(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124859
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】繊維補強モルタルの押出積層方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20220819BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220819BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220819BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220819BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20220819BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y70/00
C04B28/02
C04B16/06 A
C04B16/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022740
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】前堀 伸平
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真一
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】木ノ村 幸士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 三馨
(72)【発明者】
【氏名】張 文博
【テーマコード(参考)】
4G052
4G112
【Fターム(参考)】
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC06
4G112PA24
4G112PE04
(57)【要約】
【課題】本発明は、短繊維を混合した繊維補強モルタルと材料押出方式の付加製造装置を用いて、練り混ぜ性、流動性および積層性(成形性)に優れた、繊維補強モルタルの押出積層方法を提供する
【解決工程】本発明は、押出積層時の0打フローおよび15打フローが、それぞれ100~130mm、および150~190mmである繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法であり、好ましくは、下記(A)~(D)の条件をすべて満たす繊維補強モルタルの押出積層方法である。
(A)前記材料押出方式の付加製造装置の押出ノズルの内径が20~30mm
(B)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが、前記押出ノズルの内径の70%以下
(C)前記短繊維のアスペクト比が300以下
(D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として5.0%以下
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出積層時の0打フローおよび15打フローが、それぞれ100~130mm、および150~190mmである繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法。
【請求項2】
下記(A)~(D)の条件をすべて満たす、請求項1に記載の繊維補強モルタルの押出積層方法。
(A)前記材料押出方式の付加製造装置の押出ノズルの内径が20~30mm
(B)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが、前記押出ノズルの内径の70%以下
(C)前記短繊維のアスペクト比が300以下
(D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として5.0%以下
【請求項3】
下記(a)~(d)の条件をすべて満たす、請求項1または2に記載の繊維補強モルタルの押出積層方法。
(a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下
(b)前記短繊維の長さが10~17mm
(c)前記短繊維のアスペクト比が45~125
(d)該短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として1.5~3.5体積%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料押出(ME)方式の付加製造装置(3Dプリンタ)を用いて、繊維補強モルタルを押出積層する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水硬性材料を、材料押出方式の付加製造装置を用いて連続的に押し出しながら逐次固化して積層することにより、構造物を製造する方法が提案されている。
例えば、特許文献1および2には、施工時に流動性を有するとともに施工後には硬化する複数の水硬性混合物を用いて複合構造物を施工する方法が提案されている。前記水硬性混合物は補強材として繊維を混合してもよいとしている。また、特許文献3には、未硬化状態のコンクリートまたはモルタルに複数の繊維を混入させて繊維入りコンクリートを生成する繊維入りコンクリート生成工程と、前記繊維入りコンクリートを付加製造装置のノズルから所定の位置に押し出して繊維補強コンクリート体を施工する繊維補強コンクリート体施工工程を備えた繊維補強コンクリート部材の製造方法が提案されている。さらに、特許文献4には、少なくとも鉄筋を組み立てる鉄筋組み立て工程と、前記鉄筋の周囲に未硬化状態の第1のコンクリートを付加製造装置から押し出し、モルタル枠を形成するモルタル枠形成工程と、未硬化状態の第2のコンクリートを前記モルタル枠の内側の空間に打ち込み、前記空間を満たすコンクリート芯を形成するコンクリート芯形成工程を備えたコンクリート構造物の施工方法が提案されている。そして、前記第1のコンクリートは、繊維入りモルタルが開示されている。
