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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125503
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
H02K9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023115
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】若林 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】根本 達也
(72)【発明者】
【氏名】川端 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 卓邦
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609PP02
5H609PP06
5H609PP09
5H609QQ05
5H609RR33
5H609RR35
5H609RR37
5H609RR38
5H609RR42
(57)【要約】
【課題】高い冷却性能を実現できるような回転電機の冷却構造を提供する。
【解決手段】ロータ1と、ステータ2と、これらの少なくとも一方に設けられたティース21bに巻回されたコイル導線31を含んでなるコイル3と、を備える回転電機100であって、ティース21b間に形成されるスロットSに沿って延在し、コイル導線31のターン間に挿入されることで、ターン間に隙間Gを画定するスペーサ部42と、隙間Gに冷却媒体を流通させる冷却媒体供給部6と、を備え、スペーサ部42の延在途中に、該スペーサ部42の幅方向の寸法が相対的に短くなるように切り欠かれた切欠き部421が設けられる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、ステータと、これらの少なくとも一方に設けられたティースに巻回されたコイル導線を含んでなるコイルと、を備える回転電機であって、
ティース間に形成されるスロットに沿って延在し、前記コイル導線のターン間に挿入されることで、ターン間に隙間を画定するスペーサ部と、
前記隙間に冷却媒体を流通させる冷却媒体供給部と、
を備え、
前記スペーサ部の延在途中に、該スペーサ部の幅方向の寸法が相対的に短くなるように切り欠かれた切欠き部が設けられる、
ことを特徴とする、回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記切欠き部が、前記スペーサ部の延在途中に複数個設けられる、
ことを特徴とする、回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機であって、
複数個の前記切欠き部が、一定のピッチで配置される、
ことを特徴とする、回転電機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の回転電機であって、
前記切欠き部の角部分の少なくとも一つがアール形状である、
ことを特徴とする、回転電機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の回転電機であって、
前記切欠き部の角部分の少なくとも一つがテーパ形状である、
ことを特徴とする、回転電機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の回転電機であって、
前記切欠き部の長さ方向の寸法が、前記隙間に冷却媒体を流通させるときの圧力損失が所定値以下となるような範囲内に規定されている、
ことを特徴とする、回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機のように、機械的エネルギーと電気的エネルギーとの相互変換を行う機械であって回転部分を有するものは、回転電機などと総称され、様々な機器に搭載されている。
【0003】
回転電機は、ロータ(回転子)とステータ(固定子)とを備えている。これらの少なくとも一方には、周方向に配列された複数のティースが設けられており、ティースにコイル導体が巻回されてなるコイルに電力が供給されることで、ロータが回転する。
【0004】
一般に、回転電機では、給電に伴って発生した熱を外部に逃がすための冷却構造が設けられる。例えば、特許文献1に開示の冷却構造は、各ティースに巻回されたコイル導体を収容するハウジングを設けて、その内部に冷却用の流体を流入させて、コイル導体を直接冷却する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2018/218314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、航空機(電動航空機)の推進用ファンモータなどにおいては、5~10kW/kg程度の高い出力密度が要求され、これを実現するために可能な限りの小型化が進められる。ところが、回転電機が小型化すると、体積の減少に伴い表面積が減少し、発生した熱が外部に逃げにくくなる。したがって、このように高い出力密度を実現する回転電機などには、特に高い冷却性能を実現できるような冷却構造が必要とされる。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、高い冷却性能を実現できるような回転電機の冷却構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、ロータと、ステータと、これらの少なくとも一方に設けられたティースに巻回されたコイル導線を含んでなるコイルと、を備える回転電機であって、ティース間に形成されるスロットに沿って延在し、前記コイル導線のターン間に挿入されることで、ターン間に隙間を画定するスペーサ部と、前記隙間に冷却媒体を流通させる冷却媒体供給部と、を備え、前記スペーサ部の延在途中に、該スペーサ部の幅方向の寸法が相対的に短くなるように切り欠かれた切欠き部が設けられる、ことを特徴とする。
【0010】
この構成によると、コイル導線のターン間に隙間が画定され、ここに冷却媒体が流通されるので、コイル導線と冷却媒体との接触面積が十分に確保され、コイルが効果的に冷却される。また、スペーサ部の延在途中に切欠き部が設けられることで、冷却媒体の流路となる隙間の途中部分に、局所的に幅広な領域が形成される。このような非ストレート形状の流路を通過する際に、冷却媒体の流れに乱れが生じ、冷却媒体が攪拌されることで、熱伝達率が向上する。また、スペーサ部に切欠き部が設けられることで、コイル導線とスペーサ部との接触面積が小さくなり、その分、コイル導線と冷却媒体との接触面積(つまりは、放熱面積)が増大する。熱伝達率の向上と放熱面積の増大はいずれも放熱能力の向上につながるため、高い冷却性能が実現される。
【0011】
