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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124702
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】熱転写シート
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/17 20060101AFI20220819BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
B44C1/17 G
B32B27/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022482
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】本橋 晃
【テーマコード(参考)】
3B005
4F100
【Fターム(参考)】
3B005EA07
3B005EA12
3B005EB01
3B005FA17
3B005FA18
3B005FB09
3B005FB38
3B005FB47
3B005FF01
3B005FF06
3B005FG04Z
3B005FG07Z
3B005GA02
3B005GA07
3B005GB05
4F100AA17D
4F100AA20E
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK41E
4F100AK53E
4F100AT00B
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100CB00E
4F100DD07D
4F100EH66D
4F100GB90
4F100JA04E
4F100JA05E
4F100JJ03A
4F100JK16A
4F100JL14C
4F100JN01D
4F100JN06D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】ホログラム調加飾が可能であり、箔切れ性および曲面への転写性が良好である熱転写シートを提供する。
【解決手段】熱転写シート1は、樹脂製の基材10と、基材の第一面10aに形成された剥離層20と、剥離層上に形成され、微細凹凸を有するレリーフ層31と、無機酸化物を主成分とし、レリーフ層上に形成された透明反射層32と、透明反射層上に形成された接着層40と、基材において、第一面と反対側の第二面10bに形成された耐熱滑性層50とを備える。接着層は、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂と、疎水性シリカと、を含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の基材と、
前記基材の第一面に形成された剥離層と、
前記剥離層上に形成され、微細凹凸を有するレリーフ層と、
無機酸化物を主成分とし、前記レリーフ層上に形成された透明反射層と、
前記透明反射層上に形成された接着層と、
前記基材において、前記第一面と反対側の第二面に形成された耐熱滑性層と、
を備え、
前記接着層は、
ポリエステル樹脂と、
エポキシ樹脂と、
疎水性シリカと、を含有する、
熱転写シート。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノール骨格を含み、60℃以上の軟化点を有する、
請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂のガラス転移点が-14℃~84℃の範囲内にある、
請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項4】
前記疎水性シリカの平均粒子径が10nm~5.0μmの範囲にある、
請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項5】
前記接着層の厚さが0.3μm~3.0μmの範囲にある、
請求項1に記載の熱転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シート、より詳しくは、転写対象に意匠性を付与するための熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
文字又は画像等を被転写体に加飾形成する印刷方式として、シルクスクリーン印刷、溶融型熱転写方式等が知られている。
シルクスクリーン印刷は、孔版画による印刷方法であり、樹脂が透過する箇所と、透過しない箇所をあらかじめ作製された版を用いて印刷する手法である。しかし、シルクスクリーン印刷は、一度製版された版を使用することで大量に印刷が行えるため、量産性には優れるが、デザインを変更するときに都度製版の作業が入るため、オンデマンド対応には劣る。
