(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124844
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ部材、燃料電池用セパレータ部材の製造方法、及び燃料電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0226 20160101AFI20220819BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20220819BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20220819BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20220819BHJP
H01M 8/0223 20160101ALI20220819BHJP
H01M 8/0243 20160101ALI20220819BHJP
【FI】
H01M8/0226
H01M8/0228
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/0223
H01M8/0243
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022717
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100197701
【弁理士】
【氏名又は名称】長野 正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陽
(72)【発明者】
【氏名】宮路 希生
(72)【発明者】
【氏名】渡部 賢一
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA12
5H126DD04
5H126DD14
5H126FF04
5H126GG05
5H126GG06
5H126GG18
5H126HH02
5H126HH03
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ06
(57)【要約】
【課題】貫通抵抗率及び体積抵抗率が低い燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータを構成する燃料電池用セパレータ部材及び燃料電池用セパレータ部材の製造方法を提供する。
【解決手段】燃料電池用セパレータ部材10は、基材にカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させたプリプレグ層13と、プリプレグ層13の両面に積層された黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物から構成される樹脂層11と、を備え、樹脂層11の体積抵抗率は、プリプレグ層13の体積抵抗率よりも低い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させたプリプレグ層と、
前記プリプレグ層の両面にそれぞれ積層された黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物から構成される樹脂層と、を備え、
前記樹脂層の体積抵抗率は、前記プリプレグ層の体積抵抗率よりも低い、燃料電池用セパレータ部材。
【請求項2】
前記基材は、織物から構成される、請求項1に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項3】
前記黒鉛は、薄片状の形状を有する、請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項4】
前記樹脂層は、空隙を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項5】
前記プリプレグ層を構成する熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂100質量部(固形分換算)に対して1~100質量部の前記カーボン系粉体と、を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項6】
前記樹脂層を構成する熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂100質量部(固形分換算)に対して100~2000質量部の前記黒鉛と、を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項7】
基材にカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させてプリプレグ層を作製する工程と、
薄片状の黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形して樹脂層を作製する工程と、
前記プリプレグ層の両面に前記樹脂層をそれぞれ積層し、加圧することにより前記プリプレグ層と前記樹脂層とを一体化する工程と、
を備える燃料電池用セパレータ部材の製造方法。
【請求項8】
基材と、
薄片状の黒鉛と樹脂とを含むマトリックス層と、を備え、
前記基材は前記マトリックス層に埋設され、
前記マトリックス層の表面領域において前記マトリックス層の主面に対して前記黒鉛の主面が平行又は傾いた状態にあり、前記基材の近傍領域において前記マトリックス層の主面に対して前記黒鉛の主面の傾きが前記マトリックス層の表面領域に存在する前記黒鉛の主面の傾きより大きい、燃料電池用セパレータ。
【請求項9】
前記マトリックス層の表面領域の黒鉛の密度は、前記基材の近傍領域の黒鉛の密度よりも高い、請求項8に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項10】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂組成物から構成される、請求項8又は9に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項11】
前記基材は、織物から構成される、請求項8から10のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータ部材、燃料電池用セパレータ部材の製造方法、及び燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の発電効率を高める方法の1つとして、燃料電池用セパレータの導電性を向上させる方法がある。例えば、特許文献1には導電性粉粒体を含む熱可塑性樹脂シートを用いた燃料電池用セパレータが開示されている。特許文献2には、炭素質粉末と樹脂との混合物に被覆された有機物シートを用いた燃料電池用セパレータが開示されている。
