(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012550
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 27/08 20060101AFI20220107BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B43K27/08
B43K8/02 100
B43K8/02 110
B43K8/02 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020114452
(22)【出願日】2020-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】吉川 将史
【テーマコード(参考)】
2C350
2C353
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350NA17
2C353KA04
2C353KA09
2C353KA19
(57)【要約】
【課題】使用者の満足度が高い筆記具を提供する。
【解決手段】筆記具Pは、第1線幅d1で筆記する第1筆記機能と第1線幅d1よりも幅が狭い第2線幅d2で筆記する第2筆記機能とを備える。第1筆記機能用の第1インク31と第2筆記機能用の第2インク32とが同系色であり、第2インク32の彩度が、第1インク31の彩度よりも高い。あるいは、第1筆記機能用の第1インク31と第2筆記機能用の第2インク32とが同系色であり、第2インク32の明度が、第1インク31の明度よりも低い。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1線幅で筆記する第1筆記機能と、前記第1線幅よりも幅が狭い第2線幅で筆記する第2筆記機能と、を備える筆記具であって、
前記第1筆記機能用の第1インクと前記第2筆記機能用の第2インクとが同系色であり、
前記第2インクの彩度が、前記第1インクの彩度よりも高い、
ことを特徴とする、筆記具。
【請求項2】
請求項1に記載の筆記具であって、
前記第2インクの明度が、前記第1インクの明度よりも高い、
ことを特徴とする、筆記具。
【請求項3】
第1線幅で筆記する第1筆記機能と、前記第1線幅よりも幅が狭い第2線幅で筆記する第2筆記機能と、を備える筆記具であって、
前記第1筆記機能用の第1インクと前記第2筆記機能用の第2インクとが同系色であり、
前記第2インクの明度が、前記第1インクの明度よりも低い、
ことを特徴とする、筆記具。
【請求項4】
請求項3に記載の筆記具であって、
前記第2インクの彩度が、前記第1インクの彩度よりも高い、
ことを特徴とする、筆記具。
【請求項5】
請求項3に記載の筆記具であって、
前記第2インクの彩度が、前記第1インクの彩度よりも低い、
ことを特徴とする、筆記具。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の筆記具であって、
前記第1インクが、樹脂顔料を含むものである、
ことを特徴とする、筆記具。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の筆記具であって、
前記第2インクが、染料を含むものである、
ことを特徴とする、筆記具。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の筆記具であって、
前記第1筆記機能用のペン先が軸筒の一端に設けられ、前記第2筆記機能用のペン先が前記軸筒の他端に設けられている、
ことを特徴とする、筆記具。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の筆記具であって、
前記第1インクを保持する第1インク保持部と、
前記第1インクと接触しないように前記第2インクを保持する第2インク保持部と、
を備えることを特徴とする、筆記具。
【請求項10】
請求項9に記載の筆記具であって、
前記第1インク保持部における前記第1インクの保持量が、第2インク保持部における前記第2インクの保持量よりも多い、
ことを特徴とする、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具の中には、1本で複数の筆記機能を備えた、いわゆる多機能筆記具とよばれるものがある。多機能筆記具は、筆記具の所持数を減らすことができるというメリットがあり、筆記具を持ち歩くことが多い人々を中心に、広く利用されている。
【0003】
多機能筆記具の一種として、軸筒の両端にペン先が設けられた筆記具があり、両頭筆記具などとよばれている(特許文献1~3)。例えば特許文献3の筆記具は、軸筒の一端側に、断面長方形状の太書き用のペン芯が設けられ、他端側に、断面円形状の細書き用のペン芯が設けられている。この筆記具では、これら2種類のペン芯が、共通のインク吸蔵体の両端に取り付けられており、ここから各ペン芯にインクが供給されることで、各ペン芯で筆記を行えるようになっている。
【0004】
この筆記具を用いれば、断面長方形状の太書き用のペン芯を使って、紙面上にある文字の上にインクを重ねるように筆記することで、マーキングを行うことができる。また、断面円形状の細書き用のペン芯を使って、紙面上に文字を筆記することもできる。つまり、1本の筆記具を、マーカーとして用いることもできるし、サインペンとして用いることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-215095号公報
【特許文献2】特開2017-13316号公報
【特許文献3】特開2003-136889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3の筆記具における太書き用のペン芯を使って例えばマーキングを行う場合(すなわち、筆記具をマーカーとして用いる場合)の使い勝手を考えると、マーキングされた文字の視認性が阻害されにくい、水色などといった色味のインクが好適である。ところが、このような色味のインクでは、該筆記具における細書き用のペン芯を使って文字などを筆記した場合(すなわち、筆記具をサインペンとして用いた場合)に、筆記した文字の視認性が悪くなる。視認性が悪いとは、筆記された文字などがはっきりと読み取れない状態を指している。ペン芯を太くすることで視認性を向上させることができるが、こうすると、細かい文字が筆記できなくなり、細字用のサインペンとしての機能が果たせない。
【0007】
