(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124884
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】抗酸化活性剤、抗酸化活性剤の製造方法、α-グルコシダーゼ阻害活性剤およびα-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/63 20060101AFI20220819BHJP
A61K 36/07 20060101ALI20220819BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20220819BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220819BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220819BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220819BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220819BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220819BHJP
A23L 3/3571 20060101ALI20220819BHJP
A23L 3/3472 20060101ALI20220819BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
A61K36/63
A61K36/07
A61P39/06
A61P3/00
A61P35/00
A61P31/00
A61P25/28
A61P43/00 111
A23L3/3571
A23L3/3472
C12N9/99
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022779
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】麻田 恭彦
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】小澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼石 佳樹
【テーマコード(参考)】
4B021
4C088
【Fターム(参考)】
4B021MC03
4B021MC10
4B021MK05
4B021MK06
4C088AA07
4C088AA08
4C088AB64
4C088AC05
4C088AC16
4C088BA08
4C088CA01
4C088CA02
4C088CA05
4C088CA12
4C088CA15
4C088CA25
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA15
4C088ZB26
4C088ZB31
4C088ZC20
4C088ZC21
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】オリーブから得られる抽出物の機能性を向上させた抗酸化活性剤、その製造方法、α-グルコシダーゼ阻害活性剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の抗酸化活性剤は、菌糸体を用いたオリーブの枝および/または葉から得られる抽出物を菌糸体で処理して得られた菌糸体処理物を含有する。オリーブから得られる抽出物を菌糸体で処理した菌糸体処理物を含有することにより、優れた抗酸化活性を発揮させることができるので、癌や生活習慣病、感染症、認知症などの効率的な予防が期待される。しかも、未利用のバイオマス資源を有効に活用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブの枝および/または葉から得られる抽出物を菌糸体で処理して得られた菌糸体処理物を含有する
ことを特徴とする抗酸化活性剤。
【請求項2】
前記抽出物が、
オリーブの枝および/または葉から、精油および/または水性の液体の少なくとも一部を分離した固形分を水または熱水で抽出処理して得られたものである
