(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125513
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】鋼部材の窒化処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 8/26 20060101AFI20220822BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20220822BHJP
C21D 9/32 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
C23C8/26
C21D1/06 A
C21D9/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023129
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000111845
【氏名又は名称】パーカー熱処理工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(72)【発明者】
【氏名】平岡 泰
【テーマコード(参考)】
4K028
4K042
【Fターム(参考)】
4K028AA02
4K028AB01
4K028AC07
4K028AC08
4K042AA18
4K042BA03
4K042BA04
4K042DA06
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD03
4K042DE02
(57)【要約】
【課題】500℃~590℃という温度範囲で実施される窒化処理において、窒化化合物層にγ’相を良好に析出させることができ、ひいては高い耐ピッチング性と曲げ疲労強度とを実現できる窒化処理方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも2段階の窒化処理工程を備えた鋼部材の窒化処理方法であって、第1窒化ポテンシャルの窒化ガス雰囲気中で鋼部材を窒化処理する第1窒化処理工程と、第1窒化処理工程後に第1窒化ポテンシャルよりも低い第2窒化ポテンシャルの窒化ガス雰囲気中で前記鋼部材を更に窒化処理する第2窒化処理工程と、を備える。第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程は、500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルは、0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルは、0.253~0.600の範囲内の値である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2段階の窒化処理工程を備えた鋼部材の窒化処理方法であって、
第1窒化ポテンシャルの窒化ガス雰囲気中で鋼部材を窒化処理する第1窒化処理工程と、
前記第1窒化処理工程後に、前記第1窒化ポテンシャルよりも低い第2窒化ポテンシャルの窒化ガス雰囲気中で前記鋼部材を更に窒化処理する第2窒化処理工程と、
を備え、
前記第1窒化処理工程は、500℃~590℃の温度下で実施され、
前記第2窒化処理工程も、500℃~590℃の温度下で実施され、
前記第1窒化ポテンシャルは、0.300~10.000の範囲内の値であり、
前記第2窒化ポテンシャルは、0.253~0.600の範囲内の値であり、
前記第1窒化処理工程において、γ’相、ε相、または、γ’相とε相とが混在、の窒化化合物層が生成され、
前記第2窒化処理工程において、前記窒化化合物層にγ’相が析出される
ことを特徴とする窒化処理方法。
【請求項2】
前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、同一のバッチ型の熱処理炉内で順次に実施され、
前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらNH3ガス及びAXガスの各々の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、
前記第2窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される
ことを特徴とする請求項1に記載の窒化処理方法。
【請求項3】
前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、同一の1室型の熱処理炉内で順次に実施され、
前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらNH3ガス及びAXガスの各々の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、
前記第2窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される
ことを特徴とする請求項1に記載の窒化処理方法。
【請求項4】
前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、同一のバッチ型の熱処理炉内で順次に実施され、
前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、
前記第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される
ことを特徴とする請求項1に記載の窒化処理方法。
【請求項5】