一方、溶融熱転写方式は、溶融熱転写により濃度階調を自由に調節できることから、自然画を比較的忠実に再現することができる。また、加飾を実施する際に、ユーザー側で自由にデザインを調整し、その場で印刷態様を変更できるため、オンデマンド対応に有効である。
【0003】
加飾の一態様として、虹色に光るようなホログラム調加飾がある。シルクスクリーン印刷でホログラム調加飾を実現する場合、多数の工程を経て版が作成されるために、コスト的にも不利である。溶融熱転写の場合には、転写させるシートを準備し熱転写させることで容易に実現できるという利点がある。
【0004】
特許文献1には、基材の一方の面にレリーフ形成層および反射層を有し、溶融熱転写により転写対象にホログラム調加飾を行える転写シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4012164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホログラム調加飾が可能な熱転写シートには、さまざまな要求特性がある。
一つ目は、箔切れ性である。熱転写シートにおいては、熱が加わった部位のみが転写され、熱が加わらない部位がシート側に残ることで、ユーザーの求めるデザイン性を担保できる。つまり、熱転写させたい箇所と、そうでない箇所とが明瞭に切り分けられることが重要である。
【0007】
二つ目は、曲面への転写性である。転写対象において熱転写される部位の表面が曲面である場合、熱転写シートにおいては、一定の伸びや追従性が求められる。
【0008】
特許文献1に記載の熱転写シートは、電離放射線樹脂を使用している。電離放射線樹脂は、架橋密度が高いため、上述した箔切れ性や曲面への転写性を良好にすることが容易でない。
【0009】
上記事情を踏まえ、本発明は、ホログラム調加飾が可能であり、箔切れ性および曲面への転写性が良好である熱転写シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、樹脂製の基材と、基材の第一面に形成された剥離層と、剥離層上に形成され、微細凹凸を有するレリーフ層と、無機酸化物を主成分とし、レリーフ層上に形成された透明反射層と、透明反射層上に形成された接着層と、基材において、前記第一面と反対側の第二面に形成された耐熱滑性層とを備える熱転写シートである。
接着層は、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂と、疎水性シリカとを含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱転写シートは、ホログラム調加飾が可能でありながら、箔切れ性および曲面への転写性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る熱転写シートの模式断面図である。
図2】同熱転写シートが適用される加飾シート製造装置の模式図である。
図3】3次元加飾成形機の一例を示す模式図である。
図4】同3次元加飾成形機を用いた曲面転写の一過程を示す模式図である。
図5】同曲面転写の一過程を示す模式図である。
図6】同曲面転写の一過程を示す模式図である。
図7】同曲面転写の一過程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について、図1から図7を参照して説明する。
図1は、本実施形態の熱転写シート1を示す模式断面図である。図1に示すように、熱転写シート1は、基材10と、剥離層20と、ホログラム部30と、接着層40と、耐熱滑性層50とを備えている。剥離層20、ホログラム部30、および接着層40は、基材10の第一面10a上の概ね全面に設けられている。耐熱滑性層50は、基材10において、第一面10aと反対側の第二面10b上に設けられている。
【0014】
基材10としては、各種のプラスチックフィルムを使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレ-ト(PEN)等のポリエステル、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアミド等の合成樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0015】
基材10の厚さについては、強度や耐熱性等を考慮すると、4.5マイクロメートル(μm)以上36μm以下の範囲のものが使用可能である。より好ましくは、12μm以上16μm以下程度の厚さが好ましい。基材10が薄すぎるとレリーフ層(後述)の形成時に不具合が起こりやすくなる。また、基材10が厚すぎると、曲面への追従性や転写効率が低下しやすくなる。
【0016】
剥離層20は、第一面10a上に形成されている。剥離層20は、転写時までホログラム部30および接着層40を基材10上に支持し、転写時に基材10から剥がれる。対象に転写された後は、ホログラム部30を覆って保護する。
剥離層20の材質としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、およびこれら樹脂の共重合体等を例示できる。
