(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125116
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】積層造形用鋳物砂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 1/22 20060101AFI20220819BHJP
B22C 9/02 20060101ALI20220819BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220819BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20220819BHJP
【FI】
B22C1/22 C
B22C9/02 101
B33Y10/00
B33Y70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102774
(22)【出願日】2022-06-27
(62)【分割の表示】P 2021176388の分割
【原出願日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2020180956
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021098027
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591159262
【氏名又は名称】株式会社清田鋳機
(71)【出願人】
【識別番号】593090950
【氏名又は名称】株式会社トウチュウ
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】河上 高庸
(72)【発明者】
【氏名】藤野 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】山川 晟男
(72)【発明者】
【氏名】山元 寿文
(57)【要約】
【課題】高い鋳型強度を実現できるとともに、高い寸法精度をも与えることができる鋳物砂を提供する。
【解決手段】鋳物砂を含む層を形成する工程及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程を順に繰り返す工程を含む積層造形法によって鋳型を製造する方法に用いられる鋳物砂であって、(1)前記鋳物砂を構成する砂粒表面にフラン樹脂有機層が形成されており、(2)前記フラン樹脂有機層が、メタノールに対する溶解度(25℃)が32%以上である、ことを特徴とする積層造形用鋳物砂に係る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物砂を含む層を形成する工程及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程を順に繰り返す工程を含む積層造形法によって鋳型を製造する方法に用いられる鋳物砂であって、
(1)前記鋳物砂を構成する砂粒表面に、フラン樹脂前駆体及び酸成分を含むフラン樹脂有機層が形成されており、
(2)前記酸成分がエチルベンゼンスルホン酸及びキシレンスルホン酸を含み、
(3)前記フラン樹脂有機層が、メタノールに対する溶解度(25℃)が32%以上である、
ことを特徴とする積層造形用鋳物砂。
【請求項2】
積層造形用鋳物砂に含まれるイグロスが1.0質量%以下である、請求項1記載の積層造形用鋳物砂。
【請求項3】
積層造形用鋳物砂10g/水50gの分散液における分散媒のpHが4以下である、請求項1又は2に記載の積層造形用鋳物砂。
【請求項4】
積層造形用鋳物砂の安息角が、温度25℃及び湿度40%の条件下で42°以下である、請求項1~3のいずれかに記載の積層造形用鋳物砂。
【請求項5】
積層造形用鋳物砂を製造する方法であって、
a)出発材料となる砂と、フラン樹脂前駆体及び溶媒を含む組成物とを100℃以下で混合することにより第1混合物を得る工程、
b)前記第1混合物と、エチルベンゼンスルホン酸及びキシレンスルホン酸を含む酸成分含有組成物とを100℃以下で混合することにより第2混合物を得る工程及び
c)前記第2混合物を120℃以下で乾燥することにより乾燥砂状の鋳物砂を得る工程
を含むことを特徴する鋳物砂の製造方法。
【請求項6】
砂100質量部に対して水0.01~3質量部を添加する工程をさらに含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥を温度50~80℃で60~600秒間実施する、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥を第2混合物の水分量が300~1200質量ppmとなるまで実施する、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の積層造形用鋳物砂とバインダーとを含む3次元積層造形用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な積層造形用鋳物砂及びその製造方法に関する。特に、鋳造用砂型機である3次元積層鋳型機(3次元積層造形装置)等に供給される鋳造砂とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形法は、3D-CAD等の3次元データに基づいて、スライスされた2次元の層を積み重ねて成形体を作製する技術である。実際は、3次元積層造形用材料を3Dプリンターで積層することによって所望の形状をもつ物を創出することができる。その3次元積層造形用材料としては、例えば金属、樹脂、砂、石膏、セラミックス等のさまざまな材料が使用されている。
【0003】
この中でも、砂は、その砂型を鋳型として好適に用いることができることから、砂型も積層造形法により作製されている。特に、近年では、CAD等で作成した3次元形状を直接に砂型として実現できる3次元積層技術が注目を浴びている。このような砂型の製造方法では、砂型の不良を改善すること、積層流動性を改良すること等を目的として各種の製造方法あるいは3次元積層造形用材料が提案されている。
【0004】
例えば、砂粒と、前記砂粒を被覆する樹脂硬化物を含有する表面改質層とを有し、前記表面改質層に付着する硬化剤を備える鋳物砂を準備する準備工程と、前記鋳物砂を層状に形成し、前記鋳物砂の層にバインダーを添加して、前記鋳物砂の層における前記バインダーの添加部分を固める固化工程と、前記固化工程を繰り返して、前記添加部分を積層する積層工程と、を含むことを特徴とする砂型の製造方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
また例えば、砂粒と、前記砂粒を被覆する樹脂硬化物を含有する表面改質層とを有することを特徴とする鋳物砂が提案されている(特許文献2)。
【0006】
さらに、人工砂と、フラン樹脂前駆体を含むフラン樹脂組成物とを混合する工程と、前記フラン樹脂組成物が混合された人工砂に硬化剤を混合する工程と、を含み、前記硬化剤が、キシレンスルホン酸を含むことを特徴とする、鋳物砂の製造方法が知られている(特許文献3)。
【0007】
これらは、砂粒表面を「フラン樹脂前駆体」の硬化体で被覆した鋳物砂を用い、それを用いて3次元積層造形を行う際に散布されるバインダーとしても「フラン樹脂前駆体」を用いることで鋳型を製造する技術である。
【0008】
しかしながら、これらの従来技術では、鋳型の高強度化と鋳型の寸法精度との両立という点でさらなる改善が必要である。
【0009】
具体的には、前記のような従来の鋳物砂ではその表面を覆う皮膜は硬化体となっているため、バインダーとの反応性が低く、強度発現に比較的時間を要するという問題がある。また、バインダーとの反応性が低くなると、バインダーが反応水に溶け込みやすくなる結果、その溶液が未処理砂の方へ染み出し、予定していない領域も硬化させてしまうことになる。これが寸法精度の低下を引き起こす原因である。
【0010】
上記の強度発現の速度に関し、実際の鋳型製造においては、鋳型の取り出し時間の短縮化が要求されるが、塗布されたバインダーの硬化には一定の反応時間が必要となる。量産性を考慮すると、積層終了から鋳型取り出しまで長くても3時間程度(可能であれば1時間程度)で硬化させることが望まれるが、硬化が不十分なまま装置から鋳型を取り出すと、前記境界が不明瞭となっているため、刷毛等を利用して慎重に砂落とし等を行うことが必要となる。また、意図されずにバインダーが付着した砂が、バインダーが塗布されていない領域の砂(以下「未処理砂」ともいう。)に混入すると、未処理砂のリユース性を著しく損なう原因にもなるため、作業に著しい制約が加わる。
【0011】
上記の鋳型の寸法精度に関しては、積層造形法により鋳物砂にバインダーを散布することにより鋳型を製造するに際し、バインダーが塗布された領域と、バインダーが塗布されない領域との境界において、設計通りの境界面が形成されることが要求されているところ、その境界面が設計とずれることが主な原因となっている。
【0012】
そして、その境界面が設計通りにならないことの根本的な原因は、特にバインダー(場合によっては前記皮膜に含まれる)フラン樹脂前駆体の脱水縮合反応時において生成される水(以下「反応水」という。)にあると考えられる。この反応水は、フラン樹脂前駆体が硬化する工程において、反応系外に滲み出し、完全硬化した時点で生成は止まる。本発明者は、鋳型(硬化体)近傍の未処理砂のイグロス値が前記近傍から離れた未処理砂に比べて高くなっていること等の実験結果から、この反応水が硬化不良、ひいては寸法精度の低下、強度低下等の原因となっていることを突きとめている。
【0013】
積層造形法において、塗布されたバインダー(フラン樹脂前駆体)は、その粘性の低さにより、硬化速度が遅いほど硬化に伴う粘性の上昇が足りずに、バインダーが反応水に溶け込みやすくなり、その溶液が未処理砂の方へ染み出す。このため、本来は硬化すべきではない未処理砂(特に鋳型近傍の未処理砂)もわずかに硬化するために、寸法精度の低下を引き起こすと同時に未処理砂のリユース率の低下を招くこととなると考えられる。ちなみに、無理にリユース率を上げようとすると、フラン樹脂が付着した未処理砂が、リユースする鋳物砂に含まれることになるため、得られる鋳型には高い強度を付与することができない。このため、単純にリユース率を上げることができず、結果としてコストアップの要因となる。
【0014】
これらの課題を解決するためには、バインダー(フラン樹脂前駆体)の硬化速度を高める設計が有効と考えられ、その具体的手段としてスルホン酸類等の酸触媒(硬化剤)の増量がある。ところが、酸触媒を増量すると、酸触媒中に含まれる硫黄成分が鋳造製品の金属組織に悪影響を及ぼす可能性があること、ガス欠陥を誘発する可能性も高くなること等の問題が起こり得る。
【0015】
また例えば、レゾルシン等の硬化促進剤の無設計な添加は、塗布したバインダーの硬化速度を速くしすぎて反応水の生成量を急激に増やすことになるため、気化等により消失できなかった反応水を生むことに繋がる。一時的にせよ、過剰に生成された反応水の一部が、皮膜及びバインダーに由来する樹脂内部に取り込まれて内部硬化不良を引き起こしたり、あるいは自重又は毛細管現象により鋳物砂間を濡れ拡がることでかえって寸法精度等を低下させることが本発明者により確認されている。このことから、硬化速度の調整のみで寸法精度等を改善させるには限界があるといえる。
【0016】
このように、硬化速度を高める設計は、未処理砂のリユース率を高めたり、鋳型強度向上を図るうえでの根本的な解決方法にならないため、新たな制御方法が必要である。そうかといって、バインダーの粘性を最初から高める方法を採用することは難しい。なぜなら、3次元積層鋳型機にあって、バインダーはプリントヘッドから吐出させる必要があるために、バインダーの粘性を一定値以下に抑える必要があるからである。さらに、反応水の生成量が少ない樹脂への変更、例えばシェル法と呼ばれる別の鋳造方法で採用されているノボラック型フェノール樹脂を表面改質層に使用する手法も考えられるが、フラン樹脂組成物であれば問題がなかった別の問題(例えばブロッキング現象等)が発生する。ブロッキング現象を解決させるためには、吸水性のある材料、あるいはステアリン酸カルシウム等の常温で固形の油を鋳物砂に添加する方法も知られているが、未処理砂のリユース率を低下させることになるため、せっかく改良できた特性を失うことになる。
【0017】
さらには、鋳型の高強度化を図るためにバインダーの添加量を増やすと、反応水の生成量を増やすことに繋がり、結局は寸法精度の問題を繰り返すことになる。このようなことから、鋳型の高強度化と寸法精度の両立を図ることは、これら従来技術の鋳物砂では難しいといえる。
【0018】
前記の各文献のほかにも、例えば3次元積層鋳型に使用する粒状材料であって、前記粒状材料を結合するための有機バインダーを活性化して硬化せしめる酸触媒をコーティング膜として、粒状材料等に被膜した鋳物砂が知られている(特許文献4~5)。
【0019】
これらの手法で作製された鋳物砂では、砂と硬化剤とが直に接触するため、砂に含有される成分により、硬化剤の活性能が低下してしまう場合がある。この場合、硬化剤が添加された鋳物砂にバインダーを添加しても、バインダーを十分に硬化させることができず、砂型の造形不良が生じる。特に、積層された鋳物砂にバインダーが塗布されると、その塗布されたバインダーと鋳物砂表面にある硬化剤とが接触し、直ちに硬化反応が起こる。このため、ある程度は(鋳型の)初期強度こそ出せるものの、バインダーが少量の場合は鋳物砂粒全体を覆う前にバインダーが逐次固化していくので、それ以上の強度の伸びは期待できない。
