(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125158
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】酸化マグネシウム粉末、熱伝導性フィラー、樹脂組成物及び酸化マグネシウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 5/08 20060101AFI20220819BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220819BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220819BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
C01F5/08
C08L101/00
C08K3/22
C08K9/06
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107138
(22)【出願日】2022-07-01
(62)【分割の表示】P 2022540977の分割
【原出願日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2020217797
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】藤川 勇
(72)【発明者】
【氏名】中川 真通
(72)【発明者】
【氏名】濱岡 崇
(72)【発明者】
【氏名】日元 武史
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 国男
(57)【要約】
【課題】熱伝導パスを形成しやすい酸化マグネシウム粉末とその製造方法及び熱伝導性フィラーを提供する。
【解決手段】酸化マグネシウム粉末は、複数個の、結晶相と粒界相を有する酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が粒界相により互いに融着した二次粒子を個数基準で50%以上含み、レーザー回折散乱法によって得られるメジアン径が300μm以下であり、走査型電子顕微鏡によって撮影された画像の解析によって得られる前記酸化マグネシウム一次粒子の体積平均円相当径に対する前記メジアン径の比が1.5以上5.0以下の範囲内にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の、結晶相と粒界相を有する酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が粒界相により互いに融着した二次粒子を個数基準で50%以上含み、レーザー回折散乱法によって得られるメジアン径が300μm以下であり、走査型電子顕微鏡によって撮影された画像の解析によって得られる前記酸化マグネシウム一次粒子の体積平均円相当径に対する前記メジアン径の比が1.5以上5.0以下の範囲内にある酸化マグネシウム粉末。
【請求項2】
前記酸化マグネシウム一次粒子の体積平均円相当径に対する前記メジアン径の比が2.0以上5.0以下の範囲内にある請求項1に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項3】
前記メジアン径が10μm以上150μm以下の範囲内にある請求項1または2に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項4】
BET比表面積が1m2/g以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項5】
酸化マグネシウムの含有率が94質量%以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項6】
カルシウム、ケイ素、ホウ素を、それぞれ酸化物換算した量の合計で0.8質量%以上含有する請求項1から5のいずれか一項に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項7】
前記二次粒子の表面に、カップリング剤が付着している請求項1から6のいずれか一項に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の酸化マグネシウム粉末を含有する熱伝導性フィラー。
【請求項9】
