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特開2022-124725揮発性液体流入検知装置及び検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124725
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】揮発性液体流入検知装置及び検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/04 20060101AFI20220819BHJP
   G01M 3/16 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
G01M3/04 C
G01M3/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022525
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000220675
【氏名又は名称】東京都下水道サービス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500343371
【氏名又は名称】一般社団法人日本下水道光ファイバー技術協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】菊池 信彦
(72)【発明者】
【氏名】畑山 正美
(72)【発明者】
【氏名】藤江 正樹
(72)【発明者】
【氏名】岸本 長
(72)【発明者】
【氏名】栗原 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】藤平 貞義
【テーマコード(参考)】
2G067
【Fターム(参考)】
2G067AA13
2G067BB03
2G067BB12
2G067BB22
2G067CC03
2G067CC04
2G067DD17
2G067DD23
2G067EE05
2G067EE09
2G067EE12
2G067EE13
(57)【要約】
【課題】低電力かつ簡易な構成で保守性・設置性・可用性が高く、運用コストの低い揮発性液体流入検知装置及び揮発性液体流入検知方法を提供する。
【解決手段】 揮発性液体流入検知装置は、下水管路の上部空間に配置され空気中の揮発性ガスの濃度に応じた信号を出力する揮発性ガスセンサと、通信装置と、制御装置と、を備える。制御装置は、揮発性ガスセンサで検出した揮発性ガスの濃度が所定値を超えた場合に揮発性液体の流入と判定し、通信装置によって、外部に通報信号を送信する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水管路の上部空間に配置され空気中の揮発性ガスの濃度に応じた信号を出力する揮発性ガスセンサと、
通信装置と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記揮発性ガスセンサで検出した揮発性ガスの濃度が所定値を超えた場合に揮発性液体の流入と判定し、前記通信装置によって、外部に通報信号を送信する、揮発性液体流入検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
前記揮発性液体としてシアン含有液を検知対象とし、
前記揮発性ガスセンサとしてシアンガスセンサを備えることを特徴とした揮発性液体流入検知装置。
【請求項3】
請求項1に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
前記揮発性液体として可燃性液体を検知対象とし、
前記揮発性ガスセンサとして可燃性ガスセンサを備えることを特徴とした揮発性液体流入検知装置。
【請求項4】
請求項1に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
前記揮発性ガスセンサに対して交差感度を持つ一つ以上の干渉ガスに対し、前記揮発性ガスセンサに誤検知防止機構を備えることを特徴とした揮発性液体流入検知装置。
【請求項5】
請求項1に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
前記揮発性ガスセンサに対して交差感度を持つ一つ以上の干渉ガスに対し、前記揮発性ガスセンサの近傍に配置されて空気中の干渉ガス濃度に応じた信号を出力する一つ以上の干渉ガスセンサを備え、
前記制御装置は、前記揮発性ガスの濃度信号と前記一つ以上の干渉ガスの濃度信号を入力とし、前記揮発性ガスの濃度信号から、前記一つ以上の干渉ガスによって生じた誤差成分を除去することを特長とした揮発性液体流入検知装置。
【請求項6】
請求項5に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
前記制御装置は、前記揮発性ガスの濃度信号と前記一つ以上の干渉ガスの濃度信号とが非ゼロである場合に、前記揮発性ガスの濃度信号の出力値が時間的にゼロに近づくように交差感度及び信号タイミングの少なくとも一方を適応的に調整することを特徴とする揮発性液体流入検知装置。
【請求項7】
請求項1に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
前記揮発性ガスセンサがコネクタを介して交換可能な構造を持ち、
前記揮発性ガスセンサ及び前記通信装置を防水筐体中に実装することを特徴とした揮発性液体流入検知装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記下水管路内の水面下に配置した1個以上の液相センサを備え、
前記制御装置は、前記液相センサの出力信号から下水中の揮発性液体の濃度を推定することを特徴とした揮発性液体流入検知装置。
【請求項9】
請求項8に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
前記揮発性ガスセンサとしてシアンガスセンサを、前記液相センサとして内部に電解液が封止された投げ込み型pHセンサを、備え、
前記制御装置は、前記投げ込み型pHセンサから得られた下水のpH値信号から、シアンイオン濃度の推定値を算出する揮発性液体流入検知装置。
【請求項10】
請求項9に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
前記制御装置は、前記pH値信号を入力とし、前記pH値信号から時刻に応じた周期的変動及び前記投げ込み型pHセンサの長期ドリフト成分の少なくとも一方の動的平均値を算出し、前記動的平均値を用いて前記pH値信号を補正して出力することを特徴とする揮発性液体流入検知装置。
【請求項11】
請求項9に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
