(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125440
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】振動可視化装置及び該装置を用いた機器診断装置、並びに振動可視化方法及び機器診断方法
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
G01H9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023023
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】516090827
【氏名又は名称】渡邊 嘉二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 嘉二郎
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BC14
2G064BC32
2G064CC02
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】少数の部品からなる単純な構造を有し、製造が容易で製造コストが安く、高い振動拡大率と高い信頼性を有する振動可視化装置を提供する。
【解決手段】対象物の振動を可視化する振動可視化装置10であって、対象物に設置されるベース部11と、ベース部11に一端12dが固定され、他端12eが自由端である板バネ12と、板バネ12の第1の面12a1に固定されたミラー13と、ベース部11に固定され、ミラー13に向けてレーザー光を送出するレーザー光源15と、を備える。板バネ12は、対象物の既知の振動周波数Fvに等しい固有振動数Fcを有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物(30)の振動を可視化する振動可視化装置(10)であって、
前記対象物に設置されるベース部(11)と、
前記ベース部に一端が固定され、他端が自由端である板バネ(12)と、
前記板バネの第1の面に固定されたミラー(13)と、
前記ベース部に固定され、前記ミラーに向けてレーザー光を送出するレーザー光源(15)と、を備え、
前記板バネは、前記対象物の既知の振動周波数(Fv)に等しい固有振動数(Fc)を有していることを特徴とする振動可視化装置。
【請求項2】
前記板バネの第2の面に位置調整可能に取り付けられ、前記板バネの固有振動数を調整するウェート(14)をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の振動可視化装置。
【請求項3】
非磁性金属製の板状部材(18)を有し、前記板状部材の一面部(18a1)が前記ウェートから一定の間隔(d)をおいて配置されるように一端(18d)が前記ベース部に固定されたダンパー(180)をさらに備え、
前記ウェートが磁石(14)を含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の振動可視化装置。
【請求項4】
前記板バネの前記第2の面における前記ウェートの位置と前記板バネの前記固有振動数との関係を示すスケール(19)が、前記板バネの前記第2の面に設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の振動可視化装置。
【請求項5】
前記ミラーから反射されたレーザー光が通る開口(21)が形成された、前記振動可視化装置の構成要素を収容する筐体(20)をさらに備え、
前記ベース部は、前記対象物に取り付けられた前記筐体を介して前記対象物の振動が前記ベース部に伝わるように、前記筐体に固定されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の振動可視化装置。
【請求項6】
前記筐体を互いに平行でない2つの軸線(251、252)それぞれの周りに回転自在に支持するとともに、前記筐体を任意の回転位置で保持するホルダー(25)をさらに備え、
前記2つの軸線の一方は、前記ミラーの表面に平行でかつ前記ミラーの一端面と交差することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の振動可視化装置。
【請求項7】
対象物の振動を可視化する振動可視化装置(10A)であって、
前記対象物に設置されるベース部(11A)と、
各々、前記ベース部に一端が固定され、他端が自由端である複数の板バネ(12A)と、
前記複数の板バネの第1の面にそれぞれ固定された複数のミラー(13A)と、
前記ベース部に固定され、レーザー光を送出するレーザー光源(15A)と、
前記ベース部に固定され、前記レーザー光源により送出されたレーザー光を、前記複数のミラーの全てに向かう線レーザー光を含む平面レーザー光に変えるレンズ(90)と、を備え、
前記複数の板バネは、互いに異なる固有振動数(Fc)を有することを特徴とする振動可視化装置。
【請求項8】
前記対象物である対象機器(30)の振動から該対象機器の状態を診断する機器診断装置(1)であって、
前記請求項1~7のいずれか一項に記載の振動可視化装置(10)と、
前記振動可視化装置の外部に設けられ、前記レーザー光源から送出され前記ミラーで反射したレーザー光が投影されるスクリーン(50)と、
を備えたことを特徴とする機器診断装置。
【請求項9】
前記スクリーンには、前記レーザー光のスポットの軌跡の振幅と前記対象機器の振動速度の実効値との関連を示す目盛りが付与されていることを特徴とする請求項8に記載の機器診断装置。
【請求項10】
前記目盛りは、前記対象機器の振動シビアリティとしての振動速度の実効値と前記対象機器の状態とを関連付けるものであることを特徴とする請求項9に記載の機器診断装置。
【請求項11】
既知の振動数で振動する対象物の振動を可視化する振動可視化方法であって、
ミラーが取り付けられた板バネとウェートとからなる構造の該板バネの固有振動数を、前記対象物の既知の振動数に調整し、
前記対象物と共振している板バネに固定された前記ミラーに向けて、レーザー光を照射し、
前記ミラーから反射されたレーザー光をスクリーンに当て、レーザー光のスポットの軌跡を表示させる、
ことを含む振動可視化方法。
【請求項12】
前記対象物を前記既知の振動数で振動させ、
前記対象物の振動速度を振動センサにより測定し、
前記測定された振動速度の実効値と、前記レーザー光のスポットの軌跡の振幅との関係を取得し、
前記取得した関係に基づいて、前記スクリーン上に目盛りを付与する、
ことをさらに含む請求項11に記載の振動可視化方法。
【請求項13】
前記関係を取得するステップは、前記測定された振動速度の実効値と、前記レーザー光のスポットの軌跡の振幅値とからなる一対の値に基づいて、前記測定された振動速度の実効値と、前記レーザー光のスポットの軌跡の振幅との関係を取得することを特徴とする請求項12に記載の振動可視化方法。
【請求項14】
前記対象物である対象機器(30)の振動から該対象機器の状態を診断する機器診断方法であって、
請求項11~13のいずれか一項に記載の振動可視化方法を含み、
