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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124964
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】はんだ付け装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/08 20060101AFI20220819BHJP
   B23K 1/20 20060101ALI20220819BHJP
   B23K 31/02 20060101ALI20220819BHJP
   B23K 3/08 20060101ALI20220819BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
B23K1/08 Z
B23K1/20 H
B23K31/02 310B
B23K3/08
H05K3/34 505F
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022917
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】521069984
【氏名又は名称】石川技研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521069995
【氏名又は名称】有限会社ピーシービー
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 久雄
【テーマコード(参考)】
4E080
5E319
【Fターム(参考)】
4E080AA01
4E080AB07
4E080EA04
5E319AA03
5E319AB05
5E319AC01
5E319BB02
5E319CC22
5E319CD06
5E319CD15
5E319CD25
5E319GG03
(57)【要約】
【課題】回路基板等のはんだ付け対象にはんだ付けを行う際に必要となるランド等の導体部の酸化防止、レジスト等の非導体部へのはんだの付着の防止、高品質な溶融はんだの安定的供給といった様々な対策を、はんだ付けの自由度をできるだけ制約しない方法によって行えるようにすることである。
【解決手段】実施形態に係るはんだ付け装置は、はんだ付け対象に溶融したはんだを噴霧するための空間を内部に形成し、かつ入口側からの空気の流入を防ぐ第1の液槽と、出口側からの空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって外部から空気が流入しないようにしたチャンバと、はんだ付け対象を保持し、入口から第1の液槽を経由してチャンバ内に送り込んだ後、第2の液槽を経由して出口からチャンバ外に送り出す送り機構と、はんだ付け対象にはんだを噴霧するはんだ噴霧部とを有するものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体部を有するはんだ付け対象に少なくとも溶融したはんだを噴霧するための空間を内部に形成し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバと、
前記はんだ付け対象を保持し、前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に送り込んだ後、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出す送り機構と、
前記空間内において前記はんだ付け対象に前記はんだを噴霧するはんだ噴霧部と、
を有するはんだ付け装置。
【請求項2】
前記第1の液槽及び前記第2の液槽に充填される液体としてエステルの混合又は加熱によって流動性が付与された直鎖脂肪酸を用いた請求項1記載のはんだ付け装置。
【請求項3】
前記空間内において、前記はんだが噴霧される前の前記はんだ付け対象に酸化膜除去液を噴射することによって前記導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去する酸化膜除去部を更に有する請求項1又は2記載のはんだ付け装置。
【請求項4】
前記酸化被膜が除去される前における前記はんだ付け対象を加熱する加熱装置を更に有する請求項3記載のはんだ付け装置。
【請求項5】
前記酸化膜除去液としてエステルの混合又は加熱によって流動性が付与された直鎖脂肪酸を用いた請求項3又は4記載のはんだ付け装置。
【請求項6】
前記酸化膜除去液を加熱することによって前記はんだ付け対象を加熱する加熱装置を更に有する請求項3乃至5のいずれか1項に記載のはんだ付け装置。
【請求項7】
前記はんだ噴霧部は、
前記溶融したはんだを貯留するタンクと、
前記溶融したはんだを噴霧するためのノズルと、
前記タンクと前記ノズルとを連結する配管と、
前記タンク及び前記配管を加熱することによって前記タンク及び前記配管内における前記溶融したはんだの温度を調整する少なくとも1つの加熱装置と、
前記タンク内に不活性ガスを注入する不活性ガス供給系と、
を有し、
前記タンク内に注入された不活性ガスの圧力で前記タンク内の前記溶融したはんだを前記配管及び前記ノズルに向けて噴出させるように構成される請求項1乃至6のいずれか1項に記載のはんだ付け装置。
【請求項8】
前記はんだ噴霧部は、内側の第1の流路の外側に第2の流路を配置した二重配管を有し、前記第1の流路を前記タンクと前記ノズルとを連結する前記配管とする一方、前記第2の流路に加熱媒体を流すことによって前記第1の流路内における前記溶融したはんだの温度を調整するようにした請求項7記載のはんだ付け装置。
【請求項9】
前記空間内において、前記はんだが噴霧された後の前記はんだ付け対象に過剰はんだ除去液を噴射することによって、前記はんだ付け対象に付着した過剰なはんだを前記はんだ付け対象から除去する過剰はんだ除去部を更に有する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のはんだ付け装置。
【請求項10】
前記過剰はんだ除去部は、前記送り機構による前記はんだ付け対象の送出し方向に異なる位置でそれぞれ前記過剰はんだ除去液を噴射する第1のノズル及び第2のノズルであって、前記はんだ付け対象の前記送出し方向に170mm以上200mm以下の間隔で離間配置された第1のノズル及び第2のノズルを有する請求項9記載のはんだ付け装置。
【請求項11】
前記過剰はんだ除去液としてエステルの混合又は加熱によって流動性が付与された直鎖脂肪酸を用いた請求項9又は10記載のはんだ付け装置。
【請求項12】
前記送り機構は、前記はんだ付け対象として回路基板を保持する治具を有し、
前記治具は、少なくとも前記はんだが前記回路基板に噴霧される位置において、水平方向と前記回路基板の厚さ方向とのなす角度が0度以上45度以下となるように前記回路基板を保持するように構成される請求項1乃至11のいずれか1項に記載のはんだ付け装置。
【請求項13】
前記空間に不活性ガスを充填して前記空間内の圧力を調整する圧力制御系を更に有する請求項1乃至12のいずれか1項に記載のはんだ付け装置。
【請求項14】
噴霧後の前記はんだが混入した噴射後の前記酸化膜除去液から前記混入したはんだを分離することによって前記酸化膜除去液及び前記混入したはんだを再利用できるように回収する循環系を更に有する請求項1乃至13のいずれか1項に記載のはんだ付け装置。
【請求項15】
導体部を有するはんだ付け対象を溶融はんだ槽に浸漬して引き上げた後、前記はんだ付け対象に過剰はんだ除去液を噴射することによって、前記導体部をはんだでコーティングする一方、前記はんだ付け対象に付着した過剰なはんだを前記はんだ付け対象から除去する処理を行うための空間と、前記溶融はんだ槽とを内部に有し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバと、
前記はんだ付け対象を保持し、前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に送り込んで前記溶融はんだ槽に浸漬した後、前記溶融はんだ槽から引き上げて、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出す送り機構と、
前記空間内において、前記溶融はんだ槽から引き上げられた前記はんだ付け対象に前記過剰はんだ除去液を噴射することによって、前記はんだ付け対象に付着した過剰なはんだを前記はんだ付け対象から除去する過剰はんだ除去部と、
を有するはんだコーティング装置。
【請求項16】
導体部を有するはんだ付け対象の前記導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去するための空間を内部に形成し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバと、
前記はんだ付け対象を保持し、前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に送り込んだ後、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出す送り機構と、
前記空間内において、前記はんだ付け対象に酸化膜除去液を噴射することによって前記導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去する酸化膜除去部と、
を有する酸化被膜除去装置。
【請求項17】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載のはんだ付け装置で前記はんだ付け対象に少なくとも前記はんだを噴霧することによって、前記導体部に部品がはんだ付けされた又は前記導体部が前記はんだでコーティングされたはんだ付け品を製造するはんだ付け品の製造方法。
【請求項18】
導体部を有するはんだ付け対象に少なくとも溶融したはんだを噴霧することによって、前記導体部に部品がはんだ付けされた又は前記導体部が前記はんだでコーティングされたはんだ付け品を製造するはんだ付け品の製造方法であって、
前記溶融したはんだを噴霧するための空間を内部に形成し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバの前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に前記はんだ付け対象を送り出すステップと、
前記空間内において、前記はんだ付け対象に前記溶融したはんだを噴霧するステップと、
前記溶融したはんだが噴霧された後の前記はんだ付け対象を、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出すステップと、
を有するはんだ付け品の製造方法。
【請求項19】
前記溶融したはんだとして、粒径が10μmを超える固形物の含有量が、融解前における前記はんだに対して0.03重量%以下となっているはんだを噴霧する請求項17又は18記載のはんだ付け品の製造方法。
【請求項20】
請求項15記載のはんだコーティング装置で前記処理を行うことによって、前記導体部がはんだでコーティングされ、かつ前記過剰なはんだが除去された前記はんだ付け対象からなるはんだコート品を製造するはんだコート品の製造方法。
【請求項21】
導体部を有するはんだ付け対象を溶融はんだ槽に浸漬して引き上げた後、前記はんだ付け対象に過剰はんだ除去液を噴射することによって、前記導体部をはんだでコーティングする一方、前記はんだ付け対象に付着した過剰なはんだを前記はんだ付け対象から除去する処理によって、前記導体部がはんだでコーティングされ、かつ前記過剰なはんだが除去された前記はんだ付け対象からなるはんだコート品を製造するはんだコート品の製造方法であって、
前記処理を行うための空間と、前記溶融はんだ槽とを内部に有し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバの前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に前記はんだ付け対象を送り出すステップと、
前記空間に送り出された前記はんだ付け対象を前記溶融はんだ槽に浸漬した後、引き上げるステップと、
前記空間内において、前記溶融はんだ槽から引き上げられた前記はんだ付け対象に前記過剰はんだ除去液を噴射することによって、前記はんだ付け対象に付着した過剰なはんだを前記はんだ付け対象から除去するステップと、
前記過剰なはんだが除去された前記はんだ付け対象を、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出すステップと、
を有するはんだコート品の製造方法。
