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特開2022-125508めっき液撹拌用パドル、めっき液撹拌用パドルを用いためっき装置、及びめっき方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125508
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】めっき液撹拌用パドル、めっき液撹拌用パドルを用いためっき装置、及びめっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/10 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
C25D21/10 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023123
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】古山 大貴
(72)【発明者】
【氏名】川合 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】巽 康司
(57)【要約】
【課題】めっき液を適切に撹拌することで、パドルの一部分が遮蔽される特赦な構造に由来するめっきムラや、高さ均一性の悪化、電流線の集中による被めっき材の中央部と端部とのめっきの均一性のムラが生じることを抑制できるめっき液撹拌用パドル、めっき液撹拌用パドルを用いためっき装置、及びめっき方法を提供する。
【解決手段】めっき液が貯留されためっき槽内に被めっき材とともに配置され、めっき液を撹拌するめっき液撹拌用パドルであって、板状のパドル本体と、パドル本体の一方の面に一方向に沿って相互に平行に形成された複数のリブと、を備え、複数のリブ間に、めっき液が流通可能な複数の孔部がパドル本体を貫通状態に形成され、複数のリブは、一方の面から離間する方向に突出し、かつ、パドル本体から離れるに従って幅が小さくなる形状である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液が貯留されためっき槽内に被めっき材とともに配置され、前記めっき液を撹拌するめっき液撹拌用パドルであって、板状のパドル本体と、前記パドル本体の一方の面に一方向に沿って相互に平行に形成された複数のリブと、を備え、前記複数のリブ間に、前記めっき液が流通可能な複数の孔部が前記パドル本体を貫通状態に形成され、前記複数のリブは、前記一方の面から離間する方向に突出し、かつ、前記パドル本体から離れるに従って幅が小さくなる形状であることを特徴とするめっき液撹拌用パドル。
【請求項2】
前記複数のリブの高さが3mm以上20mm以下であり、前記複数のリブの間隔が5mm以上50mm以下であり、かつ、前記複数のリブの側面の前記一方の面に対する傾斜角度が29°以上75°以下であることを特徴とする請求項1に記載のめっき液撹拌用パドル。
【請求項3】
前記パドル本体の厚さが4mm以上20mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のめっき液撹拌用パドル。
【請求項4】
めっき液が貯留されるめっき槽と、めっき槽内に配置されるアノードと、前記めっき槽内のめっき液を供給するための供給部と、請求項1から3のいずれか一項に記載のめっき撹拌用パドルと、前記めっき槽内に配置された前記めっき撹拌用パドルを前記一方向に沿って反復移動させるパドル駆動部と、を備え、前記めっき撹拌用パドルは、前記複数のリブが被めっき材に対向するように前記めっき槽内に配置されることを特徴とするめっき液撹拌用パドルを用いためっき装置。
【請求項5】
請求項4に記載のめっき装置を用いて前記被めっき材をめっきする際に、前記パドル駆動部を制御して、前記めっき撹拌用パドルを60mm以上180mm以下のストロークで100mm/秒以上600mm/秒以下の速度で移動させることを特徴とするめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板等の被めっき材にめっきを施すめっき装置に用いられるめっき液撹拌用パドル、めっき液撹拌用パドルを用いためっき装置、及びめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用プリント基板等へのめっき技術として、キャリア搬送型のめっき装置が多く用いられている。このようなキャリア搬送型のめっき装置は、めっき液が貯留されためっき槽内に板状のワーク(被めっき材)を搬送し、この被めっき材を固定しためっき治具ごとめっき液内で被めっき材を上下方向又は左右方向に揺動させ、あるいは、ポンプを用いてめっき槽内のめっき液を循環させるなどにより、被めっき材表面近傍のめっき液の流れを均一にするような機構になっている。この技術を用いて、銅などのめっきを被めっき材に施すことが可能となっている。
