(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125016
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】積層シート
(51)【国際特許分類】
G02B 5/26 20060101AFI20220819BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20220819BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20220819BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
G02B5/26
B32B15/04 Z
B32B7/023
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019275
(22)【出願日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2021022288
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 元彦
【テーマコード(参考)】
2H148
4F100
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA12
2H148FA24
2H148GA07
2H148GA09
2H148GA18
2H148GA43
2H148GA61
4F100AA16E
4F100AB02D
4F100AB10B
4F100AB10D
4F100AB11C
4F100AB12D
4F100AB13D
4F100AB16D
4F100AB17D
4F100AB18D
4F100AB19D
4F100AB25D
4F100AK42A
4F100BA02
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10E
4F100DG01A
4F100EH66
4F100GB33
4F100JD10B
4F100JL10
4F100JM02B
4F100JN00C
4F100JN06B
4F100JN18E
4F100YY00B
(57)【要約】 (修正有)
【課題】黒系統色を呈し且つ光による温度上昇が抑制された積層シートを提供する。
【解決手段】基材2と、基材2上に配置されている赤外反射層3とを有し、波長400~700nm領域における反射率の平均値が10%以下であり、領域における反射率の最大値と最小値の差が10%以下であり、且つ波長1000~2500nmにおける反射率が30%以上である、積層シート1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に配置されている赤外反射層とを有し、
波長400~700nm領域における反射率の平均値が10%以下であり、
該領域における反射率の最大値と最小値の差が10%以下であり、且つ
波長1000~2500nmにおける反射率が30%以上である、
積層シート。
【請求項2】
前記赤外反射層が金属層及び光学干渉層を有する、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記光学干渉層が半金属元素含有層である、請求項2に記載の積層シート。
【請求項4】
金属層を2層以上有し、光学干渉層を2層以上有する、請求項2又は3に記載の積層シート。
【請求項5】
少なくとも基材、第1の金属層、第1の光学干渉層、第2の金属層、及び第2の光学干渉層を有し、これらがこの順に積層されている、請求項2~4のいずれかに記載の積層シート。
【請求項6】
少なくとも1つの光学干渉層の波長633nmにおける消衰係数が0.1以上である、請求項5に記載の積層シート。
【請求項7】
前記第2の光学干渉層の屈折率が前記第1の光学干渉層の屈折率より大きい、請求項5又は6に記載の積層シート。
【請求項8】
前記光学干渉層が、銅、鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、ケイ素、パラジウム、ゲルマニウム、ガリウム又はこれらの化合物を含有する、請求項2~7いずれかに記載の積層シート。
【請求項9】
前記第2の金属層が、Ag、Al、Ti、Cu、Au、Fe、Ni、Zn、Zr、Cr、Mo、Ta、W、In、又はSnを含有する、請求項5に記載の積層シート。
【請求項10】
前記赤外反射層の厚みが300nm以下である、請求項1~9のいずれかに記載の積層シート。
【請求項11】
前記基材が繊維基材又は樹脂基材である、請求項1~10のいずれかに記載の積層シート。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の積層シートを有する、内外装材。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の積層シートと樹脂を含む、複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート等に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維基材、炭素質基材や、表面凹凸等がエンボス加工により付与された樹脂基材等の基材が、意匠性が要求される各種分野において利用されている。例えば、これらの基材は、樹脂と共に複合材料(炭素繊維強化プラスチック等)を構成し、航空機のボディー等の比較的大型のものから、スポーツ用品、車の内外装材等の比較的小型の身近なものまで、幅広く利用されている。このため、これらの基材は、その意匠性を高めるために着色されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、意匠性の観点から自動車内装材などには、黒系加飾材が利用されている。しかし、黒色部は太陽光下等で、熱線(赤外線)を吸収し、温度が上昇してしまうことがしばしば生じる。内装材の温度上昇は車内温度を下げるためにより多くのエネルギーを必要とするので、例えば電気自動車の航続距離を延ばすうえでの課題になる。
【0005】
特許文献1には、繊維布帛の少なくても片面に、該繊維布帛側から単繊維表面毎に反射金属膜、透明金属化合物膜、半透明金属膜が順次積層されてなり入射光を拡散反射する積層膜を有し、かつ通気性を有することを特徴とする干渉色を有する繊維布帛が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されている発明は、、赤外反射は高いものの、可視光域の反射が高いため黒い意匠にはならない。
【0006】
本発明は、黒系統色を呈し且つ光による温度上昇が抑制された積層シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、基材と、該基材上に配置されている赤外反射層とを有し、波長400~700nm領域における反射率の平均値が10%以下であり、該領域における反射率の最大値と最小値の差が10%以下であり、且つ波長1000~2500nmにおける反射率が30%以上である、積層シート、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 基材と、該基材上に配置されている赤外反射層とを有し、
