IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社キャタラーの特許一覧

<>
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図1
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図2
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図3
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図4
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図5
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図6
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図7
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図8
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図9
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図10
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図11
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図12
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図13
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図14
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図15
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図16
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図17
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図18
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図19
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図20
  • 特開-排ガス浄化用触媒 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124805
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20220819BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20220819BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220819BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20220819BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20220819BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20220819BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01J35/04 301E
B01D53/94 245
B01D53/94 222
B01D53/94 280
B01D53/94 241
F01N3/24 E
F01N3/28 301P
F01N3/022 C
F01N3/035 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022660
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 凌
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】岩井 桃子
(72)【発明者】
【氏名】松下 大和
【テーマコード(参考)】
3G091
3G190
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AB13
3G091BA38
3G091GA06
3G091GA18
3G091GB07W
3G190BA26
3G190CA03
3G190CB13
4D148AA06
4D148AA13
4D148AA14
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148BA02Y
4D148BA03X
4D148BA06Y
4D148BA07Y
4D148BA08Y
4D148BA09X
4D148BA10Y
4D148BA14Y
4D148BA19Y
4D148BA30Y
4D148BA31X
4D148BA33Y
4D148BA41X
4D148BA42Y
4D148BA44Y
4D148BB02
4D148BB14
4D148DA03
4D148DA20
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BA10A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB05A
4G169BB10A
4G169BB12A
4G169BB14A
4G169BB16A
4G169BC43B
4G169BC72B
4G169CA03
4G169CA07
4G169CA08
4G169CA13
4G169CA14
4G169CA15
4G169CA18
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA27
4G169EB18X
4G169EC09X
4G169EC09Y
4G169EC27
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】PMの捕集性能に優れ、且つ初期の圧力損失が小さいウォールフロー型の排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】本発明の排ガス浄化用触媒1は、触媒塗布フィルタ2と粉末状の無機粒子3とを備えている。触媒塗布フィルタ2は、フィルタ基材21とフィルタ基材21の細孔壁上に設けられた触媒層22とを含んでいる。触媒塗布フィルタ2は、第1端部と第2端部とフィルタ隔壁21Wと入側セルと出側セルとを有している。フィルタ隔壁21Wは多孔質である。入側セルは、第1端部で開口し、第2端部で閉塞されている。出側セルは、第2端部で開口し、第1端部で閉塞されている。入側セル及び出側セルはフィルタ隔壁21Wを間に挟んで隣接している。粉末状の無機粒子3は、前記フィルタ隔壁の厚さ方向に平行な断面において、フィルタ隔壁21Wの入側セルと隣接した表面に偏在している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ基材と前記フィルタ基材の細孔壁上に設けられた触媒層とを含んだ触媒塗布フィルタであって、第1端部と第2端部とフィルタ隔壁と入側セルと出側セルとを有し、前記フィルタ隔壁は多孔質であり、前記入側セルは、前記第1端部から前記第2端部へ向けて伸び、前記第1端部で開口し、前記第2端部で閉塞され、前記出側セルは、前記第2端部から前記第1端部へ向けて伸び、前記第2端部で開口し、前記第1端部で閉塞され、前記入側セル及び前記出側セルは前記フィルタ隔壁を間に挟んで隣接した触媒塗布フィルタと、
前記フィルタ隔壁の厚さ方向に平行な断面において、前記フィルタ隔壁の前記入側セルと隣接した表面に偏在した粉末状の無機粒子と
を備えた排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記無機粒子は、大部分が前記フィルタ隔壁の細孔内に位置している請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記無機粒子は1乃至50μmの範囲内の平均粒子径を有する請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記無機粒子は、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属リン酸塩、金属硝酸塩、金属硫酸塩、及び粘土鉱物からなる群より選択される1以上を含んだ請求項1乃至3の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記無機粒子の平均粒子径D1と前記フィルタ隔壁の細孔の平均細孔径D2との比D1/D2は、0.15乃至2の範囲内にある請求項1乃至4の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記フィルタ基材の容積に対する前記無機粒子の質量の比は、3乃至50g/Lの範囲内にある請求項1乃至5の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関が排出する排ガスは、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NO)などの有害物質を含んでいる。そのような排ガスの浄化には、例えば、白金族金属を触媒金属として含んだストレートフロー型の排ガス浄化用触媒が使用されている。
【0003】
また、ディーゼル機関が排出する排ガスは、上記の有害物質に加え、粒子状物質(PM)を比較的高い濃度で含んでいる。それ故、ディーゼル機関が排出する排ガスの浄化には、排ガスからPMを除去するべく、ディーゼルパーティキュレートフィルタ(DPF)が更に使用されている。
【0004】
近年、PM排出への規制が強まり、ディーゼル機関が排出する排ガスだけでなく、ガソリン機関が排出する排ガスからも、PMを除去する必要を生じてきている。そのため、ガソリン機関が排出する排ガスの浄化に、ガソリンパーティキュレートフィルタ(GPF)が使用されつつある。
【0005】
これらパーティキュレートフィルタとしては、例えば、担持触媒をフィルタの隔壁に担持させてなるウォールフロー型の排ガス浄化用触媒がある。そのような排ガス浄化用触媒を使用すると、排ガス浄化システムの設置スペースを小さくすることや、排ガス浄化システムを低コスト化することが可能である。
【0006】
ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1には、例えば金属酸化物からなる粉末を、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒のフィルタ壁である多孔質隔壁の細孔内にのみ堆積させるとともに、最大で全細孔容積の50%を上記粉末で充填することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2019/197177号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、PMの捕集性能に優れ、且つ初期の圧力損失が小さいウォールフロー型の排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によると、フィルタ基材と前記フィルタ基材の細孔壁上に設けられた触媒層とを含んだ触媒塗布フィルタであって、第1端部と第2端部とフィルタ隔壁と入側セルと出側セルとを有し、前記フィルタ隔壁は多孔質であり、前記入側セルは、前記第1端部から前記第2端部へ向けて伸び、前記第1端部で開口し、前記第2端部で閉塞され、前記出側セルは、前記第2端部から前記第1端部へ向けて伸び、前記第2端部で開口し、前記第1端部で閉塞され、前記入側セル及び前記出側セルは前記フィルタ隔壁を間に挟んで隣接した触媒塗布フィルタと、前記フィルタ隔壁の厚さ方向に平行な断面において、前記フィルタ隔壁の前記入側セルと隣接した表面に偏在した粉末状の無機粒子とを備えた排ガス浄化用触媒が提供される。以下、上記の排ガス浄化用触媒を、「粉末付加触媒塗布フィルタ」ともいう。
【0010】
ここで、用語「粉末状の無機粒子」は、粒子が互いに又は他の物品に対して固着していない状態でもよいし、そのような粒子が熱処理又は薬液処理によって他の物品上に固定化された状態でもよい。無機粒子は、一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。
【0011】
ここで、無機粒子が上記のように偏在していることは、以下の方法により確認することができる。先ず、排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の断面、即ち、排ガス浄化用触媒のうちフィルタ隔壁に対応した部分の断面を、走査電子顕微鏡で撮像して、グレイスケール画像を取得する。この撮像は、多孔質隔壁のうち、第1端からの距離と第2端からの距離とが等しい部分の断面に対して行う。次いで、エネルギー分散型X線分析装置による分析位置を先のグレイスケール画像において指定して、無機粒子のみが含む元素に由来する特性X線の強度を測定する。ここでは、多孔質隔壁の厚さ方向に沿った線分析を行うこととする。この分析結果から、無機粒子が上記のように偏在していることを確認することができる。なお、無機粒子が上記のように偏在していることは、先のグレイスケール画像に、特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を重ね合わせてなる合成画像から確認することもできる。なお、第1端及び第2端は、それぞれ、排ガス浄化用触媒のうち第1端部及び第2端部に対応した部分である。
【0012】
無機粒子が上記のように偏在した構成は、開口径が大きな細孔を少なくするのに利用可能である。
【0013】
この排ガス浄化用触媒は、触媒層を含んだパーティキュレートフィルタである。より詳細には、この排ガス浄化用触媒は、排ガスが、排ガス浄化用触媒のうち入側セルに対応した空間である第1セル、多孔質隔壁の細孔、及び、排ガス浄化用触媒のうち出側セルに対応した空間である第2セルを順次通過し、その過程で、排ガス中のPMを多孔質隔壁によって捕集するウォールフロー型の排ガス浄化用触媒である。
【0014】
一般に、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒は、ガソリン機関及びディーゼル機関などの内燃機関が排出した排ガスからPMを除去するために使用する。例えば、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒は、動力源の少なくとも一部としてガソリン機関又はディーゼル機関を含んだ自動推進車両において使用する。
【0015】
ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒では、触媒層は、フィルタ隔壁によって捕集されたPMの燃焼を促進するために設けられる。
【0016】
例えば、ガソリン機関において生じた動力を推進力として使用し、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒を搭載したガソリン自動車では、触媒層は、特には、郊外や高速道路の走行時のように、ガソリン機関が高温の排ガスを排出している高負荷運転期間において、捕集されたPMの燃焼を促進する。
【0017】
また、ディーゼル機関が排出する排ガスは、ガソリン機関が排出する排ガスと比較して、温度がより低い。そこで、ディーゼル機関において生じた動力を推進力として使用し、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒を搭載したディーゼル自動車では、排ガスへ燃料を噴射することにより排ガスの温度を上昇させて、捕集されたPMを燃焼させる。触媒層は、この燃焼を促進し、それ故、排ガスへ噴射する燃料の減少に寄与する。
【0018】
上述したウォールフロー型の排ガス浄化用触媒の中には、フィルタ隔壁の厚さ全体に亘って細孔内に粉末状の無機粒子を配置したものがある。無機粒子はフィルタ隔壁の細孔の実効的な細孔径を小さくするため、このような排ガス浄化用触媒はPMの捕集性能に優れている。しかしながら、このような排ガス浄化用触媒は、フィルタ隔壁の厚さ全体に亘って細孔内に無機粒子が存在しているため、初期の圧力損失が大きい。
【0019】
フィルタ隔壁の厚さ方向に平行な断面において、フィルタ隔壁の入側セルと隣接した表面に粉末状の無機粒子を偏在させると、上記表面における細孔の実効的な径が小さくなる。そのため、PMの捕集性能を向上させることができる。また、フィルタ隔壁の厚さ方向に平行な断面において、フィルタ隔壁の入側セルと隣接した表面に無機粒子を偏在させた場合、フィルタ隔壁の上記表面近傍以外の部分には、無機粒子はほとんど存在しない。このため、この構成を採用した排ガス浄化用触媒は、初期の圧力損失が小さい。
【0020】
また、フィルタ隔壁の厚さ方向に平行な断面において、フィルタ隔壁の上記表面に粉末状の無機粒子を偏在させた排ガス浄化用触媒は、以下に説明する効果を奏し得る。
【0021】
上述した通り、触媒層はPMの燃焼を促進し得るが、触媒層によるPM燃焼が常に十分に促進される訳ではない。例えば、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒を搭載したガソリン自動車では、ストップ・アンド・ゴーを繰り返して短い距離を走行すると、捕集されるPMの量が燃焼するPMの量を上回り、その結果、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒にPMが蓄積される。また、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒を搭載したディーゼル自動車では、排ガスへの燃料噴射を行う前の期間内において、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒にPMが蓄積される。
【0022】
PMが蓄積されると、ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒において生じる圧力損失が大きくなる。圧力損失が大きくなると、燃費性能が低下する。従って、PMの蓄積に伴う圧力損失の増大は小さいことが望ましい。
【0023】
一般的なウォールフロー型の排ガス浄化用触媒、例えば、上述した粉末状の無機粒子を備えていないウォールフロー型の排ガス浄化用触媒では、PM堆積の初期においては、PMは、フィルタ隔壁の入側セルと隣接した表面領域内に位置した細孔、即ち、フィルタ隔壁の入側セルと隣接した面からの距離が、例えば、フィルタ隔壁の厚さの30%以下である細孔内に堆積し、これら細孔内におけるPMの堆積量が増加する。これら細孔内におけるPM堆積量が増加すると、フィルタ隔壁においてガス流路が狭まるか又は閉塞し、その結果、圧力損失が大幅に増大する。このため、PM堆積の初期においては、PM捕集量の増加に伴い、圧力損失は急激に増大する。
【0024】
上記の表面領域内に位置した細孔内へのPMの堆積が或る程度進行すると、PMは、フィルタ隔壁の入側セルと隣接した面上に堆積するようになる。この面上に堆積したPMからなる堆積層は、見かけ密度が低い粒状層である。この粒状層では、PM堆積量の増加に伴うガス流路の狭小化や閉塞は生じ難い。それ故、この期間においては、PM捕集量の増加に伴う圧力損失の増大は穏やかである。
【0025】
このように、一般的なウォールフロー型の排ガス浄化用触媒では、PM堆積の初期において、圧力損失は急速且つ大幅に増大する。それ故、そのような排ガス浄化用触媒を搭載した自動車では、PMが蓄積し始めてからPMが燃焼してその蓄積量が十分に少なくなるまでの期間に占める、圧力損失が大きい期間の割合が高い。
【0026】
これに対し、フィルタ隔壁の厚さ方向に平行な断面において、フィルタ隔壁の入側セルと隣接した表面に偏在した粉末状の無機粒子を備えた排ガス浄化用触媒では、PMは、多孔質隔壁の第1セル側の面から遠く位置した細孔まで到達し難い。それ故、多孔質隔壁の細孔内に堆積するPMの量は少なく、多孔質隔壁におけるガス流路の狭小化や閉塞は生じ難い。従って、この排ガス浄化用触媒は、PMの堆積により生じる圧力損失が小さい。
【0027】
また、フィルタ隔壁の厚さ方向に平行な断面において、フィルタ隔壁の入側セルと隣接した表面に粉末状の無機粒子を偏在させると、多孔質隔壁の表面にてPMを捕集しやすいため、PMが細孔内に堆積することによって生じる触媒性能の低下が生じにくい。
【0028】
本発明の他の態様によると、前記無機粒子は、大部分が前記フィルタ隔壁の細孔内に位置している上記態様に係る排ガス浄化用触媒が提供される。無機粒子の大部分がフィルタ隔壁の細孔内に位置していると、PMは排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁を通り抜けにくいため、高いPM捕集性能を達成しやすい。前記無機粒子の大部分が前記フィルタ隔壁の細孔内に位置していることは、好ましくは、前記無機粒子の全量に占める、前記無機粒子のうち前記フィルタ隔壁の細孔内に位置しているものの量が70%以上である。
【0029】
本発明の更に他の態様によると、前記無機粒子の平均粒子径D1と前記フィルタ隔壁の細孔の平均細孔径D2との比D1/D2は、0.06乃至2の範囲内にある上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。比D1/D2が小さい場合、高いPM捕集性能を達成することが難しい。また、比D1/D2が小さい場合、細孔内へのPMの堆積が生じやすいため、多孔質隔壁へのPMの堆積により生じる圧力損失が大きい傾向にある。比D1/D2が大きい場合、排ガス浄化用触媒の初期の圧力損失が大きくなりやすい。比D1/D2は、一例によると、0.06乃至1の範囲内にある。比D1/D2は、他の例によると、0.15乃至2の範囲内にある。比D1/D2は、0.15乃至0.7の範囲内にあることが好ましい。
【0030】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ基材は、ハニカム構造体と栓とを含んだ上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0031】
