(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125090
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】ウイルス不活性化組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 25/00 20060101AFI20220819BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220819BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
A01N25/00 101
A01P1/00
A01N43/40 101P
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100778
(22)【出願日】2022-06-23
(62)【分割の表示】P 2021088945の分割
【原出願日】2017-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】菅本 和志
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
(57)【要約】
【課題】ノンエンベロープウイルスに対して即効的な不活性化効果を有し、安全性にも優れたウイルス不活性化組成物を提供する。
【解決手段】ウイルス不活性化成分として1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと、ウイルス不活性化成分の効力増強剤として炭酸水素カリウムと、を水に溶解させて成り、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量が0.05質量%以上1.0質量%以下であり、炭酸水素カリウムの配合量が0.001質量%以上1.0質量%以下であるウイルス不活性化組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス不活性化成分として1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メ チルオキシ)ブタンジブロマイドと、
前記ウイルス不活性化成分の効力増強剤として炭酸水素カリウムと、
を水に溶解させて成り、前記1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量が0.05質量%以上1.0質量%以下であり、
前記炭酸水素カリウムの配合量が0.001質量%以上1.0質量%以下であることを特徴とするウイルス不活性化組成物。
【請求項2】
前記炭酸水素カリウムの配合量が0.005質量%以上1.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス不活性化組成物。
【請求項3】
ウイルス不活性化成分として1,4-ビス(3,3′ -(1-デシルピリジニウム)メ チルオキシ)ブタンジブロマイドと、
前記ウイルス不活性化成分の効力増強剤として炭酸カリウムと 、
を水に溶解させて成り、前記1,4-ビス(3,3′ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量が0.05質量%以上1.0質量%以下であり、
前記炭酸カリウムの配合量が0.0005質量%以上1.0質量%以下であることを特徴とするウイルス不活性化組成物。
【請求項4】
前記炭酸カリウムの配合量が0.005質量%以上1.0質量%以下であることを特 徴とする請求項3に記載のウイルス不活性化組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のウイルス不活性化組成物をノンエンベロープウイルスに対して接触させるノンエンベロープウイルスの不活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス不活性化組成物に関し、特にノロウイルス等のノンエンベロープウイルスに対して不活性化効果を有するウイルス不活性化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品製造及び調理施設、医療施設、教育施設等においてカリシウイルス科のノロウイルスによる食中毒が問題となっている。ノロウイルスの不活性化の方法としては、次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いる方法や、熱湯消毒による方法が知られている。しかし、次亜塩素酸による消毒では処理面を漂白したり、悪臭が発生したりするなど使い勝手が悪く、酸性タイプの漂白剤等と混用すると塩素ガスを発生するため安全性の面で十分ではなかった。また、熱湯消毒では、被消毒物との接触によって温度が低下してしまい所望の温度を保持することが困難である。さらに、熱湯によるやけどの危険もある。
【0003】
ノロウイルスは、RNAのみを持ったRNA型ウイルスで、RNAの周りをカプシドと呼ばれるたんぱく質の殻で覆われており、エンベロープと呼ばれる糖と脂質からなる膜を持っていないノンエンベロープウイルスである。一般的にエンベロープを持っているインフルエンザウイルス等のエンベロープウイルスは、薬剤により簡単にエンベロープが破壊され、宿主細胞のレセプターと結合できなくなるので不活性化できる。
【0004】
エンベロープイルスを不活性化する方法としては、例えば、特許文献1には、ウイルス不活性化効果を有する1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドを含有する抗ウイルス剤が開示されており、エンベロープイルスの一種であるインフルエンザウイルスに対する不活性化効果が記載されている。
【0005】