前記スクリーンに表示されたレーザー光のスポットの軌跡の振幅に基づいて、前記対象機器の状態を判断することをさらに含むことを特徴とする機器診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動可視化装置及び該装置を用いた機器診断装置、並びに振動可視化方法及び機器診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機器等の設備の故障診断のために、加速度センサ、速度センサ、変位センサなどの振動センサが用いられ、診断対象の機器の振動が計測されている。計測とは、ある物理量の大きさを人間により認識できる物理量に変換・拡大し、直接目視や数値で読みとることができるように定量化し表示することである。振動の計測では、具体的には、振動センサにより検知された振動加速度、振動速度、振動変位などの振動力学的量が、電気信号に変換され、増幅、AD変換、フィルタリング、スケーリング、平均化などの信号処理が施され、振動の大きさを表す数値が表示部に表示されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、対象機械に加速度センサを取り付けておき、振動加速度の計測データを信号ケーブルを介して取得して診断を行う診断システムや、振動加速度の計測データを無線送信装置により無線送信し、遠方にて該計測データを受信して診断する診断システムや、ポータブルな診断装置としての振動計も存在する。
【0004】
国際標準化機構(ISO(International Organization for Standardization))では、回転機械の振動速度の実効値に対応する振動シビアリティに基づいて、回転機械の状態を判定する方法が規定されている(ISO 10816-3)。多くの計測器メーカーが製造する振動計は、このISOの判定基準に基づいて回転機械の状態を評価するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のような従来の振動計を用いる機器診断装置では、対象機器に圧電素子や半導体加速度センサを設置して対象機器の振動速度を測定し、振動速度の実効値を振動シビアリティを定義する量として用い、対象機器の状態の評価を行っていた。例えば、振動速度の実効値を表示部に表示するとともに、ISO 10816-3に従い、振動シビアリティとしての振動速度の実効値を基に対象機器の状態を判定するようになっている。このため、従来の機器診断装置は、一般に、加速度センサから加速度の信号を取り込んで処理するプロセッサー(マイコン)、処理装置の周辺装置、電源、表示装置等を備えており、機器診断装置としてのソフトウエアの開発も必要であった。
【0007】
また、特許文献1に記載のような、半導体センサ、電子回路、プロセッサー等を用いる従来の振動計では、微小振動(微小信号)の拡大率は、ノイズ等の影響もあり、一定限度に抑制されていた。
【0008】
また、特許文献1に記載のような従来の振動計を用いる機器診断方法では、対象機器が高所や危険場所に設置されている場合に、作業者がポータブル振動計を持って安全にアクセスするのが容易ではなく、機器診断を行うのが難しかった。
【0009】
また、特許文献1に記載のような従来の振動計を用いる機器診断方法では、作業者がポータブル振動計を持参して対象機器に振動計を押し付ける必要があり、押し付けかたにより計測結果が変わり、機器診断の信頼性が低いという問題もあった。
【0010】
また、従来の無線又は有線で計測データを収集して診断する診断システムは、コストが高く、ほとんど普及していないのが実情である。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、少数の部品からなる単純な構造を有し、製造が容易で製造コストが安く、高い振動拡大率と高い信頼性を有する振動可視化装置及び該装置を用いた機器診断装置、並びに振動可視化方法及び機器診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る振動可視化装置は、対象物(30)の振動を可視化する振動可視化装置(10)であって、前記対象物に設置されるベース部(11)と、前記ベース部に一端が固定され、他端が自由端である板バネ(12)と、前記板バネの第1の面に固定されたミラー(13)と、前記ベース部に固定され、前記ミラーに向けてレーザー光を送出するレーザー光源(15)と、を備え、前記板バネは、前記対象物の既知の振動周波数(Fv)に等しい固有振動数(Fc)を有していることを特徴とする。
【0013】
上記のように、板バネは、対象物の既知の振動周波数(Fv)に等しい固有振動数(Fc)を有している。この構成により、対象物に設置されるベース部を介して、対象物の振動が板バネに伝わると、板バネは、対象物の振動に同期して固有振動数で振動(共振)するようになる。すなわち、対象物の振動は、共振する板バネの振動の振幅として拡大される(機械的拡大)。
【0014】
また、レーザー光源から送出されたレーザー光は、共振する板バネに固定されたミラーで反射され、照射角が振動するレーザー光として出力される。照射角が振動するレーザー光は、例えば、振動可視化装置の外部に配置されたスクリーンに照射され、スクリーン上にレーザースポットの軌跡として表示させることができる。すなわち、共振する板バネの振動により生成された照射角が振動するレーザー光は、振動可視化装置から一定の距離をおいて配置されたスクリーン上に投影されたレーザースポットの軌跡として拡大される(光学的拡大)。
【0015】
よって、本発明は、信号処理を行う電子回路を必要とせず、少数の部品からなる単純な構造を有しているので、製造が容易で製造コストが安く、共振による機械的拡大及び光学的拡大により、微小な振動を確実に検出して高い拡大率で可視化することができるので、信頼性の高い設備診断を行うことができる。
【0016】
また、本発明に係る振動可視化装置は、前記板バネの第2の面に位置調整可能に取り付けられ、前記板バネの固有振動数を調整するウェート(14)をさらに備える構成であってもよい。
【0017】
この構成により、本発明に係る振動可視化装置は、板バネの第2の面において、ウェートの位置(高さ)を調整することにより、対象物の振動に対して板バネを共振させることが容易になる。
【0018】
また、本発明に係る振動可視化装置は、非磁性金属製の板状部材(18)を有し、前記板状部材の一面部(18a1)が前記ウェートから一定の間隔(d)をおいて配置されるように一端(18d)が前記ベース部に固定されたダンパー(180)をさらに備え、かつ前記ウェートが磁石(14)を含む構成であってもよい。
【0019】
この構成により、本発明に係る振動可視化装置は、板バネの振動により、板バネの第2の面に取り付けられた磁石が、ダンパーの非磁性金属製の板状部材に対して近接したり離れたりするので、ダンパーの板状部材に渦電流が発生する。渦電流によるオーミックロスにより、振動エネルギーは熱エネルギーとして散逸し、振動の減衰効果を発揮する。これにより、板バネの振動が抑制される。これにより、板バネの共振時の半値幅が広がり、対象物の既知の振動数が多少ずれても板バネの共振を起こすことが可能になる。
【0020】
また、本発明に係る振動可視化装置において、前記板バネの前記第2の面における前記ウェートの位置と前記板バネの前記固有振動数との関係を示すスケール(19)が、前記板バネの前記第2の面に設けられた構成であってもよい。
【0021】
この構成により、本発明に係る振動可視化装置は、板バネの第2の面においてスケール(目盛り)に基づき磁石の位置(高さ)を調整して板バネの固有振動数を調整することが容易になる。
【0022】
また、本発明に係る振動可視化装置は、前記ミラーから反射されたレーザー光が通る開口(21)が形成された、前記振動可視化装置の構成要素を収容する筐体(20)をさらに備え、前記ベース部は、前記対象物に取り付けられた前記筐体を介して前記対象物の振動が前記ベース部に伝わるように、前記筐体に固定された構成であってもよい。
【0023】
この構成により、本発明に係る振動可視化装置は、対象物に当接させる筐体の外面を変更することにより、筐体の開口から出力されるレーザー光の方向を変えることができる。これにより、天井、床、壁、対象機器などのうち好適な場所にスクリーンを設けてレーザースポットの軌跡を表示させることが容易になる。