【0003】
モルタル等の水硬性材料の引張強度や曲げ強度を改善する方法として、短繊維の添加は、有効であることが一般に知られている。しかし、短繊維の混合量が増えると、水硬性材料の流動性が低下するため、前記付加製造装置のノズルやホースが閉塞して、ノズルからの押出性が低下し易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-199939号公報
【特許文献2】特開2018-199940号公報
【特許文献3】特開2020-2744号公報
【特許文献4】特開2020-111941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、短繊維を混合した繊維補強モルタルと材料押出方式の付加製造装置を用いて、練り混ぜ性、流動性および積層性(成形性)に優れた繊維補強モルタルの押出積層方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記の構成を有する繊維補強モルタルの押出積層方法は、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0007】
[1]押出積層時の0打フローおよび15打フローが、それぞれ100~130mm、および150~190mmである繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法。
[2]下記(A)~(D)の条件をすべて満たす、前記[1]に記載の繊維補強モルタルの押出積層方法。
(A)前記材料押出方式の付加製造装置の押出ノズルの内径が20~30mm
(B)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが、前記押出ノズルの内径の70%以下
(C)前記短繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)が300以下
(D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として5.0%以下
[3]下記(a)~(d)の条件をすべて満たす、前記[1]または[2]に記載の繊維補強モルタルの押出積層方法。
(a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下
(b)前記短繊維の長さが10~17mm
(c)前記短繊維のアスペクト比が45~125
(d)該短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として1.5~3.5体積%
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維補強モルタルの押出積層方法は、流動保持性、圧送性および積層性(成形性)などのフレッシュ性状に優れ、繊維補強モルタルを押出して積層でき、かつ、高圧縮強度、高曲げ強度を有し、様々な土木・建築用構造物、例えば、橋脚や橋台の埋設型枠、橋梁の高欄、既存構造物の補修・補強、擁壁、トンネル、地覆等を容易に製造できるほか、構造物の製造時の省力化(型枠工が不要等)や、作業の安全性が向上し、型枠によらない自由形状の造形が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例で用いた材料押出方式の付加製造装置を示す写真である。
【
図2】本発明の実施例で用いた材料押出方式の付加製造装置を示す模式図である。
【
図3】材料押出方式の付加製造装置の一実施形態の説明図であり、同図では吐出ノズルの軸線に沿った断面を模式的に示している。なお、図示していないが、ポンプからノズルまでの間の供給パイプはロボットアームでも支持可能である。
【
図6】積層性の評価に用いた積層体の形状を示す図である。
【
図7】短繊維のアスペクト比と曲げ強度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の付加製造方法は、前記のとおり、特定の0打フローおよび15打フローを有する繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法等である。以下、本発明について第1~3の発明に分けて詳細に説明する。ここで、0打フローとは、調製した繊維補強モルタルに対して、JIS R 5201 12 フロー試験で規定されている機械器具および測定方法にしたがって、フローコーンを垂直方向に取り去った直後に測定したフロー値であり、15打フローとは、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値である。
【0011】
1.第1の発明
本発明で用いる繊維補強モルタルの、押出積層時の0打フローおよび15打フローは、それぞれ100~130mmおよび150~190mmである。繊維補強モルタルの0打フローおよび15打フローが前記範囲にあれば、材料押出方式の付加製造装置を用いて押出積層できる。なお、押出積層時の0打フローおよび15打フローは、好ましくは、それぞれ100~120mmおよび160~180mmである。ここで、「押出積層時」とは、付加製造装置に繊維補強モルタルを供給する時点をいう。繊維補強モルタルを混練した後、付加製造装置に供給する前に0打フローおよび15打フローを測定し、所定の範囲内であることを確認するとよい。
【0012】
2.第2の発明