波長400~700nm領域における反射率の平均値が10%以下であり、
該領域における反射率の最大値と最小値の差が10%以下であり、且つ
波長1000~2500nmにおける反射率が30%以上である、
積層シート。
【0009】
項2. 前記赤外反射層が金属層及び光学干渉層を有する、項1に記載の積層シート。
【0010】
項3. 前記光学干渉層が半金属元素含有層である、項2に記載の積層シート。
【0011】
項4. 金属層を2層以上有し、光学干渉層を2層以上有する、項2又は3に記載の積層シート。
【0012】
項5. 少なくとも基材、第1の金属層、第1の光学干渉層、第2の金属層、及び第2の光学干渉層を有し、これらがこの順に積層されている、項2~4のいずれかに記載の積層シート。
【0013】
項6. 少なくとも1つの光学干渉層の波長633nmにおける消衰係数が0.1以上である、項5に記載の積層シート。
【0014】
項7. 前記第2の光学干渉層の屈折率が前記第1の光学干渉層の屈折率より大きい、項5又は6に記載の積層シート。
【0015】
項8. 前記光学干渉層が、銅、鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、ケイ素、パラジウム、ゲルマニウム、ガリウム又はこれらの化合物を含有する、項2~7いずれかに記載の積層シート。
【0016】
項9. 前記第2の金属層が、Ag、Al、Ti、Cu、Au、Fe、Ni、Zn、Zr、Cr、Mo、Ta、W、In、又はSnを含有する、項5に記載の積層シート。
【0017】
項10. 前記赤外反射層の厚みが300nm以下である、項1~9のいずれかに記載の積層シート。
【0018】
項11. 前記基材が繊維基材又は樹脂基材である、項1~10のいずれかに記載の積層シート。
【0019】
項12. 項1~11のいずれかに記載の積層シートを有する、内外装材。
【0020】
項13. 項1~11のいずれかに記載の積層シートと樹脂を含む、複合材料。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、黒系統色を呈し且つ光による温度上昇が抑制された積層シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】スパッタリング装置の一例を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の積層シートの一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の積層シートの一例を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の積層シートの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0024】
1.積層シート
本発明は、その一態様において、基材と、該基材上に配置されている赤外反射層とを有し、波長400~700nm領域における反射率の平均値が10%以下であり、該領域における反射率の最大値と最小値の差が5%以下であり、且つ波長1000~2500nmにおける反射率が30%以上である、積層シート(本明細書において、「本発明の積層シート」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0025】
尚、本発明において基材の赤外反射層が配置されている側を上側、基材の赤外反射層が配置されている側とは反対側を下側と表現することがある。
【0026】
<1-1.特性>
本発明の積層シートは、波長400~700nm領域における反射率の平均値が10%以下である、という特性(特性1)を有する。該反射率の平均値は、好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは8%以下である。該反射率の平均値の下限は、特に制限されず、例えば0%、1%、又は2%である。
【0027】
特性1は、次のようにして測定される。分光測色計(日本分光社製「分光光度計 V-670、積分球測定ユニット ISN-723」、又はその同等品)を用いて、積層シートの光学干渉層側の表面について、重水素ランプ及び、ハロゲンランプを光源として用いて5度入射、5度受光による分光反射率測定により得られる反射スペクトルから求めることが出来る。
【0028】
本発明の積層シートは、波長400~700nm領域における反射率の最大値と最小値の差が10%以下である、という特性(特性2)を有する。該差は、好ましくは9%以下、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは7%以下、更により好ましくは6%以下、一層好ましくは5%以下、特に好ましくは4%以下である。該反射率の最大値と最小値の差の下限は、特に制限されず、例えば0%、0.5%、又は1%である。
【0029】
特性2は、次のようにして測定される。分光測色計(日本分光社製「分光光度計 V-670、積分球測定ユニット ISN-723」、又はその同等品)を用いて、積層シートの光学干渉層側の表面について、重水素ランプ及び、ハロゲンランプを光源として用いて5度入射、5度受光による分光反射率測定により得られる反射スペクトルから求めることが出来る。
【0030】
本発明の積層シートは、波長1000~2500nmにおける反射率が30%以上である、という特性(特性3)を有する。該反射率は、好ましくは31%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上である。該反射率の平均値の上限は、特に制限されず、例えば100%、90%、又は80%である。
【0031】
特性3は、次のようにして測定される。分光測色計(日本分光社製「分光光度計 V-670、積分球測定ユニット ISN-723」、又はその同等品)を用いて、積層シートの光学干渉層側の表面について、重水素ランプ及び、ハロゲンランプを光源として用いて5度入射、5度受光による分光反射率測定により得られる反射スペクトルから求めることが出来る。
【0032】
特性1~3は、様々な方法によって調整することができる。例えば、後述のように、金属層及び光学干渉層を有する赤外反射層を採用することが挙げられる。詳細については、後述する。
【0033】
<1-2.基材>
基材は、シート状のものである限り、特に制限されない。基材としては、特に制限されないが、例えば繊維基材、炭素質基材、樹脂基材、紙基材、ゴム基材等が挙げられる。
【0034】
本発明の積層シートは、基材の色に依らずに黒系統色を呈することができる。このため、本発明の一態様において、基材は、着色されていない、及び/又は非黒系統色であってもよい。「着色されていない」という観点から、本発明の一態様において、基材中の染料及び/又は顔料(例えば炭素質材料)の含有量が0.1質量部以下であることが好ましく、0.01重量部以下であることがより好ましい。また、「非黒系統色である」という観点から、本発明の一態様において、基材のL*a*b*表色系におけるL*値が35より大きく、a*値が-7未満又は7より大きく、b*値が-7未満又は7より大きいことが好ましい。
