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特開2022-125250交互タンジェンシャルフローによる高速収穫
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125250
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】交互タンジェンシャルフローによる高速収穫
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20220819BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20220819BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20220819BHJP
   C07K 1/34 20060101ALI20220819BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20220819BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20220819BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20220819BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220819BHJP
【FI】
C12N1/00 K
C12N1/02
C12N7/02
C07K1/34
C12N9/00 101
C12M1/12
C12M3/06
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108959
(22)【出願日】2022-07-06
(62)【分割の表示】P 2019503920の分割
【原出願日】2017-07-25
(31)【優先権主張番号】62/366,557
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504232044
【氏名又は名称】レプリゲン・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】REPLIGEN CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】クドゥグンティ、シャシ キラン
(72)【発明者】
【氏名】リン、ウェンロン ロイ
(72)【発明者】
【氏名】ボーナム-カーター、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ラスチェ、ジェームズ アール.
(57)【要約】
【課題】流加及び高密度流加培養液をATFを用いて収穫するための方法およびシステムを提供する。
【解決手段】流加または高密度流加培養液から細胞生産物を収穫する方法は、培養液中で細胞生産物を生産することと、培養培地をATFフィルタに通すことにより細胞生産物を収穫することとを含む。ATFフィルタは、生細胞密度が第1の値を超える場合には、細胞生産物の90%以上が透過液内に存在するようになるまで、高いフィルタ流束において透析濾過方式で操作される一方、生細胞密度が第1の値未満である場合には、生細胞密度が第1の値に達するまで、または培養培地が出発体積未満の所定体積に達するまで、高いフィルタ流束において濃縮方式で操作され、その後、細胞生産物の90%以上が透過液内に存在するようになるまで、透析濾過方式で操作される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互タンジェンシャルフロー(ATF)フィルタを用いて流加または高密度流加培養液から細胞生産物を収穫する方法であって、
細胞生産物が培養培地中で収穫濃度に達するまで前記培養液中で前記細胞生産物を生産することと;
前記細胞生産物がATFフィルタの透過液チャネル内に入るように前記培養培地を前記ATFフィルタに通すことにより前記細胞生産物を収穫することと;
を含み、
生細胞密度が第1の値を超える場合には、前記細胞生産物の90%以上が前記透過液内に存在するようになるまで、前記ATFフィルタが、高いフィルタ流束において透析濾過方式で操作され、
前記生細胞密度が前記第1の値未満である場合には、前記生細胞密度が前記第1の値に達するまで、または前記培養培地が出発体積未満の所定体積に達するまで、前記ATFフィルタが、高いフィルタ流束において濃縮方式で操作され、その後、前記細胞生産物の90%以上が前記透過液内に存在するようになるまで、透析濾過方式で操作される、方法。
【請求項2】
前記収穫に要する時間は、500リットル~2000リットルの間の体積の場合、18時間未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記収穫に要する時間は6.0時間未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ATFフィルタは中空繊維フィルタを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記フィルタは、孔径が約0.1~5.0ミクロン又は約500~1000kDである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞生産物は、モノクローナル抗体、酵素、又はウイルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記透析濾過方式が、段階的な透析濾過、または連続的な透析濾過である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
透析濾過が、補充液として細胞培養培地を使用する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
透析濾過が、補充液としてリン酸緩衝生理食塩水を使用する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記所定体積は、出発体積の約5%~約30%、又は前記出発体積の約10%~約20%である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記所定体積は、前記出発体積の約50%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
生細胞密度についての前記所定値が100e6である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
システムであって、
導入口及び排出口を含むバイオリアクターと;
前記バイオリアクター導入口に接続された、細胞生産物を含まない液体培地の供給源と;
前記バイオリアクター排出口に接続された交互タンジェンシャルフロー(ATF)装置と;
前記ATF装置の排出口に接続され、前記ATF装置から流体を除去するように構成されたポンプと;
請求項1に記載の方法を実行するように配置及びプログラムされた制御装置と
を含む、システム。
【請求項14】
前記ATF装置は中空繊維フィルタを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記フィルタは、孔径が約0.1~5.0ミクロン又は約500~1000kDである、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記制御装置は、前記培養培地の体積を出発体積の約5%~約30%に、又は前記出発体積の約10%~約20%に設定するように配置及びプログラムされている、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
前記所定体積は、前記出発体積の約50%である、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
透析濾過方式において作動する前記ATF装置は、段階的な透析濾過、または連続的な透析濾過のためにプログラムされている、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
