(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125478
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/06 20060101AFI20220822BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20220822BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
F02D41/06
F02D45/00 368F
F01N3/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023075
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大鹿 耕太郎
【テーマコード(参考)】
3G091
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA17
3G091AB01
3G091BA07
3G091CB01
3G091DC02
3G091DC03
3G091EA34
3G091FC04
3G301HA01
3G301KA01
3G301KA05
3G301LB02
3G301MA01
3G301ND21
3G301PD02
3G301PD12
3G384AA01
3G384BA09
3G384BA31
3G384CA01
3G384CA03
3G384EA07
3G384FA37
3G384FA45
(57)【要約】
【課題】空燃比センサが正常に作動していない場合であっても、触媒が限界温度に到達することを防止できる内燃機関の制御装置を提供すること。
【解決手段】制御装置100は、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出可能か否かを判定する空燃比検出可否判定部100Cを備えている。触媒温度推定部100Aは、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できると空燃比検出可否判定部100Cが判定した場合、正常な検出状態に応じた通常推定温度を推定触媒温度として推定する。一方、触媒温度推定部100Aは、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できないと空燃比検出可否判定部100Cが判定した場合、通常推定温度よりも高くなるように補正された補正推定温度を推定触媒温度として推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートを介して燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置と、
前記燃焼室から排出された排気ガスを浄化する触媒と、
前記燃焼室から前記触媒に排気ガスを導く排気通路に設けられ、空燃比を測定する空燃比センサと、を備える内燃機関を制御し、
前記触媒の温度を推定触媒温度として推定する触媒温度推定部と、
前記空燃比センサが測定した空燃比に基づいて適切な燃料噴射量を決定する燃料噴射量決定部と、を備え、
前記燃料噴射量決定部は、前記推定触媒温度が所定の温度閾値以上の場合、前記燃料噴射量を増量する内燃機関の制御装置であって、
前記空燃比センサが空燃比を正常に検出可能か否かを判定する空燃比検出可否判定部を備え、
前記触媒温度推定部は、
前記空燃比センサが空燃比を正常に検出できると前記空燃比検出可否判定部が判定した場合、正常な検出状態に応じた通常推定温度を前記推定触媒温度として推定し、
前記空燃比センサが空燃比を正常に検出できないと前記空燃比検出可否判定部が判定した場合、前記通常推定温度よりも高くなるように補正された補正推定温度を前記推定触媒温度として推定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射量決定部が決定した前記燃料噴射量と前記燃料噴射装置が実際に噴射する前記燃料噴射量との差を学習値として記憶する学習処理を実施する学習部を有し、
前記燃料噴射量決定部は、
前記空燃比センサが空燃比を正常に検出できないと前記空燃比検出可否判定部が判定し、かつ、前記学習部による前記学習処理が完了している場合、前記学習値に基づく補正値により前記通常推定温度を補正して得た前記補正推定温度を前記推定触媒温度として推定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される内燃機関には、排気ガスを浄化する排気浄化装置としての触媒が設けられている。触媒を備えた内燃機関においては、排気ガスの温度が上昇して触媒が過昇温状態となるおそれのある場合に、触媒の浄化能力の低下等を回避するため、燃料噴射量を増量して燃料の気化潜熱により排気ガスの温度を低下させている。