【0003】
近年、半導体製造分野において、パターン加工された被めっき材に対して、微小な部分へのめっきが要求されている。この点、めっき液の性能も向上しているものの、被めっき材のサイズも大きくなっている為、従来の装置では被めっき材に対して確実にめっきを施すことが難しい。このような被めっき材表面近傍の液流れを均一にする為、めっき液を撹拌するパドルを設けためっき装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載のめっき装置は、めっき液を保持するためのめっき槽と、電源の陽極に接続されるように構成されるアノードと、めっき槽内に保持されためっき液を撹拌するために、めっき槽内で運動可能なパドルとを備えており、このパドルは、めっき液を撹拌しているときに、アノードから見て基板の非パターン領域の少なくとも一部が常時遮蔽されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-151874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のめっき装置により実行されるパドル撹拌は一般的な手法であるが、先端の半導体デバイスではムーアの法則によりパターンの大きさが微細化している為に、パターン内部に確実に液が入り込むことも考慮しないと、非パターン領域の一部が遮蔽される特殊な構造により生じるめっき液の不十分な流れに由来するめっきムラや、高さ均一性の悪化が生じる問題や、電流線の集中によるパターンの疎密や、電流線が外部部分や非パターン部に近接するパターン部に集中することに由来する被めっき材の中央部と端部でのめっきの均一性のムラ等が生じる問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、めっき液を適切に撹拌することで、パドルの一部分が遮蔽される特殊な構造に由来するめっきムラや、高さ均一性の悪化、電流線の集中による被めっき材の中央部と端部とのめっきの均一性のムラが生じることを抑制できるめっき液撹拌用パドル、めっき液撹拌用パドルを用いためっき装置、及びめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のめっき液撹拌用パドルは、めっき液が貯留されためっき槽内に被めっき材とともに配置され、前記めっき液を撹拌するめっき液撹拌用パドルであって、板状のパドル本体と、前記パドル本体の一方の面に一方向に沿って相互に平行に形成された複数のリブと、を備え、前記複数のリブ間に、前記めっき液が流通可能な複数の孔部が前記パドル本体を貫通状態に形成され、前記複数のリブは、前記一方の面から離間する方向に突出し、かつ、前記パドル本体から離れるに従って幅が小さくなる形状である。
【0008】
本発明では、めっき槽内でめっき液撹拌用パドルが一方向(複数のリブが並ぶ方向)に沿って所定のストロークで反復移動すると、複数のリブのそれぞれによりめっき液が撹拌されるとともに、各リブの幅がパドル本体から離れるに従って小さくなっているため、各リブ間のめっき液がリブの側面(傾斜面)に押されることにより、リブの側面に沿って流れて先端に向かって移動する。このため、リブ間の孔部からパドル本体の他の面側のめっき液が孔部内に引き込まれ、順次リブ間に流れて、同様にリブの先端に向かって移動する。つまり、パドル本体のリブが形成されていない側の面側からリブが形成されている面に向かってめっき液が移動し、これによりめっき液が被めっき材に向けて流れる。このようにめっき液撹拌用パドルを一方向に移動させるだけで、めっき液が被めっき材に向けて移動するので、被めっき材表面に常に新しいめっき液を供給しながら被めっき材表面近傍のめっき液を適切に撹拌できる。このように被めっき材表面の全域でめっき液が適切に撹拌するので、被めっき材にパドルの一部が遮蔽されることにより生じるめっきムラや、高さ均一性の悪化、電流線の集中による被めっき材の中央部と端部とのめっきの均一性のムラが生じることを抑制できる。
【0009】