【0035】
L*a*b*表色系における基材の色は、次のようにして測定される。分光測色計(日本分光社製「分光光度計 V-670、積分球測定ユニット ISN-723」、又はその同等品)を用いて、積層シートの光学干渉層側の表面について、5度入射、5度受光による分光反射率測定により得られる反射スペクトルを測定する。380~780nmの反射スペクトルを基に、JIS Z8781-4:2013に従って計算し求めることが出来る。
【0036】
意匠性の観点から、基材は表面に凹凸形状を有することが好ましい。この場合の表面凹凸は、特に制限されないが、例えば0.5~300μm、1~200μm、2~150μmである。なお、表面凹凸は、白色干渉計(例えば、三菱化学アナリテック製「Vertscan R550G」、又はその同等品)にて1mm×1mmの範囲を測定した際の、最大高さと最低高さの差である。基材は表面に凹凸形状を有することで、後述の赤外反射層を含む積層シート表面が凸凹形状を有する外観となり、意匠性に優れる。
【0037】
また、同様に意匠性の観点から、基材としては、好ましくは繊維基材、炭素質基材、樹脂基材等が挙げられ、より好ましくは繊維基材、樹脂基材等が挙げられる。樹脂基材は、意匠性の観点から、繊維基材及び/又は炭素質基材(好ましくは炭素質基材、より好ましくは炭素繊維基材)の表面形状を模したものであることが好ましい。「繊維基材及び/又は炭素質基材の表面形状を模した」樹脂基材としては、例えば、表面に、繊維基材及び/又は炭素質基材の表面の凹凸と同じ又は類似の凹凸を有する、樹脂基材(例えばエンボス基材(シート))が挙げられる。
【0038】
基材の層構成は特に制限されない。基材は、1種単独の基材から構成されるものであってもよいし、2種以上の基材が複数組み合わされたものであってもよい。
【0039】
基材の厚みは、基材の種類に応じて異なり得るものであり、特に制限されない。基材の厚みは、例えば0.01~10mm、好ましくは0.05~5mmである。
【0040】
以下、好ましい基材である繊維基材、炭素質基材、及び樹脂基材について詳述する。
【0041】
<1-2-1.繊維基材>
繊維基材は、繊維又は繊維束を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。繊維基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、繊維及び繊維束以外の成分が含まれていてもよい。その場合、繊維基材中の繊維及び繊維束の合計量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。繊維基材としては、例えば、織物(例えば、平織、綾織(斜文織)、繻子織等)、編物、不織布、紙等が挙げられる。これらの中でも、表面の凹凸形状が比較的大きく、本発明の積層シートの意匠性がより高くなるという観点から、好ましくは織物、編物等が挙げられ、より好ましくは織物が挙げられる。
【0042】
繊維基材を構成する繊維としては、特に制限されず、例えば炭素繊維(例えばPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、カーボンナノチューブ等)、ガラス繊維(例えばグラスウール、グラスファイバー等)、鉱物繊維(例えば温石綿、白石綿、青石綿、茶石綿、直閃石綿、透角閃石綿、陽起石綿等)、人造鉱物繊維(例えばロックウール、セラミックファイバー等)、金属繊維(例えば、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、鉄繊維、ニッケル繊維、銅繊維等)等の無機繊維; 合成繊維(例えばナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維等)、再生繊維(例えばレーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、アセテート等)、植物繊維(例えば綿繊維、麻繊維、亜麻繊維、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維、リヨセル繊維、アセテート繊維等)、動物繊維(例えば羊毛、絹、天蚕糸、モヘヤ、カシミア、キャメル、ラマ、アルパカ、ビキューナ、アンゴラ、蜘蛛糸等)等の有機繊維等を広く用いることができる。
【0043】
繊維のサイズは、繊維の種類に応じて異なり得るものであり、特に制限されない。炭素繊維の場合、例えば平均直径が1,000~30,000nm程度(特に1,000~10,000nm程度)が好ましい。
【0044】
繊維の形態は、連続長繊維や連続長繊維をカットした短繊維、粉末状に粉砕したミルド糸等、いずれでもよい。
【0045】
繊維は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0046】
繊維束は、複数の繊維からなるものである限り、特に制限されない。繊維束を構成する繊維の本数は、例えば500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは1000~50000、さらに好ましくは1500~40000、よりさらに好ましくは2000~30000である。
【0047】
<1-2-2.樹脂基材>
樹脂基材は、樹脂を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。樹脂基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。その場合、樹脂基材中の樹脂の合計量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0048】
樹脂としては、特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等が挙げられる。
【0049】
これらの中でも、繊維基材及び/又は炭素質基材の表面形状を模すことに適しているという観点から、好ましくはポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、及び、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0050】
<1-2-3.炭素質基材>
炭素質基材は、炭素材料を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。炭素質基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、炭素材料以外の成分が含まれていてもよい。その場合、炭素質基材中の炭素材料量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0051】
