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特開2022-124925フィラーモデルの作成方法及び高分子材料のシミュレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124925
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】フィラーモデルの作成方法及び高分子材料のシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20120101AFI20220819BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
G06Q10/04
G01N33/44
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022849
(22)【出願日】2021-02-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】馬場 昭典
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フィラーのミクロ構造に近似するフィラーモデルの作成方法を提供する。
【解決手段】コンピュータに、凝集体の平均一次粒子数である第1パラメータを入力する工程S1と、フィラーモデルを作成するための空間及び空間に対するフィラーモデルの体積分率を入力する工程S2と、一次粒子をモデリングした一次粒子モデルを定義する工程S3とを含む。コンピュータが、複数の一次粒子モデルを結合して、複数の凝集体モデルを作成する工程S4と、体積分率を満たすように、複数の凝集体モデルを空間に配置して、フィラーモデルを作成する工程S5と、を実行する。複数の凝集体モデルを作成する工程S4は、第1パラメータを満たすように、フィラーモデルを構成する凝集体モデルの総数及び各凝集体モデルの一次粒子数を決定する工程と、決定した総数及び一次粒子数に基づいて、各凝集体モデルを構成する複数の一次粒子モデルを結合する工程と、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラーの数値解析用のフィラーモデルを作成するための方法であって、
前記フィラーは、一次粒子が結合して形成される凝集体が、少なくとも1つ含まれるものであり、
前記方法は、
コンピュータに、前記凝集体の平均一次粒子数である第1パラメータを入力する工程と、
前記コンピュータに、前記フィラーモデルを作成するための空間、及び、前記空間に対する前記フィラーモデルの体積分率を入力する工程と、
前記コンピュータに、前記一次粒子をモデリングした一次粒子モデルを定義する工程とを含み、
前記コンピュータが、
複数の前記一次粒子モデルを結合して、複数の凝集体モデルを作成する工程と、
前記体積分率を満たすように、前記複数の凝集体モデルを前記空間に配置して、前記フィラーモデルを作成する工程とを実行し、
前記複数の凝集体モデルを作成する工程は、
前記第1パラメータを満たすように、前記フィラーモデルを構成する凝集体モデルの総数、及び、各凝集体モデルの一次粒子数を決定する工程と、
決定された前記総数及び前記一次粒子数に基づいて、前記各凝集体モデルを構成する複数の前記一次粒子モデルを結合する工程とを含む、
フィラーモデルの作成方法。
【請求項2】
前記コンピュータに、前記凝集体の最小一次粒子数である第2パラメータを入力する工程をさらに含み、
前記複数の凝集体モデルを作成する工程は、前記第2パラメータよりも一次粒子数が小さい凝集体モデルが生じないように制限する工程をさらに含む、請求項1記載のフィラーモデルの作成方法。
【請求項3】
前記凝集体の総数、及び、各凝集体の一次粒子数を決定する工程は、前記第1パラメータに基づいて、前記凝集体の一次粒子数の出現頻度分布に従う乱数の組を生成する工程を含み、
前記出現頻度分布は、前記一次粒子数が指数関数的に減衰する関数として定義される、請求項1又は2に記載のフィラーモデルの作成方法。
【請求項4】
前記一次粒子モデルを結合する工程は、前記凝集体モデルの初期状態として、全ての前記一次粒子モデルを互いに結合させずに、前記一次粒子モデルの1つ1つがそれぞれ独立した1つの凝集体モデルとする工程と、
前記凝集体モデルの一次粒子数が、前記決定された一次粒子数と等しくなるまで、前記凝集体モデルをランダムに2つ選択し、それらを結合した1つの凝集体モデルとする操作を繰り返す工程とを含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフィラーモデルの作成方法。
【請求項5】
前記フィラーモデルを作成する工程は、前記複数の凝集体モデルを前記空間に配置する際に、一次粒子数の大きい凝集体モデルから順に、前記凝集体モデル同士が互いに重ならないようにランダムに配置する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のフィラーモデルの作成方法。
【請求項6】
前記第1パラメータを入力する工程は、前記コンピュータに、前記フィラーを構成する前記凝集体のサイズ分布を入力する工程と、
入力された前記サイズ分布に、前記フィラーモデルを構成する前記複数の凝集体モデルのサイズ分布が近づくように、前記第1パラメータを決定する工程とを含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のフィラーモデルの作成方法。
【請求項7】
コンピュータに、高分子材料の一部に対応する仮想空間であるセルを入力する工程と、
前記コンピュータに、前記高分子材料の分子鎖をモデル化した分子鎖モデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のフィラーモデルの作成方法を実施して、前記フィラーモデルを取得する工程と、
前記セルの内部に、前記分子鎖モデルと、前記フィラーモデルとを配置する工程と、
前記分子鎖モデルと前記フィラーモデルとを対象に、分子動力学計算を行う工程とを含む、
高分子材料のシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーモデルを作成するための方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラー(充填剤)と、高分子鎖などの高分子材料とからなる複合材料の性質を、コンピュータを用いて評価するために、様々なフィラーモデルの作成方法が提案されている。
【0003】
下記特許文献1の方法は、フィラーの一次粒子を球状の領域で表し、例えば、実際のフィラーの三次元構造に基づいて、フィラーの一次粒子を球状の領域で表し、その領域を粗視化粒子で満たすことで、粗視化分子動力学計算用のフィラーモデルを作成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6353290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の方法では、実際のフィラーのマクロな分散状態を再現できる。しかしながら、実験的に得られるフィラーの三次元構造の空間解像度には制限がある。このため、例えば、一次粒子が化学的に結合した二次凝集体(以後、単に「凝集体」ということがある。)の立体構造(即ち、凝集体のフラクタル次元や、凝集体サイズ分布など)などの実際のフィラーのミクロ構造に、フィラーモデルのミクロ構造を近似させることについては、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、フィラーのミクロ構造に近似するフィラーモデルの作成方法等を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フィラーの数値解析用のフィラーモデルを作成するための方法であって、前記フィラーは、一次粒子が結合して形成される凝集体が、少なくとも1つ含まれるものであり、前記方法は、コンピュータに、前記凝集体の平均一次粒子数である第1パラメータを入力する工程と、前記コンピュータに、前記フィラーモデルを作成するための空間、及び、前記空間に対する前記フィラーモデルの体積分率を入力する工程と、前記コンピュータに、前記一次粒子をモデリングした一次粒子モデルを定義する工程とを含み、前記コンピュータが、複数の前記一次粒子モデルを結合して、複数の凝集体モデルを作成する工程と、前記体積分率を満たすように、前記複数の凝集体モデルを前記空間に配置して、前記フィラーモデルを作成する工程とを実行し、前記複数の凝集体モデルを作成する工程は、前記第1パラメータを満たすように、前記フィラーモデルを構成する凝集体モデルの総数、及び、各凝集体モデルの一次粒子数を決定する工程と、決定された前記総数及び前記一次粒子数に基づいて、前記各凝集体モデルを構成する複数の前記一次粒子モデルを結合する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る前記フィラーモデルの作成方法において、前記コンピュータに、前記凝集体の最小一次粒子数である第2パラメータを入力する工程をさらに含み、前記複数の凝集体モデルを作成する工程は、前記第2パラメータよりも一次粒子数が小さい凝集体モデルが生じないように制限する工程をさらに含んでもよい。
【0009】
本発明に係る前記フィラーモデルの作成方法において、前記凝集体の総数、及び、各凝集体の一次粒子数を決定する工程は、前記第1パラメータに基づいて、前記凝集体の一次粒子数の出現頻度分布に従う乱数の組を生成する工程を含み、前記出現頻度分布は、前記一次粒子数が指数関数的に減衰する関数として定義されてもよい。
【0010】
本発明に係る前記フィラーモデルの作成方法において、前記一次粒子モデルを結合する工程は、前記凝集体モデルの初期状態として、全ての前記一次粒子モデルを互いに結合させずに、前記一次粒子モデルの1つ1つがそれぞれ独立した1つの凝集体モデルとする工程と、前記凝集体モデルの一次粒子数が、前記決定された一次粒子数と等しくなるまで、前記凝集体モデルをランダムに2つ選択し、それらを結合した1つの凝集体モデルとする操作を繰り返す工程とを含んでもよい。
【0011】
本発明に係る前記フィラーモデルの作成方法において、前記フィラーモデルを作成する工程は、前記複数の凝集体モデルを前記空間に配置する際に、一次粒子数の大きい凝集体モデルから順に、前記凝集体モデル同士が互いに重ならないようにランダムに配置してもよい。