本発明のめっき液撹拌用パドルの好ましい態様としては、前記複数のリブの高さが3mm以上20mm以下であり、前記複数のリブの間隔が5mm以上50mm以下であり、かつ、前記複数のリブの側面の前記一方の面に対する傾斜角度が29°以上75°以下であるとよい。
複数のリブの高さが3mm未満であると、リブの側面の先端までの距離が小さくなり、リブの側面に沿って先端に向かって移動させにくくなるので、被めっき材に向かって移動するめっき液の量が少なくなり、被めっき材の表面でめっき液を適切に撹拌できない可能性がある。一方、複数のリブの高さが20mmを超えると、パドル本体を第1方向に移動させる際の抵抗が大きくなるため、適切なストロークでパドル本体を移動させにくい、もしくは、パドル本体を移動させるための機構が大型化する可能性がある。
複数のリブの間隔が5mm未満であると、リブの間隔が狭すぎて複数の孔部の開口面積を大きく取れないため、リブの側面に沿って移動するめっき液の量が少なくなったり、電流を遮蔽しすぎたりする可能性があり、複数のリブの間隔が50mmを超えると、リブの間隔が広すぎて複数の孔部の開口面積が大きくなり過ぎて、側面に沿わないめっき液の量が増え、適切にめっき液を被めっき材に向けて移動させにくくなったり、電流線の遮蔽効果が低下したりする可能性がある。
複数のリブの側面の傾斜角度が29°未満であると、リブの高さを3mm以上にすることが難しいことから、被めっき材に向かって移動するめっき液の量が少なくなり、傾斜角度が75°を超えると、側面の傾斜角度が大きすぎて、パドル本体を反復移動させる際の抵抗が大きくなるため、適切なストロークでパドル本体を移動させにくい、もしくは、パドル本体を移動させるための機構が大型化する可能性がある。
【0010】
本発明のめっき液撹拌用パドルの好ましい態様としては、前記パドル本体の厚さが4mm以上20mm以下であるとよい。
なお、上記パドル本体の厚さとは、リブを除いた板状部分の最大の厚さをいう。
パドル本体の厚さが4mm未満であると、パドル本体の耐久性が低くなったり、パドル本体の反りによる攪拌のブレが生じたりする可能性がある。一方、パドル本体の厚さが20mmを超えると、パドル本体を反復移動させる際の抵抗が大きくなるため、適切なストロークでパドル本体を移動させにくい、もしくは、パドル本体を移動させるための機構が大型化する可能性がある。
【0011】
本発明のめっき液撹拌用パドルを用いためっき装置は、めっき液が貯留されるめっき槽と、めっき槽内に配置されるアノードと、前記めっき槽内のめっき液を供給するための供給部と、上記めっき撹拌用パドルと、前記めっき槽内に配置された前記めっき撹拌用パドルを前記一方向に沿って反復移動させるパドル駆動部と、を備え、前記めっき撹拌用パドルは、前記複数のリブが被めっき材に対向するように前記めっき槽内に配置される。
【0012】
本発明では、めっき液撹拌用パドルを一方向に沿って反復移動させるだけで、めっき液が被めっき材に向けて移動するので、被めっき材表面近傍のめっき液を適切に撹拌できる。このように被めっき材表面の全域でめっき液が適切に撹拌するので、被めっき材にパドルの一部が遮蔽されることにより生じるめっきムラや、高さ均一性の悪化、電流線の集中による被めっき材の中央部と端部とのめっきの均一性のムラが生じることを抑制できる。
【0013】
本発明のめっき方法は、上記めっき装置を用いて前記被めっき材をめっきする際に、前記パドル駆動部を制御して、前記めっき撹拌用パドルを60mm以上180mm以下のストロークで100mm/秒以上600mm/秒以下の速度で移動させる。
【0014】
めっき液撹拌用パドルのストロークが60mm未満であったり、100mm/秒未満の速度であったりすると、めっき液を被めっき材に向けて適切に流すことができない。一方、ストロークが180mmを超えるとめっき槽を不要に拡大する必要や、被めっき物の全域をパドルで覆えない可能性が高く、遮蔽効果が弱まる問題があり、移動速度が600mm/秒を超えると、パドルの移動速度が速すぎてめっき槽内でめっき液を適切に撹拌できない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、めっき液を適切に撹拌することで、パドルの一部が遮蔽される特殊な構造に由来するめっきムラや、高さ均一性の悪化、電流線の集中による被めっき材の中央部と端部とのめっきの均一性のムラが生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るめっき液撹拌用パドルを備えるめっき装置を側面側から見た概略図である。