ことを特徴とする請求項1記載の抗酸化活性剤。
【請求項3】
前記固形分が、
オリーブの枝および/または葉に対してマイクロ波を照射したものである
ことを特徴とする請求項2記載の抗酸化剤。
【請求項4】
前記固形分が、
オリーブの枝および/または葉に対してマイクロ波を照射しながら減圧蒸留した後の残留物である
ことを特徴とする請求項2記載の抗酸化剤。
【請求項5】
前記菌糸体が、
シイタケ、エノキタケ、ナメコ、ヒラタケ、ブナシメジ、エリンギおよびヤマブシタケからなる群から選ばれるキノコの菌糸体である
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の抗酸化活性剤。
【請求項6】
オリーブの枝および/または葉に対してマイクロ波を照射しながら減圧蒸留により蒸留物と固形分に分離し得る第一工程と、得られた固形分を水または熱水で抽出して抽出物を得る第二工程と、得られた抽出物を菌糸体で処理する第三工程と、を順に行う
ことを特徴とする抗酸化活性剤の製造方法。
【請求項7】
前記菌糸体が、
シイタケ、エノキタケ、ナメコ、ヒラタケ、ブナシメジ、エリンギおよびヤマブシタケからなる群から選ばれるキノコの菌糸体である
ことを特徴とする請求項6記載の抗酸化活性剤の製造方法。
【請求項8】
オリーブの枝および/または葉から得られる抽出物を菌糸体で処理して得られた菌糸体処理物を含有する
ことを特徴とするα-グルコシダーゼ阻害活性剤。
【請求項9】
前記抽出物が、
オリーブの枝および/または葉から、精油および/または水性の液体の少なくとも一部を分離した固形分を水または熱水で抽出処理して得られたものである
ことを特徴とする請求項8記載のα-グルコシダーゼ阻害活性剤。
【請求項10】
前記固形分が、
オリーブの枝および/または葉に対してマイクロ波を照射したものである
ことを特徴とする請求項9記載のα-グルコシダーゼ阻害活性剤。
【請求項11】
前記固形分が、
オリーブの枝および/または葉に対してマイクロ波を照射しながら減圧蒸留した後の残留物である
ことを特徴とする請求項9記載のα-グルコシダーゼ阻害活性剤。
【請求項12】
前記菌糸体が、
シイタケ、エノキタケ、ナメコ、ヒラタケ、ブナシメジ、エリンギおよびヤマブシタケからなる群から選ばれるキノコの菌糸体である
ことを特徴とする請求項8、9、10または11記載のα-グルコシダーゼ阻害活性剤。
【請求項13】
オリーブの枝および/または葉に対してマイクロ波を照射しながら減圧蒸留により蒸留物と固形分に分離し得る第一工程と、得られた固形分を水または熱水で抽出して抽出物を得る第二工程と、得られた抽出物を菌糸体で処理する第三工程と、を順に行う
ことを特徴とするα-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造方法。
【請求項14】
前記菌糸体が、
シイタケ、エノキタケ、ナメコ、ヒラタケ、ブナシメジ、エリンギおよびヤマブシタケからなる群から選ばれるキノコの菌糸体である
ことを特徴とする請求項13記載のα-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化活性剤、抗酸化活性剤の製造方法、α-グルコシダーゼ阻害活性剤およびα-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造方法に関する。さらに詳しくは、オリーブの枝葉を利用した抗酸化活性剤、抗酸化活性剤の製造方法、α-グルコシダーゼ阻害活性剤およびα-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中高年齢層を中心に、健康維持・増進等を目的とした健康食品(医薬品含む)の需要が高まっている。そして、オリーブの果実には、オレウロペインをはじめとする様々なポリフェノール類が含まれていることから、多種多様な機能性食品に利用されている。
例えば、特許文献1には、オリーブの果実を圧搾した水溶部より抽出した成分を利用したα-グルコシダーゼ阻害活性剤が開示されており、特許文献2には、オリーブの葉やその抽出物を利用したアミラーゼ阻害剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-082546号公報