【0024】
また、本発明に係る振動可視化装置は、前記筐体を2つの軸線(251、252)それぞれの周りに回転自在に支持するとともに、前記筐体を任意の回転位置で保持するホルダー(25)をさらに備え、かつ、前記2つの軸線の一方は、前記ミラーの表面に平行でかつ前記ミラーの一端面と交差する構成であってもよい。
【0025】
この構成により、本発明に係る振動可視化装置は、互いに平行でない2つの軸線の一方(第1軸線)周りの筐体の回転位置を調整することにより、レーザー光の照射角度を調整することができる。これにより、光学拡大率を調整することができる。また、スクリーン上でのレーザースポットの軌跡に沿った方向における、レーザースポットの位置を調整することができる。また、2つの軸線の他方(第2軸線)周りの筐体の回転位置を調整することにより、レーザー光の方向を調整することができる。例えば、第2軸線がスクリーンに垂直な方向である場合、スクリーン上でレーザースポットの軌跡に沿った方向と交差する方向の調整が可能となる。
【0026】
また、本発明に係る振動可視化装置は、対象物の振動を可視化する振動可視化装置(10A)であって、前記対象物に設置されるベース部(11A)と、各々、前記ベース部に一端が固定され、他端が自由端である複数の板バネ(12A)と、前記複数の板バネの第1の面にそれぞれ固定された複数のミラー(13A)と、前記ベース部に固定され、レーザー光を送出するレーザー光源(15A)と、前記ベース部に固定され、前記レーザー光源により送出されたレーザー光を、前記複数のミラーの全てに向かう線レーザー光を含む平面レーザー光に変えるレンズ(90)と、を備え、前記複数の板バネは、互いに異なる固有振動数(Fc)を有することを特徴とする。
【0027】
この構成により、本発明に係る振動可視化装置は、対象物の振動の振動周波数が変動しても、変動した振動周波数と同一の、あるいは近い固有振動数を有する板バネを対象物の振動に共振させることができるので、対象物の振動を確実に検出し、拡大して可視化することができる。
【0028】
また、本発明に係る機器診断装置は、前記対象物である対象機器(30)の振動から該対象機器の状態を診断する機器診断装置(1)であって、上記いずれかに記載の振動可視化装置(10)と、前記振動可視化装置の外部に設けられ、前記レーザー光源から送出され前記ミラーで反射したレーザー光が投影されるスクリーン(50)と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
この構成により、本発明に係る機器診断装置は、対象機器の振動が、共振する板バネの振動の振幅として拡大されるとともに(機械的拡大)、共振する板バネに固定されたミラーで反射された照射角が振動するレーザー光が、振動可視化装置の外部に一定距離をおいて配置されたスクリーン上に投影されたレーザースポットの軌跡として拡大される(光学的拡大)。これにより、共振による機械的拡大及び光学的拡大により、微小な振動を確実に検出して高い拡大率で可視化することができるので、信頼性の高い設備診断を行うことができる。しかも、本発明の機器診断装置は、信号処理を行う電子回路を必要とせず、少数の部品からなる単純な構造を有しているので、製造が容易で製造コストが安い。
【0030】
また、本発明に係る機器診断装置において、前記スクリーンには、前記レーザー光のスポットの軌跡の振幅と前記対象機器の振動速度の実効値との関連を示す目盛りが付与された構成であってもよい。
【0031】
この構成により、本発明に係る機器診断装置は、スクリーンに表示されたレーザー光のスポットの軌跡の振幅から対象機器の振動速度の実効値を測定することができる。
【0032】
また、本発明に係る機器診断装置において、前記目盛りは、前記対象物の振動シビアリティを定義する量としての振動速度の実効値と前記対象機器の状態の程度とを関連付ける構成であってもよい。
【0033】
この構成により、本発明に係る振動可視化装置は、スクリーンに表示されたレーザー光のスポットの軌跡の振幅から対象機器の振動速度の実効値及び対象機器の状態を容易に把握することができる。
【0034】
また、本発明に係る振動可視化方法は、既知の振動数で振動する対象物の振動を可視化する振動可視化方法であって、ミラーが取り付けられた板バネとウェートとからなる構造の該板バネの固有振動数を、前記対象物の既知の振動数に調整し、前記対象物と共振している板バネに固定された前記ミラーに向けて、レーザー光を照射し、前記ミラーから反射されたレーザー光をスクリーンに当て、レーザー光のスポットの軌跡を表示させる、ことを含む。
【0035】
本発明に係る振動可視化方法は、対象物の振動が、共振する板バネの振動の振幅として拡大されるとともに(機械的拡大)、共振する板バネに固定されたミラーで反射された照射角が振動するレーザー光が、スクリーン上に投影されたレーザースポットの軌跡として拡大される(光学的拡大)。これにより、共振による機械的拡大及び光学的拡大により、微小な振動を確実に検出して高い拡大率で可視化することができるので、例えば設備診断において信頼性の高い診断を行うことができる。しかも、本発明の振動可視化方法は、信号処理を行う電子回路を必要とせず、少数の構成要素のみを用いて安価に実施することができる。
【0036】
また、本発明に係る振動可視化方法は、前記対象物を前記既知の振動数で振動させ、前記対象物の振動速度を振動センサにより測定し、前記測定された振動速度の実効値と、前記レーザー光のスポットの軌跡の振幅との関係を取得し、前記取得した関係に基づいて、前記スクリーン上に目盛りを付与する、ことをさらに含む構成であってもよい。
【0037】
この構成により、本発明に係る振動可視化方法は、対象物の振動速度の実効値とレーザースポット軌跡の振幅との関係を示すスクリーン上の目盛りを参照して、スクリーンに表示されたレーザー光のスポットの軌跡の振幅から対象物の振動速度の実効値を測定することができる。これにより、例えばISO 10816-3に規定された振動シビアリティとしての振動速度の実効値による対象機器の状態の評価法に基づき、対象機器の状態を容易に把握することができる。
【0038】
また、本発明に係る振動可視化方法において、前記関係を取得するステップは、前記測定された振動速度の実効値と、前記レーザー光のスポットの軌跡の振幅値とからなる一対の値に基づいて、前記測定された振動速度の実効値と、前記レーザー光のスポットの軌跡の振幅との関係を取得する構成であってもよい。
【0039】
この構成により、本発明に係る振動可視化方法は、対象物の振動速度の実効値とレーザースポット軌跡の振幅との関係を迅速に取得することができる。
【0040】
また、本発明に係る機器診断方法は、前記対象物である対象機器(30)の振動から該対象機器の状態を診断する機器診断方法であって、請求項11~13のいずれか一項に記載の振動可視化方法を含み、前記スクリーンに表示されたレーザー光のスポットの軌跡の振幅に基づいて、前記対象機器の状態を判断することをさらに含むことを特徴とする。
【0041】
この構成により、本発明に係る機器診断方法は、共振による機械的拡大及び光学的拡大により、微小な振動を確実に検出して高い拡大率で可視化することができるので、信頼性の高い設備診断を低コストで行うことができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、少数の部品からなる単純な構造を有し、製造が容易で製造コストが安く、高い振動拡大率と高い信頼性を有する振動可視化装置及び該装置を用いた機器診断装置、並びに振動可視化方法及び機器診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る振動可視化装置の概略構成を示す図である。
【