ハニカム構造体は、一対の対向する底面を有する柱体であり、一方の底面から他方の底面まで伸びた複数の貫通孔が設けられている。ここで、一方の底面は第1端に対応し、他方の底面は第2端に対応している。一対の対向する底面の形状は、例えば、円形、楕円形、長円形、又は多角形である。
【0032】
ハニカム構造体は、これら貫通孔の側壁を構成している隔壁を含んでいる。これら隔壁は、多孔質であり、隣り合った貫通孔を仕切っている。
【0033】
ハニカム構造体の材料としては、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム及び炭化ケイ素などのセラミックスを使用することができる。そのようなハニカム構造体には、金属又は合金製の不織布が編み込まれていてもよい。或いは、ハニカム構造体の材料として、ステンレス鋼などの金属又は合金を使用してもよい。
【0034】
各栓は、ハニカム構造体の貫通孔を一端側で閉塞している。複数の貫通孔のうち半数の貫通孔は、栓により第2端側で塞がれている。第1セルは、貫通孔を第2端側で塞いでいる栓と、この貫通孔の側壁を構成している隔壁とによって囲まれた空間である。
【0035】
第2端側で閉塞されていないハニカム構造体の残りの貫通孔は、栓により第1端側で塞がれている。第2セルは、貫通孔を第1端側で塞いでいる栓と、この孔の側壁を構成している隔壁とによって囲まれた空間である。
【0036】
第1セルと第2セルとは、フィルタ基材の隔壁と隔壁の細孔内に形成された触媒層とを挟んで隣り合っている。
【0037】
栓の材料としては、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム及び炭化ケイ素などのセラミックスを使用することができる。
【0038】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ基材は、容積Vが0.1乃至5Lの範囲内にある上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。ここで、フィルタ基材の「容積」は、フィルタ基材のうち第1及び第2セルに対応した空間並びに隔壁を含む体積であり、フィルタ基材の底面の面積にフィルタ基材の高さを乗じて算出される。フィルタ基材の容積Vは、0.5L以上であることが好ましい。また、フィルタ基材の容積Vは、3L以下であることが好ましく、2L以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ基材は、前記入側セル及び前記出側セルの長さ方向における寸法が10乃至500mmの範囲内にある上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。この寸法は、50乃至300mmの範囲内にあることが好ましい。
【0040】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ基材のうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ちフィルタ基材の隔壁の厚さは0.05乃至2mmの範囲内にある上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。この厚さを小さくすると、フィルタ基材の機械的強度が低下する。この厚さを大きくすると、多孔質隔壁が厚くなり、その結果、PMが堆積していない状態における圧力損失(即ち、初期の圧力損失)が大きくなる。この厚さは、0.1乃至1mmの範囲内にあることが好ましい。
【0041】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ基材のうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ちフィルタ基材の隔壁の気孔率は、30乃至90%の範囲内にある上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。なお、この「気孔率」は、水銀圧入法によって得られる値である。気孔率を大きくすると、フィルタ基材の機械的強度が低下する。この気孔率を小さくすると、多孔質隔壁の気孔率も小さくなり、その結果、PMが堆積していない状態における圧力損失が大きくなる。この気孔率は、40乃至80%の範囲内にあることが好ましい。
【0042】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ基材のうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ちフィルタ基材の隔壁の平均細孔径は、5乃至50μmの範囲内にある上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。なお、この「平均細孔径」は、水銀圧入法によって得られる値である。平均細孔径を大きくすると、フィルタ基材の機械的強度が低下する。平均細孔径を小さくすると、PMが堆積していない状態における圧力損失が大きくなる。この平均細孔径は、10乃至40μmの範囲内にあることが好ましい。
【0043】
本発明の更に他の態様によると、前記触媒層は貴金属を含んだ上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。貴金属は、触媒金属の一例である。貴金属は、例えば、白金族元素である。触媒層は、貴金属として、例えば、白金、パラジウム及びロジウムのうちの1種類以上を含むことができる。これら貴金属は、PMの燃焼を促進する能力が高い。
【0044】
本発明の更に他の態様によると、前記貴金属の質量Mと前記フィルタ基材の容積Vとの比M/Vは、0.01乃至10g/Lの範囲内にある上記態様に係る排ガス浄化用触媒が提供される。比M/Vが小さい場合、貴金属がPMの燃焼を促進する効果が小さい。比M/Vを大きくすると、高コストになる。比M/Vは、0.1乃至5g/Lの範囲内にあることが好ましい。
【0045】
本発明の更に他の態様によると、前記触媒層は、前記貴金属を担持した多孔質担体及び助触媒の少なくとも一方を更に含んだ上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。多孔質担体を使用すると、貴金属の比表面積を大きくすることが容易である。酸素貯蔵材料などの助触媒を使用すると、例えば、排ガスの組成の変動に伴う触媒の性能変化を小さくすることができる。
【0046】
多孔質担体及び助触媒は、例えば、アルミナ;セリアとジルコニアとの複合酸化物;この複合酸化物を主成分として含み、セリウム以外の希土類元素の酸化物、アルカリ土類金属元素の酸化物、ジルコニウム以外の遷移金属元素の酸化物、アルミナ、及びシリカからなる群より選ばれる1以上を更に含んだ多結晶又は単結晶;又は、それらの2以上の組み合わせである。
【0047】
多孔質担体及び助触媒の各々の平均粒子径は、0.05乃至5μmの範囲内にあることが好ましく、0.1乃至3μmの範囲内にあることがより好ましい。なお、この「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって得られるメジアン径である。
【0048】
本発明の更に他の態様によると、前記触媒層の質量Mと前記フィルタ基材の容積Vとの比M/Vは、300g/L以下である上記態様に係る排ガス浄化用触媒が提供される。比M/Vは、250g/L以下であることが好ましく、150g/L以下であることがより好ましく、120g/L以下であることが更に好ましく、100g/L以下であることが更に好ましい。
【0049】
本発明の更に他の態様によると、前記触媒層の質量Mと前記フィルタ基材の容積Vとの比M/Vは、10乃至300g/Lの範囲内にある上記態様に係る排ガス浄化用触媒が提供される。比M/Vが小さい場合、開口径が大きな細孔を少なくすることに対する触媒層の寄与が小さい。比M/Vを大きくすると、PMが堆積していない状態における圧力損失が大きくなる。比M/Vは、20乃至250g/Lの範囲内にあることが好ましく、20乃至200g/Lの範囲内にあることがより好ましく、30乃至100g/Lの範囲内にあることが更に好ましい。比M/Vの下限値は25g/Lであってもよい。また、比M/Vの上限値は150g/Lであってもよい。
【0050】
本発明の更に他の態様によると、前記触媒層の少なくとも一部は、前記フィルタ隔壁のうち前記入側セルと隣接した部分、即ち、フィルタ隔壁のうち入側セル側の部分に位置している上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。ここで、「フィルタ隔壁のうち入側セルと隣接した部分」は、フィルタ隔壁のうち、入側セルと隣接した部分の表面からの距離が、フィルタ隔壁の厚さの80%以下の部分である。触媒層の全体が、フィルタ隔壁のうち入側セルと隣接した部分、即ち、フィルタ隔壁のうち入側セル側の部分に位置していてもよい。或いは、触媒層は、フィルタ隔壁の厚さの全体に亘って設けられていてもよい。即ち、触媒層は、フィルタ基材の隔壁の入側セル側の面からこの隔壁の出側セル側の面の近傍まで拡がっていること、例えば、フィルタ基材の隔壁の入側セル側の面からこの隔壁の出側セル側の面まで拡がっていることが好ましい。このような構造は、PMが堆積していない状態における圧力損失を小さくするうえで、特に有利である。また、このような構造は、PMを確実に燃焼させるとともに、他の有害物質を浄化するうえでも、特に有利である。
【0051】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ隔壁のうち前記入側セルと隣接した部分、即ち、フィルタ隔壁のうち入側セル側の部分は、前記表面に垂直な断面において、前記フィルタ基材内部の細孔を、細孔径が5μm以上10μm未満の第1細孔と、細孔径が10μm以上20μm未満の第2細孔と、細孔径が20μm以上の第3細孔とに区分した場合に、前記第1細孔の前記触媒層による充填率RF1、前記第2細孔の前記触媒層による充填率RF2、及び前記第3細孔の前記触媒層による充填率RF3は、不等式:RF1<RF2<RF3に示す関係を満たす上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0052】
ここで、充填率RF1は、前記断面における、前記第1細孔の合計面積SF1に対する、前記触媒層のうち前記第1細孔内に位置した部分の合計面積SC1の比である。充填率RF2は、前記断面における、前記第2細孔の合計面積SF2に対する、前記触媒層のうち前記第2細孔内に位置した部分の合計面積SC2の比である。充填率RF3は、前記断面における、前記第3細孔の合計面積SF3に対する、前記触媒層のうち前記第3細孔内に位置した部分の合計面積SC3の比である。
【0053】
ここでは、連続した細孔間の境界及び各細孔の細孔径は、後で図面を参照しながら説明する方法により決定する。
【0054】
上記不等式によって特定される構成は、PMが堆積していない状態における圧力損失が大きくなるのを抑制しつつ、高いPM捕集性能を達成するのに利用可能である。
【0055】
本発明の更に他の態様によると、前記充填率RF1は40%以下であり、前記充填率RF2は40%以下であり、前記充填率RF3は45%以下である上記態様に係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0056】
これら充填率を大きくすると、PMが堆積していない状態における圧力損失が大きくなる。
【0057】