樹脂と、樹脂に分散されている熱伝導性フィラーとを含み、
前記熱伝導性フィラーは、請求項9に記載の熱伝導性フィラーである樹脂組成物。
【請求項10】
水酸化マグネシウム粒子及び/又は酸化マグネシウム粒子と、粒界形成成分とを水の存在下で混合した後、乾燥して、水酸化マグネシウム粒子及び/又は酸化マグネシウム粒子と、粒界形成成分と、それ以外の不純物とを含み、前記水酸化マグネシウム粒子及び/又は前記酸化マグネシウム粒子の含有率が酸化マグネシウム換算で94質量%以上であって、前記粒界形成成分の含有率が酸化物換算で0.8質量%以上である原料混合物を調製する工程と、
前記原料混合物を焼成することによって焼成物を得る工程と、
前記焼成物を分級する工程と、を含む請求項1から6のいずれか一項に記載の酸化マグネシウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム粉末、熱伝導性フィラー、樹脂組成物及び酸化マグネシウム粉末の製造方法に関する。
本願は、2020年12月25日に日本に出願された特願2020-217797号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウム粉末は、熱伝導性や耐熱性に優れた無機化合物の粉末であり、熱伝導性フィラーとして様々な樹脂に使用されている。樹脂と酸化マグネシウム粉末とを含む樹脂組成物は、例えば、電子機器の放熱材として利用されている。酸化マグネシウム粉末の樹脂への充填性を向上させるために、粒子形状が球状の酸化マグネシウム粉末が検討されている。
【0003】
球状酸化マグネシウム粉末の製造方法として、マグネシアクリンカーを粉砕して得た酸化マグネシウム粉末を研磨して粒子表面を剥離させる方法が知られている(特許文献1)。また、球状酸化マグネシウム粉末の製造方法として、水酸化マグネシウム粒子とリチウム化合物を含む混合物を造粒し、得られた造粒物を焼成する方法も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6507214号公報
【特許文献2】特開2016-88838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子機器の高出力化や高密度化により、放熱材の熱伝導率の向上が求められている。放熱材用樹脂組成物の熱伝導性フィラーとして用いられている球状酸化マグネシウム粉末は、樹脂への充填性が高い。しかしながら、球状酸化マグネシウム粉末は粒子同士の接触面積が少ない。このため、粒子同士の間で熱伝導パスを形成するためには、樹脂組成物に含まれる球状酸化マグネシウム粉末の充填量を多くすることが必要となる。球状酸化マグネシウム粉末の充填量を多くすることは経済性の点で不利であり、得られる樹脂組成物は比重が大きくなると言う問題点があった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、熱伝導パスを形成しやすい酸化マグネシウム粉末とその製造方法及び熱伝導性フィラーを提供することにある。また、本発明の目的は、熱伝導率が高い樹脂組成物を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、水酸化マグネシウム粒子及び/又は酸化マグネシウム粒子と粒界形成成分とを所定の割合で含む原料混合物を焼成することによって、複数個の概ね球状である酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が粒界相により互いに融着した粒状物を含む酸化マグネシウム粉末を得ることが可能となることを見出した。そして、その粒状物である二次粒子を含み、レーザー回折散乱法によって得られるメジアン径が300μm以下である酸化マグネシウム粉末は、熱伝導パスを形成しやすく、これを樹脂に分散させた樹脂組成物は高い熱伝導率を有することを確認して、本発明を完成させた。したがって、本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
[1]複数個の、結晶相と粒界相を有する酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が粒界相により互いに融着した二次粒子を個数基準で50%以上含み、レーザー回折散乱法によって得られるメジアン径が300μm以下であり、走査型電子顕微鏡によって撮影された画像の解析によって得られる前記酸化マグネシウム一次粒子の体積平均円相当径に対する前記メジアン径の比が1.5以上5.0以下の範囲内にある酸化マグネシウム粉末。