図2】筐体に収容された振動可視化装置を示す図である。
【
図3】筐体に収容された振動可視化装置の斜視図である。
【
図4】筐体を保持するホルダーの構成を示す図である。
【
図6】振動可視化装置から出力されたレーザー光を天井のスクリーンにレーザースポットの軌跡として映し出す様子を示す図である。
【
図7】振動可視化装置の板バネとダンパーの拡大図である。
【
図8】レーザー光源から送出されたレーザー光が板バネのミラーに反射してスクリーンに送られる様子を示す模式図である。
【
図10】回転機器に取り付けられた振動可視化装置から出力されたレーザー光が床のスクリーンにレーザースポットの軌跡として表示される様子を示す図である。
【
図11】振動可視化装置とスクリーンが取り付けられたボール盤を示す図である。
【
図12】振動シビアリティに基づいて機械の状態を判定する基準を示す図である。
【
図15】関数発生器の入力電圧に対するレーザースポット軌跡の振幅を示すグラフである。
【
図16】速度に対するレーザースポット軌跡の振幅を示すグラフである。
【
図19】本発明の実施形態に係る振動可視化装置を用いて行う機器診断方法の概略を示すフローチャートである。
【
図20】校正作業の概略を示すフローチャートである。
【
図21】本発明の第2の実施形態に係る振動可視化装置の概略構成を示す図である。
【
図22】レンズにより線レーザー光が平面レーザー光に変換される様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態に係る振動可視化装置、機器診断装置、及び振動可視化方法について、図面を参照して説明する。
【0045】
(第1の実施形態)
本実施形態に係る振動可視化装置10は、回転機器などの対象機器30の微小振動を可視化する装置である。
【0046】
対象機器30としては、例えば、ファン、ブロワ、ポンプ、タービン、コンプレッサ、エンジン、ボール盤、圧延機などの回転機械が挙げられるが、これらに限定されず、既知の振動周波数Fvで振動する機器であればよい。ただし、振動成分に高調波が含まれている場合は、卓越する基本波を注目する振動周波数として選択できるものとする。
【0047】
図1は、本発明の実施形態に係る振動可視化装置10の概略構成を示す図であり、
図2は、筐体20に収容された振動可視化装置10を示す図であり、
図3は、筐体20に収容された振動可視化装置10の斜視図である。
図1~
図3に示すように、本実施形態に係る振動可視化装置1は、ベース部11と、レーザー光源15と、板バネ12と、ミラー13と、磁石14と、ダンパー180と、筐体20とを備えている。以下、各構成要素について説明する。
【0048】
[ベース部]
ベース部11は、対象機器30に直接的又は筐体20を介して間接的に接触するように配置されるプラスチック又は金属製の板状の台座であり、通常は防塵のため筐体20内に収容されるようになっている。ベース部11は、固い素材からなり、例えばアクリル製であり、筐体20を介して伝わる対象機器30の振動を、板バネ12に伝えるようになっている。
【0049】
[レーザー光源]
レーザー光源15は、ミラー13に向けてレーザー光(レーザービームともいう)を送出するものであり、ベース部11に固定されたレーザー光源取付部17により、所定の位置にて所定の方向に向けて取り付けられている。本実施形態のレーザー光は、例えば波長650nmの可視光であるが、これに限定されず、例えば、レーザー光を投影するスクリーンに紫外光に反応する蛍光塗料が塗布されている場合には、紫外光であってもよい。
【0050】
レーザー光源15は、電源を筐体20内に配置してもよいし、外部から電力を供給するようにしてもよい。作動スイッチは、振動可視化装置10の外面か、あるいは振動可視化装置10に近接して設けるようにしてもよいし、無線又は有線での遠隔制御によりレーザー光源15を作動(電源ON-OFF)できるようにしてもよい。電源は、例えばDC4.5Vを供給する。
【0051】
[板バネ]
板バネ12は、金属の磁性体からなる板状部材であり、一方の端部12dがベース部11に固定され、もう一方の端部12eが自由端となっている。具体的には、板バネ12は、板バネ本体部12aと、ベース部11に固定される板バネ取付部12bとを備えており、板バネ本体部12aと板バネ取付部12bとは所定の角度β0にて接続されている。この接続部が支点12cとなり、板バネ本体部12aが振動方向70に振動(回転振動)できるようになっている。本実施形態の一方の端部ともう一方の端部は、本発明の一端と他端にそれぞれ対応する。
【0052】
板バネ12は、対象機器30の既知の振動周波数Fvに等しい固有振動数(共振周波数ともいう)Fcを有している。
【0053】
[ミラー]
ミラー13は、平面ミラーであり、レーザー光源15から送出されたレーザー光を反射できるように、板バネ12の第1の面12a1に固定されている。ミラー13は、板バネ12が支点12cを中心に回転振動する際に、板バネ12と共に振動するようになっている。
【0054】
[磁石]
磁石14は、板バネ12の第2の面12a2の任意の高さ位置に位置調整可能でかつ着脱自在に取り付けられ、板バネ12の固有振動数Fcを調整できるようになっている。磁石14は、例えば永久磁石であり、板バネ12の固有振動数Fcを調整する質量としての機能と、後で説明する非磁性金属製の板状部材18と協働して板バネ12の振動を減衰させる機能とを有している。なお、磁石14は、本発明のウェートに対応する。
【0055】
磁石14とミラー13とが取り付けられた板バネ12を、「板バネ系」と称する。板バネ12の固有振動数というときは、板バネ系120の固有振動数を意味するものとする。
【0056】
(固有振動数調整用のスケール)
図5は、
図1の板バネ12を非磁性金属製の板状部材18側から見た図である。
図5に示すように、板バネ12の第2の面12a2には、磁石14の位置と固有振動数Fcとの関係を示すスケール(目盛り)19が設けられている。磁石14には矢印14aが付けられている。スケール19及び矢印14aを参照しつつ、板バネ12における磁石14の高さ方向(Z方向)の位置を調節することにより、板バネ12の固有振動数Fcを容易に調整できるようになっている。
【0057】
[ダンパー]
ダンパー180は、板バネ12の振動が大きいとき振動を適度に減衰させるものである。ダンパー180は、非磁性金属製の板状部材18と磁石14からなり、非磁性金属製の板状部材18が磁石14から一定の間隔dをおいて配置されるように一端18dがベース部11に固定され、他端18eが自由端となっている。具体的には、非磁性金属製の板状部材18は、例えば銅板からなり、非磁性金属製の板状部材本体部18aと、ベース部11に固定される非磁性金属製の板状部材固定部18bとを備えており、非磁性金属製の板状部材本体部18aと非磁性金属製の板状部材固定部18bとは接続部18cにて所定の角度β0にて接続されている。非磁性金属製の板状部材18は、板バネ12とは異なり、ほとんど回転振動しないように構成されている。
【0058】
[筐体]
図2及び
図3に示すように、筐体20は、中空の直方体形状であり、筐体本体部20aと蓋部20bとを有している。筐体20は、(1)防塵対策のため、(2)ホルダー25と組み合わせて用いて、レーザー光の方向及び光学拡大率を調整するために用いられる。筐体20は、必要に応じて振動可視化装置10の構成要素を収容するようになっており、一面部20a1には、ミラー13から反射されたレーザー光80が通るレーザー光出口としての開口21が形成されている。開口21は、透明板22により覆われており、塵埃が開口21から筐体20内に入らないようにしている。同面部20a1又は他面部には、レーザー光源15の給電・制御用のケーブル16が通る貫通孔23も形成されている。ベース部11は、対象機器30の振動が筐体20を介してベース部11に伝わるように、筐体20にしっかり固定されている。これにより、筐体20のいずれの面部が対象機器30に当てられて設置されたとしても、対象機器30の振動が筐体20とベース部11を介して板バネ12に伝わるようになっている。筐体のサイズは、例えば、20×30×40mmである。