塩化ベンザルコニウムなどのモノ型の第四級アンモニウム塩は、ノンエンベロープウイルスに対して十分な不活性化効果が認められないことが知られている。一方、ジェミニ型第四級アンモニウム塩である1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドは、ノンエンベロープウイルスに対して不活性化効果は認められるが、十分な即効性はなかった。特許文献2には、低濃度の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドとエチレンジアミン四酢酸塩とを含有する殺カリシウイルス剤組成物の、ノンエンベロープウイルスの一種であるノロウイルス、及びノロウイルスの代替ウイルスであるカリシウイルス科のネコカリシウイルスに対する不活性化効果が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、低級アルコール、アルカリ性物質およびカチオン界面活性剤の3成分から成る組成物がノロウイルスに対して不活性効果を有することが開示されており、カチオン界面活性剤として塩化ベンザルコニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-214268号公報
【特許文献2】特開2010-215598号公報
【特許文献3】特開2008-189645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の殺カリシウイルス剤は、ウイルス懸濁液と10~15分間接触させて培養したときに不活性化効果が認められている。しかし、5分以内の即効的な不活性化効果については記載されておらず、ノンエンベロープウイルスに対してさらに即効的な不活性化効果を有するウイルス不活性化組成物が要望されていた。また、特許文献3の実施例1、2には、エタノール、アルカリ性物質およびカチオン界面活性剤を含む組成物がノロウイルスの代替ウイルスとしてのFCV、バクテリオファージ(MS2、φX174)に対して不活性化効果を示す試験結果が記載されているが、組成物に配合されるアルカリ性物質、カチオン界面活性剤の種類および配合量については何ら記載されておらず、不活性化効果が不明確であった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、ノンエンベロープウイルスに対して即効的な不活性化効果を有し、安全性にも優れたウイルス不活性化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、ウイルス不活性化成分として1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと、ウイルス不活性化成分の効力増強剤として炭酸水素カリウムと、を水に溶解させて成り、前記1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量が0.05質量%以上1.0質量%以下であり、前記炭酸水素カリウムの配合量が0.001質量%以上1.0質量%以下であることを特徴とするウイルス不活性化組成物であることを特徴とするウイルス不活性化組成物である。
【0011】
また本発明は、上記構成のウイルス不活性化組成物において、前記炭酸水素カリウムの配合量が0.005質量%以上1.0質量%以下であることを特徴としている。
【0012】
また本発明は、ウイルス不活性化成分として1,4-ビス(3,3′ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと、ウイルス不活性化成分の効力増強剤として炭酸カリウムと、を水に溶解させて成り、前記1,4-ビス(3,3′ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量が0.05質量%以上1.0質量%以下であり、前記炭酸カリウムの配合量が0.0005質量%以上1.0質量%以下であることを特徴とするウイルス不活性化組成物である。
【0013】
また本発明は、上記構成のウイルス不活性化組成物において、前記炭酸カリウムの配合量が0.005質量%以上1.0質量%以下であることを特徴としている。
【0014】
また本発明は、上記構成のウイルス不活性化組成物をノンエンベロープウイルスに対して接触させるノンエンベロープウイルスの不活性化方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の構成によれば、ウイルス不活性化成分として0.05質量%以上1.0質量%以下の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと、ウイルス不活性化成分の効力増強剤として炭酸水素カリウムと、を水に溶解させることにより、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量を抑えつつ、ノンエンベロープウイルスに対する即効的な不活性化効果と安全性、使用性とを兼ね備えたウイルス不活性化組成物となる。また、炭酸水素カリウムの配合量を0.001質量%以上1.0質量%以下とすることにより、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドによるウイルス不活性化効果に即効性を付与するとともに、組成物を塗布した後の炭酸水素カリウムの残渣を低減可能なウイルス不活性化組成物となる。
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成のウイルス不活性化組成物において、炭酸水素カリウムの配合量を0.005質量%以上1.0質量%以下とすることにより、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドによるウイルス不活性化効果の即効性をより一層高めることができる。
【0016】