好ましくは、前記回転電機において、前記切欠き部が、前記スペーサ部の延在途中に複数個設けられる、ことを特徴とする。
【0012】
この構成によると、冷却媒体の流路となる隙間の途中部分に、局所的に幅広な領域が複数個形成される。したがって、冷却媒体の攪拌作用が高まり、熱伝達率(ひいては、放熱能力)が大きく向上する。これにより、特に高い冷却性能が実現される。
【0013】
好ましくは、前記回転電機において、複数個の前記切欠き部が、一定のピッチで配置される、ことを特徴とする。
【0014】
この構成によると、場所によって放熱能力の偏りが生じにくくなり、コイルが均一に冷却される。
【0015】
好ましくは、前記回転電機において、前記切欠き部の角部分の少なくとも一つがアール形状である、ことを特徴とする。
【0016】
切欠き部の角部分の少なくとも一つがアール形状とされることで、該角部分の近傍に冷却媒体の澱みが生じにくくなる。冷却媒体の澱みが形成されると熱伝達率(ひいては、放熱能力)が低下する虞があるが、澱みの発生が抑制されることで、これに由来する放熱能力の低下が抑制される。
【0017】
好ましくは、前記回転電機において、前記切欠き部の角部分の少なくとも一つがテーパ形状である、ことを特徴とする。
【0018】
切欠き部の角部分の少なくとも一つががテーパ形状とされることで、該角部分の近傍に冷却媒体の澱みが生じることを抑制しつつ、該角部分での冷却媒体の攪拌効果も確保することができる。したがって、澱みに由来する熱伝達率の低下を抑制しつつ、冷却媒体を攪拌することによる熱伝達率の向上を図ることが可能となり、バランス良く放熱能力を高めることができる。
【0019】
好ましくは、前記回転電機において、前記切欠き部の長さ方向の寸法が、前記隙間に冷却媒体を流通させるときの圧力損失が所定値以下となるような範囲内に規定されている、
ことを特徴とする。
【0020】
この構成によると、隙間に冷却媒体を流通させるときの圧力損失が所定値以下となるので、冷却媒体を流通させるための機構(例えば、ポンプなど)の負荷を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、高い冷却性能が実現されるので、回転電機を十分に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る回転電機の縦断面図。
図2】回転電機を図1の矢印A方向から見た横断面図。
図3】回転電機一部分の縦断面図。
図4】コイル保持部材の構成例を示す斜視図。
図5】コイル保持部材の構成例を示す斜視図。
図6】比較例に係るコイル保持部材および第1、第2コイル保持部材によって実現される放熱能力をシミュレーションで算出した結果を示す図。
図7】比較例に係るコイル保持部材および第1、第2コイル保持部材によって形成される隙間の形状を模式的に示す図。
図8】第1、第2コイル保持部材によって形成される隙間に冷却媒体を流通させるときの圧力損失をシミュレーションで算出した結果を示す図。
図9】変形例に係る切欠き部の形状を示す図。
図10】変形例に係る回転電機の一部分を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
<1.回転電機の構成>
実施形態に係る回転電機の構成を、図1図3を参照しながら説明する。図1は、実施形態に係る回転電機100を、回転軸101の軸方向と直交する面で切断した縦断面図である。図2は、回転電機100を図1の矢印A方向から見た横断面図である。図3(a)および図3(b)はいずれも、回転電機100の一部分の縦断面図であるが、図3(a)はスペーサ部42に切欠き部421が設けられていない位置で回転電機100を切断した図であり、図3(b)はスペーサ部42に切欠き部421が設けられている位置で回転電機100を切断した図である。
【0025】
回転電機100は、例えば航空機(電動航空機)の推進用ファンモータとして用いられるものであり、ロータ(回転子)1、ステータ(固定子)2、コイル3、コイル保持部材4、空間形成部材5、冷却媒体供給部6、などを備える。
【0026】
(ロータ1)
ロータ1は、円柱状のロータコア11を備える。ロータコア11の外周面には、円筒状やアーチ状に分割された永久磁石12が設けられる。また、ロータコア11の径方向の中心には、軸方向を貫通する円柱状の貫通部が設けられており、ここに回転軸101が挿入される。回転軸101は、軸方向の長さがロータ1よりも長く、両端付近がロータ1の両端部から突出して設けられる。
【0027】
(ステータ2)
ステータ2は、略円筒状の部材であり、ロータ1の外周面を取り囲むように配置される。ステータ2は、ステータコア21を備える。ステータコア21は、円筒状のヨーク21aと、その内周面から径方向内方に突出する複数のティース21bとを含んで一体的に構成される。各ティース21bは、ステータ2の軸方向の一端から他端の全体に亘って形成される。複数のティース21bは、周方向に沿って間隔を設けて配列されており、隣り合うティース21bの間にスロットSと呼ばれる隙間が形成される。
【0028】
(コイル3)
コイル3は、各ティース21bに巻回されてスロットSに配置される導線(コイル導線)31を含んで構成される。ただし、後に説明するように、この回転電機100では、コイル導線31は、ティース21bに直接に巻回されるのではなく、後述するコイル保持部材4を介して、ティース21bに巻回される。
【0029】
コイル3は、U相コイル、V相コイル、W相コイルを含む三相コイルであり、各々の端部は、ステータ2の軸方向の一端側から径方向外側に引き出されて、各相の動力線(図示省略)の一端部にそれぞれ接続される。各相の動力線の他端側は、駆動装置と接続されており、駆動装置からコイル3に三相交流電圧が印加されると、ロータ1が回転し、回転軸101から回転駆動力が出力される。
【0030】
(コイル保持部材4)
コイル保持部材4は、コイル3を保持する部材である。コイル導線31は、予めコイル保持部材4に巻回され、コイル導線31が巻回されたコイル保持部材4がティース21bに取り付けられることで、コイル導線31がティース21bに巻回されてスロットSに配置された状態となる。コイル保持部材4の構成については、後に説明する。
【0031】
(空間形成部材5)
空間形成部材5は、スロットSに配置されたコイル3を収容する空間(コイル収容空間)50を形成する部材であり、隔壁51、複数の仕切り壁52、一対の蓋部53a,53b、などを含んで構成される。
【0032】
隔壁51は、薄肉の円筒状部材であり、ロータ1とステータ2の間の空間に配置される。隔壁51は、軸方向の長さがステータ2と略同一とされ、外周面において各ティース21bの先端と全体的に当接して設けられる。これによって、各スロットSが、ロータ1側の空間と分離された空間となる。
【0033】