【0003】
この燃料電池用セパレータの導電性を評価する指標として、貫通抵抗率(厚さ方向の抵抗率)と体積抵抗率(単位体積当たりの抵抗率)がある。これら貫通抵抗率及び体積抵抗率は、低いほど好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-332035号公報
【特許文献2】特開2006-172776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これら燃料電池用セパレータは、導電性は有するものの、貫通抵抗率(厚さ方向の抵抗率)及び体積抵抗率(単位体積当たりの抵抗率)は依然高いという課題を有する。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、貫通抵抗率及び体積抵抗率が低い燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータを構成する燃料電池用セパレータ部材、及び燃料電池用セパレータ部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、[1]本発明にかかる燃料電池用セパレータ部材は、基材にカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させたプリプレグ層と、前記プリプレグ層の両面にそれぞれ積層された黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物から構成される樹脂層と、を備え、前記樹脂層の体積抵抗率は、前記プリプレグ層の体積抵抗率よりも低い。
【0008】
また、[2]前記基材は、織物から構成されてもよい。
【0009】
また、[3]前記黒鉛は、薄片状の形状を有してもよい。
【0010】
また、[4]前記樹脂層は、空隙を含んでもよい。
【0011】
また、[5]前記プリプレグ層を構成する熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂100質量部(固形分換算)に対して1~100質量部の前記カーボン系粉体と、を含んでもよい。
【0012】
また、[6]前記樹脂層を構成する熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂100質量部(固形分換算)に対して100~2000質量部の前記黒鉛と、を含んでもよい。
【0013】
上記目的を達成するために、[7]本発明にかかる燃料電池用セパレータ部材の製造方法は、基材にカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させてプリプレグ層を作製する工程と、薄片状の黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形して樹脂層を作製する工程と、前記プリプレグ層の両面に前記樹脂層をそれぞれ積層し、加圧することにより前記プリプレグ層と前記樹脂層とを一体化する工程と、を備える。
【0014】
上記目的を達成するために、[8]本発明にかかる燃料電池用セパレータは、基材と、薄片状の黒鉛と樹脂とを含むマトリックス層と、を備え、前記基材は前記マトリックス層に埋設され、前記マトリックス層の表面領域において前記マトリックス層の主面に対して前記黒鉛の主面が平行又は傾いた状態にあり、前記基材の近傍領域において前記マトリックス層の主面に対して前記黒鉛の主面の傾きが前記マトリックス層の表面領域に存在する前記黒鉛の主面の傾きより大きい。
【0015】
また、[9]前記マトリックス層の表面領域の黒鉛の密度は、前記基材の近傍領域の黒鉛の密度よりも高い。
【0016】
また、[10]前記樹脂は、熱硬化性樹脂組成物から構成されることが望ましい。
【0017】
また、[11]前記基材は、織物から構成されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、貫通抵抗率及び体積抵抗率が低い燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータを構成する燃料電池用セパレータ部材、及び燃料電池用セパレータ部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態にかかる燃料電池用セパレータ部材の構造を示す概略断面図である。
【
図2】実施の形態にかかる燃料電池用セパレータ部材のプリプレグ層を製造する工程を示す全体構成図である。
【
図3】実施の形態にかかる燃料電池用セパレータ部材の樹脂層を製造する工程を示す全体構成図である。
【
図4】実施の形態にかかる燃料電池用セパレータ部材の作製方法を示す概略断面図である。
【
図5】実施の形態にかかる燃料電池用セパレータの構成を示す概略平面図である。
【
図7】実施の形態にかかる燃料電池用セパレータの一体化の方法を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」という。)にかかる燃料電池用セパレータ部材、燃料電池用セパレータ部材の製造方法、及び燃料電池用セパレータついて詳細に説明する。実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0021】
以下の説明において、同一又は類似の構成要素には、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。さらに、本発明で用いる用語として、Bステージとは、樹脂組成物の硬化反応が完全に進んでいない状態をいう。また、Cステージとは、樹脂組成物の硬化反応がほぼ完全に進んだ状態をいう。
【0022】
燃料電池用セパレータ部材、燃料電池用セパレータ部材の製造方法、燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータの製造方法の順で説明する。
【0023】
(燃料電池用セパレータ部材10)
実施の形態の燃料電池用セパレータ部材10について説明する。
図1に示すように、燃料電池用セパレータ部材10は、プリプレグ層13の両面に樹脂層11がそれぞれ積層された構成を有する。燃料電池用セパレータ部材10は、プリプレグ層13に樹脂層11を積層し、プリプレグ層13と樹脂層11とが密着する温度で、プリプレグ層13と樹脂層11とを加熱することで得られる。燃料電池用セパレータ部材10の硬化状態はBステージである。このような構成を有する燃料電池用セパレータ部材10は、燃料電池を構成する燃料電池用セパレータ60の部材(燃料電池用セパレータに加工される前の部材)として用いることができる。
【0024】
プリプレグ層13及び樹脂層11について説明する。
【0025】
(プリプレグ層13)
プリプレグ層13は、基材にカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物が含浸されて構成される。プリプレグ層13の硬化状態はBステージである。