また、本発明の第3の構成によれば、ウイルス不活性化成分として0.05質量%以上1.0質量%以下の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドを水に溶解させるとともに、ウイルス不活性化成分として1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドのウイルス不活性化効果を顕著に増強する炭酸カリウムを用い、炭酸カリウムの配合量を0.0005質量%以上1.0質量%以下とすることにより、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドによるウイルス不活性化効果に即効性を付与するとともに、組成物を塗布した後の炭酸ナトリウムの残渣を低減可能なウイルス不活性化組成物となる。
また、本発明の第4の構成によれば、上記第3の構成のウイルス不活性化組成物において、炭酸カリウムの配合量を0.005質量%以上1.0質量%以下とすることにより、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドによるウイルス不活性化効果の即効性をより一層高めることができる。
【0017】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成のウイルス不活性化組成物をノンエンベロープウイルスに対して接触させることにより、薬剤感受性が低く不活性化が困難なノンエンベロープウイルスの効果的な不活性化方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のウイルス不活性化組成物について詳細に説明する。本発明のウイルス不活性化組成物は、ウイルス不活性化成分として1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと、ウイルス不活性化成分の効力増強剤として炭酸塩、炭酸水素塩、およびアルカノールアミンから選ばれた1種以上と、を水に混合して水溶液としたものである。
【0019】
1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドは、下記の化学式(1)で表されるジェミニ型第四級アンモニウム塩であり、水に対する溶解度が20℃で589g/100gである。
【化1】
【0020】
本発明のウイルス不活性化組成物における1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量が少なすぎると十分なウイルス不活性化効果が得られない。一方、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量が多すぎるとウイルス不活性化効果の向上が見られない上に、皮膚刺激等が発生するおそれがある。そこで、コストや皮膚刺激等を考慮しつつ十分なウイルス不活性化効果を維持するためには、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量を0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。更に、0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲とするとより好ましい。
【0021】
本発明のウイルス不活性化組成物には、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドのウイルス不活性化効果を向上させる効力増強剤として炭酸塩、炭酸水素塩、およびアルカノールアミンから選ばれた1種以上が配合される。従来、アルカリ性物質がある程度のウイルス不活性化効果を有することは知られていたが、炭酸塩、炭酸水素塩、アルカノールアミンが1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドのウイルス不活性化効果を顕著に高めることは、本発明者らによって初めて発見された知見である。
【0022】
本発明のウイルス不活性化組成物に配合される炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等が挙げられる。炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエチルエタノールアミン、β-アミノアルカノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、2-(メチルアミノ)エタノール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。上記の化合物の中でも、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、モノエタノールアミンが特に好適に使用できる。これらの効力増強剤はそれぞれ単独で配合しても良いし、所定の配合比で混合して配合しても良い。
【0023】
本発明のウイルス不活性化組成物における効力増強剤の配合量は、特に限定されないものの、配合量が少なすぎる場合は1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドのウイルス不活性化効果が十分に増強されない可能性がある。一方、配合量が多すぎても1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドのウイルス不活性化効果の効率的な向上が見られない。
【0024】
また、効力増強剤として炭酸塩、炭酸水素塩を用いる場合、配合量が多すぎると組成物を塗布した後に固形物の残渣が残ってしまう。また、効力増強剤としてアルカノールアミンを用いる場合、特有の臭気や皮膚に対する刺激により使用感が悪くなる。従って、炭酸塩、炭酸水素塩、およびアルカノールアミンの配合量は、乾燥時の残渣や臭気等を考慮すると1.0質量%以下が好ましい。
【0025】