【0059】
図3に示すように、筐体20の対向する外面部20a2、20a3には、回転中心部24が設けられている。これら2つの回転中心部24を結んで延びる直線を第1軸線251と称する。回転中心部24は、第1軸線251が、ミラー13の表面に平行でかつミラー13の一端面13bと交差するような条件を満たす位置に設けられている。第1軸線251がミラー13の表面に平行でかつミラー13の表面に接しているかあるいは表面の近傍に存在する場合も該条件を満たすものとする。回転中心部24は、筐体20がホルダー25により回転自在に支持される構造を有している。例えば、回転中心部24が回転軸又は軸受を有し、それに対応してホルダー25が軸受又は回転軸を有するようにしてもよい。
【0060】
[ホルダー]
図4は、筐体20を保持するホルダー25の構成を示す図である。ホルダー25は、筐体20と共に用いられ、レーザー光の方向及び光学拡大率を調整するためのものである。
図4に示すように、ホルダー25は、筐体20を挟んで対向するよう設けられた2つの側板25と、両側板25の下端をつなぐ底板27とを備えている。また、ホルダー25は、側板26に調整ネジ28が設けられ、底板27に調整ネジ29が設けられている。
【0061】
ホルダー25は、筐体20を互いに平行でない第1軸線251及び第2軸線252それぞれの周りに回転自在に支持するとともに、筐体20を任意の回転位置で保持するようになっている。ここで、第1軸251は、調整ネジ28の中心を通り、ミラー13の表面に平行でかつミラー13の端面13bと交差する軸線である。第2軸線252は、調整ネジ29の中心を通り、スクリーン50に垂直な方向に延びる軸線である。
【0062】
筐体20がホルダー25に取り付けられ、ホルダー25が対象物30に固定される。筐体20は、調整ネジ28を緩めると、θxの方向に回転できるようになっており、調整ネジ28を締めると、そのときの第1軸線周りの回転位置を固定するようになっている。また、筐体20は、調整ネジ29を緩めると、θhの方向に回転できるようになっており、調整ネジ29を締めると、そのときの第2軸線周りの回転位置を固定するようになっている。
【0063】
この構成により、第1軸線251周りの筐体20の回転位置を調整することにより、レーザー光の照射角度Θ0を調整することができる。すなわち、スクリーン50上でのレーザースポットの軌跡に沿ったx軸方向における、レーザースポットの位置を調整方向102に調整することができる。光学拡大率は、後で説明する(7)式により表されるので、照射角度Θ0を調整することにより、光学拡大率を調整することができる。また、第2軸線252周りのホルダー25の回転位置を調整することにより、レーザー光の方向を調整することができる。具体的には、スクリーン50上でレーザースポットの位置を調整方向101に調整することができる。
【0064】
<動作説明>
上述のように、振動可視化装置10は、レーザー光源15、磁性体の板バネ12、板バネ12に固定されたミラー13、板バネ12に対して位置調整可能なウェートとしての磁石14、及び非磁性金属製の板状部材18例えば銅板を備えている。振動可視化装置10の筐体20の底部に固定されたベース部11には、板バネ12が固定され、板バネ12にはミラー13が固定されるとともに、磁石14が取り付けられている。この構成により、板バネ12の固定部である支点12cを中心とした片持ち梁共振(カンチレバー)系が構成され、板バネ12は支点12cを中心とした回転振動系となっている。
【0065】
板バネ12に固定されたミラー13は、対象機器30の振動(既知の振動周波数Fv)と共振し、板バネ12の支点12cを中心に回転振動する。対象機器30と共振している板バネ系120のミラー13に対して、レーザー光源15からレーザー光が照射される。回転振動の大きさに応じた方向角にてミラー13から反射されたレーザー光が、筐体20の開口21から出力レーザー光として取り出される。出力レーザー光は、振動可視化装置10の外部に配置されたスクリーン50に照射され、スクリーン50上でレーザー光のスポットの軌跡(以下、「レーザースポット軌跡」ともいう)として投影される。
【0066】
このように、板バネ系120の固有周波数Fcと対象機器30の振動周波数Fvが同じであれば、対象機器30の微小振動は、板バネ系120の回転振動として共振して機械的に大きく拡大される。そして、板バネ系120の回転振動は、光テコの原理によりレーザースポット軌跡の振幅として光学的に拡大される。具体的には、ミラー13により反射された反射レーザー光は、光テコの原理により、ミラー反射点からスクリーン50までの距離に比例し、かつ、スクリーン50へのレーザー光の照射角度の余弦の二乗に反比例して光学的に拡大される。
【0067】
(固有振動数の調整)
上述のように、板バネ12は、板バネ系120の固有振動数Fcを調整するための位置調整可能なウェートとしての磁石14を備えている。
図7に示すように、板バネ12における磁石14の高さ位置、すなわち、板バネ12の長手方向71の位置を調整することにより、板バネ系120の固有周波数Fcを連続的に調整することができる。板バネ系120の固有振動数Fcが対象機器30の既知の振動周波数Fvに一致する場所にて、磁石14を接着剤などで固定してもよい。
【0068】
板バネ系120の固有周波数FcにおけるQ値は大きく、対象機器30の振動周波数Fvが変化しない場合には、機械的共振により対象機器30の振動が板バネ系120の振動に拡大される。Q値は、磁石14と非磁性金属の板状部材である銅板18との近接距離により調節できる。近接距離を狭くすると、減衰係数は大きくなり(Q値が小さくなり、半値幅Δfは広がり)、近接距離を広くすると、減衰係数は小さくなる(Q値は大きくなり、半値幅Δfは狭まる)。
【0069】
一方、対象機器30の振動の振動周波数Fvが変動する場合には、その変動により振動の拡大率が大きく影響を受ける。この場合には、強い共振特性を犠牲にしてでも周波数変動に対応する方策が必要となる。すなわち、Q値を小さくする必要がある。Q値は、共振系の減衰係数に反比例する。よって、Q値を小さくするためには、減衰係数を大きくするとよい。
【0070】
(ダンパー動作)
減衰係数を大きくする方策として、ダンパーの利用が考えられる。接触型ダンパーは振動に影響を与えるので不向きであり、非接触ダンパーが好ましい。本実施形態では、固有振動数調整用の磁石14の位置が調整され固定されたあと、この磁石14に非接触にて隣接するように非磁性金属である銅板18が固定されている。
【0071】
上述のように、銅板18は、磁石14に接触しない場所で磁石14に近接して固定されている。磁石14からの磁界は、銅板18を貫いている。対象機器30の機械振動により板バネ12が振動し、これに伴い磁石14も振動する。これにより、板バネ12と銅板18間の相対的な振動の差による振動(板バネ12は共振し振幅が大きいが、銅板18はバネではなく振幅は小さい)によって、銅板18を貫く磁界が変化し、起電力が発生して銅板18に渦電流が発生する。渦電流による銅損(オーミックロス)により、振動エネルギーは熱エネルギーとして散逸し、振動の減衰効果を発生する。このようにして、銅板18は、板バネ12に対する非接触ダンパーとして機能する。振動の減衰により、Q値は小さくなり、それにより、共振周波数幅(半値幅Δf)が広がるので、機械振動の周波数変動に対応できるようになる。Q値を小さくすることにより損失した振動の拡大率は光学的拡大により補償できる。