本発明の更に他の態様によると、前記充填率RF3は20%以上である上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。充填率RF3が小さい場合、排ガスの流路に十分な量の触媒を配置できておらず、有害物質の浄化に不利である。
【0058】
本発明の更に他の態様によると、前記充填率RF1は10%以上であり、前記充填率RF2は15%以上である上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0059】
充填率RF1及び充填率RF2は、小さいことが好ましい。排ガスの多くは第3細孔を流れるので、PMの燃焼及び他の有害物質の浄化の観点でも、充填率RF1及び充填率RF2を小さくして、充填率RF3を大きくすることが好ましい。
【0060】
本発明の更に他の態様によると、前記無機粒子の全量Aと、前記触媒塗布フィルタの前記入側セルと隣接した面上、即ち、前記触媒塗布フィルタの前記入側セル側の面上、に位置した前記無機粒子の量A1と、前記触媒塗布フィルタの細孔内であって、前記触媒塗布フィルタの前記入側セルと隣接した前記面からの距離が、前記触媒塗布フィルタのうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ち、前記触媒塗布フィルタのフィルタ隔壁の厚さの20%以下である前記無機粒子の量A2とは、不等式(A1+A2)/A≧90%で表される関係を満たす上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0061】
無機粒子が多孔質隔壁の第1セル側に偏在している程度を表す割合(A1+A2)/Aは、90%以上であることが好ましい。割合(A1+A2)/Aの上限値に制限はない。割合(A1+A2)/Aは、100%であってもよい。
【0062】
本発明の更に他の態様によると、前記無機粒子は1乃至50μmの範囲内の平均粒子径を有する上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0063】
ここで、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって得られるメジアン径である。平均粒子径が上記範囲内にある無機粒子は、例えば、高いPM捕集性能を達成しやすい。この平均粒子径は、5乃至10μmの範囲内にあることが好ましい。
【0064】
本発明の更に他の態様によると、前記無機粒子は、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属リン酸塩、金属硝酸塩、金属硫酸塩、粘土鉱物、及び多孔質無機物からなる群より選択される1以上を含んだ上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0065】
好ましくは、無機粒子は、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属リン酸塩、金属硝酸塩、金属硫酸塩、及び多孔質無機物からなる群より選択される1以上からなる。
【0066】
無機粒子が含む金属元素は、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、及び遷移金属元素からなる群より選ばれる1以上である。この金属元素は、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、及びセリウムからなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0067】
無機粒子の具体例としては、例えば、金属酸化物については、酸化カルシウム、酸化セリウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、それらの混合物、及び混合酸化物が挙げられる。粘土鉱物は人工の粘土鉱物であってもよく、天然の粘土鉱物であってもよい。多孔質無機物としては、例えば、ゼオライト及びセピオライトの1以上を使用することができる。無機粒子は、酸化カルシウムを含んでいることが好ましく、酸化カルシウムからなることがより好ましい。
【0068】
本発明の更に他の態様によると、粉末付加触媒塗布フィルタにおける、前記フィルタ基材の容積Vに対する前記無機粒子の質量Mの比M/Vは、3g/L以上である上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0069】
比M/Vが小さいと、高いPM捕集性能を達成することが難しい。比M/Vは、5g/L以上であることが好ましい。
【0070】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ基材の容積Vに対する前記無機粒子の質量Mの比M/Vは、50g/L以下である上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0071】
比M/Vを大きくすると、PMが堆積していない状態における圧力損失が大きくなる。比M/Vは、15g/L以下であることが好ましく、10g/L以下であることがより好ましい。
【0072】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ基材の容積Vに対する前記無機粒子の質量Mの比M/Vは、3乃至15g/Lの範囲内にある上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。比M/Vは、5乃至10g/Lの範囲内にあることが好ましい。
【0073】
本発明の更に他の態様によると、前記排ガス浄化用触媒のうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ち、前記多孔質隔壁は、前記表面において、全細孔の合計面積Sに占める、開口径が40μm未満である細孔の合計面積Sの割合S/Sが65%以上である上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。割合S/Sが65%以上であると、PMの堆積により生じる圧力損失が小さい。
【0074】
ここで、「開口径」は、以下の方法によって得られる値である。
先ず、排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の第1セル側の表面を、200倍の倍率で撮像して、グレイスケール画像を取得する。この撮像には、光学顕微鏡を使用する。また、この撮像は、多孔質隔壁の第1セル側の表面のうち、触媒塗布フィルタの長さ方向における中央付近の領域に対して行う。なお、この「長さ方向」は、第1及び第2セルの長さ方向と等しい。次いで、得られたグレイスケール画像を二値化して、二値化画像を取得する。そして、二値化画像における第1セル側表面の黒色部の各々の面積を求め、この面積と等しい面積を有する円の直径、即ち円相当径を、その黒色部に対応した細孔の「開口径」とする。ここでは、或る黒色部が他の黒色部から離間している限り、それがどのような形状を有していようと、その黒色部は1つの細孔に対応しているとする。なお、この画像処理には、画像処理ソフトウェア「ImageJ」を使用することができる。
【0075】
割合S/Sは、70%以上であることが好ましい。割合S/Sに上限値はないが、一例によれば、割合S/Sは95%以下である。
【0076】
本発明の他の態様によると、前記排ガス浄化用触媒のうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ち、前記多孔質隔壁は、前記表面における、前記全細孔の前記合計面積Sに占める、開口径が40μm以上60μm未満である細孔の合計面積Sの割合S/Sが30%以下である上記態様に係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0077】
割合S/Sが大きくなると、割合S/Sは小さくなる傾向にある。割合S/Sは、20%以下であることが好ましい。割合S/Sに下限値はないが、一例によれば、割合S/Sは4%以上である。
【0078】
本発明の更に他の態様によると、前記排ガス浄化用触媒のうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ち、多孔質隔壁は、前記表面における、前記全細孔の前記合計面積Sに占める、開口径が60μm以上である細孔の合計面積Sの割合S/Sが15%以下である上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0079】
割合S/Sが大きくなると、割合S/Sは小さくなる傾向にある。割合S/Sは、10%以下であることが好ましい。割合S/Sに下限値はないが、一例によれば、割合S/Sは1%以上である。
【0080】
本発明の更に他の態様によると、前記排ガス浄化用触媒のうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ち、多孔質隔壁は、前記表面における、前記全細孔の前記合計面積Sに占める、開口径が20μm未満である細孔の合計面積SSSの割合SSS/Sが50%以下である上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0081】
割合SSS/Sが大きい排ガス浄化用触媒は、割合SSS/Sが小さい排ガス浄化用触媒と比較して、PMが堆積していない状態における圧力損失が大きい傾向にある。割合SSS/Sに下限値はないが、一例によれば、割合SSS/Sは20%以上である。
【0082】
本発明の更に他の態様によると、前記触媒塗布フィルタの前記表面において、前記排ガス浄化用触媒のうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ち、前記多孔質隔壁の前記細孔を、開口径が40μm未満の第1小細孔と、開口径が40μm以上の第1大細孔とに区分し、前記触媒塗布フィルタのうち前記フィルタ隔壁に対応した部分、即ち、フィルタ隔壁の前記第1セル側の表面において、前記フィルタ隔壁が有する細孔を、開口径が40μm未満の第2小細孔と、開口径が40μm以上の第2大細孔とに区分した場合に、前記第2小細孔の合計面積SS2に対する、前記合計面積SS2と前記第1小細孔の合計面積SS1との差SS2-SS1の比(SS2-SS1)/SS2は40%以下であり、前記第2大細孔の合計面積SL2に対する、前記合計面積SL2と前記第1大細孔の合計面積SL1との差SL2-SL1の比(SL2-SL1)/SL2は60%以上である上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒が提供される。
【0083】
比(SL2-SL1)/SL2及び比(SS2-SS1)/SS2が上記の要件を満たしている場合、大細孔は、小細孔と比較して、無機粒子の適用による開口径の減少の程度がより大きい。このような構成は、例えば、割合S/Sが大きく且つ割合SSS/Sが小さい構造を得るうえで有利である。
【0084】
本発明の更に他の態様によると、前記フィルタ基材の細孔壁上に設けられた前記触媒層を形成することと、前記無機粒子を前記表面に供給することとを含む、上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒の製造方法が提供される。
【0085】
触媒層は、例えば、以下の方法により形成することができる。
【0086】
先ず、触媒層の原料と分散媒とを含んだスラリーを準備する。