仕切り壁52は、長尺の略板状部材であり、各スロットSにおいて、隣り合うティース21bの略中央に配置される。仕切り壁52の長尺方向の寸法は、ステータ2の軸方向の寸法と略同じものとされており、仕切り壁52は、スロットSの一端から他端に亘って延在する。また、仕切り壁52は、ステータ2の径方向の一端においてヨーク21aの内周面と当接するとともに、他端において隔壁51の外周面と当接して設けられる。これによって、各スロットSがステータ2の周方向に略二等分割される。
【0034】
一対の蓋部53a,53bの各々は、円環状あるいは円板状の部材であり、ステータ2の軸方向の各端部に配置されて、該端部に臨む各スロットSの開口端を塞ぐ。
【0035】
隔壁51、仕切り壁52、および、一対の蓋部53a,53bによって、コイル収容空間50が形成される。すなわち、各スロットSに配置されているコイル導線31は、ティース21b、仕切り壁52、隔壁51、および、一対の蓋部53a,53bによって囲まれるコイル収容空間50に収容される。
【0036】
(冷却媒体供給部6)
冷却媒体供給部6は、各スロットSに形成されるコイル収容空間50に、冷却媒体を供給する要素であり、循環流路61、ポンプ62、冷却器63、などを含んで構成される。冷却媒体として、各種の流体を用いることが可能であるが、ここでは例えばオイル(冷却オイル)が用いられる。
【0037】
循環流路61は、冷却媒体を流通させるための流路であり、その一端側は、一方の蓋部53aに設けられた導入口531aと連通し、他端側は、他方の蓋部53bに設けられた導出口531bと連通する。各蓋部53a,53bには、一端が導入口531a(あるいは、導出口531b)と連通し、途中で分岐して各コイル収容空間50と連通する分岐流路532a(532b)が形成されている。つまり、循環流路61は、分岐流路532a,532bを介して、各コイル収容空間50と連通しており、循環流路61から導入口531aを介して導入された冷却媒体は、分岐流路532aを介して、各コイル収容空間50に流入する。また、各コイル収容空間50から流出した冷却コイルは、分岐流路532bを通り、導出口531bを介して、循環流路61に導出される。
【0038】
ポンプ62および冷却器63は、いずれも、循環流路61の途中に介挿入される。ポンプ62が駆動されることで、循環流路61を冷却媒体が循環し、各コイル収容空間50に冷却媒体が流通される。そして、循環流路61を循環する冷却媒体は、経路途中に設けられている冷却器63によって熱を奪われることで、冷却される。
【0039】
コイル収容空間50に冷却媒体が流通されることで、ここに配置されているコイル3が冷却媒体によって直接冷却される。
【0040】
<2.コイル保持部材4>
コイル保持部材4の構成について、図1図3に加え、図4図5を参照しながら説明する。図4図5は、いずれもコイル保持部材4の構成例を示す斜視図である。
【0041】
コイル保持部材4は、コイル3を保持する部材であり、基体部41と、スペーサ部42と、を含んで構成される。
【0042】
基体部41は、薄肉の帯状部材が、ティース21bに対応する枠状に形成されてなる部材である。具体的には、基体部41は、一対の長尺部分41a,41aの各端部が、一対の短尺部分41bを介して連なってなり、全体として扁平な略矩形状を呈している。各長尺部分41aの寸法は、ティース21bの延在方向の寸法と略同じものとされ、各短尺部分41bの寸法は、ティース21bの幅方向の寸法と略同じものとされる。
【0043】
基体部41には、コイル導線31が巻回される(図4(b)、図5(b))。コイル導線31は、具体的には例えば、厚み方向が幅方向に対して小さい断面扁平な帯状の導体により構成され、幅方向が基体部41の外周面の法線方向と一致するような向きとされて、基体部41に巻回される。ここでは、コイル導線31における基体部41(ひいては、ティース21b)の周囲を一周する部分を「1ターン」とよぶ。各ターンは連続していてもよいし、非連続であってもよい。例えば、一続きのコイル導線31が周回して巻回される場合、各ターンは連続的なものとなる。また、コイル導線31が1ターンに相当する枠状の導線部分が積層されたものである場合、各ターンは非連続的なものとなる。
【0044】
スペーサ部42は、長尺な板状部材であり、長尺方向を、基体部41の長尺部分41aの延在方向に沿わせるとともに、幅方向を、基体部41の外側面の法線方向に沿わせるような姿勢で、長尺部分41aの外側面に突設される。スペーサ部42の延在方向の寸法は、基体部41の長尺部分41aの寸法と略同じものとされており、スペーサ部42は、長尺部分41aの一端から他端に亘って延在する。スペーサ部42の幅方向の寸法(すなわち、基体部41からの突出寸法)L0は適宜に規定することができるが、コイル導線31の幅方向の寸法の1/2~1/3程度とされることも好ましい。
【0045】
基体部41の一対の長尺部分41a,41aの各々には、コイル導線31のターン数に応じた個数のスペーサ部42が、多段に設けられる。図の例では、コイル導線31のターン数が3であり、各長尺部分41aにはこのターン数に1を足した4個のスペーサ部42が、一定の間隔(ピッチ)で配置される。このときのピッチは、コイル導線31の厚みと同程度とされる。
【0046】
コイル導線31は、その幅方向の端部が、隣り合う段のスペーサ部42の間に挿入されるようにして、基体部41に巻回されることで、隣り合う段のスペーサ部42間に保持される。したがって、スペーサ部42は、基体部41に巻回されるコイル導線31のターン間に挿入された状態となる。ターン間にスペーサ部42が挿入されることで、ターン間に、スペーサ部42の厚みに相当する隙間Gが画定される(図2図3)。つまり、スペーサ部42は、コイル導線31を保持するとともに、ターン間に隙間Gを画定する部材である。
【0047】
例えば、一続きのコイル導線31が基体部41に周回して巻回される場合(すなわち、各ターンが連続的である場合)、コイル導線31は、長尺部分41aと短尺部分41bを交互に通過しながら、基体部41に巻回される。ただし、上記の通り、長尺部分41aでは、コイル導線31は、幅方向の端部が隣り合う段のスペーサ部42の間に挿入されるようにして巻回される。ここで、各スペーサ部42は、水平姿勢(すなわち、高さ方向の位置が延在方向の全体に亘って一定であるような姿勢)で設けられており、コイル導線31は、長尺部分41aにおいて、スペーサ部42にガイドされることで略水平姿勢で巻回される。そして、一方の短尺部分41bを介して他方の長尺部分41aに到達したコイル導線31は、該長尺部分41aにおいて、先と同じ高さのスペーサ部42にガイドされることで、引き続き略水平姿勢で巻回される。そして、他方の短尺部分41bに到達したコイル導線31は、ここで斜め下(あるいは、斜め上)に屈曲されて、先に巻回されているコイル導線31よりもスペーサ部42および自身31の厚み分だけ下側(あるいは上側)に導かれる。そして、再び、一対の長尺部分41aおよびこれらに挟まれる一方の短尺部分41bにおいて、同じ段のスペーサ部42にガイドされることで略水平姿勢で巻回される。このように、コイル導線31は、少なくとも各長尺部分41aにおいては略水平姿勢とされて、基体部41に巻回される。したがって、ターン間に画定される隙間Gは、略水平に延在するものとなる。
