(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124662
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】回転電機用ステータの製造方法及び回転電機用ステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20220819BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
H02K15/04 E
H02K3/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022427
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 友貴
【テーマコード(参考)】
5H603
5H615
【Fターム(参考)】
5H603AA03
5H603AA09
5H603BB05
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB03
5H603CB04
5H603CB11
5H603CC03
5H603CC17
5H603CE05
5H603EE01
5H615AA01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP14
5H615PP15
5H615QQ03
5H615SS16
(57)【要約】
【課題】渡り線の端部同士を接合する接合部の信頼性を高める。
【解決手段】ステータコアにステータコイルを装着する装着工程と、軸方向で、ステータコアの軸方向一方側で周方向に延在するステータコイルの第1渡り線と、第1渡り線に軸方向外側から重なるように径方向に延在するステータコイルの第2渡り線との間に、接合材料が介在する状態を形成する材料セット工程と、材料セット工程の後に、第2渡り線の端部の導体部とステータコイルの第3渡り線の端部の導体部とを接合する第1接合工程と、材料セット工程の後に、接合材料の状態を変化させることで、第1渡り線と第2渡り線とに接合材料を接合する第2接合工程とを含む、回転電機用ステータの製造方法が開示される。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアにステータコイルを装着する装着工程と、
軸方向で、前記ステータコアの軸方向一方側で周方向に延在する前記ステータコイルの第1渡り線と、前記第1渡り線に軸方向外側から重なるように径方向に延在する前記ステータコイルの第2渡り線との間に、接合材料が介在する状態を形成する材料セット工程と、
前記材料セット工程の後に、前記第2渡り線の端部の導体部と前記ステータコイルの第3渡り線の端部の導体部とを接合する第1接合工程と、
前記材料セット工程の後に、前記接合材料の状態を変化させることで、前記第1渡り線と前記第2渡り線とに前記接合材料を接合する第2接合工程とを含む、回転電機用ステータの製造方法。
【請求項2】
前記第2渡り線は、前記ステータコイルの径方向内側から径方向外側へと、又は、径方向外側から径方向内側へと、接合対象の前記第3渡り線の端部まで径方向に延在する、請求項1に記載の回転電機用ステータの製造方法。
【請求項3】
前記材料セット工程は、前記第1渡り線における軸方向外側の表面に前記接合材料を配置した後、前記第2渡り線が前記第1渡り線に近づくように前記第2渡り線を折り曲げることで、軸方向で前記第1渡り線と前記第2渡り線との間に前記接合材料を介在させることを含む、請求項1又は2に記載の回転電機用ステータの製造方法。
【請求項4】
前記接合材料は、熱硬化性材料であり、
前記第2接合工程は、前記接合材料に熱を与えることで、前記接合材料の状態を変化させる、請求項1~3のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータの製造方法。
【請求項5】
前記材料セット工程及び前記第1接合工程のうちの少なくともいずれか一方は、軸方向で前記第1渡り線と前記第2渡り線との間で前記接合材料を軸方向に変形させることを含む、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータの製造方法。
【請求項6】
ステータコアと、
前記ステータコアに巻装されるステータコイルとを備え、
前記ステータコイルのコイルエンドは、
前記ステータコアの軸方向一方側で周方向に延在する第1渡り線と、
軸方向外側から軸方向に前記第1渡り線に重なるように径方向かつ周方向に延在する第2渡り線と、
前記第2渡り線の端部の導体部に接合される端部の導体部を有する第3渡り線とを備え、
