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特開2022-124575流体アクチュエータ、制御方法、制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124575
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】流体アクチュエータ、制御方法、制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/00 20060101AFI20220819BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
G05B13/00 L
G05B13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022298
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】柳川 敦志
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 まりの
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA08
5H004GB15
5H004HA07
5H004HB07
5H004JB22
5H004KB01
5H004KB31
5H004KC48
5H004MA15
(57)【要約】
【課題】制御装置より高次の要素による悪影響を低減できる流体アクチュエータを提供する。
【解決手段】作動流体としての空気により駆動対象としてのワークテーブル110を駆動するエアアクチュエータは、入力される位置指令Posrefに基づき空気の作動量uを演算し、ワークテーブル110の位置を制御する制御装置300を備える。制御装置300は、作動量uの演算において、ワークテーブル110の位置を補償する位置補償要素321と、ワークテーブル110の加速度が大きいほど位置補償要素321のゲインを小さくするゲイン調整部380とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体により駆動対象を駆動する流体アクチュエータであって、
入力される位置指令に基づき前記作動流体の作動量を演算し、前記駆動対象の位置を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記作動量の演算において、前記駆動対象の位置を補償する位置補償要素と、
前記駆動対象の加速度が大きいほど前記位置補償要素のゲインを小さくするゲイン調整部と
を備える流体アクチュエータ。
【請求項2】
前記ゲイン調整部は、前記駆動対象の加速度が大きいほど前記位置補償要素のカットオフ周波数を低くする
請求項1に記載の流体アクチュエータ。
【請求項3】
前記ゲイン調整部は、前記駆動対象の加速度が所定値よりも大きい場合に前記位置補償要素を無効化する
請求項1または2に記載の流体アクチュエータ。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記駆動対象の測定された位置と前記位置指令の差分である位置偏差を演算する位置偏差演算部と、
前記位置偏差を積分する前記位置補償要素としての位置積分補償器と
を備える請求項1から3のいずれかに記載の流体アクチュエータ。
【請求項5】
前記駆動対象を駆動する駆動部と、
前記制御装置が演算した前記作動量に基づき前記作動流体を供給する作動流体供給部と、
前記駆動部と前記作動流体供給部の間で前記作動流体が流通する配管と
を備え、
前記ゲイン調整部は、前記位置補償要素のカットオフ周波数を、前記作動流体が前記配管を流通する際に発生する機械的共振の周波数よりも低くする
請求項1から4のいずれかに記載の流体アクチュエータ。
【請求項6】
作動流体により駆動対象を駆動する流体アクチュエータの制御方法であって、
入力される位置指令に基づき前記作動流体の作動量を演算する際に、前記駆動対象の位置を補償するステップと、
前記駆動対象の加速度が大きいほど位置を補償するステップにおけるゲインを小さくするステップと
を備える制御方法。
【請求項7】
作動流体により駆動対象を駆動する流体アクチュエータの制御プログラムであって、
入力される位置指令に基づき前記作動流体の作動量を演算する際に、前記駆動対象の位置を補償するステップと、
前記駆動対象の加速度が大きいほど位置を補償するステップにおけるゲインを小さくするステップと