下水の電気電導度に対応した信号を出力する電気電導度センサを備え、
前記制御装置は、前記電気電導度に対応した信号を用いて、前記下水管路への流入水によるpH値の変化を補正することを特徴とする揮発性液体流入検知装置。
【請求項12】
請求項1に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
前記制御装置は、
前記通報信号または揮発性ガスセンサの検出値を、前記通信装置によって、光信号、電気信号または無線信号で外部に送信することを特徴とする揮発性液体流入検知装置。
【請求項13】
請求項12に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
交換可能なバッテリ、無線送信器、及びアンテナを備え、
前記バッテリに蓄積された電力を動作し、定期的に起動してセンシング動作及びに外部への送信動作を行うことを特徴とした揮発性液体流入検知装置。
【請求項14】
請求項12に記載の揮発性液体流入検知装置であって、
光送信器、光受電回路、及び光ファイバケーブルを備え、
前記光ファイバケーブルで外部から送信された給電光を前記光受電回路で光電変換して得られた電力を利用して動作し、
前記光送信器から出力される光信号を、前記光ファイバケーブルを介して外部に送信し、
定期的に起動してセンシング動作ならびに外部への光信号の送信を行うことを特長とした揮発性液体流入検知装置。
【請求項15】
下水への揮発性液体の流入を検知する方法であって、
下水管路の上部空間に配置された揮発性ガスセンサから、空気中の揮発性ガスの濃度に応じた信号を取得し、
前記揮発性ガスセンサで検出した前記揮発性ガスの濃度が所定値を超えた場合に、前記揮発性液体の流入と判定して外部に通報信号を送信する、ことを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水への揮発性液体の流入を簡易に検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりを背景に、洪水防止や汚染防止・環境改善などの観点から、住環境を取り巻く河川・海洋及び下水の水位管理や水質改善が重要視されている。なかでも工場等からの廃液が下水に流入した場合は下水の水質に大きな影響を与える可能性がある。
【0003】
特に下水に流入する各種廃液の中でも、重金属やメッキ処理等の過程で利用するシアン化合物は極めて有毒性の高い化学物質であり、下水処理場や河川などに大きな影響を生じるため、法規制により厳密な廃液処理を定めるとともに、下水の排水処理区内で工場・事業所に対して下水道法により下水道の水質受け入れ基準が定められている。自治体等により下水や河川中のシアン化物イオン(以下、シアンイオン)の濃度についても排出基準(排除基準、例えば東京都の場合シアンイオン濃度1mg/L以下)が設けられている。万が一シアンイオンを含む未処理廃液が流入した際には管渠内作業や処理場の生物処理機能の阻害とそれに伴う放流水質の悪化が生じる。
【0004】
また交通事故や震災や火災等により、工場やガソリンスタンド等の火事・浸水の際には、ガソリンや軽油などの燃料油・工業油・有機溶剤などが大量に下水に流入するようなケースもある。これら液体の流入によっても同様に下水処理機能の阻害と放流水質の悪化を招く上、特に揮発性の高い燃料油や溶媒の流入の際には、下水管内や処理場での火災や爆発の危険性も生じるため、下水処理機器の運転を停止して油類の除去処理が必要となる。このため下水へのシアンイオンや油・溶剤類の流入検知は非常に重要となる。
【0005】
例えばシアン含有廃液の流入検知を例とすると、後述のようにいくつかの方法が考案されている。第1の公知技術としては、例えば(非特許文献1)「硫化水素混合系におけるシアン化物イオン分析システムの開発:第69回分析化学討論会、C2022、2008」が開示されている。図12は従来の第1のシアンイオン検知方式の説明図である。地下の下水管路100の底部には下水101が流れており、サンプリングポンプ103はサンプリングチューブ102-1を介して、少量の下水を汲み上げ、サンプリングチューブ102-2を介して曝気式硫化水素除去装置104、サンプリングチューブ102-3、及び液相イオン電極式シアンイオン検知装置105に送出する。
【0006】
液相イオン電極式シアンイオン検知装置105の内部には、溶液中のシアンイオンを非常に高感度で検出可能なシアンイオン電極が備えられており、これを用いて下水中のシアンイオン濃度を測定し、シアンイオン濃度が一定の閾値を越えた際にシアン含有廃液の流入と判定して警報を発生する。
【0007】
シアンイオン電極のもつ問題点としては、シアンイオン電極は硫化水素イオンに対しても強く反応してしまうことが知られている。下水環境中では微生物による生物反応などで硫化水素が発生しやすく、下水への溶解によって生じた硫化水素イオンの誤検知が大きな問題となる。この対策として、図中には曝気式硫化水素除去装置104が設けられている。本装置はサンプリングされた下水中に空気を送りこんで爆気することによって硫化水素イオンを気化して除去することで、シアンイオン電極による硫化水素イオンの誤検知を防いでいる。
【0008】
このような構成のため、第1の公知技術は比較的大型で消費電力の大きな装置構成となっている。例えばサンプリングポンプ103及び曝気式硫化水素除去装置104は内部にモータを備えるためその動作には数W~数10Wの電力が必要になる。このためAC電源などの大電力の電源装置106から電源ケーブル107を介して大きな電力供給が必要となる。また液相イオン電極式シアンイオン検知装置105も、連続自動計測のための薬液による定期電極洗浄や電極研磨などに様々な補機を必要とするため、装置規模が大となり、また定期的な薬液の補充や洗浄など保守・点検の頻度・工数が大となってしまう。
【0009】
第2の公知技術である(非特許文献2)「シアン化水素センサーを用いた気相測定方式によるシアン化物イオンの連続測定法の開発:分析化学 Vol.39 pp.693-698 (1990)」においては、非特許文献1の構成を簡素化する手法として小型ポンプと送気管及び気相中で安定に作動するシアン化水素電極を組み合わせた方式が開示されている。
【0010】
図13は従来の第2のシアンイオン検知装置の構成図である。パージパイプ110の下端は下水101中に浸漬されており、その上端には気相式シアンイオン電極111が設置されている。本図には示していないが、パージパイプの上端にはパージパイプ中の気体を外部に放出するための開口が設けられている。送気ポンプ114から送気管116を介して下水101中に空気(泡)117を送って通気することにより、下水中に溶存するシアン化物イオンをシアン化水素として気化させており、このために必要となる送気量は毎分1リットル程度とされている。
【0011】