逆に、特許文献3の筆記具をサインペンとして用いる場合の使い勝手を考えると、筆記された文字がはっきりと読み取れる、赤色などといった色味のインクが好適である。ところが、このような色味のインクでは、該筆記具をマーカーとして用いた場合に、マーキングされた文字の視認性が阻害されてしまう。すなわち、インクが重ねられた文字がはっきりと読み取れなくなってしまう。
【0008】
このように、特許文献3に開示されている筆記具では、太書き用のペン芯を使ってマーキングを行う場合の使い勝手の良さ(すなわち、マーカーとしての使い勝手の良さ)と、細書き用のペン芯を使って文字などを筆記する場合の使い勝手の良さ(すなわち、サインペンとしての使い勝手の良さ)とを実際に両立することは難しかった。このため、両方の使い勝手を求める使用者は、マーカーとして使用するための水色の筆記具と、サインペンとして使用するための赤色の筆記具とを所持していることも多く、多機能筆記具としての意義が没却されていた。また一方で、このような2本の筆記具を併用すると、ノートなどの中に、水色でマーキングされた部分と、赤色で筆記された文字とが混在することになり、色の統一感がなくなって全体的な見栄えも悪くなってしまうという問題もあった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、使用者の満足度が高い筆記具の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0011】
すなわち、本発明の第1の態様は、
第1線幅で筆記する第1筆記機能と、前記第1線幅よりも幅が狭い第2線幅で筆記する第2筆記機能と、を備える筆記具であって、
前記第1筆記機能用の第1インクと前記第2筆記機能用の第2インクとが同系色であり、
前記第2インクの彩度が、前記第1インクの彩度よりも高い、
ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第2の態様は、
第1線幅で筆記する第1筆記機能と、前記第1線幅よりも幅が狭い第2線幅で筆記する第2筆記機能と、を備える筆記具であって、
前記第1筆記機能用の第1インクと前記第2筆記機能用の第2インクとが同系色であり、
前記第2インクの明度が、前記第1インクの明度よりも低い、
ことを特徴とする。
【0013】
色は、「色相」「彩度」および「明度」の3属性から規定することができるところ、上記の各構成において、「同系色」とは、色相が同一あるいは近似している色を指す。ここで、「色相が近似する」とは、色相環において、二つの色相のなす角度が、90度以下(特に好ましくは、45度以下)であることを意味する。
【0014】
上記の通り、従来においては、マーカーなどとして用いられる太書き用のペン芯と、サインペンなどとして用いられる細書き用のペン芯に、同系色のインクが供給されると、太書き用のペン芯を用いて文字などの上からインクを重ねたときの該文字などの視認性が阻害されてしまうか、細書き用のペン芯を用いて紙面などに文字などを筆記したときの該文字などの視認性が低下してしまうかのどちらかが避けられないと考えられていた。
【0015】
しかしながら、発明者は、文字など(典型的には、白い紙面に書かれた黒い文字)の上からインクを重ねたときの該文字などの視認阻害性が高いと考えられていた色(例えば、赤色など)であっても、彩度を低くすることで、該視認阻害性を低下できることを見出した(
図3(a)参照)。また、発明者は、紙面など(典型的には、白い紙面)に文字などを筆記したときの該文字などの視認性が低いと考えられていた色(例えば、水色など)であっても、彩度を高くすることで、該視認性を向上できることを見出した(
図3(b)参照)。つまり、どのような色相の色であっても、彩度を調整することで、文字などの上からインクを重ねたときの該文字などの視認阻害性を低く抑えることが可能であり、文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高めることが可能であることを見出した。
【0016】
第1の態様に係る構成は、この新たな知見に基づいてなされたものであり、相対的に幅が広い第1線幅で筆記する第1筆記機能用の第1インクと、相対的に幅が狭い第2線幅で筆記する第2筆記機能用の第2インクとを同系色としつつ、第2インクの彩度を、第1インクの彩度よりも高くすることで、第1インクが重ねられた文字などの視認性と、第2インクで筆記された文字などの視認性とをいずれも良好なものとしつつ、第1インクで筆記された部分と第2インクで筆記された部分とがノートなどの中に混在しても統一感をもたせることを可能としている。これによって、使用者の満足度が高い筆記具が得られる。
【0017】
また、発明者は、文字などの上からインクを重ねたときの該文字などの視認阻害性が高いと考えられていた色であっても、明度を高くすることで、該視認阻害性を低下できることを見出した(
図4(a)参照)。また、発明者は、文字などを筆記したときの該文字などの視認性が低いと考えられていた色であっても、明度を低くすることで、該視認性を向上できることを見出した(
図4(b)参照)。つまり、どのような色相の色であっても、明度を調整することで、文字などの上からインクを重ねたときの該文字などの視認阻害性を低く抑えることが可能であり、文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高めることが可能であることを見出した。
【0018】
第2の態様に係る構成は、この新たな知見に基づいてなされたものであり、相対的に幅が広い第1線幅で筆記する第1筆記機能用の第1インクと、相対的に幅が狭い第2線幅で筆記する第2筆記機能用の第2インクとを同系色としつつ、第2インクの明度を、第1インクの明度よりも低くすることで、第1インクが重ねられた文字などの視認性と、第2インクで筆記された文字などの視認性とをいずれも良好なものとしつつ、第1インクで筆記された部分と第2インクで筆記された部分とがノートなどの中に混在しても統一感をもたせることを可能としている。これによって、使用者の満足度が高い筆記具が得られる。
【0019】
第1の態様に係る筆記具において、
前記第2インクの明度が、前記第1インクの明度よりも高い、
ことも好ましい。
【0020】
この構成によると、第2インクで文字などを筆記したときに、視認性があり、かつ、明るい文字などを書くことができる。
【0021】
また、第2の態様に係る筆記具において、
前記第2インクの彩度が、前記第1インクの彩度よりも高い、
ことも好ましい。
【0022】
この構成によると、第2インクで文字などを筆記したときに、視認性が高く、かつ、はっきりと目立つ文字などを書くことができる。
【0023】
あるいは、第2の態様に係る筆記具において、
前記第2インクの彩度が、前記第1インクの彩度よりも低い、