炭素材料としては、特に制限されず、例えば炭素繊維(例えばPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、カーボンナノチューブ等)、カーボンブラック、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、炭素繊維又は炭素繊維束が挙げられ、より好ましくはPAN系炭素繊維又はその束が挙げられる。
【0052】
炭素繊維のサイズは、特に制限されないが、例えば平均直径が1,000~30,000nm程度(特に1,000~10,000nm程度)が好ましい。
【0053】
炭素繊維の形態は、連続長繊維や連続長繊維をカットした短繊維、粉末状に粉砕したミルド糸等、いずれでもよい。
【0054】
炭素繊維束は、複数の繊維からなるものである限り、特に制限されない。繊維束を構成する繊維の本数は、例えば500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは1000~50000、さらに好ましくは1500~40000、よりさらに好ましくは2000~30000である。
【0055】
炭素材料は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0056】
炭素質基材の具体例としては、例えば炭素繊維基材(例えば、平織、綾織(斜文織)、繻子織等の織物、編物、不織布、紙等)、グラフェンシート等が挙げられる。これらの中でも、炭素質基材は、凹凸を有するものが好ましく、具体的には、炭素繊維基材が好ましく、炭素繊維の織物、編物等がより好ましく、炭素繊維の織物がさらに好ましい。
【0057】
<1-3.赤外反射層>
赤外反射層は、本発明の特性1~3を担う層であり、基材上(好ましくは、基材の表面上)に配置されている層である。本発明の積層シートは、金属元素又は半金属元素含有層を1層以上有する。赤外反射層の層数は例えば2~6であり、好ましくは4である。
【0058】
赤外反射層の厚みは、特に制限されず、例えば1~1000nmである。該厚み(後述の酸化物層を有する場合は、赤外反射層の厚みと酸化物層の厚みとの和)は、積層シートの曲げ易さ等の観点等から、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。
【0059】
赤外反射層は、本発明の特性1~3発現容易性の観点から、金属層及び光学干渉層を有することが好ましい。この場合において、金属層は第1の金属層及び第2の金属層を有し、光学干渉層は、第1の光学干渉層及び第2の光学干渉層有することが好ましい。本発明の好ましい一態様において、本発明の積層シートは、少なくとも基材、第1の金属層、第1の光学干渉層、第2の金属層、及び第2の光学干渉層を有し、これらがこの順に積層されている(態様X)。以下、これらについて説明する。
【0060】
<1-3-1.金属層>
金属層は、少なくとも1つは、好ましくは基材上に配置される、換言すれば基材の有する2つの主面の少なくとも1方の表面上に配置される。金属層により、本発明の特性(特に特性3)を発現させることができる。金属層は、光学干渉や光の反射により、主に色彩における明度を調整することができる。金属層と基材との間には、他の層が備えられていてもよい。態様Xにおいて第1の金属層は、本発明の特性を満たすものであれば特に限定されないが、第1の金属層への入射光を反射するものであることが好ましい。態様Xにおいて第2の金属層は、本発明の特性を満たすものであれば特に限定されないが、第2の金属層への入射光を一部反射し一部透過するものであることが好ましい。
【0061】
金属層は、金属を素材として含む層である限り、特に制限されない。金属層は、金属以外の成分が含まれていてもよい。その場合、金属層中の金属量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0062】
金属層を構成する金属としては、特に制限されない。当該金属としては、本発明の特性の観点から、好ましくはAg、Al、Ti、Cu、Au、Fe、Ni、Zn、Zr、Cr、Mo、Ta、W、In、Sn等が挙げられる。これらの中でも、本発明の特性の観点から、好ましくはAg、Al、Ti、Cu、Au、Fe等が挙げられる。態様Xにおいて、第2の金属層は、本発明の特性の観点から、好ましくはAg、Al、Ti、Cu、Au、Fe、Ni、Zn、Zr、Cr、Mo、Ta、W、In、又はSn、より好ましくはAg、Al、Ti、Cu、Au、又はFeを含有する。態様Xにおいて、第1の金属層は、本発明の特性の観点から、好ましくはTi、Fe、Ag、Al、より好ましくはAg、Alを含有する。
【0063】
金属は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0064】
金属層の厚みは、特に制限されず、例えば1~1000nmである。該厚みは、金属光沢感に優れる観点等から、好ましくは5~500nm、より好ましくは5~300nmである。態様Xにおいて、第1の金属層の厚みは、本発明の特性の観点から比較的厚いことが好ましく、好ましくは10~1000nm、より好ましくは30~500nm、さらに好ましくは50~300nmである。態様Xにおいて、第2の金属層の厚みは、本発明の特性の観点から比較的薄いことが好ましく、好ましくは1~30nm、より好ましくは3~20nm、さらに好ましくは5~10nmである。
【0065】
金属層の層構成は特に制限されない。金属層は、1層からなる単層であってもよいし、同一又は異なる組成を有する複数の層であってもよい。また、金属層は、その2つの主面の一方或いは両方において、表面が酸化皮膜等の皮膜で構成されていてもよい。
【0066】
<1-3-2.光学干渉層>
光学干渉層は、通常、金属層上に配置される。換言すれば金属層の基材とは反対側の表面上に配置される。光学干渉層により、本発明の特性(特に特性1及び2)を発現させることができる。光学干渉層は、可視光吸収により色相を調整することができる。光学干渉層と金属層との間には、他の層が備えられていてもよい。
【0067】
光学干渉層は、金属元素又は半金属元素を素材として含む層であることが好ましい。光学干渉層は、金属元素及び半金属元素以外の成分が含まれていてもよい。その場合、光学干渉層中の金属元素及び半金属元素の含有量は、例えば30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、非常に好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0068】
光学干渉層を構成する金属及び/又は半金属としては、特に制限されず、例えばアルミニウム、銅、鉄、銀、金、白金、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、ケイ素、パラジウム、ゲルマニウム、ガリウム、等が挙げられる。これらの中でも、酸化物を形成し可視光吸収性及び屈折率の調整が容易である観点等から、好ましくはアルミニウム、銅、鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、ケイ素、パラジウム、ゲルマニウム、ガリウム等が挙げられ、より好ましくはケイ素、ゲルマニウム等が挙げられる。