生細胞密度についての前記所定値が100e6である、請求項13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオリアクターから生産物を収穫するため、例えば、流加バイオリアクター培養液から生産物を収穫するための交互タンジェンシャルフロー濾過装置の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物、植物、又は動物細胞の培養は商品価値の高い生体物質及び化学物質の製造に用いられている。このような培養は、特に商業生産用としては、3種の操作方式:回分方式(batch)、連続方式(continuous)、流加方式(fed-batch)、又は高密度流加方式(concentrated fed-batch)で実施することができる。その用途には、発酵、バイオテクノロジー、並びに特殊化学品及び特殊製品を製造するための化学物質に加えて、廃棄物処理も含まれる。典型的に生産物は、タンパク質、ペプチド、核酸、ウイルス、アミノ酸、抗生物質、特殊化学品、及び他の有用な分子等の内因性及び組換え産物をはじめとした任意の所望の細胞生産物等の価値の高い生産物である。所望のタンパク質としては、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、酵素、及び他の組換え抗体、酵素、ペプチド、ウイルスを挙げることができる。収率及び生産性が僅かに向上しただけでも利益に繋がる。したがって、回分式、流加式、又は高密度流加式反応器の操作を改良する動機が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
流加バイオリアクターから現行の技術を用いて生産物を収穫する場合、通常、遠心分離及び深層濾過等の分離プロセスが用いられるが、これらは長時間を要する可能性があり、生産物の回収率が所望されるよりも低くなる可能性もある。遠心分離は一時期、細胞収穫の一部として用いられてきたが、このプロセスは高い剪断力が発生するため生存率が低下し、その結果としてタンパク質の品質が変化する可能性もある。深層濾過は遠心分離よりも有利であるが、差圧の監視の必要性、フィルタの廃棄、広い設置面積、及びスケールアップに関する問題点等の独自の限界を有する。その上、遠心分離も深層濾過も、クロマトグラフィーによる分離プロセスに適した流体を生成するための第2の清澄化ステップが必要になるという難点がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示に記載する方法及びシステムの少なくとも一部は、交互タンジェンシャルフロー(alternating tangential flow)(ATF)濾過が、流加培養液又は高密度流加培養液等の細胞培養液から高速収穫を行うように適合され得、それによって細胞生産物が高速且つ高収率で収穫されるという有利な結果が得られることを見出したことに基づく。この流加培養液及び他の種類の細胞培養液の収穫にATFを用いる新規な方法によって、遠心分離及び深層濾過等の一般に2つ以上の段階を必要とする収穫手順が簡素化されるため、最小限の段階を経て高速収穫手順を実施することが可能になる。ATFで収穫を行うことにより、次の段階、例えば、クロマトグラフィーカラムに適した高い清澄度の、したがって下流のシステムを汚染することのない供給ストリームが得られる。したがって本開示は、流加及び高密度流加培養液をATFを用いて収穫するための一連の方法を記載する。
【0005】
流加バイオリアクターからタンパク質の収穫に遠心分離又は深層濾過を用いることは一般に行われている。しかし、これらの慣用技術によるタンパク質の回収率は低く、このプロセスには長時間を要する。本明細書に記載する新規な方法及びシステムによれば、ATFを流加バイオリアクターの高速収穫設備として用いると収穫時間を8又は10時間未満に短縮することができる。この新規な方法はまた、収穫プロセス全体を通して細胞生存率を高いまま維持するので、タンパク質の品質も維持される。
【0006】
第1の態様において、本開示は、細胞培養液から、例えば、流加又は高密度流加細胞培養液から細胞生産物を収穫する方法を含む。細胞生産物としては、任意の所望の内因性及び組換えタンパク質、核酸、ウイルス、並びに他の有用な分子が挙げられる。所望のタンパク質としては、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、酵素、及び他の組換え又は天然タンパク質を挙げることができる。この方法は、細胞を、出発体積(volume)の培養培地中で、細胞が培養培地中で収穫濃度の細胞生産物を生産するまで培養することであって、細胞は、交互タンジェンシャルフロー(ATF)装置に接続されたバイオリアクターを含む細胞培養システム内で培養される、ことと;バイオリアクターから培養培地を、ATF装置を通して、培養培地の体積が所定の体積に達するまで排出することであって、ATF装置は、ATF排出口において細胞生産物を含む液体を提供し、及び収穫濃度よりも細胞生産物の濃度が低い培養培地をバイオリアクターに返送する、ことと;細胞生産物を含む液体をATF排出口から引き抜くことと;バイオリアクターに液体培地を、出発体積と等しいか、それよりも多いか、又はそれよりも少ない体積になるまで補充することと;バイオリアクターから所望量の細胞生産物が取り出されるまで、排出、引き抜き、及び補充ステップの1つ以上を繰り返すことと;を含む。
【0007】
これらの方法において、所定の体積は、出発体積よりも少なくても多くても、又は出発体積とほぼ等しくてもよい。バイオリアクターの補充に使用する液体培地は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、又は細胞培養培地、又は細胞を生きたまま維持するために使用することができる他の任意の液体とすることができる。
【0008】
幾つかの実施において、補充は、バイオリアクターから培養培地を排出する速度又はATF排出口から液体を引き抜く速度と等しい速度でバイオリアクターに同時に補充することを含む。特定の実施形態において、排出ステップ及び補充ステップは順次実施され、並びに/又は補充ステップ及び排出ステップは2回以上実施される。
【0009】
本新規方法において、収穫は500リットル~2000リットルの間の体積に18時間以下、例えば、24、20、18、16、14、12、10時間未満若しくはそれ未満、又は、例えば、9、8、7.5、7.0、6.5、6.0、5.5、若しくは5.0時間未満若しくはそれ以下の時間を要し得る。例えば、幾つかの実施形態において、バイオリアクターの体積が所定の体積に達するまでの排出ステップと、引き抜きステップとの両方の繰り返しに要する時間は2.5時間未満となり得る。特定の実施形態において、培養培地は、濾過流束を約2~30リットル/メートル/時(LMH)、例えば、約2、4、5、6、7、8、9、又は10~30リットル/メートル/時(LMH)、例えば、3~25、4~20、又は5~15LMHとして排出される。
【0010】
様々な実施において、所定の体積は出発体積の約5%~約30%又は出発体積の約10%~約20%とすることができる。これらの方法において、細胞培養液は高密度流加培養液とすることができ、所定の体積は出発体積の約50%又は出発体積の100%とすることができる。幾つかの実施形態において、所定の体積は、培養培地中の細胞濃度に基づき決定される。
【0011】
幾つかの実施において、ATF装置は、例えば、孔径が約0.1~5.0ミクロン、例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、若しくは0.9ミクロン、又は1、2、3、若しくは4ミクロン、又は約500~1000kD、例えば、550、600、650、700、750、800、850、900、若しくは950kDの中空繊維フィルタを含むことができる。
【0012】
これらの方法において、排出ステップ、引き抜きステップ、及び補充ステップの任意の2つ以上を第1流量で同時に行うことができる。例えば、細胞が、細胞培養プロセスの完了時に収穫される細胞生産物を全て生産する前に、排出ステップ、引き抜きステップ、及び補充ステップの任意の1つ以上を開始することができる。幾つかの実施形態においては、細胞が、液体培地中で収穫濃度の細胞生産物を生産する1~8日前、例えば、2~7日又は3~6日前に、排出ステップ、引き抜きステップ、及び補充ステップを開始する。
【0013】
幾つかの実施形態において、引き抜き体積及び補充体積は、約1.0容器体積/日交換(vessel volume exchanged per day)(VVD)未満、例えば、約0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、又は0.1VVD未満である。
【0014】
幾つかの実施において、最終収穫ステップは第1流量とは異なる第2流量で実施される。幾つかの実施形態において、最終排出ステップの結果、出発体積の約20%未満、例えば、10%未満をバイオリアクターに残留させることができる。
【0015】
これらの方法の全てにおいて、細胞培養液は、流加細胞培養液又は高密度流加細胞培養液とすることができ、この方法は、モノクローナル抗体、酵素、及び/又はウイルス等の細胞生産物の生産に用いることができる。
【0016】
他の態様において、本開示は、細胞培養液から細胞生産物を収穫するためのシステムを提供する。このようなシステムは、導入口及び排出口を含むバイオリアクターと;バイオリアクター導入口に接続された、細胞生産物を含まない細胞培養培地の供給源と;バイオリアクター排出口に接続された、交互タンジェンシャルフロー(ATF)装置と;ATF装置の排出口に接続された、ATF装置から流体を除去するように構成されたポンプと;本明細書に記載した方法の1つ以上を、単独で、又は様々なコンビネーション及びサブコンビネーションのいずれかで実施するように配置及びプログラムされた制御装置と;を含む、バイオリアクターを含む。