【0026】
プリプレグ層13の厚みは、燃料電池用セパレータ自体の厚さによるが、好ましくは40~200μmであり、導電性の観点から、より好ましくは、50~150μmである。
【0027】
プリプレグ層13の体積抵抗率は、燃料電池用セパレータの導電性を確保する観点から、好ましくは500mΩ・cm以下であり、より好ましくは400mΩ・cm以下である。ここで、体積抵抗率の測定で用いるプリプレグ層13の硬化状態は、Cステージである。
【0028】
基材は、樹脂層11及びプリプレグ層13から構成される燃料電池用セパレータ部材10を加熱し、溶融した樹脂層11及びプリプレグ層13の樹脂成分を流動させる観点から、開口部を有することが好ましい。開口部を有する基材として、例えば、織物が挙げられる。
【0029】
織物は、経糸と緯糸とを織成してなる織物である。織りは、特に限定されるものではないが、平織り、綾織り、又は朱子織りが挙げられる。
【0030】
織物は、経糸に緯糸を織り込んだ際に形成される経糸と緯糸との隙間、すなわち開口部を有する。開口部の大きさは、燃料電池用セパレータ部材10を成形した後の燃料電池用セパレータ60の貫通抵抗率を低くする観点から、好ましくは、0.01~0.20mm2である。また、この開口部が存在することにより、後述する燃料電池用セパレータ60を作製する過程(特に加熱加圧する過程)において、燃料電池用セパレータ部材10の樹脂成分が溶融した際に樹脂の流動性が向上する。
【0031】
経糸と緯糸が交差する部分(経糸と緯糸との交点部分)は、カーボン系粉体に起因する導電通路の形成を容易にさせる観点から、融着、溶着又は接着してあることが好ましい。経糸と緯糸が交差する部分が融着された織物の一例として、ポリエステルメッシュが挙げられる。
【0032】
基材の材質は、特に限定されるものではないが、樹脂系の材料、ガラス系の材料又は炭素系の材料が挙げられる。
【0033】
樹脂系の材料は、例えば、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0034】
ガラス系の材料は、例えば、Tガラス、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラスが挙げられる。入手容易性の観点から、好ましくは、Eガラスである。
【0035】
炭素系の材料は、例えば、PAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素、ピッチ系の炭素が挙げられる。
【0036】
基材の厚さは、軽薄を維持し強度が高いプリプレグ層13を得る観点から、好ましくは40~200μmである。
【0037】
基材と熱硬化性樹脂組成物との密着性を向上させる観点から、基材の表面にシランカップリング処理、プラズマ処理、又は粗面化処理が施されていることが好ましい。
【0038】
プリプレグ層13を構成する熱硬化性樹脂組成物は、特に限定されるものではないが、好ましくは、エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ系樹脂組成物である。
【0039】
エポキシ樹脂は、特に限定されるものではないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及び脂環式エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。加工性及び耐熱性の観点から、好ましくは、ノボラック型エポキシ樹脂である。
【0040】
カーボン系粉体を構成する材料は、特に限定されるものでないが、カーボンブラック、黒鉛、カーボンチョップ等が挙げられる。導電性及び加工性の観点から、好ましくはカーボンブラックである。カーボン系粉体は2種以上併用することができる。
【0041】
カーボンブラックは、特に限定されるものではないが、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックが挙げられる。2種以上のカーボンブラックが混合されていてもよい。導電性を向上させる観点から、好ましくはアセチレンブラックである。
【0042】
カーボン系粉体の量は、エポキシ樹脂100質量部(固形分換算)に対し、1~100質量部である。加工性の観点から、より好ましくは、5~50質量部である。
【0043】
(樹脂層11)
樹脂層11は、黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物から構成される。また、樹脂層11の硬化状態はBステージである。
【0044】
樹脂層11の厚みは、燃料電池用セパレータ自体の厚さによるが、好ましくは50~400μmであり、軽薄及び強度を維持する観点から、100~300μmである。
【0045】
樹脂層11の体積抵抗率は、燃料電池用セパレータの導電性を確保する観点から、好ましくは20mΩ・cm以下であり、より好ましくは15mΩ・cm以下である。ここで、体積抵抗率の測定で用いる樹脂層11の硬化状態は、Cステージである。
【0046】
樹脂層11を構成する熱硬化性樹脂組成物は、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ系樹脂組成物、フェノール樹脂を主剤としたフェノール系樹脂組成物、熱硬化性ポリイミド樹脂を主剤としたポリイミド系樹脂組成物、メラミン樹脂を主剤としたメラミン系樹脂組成物、ウレタン樹脂を主剤としたウレタン系樹脂組成物、ジアリルフタレート樹脂を主剤としたジアリルフタレート系樹脂組成物、不飽和ポリエステル樹脂を主剤とした不飽和ポリエステル系樹脂組成物、シアネートエステル樹脂を主剤としたシアネートエステル系樹脂組成物等が挙げられる。耐熱性、耐久性及び加工性の観点から、好ましくは、エポキシ系樹脂組成物である。
【0047】
エポキシ系樹脂組成物で用いる主剤としてのエポキシ樹脂は、特に限定されるものではないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及び脂環式エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。加工性及び耐熱性の観点から、好ましくは、ノボラック型エポキシ樹脂である。
【0048】
黒鉛として、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛が挙げられる。コストの観点から、好ましくは天然黒鉛である。天然黒鉛の中でも、導電性の観点から、好ましくは膨張化黒鉛、鱗片状黒鉛、又は薄片化黒鉛である。2種以上併用することができる。
【0049】
黒鉛の形状は、燃料電池用セパレータの導電性を向上させる観点、すなわち貫通抵抗率及び体積抵抗率を低くする観点から、好ましくは主面を有する薄片状である。主面を有する薄片状の形状として、例えば、葉片形状、鱗片形状等が挙げられる。
【0050】