軸方向で前記第1渡り線と前記第2渡り線との間に、前記第1渡り線と前記第2渡り線とに接合する接合材料の部位とを含む、回転電機用ステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ステータの製造方法及び回転電機用ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコイルの渡り線における径方向内側の側面を形成する部分を樹脂部により固める技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステータコイルの渡り線のうちの、端部(導体部)同士が接合される対の渡り線は、接合部を有しない他の渡り線よりも軸方向外側で径方向に延在する。このため、対の渡り線の一方と、他の渡り線と間には、軸方向の隙間が形成されやすく、かかる隙間に起因して、対の渡り線の一方(径方向かつ周方向の延在範囲が広い方の渡り線)が振動しやすくなる。対の渡り線の一方が振動すると、対の渡り線の端部同士を接合する接合部の信頼性が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、渡り線の端部同士を接合する接合部の信頼性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ステータコアにステータコイルを装着する装着工程と、
軸方向で、前記ステータコアの軸方向一方側で周方向に延在する前記ステータコイルの第1渡り線と、前記第1渡り線に軸方向外側から重なるように径方向に延在する前記ステータコイルの第2渡り線との間に、接合材料が介在する状態を形成する材料セット工程と、
前記材料セット工程の後に、前記第2渡り線の端部の導体部と前記ステータコイルの第3渡り線の端部の導体部とを接合する第1接合工程と、
前記材料セット工程の後に、前記接合材料の状態を変化させることで、前記第1渡り線と前記第2渡り線とに前記接合材料を接合する第2接合工程とを含む、回転電機用ステータの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、渡り線の端部同士を接合する接合部の信頼性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】組み付け状態の4つの同芯巻きコイルだけを取り出した斜視図である。
【
図3】同芯巻きコイルの単品状態を示す斜視図である。
【
図7】ステータの一部を概略的に示した断面図である。
【
図8】比較例によるステータの一部を示す断面図である。
【
図9】
図8のQ2部(対の渡り線の端部同士の接合部)に対応する側面図である。
【
図10】接合材料部の延在範囲の一例を模式的に示す平面図である。
【
図11】
図11は、ステータの製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
【
図12】組み付け前のコイル組立体を概略的に示す断面図である。
【
図13】接合材料が配置された組み付け前のコイル組立体を概略的に示す断面図である。
【
図14】ステータコアに組み付いたコイル組立体を概略的に示す断面図である。
【
図15】第2渡り線の曲げ成形の態様の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。なお、
図1等では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
図1は、ステータ21の一部を示す断面図である。
図1は、ステータ21の中心軸Iを含む平面で切断した際の、ステータ21の中心軸Iの一方側のみを断面図で示す。
図2は、組み付け状態の4つの同芯巻きコイル20だけを取り出した斜視図である。
図3は、同芯巻きコイル20の単品状態を示す斜視図である。なお、
図1において、Y方向は、径方向に対応し、Y1側が径方向外側に対応し、Y2側が径方向内側(中心軸Iに近い側)を表す。
【0011】
以下の説明において、軸方向とは、中心軸Iが延在する方向を指し、径方向とは、中心軸Iを中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、その位置よりも、中心軸Iから離れる側を指し、径方向内側とは、その位置よりも、中心軸Iに向かう側を指す。また、軸方向外側とは、その位置よりも、ステータ21の軸方向の中心から離れる側を指し、軸方向内側とは、その位置よりも、ステータ21の軸方向の中心に近づく側を指す。また、周方向とは、中心軸Iまわりの回転方向に対応する。
【0012】
ステータ21は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるステータコア211を備え、ステータコア211の径方向内側には、ステータコイル22が巻回される複数のスロット2111が形成される。スロット2111は、周方向に等間隔に複数形成される。なお、スロット2111の数や形状等は任意である。
【0013】
ステータコイル22は、例えば、
図2及び