【0003】
従来の内燃機関の制御装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載の内燃機関の制御装置は、点火時期の遅角要求が発生したとき、推定触媒温度が所定の閾値温度以上であるか否かを直ちに判定し、所定の閾値温度以上であると判定した場合、所定の燃料増量値によって基本燃料噴射量を増大させる燃料噴射量補正処理を行うようになっている。これにより、特許文献1に記載のものは、点火遅角後の排気ガス温度の上昇による急激な触媒の過昇温を抑制し、触媒の浄化能力の低下等を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、内燃機関が始動直後等の冷機状態である場合、空燃比センサの素子温度が低い状態等のために空燃比を正確に検出して制御できないため、空燃比がリーン状態となって排気ガスの温度が過度に上昇するおそれがある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の内燃機関の制御装置にあっては、空燃比センサが正常に作動していない場合について考慮されておらず、空燃比センサが正常に作動していない場合は、触媒の温度が限界温度を超えてしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、空燃比センサが正常に作動していない場合であっても、触媒が限界温度に到達することを防止できる内燃機関の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、吸気ポートを介して燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記燃焼室から排出された排気ガスを浄化する触媒と、前記燃焼室から前記触媒に排気ガスを導く排気通路に設けられ、空燃比を測定する空燃比センサと、を備える内燃機関を制御し、前記触媒の温度を推定触媒温度として推定する触媒温度推定部と、前記空燃比センサが測定した空燃比に基づいて適切な燃料噴射量を決定する燃料噴射量決定部と、を備え、前記燃料噴射量決定部は、前記推定触媒温度が所定の温度閾値以上の場合、前記燃料噴射量を増量する内燃機関の制御装置であって、前記空燃比センサが空燃比を正常に検出可能か否かを判定する空燃比検出可否判定部を備え、前記触媒温度推定部は、前記空燃比センサが空燃比を正常に検出できると前記空燃比検出可否判定部が判定した場合、正常な検出状態に応じた通常推定温度を前記推定触媒温度として推定し、前記空燃比センサが空燃比を正常に検出できないと前記空燃比検出可否判定部が判定した場合、前記通常推定温度よりも高くなるように補正された補正推定温度を前記推定触媒温度として推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように上記の本発明によれば、空燃比センサが正常に作動していない場合であっても、触媒が限界温度に到達することを防止できる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置を有する内燃機関の構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置の触媒過昇温防止動作を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置の触媒過昇温防止動作に係るタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置における補正値と学習値との相間を定めるマップである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る内燃機関の制御装置は、吸気ポートを介して燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置と、燃焼室から排出された排気ガスを浄化する触媒と、燃焼室から触媒に排気ガスを導く排気通路に設けられ、空燃比を測定する空燃比センサと、を備える内燃機関を制御し、触媒の温度を推定触媒温度として推定する触媒温度推定部と、空燃比センサが測定した空燃比に基づいて適切な燃料噴射量を決定する燃料噴射量決定部と、を備え、燃料噴射量決定部は、推定触媒温度が所定の温度閾値以上の場合、燃料噴射量を増量する内燃機関の制御装置であって、空燃比センサが空燃比を正常に検出可能か否かを判定する空燃比検出可否判定部を備え、触媒温度推定部は、空燃比センサが空燃比を正常に検出できると空燃比検出可否判定部が判定した場合、正常な検出状態に応じた通常推定温度を推定触媒温度として推定し、空燃比センサが空燃比を正常に検出できないと空燃比検出可否判定部が判定した場合、通常推定温度よりも高くなるように補正された補正推定温度を推定触媒温度として推定することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る内燃機関の制御装置は、空燃比センサが正常に作動していない場合であっても、触媒が限界温度に到達することを防止できる。