【0017】
本開示に記載する方法及びシステムは、流加培養液収穫時に加わる剪断力が小さいことに由来して、高い細胞生存率が維持されること、及び本明細書に記載する新規方法を用いて収穫された生産物中のタンパク質の品質がより高く維持されることを含む幾つかの利点をもたらす。細胞死又はストレスは酵素を分解又は変性させるタンパク質の放出に繋がることが多く、これらは生産物の品質を損ない兼ねない。本新規な方法及びシステムは、品質が向上したタンパク質の収率を向上させると共に生産性を増大させる。本新規な方法及びシステムは、細胞がほぼ無傷であり、混入物のない形態(unadulterated
form)にあり、後段の分離性能を損なわない、又は培養された細胞を液体培地から収穫及び分離する最中に望ましくない生物学的作用(biologics)が増大するリスクを上昇させない、細胞ブロスを回収することを可能にする。タンパク質が膜を通過する速度は分離ステップを速やかに完了させるために重要である。本新規方法及びシステムを用いた製造時間はその経済的利点の代表的なものであり、また、不安定なタンパク質を、生産物の望ましくない分解等の変性が回避されるよう速やかに取得するために必要となる可能性もある。
【0018】
「流加培養」は、次に示す点を除いて回分操作である、生物工学的プロセスに用いられる操作技法であって、この操作を実施する間、培養中に、細胞増殖及び生産物の生産に必要な1種以上の栄養源を1つ以上の供給ストリームを介して間欠的又は連続的にバイオリアクターに供給(feed)又は補給(supply)する、操作技法を指す。操作の実施中、流出液ストリームは生成せず、したがってバイオリアクター生産物は、これらが収穫される運転終了時までバイオリアクター内に留まる。このプロセスは、細胞が生存性及び生産性を十分に有しているのであれば複数回繰り返すことができる。流加操作は、鍵となる反応速度を制御する化合物の濃度を調整するための独自の手段を提供することができ、したがって、1つ以上の供給速度を操作することによって回分操作に比し明確な利点をもたらすことができるため、流加培養は有利である。流加培養はまた、操作が単純であり、発酵を引き継ぐプロセスとして熟知されていることから大量生産にも有利である。
【0019】
「深層濾過」という語は、粒子を濾過媒体の表面のみに保持するのではなく濾過媒体全体に保持するための多孔質濾過媒体を使用する濾過を指す。この種のフィルタは、濾過すべき流体が多量の粒子を含む場合、他の種類のフィルタよりも多量の粒子を詰まらせることなく保持することができるので、慣用されている。深層濾過は、その深さを利用して、液相中の固体混入物を捕捉する複数の多孔質層を特徴とする。
【0020】
「透析濾過(diafiltration)」という語は、高純度溶液を生成することを目的として微小分子が透過可能なフィルタを使用し、成分(例えば、塩、低分子タンパク質、溶媒等の透過性分子)をその分子サイズに基づき溶液から除去又は分離することを含む希釈プロセスを指す。これは、濾過すべき溶液に液体を追加する速度と等しい速度でフィルタの透過液を除去することにより実施されることが多い(液量一定透析濾過と称される)。
【0021】
「細胞ブロス(cell broth)」という語は、培養時に細胞が懸濁している液体を指す。流加プロセスにおいて、これは、供給された培地及び栄養源並びに細胞生産物(例えば、タンパク質及び廃棄物)の両方を含有する。
【0022】
「高密度流加」(CFB)という語は、廃棄生産物の除去及び追加培地の反応容器への供給を行いながら、バイオリアクター内にタンパク質を保持する限外濾過膜(例えば、公称分画分子量50kDa又は30kDa)を備えた灌流システム(交互タンジェンシャルフロー(ATF)/タンジェンシャルフロー濾過(TFF))を使用することを指す。このプロセスではより高密度の細胞が得られ、生産物は従来の流加プロセスと同様に反応器内に保持される。
【0023】
「連続供給」という語は、培地又は培地成分を収穫期間の一部に亘りバイオリアクターに連続的に添加することを指す。
別段の定めがない限り、本明細書において使用する全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。本発明の実施又は試験には本明細書に記載するものと類似又は均等な方法及び材料を使用することができるが、好適な方法及び材料を以下に説明する。本明細書に述べるあらゆる刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。矛盾がある場合は、定義を含め、本明細書を優先することとする。加えて、材料、方法、及び実施例は例示のみを目的とするものであり、限定を目的とするものではない。
【0024】
本発明の他の特徴及び利点は以下に示す詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】高速ATF流加収穫を実施するための装置及びプロセスの略図。
図2図1の高速ATF流加収穫を実施するための方法のフローチャート。
図3図1の方法を用いた場合の生存細胞密度(VCD)及び生存率を培養時間に対しプロットしたグラフ。
図4図1の方法を用いた場合のタンパク質濃度を培養時間に対しプロットしたグラフ。
図5図1の方法を用いた場合の生細胞数の積算値(IVC)に対しプロットした総タンパク質量(cumulative protein)に基づく細胞当たりの比生産性の図。
図6】流加培養液の高速ATF収穫(rapid ATF fed-batch harvest)を実施するためのシステムの全体図。
図7】連続的透析濾過による流加培養液の高速ATF収穫を実施するための装置及びプロセスの略図。
図8図7の流加培養液の高速ATF収穫を実施するための方法のフローチャート。
図9図7の方法を用いた場合の生存細胞密度及び生存率を培養時間に対しプロットしたグラフ。
図10図7の方法を用いた場合のタンパク質濃度を培養時間に対しプロットしたグラフ。
図11図7の方法を用いた場合の生細胞数の積算値に対しプロットした総タンパク質量に基づく細胞当たりの比生産性の図。
図12】連続的透析濾過を用いて高密度流加培養液の高速ATF収穫を実施するための装置及びプロセスの実施形態の略図。
図13】連続的透析濾過を用いて高密度流加培養液の高速ATF収穫を実施するための装置及びプロセスの実施形態の略図。
図14】連続供給に続く高速収穫を用いて流加培養液の高速ATF収穫を実施するための装置及びプロセスの実施形態の略図。
図15図14の方法を用いた場合の培養時間に対する生存細胞密度及び生存率を従来の流加プロセスと比較してプロットしたグラフ。
図16図14の方法を用いた場合の生細胞数の積算値に対しプロットした総タンパク質量に基づく細胞当たりの比生産性の図。
図17図14の方法を用いた場合の培養時間に対するタンパク質濃度を従来の流加プロセスと比較してプロットしたグラフ。
図18】限外濾過膜を使用し、連続供給を行いながら高速ATF収穫を実施するための装置及びプロセスの実施形態の略図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示は流加培養液の収穫(fed-batch harvesting)を実施するための交互タンジェンシャルフロー(ATF)濾過の使用について記載するものである。流加培養液の収穫にATFを使用することにより、高速収穫手順を単一のプロセスステップで実施し、一回分を単一の一式の設備で処理し、処理された材料として単一の生産物を得ることが可能になる。このATFを用いる方法は、ATFが他のタンジェンシャルフロー濾過方法よりも高い濾過流束で生産物を収穫することができるため、成果が得られる。
【0027】
交互タンジェンシャルフロー(ATF)は、濾過及び生産物からの細胞の分離を単一のステップで実施する目的で使用されているが、通常、濾過流束の限界が1.3~5.7LMHであり、これは遅過ぎて商業的な培養液収穫の設定では利用できない。予期せぬことに、本明細書に記載するようにATF濾過をより高い流束(例えば、10LMH超)で実施すると、フィルタはファウリングすることがなく、培養液からの生産物の高速回収が短い処理時間で達成された。このATFを用いた培養液の高速収穫は、更なる処理に適した清澄な供給ストリームが単一ステップで得られる経済的に有利な方法として、商業的プロセスに有益である。
【0028】
本新規な方法はまた、従来、一般に遠心分離の後に深層濾過を行うなどの2つ以上のステップが必要であった収穫手順を簡素化する。本明細書に記載するATF収穫により、次の段階、例えばクロマトグラフィーカラムにそのまま使用することができる、他の何等かの濾過や他の清澄化ステップを必要としない、清澄度の高い、したがって下流で例えばクロマトグラフィーカラムをファウリングさせることがない、供給ストリームが得られる。
【0029】