図3に示すような、いわゆる同芯巻きコイル20の形態であり、それぞれ、所定巻回数で巻回された平角線が曲げ加工されることにより成形されるカセットコイルである。ステータコイル22は、断面が矩形状(具体的には、長方形)に形成された平角線(導体部22A)を含む。この平角線は、導電性の高い例えば銅やアルミニウム等の金属により構成されてよい。ステータコイル22は、平角線が絶縁性の被覆により覆われてよい。
【0014】
図2に示す例では、周方向に90度ずつ離れた4つの同芯巻きコイル20が、一の同芯巻きコイル20の第2渡り線240が、当該一の同芯巻きコイル20に隣接する他の一の同芯巻きコイル20の第3渡り線250に接合する関係で、互いに接続されている。
【0015】
各同芯巻きコイル20はそれぞれ、所定巻回数(
図2では4周)で巻回された平角線が曲げ加工されることにより成形されるカセットコイルである。
【0016】
各同芯巻きコイル20はそれぞれ、
図3に示すように、スロット収容部230、232と、第1渡り線234、236と、第2渡り線240と、第3渡り線250とを有している。なお、スロット収容部230、232及び第1渡り線234、236は、同芯巻きコイル20の本体部(略六角形状の閉ループ部)を形成する。第1渡り線236は、第2渡り線240及び第3渡り線250ともに、軸方向一方側(リード側)のコイルエンドを形成し、第1渡り線234は、軸方向一方側(反リード側)のコイルエンドを形成する。なお、
図3に示す例では、一の同芯巻きコイル20は、スロット収容部230、232、第1渡り線234、236をそれぞれ複数含むのに対して、第2渡り線240及び第3渡り線250をそれぞれ1つだけ含む。
【0017】
スロット収容部230、232はそれぞれ、ステータコア211のスロット2111内に挿入(収容)される、そのスロット2111を軸方向に貫くように略直線状に延びる部位である。同一の同芯巻きコイル20において、スロット収容部230とスロット収容部232とは、ステータコア211の周方向に所定距離離れた互いに異なるスロット2111に収容される。
【0018】
第1渡り線234、236はそれぞれ、スロット収容部230、232に接続するとともに、ステータコア211の軸方向端面から軸方向外側に向けて突出した、周方向に離れた2つのスロット収容部230、232同士を繋ぐ部位である。第1渡り線236は、頂部2361と、斜行部2362、2363とを含む。なお、第1渡り線234についても同様であるが、ここでは符合を付していない。
【0019】
第2渡り線240及び第3渡り線250は、周方向に離れた2つの同芯巻きコイル20のスロット収容部230、232同士を繋ぐ。
図2に示す例では、周方向に90度ずつ離れた4つの同芯巻きコイル20は、一の同芯巻きコイル20の第2渡り線240が、当該一の同芯巻きコイル20に隣接する他の一の同芯巻きコイル20の第3渡り線250に接合する関係で、互いに接続される。
【0020】
第2渡り線240は、
図3に示すように、複数の曲げ加工を介して成形されてよい。具体的には、第2渡り線240は、第1斜行部2402と、第1エッジワイズ曲げ部2404と、第1直線部2406と、第1フラットワイズ曲げ部2408と、第2直線部2410と、第2エッジワイズ曲げ部2412と、第3直線部2414と、第3エッジワイズ曲げ部2416と、第4直線部2418とを含む。なお、第1斜行部2402は、スロット収容部230の端部2302から形成される。スロット収容部230の端部2302は、スロット収容部230の軸方向外側に延在する部位を周方向外側(周方向でスロット収容部230、232間の中心から離れる側)に向けてエッジワイズ曲げして形成される。
図3に示す例では、第1斜行部2402は、直線的に延在する直線部であるが、エッジワイズ曲げ部を含む階段状の形態で全体として斜め方向に延在してもよい。なお、スロット収容部230の端部2302は、第2渡り線240の一部とみなすこともできる。
【0021】
第3渡り線250は、
図3に示すように、複数の曲げ加工を介して成形されてよい。具体的には、第3渡り線250は、第2斜行部2502と、第4エッジワイズ曲げ部2504と、第5直線部2506と、第2フラットワイズ曲げ部2508と、第6直線部2510とを含む。なお、第2斜行部2502は、スロット収容部232の端部2322から形成される。スロット収容部232の端部2322は、スロット収容部232の軸方向外側に延在する部位を周方向外側(周方向でスロット収容部230、232間の中心から離れる側)に向けてエッジワイズ曲げして形成される。
図3に示す例では、第2斜行部2502は、直線的に延在する直線部であるが、エッジワイズ曲げ部を含む階段状の形態で全体として斜め方向に延在してもよい。なお、スロット収容部232の端部2322は、第3渡り線250の一部とみなすこともできる。
【0022】
このようにして、第2渡り線240及び第3渡り線250は、各種の曲げ部(第1エッジワイズ曲げ部2404等)を有する。なお、ここでは、同芯巻きコイル20の特定の構成について説明したが、同芯巻きコイル20の詳細な構成については、任意である。例えば、第2渡り線240及び第3渡り線250の形状等は任意である。
