を添加し、24時間処理し、固定した。この際、ポジティブコントロールとして5 μMのCHPと50 nMのRSL3を用いて、24時間処理を行った。
【0103】
結果を
図5に示す。control (DMSO) と比較してCHPとRSL3を添加した細胞ではDCFの蛍光強度が上昇しており、25-OHCを添加した細胞においてもDCFの蛍光強度が上昇していることが確認できた。また、フェロトーシス阻害剤であるFer-1と25-OHCの共処理を行った細胞ではcontrol (DMSO) と同程度までDCFの蛍光強度が下降していることが確認できた。このことから、25-OHC誘導性シュワン細胞死ではラジカルの産生が上昇し、Fer-1との共処理でラジカルの産生を抑えることができることがわかった。
【0104】
試験例6.過酸化脂質の観察
フェロトーシスはGPX4の活性が下がることで、酸化された細胞膜の脂質が過酸化脂質として蓄積され引き起こされる。試験例4においてフェロトーシス阻害剤によって25-OHC誘導性シュワン細胞死は有意に抑制されること、試験例5において25-OHC添加によりラジカルの産生が上昇していることが確認できたため、脂質過酸化の亢進が引き起こされているかどうかをLiperfluo染色を用いて確認した。
【0105】
まず、30 μMの25-OHCと5 μMのFer-1を同時添加し、24時間処理した。その後、終濃度10 μMとなるように培地で希釈したLiperfluo試薬を添加し、1時間処理した。1時間後、蛍光顕微鏡を用いて観察した。この際、ポジティブコントロールとして5μMのCHP と50 nMのRSL3を用いて、24時間処理を行った。
【0106】
結果を
図6に示す。controlと比較してCHPを添加した細胞で過酸化脂質の増加が確認でき、25-OHCを添加した細胞においても過酸化脂質の増加が確認できた。また、フェロトーシス阻害剤であるFer-1との共処理で過酸化脂質の増加が抑制されたことが確認できた。これらの結果より、25-OHC誘導性シュワン細胞死は脂質過酸化が亢進しており、Fer-1との共処理で脂質の過酸化を抑制できることがわかった。