気相式シアンイオン電極111の動作原理は、パージパイプ中のシアンガスが選択式透過膜を通して気相式シアンイオン電極の内部液に溶け込んだことで生じるpH変化をガラスイオン電極の両端に生じる電位差として測定するものである。発生した電位差は下水中のシアンイオン濃度によく対応しているため、イオン電極用ケーブル112を介して電圧計113で計測され、下水中のシアンイオン濃度に換算された後に記録計118に記録される。
【0012】
なお本方式においてもシアンイオン電極による硫化物イオンの誤検知が問題となっており、非特許文献2においては内径15mm、長さ200mmの粒状鉛カラムを配置して硫化物イオンを吸着させる方式が開示されている。吸着カラムの寿命は硫化物イオン濃度が0.01mg/Lの場合で約1週間である。
【0013】
油・溶剤類の流入については、原理的にはその一部は油膜の目視検査や光学的に油膜の反射を検出する油膜センサなどで検出可能であるが、油面を形成しない液体類の流入は検知できない、下水は異物や汚染が激しく油膜センサの検出ミスが多く発生する、下水には常時食堂等から発生する食用廃油・脂肪分も多く流入しており区別が困難などの問題点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「硫化水素混合系におけるシアン化物イオン分析システムの開発:第69回分析化学討論会、C2022、2008」
【非特許文献2】「シアン化水素センサーを用いた気相測定方法によるシアン化物イオンの連続測定法の開発:分析化学 Vol.39 pp.693-698 (1990)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決する第1の課題は、保守性・設置性・可用性の高い簡便な揮発性液体の流入検知方式を提供することにある。前述の2つの公知例はどちらもシアン化物を高精度に検知するイオン電極を用いる方式である。一般にイオン電極は薬液を用いた定期的な洗浄や校正が必要であり、保守作業によるコスト増や保守期間中の検知装置の停止期間が長くなるなどの課題がある。第1の公知例の液相イオン電極は直接汚れた下水に浸漬されるため、電極の酸化・硫化等による劣化が顕著となり、常時ないしは高頻度で電極の研磨や薬液洗浄、薬液の補填、ポンプ類のメンテを行う必要が生じる。
【0016】
また第2の公知例においても、高頻度で硫化水素吸着用の鉛カラムの交換が必要となり、また定期的にイオン電極の校正やポンプの可動部のメンテが必要になる。機器設置時においても、下水中にパージパイプを浸漬した状態で直立させる大規模な設置工事が必要となる、水位がパージパイプ(数10cm)の上端に達すると測定不能になる、などの課題を持つ。また燃料油・溶剤類の流入の検知においても、下水環境で利用可能な誤検出の少ない高感度な検出方法が無いなどの課題があった。
【0017】
本発明が解決しようとする第2の課題は、低電力で動作し配置場所の自由度が高く、下水管路内にも設置可能な、小型・低コストの揮発性液体の流入検知装置を提供することである。前述の公知技術はサンプリングポンプや送気ポンプなどのポンプ類を必要とするため、装置が大型化するとなり消費電力が大となる課題がある。このため商用電源や配電盤からの至近の場所にしか設置できない、管電源ケーブルの敷設や電源契約にコストや時間を要するなどの課題が生じる。特にこれらのポンプ類は、保守や水没の危険性から下水管路内に配置することができず、地上への設置場所の確保が必要となる、下水からポンプまでのサンプリングチューブや送気管が長尺となり配管の手間やコストが増大するなどの課題もある。下水管路内に検知装置を設置できれば、設置コストは低減できるものの、下水管路内部は常時高湿であり、水没や腐食性ガスの発生、電源配線のショートや腐食などのリスクが存在する。
【0018】
本発明の目的は、上記の問題点を解決し、低電力かつ簡易な構成で保守性・設置性・可用性が高く、運用コストの低い揮発性液体流入検知装置及び揮発性液体流入検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の代表的な一例の揮発性液体流入検知装置は、下水管路の上部空間に配置され空気中の揮発性ガスの濃度に応じた信号を出力する揮発性ガスセンサと、通信装置と、制御装置と、を備える。前記制御装置は、前記揮発性ガスセンサで検出した前記揮発性ガスの濃度が所定値を超えた場合に揮発性液体の流入と判定し、前記通信装置によって、外部に通報信号を送信する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低電力かつ簡易な構成で保守性・設置性・可用性が高く、運用コストの低い揮発性液体流入検知装置及び揮発性液体流入検知方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施例における揮発性液体流入検知方法の説明図である。
図2】本発明の第1の実施例における揮発性液体流入知装置の構成図である。
図3】本発明の第2の実施例における揮発性液体流入検知装置の構成図である。
図4】本発明における定電位電解式シアンガスセンサの説明図である。
図5】本発明の第3の実施例における揮発性液体流入検知方法の説明図である。
図6】本発明の第3の実施例における揮発性液体流入検知装置の構成図である。
図7A】本発明の揮発性液体流入の検出原理を示す説明図である。
図7B】本発明の揮発性液体流入の検出原理を示す説明図である。
図7C】本発明の揮発性液体流入の検出原理を示す説明図である。
図8】本発明におけるシアンイオン濃度の推定方法を示す説明図である。
図9】本発明の第4の実施例における揮発性液体流入液検知方法の説明図である。
図10】本発明の第4の実施例における揮発性液体流入検知装置の構成図である。
図11A】本発明の第4の実施例におけるpHセンサのドリフトの影響を示す説明図である。
図11B】本発明の第4の実施例におけるpHセンサのドリフトの影響を示す説明図である。
図12】従来の第1の揮発性液体流入検知装置の説明図である。
図13】従来の第2の揮発性液体流入検知装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において、揮発性液体の流入検知のための技術を説明する。以下に説明する揮発性液体流入検知装置の例は、下水管路の上部空間に配置された揮発性ガスセンサと、通信装置と、制御装置とを備える。制御装置は、揮発性ガスセンサで検出した揮発性ガス濃度が所定値を超えた場合に、通信装置によって外部に通報信号を送信する。このような揮発性液体及び揮発性ガスの組み合わせとしては、例えば「シアン含有廃液とシアンガス」、「可燃性燃料油と可燃性ガスセンサであるVOCセンサ(揮発性有機化合物センサ)」が挙げられる。
【0023】