【0023】
以下では、ステータコイル22は、平角線が絶縁性の被覆により覆われた構成であるとし、「一のコイル導線22a」とは、特に言及しない限り、ステータコイル22を形成する複数のコイル導線のうちの、任意の一のコイル導線を指す。
【0024】
複数のコイル導線22aは、上述したように(
図1も参照)、ステータコア211のスロット2111に収容され、かつ、スロット2111よりも軸方向外側に延在する端部同士が接合される。
図2及び
図3に示す同芯巻きコイル20では、スロット収容部230、232がステータコア211のスロット2111に収容され、かつ、スロット2111よりも軸方向外側に延在する第2渡り線240と第3渡り線250の端部同士(第4直線部2418の端部の導体部22Aと第6直線部2510の端部の導体部22A)が接合される(
図9参照)。コイル導線22aの端部同士の接合は、溶接等により実現されてよい。この場合、コイル導線22aの端部は、少なくとも一部の被覆が除去された状態(すなわち導体部22Aが露出した状態)で重ね合わされ、被覆が除去された部分同士が溶接により接合されてよい。この場合、溶接は、レーザ溶接やTIG溶接のような任意の方法で実現されてよい。以下、このようにして端部同士が重ね合わされて接合されたコイル導線22aの2つの端部を、「接合部」(
図9の接合部402参照)とも称する。なお、接合部は、その全体が互いに接合されている必要はなく、その一部(例えば先端部)だけが互いに接合されてもよい。
【0025】
複数のコイル導線22aは、接合部に成形材料の成形部60を有する。成形部60は、複数のコイル導線22aの接合部全体を覆う。成形部60は、複数のコイル導線22aの接合部に係る電気的な絶縁性を確保する機能を有する。すなわち、複数のコイル導線22aの接合部は、上述したように接合の際に被覆が除去されるので、成形部60は、当該被覆が除去された部分全体を覆うことで、被覆と同様の機能を果たす。この機能を実現するために、成形材料は、導電性のない材料である。例えば、成形材料は、樹脂材料(PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)を含む樹脂材料)であり、成形部60は、樹脂材料の成形部である。成形部60は、樹脂材料の射出成形により形成されてよい。
【0026】
図4は、成形部60の説明図であり、
図1の矢印Pの方向に視た平面図である。なお、
図4において、X方向は、周方向に沿った方向に対応する。
【0027】
成形部60は、周方向に隣り合う2組の接合部に対して1つずつ設けられる。なお、
図4では、成形部60は、周方向に隣り合う2組の接合部ごとに1つずつ設けられるが、1組の接合部ごとに1つずつ設けられてもよいし、周方向に隣り合う3組以上の接合部ごとに1つずつ設けられてもよい。また、
図4では、成形部60は、上下方向に型締めされて成形されるが、
図5に示す成形部60Aのように、径方向に型締めされて形成される形態であってもよい。
【0028】
【0029】
本実施例では、
図3及び
図4を参照して上述したように、ステータコイル22のコイルエンドは、リード側において、ステータコア211の軸方向一方側で周方向に延在する第1渡り線236と、第2渡り線240と、第3渡り線250とを含む。第2渡り線240は、第3渡り線250よりも径方向内側から径方向外側かつ周方向に延在する。第2渡り線240は、第1渡り線236の軸方向外側から第1渡り線236に軸方向に重なるように、径方向に径方向内側から径方向外側へと延在する。
【0030】
本実施例では、
図6に模式的に示すように、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に、接合材料の部位70(以下、「接合材料部70」と称する)が設けられる。接合材料部70は、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に設けられ、第1渡り線236と第2渡り線240とに接合する。
【0031】
接合材料は、粘度の高い(例えばワニスよりも粘度が有意に高い)任意の接合材料であってよく、エポキシ樹脂を主成分としたシート形態の接合材料であってよい。シート形態の接合材料としては、例えば、ここでの参照により本願明細書に組み込まれる特開2019-103314号公報に開示されるような熱硬化性樹脂組成物シート等を好適に用いることができる。
【0032】
あるいは、接合材料部70は、接着剤保持部材と、接着剤保持部材に浸透された接着剤(例えばワニス)との組み合わせにより実現されてもよい。この場合、接着剤保持部材は、接着剤が浸透された状態で接着剤を保持可能に構成される。このような接着剤保持部材としては、ここでの参照により本願明細書に組み込まれる特開2019-115178号公報に開示されるような接着剤保持部材を好適に用いることができる。