【0020】
また、自硬性鋳型造形用鋳物砂に酸硬化剤を2種類適用することでフラン樹脂の硬化速度を高めると同時に、反応水を上手くフラン樹脂中に分散させながらフラン樹脂の内部硬化不良を改善し、鋳型強度を改善させる技術が知られている(特許文献6)。
【0021】
しかしながら、この手法で作製されたフラン樹脂も完全硬化してしまうため、3次元積層鋳型機において鋳型強度の改善には利用できない。既述した技術と同様、ある程度は初期強度を出せるが、それ以上の強度の伸びは期待できない。
【0022】
これら手法で作製された鋳物砂を用いて鋳型強度を向上させようとバインダーを多量に用いると、鋳造物側にガス欠陥を誘発するだけでなく、生成される反応水が多くなるために鋳型の寸法精度を犠牲にすることになる。
【0023】
以上のことから、これらの手法で鋳型の高強度化と寸法精度とを両立させるためには、鋳物砂の使用環境を相当に低湿度にする必要がある。また、硬化剤が最表面に存在する場合は、その潮解性ゆえに、砂どうしのブロッキングを防ぐ必要があり、ブロッキング現象を緩和させるための材料をさらに追加でコートする必要が生じ、未処理砂のリユース性又は使用後の鋳物砂の再生化にも著しく不利となる。
【0024】
これらの課題は、積層造形法における「塗布バインダーを、固化させたい領域にだけ、緩やかに積層された砂に振りかけるだけで、砂粒どうしを接着せしめる必要がある」という特殊な環境下にあって初めて問題となる現象である。これは、樹脂と硬化剤と砂とを機械的・強制的に混練し、その混練物を型に突き詰めることができる製法では問題にならないことが多い。すなわち、積層造形法における上記課題は、混練物を型に突き詰める技術では通常起こり得ない。
【0025】
一方、バインダーを硬化させるための触媒としての液体の硬化剤を砂粒に予め混練した状態で積層させ、あとから塗布バインダーを3次元積層鋳型機内で塗布して、硬化反応させる2液混合型の自硬性タイプの鋳物砂が提案されている(特許文献7)。
【0026】
しかし、2液混合型に代表される自硬性タイプの鋳物砂は、3次元積層鋳型機に鋳物砂が供給される段階で湿態の砂であり、サラサラした砂ではないので、そもそも積層性が不安定で精度の高い鋳型を作製することができない。加えて、粘性のある湿態であるために一定時間ごとにリコーターの砂排出口を清掃する必要があり(詰まりが発生して不具合となる)、手間が掛かるため、工数増によりコストアップ要因となる。また、硬化剤が砂粒の最表面に存在するため、特許文献4~5と同様の問題も有している。
【0027】
ところで、鋳造用に開発されたムライト質の人工砂セラビーズ(伊藤忠セラテック製)の再生砂を使って硬化不良を改善する技術が知られている(非特許文献1)。非特許文献1によれば「珪砂では再生機の負荷による砂の破砕に伴って、イグロス成分が効率よく除去されるが、セラビーズは高い耐破砕性により、再生歩留まりが高いが、反面イグロス成分が落ちにくい」と記述されている。
【0028】
しかし、再生砂のイグロス分は、より完全な硬化状態にあり、単にバインダーのみを再生砂に塗布するだけでは再生砂どうしを高速に固めることはできない。再生砂で高強度の鋳型を得るためには硬化剤を別途に加える必要があることから、寸法精度の課題に対しては新砂と何ら変わりはなく、再生砂の使用のみでは強度及び寸法精度ともに改善は見込めない。
【0029】
さらに、再生砂を積層造形法に適用することの難しさは、他の公知文献からも明らかである。例えば、フランプロセスでは硬化速度が遅く、強度が出し難く、実質的に珪砂の代替として利用が広がっていないセラビーズの改善事例として、微粉除去と水洗等による塩基性イオン除去処理による手法が提案されている(特許文献8)。ところが、この技術においても、砂粒表面を覆う樹脂成分は完全硬化しているため、新たに硬化剤を付着させる必要が生じる。これにより、非特許文献1と同様の問題が発生する結果、寸法精度と強度とを同時に改善することは困難となる。また、微粉除去後に乾燥等の余分なエネルギーが必要となるため製造コストにも影響する。
【0030】
再生砂の問題点を解決した別の手法として、インクジェット式の積層造形法において、回収砂である混練砂を焙焼することにより再生砂を得る方法が記載されている(特許文献9)。しかし、特許文献9によれば、焙焼の対象となる混練砂は、バインダーが塗布されていない混練砂(未処理砂)に限定されている。すなわち、その未処理砂は、砂粒表面に直に硬化剤が被覆されていることから、特許文献4等と同じ問題を有することになる。
【0031】
また、再生砂の使用時に、低下する鋳型の硬化速度を改善するための手法として、再生砂に残存する硬化剤と、新たに加える硬化剤との種類及び添加量を限定する方法が記載されている(特許文献10)。しかし、特許文献10においても、再生鋳物砂自体において、その砂粒表面を覆う樹脂成分が完全硬化状態にあるがゆえに、非特許文献1と同様の問題がある。
【0032】
その他にも、回収砂を機械研磨し、さらに研磨砂を焙焼処理することにより、回収砂を再生する方法が知られている(特許文献11)。しかし、この方法では、実際はバインダーが塗布されていない回収砂を出発材料として用いるところで、結局は砂粒表面が直に硬化剤で被覆された状態となっているため、やはり特許文献4等と同じ問題を有することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】特開2017-100162号
【特許文献2】特開2017-100163号
【特許文献3】特開2018-140422号
【特許文献4】特許第6027263号
【特許文献5】特許第6289648号
【特許文献6】特許第5119276号
【特許文献7】特許第5249447号
【特許文献8】特開2003-311370号
【特許文献9】特許第5916789号
【特許文献10】特許第5537067号
【特許文献11】特開2020-104125号
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】「鋳鉄工場への人工砂導入のための指針と事例」(社)日本鋳造協会(2012年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
従って、本発明の主な目的は、高い鋳型強度を実現できるとともに、鋳型に高い寸法精度を与えることもできる積層造形用鋳物砂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構成及び物性を兼ね備えた粒子(粒子群)が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0037】
すなわち、本発明は、下記の積層造形用材料及びその製造方法に係る。
1. 鋳物砂を含む層を形成する工程及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程を順に繰り返す工程を含む積層造形法によって鋳型を製造する方法に用いられる鋳物砂であって、
(1)前記鋳物砂を構成する砂粒表面に、フラン樹脂前駆体及び酸成分を含むフラン樹脂有機層が形成されており、
(2)前記フラン樹脂有機層が、メタノールに対する溶解度(25℃)が32%以上である、
ことを特徴とする積層造形用鋳物砂。
2. 積層造形用鋳物砂に含まれるイグロスが1.0質量%以下である、前記項1記載の積層造形用鋳物砂。
3. 積層造形用鋳物砂10g/水50gの分散液における分散媒のpHが4以下である、前記項1又は2に記載の積層造形用鋳物砂
4. 積層造形用鋳物砂の安息角が、温度25℃及び湿度40%の条件下で42°以下である、前記項1~3のいずれかに記載の積層造形用鋳物砂。
5. 積層造形用鋳物砂を製造する方法であって、
a)出発材料となる砂と、フラン樹脂前駆体及び溶媒を含む組成物とを100℃以下で混合することにより第1混合物を得る工程、
b)前記第1混合物と、酸成分含有組成物とを100℃以下で混合することにより第2混合物を得る工程及び
c)前記第2混合物を120℃以下で乾燥することにより乾燥砂状の鋳物砂を得る工程
を含むことを特徴する鋳物砂の製造方法。
6. 砂100質量部に対して水0.01~3質量部を添加する工程をさらに含む、前記項5に記載の製造方法。
7. 前記乾燥を50~80℃で60~600秒間実施する、前記項5又は6に記載の製造方法。
8. 前記乾燥を第2混合物の水分量が300~1200質量ppmとなるまで実施する、前記項5又は6に記載の製造方法。
9. 前記項1~4のいずれかに記載の積層造形用鋳物砂とバインダーとを含む3次元積層造形用キット。
10. 水分量が300~1200質量ppmである、前記項1~3のいずれかに記載の積層造形用鋳物砂。
11. フラン樹脂前駆体が、フルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマーを含む、前記項1~3のいずれかに記載の積層造形用鋳物砂。
12. 酸成分が、エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種と、キシレンスルホン酸とを含む、前記項1~3のいずれかに記載の積層造形用鋳物砂。
13. 積層造形時において使用されるバインダーとしてフルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマーを含むバインダーとの組み合わせで用いられる、前記項1~3のいずれかに記載の積層造形用鋳物砂。
14. 酸成分含有組成物が、エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種を50~60質量%含み、キシレンスルホン酸を40~50質量%含む、前記項5又は6に記載の製造方法。
15. 溶媒が水を含む、前記項5又は6に記載の製造方法。
16. 水分量が300~1200質量ppmである第2混合物を温度15~25℃でかつ湿度45%以下に管理する工程をさらに含む、前記項5又は6に記載の製造方法。
17. バインダーが、フルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマーを含む、前記項9に記載の3次元積層造形用キット。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、高い鋳型強度を実現できるとともに、鋳型に高い寸法精度を与えることもできる鋳物砂を提供することができる。すなわち、本発明は、高い強度と高い寸法精度とを有する鋳型を提供できる鋳物砂を提供することができる。これにより、特に3次元積層造形用鋳物砂として、本発明の鋳物砂を好適に用いることができる。
【0039】
特に、本発明の鋳物砂は、フラン樹脂有機層におけるメタノールに対する溶解度が32%以上という特定の範囲に制御されている。すなわち、フラン樹脂有機層は、いわば半硬化状態になっているため、本発明の鋳物砂にバインダーを散布することにより、全体にわたってムラなく硬化させることができる結果、高い強度と高い寸法精度とを兼ね備えた鋳型(成形体)を製造することができる。特に、強度においては、その強度発現の速さから、鋳型作製後の数分程度(例えば30分後)でも十分に高い強度を得ることができ、なおかつ、硬化速度が速い場合に起こり得る反応水の取り込みによる問題も回避できる結果、高い寸法精度も実現することができる。このように、本発明の鋳物砂を用いて積層造形法により鋳型を製造する場合でも、その鋳型(成形体)に高い強度と高い寸法精度とをともに付与することができる。
【0040】
しかも、本発明の鋳物砂は見かけ上、乾態状であるため、砂の突き固め作業を行うことができない積層法(積層造形法)にあっても鋳物砂の充填不足を招くおそれがなく、鋳型の高強度化が可能となる。
【0041】
このような特徴をもつ本発明の鋳物砂及びそれとバインダーとの組合せからなるキットは、積層造形法により砂型を製造するために好適に用いることができる。そして、このようにして得られた砂型(鋳型)は、従来の3D鋳型では対応困難である溶融温度の高い鉄系材料の鋳造にも使用でき、例えば鋳鉄のディーゼルエンジン等の製造(鋳造)に幅広く用いることができる。
【0042】
なお、本発明の鋳物砂は、積層造形法に好適となるように開発したものであるが、いわゆる自硬性用鋳型材料に転用させることも可能であり、特に、人工砂とフラン樹脂との組合せでベーニング欠陥等の鋳造欠陥対策として活用することもできる。
【0043】
また、本発明の製造方法によれば、本発明の鋳物砂をより確実に効率的に製造することができる。本発明者の研究によれば、高い鋳型強度と高い寸法精度とを両立するには、フラン樹脂有機層の溶解度の制御と反応水の生成量の制御が必要との知見を得ている。特に、フラン樹脂有機層の溶解度を制御する手段として、フラン樹脂有機層中の水分量をコントロールすることが重要である。さらに、硬化剤をフラン樹脂有機層中に分散させる方法も工夫することにより、より望ましい効果を得ることができる。これらを本発明の製造方法に導入することで、比較的少ない硬化剤と樹脂量で安定した鋳型強度の実現に加え、寸法安定性をも同時に実現できる鋳物砂をより確実に提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