ガスセンサの利用に関しては揮発性ガスセンサ(例えばシアンガスセンサや可燃性ガスセンサ)に対して交差感度を持つ干渉ガス(例えばシアンガスの場合、硫化水素HSや亜硫酸ガスSO)の存在が問題になる。これは揮発性ガスセンサに干渉ガス透過防止膜(誤検知防止機構の例)を備えることで解決できる。または、揮発性ガスセンサの近傍に一個以上の干渉ガスセンサを配置し、両センサで測定した揮発性ガス濃度信号と干渉ガス濃度信号の2つを入力とし、揮発性ガス濃度信号から一個以上の干渉ガスによって生じた誤差成分を除去することでも解決できる。
【0024】
また揮発性ガスセンサをコネクタを介して交換可能な構造とし、揮発性ガスセンサ、干渉ガス誤検知防止機構、及び通信装置を防水筐体中に実装することで、水没の可能性のある下水管路中への設置を可能とするとともに、定期点検や劣化・故障時に揮発性ガスセンサを容易に交換することが可能となる。
【0025】
また下水管路内の水面下に配置した一個以上の液相センサを備え、液相センサの出力信号から下水中の揮発性液体の濃度を推定することにより、下水中の揮発性液体濃度をより正確に推定可能となる。例えばシアン含有廃液の流入を検知する例ではこのような液相センサとしては、電解液が封止された投げ込み型pHセンサを用いることができる。また投げ込み型pHセンサを防水コネクタを用いて接続することにより、劣化・故障・定期点検時などに容易に交換することが可能となる。
【0026】
またpH値信号から時刻に応じた周期的変動やpHセンサの長期ドリフト成分などを動的平均によって算出し、これらの動的平均値を用いてpH値信号を補正して出力することで、シアンイオン濃度の推定精度を高めることが可能となる。さらに液相センサの一つである下水の電気電導度に対応した信号を出力する電気電導度センサを備え、電気電導度信号を用いて下水管路への流入水によるpH値の変化を補正することにより、シアンイオン濃度の推定精度をさらに高めることが可能になる。
【0027】
通報信号、揮発性液体の濃度推定値、本装置に搭載した各センサの測定値を、光信号、電気信号または無線信号で外部に送信する送信器を備えることにより、これらの情報をリアルタイムで外部に出力し、施設管理者や周辺自治体への通知・センシング情報の記録や公開・下水処理機器の停止や切替など、様々な用途に活用することが可能になる。
【0028】
特に本明細書の揮発性液体流入検知装置の現実的な形態としては、交換可能なバッテリ、無線送信器、及びアンテナを備え、バッテリに蓄積された電力を動作し、間歇的にセンシング動作及び外部への送信動作を行う構成で実現できる。
【0029】
また、光送信器、光受電回路、及び光ファイバケーブルを備え、光ファイバケーブルで外部から送信された給電光を光受電回路で光電変換して得られた電力を利用して動作し、かつ光送信器から出力される光信号を光ファイバケーブルを介して外部に送信する構成を持ち、間歇的にセンシング動作及び外部への光信号の送信を行うことでも実現できる。
【0030】
本明細書の揮発性液体流入検知技術は、下水管路における揮発性液体の流入の検知を簡易かつ低電力で実現できる。本明細書の揮発性液体流入検知装置の構成は、公知例のようにポンプやモータ類を必要としないため、動作電力を大幅に低減できるとともに、バッテリや太陽電池、環境発電、光給電など電力の限られた様々な電力を活用して長時間の動作が可能になる。
【0031】
また検出選択性の高いシアンガスセンサや可燃性ガスセンサ等の揮発性ガスセンサを用いて対応する揮発性液体の流入検知を行うことで、誤検知を減らし信頼性を高めることが可能となる。さらにpHセンサなどの液相センサを併用して下水中の揮発性液体の濃度を推定することも可能である。さらに各センサを容易に交換可能とし、下水管路内に設置する部分を防水構造とすることで、保守性・設置性・可用性を大きく高めることができる。以下、本発明の幾つかの実施例を図を参照して説明する。
【実施例0032】
図1は本発明の第1の実施例の揮発性液体の流入検知方式の説明図であり、本構成は揮発性ガスセンサにシアンガスを利用してシアン廃液の流入を検知する例である。本実施例の揮発性液体流入検知装置200は、下水管路100内部の上部空間に配置されている。揮発性液体流入検知装置200は、シアンガスセンサ201と、制御装置であるセンシングノード211を含む。本実施例においては、下水101が下水管中を流下する過程で発生するシアンガス220を、シアンガスセンサ201を用いて検出することが特徴である。
【0033】
メッキ処理に用いるメッキ液は高濃度のシアンイオンを含有しており、このような液中のシアンイオンは液性がほぼ中性のpH6.7でほぼ完全に揮発してシアンガスとして空気中に放出され、またpH11以上の強アルカリ性では揮発性が略ゼロとなることが知られている。このため、シアン濃度の高い未処理メッキ液は強アルカリ状態に調整されており、シアンイオンの揮発を防いでいる。
【0034】
下水は一般に弱アルカリ性(pH8~9)であるため、未処理のメッキ液がシアン含有廃液として下水中に排出された場合、下水管を流下する途中でシアンガスが少しずつに放出されていくと考えられえる。シアンガスの空気に対する比重は0.95であるため、下水管路が密閉されていればその上部に蓄積されていく。そのため、下水管路の上部にシアンガスセンサを配置することで、自然揮発したシアンガスを効率よく検知することが可能となる。
【0035】
図2は本発明の第1の実施例における揮発性液体流入検知装置200の構成図である。定電位電解式シアンガスセンサ201からは、下水管路中に蓄積されたシアンガス濃度に略比例したシアンガス濃度信号(電流)202が出力されている。ガスセンサ駆動回路203は、本電流を内部のトランスインピーダンスアンプ等の電気回路でシアンガス濃度信号(電圧)204に変換して出力する。
【0036】
電圧比較回路206は、シアンガス濃度信号(電圧)204を閾値電圧発生器205の発生する閾値電圧と比較し、この値を上回っている場合に通報信号発生回路207を起動する。通報信号発生回路207は、外部に通じる通報信号伝送ケーブル209に対して通報信号208を発出し、外部の装置や管理者にシアン廃液の流入検知を通報する。ガスセンサ駆動回路203、電圧比較回路206、及び通報信号発生回路207は制御装置に含まれる。
【0037】
なお本実施例及び本明細中では、揮発性液体流入検知装置200をもっぱらシアン廃液流入検知に用いた例を示しているが、他の揮発性液体の検知にも問題なく適用可能である。例えばシアンガスセンサを前述のVOCセンサと置き換えることで、下水中に流入した燃料油や有機溶媒の検出に適用することができる。
【実施例0038】
図3は本発明の第2の実施例における揮発性液体流入検知装置の構成図である。本例の揮発性液体流入検知装置は、本体となるセンシングノード211とガスセンサ部210の2つの部品とを含み、検出対象となる揮発性液体検知の通報信号を無線で外部装置に伝達する構成である。本例のガスセンサ部210はセンシングノード211から分離して配置されている。本明細書の実施例は複数の構成要素の組み合わせによって目的とする機能を達成するものであるため、故障・劣化・寿命などによる部品やバッテリ交換などの必要に応じて一部の構成要素を分離配置することが可能である。