触媒層の原料は、触媒金属と、任意に、多孔質担体及び助触媒の少なくとも一方とを含んでいる。触媒金属は、例えば、分散媒に溶解可能な金属化合物の形態で、又は、触媒金属を多孔質担体に担持させてなる担持触媒の形態でスラリーに含まれ得る。分散媒は、例えば、水などの水系溶媒である。
【0087】
スラリーは、適切な粘度を有するように調製する。例えば、スラリーは、せん断速度が400s-1のときの粘度が50mPa・sより大きく且つ150mPa・s以下の範囲内となるように、好ましくは60乃至110mPa・s以下の範囲内となるように調製する。
【0088】
ここで、上記スラリーの粘度は、市販のせん断粘度計により常温で測定され得る粘度である。例えば、当該分野で標準的な動的粘弾性測定装置(レオメータ)を使用することにより、上記のようなせん断速度における粘度を容易に測定することができる。ここで「常温」とは、15乃至35℃の温度範囲内の温度であり、典型的には20乃至30℃の温度範囲内の温度、例えば25℃である。
【0089】
スラリーは、増粘剤を更に含むことができる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、及びヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)等のセルロース系のポリマーを使用することができる。スラリー中の全固形分に占める増粘剤の割合は、スラリーの粘度が上記範囲を満たす限りにおいて特に限定されないが、好ましくは0.1乃至5質量%、より好ましくは0.3乃至4質量%、更に好ましくは0.5乃至3質量%の範囲内である。
【0090】
次に、フィルタ基材のうち第1端部に対応した部分、即ち、フィルタ基材の第1端側から上記のスラリーを供給するとともに、フィルタ基材のうち第2端部に対応した部分、即ち、フィルタ基材の第2端側から、フィルタ基材内のガスを吸引する。これにより、フィルタ基材のうち第1端が開口したセルにスラリーを流入させるとともに、これらセルを形成する隔壁表面から、隔壁の細孔内にスラリーを流入させる。
【0091】
次いで、フィルタ基材のうち第2端部に対応した部分、即ち、フィルタ基材のうち第2端側から上記のスラリーを供給するとともに、フィルタ基材のうち第1端部に対応した部分、即ち、フィルタ基材のうち第1端側から、フィルタ基材内のガスを吸引する。これにより、フィルタ基材のうち第2端部に対応した部分で開口した孔にスラリーを流入させるとともに、これら隔壁表面から、隔壁の細孔内にスラリーを流入させる。なお、この工程は省略することができる。
【0092】
上記の吸引の条件は、フィルタ基材の断面径などによって異なり得る。一例を挙げると、80乃至250mmの範囲内の直径を有している円柱形のフィルタ基材の場合、装置にフィルタ基材を設置し且つスラリーの供給を行わないときにおけるフィルタ基材の端部近傍におけるガス流の線速度(風速)が10乃至80m/sの範囲内になる条件下で吸引を行うことが好ましい。吸引時間は特に限定されないが、0.1乃至30秒の範囲内とすることが好ましい。線速度及び吸引時間の好ましい組み合わせは、20乃至70m/s及び0.5乃至25秒;並びに、40乃至60m/s及び2乃至15秒である。
【0093】
その後、スラリーを供給したフィルタ基材を乾燥させ、焼成に供する。以上のようにして、触媒塗布フィルタを得る。高粘度のスラリーを使用し、上記条件下で吸引を行うと、比RF1、RF2及びRF3が上述した条件を満たす触媒塗布フィルタが得られる。
【0094】
次に、触媒塗布フィルタへ無機粒子を供給する。具体的には、無機粒子をエアロゾル粒子として含んだエアロゾルを、触媒塗布フィルタの第1端部へ供給する。これとともに、触媒塗布フィルタの第2端部から、触媒塗布フィルタ内のガスを吸引する。この吸引は、好ましくは、触媒塗布フィルタの第1端部が下方を向くように設置して行う。
【0095】
この操作により、エアロゾルは、触媒塗布フィルタの第1端部側で開口したセルへ流入し、触媒塗布フィルタのフィルタ隔壁によって、ガスと無機粒子とに分離される。細孔径が大きな細孔からなるガス流路は、細孔径が小さな細孔からなるガス流路と比較して通気抵抗が小さい。それ故、無機粒子は、細孔径が小さな細孔と比較して、細孔径が大きな細孔内により多く堆積する。
【0096】
また、触媒層を上記のように形成した触媒塗布フィルタでは、フィルタ隔壁のエアロゾルが流入する面で開口した細孔は、細孔径が大きな細孔であっても、細孔径が過剰に大きい訳ではない。それ故、無機粒子を、フィルタ隔壁のエアロゾルが流入する面の近傍に局在化することができる。
以上のようにして、上記態様の何れかに係る排ガス浄化用触媒、即ち、粉末付加触媒塗布フィルタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を概略的に示す断面図。
図2図1に示す排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁を拡大して示す断面図。
図3図1に示す排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁を更に拡大して示す断面図。
図4】多孔質隔壁の断面画像において連結した細孔を分離する方法を示す断面図。
図5】多孔質隔壁の第1セル側の表面を概略的に示す平面図。
図6】例1に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の厚さ方向の断面を示す画像に、カルシウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を重ね合わせてなる合成画像。
図7図6に示す排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の厚さ方向の断面を拡大して示す合成画像。
図8】例1に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁について得られた、厚さ方向における粉末状の無機粒子の分布を示すグラフ。
図9】例1に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の第1セル側の表面を示す顕微鏡写真。
図10図9における、パラジウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を示す画像。
図11図9における、カルシウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を示す画像。
図12図10に示す画像と図11に示す画像とを重ね合わせてなる合成画像。
図13図12に示す画像上のある直線に沿った線分析の結果を示すグラフ。
図14図12に示す画像上の他の直線に沿った線分析の結果を示すグラフ。
図15図12に示す画像上の更に他の直線に沿った線分析の結果を示すグラフ。
図16】比較例1乃至4に係る排ガス浄化用触媒について、フィルタ隔壁の細孔分布を測定した結果を示すグラフ。
図17】例1に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の顕微鏡写真を二値化してなる画像。
図18】比較例3に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の顕微鏡写真を二値化してなる画像。
図19】例1及び比較例1乃至4に係る排ガス浄化用触媒の捕集率を示すグラフ。
図20】例1乃至3及び比較例3に係る排ガス浄化用触媒の捕集率を示すグラフ。
図21】例1乃至3及び比較例3に係る排ガス浄化用触媒の初期の圧力損失を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0098】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記態様の何れかをより具体化したものである。
【0099】
以下に説明する特徴の各々は、上記態様の各々と組み合わせることが可能である。また、以下に説明する特徴の2以上の組み合わせは、上記態様の各々と組み合わせることが可能である。
【0100】
なお、以下で参照する図において、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図において、寸法比や形状は、実物とは異なる可能性がある。
【0101】
図1は、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を概略的に示す断面図である。図2は、図1に示す排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁を拡大して示す断面図である。図3は、図1に示す排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁を更に拡大して示す断面図である。なお、図1及び図2において、白抜き矢印は、排ガスの流れ方向を示している。
【0102】
図1乃至図3に示す排ガス浄化用触媒1は、図2及び図3に示す触媒層22を含んだパーティキュレートフィルタである。この排ガス浄化用触媒1は、略円柱形状を有している。図1に示すように、排ガス浄化用触媒1は、第1端E1と、第2端E2と、多孔質隔壁Wと、第1セルC1と、第2セルC2とを有している。第1端E1及び第2端E2は、円筒の底面である。
【0103】
第1セルC1は、第1端E1から第2端E2へ向けて伸びている。第1セルC1は、第1端E1で開口し、第2端E2で閉塞されている。
【0104】
第2セルC2は、第2端E2から第1端E1へ向けて伸びている。第2セルC2は、第2端E2で開口し、第1端E1で閉塞されている。
【0105】
第1セルC1及び第2セルC2は、多孔質隔壁Wを間に挟んで隣接している。第1セルC1及び第2セルC2は、第1端E1及び第2端E2で市松模様状のパターンを形成するように配列している。
【0106】
排ガス浄化用触媒1は、図1乃至図3に示すように、触媒塗布フィルタ2を含んでいる。触媒塗布フィルタ2は、図2及び図3に示すように、フィルタ基材21と触媒層22とを含んでいる。
【0107】
フィルタ基材21は、図1に示すように、ハニカム構造体211と栓212a及び212bとを含んでいる。
【0108】
ハニカム構造体211は、一方の底面から他方の底面へと各々が延びた複数の貫通孔が設けられた円柱体である。これら底面の一方は第1端E1に対応し、他方の底面は第2端E2に対応している。ハニカム構造体211は、これら貫通孔の側壁を構成している隔壁211Wを含んでいる。これら隔壁211Wは、多孔質であり、隣り合った貫通孔を仕切っている。
【0109】
栓212aは、ハニカム構造体211の孔の一部を第2端E2側で塞いでいる。第1セルC1は、孔を第2端E2側で塞いでいる栓212aと、この孔の側壁を構成している隔壁211Wとによって囲まれた空間内に位置している。
【0110】
栓212bは、ハニカム構造体211の残りの孔を第1端E1側で塞いでいる。第2セルC2は、孔を第1端E1側で塞いでいる栓212bと、この孔の側壁を構成している隔壁211Wとによって囲まれた空間内に位置している。
【0111】
これら栓212a及び212bは、第2端E2側が栓212aで塞がれている孔と第1端E1側が栓212bで塞がれている孔とが、隔壁211Wを挟んで隣り合うように配置されている。第1セルC1と第2セルC2セルとは、フィルタ基材21の隔壁211Wとその細孔壁上に設けられた触媒層22とを挟んで隣り合っている。