ことも好ましい。
【0024】
この構成によると、第2インクで文字などを筆記したときに、視認性はありつつも、目立ちにくい控えめな文字などを書くことができる。
【0025】
好ましくは、上記の各筆記具において、
前記第1インクが、樹脂顔料を含むものである、
ことを特徴とする。
【0026】
この構成によると、彩度が比較的低い色や、明度が比較的高い色を、容易に表現することができる。
【0027】
好ましくは、上記の各筆記具において、
前記第2インクが、染料を含むものである、
ことを特徴とする。
【0028】
この構成によると、任意の色を容易に表現することができる。
【0029】
好ましくは、上記の各筆記具において、
前記第1筆記機能用のペン先が軸筒の一端に設けられ、前記第2筆記機能用のペン先が前記軸筒の他端に設けられている、
ことを特徴とする。
【0030】
この構成によると、簡易な構成で、第1筆記機能および第2筆記機能を1本の筆記具に組み込むことができる。
【0031】
好ましくは、上記の各筆記具において、
前記第1インクを保持する第1インク保持部と、
前記第1インクと接触しないように前記第2インクを保持する第2インク保持部と、
を備えることを特徴とする。
【0032】
この構成によると、第1インクと第2インクとが混ざってしまうといった事態を回避することができる。
【0033】
好ましくは、上記の各筆記具において、
前記第1インク保持部における前記第1インクの保持量が、第2インク保持部における前記第2インクの保持量よりも多い、
ことを特徴とする。
【0034】
一般的な使用態様において、相対的に幅広である第1線幅での筆記に用いられる第1インクは、相対的に幅狭である第2線幅での筆記に用いられる第2インクよりも消費量が多くなる傾向があると考えられるところ、この構成によると、両インクがなくなるタイミングを近づけることが可能となり、使用者の満足度を高めることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、使用者の満足度が高い筆記具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施形態に係る筆記具の全体構成を示す図。
【
図3】文字などの上からインクを重ねたときの該文字などの視認阻害性とインクの彩度との関係、および、文字などを筆記したときの該文字などの視認性とインクの彩度との関係を説明するための図。
【
図4】文字などの上からインクを重ねたときの該文字などの視認阻害性とインクの明度との関係、および、文字などを筆記したときの該文字などの視認性とインクの明度との関係を説明するための図。
【
図5】第1インクの明度および彩度と、第2インクの明度および彩度との関係を説明するための図。
【
図7】変形例における、第1インクの明度および彩度と、第2インクの明度および彩度との関係を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0038】
<1.筆記具の構成>
実施形態に係る筆記具の構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る筆記具Pの全体構成を示す図である。なお、
図1においては、説明の便宜上、軸筒10の一部分が断面で示されている。
【0039】
筆記具Pは、いわゆる多機能筆記具であり、相対的に幅が広い第1線幅d1で筆記する第1筆記機能と、相対的に幅が狭い第2線幅d2で筆記する第2筆記機能とを備える(
図6参照)。第1筆記機能は、文字などの上からインクを重ねてマーキングをする使用態様(いわゆるマーカーとしての使用態様)などを実現する。一方、第2筆記機能は、文字などを筆記する使用態様(いわゆるサインペンとしての使用態様)などを実現する。つまり、この実施形態に係る筆記具Pは、マーカーとしての機能とサインペンとしての機能とを備える多機能筆記具である。
【0040】
第1線幅d1の具体的な値としては、2mm~10mm程度(特に好ましくは、3mm~6mm程度)が好適であり、第2線幅d2の具体的な値としては、0.1mm~1.5mm程度(特に好ましくは、0.2mm~0.6mm程度)が好適である。
【0041】
図1に示されるように、筆記具Pは、軸筒10の両端にペン先11,12が設けられた、いわゆる両頭筆記具とよばれる構成を有している。なお、図示は省略されているが、2個のペン先11,12の各々には、不使用時に各ペン先11,12を覆うための着脱自在のキャップが設けられる。
【0042】
軸筒10の一方の端部に設けられたペン先(第1ペン先)11は、第1筆記機能用のペン先であり、相対的に幅広である第1線幅d1での筆記に好適な形状とされている。具体的には例えば、第1ペン先11は、円柱の先端部分が、中心軸に対して逆向きに傾斜する対向面に沿って切り欠かれるとともに、先端縁11aが、中心軸と直交する面に対して傾斜した形状とされている(いわゆる、チゼル形状)。先端縁11aの幅d11aは、例えば、3mm~6mm程度とされる。このような第1ペン先11を用いると、先端縁11aの幅d11aと同程度の幅広のラインを筆記することができる。つまり、この幅d11aが適宜に調整されることで、相対的に幅広である第1線幅d1のラインを筆記できるペン先が得られる(
図6(a))。
【0043】
軸筒10の他方の端部に設けられたペン先(第2ペン先)12は、第2筆記機能用のペン先であり、相対的に幅狭である第2線幅d2での筆記に好適な形状とされており、第1ペン先11とは異なる形状を呈している。具体的には例えば、第2ペン先12は、先端に向かうにつれて縮径する略円錐形状に成形された部分(縮径部分)12aと、その縮径側の端部から延出する円柱状の部分(円柱部分)12bと、を含んで構成される。このような第2ペン先12を用いると、円柱部分12bの先端の直径d12bと同程度以下の幅狭のラインを筆記することができる。例えば、円柱部分12bの先端の直径d12bを0.4mm~1.5mm程度とすることで、0.2mm~0.6mm程度の線幅のラインを筆記することが可能となる。つまり、この直径d12bが適宜に調整されることで、相対的に幅狭である第2線幅d2のラインを筆記できるペン先が得られる(
図6(b)など)。円柱部分12bは、軸方向の全体に亘って断面直径が略一定とされており、先端が摩耗しても該先端の直径(ひいては、筆記されるラインの線幅)が変化しにくい形状となっている。
【0044】