【0069】
金属元素及び半金属元素は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0070】
光学干渉層は、金属元素又は半金属元素から構成される金属、半金属若しくは合金から構成されてもよく、金属元素又は半金属元素を含む化合物から構成されてもよく、またはこれらの混合物から構成されてもよい。金属元素又は半金属元素を含む化合物としては、例えば酸化物、窒化物、炭化物、及び窒化酸化物等が挙げられる。
【0071】
上記酸化物としては、例えばMOX[式中、Xは式:n/100)≦X<n/2(nは半金属の価数である)を満たす数であり、Mは半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0072】
上記窒化物としては、例えばMNy[式中、Yは式:n/100≦Y≦n/3(nは半金属の価数である)を満たす数であり、Mは半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0073】
上記炭化物としては、例えばMCz[式中、Zは式:n/100≦Z≦n/4(nは半金属の価数である)を満たす数であり、Mは半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0074】
上記窒化酸化物としては、例えばMOXNy[式中、XとYは、n/100≦X、n/100≦Y、かつ、X+Y<n/2(nは半金属の価数である)であり、Mは半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0075】
上記酸化物又は窒化酸化物の酸化数Xに関しては、例えばMOx又はMOxNyを含む層の断面を、FE-TEM-EDX(例えば、日本電子社製「JEM-ARM200F」)により元素分析し、MOx又はMOxNyを含む層の断面の面積当たりのMとOとの元素比率からXを算出することにより、酸素原子の価数を算出することができる。
【0076】
上記窒化物又は窒化酸化物の窒素化数Yに関しては、例えばMNy又はMOxNyを含む層の断面を、FE-TEM-EDX(例えば、日本電子社製「JEM-ARM200F」)により元素分析し、MNy又はMOxNyを含む層の断面の面積当たりのMとNとの元素比率からYを算出することにより、窒素原子の価数を算出することができる。
【0077】
上記炭化物の炭素化数Zに関しては、例えばMCz含む層の断面を、FE-TEM-EDX(例えば、日本電子社製「JEM-ARM200F」)により元素分析し、MCzを含む層の断面の面積当たりのMとCとの元素比率からZを算出することにより、炭素原子の価数を算出することができる。
【0078】
光学干渉層は、アモルファス形態の半金属、MOx(Mはn価の金属又は半金属を表し、かつxは0以上n/2未満の数を表す。)、MNy(Mはn価の金属又は半金属を表し、かつyは0以上n/3以下の数を表す)又はMCz(Mはn価の金属又は半金属を表し、かつzは0以上n/4以下の数を表す)を含む層を有することが好ましい。この場合において、Mは、それぞれ、ケイ素、ゲルマニウム、ガリウム、亜鉛、銀、金、チタン、アルミニウム、モリブデン、ニオブ、又はインジウムであることが好ましい。これらの中でも、可視光吸収性の観点等から、好ましくはケイ素、ゲルマニウム、ガリウム、亜鉛、チタン、アルミニウム、モリブデン、ニオブ、又はインジウム等が挙げられ、より好ましくはケイ素、ゲルマニウム等が挙げられる。上記場合において、半金属は、可視光吸収性の観点等から好ましくはケイ素、ゲルマニウム等が挙げられる。
【0079】
光学干渉層は、半金属元素を含有する(半金属元素含有層である)ことが好ましく、半金属が主成分(例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上)である層であることがより好ましい。光学干渉層に最も多く含まれる半金属元素は、ケイ素、又はゲルマニウムであることが好ましい。
【0080】
態様Xにおいて、第1の光学干渉層の主成分(例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上)は、本発明の特性の観点から、好ましくは銅、鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、ケイ素、パラジウム、ゲルマニウム、ガリウム及びこれらの化合物であり、より好ましくはケイ素、特に好ましくはアモルファスシリコンである。態様Xにおいて、第2の光学干渉層の主成分(例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上)は、本発明の特性の観点から、好ましくは銅、鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、ケイ素、パラジウム、ゲルマニウム、ガリウム及びこれらの化合物であり、特に好ましくはSiCzである。
【0081】
光学干渉層の厚みは、特に制限されず、例えば1~500nmである。該厚みは、可視光吸収性の観点等から、好ましくは5~300nm、より好ましくは5~150nmである。態様Xにおいて、第1の光学干渉層の厚みは、本発明の特性の観点から、好ましくは1~200nm、より好ましくは5~100nm、さらに好ましくは5~50nmである。態様Xにおいて、第2の光学干渉層の厚みは、本発明の特性の観点から、好ましくは1~200nm、より好ましくは5~100nm、さらに好ましくは5~50nmである。
【0082】
光学干渉層の波長633nmにおける消衰係数は、可視光吸収性の観点等から、0.1以上であることが好ましい。該消衰係数は、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上である。該消衰係数の上限は、特に制限されず、例えば1、0.5、又は0.4である。態様Xにおける、第1の光学干渉層の上記消衰係数は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上であり、第2の光学干渉層の上記消衰係数は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上である。態様Xにおいては、第2の光学干渉層の上記消衰係数が第1の光学干渉層の上記消衰係数より小さいことが好ましい。該消衰係数の上限は、特に制限されず、例えば1、0.5、又は0.2である。態様Xにおける、第1の光学干渉層の上記消衰係数と第2の光学干渉層の上記消衰係数との差は、好ましくは0.1~0.5、より好ましくは0.1~0.3である。態様Xにおいて、消衰係数の差を上記範囲に調整することで、第2の光学干渉層の厚みを薄くすることができ、積層シートが取り扱いやすいものとなる。態様Xにおいて、波長400~700nm領域における反射率を制御する観点で、第1の光学干渉層の消衰係数が、第2の光学干渉層の消衰係数よりも大きいことが好ましい。消衰係数を制御する方法は特に限定されず、例えば、材料の選択、材料の混合比率の調整、材料の酸化度の調整等によって制御される。