図2】上記実施形態のめっき装置を上面側から見た概略図である。
図3】上記実施形態のめっき液撹拌用パドルの平面図、上面図及び側面図である。
図4】上記実施形態のめっき液撹拌用パドルの一部分を拡大して示す斜視図である。
図5】上記実施形態のめっき液撹拌用パドルの一部分におけるめっき液の移動方向を示す断面図である。
図6】上記実施形態の第1変形例に係るめっき液撹拌用パドルのリブの断面を示す断面図である。
図7】上記実施形態の第2変形例に係るめっき液撹拌用パドルのリブの断面を示す断面図である。
図8】上記実施形態の第3変形例に係るめっき液撹拌用パドルの孔部を示す平面図である。
図9】上記実施形態の第4変形例に係るめっき液撹拌用パドルの孔部を示す平面図である。
図10】上記実施形態の第5変形例に係るめっき液撹拌用パドルの孔部を示す平面図である。
図11】上記実施形態の第6変形例に係るめっき液撹拌用パドルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のめっき液撹拌用パドル、及びこれを備えためっき装置、並びにめっき方法の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0018】
[めっき装置の構成]
めっき装置10は、めっき液を用いて被めっき材の表面をめっきするためのめっき装置である。本実施形態では、めっき液として光沢剤を含むバンプめっき形成用の純錫めっき液を用い、被めっき材としての基板20に錫めっきを施す例について説明する。
めっき装置10は、図1及び図2に示すように、めっき液を貯留するめっき槽11と、めっき槽11内にめっき液を供給する供給部12と、めっき槽11内に配置されるアノード13と、めっき槽11内において基板20を着脱自在に保持する基板保持部14(図2では図示省略)と、めっき槽11の開口端からめっき槽11内に基板20とともに配置され、めっき液を撹拌するためのめっき液撹拌用パドル30と、めっき液撹拌用パドル30を一方向(図1及び図2に示す矢印に沿う方向)に反復移動させるパドル駆動部15(図2では図示省略)と、めっき槽11に連結され、めっき槽11内のめっき液をオーバーフローさせるオーバーフロー槽16(図1では図示省略)と、オーバーフロー槽16内配置されるポンプ17と(図1では図示省略)を備えている。
【0019】
めっき槽11内で循環しているめっき液は、オーバーフローされ、オーバーフロー槽16に流れ込む。このオーバーフロー槽16の底部には、排液口(図示省略)が設けられており、ポンプ17によって揚水されるとともにめっき液の流量を制御される。そして、オーバーフロー槽16から供給部12を介して基板20方向に液が流され、再び循環する。このめっき槽11及びオーバーフロー槽16からなる循環経路には、めっき液内の異物を除去するためのフィルタ―ハウジングを設置しておくことが好ましい。なお、めっき槽11の底部に揚水させためっき液の一部を分岐させて、底部からめっき液を供給することとしてもよい。また、めっき槽10内には、図示を省略するが、めっき液の温度を調節する温度調節器等が設けられている。
【0020】
供給部12及びアノード13は、図2及び図3に示すように、めっき槽11の一方側の端部近傍(図2及び図3においては左側の端部)に配置される。また、めっき液撹拌用パドル30は、めっき槽11の略中央(図2及び図3においては供給部12及びアノード13より右側の位置)に配置され、基板保持部14及び基板20は、めっき槽12の他方側に配置される。つまり、めっき槽11を上側から見て、供給部12及びアノード13、めっき液撹拌用パドル30、基板保持部14及び基板20の順でめっき槽11内に配置される。また、めっき液撹拌用パドル30及び基板20は、めっき槽11のめっき液内にめっき槽11の開口端から鉛直方向に挿入され、めっき液撹拌用パドル30の一方の面(後述する複数のリブ33が形成された面)と基板20の一方の面とが対向して配置される。また、めっき液撹拌用パドル30と基板20との距離は、具体的には、リブ33の頂点部分から被めっき物の表面までの距離は、4mm~70mmに設定されている。
【0021】
なお、本実施形態では、アノード13として、アノードバッグで覆われたアノードバスケットに金属錫をφ10mm前後に切断した粒状のアノードを使用している。基板20とアノード13とは、電源(図示省略)を介して電気的に接続されており、基板20とアノード13との間に電流を流すことにより基板20の表面に錫めっき膜が形成される。この点、本実施形態では、基板20とアノード13との間にめっき液撹拌用パドル30が配置されており、このめっき液撹拌用パドル30を図3に示す矢印に沿う方向に反復移動させることによりめっき液を撹拌するとともに、めっき液を基板20に向けて移動させる。