【0012】
本発明に係る前記フィラーモデルの作成方法において、前記第1パラメータを入力する工程は、前記コンピュータに、前記フィラーを構成する前記凝集体のサイズ分布を入力する工程と、入力された前記サイズ分布に、前記フィラーモデルを構成する前記複数の凝集体モデルのサイズ分布が近づくように、前記第1パラメータを決定する工程とを含んでもよい。
【0013】
本発明は、コンピュータに、高分子材料の一部に対応する仮想空間であるセルを入力する工程と、前記コンピュータに、前記高分子材料の分子鎖をモデル化した分子鎖モデルを入力する工程と、前記コンピュータが、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のフィラーモデルの作成方法を実施して、前記フィラーモデルを取得する工程と、前記セルの内部に、前記分子鎖モデルと、前記フィラーモデルとを配置する工程と、前記分子鎖モデルと前記フィラーモデルとを対象に、分子動力学計算を行う工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフィラーモデルの作成方法は、前記複数の凝集体モデルを作成する工程において、前記第1パラメータを満たすように、前記フィラーモデルを構成する凝集体モデルの総数、及び、各凝集体モデルの一次粒子数を決定する工程と、決定された前記総数及び前記一次粒子数に基づいて、前記各凝集体モデルを構成する複数の前記一次粒子モデルを結合する工程とを含んでいる。このため、本発明は、前記第1パラメータを指定することにより、その第1パラメータに対応した特定の凝集体サイズ分布を持つ前記凝集体モデルの立体構造を、選択的に作成することができる。
【0015】
さらに、本発明の作成方法では、実際のフィラーの凝集体サイズ分布を近似するような第1パラメータが指定されることにより、凝集体モデルの立体構造を、実際のフィラーに近づくように作成することができる。したがって、本発明によれば、前記第1パラメータに対応した凝集体サイズ分布となるように前記凝集体モデルの立体構造を制御すること、及び、前記フィラーモデルのミクロ構造を、前記フィラーのミクロ構造に近似させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】コンピュータの一例を示す斜視図である。
図2】(a)は、一次粒子の一例を示す概念図である。(b)は、凝集体の一例を示す概念図である。
図3】フィラーモデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4】空間の一例を示す概念図である。
図5】凝集体モデル作成工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図6】第1決定工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】乱数の組の一例を示す図である。
図8】(a)~(d)は、一次粒子モデルを結合する手順を説明する概念図である。
図9】凝集体立体構造決定工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図10】フィラーモデル作成工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図11】フィラーモデルの一例を示す概念図である。
図12】本発明の他の実施形態のパラメータ入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図13】第1分布P1(S)の一例を示すグラフである。
図14】第2分布P2(S,n)の一例を示すグラフである。
図15】関数pn(n,m)の一例を示すグラフである。
図16】決定された第1パラメータ及び第2パラメータに基づいて計算された第1仮分布P(S)及び第1分布P1(S)の一例を示すグラフである。
図17】ポリブタジエンの構造式である。
図18】高分子材料のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図19】高分子材料モデルの一部分を示す概念図である。
図20】粗視化モデル作成工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図21】実施例及び比較例の凝集体サイズの頻度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のフィラーモデルの作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある。)では、フィラーの数値解析用のモデル(フィラーモデル)が作成される。この作成方法で作成されたフィラーモデルは、後述の高分子材料のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)に用いられる。本実施形態において、作成方法及びシミュレーション方法には、コンピュータが用いられる。
【0018】
図1は、コンピュータ1の一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成される。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられる。なお、記憶装置には、本実施形態の作成方法及びシミュレーション方法を実行するための処理手順(プログラム)が、予め記憶される。
【0019】
フィラーは、例えば、シリカ、カーボンブラック及びアルミナ等である。本実施形態のフィラーは、シリカである場合が例示される。フィラーは、一次粒子の凝集体(アグリゲート)が集合した高次構造(アグロメレート)として形成される。図2(a)は、一次粒子3の一例を示す概念図である。図2(b)は、凝集体4の一例を示す概念図である。
【0020】
図2(a)に示されるように、本実施形態の一次粒子3は、近似的に、球形の固体として構成されている。フィラーが、例えば、タイヤのトレッドゴムに用いられるシリカである場合、一次粒子3は、粒径(一次粒子径)D1が10~40nm程度の球状の粒子である。図2(b)に示されるような凝集体4の立体構造は、フィラーの製造過程で形成される。シリカの製造方法には、例えば、焼結法や、沈降法などが用いられる。これらの方法では、同程度の大きさを有する多数の一次粒子が、ガスや溶液の中で、拡散、凝集及び結合することにより、フロック状の凝集体4が形成される。これらの凝集体4が互いに集合することで、フィラー(図示省略)が形成される。なお、凝集が十分に進まなかった極端に小さい凝集体(例えば、10nm未満の凝集体)4や一次粒子3は、フィラーの製造時に除去される。製造後のフィラーは、高分子材料等と混合されて、これらの複合体の内部で分散した状態となる。本実施形態の作成方法では、凝集体が高次構造を持たずに、均一に分散している場合が例示される。
【0021】
凝集体4の凝集体サイズ(直径)は、例えば、慣性半径の2倍で定義され、実験的には、例えば、透過電子顕微鏡や、動的光散乱法に基づいて測定される。本実施形態の凝集体4の凝集体サイズ(直径)は、例えば、10~1000nm程度である。
【0022】
図3は、フィラーモデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の作成方法では、先ず、コンピュータ1に、第1パラメータが入力される(パラメータ入力工程S1)。本実施形態の第1パラメータmは、凝集体4の平均一次粒子数である。この平均一次粒子数(第1パラメータm)は、1以上の実数として適宜定義されうる。例えば、論文1(D. Boldridge著、「Aerosol Science and Technology」, vol.44, No.182、2010年 )に基づいて、多数の凝集体に対する透過電子顕微鏡の観察結果から、凝集体4の一次粒子数の分布を推定し、その分布の平均値を第1パラメータmに設定してもよい。第1パラメータは、コンピュータ1に記憶される。
【0023】
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1に、フィラーモデルを作成するための空間6、及び、空間6に対するフィラーモデルの体積分率が入力される(工程S2)。図4は、空間6の一例を示す概念図である。
【0024】
空間6は、適宜定義されうる。空間6は、例えば、周期境界条件が定義されていない(即ち、開かれた)空間から抽出された任意の形状を有する部分領域、周期境界条件が定義された領域全体、又は、周期境界条件が定義された領域から抽出された任意の形状(例えば、直方体や球形など)を有する部分領域であってもよい。本実施形態の空間6は、互いに向き合う三対の平面7、7を有する立方体として定義されている。各平面7には、周期境界条件が定義されている。したがって、空間6は、一方の平面7と、反対側の平面7とが連続している(繋がっている)ものとして取り扱われる。
【0025】
空間6の一辺の長さLaは、適宜設定することができる。本実施形態の長さLaは、後述の凝集体モデル8(図8(a)~(d)に示す)の拡がりを示す量である慣性半径(図示省略)の最大値の2倍以上が望ましい。これにより、空間6は、後述の凝集体立体構造決定工程S42(図5に示す)において、周期境界条件のために周期的に並ぶ自分自身(イメージ)との衝突の発生を防いで、それぞれの凝集体モデル8を適切に配置することができる。空間6は、コンピュータ1に記憶される。
【0026】
空間6に対するフィラーモデルの体積分率φは、0より大きい1以下の実数として適宜求められる。本実施形態の体積分率φは、例えば、フィラーの添加量をx phr(xは、0より大きい実数を示す。「phr」は、高分子の重量を100とした時の重量を表す。)としたときに、高分子鎖の密度ρ及びフィラーの密度ρfを用いて、数式「φ=1/(1+100ρf/(xρ))」によって求められる。例えば、フィラーの添加量xが50phr、高分子鎖の密度ρが0.85g/cm3、フィラーの密度ρfが2.2g/cm3である場合、体積分率φは、0.162となる。体積分率φは、コンピュータ1に記憶される。
【0027】