黒鉛の大きさは、樹脂層11の導電性を発現させ、樹脂層11をシート状に加工した際の形状及び樹脂層11の強度を維持する観点から、1~100μmである。なお、黒鉛の大きさとは、黒鉛の主面上において2箇所の端部と端部とがなす距離であり、最も離れている距離をいう。
【0051】
黒鉛の量は、導電性及び加工性の観点から、エポキシ樹脂100質量部(固形分換算)に対して、100~2000質量部である。燃料電池用セパレータのガスリーク及び導電性の観点から、より好ましくは、150~400質量部である。
【0052】
樹脂層11は、空隙を含む。空隙は、樹脂層11を構成する熱硬化性樹脂組成物中に含まれる黒鉛と黒鉛との間に存在する。この空隙の存在により、樹脂の流動が促進される。すなわち、樹脂層11を加熱した際に樹脂層11を構成する熱硬化性樹脂組成物の樹脂が溶融し、空隙に溶融した樹脂が入り込み、樹脂の流動が促進される。これにより、黒鉛も燃料電池用セパレータの貫通抵抗率及び体積抵抗率が低くなるような配置となる。
【0053】
樹脂層11の体積抵抗率は、プリプレグ層13の体積抵抗率よりも低い。これにより、燃料電池用セパレータ部材10を燃料電池用セパレータに加工することで、燃料電池用セパレータ60の貫通抵抗率及び体積抵抗率が低くなる。なお、体積抵抗率の測定で用いる樹脂層11及びプリプレグ層13の硬化状態は、Cステージである。
【0054】
樹脂層11とプリプレグ層13との間に、他の層が積層されていてもよく、単層でも、多層でもよい。例えば、他の層が単層である場合、他の層は、例えば熱可塑性樹脂組成物又は上述した熱硬化性樹脂組成物から構成される。他の層があることにより、燃料電池用セパレータのガスバリア性が向上する。
【0055】
他の層が熱可塑性樹脂組成物から構成される場合は、熱可塑性樹脂組成物として、アクリル樹脂を主剤としたアクリル系樹脂組成物、熱可塑性ポリイミド樹脂を主剤としたポリイミド系樹脂組成物、ポリアミド樹脂を主剤としたポリアミド系樹脂組成物、ポリエーテルサルフォン樹脂を主剤としたポリエーテルサルフォン系樹脂組成物、フェノキシ樹脂を主剤としたフェノキシ系樹脂組成物、ポリプロピレン樹脂を主剤としたポリプロピレン系樹脂組成物、ポリカーボネート樹脂を主剤としたポリカーボネート系樹脂組成物、ポリエチレン樹脂を主剤としたポリエチレン系樹脂組成物、ポリエステル樹脂を主剤としたポリエステル系樹脂組成物、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂を主剤としたアクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂組成物、ポリスチレン(PS)樹脂を主剤としたポリスチレン系樹脂組成物、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂組成物を主剤としたポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物、ポリアミドイミド(PAI)樹脂を主剤としたポリアミドイミド系樹脂組成物等が挙げられる。
【0056】
耐熱性、耐久性、密着性、及び加工性の観点から、好ましくはポリエーテルサルフォン系樹脂組成物、ポリプロピレン系樹脂組成物であり、ガスバリア性の観点から、好ましくはポリエーテルサルフォン系樹脂組成物である。2種以上の樹脂組成物を混合して用いてもよい。
【0057】
次に、実施の形態の燃料電池用セパレータ部材10の製造方法について説明する。
【0058】
(燃料電池用セパレータ部材10の製造方法)
実施の形態の燃料電池用セパレータ部材10の製造方法は、基材にカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させてプリプレグ層13を作製する工程と、薄片状の黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形して樹脂層11を作製する工程と、プリプレグ層13の両面に樹脂層11をそれぞれ積層し、加圧することによりプリプレグ層13と樹脂層11とを一体化する工程と、を備える。
【0059】
まず、基材にカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させてプリプレグ層13を作製する方法について説明する。
【0060】
(プリプレグ層13の製造方法)
図2は、プリプレグ層13を製造する装置を示したものである。
図2において、上流及び下流は搬送方向における上流及び下流とし、上及び下はプリプレグ層13の製造ライン20において上下方向とする。
【0061】
送り出しロール110は、外周に加工前の基材90が巻かれている。送り出しロール110は、基材90を下流へ供給する。基材90は、ガイドロール101及びガイドロール102を経由して、カーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂121が満たされた樹脂含浸部120に搬送される。基材90は樹脂含浸部120において樹脂121が含浸され、ガイドロール103を経由して、樹脂121を乾燥させる樹脂乾燥部130へ搬送される。
【0062】
樹脂乾燥部130を通過した基材90は、セパレートフィルム供給部106及びセパレートフィルム供給部107から供給されたセパレートフィルム160及びセパレートフィルム150により、基材90の上面及び下面が覆われる。基材90は、上面及び下面がセパレートフィルム160及びセパレートフィルム150に覆われた状態で、ラミネートロール104及びラミネートロール105により押圧される。
【0063】
押圧された基材90は、巻き取りロール140により巻き取られる。巻き取られた基材90は、基材90にカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物が含浸されたプリプレグ層13である。
【0064】
樹脂乾燥部130を通過した後の基材90は、
図1のプリプレグ層13に対応する。
【0065】
送り出しロール110は、搬送経路の最も上流側に配置されている。送り出しロール110は、回転可能に支持されている。これにより、送り出しロール110は、基材90を送り出すことができる。送り出しロール110は、モータ等の駆動機構により回転可能である。巻き取りロール140の回転に伴って、従動可能な機構にしてもよい。
【0066】
樹脂含浸部120は、送り出しロール110よりも下流側に配置されている。樹脂含浸部120の容器には、塗布に適した粘度に調整されたカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂121が充填されている。
【0067】
樹脂含浸部120には、含浸ロール122が設置されている。含浸ロール122は、含浸ロール122の少なくとも一部が樹脂121に浸るように設置されている。ガイドロール102により搬送された基材90は、含浸ロール122の外周に沿って、樹脂121の中を通過する。
【0068】