【特許文献2】特開2002-010753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2の技術は、あくまでもオリーブに含まれる成分を化学変性等することなく、そのまま利用する技術である。このため、近年の健康志向の高まりから、オリーブが有する人の健康機能を向上させる機能をより効率的に摂取することが可能な健康食品の開発が期待されている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、オリーブから得られる抽出物の機能性を向上させた抗酸化活性剤、その製造方法、α-グルコシダーゼ阻害活性剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、オリーブから得られる抽出物を菌糸体で処理することにより、抽出物の機能性を向上が可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明の抗酸化活性剤は、オリーブの枝および/または葉から得られる抽出物を菌糸体で処理して得られた菌糸体処理物を含有することを特徴とする。
本発明の抗酸化活性剤の製造方法は、オリーブの枝および/または葉に対してマイクロ波を照射しながら減圧蒸留により蒸留物と固形分に分離し得る第一工程と、得られた固形分を水または熱水で抽出して抽出物を得る第二工程と、得られた抽出物を菌糸体で処理する第三工程と、を順に行うことを特徴とする。
本発明のα-グルコシダーゼ阻害活性剤は、オリーブの枝および/または葉から得られる抽出物を菌糸体で処理して得られた菌糸体処理物を含有することを特徴とする。
本発明のα-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造方法は、オリーブの枝および/または葉に対してマイクロ波を照射しながら減圧蒸留により蒸留物と固形分に分離し得る第一工程と、得られた固形分を水または熱水で抽出して抽出物を得る第二工程と、得られた抽出物を菌糸体で処理する第三工程と、を順に行うことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、オリーブから得られる抽出物を菌糸体で処理することにより、癌や生活習慣病、感染症、認知症などの効率的な予防が期待される抗酸化活性剤、α-グルコシダーゼ阻害活性剤、およびこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】マイクロ波減圧蒸留装置1の概略説明図である。
【
図3】実験のα-グルコシダーゼ阻害活性の結果を示した図である。
【
図4】エノキタケの菌糸体処理液のHPLCクロマトグラムの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本実施形態の抗酸化活性剤は、オリーブの枝や葉から得られた抽出物を菌糸体で処理した菌糸体処理物を含有することにより、癌や感染症、認知症などの効率的な予防が期待されるものである。
本実施形態のα-グルコシダーゼ阻害活性剤は、オリーブの枝や葉から得られた抽出物を菌糸体で処理した菌糸体処理物を含有することにより、生活習慣病の予防や血糖値の制御などが期待されるものである。
【0011】
明細書において、オリーブとは、モクセイ科のオリーブ属に属する植物であり、その種類はとくに限定されない。対象となるオリーブの部位は、枝や葉であり、これらを単独または混合して使用することができる。
なお、以下、単にオリーブと称する場合は、上記対象部位を意味する。
【0012】
また、処理対象となるオリーブの栽培状態は、とくに限定されない。例えば、オリーブの果実の収穫過程で廃棄される予定のオリーブの枝や葉などを用いれば、未利用のバイオマス資源を有効に活用することができるという利点が得られる。
【0013】
なお、菌糸体処理物とは、オリーブから得られる抽出物をキノコの菌糸体で処理して得られたものである。菌糸体処理物の調製に使用されるキノコは、とくに限定されない。例えば、シイタケ、エノキタケ、ナメコ、ヒラタケ、ブナシメジ、エリンギ、ヤマブシタケ等を挙げることができる。
【0014】
本実施形態の抗酸化活性剤(以下、単に抗酸化活性剤という)は、オリーブから得られた抽出物を、菌糸体で処理した菌糸体処理物を含有するものである。そして、この菌糸体処理物を含有することにより、抗酸化活性剤は、優れた抗酸化活性を発揮することができる。
