(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124782
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】タイヤの加硫故障発生予測方法およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20220819BHJP
B29D 30/08 20060101ALI20220819BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20220819BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20220819BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20220819BHJP
【FI】
B29C33/02
B29D30/08
B29C35/02
G06F17/50 680Z
G06F17/50 604D
G06F17/50 604H
G06F17/50 601D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022623
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】松田 健太
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
4F215
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AH20
4F202AM23
4F202AM32
4F202CA21
4F202CU02
4F202CY11
4F202CY30
4F203AA45
4F203AB03
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4F215AH20
4F215AM32
4F215AR12
4F215VD01
4F215VL27
4F215VP37
4F215VR02
5B046AA04
5B046AA05
5B046BA08
5B146AA05
5B146BA04
5B146DC03
5B146DC05
(57)【要約】
【課題】グリーンタイヤの設計仕様データおよび使用するモールドの成形面の断面形状データを用いて、加硫故障発生の可能性をより簡便かつ高精度で予測できる予測方法およびこの予測方法を利用したタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】グリーンタイヤGの断面形状を含む設計仕様データD1と、成形面7の断面形状データD2と、多数の異なる設計仕様データD1に基づいて成形したグリーンタイヤGをモールド6で加硫したタイヤTでの加硫故障の発生データD3と、を教師データとして機械学習させて生成した予測モデルPMを演算装置2に記憶し、予測対象のグリーンタイヤGaの設計仕様データD1と、成形面7の断面形状データD2とを予測モデルPMに代入し演算処理することにより、グリーンタイヤGaをモールド6で加硫した対象タイヤTaでの加硫故障の発生有無を予測する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンタイヤの断面形状を含む設計仕様データに基づいてグリーンタイヤを成形する際に、前記設計仕様データを異ならせた多数の前記グリーンタイヤを成形し、成形したそれぞれの前記グリーンタイヤを所定のモールドを用いて加硫して製造されたそれぞれのタイヤに生じた加硫故障の発生データを取得し、それぞれの前記設計仕様データと、前記モールドの成形面の断面形状データと、前記加硫故障の発生データと、を教師データとして、前記教師データを用いて機械学習させることで、加硫して製造されるタイヤでの加硫故障の発生の有無を予測する予測モデルを生成し、この予測モデルが記憶された演算装置に、予測対象となるグリーンタイヤの設計仕様データを入力して、この入力した設計仕様データと前記成形面の断面形状データとに基づいて、前記予測モデルを用いた前記演算装置による演算処理により、前記モールドを用いて予測対象となる前記グリーンタイヤを加硫して製造される対象タイヤでの加硫故障の発生有無を予測することを特徴とするタイヤの加硫故障発生予測方法。