【0039】
また本実施例では、ガスセンサ部210とセンシングノード211はそれぞれ防水筐体221-1、221-2中に収納され、両者は防水ケーブル222を介して接続されている。このようにすることで揮発性液体流入検知装置全体が水密構造として水没時耐えうる構造とできるため、下水管路中への設置も可能となる。
【0040】
また防水ケーブル222の片端と防水筐体221-2の間は防水コネクタ223を用いて接続されており、シアンガスセンサ201のセンサ寿命の到達時や劣化時などに、ガスセンサ部210全体を容易に交換可能な構造としている。定電界型ガスセンサ等、多くのガスセンサの寿命は1~数年程度であり、本例のようにガスセンサを容易に交換可能とすることで、装置寿命を伸ばし保守・運用コストを削減することができる。
【0041】
本実施例のガスセンサ部210中には定電位電解式シアンガスセンサ201とガスセンサ駆動回路203が配置されており、シアンガス濃度信号(電圧)204がセンシングノード211に伝送される。揮発性液体として、例えば可燃性液体を検知する場合には定電位電解式シアンガスセンサ201を、VOCガスセンサに置き換えればよい。
【0042】
本信号はAD変換器212でAD変換されてシアンガス濃度信号(デジタル)213として、CPU(Central Processing Unit)214に入力される。CPU214では、入力されたシアンガス濃度信号(デジタル)213を内部のメモリ中にあらかじめ記憶された閾値を越えた際に通報信号217を発報する。
【0043】
本信号は無線送信器218に送られ、無線アンテナ219を介して、遠隔地に配置された上位監視装置などに送られる。このように本実施例の閾値判定や通報発生などの処理を、ソフトウェアプログラムとして記述しCPUの動作によって実現することも可能である。
【0044】
また本例では、センシングノード211の内部にはバッテリ215が配置されており、センシングノード211の動作電力を賄うとともに、ガスセンサ部210にも電力216を供給している。本明細書の実施例はサンプリングポンプ・送気ポンプ、電極研磨装置、薬液ポンプなど、大きな電力を要するモータ・ソレノイド等の可動部品を持たないため、電力供給量の限られたバッテリを用いても長時間の動作を行うことが可能となる。本例には示していないがバッテリ215もガスセンサ部210と同様に独立した防水筐体に実装して防水コネクタを介して取り付けることにより、定期交換作業を容易とし保守・運用コストを下げることも可能である。
【0045】
図4は本明細書の実施例における定電位電解式シアンガスセンサの説明図である。定電位電解式シアンガスセンサ201は、ガス選択成の非常に高い小型ガスセンサであり、内部に選択式ガス透過膜と電界液が配置されている。外気はガス導入孔230からガスセンサ内部に導入され、そのうち検出対象ガスのみがガス透過膜を透過して電解液に達する。
【0046】
電解液部には外部から参照電極(R)、作用電極(W)、対極(C)の3つの電極が挿入されており、参照電極に対する作用電極の電位を一定に保ちながら検出対象ガスの電解反応を発生させ、作用電極に流れる検出電流の大きさから検出対象ガスの濃度を検知する方式である。
【0047】
定電位電解式シアンガスセンサは、本発明で検出対象となる下水管路中に蓄積されたシアンガスを選択的に、0.1ppm程度の高感度で検出することが可能であり、低電力で動作することから本実施例の実現に特に適している。しかしながら、検出対象となる揮発性ガスを選択的に高感度で検出することが可能であれば、他の検出原理に基づく揮発性ガスセンサを適用することが可能である。
【0048】
上例の定電位電解式シアンガスセンサにおいては、分子構造の似た硫化水素ガスが大きな交差感度を持つことが知られている。硫化水素ガスは下水管中でも発生頻度が高く干渉ガスとして作用する。そのため、本例の定電位電解式シアンガスセンサ201においては、誤検知防止機構として、硫化水素を選択的に除去する硫化水素透過防止膜231をガス導入孔230に貼り付ける。これによって、比較的簡単に硫化水素の影響を防止している。シアンガスセンサは他にも亜硫酸ガスなどに交差感度を示す可能性があり、本装置の設置場所での発生可能性や頻度など必要に応じて複数のガスの透過防止膜を備えることが可能である。
【実施例0049】
図5は本発明の第3の実施例における揮発性液体流入検知方式の説明図である。本装置はシアン含有廃液の流入検知を目的に、センシングノード211、ガスセンサ部210及び下水中に配置した投げ込み式pHセンサ232を含む。センシングノード211には外部との通信や給電に用いる外部接続ケーブル235が接続されている。
【0050】
シアンガスは空気中に存在せず下水管路中の生化学的反応などで生成されることが無いため、シアンガスセンサを用いることで下水中へのシアン含有廃液の流入を高い信頼度で検出することが可能になる。しかしながら下水管路中に蓄積されるシアンガスの濃度は、シアン含有廃液の流入点からの距離・下水管径や水位・下水のpH値・下水管の合流分岐構造・管路内の風速や外気の流入点の有無など様々なパラメータに影響される。
【0051】
このためシアンガスセンサで検出されるシアンガス濃度は必ずしも下水中のシアンイオン濃度には対応していない可能性が高い。よって本構成では前述のシアンガスセンサに加えて、下水のpH値を測定する投げ込み式pHセンサ232を搭載し、本センサで測定した下水のpH値から間接的にシアンイオン濃度を推定する。他の特定の揮発性液体の濃度推定に用いる場合には、必ずしもpH値に限らず適切な指標を出力する液相センサを利用すればよい。
【0052】
図6は本発明の第3の実施例における揮発性液体流入検知装置の構成図である。上述のように、検知される揮発性液体はシアン含有廃液である。前述の投げ込み式pHセンサ232はpHセンサケーブル233を介してセンシングノード211に接続されている。
【0053】
投げ込み式pHセンサ232から出力されるpH信号(電圧)234は下水のpH値に応じた微弱な電圧信号である。pH信号(電圧)234は、センシングノード211内に配置された高インピーダンス電圧増幅回路243によって増強され、CPU214内部のAD変換器でデジタル値に変換される。
【0054】
投げ込み式pHセンサ232としては一般的なガラス電極型pHセンサ等が利用可能であるが、下水中に設置する場合、水位の上昇によりセンサ全体が水没する場合がある。そのため、電極内部に一定量の電解液を封入し全体を防水構造とした投げ込み型センサの利用が適している。
【0055】
また投げ込み式pHセンサ232は防水コネクタ223-2を用いてセンシングノード211の防水筐体221-2に取り付けられており、必要に応じて交換が可能である。ガラス電極型pHセンサは、時間経過とともに内部の電解液が少しずつ消費される有寿命の部品であり、また下水による汚損による感度低下や衝撃による電極の割れなど様々な劣化や故障を生じる可能性がある。このため適宜洗浄や交換を行うのが望ましい。上記のように防水コネクタを介して接続する構成とすることで、装置全体の水密・気密を保ちつつ、センサ部の交換・保守作業を容易にすることが可能となる。