【請求項22】
請求項16記載の酸化被膜除去装置で前記導体部の表面に形成されている前記酸化被膜を除去することによって、前記導体部から前記酸化被膜が除去された前記はんだ付け対象からなる酸化被膜除去処理品を製造する酸化被膜除去処理品の製造方法。
【請求項23】
導体部を有するはんだ付け対象の前記導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去することによって、前記導体部から前記酸化被膜が除去された前記はんだ付け対象からなる酸化被膜除去処理品を製造する酸化被膜除去処理品の製造方法であって、
前記酸化被膜を除去するための空間を内部に形成し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバの前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に前記はんだ付け対象を送り出すステップと、
前記空間内において、前記はんだ付け対象に酸化膜除去液を噴射することによって前記導体部の表面に形成されている前記酸化被膜を除去するステップと、
前記導体部の表面から前記酸化被膜が除去された前記はんだ付け対象を、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出すステップと、
を有するはんだ酸化被膜除去処理品の製造方法。
【請求項24】
溶融したはんだを貯留するタンクと、
前記溶融したはんだを噴霧するためのノズルと、
前記タンクと前記ノズルとを連結する配管と、
前記タンク及び前記配管を加熱することによって前記タンク及び前記配管内における前記溶融したはんだの温度を調整する少なくとも1つの加熱装置と、
前記タンク内に不活性ガスを注入する不活性ガス供給系と、
を有し、
前記タンク内に注入された不活性ガスの圧力で前記タンク内の前記溶融したはんだを前記配管及び前記ノズルに向けて噴出させるようにしたはんだ噴霧装置。
【請求項25】
請求項24記載のはんだ噴霧装置で前記溶融したはんだを噴霧することによって、導体部に部品がはんだ付けされた又は前記導体部が前記はんだでコーティングされたはんだ付け品を製造するはんだ付け品の製造方法。
【請求項26】
導体部を有するはんだ付け対象に少なくとも溶融したはんだを噴霧することによって、前記導体部に部品がはんだ付けされた又は前記導体部が前記はんだでコーティングされたはんだ付け品を製造するはんだ付け品の製造方法であって、
前記溶融したはんだを貯留するタンクと前記溶融したはんだを噴霧するためのノズルとを配管で連結し、
少なくとも1つの加熱装置で前記タンク及び前記配管を加熱することによって前記タンク及び前記配管内における前記溶融したはんだの温度を調整しながら、前記タンク内に不活性ガスを注入し、
前記タンク内に注入された不活性ガスの圧力で前記タンク内の前記溶融したはんだを前記配管及び前記ノズルに向けて噴出させるようにしたはんだ付け品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、はんだ付け装置、はんだコーティング装置、酸化被膜除去装置、はんだ噴霧装置、はんだ付け品の製造方法、はんだコート品の製造方法及び酸化被膜除去処理品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板(PCB:Printed Circuit Board)等の導体部分を構成する銅ランド部をはんだ付けする際には、はんだ付けに先立って銅ランド部の酸化及び腐食を防止することが、より長期に亘る電気的接合性を維持する観点から重要である。
【0003】
銅ランド部をはんだ付けする際に銅ランド部の酸化を防ぐための従来の方法としては、銅ランド部をメッキして酸化を防ぐ方法、イミダゾール等の防錆剤を銅に塗布してはんだ付けする方法、溶融したはんだ中に基板を浸漬した後、引き上げると同時に高温空気で不要なはんだを吹き飛ばすことによって銅ランド部のみをはんだでコーティングするレベラー処理(HASL: hot air solder leveling)を行う方法の他、OSP(Organic Solderability Preservative)や有機脂肪酸等の有機薬品で銅の表面に保護被膜を形成するプリフラックス処理を行う方法などが知られている(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0004】
また、回路基板の銅ランド部をはんだ付けする際に重要となる別の点として、はんだが付着しないように絶縁材料であるレジスト(ソルダーマスクとも呼ばれる)が塗布された銅ランド以外の部分にはんだが付着しないようにすることが挙げられる。このため、従来、プリント回路基板等をはんだ付けする際には、はんだを付着するべきランドのサイズに合わせて孔を形成したメタルマスクを基板上に載置することによってレジスト部等の銅ランド部以外へのはんだの付着が防止される。
【0005】
一方、回路基板へのはんだ付け対象となるチップコンデンサや集積回路(IC:Integrated Circuit)チップに溶融はんだを吹き付けて万遍なくたはんだを塗布した後、有機脂肪酸を含む溶液を吹き付けて余分なはんだを除去することによってチップコンデンサやICチップに電極を形成する方法も提案されている(例えば特許文献4参照)。
【0006】
上述した従来のはんだ付けに関する技術の他、ノズルからプリント回路基板にはんだを吹き付けることによってはんだ付けを行う場合において、はんだ付けに使用されずに溢流したはんだを、脂肪酸の一種であるパルチミン酸とエステルの混合液と混合し、攪拌することによって、溢流したはんだの品質を維持しつつ再利用する技術も提案されている(例えば特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/084673号
【特許文献2】特開2009-105356号公報
【特許文献3】特開2011-211137号公報
【特許文献4】特開2013-069758号公報
【特許文献5】特許第4375491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように回路基板のはんだ付けを行う際には、ランドの酸化を防止するための対策やレジストへのはんだの付着を防止するための対策に加えて、ランドに付着する前における溶融はんだの凝固防止など、はんだ付けに付随する様々な対策が必要となる。これらの対策は、はんだ付けの自由度を制約する要因となる場合がある。
【0009】
具体例として、レジストへのはんだの付着を防止するためにメタルマスクをプリント回路基板上に載置してはんだ付けを行う方法を採用すると、次世代ディスプレイの部品等として有望なマイクロ発光ダイオード(LED:light emitting diode)を基板にはんだ付けできなくなるという問題がある。これは、幅が150μm程度であるマイクロLEDは、レジストで囲まれた、幅が50μm程度で深さが10μm~15μm程度の極めて微小なはんだポケットにはんだ付けされることになり、メタルマスクを製作して基板上に載置しても、はんだポケットのサイズに合わせたメタルマスクの孔を通してはんだポケット内にランドと隙間なくはんだを入れることができないためである。換言すると、メタルマスクを使用してはんだ付けする場合には、サイズの制約を受ける。
【0010】
また、マイクロLEDのはんだ付けに代表されるように微量の溶融はんだを単にポンプで汲み上げてノズルから噴射しようとすると、溶融はんだの供給経路において溶融はんだ中に生じる固形物によって溶融はんだの品質が劣化するのみならず、ポンプやノズルが詰まり、良好な品質の溶融はんだを安定的に噴出することが困難になるという問題もある。このため、溶融はんだをポンプで汲み上げてノズルから噴射する方法を採用する場合、マイクロLED等に向けて微量の溶融はんだを安定的に噴射することができない。
【0011】
そこで、本発明は、回路基板等のはんだ付け対象にはんだ付けを行う際に必要となるランド等の導体部の酸化防止、レジスト等の非導体部へのはんだの付着の防止、高品質な溶融はんだの安定的供給といった様々な対策を、はんだ付けの自由度をできるだけ制約しない方法によって行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係るはんだ付け装置は、導体部を有するはんだ付け対象に少なくとも溶融したはんだを噴霧するための空間を内部に形成し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバと、前記はんだ付け対象を保持し、前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に送り込んだ後、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出す送り機構と、前記空間内において前記はんだ付け対象に前記はんだを噴霧するはんだ噴霧部とを有するものである。
【0013】
また、本発明の実施形態に係るはんだコーティング装置は、導体部を有するはんだ付け対象を溶融はんだ槽に浸漬して引き上げた後、前記はんだ付け対象に過剰はんだ除去液を噴射することによって、前記導体部をはんだでコーティングする一方、前記はんだ付け対象に付着した過剰なはんだを前記はんだ付け対象から除去する処理を行うための空間と、前記溶融はんだ槽とを内部に有し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバと、前記はんだ付け対象を保持し、前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に送り込んで前記溶融はんだ槽に浸漬した後、前記空間及び前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出す送り機構と、前記空間内において、前記溶融はんだ槽から引き上げられた前記はんだ付け対象に前記過剰はんだ除去液を噴射することによって、前記はんだ付け対象に付着した過剰なはんだを前記はんだ付け対象から除去する過剰はんだ除去部とを有するものである。
【0014】
また、本発明の実施形態に係る酸化被膜除去装置は、導体部を有するはんだ付け対象の前記導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去するための空間を内部に形成し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバと、前記はんだ付け対象を保持し、前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に送り込んだ後、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出す送り機構と、前記空間内において、前記はんだ付け対象に酸化膜除去液を噴射することによって前記導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去する酸化膜除去部とを有するものである。
【0015】
また、本発明の実施形態に係るはんだ付け品の製造方法は、上述したはんだ付け装置で前記はんだ付け対象に少なくとも前記はんだを噴霧することによって、前記導体部に部品がはんだ付けされた又は前記導体部が前記はんだでコーティングされたはんだ付け品を製造するものである。
【0016】
また、本発明の実施形態に係るはんだ付け品の製造方法は、導体部を有するはんだ付け対象に少なくとも溶融したはんだを噴霧することによって、前記導体部に部品がはんだ付けされた又は前記導体部が前記はんだでコーティングされたはんだ付け品を製造するはんだ付け品の製造方法であって、前記溶融したはんだを噴霧するための空間を内部に形成し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバの前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に前記はんだ付け対象を送り出すステップと、前記空間内において、前記はんだ付け対象に前記溶融したはんだを噴霧するステップと、前記溶融したはんだが噴霧された後の前記はんだ付け対象を、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出すステップとを有するものである。
【0017】
また、本発明の実施形態に係るはんだコート品の製造方法は、上述したはんだコーティング装置で前記処理を行うことによって、前記導体部がはんだでコーティングされ、かつ前記過剰なはんだが除去された前記はんだ付け対象からなるはんだコート品を製造するものである。
【0018】