【請求項2】
前記設計仕様データに、前記グリーンタイヤのカーカス層よりも外側の未加硫ゴムのボリュームを含める請求項1に記載のタイヤの加硫故障発生予測方法。
【請求項3】
前記設計仕様データに、前記グリーンタイヤの前記成形面に接触する未加硫ゴムの粘度データを含める請求項1または2に記載のタイヤの加硫故障発生予測方法。
【請求項4】
前記教師データとして、前記グリーンタイヤを加硫する際の少なくとも加硫温度を含む加硫条件データを追加し、予測対象となる前記グリーンタイヤの前記加硫条件データを前記演算装置に入力して、この入力した前記加硫条件データも前記対象タイヤでの前記加硫故障の発生有無の予測に用いる請求項1~3のいずれかに記載のタイヤの加硫故障発生予測方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のタイヤの加硫故障発生予測方法によって予測された結果に基づいて、前記対象タイヤで前記加硫故障が発生しない前記グリーンタイヤの前記設計仕様データを把握し、この把握した設計仕様データに基づいてグリーンタイヤを成形して、この成形したグリーンタイヤを前記モールドと同じ仕様のモールドを用いて加硫するタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの加硫故障発生予測方法およびタイヤの製造方法に関し、さらに詳しくは、グリーンタイヤの設計仕様データおよび使用するモールドの成形面の断面形状データを用いて、加硫故障発生の可能性をより高精度で予測できる簡便な予測方法およびこの予測方法を利用したタイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、未加硫のグリーンタイヤが加硫用モールドの中で加硫されることで製造される。グリーンタイヤは予め設定された仕様に成形されるが、タイヤ仕様によっては使用するモールドとのマッチングが悪く、加硫されたタイヤに加硫故障が生じることがある。例えば、加硫されたタイヤには、局所的なゴム量の過不足や加硫具合の過不足、変形などの加硫故障が生じる。
【0003】
このような故障を防ぐために、グリーンタイヤの予測断面形状および使用されるモールドの成形面の断面形状データを用いて算出された両者の隙間の大きさを加硫故障の指標として用いることが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1で提案されている発明では、グリーンタイヤの予測断面形状のタイヤ外表面にタイヤ径方向に同一間隔で多数の座標点を抽出し、それぞれの座標点におけるタイヤ外表面と成形面との間隔の大きさを求める。この間隔の大きさと故障率との相関係数を求め、この相関係数の絶対値の大きい部位(位置)では、故障が発生し易いと判断される。
【0004】
この発明では、故障が発生し易い部位(位置)は判明するが、故障の発生を防止できる上述した隙間の大きさの明確な適正範囲は判明しない。そのため、判断対象となるグリーンタイヤを、所定のモールドを用いて加硫した場合に、加硫故障が発生するか否かを精度よく予測することが難しく、簡便でありながら加硫故障の発生の可能性をより高精度で予測するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、グリーンタイヤの設計仕様データおよび使用するモールドの成形面の断面形状データを用いて、加硫故障発生の可能性をより高精度で予測できる簡便な予測方法およびこの予測方法を利用したタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のタイヤの加硫故障発生予測方法は、グリーンタイヤの断面形状を含むタイヤ設計仕様データに基づいてグリーンタイヤを成形する際に、前記タイヤ設計仕様データを異ならせた多数の前記グリーンタイヤを成形し、成形したそれぞれの前記グリーンタイヤを所定のモールドを用いて加硫して製造されたそれぞれのタイヤに生じた加硫故障の発生データを取得し、それぞれの前記タイヤ設計仕様データと、前記モールドの成形面の断面形状データと、前記加硫故障の発生データと、を教師データとして、前記教師データを用いて機械学習させることで、加硫して製造されるタイヤでの加硫故障の発生の有無を予測する予測モデルを生成し、この予測モデルが記憶された演算装置に、予測対象となるグリーンタイヤのタイヤ設計仕様データを入力して、この入力したタイヤ設計仕様データと前記成形面の断面形状データとに基づいて、前記予測モデルを用いた前記演算装置による演算処理により、前記モールドを用いて予測対象となる前記グリーンタイヤを加硫して製造される対象タイヤでの加硫故障の発生有無を予測することを特徴とする。