前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、同一の1室型の熱処理炉内で順次に実施され、
前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、
前記第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される
ことを特徴とする請求項1に記載の窒化処理方法。
【請求項6】
前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、同一の1室型の熱処理炉内で順次に実施され、
前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、
前記第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される
ことを特徴とする請求項1に記載の窒化処理方法。
【請求項7】
前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、同一の1室型の熱処理炉内で順次に実施され、
前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、NH3ガス及びAXガスの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、
前記第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、NH3ガス及びAXガスの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される
ことを特徴とする請求項1に記載の窒化処理方法。
【請求項8】
前記第1窒化処理工程の時間は、前記第2窒化処理工程の時間よりも長い
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の窒化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2段階の窒化処理工程を備えた鋼部材の窒化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の変速機に用いられる歯車などの鋼部材には、高い耐ピッチング性と曲げ疲労強度が要求されている。このような要求に応えるべく、歯車などの鋼部材を強化させる手法として、浸炭処理や窒化処理が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、鋼部材の耐ピッチング性や曲げ疲労強度を向上させるために、窒化処理によって鋼部材の表面にγ’相を主成分とする鉄窒化合物層を生成させることが有効であることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、大量生産時のばらつきを抑えるために、γ’相またはε相の窒化化合物層が生成される窒化ポテンシャルの窒化ガス雰囲気中で前記鋼部材を窒化処理する第1窒化処理工程を行い、その後、前記第1窒化処理工程よりも低い窒化ポテンシャルの窒化ガス雰囲気中で前記鋼部材を窒化処理する第2窒化処理工程を行うことにより、前記窒化化合物層にγ’相を析出させる窒化処理方法が開示されている。具体的には、NH3ガスとH2ガスとの2種類のガスを用いて600℃の温度下で実施されるガス窒化処理が、実施例として記載されている。更に具体的には、600℃の温度下で、第1窒化処理工程での窒化ポテンシャルについて0.6~1.51の範囲が採用され、第2窒化処理工程での窒化ポテンシャルについて0.16~0.25の範囲が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2012-095035号公報
【特許文献2】特許第6378189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件発明者は、特許文献2に開示された窒化処理方法について更なる検討を重ねる中で、500℃~590℃という温度範囲においては、第2窒化処理工程での窒化ポテンシャルを0.25よりも大きくする方が、窒化化合物層にγ’相を析出させる効果が高いことを知見した。
【0007】
本件発明者によれば、窒化化合物層にγ’相が析出する作用(反応)は、窒化ポテンシャルと炉内温度との両方の影響を受け、500℃~590℃という温度範囲においては、第2窒化処理工程での窒化ポテンシャルを0.25以下にすると、γ’相よりも硬さが低いα相も析出してしまって、耐ピッチング性や曲げ疲労強度が不十分となってしまう。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づいて創案されたものである。本発明の目的は、500℃~590℃という温度範囲で実施される窒化処理において、窒化化合物層にγ’相を良好に析出させることができ、ひいては高い耐ピッチング性と曲げ疲労強度とを実現できる窒化処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
少なくとも2段階の窒化処理工程を備えた鋼部材の窒化処理方法であって、
第1窒化ポテンシャルの窒化ガス雰囲気中で鋼部材を窒化処理する第1窒化処理工程と、
前記第1窒化処理工程後に、前記第1窒化ポテンシャルよりも低い第2窒化ポテンシャルの窒化ガス雰囲気中で前記鋼部材を更に窒化処理する第2窒化処理工程と、
を備え、
前記第1窒化処理工程は、500℃~590℃の温度下で実施され、
前記第2窒化処理工程も、500℃~590℃の温度下で実施され、
前記第1窒化ポテンシャルは、0.300~10.000の範囲内の値であり、
前記第2窒化ポテンシャルは、0.253~0.600の範囲内の値であり、