また、本発明の実施形態に係るはんだコート品の製造方法は、導体部を有するはんだ付け対象を溶融はんだ槽に浸漬して引き上げた後、前記はんだ付け対象に過剰はんだ除去液を噴射することによって、前記導体部をはんだでコーティングする一方、前記はんだ付け対象に付着した過剰なはんだを前記はんだ付け対象から除去する処理によって、前記導体部がはんだでコーティングされ、かつ前記過剰なはんだが除去された前記はんだ付け対象からなるはんだコート品を製造するはんだコート品の製造方法であって、前記処理を行うための空間と、前記溶融はんだ槽とを内部に有し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバの前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に前記はんだ付け対象を送り出すステップと、前記空間に送り出された前記はんだ付け対象を前記溶融はんだ槽に浸漬した後、引き上げるステップと、前記空間内において、前記溶融はんだ槽から引き上げられた前記はんだ付け対象に前記過剰はんだ除去液を噴射することによって、前記はんだ付け対象に付着した過剰なはんだを前記はんだ付け対象から除去するステップと、前記過剰なはんだが除去された前記はんだ付け対象を、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出すステップとを有するものである。
【0019】
また、本発明の実施形態に係る酸化被膜除去処理品の製造方法は、上述した酸化被膜除去装置で前記導体部の表面に形成されている前記酸化被膜を除去することによって、前記導体部から前記酸化被膜が除去された前記はんだ付け対象からなる酸化被膜除去処理品を製造するものである。
【0020】
また、本発明の実施形態に係る酸化被膜除去処理品の製造方法は、導体部を有するはんだ付け対象の前記導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去することによって、前記導体部から前記酸化被膜が除去された前記はんだ付け対象からなる酸化被膜除去処理品を製造する酸化被膜除去処理品の製造方法であって、前記酸化被膜を除去するための空間を内部に形成し、かつ前記空間の入口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第1の液槽と、前記空間の出口側から前記空間への空気の流入を防ぐ第2の液槽とを設けるとともに壁面で囲うことによって前記空間に外部から空気が流入しないようにしたチャンバの前記入口から前記第1の液槽を経由して前記チャンバ内の前記空間に前記はんだ付け対象を送り出すステップと、前記空間内において、前記はんだ付け対象に酸化膜除去液を噴射することによって前記導体部の表面に形成されている前記酸化被膜を除去するステップと、前記導体部の表面から前記酸化被膜が除去された前記はんだ付け対象を、前記第2の液槽を経由して前記出口から前記チャンバ外に送り出すステップとを有するものである。
【0021】
また、本発明の実施形態に係るはんだ噴霧装置は、溶融したはんだを貯留するタンクと、前記溶融したはんだを噴霧するためのノズルと、前記タンクと前記ノズルとを連結する配管と、前記タンク及び前記配管を加熱することによって前記タンク及び前記配管内における前記溶融したはんだの温度を調整する少なくとも1つの加熱装置と、前記タンク内に不活性ガスを注入する不活性ガス供給系とを有し、前記タンク内に注入された不活性ガスの圧力で前記タンク内の前記溶融したはんだを前記配管及び前記ノズルに向けて噴出させるようにしたものである。
【0022】
また、本発明の実施形態に係るはんだ付け品の製造方法は、上述したはんだ噴霧装置で前記溶融したはんだを噴霧することによって、導体部に部品がはんだ付けされた又は前記導体部が前記はんだでコーティングされたはんだ付け品を製造するものである。
【0023】
また、本発明の実施形態に係るはんだ付け品の製造方法は、導体部を有するはんだ付け対象に少なくとも溶融したはんだを噴霧することによって、前記導体部に部品がはんだ付けされた又は前記導体部が前記はんだでコーティングされたはんだ付け品を製造するはんだ付け品の製造方法であって、前記溶融したはんだを貯留するタンクと前記溶融したはんだを噴霧するためのノズルとを配管で連結し、少なくとも1つの加熱装置で前記タンク及び前記配管を加熱することによって前記タンク及び前記配管内における前記溶融したはんだの温度を調整しながら、前記タンク内に不活性ガスを注入し、前記タンク内に注入された不活性ガスの圧力で前記タンク内の前記溶融したはんだを前記配管及び前記ノズルに向けて噴出させるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係るはんだ付け装置の構成を示す部分断面図。
図2図1に示すはんだ付け装置でPCB等の回路基板に電子部品をはんだ付けする場合におけるはんだ付け対象の構造例を示す断面図。
図3図2に示すはんだ付け対象をはんだ付けして得られるはんだ付け品の構造例を示す断面図。
図4図1に示すはんだ付け装置でPCB等の回路基板の導体部をはんだでコーティングする場合におけるはんだ付け対象の構造例を示す断面図。
図5図4に示すはんだ付け対象をはんだコートして得られるはんだ付け品の構造例を示す断面図。
図6図1に例示される回路基板を取付けた状態における治具の右側面図。
図7図6に例示される治具をセットするためのブラケットを取付けたチェーンの部分拡大図。
図8図1に例示される酸化膜除去部のチャンバ内外における構成を示す図1の位置A-Aにおける部分断面図。
図9図1に例示されるはんだ噴霧部の構成を示す図1の位置B-Bにおける部分断面図。
図10図1に例示される過剰はんだ除去部の構成を示す図1の位置C-Cにおける部分断面図。
図11図1に示すはんだ付け装置で回路基板等のはんだ付け対象に少なくともはんだを噴霧することによってはんだ付け品を製造するための流れの一例を示すフローチャート。
図12】所定の粒径を超える固形物が含まれない溶融はんだの製造方法の一例を示す図。
図13】本発明の第2の実施形態に係るはんだコーティング装置の構成を示す部分断面図。
図14】本発明の第3の実施形態に係る酸化被膜除去装置の構成を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係るはんだ付け装置、はんだコーティング装置、酸化被膜除去装置、はんだ噴霧装置、はんだ付け品の製造方法、はんだコート品の製造方法及び酸化被膜除去処理品の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0026】
(第1の実施形態)
(はんだ付け装置の構成及び機能)
図1は本発明の実施形態に係るはんだ付け装置の構成を示す部分断面図である。
【0027】
はんだ付け装置1は、回路基板等の導体部を有するはんだ付け対象Oに少なくとも溶融したはんだを噴霧する装置である。はんだ付け装置1ではんだ付け対象Oにはんだを噴霧することによって、導体部に部品がはんだ付けされたはんだ付け品又は導体部がはんだでコーティングされたはんだ付け品を製造することができる。
【0028】
従って、はんだ付け装置1ではんだ付け対象Oの導体部に部品がはんだ付けされる場合には、はんだ付け装置1で部品のはんだ付け自体が行われることになり、はんだ付け装置1ではんだ付け対象Oの導体部がはんだでコーティングされる場合には、はんだ付け対象Oの導体部に部品をはんだ付けする前の前処理がはんだ付け装置1で行われることになる。
【0029】
図2図1に示すはんだ付け装置1でPCB等の回路基板に電子部品をはんだ付けする場合におけるはんだ付け対象Oの構造例を示す断面図であり、図3図2に示すはんだ付け対象Oをはんだ付けして得られるはんだ付け品の構造例を示す断面図である。
【0030】
典型的な回路基板O1は、図2に示すように基板O2にランドO3とレジスト部O4を形成した構造を有する。ランドO3は、マイクロLED等の電子部品O5の電極をはんだ付けする部分となる銅箔である。レジスト部O4は、ランドO3以外のレジストが塗布された部分である。レジストは、はんだをはじく性質を有するため、ランドO3以外の部分へのはんだの付着を防止する他、導体パターンの保護やショートの防止を目的として、基板O2に塗布される。
【0031】
電子部品O5がLEDである場合には、図2に例示されるようにレジスト部O4で囲まれたランドO3とLEDとの間に形成されるはんだポケットO6にはんだを隙間なく充填すればLEDをランドO3にはんだ付けすることができる。そこで、図2に例示されるように、電子部品O5の一部を予め絶縁性を有する接着剤O7で回路基板O1のレジスト部O4等のランドO3以外の部分に接着した状態ではんだを噴霧することができる。そうすると、図3に示すように噴霧された霧状の溶融はんだがはんだポケットO6に入り込み、LEDを回路基板O1にはんだ付けすることができる。尚、接着剤O7は、はんだ付けが完了した後、残留しないように洗浄するようにしても良い。
【0032】
特に、はんだの液滴を噴射するのではなく、霧状のはんだを噴霧するので、マイクロLEDをはんだ付けするためのはんだポケットO6のように非常に微小な空間であっても、はんだを隙間なく付着させることができる。このため、従来はサイズが小さいことからはんだ付けが困難であったマイクロLEDであってもはんだ付けすることができる。
【0033】
尚、ICチップやチップコンデンサ等の電子部品O5がはんだ付け対象Oである場合には、基板O2にスルー・ホールが設けられ、スルー・ホールの周囲にランドO3が形成さされることが多い。その場合においても、電子部品O5の一部を予め接着剤O7でレジスト部O4等のランドO3以外の部分に接着した状態ではんだを噴霧すれば、ランドO3と電子部品O5との間における隙間に霧状のはんだが入り込むため、電子部品O5を回路基板O1にはんだ付けすることができる。
【0034】
図4図1に示すはんだ付け装置1でPCB等の回路基板の導体部をはんだでコーティングする場合におけるはんだ付け対象Oの構造例を示す断面図であり、図5図4に示すはんだ付け対象Oをはんだコートして得られるはんだ付け品の構造例を示す断面図である。
【0035】
図4に示すように基板O2にランドO3とレジスト部O4を形成した回路基板O1のランドO3をはんだでコーティングする場合には、電子部品O5を取付ける前の回路基板O1のみをはんだ付け対象Oとしてはんだを噴霧することができる。回路基板O1のみにはんだを噴霧すると、微小な範囲であっても図5に示すようにランドO3を2μmから3μm程度の厚さを有するはんだでコーティングすることができる。
【0036】
一方、LED、ICチップ或いはチップコンデンサ等の電子部品O5についても、例えば、特開2013-069758号公報に開示されているような電子部品O5の形状に応じた治具を用いてはんだを噴霧すれば、電子部品O6の必要な部分をはんだでコーティングすることができる。
【0037】
ランドO3等の導体部を構成する銅の表面をはんだでコーティングすると、銅の表面を保護して酸化を防止できるのみならず、はんだ付けを行う際にはんだの濡れ性を向上する効果を得ることができる。このため、銅のはんだコートは、はんだ付けの前処理として実行することができる。
【0038】
回路基板O1や電子部品O5の導体部がはんだ付け装置1ではんだコートされる場合には、後工程で電子部品O5と回路基板O1との間におけるはんだ付けが行われることになる。従って、はんだ付け装置1の後段に電子部品O5と回路基板O1との間におけるはんだ付けを所望の方法で行う別のはんだ付け装置を連結しても良い。
【0039】
典型的な具体例として、予め固形はんだを付着させた電子部品O5をはんだコートされた回路基板O1上に載置した状態で加熱すれば、固形はんだが溶融するため電子部品O5を回路基板O1にはんだ付けすることができる。もちろん、加熱して溶融したはんだを付着させた電子部品O5をはんだコートされた回路基板O1上に載置してはんだ付けしても良い。
【0040】
以降では、主にはんだ付け対象Oが電子部品O5を接着剤O7で接着したPCB等の回路基板O1又は回路基板O1単体である場合を例に説明するが、電子部品O5等の他の物体をはんだ付け対象Oとする場合においても、適切な治具を用いて同様にはんだ付け装置1ではんだ付け対象Oに向けてはんだを噴霧することができる。
【0041】
また、はんだ付け装置1には、溶融はんだの噴霧に加えて、はんだを噴霧する前における前処理として、導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去する処理を行う機能と、はんだを噴霧した後の後処理として、はんだ付け対象Oに付着した過剰なはんだを除去する洗浄処理を行う機能の一方又は双方を必要に応じて設けることができる。
【0042】
そのために、はんだ付け装置1は、チャンバ2、送り機構3、酸化膜除去部4、はんだ噴霧部5及び過剰はんだ除去部6をフレームに組付けて構成することができる。