【0072】
[機器診断装置]
次に、機器診断装置1について説明する。
【0073】
機器診断装置1は、対象機器30の振動から対象機器30の状態を診断するものであり、
図1に示すように、振動可視化装置10とスクリーン50とを備えている。本実施形態に係る機器診断装置1は、例えば0.0064mmの振幅の微小振動を可視化できる程度に機械的・光学的に拡大することができる。
【0074】
[スクリーン]
スクリーン50は、振動可視化装置10の外部に設けられており、レーザー光源15から送出されミラー13で反射したレーザー光80が、リサージュ図状のレーザースポット軌跡(ほとんどの場合、直線状)として投影されるようになっている。スクリーン50は、対象機器30が設置されている施設の天井、床、壁面など、あるいは対象機器30に別途設けられていてもよい。天井、床、壁面、対象機器30の筐体などそれ自身をスクリーン50として用いてもよい。振動可視化装置10の設置方向あるいはホルダー25の角度θxとθhを変えることでスクリーン面を選択できる。
【0075】
[目盛り]
図10は、回転機械である対象機器30に取り付けられた振動可視化装置10から出力されたレーザー光が床41上のスクリーン50にレーザースポット軌跡82として投影される様子を示す図である。
図10に示すように、スクリーン50には、レーザースポット軌跡82の振幅と対象機器30の振動速度の実効値との関連を示す目盛り51が付与されている。この目盛り51には、例えば、対象機器30の振動シビアリティとしての振動速度の実効値と対象機器30の状態とを関連付けるマークが付されている。「振動シビアリティ」とは、回転機械の振動の激しさを示すための実用的な指標であり、振動速度の実効値(rms値)により定義されている。
【0076】
図6は、振動可視化装置10から出力されたレーザー光を天井のスクリーン50にレーザースポット軌跡82として投影する様子を示す図である。
図6を例として、スクリーン50上でのレーザースポット軌跡82の振幅と振動速度とを関連付ける目盛り付けについて、
図8を参照して説明する。
【0077】
図8において、ミラー13上のレーザービームの反射点(ミラー反射点という)からスクリーン面50aに垂線を引き、この垂線とスクリーン面50aの交差する点を原点Oとする。ミラー反射点13aから原点Oまでの長さをLとする。対象機器30が停止し振動していない場合に、スクリーン面50a上でレーザービームが照射される照射点x
0は、原点Oから照射点x
0までの長さをx
0とする。対象機器30が稼働しているとき、振動可視化装置10の設置点での振動速度の実効値をv
1とし、このときのレーザースポット軌跡の振幅を原点Oから計測したときのスクリーン50上の長さをx
1とする。既存の振動計で計測した振動速度の実効値v
1を用いてレーザースポット軌跡が投影される直線(x軸)上に速度の目盛りをつけることができる。
【0078】
具体的には、上記の計測値L[mm]、x
0[mm]、x
1[mm]、及びv
1[mm/s]を用いて下式の校正係数cを求める。
【数1】
【0079】
対象機器30が振動しているとき、レーザースポット軌跡の振幅をxとすると、振動速度の実効値vは、次式により表される。
【数2】
【0080】
振動速度の実効値vにおけるレーザースポット軌跡の振幅xは次式で与えられる。
【数3】
【0081】
上記関係式よりレーザースポット軌跡が投影されるスクリーン50上に振動速度の実効値の大きさの目盛り付けができる。
【0082】
【0083】
光学的な拡大率は、ミラー反射点13aからスクリーン50までの距離Lに比例し、レーザー光の照射角度Θ
0=tan
-1(x
0/L)の余弦の二乗に反比例している。x
0>>Lとすると、レーザースポット軌跡は遠方にシフトするが、随意に光学的な拡大率を大きくできる。また、例えば、
図6に示す振動可視化装置10の筐体20を任意の角度で回転できるようにしておけば、この光学系の拡大率を容易に調整することができる。そのために、上述したホルダー25(方向・光学拡大率調整台)を用いることができる。
【0084】
ホルダー25は、振動可視化装置10を回転自在に支持する構造を有するものである。ホルダー25により、筐体20の角度を調整することにより、レーザー光の方向、及び光学拡大率を調整することができる。
【0085】
次に、ISO 10816-3に規定された振動シビアリティを基準とした、機械(対象機器30)の振動状態の評価区分のマーク付けについて説明する。
【0086】
図12に示すように、ISO10816-3に規定された振動シビアリティは、指定された機械の動力の大きさと設置状況に依存して、振動速度の実効値(rms(root mean square))によりA(良)、B(可)、C(警告)、D(危険)として判定される。
【0087】
本実施形態では、スクリーン50上においてレーザースポット軌跡上の直線上に、振動速度[mm/s]の単位で目盛りが付されている。機械の動力の大きさと設置状況は現場では既知であり、また速度目盛りが付されているので、上記の振動速度により定まるISO基準(例えば、A(良)、B(可)、C(警告)、D(危険)など)をこの目盛り上に併せて記しておくことができる。
【0088】
図10は、振動速度のメモリとISO基準を床上のスクリーン50に記したものである。
図10の校正係数cは、板バネ12の幅b、厚さh、長さl、ポアソン比ν、ヤング率E、ミラー反射点とスクリーンの距離L、照射角Θ
0=tan
-1(x
0/L)、及び振動回転半径rにより、次式により定まる。
【数5】
【0089】
しかし、対象機器30は剛体であり、計測点(振動可視化装置10を設置する位置)からの振動回転半径rは容易には分からない。上記の校正係数cは、力学と光学モデルから理論的に導きだしたものであり、本実施形態では、上述のように振動計の計測値を用いて校正する方法を採用している。
【0090】
[動作原理]
次に、本実施形態に係る機器診断装置1の動作原理について詳細に説明する。
【0091】
(機械的共振による拡大のモデル)
機械的共振による拡大について、次の物理モデルを用いて説明する。すなわち、板バネ12の幅をb、厚さをh、支点12cから荷重までの長さをl、板バネ素材のポアソン比をυ、ヤング率をEとする。この場合、長方形断面の片持ち板バネ12のバネ定数kは次式により表される。
【0092】
【0093】
理論的展開を単純化するために、板バネ12は剛体の棒であり、支点12cから高さlに板バネ12の重心があり、バネ定数kの剛体棒状の板バネ12が垂直に支持されているものと仮定する。質量mは重心にあるとする。減衰係数をDとする。減衰係数Dの大きさは、銅板18と磁石14の位置により定まる。支点12cの周りの板バネ12の振動角度をδθ、対象機器30の振動角度をδθvとする。この力学系の回転運動方程式は次式により与えられる。
【0094】
【0095】
(2)式の方程式は、次のように2次伝達関数で表される。
【数8】
【0096】
板バネ12の減衰係数Dは小さく、この伝達関数は2次の振動特性を示し、振動の固有振動数fr、減衰率ζ、半値幅Δf、及びQ値は、次式により与えられる。
【0097】
【0098】
板バネ12が与えられると、パラメータE、υ、b、hは一定値に定まり、固有振動数は、長さlを変えることにより、すなわち重心の位置を変えることによって調整される。板バネ12が磁性体の場合、板バネ12上に吸着させた磁石14をウェートとして暫定的に動かし調整し、調整終了後に接着剤等で固定することにより、長さlを調整し固定する。
【0099】
固有振動数での機械振動の角度δθ
vに対する角度δθのゲインGは、次式により与えられる。
【数10】
【0100】