流加培養では、生物工学的プロセスを利用して所望の生産物を生産する。培養中、細胞増殖及び生産物(例えば、タンパク質、核酸、ウイルス、及び他の有用な分子等の内因性及び組換え産物を含む任意の所望の細胞生産物を挙げることができる)の生産に必要な1種以上の栄養源を、培養中のバイオリアクターに供給又は補給する。この供給は、操作の実施中に、1種以上の供給ストリームを介して連続的又は間欠的のいずれかで実施される。操作の実施中に流出物ストリームは発生せず、したがって、バイオリアクター内の液体の体積及び細胞は操作中に増加する。バイオリアクター生産物は、これらが収穫される運転終了時まで、典型的には培養から5~30日後、例えば、7~25日後、又は10~21日後までバイオリアクター内に留まる。流加培養液の収穫はブロス中の細胞にほとんど損傷を与えることなく最適に実施され、生産物を変性することなく、クロマトグラフィーによる生産物の更なる処理に必要な清澄化された状態にする処理を、高速且つ効率的に行う。ATFはこれらの要件を独自の形で支援することができる。
【0030】
歴史的に、ATFは、細胞培地を細胞を含むバイオリアクターに連続補給する灌流培養(perfusion culture)システムに使用されており、ATFは培養液を連続的に濾過し、精密濾過膜を使用して培養廃棄物及び生産されたタンパク質を除去していた。このプロセスにより、30日間又はそれよりも長く続く培養期間の間、低い濾過流束で(1.3~5.7LMH)、タンパク質を連続的に、又は頻繁に収穫することが可能である。このプロセスは、高い細胞密度(例えば、50~150E6個/mL以上)で実施される。このようなATFで支援する灌流培養は限外濾過膜(例えば、公称孔径50kD以下)を有するATFで実施することもでき、その間、廃棄物は除去されるが、生産物は培養ブロス中に保持される。このような培養は低い濾過流束で操作される。これは、所望の細胞生産物が細胞ブロス中に保持され、生成した廃棄物が除去されるため、細胞濃度をはるかに高くすることが可能となり、したがって所望の生産物の濃度がより高くなることから、高密度流加(CFB)と呼ばれることもある。
【0031】
本方法においては、ATFを用いて低流束で連続的に細胞培養するのではなく、その替わりに、ATFプロセスを流加培養における(深層濾過及び遠心分離と置き換えて)、高速収穫設備としての役割を果たすように適用する。本新規プロセスにおいては、ATFは異なる形で使用され、細胞密度が通常7~20E6個/mLの範囲にある流加培養液又は細胞密度が50~200E6個/mL(例えば、75~120E6個/mL)の範囲にあるCFB培養液の収穫当日に、高い濾過流束で使用される。従来の灌流システムとは異なり、本新規プロセスにおいて、生産物、例えばタンパク質は、高い濾過流束で収穫される。ATFシステムを流加又はCFBバイオリアクターの高速収穫設備として用いることにより、この収穫プロセス全体に亘って高い細胞生存率及びより高い生産物品質が維持されるため、上に述べた問題を克服することができる。
【0032】
本方法を流加及び高密度流加バイオリアクターに用いるために、次に示す4種の異なる高速収穫技法として具体化した:
(1)段階的に透析濾過を用いる高速ATF収穫(従来の流加培養向け)、
(2)連続的に透析濾過を用いる高速ATF収穫(従来の流加培養向け;段階的透析濾過よりも効率的且つ消費時間が少ない)、
(3)連続的に透析濾過を用いる高速ATF収穫(高密度流加培養向け;より効率的且つ消費時間が少ない)、
(4)連続供給を行う高速ATF収穫(より効率的且つ消費時間が少なく、タンパク質収率が増加)。これらの4種の異なる方法のための手順を以下により詳細に説明する。
【0033】
段階的に透析濾過を用いる高速収穫
中空繊維多孔質膜(例えば、0.1~5.0ミクロン等の孔径の精密濾過又は750kDa MWCO等の限外濾過膜)を備えたATFシステムは、細胞のみならず、下流のプロセスを行う前に除去することが必要な他の細かい粒子も保持するため、流加培養液の収穫に非常に適している。ATFを用いることにより、遠心分離や深層濾過とは異なり無菌状態で収穫を行うことができるため、二次汚染も低減される。
【0034】
図1に示すように、ATF収穫バイオリアクターシステム200は、例えば、攪拌槽型反応器とすることができるバイオリアクター210を含む。バイオリアクター210は排出管212を介してATF220に接続している。ATFは、交互タンジェンシャルフローを用いる中空繊維濾過を利用してバイオリアクター培養液の灌流等に使用されるシステムである。ATF220は、中空繊維フィルタ224を通してATFを実施するためのダイアフラムポンプ222を制御する装置を含み(例えば、米国特許第6,544,424号明細書を参照されたい)、これらは両方共、滅菌可能な筐体226に収容されている。
【0035】
培地及び添加物は、バイオリアクター210に、弁及び/又はポンプ216により制御される供給ライン214を介して導入される。空気供給源及び制御装置240(図6)が空気管228を介してダイアフラムポンプ222に接続されている。ダイアフラムポンプ222に空気が追加されたり抜き取られたりし、それによってダイアフラムポンプ内に含まれる2つの室の容積が増加及び減少し、筐体226内の圧力が変化することにより筐体226に含まれる流体の流れが指向され、中空繊維フィルタ224の膜を通して流体が引き抜かれる。通常、中空繊維の内部は排液管212を介してバイオリアクターに流体連通しており、一方、中空繊維フィルタ224の中空繊維の外側の、筐体226の内側の室は生産物排出管230に流体連通している。生産物排出管230は、中空繊維フィルタを通して濾過された、中空繊維フィルタ224及び筐体226の間の室内に存在する生産物の引き抜きを制御する収穫ポンプ/弁232を有する。図1において、生産物排出管230はATF220の上部付近に示してあるが、生産物排出管230はATF220の中央又は底部付近に位置することもできる。或いは、筐体226に2以上の生産物排出管230が接続されていてもよい。
【0036】
ATF収穫バイオリアクターシステム200を用いて高速収穫を実施する際は、ATFを用いて生産物(例えば、タンパク質)を、10リットル/メートル/時(LMH)を超えるが30リットル/メートル/時(LMH)を超えない(例えば、12~18LMH、13~16LMH、又は15LMH)高速流束で収穫する。高速収穫は、培養容器からある体積を周期的に除去及び補充する(回分濾過)か、又は培養ブロスの液体を連続的に継ぎ足しながら濾過プロセスにより液体を収穫する(液量一定透析濾過)ことにより達成することができる。どちらの手法も以下に示す具体例で説明する。容積の約80%を除去することしかできず依然として十分な攪拌が維持されることが、殆どのバイオリアクターの設計では現実的である。したがって、一部の反応器では80%超を除去することが可能ではあるものの、大部分の一般的な、回分式又は周期的な濾過方法による80%以下の除去に関し説明する。
【0037】
600Lのバイオリアクター(図1に6Lとして示す)内の500Lの量の培地の場合、流束を15LMHとすると、本方法においては排液時間が約2.1~2.5時間となる(11mのATFフィルタサイズを想定)。このタンパク質の排出は、バイオリアクター210内の残留体積が、例えば30%に低下するまで継続するが、減らす体積は他の値でもよい(例えば、20%)。このバイオリアクター体積になった時点で収穫ポンプ232を停止する。細胞は全てバイオリアクター210内の培地ブロス中に留まり、次いで流体の量が収穫を開始した時点とほぼ等しくなるように培地ブロスが充填される。幾つかの例においては、培地ブロスは次いで、収穫開始時点の流体量よりも少なく又は多くなるように充填される。流体は、無菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は培養培地又は生存細胞のブロスと適合性のある他の流体とすることができる。収穫排出プロセスは、バイオリアクター210の体積が再び約30%に低下するまで約15LMHの流束で再開される。所望又は必要に応じてこのサイクルを3回及び4回繰り返す。バイオリアクター210内に最初に含まれていた流加培養液からタンパク質の約96%が回収され、細胞生存率は維持される。
【0038】
高速収穫手順のステップを図2に要約する。流加培養が完了したらステップ150で収穫を開始する。収穫はATFを用いて実施し、ステップ160において、細胞ブロスを流束10~30LMH(例えば、15LMH)で、バイオリアクター110内の体積が初期体積の10~50%、より好ましくは20~30%に低下するまで排出する。このバイオリアクター体積になったら収穫ポンプ232を停止し、オペレーターはステップ170において所望の収穫が達成されているか否かを判定する。これは、排出/補充サイクルの回数(例えば、2又は3回)により判定するか、又は収穫された生産物の総量若しくは総濃度を分析するなどの他の手段により判定することができる。収穫を継続する場合、ステップ180でバイオリアクター210に補充を行い、排出ステップ160に戻り、最終的にステップ190で収穫を完了する。
【0039】