このとき、基材90に樹脂121が含浸される。含浸される樹脂121の量は、樹脂121の粘度、及び、基材90が搬送されるスピードにより、調整される。これにより、プリプレグ層13の厚み、すなわち基材90に含浸される樹脂121の量を調整することができる。
【0069】
樹脂乾燥部130は、樹脂含浸部120よりも下流側に配置されている。樹脂乾燥部130は、送風により、基材90に含浸された樹脂121を乾燥させる。乾燥は、加熱しながら送風してもよい。乾燥条件は、基材90に含浸された樹脂121の量、樹脂乾燥部130を通過した後の樹脂121の硬化状態、樹脂乾燥部130の長さ、及び、搬送スピードにより適宜調整される。
【0070】
樹脂乾燥部130を通過した後の基材90に含浸された樹脂121の硬化状態は、Bステージである。
【0071】
セパレートフィルム供給部106、セパレートフィルム供給部107、ラミネートロール104、及びラミネートロール105は、樹脂乾燥部130と巻き取りロール140との間に配置されている。
【0072】
セパレートフィルム供給部106は、セパレートフィルム160を基材90の上面に供給する。セパレートフィルム供給部107は、セパレートフィルム150を基材90の下面に供給する。
【0073】
ラミネートロール104及びラミネートロール105は、基材90の上面及び下面に供給されたセパレートフィルム150及びセパレートフィルム160を加圧しながら貼り合わせる。
【0074】
ラミネートロール104及びラミネートロール105に加熱装置をつけて、ラミネートロール104及びラミネートロール105が加熱された状態でセパレートフィルム150及びセパレートフィルム160を貼り合わせてもよい。
【0075】
セパレートフィルム150及びセパレートフィルム160は、少なくとも基材90と接する面に離型処理が施されていることが好ましい。
【0076】
セパレートフィルム150及びセパレートフィルム160には、異なる離型処理が施し、剥離強度を異なる状態にしてもよい。この剥離強度の違いを利用して、基材90に張り合わされたセパレートフィルムを容易に剥がすことができる。また、基材90の一方の面だけ、セパレートフィルムを剥がすことができる。
【0077】
なお、樹脂121の乾燥後の表面状態にもよるが、樹脂乾燥部130を通過した基材90の表面のべたつき(タック性)がない場合は、セパレートフィルムを用いなくてもよい。これにより、製造ライン20を簡素にすることができる。
【0078】
巻き取りロール140は、搬送経路の最も下流側に設置されている。巻き取りロール140は回転可能な状態で支持されている。巻き取りロール140は、上からセパレートフィルム160、基材90(プリプレグ層13)、セパレートフィルム150の順で積層された積層体170を巻き取る。
【0079】
次に、薄片状の黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形して樹脂層11を作製する方法について、説明する。
【0080】
(樹脂層11の製造方法)
図3は、樹脂層11を製造する装置を示したものである。
図3において、上流及び下流は搬送方向における上流及び下流とし、上及び下は樹脂層11の製造ライン30において上下方向とする。
【0081】
送り出しロール111は、外周にセパレートフィルム151が巻かれている。送り出しロール111は、セパレートフィルム151を供給する。セパレートフィルム151は、黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層用樹脂220を塗布する樹脂塗布部210の下を通過する。セパレートフィルム151は樹脂塗布部210において。セパレートフィルム151の上面に樹脂層用樹脂220が塗布され、樹脂層用樹脂220を乾燥させる樹脂乾燥部131へ搬送される。
【0082】
樹脂乾燥部131を通過したセパレートフィルム151は、巻き取りロール141により巻き取られる。巻き取られたセパレートフィルム151は、セパレートフィルム151の上面に、シート状の樹脂層用樹脂220が形成されている。
【0083】
送り出しロール111は、搬送経路の最も上流側に配置されている。送り出しロール111は、回転可能に支持されている。これにより、送り出しロール111は、セパレートフィルム151を送り出すことができる。送り出しロール111は、モータ等の駆動機構により回転可能である。巻き取りロール141の回転に伴って、従動可能な機構にしてもよい。送り出しロール111から送り出されたセパレートフィルム151に樹脂層用樹脂220が塗布される面(上面)には、離型処理が施されている。
【0084】
樹脂塗布部210は、送り出しロール111よりも下流側に配置されている。樹脂塗布部210は、離型処理が施されたセパレートフィルム151の上面に樹脂層用樹脂220を塗布する。樹脂塗布部210は、特に限定されるものではないが、公知のコータが挙げられる。例えば、ダイコータ、コンマコータ、グラビアコータ等である。樹脂塗布部210から供給される樹脂層用樹脂220の量は、乾燥後の樹脂層11の厚さが100~300μmとなるように、樹脂層用樹脂220の粘度、搬送スピード等に合わせて調整される。
【0085】
樹脂乾燥部131は、樹脂塗布部210よりも下流側に配置されている。樹脂乾燥部131は、送風により、セパレートフィルム151に塗布された樹脂層用樹脂220を乾燥させる。乾燥は、加熱しながら送風してもよい。乾燥条件は、塗布された樹脂層用樹脂220の量、樹脂乾燥部131を通過した後の樹脂層用樹脂220の硬化状態、樹脂乾燥部131の長さ、及び搬送スピードにより適宜調整される。
【0086】
樹脂乾燥部131を通過した樹脂層用樹脂220の硬化状態は、Bステージである。樹脂乾燥部131を通過した後、シート状に形成された樹脂層用樹脂220(図示せず)は
図1の樹脂層11に対応する。
【0087】
巻き取りロール141は、搬送経路の最も下流側に設置されている。巻き取りロール141は、上からシート状に形成された樹脂層用樹脂220(樹脂層11)、セパレートフィルム151の順で積層された積層体(図示せず)を巻き取る。
【0088】
なお、乾燥後の樹脂層用樹脂220の表面がべたつく(タック性がある)場合は、セパレートフィルム151の下面にも離型処理が施されていてもよい。すなわち、セパレートフィルム151の両面に離型処理が施されていてもよい。これにより、巻き取りロール141で樹脂層用樹脂220(樹脂層11)、セパレートフィルム151の順で積層された積層体を巻き取った場合でも、セパレートフィルム151の下面と樹脂層用樹脂220(樹脂層11)との密着を防ぐことができる。
【0089】
別の方法として、セパレートフィルム供給部とラミネートロールを樹脂乾燥部131と巻き取りロール141の間に設置してもよい。これにより、露出した樹脂層用樹脂220の表面をセパレートフィルムで覆うことができるため、巻き取りロール141で巻き取った場合でも、樹脂層用樹脂220がセパレートフィルム151の下面に貼り付くことがない。
【0090】