【0112】
触媒層22は、図2及び図3に示すように、フィルタ基材21に支持されている。具体的には、触媒層22は、フィルタ基材21の細孔壁上に設けられている。即ち、触媒層22は、隔壁211Wの細孔内壁とを覆っている。
【0113】
この構造では、触媒層22は、多孔質隔壁W又は隔壁211Wの厚さの全体に亘って設けられている。触媒層22のうち、隔壁211Wの細孔内壁を覆っており且つ隔壁211Wの第1セルC1側の表面から距離が所定の値以上の部分は省略することができる。即ち、触媒層22の全体が、多孔質隔壁W又は隔壁211Wのうち第1セルC1側の部分に位置していてもよい。
【0114】
隔壁211Wと、触媒層22のうち隔壁211Wによって支持された部分とは、フィルタ隔壁21Wを構成している。フィルタ隔壁21Wは多孔質である。
【0115】
排ガス浄化用触媒1は、図2及び図3に示すように、無機粒子3を更に含んでいる。無機粒子3は、多孔質隔壁W又はフィルタ隔壁21Wの第1セルC1側の面又はその近傍に偏在している。
【0116】
無機粒子3は、粉末状である。無機粒子3は、少なくとも一部が触媒塗布フィルタ2に付着しているが、触媒塗布フィルタ2に固着していない。また、無機粒子3は、相互に固着していないが、熱処理や化学処理で固着させることができる。
【0117】
無機粒子3は、多孔質隔壁Wの第1セルC1側の表面近傍に位置した細孔の細孔径を小さくしている。多孔質隔壁Wの第1セルC1側の表面近傍では、一例によると、フィルタ隔壁21Wが有する細孔の無機粒子3による充填率は、開口径が小さい細孔では低く、開口径が大きい細孔では高い傾向にある。上記の充填率は、上記の傾向に従っていなくてもよい。
【0118】
この排ガス浄化用触媒1では、無機粒子3が多孔質隔壁W又はフィルタ隔壁21Wの第1セルC1側の面又はその近傍に偏在している。このため、高いPM捕集性能を容易に達成することができる。また、この排ガス浄化用触媒1では、多孔質隔壁W又はフィルタ隔壁21Wの第1セルC1側の面又はその近傍以外の部分には、無機粒子3はほとんど存在しない。このため、この排ガス浄化用触媒1は初期の圧力損失が小さい。
【0119】
触媒層22は、フィルタ隔壁21Wが以下に説明する構造を有するように構成されていることが好ましい。
【0120】
即ち、フィルタ隔壁21Wのうち第1セルC1側の部分は、フィルタ隔壁21Wの第1セルC1側の表面に垂直な断面において、フィルタ基材21の細孔を、細孔径が5μm以上10μm未満の第1細孔と、細孔径が10μm以上20μm未満の第2細孔と、細孔径が20μm以上の第3細孔とに区分した場合に、第1細孔の合計面積SF1に対する、触媒層22のうち第1細孔内に位置した部分の合計面積SC1の比RF1、第2細孔の合計面積SF2に対する、触媒層22のうち第2細孔内に位置した部分の合計面積SC2の比RF2、及び第3細孔の合計面積SF3に対する、触媒層22のうち第3細孔内に位置した部分の合計面積SC3の比RF3が、不等式:RF1<RF2<RF3に示す関係を満たすことが好ましい。なお、ここでは、連続した細孔間の境界及び各細孔の細孔径は、後で図4を参照しながら説明する方法により決定する。
【0121】
このような構成では、例えば、フィルタ隔壁21Wのうち第1セルC1側の表面近傍の部分は、隔壁211Wのうち第1セルC1側の表面近傍の部分と比較して、細孔径分布の幅がより狭く、平均細孔径がより小さい。
【0122】
図4は、多孔質隔壁の断面画像において連結した細孔を分離する方法を示す断面図である。図4は、多孔質隔壁Wの断面の画像に相当する。なお、図4では、触媒層22及び後述する無機粒子3は省略している。
【0123】
(ステップS1)
この方法では、先ず、走査電子顕微鏡(SEM)又は透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、多孔質隔壁Wの断面を撮像する。この断面は、多孔質隔壁Wの第1セルC1側の表面に垂直な断面、即ち、多孔質隔壁Wの厚さ方向に平行な断面である。
【0124】
(ステップS2)
次に、このようにして取得した画像において、フィルタ基材21の隔壁211W(以下、隔壁部という)を特定する。そして、隔壁部において、空間部を特定する。ここでは、空間部CV1のように隔壁211Wの双方の表面から離間したものだけでなく、空間部CV2のように、隔壁211Wの少なくとも一方の表面で開口したものについても特定する。空間部内には、触媒層22や無機粒子3の一部が位置していてもよい。そして、これら空間部から1つを選択する。
【0125】
(ステップS3)
次に、選択した空間部の面積を求め、この面積と同一の面積を有する円の直径、即ち、円相当径を算出する。そして、円相当径が5μm以下であるか否かを判断する。
【0126】
(ステップS4)
この円相当径が5μm以下である場合は、先の空間部は1つの細孔に相当すると判断し、この円相当径をこの細孔の細孔径であると定める。そして、選択していない空間部がある場合は、未選択の空間部の1つを選択し、ステップS3へ戻る。選択していない空間部がない場合は、処理を終了する。
【0127】
図4の例において、空間部CV1を選択した場合、空間部CV1は、円相当径が5μm以下であるので、1つの細孔P1に相当すると判断する。そして、この円相当径を、この細孔P1の細孔径であると定める。そして、未選択の空間部CV2を選択し、ステップS3へ戻る。
【0128】
(ステップS5)
円相当径が5μm超である場合、上記の空間部は、2以上の細孔が連結したものに相当すると判断する。そして、この円相当径の50%まで円相当径が減少する位置で空間部を区分し、それによって生じた複数の領域間の境界を細孔の境界として定める。
【0129】
図4の例において、空間部CV2を選択した場合、空間部CV2は、円相当径が5μm超であるので、2以上の細孔が連結したものに相当すると判断する。そして、この円相当径の50%まで円相当径が減少する位置で空間部CV2を区分し、これによって生じた複数の領域間の境界を細孔の境界として定める。
【0130】
(サブステップSS1)
具体的には、先ず、空間部に内接し且つ空間部を間に挟んで向き合った一対の壁面部の双方と接した多数の円を生成する。ここで、壁面部は、空間部と隔壁部との境界に相当する部分である。ここでは、隔壁211Wの一対の主面間に中心が位置した円のみを生成する。そして、これら円の中心を結ぶことにより、基準線を生成する。図4に示す例では、円の中心を結ぶことにより得られる基準線は、分岐した破線CLである。
【0131】
(サブステップSS2)
次に、上記の円のうち、直径が最大の円を特定する(以下、基準円という)。図4の例では、円IC1を特定する。
【0132】
(サブステップSS3)
続いて、基準円の中心から基準線に沿って中心が一方向(以下、第1方向という)に並んだ円について、基準円との中心間距離が短い円から順に直径を確認する。この確認は、直径が基準円の直径の50%である円が見出されるまで行う。
【0133】
そのような円(以下、第1円という)が見出された場合、第1円と壁面部との2つの接点を結ぶ線分を、空間部を区分する境界として定める。第1円が見出されなかった場合、基準線のうち基準円の中心に対して第1方向側の部分については、空間部を区分する境界は定めない。
【0134】
図4の例では、円IC1の中心から破線CLに沿って中心が下方向に並んだ円について、円IC1との中心間距離が短い円から順に直径を確認すると、直径が円IC1の直径の50%である円として、円IC2が見出される。従って、円IC2と壁面部との2つの接点を結ぶ線分B1を、空間部CV2を区分する境界として定める。
【0135】
(サブステップSS4)
次いで、基準円の中心から基準線に沿って中心が逆方向(以下、第2方向という)に並んだ円について、基準円との中心間距離が短い円から順に直径を確認する。この確認は、直径が基準円の直径の50%である円が見出されるまで行う。
【0136】
そのような円(以下、第2円という)が見出された場合、第2円と壁面部との2つの接点を結ぶ線分を、空間部を区分する境界として定める。第2円が見出されなかった場合、基準線のうち基準円の中心に対して第2方向側の部分については、空間部を区分する境界は定めない。
【0137】
図4の例では、円IC1の中心から破線CLに沿って中心が上方向に並んだ円について、円IC1との中心間距離が短い円から順に直径を確認しても、直径が円IC1の直径の50%である円は見出されない。従って、破線CLのうち円IC1の中心に対して上方向側の部分については、空間部CV2を区分する境界は定めない。
【0138】
(サブステップSS5)
基準線が、サブステップSS4又はSS5において直径を確認した円の中心を結ぶ線に相当する部分の範囲内で分岐しているか判断する。
【0139】
基準線が上記範囲内で分岐している場合には、各分岐先についても、サブステップSS4と同様の処理を行う。
【0140】
即ち、分岐点から基準線に沿って中心が分岐方向(以下、第3方向という)に並んだ円について、分岐点から中心までの距離が短い円から順に直径を確認する。この確認は、直径が基準円の直径の50%である円が見出されるまで行う。
【0141】
そのような円(以下、第3円という)が見出された場合、第3円と壁面部との2つの接点を結ぶ線分を、空間部を区分する境界として定める。第3円が見出されなかった場合、基準線のうち分岐点に対して第3方向側の部分については、空間部を区分する境界は定めない。
【0142】
以上の処理を完了した場合又は基準線が上記範囲内で分岐していない場合には、次のステップS6へと進む。
【0143】
なお、図4の例では、破線CLは、サブステップSS4又はSS5において円IC1を基準円として直径を確認した円の中心を結ぶ線に相当する部分の範囲内で分岐していない。それ故、サブステップSS5では追加の境界を定めることなしに、次のステップS6へと進む。
【0144】
(ステップS6)
ステップS6では、ステップS5において境界が定められたか否かを判断する。
【0145】
(ステップS7)
ステップS5において境界が1つも定められなかった場合には、先の空間部は1つの細孔であると判断し、この円相当径をこの細孔の細孔径であると定める。そして、選択していない空間部がある場合は、未選択の空間部の1つを選択し、ステップS3へ戻る。選択していない空間部がない場合は、処理を終了する。
【0146】
(ステップS8)
ステップS5において1以上の境界が定められた場合、先の空間部を境界によって区分してなる複数の領域のうち、基準円の中心が位置したものを、1つの細孔であると判断し、その円相当径を、この細孔の細孔径であると定める。
【0147】
続いて、上記の空間部から基準円の中心が位置した上記領域を除いた部分を、新たな空間部として定める。そして、この空間部を選択し、ステップS3へ戻る。
【0148】
図4の例では、空間部CV2を境界B1によって区分してなる複数の領域のうち、円IC1の中心が位置したものを、1つの細孔P2であると判断し、その円相当径を、細孔P2の細孔径であると定める。そして、空間部CV2から円IC1の中心が位置した細孔P2に対応した領域を除いた部分(以下、第1残部という)を、新たな空間部として定める。そして、この空間部を選択し、ステップS3へ戻る。
【0149】