具体的には、後述の実施例において示すように、炭酸水素ナトリウムの配合量は組成物全体に対して0.001質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.005質量%以上1.0質量%以下が特に好ましい。また、炭酸ナトリウムの配合量は組成物全体に対して0.0005質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.005質量%以上1.0質量%以下が特に好ましい。また、モノエタノールアミンの配合量は組成物全体に対して0.001質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下が特に好ましい。
【0026】
本発明のウイルス不活性化組成物には、目的に応じて界面活性剤を配合することができる。界面活性剤には泡を発生する性質(泡立ち性)があり、泡立ち性に優れた界面活性剤を使用することで、本発明のウイルス不活性化組成物をトリガースプレー等で壁面にスプレーしたときの液ダレを抑制するとともに塗布領域も視認しやすくなる。
【0027】
本発明のウイルス不活性化組成物に配合される界面活性剤の種類は特に限定されるものではなく、ノニオン系界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。本発明のウイルス不活性化組成物中における界面活性剤の配合量は、特に限定されないものの、0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0028】
ノニオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
【0029】
カチオン界面活性剤の例としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンザルコニウム等の第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0030】
両性界面活性剤の例としては、ベタイン型界面活性剤が挙げられる。具体的には、ラウリル-N,N-ジメチル酢酸ベタイン、ラウリルアミドプロピル-N,N-ジメチル酢酸ベタイン、ヤシアルキルアミドプロピル-N,N-ジメチルヒドロキシプロピルスルホベタイン等が挙げられる。
【0031】
本発明のウイルス不活性化組成物は、水系タイプであり、溶媒としては主に水が用いられる。水としては、イオン交換水や逆浸透膜水等の精製水や、通常の水道水や工業用水、海洋深層水等が挙げられる。また必要に応じて、エタノール等の低級アルコール、各種グリコールやグリコールエーテル等の溶剤を用いることができる。
【0032】
更に、本発明のウイルス不活性化組成物には、その他の成分として、必要に応じて、無機抗菌剤、有機抗菌剤、防藻剤、防錆剤、キレート剤、香料、消臭成分等を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することにより、抗菌効果、防藻効果、防錆効果、洗浄効果、芳香性、消臭性等を付与するようにしてもよい。
【0033】
こうして得られた本発明のウイルス不活性化組成物を、ウイルス感染者が触れた場所、ウイルス感染者の嘔吐物を処理した場所や衣服等に直接塗布あるいはスプレーすることで、ウイルスを不活性化し、二次感染を防ぐことができる。そして、本発明のウイルス不活性化組成物は、次亜塩素酸を配合しないことから、安全に、かつ簡単に施用できるので極めて実用性が高いものである。
【0034】
また、本発明のウイルス不活性化組成物は、インフルエンザウイルス等のエンベロープウイルスに加えて、ノロウイルス等のノンエンベロープウイルスに対しても高い不活性化効果を有する。従って、従来のウイルス除去剤では不活性化が困難であったノロウイルスの不活性化に好適に使用することができる。
【0035】
また、本発明のウイルス不活性化組成物は、ウイルス不活性化成分として1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと、効力増強剤として炭酸塩、炭酸水素塩、およびアルカノールアミンから選ばれた1種以上と、を水に配合するだけの、非常に単純な組成である。そして、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、および効力増強剤として用いられる炭酸塩、炭酸水素塩、アルカノールアミンはいずれも安全性の高い化合物である。そのため、製造が簡便なうえ、多くのウイルス不活性化剤で問題となる皮膚への刺激性も小さく、安全性が極めて高いものである。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明の効果について更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。
【実施例0037】
[試験液の調製]
1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド(ハイジェニアS-100、タマ化学工業社製)、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム(いずれも和光純薬工業社製)、モノエタノールアミン(日本触媒社製)を表1に示す配合割合(質量%)で配合し、イオン交換水を加えて100質量%として試験液(本発明1~9)を得た。
【0038】
表1の化合物に、さらに塩化ベンザルコニウム(カチオンF2-50R、日油社製)、塩化ジデシルジメチルアンモニウム(リポガード210-80E、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を加え、表2に示す配合割合(質量%)で配合し、イオン交換水を加えて100質量%として試験液(比較例1~10)を得た。
培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を1000rpm/分で3分間遠心分離し、得られた上澄み液をウイルス浮遊液とした。ウイルス浮遊液と、フィルター滅菌した20%ウシ血清アルブミン水溶液を1:3で混合したものを試験ウイルス液とした。試験ウイルス液には負荷として15%のウシ血清アルブミンが含まれている。