第1ペン先11および第2ペン先12は、具体的には例えば、繊維の樹脂加工体、毛細間隙が形成された繊維加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の連通気孔の多孔質部材、プラスチック材の軸方向にインク溝を形成したプラスチック芯、各種プラスチック粉末などを焼結した焼結芯(ポーラス体)、などから形成することができる。いうまでもなく、第1ペン先11および第2ペン先12の各形成材料は互いに同じものであってもよいし、互いに異なるものであってもよい。
【0045】
軸筒10は、円筒状の部材であって、その内部に、2個のインク保持部21,22が収容されている。一方のインク保持部(第1インク保持部)21には、第1ペン先11が接続されており、この第1インク保持部21には、第1筆記機能用のインク(第1インク)31が保持される。また、他方のインク保持部(第2インク保持部)22には、第2ペン先12が接続されており、この第2インク保持部22には、第2筆記機能用のインク(第2インク)32が保持される。
【0046】
ここでは、各インク31,32が中綿に含浸されて保持される構造(いわゆる中綿式)が採用されている。すなわち、各インク保持部21,22は、各インク31,32を含浸する貯蔵体により構成されており、各インク保持部21,22に含浸されたインク31,32が毛細管現象によって各ペン先11,12に伝わることで、各ペン先11,12で筆記することが可能となっている。
【0047】
第1インク保持部21と第2インク保持部22は、ここに保持されている各インク31,32が互いに接触しないように、離間して設けられている。これによって、第1インク32と第2インク32とが混合しないようになっている。図示されるように、第1インク保持部21と第2インク保持部22の間には、仕切り20が設けられてもよい。すなわち、軸筒10の内部を仕切り20によって2つの空間に区画し、区画された各空間に各インク保持部21,22が収容されてもよい。
【0048】
また、第1インク保持部21の体積は、第2インク保持部22の体積よりも大きいものとされており、第1インク保持部21における第1インク31の保持量が、第2インク保持部22における第2インク32の保持量よりも多いものとされている。第1インク31は、相対的に幅広である第1線幅d1での筆記に用いられるので、相対的に幅狭である第2線幅d2での筆記に用いられる第2インク32よりも消費量が多くなる傾向があるところ、第1インク31の保持量を、第2インク32の保持量よりも多くしておくことで、両インク31,32がなくなるタイミングを近づけることができる。
【0049】
第1インク31および第2インク32は、いずれも、水性の溶剤(例えば、水)に着色剤を溶融させたものである。着色剤の色の組み合わせ、組み合わされた各色の着色剤の濃度、組み合わされた各色の着色剤の混合比率、などを調整することで、任意の色を表現することができる。すなわち、任意の色相、任意の明度、および、任意の彩度の組み合わせを表現することができる。
【0050】
第1インク31では、着色剤として樹脂顔料が用いられる。すなわち、第1インク31は樹脂顔料を含むものとされる。樹脂顔料は、比較的低い彩度や、比較的高い明度といった淡い色目の表現が得意であり、第1インク31の色C1(後述する)を表現するのに適している。
【0051】
一方、第2インク32では、着色剤として染料が用いられる。すなわち、第2インク32は染料を含むものとされる。染料は、比較的高い彩度や、比較的低い明度といった濃い色目を含め、幅広い色を表現することができ、発色もよい。したがって、第2インク32の色C2(後述する)を表現するのに適している。
【0052】
以上の構成を備える筆記具Pにおいては、第1ペン先11、これと接続された第1インク保持部21、これに保持された第1インク31、および、軸筒10によって、相対的に幅が広い第1線幅d1で筆記する第1筆記機能が実現される。すなわち、筆記具Pにおいては、第1ペン先11に第1インク31が供給されるようになっており、使用者は、第1ペン先11の先端縁11aの幅方向の全体を紙面などに当接させつつ筆記することで、先端縁11aの幅d11aに応じた太い線幅d1のラインを描くことができ、例えば、紙面上にある文字の上にラインを描くことで該文字の上から第1インク31を重ねてマーキングをすることができる(
図6(a))。
【0053】
また、筆記具Pにおいては、第2ペン先12、これと接続された第2インク保持部22、これに保持された第2インク32、および、軸筒10によって、相対的に幅が狭い第2線幅d2で筆記する第2筆記機能が実現される。すなわち、筆記具Pにおいては、第2ペン先12に第2インク32が供給されるようになっており、使用者は、第2ペン先12の円柱部分12bの先端を紙面などに当接させつつ筆記することで、該先端の直径d12aに応じた細い線幅d2のラインを描くことができ、例えば、第2インク32で紙面上に細かな文字などを書くことができる(
図6(b)など)。
【0054】
<2.インクの色>
第1インク31の色(第1インクカラー)C1および第2インク32の色(第2インクカラー)C2について、
図2~
図5を参照しながら説明する。
【0055】
<2-1.色相>
第1インクカラーC1と第2インクカラーC2とは、同系色の色とされる。色は例えば、色相、彩度、および、明度の3属性から規定することができるところ、ここでいう「同系色」とは、色相が、同一あるいは近似している色を指す。
【0056】
またここでいう「色相が近似する」とは、色相環において、二つの色相のなす角度が、90度以下(特に好ましくは、45度以下)であることを意味する。すなわち、
図2に示されるように、色相環HCは、色相を円環状に配置したものであり、赤、橙、黄、緑、青、紫と連続的に変化する色相が周方向に沿って配列されている。この色相環HCにおいて、二つの色相H1,H2が、色相環HCの中心から見てなす角度θが、90度以下(特に好ましくは、45度以下)である場合に、両色相H1,H2が「近似する」と定義する。
【0057】
<2-2.彩度および明度>
上記の通り、色は、色相に加えて、彩度、および、明度の属性から規定される。つまり、色相が同じであっても、彩度および明度のうちの少なくとも一方が異なれば、異なる色となる。
【0058】
発明者は、文字などの上からインクを重ねたときの該文字などの視認阻害性と、インクの彩度との関係に着目した。その結果、
図3(a)に模式的に示されるように、彩度が高いほど(すなわち、鮮やかさが増すにつれて)、該視認阻害性が高まり、彩度が低いほど、該視認阻害性が低下することを見出した。さらに、どのような色相であっても、これと同じ傾向があることもわかった。
【0059】
また、発明者は、紙面などに文字などを筆記したときの該文字などの視認性と、インクの彩度との関係にも着目した。その結果、