調整可能なパラメータは長さlであり、ゲインはl1/2の値に比例する。
【0101】
(光学系による拡大)
次に、光学系による拡大について説明する。
図8は、光学的な拡大の様子を示す模式図である。水平線を基準に、レーザー光源15から照射されるレーザービームの照射角度をα
0、板バネ12の静止状態の立ち上がり角度をβ
0とする。
図8に示すように、板バネ12の角度拡大は、(5)式より共振により拡大されてGδθ
vであり、板バネ12の立ち上がり角度θ
2はβ
0-Gδθ
vとなり、レーザービームの水平面からの角度θ
3はπ+α
0-2(β
0-Gδθ
v)となる。
【0102】
スクリーン50は、レーザースポット軌跡82を投影する平坦なスクリーン面50aを有する。レーザー光を受ける限りにおいてスクリーン50の位置と角度は任意である。ミラー13の反射点からスクリーン50に垂直に引いた直線がスクリーン面50aと交差する点が原点Oであり、原点Oとミラー13の反射点の間の長さがLである。x軸は、スクリーン面50a上で、原点Oを通り、レーザースポット軌跡82に沿って延びる軸線である。振動していないときは、レーザースポットはx軸上の座標点x0にあるとする。
【0103】
図8から、角度Θ
0はΘ
0=tan
-1(x
0/L)であり、振動によって角度がΘ
0からθ
1=2Gδθ
v変化すると、レーザースポット軌跡はx軸上で次のようになる。
【数11】
【0104】
2Gδθ<<Θ
0と仮定すると、この光学系の線形範囲での倍率が得られる。(6)式をΘ
0の周りでテイラー級数展開して2Gδθ
v項まで求めると次式が得られる。
【数12】
【0105】
したがって、光学系の拡大率は次のようになる。
【数13】
【0106】
光学系の拡大率は、スクリーン50までの距離Lに線形に比例し、cos2Θ0に反比例する。
【0107】
(機械的共振と光学による全倍率及びシミュレーション)
対象機器30の振動回転半径rが既知であるとすると、対象機器30の振動δx
v=rδθ
vとなり、レーザースポット軌跡の振幅のδxと対象機器30の振動δx
vとから、拡大率は次のようになる。
【数14】
【0108】
対象機器30の振動は単一周波数で発生すると仮定し、その周波数は(4-1)式で与えられる。従って、対象機器30の振動変位からレーザースポット軌跡として与えられる速度の拡大率は次式で与えられる。
【数15】
【0109】
(7)式、(8)式、及び(9)式より、(6)式の拡大された回転角度振動2Gδθ
vは次式により与えられる。
【数16】
【0110】
(10)式の校正係数cは、板バネ系、光学系、及び対象機器30の未知な振動回転半径rのすべてを含んでいる。(10)式から(6)式は以下のように振動速度vの関数として与えられる。
【数17】
【0111】
校正係数cは未知のパラメータである振動回転半径rを含み、振動計によりこの校正係数cを求める必要がある。
【0112】
上記の理論モデルに基づいて、共振周波数での板バネ12の共振に基づく拡大率、光学拡大による拡大率、及び対象機器30の振動回転半径による全体の拡大率を、以下の条件で計算する。条件は、下記の実施例1で述べる実験条件とほぼ同じである。
【0113】
板バネ12の幅b=6×10-3m、厚さh=0.1×10-3m、支点から重心までの長さl=15×10-3m、質量m=1×10-3kg、ポアソン比υ=0.3(ばね鋼)、ヤング率E=206×109N/m2(ばね鋼)、振動回転半径r=0.1m、及び減衰係数D=1.43×10-6N・m・s/radとする。減衰係数Dは、減衰率ζ=0.01rad/sと仮定して求めた値である。
【0114】
(4-1)~(4-4)式から、共振周波数fr=50.48Hz、減衰率ζ=0.01rad/s、半値幅Δf=1Hz、及びQ値Q=50となり、(5)式から板バネ12の機械的共振に基づく拡大率は|θ/θv|=50となる。距離x0=515mm及びL=100mmの場合、(7)式から、光学的拡大によるゲイン|δx/Gδθv|=105m/radとなり、総ゲイン|δx/δxv|=52500となる。
【0115】
長さlを調整する板バネ12上の磁石14の位置を変えることにより、共振周波数を調整できる。
図13は、長さlの変化(ウェートの支点12cから高さ方向の位置)に対する共振周波数の変化を示す。このモデルでは、減衰係数Dは減衰率ζにより計算されたため、共振時のゲインは1/2σで一定である。
【0116】
(8)式と(9)式から、レーザースポット軌跡で与えられる振動変位の振幅及び振動速度の振幅は、減衰係数Dの大きさに反比例する。従って、機械的共振での拡大率を上げるためには、板バネ12が対象機器30の振動と共振するようにし、減衰係数Dを小さくすることである。
【0117】
一方、共振における半値幅は、減衰係数Dの値に比例して広くなる。例えば、上記の理論計算では半値幅はΔf=1Hzであった。共振周波数を50Hzとすると、50±0.5Hzの範囲で対象機器30の振動周波数が変わるだけで、3dB(1/√2~1)の振幅変動が起こる。機械的共振方式でゲインを高くするためには減衰係数Dを小さくしなけらばならず、一方、半値幅を広げるためには減衰係数Dを大きくしなければならない。
【0118】
確かに(4-3)式より半値幅は減衰係数Dに線形に比例する。また、(7)、(8)、(9)式より、全体の拡大率は光学的な拡大率はL/cos2(Θ0)に比例する。Θ0を90°に近づけるか長いLを選べば、全体の拡大率は随意に拡大できる。これにより半値幅を広げて周波数の変動に対処することによる拡大率の低下は、光学的な拡大により補償できる。
【0119】
(レーザースポット軌跡の変位のキャリブレーションとスケーリング)
ISO 10816-3規格によれば、振動シビアリティは振動速度実効値によって決定される。ここでは、レーザースポット軌跡の振幅と振動速度の関係、及びレーザービームが投影されるスクリーン50上に速度スケール(目盛り)を作成する方法を示す。
【0120】
(7)式で光学系の線形の拡大率を求めたとき、振動角はわずかな範囲でしか変化しないと仮定した。しかし、振動角が大きくなると、tan関数によって非線形領域に入る。ここでは、非線形範囲を含む校正方法とスケーリング方法について説明する。
図8に示すように、振動可視化装置10から照射されるレーザースポット軌跡は、工場の壁、天井、床、対象機器30の筐体などの任意の角度及び位置にある平らなスクリーン50に投影される。
【0121】
(11)式より、レーザースポット軌跡xは振動速度vの関数で与えられる。この関数は未知の校正係数cを含む。対象機器30の振動速度vは振動計で計測できる。計測された振動速度がv
1であり、x座標でのレーザースポット軌跡の計測振幅がx
1であるとする。これらの計測値v
1とx
1及び対象物が振動していないときのレーザースポットの位置x0と装置のスクリーンまでの距離の長さLを(11)式に代入することによって、校正係数cは次のように求められる。
【数18】
【0122】
レーザースポット軌跡の振幅と振動速度を同時に複数計測する場合、校正係数cはこれらのデータから平均値あるいは最小二乗法によって計算できる。推定された校正係数cを使用して、x座標上の速度vのスケール(目盛り)は、校正係数cを(12)式に代入することによって求められる。付した目盛りにより、振動速度をx座標で目視でき、ISO10816-3規格に基づいて目盛りに例えばA(青)、B(緑)、C(黄)、D(赤)と着色すれば、振動シビアリティに基づく対象機器30の状態も目視で判断できる。また、振動速度vの値が必要な場合には、計測されたレーザースポット軌跡の振幅xから、次式により計算できる。
【0123】
【実施例0124】
次に、実施例1について説明する。
【0125】
(装置構成)
図2及び
図3に示す振動可視化装置10を製作した。板バネ12は、焼き入れ鋼材からなり、ポアソン比υ=0.3、ヤング率E=206×10