[2]前記酸化マグネシウム一次粒子の体積平均円相当径に対する前記メジアン径の比が2.0以上5.0以下の範囲内にある上記[1]に記載の酸化マグネシウム粉末。
[3]前記メジアン径が10μm以上150μm以下の範囲内にある上記[1]または[2]に記載の酸化マグネシウム粉末。
[4]BET比表面積が1m2/g以下である上記[1]から[3]のいずれか一つに記載の酸化マグネシウム粉末。
[5]酸化マグネシウムの含有率が94質量%以上である上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の酸化マグネシウム粉末。
[6]カルシウム、ケイ素、ホウ素を、それぞれ酸化物換算した量の合計で0.8質量%以上含有する上記[1]から[5]のいずれか一つに記載の酸化マグネシウム粉末。
[7]前記二次粒子の表面に、カップリング剤が付着している上記[1]から[6]のいずれか一つに記載の酸化マグネシウム粉末。
【0009】
[8]上記[1]から[7]のいずれか一つに記載の酸化マグネシウム粉末を含有する熱伝導性フィラー。
【0010】
[9]樹脂と、樹脂に分散されている熱伝導性フィラーとを含み、前記熱伝導性フィラーは、上記[8]に記載の熱伝導性フィラーである樹脂組成物。
【0011】
[10]水酸化マグネシウム粒子及び/又は酸化マグネシウム粒子と、粒界形成成分とを水の存在下で混合した後、乾燥して、水酸化マグネシウム粒子及び/又は酸化マグネシウム粒子と、粒界形成成分と、それ以外の不純物とを含み、前記水酸化マグネシウム粒子及び/又は前記酸化マグネシウム粒子の含有率が酸化マグネシウム換算で94質量%以上であって、前記粒界形成成分の含有率が酸化物換算で0.8質量%以上である原料混合物を調製する工程と、
前記原料混合物を焼成することによって焼成物を得る工程と、
前記焼成物を分級する工程と、を含む上記[1]から[6]のいずれか一つに記載の酸化マグネシウム粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱伝導パスを形成しやすい酸化マグネシウム粉末とその製造方法及び熱伝導性フィラーを提供することが可能となる。また、本発明によれば、熱伝導率が高い樹脂組成物を提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る酸化マグネシウム粉末に含まれる二次粒子の概念図である。
【
図2】実施例1で得られた酸化マグネシウム粉末のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の酸化マグネシウム粉末、熱伝導性フィラー、樹脂組成物及び酸化マグネシウム粉末の製造方法の実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態の酸化マグネシウム粉末は、複数個の酸化マグネシウム一次粒子が融着した二次粒子を含む。酸化マグネシウム粉末中の二次粒子の含有率は、個数基準で30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が粒界相により互いに融着した二次粒子はSEM(走査型電子顕微鏡)画像上で容易に判別できる。このため、酸化マグネシウム粉末の二次粒子の含有率は、複数個の一次粒子が融着した二次粒子の個数を、SEMを用いて計測することにより測定することができる。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る酸化マグネシウム粉末に含まれる二次粒子の概念図である。
図1に示すように、酸化マグネシウム一次粒子2の少なくとも一部が粒界相4により互いに融着した二次粒子1は、複数個の酸化マグネシウム一次粒子2を有する。二次粒子1は粒界相4の成分がフラックスとして作用し、少なくとも一部は一次粒子2の結晶相3も含めて融着していると推察される。
【0017】
酸化マグネシウム一次粒子2の少なくとも一部が粒界相4により互いに融着した二次粒子1は、複数個の酸化マグネシウム一次粒子2が不規則に融着した不定形状であってもよい。また、二次粒子1は、表面に複数の凹凸を有する形状や歪な球状であってもよい。二次粒子1の形状が不定形状もしくは複数の凹凸を有する形状であることによって、二次粒子1同士の接触面積を大きくすることができるので、二次粒子1を含む酸化マグネシウム粉末は、二次粒子同士の間での熱伝導パスを形成しやすくなる。
【0018】