図3(b)に模式的に示されるように、彩度が高いほど該視認性が向上し、彩度が低いほど該視認性が低下することを見出した。さらに、どのような色相であっても、これと同じ傾向があることもわかった。なお、
図3および後に参照する各図においては、彩度を線の太さで表現しているが、いうまでもなくこれは図示の便宜上のものである。
【0060】
さらに、発明者は、文字などの上からインクを重ねたときの該文字などの視認阻害性と、インクの明度との関係にも着目した。その結果、
図4(a)に模式的に示されるように、明度が低いほど(すなわち、黒に近づくにつれて)、該視認阻害性が高まり、明度が高いほど(すなわち、白に近づくにつれて)、該視認阻害性が低下することを見出した。さらに、どのような色相であっても、これと同じ傾向があることもわかった。
【0061】
また、発明者は、紙面などに文字などを筆記したときの該文字などの視認性と、インクの明度との関係にも着目した。その結果、
図4(b)に模式的に示されるように、明度が低いほど該視認性が向上し、明度が高いほど該視認性が低下することを見出した。さらに、どのような色相であっても、これと同じ傾向があることもわかった。なお、
図4および後に参照する各図においては、明度を線の密度で表現しているが、いうまでもなくこれは図示の便宜上のものである。
【0062】
このような新たな知見に基づく、第1インクカラーC1および第2インクカラーC2の明度および彩度の規定の態様について、以下に説明する。
【0063】
第1インクカラーC1の明度および彩度と、第2インクカラーC2の明度および彩度とは、各々の間に所定の相対関係が形成されるようなものとされる。なお、以下においては、説明を分かり易くするために、まず、第1インクカラーC1の明度および彩度が決定され、これと所定の相対関係が形成されるように、第2インクカラーC2の明度および彩度が決定されるものとするが、いうまでもなく、先に第2インクカラーC2の明度および彩度が決定され、これと所定の相対関係が形成されるように、第1インクカラーC1の明度および彩度が決定されてもよい。また、第1インクカラーC1の明度および彩度と、第2インクカラーC2の明度および彩度とが並行して調整されながら、最終的に所定の相対関係が形成されるような値に各々収束されてもよい。
【0064】
ここではまず、第1インクカラーC1の明度および彩度が決定される。上記の通り、文字などの上からインクを重ねたときの該文字などの視認阻害性は、彩度および明度に依存するところ、ここでは、第1インクカラーC1の明度および彩度は、文字などの上から第1インク31を重ねたときの該文字などの視認阻害性が十分に低いものとなるような組み合わせとされる。上記の通り、彩度が低いほど視認阻害性は低くなるので、彩度が比較的低く設定される場合は、比較的低い明度が選択可能となる。また、明度が高いほど視認阻害性は低くなるので、明度が比較的高く設定される場合は、比較的高い彩度が選択可能となる。また、選択できる明度および彩度の範囲は、選択されている色相によっても変わってくる。
【0065】
続いて、第2インクカラーC2の明度および彩度が決定される。第2インクカラーC2の明度および彩度は、第1インクカラーC1の明度および彩度との間に所定の相対関係が形成されるようなものとされる。すなわち、縦軸が彩度、横軸が明度を表す平面座標を規定して(
図5)、先に決定された第1インクカラーC1の明度および彩度の組み合わせを、この平面座標の原点においたときに、第2インクカラーC2の明度および彩度の組み合わせは、第2象限Q2、あるいは、第3象限Q3にある座標値のなかから選択される。
【0066】
第2インクカラーC2の明度および彩度の組み合わせが、第2象限Q2にある座標値とされた場合と、第3象限Q3にある座標値とされた場合を比較すると、前者は、第2インクカラーC2の彩度が比較的高い(鮮やか)な傾向があり、後者は、第2インクカラーC2の彩度が比較的低い傾向がある。そこで、以下において、前者を「高彩度タイプQ2」と呼び、後者を「低彩度タイプQ3」と呼ぶ。
【0067】
(高彩度タイプQ2)
上記の通り、明度が低くなるにつれて、文字などを筆記したときの該文字などの視認性が高まるところ、高彩度タイプQ2においては、第2インクカラーC2の明度は、第1インクカラーC1の明度よりも低いものとされる。したがって、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高いものとすることができる。
【0068】
また、上記の通り、彩度が高くなるにつれて、文字などを筆記したときの該文字などの視認性が高まるところ、高彩度タイプQ2においては、第2インクカラーC2の彩度は、第1インクカラーC1の彩度よりも高いものとされる。したがって、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性を十分に高いものとすることができる。
【0069】
つまり、第2インクカラーC2の明度が第1インクカラーC1の明度よりも低く、かつ、第2インクカラーC2の彩度が第1インクカラーC1の彩度よりも高いものとされることで、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高いものとしつつ、文字などの上から第1インク31を重ねたときの該文字などの視認阻害性を低いものとする(すなわち、第1インク31が重ねられた文字などの視認性を高いものとする)ことができる。
【0070】
また、彩度が高くなるにつれて、色の鮮やかさが増すので、高彩度タイプQ2においては、第2インク32で文字などを筆記したときに、該文字などが鮮やかに筆記される。このような機能は、例えば、鉛筆やシャープペンシルで筆記されている文字よりもはっきりと目立つような文字を書きたい、という使用場面で有用である。
【0071】
(低彩度タイプQ3)
上記の通り、明度が低くなるにつれて、文字などを筆記したときの該文字などの視認性が高まるところ、低彩度タイプQ3においては、第2インクカラーC2の明度は、第1インクカラーC1の明度よりも低いものとされる。したがって、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高いものとすることができる。
【0072】
つまり、第2インクカラーC2の明度が第1インクカラーC1の明度よりも低いものとされることで、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高いものとしつつ、文字などの上から第1インク31を重ねたときの該文字などの視認阻害性を低いものとすることができる。
【0073】