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1に、一次粒子3(図2(a)に示す)をモデリングした一次粒子モデル5(図8(a)に示す)が定義される(工程S3)。一次粒子モデル5は、後述の分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、一次粒子モデル5には、一次粒子3に基づいて、質量、体積、粒径(直径)D1、電荷又は初期座標などのパラメータが定義される。なお、本実施形態の工程S3では、一次粒子モデル5のパラメータのみが定義されており、空間6(図4に示す)に一次粒子モデル5が配置されていない。一次粒子モデル5は、コンピュータ1に記憶される。
【0028】
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1が、複数の一次粒子モデル5を結合して、複数の凝集体モデル8を作成する(凝集体モデル作成工程S4)。本実施形態では、一次粒子モデル5(図8(a)に示す)を複数結合した凝集体モデル8が、1つ以上作成される。図5は、凝集体モデル作成工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0029】
本実施形態の凝集体モデル作成工程S4では、先ず、第1パラメータを満たすように、フィラーモデルを構成する凝集体モデル8の総数、及び、各凝集体モデル8の一次粒子数が決定される(第1決定工程S41)。図6は、第1決定工程S41の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0030】
本実施形態の第1決定工程S41では、先ず、空間6(図4に示す)に配置される一次粒子モデル5(図8(a)に示す)の総数ntotalが決定される(工程S51)。一次粒子モデル5の総数ntotalは、適宜決定されうる。本実施形態では、空間6の体積とフィラーの体積充填率とを乗じた値を、一次粒子モデル5の体積で除することで、一次粒子モデル5の総数ntotalが決定される。なお、計算された一次粒子モデル5の総数ntotalが、整数ではない場合には、例えば、四捨五入等で丸められてもよい。また、一次粒子モデル5の総数ntotalは、凝集体モデル8を構成する一次粒子モデル5の重なりを考慮して、適宜補正されてもよい。一次粒子モデル5の総数ntotalは、コンピュータ1に記憶される。
【0031】
次に、本実施形態の第1決定工程S41では、第1パラメータ(平均一次粒子数)に基づいて、凝集体4の一次粒子数nの出現頻度分布に従う乱数の組が生成される(工程S52)。図7は、乱数の組21の一例を示す図である。
【0032】
図7に示されるように、乱数の組21は、1つ以上の乱数値22で構成されている。本実施形態の工程S52では、乱数の組21を構成する乱数値22の合計が、工程S51で決定された一次粒子モデル5の総数ntotal以上となるように、乱数の組21が生成される。
【0033】
本実施形態の工程S52では、先ず、凝集体4の一次粒子数nと、平均一次粒子数である第1パラメータm(mは1以上の実数)との関数pn(n,m)が定義される。なお、一次粒子数n及び第1パラメータmとともに、最小一次粒子数である第2パラメータkが用いられてもよい。この第2パラメータkは、1以上の整数として適宜設定されうる。例えば、論文1に基づいて、凝集体4の一次粒子数の分布を推定し、その分布の一次粒子数の最小値が、第2パラメータkとして設定されてもよい。このような第2パラメータkが用いられる場合には、関数pn(n,m,k)が定義される。これらの関数pn(n,m)及び関数pn(n,m,k)は、凝集体4の一次粒子数nを確率変数とする確率質量関数である。すなわち、これらの関数は、乱数値がnとなる確率を表している。
【0034】
関数pn(n,m)及び関数pn(n,m,k)は、適宜定義されうるが、規格化される必要がある。すなわち、関数pn(n,m)は、どのような一次粒子数nが代入されたとしても負の値とはならず、かつ、一次粒子数nが取りうる全ての値についての関数pn(n,m)の和(確率質量の和)が1となる必要がある。なお、関数pn(n,m,k)は、関数pn(n,m)と同様である。
【0035】
関数pn(n,m)及び関数pn(n,m,k)は、期待値(凝集体モデル8の平均一次粒子数)が、第1パラメータm(凝集体4の平均一次粒子数)に等しくなる、又は、近似するように定義されることが望ましい。
【0036】
さらに、関数pn(n,m)及び関数pn(n,m,k)は、実際のフィラーの凝集体4(図2(b)に示す)の粒子数分布に近似するように定義されるのが望ましい。フィラーの凝集体4の粒子数分布は、例えば、個々の凝集体4について、3DTEM観察が多数行われることによって取得されうる。なお、透過電子顕微鏡による2次元観察結果から、経験則や仮定に基づいて、フィラーの凝集体4の粒子数分布が取得されてもよい。
【0037】
本実施形態では、上記の取得方法に比べて、フィラーの凝集体4の粒子数分布をより簡便に取得するために、例えば、一次粒子数nが指数関数的に減衰する関数pn(n,m)={(m-1)/m}n-1/mが用いられる。このような関数pn(n,m)は、DLCA(Diffusion-limited cluster aggregation)モデルや、RLCA(Reaction limited aggregation)モデルを用いたシミュレーションに基づき、理論的に推定されたものである。ここで、一次粒子数nは1以上の整数である。本実施形態の関数pn(n,m)は、規格化されており、その期待値は、第1パラメータ(凝集体4の平均一次粒子数)mに等しくなる。
【0038】
関数pn(n,m,k)は、一次粒子数nが、第2パラメータ(最小一次粒子数)k未満の凝集体モデル8が削除されるように定義される。すなわち、関数pn(n,m,k)は、一次粒子数nが第2パラメータk未満となる確率がゼロとなるように変更され、一次粒子数nが第2パラメータk以上となる場合について規格化される。本実施形態では、一次粒子数nが第2パラメータk未満の場合に、関数pn(n,m,k)=0が用いられる。一方、一次粒子数nが第2パラメータk以上の場合には、関数pn(n,m,k)={(m-1)/m}n-k/mが用いられる。これにより、本実施形態の凝集体モデル作成工程S4では、第2パラメータkよりも一次粒子数が小さい凝集体モデル8が生じないように制限することができる。
【0039】
次に、本実施形態の工程S52では、第1パラメータ(平均一次粒子数)m及び/又は2パラメータ(最小一次粒子数)kに基づいて、凝集体4の一次粒子数nの出現頻度分布に従う乱数の組21(図7に示す)が生成される。上述したように、本実施形態では、関数pn(n,m)又は関数pn(n,m,k)に従う乱数の組21を構成する乱数値22を、その合計が一次粒子モデル5の総数ntotal以上となるまで次々に生成することで、乱数の組21が生成される。
【0040】
上述したように、関数pn(n,m)及び関数pn(n,m,k)は、確率質量関数である。このため、ある確率質量関数に従う乱数の組21を生成するには、例えば、乱数値として生成できる一次粒子数nの範囲を、十分に大きい凝集体4(図2(b)に示す)の一次粒子数nを上限として打ち切り、その一次粒子数1~nまでの確率質量の和が1になるように規格化された確率質量関数(pn(n,m)又は関数pn(n,m,k))について、Walker法( Walker's Alias Method )を用いることで実現できる。乱数値22の上限となる一次粒子数nの値は、好ましくは、作成するフィラーモデルに含まれる凝集体4の最大一次粒子数の3倍以上である。乱数の組21は、コンピュータ1に記憶される。
【0041】
次に、本実施形態の第1決定工程S41では、工程S52で生成した乱数の組21を構成する乱数値22の合計が、工程S51で決定された一次粒子モデル5の総数ntotalに等しいか否かが判断される(工程S53)。
【0042】
工程S53において、乱数値22の合計が、一次粒子モデル5の総数ntotalに等しいと判断された場合(工程S53で、「Y」)、乱数の組21での乱数値22の個数(乱数を発生させた回数)が、凝集体モデル8の総数として特定される(工程S54)。さらに、乱数の組21を構成する各乱数値22が、各凝集体モデル8の一次粒子数として特定される(工程S55)。すなわち、乱数の組21を構成する複数の乱数値22のうち、任意に選択されたi番目(インデックス)の乱数値22が、i番目の凝集体モデル8の一次粒子数として設定される。決定した凝集体モデル8の総数、及び、各凝集体モデル8の一次粒子数は、コンピュータ1に記憶される。
【0043】
一方、工程S53において、乱数値22の合計が、一次粒子モデル5の総数ntotalに等しくないと判断された場合(工程S53で、「N」)、工程S52で生成した乱数の組21を破棄して(工程S56)、工程S52~工程S53が再度実施される。これにより、第1決定工程S41では、第1パラメータ(凝集体の平均一次粒子数)を満たす確率分布関数に従ってランダムに、かつ、全ての凝集体の一次粒子数の和が、一次粒子モデル5の総数ntotalに等しくなるように、凝集体モデル8の組を確実に求めることができる。
【0044】
次に、図5に示されるように、本実施形態の凝集体モデル作成工程S4では、工程S54及び工程S55で決定された凝集体モデル8の総数、及び、各凝集体モデル8の一次粒子数に基づいて、各凝集体モデル8を構成する複数の一次粒子モデル5(図8(a)に示す)が結合される(凝集体立体構造決定工程S42)。本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、凝集体モデル8の立体構造が、凝集体モデル8の内部の各一次粒子モデル5の配置として表される。そして、この凝集体モデル8の立体構造が、実際の凝集体4(図2(b)に示す)の立体構造に統計的に近似するように、複数の一次粒子モデル5が結合される。
【0045】
複数の一次粒子モデル5を結合する手順は、適宜採用されうる。例えば、実際の凝集体の製造工程を再現するように、複数の一次粒子モデル5を結合することが考えられる。このような手順では、先ず、多数の一次粒子モデル5や、周囲のガス及び溶媒分子などが配置された仮想空間(図示省略)において、各一次粒子モデル5を拡散及び凝集させて、多数の凝集体モデル8を生成するシミュレーションが行われる。そして、シミュレーションで作成された多数の凝集体モデル8の中から、第1決定工程S41で決定された凝集体モデル8の一次粒子モデル5の総数ntotal、及び、各凝集体モデル8の一次粒子数と同じになるように、凝集体モデル8の組が選択される。