剥離層20の厚さは、0.3μm以上3.0μm以下とでき、0.5μm以上1.5μm以下が好ましい。剥離層20が薄すぎると、転写時に基材10から剥がれにくくなる可能性が増加する。
【0017】
ホログラム部30は、レリーフ層31と透明反射層32とを有する。レリーフ層31は剥離層20上に形成されており、透明反射層32と接する側の表面に微細な凹凸構造を有する。微細な凹凸構造は、凹部または凸部、もしくはその両方とできる。凹凸構造は、0.1μm以上0.5μm以下のピッチ、0.25μm以上0.75μm以下の深さを有し、回折、光反射抑制、等方性または異方性の光散乱、屈折、偏光・波長選択性の反射、透過、光反射抑制などの所望の光学的性質をホログラム部30に発揮させる。凹凸構造の具体例として、モスアイ構造や深い格子構造等を例示できる。
レリーフ層31の材質としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、およびこれら樹脂の共重合体等を例示できる。レリーフ層31の厚さは、0.3μm以上15.0μm以下とでき、0.5μm以上1.0μm以下程度が好ましい。レリーフ層31が薄すぎると、耐熱性が低下する結果、転写時に視覚効果が低下する可能性がある。レリーフ層31が厚すぎると、後述する熱エンボス工程の効率が低下する可能性がある。
レリーフ層は、シリコーンオイルを含有してもよい。
【0018】
透明反射層32は、レリーフ層31上に蒸着等により形成される。透明反射層32の材質としては、アルミナやシリカ等の金属酸化物を例示できる。透明反射層32の厚さは、数十ナノメートル(nm)程度、より具体的には、10nm以上500nm以下とできる。この範囲であれば、視覚効果を呈するのに必要な反射が得られ、かつ生産にも適している。
【0019】
接着層40は、透明反射層32上に形成され、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、疎水性シリカを含む。
ポリエステル樹脂としては、例えば、東洋紡社製の非晶性共重合ポリエステル樹脂バイロン(登録商標)シリーズを例示できる。これらの中でも、ガラス転移点(Tg)が4℃~84℃の範囲内にあるものが好ましい。
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール骨格を含み、60℃以上の軟化点を有するものが好ましい。このような材料として、三菱ケミカル社製のjER(登録商標)シリーズの基本固形タイプを例示できる。
【0020】
疎水性シリカとしては、富士シリシア化学社製のサイロホービック(登録商標)シリーズを例示でき、中でも溶剤に溶解するものが好ましい。
疎水性シリカの平均粒子径は、箔切れ性の観点からは、20nm~5.0μmの範囲にあることが好ましい。
疎水性シリカは、接着層40の樹脂成分から突出してもよい。この場合、疎水性シリカがアンチブロッキング効果を発揮するという利点がある。ただし、突出量が大きくなりすぎると、疎水性シリカ粒子が接着層から脱落する可能性が増加するため留意する。接着層40において疎水性シリカが突出している場合は、疎水性シリカを除く樹脂部分の厚さを接着層40の厚さと定義する。
【0021】
接着層40の厚さは、0.3μm以上2.0μm以下とでき、0.4μm以上1.5μm以下程度が好ましい。接着層40が薄すぎると転写対象物との接着力が落ち、転写不良を起こす可能性が増加する。接着層40が厚すぎると熱転写感度が落ち、箔切れ性が悪化する可能性がある。
【0022】
耐熱滑性層50は、プリンタのサーマルヘッドと熱転写シート1とのすべり性を向上する。耐熱滑性層50の材質としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、およびこれら樹脂の共重合体等を例示できる。
耐熱滑性層50の厚さは、0.2μm以上2.0μm以下とでき、0.4μm以上1.0μm以下程度が好ましい。耐熱滑性層50が薄すぎると耐熱性、滑り性に影響をおよぼし、転写時に転写物にシワなどの不具合が生じる可能性が増加する。耐熱滑性層50が厚すぎるとサーマルヘッドに耐熱滑性層50の小片がカスとして付着し、サーマルヘッドのクリーニング性に影響を及ぼしやすくなる。
【0023】
上記構成を有する熱転写シート1の製造手順の一例について説明する。
基材10の第一面10aに、剥離層20、およびレリーフ層となる樹脂層を、印刷により形成する。
次に、樹脂層にエンボス版を用いた熱エンボス加工を施して微細凹凸を転写し、レリーフ層31を形成する。
続いて、レリーフ層31上に、蒸着等により透明反射層32を形成し、透明反射層32上に、印刷により接着層40を形成する。
さらに、基材10の第二面10bに耐熱滑性層50を印刷により形成すると、熱転写シートが完成する。
上記手順は一例であり、各構成を形成する順番は、各構成の位置が変わらない範囲において適宜変更できる。また、必要に応じて、各工程間にエージングを施してもよい。エージング条件は、例えば40℃~50℃、3日~6日とできる。
【0024】