また、上記の通り、彩度が高くなるにつれて、文字などを筆記したときの該文字などの視認性が高まるが、低彩度タイプQ3においては、第2インクカラーC2の彩度は、敢えて、第1インクカラーC1の彩度よりも低いものとされる。彩度が低くなるにつれて、色の鮮やかさが低下するので、低彩度タイプQ3においては、第2インク32で文字などを筆記したときに、該文字などが、鮮やかさが抑えられた色で筆記される。このような機能は、例えば、鉛筆やシャープペンシルで筆記されている文字と区別可能でありながらも、控えめな文字(すなわち、必要以上に目立たないような文字)を書きたい、という使用場面で有用である。
【0074】
なお、第2インクカラーC2の彩度が低いものとされると、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性が低下するが、これは明度の調整によって補完することができる。つまり、低彩度タイプQ3では、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性は、第2インクカラーC2の明度の調整によって確保される。
【0075】
<3.使用の態様>
次に、筆記具Pの使用の態様を、授業のノートをとる場合を例にとって説明する。
【0076】
教師は、板書を行いつつ授業を進め、生徒は、鉛筆やシャープペンシルを用いて、板書の内容をノートに書き写す。このなかで、教師が、「この部分が重要である」、「この部分を覚えておくこと」、などと言って、板書の中の特定の部分を強調することも多い。この場合、ノートをとる生徒は、筆記具Pの第1ペン先11を用いて、指摘された部分の上からインクを重ねるように筆記することで、該部分をマーキングすることができる(
図6(a))。上記の通り、第1ペン先11に供給される第1インク31は、これが文字などの上に重ねられても、文字の視認性が阻害されにくい色C1とされている。したがって、インクが重ねられた文字(すなわち、マーキングされた文字)を、はっきりと読み取ることができる。
【0077】
また、教師は、強調した部分に関して、「この部分がテストに出る」などとコメントをすることもあり、このコメントをノートに書き留めたいと考える生徒も多い。このような場面で、生徒は、筆記具Pの第2ペン先12を用いて、教師のコメントを筆記すればよい(
図6(b))。上記の通り、第2ペン先12に供給される第2インク32は、これで筆記された文字などの視認性が高い色C2とされている。したがって、はっきりと読み取れる文字などを書くことができる。
【0078】
特にこのような場面では、生徒は、鉛筆やシャープペンシルで筆記されている文字よりもはっきりと目立つように文字を書き記したいと考える。この点においては、高彩度タイプQ2の第2インク32が好適である。すなわち、高彩度タイプQ2の第2インク32であれば、彩度が高いので、鮮やかな文字を筆記することが可能であり、鉛筆やシャープペンシルで筆記されている文字よりもはっきりと目立つような文字を書くことができる。
【0079】
また、教師は、授業の本筋となる説明の合間に、補足的な説明(例えば、「ちなみに・・・」として解説される豆知識や、授業を展開させるためのストーリーなど)を挟むことも多く、板書としては書かれることのないこれらの補足的な説明をノートに書き留めたいと考える生徒も多い。このような場面で、生徒は、筆記具Pの第2ペン先12を用いて、この補足的な説明を書き留めればよい(
図6(c))。上記の通り、第2ペン先12に供給される第2インク32は、これで筆記された文字などの視認性が高い色C2とされている。したがって、はっきりと読み取れる文字を書くことができる。
【0080】
特にこのような場面では、生徒は、鉛筆やシャープペンシルで筆記した文字と区別可能でありながらも、目立ちにくい控えめな文字で書き記したいと考える。この点においては、低彩度タイプQ3の第2インク32が好適である。すなわち、低彩度タイプQ3の第2インク32であれば、彩度が低いので、鮮やかさが抑えられた色で文字を筆記することが可能であり、控えめで目立ちにくい文字を書くことができる。また、いくら鮮やかさが抑えられた色であっても、第2インク32で筆記した部分と、鉛筆やシャープペンシルで筆記された部分とは容易に区別することができる。したがって、例えば上記のケースの場合、後からノートを見返したときに、板書を書き写した部分と、板書としては書かれていなかったが自分で補足して追記した部分とを明確に区別することができる。
【0081】
このようにしてノートをとっていくと、ノートには、鉛筆やシャープペンシルを用いて筆記された文字などと、第1インク31を用いてマーキングされた部分と、第2インク32を用いて筆記された文字などとが混在して現れることになるが、第1インク31と第2インク32とは同系色(同色系)であるため、全体として見たときに統一感があり、バラバラな印象を与えにくく、見栄えがよい。また、第1インク31を用いてマーキングされた部分と、第2インク32を用いて筆記された文字などとの間に、連動性をもたせることもできる。
【0082】
さらに、第2インク32を用いて筆記された文字の上から、第1インク31を用いてマーキングがなされると、同系色であって、明度および彩度のうちの少なくとも一方が異なる二つの色が、重なり合うことになる。これにより、統一感があって調和の取れた柔らかな印象を醸しつつ、目を引くような表現が可能となる。すなわち、既存の筆記具ではできなかった新しい表現が可能となる。特にここでは、第1インク31の着色剤として樹脂顔料が用いられ、第2インク32の着色剤として染料が用いられるので、第2インク32を用いて筆記された文字の上から第1インク31を用いてマーキングがなされても、両インク31,32が混合されにくい。したがって、筆記された文字が滲みにくい。
【0083】
<4.効果>
上記の実施形態に係る筆記具Pは、第1線幅d1で筆記する第1筆記機能と、第1線幅d1よりも幅が狭い第2線幅d2で筆記する第2筆記機能と、を備える。そして、第1筆記機能用の第1インク31と第2筆記機能用の第2インク32とが同系色であり、かつ、第2インク32の彩度が、第1インク31の彩度よりも高い(高彩度タイプQ2)。あるいは、第1インク31と第2インク32とが同系色であり、かつ、第2インク32の明度が、第1インク31の明度よりも低い(高彩度タイプQ2、低彩度タイプQ3)。いずれの構成においても、第1インク31が重ねられた文字などの視認性と、第2インク32で筆記された文字などの視認性とをいずれも良好なものとしつつ(すなわち、マーカーとしての使い勝手とサインペンとしての使い勝手を両立しつつ)、第1インク31で筆記された部分と第2インク32で筆記された部分とがノートなどの中に混在しても統一感をもたせることを可能としている。これによって、使用者の満足度が高い筆記具が得られる。