【0033】
接合材料部70は、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に延在し、かつ、第1渡り線236と第2渡り線240とに接合することで、第1渡り線236と第2渡り線240との間で生じうる振動を無くす又は低減する機能(以下、「振動低減機能」と称する)を有する。
【0034】
ここで、
図7から
図10を参照して、接合材料部70とその振動低減機能について更に説明する。
【0035】
図7は、ステータ21の一部を示す断面図であり、
図8との対比説明用に、
図1に示した断面を、より概略的に示した図である。
図8は、比較例によるステータ21’の一部を示す断面図である。
図9は、応力集中の発生箇所の説明図であり、
図8のQ2部(対の渡り線の端部同士の接合部)に対応する側面図である。
図10は、接合材料部70の延在範囲の一例を模式的に示す図であり、軸方向に視たときのステータ21の平面図である。
図9では、成形部60の内部が透視で模式的に示されている。また、
図10では、成形部60の図示等が省略されている。
【0036】
図8に示す比較例によるステータ21’は、本実施例によるステータ21に対して、接合材料部70が設けられていない点が異なる。
【0037】
比較例では、接合材料部70が設けられないので、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に、
図8に模式的に示すように、隙間Δ1が生じるおそれがある。なお、設計上、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間は、隙間が生じないように設定できるが、実際には、許容誤差範囲内の組み付け誤差や寸法誤差等に起因して、隙間Δ1が生じるおそれがある。
【0038】
このような隙間Δ1が生じると、「発明が解決しようとする課題」で上述したように、かかる隙間Δ1に起因して、第2渡り線240が振動しやすくなる。特に、車両環境においては、路面からの入力や、内燃機関を搭載する車両では内燃機関からの入力等に起因して、ステータ21を含む回転電機が加振されやすい。また、特に、第2渡り線240は、上述したように、第3渡り線250に比べて長い区間で、周方向及び径方向に延在する(すなわち線長さが長い)ので、振動しやすい。このようにして第2渡り線240が振動すると、対の渡り線である第2渡り線240と第3渡り線250の端部同士を接合する接合部の信頼性が低下するおそれがある。
【0039】
この点、本願発明者は、本比較例に対応するステータ21’の構成を有する回転電機を用いて加振試験を実施した結果、ステータコイル22における複数箇所の接合部で顕著な応力集中を確認した。このような応力集中は、第2渡り線240と第3渡り線250の間の接合部402で生じた。
図9では、2つのコイル導線22aの溶接部が接合部402として非常に模式的に示される。顕著な応力集中は、接合部402の際(きわ)で生じる傾向があった。
【0040】
これに対して、本実施例によれば、上述したように、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に接合材料部70が設けられるので、許容誤差範囲内の組み付け誤差や寸法誤差に起因して隙間Δ1が生じるような個体であっても、当該隙間Δ1が接合材料部70により埋められることになる。また、接合材料部70が第1渡り線236と第2渡り線240とに接合することから、隙間Δ1の程度にかかわらず、第1渡り線236に対する第2渡り線240の有意な変位も生じがたい。このようにして、本実施例によれば、上述したような比較例で生じるような不都合が生じる可能性を効果的に低減できる。すなわち、本実施例によれば、接合材料部70の振動低減機能によって、接合部402の際(きわ)やその近傍での応力集中を低減又は防止でき、第2渡り線240と第3渡り線250の間の溶接部(接合部)402の信頼性を高めることができる。
【0041】
このような接合材料部70の振動低減機能を効果的に高めるため、接合材料部70は、好ましくは、周方向の全周にわたって、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に設けられる。
図10には、このような好ましい接合材料部70の延在範囲が、ハッチング領域R1により模式的に示されている。なお、
図10では、説明用に、ハッチング領域R1が、第2渡り線240やインバータ接続用バスバー50(以下、「バスバー部材50」と称する)よりも前面側(紙面前面側)に描かれているが、実際には、上述したように、第2渡り線240やバスバー部材50よりも軸方向内側に延在する。
【0042】
ただし、接合材料部70の周方向の延在範囲は、周方向に沿って連続している必要はなく、局所的に設定されてもよい。例えば、第1渡り線236の頂部2361(
図2及び