【0022】
[めっき液撹拌用パドルの構成]
めっき液撹拌用パドル30は、めっき液が貯留されためっき槽11内に基板20とともに配置され、めっき液を撹拌する。このめっき液撹拌用パドル100は、例えば、塩化ビニール等の樹脂や、表面にフッ素樹脂などをコーティングしたチタンやステンレス等の金属等により形成されている。なお、めっき液撹拌用パドル100を形成する素材は、耐薬品性、耐熱性を有していることが好ましい。
このめっき液撹拌用パドル30は、図3に示すように、矩形板状のパドル本体31と、パドル本体31の一方の面(図3の中央に示す平面図では裏面)に一方向に沿って相互に平行に形成された複数のリブ33と、を備え、複数のリブ33間には、めっき液が流通可能な複数の孔部34がパドル本体31を貫通状態に形成されている。
【0023】
パドル本体31の平面サイズは、例えば、420mm~620mm×450mm~660mmとされている。具体的には、パドル本体31の図3における縦方向の長さは、基板20の縦方向の長さよりも大きく設定されているとともに、パドル本体31の図3における横方向の長さも基板20の横方向の長さよりも大きく設定されている。具体的には、パドル本体31の図3における横方向の長さは、パドル本体31の反復移動の振幅(ストローク幅)も考慮され、めっき槽11内においてパドル本体31の他方の面側から見て、パドル本体31が一方側及び他方側に最も移動した場合でも、基板20の全領域に確実に重なる大きさとされている。
また、パドル本体31の厚さが4mm未満であると、パドル本体31の耐久性が低くなる可能性がある。一方、パドル本体31の厚さが20mmを超えると、パドル本体31を反復移動させる際の抵抗が大きくなるため、適切なストロークでパドル本体31を移動させにくい、もしくは、パドル本体31を移動させるための機構が大型化する可能性がある。このため、パドル本体31の厚さは、4mm以上20mm以下に設定されている。
なお、パドル本体31の厚さとは、リブ33を除いた板状部分の最大厚さをいう。
【0024】
さらに、パドル本体31の両側端部(図3における左右方向の端部)は、端部に向かうに従ってその厚さが小さく形成されている。すなわち、パドル本体31の複数のリブ33が形成されている面側の両側端部には、両端部に向かうに従って厚さが小さくなる傾斜面32が形成されている。この傾斜面32を設けることにより、めっき液撹拌用パドル30が図1及び図2の矢印で示す方向に反復移動された際にめっき液から受ける抵抗を小さくしている。
【0025】
複数のリブ33は、パドル本体31の一方の面(図1及び図2では基板20側の面)から離間する方向に突出し、かつ、パドル本体31から離れるに従って幅が小さくなる形状に形成されている。具体的には、複数のリブ33は、図3の上面図に示すように、断面三角形状に形成され、各リブ33の側面331は、傾斜面により形成されている。
また、複数のリブ33の高さは3mm以上20mm以下に設定される。リブ33の高さが3mm未満であると、リブ33の側面331の先端までの距離が小さくなり、めっき液をリブ33の側面331に沿って先端に向かって移動させにくくなるので、基板20に向かって移動するめっき液の量が少なくなり、基板20の表面でめっき液を適切に撹拌できない可能性がある。一方、複数のリブの高さが20mmを超えると、パドル本体31を移動させる際の抵抗が大きくなるため、適切なストロークでパドル本体31を移動させにくい、もしくは、パドル本体31を移動させるための機構が大型化する可能性がある。
【0026】
また、複数のリブ33の間隔は5mm以上50mm以下に設定される。複数のリブ33の間隔が5mm未満であると、リブ33の間隔が狭すぎて複数の孔部34の開口面積を大きく取れないため、リブ33の側面331に沿って移動するめっき液の量が少なくなったり、電流を遮蔽しすぎたりする可能性があり、複数のリブ33の間隔が50mmを超えると、リブ33の間隔が広すぎて複数の孔部34の開口面積が大きくなり過ぎて、側面331に沿わないめっき液の量が増え、適切にめっき液を基板20に向けて移動させにくくなったり、電流線の遮蔽効果が低下したりする可能性がある。なお、本実施形態では、複数のリブ33の間隔は等間隔としているが、これに限らず、上記数値範囲内であれば、各リブ間で異ならせてもよい。
【0027】