1.積層造形用鋳物砂
本発明の積層造形用鋳物砂(本発明材料)は、鋳物砂を含む層を形成する工程及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程を順に繰り返す工程を含む積層造形法によって鋳型を製造する方法に用いられる鋳物砂であって、
(1)前記鋳物砂を構成する砂粒表面に、フラン樹脂前駆体及び酸成分を含むフラン樹脂有機層が形成されており、
(2)前記フラン樹脂有機層が、メタノールに対する溶解度(25℃)が32%以上である、
ことを特徴とする。
【0045】
(A)本発明材料を構成する物質
砂粒
本発明の鋳物砂を構成する粒子のコアとして砂粒(すなわち、フラン樹脂有機層が被覆される前の砂粒)を用いる。砂粒の集合体である砂としては、天然砂又は人工砂のいずれも使用することができる。天然砂としては、例えば珪砂、ジルコン砂、クロマイト、オリビン等が挙げられる。人工砂としては、ムライト、スピネル、アルミナ等が挙げられる。
【0046】
また、本発明では、新砂又は再生砂のいずれでも良く、また新砂と再生砂との混合砂であっても良い。本発明では、イグロスをより低く抑えられるという観点から新砂の人工砂が好ましく、その中でも焼結法で作製される人工砂がより好ましい。例えば、前記セラビーズを使用する場合は、微粉量が少ない骨砂を選択する方がフラン樹脂量を少なくできる点でより好ましい(例えば、製品名「セラビーズX」伊藤忠セラテック製)。一般的に、人工砂においてフラン樹脂の再生は難しい(イグロスが大きくなる)ことが知られている。本発明の砂粒に再生人工砂を選択する場合には、本発明材料において低イグロス(1.0質量%以下、特に0.8質量%以下)、低pH(4以下)を実現させるために、例えば新砂を混ぜる等の処置をとることが望ましい。
【0047】
なお、非特許文献1のような再生砂の砂粒表面上に残存するフラン樹脂膜は完全に硬化しているため、バインダーには溶けない。従って、そのようなフラン樹脂膜中にある硬化剤は、積層造形時に機能しない(高強度の鋳型は製造できない)。もっとも、表面状態が砂粒ごとに異なる再生人工砂を混合して用いることは、硬化剤の均質分散化、フラン樹脂有機層の溶解度調整を狙う本発明の性質上難しく、品質の安定性の観点から本質的には再生人工砂の使用は本発明にはあまり適さない。
【0048】
一方で、再生珪砂の場合は、再生処理時の機械的研磨等で破砕されやすく、砂粒形状が鋳物砂用に良化すること、及び焙焼・研磨等の再生処理でイグロス分を十分に低くできることから、フラン樹脂有機層との濡れ性改善が見込める点で使用可能な場合もある。ただし、再生珪砂がもつイグロスも完全硬化であるためにバインダーには溶けない。従って、再生珪砂を使用する場合は、あくまで骨材である砂粒として使用することが好ましい。
【0049】
また、砂粒の粒度は、特に限定されないが、一般的には粒度指数でAFS35~120が好ましく、特にAFS60~115がより好ましい。粒度は、必要に応じて、公知の分級方法により適宜調節することが可能である。
【0050】
フラン樹脂有機層
フラン樹脂有機層は、砂粒表面を被覆する皮膜(樹脂膜)であり、好ましくは砂粒全体を被覆している。
【0051】
フラン樹脂有機層は、特にa)フラン樹脂前駆体及びb)酸成分を含む。本発明材料において、フラン樹脂有機層は、積層される前の段階においては鋳物砂を構成する砂粒どうしの結合には直接寄与しないものである。このため、本発明材料は、外観性状としては乾粉であり、サラサラとした粉体としての流動性を有する。
【0052】
(a)フラン樹脂前駆体
フラン樹脂前駆体としては、縮合重合等によりフラン樹脂を形成し得るものであれば限定されず、例えばフルフリルアルコール、フラン樹脂プレポリマー等が挙げられる。特に、反応熱の抑制及び樹脂の低粘度化という理由から、フルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマーとを併用することが望ましい。
【0053】
フラン樹脂プレポリマーとしては、例えばフルフリルアルコール単独の重合体、フルフリルアルコールとアルデヒド化合物との共重合体、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)、フルフリルアルコールとフルフラールとの共重合体等が挙げられる。これらは、単独使用又は2種以上で併用することができる。
【0054】
本発明では、高強度化し易いという理由から、特にフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)が好ましい。前記のアルデヒド化合物としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール等が挙げられる。本発明では、特にホルムアルデヒドが好ましい。
【0055】
フラン樹脂前駆体としてフルフリルアルコール及びフラン樹脂プレポリマーを併用する場合、両者の合計100質量部として、フルフリルアルコールの含有量は、粘性の観点から35~60質量部の範囲内とすることが望ましい。
【0056】
また、フラン樹脂前駆体の含有量は、砂粒100質量部に対して通常は0.05~0.7質量部とし、特に0.1~0.5質量部とすることが好ましく、さらに0.1~0.4質量部とすることがより好ましく、またさらに0.1~0.35質量部とすることがより好ましく、その中でも0.1~0.3質量部とすることが最も好ましい。このような範囲内に設定することによって、得られる鋳型の強度と寸法精度とをより確実に高めることができる。
【0057】
フラン樹脂有機層中に占めるフラン樹脂前駆体の含有割合(固形分)は、上記に示した含有量となるように配合される限りは、特に限定されないが、通常は20~90質量%程度の範囲内とすれば良い。従って、例えば30~60質量%と設定することもできる。
【0058】
(b)酸成分
酸成分は、主として、積層する工程において使用されるバインダーの硬化のための酸触媒(硬化剤)として機能するものである。これらの酸成分を用いることによって、より高い強度を発揮できる鋳型を提供することができる。なお、以下においては、酸成分を「硬化剤」ということもある。
【0059】
酸成分としては、特に限定されず、公知又は市販の鋳物砂で酸触媒として配合されている成分も用いることができる。特に、本発明では、pKa(25℃)が5以下の酸成分を好適に用いることができる。より具体的には、脂肪族スルホン酸(例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸等)、芳香族スルホン酸(例えばエチルベンゼンスルホン酸、クメンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸等)、無機酸(例えば硫酸、リン酸、塩酸等)、カルボン酸(例えばマレイン酸、シュウ酸等)等の少なくとも1種が例示される。
【0060】
本発明では、芳香族スルホン酸が好ましく、特に炭素数1(C1)以上のアルキル基を有する芳香族スルホン酸がより好ましい。この中でも、本発明材料の保管条件を緩和できる等の観点から、エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種を用いることが好ましい。すなわち、酸成分は、エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、全酸成分中においてエチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種が占める割合は、通常は45質量%以上とし、特に55質量%以上とすることが望ましい。上記割合の上限値は、限定的ではなく、例えば100質量%とすることもできる。
【0061】
また、エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸を用いる場合でも、その他の酸成分も併用することができる。その他の酸成分としては、本発明では、特にキシレンスルホン酸が望ましい。キシレンスルホン酸としては、オルトキシレンスルホン酸、メタキシレンスルホン酸、パラキシレンスルホン酸等が挙げられる。これらキシレンスルホン酸は、単独使用又は2種以上で併用することができる。これらキシレンスルホン酸は、全酸成分中に50質量部以下程度(例えば10~50質量部)であることが望ましい。
【0062】
本発明材料中における酸成分の含有量は、例えば用いる酸成分の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は砂粒100質量部に対して0.05~0.5質量部とし、特に0.1~0.4質量部とすることが好ましく、さらに0.1~0.35質量部とすることがより好ましく、その中でも0.15~0.3質量部とすることが最も好ましい。上記範囲内に設定することによって、より高い鋳型強度が得られるとともに、鋳型使用時に生じ得るガス欠陥のほか、鋳造製品の金属組織に及ぼす悪影響等を効果的に抑制ないしは防止することができる。
【0063】
フラン樹脂有機層中に占める酸成分の含有割合(固形分)は、上記に示した含有量となるように配合される限りは、特に限定されないが、通常は10~80質量%程度の範囲内とすれば良い。従って、例えば30~60質量%と設定することもできる。
【0064】
(c)その他の成分
フラン樹脂有機層中においては、本発明の効果を妨げない範囲内において、他の成分が含まれていても良い。例えば、溶媒、架橋剤、硬化促進剤、フィラー、マイグレーション抑制剤、強度向上剤等の1種又は2種以上を適宜含有させることができる。
【0065】
硬化促進剤としては、公知の積層造形法で使用されている硬化促進剤と同様のものを使用できる。例えば、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスヒドロキシメチルフラン等が挙げられる。フラン樹脂有機層中の硬化促進剤の含有割合は、限定的ではないが、通常は1~30質量部程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0066】
溶媒としては、例えば水、アセトン、酢酸エチル、アルコール等が挙げられる。本発明では、沸点が比較的高く、フラン樹脂有機層の溶解度を制御しやすいという観点から溶媒として水を含むことが好ましい。溶媒の含有割合は、砂100質量部に対して、通常は0~1質量部程度の範囲内とすれば良い。従って、溶媒を含まない組成であっても良い。水等の溶媒を含む場合、より具体的には、本発明材料中の含有量が300~1200質量ppm(好ましくは300~900質量ppm)となるように設定することが望ましい。従って、例えば350~800質量ppmあるいは550~800質量ppmと設定することもできる。
【0067】
架橋剤としては、シランカップリング剤を好適に用いることができる。これは公知又は市販のものを使用することができる。架橋剤の含有割合は、砂粒100質量部に対して、例えば0.001~0.1質量部とすることができ、特に0.001~0.05質量部とすることが好ましい。従って、例えば0.002~0.02質量部と設定することもできる。本発明では、フラン樹脂と反応することができ、シラン由来の沈殿物が生成しにくいことから、アミノプロピルメチルジメトキシシランが好適である。架橋剤が少なすぎる場合は、フラン樹脂有機層と砂粒の結合力を落とし、鋳型強度が低下するおそれがある。また、架橋剤が多すぎる場合は、塗布用バインダーとフラン樹脂有機層の密着性を阻害し、鋳型強度を低下させることがある。
【0068】
また、任意成分として、フィラーを配合することもできる。これにより、より高い鋳型強度を得ることができる。本発明の効果を妨げない限り、有機系フィラー又は無機系フィラーのいずれであっても良い。また、フィラーの形状も特に限定されず、例えば球状、繊維状、鱗片状等のいずれの形態であっても良い。繊維状フィラーは短繊維又は長繊維のいずれでも良い。従って、例えば繊維径が1000nm以下でアスペクト比10~5000程度のナノファイバーも用いることができる。ナノファイバーとしては、例えばカーボンファイバー、シリカファイバー、セルロース等の食物繊維(多糖類)、パルプ、ガラス繊維等の公知又は市販のものを使用することができる。特に、本発明では、鋳型の設計自由度を高めることができる理由からセルロースナノファイバー(CNF)が好ましい。前記フィラーの添加量としては、特に限定されないが、通常は砂100質量部に対して1×10-4~1質量部とすることが好ましく、特に1×10-3~0.1質量部とすることがより好ましい。
【0069】
その他の任意成分として、後記に示すマイグレーション現象を抑制するためのマイグレーション抑制剤がある。マイグレーション抑制剤の使用により、より高い強度の鋳型を得ることができる。マイグレーション抑制剤としては、上記反応水を保持できるものであれば限定されないが、例えば吸水性(吸湿性)を示す物質(粉末)を用いることができる。特に、融点又は耐熱温度が130℃以上(好ましくは150℃以上)の粉末状物質を用いることができる。より具体的には、例えばセルロースナノファイバー等のセルロース類、シュウ酸等のジカルボン酸類等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。従って、例えばセルロースナノフィバー、シュウ酸等の有機粉末の少なくとも1種を好適に用いることもできる。これらを硬化剤と併用することで鋳型の設計自由度をさらに高めることできる。