このため、この抗酸化活性剤を食すことにより、体内で発生する活性酸素の働きなどを抑制することが期待される。具体的には、抗酸化活性剤を食すことで、活性酸素の影響による老化現象や癌、感染症、認知症などの予防に効果が期待される。
【0015】
本実施形態のα-グルコシダーゼ阻害活性剤(以下、単にα-グルコシダーゼ阻害活性剤という)は、抗酸化活性剤と同様にオリーブから得られた抽出物を、菌糸体で処理した菌糸体処理物を含有するものである。そして、この菌糸体処理物を含有することにより、α-グルコシダーゼ阻害活性剤は、体内において、α-グルコシダーゼ阻害活性を発揮させることにより糖質の消化吸収の抑制や調節を行うことが期待される。具体的には、α-グルコシダーゼ阻害活性剤を食すことで、糖質を取り込み易い体質の改善や、過剰な糖質を食するような生活習慣病の予防、食後の高血糖を制御などに効果を発揮することが期待される。
【0016】
つぎに、抗酸化活性剤およびα-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造方法について、説明する。
なお、抗酸化活性剤とα-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造方法は同じ内容であるので、抗酸化活性剤の製造方法である本実施形態の抗酸化活性剤の製造方法(以下、単に抗酸化活性剤の製造方法という)を代表として説明する。
【0017】
抗酸化活性剤の製造方法は、オリーブから得られた抽出物を菌糸体で処理することにより得られた菌糸体処理物を含有させることで抗酸化活性剤を製造することができる。
【0018】
まず、抗酸化活性剤の製造方法における、菌糸体の処理対象となる抽出物について説明する。
この菌糸体の処理対象となる抽出物は、オリーブから得られるものである。具体的には、この抽出物は、オリーブから精油および/または水性の液体の少なくとも一部を分離した後に得られる固形分に起因する成分を含むものである。例えば、圧搾や蒸留等の処理を行うことにより得られた残留物である残渣(固形分)そのものを含む固形状のものや、この固形分を分散させた液状のもの、この固形分をさらに抽出処理して得られた液体を含有するもの、などを抽出物として挙げることができる。
【0019】
上述した固形分の調製方法は、オリーブから精油および/または水性の液体の少なくとも一部を分離することができれば、とくに限定されず、例えば、上述した、圧搾機や蒸留装置等を用いて固形分を調製することができる。
【0020】
なお、圧搾機や蒸留装置等を用いて固形分を調製する場合、装置等の収容部に収容できる大きさに処理して供給することができる。なお、オリーブの葉などは、そのまま供給してもよいが、処理時間や処理効率の観点から、小さくした状態で供給するのが好ましい。オリーブを装置等へ供給する際に小さくする方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、裁断や粉砕等の処理を行えば、オリーブをチップ状や粉状などの粉砕物として装置等に供給することができる。
【0021】
圧搾機を用いた場合、搾汁液として上記精油および/または水性の液体が得られ、残渣として固形分を得ることができる。
また、蒸留装置を用いた場合、上記精油および/または水性の液体が蒸留物として得られ、残渣である残留物として固形分を得ることができる。つまり、蒸留装置を用いた場合、固形分は、オリーブを蒸留することにより、蒸留装置に供されたオリーブから精油および/または水性の液体の少なくとも一部が蒸留物として分離された後に残った残渣である。
【0022】
また、オリーブに対して後述するマイクロ波を照射した後、圧搾機を用いて固形分を得てもよい。この場合、オリーブを構成する細胞壁がマイクロ波により破壊されやすい状態になっているので、所望の固形分が得やすくなる。
なお、オリーブに対してマイクロ波を照射すれば、オリーブに含まれる精油や水性の液体の一部が流出したマイクロ波照射処理物を得ることができる。このマイクロ波照射処理物は、オリーブを構成する細胞壁がマイクロ波により破壊されやすいた状態となっているので、このままの状態で固形分として使用することも可能である。
【0023】
蒸留装置を用いた処理では、常圧蒸留、減圧蒸留、水蒸気蒸留等の処理により固形分を得ることができる。
また、蒸留装置を用いた際の加熱方法もとくに限定されず、ヒーターや熱水、水蒸気のほかマイクロ波を照射する方法を採用することができる。
【0024】