酸化マグネシウム一次粒子2は、結晶相3と粒界相4を有する。酸化マグネシウム一次粒子2は、単結晶体であってもよいし、多結晶体であってもよい。酸化マグネシウム一次粒子2の形状としては特に制限はなく、例えば、球状、楕円球状、円柱状、角柱状であってもよい。また、酸化マグネシウム一次粒子2は不定形な粒状であってもよい。
【0019】
結晶相3は、主として酸化マグネシウムを含む。粒界相4は、酸化マグネシウムよりも融点が低い低融点化合物を含む。低融点化合物は、例えば、カルシウム、ケイ素、ホウ素を含む化合物であってもよい。低融点化合物は、カルシウム、ケイ素、ホウ素を含む酸化物であってもよい。複数個の酸化マグネシウム一次粒子2は、少なくとも一部が粒界相4により互いに融着されている。このため、二次粒子1中の酸化マグネシウム一次粒子2は、粒子同士の間での熱伝導パスが形成されやすくなる。また、低融点化合物はフラックスとして作用するため、粒界相4の中で結晶相3が成長して相互に融着している場合もある。結晶相3は主として熱伝導性の高い酸化マグネシウムからなるため、結晶相3まで融着した場合が熱伝導パス形成の観点からは望ましい。
【0020】
酸化マグネシウム粉末は、レーザー回折散乱法によって測定されるメジアン径が300μm以下とされている。レーザー回折散乱法によって測定される粒径は、上記の酸化マグネシウム一次粒子2の少なくとも一部が粒界相4により互いに融着した二次粒子1の粒径に相当する。メジアン径が300μm以下となることによって、酸化マグネシウム粉末の分散性や充填性が向上する。また、メジアン径は、10μm以上であってもよい。メジアン径が10μm以上と大きいことによって、酸化マグネシウム粉末は樹脂中で酸化マグネシウム粉末が熱伝導パスを形成しやすくなる。さらに、メジアン径が10μm以上と大きい酸化マグネシウム粉末は耐水和性が向上し、水分による変質が起こりにくくなる。このため、メジアン径が10μm以上300μm以下の範囲内にある酸化マグネシウム粉末を分散させた樹脂組成物は、熱伝導率が長期間にわたって向上する。メジアン径は、10μm以上150μm以下の範囲内にあることが好ましく、30μm以上150μm以下の範囲内にあることがより好ましく、30μm以上140μm以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0021】
酸化マグネシウム粉末は、上記のメジアン径(二次粒子1のメジアン径)と、SEMによって撮影された画像の解析によって得られる酸化マグネシウム一次粒子2の体積平均円相当径との比が1.2以上6.0以下の範囲内にある構成とされていてもよい。このメジアン径/体積平均円相当径は、二次粒子1中に融着されている酸化マグネシウム一次粒子2の個数(融着度)を指標する。すなわち、メジアン径/体積平均円相当径が大きいことは、二次粒子1中に融着されている酸化マグネシウム一次粒子2の個数が多い(融着度が大きい)ことを表す。メジアン径/体積平均円相当径が上記の範囲内にあると、粒子同士の熱伝導パスを形成しやすくなり、また酸化マグネシウム粉末の分散性や充填性が向上する。熱伝導パスの形成しやすさの観点からメジアン径/体積平均円相当径は、1.5以上5.0以下の範囲内にあることが好ましく、2.0以上5.0以下の範囲内にあることがより好ましく、2.8以上であることが特に好ましい。
【0022】
酸化マグネシウム一次粒子2の体積平均円相当径とは、SEM画像の画像解析によって得られた酸化マグネシウム一次粒子2の投影面積を円に換算することで算出された円相当径を体積基準にて頻度を累積したメジアン径である。体積平均円相当径は、2.0μm以上250μm以下の範囲内にあってもよい。体積平均円相当径は、5.0μm以上150μm以下の範囲内にあることが好ましく、5.0μm以上100μm以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0023】
酸化マグネシウム粉末は、BET比表面積が1m2/g以下であってもよい。BET比表面積がこの範囲にあることは、酸化マグネシウム粉末は気孔が少なく、緻密な焼結体であることを意味する。BET比表面積は、0.8m2/g以下であることが好ましく、0.5m2/g以下であることが特に好ましい。BET比表面積は、一般に0.01m2/g以上であってもよい。
【0024】
酸化マグネシウム粉末の結晶子径は、1000Å以上であることが好ましく、1200Å以上であることがより好ましく、1500Å以上であることがさらに好ましく、2000Å以上であることが特に好ましい。結晶子径が大きいほど、結晶性が高い酸化マグネシウムであることを意味し、結晶性が高いほど熱伝導率が高く、耐水性が高い。