【0084】
また、上記の実施形態に係る筆記具Pは、第2インク32の明度が、第1インク31の明度よりも低く、かつ、第2インク32の彩度が、第1インク31の彩度よりも高い(高彩度タイプQ2)。この構成によると、第2インク32で文字などを筆記したときに、視認性が高く、かつ、はっきりと目立つ文字などを書くことができる。
【0085】
あるいは、上記の実施形態に係る筆記具Pは、第2インク32の明度が、第1インク31の明度よりも低く、かつ、第2インク32の彩度が、第1インク31の彩度よりも低い(低彩度タイプQ3)。この構成によると、第2インク32で文字などを筆記使用したときに、視認性はありつつも、目立ちにくい控えめな文字などを書くことができる。
【0086】
また、上記の実施形態に係る筆記具Pは、第1インク31が、樹脂顔料を含むものである。この構成によると、彩度が比較的低い色や、明度が比較的高い色を、容易に表現することができる。
【0087】
また、上記の実施形態に係る筆記具Pは、第2インク32が、染料を含むものである。この構成によると、任意の色を容易に表現することができる。
【0088】
また、上記の実施形態に係る筆記具Pは、第1インク31の着色剤として樹脂顔料が用いられ、第2インク32の着色剤として染料が用いられる。この構成によると、両インク31,32による筆記が重なり合っても、両インク31,32が混ざり合いにくい。したがって、例えば、第2インク32を用いて筆記された文字の上から第1インク31を用いてマーキングがなされても、該筆記された文字が滲みにくい。
【0089】
また、上記の実施形態に係る筆記具Pは、第1筆記機能用のペン先(第1ペン先)11が軸筒10の一端に設けられ、第2筆記機能用のペン先(第2ペン先)12が軸筒10の他端に設けられている。この構成によると、簡易な構成で、第1筆記機能および第2筆記機能を1本の筆記具に組み込むことができる。
【0090】
また、上記の実施形態に係る筆記具Pは、第1インク31を保持する第1インク保持部21と、第1インク31と接触しないように第2インク32を保持する第2インク保持部22と、を備える。この構成によると、第1インク31と第2インク32とが混ざってしまうといった事態を回避することができる。
【0091】
また、上記の実施形態に係る筆記具Pは、第1インク保持部21における第1インク31の保持量が、第2インク保持部22における第2インク32の保持量よりも多い。一般的な使用態様において、相対的に幅広である第1線幅d1での筆記に用いられる第1インク31は、相対的に幅狭である第2線幅d2での筆記に用いられる第2インク32よりも消費量が多くなる傾向があると考えられるところ、この構成によると、両インク31,32がなくなるタイミングを近づけることが可能となり、使用者の満足度を高めることができる。
【0092】
<5.変形例>
上記の実施形態では、縦軸が彩度、横軸が明度を表す平面座標の原点に、第1インクカラーC1の明度および彩度の組み合わせをおいたときに、第2インクカラーC2の明度および彩度の組み合わせは、第2象限Q2、あるいは、第3象限Q3にある座標値のなかから選択されるものとしたが、
図7に示されるように、第2インクカラーC2の明度および彩度の組み合わせは、第1象限Q1にある座標値のなかから選択されてもよい。すなわち、第2インク32の彩度が、第1インク31の彩度よりも高く、かつ、第2インク32の明度が、第1インク31の明度よりも高いものとされてもよい。
【0093】
この場合、第2インクカラーC2の彩度は、第1インクカラーC1の彩度よりも高いものとなるので、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高いものとすることができる。つまり、第2インクカラーC2の彩度が第1インクカラーC1の彩度よりも高いものとされることで、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高いものとしつつ、文字などの上から第1インク31を重ねたときの該文字などの視認阻害性を低いものとすることができる。
【0094】
また、この場合は、第2インクカラーC2の明度が、第1インクカラーC1の明度よりも高いものとされるので、第2インク32で文字などを筆記したときに、明るい文字などを書くことができる。なお、第2インクカラーC2の明度が高いものとされると、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性が低下するが、これは彩度の調整によって補完することができる。つまり、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性は、第2インクカラーC2の彩度の調整によって確保される。
【0095】
このように、第2インク32の彩度が、第1インク31の彩度よりも高く、かつ、第2インク32の明度が、第1インク31の明度よりも高いものとされることで、第2インク32で文字などを筆記したときに、視認性があり、かつ、明るい文字などを書くことができる。
【0096】
あるいは、縦軸が彩度、横軸が明度を表す平面座標の原点に、第1インクカラーC1の明度および彩度の組み合わせをおいたときに、第2インクカラーC2の明度および彩度の組み合わせは、第1象限Q1と第2象限Q2との間の軸R1上にある座標値、あるいは、第2象限Q2と第3象限Q3の間の軸R2上にある座標値のなかから選択されてもよい。すなわち、明度を同じものとしつつ、彩度だけを異ならせる(第2インクカラーC2の方を高くする)ものとしてもよいし、彩度を同じものとしつつ、明度だけを異ならせる(第2インクカラーC2の方を低くする)ものとしてもよい。
【0097】
前者の場合、第2インクカラーC2の彩度は第1インクカラーC1の彩度よりも高いものとなり、後者の場合、第2インクカラーC2の明度は第1インクカラーC1の明度よりも低いものとなる。したがって、いずれの場合も、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高いものとすることができる。すなわち、いずれの場合も、第2インク32で文字などを筆記したときの該文字などの視認性を高いものとしつつ、文字などの上から第1インク31を重ねたときの該文字などの視認阻害性を低いものとすることができる。
【0098】
上記の実施形態では、第1インク31の着色剤として樹脂顔料が用いられていたが、これは必須の要件ではない。例えば、第1インク31の着色剤として、樹脂顔料以外の顔料、あるいは、染料が用いられてもよい。また、増粘剤といった各種の添加剤が加えられてもよい。
【0099】