上記の第1残部は円相当径が5μm超であるので、ステップS5において、基準円として円IC3を特定する。なお、基準線は新たに生成しなくてもよい。ステップS5においては、直径が円IC3の直径の50%である円IC4a及びIC4bと境界B1及びB2とを更に特定する。次いで、ステップS6を経て、ステップS8において、第1残部を境界B1及びB2によって区分してなる複数の領域のうち、円IC2の中心が位置したものを、1つの細孔P3であると判断し、その円相当径を、細孔P3の細孔径であると定める。そして、第1残部から円IC2の中心が位置した細孔P3に対応した領域を除いた部分(以下、第2残部という)を、新たな空間部として定める。そして、この空間部を選択し、ステップS3へ戻る。
【0150】
上記の第2残部は円相当径が5μm以下であるので、ステップS4において、第2残部は1つの細孔P4に相当すると判断し、この円相当径をこの細孔P4の細孔径であると定める。そして、選択していない空間部がある場合は、未選択の空間部の1つを選択し、ステップS3へ戻る。選択していない空間部がない場合は、処理を終了する。
【0151】
多孔質隔壁Wは、図5を参照しながら以下に説明する構造を有していることが好ましい。
図5は、多孔質隔壁の第1セル側の表面を概略的に示す平面図である。図5には、多孔質隔壁Wの第1セルC1側の表面を描いている。
【0152】
この表面において、多孔質隔壁Wの細孔Pを、開口径が40μm未満の第1小細孔と、開口径が40μm以上の第1大細孔とに区分する。例えば、図5においては、右下及び左上に位置した細孔Pは第1大細孔であり、残りの細孔Pは第1小細孔である。なお、破線LL2が形成している円は、細孔Pの開口と等しい面積を有している円である。従って、細孔Pの開口径は、破線LL2が形成している円の直径である。
【0153】
また、触媒塗布フィルタのうち多孔質隔壁Wに対応した部分、即ち、フィルタ隔壁21Wの第1セル側の表面において、フィルタ隔壁21Wが有する細孔を、開口径が40μm未満の第2小細孔と、開口径が40μm以上の第2大細孔とに区分する。例えば、図5においては、フィルタ隔壁21Wが有する細孔のうち、右下及び左上に位置した細孔は第2大細孔であり、残りの細孔は第2小細孔である。なお、図5において、フィルタ隔壁21Wが有する細孔は、実線LL1で囲まれた領域である。従って、フィルタ隔壁21Wが有する細孔の開口径は、実線LL1で囲まれた領域と等しい面積を有している円の直径である。
【0154】
第2小細孔の合計面積SS2に対する、この合計面積SS2と第1小細孔の合計面積SS1との差SS2-SS1の比(SS2-SS1)/SS2は40%以下である。また、第2大細孔の合計面積SL2に対する、この合計面積SL2と第1大細孔の合計面積SL1との差SL2-SL1の比(SL2-SL1)/SL2は60%以上である。
【0155】
この構造では、第2大細孔は、第2小細孔と比較して、無機粒子3の適用による開口径の減少の程度がより大きい。このような構成は、例えば、多孔質隔壁の第1セル側の表面における開口径が過剰に大きいか又は過剰に小さい細孔Pを少なくするうえで有利である。
【実施例0156】
以下に、本発明の具体例を記載する。
<1>排ガス浄化用触媒の製造
(例1)
図1乃至図3を用いて説明した排ガス浄化用触媒を、以下の方法により製造した。
先ず、3質量部の硝酸パラジウム溶液と35質量部のアルミナ粉末と32質量部のセリア含有酸化物とイオン交換水とを混合した。この混合液に、1質量部のポリカルボン酸を混合して、スラリーを調製した。このスラリーは、温度が25℃及びせん断速度が400s-1における粘度η400が100mPa・sであった。
【0157】
次に、フィルタ基材を準備した。ここでは、容積が2.1Lであり、高さが127mmの円柱形状を有しているフィルタ基材を使用した。
【0158】
次いで、上記スラリーをフィルタ基材の一方の端面(第1端面)へ供給し、フィルタ基材の他方の端面(第2端面)から、フィルタ基材内のガスを吸引した。この吸引は、25℃の温度で、フィルタ基材を設置し且つスラリーの供給を行わないときにおけるフィルタ基材の端部近傍におけるガス流の線速度(風速)が50m/sとなる条件で行った。このようにして、フィルタ基材の隔壁をスラリーでコートした。なお、スラリーの供給は、触媒塗布フィルタにおいて、フィルタ基材の容積に対する触媒層の量が75g/Lとなるように行った。
【0159】
その後、スラリーでコートしたフィルタ基材を乾燥及び焼成した。
このようにして、触媒塗布フィルタを得た。
【0160】
次に、触媒塗布フィルタの各フィルタ隔壁の一方の表面に、無機粒子を供給した。具体的には、無機粒子をエアロゾル粒子として含んだエアロゾルを、触媒塗布フィルタの第1端面に対応した第1端部へ供給した。これとともに、触媒塗布フィルタの第2端面に対応した第2端部から、触媒塗布フィルタ内のガスを吸引した。この吸引は、触媒塗布フィルタを、第1端部が下方を向くように設置して行った。
【0161】
フィルタ基材の容積に対する無機粒子の量は5g/Lとした。無機粒子としては、平均粒子径が6μmのセピオライトを用いた。
以上のようにして、排ガス浄化用触媒を得た。
【0162】
<2>無機粒子分布の測定
例1に係る排ガス浄化用触媒について、多孔質隔壁の厚さ方向における無機粒子分布を測定した。具体的には、例1に係る排ガス浄化用触媒について、その多孔質隔壁の断面を、走査電子顕微鏡で撮像して、グレイスケール画像を取得した。この撮像は、多孔質隔壁のうち、第1端からの距離と第2端からの距離とが等しい部分の断面に対して行った。次いで、エネルギー分散型X線分析装置による分析位置を先のグレイスケール画像において指定して、カルシウムに由来する特性X線の強度を測定した。ここでは、多孔質隔壁の厚さ方向に沿った線分析を行った。そして、先のグレイスケール画像に、特性X線の強度に応じた明るさ(濃淡値)を有し且つ着色した点を重ね合わせてなる合成画像を生成した。この合成画像から、触媒塗布フィルタの第1セル側の面からの距離と濃淡値との関係を求めた。
【0163】
図6は、例1に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の厚さ方向の断面を示す画像に、カルシウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を重ね合わせてなる合成画像である。図6においては、排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の上側部分に第1セルが位置している。
【0164】
図7は、図6に示す排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の厚さ方向の断面を拡大して示す合成画像である。図7における中央の白い曲線は、フィルタ基材と第1セルとの境界を示す。図7において、白色の部分は無機粒子を示し、薄い灰色の部分は触媒層を示し、濃い灰色の部分はフィルタ基材を示す。図7に示すように、フィルタ隔壁の細孔のうち第1セル側に多くの無機粒子が存在している。
【0165】
図8は、例1に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁について得られた、厚さ方向における粉末状の無機粒子の分布を示すグラフである。図8において、横軸は、触媒塗布フィルタの第1セル側の面からの距離を表し、縦軸は上記の濃淡値を表している。図8において、触媒塗布フィルタのフィルタ隔壁内に存在する無機粒子についての距離は正の値で示した。また、触媒塗布フィルタのフィルタ隔壁外(即ち、第1セル内)に存在する無機粒子についての距離は負の値で示した。
【0166】
図8に示すように、例1に係る排ガス浄化用触媒では、無機粒子は、多孔質隔壁の第1セル側に偏在していた。そして、例1に係る排ガス浄化用触媒では、上述した量A、A1及びA2が不等式(A1+A2)/A≧90%で表される関係を満たしていた。具体的には、割合(A1+A2)/Aは98.7%であった。ここで、A1は触媒塗布フィルタからの距離が-50μm以上0μm未満の範囲内における各濃淡値の合計である。A2は触媒塗布フィルタからの距離が0μm以上40μm以下の範囲内における各濃淡値の合計である。Aは触媒塗布フィルタからの距離が-50μm以上200μm以下の範囲内における各濃淡値の合計である。
【0167】
また、例1に係る排ガス浄化用触媒では、無機粒子の全量に占める、無機粒子のうちフィルタ隔壁の細孔内に位置しているものの量が70%以上であった。具体的には、無機粒子の全量に占める、無機粒子のうちフィルタ隔壁の細孔内に位置しているものの量は77.4%であった。ここで、無機粒子のうちフィルタ隔壁の細孔内に位置しているものの量は、触媒塗布フィルタからの距離が0μm以上200μm以下の範囲内における各濃淡値の合計である。また、無機粒子の全量は、触媒塗布フィルタからの距離が-50μm以上200μm以下の範囲内における各濃淡値の合計である。
【0168】
<3>触媒層分布及び無機粒子分布の測定
例1に係る排ガス浄化用触媒について、触媒層分布及び無機粒子分布を測定した。具体的には、先ず、例1に係る排ガス浄化用触媒について、その多孔質隔壁の第1セル側の表面を、走査電子顕微鏡で撮影して、顕微鏡写真を得た。この撮像は、多孔質隔壁のうち、第1端からの距離と第2端からの距離とが等しい部分の断面に対して行った。次いで、エネルギー分散型X線分析装置による分析位置を先の顕微鏡写真において指定して、パラジウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を示す画像を取得した。次いで、エネルギー分散型X線分析装置による分析位置を先の顕微鏡写真において指定して、カルシウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を示す画像を取得した。
【0169】
図9は、例1に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の第1セル側の表面を示す顕微鏡写真である。図10は、図9における、パラジウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を示す画像である。図10は、図9における触媒層の位置を示している。図11は、図9における、カルシウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を示す画像である。図11は、図9における無機粒子の位置を示している。
【0170】
図10は、排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の表面から比較的近い部分に存在する、パラジウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を示している。また、図11は、排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の表面から比較的近い部分に存在する、カルシウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を示している。
【0171】
図12は、図10に示す画像と図11に示す画像とを重ね合わせてなる合成画像である。
【0172】