【0025】
酸化マグネシウム粉末は、酸化マグネシウムの含有率が94質量%以上であってもよい。酸化マグネシウムの含有率が94質量%以上と高いことによって、酸化マグネシウム粉末の熱伝導性が向上する。酸化マグネシウムの含有率は、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることが特に好ましい。
【0026】
酸化マグネシウム粉末は、酸化マグネシウム以外の物質を酸化物換算の含有率で0.8質量%以上6質量%以下の範囲内で含んでいてもよい。酸化マグネシウム以外の物質の酸化物換算の含有率は、0.8質量%以上5質量%以下の範囲内にあることが好ましく、0.8質量%以上3質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。酸化マグネシウム以外の物質は、粒界相を形成する低融点化合物や不純物を含む。酸化マグネシウム以外の物質の内、主に低融点化合物を形成するカルシウム、ケイ素、ホウ素の含有率は、それぞれ酸化物換算した量の合計で0.8質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。低融点化合物の含有率が上記の範囲内にあることによって、酸化マグネシウム一次粒子を強固に融着することができる。さらに、低融点化合物がフラックスとして作用して融着が酸化マグネシウムの結晶相まで及べば、粒子同士の間の熱伝導パスをより確実に形成することができる。
【0027】
酸化マグネシウム粉末は、カップリング剤が付着している構成とされていてもよい。カップリング剤の種類には特に制限はなく、例えば、シランカップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、チタネート系カップリング剤を用いることができる。カップリング剤は、酸化マグネシウムを充填する樹脂の種類によって適宜選択することができる。カップリング剤はシランカップリング剤が望ましく、ビニル基、フェニル基、アミノ基を有するシランカップリング剤が特に好ましい。
【0028】
酸化マグネシウム粉末は、さらに表面改質剤で処理されている構成とされていてもよい。表面改質剤としては、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、ステアリン酸ナトリウムなどの界面活性剤などを用いることができる。
【0029】
以上のような構成とされた酸化マグネシウム粉末は、熱伝導性フィラーとして、特に樹脂やゴム用の熱伝導性フィラーとして用いることができる。樹脂の種類は特に制限なく、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、グリース、ワックスなどを用いることができる。
【0030】
樹脂と、樹脂に分散されている酸化マグネシウム粉末とを含む樹脂組成物は、酸化マグネシウム粉末を、30体積%以上80体積%以下の範囲内で含むことが好ましい。樹脂組成物は、例えば自動車分野では、ランプソケットや各種電装部品の放熱材として利用することができる。また、電子機器分野では、ヒートシンク、ダイパッド、プリント配線基板、半導体パッケージ用部品、冷却ファン用部品、ピックアップ部品、コネクタ、スイッチ、軸受け、ケースハウジングの放熱材として利用することができる。
【0031】
酸化マグネシウム粉末は、例えば、(a)原料工程、(b)焼成工程、(c)分級工程を含む方法によって製造することができる。
【0032】
(a)原料工程
原料工程では、焼成によって、酸化マグネシウムを生成する酸化マグネシウム源と粒界相を形成する粒界形成成分とを含む原料混合物を用意する。酸化マグネシウム源としては、水酸化マグネシウム粒子及び/又は酸化マグネシウム粒子を用いることができる。原料混合物は、酸化マグネシウム源と粒界形成成分を構成する添加物とそれ以外の不純物とを含み、酸化マグネシウム源の含有率が酸化マグネシウムの含有率に換算して94質量%以上で、粒界形成成分の含有率が酸化物の含有率に換算して0.8質量%以上である。
【0033】