をコンピュータに実行させる制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体アクチュエータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空気を作動流体とするエアアクチュエータの制御装置は、入力される位置指令に基づいて空気の供給量を制御して駆動対象を所望の位置に駆動する。駆動対象を迅速かつ正確に所望の位置に駆動するため、フィードバック制御(以下、FB制御と略すこともある)やフィードフォワード制御(以下、FF制御と略すこともある)等の各種の制御技術が利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-184178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアアクチュエータでは、駆動部に空気を供給する配管において、空気の流通に伴う配管共振が発生しうる。配管共振以外の機械共振は、機械設計により応答帯域に対して十分に高域になるように設計できる。しかし、配管共振を高域に配置することはメカレイアウト上困難な場合が多い。この配管共振が低域にある影響により、高域に配置できていた配管共振以外の機械共振の影響も無視できなくなる。これらの影響を補償するためには高次の制御系を構成する必要があり、高階微分要素を追加しなければならない。しかし、高階微分要素で生成された信号はSN比が低く、所定時間に亘って平均化しなければ実用に耐えないため、高次の配管共振や機械共振を考慮したFB補償やFF補償は実装が困難である。そのため、制御装置内に組み込まれるモデルの次数は、実機制御対象の次数よりも低い場合が多い。このような場合、配管共振および機械的共振等の高次の要素が十分に補償されず、制御装置の動作に悪影響を及ぼす。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、制御装置より高次の要素による悪影響を低減できる流体アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の流体アクチュエータは、作動流体により駆動対象を駆動する流体アクチュエータであって、入力される位置指令に基づき作動流体の作動量を演算し、駆動対象の位置を制御する制御装置を備える。制御装置は、作動量の演算において、駆動対象の位置を補償する位置補償要素と、駆動対象の加速度が大きいほど位置補償要素のゲインを小さくするゲイン調整部とを備える。
【0007】
本発明者は、独自の検討により、駆動対象の加速度が大きくなると配管共振および機械的共振等の高次の要素による悪影響が顕著に現われることを見出した。さらに、その悪影響の原因が、駆動対象の位置を補償する位置補償要素にあることを特定した。具体的には、駆動対象の加速度が大きくなると、位置補償要素が高次の要素に追随できず、過補償による目標値に対するオーバーシュートやアンダーシュートが観測された。そこで、本態様では、ゲイン調整部が駆動対象の加速度が大きいほど位置補償要素のゲインを小さくすることで、高次の要素による悪影響を低減する。
【0008】
本発明の別の態様は、制御方法である。この方法は、作動流体により駆動対象を駆動する流体アクチュエータの制御方法であって、入力される位置指令に基づき作動流体の作動量を演算する際に、駆動対象の位置を補償するステップと、駆動対象の加速度が大きいほど位置を補償するステップにおけるゲインを小さくするステップとを備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制御装置より高次の要素による悪影響を低減できる流体アクチュエータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の流体アクチュエータが適用されるエアステージの斜視図である。
図2】エアアクチュエータの断面図である。
図3】エアアクチュエータの制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図4】ゲイン調整部によるゲイン調整を行うための詳細な構成例を示す図である。
図5】ゲイン調整部の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、本実施形態の流体アクチュエータが適用されるエアステージの斜視図である。エアステージ100は、主として、定盤102、除振台104、除振装置106、ワークテーブル110、1本のX軸エアアクチュエータ120、2本のY軸エアアクチュエータ130A、130B(以下、Y軸エアアクチュエータ130と総称する)を備える。定盤102は除振台104によって支持される。エアステージ100は、エアアクチュエータが上軸にX軸、下軸にY1、Y2軸の2本が設けられたH型の構造である。除振装置106は、エアステージ100が配置されている場所の床からの振動を低減し、定盤102の振動を抑制する。
【0014】
X軸エアアクチュエータ120、Y軸エアアクチュエータ130は、それぞれ、空気を作動流体として駆動対象であるワークテーブル110をX軸、Y軸に沿って駆動する流体アクチュエータである。X軸エアアクチュエータ120は、ガイド(スクエアシャフト)122、スライダ124、サーボバルブ126(不図示)、配管128(不図示)を有する。同様にY軸エアアクチュエータ130は、ガイド132、スライダ134、サーボバルブ136、配管138を有する。ワークテーブル110は、スライダ124に設けられる。ガイド122はその両端において、Y軸エアアクチュエータ130A、130Bそれぞれのスライダ134によって支持される。