本実施形態に係る熱転写シート1は、接着層40を対象物に接触させた状態で、耐熱滑性層50側からサーマルヘッドを接触させて加熱することにより、剥離層20、ホログラム部30、および接着層40からなる転写物が対象物に転写される。
転写物に入射する光は、レリーフ層31における回折と透明反射層32における反射とにより、虹色に光る視覚効果を発揮する。この視覚効果は、いずれの方向からみても良好に視認できる。対象物の色彩や模様等は、転写後も透明反射層32を通して視認できるため、転写物を対象物の全面に転写しても、対象物本来の外観を損なわずにホログラム調加飾を行える。
【0025】
熱転写シート1においては、第一面10a側の概ね全面に形成された転写物となる構成のうち、サーマルヘッドが接触した部位だけが対象物に転写されるため、転写物の形状を自由に設定でき、オンデマンド対応性に優れる。発明者は、オンデマンド対応性を向上させるために種々検討したところ、接着層40にポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、および疎水性シリカの3つの成分を混合することにより、サーマルヘッドで加熱された部分とされていない部分との境界か外観よく破断されることを見出した。これにより、熱転写シート1は良好な箔切れ性を発揮し、転写物が所望の形状に精度よく転写される。
熱転写シート1は、加熱を伴う真空引き等の、サーマルヘッドを用いない転写も可能である。
【0026】
対象物において、転写物が転写される部位の表面は、平面であっても曲面であってもよいが、曲面に転写物を良好に転写するにあたっては、曲面への追従性が熱転写シートに求められる。
熱転写シート1における接着層40は、上述した成分を含有することにより、良好な箔切れ性を有することに加え、接着層自体が柔軟性を有する。その結果、対象物に押し当てられる際に接着層が変形して曲面に良好に追従し、確実に接合される。これにより、転写物をシワや伸び、切れ等を好適に抑制しつつ、対象物に転写できる。基材10の厚さを上述した範囲内に設定することで、この追従性はさらに向上する。
【0027】
熱転写シート1は、上述したように対象物に直接転写物を転写する用途に加えて、物品に接合する加飾シート等に視覚効果を付与する用途にも適用できる。
加飾シートの製造装置の一例を図2に示す。図2に示す製造装置200は、メインドラム201と、繰り出しロール202と、巻取りロール203とを備えている。加飾シートとなる基材Bは、繰り出しロール202から引き出され、メインドラム201の周囲に沿って移動した後、巻取りロール203に巻き取られる。基材Bは、メインドラム201上を移動しながら、カラー転写部210、220、230により色印刷を施される。カラー転写部210、220、230には、それぞれ異なる色彩の転写リボンが設置され、サーマルヘッド205による加熱でそれぞれの色彩が基材Bに熱転写される。図2では、3つのカラー転写部を備える例を示しているが、カラー転写部の数や、各転写部の色彩は適宜設定できる。カラー転写部210、220、230における転写が終わると、基材Bに所望の絵柄がカラー印刷される。
【0028】
熱転写シート1は、ホログラム調加飾部240に設置される。ホログラム調加飾部240では、基材Bの絵柄上にサーマルヘッド205を用いて転写物を転写する。これにより、基材Bに印刷された絵柄に、虹色のホログラム調加飾が施され、加飾シートが完成する。完成した加飾シートは、巻取りロール203に巻き取られて出荷される。
製造された加飾シートは、加熱と真空引きを用いた3D転写等で物品に貼り付けることにより、物品に所望の絵柄およびホログラム調の視覚効果を簡便に付与できる。
【0029】
製造装置200を用いた転写においては、熱転写シート1が強く屈曲された状態でサーマルヘッド205が押し当てられる。そのため、接着層40には屈曲に対する好適な追従性と、サーマルヘッド205で加熱された部分の良好な箔切れ性が求められるが、本実施形態の熱転写シートは、このような印刷にも良好に適用できる。
【0030】
加飾シートの製造時における、ホログラム調加飾部240による転写の順番は、適宜変更できる。上述した内容は、加飾シートにおいて、転写物のない側が物品に接合される場合の例だが、転写物のある側を物品に接合して、基材により転写物を保護する場合は、まずホログラム調加飾部240による転写を行い、その上にカラー転写部によるカラー印刷を行ってもよい。
【0031】
転写対象が加飾シート等の樹脂基材である場合、極性基を含むエステル結合、炭素-フッ素、炭素-塩素が含まれることが好ましい。エステル結合の代表例としては、二軸延伸されたポリエステルフィルム、易接着コート付き二軸延伸ポリエステルフィルムなどが挙げられ、東レ社製 ルミラー(登録商標)、東洋紡社製 東洋紡エステル(登録商標)、三菱ケミカル社製 ダイアホイル(登録商標)等の各種フィルムを例示できる。炭素-フッ素結合の代表例としては、AGC社製 Fluon(登録商標)、デンカ社製 デンカDXフィルム等を例示できる。炭素-塩素結合の代表例としては、オカモト社製 PVCフィルム、日信化学社製 ソルバインC(登録商標)を用いたフィルムなどを例示できる。これらの結合を含む受像側の基材を用いると、本発明に係る転写物の転写性が良好であり、最適に使用できる。