【0008】
本発明のタイヤの製造方法は、上記に記載のタイヤの加硫故障発生予測方法によって予測された結果に基づいて、前記対象タイヤで前記加硫故障が発生しない前記グリーンタイヤの前記設計仕様データを把握し、この把握した設計仕様データに基づいてグリーンタイヤを成形して、この成形したグリーンタイヤを前記モールドと同じ仕様のモールドを用いて加硫することを特徴とする。
【0009】
本発明のタイヤの加硫故障発生予測方法によれば、前記設計仕様データと、前記成形面の断面形状データと、前記加硫故障の発生データとを、前記教師データとして機械学習させて生成した予測モデルを使用する。そのため、予測対象となるグリーンタイヤの設計仕様データと前記成形面の断面形状データとを前記予測モデルに入力して前記演算装置によって演算処理することで、前記モールドを用いて予測対象となる前記グリーンタイヤを加硫して製造される対象タイヤでの加硫故障の発生有無をより高精度で簡便に予測することが可能になる。そして、前記設計仕様データ、前記成形面の断面形状データはそれぞれ、グリーンタイヤ、モールドを実際に測定することなく、設計上のデータを使用できるので容易に取得でき、対象タイヤでの加硫故障の発生有無の予測が簡便になる。
【0010】
本発明のタイヤの製造方法によれば、上記のタイヤの加硫故障発生予測方法によって予測された結果に基づいて、設計仕様データを把握できる。そして、この把握した加硫故障が発生しない設計仕様データに基づいてグリーンタイヤを成形して、この成形したグリーンタイヤを前記モールドと同じ仕様のモールドを用いて加硫する。そのため、加硫故障が発生しないタイヤを安定して効率的に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に用いる予測システムを例示する説明図である。
【
図2】グリーンタイヤの右半分を横断面視で例示する説明図である。
【
図3】モールドの右半分を横断面視で例示する説明図である。
【
図4】モールドの中に配置した状態のグリーンタイヤの右半分を横断面視で例示する説明図である。
【
図5】予測モデルを用いて予測されたグリーンタイヤの断面形状の外表面(プロファイル)の適正範囲を成形面の断面形状とともに例示する説明図である。
【
図6】
図5の適正範囲を予測対象のグリーンタイヤのプロファイルとともに例示する説明図である。
【
図7】予測モデルを用いた予測結果に基づいて形成されたグリーンタイヤのプロファイルを、成形面の断面形状および適正範囲とともに例示する説明図である。
【
図8】
図7のグリーンタイヤを加硫している加硫装置を横断面視で例示する説明図である。
【
図9】
図8のグリーンタイヤの右半分を横断面視で例示する説明図である。
【
図10】加硫されたタイヤの右半分を横断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のタイヤの加硫故障発生予測方法およびタイヤの製造方法を、図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0013】
図1に例示する予測システム1を用いて、本発明のタイヤの加硫故障発生予測方法が行われる。この予測システム1は、演算装置2と入力部3と表示部4とを有し、さらに設計システム5を有している。演算装置2と入力部3、表示部4は有線または無線により通信可能に接続されている。設計システム5により出力されたデータは直接、または入力部3を通じて演算装置2に入力される。
【0014】
演算装置2は、種々のデータが入力、記憶され、これらデータを用いて演算処理を行う。演算装置2としては、種々のコンピュータを用いることができる。したがって、演算装置2は、種々のデータが記憶されるメモリと、演算処理を行うCPUを有している。
【0015】
入力部3は、演算装置2に種々のデータを入力する入力手段である。入力部3としては、キーボード、マウス、各種端末機器を用いることができる。