【実施例0012】
以下、
図1から
図4を参照して、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置について説明する。
図1において、内燃機関1は、内燃機関本体1Aと触媒27とを備えている。内燃機関本体1Aは、シリンダ5と、このシリンダ5内を上下に往復動可能なピストン6とを有している。また、内燃機関本体1Aは、シリンダ5の上部に燃焼室7を有している。
【0013】
内燃機関1は、シリンダ5内でピストン6が往復する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行う、いわゆる4サイクルのガソリンエンジンである。ピストン6は、コネクティングロッド8を介して図示しないクランクシャフトに連結されている。コネクティングロッド8は、ピストン6の往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換する。
【0014】
内燃機関本体1Aには、点火プラグ10と、吸気ポート11と、排気ポート12とが設けられている。点火プラグ10は、燃焼室7内に電極を突出させた状態で内燃機関1に設けられており、図示しないイグナイタによってその点火時期が調整される。
【0015】
吸気ポート11は、燃焼室7と後述する吸気通路16Aとを連通している。吸気ポート11には、図示しない吸気バルブが設けられている。排気ポート12は、燃焼室7と後述する排気通路26Aとを連通している。排気ポート12には、図示しない排気バルブが設けられている。吸気バルブおよび排気バルブは、クランクシャフトとの間に巻き掛けられた図示しないタイミングチェーンまたはタイミングベルトによって、クランクシャフトの回転と同期して開閉される。
【0016】
また、内燃機関本体1Aの吸気ポート11側には、吸気管16が接続されている。吸気管16の内部には、吸気ポート11と連通する吸気通路16Aが形成されている。吸気通路16Aには、電子制御式のスロットルバルブ18が設けられている。
【0017】
スロットルバルブ18は、後述する制御装置100に電気的に接続されている。スロットルバルブ18は、制御装置100からの指令信号に応じてスロットル開度が制御されることで、内燃機関1の吸入空気量を調整する。
【0018】
また、内燃機関本体1Aは、燃料噴射装置(インジェクタ)13を備えている。燃料噴射装置13は、図示しない燃料タンクから燃料ポンプによって圧送された燃料を、吸気ポート11を介して燃焼室7に噴射する。
【0019】
このように構成された内燃機関1において、吸気通路16Aを通過する空気は、スロットルバルブ18により流量が調整された後、吸気ポート11に導入される。そして、吸気ポート11に導入された空気は燃焼室7に導入され、燃料噴射装置13から噴射された燃料と混合される。
【0020】
一方、内燃機関1の排気ポート12側には、排気管26が接続されている。排気管26の内部には、排気ポート12と連通する排気通路26Aが形成されている。排気通路26Aには、触媒27が設けられている。排気通路26Aは、燃焼室7から触媒27に排気ガスを導いている。触媒27は、燃焼室7から排出された排気ガスを浄化する。
【0021】
上述のように構成された内燃機関1は、制御装置100によってその運転状態が制御されるようになっている。制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUは、RAMの一時記憶機能を利用するとともにROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うようになっている。ROMには、各種制御定数や各種マップ等が予め記憶されている。
【0022】
制御装置100の入力側には、CAN等の規格の通信ラインを介して、吸気量センサ15、空燃比センサ29等の各種センサ類が接続されている。
【0023】
吸気量センサ15は、吸気通路16Aに設けられており、吸気通路16Aを通過する空気(吸入空気)の量(吸気量)を測定する。
【0024】
空燃比センサ29は、排気通路26Aにおける触媒27よりも排気方向上流側の部位に設けられており、空気と燃料との比率である空燃比を排気ガスに基づいて測定する。空燃比センサ29は、例えば、空燃比に対してリニアな出力特性を有するセンサからなる。なお、空燃比センサ29としては、空燃比に対して理論空燃比を基準にしてリッチ側とリーン側とで出力が急変する出力特性を有する酸素センサを用いてもよい。
【0025】