図3参照)に、接合材料部70が局所的に設けられてもよい。この場合、すべての第1渡り線236の頂部2361に接合材料部70が設けられてもよいし、一部の第1渡り線236の頂部2361に、接合材料部70が設けられてもよい。
【0043】
また、接合材料部70の径方向の延在範囲は、ステータコイル22の径方向全体にわたって連続している必要はなく、局所的に設定されてもよい。例えば、径方向で複数連なる第1渡り線236の頂部2361(
図2及び
図3参照)の一部だけに、接合材料部70が設けられてもよい。
【0044】
次に、
図11以降を参照して、上述したステータ21の製造に好適な製造方法について説明する。
【0045】
以下の説明において、特に言及しない限り、第1渡り線236とは、ステータコア211の軸方向外側で周方向に延在する上述したリード側の複数の第1渡り線236の全体(集合)を指す。従って、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)とは、複数の第1渡り線236の全体の表面(軸方向外側表面)であり、第1渡り線236のそれぞれの表面(軸方向外側表面)の集合を表す。
【0046】
図11は、ステータ21の製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
図12から
図17は、
図11を参照して説明する各工程のいくつかの説明図であり、
図12及び
図13は、中心軸Iを通る平面で切断した際の、コイル組立体2の一部の概略的な断面図であり、
図14から
図17は、中心軸Iを通る平面で切断した際の、ステータ21(製造途中のステータ21)の一部の概略的な断面図である。
図11のフローチャートは、ステータ21の製造方法の流れの一例を示しているにすぎず、各ステップの処理順序は適宜、前後されてもよい。
【0047】
まず、
図12に示すように、ステップS111において、複数の同芯巻きコイル20が円環状に配置されたコイル組立体2が形成される。ただし、このコイル組立体2の状態では、第2渡り線240は曲げ成形されていないものとする。例えば、
図3に示した例では、各種曲げ部のうちの、第1フラットワイズ曲げ部2408が未だ完成されていない状態(例えば最終形状に至る直前の状態)であってよい。
【0048】
次に、ステップS112において、
図13に示すように、接合材料部70を形成するための接合材料701を、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)に配置する。接合材料701の配置範囲は、
図10を参照して上述した接合材料部70の延在範囲に対応してよい。
【0049】
例えば、接合材料701が上述した熱硬化性樹脂組成物シートである場合、接合材料701は、ワニスとは異なり、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)に留まることができる。これにより、周方向に沿って均一な態様で接合材料701を配置できる。これは、接合材料701がシートの形態でない場合でも、比較的高い粘度を有する限り、同様である。ただし、シートの形態である場合は、全周にわたって均一に接合材料701を配置することが容易となる。
【0050】
また、接合材料部70が上述した接着剤保持部材と接着剤との組み合わせである場合、接合材料701は、接着剤保持部材である。この場合、接合材料701は、ワニスとは異なり、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)上で形態を保持できる。これにより、周方向に沿って均一な態様で接合材料701を配置できる。
【0051】
次に、ステップS113において、コイル組立体2をステータコア211に装着する(装着工程)。例えば、コイル組立体2がステータコア211の内径側空間に配置された状態で、コイル組立体2を形成する複数の同芯巻きコイル20を、内径側から外径側に押し出すことにより、同芯巻きコイル20のスロット収容部230、232が、ステータコア211のスロット2111に挿入される。このような組み付けは、例えばカセットインサータと称される治具を用いて実現されてよい。これにより、
図14に模式的に示すように、第1渡り線236の軸方向外側が軸方向に露出した状態で、ステータコア211へのコイル組立体2の組み付けが実質的に完了する。
【0052】
次に、ステップS114において、第2渡り線240を曲げ成形し、第2渡り線240の成形を完了させる。例えば、
図3に示した例では、各種曲げ部のうちの、第1フラットワイズ曲げ部2408がこの段階で完成される。これにより、