【0048】
各スペーサ部42には、その延在途中(すなわち、長尺部分41aの延在方向の途中)に、スペーサ部42の幅方向の寸法が相対的に短くなるように切り欠かれた部分である切欠き部421が設けられる。
【0049】
スペーサ部42に設けられる切欠き部421の個数、配置(隣り合う切欠き部421の間隔(ピッチ))、形状、寸法(長さ方向の寸法L1、幅方向の寸法L2)、などは、スペーサ部42の機能(すなわち、隣り合う段のスペーサ部42間にコイル導線31を保持する機能、および、ターン間に隙間Gを画定する機能)が損なわれない限りにおいて、適宜に規定することができる。ただし、ここでいう「長さ方向」とは、スペーサ部42の延在方向(すなわち、長尺部分41aの延在方向)を指し、「幅方向」とは、スペーサ部42の基体部41からの突出方向を指す。
【0050】
例えば、図4に示されるコイル保持部材4(4A)では、スペーサ部42に設けられる切欠き部421の個数は、5個とされる。また、5個の切欠き部421は、一定のピッチで配置される。また、各切欠き部421は、角部分が直角形状とされる。すなわち、各切欠き部421は、平面視にて矩形状とされる。さらに、各切欠き部421の長さ方向の寸法L1(4A)は、非切欠き部(スペーサ部42における切り欠かれない部分)の長さ方向の寸法の3/4程度とされる。また、各切欠き部421の幅方向の寸法L2(4A)は、スペーサ部42の幅方向の寸法L0(4A)と略同じものとされる。すなわち、この切欠き部421は、スペーサ部42の一部分が幅方向の全体に亘って切り欠かれることによって形成されており、切欠き部421の形成位置においてスペーサ部42の幅方向の寸法はゼロとなっている。
【0051】
また例えば、図5に示されるコイル保持部材4(4B)では、スペーサ部42に設けられる切欠き部421の個数は、14個とされる。それ以外の点は、図4に示されるコイル保持部材4Aに設けられる切欠き部421と同様である。すなわち、14個の切欠き部421は、一定のピッチで配置される。また、各切欠き部421は、角部分が直角形状とされる。また、各切欠き部421の長さ方向の寸法L1(4B)は、非切欠き部の長さ方向の寸法の3/4程度とされる。また、各切欠き部421の幅方向の寸法L2(4B)は、スペーサ部42の幅方向の寸法L0(4B)と略同じものとされる。ただし、このコイル保持部材4(4B)のスペーサ部42幅方向の寸法L0(4B)は、図4に示されるコイル保持部材4Aのスペーサ部42幅方向の寸法L0(4A)よりも小さいものとなっている。
【0052】
回転電機100の組み立て工程においては、まず、コイル保持部材4に、コイル導線31が巻回される(図4(b)、図5(b))。具体的には、コイル導線31は、その幅方向の端部が、隣り合う段のスペーサ部42の間に挿入されるようにして、基体部41に巻回される。これにより、スペーサ部42が、基体部41に巻回されるコイル導線31のターン間に挿入された状態となり、ターン間に、基体部41の延在方向に延びる、スペーサ部42の厚みに相当する隙間Gが画定される(図2図3)。
【0053】
そして、コイル導線31が巻回されたコイル保持部材4が、ティース21bに取り付けられる。基体部41は、ティース21bに対応する枠状であり、基体部41がティース21bの周囲を囲むようにしてここに取り付けられた状態において、基体部41の内周面が、全体的に、ティース21bの外周面に対して、隙間を設けることなく接触する。また、この状態において、基体部41の各長尺部分41aに設けられているスペーサ部42は、スロットSに沿って延在する。
【0054】
このようにして、コイル導線31が巻回されたコイル保持部材4がティース21bに取り付けられることで、コイル導線31が、コイル保持部材4を介してティース21bに巻回されてスロットSに配置された状態となる。そして、この状態において、コイル導線31のターン間に、スロットSの延在方向に延びる隙間Gが画定される。
【0055】
<3.コイル3の冷却態様>
回転電機100におけるコイル3の冷却態様について、引き続き図1図5を参照しながら説明する。
【0056】
回転電機100においては、上記の通り、空間形成部材5が、各スロットSに配置されたコイル3(具体的には、コイル導線31)を収容するコイル収容空間50を形成しており、冷却媒体供給部6が、各スロットSに形成されるコイル収容空間50に冷却媒体を供給する。これによって、コイル収容空間50に配置されているコイル導線31が、冷却媒体によって直接冷却される。
【0057】
ここで、スロットSに配置されるコイル導線31のターン間には、スロットSの延在方向に延びる隙間Gが画定されている。したがって、コイル収容空間50に供給される冷却媒体の一部は、この隙間Gを流通する。すなわち、循環流路61から導入口531aおよび分岐流路532aを介して各コイル収容空間50に流入した冷却媒体の一部は、隙間Gの延在方向の一端から流入し、隙間G内を流れて、その延在方向の他端から流出し、分岐流路523bおよび導出口531bを介して、循環流路61に導出される。冷却媒体がコイル導線31のターン間に形成されている隙間Gを流れることによって、コイル導線31と冷却媒体との接触面積が十分に確保され、コイル3が効果的に冷却される。
【0058】
特に、ここでは、隙間Gを画定するスペーサ部42の延在途中に、切欠き部421が設けられており、これによって、コイル3を放熱する能力(放熱能力)が効果的に高められている。この点について、図6図7を参照しながら説明する。図6には、図4に示される第1の形態に係るコイル保持部材(第1コイル保持部材)4A、および、図5に示される第2の形態に係るコイル保持部材(第2コイル保持部材)4Bの各々によって実現される放熱能力を、シミュレーション(熱流体解析)で算出した結果が示されている。
【0059】
ただし、ここでは、スペーサ部42に切欠き部421が設けられない点においてのみ第1コイル保持部材4Aと相違するコイル保持部材9が「比較例」とされ、この比較例に係るコイル保持部材9によって実現される放熱能力を「1」としたときの比率で、各コイル保持部材4A,4Bの放熱能力が示されている。図7は、比較例に係るコイル保持部材9および第1、第2コイル保持部材4A,4Bによってそれぞれ形成される隙間G(9),G(4A),G(4B)の形状(すなわち、冷却媒体が流通する流路の形状)を模式的に示す図である。
【0060】
図6に示されるように、今回のシミュレーションでは、第1コイル保持部材4Aの放熱能力は、比較例に係るコイル保持部材9に比べて4割程度高いという結果が得られた。また、第2コイル保持部材4Bの放熱能力は、比較例に係るコイル保持部材9に比べて7割程度高いという結果が得られた。その理由は次のように考えられる。
【0061】
まず、コイル3の温度上昇ΔTは、熱抵抗Rと発熱量Wを用いて、下記(式1)で表される。
ΔT=R×W ・・・(式1)
【0062】