前記第1窒化処理工程において、γ’相、ε相、または、γ’相とε相とが混在、の窒化化合物層が生成され、
前記第2窒化処理工程において、前記窒化化合物層にγ’相が析出される
ことを特徴とする窒化処理方法
である。
【0010】
本発明によれば、500℃~590℃の温度下で実施される第2窒化処理工程において、第2窒化ポテンシャルが0.253~0.600の範囲内の値とされることにより、γ’相よりも硬さが低いα相の析出を抑制して、窒化化合物層にγ’相を良好に析出させることができ、高い耐ピッチング性と曲げ疲労強度とを実現することができる。
【0011】
本発明において、前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、例えば、同一のバッチ型の熱処理炉内で順次に実施され、前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらNH3ガス及びAXガスの各々の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、前記第2窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される。
【0012】
このような制御態様において、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0013】
あるいは、本発明において、前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、例えば、同一の1室型の熱処理炉内で順次に実施され、前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらNH3ガス及びAXガスの各々の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、前記第2窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される。
【0014】
このような制御態様においても、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0015】
あるいは、本発明において、前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、例えば、同一のバッチ型の熱処理炉内で順次に実施され、前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、前記第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される。
【0016】
このような制御態様においても、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0017】
あるいは、本発明において、前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、例えば、同一の1室型の熱処理炉内で順次に実施され、前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、前記第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される。
【0018】
このような制御態様においても、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0019】
あるいは、本発明において、前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、例えば、前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、同一の1室型の熱処理炉内で順次に実施され、前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、前記第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される。
【0020】
このような制御態様においても、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0021】
あるいは、本発明において、前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、例えば、前記第1窒化処理工程及び前記第2窒化処理工程は、同一の1室型の熱処理炉内で順次に実施され、前記第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、NH3ガス及びAXガスの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、当該第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第1窒化ポテンシャルとなるように制御され、前記第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、NH3ガス及びAXガスの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、当該第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが前記第2窒化ポテンシャルとなるように制御される。
【0022】
このような制御態様においても、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0023】
なお、1室型の熱処理炉とは、バッチ型の熱処理炉(