【0070】
前記マイグレーション抑制剤の添加量としては、特に限定されないが、通常は砂粒100質量部に対して0.001~0.1質量部程度とすれば良く、特に0.005~0.05質量部とすることが好ましい。従って、例えば0.01~0.03質量部と設定することもできる。なお、例えばセルロースナノファイバーのように、前記フィラー及び前記マイグレーション抑制剤の両方の機能を兼ね備えている場合は、マイグレーション抑制剤の含有量に含めるものとする。また例えば、シュウ酸のように、前記酸成分及び前記マイグレーション抑制剤の両方の機能を兼ね備えている場合は、マイグレーション抑制剤の含有量に含めるものとする。
【0071】
特に、マイグレーション抑制剤を含有せさることにより、マイグレーション現象の担い手(媒体)となる水を減らすことができるため、マイグレーション現象を効果的に制御することができる。その結果、例えば反応水の生成量が多くなる条件下にあっても、マイグレーション現象により表層に集まりやすいフラン樹脂の移動を効果的に制限できる。あるいは、急激な脱水・蒸発により硬化反応が進みやすい条件下であっても、フラン樹脂の硬化反応を遅延させることができる。さらには、塗布されたバインダーとの接触後に不足する水の水源となってバインダー溶解の補助を行うことができるため、鋳型の設計に応じた塗布量の調整が可能となり、鋳型の設計自由度の向上を図ることもできる。
【0072】
また、その他の任意成分として、鋳型の強度向上に寄与できる強度向上剤が挙げられる。強度向上剤としては、フルフリルアルコール(あるいはバインダー)に分散させることが可能な樹脂であることに加え、硬化剤である酸成分により高分子化が劇的に進まない樹脂であれば良く、さらには鋳造時の爆熱に対する耐熱性を有するものが好ましい。このような機能を有する物質としては、フェノール系化合物の少なくとも1種を挙げることができる。より具体的には、ノボラック、レゾール、フェノールウレタン樹脂等の少なくとも1種が好ましい。前記フェノール系化合物の添加量としては、特に限定されないが、通常は砂粒100質量部に対して0.001~0.1質量部とすることが好ましく、特に0.005~0.1質量部とすることがより好ましい。
【0073】
特に、本発明では、強度向上剤をフラン樹脂有機層中に含有させることにより、反応水の生成量を急激に増やすことなく、鋳型の強度をより高めることができる。この理由は定かではないが、主として、フラン樹脂有機層のメタノールに対して所定の溶解性を維持できる機能によると考えられる。すなわち、これらのフェノール系化合物は、加熱作用で鋳型強度の向上に寄与(高分子化)するというよりも、むしろフラン樹脂有機層の溶解度調整により、鋳型の高強度化を実現させていると推察される。おそらくフラン樹脂有機層の溶解度の減少速度が遅延することでフラン樹脂有機層の硬化過程に時間的猶予が生まれ、結果的にフラン樹脂有機層の内部硬化不良が改善されるものと推測される。その結果、さらなる鋳型の高強度化が実現できるため、塗布バインダーの低減、あるいは皮膜用樹脂全体の配合量を減らす調整も可能となる。これにより、例えば、鋳鉄の鋳造時のドロス欠陥が抑制できたり、あるいはアルミニウム合金鋳造時のガス欠陥が抑制できる等の副次的効果も期待できる。
【0074】
(B)本発明材料の物性
本発明材料では、フラン樹脂有機層におけるメタノールに対する溶解度(25℃)が32%以上であり、好ましくは35%以上であり、より好ましくは45%以上であり、その中でも50%以上が最も好ましい。前記溶解度が32%を下回る場合、バインダーとの相溶性が低下するために低添加量のバインダーで高強度の鋳型が作製できなくなる。なお、溶解度の上限は、特に限定されないが、通常は99%程度とすることができる。
【0075】
本発明において、上記の溶解度は、フラン樹脂有機層における硬化の度合いを示す指標となるものであり、その数値が高いほど硬化の度合いが低く、半硬化状態となっていることを示す。換言すれば、上記の溶解度が0に近いほど完全硬化に近いことを意味する。
【0076】
本発明材料においては、フラン樹脂有機層は完全硬化に至っておらず、酸成分もフラン樹脂有機層中に均質に存在していることから、比較的少ない量の酸成分でもバインダーとの接触確率が高まり、バインダーの硬化ムラを防止できる結果、迅速な強度発現が得られると考えられる。特に、マイグレーション現象を上手く制御できた場合には、フラン樹脂有機層表層の酸成分が樹脂量に対して少なくなるため、酸による潮解性のリスクを軽減でき、鋳物砂自体は乾態として安定であり、積層性も安定する。その結果、得られる鋳造物の精度又は設計に対する鋳型再現性を高めることが可能になると考えられる。
【0077】
本発明材料の外観性状は、通常は乾燥砂状であり、サラサラとした状態になっている。すなわち、外観上は乾粉状態の鋳物砂であるため、粒状体と同様の流動性を有している。流動性を有する粉体としての指標としては、安息角が温度25℃及び湿度40%の条件下で42°以下であることが好ましい。ちなみに、人工砂の場合で安息角35°以下であり、珪砂の場合で安息角42°以下である。すなわち、公知又は市販の3次元積層鋳型機を利用できる流動性を有しているので、従来の鋳物砂と同様、これらの各種の装置に適用することができる。なお、安息角の下限値は、例えば24°程度とすることができるが、これに限定されない。
【0078】
本発明材料のイグロス(Ig loss)は、限定的ではないが、通常1.0質量%以下とし、好ましくは0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.75質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以下であり、その中でも0.59質量%以下とすることが最も好ましい。1.0質量%を超えると、アルミニウム合金の鋳造時に手直し不能なガス欠陥が鋳物に発生するおそれがある。また、イグロスは少ないほど鋳造物側に発生するガス欠陥が抑えられる点では良いが、全くなくなっても焼き付き欠陥と呼ばれる不良が鋳造物に発生し易くなる。かかる見地より、イグロスの下限値は0.1質量%であることが好ましい。
【0079】
また、少々のガス欠陥は、鋳造方案、鋳造物側の設計(例えば後加工用に肉厚を厚くする等)で対応可能である。また、フラン樹脂有機層の樹脂量を増やしてイグロスを高くすると、積層造形法では硬化反応に時間を要したり、反応水が多量になる等の理由により硬化速度の低下、寸法安定性の低下等を招きやすい。特に、湿度45%を超えるような環境、あるいは梅雨時期等の高湿度環境下にあってはその傾向が特に顕著になる。
【0080】
本発明材料のpH(25℃)は、特に制限されないが、通常は4以下であることが望ましく、特に3.5以下であることがより望ましい。従って、例えばpH1.5~4とすることもできる。本発明におけるpHは、鋳物砂10gを水50gに分散させた際の分散液における分散媒(水)のpHをいう。鋳物砂を水に浸漬したときのpHが4を超えるということは、鋳物砂のフラン樹脂有機層の硬化反応が進み過ぎていることを意味し、バインダー等に対する溶解度が不十分であり、砂型の強度が経時的に伸びないことを示している。なお、特許文献11の表1には積層法で使用した後の焼結性人工砂(再生砂)のpHが記載されているが、再生砂に残っている硬化剤の影響によりpH4.3~9.5まで変化する事例が記載されている。しかし、前記の通り、再生砂のフラン樹脂組成物は不活性化しており、鋳型(砂型)の強度向上には寄与しない。これらの事象から、鋳物砂のpHは、あくまで本発明材料の性能を評価する1つの指標であるといえる。
【0081】
本発明の鋳物砂を水中に分散させると、(フラン樹脂有機層表層にある)半硬化状態のフラン樹脂が水を吸って膨潤する。その結果、フラン樹脂有機層中にある硬化剤と水が接触できるようになるため、分散媒である水のpHは硬化剤がもつ強酸を示すと考えられる。一方、フラン樹脂有機層の3次元硬化反応が進みすぎると、フラン樹脂有機層が膨潤できなくなるため、層中の硬化剤との接触が阻まれる結果、pHがアルカリ側に変化する。本発明者の研究によれば、pHが4を超えると、フラン樹脂有機層の溶解度が32%未満程度に小さくなったことも確認されている。
【0082】
2.積層造形用鋳物砂の製造方法
本発明材料の製造方法は、限定的ではないが、例えばa)出発材料となる砂粒と、フラン樹脂前駆体及び溶媒を含む組成物とを100℃以下で混合することにより第1混合物を得る工程(第1工程)、b)前記第1混合物と、酸成分含有組成物とを100℃以下で混合することにより第2混合物を得る工程(第2工程)及びc)前記第2混合物を120℃以下で乾燥することにより乾燥砂状の鋳物砂を得る工程(第3工程)を含む製造方法によって好適に実施することができる。
【0083】
第1工程
第1工程では、出発材料となる砂粒と、フラン樹脂前駆体及び溶媒を含む組成物(原料組成物)とを100℃以下で混合することにより第1混合物を得る。なお、ここでいう温度は、砂温をいう(以下、第2工程、第3工程も同様である。)。すなわち、雰囲気温度ではなく、材料自体の温度をいう。
【0084】
砂粒は、前記「1.積層造形用鋳物砂」で説明したものと同様のものを使用すれば良い。また、原料組成物は、前記のフラン樹脂前駆体及び溶媒のほか、必要に応じて前記「1.積層造形用鋳物砂」で説明した各種の成分を配合したものを好適に用いることができる。溶媒としても、前記で示したものを使用でき、特に水を含むことが望ましい。
【0085】
フラン樹脂前駆体は、特に限定されないが、半硬化状態のフラン樹脂有機層をより確実に形成できるという点において、例えば実施例に示すようにフルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマー(特に尿素変性フラン樹脂プレポリマー)との組み合わせを採用することが好ましい。この場合の両者の比率は、前記で説明した比率とすれば良い。原料組成物中における比率としては、例えばフルフリルアルコールは35~85質量%程度とし、フラン樹脂プレポリマーは15~65質量%程度とすることができるが、これに限定されない。原料組成物中におけるフラン樹脂前駆体の含有量は、通常は85~100質量%程度とし、特に90~98質量%と設定できるが、これに限定されない。
【0086】
また、原料組成物は、溶媒(好ましくは水)を含むことが好ましい。これによって、よりいっそう確実にフラン樹脂有機層を半硬化状態とすることができる。溶媒の含有量は、用いるフラン樹脂前駆体又は溶媒の種類等に応じて適宜設定できるが、通常は原料組成物中1~10質量%程度とし、特に3~7質量%とすることが好ましい。
【0087】
混合条件は、砂粒表面が原料組成物で被覆できる限りは限定されないが、温度は100℃以下とするが、特に70℃以下とすることが好ましく、その中でも35~45℃とすることがより好ましい。
【0088】
また、砂粒と原料組成物との配合割合は、前記「1.積層造形用鋳物砂」で説明した割合を採用すれば良い。混合方法は、限定的でなく、例えば公知又は市販の混合機、ニーダー等を使用して実施することができる。
【0089】
第2工程
第2工程では、第1混合物と、酸成分含有組成物とを100℃以下で混合することにより第2混合物を得る。
【0090】
酸成分含有組成物としては、酸成分組成物中における酸成分含有量が100質量%であっても良いが、必要に応じて前記「1.積層造形用鋳物砂」で説明した溶媒のほか、その他の成分を配合したものも好適に用いることができる。
【0091】
従って、本発明では、酸成分含有組成物として、芳香族スルホン酸を含むことが好ましく、特にエチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種を用いることが好ましい。その他の芳香族スルホン酸を用いる場合は、エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種と、キシレンスルホン酸とを含む酸成分組成物を好適に採用することができる。例えば、後記の実施例のように、エチルベンゼンスルホン酸及びクメンスルホン酸の少なくとも1種:50~60質量%及びキシレンスルホン酸:40~50質量%を含む酸成分含有組成物を好適に用いることができる。
【0092】
なお、酸成分含有組成物においては、溶媒を含んでいても良いが、水分の含有量の制御等の見地より、溶媒は実質的に含まれないことが好ましい。
【0093】
混合条件は、砂粒表面上のフラン樹脂前駆体含有組成物に酸成分を付与できる限りは制限されないが、温度は100℃以下、より好ましくは70℃以下(特に20℃~45℃)となるように制御することが好ましい。これによって、混練時の温度を100℃以下、好ましくは70℃以下にすることで、砂粒全体を原料組成物でより確実に被覆することが可能となる。ひいては、フラン樹脂前駆体の硬化反応をよりいっそう確実に制御することができる。また、両者の配合割合も、前記「1.積層造形用鋳物砂」で説明した割合となるようにすれば良い。混合方法としては、例えば公知又は市販の混合機、ニーダー等を実施することができる。
【0094】
第3工程
第3工程では、第2混合物を120℃以下で乾燥することにより乾燥砂状の鋳物砂を得る。これにより、第2混合物の乾燥とともに、フラン樹脂前駆体の反応により発生する熱を効果的に取り除くことができる。第3工程の実施により、マイグレーション現象を制御できる結果、高い鋳物強度(特に速い強度発現)と高い寸法精度とを確実に達成することができる。すなわち、反応水の強制的な除去とともに、鋳物砂表面の硬化剤が不足する状態を作りだし、その表面においてフラン樹脂前駆体が硬化されにくくなる結果、フラン有機層表層の半硬化状態を作り出すことができると考えられる。