【0056】
また本実施例の接続ケーブル235には、内部に複数の電線(芯線)を含む複合ケーブルの利用を想定しており、図6ではそのうち2本を通信用信号線247、電力伝送線252として利用している。CPU214から出力される通信信号244は、送信器245によって通信用のシリアル符号等に変換され通信用信号線247を介して、接続ケーブル235の他端に接続された他装置(例えば上位装置)や管理者にむけて送信される。通信信号の内容としては、前述の通報信号、シアンガス濃度やpH値の測定結果や下水中のシアンイオンの推定濃度の推定信号など、様々な情報を含めることが可能である。
【0057】
一方、電力伝送線252はセンシングノード211とガスセンサ部210の動作に必要な電力を供給している。本例は2芯の電気ケーブルである接続ケーブル235を用いて通信と電力を行う構成を示したが、必要に応じて他の信号線やグラウンドなどの芯線を増やしても構わない。また接続ケーブル235を分岐し、複数のセンシングノードを接続するような構成としてもよい。
【0058】
また本図のガスセンサ部210内には、前述の定電位電解式シアンガスセンサ201とそのガスセンサ駆動回路203-1に加えて、もう一組のガスセンサとして定電位電解式硫化水素ガスセンサ240とそのガスセンサ駆動回路203-2が配置されている。定電位電解式硫化水素ガスセンサ240から出力された硫化水素ガス濃度信号(電流)241は、ガスセンサ駆動回路203-2で硫化水素ガス濃度信号(電圧)242に変換されてシアンガス濃度信号(電圧)204と共にCPU214に入力される。これらの信号はそれぞれCPU214内部のA/D変換器でデジタル信号に変換される。硫化水素ガスセンサ240は、干渉ガスセンサの例であり、シアンガスセンサ201の近傍に配置され、略同じ位置にある。
【0059】
このようにして測定された下水管路中の硫化水素ガス濃度は、同様に測定されたシアンガス濃度から硫化水素ガスの影響を差し引き、正しいシアンガス濃度に変換するために用いられる。定電位電解式シアンガスセンサの出力信号への硫化水素ガスの影響は交差感度(Cross-Sensitivity)と呼ばれ、交差感度αは正負いずれかの一定の定数となる。このため、シアンガスセンサから得られたガス濃度から、硫化水素の影響(α*硫化水素濃度)を差し引くことで、正しいシアンガス濃度を知ることが可能となる。
【0060】
このようなシアンガス濃度の補正演算はCPU214で実施したり、ガスセンサ部210の内部に専用の補正回路や補正用CPUを設けたり、もしくは接続ケーブル235を介して接続された外部装置で実施しても構わない。
【0061】
また各センサの感度や交差感度はそれぞれ個体差を持ち、また長期間の使用による劣化によっても少しずつ変化することが知られている。このため上記の補正演算としては、検出対象ガス(例えばシアンガス)が発生していない通常時は上記のシアンガスセンサの補正値がゼロに近づく(略ゼロとなる)よう、干渉ガスセンサの感度αを適応的に調整する適応補正演算を利用するのが有効である。
【0062】
このような処理には通信等で広く用いられる適応デジタルフィルタやAIによる学習処理が利用可能である。干渉ガスセンサの種類は必ずしもひとつとする必要はなく、下水管中で発生可能性のある干渉ガスの種類に応じて適宜増やしても構わない。なお一般には検出対象ガス・干渉ガスは必ずしも常時発生していない。そのため、αの値を適切に保つには両ガスセンサの出力値が非ゼロの場合にのみ補正値αの学習による最適化を行うことで、干渉ガスの影響をほぼ排除することが可能となり、検出対象ガスに対応した出力信号だけを取り出すことが可能となる。
【0063】
また本例ではガスセンサ部210全体を防水コネクタ223-1で取り外して交換可能な構成を示している。これ以外にも、例えば定電位電解式シアンガスセンサ201及び定電位電解式硫化水素ガスセンサ240をコネクタで実装し、必要に応じて防水筐体221-1を開けて内部のガスセンサのみを交換してもよい。なおガスセンサを防水筐体221-1の内部に取り付ける場合には、防水筐体221-1の一部にガス導入口を設け、ガス導入口にゴアテックス(登録商標)などの防水パッチを貼るなどの処理により防水性とガス透過性を両立することが可能となる。
【実施例0064】
図7Aから7Cは本明細書の実施例におけるシアン含有廃液の濃度推定の原理を示す説明図であり、実験で測定した下水中のシアンイオン濃度(横軸)と発生したシアンガス濃度、下水のpH値、下水の電気伝導率の関係を示している。グラフの横軸は下水中のシアンイオン濃度であり、ビーカー中採取した下水に、希釈済シアン含有未処理メッキ液(pH値約11、シアン濃度100mg/Lに調製)を少量ずつ添加することでシアンイオン濃度を変化させた。また発生ガスが逃げないよう実験は閉鎖系で実施した。なお再現性の確認のため、実験を繰り返し2回実施し、各グラフには実験結果をそれぞれ2本の実線(1回目●、2回目▲)でプロットしている。
【0065】
図7Aの縦軸は発生したシアンガス濃度であり、シアン含有廃液が下水で希釈されることによって実際にシアンガスが発生していることが確認できる。下水へのシアン排出基準はおよそ1mg/Lであり、このときのHCNガス濃度は1ppm程度であった。この値は一般的な市販シアンガスセンサの最小感度である0.1~0.3ppmを十分上回っており、本明細書の実施例の構成で十分に検出可能である。
【0066】
また図7Bの縦軸はpH値の変化であり、シアン含有廃液が高アルカリ性のため、シアンイオン濃度の増加に伴って下水のpH値が上昇すること、また2回の実験結果の再現性が高くpH値からおよそのシアンイオン濃度を推定できることがわかる。なおグラフの右端のシアンイオン濃度5mg/L時の理論pH値を計算で求めると、前記希釈済シアン含有未処理メッキ液がさらに20倍に希釈される。そのため、理論pH値はおよそ11-log10(20)=9.7となるが、実際には9.0とこれを下回っている。これは下水のバッファ効果、すなわち下水中に含まれる様々な生体物質や不純物によってpH値の上昇が妨げられるためと考えられる。このため本明細書の実施例の下水のシアンイオン濃度の推定においては、理論式を用いるよりは図7Bのような実験結果を利用してバッファ効果を考慮して推定するのが望ましいことがわかる。
【0067】
下水のpH値をPとしたときのシアンイオン濃度X(mg/L)の推定式としては、下水の初期pH値を7.0とおいたもっとも簡単な希釈理論式を用いると
(式1) X = 10^(P-7)*C
の形で近似することができる。定数CはC=0.01(バッファ効果のない場合)であり、C=0.05(図7Bのバッファ効果のある場合を近似)とできる。