次に、プリプレグ層13の両面に樹脂層11をそれぞれ積層し、加圧することによりプリプレグ層13と樹脂層11とを一体化する方法について、説明する。
【0091】
(プリプレグ層13と樹脂層11との一体化)
図4は、プリプレグ層13の両面に樹脂層11をそれぞれ積層して、一体化させる装置を示したものである。
【0092】
はじめにプリプレグ層13(積層体170)を所定の大きさにカットする。積層体170からセパレートフィルム150及びセパレートフィルム160を剥がしプリプレグ層13を得る。
【0093】
次にセパレートフィルム151の上面に形成されたシート状の樹脂層用樹脂220、すなわちセパレートフィルム151の上面に形成された樹脂層11を、プリプレグ層13と同じ大きさにカットする。カット後、セパレートフィルム151を剥がして樹脂層11を得る。
【0094】
次に得られたプリプレグ層13及び樹脂層11を一体化する。プリプレグ層13の両面に樹脂層11をそれぞれ積層する。積層した後、プレス機300を用いて矢印方向に加圧し、加熱して、プリプレグ層13と樹脂層11とが密着するように、一体化する。一体化して得られた積層体が、燃料電池用セパレータ部材10である。燃料電池用セパレータ部材10の硬化状態は、Bステージである。
【0095】
一体化する際に、セパレートフィルム151を樹脂層11(シート状の樹脂層用樹脂220)から剥がさない状態で一体化してもよい。
【0096】
加熱加圧の条件は、燃料電池用セパレータ部材10の厚みにより適宜選択できるが、20~350℃、0.1~50MPa、5~300秒である。この積層体(燃料電池用セパレータ部材10)のプリプレグ層13及び樹脂層11の硬化状態は、Bステージである。
【0097】
なお、上述したプリプレグ層13及び樹脂層11の製造方法において、プリプレグ層13及び樹脂層11を構成する樹脂組成物に有機溶剤を加えることができる。これにより樹脂組成物の粘度を調整することができ、プリプレグ層13及び樹脂層11を作製することができる。
【0098】
用いることができる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールジアルキルエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等が挙げられる。
【0099】
(燃料電池用セパレータ部材10の別の製造方法)
燃料電池用セパレータ部材10は、別の方法でも作製することができる。
【0100】
まず、樹脂層11と、カーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートとを準備する。カーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートは、薄片状の黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形して樹脂層11を作製する方法と同じように作製する。
【0101】
これらを、樹脂を含浸させる前の基材90を中心にして、基材90に近い順に、樹脂シート、樹脂層11の順で基材90の両面にそれぞれ積層する。積層後にこれらを加熱加圧して一体化させ、燃料電池用セパレータ部材10が得られる。
【0102】
燃料電池用セパレータ部材10は、さらに別の方法でも作製することができる。
【0103】
まず、樹脂層11と、カーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートとを準備する。カーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートは、薄片状の黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形して樹脂層11を作製する方法と同じように作製する。
【0104】
これらを、樹脂を含浸させる前の基材90を中心にして、樹脂シートを基材90の両面に積層する。積層後にこれらを加熱加圧して、プリプレグ層13を得る。
【0105】
次に、樹脂層11とプリプレグ層13を、樹脂層11、プリプレグ層13、樹脂層11の順で積層する。積層後に加熱加圧する。これにより樹脂層11とプリプレグ層13とが密着し、燃料電池用セパレータ部材10が得られる。
【0106】
燃料電池用セパレータ部材10は、さらに別の方法でも作製することができる。
【0107】
まず、樹脂層11と、カーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートとを準備する。カーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートは、薄片状の黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形して樹脂層11を作製する方法と同じように作製する。
【0108】
これらを次の手順で積層する。
【0109】
まず、樹脂を含浸させる前の基材90のどちらか一方の面に、樹脂シートを積層する。積層後に加熱加圧してプリプレグ層13を得る。
【0110】
次に、プリプレグ層13を中心にして、両面に樹脂層11をそれぞれ積層する。積層後にこれらを加熱加圧する。これにより樹脂層11とプリプレグ層13とが密着し、燃料電池用セパレータ部材10が得られる。
【0111】
このとき、樹脂シートの厚みは、基材90に樹脂を均一に含浸させるために、基材90の厚みの2倍以上にすることが好ましい。
【0112】
次に、実施の形態の燃料電池用セパレータ60について説明する。なお、燃料電池用セパレータ部材10の説明と重複する説明は省略する。
【0113】
(燃料電池用セパレータ60)
実施の形態の燃料電池用セパレータ60は、プリプレグ層13の両面に樹脂層11が積層され密着した燃料電池用セパレータ部材10(硬化状態はBステージである。)を、加熱加圧することにより得られる。また、この加熱加圧により、プリプレグ層13を構成する樹脂成分と樹脂層11を構成する樹脂成分は溶融し、プリプレグ層13と樹脂層11とが一体化する。プリプレグ層13を構成する樹脂成分と樹脂層11を構成する樹脂成分とが一体化した燃料電池用セパレータ60は、基材90と、薄片状の黒鉛62と樹脂とを含むマトリックス層500と、を備え、基材90はマトリックス層500に埋設されている。基材90は、プリプレグ層13を構成する基材である。マトリックス層500は、プリプレグ層13を構成するカーボン系粉体を含む熱硬化性樹脂組成物及び樹脂層11を構成する黒鉛を含む熱硬化性樹脂組成物である。また、以下の説明において、基材90として、織物を例に示して説明する。
【0114】
図5に示すように、破線で示された基材90はマトリックス層500に埋設されている。燃料電池用セパレータ60は、表面がマトリックス層500により形成される。
【0115】
図6は、
図5に示した燃料電池用セパレータ60のV-V断面図である。