【0046】
しかしながら、上記のような方法では、仮想空間に配置された多数の一次粒子モデル5や凝集体モデル8を、それぞれ拡散して互いに凝集させるために、長時間に亘ってシミュレーションする必要がある。
【0047】
本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、シリカなどの凝集体の製造工程が、DLCA(Diffusion-limited cluster aggregation)モデルで近似できることに着目して、複数の一次粒子モデル5が結合される(具体的な手順については後述する)。これにより、本実施形態では、上述のような方法に比べて、より少ない計算時間で、実際の凝集体のフラクタル次元とほぼ等しい(すなわち、フラクタル次元が約1.8となる)凝集体構造(凝集体モデル8)が作成されうる。
【0048】
図8(a)~(d)は、一次粒子モデル5を結合する手順を説明する概念図である。本実施形態では、凝集体モデル8と一次粒子モデル5との結合だけではなく、凝集体モデル8、8どうしの結合が許容される。図8(a)~(c)に示されるように、凝集体モデル8と一次粒子モデル5、及び、凝集体モデル8、8同士の多段階の階層的な結合を経て、図8(d)に示されるように、フロック状の凝集体モデル8の立体構造が生成される。
【0049】
なお、凝集体のフラクタル次元が約1.8でない場合については、本実施形態のDLCAモデルに代えて、例えば、DLA(Diffusion-limited aggregation)モデルや、RLCA(Reaction limited aggregation)モデルが用いられても良い。DLAモデルでは、フラクタル次元が約2.5の凝集体が作成されることが知られている。一方、RLCAモデルでは、フラクタル次元が約2.1の凝集体が作成されることが知られている。これらのモデルが選択されて、選択されたモデルに対応するフラクタル次元の凝集体構造が作成されてもよい。
【0050】
凝集体モデル8は、物理的なモデルとしてではなく、例えば、論文2(A. V. Filippovら著, Journal of Colloid and Interface Science、vol.229、isuue 1, p.261-273、2000年)に記載の手順に基づいて作成されてもよい。この手順では、例えば、フラクタル次元を1.0~2.5の範囲で選択し、一次粒子モデル5を人為的な規則で結合させることによって、凝集体モデル8が作成される。
【0051】
本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、DLCAモデルに基づき、フラクタル次元が約1.8となるように、一次粒子モデル5を階層的に結合して、凝集体モデル8が作成される。図9は、凝集体立体構造決定工程S42の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0052】
本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、先ず、工程S52で生成された乱数の組21(図7に示す)において、任意の乱数値22が一つ選択される(工程S61)。上述したように、乱数値22は、作成されるべき全ての凝集体モデル8から選択された凝集体モデル8の一次粒子数に等しい。また、工程S52で生成された乱数の組21を構成する乱数値22の個数は、作成されるべき凝集体モデル8の総数に等しい。
【0053】
乱数値22は、適宜選択されうる。本実施形態の工程S61では、乱数の組21において、乱数値22の生成順(例えば、図7に示した「インデックス」の順)に、乱数値22が選択される。選択された乱数値22は、コンピュータ1に記憶される。
【0054】
本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、以降の工程S62~S68及びS70において、工程S61で選択された乱数値22(即ち、凝集体モデル8の一次粒子数n)に基づいて、その一次粒子数nの凝集体モデル8の立体構造がランダムに決定される。
【0055】
次に、本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、図8(a)に示されるように、1つの一次粒子モデル5で構成される初期の凝集体モデル8が、乱数値22(即ち、一次粒子数n)と等しい個数分作成される(工程S62)。このように、本実施形態の工程S62では、凝集体モデル8の初期状態として、全ての一次粒子モデル5を互いに結合させずに、一次粒子モデル5の1つ1つがそれぞれ独立した1つの凝集体モデル8として定義される。これらの凝集体モデル8は、独立した仮想空間(図示省略)にそれぞれ配置される。これにより、凝集体モデル8(一次粒子モデル5)が互いに重ならないことが保証される。
【0056】
本実施形態の仮想空間(図示省略)は、境界がなく開かれている(すなわち、周期境界条件が設定されておらず、また、どの方向にも無限に広がっている)。なお、仮想空間は、各辺の長さが、各凝集体モデル8が結合されて作成されうる凝集体モデル8のうち、最大の大きさを有する凝集体モデル8を取り囲むことが可能な外接球の直径よりも、十分に大きな有限の値に設定されてもよい。このような仮想空間が用いられる場合には、周期境界条件が定義されてもよい。これらの凝集体モデル8は、コンピュータ1に記憶される。
【0057】
次に、本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、工程S62で作成された全ての凝集体モデル8のうち、2つの凝集体モデル8、8が選択される(工程S63)。本実施形態の工程S63では、2つの凝集体モデル8、8がランダムに選択される。選択された凝集体モデル8、8は、コンピュータ1に記憶される。
【0058】
次に、本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、工程S63で選択された2つの凝集体モデル8、8のうち、一方の凝集体モデル8の近傍に、他方の凝集体モデル8が仮配置される(工程S64)。図8(c)に示されるように、本実施形態の工程S64では、一方の凝集体モデル8Aに接しないように、他方の凝集体モデル8Bの位置及び向きがランダムに決定される。
【0059】
工程S64において、一方の凝集体モデル8Aは、選択された2つの凝集体モデル8、8のうち、一次粒子数nが相対的に大きい凝集体モデル8であるのが望ましい。なお、2つの凝集体モデル8、8の一次粒子数が同一の場合には、任意の凝集体モデル8が、一方の凝集体モデル8Aとして選択されうる。
【0060】
一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとの間の距離の初期値は、一方の凝集体モデル8Aの重心と、他方の凝集体モデル8Bの重心との間の距離として特定される。この初期値は、適宜設定されうる。
【0061】
本実施形態の工程S64では、先ず、一方の凝集体モデル8Aを構成する一次粒子モデル5のうち、一方の凝集体モデル8Aの重心から最も遠い一次粒子モデル5の中心と、一方の凝集体モデル8Aの重心との第1距離が求められる。次に、他方の凝集体モデル8Bを構成する一次粒子モデル5のうち、他方の凝集体モデル8Bの重心から最も遠い一次粒子モデル5の中心と、他方の凝集体モデル8Bの重心との第2距離が求められる。そして、工程S64では、一方の凝集体モデル8Aと他方の凝集体モデル8Bとの距離の初期値が、第1距離と、第2距離と、一次粒子モデル5の直径とを足した値の1倍~2倍となるように、他方の凝集体モデル8Bの仮配置が決定される。このとき、他方の凝集体モデル8Bの向きの初期値は、ランダムに選択される。また、他方の凝集体モデル8Bの一方の凝集体モデル8Aから見た方向の初期値についても、ランダムに選択される。他方の凝集体モデル8Bの仮配置は、コンピュータ1に記憶される。
【0062】
次に、本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、他方の凝集体モデル8Bがランダムに移動される(工程S65)。他方の凝集体モデル8Bの移動距離は、適宜設定されうる。本実施形態の移動距離は、図2(a)に示した一次粒子モデル5の粒径(一次粒子径)D1の0.1倍~1.0倍に設定されている。また、他方の凝集体モデル8Bの移動方向については、ランダムに選択されるのが望ましい。一方、他方の凝集体モデル8Bの向きは、固定されていてもよいし、ランダムに微小回転されてもよい。移動後の他方の凝集体モデル8Bは、コンピュータ1に記憶される。
【0063】
次に、本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとが接触したか否かが判断される(工程S66)。本実施形態では、一方の凝集体モデル8Aを構成する各一次粒子モデル5について、他方の凝集体モデル8Bを構成する各一次粒子モデル5との中心間の距離のいずれかが、一次粒子モデル5の粒径D1よりも小さい場合に、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとが接触していると判断される。
【0064】
工程S66において、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとが接触していると判断された場合(工程S66で、「Y」)、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとを結合する工程S67が実施される。また、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとが接触していないと判断された場合(工程S66で、「N」)、次の工程S70が実施される。
【0065】
本実施形態の工程S70では、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとの距離が、必要以上に離間しているか否かが判断される。「必要以上に離間している」とは、一方の凝集体モデル8Aの重心と、他方の凝集体モデル8Bの重心との間の距離が、予め定められた閾値以上であることを意味している。閾値については、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとが、必要以上に離間しているかを判断できれば、適宜設定されうる。本実施形態の閾値は、上記の距離の初期値の1倍~2倍に設定されている。