さらに、本発明は下記(A)~(D)の条件をすべて満たす繊維補強モルタルの押出積層方法である。
(A)前記材料押出方式の付加製造装置の押出ノズルの内径が20~30mm
(B)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが、前記押出ノズルの内径の70%以下
(C)前記短繊維のアスペクト比が300以下
(D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として5.0%以下
前記(A)~(D)の条件をすべて満たす繊維補強モルタルは、前記付加製造装置を用いて、より容易に押出積層できる。
なお、前記短繊維は、有機繊維、金属繊維、炭素繊維、およびガラス繊維等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0013】
3.第3の発明
さらに、本発明は、下記(a)~(d)の条件をすべて満たす繊維補強モルタルの押出積層方法である。
(a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下
該比が35%以下で、造形物の強度がより向上する。なお、該比は、押出積層によって造形物を製造するのに必要な流動性を確保するため、より好ましくは25~35%である。
(b)前記短繊維の長さが10~17mm
短繊維の長さが該範囲で、短繊維とマトリックスとの付着が十分とれるので、強度(例えば、曲げ強度や引張強度)の向上効果が大きくなり、また、混練の際にファイバーボールがより生じ難くなる。
(c)前記短繊維のアスペクト比が45~125
短繊維のアスペクト比が該範囲で、同一配合量(同一体積)における短繊維の本数が多くなるため、また、繊維とマトリックスとの付着が十分となるため、強度(例えば、曲げ強度や引張強度)の向上効果が大きくなる。
(d)該短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として1.5~3.5%
短繊維の体積含有率が該範囲で、強度(例えば、曲げ強度や引張強度)の向上効果が大きくなり、また、混練の際にファイバーボールが生じ難くなる。
前記(a)~(e)の条件をすべて満たす繊維補強モルタルは、前記付加製造装置を用いて、より容易に押出積層できるほか、該繊維補強モルタルは、材齢7日で、大きさがφ10×20cmの円柱供試体の圧縮強度が50MPa以上、大きさが10×10×40cmの角柱供試体の曲げ強度が8MPa以上の、曲げ部材として十分な強度を発現する。
【0014】
4.繊維補強モルタル
次に、本発明で用いる繊維補強モルタルについて説明する。該繊維補強モルタルは、短繊維、結合材、細骨材、および水を少なくとも含む水硬性組成物である。
【0015】
(1)短繊維
前記短繊維は、セメントペーストおよびモルタル中で使用できる、アルカリに対する化学的な耐久性を有する耐アルカリ性繊維が好ましく、耐アルカリ性繊維であれば有機繊維、無機繊維のいずれも用いることができる。
【0016】
前記耐アルカリ性の無機繊維は、耐アルカリ性ガラス繊維、鋼繊維(スチールファイバー)、ステンレスファイバー、および炭素繊維等が挙げられる。
また、前記耐アルカリ性の有機繊維は、ポリビニルアルコール系(以下「ビニロン」または「PVA」いう。)繊維;ポリエチレン繊維、およびポリプロピレン繊維等のポリオレフィン系繊維;超高分子量ポリエチレン繊維;ポリアミド6、ポリアミド6,6、およびポリアミド6,10等のポリアミド系繊維;アラミド繊維(特に好ましくはパラアラミド繊維);ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール系繊維(PBO繊維);アクリル繊維;ポリノジック繊維、および溶剤紡糸セルロース繊維等のレーヨン系繊維;ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維);ポリエーテルエーテルケトン繊維(PEEK繊維)等が挙げられる。
これらの耐アルカリ性繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0017】
前記繊維の長さは10mm以上で、繊維とマトリックスの付着が十分とれるため、強度(例えば、曲げ強度や引張強度)の向上効果が大きくなる。一方、該長さが17mm以下で、混練や押出の際にファイバーボールがより生じにくくなる。また、該長さがノズルの内径を超えると繊維がノズル部で引っ掛かりやすくなり、ファイバーボールが形成されてノズルからの押出性が低下する。
前記繊維のアスペクト比が300を超えると、混練や押出の際にファイバーボールが生じやすくなる。また、マトリックスの流動性が著しく低下するので、流動性を確保するために単位水量が増加して、繊維補強モルタルの強度が低下する。該比が45以下で、繊維とマトリックスとの付着が不十分となるので、繊維補強モルタルの強度(例えば、曲げ強度や引張強度)の向上効果が十分には得られない。
【0018】
前記繊維の体積含有率は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは0.5~4.0%、さらに好ましくは1.5~3.5体積%である。該率が5.0%を超えると、混練や押出の際にファイバーボールが生じやすくなり、また、マトリックスの流動性を確保するために単位水量が増加するため、繊維補強モルタルの強度が低下する。該率が0.5%を下回ると繊維による繊維補強モルタルの強度(例えば、曲げ強度や引張強度)の向上効果が十分には得られない。
【0019】
(2)結合材
前記結合材は、ポルトランドセメント、および超速硬セメントから選ばれる1種以上が挙げられる。そして、前記ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等が挙げられる。