例えば、マイクロ波を照射する方法を採用すれば、オリーブに含まれる成分を菌糸体が処理し易い状態にできるので好ましい。具体的には、マイクロ波をオリーブに対して照射すれば、オリーブに含まれる水分が加熱されて水蒸気として放出される。このときオリーブに含まれる精油や水溶性の化合物(揮発性の成分も含む)などが蒸留物として得られる。一方、オリーブを構成する細胞壁がマイクロ波により破壊されやすい状態になる。このため、一般的な蒸留法では抽出されにくい成分を残留物である残渣(つまり固形分)に抽出等されやすい状態で含ませることができる。
したがって、マイクロ波を照射する方法を採用して調製した固形分を含有する抽出物を用いれば、菌糸体によるオリーブ中に含まれる成分を処理させ易くなる。
とくに、蒸留装置を用いた処理で得られた固形分を後述する抽出処理することにより抽出物を調製する場合には、固形分に含まれる成分をより抽出し易くなるという利点が得られる。
【0025】
マイクロ波を照射する蒸留装置としては、公知のものを採用することができる。例えば、
図1に示すようなマイクロ波減圧蒸留装置1を用いることができる。
このマイクロ波減圧蒸留装置1は、原料となるオリーブを収容するための収容部に相当する蒸留槽2と、マイクロ波を照射するためのマイクロ波加熱装置3と、蒸留槽2に空気あるいは窒素ガス等の不活性ガスなどを供給するための気流流入管4と、蒸留された蒸留物を誘導する蒸留物流出管5と、蒸留物流出管5を冷却する冷却装置6と、蒸留槽2の温度を制御するための加熱制御装置7と、蒸留槽2の内部の圧力を制御するための圧力制御装置10とを備えている。圧力制御装置10は、減圧ポンプ8と、圧力制御弁9とを備えている。
以上のごとき構成であるので、このマイクロ波減圧蒸留装置1は、蒸留槽2の内部の圧力等が加熱制御装置7および圧力制御装置10を介してそれぞれ調整されるようになっている。
【0026】
なお、蒸留装置を用いた場合の蒸留条件は、公知の条件を採用することができる。条件は内容量やその含水率、マイクロ波の強度などにより変わってくるが、例えば、装置の収容部内の圧力が、10~90kPaの減圧下、処理時間が0.2~8時間となるように調整することができる。
【0027】
なお、蒸留物として得られた精油と水性の液体の混合物は、静置、再蒸留、液液分離処理等の処理を行うことにより、油性の画分と水溶性の画分とに分離することができる。分離した画分のうち、油性の画分が上述した精油に、水溶性の画分が上述した水性の液体に相当する。これらの分画は、分離することにより、所望の用途にそれぞれ利用することができる。
【0028】
抽出物としては、上述したように、以上のごとき方法で調製された固形分そのものを含んだ固形状のもの、調製された固形分を溶液に分散させた液状のもの、調製された固形分をさらに抽出処理して得られた液体を含有するものなどを採用することができる。つまり、いずれの抽出物も固形分に含まれる成分が含まれるように調製されている。
まず、最初の抽出物は、調製された固形分を所定量分取することで簡単に調製することができる。二番目の抽出物は、調製された固形分をキノコの菌糸体に影響を与えない水などの液体に含浸等させることにより固形分に含まれる成分を抽出し易い状態に調製したものである。そして、最後の抽出物は、調製された固形分に含まれる成分のみを抽出した液体を含むように調製したものである。
【0029】
最後の抽出物の調製方法としては、固形分に含まれる成分を抽出することができる方法であれば、とくに限定されない。
例えば、水、熱水、有機溶媒などを用いた一般的な抽出方法を採用することができる。水や熱水で抽出処理を行う場合には、それぞれの液体で所定時間抽出処理を行ったのち、遠心分離機を用いて得られる上清を抽出物として採用することができる。また、有機溶媒で抽出処理を行う場合には、菌糸体に影響を与えないような処理を行う必要がある。例えば、抽出後の液体から有機溶媒を除去したのち、水などの菌糸体に影響を与えない溶媒に置換することで抽出物とすることができる。
【0030】
ついで、上記のごとく調製された抽出物に対して所望のキノコの種菌を植菌する。植菌後、所定時間菌糸体を培養することにより、菌糸体処理物を調製することができる。
この菌糸体処理物が、抗酸化活性剤およびα-グルコシダーゼ阻害活性剤に含有されるオリーブから得られた抽出物を菌糸体で処理して得られた菌糸体処理物である。
【0031】