連続的に透析濾過を用いる高速収穫
他の実施形態において、連続的に透析濾過を用いる高速ATF収穫手順を図7に示す。この液量一定透析濾過方法は、幾つかの例において、回分式方法よりも少ない体積でより高い収率が達成される。所与の用途に最適な方法を選択するために、両方の方法について収率及び時間に関する試験を実施することができる。連続的なATF透析濾過で収穫を行うための構成要素は図1に示したものと類似している。この手順の場合、ATF収穫が行われるバイオリアクターシステム300は排液管312を介してATF320に接続しているバイオリアクター310を含む。ATF320は、中空繊維フィルタ324を通してATFを実施するためのダイアフラムポンプ322を制御する装置を含み、これらは両方共、滅菌可能な筐体326に収容されている。
【0040】
培地及び添加物は、バイオリアクター310に、弁及び/又はポンプ316により制御される供給ライン314を介して導入される。空気供給源及び制御装置(図示せず)が空気管328を介してダイアフラムポンプ322に流体連通している。中空繊維の内側(保持液)は、バイオリアクター310に排液管312を介して接続されており、一方、中空繊維フィルタ324の中空繊維の外側の、筐体326の内側の室は生産物排出管330(透過液)に接続されている。生産物排出管330は透過液内の生産物の引き抜きを制御する回収ポンプ/弁332を有する。
【0041】
このプロセスにおいて、タンパク質は同様に、ATF320を用いて10~30LMH(一般に12~18又は15LMH)の流束で収穫され、この収穫は、濾過された流体の移送量がバイオリアクター体積の4倍になるまでの間で、バイオリアクター310の体積がこの高い流束を維持することができる体積に低下するまで行われる。体積低下率は0~100%、例えば、流加培養液は30%、又はCFB培養液は0~50%とすることができる。幾つかの例においては、体積低下率は、例えば、10~90%、例えば、25~75%、例えば、30~60%、例えば、5、10、15、20、25、30、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100%である。500Lのバイオリアクター310の場合は、11mフィルタを通して流束15LMHで30%程度まで排出する時間が約2.1時間である。
【0042】
この低下されるバイオリアクター体積(例えば、1.8L)に到達したら、透析濾過プロセスを開始し、供給ライン314を介してPBS又は培養培地(又は細胞生存率を維持するのに適した他の流体)のいずれかを、生産物排出管330(透過液)を介した流体収穫速度と等しい流量で添加することにより、バイオリアクター体積を維持する。この透析濾過プロセスは、例えば、15LMHの流束で、透過液中の所望の生産物の収率が90%を超えるまで行うことができる。したがって、この方法による高速収穫は、約6~8時間未満(例えば、6時間未満)で完了する。
【0043】
流加培養液又はCFB培養液からの生産物の高速収穫は、透過液を回収する回分洗浄又は液量一定透析濾過のいずれかを用いて達成することができる。
連続的透析濾過を用いた高速収穫手順のステップを図8に要約する。流加培養が完了したら、ステップ250で収穫を開始する。ステップ260において、ATFを用いて収穫を実施し、細胞ブロスを流束10~30LMH(例えば、15LMH)で、バイオリアクター310の体積が初期体積の約30%になるまで排出する。このバイオリアクター体積になった時点で、ステップ270において、収穫ポンプ332の流量を低下させ、一方、バイオリアクター210に流体を供給ライン214を介してほぼ同じ速度(例えば、15LMH)で添加し、透析濾過サイクルを完了させる。交換する全体積を通過させるサイクルを一巡することにより透析濾過サイクルが完了したら、(ステップ280において)収穫を継続するか(例えば、まだ90%又は96%の回収に達していない)否かを決定し、システムはステップ270に戻り、追加の透析濾過サイクルを実施する。所望の体積に到達したら、収穫操作をステップ290で完了する。
高密度流加向けの連続的な透析濾過を用いる高速収穫
他の実施形態において、高密度流加システムのための連続的な透析濾過を用いる高速ATF収穫手順を図12に示す。高密度流加(CFB)向けの高速ATF収穫プロセスは収穫当日の生存細胞密度に依存する。連続的な透析濾過を用いるATF収穫の構成要素は図1に示したものに類似している。
【0044】
図12に示すように、ATF収穫バイオリアクターシステム400は、例えば、攪拌槽型反応器とすることができるバイオリアクター410を含む。バイオリアクター410は排出管412を介してATF420に接続されている。ATFは、交互タンジェンシャルフローを利用した中空繊維濾過を用いてバイオリアクター培養液を灌流させる目的等に使用されるシステムである。ATF420は、中空繊維フィルタ424を通してATFを実施するためのダイアフラムポンプ422を制御する装置を含み(例えば、米国特許第6,544,424号明細書参照)、これらは両方共、滅菌可能な筐体426に収容されている。
【0045】
培地及び添加物は、バイオリアクター410に、弁及び/又はポンプ416により制御される供給ライン414を介して導入される。空気供給源及び制御装置(図示せず)が空気管428を介してダイアフラムポンプ422に流体連通している。ダイアフラムポンプ422には空気が追加されたり抜き取られたりし、それによってダイアフラムポンプ内に含まれる2つの室の容積が増加及び減少し、筐体426内の圧力が変化することにより筐体426に含まれる流体の流れが指向され、中空繊維フィルタ424の膜を通して流体が引き抜かれる。通常、中空繊維の内部は排液管412を介してバイオリアクターに流体連通しており、一方、中空繊維フィルタ424の中空繊維の外側の、筐体426内側の室は、生産物排出管430に流体連通している。生産物排出管430は、中空繊維フィルタを通して濾過された、中空繊維フィルタ424及び筐体426の間の室内に存在する生産物の引き抜きを制御する収穫ポンプ/弁432を有する。
【0046】
図12において、生産物排出管430はATF420上部付近に示してあるが、生産物排出管430はATF420の中央部又は底部付近に配置することもできる。或いは、筐体426に1を超える生産物排出管430が接続されていてもよい。
【0047】
高密度流加バイオリアクター410での培養が終了した収穫日における生細胞密度(VCD)が100E6個/mL未満であった場合、ATF420を用いて、流束を10~30LMH(一般に、12~18、13~16、又は15LMH)とし、濾過された流体の移送量がバイオリアクター体積の4倍に達するまでの間で、バイオリアクター410の体積がこの高い流束を維持することができる体積に低下するまで、タンパク質を収穫する。これは細胞密度に応じて0~50%、例えば50%とすることができる。
【0048】
この低下したバイオリアクター体積に到達したら、連続的透析濾過プロセスを開始し、供給ライン414を介してPBS又は培養培地のいずれか(又は細胞生存率の維持に適した他の流体)を、生産物排出管(透過液)430を介した流体収穫速度に等しい流量で添加することにより、バイオリアクター体積を維持する。この透析濾過プロセスは、透過液中の所望の生産物の収率が90%超に達するまで、例えば、流束10~30LMHで行うことができる。したがって、この方法による高速収穫は約6~8時間未満(例えば、6時間未満)で完了する。
【0049】
収穫日にVCDが既に100E6個/mLを超えていた場合は高細胞密度化しないことが推奨される。図13を参照すると、この場合、連続的な透析濾過の前にバイオリアクター体積を低下させないことになる。連続的な透析濾過プロセスを開始し、バイオリアクター体積を100%に維持するために、供給ライン414を介してPBS又は培養培地のいずれか(又は細胞生存率の維持に適した他の流体)を、生産物排出管430を介した流体収穫速度に等しい流量で添加する。この透析濾過プロセスは、流束を、例えば10~30LMHとして、透過液内の所望の生産物の収率が90%超に達するまで、例えばバイオリ
アクター体積の4倍が交換されるまで実施することができる。4倍の体積を交換した後、残留している培地は、PBS又は新鮮培地のいずれかと交換することにより収穫することになる。
【0050】
次に示す表1に、収穫当日の細胞密度(既知の測定法により決定することができる)に応じて提案されるバイオリアクター体積の低減量を示す。
【0051】
【表1】

これらの方法は、ATF機器を通常の操作よりも高い流束で操作して細胞のバイオリアクターからの収穫を操作する新規な様式を提供するものである。この独自の手法により、これまで叶わなかった高速収穫を達成することができる。このプロセスの特徴は:粒子を含まない供給ストリームと、生産物収穫を行うことができる速度とを達成することが可能な単一のプロセスステップにある。これらの特徴により、生物学的製造プロセスにおいて、処理時間が短縮されると共に、複数の処理ステップを行うよりも設備費用が削減されるため、多大な経済的利益がもたらされる。