図6に示すように燃料電池用セパレータ60は、基材90と、マトリックス層500と、を備え、基材90はマトリックス層500に埋設されている。
【0116】
燃料電池用セパレータ60の硬化状態は、Cステージである。
【0117】
このような構成を有する燃料電池用セパレータ60は、貫通抵抗率及び体積抵抗率が低く、燃料電池を構成する燃料電池用セパレータとして好適に用いられる。
【0118】
マトリックス層500に存在する黒鉛62の状態について説明する。
【0119】
図6の円1に拡大して示すように、マトリックス層500に埋設された基材90の近傍領域には、薄片状の黒鉛62が複数存在する。これら黒鉛62の多くは、黒鉛62の主面がマトリックス層500の主面に対して傾いた状態で存在する。この傾きは、マトリックス層500の表面領域に存在する黒鉛62の傾きより、大きい。ここでマトリックス層500の表面領域とは、マトリックス層500の主面から、マトリックス層500の厚みに対して10%の厚みと同程度の深さまでの領域をいう。基材90の近傍領域とは、基材90の表面から、マトリックス層500の厚みに対して10%の厚みと同程度の深さまでの領域をいう。また、黒鉛62の傾きは、マトリックス層500の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際に、観察することができた複数の黒鉛62の傾きを調べた平均の傾きである。
【0120】
発明者らは、このような構成を有する燃料電池用セパレータ60の貫通抵抗率及び体積抵抗率が低くなる理由を以下のように推測する。
【0121】
図6の円1に拡大して示すように、傾きが大きい黒鉛62は、基材90の近傍領域に多く存在する。そして、マトリックス層500には、カーボン系粉体(図示しない)が存在する。このカーボン系粉体は、基材90の近傍領域に多く存在する複数の黒鉛62の間にも存在するため、導電回路が形成されやすくなる。すなわち、燃料電池用セパレータ60の厚み方向で導電通路が形成され易くなる。結果、燃料電池用セパレータ60の貫通抵抗率が低くなる。
【0122】
図6の円2に拡大して示すように、マトリックス層500の表面領域にも、薄片状の黒鉛62が存在する。黒鉛62は、マトリックス層500の表面領域において基材90の近傍領域より多く存在し、その存在する密度が高い。これにより、燃料電池用セパレータ60の導電性が向上する。さらに、マトリックス層500の表面領域において黒鉛62の主面が、マトリックス層500の主面に対して平行又は傾いた状態で存在する。これにより、マトリックス層500の主面の方向にも導電通路が形成されやすくなり、燃料電池用セパレータ60の体積抵抗率が低くなる。
【0123】
このような構成は、燃料電池用セパレータ部材10を加熱加圧して、プリプレグ層13を構成する樹脂成分と樹脂層11を構成する樹脂成分を溶融させて流動させ、燃料電池用セパレータ部材10を構成する樹脂層11に含まれる空隙へ溶融させた樹脂成分が移動する際に形成される。
【0124】
また、この樹脂成分の流動により、マトリックス層500の表面領域においては、黒鉛62の主面がマトリックス層500の主面に対して平行又は平行に近い状態の傾きで配置され易くなる。また、基材90の近傍領域、特に基材90の開口部付近において、樹脂の流動が大きくなるため、黒鉛62の主面がマトリックス層500の表面の主面に対して、大きな傾きで配置され易くなる。なお、開口部を有する基材90はマトリックス層500に埋設されており、開口部にもマトリックス層500が存在している。開口部にマトリックス層500が存在しているが、説明する上で、開口部という用語をそのまま用いる。
【0125】
なお、主面とは、燃料電池用セパレータ60を水平な台に載置した際に、水平方向と平行となる燃料電池用セパレータ60の面(マトリックス層500の表面)をいう。
【0126】
次に燃料電池用セパレータ60の製造方法について説明する。
【0127】
(燃料電池用セパレータ60の製造方法)
図7に示すように、燃料電池用セパレータ60は、金型400の間に、Bステージ状態の燃料電池用セパレータ部材10を挿入し、プレス機310を用いて矢印方向に加圧し、加熱することにより得られる。このとき得られる燃料電池用セパレータ60の硬化状態は、Cステージである。
【0128】
燃料電池用セパレータ60の表面の形状は、金型400により形成される。
【0129】
加熱加圧条件は、燃料電池用セパレータ部材10の厚みにより適宜設定される。例えば、100~200℃、5~30MPa、5~120秒である。
【0130】
金型400は、例えば、凹凸形状を有した溝が形成された金型である。この溝が燃料電池におけるガス等の流路となる。
【実施例0131】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0132】
実施例及び比較例において、以下の材料を用いた。
【0133】
(1)主剤:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量211g/eq(日本化薬社製、EOCN-102S-70)、
(2)硬化剤:ノボラック型フェノール樹脂、水酸基当量105g/eq(アイカ工業社製、BRG-556)、
(3)強化剤:フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学社製、YP-50)、
(4)硬化促進剤:2-ウンデシルイミダゾール(四国化成社製、C11Z)、
(5)導電フィラーA:薄片化黒鉛、平均粒径5μm(デンカ社製、デンカブラック100%プレス)、
(6)導電フィラーB:薄片化黒鉛、平均粒径15μm(デンカ社製、デンカブラック100%プレス)、
(7)導電フィラーC:球状黒鉛、平均粒径35μm(デンカ社製、デンカブラック100%プレス)、
(8)導電フィラーD:アセチレンブラック(デンカ社製、デンカブラック100%プレス)。
【0134】
実施例及び比較例において、以下の基材を用いた。
(1)ポリエステルメッシュ(日本特殊織物社製、TNo.60SS)。
【0135】
実施例及び比較例おいて、サンプルの作製、測定方法、及び評価方法は、以下の通り行った。
【0136】
プリプレグ層、樹脂層、及び燃料電池用セパレータ部材の作製、測定方法、及び評価方法について、実施例1を例に説明する。
【0137】
(1)(プリプレグ層の作製)
(1-1)(プリプレグ層用樹脂組成物)
主剤100.0質量部、硬化剤48.8質量部及び強化剤17.5質量部をそれぞれメチルエチルケトンで溶解させた後、1つの容器に加えて混合し、混合液を調製した。次にその混合液に、硬化促進剤3.0質量部をメタノールに溶解させた溶液、及び導電フィラーD43.8質量部をそれぞれ加えた。加えた後、ホモミキサーで撹拌し、プリプレグ層用樹脂組成物の溶液を得た。撹拌条件は、室温、6000rpm、30分とした。また、その溶液の粘度が100~3000mPa・sの範囲に収まるようにメチルエチルケトンを加えて調製し、プリプレグ層用樹脂組成物を得た。
【0138】
(1-2)プリプレグ層の作製