【0015】
以上のエアアクチュエータ120、130の構成において、スライダ124、134は、駆動対象としてのワークテーブル110をX軸、Y軸に沿って駆動する駆動部を構成する。また、サーボバルブ126、136は、後述する制御装置が演算した空気の作動量である吸排気量に基づき空気をスライダ124、134に供給する作動流体供給部を構成する。配管128、138は、駆動部と作動流体供給部の間で空気を流通させる。
【0016】
空気が配管128、138を流通する際、機械的共振の一種である配管共振が発生する。配管共振の共振周波数ωは、ヘルムホルツ共振器に関する次の式で近似的に表される。
ω=c(S/VL)1/2
ここで、cは空気中の音速、Sは配管128、138の断面積、Vはサーボバルブ126、136からスライダ124、134までの配管128、138の体積、Lは配管128、138が空気をスライダ124、134に供給する長さに対応する。この共振周波数ωが制御装置の帯域幅(一般的にボード線図においてゲインが低周波域より3dB低下する周波数で表される)に近くなると、制御装置の動作に悪影響が及ぶ。配管長Lを短くすることで共振周波数ωを帯域幅より十分に高くできれば問題はないが、装置レイアウト等の制約から難しい場合もある。なお、本発明者が検討したエアステージ100の一例では、各周波数は次の通りであった。制御装置の帯域幅:15Hz程度、配管共振の共振周波数ω:50-80Hz程度、配管共振以外の機械共振の共振周波数:200Hz以上。後述するように、本発明の流体アクチュエータは、このような配管共振の共振周波数ωが制御装置の帯域幅に近く、配管共振自体やそれより高域の機械共振の影響が無視できないシステムに特に好適である。
【0017】
位置センサ140は、ワークテーブル110のX軸方向の位置を検出する。また位置センサ142は、ワークテーブル110のY軸方向の位置を検出する。
【0018】
図2は、エアアクチュエータの断面図である。X軸エアアクチュエータ120は、ガイド122、スライダ124、サーボバルブ(スプールバルブ)126、配管128を備える。
【0019】
ガイド122とスライダ124の間には静圧軸受が形成され、ガイド122の外周面とスライダ124の内周面の間に常時供給される空気圧によって、スライダ124はガイド122から浮上して非接触でX軸方向に移動可能である。
【0020】
スライダ124には、内部空間であるサーボチャンバ150が設けられ、ガイド122と一体的に形成された受圧プレート123によって、正側チャンバ室152と負側チャンバ室154に区画される。
【0021】
スライダ124は、サーボバルブ126により駆動される。サーボバルブ126は、スプールの位置により、コントロールポートの吸排気量を制御する。各軸のエアアクチュエータ120、130は、それぞれの正側と負側にそれぞれ配置された1対のサーボバルブ126P、126Nを備える。正側のサーボバルブ126Pのコントロールポートは、正側配管128Pを介して正側チャンバ室152と連通する。負側のサーボバルブ126Nのコントロールポートは、負側配管128Nを介して、負側チャンバ室154と連通する。サーボバルブ126P、126Nのスプール位置に応じて正側チャンバ室152と負側チャンバ室154の間に生じる差圧によってスライダ124の位置が制御される。以上、X軸エアアクチュエータ120を例に説明したが、Y軸エアアクチュエータ130も同様に構成できる。
【0022】
図3は、エアアクチュエータ120、130の制御装置300の構成を模式的に示すブロック図である。制御装置300は、フィードバック制御を行うFB制御部310とフィードフォワード制御を行うFF制御部360を備える。制御装置300の出力部302が出力する演算結果uはサーボバルブ126、136の吸排気量を定めるバルブ指令であり、それにより生じる差圧によってワークテーブル110の位置が制御される。位置センサ140、142によって検出されるワークテーブル110の位置Posfbは、FB制御部310におけるフィードバック制御に利用される。
【0023】
FF制御部360は、制御装置300の入力部301から出力部302に向かって、三対の微分器364、366、368と比例補償器370、372、374を備える。第1段の微分器364は入力部301が入力する位置指令Posrefを微分して速度に変換し、第1段の比例補償器370は比例ゲインKffvを乗算し、FB制御部310が演算する位置補償量と合わせてワークテーブル110の速度指令を演算する。第2段の微分器366は微分器364からの速度を微分して加速度に変換し、第2段の比例補償器372は比例ゲインKffaを乗算し、FB制御部310が演算する速度補償量と合わせてワークテーブル110の加速度指令を演算する。第3段の微分器368は微分器366からの加速度を微分し、第3段の比例補償器374は比例ゲインKffjを乗算し、FB制御部310が演算する加速度補償量と合わせて暫定演算結果u′を演算する。