【0043】
チャンバ2は、はんだ付け対象Oに少なくとも溶融したはんだを噴霧するための空間Sを内部に形成するための容器である。このため、チャンバ2は、入口2Aと出口2Bを有し、壁面2Cで囲まれた構造を有する。
【0044】
加えて、チャンバ2には、はんだが噴霧される空間Sの入口2A側から空間Sへの空気の流入を防ぐ第1の液槽7と、空間Sの出口2B側から空間Sへの空気の流入を防ぐ第2の液槽8が設けられる。従って、はんだが噴霧される空間Sは、第1の液槽7及び第2の液槽8と接触する部分を除けば、壁面2Cで囲まれる。換言すれば、はんだが噴霧される空間Sは、第1の液槽7、第2の液槽8及び壁面2Cによってチャンバ2の外部から遮蔽された閉空間となっている。
【0045】
これにより、はんだが噴霧される空間Sへの外部からの酸素を含む空気の流入が抑止され、チャンバ2内の空間Sにおいてはんだ付け対象Oの導体部を構成する銅の酸化を防止することができる。
【0046】
はんだ付け対象Oにはんだを噴霧するためには、はんだ付け対象Oをチャンバ2内の空間Sに送り込んだ後、チャンバ2外に送り出すことが必要となる。従って、はんだ付け対象Oは、第1の液槽7及び第2の液槽8を通過することになる。従って、第1の液槽7及び第2の液槽8にそれぞれ充填される液体には、はんだの溶融温度付近において、はんだ付け対象Oの表面に付着したはんだの濡れ性を劣化させない性質と導体部を構成する銅を酸化させない性質が要求される。
【0047】
そのような性質を有する液体の候補としては、直鎖脂肪酸が挙げられる。度重なる試験の結果、炭素原子数12のラウリン酸CH(CH10COOH、炭素原子数14のミリスチン酸CH(CH12COOH、炭素原子数16のパルミチン酸CH(CH14COOH、炭素原子数18のステアリン酸CH(CH16COOHなど、炭素原子の数が12以上の直鎖脂肪酸が適していることが確認された。これは、炭素原子の数が12未満の脂肪酸は水分を含み、酸化を防止する効果が殆ど無いためであると推考される。
【0048】
また、試験の結果、炭素原子数16のパルミチン酸が最も優れた性質を有し、炭素原子数14のミリスチン酸と炭素原子数18のステアリン酸が次に優れた性質を有することも確認された。
【0049】
このため、炭素原子の数が12以上の直鎖脂肪酸、特に炭素原子数16のパルミチン酸、炭素原子数14のミリスチン酸又は炭素原子数18のステアリン酸を第1の液槽7及び第2の液槽8に充填する液体とすることが好ましい。
【0050】
但し、脂肪酸は常温では固体であり、流動性が無い。このため、脂肪酸を液体の状態で保つためには、液体の配管系統を含めて加熱することが必要となる。そこで、脂肪酸をエステルと混合して流動性を持たせるようにしても良い。その場合、脂肪酸を加熱して液体の状態で流したり、貯留したりするための加熱装置が不要となるため、はんだ付け装置1の装置構成を簡易にすることができる。
【0051】
従って、第1の液槽7及び第2の液槽8に充填される液体としては、エステルの混合又は加熱によって流動性が付与された直鎖脂肪酸、すなわち直鎖脂肪酸とエステルの混合液又は液体の直鎖脂肪酸を用いることができる。尚、尚、脂肪酸はそもそもエステルの材料である。このため、脂肪酸を混合したエステルは重合が不十分なエステルのような液体となる。
【0052】
第1の液槽7に充填される液体と、第2の液槽8に充填される液体は、互いに異なる液体としても良いが、同一の液体とすれば、はんだ付け装置1の装置構成を簡易にすることができる。このため、図1に示す例では、第1の液槽7と、第2の液槽8が物理的に分離した状態で設けられているが、互いに連結しても良い。具体例として、第1の液槽7と、第2の液槽8とを配管で連結したり、物理的に分離していない共通の液槽の一部を第1の液槽7として利用する一方、別の一部を第2の液槽8として利用したりしても良い。
【0053】
チャンバ2内の空間Sにおける酸素濃度を無視できる程度まで低減するために仮に真空度を高くすると、第1の液槽7及び第2の液槽8に充填される液体の蒸発量が増加し、脂肪酸又は脂肪酸とエステルが気体の状態で存在することとなる。試験の結果、特定の温度及び特定のはんだ付け対象Oの送り速度の条件下では、はんだ付け対象Oの導体部を構成する銅の量が減少する場合があることが確認された。特に、マイクロLEDをはんだ付けするためのランドO3のように導体部を構成する銅の厚さが1μm以下である場合には、銅の減少量が無視できない程度となることも確認された。
【0054】
そこで、チャンバ2内の空間Sに充満する気体に含まれる脂肪酸及びエステルの濃度を低減するために、窒素(N)ガスや炭酸(HCO)ガス等の不活性ガスを空間Sに注入したところ、脂肪酸及びエステルの濃度が減少すると、銅の減少量も減少することが確認された。つまり、チャンバ2内の空間Sにおける雰囲気を、脂肪酸又は脂肪酸とエステルに適量の不活性ガスを混合した気体にすると、銅の減少量を無視できる程度に低減できることが試験によって確認された。
【0055】
従って、導体部を構成する銅の厚さが1μm以下であるはんだ付け対象Oにはんだを噴霧する場合には、チャンバ2内の空間Sに不活性ガスを充填して空間S内の圧力を調整する圧力制御系9を設けることが適切である。図1に示す例では、圧縮窒素ガス等の圧縮不活性ガスを貯留するバルブ付の不活性ガスタンク9Aと、不活性ガスタンク9Aをチャンバ2内の空間Sと連結するガス供給管9Bによって圧力制御系9が構成されている。このため、不活性ガスタンク9Aのバルブを調整して適切な圧力で圧縮不活性ガスを、ガス供給管9Bを介してチャンバ2内の空間S内に注入することができる。
【0056】
送り機構3は、回路基板O1等のはんだ付け対象Oを保持し、チャンバ2の入口2Aから第1の液槽7を経由してチャンバ2内の空間Sに送り込んだ後、第2の液槽8を経由してチャンバ2の出口2Bからチャンバ2外に送り出す装置である。送り機構3は、はんだ付け対象Oを第1の液槽7及び第2の液槽8に浸漬した後、引上げる必要があることから、回路基板O1等のはんだ付け対象Oを取付けるための治具10、治具10を移動させるための無限軌道(クローラ)11及び無限軌道11を駆動するモータ12で構成することが実用的である。
【0057】
図1に示す例では、スプロケット11Aで移動するチェーン11Bで無限軌道11が構成されているが、滑車で移動するワイヤや耐熱ベルト等で無限軌道11を構成しても良い。また、別の具体例として、無限軌道11を用いずに、長さ方向が変化するラック・アンド・ピニオンではんだ付け対象Oを鉛直方向にも移動させることが可能な送り機構3を構成し、ピニオンを往復移動させて、はんだ付け対象Oの移送が完了した後、初期位置に戻す構成としても良い。
【0058】
図1に示す例では、チェーン11Bの一部がチャンバ2内の第1の液槽7、空間S及び第2の液槽8を通るように多数のスプロケット11Aが配置されており、モータ12の動力で少なくとも1つのスプロケット11Aが回転するように構成されている。また、チャンバ2の外側における入口2A付近にはんだ付け対象Oを取付けた治具10をチェーン11Bにセットするための投入エリア13が設けられており、逆に、チャンバ2の外側における出口2B付近にはんだ付け対象Oを取付けた治具10をチェーン11Bから取外すための取出エリア14が設けられている。
【0059】
回路基板O1の厚さ方向を鉛直方向として上下からはんだを噴霧する試験を行ったところ、上方から噴霧された霧状のはんだが回路基板O1に付着して液滴となり、液体のはんだが回路基板O1上を流れてはんだポケットO6に流れ込んでしまう現象が生じた。霧状のはんだと異なり、液滴となったはんだが微細なはんだポケットO6に流れ込むと表面張力によって溶融はんだの表面が曲面となり、ランドO3との間に隙間が生じてしまう。
【0060】
このため、はんだの噴霧位置において回路基板O1の厚さ方向が鉛直方向又は鉛直方向に近い方向とならないようにすることが、微細なはんだポケットO6に隙間なくはんだを充填できるようにする観点から重要である。そこで、はんだ付け対象Oが板状の回路基板O1である場合には、少なくともはんだが回路基板O1に噴霧される位置において、水平方向と回路基板O1の厚さ方向とのなす角度が0度以上45度以下となるように治具10で回路基板O1を保持することが好ましい。
【0061】
これにより、マイクロLEDをはんだ付けする場合のように微細なはんだポケットO6を有する回路基板O1の上面にはんだの液滴が生じることを防止し、微細なはんだポケットO6のはんだ付け不良を防止することができる。換言すれば、微細なはんだポケットO6を有する回路基板O1であっても、はんだポケットO6に隙間なくはんだを充填することが可能となる。
【0062】
図6図1に例示される回路基板O1を取付けた状態における治具10の右側面図であり、図7図6に例示される治具10をセットするためのブラケット11Cを取付けたチェーン11Bの部分拡大図である。
【0063】
図1及び図6に示す例のように、治具10を、回路基板O1の縁をねじ止め等で保持して吊下げる吊下式の治具とすれば、回路基板O1の厚さ方向を概ね水平方向とすることができる。すなわち、回路基板O1を寝かせずに立てることができる。このため、微細なはんだポケットO6を有する回路基板O1であっても、回路基板O1の両面にはんだの液滴が付着することを防止し、はんだポケットO6に隙間なくはんだを充填することが可能となる。
【0064】
また、治具10の進行方向から見た側面形状をT字状として2本のチェーン11Bで支持する構成とすれば、回路基板O1の片面及び両面のいずれにはんだを付着させる場合であっても、左右両側からはんだを噴霧して必要なランドO3にはんだを付着させることができる。
【0065】
図示された例では、治具10が、ロッド10Aにブラケット10Bを連結した構成となっている。ロッド10Aの両端には、治具10がチェーン11Bから脱落することを防止するための円板状のストッパが設けられている。ブラケット10Bの縁は板を挟み込む形状を有しており、ブラケット10Bには回路基板O1の縁をねじで固定することができる。そのために、回路基板O1の縁には余肉を形成してねじ留め用の穴を設けておくことができる。
【0066】
そして、治具10は、ロッド10Aの長さ方向が治具10の進行方向に対して垂直方向となる向きで使用される。そうすると、回路基板O1の厚さ方向が概ね水平方向となるように、治具10で回路基板O1を吊下げることができる。
【0067】
他方、図7に例示されるように、ペアをなす2本のチェーン11Bにはそれぞれ板材の縁に凹部を形成したブラケット11Cが一定の間隔で取付けられている。このため、チェーン11Bに取付けられたペアをなす2つのブラケット11Cの凹部に治具10のロッド10Aを載置すれば、2つのブラケット11Cで治具10のロッド10Aを両側において支持することができる。
【0068】
尚、回路基板O1の送り速度を速くすることによって、はんだの液滴の発生又は発生したはんだの液滴の微細なはんだポケットO6への流入を防止するようにしても良い。その場合には、回路基板O1の厚さ方向を概ね鉛直方向としても良い。
【0069】
但し、回路基板O1の厚さ方向を水平方向又は鉛直方向よりも水平方向に近い向きにすれば、回路基板O1の送り速度についての自由度を確保することができる。このため、はんだの噴霧時間を回路基板O1のサイズや形状等の条件に合わせて自在に調整することが可能となる。噴霧されるはんだの組成やはんだ付け対象Oのサイズ及び形状によって異なるものの、適量のはんだをはんだ付け対象Oの導体部に万遍なく付着させるために適切なはんだ付け対象Oの送り速度は概ね3m/分から4m/分程度である。
【0070】
治具10で保持された回路基板O1等のはんだ付け対象Oは、送り機構3の駆動によってチャンバ2の入口2Aからチャンバ2内に送り込まれた後、第1の液槽7に浸漬される。第1の液槽7では、はんだ付け対象Oの予熱を行うことができる。
【0071】
図1に示す例では、第1の液槽7に油冷却循環パイプ等の冷却媒体循環パイプ7Aが冷却装置として、パネルヒータ7Bが加熱装置として、それぞれ取付けられている。このため、第1の液槽7に充填される脂肪酸等の液体の温度が、過剰に液体が蒸発せず、かつはんだ付け対象Oの予熱に適した適温となるように微調整することができる。
【0072】
錫を主成分とする典型的な無鉛はんだを噴霧するためには、雰囲気の温度を200℃~300℃程度まで加熱することが必要となるが、常温のはんだ付け対象Oを瞬時に数100℃まで加熱すると望ましくない熱衝撃によってはんだ付け対象Oの品質が劣化する恐れがある。そこで、はんだ合金の組成によっても異なるが、第1の液槽7に充填される脂肪酸等の液体ではんだ付け対象Oを60℃~70℃程度まで予熱しておくことが好ましい。つまり、パネルヒータ7Bで加熱された脂肪酸等の液体を貯留する第1の液槽7自体を、はんだ付け対象Oの予熱を行うための加熱装置として機能させることができる。