原料混合物は、酸化マグネシウム源と粒界形成成分(低融点化合物)を構成する添加物とを混合することによって調製することができる。また、水酸化マグネシウム粒子と粒界形成成分とを含む原料混合物は、例えば、生石灰を消和させた後に残渣を取り除いて精製した石灰乳(水酸化カルシウムスラリー)と海水とを混合して、水酸化カルシウムと海水中のマグネシウム塩とを反応させることによって生成した水酸化マグネシウムにシリカ源、ホウ素源、カルシウム源、それぞれの添加物を適宜加えることにより調製することができる。この海水と石灰乳とを用いて調製した水酸化マグネシウムは、主として石灰乳に由来するカルシウムとケイ素、海水に由来するホウ素を含有する。
【0034】
(b)焼成工程
焼成工程では、(a)原料工程で得られた原料混合物を焼成することによって焼成物を得る。焼成物は、複数個の酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が粒界相により互いに融着した二次粒子を含む酸化マグネシウム粉末を含んでいる。原料混合物の焼成温度は、酸化マグネシウムが生成し、かつ粒界形成成分が溶融する温度である。焼成温度は、例えば、1000℃以上2000℃以下の範囲内、好ましくは1500℃以上2000℃以下の範囲内、特に好ましくは1600℃以上2000℃以下の範囲内である。焼成装置は、適度に二次粒子が生成するように、原料混合物を攪拌しながら焼成できる装置を使用する。焼成装置としては、例えば、ロータリーキルンを用いることができる。焼成工程での焼成温度が高くなると、得られる酸化マグネシウム粉末の結晶子径が大きくなる傾向がある。
【0035】
(c)分級工程
分級工程では、(b)焼成工程で得られた焼成物を分級して、焼成物の粗大な粒子を取り除き、焼成物の粒度分布を調整する。分級方法は、特に制限はなく、振動篩機、風力分級機、サイクロン式分級機などの分級装置を用いた分級方法を利用することができる。分級装置は、一種の分級装置を単独で利用してもよいし、二種以上の分級装置を組み合わせて利用してもよい。分級工程では、振動篩機によって粗大な粒子を分級除去して所定のメジアン径の二次粒子を得てもよい。更に、風力分級機により小さすぎる粒子を取り除いて二次粒子の粒度分布を調整してもよい。
【0036】
以上のような構成とされた酸化マグネシウム粉末の製造方法によれば、酸化マグネシウム源と粒界形成成分(低融点化合物)とを所定の割合で含むので、焼成工程によって複数個の酸化マグネシウム一次粒子が融着した二次粒子を効率よく得ることができる。
【実施例0037】
[実施例1]
(a)原料工程
生石灰を消和させた後に残渣を取り除いて精製した石灰乳(水酸化カルシウムスラリー)と脱炭酸した海水とを混合し、水酸化カルシウムと海水中のマグネシウム塩とを反応させて水酸化マグネシウムスラリーを調製した。得られた水酸化マグネシウムスラリーを、ロータリーディスクフィルターを用いて脱水して、含水率が40%の水酸化マグネシウムケークを得た。得られた水酸化マグネシウムケークは、CaO、SiO2、B2O3、Fe2O3、Al2O3を含有していた。得られた水酸化マグネシウムケークとホウ酸とを、1800℃で焼成した後のB2O3含有量が0.8質量%となる割合で混合した後、ロータリードライヤーを用いて含水率が10質量%となるまで乾燥して、原料混合物を調製した。
【0038】
(b)焼成工程
上記(a)原料工程で得られた原料混合物を、ブリケッティングマシーンを用いて約30mmのアーモンド状に成形した。得られたアーモンド状成形物を、ロータリーキルンを用いて、1800℃で8時間焼成して、酸化マグネシウム(焼成物)を得た。得られた酸化マグネシウムは、粒状成形物の焼成体及び粒状成形物の焼成体から脱離した粉末状の酸化マグネシウム粒子(二次粒子)を含んでいた。
【0039】
(c)分級工程
上記(b)焼成工程で得られた酸化マグネシウムを、目開き300μmの振動篩機を用いて粒径が300μm以上の粗大粒子(粒状成形物の焼成体を含む)を取り除いた。次いで、粒径が300μm未満の酸化マグネシウム粉末を、風力分級機を用いて分級して、粒径が75μm以下の微粒子を取り除いた。こうして粒径が75μmを超え300μm未満の酸化マグネシウム粉末を回収し、これを実施例1の酸化マグネシウム粉末とした。
【0040】
[実施例2]
実施例1の(c)分級工程において、目開き1mmの振動篩機を用いて粗大粒子を取り除いた後に、更に風力分級機を用いて分級して粒径が75μm以下の酸化マグネシウム粉末を回収したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の酸化マグネシウム粉末とした。
【0041】
[比較例1]