【0016】
表示部4は、演算装置2に入力された種々のデータ、これらデータを用いて演算処理された演算結果(数値、表、図面など)を表示する表示手段である。表示部4としては、各種のモニタを用いることができる。
【0017】
設計システム5は、グリーンタイヤGを設計するためのプログラム(CADプログラムなど)が記憶されたコンピュータを有している。この設計システム5を用いてグリーンタイヤGを成形(製造)するための設計図データが作成される。この設計図データがグリーンタイヤGの断面形状を含む設計仕様データD1を構成する。このように設計仕様データD1は、グリーンタイヤGを成形(製造)するために使用される設計図データなので、本発明では、実物のグリーンタイヤGを測定装置などで測定して、その断面形状データなどの設計仕様データD1を取得する必要はない。
【0018】
設計システム5に記憶されているグリーンタイヤGの断面形状を含む設計仕様データD1は、演算装置2に入力される。この発明では、設計仕様データD1として、少なくとも、グリーンタイヤGの断面形状データが演算装置2に入力される。尚、設計システム5のコンピュータとして、予測システム1の演算装置2を利用してもよい。即ち、予測システム1が設計システム5の機能を有する構成にすることもできる。
【0019】
設計仕様データD1としては、
図2に例示するような、グリーンタイヤGの断面形状データが用いられる。一般的なグリーンタイヤGでは、最内周にインナーライナ層m1が配置され、その外側面にカーカス層m2が配置され、カーカス層m2の外側面に未加硫ゴムRが配置される。トレッド部の未加硫ゴムRにはベルト層m4などが埋設される。グリーンタイヤGの断面形状は、一般的にタイヤ周方向で変化しないので、グリーンタイヤGの任意の周方向位置での断面形状データを用いることができる。尚、図面では、グリーンタイヤ、タイヤ、モールドの右半分を例示しているが左半分は右半分と同仕様である。
【0020】
設計仕様データD1には、その他に、グリーンタイヤGのそれぞれの構成部材の各種特性データを例示できる。具体的には、グリーンタイヤGを形成している未加硫ゴムRのボリュームデータ(断面積データ)、この未加硫ゴムRの粘度データ、カーカス層m2の断面形状データ(および配置データ)と剛性データ、ビード部m3の断面形状データ(および配置データ)と剛性データなどを例示できる。採用する設計仕様データD1は、グリーンタイヤGの断面形状データの1種類だけでもよいが、その他の1種類以上の設計仕様データD1を加えることもできる。尚、図中の二点鎖線CLはタイヤ幅方向中心を示している。
【0021】
未加硫ゴムRのボリュームデータ(断面積データ)、カーカス層m2の断面形状データ(および配置データ)、ビード部m3の断面形状データ(および配置データ)は、設計システム5に記憶されている設計仕様データD1から算出、取得される。未加硫ゴムRの粘度データは、ムーニー粘度計などの公知の粘度測定器を用いて取得される。この粘度データは、常温での測定値でもよいが、未加硫ゴムRが加硫工程で加熱されて流動性が向上することを考慮して、最も流動性が高くなる温度での測定値を採用することもできる。カーカス層m2およびビード部m3の剛性データは、公知の曲げ試験機などを用いて取得される。
【0022】
モールド6の成形面7の断面形状データD2とは具体的には、
図3に例示するような成形面7の断面形状データである。
図3に例示するモールド6は、セクショナルタイプなので、サイドモールド6aとセクターモールド6bとで構成されている。サイドモールド6aはグリーンタイヤGの主にサイド部の外側およびビード部m3の外側を加硫成形し、セクターモールド6bは主にトレッド部を加硫成形する。
【0023】
成形面7の断面形状は、タイヤ周方向で変化するのが一般的なので、予め設定されたタイヤ周方向位置での成形面7の断面形状データを用いる。例えば、最も特徴的な溝を含む代表的な成形面7の断面形状データD2、または、溝が省略された成形面7の断面形状データD2を用いることができる。加硫故障が生じ易いと把握されている部位があるならば、その加硫故障が生じ易い(最も生じ易い)部分を含む成形面7の断面形状データD2を用いることもできる。
【0024】