【0052】
連続供給を用いる高速ATF収穫
収穫時間を更に短縮するために連続供給を用いた流加及び高速収穫プロセスを発展させた。この技法は、収穫時間を半分に短縮すると共に高品質の生産物を確保するために細胞生存率を維持しながらタンパク質の生産を増加させる。収穫中にタンパク質の生産を増大させることは、現行の既存の商業的に利用可能な流加培養液の収穫技法では達成することができない。この生産性の増大は、流加培養に使用されるバイオリアクター等の基本設備や細胞培養のための管理系統を変更することなく達成されるため、特に有利である。
【0053】
培養の最後の数日間に亘り流加バイオリアクターに連続低速供給を行うことにより、流加培養及び収穫プロセスに更なる時間を追加することなく、タンパク質生産量を押し上げる。これは、精密濾過膜(生産物を透過液中に回収)又は限外濾過膜(最終収穫段階で回収されることになる生産物を反応器内に保持)のいずれかを用いて達成することができる。更に、連続収穫プロセスは流加培養液の生存率も高め、これはタンパク質の品質に好ましい。このプロセスは遠心分離や深層濾過とは異なり、プロセス全体が滅菌状態で実施されるため、二次汚染も低減する。
【0054】
図14に、ATF方法を用いた連続供給及び高速収穫を行う流加に使用するための装置の略図を示す。ATF連続透析濾過を用いて収穫するための構成要素は図1に示したものに類似している。
【0055】
図14に示すように、ATF収穫バイオリアクターシステム500は、攪拌槽型反応器とすることができるバイオリアクター510を含む。バイオリアクター510は排液管512を介してATF520に接続されている。ATF520は、中空繊維フィルタ524を通してATFを実施するためのダイアフラムポンプ522を制御する装置を含み、これらは両方共、滅菌可能な筐体526に収容されている。培地及び添加物は、バイオリアクター510に、弁及び/又はポンプ516により制御される供給ライン514を介して導入される。空気供給源及び制御装置は空気管528を介してダイアフラムポンプ522に流体連通している。ダイアフラムポンプ522には空気が追加されたり抜き取られたりし、それによってダイアフラムポンプ内に含まれる2つの室の容積が増加及び減少し、筐体526内の圧力が変化することにより筐体526内に含まれる流体の流れが指向され、中空繊維フィルタ524の膜を通して流体が引き抜かれる。通常、中空繊維の内部は排液管512を介してバイオリアクターに流体連通しており、一方、中空繊維フィルタ524の中空繊維の外側の、筐体526内側の室は、生産物排出管530に流体連通している。生産物排出管530は、中空繊維フィルタを通して濾過された、中空繊維フィルタ524及び筐体526の間の室内に存在する生産物の引き抜きを制御する収穫ポンプ/弁532を有する。
【0056】
連続供給は、高速収穫を実施する前に、数日間(これは変化させることができ、例えば2~8日間)に亘って、低体積(1.0容器体積/日交換(VVD)未満、例えば0.7VVD未満)で行うことができる。好ましい一実施形態において、連続低速供給及び収穫(0.5VVDにおける)を培養の11日目から14日目まで行う。72時間後、供給及び高速収穫としての収穫を同時に行う。タンパク質は、ATF520を使用し、流束を10~30LMH(一般に、12~18、13~16、又は15LMH)として、実質的にバイオリアクターの液体部分を収穫し、バイオリアクター510の体積が20%未満(好ましくは<10%)に低下するまで収穫を行う。プロセスの高速収穫部分は、提示したサイズのバイオリアクターの場合は完了するまでに約3時間を要する。
【0057】
連続供給及び高速収穫プロセスは大きな利点を有する。本開示において先に記載した方法は、14日間の培養及び更に約6時間の収穫時間が必要であり、その結果として、最終量の回収されたタンパク質が得られる。連続供給及びATFを用いた高速収穫プロセスにおいては、通常の培養を11日間行った後、3日間連続供給/収穫(合計は同じ14日間)を行い、その後、わずか3時間で高速収穫を行う。このプロセスにより、流加培養液の生産に使用されるものと同一のバイオリアクター設備から、実質的に同じ時間で回収されるタンパク質の量が増加する。加えて、高速収穫を行う前の低体積収穫の間に行われる連続供給により、細胞生存率は維持されるか又は向上し、生産物の品質は現行の利用可能なプロセス技術よりも高くなる。
【0058】
高速収穫に関し記載した全ての実施形態において、最終生産物の貯留物は、後続の更なる処理又は生産物の貯蔵のために減量することを目的として、限外濾過膜を備えたATFを用いることにより更に濃縮することができる。
【0059】
(実施例)
以下に示す実施例において本発明を更に説明するが、これらは特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を制限するものではない。
【0060】
1)段階的な透析濾過(Step-diafiltration)を用いる高速ATF収穫-従来の流加
ATFによる段階的な透析濾過を用いる流加培養液高速収穫システムを改良するために様々な試験及び実験手順が必要であった。実施例は、高速収穫のための6Lの流加バイオリアクター(レプリジェン社(Repligen Corp.)(ウォルサム マサチューセッツ州)からのATF2システム)を含む。ATF2のデータを用いて1000L流加バイオリアクターに外挿した(レプリジェン社(Repligen Corp.)(ウォルサム マサチューセッツ州)から市販されている500L及び1000Lバイオリアクター用灌流製品であるATF10使用)。
【0061】
この方法の回収率及び総収穫時間を求めるための試験も実施した。この試験のために、LONG(登録商標)R3IGF-1に適応させたCHO DP 12細胞の凍結バイアルを解凍し、100ng/mL LONG(登録商標)R3IGF-1、200nM メトトレキサート、及び4mM Glutamax(登録商標)を添加したCD OptiCHO(登録商標)培地を含む125mLの振盪フラスコ(仕込量40mL)で増殖させた。4~6日後、バイオリアクターに播種するのに十分な数の細胞を生育させるため、細胞を再び1L(仕込量200mL)の振盪フラスコで継代培養(passaged/sub cultured)した。密度が5~7E6個/mLに達したら、細胞をSS-ATF2を取付けた3Lのバイオリアクター(仕込量1.5L)に播種した。表2及び3に流加バイオリアクターの供給計画及びバイオリアクターの条件を記載する。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】

14日目の流加培養終了後に、収穫プロセスを、ATF速度0.9LPM及び流束15LMHで開始した。各サイクル終了後(図1に示す)、バイオリアクターに滅菌PBSを充填して100%に戻し、次の収穫サイクルを同一流束で開始することにより、残存量のIgGを回収した。他のサイクル(計3サイクル)も同様にして繰り返した。
【0064】
図3に、得られた生細胞密度(VCD)及び生存率を培養時間に対しプロットしたグラフを示す。これらは流加培養の典型的なプロファイルであり、一般に、収穫日の生存率は60~85%の間で変化する。最大VCDは約14E6個/mLであり、収穫日のVCDは9~10E6個/mLであった。
【0065】
図4は、1日目から14日目までの流加培養液中のタンパク質濃度をプロットしたグラフである。収穫日のタンパク質の最終濃度は約600mg/Lであり、これを高速収穫プロセスを開始する前の初期濃度として用いた。
【0066】
図5は、細胞当たりの比生産性、又は経時的な細胞増殖、即ち、生存細胞の積算値(IVC)に対する総タンパク質量をプロットしたグラフである。IVC及び総タンパク質量のグラフが直線状であることは、細胞当たりの比生産性が流加プロセス全体を通してほぼ一定のままであったことを示唆している。
【0067】
一般に、流加において、収穫物の清澄化は遠心分離後に深層濾過を行うことにより達成される。これは、深層濾過を単独で利用すると、現状では固形分の多い供給ストリームを取り扱うことができないので(特に細胞密度が高い場合)、遠心分離と連続して用いなければならないことが多く、2段階プロセスとなる。加えて、深層濾過はスケールアップ及び差圧の監視という意味で制限がある。
【0068】
他方、ATFによる段階的な透析濾過を用いることにより、プロセス全体をより短い時間の単一ステップに統合することができる。0.2μmの精密濾過膜を備えたATFは、細胞を保持すると共に他の細かい粒子も保持し、これは下流プロセスに有利であることから、培養液の収穫に十分に適している。ATFを使用することにより収穫を滅菌状態で行うことができるので、二次汚染も低減される。市販のATFl0システムは500L及び1000LのバイオリアクターのATF灌流を行うことができ、複数台を使用して容易に2000Lバイオリアクターへのスケールアップが可能である。本明細書に記載するデータに基づけば、段階的な透析濾過を用いた高速収穫によりタンパク質回収率は95%を超えることができる。
【0069】