【0032】
本発明の熱転写シートについて実施例および比較例を用いてさらに説明する。本発明は、実施例および比較例の内容によって何ら制限されない。
文中における「部」は、とくにことわらない限り質量部を意味する。
【0033】
(実施例1)
基材として、厚さ12μmのPETフィルムを準備した。基材の一方の面に、グラビア印刷により耐熱活性層形成用インキを厚さ1.0μmで塗工した後、50℃、6日のエージングにより硬化させて耐熱滑性層を形成した。
耐熱活性層形成用インキは、シリコーン系塗料の主剤(大日精化工業社製 SP2554)と、硬化剤(DIC社製 D-70)とを混合したものである。
【0034】
次に、4色刷り印刷機を用いて、基材の反対面にポリエステル系インキ(DIC社製 MCS5041)およびアクリルポリオールとイソシアネートの反応系のインキを順に全面印刷した。塗工厚はいずれも0.7μmとした。その後、50℃、6日のエージングにより硬化させて剥離層及びレリーフ層となる樹脂層を形成した。
【0035】
次に、樹脂層にエンボス版を用いた熱エンボス加工を施して微細凹凸を転写し、レリーフ層を形成した。エンボス版の微細凹凸は、平均ピッチ0.67μm、深さ0.5μmの溝状であり、密度は1500本/1mmであった。
続いて、蒸着機でアルミナを蒸着し、レリーフ層上に厚さ20nmの透明反射層を形成した。
最後に、以下の組成を有する接着層形成用インキを透明反射層上にグラビア印刷により厚さ1.2μmで塗工した。
<接着層形成用インキ>
ポリエステル樹脂(東洋紡社製 バイロン500 Tg4℃) 15部
エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製 jER1004 軟化点97℃) 14部
疎水性シリカ(富士シリシア化学社製 サイロホービック100 平均粒子径2μm)
1部
メチルエチルケトン(MEK) 45部
トルエン(TOL) 45部
以上により、実施例1に係る熱転写シートを得た。
【0036】
(実施例2)
接着層形成用インキのポリエステル樹脂を東洋紡社製バイロンBX-1001(Tg-14℃)に変更した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2に係る熱転写シートを得た。
【0037】
(実施例3)
接着層形成用インキのポリエステル樹脂を東洋紡社製バイロンGK-880(Tg84℃)に変更した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例3に係る熱転写シートを得た。
(実施例4)
接着層形成用インキの塗工厚さを1.0μmに変更した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例4に係る熱転写シートを得た。
【0038】
(実施例5)
接着層形成用インキの塗工厚さを3.0μmに変更した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例5に係る熱転写シートを得た。
(実施例6)
疎水性シリカの平均粒子径を10nmに変更した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例6に係る熱転写シートを得た。
【0039】
(実施例7)
疎水性シリカの平均粒子径を5.0μmに変更した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例7に係る熱転写シートを得た。
【0040】
(実施例8)
接着層形成用インキの塗工厚さを5.0μmに変更した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例8に係る熱転写シートを得た。
(実施例9)
接着層形成用インキの塗工厚さを0.5μmに変更した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例9に係る熱転写シートを得た。
(実施例10)
疎水性シリカの平均粒子径を10μmに変更した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例10に係る熱転写シートを得た。
【0041】
(実施例11)
ポリエステル樹脂として、ユニチカ株式会社製エリーテルUE-9900(Tg110℃)を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例11に係る熱転写シートを得た。
(実施例12)
ポリエステル樹脂として、ユニチカ株式会社製エリーテルUE-3510(Tg-25℃)を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例12に係る熱転写シートを得た。
【0042】
(比較例1)