図15に模式的に示すように、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)上の接合材料701は、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に挟まる態様で、加圧される。すなわち、接合材料701は、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間で軸方向に変形させられる。この結果、接合材料701は、軸方向に垂直な平面内に広がる。これにより、接合材料701の厚み方向の寸法管理が容易となるとともに、接合材料701の配置精度に対する要求を下げることができる。また、組み付け誤差等が発生した場合でも、第1渡り線236と第2渡り線240とに当接する態様で接合材料701の硬化(後述するステップS119参照)を実現できる。なお、第2渡り線240の曲げ成形は、ステップS113の組み付けの最終段階で連続的に実行されてもよい。
【0053】
また、別の例では、ステップS113において、径方向内側からの組み付けに代えて、インサータを用いて軸方向に組み付けることとしてもよい。この場合、インサータは、ステータコア211に対して軸方向外側からコイル組立体2のリード側をステータコア211の内径側空間を通って軸方向の一方側から他方側まで至らせる態様で、軸方向の組み付けを実現してよい。具体的には、インサータは、同芯巻きコイル20のスロット収容部230、232を各スロット2111に軸方向に挿入しながら、第1渡り線236、第2渡り線240及び第3渡り線250をステータコア211の軸方向他方側まで至らせた後、第1渡り線236、第2渡り線240及び第3渡り線250を、径方向外側へと倒して変形させることで、軸方向の組み付けを完了させることができる。
【0054】
このようにして、
図11に示す例では、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に接合材料701が介在する状態を形成する工程(材料セット工程の一例)は、ステップS112及びステップS114により実現される。なお、変形例では、コイル組立体2をステータコア211に対して組み付けた後に、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)上に接合材料701を配置してもよい。
【0055】
次に、ステップS115において、スロット2111に配置された複数の同芯巻きコイル20において、軸方向に重なる対の渡り線である第2渡り線240と第3渡り線250の端部同士を溶接により接合する(第1接合工程の一例)。これにより、
図16に模式的に示すように、第2渡り線240と第3渡り線250の間の接合部402が形成される。なお、第2渡り線240と第3渡り線250の端部同士の接合の際に、軸方向に重なる第2渡り線240と第3渡り線250の間に残存しうるわずかな隙間Δ2(
図15参照)が無くされてもよい。このようにして隙間Δ2が無くされる場合、接合材料701は、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間で軸方向に更に変形させられる。従って、例えば接合材料701に起因して隙間Δ2が生じる場合でも、信頼性の高い接合部402を形成できる。また、組み付け誤差等が発生した場合でも、第1渡り線236と第2渡り線240とに当接する態様で接合材料701の硬化(後述するステップS119参照)を実現できる。
【0056】
次に、ステップS116において、
図17に模式的に示すように、第2渡り線240と第3渡り線250の間の接合部402に成形部60を形成する。成形部60は、上述したように、樹脂材料の射出成形により形成されてよい。成形部60の形成方法としては、ここでの参照により本願明細書に組み込まれる特開2019-106828公報に開示されるような形成方法を好適に用いることができる。
【0057】
次に、ステップS117において、ステータコア211及び同芯巻きコイル20を予備加熱する。これにより、後述するステップS118においてワニスをスムーズに同芯巻きコイル20を構成するコイル導線22a同士の間等に浸透させることが可能になる。
【0058】
次に、ステップS118において、同芯巻きコイル20にワニス(図示せず)を滴下する。具体的には、ステータコア211に配置された同芯巻きコイル20に対して、ノズル(図示せず)からワニスを滴下する。例えば、ステータコア211の軸方向が上下方向に沿うようにステータコア211が配置されている場合(平置きの場合)、ワニスは、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)に直接滴下されてよい。ワニスの比較的高い流動性と毛細管現象とによって、スロット収容部230、232や反リード側の第1渡り線236等にワニスを行き渡せることができる。
【0059】
例えば、接合材料701が上述した熱硬化性樹脂組成物シートである場合、ワニスは、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)おける接合材料701が配置されていない箇所に滴下されてもよい。あるいは、接合材料701が上述した熱硬化性樹脂組成物シートである場合、ワニスは、反リード側を上にして(すなわち、ステータコア211を上下反転した状態で)滴下されてもよい。