【0083】
光学干渉層の波長633nmにおける消衰係数は次のようにして測定される。Si wafer上に光学干渉層が形成されたサンプルの分光エリプソメトリー測定(株式会社堀場製作所 UVISEL2、又はその同等品)により求められる。
【0084】
光学干渉層の屈折率は、可視光吸収性の観点等から、2.0~4.5であることが好ましい。該屈折率は、より好ましくは2.3~4.5、さらに好ましくは2.5~4.5である。態様Xにおける、第1の光学干渉層の屈折率は、好ましくは2.0~4.5、より好ましくは2.3~4.5、さらに好ましくは2.5~4.5であり、第2の光学干渉層の屈折率は、好ましくは2.0~4.5、より好ましくは2.3~4.0、さらに好ましくは2.5~3.0である。態様Xにおいては、第2の光学干渉層の屈折率が第1の光学干渉層の屈折率より大きいことが好ましい。態様Xにおける、第1の光学干渉層の屈折率と第2の光学干渉層の屈折率との差は、好ましくは0.1~3.0、より好ましくは0.5~2.0、さらに好ましくは1.0~1.5である。態様Xにおいて、屈折率の差を上記範囲に調整することで、第2の光学干渉層の厚みを薄くすることができ、積層シートが取り扱いやすいものとなる。屈折率を制御する方法は特に限定されず、例えば、材料の選択、材料の混合比率の調整、材料の酸化度の調整等によって制御される。
【0085】
光学干渉層の屈折率は次のようにして測定される。 Si wafer上に光学干渉層が形成されたサンプルの分光エリプソメトリー測定(株式会社堀場製作所 UVISEL2、又はその同等品)により求めることが出来る。
【0086】
光学干渉層の層構成は特に制限されない。光学干渉層は、1層からなる単層であってもよいし、同一又は異なる組成を有する複数の層であってもよい。光学干渉層は、その2つの主面の一方或いは両方において、表面が酸化皮膜等の皮膜で構成されていてもよい。
【0087】
本発明の積層シートが含む光学干渉層の数は特に限定されないが、2層以上、4層以下であることが好ましい。2層以上であることによって積層シートが黒色に優れたものとなる。4層以下であることによって、積層シートの厚みを薄く制御することができ、積層シートが取り扱いやすいものとなる。
【0088】
<1-4.酸化物層>
本発明の積層シートは、基材の上側の表面上に、酸化物層を有してもよい。酸化物層により、耐変色性等の耐久性をより向上させることができる。
【0089】
酸化物層は、金属または半金属の酸化物を素材として含む層である限り、特に制限されない。酸化物層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、該酸化物以外の成分が含まれていてもよい。その場合、酸化物層中の該酸化物量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0090】
酸化物層を構成する半金属酸化物としては、特に制限されず、例えばケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、等の半金属(好ましくはケイ素)の酸化物が挙げられる。より具体的には、半金属酸化物としては、AOX[式中、Xは式:n/2.5≦X≦n/2(nは半金属の価数である)を満たす数であり、Aはケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、及びからなる群から選択される半金属である。]で表される化合物が挙げられる。上記式中のAが半金属元素である場合、積層シートの色調を良好に調整できる観点から、Aはケイ素が好ましく、半金属酸化物がSiO2であることがより好ましい。半金属酸化物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0091】
酸化物層を構成する金属酸化物としては、特に制限されず、例えばチタン、亜鉛、アルミニウム、ニオブ、コバルト、ニッケル等の金属(好ましくはチタン、亜鉛、及び、アルミニウム)の酸化物が挙げられる。より具体的には、金属酸化物としては、AOX[式中、Xは式:n/2.5≦X≦n/2(nは金属の価数である)を満たす数であり、Aはチタン、アルミニウム、ニオブ、コバルト、及び、ニッケルからなる群から選択される金属である。]で表される化合物が挙げられる。上記式中のAが金属元素である場合、積層シートの色調を良好に調整できる観点から、Aはチタン及びアルミニウムが好ましく、金属酸化物はTiO2、ZnO及びAl2O5であることがより好ましい。金属酸化物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0092】
耐変色性等の耐久性、透明性、及び色彩の調整を容易にする観点から、上記式中のXは、好ましくはn/2.4以上n/2以下、より好ましくはn/2.3以上n/2以下、さらに好ましくはn/2.2以上n/2以下、特に好ましくはn/2.1以上n/2以下である。
【0093】
酸化物層の厚みは、特に制限されず、例えば1~50nmである。該厚みは、耐変色性等の耐久性及び透明性の向上の観点等から、好ましくは2~20nm、より好ましくは3~10nmである。
【0094】
酸化物層の層構成は特に制限されない。酸化物層は、1層からなる単層であってもよいし、同一又は異なる組成を有する複数の層であってもよい。
【0095】
<1-5.色相、光に対する温度上昇>
本発明の積層シートは、黒系統色を呈する。本発明の一態様において、本発明の積層シートのL*a*b*表色系におけるL*値が35以下であり、a*値が-7~7であり、b*値が-7~7であることが好ましい。本発明の積層シートのL*a*b*表色系における彩度C*は好ましくは10以下であり、より好ましくは9以下であり、さらに好ましくは8以下である。
【0096】
L*a*b*表色系における本発明の積層シートの色は、次のようにして測定される。分光測色計(日本分光社製「分光光度計 V-670、積分球測定ユニット ISN-723」、又はその同等品)を用いて、積層シートの光学干渉層側の表面について、5度入射、5度受光による分光反射率測定により得られる反射スペクトルから、JIS Z8781-4:2013に従って計算し求めることが出来る。
【0097】
本発明の積層シートは、光による温度上昇が抑制されている。本発明の一態様において、本発明の積層シートは、以下の光加熱試験による温度上昇が、好ましくは60℃以下である。
【0098】
光加熱試験はつぎのようにして行う。疑似太陽光光源(XC-500EFSS SERIC社製)を設置し、光源から50cm離れた試料台上において光照射エリアの中央に位置するようにサンプルを設置した。サンプル表面で光量がAM1.5になるように出力を調整した。室温20℃、開放系にて20分間光を照射し、サンプル表面の温度を熱電対により測定し、最大温度を記録した。
【0099】
<1-6.態様X>