【0073】
第1の液槽7の後方におけるチャンバ2内の空間Sは、第1の洗浄エリア15、はんだ噴霧エリア16及び第2の洗浄エリア17を連結した空間とすることができる。第1の洗浄エリア15は、第1の洗浄液を噴射することによって、第1の液槽7で予熱されたはんだ付け対象Oの導体部から酸化被膜を除去するためのエリアである。はんだ噴霧エリア16は、第1の洗浄エリア15の後方において、酸化被膜が除去されたはんだ付け対象Oにはんだを噴霧するためのエリアである。第2の洗浄エリア17は、はんだ噴霧エリア16の後方において、第2の洗浄液を噴射することによって、はんだが噴霧された後のはんだ付け対象Oから過剰なはんだを除去するためのエリアである。
【0074】
従って、はんだ噴霧エリア16を含む空間Sの温度がはんだの噴霧に適した温度となるように、空間Sを囲むチャンバ2の壁面2Cは、パネルヒータ2D等の加熱装置で加熱される。図1に示す例では、複数のパネルヒータ2Dが空間Sを囲むチャンバ2の壁面2Cに取付けられている。
【0075】
また、第1の洗浄液、溶融はんだ及び第2の洗浄液がそれぞれ意図しないエリアに過剰に入り込まないように、第1の洗浄エリア15とはんだ噴霧エリア16との間及びはんだ噴霧エリア16と第2の洗浄エリア17との間を、部分的に仕切板2Eで仕切ることが好ましい。例えば、図6に例示されるように移送方向から見た形状がT字形の治具10で吊下げられた回路基板O1を2本のチェーン11Bで移送する場合であれば、概ねT字状のスリットを設けた仕切板2Eで空間Sを仕切ることによって、第1の洗浄エリア15、はんだ噴霧エリア16及び第2の洗浄エリア17を形成することができる。また、チャンバ2内の空間Sにチェーン11Bをガイドするためのスプロケット11Aを配置する場合には、スプロケット11Aにはんだ等が過剰に付着しないようにスプロケット11Aを配置するためのスペースを仕切板2Eで仕切るようにしても良い。
【0076】
酸化膜除去部4は、はんだ付け装置1に付加的に内蔵される酸化被膜除去装置であり、空間S内の第1の洗浄エリア15において、はんだが噴霧される前のはんだ付け対象Oに第1の洗浄液として酸化膜除去液を噴射することによって導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去する機能を有している。
【0077】
酸化膜除去液についても、第1の液槽7に充填される液体と同様に、はんだの溶融温度付近において、はんだ付け対象Oの導体部の表面に付着したはんだの濡れ性を劣化させない性質と導体部を構成する銅を酸化させない性質が要求される。このため、酸化膜除去液についても、第1の液槽7に充填される液体と同様に、エステルの混合又は加熱によって流動性が付与された直鎖脂肪酸、すなわち直鎖脂肪酸とエステルの混合液又は液体の直鎖脂肪酸を用いることができる。
【0078】
脂肪酸等の酸化膜除去液で導体部から酸化被膜を十分に除去するためには、導体部を構成する銅を、120℃から300℃程度まで加熱することが好ましい。これは、銅を加熱すれば、銅の熱膨張率と、酸化銅の熱膨張率との相違によって酸化被膜が銅から剥がれ、剥がれた酸化被膜と銅との間に入り込んだ酸化膜除去液が界面活性剤のように酸化被膜を包んで流れ落ちるためである。
【0079】
そこで、酸化膜除去液自体を加熱し、加熱した酸化膜除去液を加熱媒体としてはんだ付け対象Oの導体部を構成する銅を加熱することができる。尚、銅の加熱温度は、はんだ付け対象Oを構成する材料の耐熱性やはんだの溶融温度等の条件に合わせて決定することができる。
【0080】
図8図1に例示される酸化膜除去部4のチャンバ2内外における構成を示す図1の位置A-Aにおける部分断面図である。
【0081】
酸化膜除去部4は、例えば、図1及び図8に例示されるように、洗浄液貯留タンク18、パイプヒータ19、第1の洗浄液噴射ノズル20、配管21、ポンプ22及びバルブ23で構成することができる。洗浄液貯留タンク18は、加熱媒体を兼ねた第1の洗浄液として使用される酸化膜除去液を貯留するためのタンクである。パイプヒータ19は、加熱油等の加熱媒体を内部に循環させることによって、洗浄液貯留タンク18内の酸化膜除去液を加熱する加熱装置である。
【0082】
第1の洗浄液噴射ノズル20は、酸化膜除去液をはんだ付け対象Oに向けて噴出するためのノズルである。図示された例では、はんだ付け対象Oのサイズに合わせてはんだ付け対象Oの進行方向に向かって左右に3本ずつ、合計6本の第1の洗浄液噴射ノズル20が噴射方向を水平方向として第1の洗浄エリア15内に固定及び配置されている。
【0083】
各第1の洗浄液噴射ノズル20は、それぞれチャンバ2の壁面2Cを貫通する配管21で共通の洗浄液貯留タンク18と連結される。洗浄液貯留タンク18内の酸化膜除去液は、ポンプ22で汲み上げて配管21内に押し出すことができる。これにより、洗浄液貯留タンク18内の酸化膜除去液が下流側で分岐する配管21内を流れて各第1の洗浄液噴射ノズル20に供給される。各第1の洗浄液噴射ノズル20に供給される酸化膜除去液の流量は、各第1の洗浄液噴射ノズル20の近傍におけるチャンバ2外の配管21上に設けられたバルブ23で調整することができる。これにより、各第1の洗浄液噴射ノズル20から適切な圧力で酸化膜除去液を第1の洗浄エリア15に噴出することができる。
【0084】
尚、酸化膜除去液として、エステルを混合せずに加熱によって液化した直鎖脂肪酸を使用する場合には、直鎖脂肪酸の温度を高温のまま維持しないと凝固して配管21等の流路が詰まる恐れがある。このため、洗浄液貯留タンク18をパイプヒータ19等の加熱装置で加熱するのみならず、配管21等の流路についても加熱装置で加熱することが適切である。
【0085】
上述したように、第1の洗浄エリア15及び酸化膜除去部4を設けてはんだ付け対象Oの導体部を構成する銅の表面に形成される酸化被膜を除去するように構成すれば、従来必要であったニッケルメッキ、金メッキ或いはスズメッキ等のメッキ、防錆剤の塗布、レベラー処理又はプリフラックス処理等の防錆対策が一切不要となる。このため、より少ない工程ではんだ付け対象Oのはんだ付けを行うことが可能となる。
【0086】
パイプヒータ19等の加熱装置で酸化膜除去液を加熱することによるはんだ付け対象Oの加熱は、はんだの噴霧前における予熱としての役割も担う。すなわち、第1段階の予熱として、酸化被膜が除去される前におけるはんだ付け対象Oを、パネルヒータ7B等の加熱装置で加熱された第1の液槽7内における脂肪酸等の液体で加熱した後、第2段階の予熱として、酸化被膜が除去された後におけるはんだ付け対象Oを、パイプヒータ19等の加熱装置で加熱された酸化膜除去液で加熱することができる。
【0087】
例えば、酸化膜除去液の温度を、はんだを噴霧する際に要求されるはんだ付け対象Oの温度と同程度の温度まで昇温すれば、はんだ付け対象Oの温度を、酸化膜除去液の温度よりも若干低い温度まで予備加熱することができる。より具体的な例として、はんだを噴霧する際に要求されるはんだ付け対象Oの温度に合わせて酸化膜除去液の温度を250℃に加熱すれば、はんだ付け対象Oを200℃程度まで昇温することができる。
【0088】
図9図1に例示されるはんだ噴霧部5の構成を示す図1の位置B-Bにおける部分断面図である。尚、図9では、第1の洗浄液を供給する配管21等の図示が省略されている。
【0089】
はんだ噴霧部5は、はんだ付け装置1に内蔵されるはんだ噴霧装置であり、空間Sのはんだ噴霧エリア16内においてはんだ付け対象Oにはんだを噴霧する機能を有している。はんだ噴霧部5は、少なくとも溶融したはんだを貯留するはんだ貯留タンク24、はんだ噴霧エリア16内に溶融したはんだを噴霧するための少なくとも1つのはんだ噴霧ノズル25、各はんだ噴霧ノズル25をはんだ貯留タンク24と連結する配管26、溶融したはんだの温度を調整することによって溶融はんだを適温に保つための少なくとも1つの加熱装置27及び各はんだ噴霧ノズル25にされる溶融はんだの流量を調節するためのバルブ28で構成することができる。
【0090】
常温での流動性が付与された脂肪酸とエステルの混合液等の酸化膜除去液を噴射する場合と異なり、溶融はんだは温度が低下すると固形物が析出したり、凝固したりしてしまい、流路で詰まる場合が多い。特に、マイクロLEDを回路基板O1のランドO3にはんだ付けする場合のように、はんだ付け対象Oの導体部分のサイズがマイクロメートルオーダである場合には、ミリメートルオーダ以上のサイズを有するはんだ付け対象Oにはんだを噴霧する場合に比べて溶融はんだの供給量とともにはんだ噴霧ノズル25及び配管26の太さが小さくなるため、溶融はんだに僅かに固形物が析出しただけで微小なサイズの出口を有するはんだ噴霧ノズル25や微小な内径を有する配管26が詰まる場合が多い。
【0091】
また、溶融はんだをポンプで汲み上げようとすると、ポンプ内で溶融はんだが凝固してポンプが頻繁に故障するか、部品の交換や洗浄などのメンテナンスが必須となるのみならず、耐熱性を有するポンプとポンプ自体を加熱するための複雑な加熱装置が必要となる。
【0092】
そこで、はんだ噴霧部5を、ポンプを使用せずに溶融はんだを汲み上げ、かつ加熱装置27ではんだ貯留タンク24及び配管26の双方を加熱する構成とすることができる。尚、はんだ噴霧ノズル25については、チャンバ2内のはんだ噴霧エリア16に配置されるため、チャンバ2を加熱するためのパネルヒータ2D等の加熱装置でチャンバ2とともに加熱することができる。
【0093】
ポンプを使用せずに溶融はんだを汲み上げる方法としては、図示されるように、はんだ貯留タンク24内に窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガスを注入する不活性ガス供給系29をはんだ噴霧部5に設け、はんだ貯留タンク24内に注入された不活性ガスの圧力ではんだ貯留タンク24内の溶融したはんだを配管26及びはんだ噴霧ノズル25に向けて噴出させる方法が挙げられる。
【0094】
図示された例では、板厚方向を概ね水平方向として送り機構3のチェーン11Bで移送される回路基板O1の両面側から溶融はんだを噴霧できるように、回路基板O1の進行方向に向かって左右に3本ずつ、合計6本のはんだ噴霧ノズル25が噴射方向を水平方向としてはんだ噴霧エリア16内に固定及び配置されている。
【0095】
また、鉛直方向に隣接するはんだ噴霧ノズル25から噴霧される溶融はんだの噴霧領域Rが回路基板O1上において互いにオーバーラップするようにはんだ噴霧ノズル25の鉛直方向における間隔が決定されている。このため、回路基板O1のサイズをカバーする溶融はんだの噴霧領域Rを形成することができる。
【0096】
そして、回路基板O1の両側に配置されたはんだ噴霧ノズル25が、それぞれチャンバ2の壁面2Cを貫通する配管26で、対応する2つのはんだ貯留タンク24と連結されており、チャンバ2外において各はんだ噴霧ノズル25に向かって分岐した配管26上にそれぞれバルブ28が設けられている。
【0097】
このため、不活性ガスを貯留するバルブ付の不活性ガスタンク29Aと、不活性ガスタンク29A内の不活性ガスをはんだ貯留タンク24内に供給する配管29Bで構成された不活性ガス供給系29で、圧力が調整された不活性ガスを各はんだ貯留タンク24内に注入することができる。これにより、各はんだ貯留タンク24内に貯留されている溶融はんだの液面に不活性ガスの圧力が負荷されて、溶融はんだを配管26内に押し出すことができる。すなわち、典型的な構造を有するポンプを使用せずに、不活性ガスの圧力で溶融はんだを各はんだ貯留タンク24から汲み上げるとともに、はんだ噴霧ノズル25からはんだ噴霧エリア16内に噴霧することができる。
【0098】
また、はんだ貯留タンク24の位置をはんだ噴霧ノズル25の鉛直直下とすることにより、配管26の形状をはんだ噴霧ノズル25に向かって分岐する部分を除いて直線的な単純形状とすることができる。すなわち、配管26の湾曲部分を極力形成しないことによって、配管26が詰まるリスクを低減することができる。
【0099】
加えて、上述したように、はんだ貯留タンク24と配管26の双方を加熱できるように、加熱装置27を、はんだ貯留タンク24を加熱するための第1の加熱装置27Aのみならず、配管26を加熱するための第2の加熱装置27Bで構成することができる。図1及び図9に示す例では、はんだ貯留タンク24の側面を覆うバンドヒータ27Cとはんだ貯留タンク24の底面に配置されたパネルヒータ27Dで第1の加熱装置27Aが構成されており、加熱油等の加熱媒体を循環させる加熱パイプ27Eで第2の加熱装置27Bが構成されている。
【0100】