【0095】
乾燥方法としては、水分量を制御できれば特に限定されず、例えば冷風又は温風を吹き付ける方法を採用することができるが、通常は120℃以下(好ましくは40~80℃、より好ましくは45~70℃、最も好ましくは50~60℃)の範囲内に砂温が上がるまで攪拌を継続させることが好ましい。また、乾燥時間も、乾燥温度等によって異なり、通常は60~600秒程度とすれば良いが、これに限定されない。乾燥は、公知又は市販の混合機、ニーダー等を使用することができる。
【0096】
乾燥は、第2混合物の水分量が300~1200質量ppm(好ましくは300~900質量ppm)となるように実施することが望ましい。従って、例えば350~800質量ppmあるいは550~800質量ppmと設定することもできる。このような水分量に設定することで、フラン樹脂有機層を確実に半硬化状態に維持でき、かつ、見かけ上乾燥粉末状態も維持することができる。すなわち、本発明の鋳物砂は、水分量が300~1200質量ppm(好ましくは300~900質量ppm)に維持されていることが望ましい。このような水分量を維持することによって、鋳物砂のフラン樹脂有機層の半硬化状態がより確実に保持される。
【0097】
かかる見地より、乾燥が終わった鋳物砂は、直ちに積層造形工程に供しない場合は、通常は温度15~25℃でかつ湿度45%以下に管理された環境下、特に温度20~25℃でかつ湿度40%以下に管理された環境下で保管することが望ましい。屋外で保管する場合は、ドラム缶等の密閉容器中において密閉状態で保管することが好ましい。このようにして、フラン樹脂有機層に水受容性を保持させることができる。排出直前の砂温、混練時間、第1工程及び第2工程で選択した材質、添加量等のバランスによって、フラン樹脂有機層中の反応水の受容量を調整することができる。
【0098】
このようにして、砂粒表面上に半硬化させたフラン樹脂有機層を生成させることができる。ここで、フラン樹脂又はフルフリルアルコールの反応過程の色を観察すると、無色~赤色透明~黄色透明~緑色透明~茶色透明~茶褐色の順に変色する。この場合、メタノールに対する溶解度と樹脂膜であるフラン樹脂有機層の色に相関性があるため、樹脂膜の色によって溶解度を概ね予測することができる。すなわち、生成したフラン樹脂有機層が反射物体色測定により、a*値が-10以上1以下、b*値が1以上20以下になるように反応時間、温度及び各材料の添加量を調整することができる。反射物体色測定は積分球を利用したカラー診断システムを使用することが望ましい。この色差範囲にあると、フラン樹脂有機層は、メタノールに対して32%以上の溶解度を有していることの目安とすることができる。
【0099】
なお、本発明の鋳物砂中の硬化剤の均一な分散状態も、砂の色で評価することも可能である。硬化剤が均一に分散していれば緑色に変色する。他方、硬化剤が偏析していた場合、偏析部分を中心に褐色となる。本発明の鋳物砂では全体が滑らかな緑色をしていて、褐色部分が見られないことから、フラン樹脂有機層内に硬化剤が均一に分散していると考えられる。また、色以外にも積層造形の寸法安定性、鋳型強度の高さからも同様に確認できる。
【0100】
<製造方法についての実施の形態>
本発明の製造方法の一例について、その考えられる作用機序を示しながら説明する。本発明の鋳物砂のフラン樹脂有機層を半硬化状態に制御できる具体的な作用機序は定かではないが、本発明の製造方法との関係においては、以下のような作用に基づくものと推察される。
【0101】
まず、フラン樹脂前駆体を砂粒に加えて混合物を調製する。次いで、上記混合物に硬化剤と必要に応じて溶媒(主として水)を添加し、初期鋳物砂を得る。このとき、砂粒を被覆する皮膜中の水分量が多くなると、フラン樹脂前駆体は硬化剤と接触していても硬化反応が極端に遅くなる。この状態は、フラン樹脂前駆体が硬化反応の途中で停まっている状態(半硬化状態)と等しく、この段階でも前記皮膜はメタノールに対して一定の溶解度を示す。
【0102】
次いで、初期鋳物砂を攪拌しながら加熱する。この際、加熱温度、砂温、混練時間等を調整すると、加温によりフラン樹脂前駆体及び硬化剤で砂粒表面を均一に濡らすことができると考えられる。特に、初期鋳物砂を得る段階で、溶媒に水等を使用していると、砂温が急激に上がらず、フラン樹脂前駆体及び硬化剤の濡れ拡がる時間的余裕をより確実に確保できる。従って、例えば砂温を監視しながらフラン樹脂前駆体との混練時間を調整すれば、フラン樹脂前駆体の硬化反応も制御できる。これは、反応水の発生量を調整することにつながる。このため、水等の溶媒を別に加えなくとも反応水の発生量を調整することによっても硬化反応速度の調整が可能である。
【0103】
最後に、混練砂を乾燥する。この工程において、マイグレーション現象を制御することができる。本発明において、マイグレーション現象とは、反応水が膜中から離脱する時に、主としてフラン樹脂前駆体、例えば未反応のフルフリルアルコール、酸成分等の一部がフラン樹脂有機層中を反応水と一緒に移動する現象をいう。マイグレーション現象により、形成されるフラン樹脂有機層中の水分又はフラン樹脂前駆体濃度の濃淡が膜厚方向に発生すると考えられる。
【0104】
この時、乾燥条件を調節することで、主として反応水とフラン樹脂前駆体だけが皮膜表層部に移動する傾向とになるため、皮膜中の水分は、乾燥工程において皮膜表層部からの蒸発現象に伴い、粒側(皮膜深層部)は水分リッチ部となり、表層側は水分プアー部となり、水分濃度傾斜が形成される。その過程で、フラン樹脂前駆体は、上記のとおり、皮膜表層部は酸成分に対してフラン樹脂前駆体量が多くなり、相対的に酸成分が不足状態となり、3次元的な硬化反応が進まない状態を維持できると考えられる。それと同時に、皮膜表層部にフラン樹脂前駆体が多くあるため、バインダーとの相溶性向上、硬化ムラ改善等にも寄与することができると考えられる。
【0105】
硬化剤として、主にエチルベンゼンスルホン酸又はクメンスルホン酸を使用した場合は、使用環境条件を緩和できる鋳物砂を実現できるが、3次元積層鋳型機の設置環境が、例えば低湿度環境下(好ましくは温度20~25℃、湿度RH40%以下であること)で厳格に管理されているならば、より確実に硬化剤としてパラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸等を用いることもできる。この場合、マイグレーション抑制剤として既述のシュウ酸、セルロースナノファイバー等の少なくとも1種を併用することによって、より優れた性能の本発明材料を提供することができる。本発明では、フラン樹脂からの反応水の生成量とフラン樹脂の硬化速度とのバランス調整が管理指標となることから酸成分の種類は問わない。シュウ酸等のように自身に水分をため込むことができるものがあれば、高い溶解度をもったフラン樹脂有機層をより確実に形成することが可能となる。マイグレーション現象を効果的に活用することによって、本発明の鋳物砂中に含まれる水分は、鋳物砂調製直後で1200質量ppm以下に抑えることができる。
【0106】
乾燥が終わった鋳物砂は、低湿度に管理された環境下に混練装置から排出され、保管されることが好ましい。このようにして得られた鋳物砂のフラン樹脂有機層は反応水を取り込んで保持できる性質(以下「水受容性」ともいう。)をもつことになると考えられる。フラン樹脂有機層中のフルフリルアルコールは一部脱水縮合が進んだものであっても反応途中で停まっているため、反応水と可逆反応してフルフリルアルコールに戻ることもできる。酸成分も強酸であれば、自らに水を取り込むことが可能である。つまり、バインダーと鋳物砂のフラン樹脂有機層とが接触した際、反応水が気化して消化しきれなくても、ある程度はフラン樹脂有機層中に取り込むことが可能となる結果、寸法安定性の改善に寄与できる。既述の通り、初期鋳物砂を調製する際の温度等を調整することにより皮膜中に保持できる水分量を調整することができる。
【0107】
本発明の鋳物砂のフラン樹脂有機層は、100℃以下(特に70℃以下)程度に抑制された状態で形成されたものであるから、鎖状にしか高分子化されていないと考えられるため、アルコールに対して高い溶解性を持つものと推察される。鎖状に高分子化されるため、メチロール型水酸基の残存が比較的多くなり、バインダーのフルフリルアルコールにフラン樹脂有機層が溶解後、バインダーと重合できると考えられる。また、一部の膜中の水分はフルフリルアルコールへと逆反応に使用されていることも予想される。鎖状に高分子化していた場合、耐熱性は低くなるが、塗布したフランバインダーと再重合できるため、3次元的なネットワークを構築し、耐熱性が高くなり、鋳鉄、アルミニウム合金等の溶湯に耐えることができるようになるものと考えられる。
【0108】
砂粒表面の皮膜であるフラン樹脂有機層は、バインダーとして使用されるフルフリルアルコール、フラン樹脂プレポリマー等に対して一定の溶解性を有する状態(すなわち、半硬化状態)にある。このため、バインダーと接触した場合、以下のようにフラン樹脂有機層自身がバインダーの粘結強度を補完すると考えられる。まず、マイグレーション現象で水が抜かれた半硬化状態のフラン樹脂は、鋳物砂表面で高濃度化されて集まっており、散布されるバインダーと接触することで膨潤し、ついで溶解する。その溶解状態のときに、鋳物砂の砂粒間にできる樹脂ネック部にフラン樹脂が集まることでネック部を太くするため、鋳型の高強度化が可能となると考えられる。溶解したフラン樹脂有機層は、時差をもって当該フラン樹脂有機層中の酸成分と接触し、最終的な硬化が進む。特に、フラン樹脂有機層がより薄い膜であれば、この時差が有効に働き、皮膜深部まで溶解でき、より確実に界面の脆弱層をなくすことができる。反応水を含んだフラン樹脂有機層は経時的に硬化反応が進み、生成する反応水も気化で消化できる程度で済むために内部硬化不良も起こらず、かつ、砂粒表面と皮膜の界面に形成され得る脆弱層もなくなるため、成形された鋳型は時間の経過とともに強度が高くなる。このようなメカニズムにより、比較的少ない樹脂量で高強度鋳型を提供することが可能となると推察される。
【0109】
ちなみに、レジンコーテッドサンド(以下「RCS」ともいう。)と呼ばれるレゾール樹脂をコーティングした鋳物砂があるが、RCSもアルコール類に対する溶解度があるため、寸法安定性向上に効果があると考えられる。このRCSのアルコール類に対する溶解性は、レゾール樹脂の化学的状態に起因する。すなわち、RCSでは、レゾール樹脂は硬化していない。しかし、レゾール樹脂は酸添加により再硬化が進み、アルコール類に対する溶解性を失ってしまう。酸触媒の添加方法として、溶媒に溶解した酸触媒溶液の後添加方法を利用しても、やはりレゾール樹脂は硬化するため、レゾール樹脂のアルコール類に対する溶解度は失われてしまう。
【0110】
そのほかにもアルコール類に溶解性を示す樹脂はあるが、それらは熱可塑性プラスチックに分類されるため、鋳鉄、アルミニウム合金等の溶湯熱に耐えることはできない。このため、精度の良い鋳物を製造することは困難である。
【0111】
以上のように、既述した先行技術である2液接着剤型の造形法、硬化剤を表面に付与された鋳物砂では、寸法安定性と鋳型の高強度化の並立は構造上難しい。すなわち、反応水を吸収する受容量が鋳物砂中に少ないこと、及び鋳型強度を伸ばす樹脂の反応猶予の少ないことが問題となる。
【0112】
なお、本発明では、塗布用バインダーの硬化は、主としてフラン樹脂有機層中の酸成分によって生じる。このため、鋳型を製造する際に、鋳物砂とバインダー以外に、水又は溶媒の追加添加、あるいは加熱等の工程を省略することもできる。
【0113】
通常、フラン樹脂をバインダーとして使用する場合、その材料がもつ性質上、完全硬化による強度向上を目指すのが今までの常識とされている。これに対し、本発明では、いわゆる自硬性樹脂を使用する鋳造法の1つである「手籠め」による砂型作製では提供可能な、フラン樹脂と硬化剤の強制的混和による化学反応が、3次元積層造形法という、強制的な混和が行えない特殊な環境下(すなわち、造形に際して樹脂成分と硬化剤との混練工程を伴わない条件下)では、フラン樹脂有機層の完全硬化を必要としない。この点においても、完全硬化状態となる再生砂とは明確に区別できる。
【0114】
特に、本発明者は、フラン樹脂は一般的に耐溶剤性の高い樹脂であり、硬化後はアルコールに溶解させて使用することが困難なことに着目し、本発明を完成するに至っている。「フラン樹脂」(昭和35年発行、庄野利之 著)によれば、フルフリルアルコールを単独で縮合させたフラン樹脂を使用すると、完全硬化せず有機溶媒に溶解する固化物が生成しやすいと説明されている。そして、フルフリルアルコール単独の重合させた物を使用すると内部硬化性が少なく、密着性が悪くなると記載されている。一方で、内部硬化性が良いとされるホルムアルデヒドの重縮合物ではフラン樹脂は完全硬化し、アルコール類に溶け易い樹脂膜は生成できない。事実、一般的に市販されているフラン樹脂は、接着性を良くするためにホルムアルデヒド等の重縮合物を使用し、また製造した鋳型にはアルコール性塗型を塗布することがあるため、硬化したフラン樹脂が高い耐溶剤性を持つように材料設計されている。
【0115】