或いは、成形面7のタイヤ周方向で断面形状が変化する部分(部位)は予測の対象外として、タイヤ周方向で断面形状が実質的に変化しない部分(サイド部の外側とビード部の外側の少なくとも一方)のみを予測対象にすることもできる。即ち、サイド部の外側部分のみ、ビード部m3の外側部分のみ、または、サイド部の外側部分およびビード部m3の外側部分のみに限定して加硫故障の発生の有無を予測してもよい。この場合は、予測対象に相当する部分の設計仕様データD1および成形面7の断面形状データD2を用いればよい。
【0025】
成形面7の断面形状データD2は、モールド6の製造に用いた設計図データ(CADデータなど)が存在しているので、改めて測定して取得しなくてもよい。例えば、設計システム5に記憶されているモールド6の設計図データから成形面7の断面形状に相当するデータを抽出して、成形面7の断面形状データとして用いることができる。
【0026】
本発明では、機械学習により生成した予測モデルPMを利用する。この予測モデルPMは、グリーンタイヤGを加硫して製造したタイヤTでの加硫故障の発生の可能性(発生の有無)を予測するためのコンピュータプログラムである。この予測モデルPMを生成する手順の一例を説明する。
【0027】
まず、グリーンタイヤGの断面形状を含む設計仕様データD1に基づいてグリーンタイヤGを成形する。この際に、設計仕様データD1を異ならせた多数のグリーンタイヤGを成形する。
【0028】
設計仕様データD1に基づいて成形された実物のグリーンタイヤGの断面形状と、この設計仕様データD1の断面形状とは、現在の確立された公知のタイヤ成形方法では、一般的な(汎用的な)タイヤであれば両者の同一性を概ね担保できる。したがって、両者の断面形状は実質的に同一と見做すことができ、本発明では両者の断面形状は実質的に同一として取り扱う。尚、基本となるタイヤについては、設計仕様データD1に基づいて成形されたグリーンタイヤGを測定することにより、その断面形状を把握して、設計仕様データD1の断面形状との同一性を確認しておく。これにより、確認した基本タイヤのサイズ違いや類似種類のタイヤについても両者の同一性を担保できる。また、両者の同一性を確認した基本タイヤとは仕様が大きく異なるタイヤを予測対象にする場合は、設計仕様データD1に基づいて成形された実物のグリーンタイヤGを測定することにより、その断面形状を把握して、設計仕様データD1の断面形状との同一性を確認した上で、本発明による予測対象にする。
【0029】
次いで、成形したそれぞれのグリーンタイヤGを所定のモールド6を用いて加硫する。
図4に例示するように、加硫されるグリーンタイヤGはモールド6の中に配置された後、モールド6が閉型されて、モールド6の成形面7と膨張させた加硫用ブラダ9との間で加圧および加熱される。
図4では、当初形状(モールド6の内部に配置される前)のグリーンタイヤGが記載されていて、成形面7の断面形状と加硫用ブラダ9は破線によって記載されている。
【0030】
グリーンタイヤGを加硫することで、
図10に例示するタイヤTを製造する。そして、製造されたそれぞれのタイヤTに対して、加硫故障の有無と加硫故障の発生位置(位置データ)を確認する。尚、所定のモールド6は、特定の1つのモールド6に限らず、その所定のモールド6と同じ仕様のモールド6であればよい。
【0031】
製造されたタイヤTで確認された加硫故障の有無および発生位置を、加硫故障の発生データD3として採用する。加硫故障の発生データD3には、加硫故障の発生が有る場合のデータも加硫故障の発生が無い場合もデータも含まれることになる。
【0032】
加硫故障の種類や程度を問わずに、加硫故障が発生した場合と発生しない場合とに区別して、加硫故障の発生データD3として採用することもできる。或いは、加硫故障の種類(ゴム過不足、加硫過不足、変形など)、加硫故障の程度(小規模、中規模、大規模)を分類して確認することもできる。そして、これらの分類を組合せにして、加硫故障の発生データD3として採用することができる。
【0033】
予測対象とする加硫故障を、所望の1種類または複数種類の故障に特定することもできる。この場合、加硫故障の発生データD3では、特定した種類の加硫故障が発生した場合だけを加硫故障の発生が有りのデータとして採用し、それ以外の場合は加硫故障の発生が無しのデータとして採用する。具体的には、予測対象にする加硫故障の種類をゴム過不足の1種類に特定すると、タイヤTにゴム過不足が発生している場合は、加硫故障の発生が有りのデータとして採用し、加硫過不足は発生していてもゴム過不足が発生していない場合は、加硫故障の発生が無しのデータとして採用する。