【0066】
工程S70において、一方の凝集体モデル8Aの重心と、他方の凝集体モデル8Bの重心との距離が、閾値以上であると判断された場合(工程S70で、「Y」)、一方の凝集体モデル8Aの重心と、他方の凝集体モデル8Bの重心とが、必要以上に離間していると判断される。この場合、他方の凝集体モデル8Bの配置が破棄されて、工程S64以降が実施される。
【0067】
一方、工程S70において、一方の凝集体モデル8Aの重心と、他方の凝集体モデル8Bの重心との距離が、閾値未満であると判断された場合(工程S70で、「N」)、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとが、必要以上に離間しておらず、接触する可能性が高いと判断される。この場合、他方の凝集体モデル8Bの配置が、上述の工程S65において移動された配置から、工程S65以降の工程が再度実施される。このように、本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとが必要以上に離間するのを防ぐことができるため、現実的な計算時間で、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとを確実に接触させることができる。
【0068】
本実施形態の工程S67では、一方の凝集体モデル8Aと、他方の凝集体モデル8Bとを結合して、一つの凝集体モデル8(図8(d)に示す)が作成される。本実施形態の工程S67では、他方の凝集体モデル8Bの全ての一次粒子モデル5(図8(c)に示す)を、一方の凝集体モデル8A(図8(c)に示す)に属するように変更されて、他方の凝集体モデル8Bは削除される。新たな凝集体モデル8は、コンピュータ1に記憶される。
【0069】
次に、本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、全ての凝集体モデル8(一次粒子モデル5)が結合されたか否かが判断される(工程S68)。工程S68において、「全ての凝集体モデル8が結合された」とは、工程S62で作成された一次粒子モデル5(例えば、図8(a)に示す)が結合されて、図8(d)に示した一つの凝集体モデル8(即ち、凝集体モデル8の一次粒子数が、工程S61で選択された乱数値と同じ)が作成されたことを意味している。
【0070】
工程S68において、全ての凝集体モデル8が結合されたと判断された場合(工程S68で、「Y」)、工程S61で選択された乱数値22(図7に示す)に等しい一次粒子数に設定された凝集体モデル8の立体構造が特定される。特定された凝集体モデル8の立体構造は、コンピュータ1に記憶されて、次の工程S69が実施される。
【0071】
一方、工程S68において、全ての凝集体モデル8が結合されていないと判断された場合(工程S68で、「N」)、工程S63以降が再度実施される。これにより、工程S62で作成された全ての凝集体モデル8(一次粒子モデル5)を、一つの凝集体モデル8(図8(d)に示す)として結合させることができる。したがって、凝集体立体構造決定工程S42では、工程S61で選択された乱数値22に等しい一次粒子数に設定された凝集体モデル8の立体構造を、確実に作成することができる。
【0072】
次に、本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、全ての凝集体モデルの立体構造が決定されたか否かが判断される(工程S69)。工程S69において、「全ての凝集体モデル8の立体構造が決定された」とは、図7に示した乱数の組21を構成する全ての乱数値22について、それらの乱数値22に等しい一次粒子数に設定された凝集体モデル8(図8(d)に示す)が全て作成されたことを意味している。
【0073】
工程S69において、全ての凝集体モデルの立体構造が決定されたと判断された場合(工程S69で、「Y」)、凝集体立体構造決定工程S42の一連の処理が終了する。一方、工程S69において、全ての凝集体モデルの立体構造が決定されていないと判断された場合(工程S69で、「N」)、工程S61において、未だ選択されていない乱数値22が一つ選択されて、工程S62以降が再度実施される。これにより、凝集体立体構造決定工程S42では、工程S52で生成された乱数の組21を構成する全ての乱数値22について、それらの乱数値22に等しい一次粒子数に設定された凝集体モデル8を確実に作成することができる。したがって、凝集体立体構造決定工程S42では、各凝集体モデル8の一次粒子数が、第1決定工程S41で決定された一次粒子数と等しくなるまで、凝集体モデル8、8をランダムに2つ選択して、それらを結合した1つの凝集体モデル8(新たな凝集体モデル8)とする操作が繰り返されうる。
【0074】
本実施形態の凝集体立体構造決定工程S42では、DLCAモデルに基づいて、複数の一次粒子モデル5が配置されるため、少ない計算時間で、実際の凝集体のフラクタル次元とほぼ等しい凝集体モデル(凝集体構造)8が作成されうる。
【0075】
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1が、複数の凝集体モデル8(図8(d)に示す)を空間6(図4に示す)に配置して、フィラーモデルを作成する(フィラーモデル作成工程S5)。フィラーモデル作成工程S5では、工程S2で求められた体積分率を満たすように、複数の凝集体モデル8が空間6に配置される。本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、複数の凝集体モデル8を空間6に配置する際に、凝集体モデル8同士が互いに重ならないように、複数の凝集体モデル8が空間6にランダムに配置される。図10は、フィラーモデル作成工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0076】
本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、先ず、空間6に未だ配置されていない凝集体モデル8のうち、1つの凝集体モデル8が選択される(工程S71)。選択手順は、特に限定されない。本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、一次粒子数の大きい順に、凝集体モデル8が選択される。なお、一次粒子数が同一の凝集体モデル8が複数存在する場合には、適宜選択することができ、例えば、凝集体モデル8に対応する乱数値22の登場順(インデックス順)に選択されてもよい。
【0077】
次に、本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、選択された凝集体モデル8が、空間6に仮配置される(工程S72)。工程S72では、選択された凝集体モデル8がランダムな向きに回転されて、かつ、その凝集体モデル8が空間6のランダムな位置に仮配置される。仮配置された凝集体モデル8は、コンピュータ1に記憶される。
【0078】
次に、本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、空間6に仮配置された凝集体モデル8が、周期境界条件によって生じる自分自身(仮配置された凝集体モデル8)のコピーと重なるか否かが判断される(工程S73)。本実施形態において、工程S73及び次の工程S74は、空間6に周期境界条件が設定されている場合にのみ行われる。したがって、空間6に周期境界条件が設定されていない場合には、工程S73及び工程S74が省略されて、次の工程S75が実施される。
【0079】
工程S73では、空間6に仮配置された凝集体モデル8の各一次粒子モデル5について、周期境界条件によって生じる自分自身の全てのコピー(特に、空間6に隣接する領域の全てのコピー)の凝集体モデル8の各一次粒子モデル5との中心間の距離の何れもが、一次粒子モデル5の粒径D1(図2(a)に示す)よりも大きい場合に、自分自身のコピーと重ならないと判断される。一方、上記の中心間の距離の少なくとも1つが、粒径D1以下である場合には、重なると判断される。
【0080】
工程S73において、仮配置された凝集体モデル8が、周期境界条件によって生じる自分自身のコピー(凝集体モデル8)と重なると判断された場合(工程S73で、「Y」)、仮配置された凝集体モデル8が破棄されて(工程S74)、工程S72以降が再度実施される。
【0081】
一方、工程S73において、仮配置された凝集体モデル8が、周期境界条件によって生じる自分自身のコピー(凝集体モデル8)と重ならないと判断された場合(工程S73で、「N」)、次の工程S75が実施される。これにより、本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、周期境界条件によって生じる自分自身のコピーと重ならないように、凝集体モデル8を仮配置することができる。
【0082】
次に、本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、仮配置された凝集体モデル8が、空間6に既に配置されている他の凝集体モデル8と重なるか否かが判断される(工程S75)。工程S75では、仮配置された凝集体モデル8の各一次粒子モデル5について、既に配置されている全ての凝集体モデル8の各一次粒子モデル5の中心間の距離の何れもが、一次粒子モデル5の粒径D1よりも大きい場合に、重ならないと判断される。一方、上記の中心間の距離の少なくとも1つが、粒径D1以下である場合には、重なると判断される。
【0083】
工程S75において、仮配置された凝集体モデル8が、配置済みの凝集体モデル8と重なると判断された場合(工程S75で、「Y」)、仮配置された凝集体モデル8が破棄されて(工程S74)、工程S72以降が再度実施される。
【0084】
一方、工程S73において、仮配置された凝集体モデル8が、配置済みの凝集体モデル8と重ならないと判断された場合(工程S75で、「N」)、次の工程S76が実施される。これにより、本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、配置済みの凝集体モデル8と重ならないように、凝集体モデル8を仮配置することができる。
【0085】