加えて、図1及び図9に示す例では、内側の第1の流路の外側に第2の流路を配置した二重配管30がはんだ噴霧部5の構成要素として設けられており、二重配管30の内側における第1の流路がはんだ貯留タンク24とはんだ噴霧ノズル25とを連結する配管26として使用される一方、外側の第2の流路が加熱パイプ27Eとして使用されている。すなわち、加熱パイプ27Eとして使用される外側の第2の流路に加熱油等の加熱媒体を流すことによって、配管26を構成する内側の第1の流路を流れる溶融はんだが加熱される。
【0101】
このため、はんだ貯留タンク24内における溶融はんだのみならず、配管26内における溶融はんだの温度が低下せずに適温となるように調整し、溶融はんだに固形物が析出したり、部分的に凝固したりすることを防止することができる。
【0102】
このように、はんだ貯留タンク24及び配管26内における溶融はんだの温度をバンドヒータ27Cや加熱パイプ27E等の加熱装置27で調整しながら、不活性ガス供給系29ではんだ貯留タンク24に不活性ガスを注入するはんだ噴霧部5の構成によって、溶融はんだの経路上における詰まりを防止することができる。
【0103】
マイクロLEDを回路基板O1のランドO3にはんだ付けする場合のように、はんだ噴霧ノズル25の噴出口のサイズが特に微小である場合には、溶融はんだ内に固形物が生じたり、凝固したりしないように加熱装置27ではんだ貯留タンク24及び配管26の双方を加熱するのみならず、溶融はんだ自体の品質も固形物を含まない高品質な溶融はんだとすることが、はんだ噴霧ノズル25及び配管26の詰まりを防止する観点から重要である。
【0104】
加えて、マイクロLEDを回路基板O1にはんだ付けするためのはんだポケットO6をはんだで充填する場合のように、極めて微量のはんだをランドO3に付着させることが求められる場合には、はんだ付け品の品質を確保する観点からも、固形物をできるだけ含まない高品質な溶融はんだを噴霧することが重要となる。
【0105】
例えば、マイクロLEDをはんだ付けするためのはんだポケットO6の深さが10μm以下である場合において、粒径が10μmを超える固形物が含まれる溶融はんだを噴霧すれば、固形物がはんだポケットO6に入り込み、マイクロLEDが目的とする向きに対して傾斜した状態で回路基板O1にはんだ付けされてしまう不具合が生じ得る。また、固形物ではんだ噴霧ノズル25の出口が詰まる不具合も生じ得る。
【0106】
そこで、はんだ付け対象Oの導体部、はんだ噴霧ノズル25及び配管26の各サイズに応じた適切な品質の溶融はんだを使用することが適切である。典型的な具体例として、はんだポケットO6の深さが10μmであれば、粒径が10μmを超える固形物を含まない溶融はんだ、粒径が5μmを超える固形物を含まない溶融はんだ或いは粒径が3μmを超える固形物を含まない溶融はんだなど、高品質な溶融はんだを噴霧することが適切である。
【0107】
はんだ噴霧ノズル25の出口のサイズが大きく、はんだ付け品の品質のみを考慮すれば良い場合には、はんだ付け品に要求される品質に合わせて溶融はんだの品質を決定することができる。高品質な溶融はんだは低品質な溶融はんだよりも高価であるため、はんだ付け品の品質よりも溶融はんだのコスト低減を重視して、所定の粒径を有する固形物を含まない溶融はんだと、所定の粒径を有する固形物を含む溶融はんだとを混合して得られる溶融はんだをはんだ噴霧ノズル25からはんだ噴霧エリア16に噴霧するようにしても良い。
【0108】
具体例として、粒径が10μmを超える固形物を含まない溶融はんだと粒径が10μmを超える固形物を含む溶融はんだを混合した溶融はんだ、粒径が5μmを超える固形物を含まない溶融はんだと粒径が5μmを超える固形物を含む溶融はんだを混合した溶融はんだ、粒径が3μmを超える固形物を含まない溶融はんだと粒径が3μmを超える固形物を含む溶融はんだを混合した溶融はんだなどを噴霧するようにしても良い。
【0109】
所定の粒径を有する固形物を含まない溶融はんだと、所定の粒径を有する固形物を含む溶融はんだとを混合する場合においても、固形物の含有量が融解前におけるはんだに対して0.03重量%以下となるように混合することが溶融はんだの品質を著しく劣化させない観点から適切であると考えられる。
【0110】
従って、所定の粒径を有する固形物を含まない溶融はんだと、所定の粒径を有する固形物を含む溶融はんだとを混合する場合においても、粒径が10μmを超える固形物の含有量が、融解前におけるはんだに対して0.03重量%以下となっている溶融はんだ、粒径が5μmを超える固形物の含有量が、融解前におけるはんだに対して0.03重量%以下となっている溶融はんだ、粒径が3μmを超える固形物の含有量が、融解前におけるはんだに対して0.03重量%以下となっている溶融はんだなどを噴霧することが適切である。
【0111】
溶融はんだが噴霧されるはんだ噴霧エリア16の後方には、第2の洗浄エリア17が形成される。第2の洗浄エリア17では、上述したように第2の洗浄液を噴射することによって、はんだ付け対象Oから過剰なはんだを落とすことができる。
【0112】
図10図1に例示される過剰はんだ除去部6の構成を示す図1の位置C-Cにおける部分断面図である。尚、図10では、背後に配置されるはんだ噴霧部5や第1の洗浄液を供給する配管21及びポンプ22等の一部の構成要素の図示が省略されている。
【0113】
過剰はんだ除去部6は、はんだ付け装置1に必要に応じて付加的に内蔵される過剰はんだ除去装置であり、空間S内の第2の洗浄エリア17において、はんだが噴霧された後のはんだ付け対象Oに第2の洗浄液として過剰はんだ除去液を噴射することによって、はんだ付け対象Oに付着した過剰なはんだをはんだ付け対象Oから除去する機能を有している。そのために、過剰はんだ除去部6は、第2の洗浄液である過剰はんだ除去液を噴射するための少なくとも1つの第2の洗浄液噴射ノズル31、第2の洗浄液噴射ノズル31に過剰はんだ除去液を供給するための配管32及び第2の洗浄液噴射ノズル31に供給される過剰はんだ除去液の流量を調節するバルブ33を用いて構成することができる。
【0114】
過剰はんだ除去液についても、第2の洗浄エリア17がはんだ噴霧エリア16と仕切板2Eで完全には仕切られていないことから、第1の液槽7に充填される液体及び酸化膜除去液と同様な性質が要求される。すなわち、過剰はんだ除去液には、はんだの溶融温度付近において、はんだ付け対象Oの導体部の表面に付着したはんだの濡れ性を劣化させない性質と導体部を構成する銅を酸化させない性質が要求される。このため、過剰はんだ除去液についても、第1の液槽7に充填される液体及び酸化膜除去液と同様に、エステルの混合又は加熱によって流動性が付与された直鎖脂肪酸、すなわち直鎖脂肪酸とエステルの混合液又は液体の直鎖脂肪酸を用いることができる。
【0115】
従って、はんだ付け装置1の装置構成を簡易にする観点から過剰はんだ除去液と酸化膜除去液を共通の液体とすることができる。図示された例では、洗浄液貯留タンク18に貯留される洗浄液を共通のポンプ22で汲み上げて、酸化膜除去液としてのみならず過剰はんだ除去液としても使用できるように、過剰はんだ除去液を供給するための配管32が洗浄液貯留タンク18に連結された配管21から分岐しており、過剰はんだ除去液を供給するための配管32の先に第2の洗浄液噴射ノズル31が連結されている。
【0116】
第2の洗浄液噴射ノズル31についても、第1の洗浄液噴射ノズル20と同様に、はんだ付け対象Oのサイズに合わせて鉛直方向に異なるチャンバ2内の位置に複数の第2の洗浄液噴射ノズル31を配置することができる。
【0117】
酸化膜除去液ははんだ付け対象Oの導体部に付着しさえすれば表面張力で銅と酸化被膜との間に入り込むため高圧とする必要が無いのに対して、過剰はんだ除去液ははんだ付け対象Oに付着した過剰なはんだを落とす効果が得られるように圧力を十分に高くすることが必要となる。酸化膜除去液と過剰はんだ除去液を洗浄液貯留タンク18から共通のポンプ22で汲み上げる場合であっても、酸化膜除去液の圧力と、過剰はんだ除去液の圧力は、それぞれ酸化膜除去液の流量を調整するバルブ23と過剰はんだ除去液の流量を調整するバルブ33の操作によって独立して制御することができる。
【0118】
しかしながら、試験の結果、バルブ33の調整によって過剰はんだ除去液の圧力を高くし過ぎると、回路基板O1等のはんだ付け対象Oにはんだ付けされたマイクロLED等の電子部品O5が落下してしまう不具合が生じる場合があることが確認された。
【0119】
従って、過剰はんだ除去液の圧力は、バルブ33の調整によって電子部品O5が落下しない程度の圧力に抑えることが重要となる。しかしながら、過剰はんだ除去液の圧力を抑えると、過剰なはんだを十分に落とすことができない場合があることも、試験によって確認された。特に、ランドO3等の導体部に付着させるべきはんだの厚さが2μmから3μm程度である場合において、電子部品O5が落下しないように過剰はんだ除去液の圧力を制限すると、レジスト部O4等の導体部以外の部分に付着したはんだを十分に落とせない場合がしばしば生じることが試験によって確認された。
【0120】
そこで、はんだ付け対象Oの送出し方向に複数の第2の洗浄液噴射ノズル31を配置し、過剰はんだ除去液の噴射時間を長くすることができる。はんだ付け対象Oの送り速度を3m/分から4m/分として行った試験の結果、はんだ付け対象Oの送出し方向に離間配置される第2の洗浄液噴射ノズル31の数を3つ以上としても効果が無いことと、はんだ付け対象Oの送出し方向に離間配置される第2の洗浄液噴射ノズル31の間隔が長過ぎると過剰はんだ除去液が断続的に噴射されることとなり、はんだ付け対象Oの送出し方向に複数の第2の洗浄液噴射ノズル31を配置する効果が無くなることが確認された。
【0121】
従って、過剰はんだ除去液がはんだ付け対象Oに連続的に噴射されるようにはんだ付け対象Oの送出し速度に応じて決定した適切な間隔で2つの第2の洗浄液噴射ノズル31をはんだ付け対象Oの送出し方向に異なる位置に配置することが、電子部品O5の落下を防止しつつ過剰ははんだを十分に落とすために好ましい条件となる。
【0122】
試験の結果、導体部に付着させるべきはんだの厚さが2μmから3μmであるはんだ付け対象Oを3m/分から4m/分の送り速度で送り出す条件下では、図1に示すように、送り機構3によるはんだ付け対象Oの送出し方向に異なる位置でそれぞれ過剰はんだ除去液を噴射する前方の第2の洗浄液噴射ノズル31と後方の第2の洗浄液噴射ノズル31を、はんだ付け対象Oの送出し方向に170mm以上200mm以下の間隔で離間配置することが適切であることが確認された。
【0123】
第2の洗浄液が噴射される第2の洗浄エリア17の後方には第2の液槽8が存在するため、第2の洗浄液で洗浄されたはんだ付け対象Oを第2の液槽8で冷却することができる。第2の液槽8にも、第1の液槽7と同様に油冷却循環パイプ等の冷却媒体循環パイプ8Aと、パネルヒータ8Bを取付けることができる。これにより、第2の液槽8内における液体の温度を、溶融はんだが噴霧されるチャンバ2内の空間Sにおける温度を低下させず、かつはんだ付け対象Oを段階的に冷却するために適した温度に保つことができる。
【0124】
上述したように第1の液槽7内に充填される予熱用の液体、酸化被膜を除去するための第1の洗浄液、過剰なはんだを除去するための第2の洗浄液及び第2の液槽8内に充填される冷却用の液体は、互いに目的と役割が異なる。このため、異なる液体を使用しても良い。但し、第1の洗浄液と第2の洗浄液として共通の液体を用いれば、使用後における第1の洗浄液と第2の洗浄液が混ざったとしても再利用することが容易となる。
【0125】
第1の洗浄エリア15、はんだ噴霧エリア16及び第2の洗浄エリア17は仕切板2Eで完全には仕切られないため、使用後における第1の洗浄液と第2の洗浄液には、噴霧後のはんだも混入することになる。従って、第1の洗浄液と第2の洗浄液及び噴霧後のはんだの少なくとも一方を再利用するためには、第1の洗浄液及び第2の洗浄液と、噴霧後のはんだとを分離することが必要となる。
【0126】
このため、第1の洗浄液と第2の洗浄液及び噴霧後のはんだの少なくとも一方を再利用する場合には、図示されるように、噴霧後のはんだが混入した噴射後の第1の洗浄液及び第2の洗浄液を回収し、第1の洗浄液及び第2の洗浄液から混入したはんだを分離する循環系34をはんだ付け装置1に設けることができる。図1に示す例では、第1の洗浄液と第2の洗浄液及び噴霧後のはんだの双方を回収して再利用できるように循環系34が構成されている。
【0127】
循環系34は、図1及び図9等に例示されるように、噴霧後のはんだと、噴射後の第1の洗浄液及び第2の洗浄液が混ざった液体を回収する回収ダクト35と、第1の洗浄液及び第2の洗浄液から溶融はんだを分離する分離タンク36を用いて構成することができる。チャンバ2内の第1の洗浄エリア15、はんだ噴霧エリア16及び第2の洗浄エリア17には底面を設けずに開放し、下方に回収ダクト35を配置することができる。これにより、重力で落下した噴霧後のはんだと、噴射後の第1の洗浄液及び第2の洗浄液が混ざった液体を回収ダクト35で回収することができる。