ATFによる段階的な透析濾過を用いた収穫プロセスに要する総時間は8時間未満である。生存率が大幅に低下していないことは、収穫プロセスの最中にタンパク質の品質が変化していないことを示唆している。各収穫サイクル後の生存率及びIgG濃度の結果を下の表4に示す。各サイクル後にバイオリアクターから試料を回収して生存率及びタンパク質濃度を測定した。1回目のサイクル後には試料を回収しなかった(ND=未測定)。
【0070】
【表4】

2台のATF10バイオリアクターを同時に運転することが可能である。ATF10はそれぞれ表面積が11mであり、これらを同時に使用すると面積は合計22mとなる。総収穫時間はATF10装置の台数を2台から3台以上に増やすことによって更に短縮することができる。
【0071】
次の表5に、ATF2~中型(表面積2.5m)のATF6~ATF10の表面積に基づき一覧にまとめる。
【0072】
【表5】

これらの実験において、6Lの流加バイオリアクターに使用したATF2は、流束15LMHとして、8時間未満で、生産物を96%の回収率で上首尾にタンパク質を収穫することが示された。表面積をATF2(0.13m)からATF10(11m)まで外挿すると、500Lの流加バイオリアクターは、本明細書に記載する方法に従い、ATF10を用いて8時間以内に高速収穫が可能であると予想される。同様に、1000Lの流加バイオリアクターは、2台のATFl0(フィルタ総表面積(SA):22m)を用いることにより8時間で収穫することができる。加えて、収穫プロセスの最中に低下する生存率が最小限に抑えられる。
【0073】
2)連続的な透析濾過を用いた高速ATF収穫-従来の流加
高速収穫技法を評価するために、ATF2に接続した2L流加バイオリアクターを使用し、スケールダウンモデル(SDM)の再循環手法を用いて、6L流加バイオリアクターを模擬した。ATF2を取付けた6Lバイオリアクターのデータを用いてATF10を使用する500L及び1000L流加バイオリアクターに外挿した。
【0074】
先に記載した方法と同様にして、この方法の回収率及び総収穫時間を求めるための試験も実施した。
図9に、得られた生細胞密度(VCD)及び生存率を培養時間に対しプロットしたグラフを示す。これらは流加培養の典型的なプロファイルであり、一般に、収穫日の生存率は60~85%の間で変化する。最大VCDは約14E6個/mLであり、収穫日のVCDは9~10E6個/mLであった。
【0075】
図10は、1日目から14日目の流加培養液中のタンパク質又は力価濃度をプロットしたグラフである。収穫日のタンパク質の最終濃度は約600mg/Lであり、これを高速収穫プロセス開始前の初期濃度として用いた。
【0076】
図11は、細胞当たりの比生産性、又は経時的な細胞増殖、即ち、生存細胞の積算値(IVC)に対する総タンパク質量をプロットしたグラフである。IVC及び総タンパク質量のグラフが直線状であることは、細胞当たりの比生産性が流加プロセス全体を通して一定のままであったことを示唆している。
【0077】
一般に、流加において、収穫物の清澄化は遠心分離の後に深層濾過を行うことにより達成される。これは、深層濾過を単独で利用すると、現状では固形分の多い供給ストリームを取り扱うことができないので(特に細胞密度が高い場合)、遠心分離と連続して用いなければならないことが多く、2段階プロセスとなる。加えて、深層濾過はスケールアップ及び差圧の監視という意味で制限がある場合もある。
【0078】
他方、ATFによる連続的な透析濾過を用いることにより、プロセス全体を、ATFによる段階的な透析濾過プロセスよりも一層短い時間の単一ステップに統合することができる。0.2μmの精密濾過膜を備えたATFは、細胞を保持すると共に他の細かい粒子も保持し、これが除去されると下流のプロセスに有利であることから、培養液の収穫に十分に適している。ATFを使用することにより収穫が滅菌状態で行われることを示すことができるので、二次汚染も低減される。本明細書に記載するシステムは、例えば、2台以上のATF10灌流製品(レプリジェン社(Repligen Corp.)、ウォルサム
マサチューセッツ州)を用いて500、1000、1500、又は2000Lにスケールアップすることができる。本明細書に記載するデータに基づけば、段階的透析濾過を用いた高速収穫によって95%を超えるタンパク質回収率を得ることができる。
【0079】
ATFによる連続的な透析濾過を用いた収穫プロセスに要する総時間は6時間未満である。生存率が大幅に低下していないことは、収穫プロセスの最中にタンパク質の品質が変化していないことを示唆している。
【0080】
各収穫サイクル後の回収率及びIgG濃度の結果を次の表6に示す。
【0081】
【表6】

連続的透析濾過を用いた高速収穫後のタンパク質の回収率を下の表7に示す。
【0082】
【表7】

ATF2及びATF6を用いた結果のデータをよりスケールの大きなATF10に外挿した。500L流加バイオリアクターは、ATF10を用いると6時間未満で収穫することができ、1000L流加バイオリアクターは2台のATFl0を用いると(総フィルタ表面積(SA):22m)6時間未満で収穫することができると求められた。表8は、ATF2~ATF6~ATF10の表面積に基づき表にまとめたものである。
【0083】
【表8】

ATF2を取付けた6Lの流加バイオリアクターでは、流束を15LMHとして、6時間未満で、回収率95%でタンパク質の収穫を上首尾に行うことが示された。
【0084】
ATF2(0.13m)の表面積からATF10(11m)に外挿すると、500L流加バイオリアクターが、ATF10を用いて6時間以内に高速収穫可能であると予想することができる。同様に、1000L流加バイオリアクターは2台のATFl0を用いて6時間で収穫することが可能である。加えて、収穫プロセスの最中に生存率の大幅な低下は見られなかった。
【0085】
3)連続的な透析濾過を用いる高速ATF収穫-高密度流加
CFBにおいては、VCDが100E6個/mL未満である場合のみバイオリアクターの体積を低下させることが推奨される。次に示す2つの表に、表面積をATF2~ATF6~ATF10へとスケールアップすることに基づき表にまとめた。最初の表である表9は、バイオリアクターの体積を連続的透析濾過プロセスを開始する前に50%に低下させることを検討している。2番目の表である表10は、バイオリアクターの体積を低下させず、すなわち最初から透析濾過を開始するものである。
【0086】
【表9】
【0087】
【表10】

4)連続供給を用いた高速ATF収穫
連続供給及び高速収穫プロセスを用いる流加を、収穫時間を更に半分に短縮し、タンパク質生産量を増加させるために発展させた。これは、高速収穫前の低体積連続供給を高流束高速収穫と併用することにより達成される。後に説明する実施例においては、現行の既存の商業的に利用可能な流加収穫技法と比較してタンパク質収率が40%増加した。このATFを用いた連続供給及び高速収穫プロセスの実施例においては、他の実施例に記載した通常の培養を11日間行った後、3日間連続供給/収穫(合計すると同じ14日間)を行い、その後、わずか3時間の高速収穫を行った。他の実施形態においては、連続供給時間の長さ又は連続供給体積を変化させて細胞生存率及び総タンパク質生産量を同様に向上させることができた。これらの試験では、再循環方法を用いる2Lバイオリアクターで6L流加バイオリアクターを模擬し、再循環手法を用いて流束を15LMHに維持した。
【0088】
図15は、連続供給及び従来の流加の両方について、生細胞密度(VCD)及び生存率の結果を培養時間に対しプロットしたグラフを示すものである。VCDも生存率も、11日目に連続供給及び収穫を開始した後に増加傾向を示した。図16は、両方のプロセスに関し、細胞当たりの比生産性、又は経時的な細胞増殖、即ち、生存細胞の積算値(IVC)に対する総タンパク質量をプロットしたグラフである。図17は、1日目から14日目までの流加培養液中のタンパク質をプロットしたグラフであり、従来の流加と比較して、11日目に開始した連続供給及び収穫後の総量が増加していることを示している。
【0089】
表11に、流加培養液の収穫培養に用いた条件を示す。
【0090】
【表11】

0~3時間後の各収穫後の生存率の結果を下の表12に示す。VCD及び生存率測定は約2.7時間後に行った。
【0091】
【表12】

次に示すスケールアップデータをフィルタの表面積(SA)に基づきATF2からATF10に外挿した。
【0092】
【表13】

連続供給及び高速収穫プロセスにより大きな利点が得られた。この実施例においては、11日間の通常の培養に続き3日間連続供給/収穫を行った後、わずか3時間のみの高速収穫を行うことにより、回収されたタンパク質の量が従来の流加プロセスと比較して1.4倍となった。現行で利用可能な技術よりも高い細胞生存率を保持しながらより多くのタンパク質を生産させることができるプロセスは、重要且つ意義のある改良プロセスである。
【0093】