【0060】
また、接合材料701が上述した接着剤保持部材である場合、ワニスは、第1渡り線236の表面(軸方向外側表面)全体に滴下されてよい。すなわち、ワニスは、接合材料701上にも滴下される。これにより、毛細管現象によって、接合材料701の全体にワニスが浸透されて、ワニスが接合材料701に保持される。
【0061】
次に、ステップS119において、同芯巻きコイル20を構成するコイル導線22a同士の間に滴下されるワニスとともに、接合材料701を硬化する。接合材料701を硬化することで、第1渡り線236と第2渡り線240とに接合材料701を接合させる(第2接合工程の一例)。具体的には、ステータコア211及び同芯巻きコイル20を加熱することにより、接合材料701と、コイル導線22aの間及び同芯巻きコイル20とスロット2111との間に浸透しているワニスとを硬化させる。つまり、接合材料701と、コイル導線22aの間及び同芯巻きコイル20とスロット2111との間に浸透しているワニスとを、1つの工程により同時に硬化させる。
【0062】
例えば、接合材料701が上述した熱硬化性樹脂組成物シートである場合、同芯巻きコイル20を構成するコイル導線22a同士を固定するワニスが硬化する硬化温度範囲内に含まれる硬化温度により接合材料701を硬化させることができる。このようにして、上述した接合材料部70が形成されたステータ21を形成できる。
【0063】
また、接合材料701が上述した接着剤保持部材である場合、接着剤保持部材に保持されているワニスは、コイル導線22a同士を固定するワニスと同時に硬化することができる。このようにして、上述した接合材料部70が形成されたステータ21を形成できる。
【0064】
なお、
図11に示す方法では、接合材料701が上述した熱硬化性樹脂組成物シートである場合においても、ワニスの硬化と接合材料701の硬化とを同じ工程で効率的に実現しているが、接合材料701が上述した熱硬化性樹脂組成物シートである場合、ワニスの硬化と接合材料701の硬化とを別々の工程で実現することも可能である。
【0065】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施例の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0066】
例えば、上述した実施例では、接合材料701は、熱を付与されることで硬化する(状態が変化する)構成であるが、他の態様で状態変化が引き起こされる材料が利用されてもよい。例えば、接合材料701は、他の材料と混合されることで硬化する(状態が変化する)構成であってもよい。
【0067】
また、上述した実施例では、第2渡り線240は、径方向かつ周方向に延在するが、径方向のみに延在する構成であってもよい。また、上述した実施例では、第2渡り線240は、ステータコイル22の径方向内側から径方向外側へと延在するが、これに限られない。例えばアウタロータタイプの場合等、第2渡り線240は、ステータコイル22の径方向外側から径方向内側へと延在してもよい。この場合、第3渡り線250は、ステータコイル22の径方向内側に配置され、第2渡り線240の径方向内側の端部に接合されてもよい。
【0068】
また、上述した実施例では、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に接合材料701が介在する状態を形成する工程は、第2渡り線240の成形完了前、すなわち、第1フラットワイズ曲げ部2408が未だ完成されていない状態(例えば最終形状に至る直前の状態)において、実現されているが、これに限られない。すなわち、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間に接合材料701が介在する状態を形成する工程は、第2渡り線240の成形が完了してから実現されてもよい。この場合、軸方向で第1渡り線236と第2渡り線240との間には、接合材料701を配置するための隙間が形成される態様で、第2渡り線240の成形が実現されてもよい。このような隙間は、第1渡り線236及び第2渡り線240への接合材料701の接合性の観点からは不利となりうるので、後続するステップS115の工程によって低減又は無くされてもよい。すなわち、このような隙間は、例えば上述した
図15の隙間Δ2と同様の態様で、ステップS115の工程によって低減又は無くされてもよい。あるいは、このような隙間は、接合材料701が発泡材料である場合に埋めることができる。なお、接合材料701が発泡材料である場合、ステップS119において接合材料701は熱により膨張されてもよい。
【符号の説明】
【0069】
211・・・ステータコア、22・・・ステータコイル、22A・・・導体部、236・・・第1渡り線、240・・・第2渡り線、250・・・第3渡り線、70・・・接合材料部(接合材料の部位)、701・・・接合材料