つまり、発熱量Wが一定の場合、温度上昇ΔTは、熱抵抗Rで決まる。そして、この熱抵抗Rは、熱伝達率hと放熱面積Aを用いて、下記(式2)で表される。
R=1/h×1/A ・・・(式2)
【0063】
つまり、放熱面積Aが大きくなるほど、また、熱伝達率hが高くなるほど、熱抵抗Rが小さくなり、温度上昇ΔTが小さくなる。すなわち、放熱能力が高くなる。
【0064】
ここで、切欠き部421が設けられるコイル保持部材4A,4Bは、切欠き部421が設けられないコイル保持部材9に比べて、放熱面積が大きい。その理由は次の通りである。
【0065】
すなわち、切欠き部421が設けられるコイル保持部材4A,4Bでは、切欠き部421が設けられている部分において、コイル導線31とスペーサ部42との接触面積が局所的に小さくなっている(図3(b))。例えば、スペーサ部42の幅方向の寸法L0が互いに等しい第1コイル保持部材4Aと比較例に係るコイル保持部材9とを比べると、切欠き部421が設けられるコイル保持部材4Aの方が、切欠き部421が設けられないコイル保持部材9に比べて、切欠き部421によって切り欠かれた領域の総面積分だけ、コイル導線31とスペーサ部42との接触面積が小さい。別の見方をすると、切欠き部421が設けられることで、冷却媒体が流通する流路となる隙間G(4A)が、該切り欠かれた領域の総面積分だけ拡張されている。したがって、この総面積分だけ、冷却媒体とコイル導線31との接触面積(つまりは、放熱面積)が広く確保される。このように、切欠き部421が設けられることによって、該切り欠かれた領域の総面積分だけ、放熱面積が増大する。上記の通り、放熱面積の増大分に応じて、放熱能力が向上する。
【0066】
図6に示されるように、今回のシミュレーションでは、放熱面積が増加することに由来する放熱能力の向上幅は、第1コイル保持部材4Aで2割から2.5割程度、第2コイル保持部材4Bで3割程度であり、第2コイル保持部材4Bの方が、第1コイル保持部材4Aに比べて、放熱面積の増加に由来する放熱能力の向上幅が大きかった。これは、第2コイル保持部材4Bの方が、第1コイル保持部材4Aに比べて、スペーサ部42の幅方向の寸法L0が小さいために、スペーサ部42とコイル導線31との接触面積がより小さい(すなわち、放熱面積がより大きい)ためと考えられる。
【0067】
いうまでもなく、放熱面積を増大させるためには、スペーサ部42とコイル導線31との接触面積を小さくすればよく、必要最小限の接触面積でコイル導線31を保持するように、スペーサ部42の寸法L0、切欠き部421の個数、配置、形状、寸法L1,L2、などを調整することが好ましい。ただし、後述するように、これらの各値は、熱伝達率や圧力損失にも影響を与える。したがって、これらの影響も考慮しつつ、放熱面積の増大幅ができるだけ大きくなるように、各値を調整することが好ましい。
【0068】
また、切欠き部421が設けられるコイル保持部材4A,4Bは、切欠き部421が設けられないコイル保持部材9に比べて、熱伝達率が高い。その理由は次の通りである。
【0069】
すなわち、熱伝達率は、温度差(ここでは、コイル導線31の表面とその近傍にある冷却媒体との温度差)が大きいほど高いところ、冷却媒体の流動距離が長くなるにつれて、この温度差が小さくなり、熱伝達率は低くなっていく。そして、冷却媒体の流動距離が、助走区間と呼ばれる所定の距離を超えると、熱伝達率は一定値に収束する。
【0070】
ここで、切欠き部421が設けられないコイル保持部材9によって形成される隙間G(9)は、幅が一定なストレート形状となる(図7(a))。これに対し、切欠き部421が設けられるコイル保持部材4A,4Bによって形成される隙間G(4A),G(4B)は、その延在途中に、相対的に幅が広い幅広部分Gwが現れる。つまり、相対的に幅が広い幅広部分Gwと相対的に幅が狭い幅狭部分Gnとが交互に現れる非ストレート形状、すなわち、平面視にて凹凸形状となる(図7(b)、図7(c))。
【0071】
このような非ストレート形状の隙間G(4A),G(4B)に冷却媒体が流通されると、冷却媒体の流れに乱れが生じ、冷却媒体が攪拌される。すると、冷却媒体における相対的に高温な部分と相対的に低温な部分との位置交換が促され、コイル導線31の表面の近傍にある冷却媒体の温度が低くなる。これによって、流動距離が助走区間を通過する以前の領域、すなわち、熱伝達率が比較的高い領域が増加し、熱伝達率が向上する。上記の通り、熱伝達率が向上した分だけ、放熱能力が向上する。
【0072】
図6に示されるように、今回のシミュレーションでは、熱伝達率が向上することに由来する放熱能力の向上幅は、第1コイル保持部材4Aで2割程度、第2コイル保持部材4Bで4割程度であり、第2コイル保持部材4Bの方が、第1コイル保持部材4Aに比べて、熱伝達率の向上に由来する放熱能力の向上幅が大きかった。これは、第2コイル保持部材4Bの方が、第1コイル保持部材4Aに比べて、切欠き部421の個数が多いため、隙間G(4B)に現れる幅広部分Gwの個数が多く、冷却媒体の攪拌効果が高かったためと考えられる。
【0073】
なお、今回のシミュレーションでは、切欠き部421の長さ方向の寸法L1と非切欠き部の長さ方向の寸法との比を変えずに、切欠き部421の個数を増やした場合に、熱伝達率の向上幅が大きくなるという結果が得られた。ただし、切欠き部421の長さ方向の寸法L1と非切欠き部の長さ方向の寸法との比を変えずに、切欠き部421の個数を増やしていった場合、切欠き部421の個数がある上限値を超えると、切欠き部421の個数が増えるにつれて熱伝達率の向上幅が小さくなると考えられる(図6の仮想線)。これは、切欠き部421の個数が増えるにつれて、非切欠き部の長さ方向の寸法が短くなり、幅広部分Gwに冷却媒体が滞留しやすくなるためである。
【0074】
このように、切欠き部421の長さ方向の寸法L1と非切欠き部の長さ方向の寸法との比を変えずに、切欠き部421の個数を増やしていくと、熱伝達率の向上幅は、最初は増加し途中で減少に転じるという推移をたどると考えられる。したがって、与えられた条件において、熱伝達率を所定値以上にできるような切欠き部421の個数の範囲が存在する。そこで、切欠き部421の個数を、このような範囲内に規定することも好ましい。具体的には例えば、熱伝達率を任意に選択された所定値以上にできるような切欠き部421の個数の範囲を実験やシミュレーションなどによって特定して、切欠き部421の個数を該特定された範囲内から選択した値に設定することも好ましい。
【0075】
ところで、隙間Gに冷却媒体を流通させるために必要な圧力は、該隙間Gに冷却媒体を流通させるときの圧力損失によって規定される。ポンプ62の負担を低減してその小型化などを実現するためには、この圧力損失が小さい方が好ましい。ここで、上記の通り、切欠き部421が設けられるコイル保持部材4A,4Bによって形成される隙間G(4A),G(4B)は、幅広部分Gwと幅狭部分Gnとが交互に現れる非ストレート形状である。このような形状の隙間G(4A),G(4B)は、上記の通り、放熱面積の増大および熱伝達率の向上という利点が得られるが、その反面で、ストレート形状の隙間G(9)に比べて圧力損失が大きいというデメリットがあるように見える。ところが、実際は、必ずしもそうとは限らない。