【0034】
このようにして、加硫故障の発生データD3を取得する。また、製造したそれぞれのタイヤTのグリーンタイヤGの成形に用いた設計仕様データD1と、これらグリーンタイヤGを加硫したモールド6の成形面7の断面形状データD2とを準備する。それぞれの設計仕様データD1には、それぞれのグリーンタイヤGの断面形状が含まれている。
【0035】
上述した設計仕様データD1、成形面7の断面形状データD2および加硫故障の発生データD3を、加硫故障の発生有無の予測のための基礎データ(即ち、教師データ)として、機械学習させることで予測モデルPMを生成する。具体的には、上記データD1、D2、D3を演算装置2に入力して、これらデータD1、D2、D3を用いて機械学習させる。即ち、加硫故障の発生の有無と、グリーンタイヤGの設計仕様および成形面7の断面形状との関係を紐付けして、加硫故障の発生に対するグリーンタイヤGの設計仕様および成形面7の断面形状の影響具合が分析、評価される。
【0036】
タイヤTでの加硫故障の発生率は、グリーンタイヤGの外表面とモールド6の成形面7との間隔(すき間)の大きさ、カーカス層m2と成形面7の間での未加硫ゴムRのボリュームが大きく影響する。未加硫ゴムRは加硫中に流動するので、カーカス層m2と成形面7との間の未加硫ゴムRの粘度(流動性)も加硫故障の発生率に影響を及ぼす。
【0037】
グリーンタイヤGの外表面とモールド6の成形面7との間隔が過大である場合、カーカス層m2と成形面7との間の未加硫ゴムRのボリュームが過小である場合は、ゴム欠損が生じ易く、これに伴いタイヤに変形が生じることもある。ゴム欠損の部分は、加圧や加熱の不足によって、未加硫ゴムRに対して加硫不足になることもある。グリーンタイヤGの外表面とモールド6の成形面7との間隔が過小である場合、カーカス層m2と成形面7との間の未加硫ゴムRのボリュームが過大である場合は、ゴム過剰やタイヤの変形が生じ易い。ゴム過剰の部分は、過大な加圧によって、未加硫ゴムRに対して過加硫になることもある。
【0038】
そして、カーカス層m2と成形面7との間の未加硫ゴムRの粘度が高いと流動性が低くなるのでグリーンタイヤGの形状変化が生じ難くなる。この粘度が低いと流動性が高くなるのでグリーンタイヤGの形状変形が生じ易くなる。
【0039】
また、カーカス層m2の断面形状(および配置)と剛性は、カーカス層m2と成形面7との間の未加硫ゴムRの流動性に影響するので加硫故障の発生率に影響する。ビード部m3の断面形状(および配置)と剛性もカーカス層m2と成形面7との間の未加硫ゴムRの流動性に影響するので加硫故障の発生率に影響する。上述したそれぞれの要因が複雑に影響し合って加硫故障の発生率が変化する。
【0040】
それ故、データD1、D2、D3を教師データとして用いて、加硫故障が発生した場合と、加硫故障が発生しなかった場合とでのデータD1とD2との組み合わせによる相違点や相違程度、それぞれの場合における特徴を人工知能(AI)に機械学習させることで、予測モデルPMを生成することが可能になる。機械学習の手法としては、ニューラルネットワークを用いたディープラーニングなど公知の種々の手法を例示できる。ディープラーニングでは、公知の手法で入力層と複数の中間層と出力層との多層構造にして、各層の間でノード間に重みを設定して結び付けたネットワークを使用する。そして、加硫故障の発生データD3に影響する設計仕様データD1、断面形状データD2を入力層から入力して、加硫故障の発生データD3の予測値を出力層に出力する。算出した予測値と加硫故障の発生データD3の実測値とを比較して両者の誤差を小さくするようにそれぞれの重みを変更する。これにより、予測精度を向上させた予測モデルPMを生成(構築)する。生成した予測モデルPMは、演算装置2に記憶される。
【0041】
次いで、予測対象となるグリーンタイヤGaを所定のモールド6で加硫して製造された対象タイヤTaに加硫故障が発生するか否かを予測する手順の一例を説明する。
【0042】