図18に示すように、システム600は、連続供給を行いながら、限外濾過膜を備えたATFを使用するプロセスを実施することが可能であった。システム600の他の構成要素は先の実施形態と同一である。生産物をバイオリアクターに保持し、全ての生産物を高速収穫段階で回収した。これにより、最終生産物貯留物の体積が更に低減される一方で、依然として生産物の収率は増大する。
【0094】
次に示すスケールアップデータを外挿した。
【0095】
【表14】

他の実施形態
本発明をその詳細な説明と共に説明してきたが、ここに記載した説明は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明を例示することを目的としており、本発明の範囲を制限するものではないことが理解されよう。他の面、利点及び修正は以下に示す特許請求の範囲に包含される。
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、以下に記載する。
[項目1]
細胞培養液から細胞生産物を収穫する方法であって、
培養培地の出発体積中で、細胞を、前記細胞が前記培養培地中で収穫濃度の細胞生産物を生産するまで培養することであって、前記細胞は、交互タンジェンシャルフロー(ATF)装置に接続されたバイオリアクターを含む細胞培養システムで培養される、ことと;
前記バイオリアクターから前記ATF装置を通して培養培地を、前記培養培地の体積が所定の体積に達するまで排出することであって、前記ATF装置は、ATF排出口において細胞生産物を含む液体を提供し、及び細胞生産物の濃度が前記収穫濃度よりも低い培養培地を前記バイオリアクターに返送する、ことと;
細胞生産物を含む前記液体を前記ATF排出口から引き抜くことと;
前記バイオリアクターに液体培地を、前記出発体積と等しい、それよりも多い、又は少ない体積まで補充することと;
前記排出ステップ、引き抜きステップ、及び補充ステップの1つ以上を、前記バイオリアクターから所望量の細胞生産物が取り出されるまで繰り返すこととを含む、方法。
[項目2]
前記所定の体積は前記出発体積よりも少ない、項目1に記載の方法。
[項目3]
前記所定の体積は前記出発体積よりも多い、項目1に記載の方法。
[項目4]
前記バイオリアクターの補充に使用される前記液体培地はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
[項目5]
前記バイオリアクターの補充に使用される前記液体培地は細胞培養培地を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
[項目6]
前記補充は、前記バイオリアクターから前記培養培地を排出する速度と等しい速度で前記バイオリアクターに同時に補充することを含む、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
[項目7]
前記補充は、前記ATF排出口から前記液体を引き抜く速度と等しい速度で前記バイオリアクターに同時に補充することを含む、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
[項目8]
前記排出ステップ及び前記補充ステップは順次実施される、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
[項目9]
項目1~7のいずれか一項に記載の細胞培養液から細胞生産物を収穫する方法であって、前記補充ステップ及び排出ステップは2回以上実施される、方法。
[項目10]
前記収穫に要する時間は、500リットル~2000リットルの間の体積の場合、18時間未満である、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
[項目11]
前記収穫に要する時間は6.0時間未満である、項目10に記載の方法。
[項目12]
前記バイオリアクター体積が所定の体積に達するまでの前記排出ステップ及び前記引き抜きステップの両方の繰り返しに要する時間は2.5時間未満である、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
[項目13]
前記液体培地は、濾過流束約2~30リットル/メートル/時(LMH)で排出される、項目1~12のいずれか一項に記載の方法。
[項目14]
前記所定の体積は、前記出発体積の5%~30%である、項目1~13のいずれか一項に記載の方法。
[項目15]
前記所定の体積は、前記出発体積の10%~20%である、項目14に記載の方法。
[項目16]
前記細胞培養液は高密度流加培養液を含み、前記所定の体積は前記出発体積の約50%である、項目1~13のいずれか一項に記載の方法。
[項目17]
前記細胞培養液は高密度流加培養液を含み、前記所定の体積は前記出発体積の約100%である、項目1~13のいずれか一項に記載の方法。
[項目18]
前記所定の体積は、前記培養培地中の細胞濃度に基づき決定される、項目1~13のいずれか一項に記載の方法。
[項目19]
前記ATF装置は中空繊維フィルタを含む、項目1~18のいずれか一項に記載の方法。
[項目20]
前記フィルタは、孔径が約約0.1~5.0ミクロン又は約500~1000kDである、項目19に記載の方法。
[項目21]
前記排出ステップ、前記引き抜きステップ、及び前記補充ステップは、同時に、第1流量で行われる、項目1~20のいずれか一項に記載の方法。
[項目22]
前記排出ステップ、前記引き抜きステップ、及び前記補充ステップは、前記細胞が細胞培養プロセス完了時に収穫すべき前記細胞生産物を全て生産する前に開始される、項目1~21のいずれか一項に記載の方法。
[項目23]
前記排出ステップ、前記引き抜きステップ、及び前記補充ステップは、前記細胞が前記液体培地中で前記収穫濃度の前記細胞生産物を生産する1~8日前に開始される、項目22に記載の方法。
[項目24]
引き抜き及び補充体積は、約1.0容器体積/日交換(VVD)未満である、項目1~23のいずれか一項に記載の方法。
[項目25]
前記引き抜き及び補充体積は、約0.5VVD未満である、項目24に記載の方法。
[項目26]
最終収穫ステップは、前記第1流量とは異なる第2流量で実施される、項目21~25のいずれか一項に記載の方法。
[項目27]
最終排出ステップの結果、前記バイオリアクター内に前記出発体積の約20%未満が残留する、項目1~26のいずれか一項に記載の方法。
[項目28]
前記細胞培養液は流加細胞培養液である、項目1~27のいずれか一項に記載の方法。
[項目29]
前記細胞培養液は高密度流加細胞培養液である、項目1~27のいずれか一項に記載の方法。
[項目30]
前記細胞生産物は、モノクローナル抗体、酵素、又はウイルスである、項目1~29のいずれか一項に記載の方法。
[項目31]
システムであって、
導入口及び排出口を含むバイオリアクターと;
前記バイオリアクター導入口に接続された、細胞生産物を含まない液体培地の供給源と;
前記バイオリアクター排出口に接続された交互タンジェンシャルフロー(ATF)装置と;
前記ATF装置の排出口に接続され、前記ATF装置から流体を除去するように構成されたポンプと;
制御装置であって、
前記バイオリアクター内の培養培地の出発体積中で、細胞を、前記細胞が前記培養培地中で収穫濃度の細胞生産物を生産するまで培養することと、前記バイオリアクターから培養培地を、前記培養培地の体積が所定の体積に達するまで前記ATF装置を通して排出することであって、前記ATF装置は、前記ATF装置排出口において細胞生産物を含む液体を提供し、及び細胞生産物の濃度が前記収穫濃度よりも低い培養培地を前記バイオリアクターに返送する、ことと、前記細胞生産物を含む液体を前記ATF装置排出口から引き抜くことと、前記バイオリアクターに液体培地を、前記出発体積と等しい、それよりも多い、又はそれよりも少ない体積まで補充することと、前記排出ステップ、引き抜きステップ、及び補充ステップの1つ以上を、前記バイオリアクターから所望量の細胞生産物が取り出されるまで繰り返すことと、を行うように配置及びプログラムされた制御装置と
を含む、システム。
[項目32]
前記制御装置は、前記バイオリアクターの排出及び補充を順次行うように構成されている、項目31に記載のシステム。
[項目33]
前記ATF装置は中空繊維フィルタを含む、項目31に記載のシステム。
[項目34]
前記フィルタは、孔径が約約0.1~5.0ミクロン又は約500~1000kDである、項目33に記載のシステム。
[項目35]
前記制御装置は、前記ATF排出口から前記液体を引き抜く速度と等しい速度で前記バイオリアクターに同時に補充を行うように配置及びプログラムされている、項目31に記載のシステム。
[項目36]
前記制御装置は、前記液体培地を濾過流束約2~30リットル/メートル/時(LMH)で排出するように配置及びプログラムされている、項目31に記載のシステム。
[項目37]
前記制御装置は、前記所定の体積が前記出発体積の5%~30%となるように配置及びプログラムされている、項目31に記載のシステム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18