まとめると、抗酸化活性剤の製造方法は、オリーブから得られる抽出物を調製する工程と、調製された抽出物を菌糸体で処理する工程と、を順に行う製造方法である。
前者のオリーブから得られる抽出物を調製する工程には、オリーブから得られた固形分を調製する工程が含まれる。この工程には、マイクロ波照射処理により固形分を調整する工程や、圧搾方法により固形分を調製する工程、または蒸留方法により固形分を調製する工程が含まれる。そして、蒸留方法により固形分を調製する工程においては、マイクロ波を照射しながら減圧蒸留する方法が含まれる。
また、固形分をさらに抽出処理する場合には、調製された固形分をさらに水や熱水などを用いて抽出処理する工程を含むことができる。
【0032】
なお、上記のマイクロ波を照射しながら減圧蒸留によりオリーブから固形分を調製する方法が、特許請求の範囲における第一工程に相当する。そして、調製された固形分をさらに水や熱水などを用いて抽出処理する工程が、特許請求の範囲における第二工程に相当する。
【0033】
以上のごとき製造方法を用いることにより、優れた抗酸化活性を発揮する抗酸化活性剤を製造することができる。また、同様の製造方法を用いることにより、優れたα-グルコシダーゼ阻害活性を発揮するα-グルコシダーゼ阻害活性剤を製造することができる。
【実施例0034】
つぎに、実施例によりさらに詳細に本発明を説明する。なお、これらの実施例は、本実施形態の一例を示すものであり、本発明は、以下の実施例によってなんら制限を受けるものではない。
【0035】
オリーブの剪定した枝および葉を粉砕機で粉砕した粉砕物を、
図1に示したマイクロ波減圧蒸留装置の蒸留槽内へ投入し、蒸留槽内を下記条件に設定した状態で蒸留処理を行った。
蒸留槽内の圧力:0.25KPaの減圧条件
蒸留時間:30分
【0036】
図1に示したマイクロ波減圧蒸留装置を用いて蒸留処理することにより、残渣(固形分)と蒸留物を得た。
【0037】
得られた残渣を蒸留槽内から取り出し、所定量を分取して水を用いて抽出処理を行い水抽出液を調製した。また、残渣から所定量を分取して熱水を用いて抽出処理を行い熱水抽出液を調製した。
【0038】
なお、調製した水抽出液、熱水抽出液が、本実施形態にいうオリーブから得られた抽出物に相当する。
【0039】
(水抽出液の調製)
水抽出液を調製は、以下のとおりとした。
1.オリーブ枝葉1gに超純水50mlを加え、4℃で24時間静置した。
2.遠心分離(8000rpm、4℃、30分間)して上清を回収した。
3.再度、遠心分離(8000rpm、4℃、15分間)して回収した上清を水抽出液とした。
【0040】
(熱水抽出液の調製)
1.沸騰した超純水50mlにオリーブ枝葉1gを加え、100℃で20分間静置した。
2.室温にまで冷却した後、遠心分離(8000rpm、4℃、30分間)して上清を回収した。
3.再度、遠心分離(8000rpm、4℃、15分間)して回収した上清を熱水抽出液とした。
【0041】
(菌糸体処理)
調製した水抽出液および熱水抽出液に対して以下のとおり菌糸体処理を行った。
菌糸体のキノコの種類としてエノキタケを用いた。
キノコの種菌を各抽出液に添加して、24時間、25℃、暗所に静置して菌糸体処理液を調製した。
【0042】
なお、この菌糸体処理液が、本実施形態にいうオリーブから得られた抽出物を菌糸体で処理して得られた菌糸体処理物に相当する。
【0043】
この調製した菌糸体処理液から固形物を濾別して、抗酸化活性およびα-グルコシダーゼ阻害活性を測定するための測定用試料を調製した。
【0044】
(抗酸化活性の分析)
測定用試料を用いて抗酸化活性を分析した。
抗酸化活性は、スーパーオキシドラジカル消去活性と、DPPHラジカル消去活性の2通りで評価した。
【0045】
(スーパーオキシドラジカル消去活性)
市販のキット(ATTO社、AB-2970 CLETA-S キット)を用いて発光法により測定した。
発光量は、ATTO社の発光測定装置 AB-2270 ルミネッセンサーを用いて測定した。
【0046】
(DPPHラジカル消去活性)
180μLのDPPH溶液(DPPH 1.0mg、100%エタノール5.0ml、0.1M MESバッファー(pH6.0)5.0ml)に 試料あるいは抽出溶媒(ネガティブコントロール)を20μl添加して、室温・遮光下で30分間反応させた。
反応後は、マイクロプレートリーダー(コロナ電子工業社製、SH-1200 Lab)を用いて、517nmの吸光度を測定した。