【0076】
図8には、各コイル保持部材4A,4Bによって形成される隙間G(4A),G(4B)に冷却媒体を流通させるときの圧力損失を、シミュレーションで算出した結果が示されている。ただし、ここでも、比較例に係るコイル保持部材9によって形成される隙間G(9)に冷却媒体を流通させるときの圧力損失を「1」としたときの比率で、各隙間G(4A),G(4B)に冷却媒体を流通させるときの圧力損失が示されている。
【0077】
今回のシミュレーションでは、冷却媒体は油(冷却オイル)であると想定されており、その密度は「980kg/m」とされている。また、隙間G(9),G(4A),G(4B)に送出される冷却媒体の流速は「0.5m/s」とされている。このような条件においては、各コイル保持部材4A,4Bによって形成される隙間G(4A),G(4B)の圧力損失は、比較例に係るコイル保持部材9によって形成される隙間G(9)の圧力損失に比べて、2割程度低いものとなった。その理由は次のように考えられる。
【0078】
まず、隙間G(9),G(4A),G(4B)に冷却媒体を流通させるときには、摩擦に由来する圧力損失(以下「摩擦圧損」という)ΔP1が生じる。さらに、切欠き部421が設けられるコイル保持部材4A,4Bによって形成される非ストレート形状の隙間G(4A),G(4B)に冷却媒体を流通させるときには、冷却媒体が幅狭部分Gnと幅広部分Gwとの境界を通過する際に、さらなる圧力損失ΔP2が生じる。すなわち、非ストレート形状の隙間G(4A),G(4B)では、摩擦圧損ΔP1に加えて、形状が非ストレートであることに由来する圧力損失(以下「形状圧損」という)ΔP2が生じる。いうまでもなく、切欠き部421が設けられないコイル保持部材9によって形成されるストレート形状の隙間G(9)では、形状圧損ΔP2はゼロとなる。
【0079】
摩擦圧損ΔP1は、摩擦係数λ、隙間Gによって形成される流路の長さL、代表長さ(平均流路幅)d、流通される冷却媒体の密度ρ、および、冷却媒体の流速Uを用いて、下記(式3)で与えられる。
ΔP1=λ(L/d)×(1/2)ρU ・・・(式3)
ただし、摩擦係数λには流速の逆数(1/U)が含まれており、ΔP1は流速Uに比例する。
【0080】
一方、1個の切欠き部421に由来する形状圧損(すなわち、1個の幅広部分Gwを通過する際に生じる形状圧損)ΔP2は、損失係数ζ、流通される冷却媒体の密度ρ、および、冷却媒体の流速Uを用いて、下記(式4)で与えられる。
ΔP2=ζ×(1/2)ρU ・・・(式4)
ただし、損失係数ζは最大で「約1」である。
【0081】
今回の条件においては、上記(式4)から算出される形状圧損ΔP2が約0.1kPa程度であったのに対し、上記(式3)から算出される算出される摩擦圧損ΔP1はこの形状圧損ΔP2の100倍以上となった。つまり、今回の条件のように、冷却媒体の流速が比較的遅く、冷却媒体の粘度が比較的高い条件の下では、摩擦圧損ΔP1が支配的となり、形状圧損ΔP2は摩擦圧損ΔP1に対して無視できる程度に十分に小さいものとなる。
【0082】
そして、この摩擦圧損ΔP1は、上記の(式3)より、流速Uに比例する。ここで、切欠き部421が設けられるコイル保持部材4A,4Bによって形成される隙間G(4A),G(4B)には、その途中に幅広部分Gwが存在しており、ここで隙間G(4A),G(4B)の断面積(すなわち、冷却媒体の流路断面積)が局所的に広がっている。このため、幅広部分Gwを通過する際に冷却媒体の流速が低下する。その結果、流速に比例する摩擦圧損ΔP1が小さくなる。
【0083】
このように、少なくとも、冷却媒体の流速が比較的遅く、冷却媒体をオイル(あるいは、これと同程度の密度、粘度を有するような物質)とする条件の下では、切欠き部421に由来する形状圧損ΔP2が、摩擦圧損ΔP1に対して十分に小さくなり、かつ、幅広部分Gwが形成されることによる摩擦圧損ΔP1の低減効果が大きく現れる。このため、各コイル保持部材4A,4Bによって形成される隙間G(4A),G(4B)の圧力損失が、比較例に係るコイル保持部材9によって形成される隙間G(9)の圧力損失に比べて低くなると考えられる。もっとも、冷却媒体の流速や種類などの条件が異なれば、摩擦圧損ΔP1と形状圧損ΔP2の関係および各値も変わってくるので、切欠き部421が設けられた場合に必ず圧力損失が低くなるとは限らない。しかしながら、少なくとも上記に近い条件の下では、切欠き部421が設けられることによって圧力損失が増加するというデメリットは生じにくいといえる。
【0084】
図8に示されるように、今回のシミュレーションでは、第2コイル保持部材4Bによって形成される隙間G(B)の方が、第1コイル保持部材4Aによって形成される隙間G(A)よりも、圧力損失の低下幅が大きかった。これは、第2コイル保持部材4Bの方が、第1コイル保持部材4Aに比べて、切欠き部421の個数が多く、また、スペーサ部42の幅方向の寸法L0(4B)が小さいため、冷却媒体の流速の低減幅が大きかったためと考えられる。
【0085】
なお、今回のシミュレーションでは、切欠き部421の長さ方向の寸法L1と非切欠き部の長さ方向の寸法との比を変えずに、切欠き部421の長さ方向の寸法L1を短くした場合に、圧力損失が小さくなるという結果が得られた。ただし、切欠き部421の長さ方向の寸法L1と非切欠き部の長さ方向の寸法との比を変えずに、切欠き部421の長さ方向の寸法L1をさらに短くしていった場合、該寸法L1がある下限値を下回ると、形状圧損ΔP2の影響が無視できなくなるため、圧力損失が増加に転じると考えられる(図8の仮想線)。
【0086】
このように、切欠き部421の長さ方向の寸法L1と非切欠き部の長さ方向の寸法との比を変えずに、切欠き部421の長さ方向の寸法L1を小さくしていくと、圧力損失は、最初は低下し途中で増加に転じるという推移をたどると考えられる。したがって、与えられた条件において、圧力損失を所定値以下にできるような長さ方向の寸法L1の範囲が存在する。そこで、切欠き部421の長さ方向の寸法L1を、このような範囲内に規定することも好ましい。具体的には例えば、ポンプ62の能力などに基づいて、許容される圧力損失の最大値を特定し、さらに、圧力損失をこの最大値以下にできるような寸法L1の範囲を実験やシミュレーションなどによって特定して、切欠き部421の長さ方向の寸法L1を該特定された範囲内から選択した値に設定することも好ましい。
【0087】
<4.効果>
上記の実施形態に係る回転電機100は、ロータ1と、ステータ2と、これらの少なくとも一方に設けられたティース21bに巻回されたコイル導線31を含んでなるコイル3と、を備え、ティース21b間に形成されるスロットSに沿って延在し、コイル導線31のターン間に挿入されることで、ターン間に隙間Gを画定するスペーサ部42と、該隙間Gに冷却媒体を流通させる冷却媒体供給部6と、を備える。そして、スペーサ部42の延在途中に、該スペーサ部42の幅方向の寸法が相対的に短くなるように切り欠かれた切欠き部421が設けられる、ことを特徴とする。