図1参照)のように加熱室とは別個の冷却室を持たず、加熱と冷却とを1室のみで行う熱処理炉であって、ピット炉(
図3参照)や横型炉(
図5参照)が一般的である。
【0024】
また、以上の各発明において、前記第1窒化処理工程の時間は、前記第2窒化処理工程の時間よりも長いことが好ましい。本件発明者の知見によれば、第1窒化処理工程を第2窒化処理工程よりも長く実施することで、窒化処理後の化合物層厚さを任意の厚さに調整することが出来る。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、500℃~590℃の温度下で実施される第2窒化処理工程において、第2窒化ポテンシャルが0.253~0.600の範囲内の値とされることにより、γ’相よりも硬さが低いα相の析出を抑制して、窒化化合物層にγ’相を良好に析出させることができ、高い耐ピッチング性と曲げ疲労強度とを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の窒化処理方法に用いられるバッチ型の熱処理炉の構成概略図である。
【
図2】
図1の熱処理炉を用いた本発明の窒化処理方法の一実施形態の工程図である。
【
図3】本発明の窒化処理方法に用いられるピット型(1室型)の熱処理炉の構成概略図である。
【
図4】
図3の熱処理炉を用いた本発明の窒化処理方法の一実施形態の工程図である。
【
図5】本発明の窒化処理方法に用いられる横型(1室型)の熱処理炉の構成概略図である。
【
図6】本発明の実施例及び比較例の窒化条件及び処理結果を示す表である。
【
図7】本発明の実施例及び比較例の窒化条件及び処理結果を示す表である。
【
図8】本発明の実施例及び比較例の窒化条件及び処理結果を示す表である。
【
図9】本発明の実施例及び比較例の窒化条件及び処理結果を示す表である。
【
図10】本発明の実施例及び比較例の窒化条件及び処理結果を示す表である。
【
図11】本発明の実施例及び比較例の窒化条件及び処理結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[被処理体(ワーク)の例]
被処理体(ワーク)は、鋼部材である。具体的には、自動変速機に用いられる歯車などの機械構造用炭素鋼鋼材または機械構造用合金鋼鋼材からなる鋼部材である。例えば、円筒状のリングギアや、有底円筒状のリングギアが、複数段のジグに搭載されて、ケース(後述する)内に平置きされた状態で窒化処理される。
【0028】
鋼部材には、窒化処理の前に、汚れや油を除去するための前洗浄が実施されることが好ましい。前洗浄は、例えば、炭化水素系の洗浄液で油などを溶解置換させて蒸発させることで脱脂乾燥させる真空洗浄、アルカリ系の洗浄液で脱脂処理するアルカリ洗浄、などが好ましい。
【0029】
[バッチ型の熱処理炉の構成例]
図1は、本発明の窒化処理方法に用いられるバッチ型の熱処理炉1の構成概略図である。
【0030】
図1に示すように、バッチ型の熱処理炉1は、搬入部10、加熱室11、搬送室12、及び、搬出コンベア13を備えている。搬入部10には、ケース20が置かれるようになっており、当該ケース20内に、被処理体(ワーク)としての鋼部材が収納されるようになっている。処理重量は、最大でグロス700kgである。
【0031】
加熱室11の入口側(
図1において左側)には、開閉自在な扉21を有する入口フード22が取り付けられている。加熱室11は、レトルト構造となっており、レトルト外周部がヒータ(不図示)で加熱されることで、炉内温度が所定の温度に制御されるようになっている。そして、加熱室11内に、窒化処理のための複数種のガスが、後述するように制御されながら導入されるようになっている。
【0032】
また、加熱室11の天井には、加熱室11内に導入されたガスを攪拌して鋼部材の加熱温度を均一化させるファン26が装着されている。そして、加熱室11の出口側(
図1において右側)には、開閉自在な中間扉27が取り付けられている。
【0033】
搬送室12には、鋼部材が収納されたケース20を昇降させるエレベータ30が設けられている。搬送室12の下部には、冷却用の油31を溜めた冷却室(油槽)32が設けられている。そして、搬送室12の出口側(
図1において右側)に、開閉自在な扉35を有する出口フード36が取り付けられている。
【0034】
なお、加熱室11と搬送室12とを同一空間の処理室とし、熱処理後の鋼部材を気体によって空冷する構成を採用しても良い。また、加熱室11を2つに分けて、後述する2段階の窒化処理工程を各々の加熱室で行っても良い。
【0035】
[バッチ型の熱処理炉の動作例]
以上のような構成の熱処理炉1において、鋼部材が収納されたケース20が、プッシャー等により、搬入部10から加熱室11内に搬入される。そして、鋼部材(が収納されたケース20)が加熱室11内に搬入された後、加熱室11内に処理ガスが導入され、当該処理ガスがヒータで所定の温度に加熱され、更にファン26(例えば1500rpmで回転する)で攪拌されながら、加熱室11内に搬入された鋼部材の窒化処理が行われる。
【0036】
図2は、
図1の熱処理炉1を用いた本発明の窒化処理方法の一実施形態の工程図である。
【0037】
図2の例では、鋼部材(ワーク)が装入される前に、加熱室11内が予め550℃に加熱される。また、この加熱工程時に、N
2ガスが70(L/min)の一定流量で導入され、且つ、NH
3ガスが90(L/min)の一定流量で導入される。総流量は70+90=160(L/min)である。
【0038】
次いで、鋼部材(ワーク)が加熱室11内に装入される。この時、扉21が開放されることにより、
図2に示すように、一時的に加熱室11内の温度が低下する。その後、扉21が閉じられ、加熱室11内の温度が再び550℃にまで加熱される。
【0039】
このような鋼部材装入中においても、