9N/m
2であり、サイズと質量は、幅b=6×10
-3m、厚さh=0.1×10
-3m、最大長さl=25×10
-3mである。板バネ12、ミラー13、及び磁石14(板バネ系120)は、全体で、1.1×10
-3kgである。
【0126】
レーザー光源15(ANBE Electronics Co. Ltd、ベトナム)は、波長650nm、スポット径6mm、直径7mm銅製筐体で覆われ、クラスIIである。ミラー13の厚さは1mm、サイズは6mm×6mmで、ガラス上に蒸着されている。レーザービームの光軸の水平面に対する角度は約α0=35°であり、板バネ12の角度は約β0=70°である。最終的に、板バネ12の角度を微調整して、出口のレーザービームの光軸の水平面に対する角度γ0がγ0=84°になるようにした。
【0127】
板バネ系120の固有振動数Fcは、磁石14の高さ方向の位置を変えることで調整できる。板バネ12の固有振動数Fcは、磁石14が最下部の位置にあるとき、約60Hzであり、最上部の位置にあるとき、約30Hzであった。
図2に示す磁石14の位置では、板バネ系120の固有振動数Fcは50Hzであった。
【0128】
校正に使用した振動計(SMART SENSORモデル:AS63B、シリアル番号:4683924、製造日2020-5-30)の仕様によると、加速度範囲は0.1~199.9m/s2ピーク、速度範囲は0.1-199.9mm/s rms、変位範囲は0.001-1.999mmP-Pである。周波数40Hzでのこれらの誤差は、それぞれ-0.1m/s2、0.1mm/s、及び0.0001mmである。
【0129】
(性能試験)
図9は、テスト振動発生器66を用いて行った性能試験における装置構成の概略を示す図である。関数発生器60で生成された正弦波は、オーディオアンプ61で増幅されてボイスコイルモーター62を駆動する。この振動を試験振動とよぶ。校正用の振動計65の振動検出器64は、テスト振動発生器66に当てられている。また、振動可視化装置10は、テスト振動発生器66に取り付けられている。
【0130】
振動可視化装置10は、レーザースポット軌跡82を平らな水平面のスクリーン50に投影するようになっている。振動可視化装置10の筐体20のレーザービーム出口面(開口21のある面)は鉛直に設置され、筐体20から出力されるレーザービームの中心の高さLは、L=65mmであり、振動が発生していないときのスクリーン50上での静止スポットのx座標x0は、x
0=515mmであった。振動計65により計測した振動加速度のピーク値、振動速度、及び振動変位P-Pの値は、それぞれ0.3m/s
2P、0.6m/s rms、及び0.006mmP-Pであった。一方、レーザースポット軌跡82のx
0からx軸正方向(
図9の右方向)の振幅Amは115mmであった。よって、振動変位の倍率は115mm/(0.006mm/2)=38333(91.6dB)であった。
【0131】
(周波数応答)
図9の装置構成において、周波数応答を調べるために、試験振動を発生させた。関数発生器60の入力電圧は400mVとした。
図14は、振動周波数範囲45Hz~65Hzで固有振動数を50Hzに調整した振動可視化装置10の周波数応答を示す。周波数特性は銅板18を取り外したダンパー無しの場合と、磁石14の後方に0.4mmだけ離して銅板18を設置したダンパー有りの場合とを示している。
【0132】
図14に示すように、固有周波数50Hzにおいて銅板18がない場合の振幅は125mmであり、銅板18がある場合の振幅は29.5mmであった。すなわち、銅板18がある場合は、銅板18がない場合の25.6%であった。また、銅板18がない場合の半値幅は0.96Hz、Q値はQ=52、減衰率はζ=0.0096であった。一方、銅板18がある場合、半値幅はΔf=4Hz、Q値はQ=12.5、減衰率はζ=0.04であった。すなわち、銅板18がない場合には50±0.43Hzの周波数範囲で振幅は3dB変化するのに対して、銅板18がある場合には振幅が3dB変化する周波数帯域は50±2Hzであった。
【0133】
減衰係数Dは、磁石14と銅板18のギャップで定まるが、この値は拡大率と周波数帯域とでトレードオフとなっている。最適なギャップは、対象機器30の振動周波数の変動幅によって決められる。振動周波数の変動が小さい場合には、ギャップを広く(すなわち減衰係数Dを小さく)選び、振動周波数の変動が大きい場合には、ギャップを狭く(すなわち減衰係数Dを大きく)選ぶとよい。
【0134】
(速度の計測)
図9の装置構成において、周波数応答を調べるために、下記の条件で試験振動を発生させた。関数発生器60の周波数は50Hzに固定され、関数発生器60の入力電圧は0mVから760mVの範囲で変えた。100mVより低い電圧では、試験振動のレベルは使用した振動計65の下限よりも低く、この範囲では計測できない。
図15は、関数発生器60の入力電圧に対するレーザースポット軌跡の振幅を示す。
【0135】
図15において、グラフの勾配は電圧の増加とともに増加し線形ではない。振動計65で計測できない0~100mVの電圧範囲では、レーザースポット軌跡82の振幅は電圧の増加とともに直線的に増加する。したがって、本実施例では、従来の振動計65では計測できない微小振動を計測することができた。
【0136】
図16は、従来の振動計65で計測された振動速度とレーザースポット軌跡82の振幅との関係を示している。振動速度が0.2mm/sから1.7mm/sの範囲で変化する場合、レーザースポット軌跡82の振幅は40mmから590mmの範囲で変化し、遠くからでも目視で確認できる。速度に対するレーザースポット軌跡82の振幅の傾向は、関数発生器60への印加電圧(入力電圧)に対する傾向と同じである。
【0137】
図9において、筐体20から出力されるレーザービームの中心の高さLは、L=65mmであり、テスト振動発生器66が振動していない場合、レーザービームのスポットの変位x0は、x
0=515mmであった。また、振動速度がv
1=1.0mm/sの場合、変位はx
1=630mmであった。これらの値から(12)式により、校正係数cを求めると、c=0.0379rad/(mm/s)である。校正係数cの値を(11)式に代入すると、振動速度vがレーザースポット軌跡の振幅xから計算される。
図17は、振動計65により測定された測定速度と(13)式により計算された推定速度の関係を示している。
【0138】
推定速度は、ほぼ勾配1で計測速度に直線的に比例する。したがって、速度の値は(11)式によってレーザースポット軌跡が投影されるスクリーン上の座標によりスケーリングすることができる。
小型ファン(型式:MMF-06G24ES)(MELCO TECHNOREX CO.LTD、24VDC,0.1A)を14.7Vで駆動したときに発生する振動を振動可視化装置10により可視化した。具体的には、振動可視化装置10により、レーザービームを床に向け照射し、床をスクリーンとしてレーザースポット軌跡を投影した。小型ファンの駆動時に発生する振動の振動周波数は60Hzであり、振動計で計測した加速度のピーク値は0.4m/s2、速度の実効値は0.5mm/s、変位のピークからピークまでの値は0.003mmであった。床から振動可視化装置10の出力レーザービームの中心までの垂直距離LはL=0.82m、レーザースポット軌跡の原点x0はx0=3.45mであった。レーザースポット軌跡のレーザー光源に近い方の振幅は1.30m、レーザー光源から遠い方の振幅は2.80mであった。よって、レーザースポット軌跡の大きい方の振幅と、振動計で計測した振動変位のピークからピークまでの値の半分の大きさ(振幅)との比は、2800mm/(0.003/2)mm=1886666(125dB)であった。