一方、制御装置100の出力側には、CAN等の規格の通信ラインを介して、前述した点火プラグ10、燃料噴射装置13、スロットルバルブ18等の各種装置が接続されている。
【0026】
制御装置100は、ドライバによる操作や内燃機関1の運転状態等に基づいて、点火プラグ10、燃料噴射装置13およびスロットルバルブ18を制御する。制御装置100は、例えば、吸気量センサ15が測定した吸気量に基づいて、空燃比が理論空燃比となるような燃料噴射量を決定する。
【0027】
本実施例では、制御装置100は触媒温度推定部100Aを備えており、触媒温度推定部100Aは、触媒27の温度(以下、触媒温度ともいう)を推定触媒温度として推定する。ここで、触媒温度は排気ガス温度と概ね等しくなる。そこで、触媒温度推定部100Aは、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できる場合は、検出された空燃比に基づいて排気ガス温度を推定し、推定した排気ガス温度が触媒温度と等しいものと見なして、推定触媒温度を決定する。
【0028】
また、制御装置100は燃料噴射量決定部100Bを備えており、燃料噴射量決定部100Bは、空燃比センサ29が測定した空燃比に基づいて、吸気量センサ15が測定した吸気量に応じた適切な燃料噴射量を決定する。
【0029】
燃料噴射量決定部100Bは、推定触媒温度が所定の温度閾値以上の場合、燃料噴射量を増量する。所定の温度閾値は、触媒27の限界温度(例えば、触媒27の浄化能力が低下する温度)よりも低い温度に設定されている。燃料噴射量が増量されることにより、燃料の気化潜熱が増大し、排気ガスの温度が低下し、触媒温度が限界温度に到達することを防止できる。
【0030】
また、制御装置100は空燃比検出可否判定部100Cを備えており、空燃比検出可否判定部100Cは、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出可能か否かを判定する。ここで、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出するためには、空燃比センサ29の素子温度が適温まで上昇している必要がある。内燃機関1が始動直後の暖気完了前の状態であって、空燃比センサ29の素子温度が適温まで上昇していない場合、空燃比センサ29は空燃比を正常に検出できない。そこで、空燃比検出可否判定部100Cは、空燃比センサ29の素子温度が所定の閾値以上であることが測定または推定されている場合、または、空燃比センサ29の素子温度が所定の閾値以上に上昇していることが見込まれる程度に内燃機関1の始動から所定時間が経過している場合は、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出可能であると判定する。
【0031】
空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できると空燃比検出可否判定部100Cが判定した場合、触媒温度推定部100Aは、空燃比の正常な検出状態に応じた通常推定温度を推定触媒温度として推定する。通常推定温度とは、空燃比センサ29が検出した空燃比と実際の空燃比とが一致していることを前提として推定される触媒温度である。
【0032】
一方、空燃比センサ29の素子温度が適温まで上昇しておらず、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できない状況では、その状況で検出された空燃比は正確ではない。このため、正確ではない空燃比に基づいて燃料噴射量決定部100Bが燃料噴射量を決定した結果、実際の空燃比が理論空燃比よりもリーン(希薄)となってしまい、排気温度および触媒温度が高くなり過ぎてしまうことがある。そこで、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できないと空燃比検出可否判定部100Cが判定した場合、触媒温度推定部100Aは、通常推定温度よりも高くなるように補正された補正推定温度を推定触媒温度として推定する。言い換えれば、触媒温度推定部100Aは、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できない状況では、推定触媒温度を高めの温度に見積もっている。本実施例では、触媒温度推定部100Aは、後述する学習処理により取得した学習値に基づく補正値を、通常推定温度に加算することにより、補正推定温度を算出している。
【0033】
ここで、燃料噴射装置13の個体差により、燃料噴射量決定部100Bが決定した燃料噴射量と、燃料噴射装置13が実際に噴射する燃料噴射量とに差(ズレ)が生じる。そのため、触媒温度推定部100Aが推定した推定触媒温度と実際の触媒温度との温度差の中には、空燃比の検出誤差に起因する温度差だけでなく、燃料噴射装置13の個体差に起因する温度差も含まれている。したがって、触媒温度推定部100Aが補正推定温度の算出のために用いる補正値は、燃料噴射量の差による影響が除外された値であることが望ましい。