接着層形成用インキにおいて、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂に代えてバイロン500のみを15部使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1に係る熱転写シートを得た。
(比較例2)
接着層形成用インキにおいて、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂に代えてjER1004のみを14部使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1に係る熱転写シートを得た。
(比較例3)
接着層形成用インキにおいて、疎水性シリカを使用しなかった点を除き、実施例1と同様の手順で比較例3に係る熱転写シートを得た。
【0043】
各例の熱転写シートに対し、以下の評価を行った。
<転写時の箔切れ性>
転写対象としてPETフィルム(東洋紡社製 A4300)を使用した。熱転写プリンタを用い、各例の熱転写シートを使用して、幅160mm、長さ200mmの長方形領域を熱転写した。
転写後の転写対象を目視にて確認した。評価は以下の3段階とし、〇および△を合格とした。
×(BAD):転写されないはずの部位への転写、および転写されるべき部位における不完全な転写の両方が認められる。
△(FAIR):転写されないはずの部位への転写、および転写されるべき部位における不完全な転写の何れかが認められるものの、許容範囲内である。
○(GOOD):転写されないはずの部位への転写、および転写されるべき部位における不完全な転写のいずれも認められない。
箔切れ性は、上述の平面転写と、以下に記載する両面転写との両方で評価し、両者の評価が異なる場合は、悪い方の結果を採用した。
【0044】
<曲面転写性>
転写対象として、曲面を有するポリエステル製の3次元物体を準備した。布施真空社製の3次元加飾成形機を用いて真空成型により各例の熱転写シートを転写対象の表面に密着させつつ100℃で加熱した。
真空成型が可能な3次元加飾成形機の一例を図3に示す。成形機100は、転写対象Obが配置される下チャンバ101と、ヒータ105が配置された上チャンバ102とを有する。接着層を下チャンバ101側に向けた状態で、図3に示すように、熱転写シート1を上チャンバ102の開口を覆うように取り付け、図4に示すように、上チャンバ102を下チャンバ101に接近させ、熱転写シート1で下チャンバ101の開口を覆う。下チャンバ101および上チャンバ102内を真空又は減圧状態とし、ヒータ105で熱転写シートを加熱して少し柔らかくしてから、下チャンバ101内で転写対象Obを上昇させて図5に示すように熱転写シート1に押し当てる。この状態で、上チャンバ102内を大気圧にすると、図6に示すように、熱転写シート1が転写対象Obを密着して覆うように変形する。所定時間経過後、上チャンバ102を上昇させると、図7に示すように、転写物が基材10から剥離して転写対象Ob上に転写される。
【0045】
転写範囲は、平面転写と同様に、幅160mm、長さ200mmの長方形とした。この範囲は、図示した転写対象Obの角丸領域にかかる大きさであるため、曲面を含む転写対象の表面に転写が行われた。転写終了後、角丸領域における転写物の状態を目視にて評価した。評価は以下の3段階とし、〇および△を合格とした。
×(BAD):転写物の欠けや切れ、およびシワが認められ、外観を大きく損なっている。
△(FAIR):転写物の欠けや切れ、およびシワが認められるものの、許容範囲内である。
○(GOOD):転写物の欠けや切れ、およびシワのいずれも認められない。
結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、いずれの実施例も、箔切れ性と曲面転写性とが両立されていた。接着層の厚さが0.3μm~3.0μmの範囲内にある実施例、およびポリエステル樹脂のTgが4℃~84℃の範囲内にある実施例において、より良好な箔切れ性および曲面転写性を示す傾向が見られた。中でも、接着層の厚さが1.2μm~3.0μmの範囲内にある実施例により良好な結果が認められた。
【0048】
また、各実施例について、熱エンボス加工の版を変更して複数種類作成し、ホログラム部の回折効率を測定した。回折効率は、波長660nmのレーザー光を入射光Ioとして、入射角45°で熱転写シートに照射し、散乱光を測定した。その後、入射光Ioと角度0°(垂直方向)における散乱光Isとの比率Is/Ioとして算出した。
上記測定の結果、版の微細凹凸を変更することにより、10%~30%の範囲でホログラム部の回折効率を自由に設定できることを確認した。回折効率を20%以上とすることにより、どの角度から視認しても虹色が視認でき、高い視覚効果を発揮した。
【符号の説明】
【0049】
1 熱転写シート
10 基材
10a 第一面
10b 第二面
20 剥離層
30 ホログラム部
31 レリーフ層
32 透明反射層
40 接着層
50 耐熱滑性層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7