【0088】
この構成によると、コイル導線31のターン間に隙間Gが画定され、ここに冷却媒体が流通されるので、コイル導線31と冷却媒体との接触面積が十分に確保され、コイル3が効果的に冷却される。また、スペーサ部42の延在途中に切欠き部421が設けられることで、冷却媒体の流路となる隙間Gの途中部分に、局所的に幅広な領域Gwが形成される。このような非ストレート形状の流路を通過する際に、冷却媒体の流れに乱れが生じ、冷却媒体が攪拌されることで、熱伝達率が向上する。また、スペーサ部42に切欠き部421が設けられることで、コイル導線31とスペーサ部42との接触面積が小さくなり、その分、コイル導線31と冷却媒体との接触面積(つまりは、放熱面積)が増大する。熱伝達率の向上と放熱面積の増大はいずれも放熱能力の向上につながるため、高い冷却性能が実現される。
【0089】
また、上記の実施形態に係る回転電機100においては、切欠き部421が、スペーサ部42の延在途中に複数個設けられる、ことを特徴とする。
【0090】
この構成によると、冷却媒体の流路となる隙間Gの途中部分に、局所的に幅広な領域Gwが複数個形成される。したがって、冷却媒体の攪拌作用が高まり、熱伝達率(ひいては、放熱能力)が大きく向上する。これにより、特に高い冷却性能が実現される。
【0091】
また、上記の実施形態に係る回転電機100においては、複数個の切欠き部421が、一定のピッチで配置される。
【0092】
この構成によると、場所によって放熱能力の偏りが生じにくくなり、コイル3が均一に冷却される。
【0093】
また、上記の実施形態に係る回転電機100において、切欠き部421の長さ方向の寸法L1が、隙間Gに冷却媒体を流通させるときの圧力損失が所定値以下となるような範囲内に規定されていることが好ましい。
【0094】
この構成によると、隙間Gに冷却媒体を流通させるときの圧力損失が所定値以下となるので、冷却媒体を流通させるための機構(例えば、ポンプ62など)の負荷を小さくすることができる。
【0095】
<5.第1変形例>
スペーサ部42に設けられる切欠き部421の形状は、上記の実施形態で例示したものに限られるものではない。すなわち、上記の実施形態において、切欠き部421は、角部分が直角形状とされており、平面視にて矩形状であってが、切欠き部421の形状はこれに限られるものではない。
【0096】
例えば、図9(b)に示される切欠き部421のように、各角部分1211u,1211dがアール形状であってもよい。また例えば、図9(c)に示される切欠き部421のように、各角部分1211u,1211dがテーパ形状(C面取り)であってもよい。また例えば、図9(d)に示される切欠き部421のように、冷却媒体の流れに対して上流側の角部分(上流側角部分)1211uがアール形状とされ、冷却媒体の流れに対して下流側の角部分(下流側角部分)1211dがテーパ形状とされてもよい。また例えば、図9(e)に示される切欠き部421のように、上流側角部分1211uがアール形状とされ、下流側角部分1211dが直角形状とされてもよい。また例えば、図9(f)に示される切欠き部421のように、上流側角部分1211uがテーパ形状とされ、下流側角部分1211dが直角形状とされてもよい。
【0097】
切欠き部421の角部分1211u,1211dの形状は、澱みQの発生のしやすさに影響を与える。すなわち、切欠き部421の角部分1211u,1211dが例えば直角形状である場合(図9(a))、幅広部分Gwと幅狭部分Gnとの境界において、流路幅が急激に変化する。すると、条件によっては、幅狭部分Gnから幅広部分Gwに流入するポイントで、冷却媒体の流れが、真っ直ぐに進むものと、幅広部分Gwに滞留するものとに剥離する可能性がある。同様に、幅広部分Gwから幅狭部分Gnに流入するポイントで、冷却媒体の流れが、幅広部分Gwに滞留するものと、真っ直ぐに進むものとに剥離する可能性もある。これらの流れの剥離が生じると、角部分1211u,1211dの近傍に、冷却媒体の流れの澱みQが生じる。このような澱みQでは冷却媒体の流路がゼロに近くなってしまうため、熱伝達率が低下し、有効な放熱面積も減少する。したがって、放熱能力の低下を招く虞がある。
【0098】
この点、図9(b)~図9(f)に示される切欠き部421のように、角部分1211u,1211dの少なくとも一方が、アール形状あるいはテーパ形状とされる場合、流路幅の変化が緩やかとなるので、該角部分1211u,1211dにおいて流れの剥離が生じにくく、該角部分1211u,1211dの近傍に冷却媒体の澱みQが生じにくい。したがって、澱みQが生じることに由来する放熱能力の低下が抑制される。
【0099】
澱みQの発生を抑制する効果は、角部分1211u,1211dがアール形状とされたときに最も高く、次にテーパ形状が高く、直角形状は最も低い。したがって、澱みQの発生を抑制するという観点からすると、角部分1211u,1211dの形状として、アール形状が最も好ましく、その次にテーパ形状が好ましく、その次に直角形状が好ましい。
【0100】
流れの剥離は、下流側角部分1211dよりも上流側角部分1211uにおいて生じやすく、上流側角部分1211uの近傍には特に澱みQが発生しやすい。したがって、少なくとも上流側角部分1211uが、アール形状あるいはテーパ形状とされることも好ましい。
【0101】
また、角部分1211u,1211dの形状は、冷却媒体を攪拌する能力にも影響を与える。すなわち、隙間Gを流れる冷却媒体は、切欠き部421の角部分1211u,1211dを通過する際に流れを大きく乱されて攪拌されるところ、冷却媒体を攪拌する作用は、直角形状が最も高く、次にテーパ形状が高く、アール形状は最も低い。上記の通り、冷却媒体が大きく攪拌されるほど、熱伝達率が上昇し、放熱能力が向上する。したがって、冷却媒体を攪拌するという観点からすると、角部分1211u,1211dの形状として、直角形状が最も好ましく、その次にテーパ形状が好ましく、その次にアール形状が好ましい。
【0102】
特に、角部分1211u,1211dの形状がテーパ形状とされることで、該角部分の近傍に冷却媒体の澱みQが生じることを抑制しつつ、該角部分1211u,1211dでの冷却媒体の攪拌効果も確保することができる。したがって、澱みQに由来する熱伝達率の低下を抑制しつつ、冷却媒体を攪拌することによる熱伝達率の向上を図ることが可能となり、バランス良く放熱能力を高めることができる。
【0103】
冷却媒体は、下流側角部分1211dを通過する際に、特に攪拌されやすい。したがって、冷却媒体を効果的に攪拌するためには、少なくとも下流側角部分1211dが、直角形状あるいはテーパ形状とされることが好ましい。
【0104】