【0128】
回収ダクト35の出口は、例えば、バルブ37を設けた配管38を介して分離タンク36の入口と連結される。このため、回収ダクト35で回収された液体は、配管38を通って分離タンク36内に集められる。分離タンク36内では、流動性が付与された脂肪酸等の洗浄液と溶融はんだとの間における重量差によって溶融はんだが沈殿し、溶融はんだ層と、洗浄液層の2層に分離する。
【0129】
分離タンク36は、洗浄液層において開口するように上方に形成された洗浄液用の出口と、溶融はんだ層において開口するように下方に形成された溶融はんだ用の出口とを有する。洗浄液用の出口は、バルブ39を設けた配管40を介して洗浄液を貯留する洗浄液貯留タンク18と連結される。このため、ポンプ22を駆動して洗浄液貯留タンク18内における空間の圧力が負圧となれば、分離タンク36内の洗浄液層から洗浄液が洗浄液貯留タンク18に補充される。
【0130】
他方、分離タンク36の溶融はんだ用の出口は、はんだ貯留タンク24と連結されるが、溶融はんだ用の出口にはシリンダ41の駆動によって長さ方向に移動する分離ピン42が挿入される。シリンダ41は、はんだ貯留タンク24に設けられた液量センサ43で検知される溶融はんだの残量が下限値に達すると、自動的に駆動して分離ピン42を引上げるように構成されている。このため、はんだ貯留タンク24内における溶融はんだの残量が減少すると、分離タンク36とはんだ貯留タンク24が連通し、分離タンク36の溶融はんだ層から溶融はんだをはんだ貯留タンク24に補充することができる。
【0131】
(はんだ付け品の製造方法)
次にはんだ付け装置1を用いたはんだ付け品の製造方法について説明する。
【0132】
図11は、図1に示すはんだ付け装置1で回路基板O1等のはんだ付け対象Oに少なくともはんだを噴霧することによってはんだ付け品を製造するための流れの一例を示すフローチャートである。
【0133】
まず工程P1において、要求品質を満たす溶融はんだが準備される。図2又は図4に例示されるように、マイクロLEDを回路基板O1にはんだ付けする場合やマイクロLEDをはんだ付けするためのはんだポケットO6が形成された回路基板O1のランドO3をはんだコートする場合のように、微量のはんだをランドO3に付着させるような場合には、はんだポケットO6の深さよりも粒径が大きい固形物を含まないか、含んでいたとしても無視できる含有量である溶融はんだを準備することが、電子部品O5のはんだ付けに要求される品質を確保するのみならず、はんだ噴霧ノズル25や配管26等が溶融はんだに含まれる固形物で詰まらないようにする観点から重要である。
【0134】
図12は、所定の粒径を超える固形物が含まれない溶融はんだの製造方法の一例を示す図である。
【0135】
はんだの原材料となる錫等の金属元素を混合した後、加熱して融解すると溶湯50が得られる。典型的な無鉛はんだであれば、金属元素が300℃~400℃に加熱される。特別な前処理を行わなければ、溶湯50には、金蔵元素の品質に応じた様々な粒径を有する固形物が含まれている。
【0136】
固形物を含む溶湯50を、図12に示すように除去したい固形物の粒径に合わせて決定した10μm、5μm或いは3μm等の目を有し、かつ加熱装置51で加熱した金網等で構成される濾過フィルタ52で濾過すると、溶湯50が濾過フィルタ52を通過する際に凝固しないため、溶湯50から固形物のみを残渣として濾し取ることができる。すなわち、加熱された濾過フィルタ52を用いて、濾過フィルタ52の目のサイズよりも粒径が大きい固形物を溶湯50から除去することができる。
【0137】
従って、濾過フィルタ52を通過した溶湯は濾過フィルタ52の目のサイズよりも粒径が大きい固形物を含まない良質な溶融はんだ53となる。濾過フィルタ52で濾過した溶融はんだ53は、一旦冷却してインゴット、ワイヤ又はボール等の所望の形状となるように型枠を用いて凝固させたとしても、再び溶融させた場合には濾過フィルタ52の目のサイズよりも粒径が大きい固形物を含まない良質な溶融はんだ53となる。
【0138】
このため、例えば、図12に例示されるような濾過によって製作された所定の粒径を超える固形物を含まない高品質なはんだを溶融させてはんだ付け装置1のはんだ貯留タンク24に充填することができる。或いは、溶融はんだに所定の粒径を超える固形物が僅かに含有していても良い場合には、所定の粒径を超える固形物を含まない高品質なはんだと市販のはんだを混合して中程度の品質を有する溶融はんだをはんだ貯留タンク24に充填するようにしても良い。
【0139】
溶融はんだがはんだ貯留タンク24に充填され、洗浄液の充填などはんだ付け装置1のその他の準備も完了すると、次に工程P2において、回路基板O1等のはんだ付け対象Oが治具10を用いてはんだ付け装置1の投入エリア13にセットされる。
【0140】
図3に例示されるように、ランドO3に電子部品O5がはんだ付けされたはんだ付け品を製造する場合には、図2に例示されるように電子部品O5が接着剤O7でレジスト部O4等に仮留めされた状態で、回路基板O1の縁を図6に例示されるような治具10に取付けることができる。一方、図5に例示されるように回路基板O1のランドO3がはんだでコーティングされたはんだ付け品を製造する場合には、図4に例示されるように電子部品O5が取付けられる前の回路基板O1の縁を図6に例示されるような治具10に取付けることができる。
【0141】
回路基板O1等のはんだ付け対象Oが固定された治具10が図6に例示されるようにT字形である場合には、投入エリア13において、図7に例示されるように2本のチェーン11Bに所定の間隔で設けられたブラケット11Cの凹部に治具10を載置することができる。もちろん、はんだ付け品を量産するような場合には、チェーン11B等の移動中の無限軌道11の上に、ロボットアームやコンベア等の装置で自動的に治具10をセットするようにしても良い。
【0142】
治具10及びはんだ付け対象Oのセットが完了すると、送り機構3の無限軌道11を駆動させて治具10及びはんだ付け対象Oをチャンバ2内に送込むことができる。図1に示す例であれば、モータ12を駆動させてスプロケット11Aを回転させれば、チェーン11Bとともに治具10及びはんだ付け対象Oをチャンバ2内に向けて移動させることができる。
【0143】
はんだ付け対象Oが入口2Aからチャンバ2内に送込まれると、工程P3において、はんだ付け対象Oの第1段階の予熱が行われる。すなわち、はんだ付け対象Oは、送り機構3の駆動によって第1の液槽7に浸漬される。第1の液槽7には、冷却媒体循環パイプ7Aとパネルヒータ7Bではんだ付け対象Oの予熱に適した温度に調整された脂肪酸等の液体が充填されているため、液体ではんだ付け対象Oを予熱することができる。
【0144】
はんだ付け対象Oの予熱が完了すると、工程P4において、酸化膜除去部4により第1の洗浄と第2段階の予熱が行われる。そのために、第1の液槽7を経由したはんだ付け対象Oが、送り機構3でチャンバ2内の空間Sの上流側にある第1の洗浄エリア15に移送される。
【0145】
そうすると、第1の洗浄工程として、加熱された第1の洗浄液がはんだ付け対象Oに噴射される。より具体的には、パイプヒータ19で加熱された洗浄液貯留タンク18内の洗浄液がポンプ22で汲み上げられて、第1の洗浄液噴射ノズル20からはんだ付け対象Oに向けて酸化膜除去液として噴射される。その結果、はんだ付け対象Oの導体部が第1の洗浄液として噴射された酸化膜除去液によって加熱され、導体部を構成する銅と酸化被膜との間における熱膨張率の差によって酸化被膜が剥がれ落ちる。そして、剥がれ落ちた酸化被膜と銅との間に、第1の洗浄液が銅との間の界面張力によって入り込み、第1の洗浄液が界面活性剤のように酸化被膜を包んで流れ落ちる。このようにして、はんだ付け対象Oの導体部から酸化被膜を除去しつつ、加熱された第1の洗浄液ではんだ付け対象Oの第2段階の予熱を行うことができる。
【0146】
次に、工程P5において、はんだ噴霧部5により、はんだ付け対象Oにはんだが噴霧される。そのために、はんだ付け対象Oが、第1の洗浄エリア15の後方にあり、かつパネルヒータ2D等の加熱装置で雰囲気がはんだ付けに適した温度となるまで加熱されたはんだ噴霧エリア16に送り機構3で移送される。一方、不活性ガス供給系29の不活性ガスタンク29Aから窒素等の不活性ガスがはんだ貯留タンク24に注入される。これにより、バンドヒータ27C等の加熱装置27で加熱されたはんだ貯留タンク24内の溶融はんだを、不活性ガスの圧力ではんだ噴霧ノズル25に供給し、はんだ噴霧ノズル25から溶融はんだを噴霧領域Rに噴霧することができる。
【0147】
噴霧された溶融はんだは霧状となってはんだ噴霧エリア16内を舞い、はんだ付け対象Oの導体部に付着する。霧状の溶融はんだを構成する液滴は、マイクロLEDをはんだ付けするための深さが10μm以下のはんだポケットO6のように、ミクロンオーダのサイズを有する導体部であっても付着することが可能な粒径を有する液滴となる。このため、ミクロンオーダのサイズを有する導体部であっても溶融はんだを付着させることができる。
【0148】
はんだ噴霧ノズル25に供給される溶融はんだは、配管26内においても加熱パイプ27E等の加熱装置で加熱することができる。図1及び図9に示す例であれば、二重配管30の内側を流れる溶融はんだを、二重配管30の外側を流れる加熱油等の加熱媒体で加熱することができる。このため、溶融はんだが移動経路において凝固することを防止し、はんだ噴霧ノズル25及び配管26が詰まる不具合を防止できるのみならず、所定の粒径を超える固形物を無視できない含有量で含む溶融はんだがはんだ付け対象Oに噴射されてしまう不具合も防止することができる。
【0149】
次に、工程P6において、過剰はんだ除去部6により、第2の洗浄が行われる。そのために、はんだ付け対象Oが、送り機構3ではんだ噴霧エリア16の後方にある第2の洗浄エリア17に移送される。そうすると、第2の洗浄工程として、加熱された第2の洗浄液がはんだ付け対象Oに噴射される。より具体的には、パイプヒータ19で加熱された洗浄液貯留タンク18内の洗浄液がポンプ22で汲み上げられて、第2の洗浄液噴射ノズル31からはんだ付け対象Oに向けて過剰はんだ除去液として噴射される。これにより、レジスト部O4等に付着した意図しない過剰ははんだを除去することができる。
【0150】
次に、工程P7において、はんだ付け対象Oが冷却される。具体的には、はんだ付け対象Oが、送り機構3で第2の液槽8に浸漬される。第2の液槽8には、冷却媒体循環パイプ8Aとパネルヒータ8Bではんだ付け対象Oの冷却に適した温度に調整された脂肪酸等の液体が充填されているため、液体ではんだ付け対象Oを冷却することができる。
【0151】
はんだ付け対象Oが第2の液槽8で冷却されると、はんだ付け対象Oは送り機構3で更に移送され、第2の液槽8を経由して出口2Bからチャンバ2外に送出される。はんだ付け対象Oが、取出エリア14まで送出されると、工程P8において、はんだ付け対象Oを保持する治具10を、チェーン11B等の無限軌道11から取外すことができる。もちろん、はんだ付け品を量産するような場合には、移動中の無限軌道11から、ロボットアームやコンベア等の装置で自動的に治具10を取外すようにしても良い。
【0152】
はんだ付け対象Oを保持する治具10が無限軌道11から取外されると、治具10から回路基板O1等のはんだ付け対象Oを取外し、図3図5に例示されるようにランドO3等の導体部にはんだが付着したはんだ付け品として提供することができる。
【0153】
(効果)
以上のようなはんだ付け装置1及びはんだ付け品の製造方法は、チャンバ2の入口2A側と出口2B側にそれぞれ第1の液槽7と第2の液槽8を設けることによって空気が外部から流入しないようにした空間Sに、送り機構3で回路基板O1等のはんだ付け対象Oを送り込んで溶融はんだを噴霧するようにしたものである。
【0154】
このため、はんだ付け装置1及びはんだ付け品の製造方法によれば、はんだ付け対象Oの導体部における酸化を防止しつつはんだ付け対象Oの導体部に自動的にはんだを付着させることができる。具体例として、雰囲気に曝露されている回路基板O1のランドO3に溶融はんだを付着させる際に、ランドO3の酸化を防止できる。
【0155】
また、はんだの液滴を噴射するのではなく、霧状の溶融はんだを噴霧することにより、メタルマスクの穴に溶融はんだの液滴を入れることが困難な程、微小な範囲であってもはんだを付着することが可能となる。その結果、はんだポケットO6の幅が50μm程度で深さが10μm~15μm程度であることから従来ははんだ付けが困難であったマイクロLEDの微小な電子部品O5のはんだ付けが可能となる。
【0156】