【0024】
FB制御部310は、PDD(Proportional-Differential-2nd Derivative)補償器に基づき構成される。具体的には、FB制御部310は、ワークテーブル110の位置をメジャーループ(アウターループ)で制御し、ワークテーブル110の速度および加速度をマイナーループ(インナーループ)で制御する。二つのマイナーループのうち、外側の速度ループをミッドループとも称し、内側の加速度ループを単にインナーループとも称する。ワークテーブル110の測定位置Posfbを微分器330で微分することでワークテーブル110の測定速度が得られ、それを微分器332で微分することでワークテーブル110の測定加速度が得られる。
【0025】
FB制御部310は、入力部301から出力部302に向かって、直列に四つの減算器312、314、316、352を備える。減算器312は、制御装置300の入力部301が入力する位置指令Posrefとワークテーブル110の測定位置Posfbの差分である位置偏差を演算する位置偏差演算部である。減算器314は、後述の演算に基づき得られる速度指令と微分器330が出力するワークテーブル110の測定速度の差分である速度偏差を演算する速度偏差演算部である。減算器316は、後述の演算に基づき得られる加速度指令と微分器332が出力するワークテーブル110の測定加速度の差分である加速度偏差を演算する加速度偏差演算部である。減算器352は、後述の演算に基づき得られる暫定演算結果u′から外乱を除去する外乱除去部である。
【0026】
位置偏差を演算する減算器312と速度偏差を演算する減算器314の間には、ワークテーブル110の位置を補償する位置補償要素として、位置比例補償器320と位置積分補償器321が設けられる。位置比例補償器320は位置偏差に比例ゲインKを乗算し、位置積分補償器321は位置偏差を積分して積分ゲインKpiを乗算し、FF制御部360の比例補償器370からの入力と合わせてワークテーブル110の速度指令を演算する速度指令演算部を構成する。
【0027】
速度偏差を演算する減算器314と加速度偏差を演算する減算器316の間には、ワークテーブル110の速度を補償する速度補償要素として、速度比例補償器322と速度積分補償器323が設けられる。速度比例補償器322は速度偏差に比例ゲインKを乗算し、速度積分補償器323は速度偏差を積分して積分ゲインKviを乗算し、FF制御部360の比例補償器372からの入力と合わせてワークテーブル110の加速度指令を演算する加速度指令演算部を構成する。
【0028】
加速度偏差を演算する減算器316と外乱を除去する減算器352の間には、ワークテーブル110の加速度を補償する加速度補償要素として、加速度比例補償器324と加速度積分補償器325が設けられる。加速度比例補償器324は加速度偏差に比例ゲインKを乗算し、加速度積分補償器325は加速度偏差を積分して積分ゲインKaiを乗算し、FF制御部360の比例補償器374からの入力と合わせて暫定演算結果u′を求める暫定演算部を構成する。
【0029】
FB制御部310は、上記の構成に加えて、ノッチフィルタ340と、外乱オブザーバ350と、ゲイン調整部380を備える。
【0030】
ノッチフィルタ340は、ノッチ周波数ωnoを中心とする狭い阻止帯域を有するバンドストップフィルタであり、減算器352の前後に設けられる二つのフィルタ要素340A、340Bにより構成される。本実施形態では、配管共振の除去を目的として、ノッチ周波数ωnoが配管共振の周波数ωと近い値に設定される。
【0031】
外乱推定器としての外乱オブザーバ350(DOB: Disturbance Observer)は、暫定演算結果u′とワークテーブル110の測定速度および測定加速度に基づき、ワークテーブル110に対する外乱を推定する状態観測器である。外乱オブザーバ350に供給する測定量は速度および加速度に限らず、位置も含むワークテーブル110の駆動量の任意の組合せでよい。また、外乱オブザーバ350は、供給される測定量の組合せに応じて、暫定演算結果u′から除去されるべきワークテーブル110の位置、速度、加速度に対する外乱を推定できるため、ワークテーブル110の位置、速度、加速度の任意の組合せを補償可能な汎用の補償要素である。特に、外乱オブザーバ350は供給される各測定量を積分する積分器を備えるため、ワークテーブル110の位置、速度、加速度の任意の組合せを補償可能な積分補償要素である。
【0032】
以上の構成の制御装置300において、配管共振およびその他の機械共振が無視できない場合の制御モデルの次数は高く、少なくとも5次制御系になる。しかし、高階微分要素による高次化と制御応答性の悪化のトレードオフにより、5次制御系を実現するのは難しく、実用化されている制御装置300の多くは3次制御系に留まる。このように制御装置300の次数が制御モデルの次数よりも低い場合、配管共振等の高次の要素が十分に補償されず、制御装置300の動作に悪影響を及ぼす。次に述べるゲイン調整部380は、その改善を図るものである。