図13乃至図15の各々は、図12に示す画像上のある直線に沿った線分析の結果を示すグラフである。線分析によって、図12に示す画像上のある直線における、パラジウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点の濃淡値と、カルシウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点の濃淡値と分析した。図13は、図12に示す画像の横方向の長さを250ピクセルとし、縦方向の長さを200ピクセルとした場合において、左端から60ピクセルの位置に存在する直線に沿って線分析を行った結果を示す。図14は、上記の場合において、左端から120ピクセルの位置に存在する直線に沿って線分析を行った結果を示す。図15は、上記の場合において、左端から180ピクセルの位置に存在する直線に沿って線分析を行った。濃淡値は、ImageJを用いて求めた。上記の線分析では、図12に示す画像の上端の位置を0ピクセルとし、下端の位置を200ピクセルとした。
【0173】
上述した通り、図10は、排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の表面から比較的近い部分に存在する、パラジウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点を示している。また、図11は、排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の表面から比較的近い部分に存在するカルシウムに由来する特性X線の強度に応じた明るさを有し且つ着色した点、即ち、多孔質隔壁の表面から比較的近い部分に存在する無機粒子を示している。図13乃至図15に示すようにパラジウムの濃淡値とカルシウムの濃淡値とは逆相関になっている。ここで、パラジウムの濃淡値が小さい部分は細孔部分を示している。このことから、無機粒子がフィルタ隔壁の細孔内に位置していることが分かる。更に、パラジウムの量が比較的多い部分に比較的小さい細孔径を有する細孔が存在し、パラジウムの量が比較的少ない或いはパラジウムが検出されなかった部分に比較的大きい細孔径を有する細孔が存在している。また、図13乃至図15では、パラジウムの量が比較的多い部分よりも、パラジウムの量が比較的少ない部分に多量のカルシウムが存在している。これらのことから、図13乃至図15では、比較的小さい細孔径を有する細孔よりも、比較的大きい細孔径を有する細孔に多くの無機粒子が存在していた。
【0174】
(例2)
フィルタ基材の容積に対する無機粒子の量の比を5g/Lから1g/Lへ変更したこと以外は例1と同様の方法により、排ガス浄化用触媒を製造した。
【0175】
(例3)
フィルタ基材の容積に対する無機粒子の量の比を5g/Lから20g/Lへ変更したこと以外は例1と同様の方法により、排ガス浄化用触媒を製造した。
【0176】
(比較例1)
例1で使用したフィルタ基材を準備し、これを比較例1に係る排ガス浄化用触媒とした。
【0177】
(比較例2)
フィルタ基材の容積に対する触媒層の量の比を75g/Lから50g/Lに変更し、触媒塗布フィルタへの無機粒子の供給を省略したこと以外は例1と同様の方法により、排ガス浄化用触媒を製造した。
【0178】
(比較例3)
触媒塗布フィルタへの無機粒子の供給を省略したこと以外は例1と同様の方法により、排ガス浄化用触媒を製造した。即ち、例1と同様の方法により触媒塗布フィルタを製造し、これを比較例3に係る排ガス浄化用触媒とした。
【0179】
(比較例4)
フィルタ基材の容積に対する触媒層の量の比を75g/Lから100g/Lへ変更し、触媒塗布フィルタへの無機粒子の供給を省略したこと以外は例1と同様の方法により、排ガス浄化用触媒を得た。
【0180】
<4>比D1/D2の測定
比較例1乃至4に係る排ガス浄化用触媒について、水銀圧入法を用いてフィルタ隔壁の細孔分布を測定した。その結果を図16に示す。図16の縦軸は、log微分細孔容積(mg/L)を示す。図16の横軸は細孔径を示す。図16によると、比較例1乃至4に係る排ガス浄化用触媒のフィルタ隔壁の平均細孔径は、それぞれ、17.0μm、10.5μm、10.0μm及び8.5μmであった。このことから、例1乃至3に係る排ガス浄化用触媒における、無機粒子の平均粒子径D1とフィルタ隔壁の細孔の平均細孔径D2との比D1/D2は何れも0.6であった。
【0181】
<5>開口径の測定
例1乃至3及び比較例2乃至4に係る排ガス浄化用触媒の各々について、上述した方法により、多孔質隔壁の第1セル側の表面における開口径を測定した。結果を、表1に示す。
【0182】
【表1】
【0183】
図17は、例1に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の顕微鏡写真を二値化してなる画像である。図18は、比較例3に係る排ガス浄化用触媒の多孔質隔壁の顕微鏡写真を二値化してなる画像である。
【0184】
表1において、「S<20/S」は、多孔質隔壁の第1セル側の表面の顕微鏡写真において、全細孔の合計面積Sに占める、開口径が20μm未満である細孔の合計面積S<20の割合である。「S20-40/S」は、上記顕微鏡写真において、全細孔の合計面積Sに占める、開口径が20μm以上40μm未満の範囲内にある細孔の合計面積S20-40の割合である。「S40-60/S」は、上記顕微鏡写真において、全細孔の合計面積Sに占める、開口径が40μm以上60μm未満の範囲内にある細孔の合計面積S40-60の割合である。「S60-80/S」は、上記顕微鏡写真において、全細孔の合計面積Sに占める、開口径が60μm以上80μm未満の範囲内にある細孔の合計面積S60-80の割合である。「S80-100/S」は、上記顕微鏡写真において、全細孔の合計面積Sに占める、開口径が80μm以上100μm未満の範囲内にある細孔の合計面積S80-100の割合である。「S100</S」は、上記顕微鏡写真において、全細孔の合計面積Sに占める、開口径が100μm以上である細孔の合計面積S100<の割合である。「S/S」は、上記顕微鏡写真において、全細孔の合計面積Sに占める、開口径が40μm未満である細孔の合計面積Sの割合である。
【0185】
図17及び図18並びに表1に示すように、例1及び例3に係る排ガス浄化用触媒では、比較例2乃至4に係る排ガス浄化用触媒と比較して、多孔質隔壁の第1セル側の表面において開口径が大きな細孔の割合が小さかった。
【0186】
<6>充填率の測定
例1に係る排ガス浄化用触媒について、上述した比(SS2-SS1)/SS2及び比(SL2-SL1)/SL2を算出した。
【0187】
具体的には、例1に係る排ガス浄化用触媒について、上記の開口径を算出するにあたって取得した合計面積S<20及びS20-40の和を、例1に係る排ガス浄化用触媒の合計面積SS1とした。また、例1に係る排ガス浄化用触媒について、上記の開口径を算出するにあたって取得した合計面積S40-60、S60-80、S80-100及びS100<の和を、例1に係る排ガス浄化用触媒の合計面積SL1とした。また、比較例3に係る排ガス浄化用触媒について、上記の開口径を算出するにあたって取得した合計面積S<20及びS20-40の和を、比較例3に係る排ガス浄化用触媒の合計面積SS2とした。そして、比較例3に係る排ガス浄化用触媒について、上記の開口径を算出するにあたって取得した合計面積S40-60、S60-80、S80-100及びS100<の和を、比較例3に係る排ガス浄化用触媒の合計面積SL2とした。例2及び3に係る排ガス浄化用触媒についても、例1と同様の方法により、上述した比(SS2-SS1)/SS2及び比(SL2-SL1)/SL2を求めた。計算結果を以下の表2に示す。
【0188】
【表2】
【0189】
表2に示すように、例1に係る排ガス浄化用触媒では、比(SL2-SL1)/SL2は、比(SS2-SS1)/SS2と比較して大きかった。即ち、例1に係る排ガス浄化用触媒では、多孔質隔壁の第1セル側の面で開口した細孔のうち、開口径が大きなものは、開口径が小さなものと比較して、無機粒子による充填率が高かった。
【0190】
<7>PMの数(PN)に対する捕集率の測定
例1に係る排ガス浄化用触媒について、以下の方法によりPMの捕集率を求めた。具体的には、煤発生機で軽油を燃焼させてPMを発生させ、例1に係る排ガス浄化用触媒にPMを蓄積させた。PMの蓄積量が0.02g/Lに達した時点で、排ガス浄化用触媒から排出されたPMの数を測定した。PMの数の測定は、ガス温度を240℃、ガス流量を250kg/時間として測定した。
【0191】
次に、煤発生機に例1に係る排ガス浄化用触媒を設置し、排ガス浄化用触媒の上流おいてPMの数を測定した。PMの数の測定は、ガス温度を240℃、ガス流量を250kg/時間として測定した。
【0192】
次いで、例1に係る排ガス浄化用触媒について捕集率を以下の式(1)によって求めた。
【0193】
【数1】
【0194】
上記式(1)において、x1は例1に係る排ガス浄化用触媒から排出されたPMの数であり、x0は例1に係る排ガス浄化用触媒の上流におけるPMの数である。
【0195】
次いで、例2及び3並びに比較例1乃至4に係る排ガス浄化用触媒についても、例1について説明したのと同様の方法により捕集率を得た。
捕集率の結果を図19及び図20に示す。
【0196】
図19及び図20に示すように、例1乃至3に係る排ガス浄化用触媒は、何れもPMの捕集性能に優れていた。
【0197】
<8>初期の圧力損失の評価
例1に係る排ガス浄化用触媒について、初期の圧力損失を求めた。具体的には、風速10m/分における圧力損失を求めた。
【0198】
次いで、例2、例3及び比較例3に係る排ガス浄化用触媒についても、例1について説明したのと同様の方法により初期の圧力損失を調べた。
初期の圧力損失の結果を図21に示す。
図21に示すように、例1乃至3に係る排ガス浄化用触媒は、何れも圧力損失が小さかった。とりわけ、例1及び2に係る排ガス浄化用触媒は圧力損失が小さかった。
【0199】
<9>PM堆積によって生じる圧力損失の評価
例1及び比較例2乃至4に係る排ガス浄化用触媒体の各々について、圧力損失の評価を行った。具体的には、煤発生機で軽油を燃焼させてPMを発生させ、これら排ガス浄化用触媒体の各々にPMを蓄積させた。PMの蓄積量が1g/Lに達した時点で、排ガス浄化用触媒の各々に対して圧力損失の測定を行った。圧力損失は、ガス温度を240℃、ガス流量を250kg/時間として測定した。結果を表3に示す。
【0200】
【表3】
【0201】
表3に示すように、例1に係る排ガス浄化用触媒は、比較例2乃至4に係る排ガス浄化用触媒と比較して、PM堆積後における圧力損失が小さかった。
【0202】
<10>充填率の測定
例1乃至3及び比較例2乃至4に係る排ガス浄化用触媒について、図4を参照しながら説明した方法により、充填率RF1、RF2及びRF3を求めた。その結果、例1乃至3及び比較例2乃至4に係る排ガス浄化用触媒の何れについても、充填率RF1、RF2及びRF3は、不等式:RF1<RF2<RF3に示す関係を満たし、充填率RF1は10乃至40%の範囲内にあり、充填率RF2は15乃至40%の範囲内にあり、充填率RF3は20乃至45%の範囲内にあった。
【符号の説明】
【0203】
1…排ガス浄化用触媒、2…触媒塗布フィルタ、3…無機粒子、21…フィルタ基材、21W…フィルタ隔壁、22…触媒層、211…ハニカム構造体、211W…隔壁、212a…栓、212b…栓、B1…境界、B2…境界IC1…円、IC2…円、IC3…円、IC4a…円、IC4b…円、C1…第1セル、C2…第2セル、CL…破線、CV1…空間部、CV2…空間部、E1…第1端、E2…第2端、P1…細孔、P2…細孔、P3…細孔、P4…細孔、W…多孔質隔壁、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21