また、前記超速硬セメントは、C12A7(12CaO・7Al2O3);C3A(3CaO・Al2O3);C11A7・CaF2(11CaO・7Al2O3・CaF2);NC8A3(Na2O・8CaO・3Al2O3);アウイン(3CaO・3Al2O3・CaSO4);CA(CaO・Al2O3)、およびCA2(CaO・2Al2O3)から選ばれる1種以上の鉱物を含むセメントが挙げられる。
その他の結合材の例としては、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
【0020】
(3)細骨材
前記細骨材は、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、石灰石粉末、スラグ細骨材、および軽量細骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、粒度を容易に調整できるため、石灰石粉末が好ましい。
細骨材の含有量は、任意にコントロールできる。水と結合材の量が変わらない場合、細骨材量が少ないと粘性が高くなり、ノズル押出やポンプ圧送に負荷がかかる。一方、細骨材量が多くなると粘性が低くなり、材料分離が起こりやすくなる。
また、ポルトランドセメントと同程度の粒度である微粉末を使用した場合、微粉末の量を増やすと、フローの値は小さくなる。反対に、微粉末の量を減らすと、フローの値は大きくなる。すなわち、微粉末量によってフローの値をコントロールすることができる。
【0021】
(4)水
前記水は、特に限定されず、水道水、およびスラッジ水等が挙げられる。
水と結合材の質量比(水/結合材比)は、好ましくは0.10~0.60、より好ましくは0.20~0.45、特に好ましくは0.25~0.35である。該比が0.10以上で、短繊維混入時においても、押出積層によって造形物を製造するのに必要な流動性を確保することができる。該比が0.60以下で、造形物の強度をより向上することができる。
【0022】
(5)繊維補強モルタルのその他の任意の成分
繊維補強モルタルは任意の成分として凝結遅延剤を含んでもよい。該凝結遅延剤は、クエン酸、ヘプトン酸、コハク酸、酒石酸、グルコン、リンゴ酸、および、これらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、繊維補強モルタの流動性をより長時間保持できるため、クエン酸が好ましい。
繊維補強モルタル中の凝結遅延剤の含有割合は、セメント100質量部に対し、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~3質量部、さらに好ましくは0.3~2.5質量部、特に好ましくは0.4~1.8質量部である。前記含有割合が0.1質量部未満では、繊維補強モルタルの流動性を長時間(例えば、2時間)保持することができず、可使時間が短くなり、5質量部を超えると、繊維補強モルタルの凝結の終結時間が過度に長くなる。
さらに、繊維補強モルタルは、要求される特性に応じて、消泡剤、凝結促進剤、分離低減剤、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、および高性能AE減水剤等の各種混和剤や、フライアッシュ、シリカフューム、および高炉スラグ微粉末等の各種混和材を含んでもよい。
【実施例0023】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
1.使用した材料
(1)結合材
カルシウムアルミネート類を主体としたクリンカと、石膏を混合して粉砕した試製品で、密度は3.03g/cm3、ブレーン比表面積は4,260cm2/gである。結合材の化学組成等を表1に示す。
【0024】
【0025】
(2)細骨材1
石灰石砂で、最大粒径は2mm、粗粒率は2.86である。
(3)細骨材2
石灰石微粉末で、ブレーン比表面積は8,160cm2/g、45μmふるい残分は4.0%である。
(4)減水剤1
粉末状のポリカルボン酸系減水剤で、商品名はNF-100(太平洋マテリアル社製)である。
(5)減水剤2
粉末状のポリカルボン酸系減水剤で、商品名はNF-200(太平洋マテリアル社製)である。
(6)凝結遅延剤
クエン酸(試薬)である。
(7)消泡剤
粉末型特殊配合物で、商品名はアデカネートB-317F(アデカ社製)である。
(8)水
上水道水である。
(9)短繊維
(i)繊維1~3、5
ビニロン繊維(PVA)で、密度は1.3g/cm3である
(ii)繊維4
ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール(PBO)繊維で、密度は1.51g/cm3である。アスペクト比等を表2に示す。
【0026】
【0027】
2.本発明の繊維補強モルタルの押出積層試験
[試験1]
表3に示す配合に従い、繊維を除く各材料を、パン型ミキサに投入して2分間混合し、ミキサ内の掻き落としを行ってから、さらに2分間混合した後、繊維を混入し、さらに2分間混合して、繊維補強モルタルを調製した。なお、表3における繊維を除く各材料の値は、結合材の質量を100としたときの質量比(%で表示)であり、繊維量の値は、モルタルマトリックスの体積を100としたときの体積比(Vol.%で表示)である。
【0028】
【0029】
実施例1~5、および比較例1~3の繊維補強モルタルについて、以下の方法に従い、0打フロー(15回の落下運動を行わないで測定したフロー値)、15打フロー、ノズル押出性、および積層性を評価した。
【0030】
(1)0打フローおよび15打フロー(フレッシュ性状)
実施例1~5、および比較例1~3の繊維補強モルタルに対して、JIS R 5201に準拠してフロー試験を行い、フローコーンを垂直方向に取り去った直後に測定したフロー値を0打フロー、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値を15打フローとした。