図2の例では、N
2ガスが70(L/min)の一定流量で導入され、且つ、NH
3ガスが90(L/min)の一定流量で導入され、総流量は70+90=160(L/min)である。
【0040】
その後、2段階の窒化処理工程が実施される。具体的には、まず、第1窒化ポテンシャルとして例えば1.500(0.300~10.000)の値が採用され、550℃の温度下で第1窒化処理工程が実施される。
【0041】
窒化ポテンシャルKNは、NH3ガスの分圧P(NH3)とH2ガスの分圧P(H2)とにより、以下の式で表されることが知られている。
KN = P(NH3)/P(H2)3/2
【0042】
第1窒化処理工程において、加熱室11内のNH3ガスの分圧P(NH3)またはH2ガスの分圧P(H2)が測定され、当該測定値から演算される窒化ポテンシャルの値が目標とする第1窒化ポテンシャルの近傍範囲内となるように、処理ガスの導入量がフィードバック制御される。
【0043】
図2の例では、加熱室11内のH
2ガスの分圧P(H
2)が熱伝導度式H
2センサ(不図示)によって測定され、当該測定値をオンラインで分析しながら(当該測定値から窒化ポテンシャルを演算しながら)、処理ガスの導入量がフィードバック制御される。具体的には、N
2ガスが70(L/min)の一定流量で導入される一方、NH
3ガス及びAXガスが合計流量90(L/min)という条件下で各々増減される。総流量は、70+90=160(L/min)に維持される。
【0044】
図2の例では、このような第1窒化処理工程は、240分間実施される。これにより、鋼部材に、γ’相、ε相、または、γ’相とε相とが混在、の窒化化合物層が生成される。
【0045】
引き続いて、第2窒化ポテンシャルとして例えば0.300(0.253~0.600)の値が採用され、550℃の温度下で第2窒化処理工程が実施される。
【0046】
第2窒化処理工程においても、加熱室11内のNH3ガスの分圧P(NH3)またはH2ガスの分圧P(H2)が測定され、当該測定値から演算される窒化ポテンシャルの値が目標とする第2窒化ポテンシャルの近傍範囲内となるように、処理ガスの導入量がフィードバック制御される。
【0047】
図2の例では、加熱室11内のH
2ガスの分圧P(H
2)が熱伝導度式H
2センサ(不図示)によって測定され、当該測定値をオンラインで分析しながら(当該測定値から窒化ポテンシャルを演算しながら)、処理ガスの導入量がフィードバック制御される。具体的には、NH
3ガス及びAXガスが合計流量160(L/min)という条件下で各々増減される。
【0048】
図2の例では、このような第2窒化処理工程は、60分間実施される。これにより、窒化化合物層にγ’相が析出される。
【0049】
第2窒化処理工程が終了すると、冷却工程が行われる。
図2の例では、冷却工程は15分間行われる(攪拌機付の油槽であり、15分油中(100℃)に保持される)。冷却工程が終了すると、鋼部材が収納されたケース20が搬出コンベア13に搬出される。
【0050】
[ピット型の熱処理炉の構成例]
図3は、本発明の窒化処理方法に用いられるピット型の熱処理炉201の構成概略図である。
【0051】
図3に示すように、ピット型の熱処理炉201は、有底筒状の炉壁211と、炉蓋212と、を備えている。
【0052】
炉蓋212の下側(内側)には、ファン213が設けられており、当該ファン213の回転軸が炉蓋212を貫通して、炉蓋212の上側(外側)に設けられたファンモータ214に接続されている。
【0053】
炉壁211の内側には、レトルト221が設けられており、当該レトルト221の更に内側に、ガス案内筒222が設けられている。レトルト221の外周部がヒータ(不図示)で加熱されることで炉内(レトルト221内)の温度が所定の温度に制御されるようになっている。そして、ガス案内筒222内にケース20が置かれるようになっており、当該ケース20内に、被処理体(ワーク)としての鋼部材が収納されるようになっている。処理重量は、最大でグロス700kgである。
【0054】
また、レトルト221内に、窒化処理のための複数種のガスが、後述するように制御されながら導入されるようになっている。更に、レトルト221の外周部はブロワ(不図示)により冷却する機能をも有しており、冷却時はレトルト221自体の温度を低下させることで炉内のワークが冷却される(炉冷)。
【0055】
[ピット型の熱処理炉の動作例]
以上のような構成の熱処理炉201において、炉蓋212が開放され、鋼部材が収納されたケース20がガス案内筒222内に搬入される。そして、鋼部材(が収納されたケース20)がガス案内筒222内に搬入された後、ガス案内筒222内に処理ガスが導入され、当該処理ガスがヒータで所定の温度に加熱され、更にファン213(例えば1500rpmで回転する)で攪拌されながら、ガス案内筒222内に搬入された鋼部材の窒化処理が行われる。
【0056】
図4は、
図3の熱処理炉201を用いた本発明の窒化処理方法の一実施形態の工程図である。
【0057】
図4の例では、鋼部材(ワーク)がガス案内筒222内に装入されてから、レトルト221内が550℃に加熱される。この加熱工程の前半に、N
2ガスが40(L/min)の一定流量で導入され、この加熱工程の後半に、NH
3ガスが40(L/min)の一定流量で導入される。
【0058】
その後、2段階の窒化処理工程が実施される。具体的には、まず、第1窒化ポテンシャルとして例えば1.500(0.300~10.000)の値が採用され、550℃の温度下で第1窒化処理工程が実施される。
【0059】
前述の通り、窒化ポテンシャルKNは、NH3ガスの分圧P(NH3)とH2ガスの分圧P(H2)とにより、以下の式で表されることが知られている。
KN = P(NH3)/P(H2)3/2