【0068】
なお図7B中に引いた白丸付き点線は、C=0.05(バッファ効果あり)の場合シアンイオン濃度推定式の特性であり、シアンイオン濃度が1mg/Lを越える領域では実験結果とおおむね合致していることがわかる。一方、グラフ左側のシアンイオン濃度1mg/Lの領域の推定値と実験結果には大きな誤差が生じているが、これは下水の初期pH値(シアン濃度0時のpH値、本実験ではpH=8.2)の影響を無視したためである。下水の初期pH値P0を考慮した推定式としては例えば
(式2) X=10^(P-7)*C-10^(P0-7)*C(P>P0時)
X=0 (P<P0時)
が利用できる。
【0069】
図7B中の白三角付き点線は(式2)でC=0.05とした場合であり、実験結果にほぼ完全に合致していることがわかる。なお上記に示すシアンイオン濃度の推定式はあくまで一例であり、他にも様々な関数による近似(例えば直線近似による領域分割など)を用いても実現することが可能である。
【0070】
図8は本明細書の実施例におけるシアンイオン濃度の推定方法を示す説明図(グラフ401から403)であり、グラフ402は下水のpH値の変動例を示している。下水のpH値はpH8前後の弱アルカリ性ではあるもののその値は一定ではなく、雨水や他の廃液の流入・測定誤差などによりある程度の変動を持っている。このためpH値単独でシアン含有廃液の流入を検知することは困難であり、本発明では物質選択性の高いシアンガス検出をシアン含有廃液の流入検知の必須条件として利用することで信頼性を大幅に向上している。
【0071】
下水中のシアンイオン濃度の推定においても、測定結果の信頼性向上にはシアンガス検出信号によるマスキングが有効である。すなわち、グラフ401に示すようにシアンガス濃度があらかじめ定めた閾値(本例では0.5ppm)を越えた間を、シアン含有廃液流入中と判定し、シアンイオン濃度の推定値はグラフ403に示すようにシアン含有廃液流入中のみ有効とし、シアンガス非検出時はゼロとすればよい。本装置が発生するシアン含有廃液の流入の通報においても、シアンイオン濃度の条件を加味することも可能であり、その場合にはシアンガス検出かつシアンイオン濃度の推定値が一定値以上という条件とすることで本発明の信頼性をさらに向上することが可能である。
【0072】
また(式2)における下水の初期pH値P0はシアン含有廃液の流入がない場合の仮想的な下水のpH値であるが、この値は一定値ではなく、厳密には雨水の流入などにより時々刻々変化している。よってシアン含有廃液の流入が短時間でその間に他の要因による大きなpH変動が生じないとすれば、P0の値としては例えばグラフ402に示すようにシアン含有廃液の流入検出の一定時刻前の下水pH値(本例では7.8)を利用することできる。これにより(式2)におけるシアンイオン濃度の推定精度が向上できる。
【0073】
一方でシアン含有廃液の流入が長時間に及びその間に降雨などが大量に流入して下水の濃度が薄まるなど大きなpH変動が生じ(式2中)のp0が変化するようなケースでは、シアンイオン濃度の推定誤差が増大してしまう。図9は本発明の第4の実施例におけるシアン含有廃液検知方式の説明図であり、第3の実施例の構成に投げ込み式電気電導度センサ260を追加搭載し、本センサで測定した下水の電気電導度から雨水流入による下水流量の変化を推定し、前記(式2)で用いる下水pH初期値p0を補正する機能を加えた構成である。
【0074】
また本構成において、センシングノード211は光ファイバケーブル270を介して下水管路の外部に配置された光給電装置271に接続され、光で電力や通信のやり取りを行っている。本構成では光給電装置271も揮発性液体流入検知装置の一部であってもよい。光給電装置271は、必要に応じて、検出したガス濃度が所定値を超えた場合の揮発性液体流入の通報信号の発生、下水中の揮発性液体の濃度推定、並びに、揮発性液体流入の通報信号、上記濃度推定値を含む各種測定値のネットワーク272経由での外部へ通知などの機能の少なくとも一部を、分担することが可能である。
【0075】
なお図9ではセンシングノード211を下水管路内に配置する構成を示している。これと異なり、もしセンサケーブル長に余裕があれば、センシングノード211を下水管路外に配置し、ガスセンサ部210、投げ込み式pHセンサ232、及び投げ込み式電気電導度センサ260のみをそれぞれ下水管路内に設置するなど柔軟な機器配置が可能である。
【0076】
図10は本発明の第4の実施例における揮発性液体流入検知装置の構成図である。本構成ではガスセンサ部210、投げ込み式pHセンサ232、及び投げ込み式電気電導度センサ260がそれぞれ防水コネクタ223-1、223-2、223-3を介してセンシングノード211の防水筐体221-2に接続されている。
【0077】
また本例では防水筐体221-2に接続される光ファイバケーブル270内部には、一芯の光ファイバ芯線273が配置されている。本光ファイバ芯線273には遠隔配置された光給電装置271から大強度の給電光278が送信されている。センシングノード211の内部では光分波器274を用いて給電光の波長成分を低損失で分離して光受電回路276に入力している。
【0078】
光受電回路276は給電光278をフォトダイオードなどの光電変換素子で電力に変換し、これを内部のバッテリ等の蓄電素子に蓄えることでセンシングノード211やガスセンサ部210の動作電力を得る。またCPU214から送信された通信信号244は光送信機275で上り送信光277に変換される。上り送信光277は給電光278と異なる波長の光信号であり、光分波器274は本信号を光ファイバ芯線273に波長多重し、遠隔配置された光給電装置271に送信する。
【0079】
上記の構成では、下水管路内に設置されたセンシングノード211と下水管路外の光給電装置271を結ぶ長尺の配線(数10m~数km)を光ファイバのみで実現することが可能となる。光ファイバは電気ケーブルに比べ防爆性・耐食性がはるかに優れており、ショートや爆発の危険性を減らし本システムの安全性・信頼性を向上できる。また図3に示すバッテリを用いた構成に比べると、バッテリの保守交換作業が不要となり、また電力に余裕ができるため測定や通信の頻度や搭載センサ数を増すことができるという利点もある。
【0080】
投げ込み式電気電導度センサ260としては、下水中に露出した2本の電極の抵抗値から電気電導度を直接調べる電気抵抗方式、下水中に近接して配置した2つのコイルを配置して誘導起電力を測定する電磁誘導方式などが適用可能である。本例ではセンサから得られた電気電導度信号(電圧)262は、電気電導度センサケーブル261を介してセンサノード211内部の電圧増幅回路263に入力されて電圧増幅された後に、CPU214の内部のAD変換器でデジタル信号に変換される。
【0081】