さらに、複数のリブ33の側面331のパドル本体31の一方の面に対する傾斜角度θ1は、図5に示すように、29°以上75°以下に設定される。この傾斜角度θ1が29°未満であると、リブ33の高さを3mm以上にすることが難しいことから、基板20に向かって移動するめっき液の量が少なくなり、傾斜角度θ1が75°を超えると、側面331の傾斜角度θ1が大きすぎて、各リブ33間のめっき液がリブの側面331(傾斜面)により押しにくくなり、基板20に向かって移動するめっき液の量が少なくなる。
【0028】
複数のリブ33間に形成される複数の孔部34は、効率良くめっき液を攪拌可能で、かつ、めっき液が効率良く流通可能な個数及び大きさに設定されている。具体的には、複数の孔部34の開口面積の総和は、図3に示す一点鎖線で囲まれたパドル本体31のリブ33間で挟まれた領域Ar1面積の12%以上83%以下に設定されている。これは、複数の孔部34の開口面積の総和が12%未満であると、パドル本体31の複数の孔部34を流通して基板20に向けて流通するめっき液の量が低下したり、電流の遮蔽効果が過剰になったりする可能性があり、複数の孔部34の開口面積の総和が83%を超えると、被めっき物をカバーするパドルの実効面積が小さくなり、電流遮蔽効果が低減し、被めっき物の面内均一性が悪化する可能性があるためである。
例えば、本実施形態では、複数の孔部34のそれぞれは、直径5mm~50mmの円形状に形成されており、複数のリブ33の間隔よりも小さく設定されている。
【0029】
また、複数の孔部34は、図3及び図4に示すように、千鳥状に形成されている。例えば、図3の最も左側に位置する複数の孔部34のうち、最も上側に位置する孔部34は、隣り合うリブ33の上端と同じ位置に形成されているのに対し、図3の左側から2番目に位置する複数の孔部34のうち最も上側に位置する孔部34は、隣り合うリブ33の上端よりも1つの孔部34の半分の大きさの距離(孔部34の半径分の距離)下側に配置されている。このように複数の孔部34が千鳥状に形成されていることにより、めっき液を均一に撹拌できるようになっている。これら複数の孔部34は、上述したように複数のリブ33間に形成されるため、図3における最も左側に位置するリブ33の左側や、図3における最も右側に位置するリブ33の右側には、複数の孔部34は形成されていない。
【0030】
[めっき装置によるめっき方法]
次に、本実施形態のめっき装置10を用いた基板20のめっき方法について説明する。
まず、供給部12からめっき液をめっき槽11内に供給し、めっき槽11内にめっき液を貯留する。次に、めっき槽11内にめっき液撹拌用パドル30と基板20とを配置する。具体的には、基板20をめっき槽11内のめっき液内に沈めた状態で基板20を基板保持部14により保持するとともに、めっき液撹拌用パドル30を複数のリブ33が基板20に対向するようにパドル駆動部15に固定する。なお、めっき液撹拌用パドル30は、あらかじめパドル駆動部15に固定していてもよい。
【0031】
そして、基板20とアノード13との間に電流を流しつつ、パドル駆動部15を反復移動させる。このパドル駆動部15は、60mm以上180mm以下のストロークで100mm/秒以上600mm/秒以下の速度でめっき撹拌用パドル30を移動させることが好ましい。このめっき時間は、基板20に施すめっきの厚さやめっき液の種類等により適宜変更可能であるが、例えば、錫めっきの場合は、5分~30分めっき液撹拌用パドル30を反復移動させながら2A/dmの電流を流すことにより、基板20の表面に微細パターンが形成されていても基板20が均一にめっきされる。
なお、めっき液撹拌用パドル30のストロークが60mm未満であったり、100mm/秒未満の速度であったりすると、めっき液を基板20に向けて適切に流すことができないおそれがある。一方、ストロークが180mmを超えるとめっき槽11を不要に拡大する必要や、被めっき物全域をパドルで覆えない可能性が高く、遮蔽効果が弱まるおそれがあり、移動速度が600mm/秒を超えると、めっき液撹拌用パドル30の移動速度が速すぎてめっき槽11内でめっき液を適切に撹拌できないおそれがある。
【0032】
本実施形態では、めっき槽11内でめっき液撹拌用パドル30が一方向(複数のリブ33が並ぶ方向)に沿って所定のストロークで反復移動すると、複数のリブ33のそれぞれによりめっき液が撹拌されるとともに、各リブ33の幅がパドル本体から離れるに従って小さくなる断面三角形状であるため、各リブ33間のめっき液がリブ33の側面331(傾斜面)に押されることにより、リブ33の側面に沿って流れて先端に向かって移動する。図5により説明すると、めっき液撹拌用パドル30が矢印aに示すように動くと、矢印bで示すようにめっき液がリブ33の傾斜面331に沿って流れることで、矢印cに示すように裏面側(リブ33が形成されていない面側)から孔部34を通ってめっき液が複数のリブ33間に入り込む。