実施例1の(c)分級工程において、目開き1mmの振動篩機を用いて粗大粒子を取り除いた後に、更に、ジェットミル(旋回流型ジェットミルSTJ-200型、株式会社セイシン企業製)を用いて粉砕した。得られた粉砕物を、風力分級機を用いて分級して粒径が45μm以下の酸化マグネシウム粉末を回収し、これを比較例1の酸化マグネシウム粉末とした。
【0042】
[評価]
実施例1、2及び比較例1で得られた酸化マグネシウム粉末について、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡:S-4800、株式会社日立ハイテクノロジー社製)を用いて観察した。実施例1の結果を、
図2に示す。
【0043】
図2は、実施例1で得られた酸化マグネシウム粉末のSEM写真である。
図2に示すように、実施例1の酸化マグネシウム粉末は、複数個の酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が互いに融着した二次粒子を含むことが確認された。また、酸化マグネシウム一次粒子の粒子同士が融着している融着部を元素分析した結果、融着部は、カルシウム、ケイ素、ホウ素を高濃度で含有していた。この結果から、酸化マグネシウム一次粒子は、主として酸化マグネシウムを含む結晶相と、カルシウム、ケイ素及びホウ素を含む粒界相(低融点化合物)とを有すること、そして複数個の酸化マグネシウム一次粒子は粒界相を介して融着していることが確認された。同様に、実施例2の酸化マグネシウム粉末についても、複数個の酸化マグネシウム一次粒子が融着した二次粒子を含むことが確認された。一方、比較例1の酸化マグネシウム粉末については、二次粒子は殆ど見られなかった。
【0044】
実施例1、2及び比較例1で得られた酸化マグネシウム粉末について、組成、メジアン径、体積平均円相当径、二次粒子の含有率、BET比表面積、熱伝導率を下記の方法により測定した。その測定結果、及びメジアン径と体積平均円相当径との比(メジアン径/体積平均円相当径)を、表1に示す。
【0045】
(組成)
JIS R2212-4:2006(耐火物製品の化学分析方法-第4部:マグネシア及びドロマイト質耐火物)に準拠して、CaO、SiO2、B2O3、Fe2O3、Al2O3の含有率を測定した。MgOの含有率は、CaO、SiO2、B2O3、Fe2O3及びAl2O3の含有率の合計を100質量%から差し引いた値とした。
【0046】
(メジアン径)
ビーカーに、酸化マグネシウム粉末1.5gと純水30mLを加え、酸化マグネシウム粉末が水に均一に分散されるように混合した。得られた酸化マグネシウム分散液を、粒子径分布測定装置(MT3300EX、マイクロトラック・ベル株式会社製)に投入して、酸化マグネシウム粉末のメジアン径をレーザー回折散乱法により、下記の条件にて測定した。
【0047】
<条件>
光源:半導体レーザー 780nm 3mW クラス1レーザー
屈折率:1.74(MgO)-1.333(水)
測定回数:Avg/3
測定時間:30秒
【0048】
(体積平均円相当径)
前処理として蒸着を行わない酸化マグネシウム粉末を、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡:S-4800、株式会社日立ハイテクノロジー社製)を用いて撮影して、SEM画像を得た。得られたSEM画像を、画像解析ソフト(Mac-view、株式会社マウンテック製)を用いて解析して、酸化マグネシウム一次粒子の円相当径(ヘイウッド径)を算出した。200個の酸化マグネシウム一次粒子について円相当径を算出し、体積基準にて頻度を累積したメジアン径を体積平均円相当径とした。
【0049】
(二次粒子の含有率)
上記と同様にして得られたSEM画像から、200個の粒子について酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が互いに融着した二次粒子の個数と前記二次粒子を形成していない一次粒子の個数をカウントし、200個に占める酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が互いに融着した二次粒子の割合を二次粒子の含有率とした。
【0050】
(BET比表面積)
BET比表面積はBET1点法により測定した。測定装置は、カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン社製モノソーブを用い、前処理として、測定用のセルに充填した酸化マグネシウム粉末を180℃で10分間乾燥脱気した。
【0051】
(結晶子径)