【0034】
そこで、制御装置100は学習部100Dを備えており、学習部100Dは学習処理を実施する。学習処理とは、燃料噴射量決定部100Bが決定した燃料噴射量と、燃料噴射装置13が実際に噴射する燃料噴射量との差を測定し、この差を学習値として記憶する処理である。学習部100Dは、内燃機関1の暖気完了後であって空燃比センサ29の素子温度が適温に上昇している状態で、学習処理を実施する。学習処理が一度完了すると、触媒温度推定部100Aは、内燃機関1の次回以降の運転時に、その学習値に基づく補正値を用いて推定触媒温度を推定する。
【0035】
触媒温度推定部100Aは、
図4に示すマップを参照して補正値を決定し、その補正値を用いて推定触媒温度を推定する。
図4に示すマップにおいて、縦軸は補正値を示しており、横軸は学習値を示している。このマップにおいて、学習値(燃料噴射量の差)が大きいほど、補正値が大きくなっている。なお、
図4のマップでは、学習値が大きくなると補正値が二次関数的に大きくなるように設定されているが、学習値が大きくなると補正値が直線的に大きくなるように設定されていてもよい。
【0036】
触媒温度推定部100Aは、この学習値に基づく補正値により補正された推定温度を推定触媒温度として推定する。これにより、触媒温度推定部100Aは、燃料噴射装置13の個体差による影響が除外された推定触媒温度を算出することができる。
【0037】
次に、
図2のフローチャートおよび
図3のタイミングチャートを参照して、制御装置100によって実行される触媒過昇温防止動作について説明する。
【0038】
図2において、まず、制御装置100は、空燃比センサ29が正常か否かを判定する(ステップS1)。このステップS1では、制御装置100の空燃比検出可否判定部100Cは、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出可能であることが測定または推定される場合、空燃比センサ29が正常であると判定する。
【0039】
ステップS1で空燃比センサ29が正常であると判定された場合(ステップS1でYES)、制御装置100の触媒温度推定部100Aは、通常推定温度を推定触媒温度Tとして推定する(ステップS2)。
【0040】
ステップS1で空燃比センサ29が正常ではないと判定された場合(ステップS1でNO)、制御装置100の学習部100Dは、燃料噴射の学習が完了しているか否かを判定する(ステップS3)。このステップS3において、学習部100Dは、内燃機関1の前回以前の運転時に学習処理が一度でも実施されており、学習値が既に記憶されている場合は、学習処理が完了していると判定する。
【0041】
ステップS3で燃料噴射の学習が完了していないと判定された場合、制御装置100の触媒温度推定部100Aは、推定触媒温度の推定に用いる補正量を、学習処理が未完了の状態に対応する規定の補正量Bに設定する(ステップS4)。この補正量Bは固定値である。
【0042】
ステップS3で燃料噴射の学習が完了していると判定された場合、制御装置100の触媒温度推定部100Aは、推定触媒温度の推定に用いる補正量を、補正量Aに設定する(ステップS5)。この補正量Aは学習値の値に応じて
図4のマップを参照して決定される変動値である。
【0043】
制御装置100の触媒温度推定部100Aは、ステップS4またはステップS5の後、通常推定温度に対して補正量Aまたは補正量Bによって補正して得た補正推定温度を、推定触媒温度Tとして推定する(ステップS6)。補正推定温度は、通常推定温度に補正量Aまたは補正量Bを加算した温度であるため、通常推定温度よりも大きな値となる。
【0044】
次いで、制御装置100は、推定触媒温度Tが所定の温度閾値を超えているか否かを判定する(ステップS7)。ここで、推定触媒温度Tである補正推定温度は、通常推定温度よりも大きな値であるため、ステップS7では、推定補正温度Tとして通常推定温度を用いた場合よりもタイミングよりも早いタイミングで、推定触媒温度Tが所定の温度閾値を超えていると判定される。また、ステップS7では、実際の触媒温度が所定の温度閾値に到達するタイミングよりも早いタイミングで、推定触媒温度Tが所定の温度閾値を超えていると判定される。
【0045】
ステップS7で推定触媒温度Tが所定の温度閾値を超えていると判定された場合(ステップS7でYES)、制御装置100の燃料噴射量決定部100Bは、燃料の噴射量を増量する(ステップS8)。これにより、燃料の気化潜熱が増大し、排気温度および触媒温度が低下する。
【0046】
ステップS7で推定触媒温度Tが所定の温度閾値を超えていないと判定された場合(ステップS7でNO)、制御装置100の燃料噴射量決定部100Bは、燃料の噴射量を維持する(ステップS9)。