次に、本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、仮配置された凝集体モデル8の位置が、その凝集体モデル8の配置位置として確定される(工程S76)。確定された凝集体モデル8は、コンピュータ1に記憶される。
【0086】
次に、本実施形態のフィラーモデル作成工程S5では、全ての凝集体モデル8が、空間6に配置されたか否かが判断される(工程S77)。工程S77において、全ての凝集体モデル8が空間6に配置されたと判断された場合(工程S77で、「Y」)、フィラーモデル作成工程S5の一連の処理が終了する。これらの凝集体モデル8の配置によって、フィラーモデル10が作成される。図11は、フィラーモデル10の一例を示す概念図である。
【0087】
一方、図10に示した工程S77において、全ての凝集体モデル8が空間6に配置されていないと判断された場合(工程S77で、「N」)、工程S71において、他の凝集体モデル8が選択されて、工程S72以降が再度実施される。これにより、フィラーモデル作成工程S5では、複数の凝集体モデル8が互いに重ならないように、一次粒子数の大きい凝集体モデル8から順に、複数の凝集体モデル8を空間6にランダムに配置することができる。
【0088】
本実施形態の作成方法では、凝集体立体構造決定工程S42の手順(図9に示す)に基づいて、凝集体モデル8の立体構造を、実際のフィラーに近づくように作成することができる。したがって、本実施形態の作成方法によれば、フィラーモデル作成工程S5の手順(図10に示す)に基づいて、図11に示されるように、凝集体モデル8が空間6に配置されることによって、フィラーモデル10のミクロ構造を、フィラーのミクロ構造に近似させることが可能となる。
【0089】
これまでの実施形態のパラメータ入力工程S1(図3に示す)では、凝集体の一次粒子数の出現頻度分布の平均値として、平均一次粒子数(第1パラメータm)が求められる場合が例示されたが、このような態様に限定されない。例えば、フィラーモデル10(図11に示す)の凝集体サイズの分布が、実際のフィラーの凝集体サイズ分布などの何らかの分布に近づくように、第1パラメータm(及び第2パラメータk)が決定されてもよい。
【0090】
パラメータ入力工程S1において、上記のような第1パラメータm(及び第2パラメータk)を決定する手順は、適宜採用されうる。例えば、複数の第1パラメータm(及び第2パラメータkを含む複数の組)に基づいて、フィラーモデル10(図11に示す)をそれぞれ作成し、それらのフィラーモデル10の凝集体サイズの分布を計算して、目的の分布に近づけることが可能な第1パラメータm(及び第2パラメータk)が採用されてもよい。しかしながら、このような方法では、多数のフィラーモデルを作成する必要があり、多くの計算時間を要するという問題がある。
【0091】
この実施形態のパラメータ入力工程S1では、以下に示す手順に基づいて、上記のような第1パラメータm(及び第2パラメータk)が短時間で決定される。図12は、本発明の他の実施形態のパラメータ入力工程S1の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0092】
この実施形態のパラメータ入力工程S1では、先ず、コンピュータ1に、フィラーを構成する凝集体のサイズ分布(以下、単に「第1分布」ということがある。)が入力される(工程S81)。この実施形態の作成方法では、フィラーモデル10の凝集体サイズの分布が、第1分布P1(S)に近づくように、フィラーモデル10が作成される。
【0093】
第1分布P1(S)は、凝集体サイズSと、その頻度との関係を示す分布(頻度分布)である。凝集体サイズSは、個々の凝集体の空間的な広がりの大きさに関する量である。この実施形態の凝集体サイズSは、慣性半径Rgの2倍として定義される。第1分布P1(S)は、例えば、多数の凝集体に対する透過電子顕微鏡観察や動的光散乱法などによって、実験的に得られる。図13は、第1分布P1(S)の一例を示すグラフである。
【0094】
次に、この実施形態のパラメータ入力工程S1では、コンピュータ1に、互いに異なる複数の一次粒子数nについて、一次粒子数nに基づく凝集体サイズ分布(以下、単に「第2分布」ということがある。)がそれぞれ入力される(工程S82)。
【0095】
第2分布P2(S,n)は、一次粒子数がnとなる凝集体について、それらの凝集体サイズSの頻度分布である。図14は、第2分布P2(S,n)の一例を示すグラフである。図14では、一次粒子数nが6、8及び12となる凝集体について、凝集体サイズSの頻度分布がそれぞれ示されている。
【0096】
一次粒子数nの範囲は、適宜設定されうる。一次粒子数nの範囲の最小値は、1であるのが望ましい。なお、第2パラメータkが共に定義される場合には、一次粒子数nの範囲の最小値は、第2パラメータkの値に設定されるのが望ましい。一方、一次粒子数nの範囲の最大値は、作成される予定のフィラーモデル10を構成する凝集体モデル8の一次粒子数の最大値以上に設定されるのが望ましい。このような最小値と最大値との間の全ての整数値が、一次粒子数nとして設定される。
【0097】
第2分布P2(S,n)を精度よく推定するために、各一次粒子数nの値ごとに、実験的に観測された凝集体の個数、又は、後述のシミュレーションで作成される凝集体モデル8の立体構造の個数(一次粒子数nの個数)は、好ましくは30個以上であるのが望ましい。
【0098】
第2分布P2(S,n)は、適宜取得されうる。第2分布P2(S,n)は、例えば、個々の凝集体について、3DTEM観察が多数行われることによって、実験的に取得(観測)される。なお、第2分布P2(S,n)は、透過電子顕微鏡による2次元観察結果から、経験則や仮定に基づいて取得されてもよい。
【0099】
また、第2分布P2(S,n)は、凝集体モデル等が多数生成されて、それらの凝集体モデル等を用いたシミュレーション結果から推定されてもよい。このような第2分布P2(S,n)の推定方法では、先ず、上述の一次粒子数nの範囲において、個々の一次粒子数nに基づく凝集体モデル8の立体構造が、ランダムに決定される。このような凝集体モデル8の立体構造の決定には、例えば、図9に示した凝集体立体構造決定工程S42の工程S61~S68及びS70の処理手順が用いられうる。
【0100】
次に、第2分布P2(S,n)の推定方法では、決定された凝集体モデル8の立体構造に基づいて、慣性半径が求められる。慣性半径は、例えば、凝集体モデル8を構成する各一次粒子モデル5(一例として、図8(c)に示す)について、それらの一次粒子モデル5の凝集体モデル8の重心からの距離が計算され、それらの距離の二乗平均の平方根が計算されることで、求められうる。
【0101】
次に、第2分布P2(S,n)の推定方法では、各凝集体モデル8について、慣性半径の2倍の値が、凝集体サイズSとして求められる。そして、各凝集体モデル8の凝集体サイズSに基づいて、第2分布P2(S,n)が求められる。第2分布P2(S,n)は、コンピュータ1に入力される。
【0102】
次に、この実施形態のパラメータ入力工程S1では、コンピュータ1が、複数の第1パラメータm(及び第2パラメータk)について、探索する複数の値(の組)を決定する(工程S83)。決定される第1パラメータ(平均一次粒子数)mの範囲は、適宜定義されうる。この実施形態の第1パラメータmの範囲は、第2分布P2(S,n)の一次粒子数nの範囲と同一に設定されている。
【0103】
複数の第1パラメータmの値は、適宜定義される。例えば、第2分布P2(S,n)の一次粒子数nの範囲において、一定数の第1パラメータmが、等間隔又はランダムに選択されてもよい。この実施形態では、第2分布P2(S,n)の一次粒子数nの範囲内の全ての整数値が、複数の第1パラメータmの値として決定される。
【0104】
第2パラメータkが定義される場合には、第1パラメータmと第2パラメータkとの値の組(m,k)が、複数決定される。第2パラメータkの値の範囲は、適宜定義される。この実施形態の第2パラメータkの範囲は、第2分布P2(S,n)の一次粒子数nの範囲と同一である。
【0105】
複数の第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組(m,k)は適宜定義される。例えば、第1パラメータmのそれぞれの値に対して、一定の個数の第2パラメータkが、一次粒子数nの範囲において等間隔又はランダムに選択されてもよい。この実施形態では、第1パラメータmを1~nmax(一次粒子数nの最大値)の全ての整数の範囲とし、かつ、第2パラメータkを1~nmaxの全ての整数の範囲として、これらの値を組み合わせることで、複数の第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組(m,k)が定義される。複数の第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組(m,k)は、例えば、(1,1),(1,2),…,(1,nmax),(2,1),(2,2),…,(2,nmax),…,(nmax,1),(nmax,2),…,(nmax,nmax)である。決定された複数の第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組(m,k)は、コンピュータ1に記憶される。
【0106】
次に、この実施形態のパラメータ入力工程S1では、コンピュータ1が、複数の第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)を構成する個々の値(の組)について、凝集体サイズの頻度分布の推定値(第1仮分布P(S))を計算する(工程S84)。凝集体サイズの頻度分布の推定値(第1仮分布P(S))は、下記の式(1)で定義される。
【0107】
【数1】

ここで、
S:凝集体サイズ
n:凝集体の一次粒子数
m:第1パラメータ(平均一次粒子数)
n(n,m):凝集体の一次粒子数nの出現頻度分布の第1パラメータmについての関数(確率質量関数)
2(S,n):第2分布
ここで、第2分布P2(S,n)は、一次粒子数がnである凝集体4の凝集体サイズSの頻度分布である。
【0108】
上記の式(1)において、第1仮分布P(S)は、各一次粒子数nについて、確率質量関数pn(n,m)に、一次粒子数がnである凝集体の凝集体サイズの第2分布P2(S,n)を乗じたものを、全ての一次粒子数nについて足し合わせたしたものである。第1仮分布P(S)の一例は、図16に示される。