酸化マグネシウム粉末の(200)面(a軸方向)の結晶子径を測定した。粉末X線回折装置(D8ADVANCE Bruker社製)を用いて下記条件にてX線回折パターンを測定した。なお、アルミナ焼結板を標準試料として、装置による回折ピークの広がり補正を行った。得られたX線回折パターンの(200)面のX線回折ピークの半価幅からScherrerの式を用いて(200)面(a軸方向)の結晶子径を算出した。シェラー定数Kには0.9を用いた。
<条件>
X線源 :CuKα線
管電圧―管電流:40kV-40mA
ステップ幅 :0.02deg
測定速度 :0.5sec/step
発散スリット :10.5mm
【0052】
(熱伝導率)
(1)試験片(熱伝導性樹脂組成物)の作製
酸化マグネシウム粉末とジメチルシリコーン樹脂(KE-106、信越化学工業株式会社製)とを、酸化マグネシウム:ジメチルシリコーン樹脂=40体積%:60体積%の配合割合にて混練した。得られた混練物を60mm×80mm×10mmのポリプロピレン製の型に流し込み真空チャンバーにて0.08MPaで30分間減圧脱泡した。その後、オーブンにて100℃で60分間加熱し、混練物を硬化させて、熱伝導性樹脂組成物を得た。得られた熱伝導性樹脂組成物を20mm×20mm×2mmの大きさに切り分けて、熱伝導率測定用の試験片を作製した。なお、試験片は4枚作製した。
【0053】
(2)熱伝導率の測定
熱伝導率の測定は、京都電子工業株式会社製の熱物性測定装置TPS 2500 Sを用い、測定プローブは、C7577タイプ(直径:4mm)を用いた。
上記(1)で得られた4枚の試験片を、熱物性測定装置の測定プローブの上下にそれぞれ2枚ずつに分けて挟んでセットし、下記の条件にてホットディスク法(非定常面熱源法)により試験片の熱伝導率を測定した。
(条件)
測定時間 :5秒
加熱量 :200mW
測定環境温度:20℃
【0054】
【0055】
表1の結果から、複数個の酸化マグネシウム一次粒子が粒界相により互いに融着した二次粒子を含む実施例1、2の酸化マグネシウム粉末を用いた樹脂組成物は、比較例1の酸化マグネシウム粉末を用いた樹脂組成物と比較して熱伝導率が20%以上向上することが確認された。特に、メジアン径/体積平均円相当径が2.8以上である実施例1の酸化マグネシウム粉末を用いた樹脂組成物は、比較例1の酸化マグネシウム粉末を用いた樹脂組成物と比較して熱伝導率が40%も向上することが確認された。
【0056】
[実施例3]
実施例1と同様にして作製した酸化マグネシウム粉末を、ヘンシェルミキサー(FM300、日本コークス工業株式会社製、容量:300L)に100kg投入した。ヘンシェルミキサーの周速を15m/secとして、酸化マグネシウム粉末を攪拌しながら、酸化マグネシウム粉末にヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBM-3063)500gを自動添加機にて添加して、混合した。酸化マグネシウム粉末とヘキシルトリメトキシシランとの混合によりヘンシェルミキサーの槽内温度が100℃に到達した時間からさらに15分間攪拌した。こうして酸化マグネシウム粉末の表面をヘキシルトリメトキシシランで処理した。処理後の酸化マグネシウム粉末を用いて熱伝導性樹脂組成物を作成し、熱伝導率を上記の方法により測定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0057】
[実施例4]
実施例2と同様にして作製した酸化マグネシウム粉末を使用したこと以外は実施例3と同様にして、酸化マグネシウム粉末の表面をヘキシルトリメトキシシランで処理した。処理後の酸化マグネシウム粉末について、実施例3と同様にして、熱伝導性樹脂組成物を作製し、熱伝導率を測定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0058】
[比較例2]
比較例1と同様にして作製した酸化マグネシウム粉末を使用したこと以外は実施例3と同様にして、酸化マグネシウム粉末の表面をヘキシルトリメトキシシランで処理した。処理後の酸化マグネシウム粉末について、実施例3と同様にして、熱伝導性樹脂組成物を作製し、熱伝導率を測定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0059】
【0060】
実施例3、実施例4、比較例2の結果から、本発明の酸化マグネシウム一次粒子の少なくとも一部が互いに融着した二次粒子は、ヘキシルトリメトキシシランで処理を行っても、未処理と同様に熱伝導率が向上することが確認された。