次に態様Xについて詳述する。態様Xは、少なくとも基材、第1の金属層、第1の光学干渉層、第2の金属層、及び第2の光学干渉層を有し、これらがこの順に積層されている。態様Xにおいて第1の金属層は入射光を反射するものであり、且つ、第2の金属層は入射光を一部反射し、一部透過するものであることが好ましい。態様Xにおいて本発明の特性を満たすように赤外反射層を制御することによって、第1の金属層で反射されて生じる反射光と、第2の金属層で反射されて生じる反射光とが光学干渉を起こす。その結果、態様Xは黒系統色を呈し且つ光による温度上昇が抑制される。
【0100】
態様Xは更に光学干渉層を備えていてもよい。例えば態様Xが更に第3の光学干渉層を備える場合、基材、第1の金属層、第1の光学干渉層、第2の金属層、第2の光学干渉層及び第3の光学干渉層を有し、これらがこの順に積層されている。また、態様Xが第3の光学干渉層及び第4の光学干渉層を備える場合、基材、第1の金属層、第1の光学干渉層、第2の金属層、第2の光学干渉層、第3の光学干渉層及び第4の光学干渉層を有し、これらがこの順に積層されている。また態様Xが第3の光学干渉層を備える場合、第2の光学干渉層と第3の光学干渉層の間に金属層を備えてもよい。態様Xが第4の光学干渉層を備える場合、第3の光学干渉層と第4の光学干渉層の間に金属層を備えてもよい。
【0101】
<1-7.製造方法>
本発明の積層シートは、基材の表面に赤外反射層を形成する工程を含む方法により得ることができる。また、酸化物層を含む場合は、例えば、赤外反射層の表面に酸化物層を形成する工程を含む方法により、得ることができる。
【0102】
特に限定されないが、前記形成は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、パルスレーザーデポジション法等により行うことができる。これらの中でも、膜厚制御性の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0103】
スパッタリング法としては、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ、高周波マグネトロンスパッタ及びイオンビームスパッタ等が挙げられる。また、スパッタ装置は、バッチ方式であってもロール・ツー・ロール方式であってもよい。
【0104】
光学干渉層として、アモルファス形態の半金属を含む層(アモルファス半金属層)を得るために、一例として、以下の製造方法を採用することが可能である。
図1を参照しつつ、説明する。なお、以下、アモルファス半金属層を形成する対象のシートを「非処理シート」と示す。
【0105】
図1は、スパッタリング装置の一例を示す縦断面図であり、密閉可能なケーシング10が水平方向の仕切り板11によって下側のスパッタ室12と上側のロール室13とに分けられ、下側のスパッタ室12の中央に銅鋼からなる平板状のターゲット14が中空のターゲットソース15上に固定され、このターゲットソース15に通される冷水によって下面側から冷却されるようになっている。このターゲット14の上方左右にアノード16が水平に設置される。一方、上側のロール室13の下部に水冷シリンダー17が水平に、かつ回転自在に設置され、その下半部が仕切り板11に形成した開口部11aからスパッタ室12内に突出する。そして、ロール室13の上部右側に非処理シートの送り出し軸18が、また上部左側に非処理シートの巻取り軸19がそれぞれ水平に、かつ回転自在に設置され、送り出し軸18に巻かれている非処理シートが引出され、右上部のガイドローラ20を経て前記水冷シリンダー17に巻回され、左上部のガイドローラ20を経て巻取り軸19に巻付けられる。なお、スパッタ室12には第2の真空ポンプ21が、またロール室13には第1の真空ポンプ22がそれぞれ接続される。
【0106】
好ましくは、スパッタリングによるアモルファス半金属層の被覆の前に、非処理シートを、例えば、100~130℃の乾燥条件下で、水分含有率が0.1重量%以下になるまで、乾燥する。
【0107】
長尺の非処理シートは、巻芯上にロール状に巻かれ、この巻芯が密閉可能なケーシング10内に設けられている送り出し軸18に装着され、この送り出し軸18上の巻芯から引出された非処理シートの先端が送り出し軸18と平行に設けられている巻取り軸19上の巻芯に固定される。そして、前記の送り出し軸18及び巻取り軸19を回転することにより、非処理シートが拡布状態で、かつ所定の速度で前送りされるが、この製造方法では、前記の非処理シートが送り出し軸18及び巻取り軸19の間で冷却され、非処理シートの表面温度が好ましくは形成するアモルファス半金属層の素材の融点の1/2以下、より好ましくは1/3以下、さらに好ましくは1/5以下、よりさらに好ましくは1/10以下に維持される。上記表面温度とすることで、結晶子サイズの上昇を抑制することができ、アモルファス半金属層が得易くなる。
【0108】
前記の非処理シートの冷却は、非処理シートを大径の水冷シリンダー17に接触させて前送りすることによって行うことができる。また、別法として、小径の多数本の水冷ローラにガイドローラ状に圧接して前送りする方法等が例示される。なお、前記のターゲット14も、水冷その他の冷却手段によって冷却すること、または、放熱性を良好にすることが好ましく、これによってアモルファス半金属層が得易くなる。前記のまたは水冷シリンダー14に接して移動する非処理シートの片側に非処理シートの幅よりも長い棒状のアノード16、及び平板状の銅鋼であるターゲット14が、非処理シートとターゲット14の間にアノード16が位置するように近接させて、かつ平行に配置され、このアノード16及びターゲット14間に500~1000Vの直流電圧が印加される。なお、ケーシング10内は、あらかじめ密閉状態で減圧され、次いでアルゴンガス等の不活性ガスを導入して1×10-1~1×10-2Pa程度の不活性ガス雰囲気に形成される。
【0109】
2.用途
本発明の積層シートは、黒系統色を呈し且つ光による温度上昇が抑制されているので、意匠性がより高められた積層シート、特徴的な意匠性を発揮する積層シートとして、各種分野において、特に光による温度上昇を抑制することが好ましい分野において、例えば樹脂との複合材料として、また内外装材として、利用することができる。
【0110】
この観点から、本発明は、その一態様において、本発明の積層シート及び樹脂を含有する、複合材料や、本発明の積層シートを有する、内外装材(本明細書において、「本発明の材料」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0111】
複合材料は、本発明の積層シートと樹脂を含有する限りにおいて、特に制限されない。好ましくは、複合材料は、本発明の積層シートが母材である樹脂中に含有されてなる、繊維強化プラスチックである。
【0112】
樹脂としては、特に制限されず、種々様々な樹脂を採用することができる。なお、樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン)、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルイミドやポリエーテルサルホン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0113】