【0060】
第1窒化処理工程において、ガス案内筒222内のNH3ガスの分圧P(NH3)またはH2ガスの分圧P(H2)が測定され(排ガス内のNH3ガスの分圧P(NH3)またはH2ガスの分圧P(H2)が測定されてもよい)、当該測定値から演算される窒化ポテンシャルの値が目標とする第1窒化ポテンシャルの近傍範囲内となるように、処理ガスの導入量がフィードバック制御される。
【0061】
図4の例では、ガス案内筒222内のH
2ガスの分圧P(H
2)が熱伝導度式H
2センサ(不図示)によって測定され、当該測定値をオンラインで分析しながら(当該測定値から窒化ポテンシャルを演算しながら)、処理ガスの導入量がフィードバック制御される。具体的には、AXガスが20(L/min)の一定流量で導入される一方、NH
3ガスが増減される。総流量も変動することになる。
【0062】
図4の例では、このような第1窒化処理工程は、240分間実施される。これにより、鋼部材に、γ’相、ε相、または、γ’相とε相とが混在、の窒化化合物層が生成される。
【0063】
引き続いて、第2窒化ポテンシャルとして例えば0.300(0.253~0.600)の値が採用され、550℃の温度下で第2窒化処理工程が実施される。
【0064】
第2窒化処理工程においても、ガス案内筒222内のNH3ガスの分圧P(NH3)またはH2ガスの分圧P(H2)が測定され、当該測定値から演算される窒化ポテンシャルの値が目標とする第2窒化ポテンシャルの近傍範囲内となるように、処理ガスの導入量がフィードバック制御される。
【0065】
図4の例では、ガス案内筒222内のH
2ガスの分圧P(H
2)が熱伝導度式H
2センサ(不図示)によって測定され、当該測定値をオンラインで分析しながら(当該測定値から窒化ポテンシャルを演算しながら)、処理ガスの導入量がフィードバック制御される。具体的には、AXガスが30(L/min)の一定流量で導入される一方、NH
3ガスが増減される。総流量も変動することになる。
【0066】
図4の例では、このような第2窒化処理工程は、60分間実施される。これにより、窒化化合物層にγ’相が析出される。
【0067】
第2窒化処理工程が終了すると、冷却工程が行われる。
図4の例では、冷却工程の前半(400℃程度まで)、第2窒化処理工程と同様の処理ガス導入量制御がなされる。すなわち、AXガスが30(L/min)の一定流量で導入される一方、NH
3ガスが増減される。冷却工程の後半(400℃~100℃程度)には、N
2ガスが20(L/min)の一定流量で導入される。冷却工程が終了すると、炉蓋212が開放され、鋼部材が収納されたケース20がガス案内筒222から搬出される。
【0068】
[横型の熱処理炉の構成例]
図5は、本発明の窒化処理方法に用いられる横型の熱処理炉の構成概略図である。
【0069】
横型の熱処理炉は、基本的には、ピット型の熱処理炉を横向けにした炉であるが、
図5に示すように、ファン213及びファンモータ214を、炉蓋212ではなく、炉蓋212に対向する炉壁211の壁面に設けた構成も採用され得る。
【0070】
横型の熱処理炉の他の構成は、
図3を用いて説明したピット型の熱処理炉の構成と略同様である。
【0071】
[横型の熱処理炉の動作例]
横型の熱処理炉においても、炉蓋212が開放され、鋼部材が収納されたケース20がガス案内筒222内に搬入される。そして、鋼部材(が収納されたケース20)がガス案内筒222内に搬入された後、レトルト211内に処理ガスが導入され、当該処理ガスがヒータで所定の温度に加熱され、更にファン213(例えば1500rpmで回転する)で攪拌されながら、ガス案内筒222内に搬入された鋼部材の窒化処理が行われる。
【0072】
図4の工程図は、横型の熱処理炉を用いた場合であっても、有効である。具体的には、加熱工程(前半と後半とでガス導入の態様が異なる)、第1窒化処理工程、第2窒化処理工程、冷却工程、が行われ得る。冷却工程が終了すると、炉蓋212が開放され、鋼部材が収納されたケース20がガス案内筒222から搬出される。
【0073】
[効果の纏め]
以上のような本発明の実施形態によれば、バッチ型の熱処理炉を用いても、1室型の熱処理炉を用いても、表面にγ’相を主成分とする鉄窒化化合物層を有する窒化鋼部材を得ることができる。
【0074】
各実施形態によって得られる鋼部材は、内部に窒素拡散層及び窒化物が形成されて強化されると共に、表面にγ’相リッチな鉄窒化化合物層が形成されるため、十分な耐ピッチング性と曲げ疲労強度とを実現することができる。
【0075】
また、浸炭や浸炭窒化処理と比較して、本発明の窒化処理は、オーステナイト変態温度以下での処理であるため、歪量が小さい。また、浸炭や浸炭窒化処理においては必須工程である焼き入れ工程が省略できるため、歪ばらつき量も小さい。その結果、高強度且つ低歪の窒化鋼部材を得ることができる。
【0076】
[本発明の温度範囲についての補足]
本発明においては、各窒化処理工程の温度が500℃~590℃とされている。窒化処理は、温度が高い方が生産性が良い、と言われている。しかし、本件発明者による検証によれば、590℃ よりも高いと硬化量が減少し、且つ、オーステナイト層が表面に形成されるので、590℃ を上限とするのが良い。一方、本件発明者による検証によれば、窒化処理温度が500℃よりも低いと、窒化化合物層の形成速度が遅くなってコスト的に好ましくないため、500℃を下限とするのが良い。
【0077】
また、第1窒化処理工程の温度と第2窒化処理工程の温度との差が小さい方が、鋼部材(ワーク)の温度のばらつきを小さくすることができ、鋼部材(ワーク)の窒化品質のばらつきを抑制することができる。具体的には、両窒化処理工程の温度差は50℃ 以内に制御されることが好ましく、30℃ 以内に制御されることが更に好ましい。