さらに、角部分1211u,1211dの形状は、泡の発生のしやすさ、圧力損失、などにも影響を与える。例えば、テーパ形状およびアール形状の角部分1211d,1211dは、直角形状の角部分1211u,1211dに比べて、泡が発生しにくく、圧力損失も低い。したがって、泡の発生を抑制するため、あるいは、圧力損失を低減するためには、角部分1211u,1211dが、アール形状あるいはテーパ形状とされることが好ましい。
【0105】
いうまでもなく、角部分1211u,1211dの形状は、直角形状、アール形状、テーパ形状、以外のものであってもよい。また、上流側角部分1211uと下流側角部分1211dの形状は異なるものであってもよく、形状の組み合わせも自由である。
【0106】
<6.第2変形例>
上記の実施形態において、スペーサ部42は、基体部41に設けられ、これら各部41,42を含んでコイル保持部材4が構成されていたが、スペーサ部42を設ける態様はこれに限らない。例えば、図10に示されるように、仕切り壁52にスペーサ部521を設けてもよい。この場合のスペーサ部521の構成は、基体部41に設けられるスペーサ部42と同様のものとすることができる。
【0107】
仕切り壁52にスペーサ部521を設ける場合には、コイル保持部材4を省略してもよい。ただし、図10に示されるように、コイル保持部材4にスペーサ部42を設けるとともに、仕切り壁52にスペーサ部521を設ける構成とすれば、コイル導線31が幅方向の両端部において、スペーサ部42,521に保持されることとなるため、コイル導線31が幅方向の一端部においてのみ保持される場合と比べて、コイル導線31の姿勢が平坦に維持される。これによって、放熱性能が安定的に維持されるとともに、隙間Gによって形成される流路の圧力損失が高まりにくい。
【0108】
また、コイル保持部材4にスペーサ部42を設けるとともに、仕切り壁52にスペーサ部521を設けることで、隙間Gによって形成される流路の形状を様々にアレンジすることができる。例えば、各スペーサ部42,521に設ける切欠き部の配置を同位相とすることで(すなわち、対向する位置に切欠き部を設けることで)、隙間Gによって形成される流路における幅広部分Gwと幅狭部分Gnとの差を大きくすることができる。また、各スペーサ部42,521に設ける切欠き部の配置を半位相ずらすことで、隙間Gによって形成される流路を蛇行形状とすることができる。
【0109】
<7.第3変形例>
スペーサ部42に設けられる切欠き部421の個数、配置、形状、寸法L1,L2、などは、上記の実施形態で例示したものに限らない。
【0110】
例えば、スペーサ部42の延在途中に設けられる切欠き部421の個数は、1個であってもよい。切欠き部421を1個設ける場合は、スペーサ部42の延在方向の中央近傍に設けることも好ましい。また、スペーサ部42の延在途中だけでなく、スペーサ部42の延在方向の端部にも切欠き部を設けてもよい。
【0111】
また例えば、切欠き部421は必ずしも一定のピッチで配置する必要はなく、例えば、スペーサ部42の延在方向の中央側にいくにつれて、ピッチが狭くなるものとしてもよい。
【0112】
また例えば、切欠き部421の幅方向の寸法L2は、スペーサ部42の幅方向の寸法よりも小さいものであってもよい。
【0113】
<8.第4変形例>
基体部41に設けられるスペーサ部42の個数、配置、形状、長さ方向の寸法、幅方向の寸法L0、などは、上記の実施形態で例示したものに限らない。
【0114】
例えば、上記の実施形態においては、各長尺部分41aに、コイル導線31のターン数に1を加えた個数のスペーサ部42が設けられており、コイル導線31の全てのターンの両側にスペーサ部42が配置されるものとしたが、スペーサ部42の個数はターン数以下であってもよい。例えば、スペーサ部42の個数をターン数よりも少なくして、複数のターンからなるターン束の間にスペーサ部42が挿入されて、ターン束の間に隙間Gが画定されるものとしてもよい。
【0115】
また例えば、上記の実施形態において、各長尺部分41aに設けられる複数のスペーサ部42は一定のピッチで配置されていたが、スペーサ部42間のピッチは一定でなくともよい。
【0116】
また例えば、上記の実施形態においては、スペーサ部42の長尺方向の寸法は、長尺部分41aの寸法と略同じものとされていたが、スペーサ部42の長尺方向の寸法は、長尺部分41aの寸法よりも短いものであってよい。すなわち、スペーサ部42は、必ずしも、長尺部分41aの一端から他端に亘って延在しなくてもよい。
【0117】
また、スペーサ部42は、一体的に形成された単一の部品から形成されてもよいし、分割された複数の部品が組み合わされることによって形成されてもよい。後者の場合において、複数の部品が分離して配置されることでスペーサ部42を形成してもよいし、複数の部品が接続されることでスペーサ部42を形成してもよい。
【0118】
また、スペーサ部42の厚みも、適宜に規定することができる。ただし、スペーサ部42の厚みが小さいほど(すなわち、薄いほど)、コイル導線31のターン間に画定される隙間Gの厚み(すなわち、冷却媒体の流路の厚み)が小さくなる。流路の厚みが小さくなるにつれて、ここを流れる冷却媒体の温度境界層が薄くなり、流路を流れる冷却媒体における相対的に低温な層部分の厚みが薄くなる。そして、温度境界層が薄いほど、コイル導線31の表面と、その近傍にある冷却媒体との温度差が大きくなり、熱伝達率が向上する。すなわち、スペーサ部42の厚みが小さいほど、熱伝達率が向上する。したがって、スペーサ部42の厚みは、スペーサ部42の機能(すなわち、隣り合う段のスペーサ部42間にコイル導線31を保持する機能、および、ターン間に隙間Gを画定する機能)が損なわれない限りにおいて、できるだけ小さい方が好ましい。一例として、スペーサ部42の厚みは、例えば、コイル導線31の厚みの1/2~1/10程度とすることができる。
【0119】
<9.他の変形例>
上記の各実施形態において、ロータ1、ステータ2、および、コイル3などの構成は、上記に例示したものに限られるものではない。例えば、ロータ1、または(および)、ステータ2は、複数の電磁鋼板が軸方向に積層された構造を有してもよい。また例えば、ロータがステータの外側に配置されたアウターロータ型で構成されてもよい。また例えば、ティースが、ロータの側に形成されたものであってもよい。
【0120】
上記の各実施形態においては、本発明が、回転電機100は、航空機の推進用ファンモータとして用いられる回転電機100に適用された場合を例示したが、本発明は、これ以外の各種の回転電機に適用することができることはいうまでもない。
【0121】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0122】
1 ロータ
2 ステータ
3 コイル
31 コイル導線
4 コイル保持部材
41 基体部
42 スペーサ部
421 切欠き部
5 空間形成部材
51 隔壁
52 仕切り壁
53a,53b 蓋部
50 コイル収容空間
6 冷却媒体供給部
61 循環流路
62 ポンプ
63 冷却器
100 回転電機
図1
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図10