本発明の材料は、常法にしたがって製造することができ、自動車(特に、自動車の内外装)、航空機、スポーツ関連製品(ゴルフシャフト、テニスラケット、バドミントンラケット、釣り竿、スキー板、スノーボード、バット、アーチェリー、自転車、ボート、カヌー、ヨット、ウィンドサーフィン等)、医療器具、建築部材、電気機器(パソコン等の筐体、スピーカーコーン)等を製造するための構造材料等、様々な用途において活用することができる。これらの中でも、本発明の材料は、好適には、内装材、自動車用内外装(特に、内装)用材料として用いることができる。
【実施例0114】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
(1)積層シートの製造
(実施例1)
PET基材(厚み50μm)を真空装置内に設置し、5.0×10-4Pa以下となるまで真空排気した。続いて、アルゴンガスを導入して、DCマグネトロンスパッタリング法により、基材の表面上に、金属層としてAl層(平均厚み150nm)を形成し、基材、金属層の順に積層されてなる積層体を得た。同様に、Si層((平均厚み28.5nm)、Al層(平均厚み9nm)、SiC層(平均厚み33.5nm)を順に積層し、基材と第1の金属層、第1の光学干渉層、第2の金属層、及び第2の光学干渉層よりなる積層体を形成して、積層シートを得た。
【0115】
(実施例2)
PET基材(厚み50μm)を真空装置内に設置し、5.0×10-4Pa以下となるまで真空排気した。続いて、アルゴンガスを導入して、DCマグネトロンスパッタリング法により、基材の表面上に、金属層としてAl層(平均厚み100nm)を形成し、基材、金属層の順に積層されてなる積層体を得た。同様に、Si層((平均厚み42.5nm)、Al層(平均厚み8nm)、SiC層(平均厚み54nm)、Al層(平均厚み6nm)を順に積層し、続いてアルゴンガス、酸素ガスを導入して、RFマグネトロンスパッタリング法によりTiO2層(平均厚み39nm)を積層し、基材と第1の金属層、第1の光学干渉層、第2の金属層、及び第2の光学干渉層、及び第3の金属層、及び第3の光学干渉層よりなる積層体を形成して、積層シートを得た。
【0116】
(実施例3)
乾式ウレタン人工皮革基材を真空装置内に設置し、5.0×10-4Pa以下となるまで真空排気した。続いて、アルゴンガスを導入して、DCマグネトロンスパッタリング法により、基材の表面上に、金属層としてAl層(平均厚み70nm)を形成し、基材、金属層の順に積層されてなる積層体を得た。同様に、Si層((平均厚み28.5nm)、Al層(平均厚み9nm)、SiC層(平均厚み33.5nm)を順に積層し、基材と第1の金属層、第1の光学干渉層、第2の金属層、及び第2の光学干渉層よりなる積層体を形成して、積層シートを得た。
【0117】
(比較例1)
赤外反射層を有さない黒色PET基材(厚み50μm)を比較例1に係るシートとして用いた。
【0118】
(比較例2)
乾式ウレタン人工皮革基材を真空装置内に設置し、5.0×10-4Pa以下となるまで真空排気した。続いて、アルゴンガスを導入して、DCマグネトロンスパッタリング法により、基材の表面上に、金属層としてAl層(平均厚み70nm)を形成し、基材、金属層の順に積層されてなる積層体を得た。Al層にSi層((平均厚み14nm)積層し、基材と第1の金属層、第1の光学干渉層積層体を形成して、積層シートを得た。
【0119】
(比較例3)
赤外反射層を有さない乾式ウレタン人工皮革基材を比較例3に係るシートとした。
【0120】
(2)物性測定
(2-1)波長400~700nm領域における反射率の測定
分光測色計(日本分光社製「分光光度計 V-670、積分球測定ユニット ISN-723」)を用いて、積層シートの光学干渉層側の表面について、5度入射、5度受光による分光反射率測定により得られる反射スペクトルから平均の反射率を求めた。
【0121】
(2-2)波長400~700nm領域における反射率の最大値と最小値の差の測定
分光測色計(日本分光社製「分光光度計 V-670、積分球測定ユニット ISN-723」)を用いて、積層シートの光学干渉層側の表面について、5度入射、5度受光による分光反射率測定により得られる反射スペクトルより、400nm~700nmの領域における最大反射率と最小反射率の差を求めた。
【0122】
(2-3)波長1000~2500nm領域における反射率の測定
分光測色計(日本分光社製「分光光度計 V-670、積分球測定ユニット ISN-723」、又はその同等品)を用いて、積層シートの光学干渉層側の表面について、5度入射、5度受光による分光反射率測定を行った。
【0123】
(2-4)光学干渉層の消衰係数の測定
Si wafer上に光学干渉層が形成されたサンプルの分光エリプソメトリー測定(株式会社堀場製作所 UVISEL2)により求めた。
【0124】
(2-5)光学干渉層の屈折率差の測定
Si wafer上に光学干渉層が形成されたサンプルの分光エリプソメトリー測定(株式会社堀場製作所 UVISEL2)により求めた。
【0125】
(2-6)光学干渉層の屈折率差の測定
分光エリプソメトリー測定(株式会社堀場製作所 UVISEL2)により求めた各光学干渉層の屈折率の差を求めた。
【0126】
(3)評価
(3-1)色相評価
分光測色計(日本分光社製「分光光度計 V-670、積分球測定ユニット ISN-723」)を用いて、積層シートの光学干渉層側の表面について、5度入射、5度受光による分光反射率測定により得られる反射スペクトルを測定した。380~780nmの反射スペクトルを基に光源をD65として、JIS Z8781-4に従って(L*a*b*)計算した。(L*a*b*)について、L*値が35以下、a*値が-7~7、b*値が-7~7である場合○、この範囲外である場合×と評価した。
【0127】
(3-2)光による温度上昇の評価
実施例1、2及び比較例1における温度上昇試験は次のように行った。赤外線ランプ(NSP4坂口電熱製)を設置し、光源から25cm離れた試料台上において光照射エリアの中央に、かつ、赤外反射層が入射方向を向くようにサンプルを設置した。赤外反射層を有さない黒色PET基材表面の温度が8分照射後に47度となるように出力を調整した。実施例1で得られた積層シート、実施例2で得られた積層シート、及び、黒色PET基材(比較例1)に上記条件にて8分間光を照射し、サンプル表面の温度を熱電対により測定し、最大温度を記録した。
【0128】
実施例3及び比較例2,3における温度上昇試験は次のように行った。疑似太陽光光源(XC-500EFSS SERIC社製)を設置し、光源から50cm離れた試料台上において光照射エリアの中央、かつ赤外反射層が入射方向を向くようにサンプルを設置した。光源の強度はサンプル表面で光量がAM1.5になるように出力を調整した。20分間光を照射したときのサンプル表面の温度を熱電対により測定した。
赤外反射層を有さない基材単体の温度上昇よりも低減された場合○、赤外反射層を有さない基材単体の温度上昇以上である場合は×と評価した。
【0129】
(4)結果
結果を表1、2に示す。
【0130】
【0131】