加えて、空気が外部から流入しないようにした空間Sにおいて溶融はんだを噴霧する前に第1の洗浄液を噴射すれば、回路基板O1のランドO3のように、はんだを付着させるべきはんだ付け対象Oの導体部の表面に形成されてる酸化被膜を除去することができる。このため、従来必要であった、メッキ、防錆剤の塗布、レベラー処理又はプリフラックス処理等の防錆対策が一切不要となる。
【0157】
また、空気が外部から流入しないようにした空間Sにおいて溶融はんだを噴霧した後に第2の洗浄液を噴射すれば、回路基板O1のレジスト部O4のように、はんだ付け対象Oの意図しない部分に付着した過剰なはんだを除去することができる。
【0158】
更に、ポンプを使用せずに不活性ガスの圧力で溶融はんだを噴霧する構成を採用し、かつ溶融はんだが流れる配管26等を加熱することによって、溶融はんだに固形物が析出したり、溶融はんだがはんだ噴霧ノズル25を含む経路上において詰まったりする不具合を防止することができる。
【0159】
また、板状の回路基板O1のはんだポケットO6を溶融はんだで充填する場合には、治具10で回路基板O1を立てた状態で送り込み、かつはんだを左右から噴霧することによって、溶融はんだの液滴が微小なはんだポケットO6に隙間をあけて流れ込んでしまう不具合を回避することができる。
【0160】
(第1の実施形態の変形例)
上述した例では、共通のチャンバ2内に第1の洗浄エリア15、はんだ噴霧エリア16及び第2の洗浄エリア17を形成した例を示したが、第1の洗浄エリア15、はんだ噴霧エリア16及び第2の洗浄エリア17を別々のチャンバ内に形成しても良い。換言すれば、酸化膜除去部4としての機能を有する酸化被膜除去装置及び過剰はんだ除去部6としての機能を有する過剰はんだ除去装置の少なくとも一方を、はんだ噴霧部5としての機能を有するはんだ噴霧装置に連結することによって、はんだ付け装置1を構成するようにしても良い。その場合には、第1の洗浄エリア15の入口側と第2の洗浄エリア17の出口に加えて、はんだ噴霧エリア16の入口と出口に液槽を設けるようにしても良い。
【0161】
また、上述したように第1の洗浄エリア15及び酸化膜除去部4と、第2の洗浄エリア17及び過剰はんだ除去部6の一方又は双方を省略しても良い。実用的な例として、メッキ、防錆剤の塗布、レベラー処理又はプリフラックス処理等の防錆対策が施された回路基板O1に電子部品O5をはんだ付けするような場合には、はんだ噴霧エリア16のみをチャンバ2内に形成し、はんだ噴霧エリア16にはんだ噴霧部5ではんだを噴霧するように構成したはんだ付け装置1で当該はんだ付けを行うことができる。
【0162】
(第2の実施形態)
(はんだコーティング装置の構成及び機能)
図13は本発明の第2の実施形態に係るはんだコーティング装置の構成を示す部分断面図である。
【0163】
図13に示された第2の実施形態におけるはんだコーティング装置60は、はんだ付け対象Oに溶融はんだを噴霧する代わりに、はんだ付け対象Oを溶融はんだ槽61に浸漬するようにした点が第1の実施形態におけるはんだ付け装置1と相違する。第2の実施形態におけるはんだコーティング装置60の他の構成及び作用については第1の実施形態におけるはんだ付け装置1と実質的に異ならないためチャンバ2の一部のみを図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0164】
図13に示すように、はんだ噴霧部5に代えて、チャンバ2の内部に溶融はんだ槽61を配置する一方、送り機構3を、はんだ付け対象Oをチャンバ2内の空間Sに送り込んで溶融はんだ槽61に浸漬した後、溶融はんだ槽61から引き上げるように構成することができる。溶融はんだ槽61は、バンドヒータ62Aやパネルヒータ62B等の加熱装置62で加熱された容器に溶融はんだを充填したものである。
【0165】
この場合、溶融はんだ槽61から引き上げられたはんだ付け対象Oは、送り機構3の駆動によってチャンバ2内における空間Sの一部として設けられる第2の洗浄エリア17を通り、第2の液槽8を経由して出口2Bからチャンバ2外に送り出されることになる。従って、溶融はんだ槽61から引き上げられたはんだ付け対象Oは、第2の洗浄エリア17において第2の洗浄液で洗浄される。
【0166】
このため、チャンバ2内の空間Sでは、はんだ付け対象Oを溶融はんだ槽61に浸漬して引き上げた後、第2の洗浄液として過剰はんだ除去液を噴射する処理が行われることになる。このような処理を行うと、はんだ付け対象Oのレジスト部O4等に付着した過剰なはんだが過剰はんだ除去液の噴射によって除去されるので、はんだ付け対象Oの導体部を構成する銅のみがはんだでコーティングされたはんだコート品を製造することができる。
【0167】
従来、回路基板等のはんだ付け対象を溶融はんだに浸漬して引き上げた後、高温のエアーを吹き付けることによって過剰なはんだを除去する処理は、HASLと呼ばれている。従って、高温のエアーではなく第2の洗浄液で過剰なはんだを除去するはんだコーティング装置60によって実施されるはんだコーティング処理は、高温のエアーで過剰なはんだを除去するHASLを意味する狭義のレベラー処理とは異なるが、流体を吹き付けることによって過剰なはんだを除去する処理を広義のレベラー処理と呼ぶことにすれば、広義のレベラー処理の一種に該当する。
【0168】
(はんだコート品の製造方法)
上述したはんだコーティング装置60を用いると、導体部がはんだでコーティングされ、かつ過剰なはんだが除去されたはんだ付け対象Oからなるはんだコート品を製造することができる。はんだコート品を製造するための主要な工程は、チャンバ2の入口2Aから第1の液槽7を経由してチャンバ2内の空間Sにはんだ付け対象Oを送り出す工程、チャンバ2内の空間Sに送り出されたはんだ付け対象Oを溶融はんだ槽61に浸漬した後、引き上げる工程、チャンバ2内の空間Sにおいて、溶融はんだ槽61から引き上げられたはんだ付け対象Oに第2の洗浄液として過剰はんだ除去液を噴射することによって、はんだ付け対象Oに付着した過剰なはんだをはんだ付け対象Oから除去する工程、過剰なはんだが除去されたはんだ付け対象Oを、第2の液槽8を経由して出口2Bからチャンバ2外に送り出す工程となる。
【0169】
もちろん、第1の実施形態と同様に、はんだ付け対象Oを溶融はんだ槽61に浸漬する前に、第1の洗浄エリア15において第1の洗浄液を噴射することによって、はんだ付け対象Oの導体部から酸化被膜を除去する工程やはんだ付け対象Oの予熱工程を設けることができる。
【0170】
但し、従来の典型的なレベラー処理では、前処理として、酸等の薬品を使用して銅の表面に形成されている酸化被膜を除去する洗浄処理や薬品で銅の表面を保護するプリフラックス処理が行われる場合が多い。このため、従来の典型的なレベラー処理と同様に、予めはんだ付け対象Oの洗浄やプリフラックス処理が行われている場合には、チャンバ2内の空間Sに第1の洗浄エリア15を形成せず、第1の洗浄液を噴射する工程を省略しても良い。
【0171】
逆に、第1の洗浄液で洗浄する工程を設ければ、前処理として行われる洗浄自体をはんだコーティング装置60で行うことができる。一方、前処理としてはんだ付け対象Oにプリフラックス処理が行われている場合には、第2の洗浄液の噴射によって、過剰ははんだのみならずフラックスの残渣も除去することができる。このため、従来のHASLではフラックスを十分に除去できないことから、後処理として行われていたフラックスの洗浄処理をはんだコーティング装置60で行うことができる。
【0172】
(効果)
以上のような第2の実施形態によれば、はんだ付けの前処理として従来行われるHASLに代替するはんだのコーティング処理を行うことができる。特に、過剰なはんだがエアーの吹き付けではなく洗浄液の噴射によって行われるため、洗浄力を向上することができる。このため、フラックスの残渣がはんだ付け対象Oに付着している場合であっても、過剰なはんだとともにフラックスを落とすことができる。また、はんだコーティングの前処理として行うべき酸化被膜を除去するための洗浄を1台のはんだコーティング装置60で行うことも可能である。
【0173】
(第3の実施形態)
(酸化被膜除去装置の構成及び機能)
図14は本発明の第3の実施形態に係る酸化被膜除去装置の構成を示す部分断面図である。
【0174】
図14に示された第2の実施形態における酸化被膜除去装置70は、はんだ噴霧エリア16、はんだ噴霧部5、第2の洗浄エリア17及び過剰はんだ除去部6を省略し、主たる処理を酸化被膜を除去するための洗浄処理とした点が第1の実施形態におけるはんだ付け装置1と相違する。第2の実施形態における酸化被膜除去装置70の他の構成及び作用については第1の実施形態におけるはんだ付け装置1と実質的に異ならないためチャンバ2の一部のみを図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0175】
はんだ噴霧エリア16と第2の洗浄エリア17が省略された酸化被膜除去装置70のチャンバ2内における空間Sは、酸化膜除去部4で第1の洗浄液を噴射することによって、はんだ付け対象Oの導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去するための第1の洗浄エリア15として使用される。
【0176】
(酸化被膜除去処理品の製造方法)
上述した酸化被膜除去装置70を用いると、導体部を構成する銅の表面から酸化被膜が除去されたはんだ付け対象Oからなる酸化被膜除去処理品を製造することができる。酸化被膜除去処理品を製造するための主要な工程は、チャンバ2の入口2Aから第1の液槽7を経由してチャンバ2内の空間Sにはんだ付け対象Oを送り出す工程、チャンバ2の空間S内において、はんだ付け対象Oに第1の洗浄液として酸化膜除去液を噴射することによって導体部の表面に形成されている酸化被膜を除去する工程、導体部の表面から酸化被膜が除去されたはんだ付け対象Oを、第2の液槽8を経由して出口2Bからチャンバ2外に送り出す工程となる。
【0177】
(効果)
以上のような第3の実施形態によれば、外部から空気が流入しないチャンバ2内の空間Sで銅の表面に形成されている酸化被膜を除去することができる。このため、はんだ付けのみならず、例えばニッケルメッキ等の銅に直接施されるメッキ前の前処理として、酸化被膜を除去する洗浄処理を行うために酸化被膜除去装置70を使用することができる。
【0178】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0179】
具体例として、ポンプを使用せずにはんだを噴霧する第1の実施形態におけるはんだ噴霧部5を独立したはんだ噴霧装置として所望の目的のために使用することができる。すなわち、不活性ガスの圧力で溶融はんだをはんだ噴霧ノズル25から霧状に噴出させ、かつはんだ貯留タンク24と配管26の双方を加熱装置27で加熱するはんだ噴霧装置で溶融はんだを噴霧することによって、導体部に部品がはんだ付けされたはんだ付け品又は導体部がはんだでコーティングされたはんだ付け品を製造することができる。
【符号の説明】
【0180】
1…はんだ付け装置、2…チャンバ、2A…入口、2B…出口、2C…壁面、2D…パネルヒータ、2E…仕切板、3…送り機構、4…酸化膜除去部、5…はんだ噴霧部、6…過剰はんだ除去部、7…第1の液槽、7A…冷却媒体循環パイプ、7B…パネルヒータ、8…第2の液槽、8A…冷却媒体循環パイプ、8B…パネルヒータ、9…圧力制御系、9A…不活性ガスタンク、9B…ガス供給管、10…治具、10A…ロッド、10B…ブラケット、11…無限軌道(クローラ)、11A…スプロケット、11B…チェーン、11C…ブラケット、12…モータ、13…投入エリア、14…取出エリア、15…第1の洗浄エリア、16…はんだ噴霧エリア、17…第2の洗浄エリア、18…洗浄液貯留タンク、19…パイプヒータ、20…第1の洗浄液噴射ノズル、21…配管、22…ポンプ、23…バルブ、24…はんだ貯留タンク、25…はんだ噴霧ノズル、26…配管、27…加熱装置、27A…第1の加熱装置、27B…第2の加熱装置、27C…バンドヒータ、27D…パネルヒータ、27E…加熱パイプ、28…バルブ、29…不活性ガス供給系、29A…不活性ガスタンク、29B…配管、30…二重配管、31…第2の洗浄液噴射ノズル、32…配管、33…バルブ、34…循環系、35…回収ダクト、36…分離タンク、37…バルブ、38…配管、39…バルブ、40…配管、41…シリンダ、42…分離ピン、43…液量センサ、50…溶湯、51…加熱装置、52…濾過フィルタ、53…溶融はんだ、60…はんだコーティング装置、61…溶融はんだ槽、62…加熱装置、62A…バンドヒータ、62B…パネルヒータ、70…酸化被膜除去装置、O…はんだ付け対象、O1…回路基板、O2…基板、O3…ランド、O4…レジスト部、O5…電子部品、O6…はんだポケット、O7…接着剤、R…噴霧領域、S…空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14