演算装置2には、入力部3を用いて予測対象となるグリーンタイヤGaの設計仕様データD1を入力する。演算装置2は、入力されたグリーンタイヤGaの設計仕様データD1とモールド6の成形面7の断面形状データD2とを予測モデルPMに代入して、予測モデルPMを実行させる演算処理を行う。この演算処理によって、モールド6を用いて予測対象となるグリーンタイヤGaを加硫して対象タイヤTaを製造した場合に、その対象タイヤTaに加硫故障が発生するか否かが判断されて、その予測結果が表示部4に表示される。
【0043】
この予測は、グリーンタイヤGaの一対のビード部m2のビードコアがそれぞれ、成形面7の正規に位置に固定されて加硫されることを前提とする。したがって、加硫故障の発生データD3も、一対のビード部m2のビードコアがそれぞれ、成形面7の正規に位置に固定されて加硫された場合のデータを用いる。
【0044】
予測モデルPMを用いた予測結果は、例えば
図5、
図6に示すように、設計仕様データD1として、グリーンタイヤGaの断面形状の外表面(プロファイル)の適正範囲ARが破線で挟まれた範囲として表示される。
図5ではこの適正範囲ARが成形面7の断面形状とともに記載され、
図6では、この適正範囲ARがグリーンタイヤGaの断面形状の外表面とともに記載されている。適正範囲ARは図面上で見易くするために誇張して記載されている。
【0045】
この適正範囲AR以外の範囲がグリーンタイヤGaの断面形状の外表面に対する不適正範囲になる。したがって予測結果では、グリーンタイヤGaの断面形状の外表面のすべてが適正範囲ARに属していれば、対象タイヤTaには加硫故障が発生しないと予測される。一方、グリーンタイヤGaの断面形状の外表面に不適正範囲に属する部分がある場合は、その部分では対象タイヤTaに加硫故障が発生すると予測される。したがって、対象タイヤTa(グリーンタイヤGa)での加硫故障の発生の有無と発生位置の分布が予測できる。尚、予測結果は
図5、
図6の表示に限定されず、対象タイヤTaでの加硫故障の発生の有無と適正範囲ARが把握できるものであればよい。
【0046】
予測結果は、タイヤ横断面の平面座標系で表示されるので、グリーンタイヤGaのどの位置で加硫故障が発生するのかを一目して把握できる。そのため、モールド6(成形面7)に対してグリーンタイヤGaのどの位置が過大なのか、或いは、過小であるのかが容易に判明する。また、横断面において、適正範囲ARに対するグリーンタイヤGaの断面形状の外表面までの距離、成形面7までの距離を把握できるので、加硫故障の発生を防止するには、設計仕様データD1においてグリーンタイヤGaの断面形状をどの程度、変更すべきかが判明する。それ故、加硫故障の発生を防止できるグリーンタイヤGaの断面形状を取得するには非常に有益である。
【0047】
この予測方法では、上述した設計仕様データD1と、成形面7の断面形状データD2と、加硫故障の発生データD3とを、教師データとして機械学習させて生成した予測モデルPMを使用する。そのため、様々な要因が複雑に影響し合って発生する加硫故障を、予測対象となるグリーンタイヤGaの設計仕様データD1と成形面7の断面形状データD2とを予測モデルPMに入力して演算処理することで、一段と高精度で予測することができる。
【0048】
また、設計仕様データD1として採用するグリーンタイヤG、Gaの断面形状データは、測定装置を用いて実物のグリーンタイヤG、Gaを測定して得る必要はなく、グリーンタイヤG、Gaの成形に用いる設計データなので、取得が容易である。また、成形面7は精密な機械加工によって製造されているので、成形面7の断面形状データD2として、モールド6の製造に用いた設計データ(CADデータなど)を採用していても、測定装置を用いて実物の成形面7を測定した測定データと実質的に一致する。そのため、簡便でありながら、高い精度で予測することができる。
【0049】
設計仕様データD1には、グリーンタイヤG、Gaのカーカス層m2よりも外側の未加硫ゴムRのボリュームを含めるとよい。これにより、予測精度を向上させるには有利になる。
【0050】
また、設計仕様データD1には、グリーンタイヤG、Gaの成形面7に接触する未加硫ゴムRの粘度データを含めるとよい。即ち、カーカス層m2よりも外側の未加硫ゴムRの粘度データを含めると、予測精度を向上させるには有利になる。
【0051】