【0109】
関数pn(n,m)は、一次粒子数がnとなる頻度を表す関数であり、これまでの実施形態の工程S52(図6に示す)で定義される関数と同一である。すなわち、この実施形態では、確率質量関数pn(n,m)={(m-1)/m}n-1/mが用いられる。なお、第2パラメータkが定義される場合には、関数pn(n,m)に代えて、関数pn(n,m,k)が用いられる。この実施形態では、一次粒子数nが第2パラメータk未満の場合に、関数pn(n,m,k)=0が用いられる。一方、一次粒子数nが第2パラメータk以上の場合に、関数pn(n,m,k)={(m-1)/m}n-k/mが用いられる。
【0110】
図15は、関数pn(n,m)の一例を示すグラフである。なお、関数pn(n,m,k)は、関数pn(n,m)を元に、一次粒子数nが第2パラメータk未満となる時の値を0に変更し、すべての一次粒子数nについての確率(頻度)の和が1となるように規格化されることで得られる。
【0111】
次に、この実施形態のパラメータ入力工程S1では、コンピュータ1が、第1仮分布P(S)と、図13に示した第1分布P1(S)との間の分布間距離を計算する(工程S85)。分布間距離は、適宜定義されうる。分布間距離は、2つの分布の類似性が高いほど小さく(近く)なり、類似性が低いほど大きく(遠く)なるように定義されることが望ましい。この実施形態の分布間距離には、Hellinger距離が用いられる。Hellinger距離は、2つの分布が最も類似する場合に最小値の「0」となり、最も類似しない場合に最大値の「1」となる。それ以外については、2つの分布の類似性に応じて0~1の実数値が求められる。計算された分布間距離は、第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)ごとに求められる。分布間距離は、コンピュータ1に記憶される。
【0112】
次に、この実施形態のパラメータ入力工程S1では、コンピュータ1が、複数の第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)の全てについて、分布間距離を計算したか否かを判断する(工程S86)。工程S86において、全ての分布間距離が計算されたと判断された場合(工程S86で、「Y」)、次の工程S87が実施される。
【0113】
一方、工程S86において、複数の第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)の全てについて、全ての分布間距離が計算されたという条件が満たされていないと判断された場合(工程S86で、「N」)、分布間距離が計算されていない他の第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)が選択され(工程S88)、工程S84~工程S86が再度実施される。これにより、パラメータ入力工程S1では、複数の第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)の全てについて、対応する第1仮分布P(S)と、第1分布P1(S)との間の分布間距離を、確実に計算することができる。
【0114】
次に、本実施形態のパラメータ入力工程S1では、コンピュータ1が、複数の第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)の全ての中から、分布間距離が最も小さくなる第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)を選択し、それを実際のフィラーの凝集体サイズ分布に近似しうる第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)として決定する(工程S87)。図16は、決定された第1パラメータm及び第2パラメータkに基づいて計算された第1仮分布P(S)及び第1分布P1(S)の一例を示すグラフである。決定された第1パラメータmの値(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの値の組)は、コンピュータ1に記憶される。
【0115】
この実施形態では、パラメータ入力工程S1で決定された第1パラメータm(又は、第1パラメータm及び第2パラメータkの組)を用いて、図3に示した工程S2~S5が実施される。これにより、この実施形態の第1決定工程S41(図5及び図6に示す)では、凝集体サイズの頻度分布を再現可能な凝集体モデル8の総数、及び、各凝集体モデル8の一次粒子数が決定されうる。また、凝集体立体構造決定工程S42(図5及び図9に示す)では、凝集体4の一次粒子の粒径、及び、フラクタル次元Dfが再現された凝集体モデル8が作成されうる。さらに、フィラーモデル作成工程S5(図3及び図10に示す)では、実際のフィラーの体積分率が再現されたフィラーモデル10が作成される。したがって、本実施形態の作成方法では、フィラーモデル10のミクロ構造を、実際のフィラーのミクロ構造に精度よく近似させることができる。
【0116】
次に、上述の作成方法で取得されたフィラーモデル10を用いた高分子材料のシミュレーション方法が説明される。このシミュレーション方法では、コンピュータ1を用いて、フィラーと高分子成分とを含む高分子材料の性能が計算される。
【0117】
高分子成分には、例えば、天然ゴム、合成ゴム及び樹脂等が含まれる。本実施形態の高分子成分としては、cis-1,4ポリブタジエン(以下、単に「ポリブタジエン」ということがある)が例示される。図17は、ポリブタジエンの構造式である。
【0118】
ポリブタジエンを構成する分子鎖12は、メチレン基(-CH-)とメチン基(-CH-)とからなるモノマー13{-[CH-CH=CH-CH]-}が、重合度nで連結されて構成されている。この分子鎖12の両末端は、メチレン基(-CH-)に替えて、メチル基(-CH)で構成される。なお、高分子成分には、ポリブタジエン以外のものが用いられてもよい。また、フィラーには、上述のものが採用される。図18は、高分子材料のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0119】
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、粗視化モデルの作成に必要な各種設定、及び、粗視化シミュレーションに必要な各種物性値が入力される(工程S6)。本実施形態の工程S6では、先ず、高分子材料(図示省略)の一部に対応する仮想空間であるセルが入力される。図19は、高分子材料モデルの一部分を示す概念図である。図19では、粗視化フィラーモデル25及び粗視化分子鎖モデル15の一部のみが代表して示されている。
【0120】
セル14は、後述する分子動力学計算において、計算対象となる領域である。本実施形態のセル14は、図4に示した空間6と同様に設定される。セル14の内部には、少なくとも一つの粗視化フィラーモデル25、及び、複数の粗視化分子鎖モデル15が配置される。
【0121】
セル14の一辺の長さLbは、適宜設定することができる。本実施形態の長さLbは、後述の粗視化分子鎖モデル15の拡がりを示す量である慣性半径(図示省略)の3倍以上が望ましい。これにより、セル14は、分子動力学計算において、周期境界条件のために周期的に並ぶ自分自身(イメージ)との衝突の発生を防いで、粗視化分子鎖モデル15の空間的拡がりを考慮して適切に計算することができる。また、本実施形態の長さLbは、作成される粗視化フィラーモデル25の各凝集体拡がりを示す量である慣性半径(図示省略)の最大値の2倍以上が望ましい。これにより、セル14は、周期境界条件のために周期的に並ぶ凝集体の自分自身(イメージ)との衝突の発生を防いで、それぞれの凝集体モデル8を適切に配置することができる。
【0122】
セル14の大きさは、例えば1気圧で安定な体積に設定される。これにより、セル14は、解析対象の高分子材料の少なくとも一部の体積を定義することができる。セル14は、コンピュータ1に記憶される。
【0123】
次に、本実施形態の工程S6では、コンピュータ1に、高分子材料の分子鎖12(図17に示す)をモデル化した粗視化分子鎖モデル15を設定し、それらの各種物性値が入力される。
【0124】
粗視化分子鎖モデル15は、分子鎖12(図17に示す)を構成する原子の数よりも少ない複数の粒子16を用いて表現されている。これらの粒子16、16間には、結合鎖17が結合されている。本実施形態の粗視化分子鎖モデル15は、Kremer-Grestモデルである場合が例示されるが、特に限定されるわけではない。粗視化分子鎖モデル15は、例えば、DPD(散逸粒子動力学法)に基づくモデル等であってもよい。
【0125】
本実施形態の各粒子16は、例えば、図17に示した分子鎖12のモノマー13に対応している。分子鎖12がポリブタジエンである場合には、例えば、1.10個分のモノマー13を構造単位として、該構造単位が1個の粒子16に置換される。これにより、本実施形態の粗視化分子鎖モデル15には、複数(例えば、10~5000個)の粒子16が設定される。粒子16は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、粒子16には、質量、直径、電荷又は初期座標などのパラメータが定義される。これらの各パラメータは、数値情報としてコンピュータ1に記憶される。
【0126】
結合鎖17は、粒子16、16間に平衡長を定義した結合ポテンシャルとして構成される。ここで、「平衡長」とは、結合ポテンシャルの値が最も小さくなるような粒子16、16間の結合距離として定義される。また、結合鎖17の結合ポテンシャルは、例えば、論文3(Kurt Kremer & Gary S. Grest 著「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 15 April 1990)に基づいて設定することができる。このような粗視化分子鎖モデル15は、高分子材料を分子動力学計算で取り扱うための数値データであり、コンピュータ1に入力される。
【0127】