電気電導度は液体中の電気の通り易さを示すパラメータであり、下水の電気電導度は下水の流量の目安として利用可能なことが知られている。一般に下水はイオンを多く含むため電気を通しやすく電気電導度の値は数100~1000uS/m付近の大きな値となる。これに対し降雨の際に流入する真水は電気を通しにくいため、電気電導度は100uS/m以下の小さな値となる。雨水流入時に下水が雨水で希釈されるとその電気伝導度Eは希釈率に反比例して低下するため、雨水流入の無い定常時の下水電気電導度をE0とすれば、下水流量の変化(希釈率)は概ね(E/E0)で近似できる。
【0082】
一方、流入する雨水のpHはほぼ中性(~7)であり、通常時の下水のpH値をP0とすると雨水流入によって希釈された下水のpH値P0′は希釈率のログ関数で変化するため、
(式3) p0′=log10(10^(p0-7)*(E0/E))+7
などの近似式よって推定することができる。
【0083】
(式2)中のP0を(式3)で求めたP0′に置き換えることで、雨水流入による下水初期pH値P0の変化が可能となり、これによってシアンイオン濃度の推定精度を向上することができる。なお(式3)は流入する雨水の電気伝導度の値をゼロとして導出した近似式であり、必要に応じてさらに精度の高い近似式やより簡素な形態の近似式に置き換えることも可能である。
【0084】
なお図7Cの縦軸は電気電導度であるが、電気電導度はシアンイオン濃度の影響を受けないため、上記の下水流量変化の演算をシアンイオン濃度に無関係に実施できることがわかる。
【0085】
また図11A及び11Bは第4の実施例におけるpHセンサのドリフトの影響を示す説明図である。図11AはpHセンサのドリフトが生じた際のpH値変化の模式図である。下水のpH値が一定値(本図では8.0)であってもpHセンサはガラス電極の劣化などにより徐々に出力電圧がシフトするドリフトを生じる可能性があることが知られている。ドリフト成分は定常pH値からゆっくりとしたずれであるため、あらかじめ平均化操作によって定常pH値を求めておけば、動的平均演算によってドリフト成分を算出することができる。
【0086】
このようにして求めたドリフト成分を測定したpH値から除去することで、図11Bのようにドリフト成分を除去した正しいpH値が得られ、(式1)や(式2)におけるシアンイオン濃度の推定精度を向上することが可能となる。
【0087】
また測定したpH値が、日々の時刻に応じた周期的変動など既知の変動を持つ場合には、本変動を各時刻の定常状態、すなわち(式3)のP0として利用することでシアンイオン濃度の推定値を補正し、推定精度を向上することができる。例えば日々の時刻に応じた周期的変動であれば、取得したpH値を日々の時刻毎に類別し、同じ時刻のデータ間で数日~数週にわたり動的平均操作を行うことで算出可能である。
【0088】
なお上記に示すような下水の流量補正やpHセンサのドリフト補正などは、センシングノード211内部のCPU214で実施してもよいし、光給電装置271(上位装置)の内部、ないしはネットワークを介して接続差先の装置などで実施しても構わない。このほか、上記複数の実施例において説明された揮発性液体流入検知装置の機能(制御機能)の少なくとも一部は、ガスセンサを含む下水管路内に設置された装置とネットワークを介して通信する、上位装置に実装されてもよい。揮発性液体流入検知装置は、上位装置に含まれる機能を含んで構成される。
【0089】
例えば、上位装置は、ガスセンサによる検知値を取得し、揮発性ガス濃度が所定値を超えた場合に揮発性液体の流入と判定し、外部に通報してもよい。また、上位装置は、干渉ガスによって生じた誤差成分を除去してもよく、揮発性ガス濃度信号の出力値が時間的にゼロに近づくように交差感度や信号タイミングを適応調整してもよい。
【0090】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、または置換をしてもよい。
【0091】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0092】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、IC(Integrated Circuit)カード、SDカード、DVD(Digital Versatile Disc)の記録媒体に格納することができる。
【0093】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は下水への揮発性液体流入を簡易に検知する方法に関するものであり、下水品質のモニタリングや下水処理施設の監視に適用可能であり、本装置からの情報を利用して下水処理の切り替えや運転自動化などに適用可能である。
【符号の説明】
【0095】
100:下水管路、101:下水、102:サンプリングチューブ、
103:サンプリングポンプ、104:曝気式硫化水素除去装置、
105:液相イオン電極式シアンイオン検知装置、
106:電源装置、107:電源ケーブル、
110:パージパイプ、111:気相式シアンイオン電極、
112:イオン電極用ケーブル、
113:電圧計、114:送気ポンプ、115:吸気管、
116:送気管、117:空気(泡)、118:記録計、
200:本発明の揮発性液体流入検知装置、201:定電位電解式シアンガスセンサ、
202:シアンガス濃度信号(電流)、203:ガスセンサ駆動回路、
204:シアンガス濃度信号(電圧)、205:閾値電圧発生器、
206:電圧比較回路、207:通報信号発生回路、208:通報信号、
209:通報信号伝送ケーブル、
210:ガスセンサ部、211:センシングノード、212:AD変換器、
213:シアンガス濃度信号(デジタル)、214:CPU、
215:バッテリ、216:電力、217:通報信号、
218:無線送信器、219:無線アンテナ、220:シアンガス、
221:防水筐体、222:防水ケーブル、223:防水コネクタ、
230:ガス導入孔、231:硫化水素透過防止膜、
232:投げ込み式pHセンサ、233:pHセンサケーブル、
234:pH信号(電圧)、235:外部接続ケーブル、
240:定電位電解式硫化水素ガスセンサ、241:硫化水素ガス濃度信号(電流)、
242:硫化水素ガス濃度信号(電圧)、243:高インピーダンス電圧増幅回路、
244:通信信号、245:送信器、246:送信信号、247:通信用信号線、
250:受電回路、251:電力、252:電力伝送線、
260:投げ込み式電気電導度センサ、261:電気電導度センサケーブル、
262:電気電導度信号(電圧)、263:電圧増幅回路、
270:光ファイバケーブル、271:光給電装置、272:ネットワーク
273:光ファイバ芯線、274:光分波器、275:光送信機、
276:光受電回路、277:上り通信光、278:給電光、
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図2
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