このことから、市販されているフラン樹脂、硬化触媒を使用すると耐溶剤性の高い樹脂膜しか生成できず、またフルフリルアルコール単体で硬化させた溶解性の高いフラン樹脂膜を砂上に生成させると、樹脂膜(皮膜)の内部硬化性が悪くなり、樹脂膜に含まれる水分が増加する。また、マイグレーション現象を適切に制御していないため、硬化触媒が表層に集まりやすくなる。そのため、鋳物砂と鋳物砂を繋ぐためのバインダーを塗布した時、バインダーの硬化が進み樹脂膜内部まで硬化させることができず、砂粒(骨砂)と樹脂膜の界面に脆弱層が形成される。この結果、砂粒とフラン樹脂膜の密着性が低くなり、鋳型強度の低い鋳型しかできない。
【0116】
これに対し、本発明では、フラン樹脂の硬化反応と、マイグレーション現象を適切に制御することによって、アルコール類に対する溶解性と、水受容性とを併せ持ったフラン樹脂有機層を備えた鋳物砂を提供することができる。これにより、3次元積層造形法という製法下(樹脂成分と硬化剤との混練を行わないという制約下)であっても、本発明材料では高い鋳型強度と高い寸法安定性とをともに得ることができる。
【0117】
3.3次元積層造形用キット
本発明は、本発明材料とバインダーとを含む3次元積層造形用キットを包含する。すなわち、使用前は本発明材料(鋳物砂)とバインダーとは別々に保管され、使用時に両者を混合する形態の2剤型キットとして提供される。
【0118】
本発明材料は、通常はサラサラの乾燥砂状であり、3次元積層鋳型機に充填すれば、そのまま散布する(ふりかける)ことが可能である。すなわち、鋳物砂の各粒子を自然落下させることも可能である。
【0119】
本発明材料は、本発明の効果を妨げない範囲内において、本発明の鋳物砂以外の添加剤が含まれていても良い。例えば、後記に示すように滑り防止剤、増粘剤等の各種添加剤を予め鋳物砂と混合して提供することも可能である。
【0120】
バインダーとしては、プリントヘッドから安定して吐出するため、好ましくは粘度(25℃)が1~15mPa・sを満たすものであれば限定されないが、特にフラン樹脂前駆体を含むバインダーを用いることが好ましい。フラン樹脂前駆体の含有量は、例えばバインダー中85~100質量%とし、特に90~98質量%とすることができるが、これに限定さない。
【0121】
フラン樹脂前駆体としては、縮合重合等によりフラン樹脂を形成し得るものであれば限定されず、例えばフルフリルアルコール、フラン樹脂プレポリマー等が挙げられる。特に、反応熱の抑制及び樹脂の低粘度化という理由から、フルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマーとを併用することが望ましい。
【0122】
フラン樹脂プレポリマーとしては、例えばフルフリルアルコール単独の重合体、フルフリルアルコールとアルデヒド化合物との共重合体、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)、フルフリルアルコールとフルフラールとの共重合体等が挙げられる。これらは、単独使用又は2種以上で併用することができる。
【0123】
本発明では、高強度化し易いという理由から、特にフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド化合物との共重合体(尿素変性フラン樹脂プレポリマー)が好ましい。前記のアルデヒド化合物としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール等が挙げられる。本発明では、特にホルムアルデヒドが好ましい。
【0124】
本発明の効果を妨げない範囲内において、バインダー中には他の成分が含まれていても良い。例えば、溶媒、架橋剤、硬化促進剤等の添加剤を必要に応じて含有させることができる。特に、溶媒としては、本発明では反応速度が緩やかになり、最終鋳型強度が高強度化しやすいという理由から、水が好適である。
【0125】
硬化促進剤としては、例えばレゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール、ビスヒドロキシメチルフラン等が挙げられる。硬化促進剤の添加量は、反応水の発生量を鑑みて適宜調整されるものであるため、必須成分ではなく、特に含まれていなくても良い。
【0126】
また、バインダーは、キットの他方の資材である鋳型砂が酸成分を含むフラン樹脂有機層を有するため、シランカップリング剤なしでも強力に鋳物砂どうしを接合させることができる。従って、バインダー中のシランカップリング剤の含有量は、通常は0~1質量%程度とし、好ましくは0~0.1質量%とすれば良い。従って、シランカップリング剤を含まない組成であっても良い。このようにシランカップリング剤の含有量を少量又は0質量%とすることによって、バインダーをより長期にわたって保管することが可能となる。
【0127】
さらに、塗布バインダー中には、必要に応じてアミン化合物を添加することもできる。アミン化合物を添加することによって、フラン樹脂前駆体の粘度の経時変化を効果的に抑えることができる。ただし、アミン化合物が過剰になると、硬化速度が遅くなったり、窒素によるガス欠陥を誘発したりする等の問題がある。従って、アミン化合物の含有量は、バインダー中0.001~1質量%程度とすることが望ましく、特に0.001~0.5質量%とすることがより望ましく、さらには0.005~0.1質量%とすることが望ましく、その中でも0.01~0.05質量%とすることが最も望ましい。上記見地より、アミン化合物としては、炭素数10以下のアルキルアミンが好ましく、特にブチルアミンがより好ましい。
【0128】
バインダーの使用量は、特に限定されないが、通常は本発明材料100質量部に対して0.5~2.5質量部程度の範囲とし、特に0.5~2.0質量部とすることが好ましい。バインダーが少なすぎると、鋳型の強度が得られない場合がある。また、バインダーが多すぎても硬化速度が遅くなるため、所定の時間内でハンドリング強度が得られないばかりか、寸法安定性も低下することがある。従って、使用時において鋳物砂とバインダーとの量が上記割合になっていれば良いので、本発明キットでは必ずしも上記割合でキット化されている必要はない。
【0129】
本発明においては、バインダーに含まれるフラン樹脂前駆体の種類と、本発明材料のフラン樹脂有機層に含まれるフラン樹脂前駆体の種類とが互いに同じであっても良いし、互いに異なっていても良い。従って、例えば本発明材料のフラン樹脂有機層にフルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマー(特に尿素変性フラン樹脂プレポリマー)との組み合わせが含まれる場合は、フルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマー(特に尿素変性フラン樹脂プレポリマー)との組み合わせを含むバインダーを採用することができる。互いに同じ種類を採用する場合は、鋳物砂のフラン樹脂有機層とバインダーとのなじみが良くなり、より高い鋳物強度を実現することができる。例えば、フラン樹脂有機層にフルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマー(特に尿素変性フラン樹脂プレポリマー)との組み合わせが含まれる本発明材料にあっては、積層造形時において使用されるバインダーとしてフルフリルアルコールとフラン樹脂プレポリマーを含むバインダーとの組み合わせに適した鋳物砂として用いることもできる。
【0130】
ただし、互いに同じ種類を採用する場合であっても、例えば組成比率、添加剤等も含めて完全一致させることは必ずしも必要ではなく、鋳物強度と寸法精度とのバランス等を考慮しつつ、使用する3次元積層鋳型機の特性等も加味した上でフルフリルアルコール、フラン樹脂ポリマー等の配合比、添加剤の種類等を微調整することが可能である。
【0131】
4.積層造形用鋳物砂の使用
本発明材料は、公知の鋳物砂と同様にして積層に用いることができる。より具体的には、鋳物砂を上方からふりかけることにより鋳物砂を含む層を形成する工程(層形成工程)及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程(バインダー添加工程)を順に繰り返す工程を含む3次元積層造形法によって鋳型を製造する方法において、当該鋳物砂として本発明材料を好適に用いることができる。これは、前記で説明した通り、公知又は市販の3次元積層鋳型機に本発明材料を供給することによって所望の形状からなる鋳型を製造することができる。換言すれば、本発明材料は、3次元積層鋳型機に用いられる鋳物砂として好適に用いることができる。
【0132】
このような3次元積層鋳型機(3次元積層造形装置)としては、例えばユニット、鋳物砂供給部及びバインダー供給部及び操作部を有しており、3D-CADデータから砂型を作製できる3次元積層鋳型機を用いることができる。鋳物砂供給部は、ユニットに鋳物砂を供給するユニットであって、鋳物砂を収容する鋳物砂タンク、水平移動しながら前記鋳物砂を吐出できるリコーター等を備えている。バインダー供給部は、ユニットにバインダーを供給するユニットであって、バインダーを収容するバインダータンク及びバインダーを吐出するプリントヘッドを備えている。このような装置自体は、公知又は市販のものを使用することができる。
【0133】
3次元積層造形法により鋳型を製造する場合、上記のように、鋳物砂を含む層を形成する工程(層形成工程)及び前記層の所定領域にバインダーを添加することにより当該領域を固化させる工程(バインダー添加工程)を順に繰り返す工程を含む積層造形法を採用することができる。この時、鋳物砂のフラン樹脂有機層に含まれる硬化剤がフラン樹脂有機層とバインダーの両方の固化に寄与することで所望の砂型を得ることができる。
【0134】
層形成工程
層形成工程では、鋳物砂を含む層を形成する。より具体的には、鋳物砂を上方からふりかけることにより鋳物砂を含む層を形成することができる。本発明材料は、基本的にはサラサラとした乾燥砂状であるため、円滑に自然落下させること(散布すること)もできる。上記のような3次元積層鋳型機を用いる場合は、水平移動するリコーターから鋳物砂を平坦面上に吐出することによって前記層を確実に形成することができる。
【0135】
また、層形成工程では、円滑な層形成を妨げない範囲内において、当該層中に鋳物砂以外の成分が含まれていても良い。このような成分としては、公知の鋳物砂に添加されている成分も採用することができる。
【0136】
本発明では、例えば滑り防止剤等を好適に用いることができる。滑り防止剤は、沸点が35℃以上の高沸点有機化合物が好ましい。例えば、不飽和脂肪酸(例えばリノール酸、オレイン酸、リノレン酸等)、飽和脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等)のほか、イソホロン、キシレン、シリコーンオイル等が挙げられる。滑り防止剤は、単独使用又は2種類以上併用することができる。このような滑り防止剤の中では、特に不飽和脂肪酸がより好ましく、その中でもリノール酸が最も好ましい。滑り防止剤は、層形成工程で添加できるほか、予め鋳物砂と混合しておくことも可能である。滑り防止剤の添加割合は、本発明材料100質量部に対して、例えば0~0.1質量部程度とすることができる。従って、滑り防止剤は、特に含まれていなくても良い。
【0137】
なお、従来の積層造形法(湿態砂、硬化剤とバインダー樹脂の二液混合型プロセス)では、鋳物砂が溶融法等で作製された人工砂を砂粒として使用する場合、その表面平滑性と真円性の影響で、液状の薬剤を鋳物砂に添加すると鋳物砂どうしが液架橋現象(凝集)を起こし、積層造形法において重要な砂の流動性が損われ、小粒径の砂粒の使用が難しくなる。このため、乾燥工程を加えることで乾燥砂状とし、流動性を改善する手法も提案されているが、使用できる砂粒が焼結法人工砂に限定される。本発明の鋳物砂は、そのフラン樹脂有機層にリノール酸等の脂肪酸を滑り防止剤として添加することで、砂種、粒径等に関係なく安定した積層性をより確実に得ることができる。すなわち、平滑性と真円性の高い溶融法人工砂を砂粒に使用しても、例えば3次元積層鋳型機のリコーター内に本発明の鋳物砂を砂こぼれせずに留めることが可能になったり、またリノール酸等の薬剤を添加するための追加機器も3次元積層鋳型機から省くことができる。さらには、積層後に本発明の鋳物砂が崩れることも防止できる。
【0138】
また、本発明の効果を妨げない範囲(特にフラン樹脂の反応制御又は鋳型としての諸特性を害さない範囲)であれば、例えばセルロース、アルギン酸ナトリウム、パルミチン酸等のワックス等の増粘剤を用いることもできる。増粘剤の添加量は、特に限定されないが、本発明材料100質量部に対して、通常50質量部以下とし、より好ましくは25質量部以下とし、最も好ましくは1質量部以下である。従って、例えば0質量部に設定することもできる。
【0139】
その他にも、必要に応じて、鋳物砂の表面に微細な凹凸を与えることができる粉末を添加しても良い。これにより、本発明の鋳物砂の流動性等を制御することができる。このような粉末としては、上記のような機能を有する限り、特に限定されず、例えばカーボン、シリカ等の粉末を用いることができる。この粉末の粒径は、例えば1μm以下とすることができるが、これに限定されない。また、粉末を構成する粒子の形状も、限定的でなく、例えば球状、フレーク状(鱗片状)、針状(繊維状)、不定形状等のいずれでも良いし、また中実体、中空体、多孔質体等のいずれであっても良い。