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、セル14の内部に、粗視化分子鎖モデル15と、粗視化フィラーモデル25とを配置した粗視化モデルを作成する(粗視化モデル作成工程S7)。粗視化モデル作成工程S7では、図19に例示される高分子材料モデルが作成される。図20は、粗視化モデル作成工程S7の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0128】
本実施形態の粗視化モデル作成工程S7では、先ず、図11に示したフィラーモデル10が取得される(工程S91)。フィラーモデル10は、上述のフィラーモデル作成方法の工程S1~工程S5の処理手順(図3に示す)に基づいて作成されたものである。取得されるフィラーモデル10は、本工程S91において随時作成されてもよいし、シミュレーション方法の実施に先立って予め作成されたフィラーモデル10が用いられてもよい。
【0129】
次に、本実施形態の粗視化モデル作成工程S7では、図19に示されるように、セル14の内部に、粗視化フィラーモデル25が作成される(工程S92)。工程S92では、先ず、セル14の内部に、工程S91で入力されたフィラーモデル10(図11に示す)が配置され、このフィラーモデル10の内部領域に、粒子(粗視化粒子)11が充填される。そして、これらの粒子11でフィラーモデル10が置き換えられることで、図19に示した粗視化フィラーモデル25が作成される。このような粗視化フィラーモデル25が作成されることにより、粗視化分子鎖モデル15の粒子16の大きさと、粗視化フィラーモデル25の粒子11の大きさを同程度となるように調節することが可能となる。このような調節により、分子鎖とフィラーとの粗視化の粒度を合わせた定量性の高いモデルを作成することができる。
【0130】
粗視化フィラーモデル25は1つ以上の粗視化凝集体モデル26で構成される。1つの粗視化凝集体モデル26は、1つ以上の一次粒子が結合して表される。なお、図19の粗視化凝集体モデル26は、1つの一次粒子として構成されている。また、その内部領域は、多数の粒子11で構成されている。
【0131】
粒子11の充填は、例えば、特許文献(特許第5913260号公報)に示されるように、粒子11を面心立方格子構造でフィラーモデルの内部に隙間なく並べることで行われてもよい。粒子11の大きさは、適宜定義される。本実施形態の粒子11の大きさは、粗視化分子鎖モデル15の粒子16と同一の大きさである場合が例示されるが、特に限定されるわけではない。なお、工程S92において、粗視化フィラーモデル25を、フィラーモデル10(図11に示す)の内部を多数の粒子11で充填したものでなく、粒子11を、フィラーモデル10の一次粒子モデル5と同一、すなわち、各一次粒子の直径が、粒径D1(図2(a)に示す)に等しい球として取り扱ってもよい。
【0132】
次に、本実施形態の粗視化モデル作成工程S7では、粗視化フィラーモデル25の隣接する粒子11、11の間が結合される(工程S93)。これにより、粗視化フィラーモデル25の剛性を高くすることができるため、後述の粗視化シミュレーションにおいて、粗視化フィラーモデル25の変形を抑制することができる。
【0133】
粒子11、11の間には、結合ポテンシャルは適宜定義される。本実施形態の結合ポテンシャルは、粗視化分子鎖モデル15の粒子16、16の間の結合ポテンシャルと同一である場合が例示されるが、特に限定されるわけではない。なお、結合を定義する代わりに、後述の粗視化シミュレーションにおいて、粗視化フィラーモデル25の各粒子11の位置が固定されてもよいし、個々の粗視化凝集体モデル26が剛体として取り扱われてもよい。これにより、粗視化モデル作成工程S7では、粗視化フィラーモデル25が作成される。
【0134】
本実施形態の粗視化モデル作成工程S7では、図2(b)で示した凝集体(フィラー凝集体)4をモデル化した少なくとも1つの粗視化凝集体モデル26を含む粗視化フィラーモデル25が作成される。粗視化フィラーモデル25は、コンピュータ1に記憶される。
【0135】
次に、本実施形態の粗視化モデル作成工程S7では、図19に示されるように、粗視化フィラーモデル25が配置されていない領域に、複数の粗視化分子鎖モデル15が配置される(工程S94)。粗視化分子鎖モデル15の配置には、例えば、特許文献(特許第6353290号公報)に示される手順が用いられてもよい。これにより、粗視化モデル作成工程S7では、実際の分子鎖12(図17に示す)の分布に近似させて、粗視化分子鎖モデル15をセル14内に配置することができる。
【0136】
本実施形態の粗視化モデル作成工程S7では、セル14の内部に、粗視化分子鎖モデル15と、粗視化フィラーモデル25とが配置されることにより、粗視化モデル30が作成される。粗視化モデル30は、コンピュータ1に記憶される。
【0137】
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、粗視化シミュレーションを実施する(工程S8)。工程S8では、粗視化シミュレーションを実施するために、先ず、隣接する粗視化分子鎖モデル15、15の粒子16、16間、及び、粗視化分子鎖モデル15の粒子16と粗視化フィラーモデル25の粒子11との間に、引力及び斥力が作用するポテンシャルP2が定義される。このポテンシャルP2としては、上記の特許文献1に記載のLJポテンシャルULJ(rij)が採用される。LJポテンシャルULJ(rij)の各変数は、例えば、上述の論文3に基づいて適宜設定することができる。
【0138】
次に、本実施形態の工程S8では、コンピュータ1が、粗視化分子鎖モデル15と粗視化フィラーモデル25とを対象に、分子動力学計算を行う。分子動力学計算では、例えば、セル14について所定の時間、粗視化フィラーモデル25の粒子11、及び、粗視化分子鎖モデル15の粒子16が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での一次粒子モデル5及び粒子16の動きが、単位時間毎に追跡される。
【0139】
本実施形態の分子動力学計算では、粗視化分子鎖モデル15の構造緩和が計算される。この場合、セル14において、圧力及び温度が一定、又は、体積及び温度が一定に保たれる。この構造緩和の計算されることにより、工程S8では、高分子材料(図示省略)をモデル化した高分子材料モデル18が作成される。
【0140】
次に、本実施形態の工程S8では、作成された高分子材料モデル18の変形計算(例えば、伸長変形)が行われる。そして、高分子材料モデル18の変形計算によって取得される物理量(例えば、応力など)が、コンピュータ1に記憶される。
【0141】
本実施形態のシミュレーション方法では、フィラーのミクロ構造に近似させた表面構造を有する粗視化フィラーモデル25が用いられるため、表面構造が高分子材料(粗視化分子鎖モデル15)の物性に与える影響を精度良く評価することができる。したがって、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料モデル18の変形計算による物理量を、精度良く計算することができる。
【0142】
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料モデル18の物性が、良好か否かが判断される(工程S9)。良好か否かの判断は、高分子材料に求められる強度や耐久性等に基づいて適宜実施される。
【0143】
工程S9において、物性が良好である場合(工程S9で、「Y」)、例えば、高分子材料モデル18を構成するフィラー及び分子鎖12(図17に示す)に基づいて、高分子材料が製造される(工程S10)。製造された高分子材料は、例えば、タイヤ等の工業製品の製造に用いられる。一方、工程S9において、物性が良好でない場合(工程S9で、「N」)、フィラー及び分子鎖12の少なくとも一方の構造等を変更して(工程S11)、工程S6~工程S9が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、良好な物性を有する高分子材料、及び、工業製品を製造することができる。
【0144】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0145】
図3に示した処理手順に基づいて、フィラーの数値解析用のモデルが作成された(実施例)。実施例では、図5に示した処理手順に基づいて、凝集体の平均一次粒子数である第1パラメータを満たすように、フィラーモデルを構成する凝集体モデルの総数、及び、各凝集体モデルの一次粒子数が決定され、決定された総数及び一次粒子数に基づいて、各凝集体モデルを構成する複数の一次粒子モデルが結合された。
【0146】
一方、比較例では、特許文献(特許第5913260号公報)と同様に、第1パラメータを考慮せずに、ゴム材料の3DTEM観察で特定されたフィラーが配置されている領域に、一次粒子モデルが配置され、フィラーモデルが作成された。
【0147】
そして、実施例及び比較例のフィラーモデルについて、凝集体サイズの頻度分布、及び、フラクタル次元Dfがそれぞれ計算された。図21は、実施例及び比較例の凝集体サイズの頻度分布を示すグラフである。
【0148】
実際のフィラーについて、図13に示した第1分布P1(S)、及び、フラクタル次元Dfが測定された(実験例)。そして、実施例及び比較例の計算結果と、実験例の測定結果とが比較された。共通仕様は、次のとおりである。テストの結果が表1に示される。
フィラー:シリカ
フィラーの配合量:55phr
一次粒子(一次粒子モデル)の粒径D1:20nm
仮想空間の長さLa:350nm
【0149】
【表1】
【0150】
テストの結果、図21に示されるように、実施例の凝集体サイズの頻度分布と、図13に示した第1分布P1(S)との間のHellinger距離(分布間の類似性の指標)は、比較例の凝集体サイズの頻度分布と第1分布P1(S)とのHellinger距離に比べて小であり、第1分布P1(S)に近似させることができた。さらに、実施例では、比較例に比べて、フラクタル次元Dfを、実際の凝集体に近似させることができた。したがって、実施例は、比較例に比べて、フィラーモデルのミクロ構造を、フィラーのミクロ構造に近似させることができた。
【符号の説明】
【0151】
S1 第1パラメータを入力する工程
S2 空間及び体積分率を入力する工程
S3 一次粒子モデルを入力する工程
S4 複数の凝集体モデルを作成する工程
S5 フィラーモデルを作成する工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21