上記の実施形態では、第2インク32の着色剤として染料が用いられていたが、これは必須の要件ではない。例えば、第2インク32の着色剤として、樹脂顔料、あるいは、樹脂顔料以外の顔料が用いられてもよい。また、増粘剤といった各種の添加剤が加えられてもよい。
【0100】
上記の実施形態では、第1インク31および第2インク32は、水性の溶剤に着色剤を溶融させたものとしていたが、着色剤を溶融させる溶剤は、必ずしも水性でなくともよく、例えば油性であってもよい。
【0101】
上記の実施形態では、第1インク保持部21の体積は、第2インク保持部22の体積よりも大きいものとされており、第1インク保持部21における第1インク31の保持量が、第2インク保持部22における第2インク32の保持量よりも多いものとされていたが、各インク保持部21,22の体積(ひいては、各インク31,32の保持量)は同じであってもよい。
【0102】
上記の実施形態において、筆記具Pは、軸筒10の両端にペン先11,12が設けられたいわゆる両頭筆記具であったが、筆記具Pの形態はこれに限らない。例えば、使用者のノック操作などに応じて、軸筒10の一方の端部から、第1ペン先11と第2ペン先12とが選択的に出没されるように構成されたものであってもよい。
【0103】
上記の実施形態において、筆記具Pは、第1筆記機能を実現するための第1ペン先11およびそれと接続された第1インク保持部21と、第2筆記機能を実現するための第2ペン先12およびそれと接続された第2インク保持部22とを1組ずつ備えるものとしたが、各ペン先11,12などの個数はこれに限らない。
【0104】
例えば、筆記具は、第1筆記機能を実現するための第1ペン先11およびこれと接続された第1インク保持部21を1組備え、第2筆記機能を実現するための第2ペン先12およびこれと接続された第2インク保持部22を2組備えるものであってもよい。また、このような構成において、第1インク保持部21に第1インク31を保持させ、一方の第2インク保持部22に、第1インク31と同系色の高彩度タイプQ2の第2インク32を保持させ、他方の第2インク保持部22に、第1インク31と同系色の低彩度タイプQ3の第2インク32を保持させてもよい。
【0105】
また例えば、筆記具は、第1筆記機能を実現するための第1ペン先11およびこれと接続された第1インク保持部21を2組備え、第2筆記機能を実現するための第2ペン先12およびこれと接続された第2インク保持部22を2組備えるものであってもよい。この場合、一方の第1インク保持部21と一方の第2インク保持部22に、第1の同系色である第1インク31と第2インク32を各々保持させ、他方の第1インク保持部21と他方の第2インク保持部22に、第2の同系色である第1インク31と第2インク32を各々保持させてもよい。
【0106】
上記の実施形態における各ペン先11,12の形状は、適宜に変更されてもよい。例えば、第1ペン先11は、円柱の先端部分が、中心軸に対して逆向きに傾斜する対向面に沿って切り欠かれるとともに、先端縁が中心軸と直交する形状とされてもよい。また例えば、断面が扁平な柱状であって、先端部分が、中心軸と直交する面に対して斜めに切りかかれた形状とされてもよい。また例えば、断面が扁平な柱状であって、先端部分が、中心軸と直交する形状とされてもよい。
【0107】
上記の実施形態では、各インク31,32が中綿に含浸されて保持される、いわゆる中綿式が採用されていたが、各インク31,32がインクタンクに充填されて保持される構造(いわゆる直液式)が採用されてもよい。すなわち、各インク保持部はインクタンクにより構成されてもよい。この場合、各インクタンクは、各々に貯留されたインク31,32が互いに接触しないように、少なくとも各々の内部空間(インクの貯留空間)を分離独立させるようにして設けられることが好ましい。またこの場合に、第1インク31が充填されるインクタンクの容量を、第2インク32が充填されるインクタンクの容量よりも大きなものとしてもよい。なお、この場合に、各インクタンク内のインク31,32を各ペン先11,12に供給する方式としては、いわゆる、バルブ式、ジャバラ式、などといった既存の各種の方式を採用することができる。
【0108】
上記の実施形態に係る筆記具Pにおいて、第1筆記機能および第2筆記機能を実現する具体的な態様は、上記に説明したものに限られるものではない。
【0109】
例えば、第1筆記機能は、いわゆる転写ローラにより実現されてもよい。具体的には例えば、円柱状のローラが軸回りに回転できるように軸支された構造のペン先と、該ローラの表面に第1インク31を供給するための機構と、を含んで第1筆記機能が実現されてもよい。この場合、ペン先に設けられているローラを紙面に摺動させて転動させることで該ローラの幅に応じた線幅のラインを第1インク31で筆記することができる。このような構成においては、ローラの幅を適宜に設定することで任意の線幅のラインの筆記が可能となる。すなわち、ローラの幅を適宜に設定することで、相対的に幅が広い線幅d1を筆記できるような構成を実現することができる。
【0110】
また例えば、第1筆記機能は、いわゆる筆ペンにより実現されてもよい。具体的には例えば、筆を模したペン先と、これに第1インク31を供給するための機構と、を含んで第1筆記機能が実現されてもよい。このような構成においては、使用者が筆圧をかけるとペン先が屈曲して比較的太い線幅のラインが筆記される。筆記されるラインの線幅は、ペン先のサイズ、屈曲しやすさ、などによって変わってくる。したがって、これらを適宜に調整することで、相対的に幅が広い線幅d1を筆記できるような構成を実現することができる。
【0111】
また例えば、第2筆記機能は、いわゆるボールペンにより実現されてもよい。具体的には例えば、紙面に摺動されることで回転可能に構成されたボール(剛球)を内蔵したペン先と、これに第2インク32を供給するための機構と、を含んで第2筆記機能が実現されてもよい。この場合、ボールのサイズを適宜に調整することで、相対的に幅が狭い線幅d2を筆記できるような構成を実現することができる。
【0112】
また、各部の具体的な形状、仕様、その他の詳細な構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、実施形態および各変形例に係る構成を適宜に組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0113】
P 筆記具
10 軸筒
11 第1ペン先
12 第2ペン先
20 仕切り
21 第1インク保持部
22 第2インク保持部
31 第1インク
32 第2インク
C1 第1インクカラー
C2 第2インクカラー