このため、リブ33間の孔部34からパドル本体31の他の面側のめっき液が孔部34内に引き込まれ、順次リブ33間に流れて、同様にリブ33の先端に向かって移動する。つまり、パドル本体31のリブ33が形成されていない側の面側からリブ33が形成されている面に向かってめっき液が移動し、これによりめっき液が基板20に向けて流れる。このようにめっき液撹拌用パドル30を一方向に沿って反復移動させるだけで、めっき液が基板20に向けて移動するので、基板20表面に常に新しいめっき液を供給しながら基板20表面近傍のめっき液を適切に撹拌できる。また、孔部34を所定の面積に設計しているため、電流線の流れも制御可能である。このように基板20表面の全域でめっき液が適切に撹拌し、また電流線も適切に制御されるので、基板20にめっき液の流れの不均一や、めっき液の拡散不良に由来するめっきムラや、高さ均一性の悪化、電流線の集中によるパターンの疎密や、電流線が外部部分や非パターン部に近接するパターン部に集中することに由来する被めっき材の中央部と端部とのめっきの均一性のムラが生じることを抑制できる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、複数のリブ33は、断面視三角形状であることとしたが、これに限らず、例えば、図6に示す断面視台形状であってもよいし、図7に示す断面半円形状であってもよい。図6に示すリブ33Aは、断面視台形状に形成され、先端に向かうに従ってその幅が小さくなる形状である。また、このリブ33Aにおけるパドル本体31の一方の面に対する傾斜角度θ2は41°以上84°以下に設定されている。一方、図7に示すリブ33Bは、断面視半円形状に形成され、先端に向かうに従ってその幅が小さくなる形状である。これらいずれの形状であっても、上記実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0034】
上記実施形態では、複数の孔部34は、円形状であることとしたが、これに限らず、例えば、図8に示すような三角形状の孔部34Cであってもよいし、図9に示すような正方形状の孔部34Dであってもよいし、図10に示すような長方形状の孔部34Eであってもよい。すなわち、複数の孔部の形状は適宜設定可能である。なお、この場合においても、複数の孔部の開口面積の総和は、パドル本体31の一方の面の面積のリブ33間で挟まれた領域Ar1の面積の12%以上83%以下に設定されていることが好ましい。
【0035】
上記実施形態では、複数のリブ33は、図3に示すように、パドル本体31の一方の面の上端近傍から下端近傍まで直線状に延びる形状とすることとしたが、これに限らず、例えば、図11に示すように、パドル本体31の上側と下側とでその位置がずれて形成されていてもよい。具体的には、本変形例のめっき液撹拌用パドル30Fでは、図11の上側に位置する複数のリブ33F間に下側の複数のリブ33Fのそれぞれが位置するように図11の横方向にずれて複数のリブ33F及び複数の孔部34が形成されている。この場合においても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
なお、本変形例においても、リブ33Fの形状を図6に示す断面視台形状としてもよいし、図7に示す断面半円形状としてもよい。
【0036】
上記実施形態では、被めっき材として矩形板状の基板20を例にして説明したが、これに限らず、被めっき材は基板でなくてもよいし、その形状も適宜変更可能である。例えば、被めっき材が円板状である場合、めっき液撹拌用パドルの形状も被めっき材よりも大きい円板状に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0037】
10 めっき装置
11 めっき槽
12 供給部
13 アノード
14 基板保持部
15 パドル駆動部
16 オーバーフロー槽
17 ポンプ
20 基板
30 めっき液撹拌用パドル
31 パドル本体
32 傾斜面
33 33A 33B 33F 複数のリブ
34 34C 34D 34E 複数の孔部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11