【0047】
図3において、縦軸は、補正推定温度、通常推定温度、実触媒温度、空燃比センサ検出可否、燃料噴射量増量判定の結果を表しており、横軸は時間を表している。実触媒温度は、実際の触媒温度である。実触媒温度は、測定または推測された温度ではなく、制御には用いられないが、説明のために表されている。
【0048】
時刻t0では、内燃機関1が始動直後の暖気状態であり、補正推定温度、実触媒温度は上昇している。また、空燃比センサ29の温度が所定温度範囲より低いため、空燃比センサ検出可否が検出不可となっている。空燃比センサ検出可否が検出不可の状態では、推定触媒温度として補正推定温度が用いられ、補正推定温度と温度閾値とを比較して燃料噴射量の増量判定が行われる。そして、この時刻t0では、補正推定温度が温度閾値より低いため、燃料噴射量増量判定の結果が維持となっている。
【0049】
時刻t1において、補正推定温度が温度閾値以上になったことに応じて、燃料噴射量増量判定の結果が増量に設定される。そして、燃料噴射量の増量により、燃料の気化潜熱が増大することで排気温度が低下に転じ、実触媒温度も低下を開始する。
【0050】
時刻t2において、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出可能であることが測定または推定され、空燃比センサ検出可否が検出可能に変化する。また、空燃比センサ検出可否が検出可能に変化したため、時刻t2以降は、推定触媒温度として通常推定温度が用いられ、通常推定温度と温度閾値とを比較して燃料噴射量の増量判定が行われる。そして、通常推定温度が温度閾値より低いため、燃料噴射量増量判定の結果が維持に設定される。
【0051】
以上説明したように、本実施例では、制御装置100は、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出可能か否かを判定する空燃比検出可否判定部100Cを備えている。そして、触媒温度推定部100Aは、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できると空燃比検出可否判定部100Cが判定した場合、正常な検出状態に応じた通常推定温度を推定触媒温度として推定する。一方、触媒温度推定部100Aは、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できないと空燃比検出可否判定部100Cが判定した場合、通常推定温度よりも高くなるように補正された補正推定温度を推定触媒温度として推定する。
【0052】
本実施例によれば、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できないと空燃比検出可否判定部100Cが判定した場合、触媒温度推定部100Aは、通常推定温度よりも高くなるように補正された補正推定温度を推定触媒温度として推定する。そして、燃料噴射量決定部100Bは、補正推定温度が所定の温度閾値以上になった場合は、燃料噴射量を増量する。
【0053】
このため、燃料噴射量決定部100Bは、実際の触媒温度が温度閾値を超えるタイミングよりも早いタイミングで燃料噴射量を増量できる。この結果、空燃比センサ29が正常に作動していない場合であっても、触媒27が限界温度に到達することを防止できる。
【0054】
また、本実施例では、制御装置100は、燃料噴射量決定部100Bが決定した燃料噴射量と燃料噴射装置13による実際の燃料噴射量との差を学習値として記憶する学習処理を実施する学習部100Dを備えている。そして、触媒温度推定部100Aは、空燃比センサ29が空燃比を正常に検出できないと空燃比検出可否判定部100Cが判定し、かつ、学習部100Dによる学習処理が完了している場合、学習値に基づく補正値により通常推定温度を補正して得た補正推定温度を推定触媒温度として推定する。
【0055】
本実施例によれば、燃料噴射装置13の個体差により、燃料噴射量決定部100Bが決定した燃料噴射量と燃料噴射装置13による実際の燃料噴射量とに差(ズレ)が生じる場合であっても、この差を学習部100Dが学習値として記憶しておくことができる。そして、触媒温度推定部100Aは、この学習値に基づく補正値により通常推定温度を補正して得た補正推定温度を推定触媒温度として推定することができる。
【0056】
これにより、燃料噴射量決定部100Bは、燃料噴射装置13の個体差による燃料噴射量のズレに起因する影響が除外された補正推定温度を参照して、推定触媒温度が所定の温度閾値以上であるか否かを判断して、燃料噴射量を増量することができるので、触媒27が限界温度に到達することを確実に防止できる。
【0057】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。