【0047】
(α-グルコシダーゼ阻害活性の分析)
測定用試料を用いてα-グルコシダーゼ阻害活性を分析した。
α-グルコシダーゼ阻害活性は、α-グルコシダーゼ(シグマ-アルドリッチ社製、型番;I1630)で評価した。
測定用試料から所定量を分取して、α-グルコシダーゼと混合した後、10分間室温で静置した。その後、調整した混合液にp-ニトロフェニルα-D-グルコピラノシド水溶液を添加して、37℃で30分間、攪拌しながら反応させた後、Tris水溶液を加え、マイクロプレートリーダー(コロナ電子工業社製、SH-1200 Lab)を用いて、400nmの吸光度を測定した。
【0048】
α-グルコシダーゼ阻害活性は、α-グルコシダーゼ阻害活性率(%)として示した。図中では、単に「阻害率(%)」として示した。
α-グルコシダーゼ阻害活性率(%)は、各分析値からブランク値を減算した値を、ブランク値で除することにより求めた。
【0049】
図2に抗酸化活性の評価結果を示す。
図2(A)のスーパーオキシドラジカル消去活性においては、水抽出液(図中のオリーブ枝葉水抽出系)で、処理前(左側グラフ)が15.7%であり、処理後(右側グラフ)が44.5%であった。また、熱水抽出液(図中のオリーブ枝葉熱水抽出系)では、処理前(左側グラフ)が30.8%であり、処理後(右側グラフ)が58.8%であった。
図2(B)のDPPHラジカル消去活性においては、水抽出液(図中のオリーブ枝葉水抽出系)で、処理前(左側グラフ)が23.1%であり、処理後(右側グラフ)が35.1%であった。また、熱水抽出液(図中のオリーブ枝葉熱水抽出系)では、処理前(左側グラフ)が30.8%であり、処理後(右側グラフ)が50.8%であった。
図2に示すように、菌糸体を処理する前(水抽出液または熱水抽出液)と後(菌糸体処理液)では、菌糸体処理後の値が、処理前と比較して、約2倍活性が向上した。また、水抽出液よりも、熱水抽出液のほうが活性の高い様子が確認された。
【0050】
図3にα-グルコシダーゼ阻害活性(α-グルコシダーゼ阻害活性率(%))の評価結果を示す。
図3のα-グルコシダーゼ阻害活性においては、水抽出液(図中のオリーブ枝葉水抽出系)で、処理前(左側グラフ)が57.1%であり、処理後(右側グラフ)が68.2%であった。また、熱水抽出液(図中のオリーブ枝葉熱水抽出系)では、処理前(左側グラフ)が48.6%であり、処理後(右側グラフ)が90.5%であった。
図3に示すように、抗酸化活性の評価と同様に、菌糸体の処理する前後において、菌糸体処理後の値が、処理前と比べて活性の向上が確認された。また、こちらも熱水抽出液のほうが、より効果が高い様子が確認された。
【0051】
(菌糸体処理液のHPLC分析)
菌糸体処理液(熱水抽出液を用いたもの)をHPLC(島津製作所製)を用いて分析した。
実験では、エノキタケの菌糸体処理液を使用した。
【0052】
測定条件は、以下のとおりとした。
使用カラム:Shim-pack CLC-ODS 250×4.6mm(島津製作所製)
移動相:A液(2%酢酸)、B液(100%メタノール)
流速:0.5ml/min
測定波長:280nm
【0053】
測定結果を
図4に示す。
処理前の、オリーブ葉に含まれていることが知られているオレウロペインが、菌糸体処理後の菌糸体処理液には検出されない結果となった。また、菌糸体処理後の菌糸体処理液には、処理前には見られなかったピークが確認された。
このことは、オレウロペインが菌糸体の酵素により変性し、オレウロペインとは異なる成分が産出されたことが示唆される。この異なる成分が、オレウロペイン以上の各種保健機能を活性化させた可能性が考えられる。
なお、菌糸体を処理する前(水抽出液または熱水抽出液)と後(菌糸体処理液)では、液の色が変化した。菌糸体を処理することにより、液体が褐色化した。褐色化は、ポリフェノール類が重合したことを示し、HPLCにより検出される物質であるかどうかは不明であるが、機能性向上に寄与した可能性も考えられる。
本発明の抗酸化活性剤、α-グルコシダーゼ阻害活性剤は、癌や生活習慣病、感染症、認知症などの予防に適している。また、本発明の抗酸化活性剤の製造方法およびα-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造方法は、それぞれ本発明の抗酸化活性剤、α-グルコシダーゼ阻害活性剤の製造に適している。