【0140】
前記層の厚みは、鋳物砂の粒子サイズ、所望の鋳型形状等にもよるが、通常は100~400μm程度とし、特に200~300μmとすることが好ましい。なお、層形成工程が繰り返されるに際し、各層形成工程で形成される層厚みは互いに同じであっても良いし、互いに異なっていても良い。
【0141】
バインダー添加工程
前記層の所定領域にバインダーを添加(散布)することにより当該領域を固化させる。層形成工程により鋳物砂を含む層が単層で形成されているが、目的とする成形体の断面形状のデータに基づく領域にバインダーを添加する。例えば、上記のような3次元積層鋳型機を用いる場合は、水平移動するプリントヘッド(ノズル)から前記層上にバインダーを散布することにより所定領域を固化させることができる。バインダー等は、例えば前記「3.3次元積層造形用キット」で説明したものを使用することもできる。
【0142】
層形成工程及びバインダー添加工程の組合せからなる一連の工程の繰り返しが終了した後、バインダーが添加されていない部分を取り除くことによって、所定形状をもつ成形体(鋳型)を得ることができる。
【0143】
その後、成形体は、必要に応じてエージングすることができる。これにより、樹脂成分の硬化を促進させ、より高い強度をもつ成形体を得ることができる。エージング条件は、例えば温度15~25℃及び湿度45%以下とし、特に温度20~25℃及び湿度40%以下とすることができるが、これに限定されない。例えば、温度20~25℃及び湿度30~45%とすることもできる。また、エージング時間も、例えば1~48時間程度とすることができるが、これに限定されない。
【0144】
このようにして好適な鋳物砂を用いて得られた鋳型では、寸法安定性と高強度、高度な設計再現性を具現化できる。本発明材料は乾粉であるため、安定して積層させることができるほか、寸法安定性も優れていることから3D-CAD図面と得られる鋳型との寸法公差をより小さくすることができる。また、量産性にも優れており、通常は3時間程度、早ければ1時間程度で鋳型(成形体)を取り出すことが可能となるため、量産性が求められる鋳造製品の製造にも積層造形法が幅広く適用できるようになる。
【実施例0145】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、各表中の組成の含有量を示す「%」はいずれも「質量部」を意味する。
【0146】
実施例1
AFS108のムライト系焼結法人工砂(伊藤忠セラテック社製セラビーズX#1450、安息角31°)(CBX焼結新砂)の新砂5kgと、表1のフラン樹脂組成物「構成1」と、表2の硬化剤「構成2」とを準備した。前記人工砂の砂温が35℃になった状態で上記人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.3質量部を添加し、混練機中にて30秒間攪拌混合した。砂温は41℃であった。次に、得られた混合物に「構成2」の硬化剤を人工砂100質量部に対して0.3質量部と、溶媒として水0.3質量部とを添加し、混練機中にて30秒間混合した。最後に、乾燥工程として、混練機内に冷風(エアー)を吹きつけながら砂温が60℃になるまで240秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。
【0147】
【0148】
【0149】
実施例2
実施例1と同じ鋳物砂を用意した。
【0150】
実施例3
表4に示す組成及び条件としたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例1に対して次のように変更した。溶媒を加えずに混合物に硬化剤を添加した。混合物の乾燥工程では、エアー導入せずに鋳物砂を得た。排出時の砂温60℃に到達する時間は240秒であった。
【0151】
実施例4
表4に示す組成及び条件としたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例1に対して次のように変更した。人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.1質量部を添加して30秒間攪拌混合した。砂温は41℃であった。次に、得られた混合物にシュウ酸(粉末)を人工砂100質量部に対して0.03質量部を添加して10秒間混合した。砂温は43℃であった。次いで、「構成2」の硬化剤を人工砂100質量部に対して0.15質量部を添加し、30秒間混合した。最後に、乾燥工程として、砂温が排出温度である60℃に到達するまで240秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。乾燥工程ではエアーは導入しなかった。
【0152】
実施例5
表4に示す組成及び条件としたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例1に対して次のように変更した。人工砂100質量部に対して、「構成2」の硬化剤0.3質量部と、セルロースナノファイバー(CNF)0.005質量部と、水0.145質量部とを添加し、30秒間混合した。乾燥工程では、砂温が排出温度である60℃に到達するまで480秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。乾燥工程ではエアーは導入しなかった。
【0153】
実施例6
人工砂をAFS100のムライト系溶融法人工砂(山川産業社製エスパール#100DAM、安息角24°)(EP溶融新砂)25kgに変更したものと、表1のフラン樹脂組成物「構成1」と、表2の硬化剤「構成2」とを準備した。前記人工砂を加温して砂温が70℃になった状態で人工砂100質量部に対して、「構成1」のフラン樹脂組成物0.25質量部を添加して90秒間攪拌混合した。次に、得られた混合物に「構成2」の硬化剤を人工砂100質量部に対して0.25質量部を添加し、70℃に砂温を維持して90秒間混合した。最後に、乾粉状になるまで70℃に維持したまま追加で240秒攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。乾燥工程ではエアーは導入しなかった。
【0154】
実施例7
砂粒をAFS88の天然珪砂(トウチュウ社製アルバニー#90、安息角36°)(ALB珪砂新砂)5kgと、表1のフラン樹脂組成物「構成1」と、表2の硬化剤「構成2」とを準備した。前記珪砂の砂温が35℃になった状態で砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.15質量部を添加して40秒間攪拌混合した。砂温は41℃であった。次に、得られた混合物に「構成2」の硬化剤を前記珪砂100質量部に対して0.15質量部と、溶媒として水0.15質量部を添加し、40秒間混合した。最後に、乾燥工程として、混練機内に冷風を加えながら砂温が60℃になるまで270秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。
【0155】
実施例8
表4に示す組成及び条件としたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例1に対して次のように変更した。人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.3質量部と液体レゾール0.01質量部を添加して40秒間攪拌混合した。砂温は41℃であった。次に、得られた混合物に「構成2」の硬化剤を人工砂100質量部に対して0.3質量部と、溶媒として水0.3質量部を添加し、40秒間混合した。最後に、乾燥工程として砂温が60℃になるまで300秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。乾燥工程ではエアーは導入しなかった。
【0156】
実施例9
表4に示す組成及び条件としたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例1に対して次のように変更した。鋳物砂を得るために砂粒20kgを用意して、表1のフラン樹脂組成物「構成1」の添加量を0.4質量部に変えたものを添加して90秒間攪拌して得られた混合物に、硬化剤「構成2」を人工砂100質量部に対して0.4質量部に変え、溶媒として水を人工砂100質量部に対して0.4質量部に変更して添加した。90秒間混合した後、エアーを導入して排出温度である砂温60℃に到達するまで330秒攪拌を続けて鋳物砂を得た。
【0157】
実施例10
表4に示す組成及び条件としたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例1に対して次のように変更した。砂粒として研磨焙焼(研磨5分後に1000℃にて焙焼、安息角31°)した研磨焙焼再生人工砂1kgと、表1のフラン樹脂組成物「構成1」と、表2の硬化剤「構成2」とを準備した。前記砂粒の砂温が24℃の状態で人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.3量部を添加して40秒間攪拌混合した。砂温は24℃であった。次に、得られた混合物に「構成2」の硬化剤を人工砂100質量部に対して0.3質量部と、溶媒として水0.3質量部を添加し、40秒間混合した。最後に、乾燥工程として、砂温が60℃になるまで240秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し鋳物砂を得た。乾燥工程ではエアーは導入しなかった。
【0158】
実施例11
表5に示す組成及び条件としたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例1に対して次のように変更した。人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.3質量部と液体レゾール0.005質量部を添加して40秒間攪拌混合した。砂温は44℃であった。次に、得られた混合物に「構成2」の硬化剤を人工砂100質量部に対して0.3質量部と、溶媒として水0.3質量部を添加し、40秒間混合した。最後に、乾燥工程として砂温が60℃になるまで300秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。乾燥工程ではエアーは導入しなかった。
【0159】
実施例12
表5に示す組成及び条件としたほかは、実施例11と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例11に対して次のように変更した。人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.3質量部と液体ノボラック0.1質量部を添加して40秒間攪拌混合した。砂温は44℃であった。乾燥工程として砂温が60℃になるまで300秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。
【0160】
実施例13
表5に示す組成及び条件としたほかは、実施例11と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例11に対して次のように変更した。人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.3質量部とフェノールウレタン樹脂0.03質量部を添加して40秒間攪拌混合した。砂温は44℃であった。乾燥工程として砂温が60℃になるまで300秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。
【0161】
実施例14
表5に示す組成及び条件としたほかは、実施例11と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例11に対して次のように変更した。人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.3質量部とフェノールウレタン樹脂0.05質量部を添加して40秒間攪拌混合した。砂温は44℃であった。乾燥工程として砂温が60℃になるまで300秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。
【0162】
実施例15
表5に示す組成及び条件としたほかは、実施例11と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例11に対して次のように変更した。人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.3質量部とアルカリフェノール樹脂0.01質量部を添加して40秒間攪拌混合した。砂温は44℃であった。乾燥工程として砂温が60℃になるまで300秒間攪拌を続けた後に混練機より排出し、鋳物砂を得た。
【0163】
実施例16
表5に示す組成及び条件としたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例1に対して、次のように変更した。人工砂100質量部に対して、表1のフラン樹脂組成物「構成1」の添加量を0.5質量部に変えて添加して90秒間攪拌して得られた混合物に、硬化剤「構成2」を人工砂100質量部に対して0.25質量部に変えたものと、溶媒として水を人工砂100質量部に対して0.25質量部に変更して添加した。60秒間混合した後、エアーを導入して排出温度である砂温60℃に到達するまで240秒攪拌を続けて鋳物砂を得た。