【0033】
ゲイン調整部380は、微分器332で得られるワークテーブル110の加速度が大きいほど、位置補償要素としての位置積分補償器321および積分補償要素としての外乱オブザーバ350のゲインを小さくする(以下、位置積分補償器321および外乱オブザーバ350を「補償要素」と総称することがある)。具体例については後述するが、このゲイン調整によって配管共振の悪影響を低減できる。なお、本図ではゲイン調整部380は位置積分補償器321および外乱オブザーバ350とは別の機能ブロックとして示されるが、後述するように、ゲイン調整部380は位置積分補償器321および外乱オブザーバ350のそれぞれの一部の機能として実装される。
【0034】
ゲイン調整の具体的な方法は様々なものが考えられ、本発明は特定の方法に限定されるものではない。ゲイン調整部380が補償要素のゲインに乗算するゲイン倍率を0%(補償要素無効化)から100%(ゲイン調整なし)の百分率で表す場合、ワークテーブル110の加速度に対してゲイン倍率が広義単調減少になっていればよい。
【0035】
例えば、加速度が大きくなるにつれてゲイン倍率を100%から0%に連続的に減少させてもよいし、段階的(非連続的)に減少させてもよい。段階的にゲイン倍率を減少させる例として、加速度が零の定速時または停止時のゲイン倍率を100%とし、加速度が非零の加減速時のゲイン倍率を0%としてもよい。この場合、ワークテーブル110の加減速時に少しでも加速度が発生すると補償要素が即時に無効化されるため、配管共振の悪影響を最小化できる。
【0036】
また、ゲイン調整部380によるゲイン調整は特定の周波数帯域を対象として行ってもよい。例えば、ある周波数ω以上の周波数帯域を対象として、加速度が零の定速時または停止時のゲイン倍率を100%とし、加速度が非零の加減速時のゲイン倍率を0%とする。この場合、加減速時の補償要素は周波数ω以上の周波数帯域にゲインを持たないため、補償要素のカットオフ周波数をωに低くしたことと等しい。逆に、ゲイン調整部380は、補償要素(外乱オブザーバ350等)の時定数を調整することで、カットオフ周波数ωを調整し、それに伴って補償要素のカットオフ周波数ωより高域のゲインを調整できる。この調整後のカットオフ周波数ωを配管共振の周波数ωより低くすることで、加減速時の配管共振の悪影響を除去できる。なお、カットオフ周波数は、加速度が大きくなるにつれて連続的に低くしてもよいし、段階的(非連続的)に低くしてもよい。
【0037】
ゲイン調整部380は、位置積分補償器321および外乱オブザーバ350のいずれかの補償要素のゲインを調整してもよい。この場合、カットオフ周波数ないし帯域幅が高い補償要素のゲインを調整するのが好ましい。カットオフ周波数が高いほど、その帯域に配管共振の周波数ωが入る可能性が高く、補償要素の動作に悪影響が及びやすいためである。
【0038】
図4は、ゲイン調整部380によるゲイン調整を行うための詳細な構成例を示す。本図は、図3における位置積分補償器321、外乱オブザーバ350、ゲイン調整部380のみを示す。図示されるようにゲイン調整部380は、位置積分補償器321および外乱オブザーバ350のそれぞれの一部を構成する。
【0039】
位置積分補償器321は、第1の積分ゲインKpi1を有する第1の位置積分補償器3211と、第2の積分ゲインKpi2を有する第2の位置積分補償器3212と、加算器3213と、スイッチ3214を備える。第1の位置積分補償器3211と第2の位置積分補償器3212は並列に設けられ、それぞれ、減算器312の減算結果を入力として位置積分補償結果を加算器3213に出力する。加算器3213は、両位置積分補償器3211、3212の位置積分補償結果を加算して減算器314に出力する。
【0040】
ゲイン調整部380は、第2の位置積分補償器3212とスイッチ3214によって構成される。ゲイン調整部380は、ワークテーブル110の加減速時、すなわち微分器332で得られるワークテーブル110の加速度が非零のとき、スイッチ3214を開状態として第2の位置積分補償器3212を無効化する。したがって、加速度が非零の加減速時の位置積分補償器321のゲインはKpi1となる。一方、加速度が零の定速時または停止時はゲイン調整部380がスイッチ3214を閉状態として第2の位置積分補償器3212を有効化する。このとき、位置積分補償器321のゲインはKpi1+Kpi2となる。このように、加減速時のゲイン(Kpi1)は、定速時または停止時のゲイン(Kpi1+Kpi2)よりも小さくなる。なお、本図では位置積分補償器321の詳細構成を示したが、速度積分補償器323、加速度積分補償器325において、複数の積分補償器が並列に設けられた同様の構成を採用してもよい。
【0041】