(2)ノズル押出性
実施例1~5、および比較例1~3の繊維補強モルタルを、
図1に示すノズルの内径が25mmの材料押出方式の付加製造装置(3Dプリンタ)の特殊ノズル上部に投入して、ノズル内にモルタルが詰まる、ノズルからモルタルが一定に吐出しない、または、ノズルからモルタルが垂れるなどの不具合の有無を確認した。ノズルからの押し出し時間は60~80分、ノズルからの押し出し速度は6000~9000mm/分、ノズルから押し出す材料の量は40~60リットルであった。
なお、前記付加製造装置は、繊維補強モルタル等のセメント系材料を、材料投入ホッパーに投入した後、市販のスクイーズポンプにより特殊ノズルに送り出して、セメント系材料をノズル先端から押し出しながら積層する。特殊ノズル(特開2019-147338号公報の
図1等参照)は,吐出量を常に一定に保つことができるため,建設工事で使用される一般的な脈動を伴うポンプとの組合せが可能である。また,ノズル先端から材料が垂れることを防ぐ仕組みになっており、複数部材の同時製作にも対応できる。
(3)積層性
実施例1~5および比較例1~3の繊維補強モルタルを、前記材料押出方式の付加製造装置のホッパーに投入し、スクイーズポンプによって特殊ノズルに送り出し、ノズル先端から押し出しながら積層して、積層高さが20cm以上なら合格(表4中の〇)とした。積層体の形状は
図6に示すように、縦500mm、横500mm、幅25mmの中空矩形とした。なお,ノズルから押し出される1段当たりの積層は幅25mm、高さ10mmである。
これらの結果を表4に示す。
【0031】
【0032】
表4に示すように、本発明の繊維補強モルタル(実施例1~5)は、繊維の種類および量と、水結合材比の違いにかかわらず、0打フロー値が111~130mm、15打フロー値が156~186mmと、いずれも適度な流動性を有し(フレッシュ性状は〇)、ノズル押出性、および押出後の積層性に優れる。
これに対し、15打フロー値が141mmの比較例1は、適度な流動性を有しておらず、ノズル内に材料が詰まって、ノズルから材料が一定に吐出せず、ノズル押出性に劣る。
また、0打フロー値が134mm、15打フロー値が209mmの比較例2は、ノズルから材料が垂れる不具合を生じるなどノズル押出性に劣り、また積層高さが20cmに至る前に崩壊して、積層性にも劣る。
さらに、15打フロー値が194mmの比較例3は、積層高さが20cmに至る前に崩壊し、積層性に劣る。
【0033】
[試験2]
表5に示す配合に従い、前記実施例1~5および比較例1~3の場合と同様にして、繊維補強モルタルを調製した。なお、表5における各材料の値の意味は、表3における各材料の値の意味と同じである。
なお、表5の配合について、供試体の圧縮強度が50MPa以上の高強度になるように、繊維を含まないモルタルを用いて水結合材比を調整したところ、モルタルの水結合材が0.35以下で、優れた強度発現性を発揮することが明らかとなった。また、前記実施例1~5および比較例1~3の結果に基づき、優れたノズル押出性および押出後の積層性を発揮するためには、0打フロー値は100~130mm、15打フロー値は150~190mmであるから、当該フロー値になるように、表5の配合を調整した。
【0034】
【0035】
実施例6~12、および比較例4~6の繊維補強モルタルについて、0打フロー、15打フロー、材齢7日の圧縮強度および曲げ強度を測定した。
前記0打フロー、15打フローは、前記実施例1~5および比較例1~3の場合と同様にして評価および測定した。
また、前記強度試験では、JIS A 1132「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」に準拠して、φ10×20cmの円柱供試体および10×10×40cmの角柱供試体を、打設して翌日脱枠した後、気中養生を行って作製した。次に、材齢7日の圧縮強度はJIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して測定し、材齢7日の曲げ強度はJIS A 1106「コンクリートの曲げ強度試験方法」に準拠して測定した。
これらの結果を表6に示す。また、アスペクト比と曲げ強度の関係を
図7に示す。
【0036】
【0037】
表6と
図7から以下のことが云える。
繊維のアスペクト比が50~65である本発明の繊維補強モルタル組成物(実施例6~10)は、繊維の混入量が体積比で2.0~3.0%で、繊維の種類や水結合材比の違いにかかわらず、ノズル押出性および押出後の積層性に優れ、また供試体の曲げ強度は9.0~11.5MPaと特に高い。また、いずれの実施例も適度な流動性を有する。
また、アスペクト比が120である本発明の繊維補強モルタル(実施例11、12)は、ノズル押出性および押出後の積層性に優れるような繊維の混入量は体積比が2.0~2.5%で、ノズル押出性および押出後の積層性が高く、また曲げ強度は8.0~9.9MPaと高い。
これに対して、繊維のアスペクト比が300である比較例4および5は、繊維の混入量が体積比で1.0~1.5%で、ノズル押出性および押出後の積層性が高いが、曲げ強度は5.4~6.1MPaと低い。
また、繊維を含まない比較例6のモルタルは、曲げ強度が3.5MPaと低く、曲げ性能に劣る。
【0038】
以上のことから、本発明の繊維補強モルタルの押出積層方法は、流動保持性、圧送性および積層性(成形性)などのフレッシュ性状に優れ、繊維補強モルタルを押出して積層でき、かつ、高圧縮強度、高曲げ強度を有し、様々な土木・建築用構造物、例えば、橋脚や橋台の埋設型枠、橋梁の高欄、既存構造物の補修・補強、擁壁、トンネル、地覆等を容易に製造できるほか、構造物の製造時の省力化(型枠工が不要等)や、作業の安全性が向上し、型枠によらない自由形状の造形が可能となる。