厚さ38μmの離型処理済みのフィルム(リンテック社製、PET38X)の離型面に、プリプレグ層用樹脂組成物をバーコータで、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布し乾燥させた。乾燥条件は、70℃、4分とした。冷却後、厚さが20μmのプリプレグ層用樹脂シートを得た。
【0139】
次に、プリプレグ層用樹脂シートの樹脂面とポリエステルメッシュとを重ね合わせ、ラミネート機(大成ラミネーター社製、VA-700)を用いて、80℃、0.4m/min、0.6MPaの条件で貼り合せた。冷却後、離型処理済みのフィルムを剥がし、プリプレグ層を得た。
【0140】
(2)(樹脂層の作製)
(2-1)樹脂層用樹脂組成物
主剤100.0質量部、硬化剤48.4質量部及び強化剤35.0質量部をそれぞれメチルエチルケトンで溶解させた後、1つの容器に合わせて混合し、混合液を調製した。次にその混合液に、硬化促進剤3.0質量部をメタノールで溶解させた溶液、及び導電フィラーA559.0質量部をそれぞれ加え、室温で撹拌し、樹脂層用樹脂組成物の溶液を得た。また、その溶液の粘度が100~3000mPa・sの範囲に収まるようにメチルエチルケトンを加えて調製し、樹脂層用樹脂組成物を得た。
【0141】
(2-2)樹脂層用樹脂シートの作製
厚さ38μmの離型処理済みのフィルム(リンテック社製、PET38X)の離型面に、樹脂層用樹脂組成物をバーコータで、乾燥後の厚さが250μmとなるように塗布し、乾燥させた。乾燥条件は、70℃、7分とした。冷却後、厚さが250μmの樹脂層用樹脂シートを得た。
【0142】
(3)(燃料電池用セパレータ部材の作製)
プリプレグ層の表面と裏面に樹脂層用樹脂シートの樹脂面が合わさるように樹脂層用樹脂シートを、それぞれ積層した。その後、80℃、0.4m/min、0.6MPaの条件で貼り合せた。次に、冷却後、樹脂層用シートの離型処理済みのフィルムを剥がし、燃料電池用セパレータ部材を得た。
【0143】
各種測定に使用するサンプルとして、燃料電池用セパレータ、プリプレグ層単体、及び樹脂層単体の特性を評価する特性評価用サンプルを作製した。
(4)(特性評価用サンプルの作製)
特性評価用サンプルは、100mm×100mmの正方形で、燃料電池用セパレータ部材、プリプレグ層単体、及び樹脂層単体からそれぞれ切り出した。次に、切り出した各サンプルの両面に離型処理面が合わさるように厚さ38μmの離型処理済みのフィルム(リンテック社製 PET3811)を積層した。積層した各サンプルの硬化状態がCステージとなるように、180℃、5分、20MPaの条件でプレス成形を行った。冷却後、燃料電池用セパレータ、プリプレグ層単体、及び樹脂層単体の特性評価用サンプルをそれぞれ得た。
【0144】
ここで、燃料電池用セパレータの特性評価用サンプルを特性評価用サンプル1、プリプレグ層単体の特性評価用サンプルを特性評価用サンプル2、樹脂層単体の特性評価用サンプルを特性評価用サンプル3、とした。
【0145】
<体積抵抗率の測定>
特性評価用サンプル1について、抵抗率計(日置電機社製、RM3545)を用い、JIS K7194に準じ4探針法により、体積抵抗率(mΩ・cm)を測定した。同じように、特性評価用サンプル2及び特性評価用サンプル3の体積抵抗率も測定した。
【0146】
<貫通抵抗率の測定>
貫通抵抗率を測定するサンプルを次のように作製した。まず、(4)で作製した特性評価用サンプル1を2枚重ねた。重ね合わせた後、外側となる2つの面に、ガス拡散層基材(三菱ケミカル社製 GDL MFL)をそれぞれ積層し、測定用サンプルを得た。
【0147】
貫通抵抗率は、測定用サンプルの外側となる2つの面(ガス拡散層が露出している2つの面)に金メッキ処理された電極をそれぞれ接触させ、1MPaの圧力をかけた状態で通電し、測定した。
【0148】
<曲げ強度の測定>
(1)測定用サンプルの作製
特性評価用サンプル1を、幅10mm、長さ20mmに矩形にカットし、これを測定用サンプルとした。
(2)測定方法
オートグラフ試験機(島津製作所社製、AG-10)を用いて曲げ強度の測定を行った。測定は、3点曲げ(支点間距離10mm、試験速度2mm/分)で行い、破壊荷重を測定した。曲げ強度は、JIS K7171に準拠し、得られた最大曲げ応力(試験片が耐えうる最大曲げ応力)から算出した。
【0149】
<ガスバリア性>
ガスバリア性の評価は、水蒸気透過度を測定して評価した。
(1)測定用サンプルの作製
特性評価用サンプル1を、直径76mmの円形状にカットして、測定用サンプルとした。
(2)測定方法
水蒸気透過度は、JIS Z0208に準拠して求めた。具体的には、40℃、90%RHの条件下で、24時間中に測定用サンプルを透過する水蒸気の量を、1m2当たりに換算した値(g/m2・24h)として求めた。
【0150】
評価基準は以下の通りとした。
Excellent:水蒸気透過度が13g/m2・24h未満である。
Good:水蒸気透過度が13g/m2・24h以上、32g/m2・24h未満である。
Poor:水蒸気透過度が32g/m2・24h以上である。
【0151】
実施例2~実施例5は、表1に示すように、各成分の種類及び含有量を変えた以外は、上述した実施例1と同様の方法により作製した。また、評価についても、実施例1と同様の方法により特性評価用サンプルを作製し、評価を行った。
【0152】
比較例1の樹脂層、及び燃料電池用セパレータ部材について説明する。
【0153】
(樹脂層及び樹脂層用樹脂シートの作製)
樹脂層は、実施例1と同じように作製した。
【0154】
(燃料電池用セパレータ部材の作製)
ポリエステルメッシュの表面と裏面に樹脂層用樹脂シートの樹脂面が合わさるように樹脂層用樹脂シートを、それぞれ積層した。その後、80℃、0.4m/min、0.6MPaの条件で貼り合せた。冷却後、樹脂層用シートの離型処理済みのフィルムを剥がし、燃料電池用セパレータ部材を得た。
【0155】
比較例2~比較例3は、表1に示すように、各成分の種類及び含有量を変えた以外は、上述した比較例1と同様の方法により作製した。
【0156】
(燃料電池用セパレータ部材及び樹脂層単体の評価)
比較例1~比較例3の評価は、実施例1と同様の方法により燃料電池用セパレータの特性評価用サンプル(特性評価用サンプル1)、及び樹脂層単体の特性評価用サンプル(特性評価用サンプル3)を作製し、評価を行った。
【0157】
【0158】
表1の結果より、実施例1~5の燃料電池用セパレータの貫通抵抗率及び体積抵抗率は、良好であった。さらに、実施例1~5の燃料電池用セパレータは、貫通抵抗率及び体積抵抗率が低い状態で、ガスバリア性及び曲げ強度も良好であった。このように本発明により導電性を有し、貫通抵抗率及び体積抵抗率が低い燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータを構成する燃料電池用セパレータ部材、及び燃料電池用セパレータ部材の製造方法の提供が可能となる。