実施例1で調製した本発明、比較例の試験液0.9mLに、試験ウイルス液0.1mLを添加混合し、作用液とした。一定時間後に作用液をMEM培地で1000倍希釈し、10倍希釈系列を作製した。なお、精製水に試験ウイルス液を添加したものを対照として同様の操作を行った。
評価基準は、作用液を1分作用させたときのウイルス除去率が99%以上であるものを◎、1分作用させたときのウイルス除去率が75%以上99%未満、5分作用させたときのウイルス除去率が99%以上であるものを○、1分作用させたときのウイルス除去率が75%未満であるものを×とした。ウイルス除去効果を試験液の配合と併せて表1、表2に示す。
表1に示すように、0.1質量%、0.5質量%の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと0.001~0.1質量%の炭酸水素ナトリウムとを配合した本発明1~4、0.1質量%、0.5質量%の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと0.0005、0.005質量%の炭酸ナトリウムとを配合した本発明5、6、および0.05質量%~0.5質量%の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと0.001~1質量%のモノエタノールアミンとを配合した本発明7~9では、いずれもネコカリシウイルスに対して5分後のウイルス除去率が99%以上となり、短時間(5分間)の処理でネコカリシウイルスがほぼ完全に不活性化した。
特に、0.1質量%、0.5質量%の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと0.005~0.1質量%の炭酸水素ナトリウムとを配合した本発明1~3、0.1質量%の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと0.005質量%の炭酸ナトリウムとを配合した本発明5、および0.1質量%の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと0.1質量%のモノエタノールアミンとを配合した本発明7では、1分後のウイルス除去率が99%以上となった。本発明3と本発明4、本発明5と本発明6、本発明7と本発明8の比較より、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムの配合量を0.005質量%以上、モノエタノールアミンの配合量を0.1質量%以上とすることで、より一層即効的なウイルス不活性化効果が得られることが確認された。
これに対し、表2に示すように、0.01質量%の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと、0.5質量%の炭酸水素ナトリウムとを配合した比較例1では1分後のウイルス除去率が0%となり、ウイルス不活性化効果が認められなかった。
また、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドに代えて、同じ第四級アンモニウム塩である0.1質量%の塩化ベンザルコニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウムと0.1質量%の炭酸水素ナトリウムとを配合した比較例2、3では、それぞれ1分後のウイルス除去率が0%となり、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムと塩化ベンザルコニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウムとの相乗効果によるウイルス不活性化効果は認められなかった。
一方、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、モノエタノールアミンをそれぞれ単独で配合した比較例4~6では、いずれも1分後のウイルス除去率が70%未満であり、ウイルス不活性化効果が十分ではなかった。また、0.1質量%、0.5質量%の1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドを単独で配合した比較例7、8では、それぞれ1分後のウイルス除去率が60%、65%となり、ウイルス不活性化効果が十分ではなかった。
さらに、0.1質量%の塩化ベンザルコニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウムのみを配合した比較例9、10では、1分後のウイルス除去率が0%となり、ウイルス不活性化効果が認められなかった。
表1、表2の結果から、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドは、単独では即効性のある十分なウイルス不活性化効果は認められなかったが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、またはモノエタノールアミンと併せて配合した場合に即効的なウイルス不活性化効果が得られることが確認された。
以上の結果より、炭酸塩である炭酸ナトリウム、炭酸水素塩である炭酸水素ナトリウム、アルカノールアミンであるモノエタノールアミンは、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドと共に配合することで、1,4-ビス(3,3′-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドのウイルス不活性化効果を増強する効力増強剤として特異的に作用することが確認された。
なお、ここでは本発明のウイルス不活性化組成物によるエンベロープウイルスに対する不活性化効果は示していないが、エンベロープウイルスはノンエンベロープウイルスに比べて薬剤に対する感受性が高いため、本発明のウイルス不活性化組成物がエンベロープウイルスに対しても即効的な不活性効果を有するのはもちろんである。