【0078】
[実施例1-1~1-9、比較例1-1~1-4]
複数の円筒状のリングギアに対して(鋼種は異なり得る)、バッチ型の熱処理炉1を用いて、
図6として示す表1の条件に従って、2段階の窒化処理が実施された。
【0079】
実施例1-1~1-9、比較例1-1~1-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程は、同一のバッチ型の熱処理炉1内で順次に実施された。
【0080】
また、実施例1-1~1-9、比較例1-1~1-4の第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらNH3ガス及びAXガスの各々の導入量を変えることによって、第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第1窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0081】
また、実施例1-1~1-9、比較例1-1~1-4の第2窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第2窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0082】
実施例1-1~1-9、比較例1-1~1-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程の前後には、
図2を用いて説明した各工程が実施された。
【0083】
表1において、相の同定方法は、鋼材表面から、2θ-θ走査法によるX線回折測定(リガク製MiniFlex600、Cu管、40kV-15mA)を行って得られたX線回折パターンに基づいて、行われた。
【0084】
また、表1において、化合物層厚さは、窒化処理した鋼材を深さ方向に切断し、断面の組織観察結果から表面化合物層の厚さを測定した。(γ’相リッチな化合物層厚さが、4~16μmであることが好適である。4μm未満では、薄すぎて疲労強度の向上が十分でない一方、16μmを超えると、疲労き裂の起点となる化合物層のポーラス層が厚くなり疲労強度が低下する。
【0085】
表1に示す結果から分かるように、実施例1-1~1-9により、バッチ炉において前記の3種類のガスを用いる制御態様において、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0086】
一方、比較例1-1~1-4により、500℃~590℃という温度範囲においては、第2窒化処理工程での窒化ポテンシャルを0.25以下にすると、γ’相よりも硬さが低いα相も析出してしまって、耐ピッチング性や曲げ疲労強度が不十分となってしまうことが実証された。
【0087】
[実施例2-1~2-9、比較例2-1~2-4]
複数の円筒状のリングギアに対して(鋼種は異なり得る)、ピット型の熱処理炉201を用いて、
図7として示す表2の条件に従って、2段階の窒化処理が実施された。
【0088】
実施例2-1~2-9、比較例2-1~2-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程は、同一のピット型の熱処理炉201内で順次に実施された。
【0089】
また、実施例2-1~2-9、比較例2-1~2-4の第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらNH3ガス及びAXガスの各々の導入量を変えることによって、第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第1窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0090】
また、実施例2-1~2-9、比較例2-1~2-4の第2窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第2窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0091】
実施例2-1~2-9、比較例2-1~2-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程の前後には、
図4を用いて説明した各工程が実施された。
【0092】
表2における相の同定方法及び化合物層厚さは、表1におけるそれらと同様に判定された。
【0093】
表2に示す結果から分かるように、実施例2-1~2-9により、ピット炉において前記の3種類のガスを用いる制御態様において、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0094】
一方、比較例2-1~2-4により、500℃~590℃という温度範囲においては、第2窒化処理工程での窒化ポテンシャルを0.25以下にすると、γ’相よりも硬さが低いα相も析出してしまって、耐ピッチング性や曲げ疲労強度が不十分となってしまうことが実証された。
【0095】
[実施例3-1~3-9、比較例3-1~3-4]
複数の円筒状のリングギアに対して(鋼種は異なり得る)、バッチ型の熱処理炉1を用いて、
図8として示す表3の条件に従って、2段階の窒化処理が実施された。
【0096】
実施例3-1~3-9、比較例3-1~3-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程は、同一のバッチ型の熱処理炉1内で順次に実施された。
【0097】
また、実施例3-1~3-9、比較例3-1~3-4の第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第1窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0098】