【0164】
実施例17
表5に示す組成及び条件としたほかは、実施例1と同様にして鋳物砂を調製した。特に、実施例1に対して、次のように変更した。人工砂100質量部に対して、表1のフラン樹脂組成物「構成1」の添加量を0.7質量部に変えて添加して90秒間攪拌して得られた混合物に、硬化剤「構成2」を人工砂100質量部に対して0.28質量部に変えたものと、溶媒として水を人工砂100質量部に対して0.28質量部に変更して添加した。60秒間混合した後、エアーを導入して排出温度である砂温60℃に到達するまで240秒攪拌を続けて鋳物砂を得た。
【0165】
比較例1
機械研磨(清田鋳機社製サンドフレッシャー)にて5分研磨したムライト系焼結法人工砂の研磨再生人工砂(安息角33°)を1kg用意した。
【0166】
比較例2
機械研磨(清田鋳機社製サンドフレッシャー)にて5分研磨した後に500℃で焙焼したムライト系人工砂の研磨焙焼再生人工砂(安息角31°)を1kg用意した。なお、溶解度については、この再生砂は、焙焼されて樹脂層がほぼ消失していると判断できたため、測定しなかった。
【0167】
比較例3
砂粒として比較例1と同じ再生砂を使用した。再生砂100質量部に対して、硬化剤「構成2」0.3質量部と水0.3質量部とを添加して湿態の鋳物砂を得た。攪拌時間は30秒とした。なお、この鋳物砂は湿砂状態であり、測定器内を通すことができないために、安息角は測定できなかった。
【0168】
比較例4
砂粒として比較例2と同じ再生砂を使用した。再生砂100質量部に対して硬化剤「構成2」0.3質量部と水0.3質量部を添加して湿態の鋳物砂を得た。攪拌時間は30秒とした。なお、この鋳物砂は湿砂状態であり、測定器内を通すことができないために、安息角は測定できなかった。また、溶解度については、この再生砂は、焙焼されて樹脂層がほぼ消失していると判断できたため、測定しなかった。
【0169】
比較例5
実施例1で得られた鋳物砂による坑折強度測定用のテストピース(後記の試験例1(5))を解砕し、人工砂の硬化砂1kg(安息角32°)を用意した。
【0170】
比較例6
砂粒として鋳造に使用された回収砂(安息角33°)を200g用意した。この回収砂100質量部に対して、硬化剤「構成2」0.3質量部と水0.3質量部とを添加し、湿態の鋳物砂を得た。攪拌時間は30秒とした。なお、この鋳物砂は湿砂状態であり、測定器内を通すことができないために、安息角は測定できなかった。
【0171】
比較例7
砂粒として実施例1と同じAFS108のムライト系焼結法人工砂(伊藤忠セラテック社製セラビーズX#1450、安息角31°)(CBX焼結新砂)の新砂5kgと表1のフラン樹脂組成物「構成1」と、表2の硬化剤「構成2」とを準備した。前記人工砂の砂温が24℃の状態で上記人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.1質量部を添加し、混練機中にて30秒間攪拌混合した。砂温は24℃であった。次に、得られた混合物に「構成2」の硬化剤を人工砂100質量部に対して0.15質量部を添加し、混練機中にて300秒間混合した。乾燥工程は加えずに混練機より排出し、乾粉状の鋳物砂を得た。
【0172】
比較例8
表6に示す組成及び条件としたほかは、比較例7と同様にして鋳物砂を調製した。特に、比較例7に対して次のように変更した。人工砂100質量部に対して、構成1のフラン樹脂組成物0.1質量部を添加して30秒間攪拌混合した。砂温は24℃であった。次いで、「構成3」の硬化剤を人工砂100質量部に対して0.15質量部を添加し、混錬機中にて300秒間混合した。比較例7と同様に乾燥工程を加えずに混練機より排出し、乾粉状の鋳物砂を得た。
【0173】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた鋳物砂サンプルについて、以下に示す各物性の評価を行った。その結果を表4~6に示す。
【0174】
(1)pH
pHは、東亜ディーケーケー社製ポータブルpH計「IM-32P」を使用して測定した。鋳物砂サンプル10gとイオン交換水50gをビーカーで計り取り、そのビーカー内にpH測定器の電極を浸ける。約5~10秒ほどその状態で待機した。その後、その電極を使ってビーカー内を攪拌(10秒間、1秒間に2回転くらいの速度)した後、5分間静置した。5分後に示すpH計の数値を読み取った。pHは、サンプル作製後10日以内の測定で4以下を示すものを合格とする。また、出発材料となる砂粒(フラン樹脂有機層を形成する前の砂粒)も、同様にしてpHを測定した。
【0175】
(2)安息角
安息角は、JACT試験法S-5に準じて測定した。各鋳物砂サンプル約1kgを用い、分度器を使って、砂山が作る斜面と水平板とが成す角度を読み取った。安息角の測定は、室温20~25℃及び湿度30~40%に調整した室内で測定した。安息角は42°以下を示すものを合格とした。
【0176】
(3)イグロス
イグロス(I)は、以下の要領で測定した。天秤での計測は、温度20~25℃及び湿度30~40%に調整した室内で行った。イグロス(I)は1.0質量%以下のものを合格とした。
1)各鋳物砂サンプル5gをガラスビーカーに測り取り、120℃で60分間乾燥器を使って加熱し、乾燥させる。
2)乾燥を終えたサンプルを、シリカゲルが効いた(除湿された)デシケーター内に移し、室温まで冷却させる。(本発明品が示す重量測定中の吸水性の影響を低減させる)。
3)同様にして、アルミナ坩堝も乾燥させ、デシケーター内で冷却させる。
4)冷却したアルミナ坩堝を天秤で重量を測り、坩堝重量を記録する。測定を終えた坩堝に2)の鋳物砂サンプルを入れて、坩堝+鋳物砂サンプルの総重量を記録する。
5)サンプルが入った坩堝を電気炉にて1000℃で1時間、焼成し、脱脂する。
6)1時間経過したサンプルを炉から取り出し、シリカゲルが効いた(除湿された)デシケーター内に移し、室温まで冷却させる。
7)冷却したサンプルの重量を坩堝ごと計測し、記録する。
8)イグロス(I)を以下の式から求める。
[(焼成前サンプル重量-焼成後サンプル重量)/焼成前サンプル重量]×100(質量%)
【0177】
(4)溶解度
メタノールに対する溶解度(25℃)は、以下の要領で測定した。溶解度は温度及び湿度の影響を受けるために、温度20~25℃及び湿度30~40%に調整した室内で行った。2回測定し、平均値をとった。樹脂膜のメタノールへの溶解度は32%以上示すものを合格とする。
1)各種鋳物砂サンプルのイグロス(I)を測定する。
2)各種鋳物砂サンプル5gを円形定量ろ紙5B(直径110mm)に秤取り、ロート(口径60mm、足径8mm、足長65mm)にセットする。
3)メタノール(純度>99.8%)10mLを1分間隔で20回繰り返しロートに注ぎ込み、ろ過する。この間、ロート内の鋳物砂サンプルは常にメタノール中に浸かっている状態を維持する。このようにすることで、常に新しいメタノールと鋳物砂サンプルが接触できるようにすると同時に、空気に触れて樹脂膜が酸化反応することを防ぐ。
4)メタノールに溶解し終えたサンプルはろ紙ごと乾燥機内で120℃×1時間乾燥させ、水分とメタノールを除去する。
5)乾燥を終えた鋳物砂サンプルを可能な限り全てろ紙から回収し、溶解後のイグロス(II)をイグロス(I)と同じ要領で測定する。
6)溶解度は次式を用いて算出した。
{イグロス(I)-イグロス(II)}/イグロス(I)×100=溶解度(%)
【0178】
(5)抗折強度(TP強度)
各種鋳物砂サンプル200gを料理用ボールに測り取った。全ての鋳物砂サンプルに対して表3に記載の塗布用バインダーを添加し、撹拌機を用いて10秒間攪拌して混合物を得た後、その混合物を10mm×10mm×60mmの金型に詰めて温度23~25℃及び湿度40~45%の条件下で30分放置し、抜型した。このようにして抗折強度測定用のテストピースを作製した。
その後、テストピースを用いて抜型直後(30分後)、1時間後及び3時間後に3点曲げ強度をそれぞれ測定した。強度は、JACT試験法SM-1に準じて測定した。30分後強度が測定可能であり、かつ、3時間後の強度が35kg/cm2以上あるものを合格とした。
なお、使用した塗布用バインダーは、硬化促進剤の有無により硬化速度に差がある2種類のバインダーを用意した。それらの組成を表3に示す。これらの各成分を計り取ってビーカーに入れ、室温で15分混合して各バインダーを調製した。これらのバインダーをE型粘度計にて25℃恒温の条件で粘度を測定したところ、調製例1は7mPa・s、調製例2は10mPa・sであった。
【0179】
【0180】
(5)染み出し量
得られたサンプルの寸法精度の目安として、バインダー滴下による染み出し量を評価した。染み出し量は、寸法精度の指標となり、その値が低いほど高い寸法精度を達成できることを示す。
染み出し量は、次の要領で測定した。直径35mm、高さ10mmの皿を用意し、そこに表4~表6の各種鋳物砂サンプルを入れて、定規を使って表面を平らにならす。表3のバインダー「調整例1」5μlをマイクロピペットで吸い取り、1滴にして5mm離した高さから滴下する。室温24℃、湿度40%の条件下で60分放置後、60℃の乾燥器に移し、30分加熱する。加熱硬化後、固化した部分をスプーンで回収し、刷毛を使って余分な砂を除き、固化物の重量を測定した。固化物の重量が0.170g以下のものを合格とする。
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
表4~6の結果からも明らかなように、実施例の鋳物砂はいずれの物性においても優れていることがわかる。すなわち、高い強度とともに、染み出し量が0.170g(さらには0.150g以下)という低い数値に抑えられていることから高い寸法精度も期待できることがわかる。特に、強度については、成型後30分という短時間で25kg/cm2以上(さらには30kg/cm2以上)という高い強度が発現できることがわかる。
【0185】
これに対し、比較例1~2では、再生砂に残存するイグロスを使用してバインダーを固めることはできず、金型から抜型できなかったために強度を測定できなかった。
【0186】
比較例3では、再生砂の残存樹脂層上に硬化剤のみをコートするだけでは、目標とする坑折強度は得られなかった。塗布バインダーの硬化時に生成される反応水が内部硬化不良を生じさせたものと考えられる。この点からみて、本発明のフラン樹脂有機層が鋳型強度の補完と、反応水の受け皿となっていることが理解できる。
【0187】
比較例4では、再生砂の残存樹脂層上に硬化剤のみをコートするだけでは、目標とする坑折強度は得られなかった。これは、特に溶媒として加えた水が内部硬化不良を生じさせたものと考えられる。
【0188】
比較例5では、目標とする坑折強度は得られなかった。このことから、本発明のフラン樹脂有機層が鋳型強度向上に補助的役割を担っていることがわかる。
【0189】
比較例6では、 回収砂の残存樹脂層上に硬化剤のみを添加するだけでは、目標とする坑折強度は得られなかった。塗布バインダーの硬化時に生成される反応水が内部硬化不良を生じさせたものと考えられる。
【0190】
比較例7では、乾燥工程を加えなかったため、マイグレーション現象を制御することができず、目標とする抗折強度を得られなかった。この理由は、硬化反応が進みすぎたために、フラン樹脂有機層の溶解度が落ち、バインダーとの反応があまり進まなかったためと推測される。
【0191】
比較例8では、比較例7と同様にマイグレーション現象を制御することができず、目標とする鋳型強度を得られなかった。この理由は、硬化反応が進みすぎたために、フラン樹脂有機層の溶解度が落ち、バインダーとの反応があまり進まなかったためと推測される。
【0192】
以上のように、鋳型強度の高強度化には、フラン樹脂有機層の溶解度の制御と反応水の生成量の制御が効果的であることがわかる。本発明材料では、反応水の生成量が適切になることで鋳型の寸法安定性も確保できる。
【0193】
また、表4~表6に示す染み出し量については、実施例に係る鋳物砂は、上記の通り、いずれも0.170g以下という少ない染み出し量であり、高い寸法精度を発揮できることがわかる。これに対し、硬化剤のみを添加したサンプル(比較例3~4、比較例6)、マイグレーション現象を制御できなかったサンプル(比較例7~8)は、塗布バインダー等の硬化時に生成される反応水の受容体をフラン樹脂有機層に適切に形成させることができなかったため(もしくはフラン樹脂有機層がなかったため)に染み出し量が多くなり、寸法精度が得られ難いことがわかる。また、実施例3と実施例4との比較でわかる通り、あるいは実施例と比較例との比較からもわかる通り、染み出し量と、バインダーによるTP強度(30分後)、すなわち硬化速度には相関性がないことがわかる。
【0194】
試験例2
表7に示すような組成としたほかは実施例1と同様にして鋳物砂サンプル(試料1~4)を調製し、得られたサンプルの水分量(質量ppm)を測定した。水分量は、京都電子工業製カールフィッシャー水分計「MKV-710」を用いて測定し、150℃、窒素流量200mL/min水分気化法の条件下にて計測を行った。各サンプルは作製後1日以内に測定した。
【0195】
【0196】
上記のように、本発明に係る試料1~4は、安息角が42°以下の乾粉状であり、水分含有量が1200ppm以下(特に300~800ppmの範囲)であることがわかる。