外乱オブザーバ350は、第1の時定数T1を有する第1の外乱オブザーバ3501と、第2の時定数T2を有する第2の外乱オブザーバ3502と、両外乱オブザーバ3501,3502の出力を選択して減算器352に出力するセレクタ3503を備える。第1の外乱オブザーバ3501と第2の外乱オブザーバ3502は並列に設けられ、それぞれの外乱推定結果をセレクタ3503に出力する。セレクタ3503は、選択された一方の外乱推定結果を減算器352に出力する。ゲイン調整部380は、第1の外乱オブザーバ3501とセレクタ3503によって構成される。
【0042】
第1の時定数T1は第2の時定数T2よりも大きい。時定数とカットオフ周波数は反比例するため、第1の外乱オブザーバ3501のカットオフ周波数ωc1は、第2の外乱オブザーバ3502のカットオフ周波数ωc2よりも低い。ゲイン調整部380は、ワークテーブル110の加減速時、すなわち微分器332で得られるワークテーブル110の加速度が非零のとき、セレクタ3503によって、カットオフ周波数が低い(ωc1)第1の外乱オブザーバ3501の出力を選択する。また、ゲイン調整部380は、ワークテーブル110の定速時または停止時、すなわち微分器332で得られるワークテーブル110の加速度が零のとき、セレクタ3503によって、カットオフ周波数が高い(ωc2)第2の外乱オブザーバ3502の出力を選択する。このように、加減速時のカットオフ周波数(ωc1)は、定速時または停止時のカットオフ周波数(ωc2)よりも低くなるため、加減速時の配管共振および機械的共振等の高次の要素による悪影響を低減できる。
【0043】
図5は、ゲイン調整部380の効果を示す。41で示される曲線は、微分器364後段の速度指令と等価である。本図は、ワークテーブル110が加速して定速状態に至る過程を示す。そのため、速度指令41は本図の左側において増加した後で一定値に収束する。速度指令が増加している加速時は加速度が非零であり、速度指令が一定値に収束した後の定速時は加速度が零である。上記の例のように、ゲイン調整部380は、加速度が非零の加速時に補償要素を無効化し、加速度が零の定速時はゲイン調整を行わない。
【0044】
42で示される曲線は、ゲイン調整部380を適用する前の位置偏差(減算器312の出力)であり、43で示される曲線は、ゲイン調整部380を適用した後の位置偏差である。いずれの位置偏差も、ワークテーブル110の加速に伴って振動するが、二つの点線の丸で示されるように、ゲイン調整部380適用前の曲線42の振幅は、ゲイン調整部380適用後の曲線43の振幅よりも大きい。これは、ワークテーブル110の加速度が大きくなると、補償要素が高次の配管共振要素に追随できず、過補償によって位置指令に対するオーバーシュートやアンダーシュートを引き起こすためと考えられる。ゲイン調整部380によってワークテーブル110の加速時に補償要素を無効化した曲線43では、このようなオーバーシュートやアンダーシュートが低減されており、曲線42よりも早く位置偏差が零に収束する。このように、ゲイン調整部380によれば、配管共振等の高次の要素による制御装置300への悪影響を低減できる。なお、本図では加速度が非零の時にゲイン調整部380が補償要素を無効化する例を示したが、加速度が非零の時にゲイン調整部380が補償要素のカットオフ周波数を低くする場合も本図と同様の効果が確認された。
【0045】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0046】
実施形態では、制御装置300の動作に悪影響を及ぼす高次の要素の例として、配管共振を挙げたが、これ以外の機械的共振があるシステムにも本発明は適用できる。また、機械的共振に限らず、制御モデルを制御装置300よりも高次化する要素を含む任意のシステムに本発明は適用できる。
【0047】
実施形態では、作動流体の作動量の例として、サーボバルブ126、136の吸排気量を挙げたが、これに限らず駆動対象を駆動しうる作動流体の任意の量でよい。例えば、吸排気量を含む流量、圧力、温度を作動量に含めてもよい。
【0048】
実施形態では、空気を作動流体とするエアアクチュエータについて説明したが、本発明の流体アクチュエータは、これ以外の流体を作動流体とするものでもよい。例えば、油を作動流体とする油圧アクチュエータ、水を作動流体とする水圧アクチュエータ、空気以外の任意のガスを作動流体とするガスアクチュエータでもよい。これらの各種の流体アクチュエータは、ボイラー、建設機械など各種の産業機械、橋梁などの社会インフラ、環境プラントや水処理施設など各種の産業構造物、またはその他の産業設備に利用できる。
【0049】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0050】
100 エアステージ、110 ワークテーブル、120 X軸エアアクチュエータ、122 ガイド、123 受圧プレート、124 スライダ、126 サーボバルブ、128 配管、130 Y軸エアアクチュエータ、132 ガイド、134 スライダ、136 サーボバルブ、138 配管、300 制御装置、310 FB制御部、321 位置積分補償器、340 ノッチフィルタ、350 外乱オブザーバ、360 FF制御部、380 ゲイン調整部。
図1
図2
図3
図4
図5