また、設計仕様データD1として、既述した様々なデータを含めると、予測精度を向上させるには有利になる。ただし、設計仕様データD1の種類を増やす程、演算処理の負担が大きくなり、この負担増加に見合う予測精度の向上が得られないこともある。そこで、効率的に精度よく予測をするには、影響度が最も高いグリーンタイヤGの断面形状データの1種類を少なくとも含めて、必要に応じて、その他の1種類以上の設計仕様データD1を加えるとよい。
【0052】
加硫故障の発生データD3として、加硫故障の種類(ゴム過不足、加硫過不足、変形など)、加硫故障の程度(小規模、中規模、大規模)を分類したデータを用いることで、加硫故障の種類毎や種類の組合せに対する明確な予測、加硫故障の程度の明確な予測を行うことも可能になる。
【0053】
教師データとして、グリーンタイヤGを加硫する際の少なくとも加硫温度を含む加硫条件データD4を追加することもできる。加硫温度は未加硫ゴムRの流動性に影響し、これに伴い、加硫故障の発生率に影響する。そのため、加硫温度を教師データに含めると、タイヤTaでの加硫故障の発生有無の予測精度を向上させるには有利になる。その他の加硫条件データD4としては、加硫用ブラダ9によってグリーンタイヤGに付与される加硫圧力を例示できる。加硫圧力も未加硫ゴムRの流動性に影響し、これに伴い、加硫故障の発生率に影響する。
【0054】
加硫条件データD4を教師データに含める場合は、予測対象となるグリーンタイヤGaの加硫条件データD4を演算装置2に入力し、この入力した加硫条件データD4も対象タイヤTaでの加硫故障の発生有無の予測に用いる。教師データに加硫条件データD4を含めると、演算処理の負担が大きくなり、この負担増加に見合う予測精度の向上が得られないこともある。そこで、必要に応じて、加硫条件データD4を教師データに加えるとよい。
【0055】
このモールド6を用いる場合の加硫条件があまり変わらず、実質的に同等の加硫条件で加硫を行うことを前提にしているならば、加硫条件データD4を考慮する必要はない。このような場合は、前提としている所与の加硫条件下での加硫故障の発生データD3を用いる。
【0056】
本発明のタイヤの製造方法は、本発明の加硫故障発生予測方法を利用する。そのタイヤの製造方法の手順の一例を説明する。
【0057】
このタイヤの製造方法では、予測モデルPMを用いて予測された結果に基づいて、製造した対象タイヤTaにおいて加硫故障が発生しないグリーンタイヤGaの設計仕様データD1を把握する。そして、この把握した設計仕様データD1に基づいてグリーンタイヤGaを公知の方法で成形する。例えば、
図7に示すように、グリーンタイヤGaの断面形状の外表面のすべてが、加硫故障が発生しないと予測された適正範囲ARに属する断面形状にする。このようにして、予測モデルPMを用いた予測結果を反映させてグリーンタイヤGaを成形する。
【0058】
次いで、
図8、
図9に例示するように、成形したグリーンタイヤGaを公知の加硫装置8に設置された所定のモールド6と同じ仕様のモールド6の中に配置する。そして、閉型したモールド6の中でグリーンタイヤGaを公知の方法で加硫することにより、
図10に例示するタイヤTaが製造される。
【0059】
このタイヤの製造方法では、加硫故障が発生しないと高い精度で予測された設計仕様データD1に基づいてグリーンタイヤGaが成形される。そして、このグリータイヤGaを所定のモールド6と同じ仕様のモールド6を用いて加硫するので、加硫故障が発生しないタイヤTaを安定して効率的に製造すること可能になる。
【0060】
一般的な乗用車用のタイヤTaのサイド部の外側のゴム過不足の加硫故障を改善するテスト事案では、本発明の加硫故障発生予測方法による結果に基づいて、グリーンタイヤGaの断面形状の外表面が適正範囲ARになるようにグリーンタイヤGaを成形、加硫してタイヤTaを製造した。その結果、タイヤTaでの加硫故障が防止できることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
1 予測システム
2 演算装置
3 入力部
4 表示部
5 設計システム
6 モールド
6a サイドモールド
6b セクターモール
7 成形面
8 加硫装置
9 加硫用ブラダ
PM 予測モデル
G、Gaグリーンタイヤ
m1 インナーライナ層
m2 カーカス層
m3 ビード部
m4 ベルト層
R 未加硫ゴム
Rc 加硫ゴム
T、Ta タイヤ(加硫済みタイヤ)