また、実施例3-1~3-9、比較例3-1~3-4の第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第2窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0099】
実施例3-1~3-9、比較例3-1~3-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程の前後には、
図2を用いて説明した各工程が実施された。
【0100】
表3における相の同定方法及び化合物層厚さは、表1及び表2におけるそれらと同様に判定された。
【0101】
表3に示す結果から分かるように、実施例3-1~3-9により、バッチ炉において前記の2種類のガスを用いる制御態様において、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0102】
一方、比較例3-1~3-4により、500℃~590℃という温度範囲においては、第2窒化処理工程での窒化ポテンシャルを0.25以下にすると、γ’相よりも硬さが低いα相も析出してしまって、耐ピッチング性や曲げ疲労強度が不十分となってしまうことが実証された。
【0103】
[実施例4-1~4-9、比較例4-1~4-4]
複数の円筒状のリングギアに対して(鋼種は異なり得る)、ピット型の熱処理炉201を用いて、
図9として示す表4の条件に従って、2段階の窒化処理が実施された。
【0104】
実施例4-1~4-9、比較例4-1~4-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程は、同一のピット型の熱処理炉201内で順次に実施された。
【0105】
また、実施例4-1~4-9、比較例4-1~4-4の第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第1窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0106】
また、実施例4-1~4-9、比較例4-1~4-4の第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの総流量を一定としながらそれらの各々の導入量を変えることによって、第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第2窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0107】
実施例4-1~4-9、比較例4-1~4-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程の前後には、
図4を用いて説明した各工程が実施された。
【0108】
表4における相の同定方法及び化合物層厚さは、表1乃至表3におけるそれらと同様に判定された。
【0109】
表4に示す結果から分かるように、実施例4-1~4-9により、ピット炉において前記の2種類のガスを用いる制御態様において、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0110】
一方、比較例4-1~4-4により、500℃~590℃という温度範囲においては、第2窒化処理工程での窒化ポテンシャルを0.25以下にすると、γ’相よりも硬さが低いα相も析出してしまって、耐ピッチング性や曲げ疲労強度が不十分となってしまうことが実証された。
【0111】
[実施例5-1~5-9、比較例5-1~5-4]
複数の円筒状のリングギアに対して(鋼種は異なり得る)、ピット型の熱処理炉201を用いて、
図10として示す表5の条件に従って、2段階の窒化処理が実施された。
【0112】
実施例5-1~5-9、比較例5-1~5-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程は、同一のピット型の熱処理炉201内で順次に実施された。
【0113】
また、実施例5-1~5-9、比較例5-1~5-4の第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第1窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0114】
また、実施例5-1~5-9、比較例5-1~5-4の第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとの2種類のガスが使用され、それらの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第2窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0115】
実施例5-1~5-9、比較例5-1~5-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程の前後には、
図4を用いて説明した各工程が実施された。
【0116】
表5における相の同定方法及び化合物層厚さは、表1乃至表4におけるそれらと同様に判定された。
【0117】
表5に示す結果から分かるように、実施例5-1~5-9により、ピット炉において前記の2種類のガスを用いる制御態様において、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0118】
一方、比較例5-1~5-4により、500℃~590℃という温度範囲においては、第2窒化処理工程での窒化ポテンシャルを0.25以下にすると、γ’相よりも硬さが低いα相も析出してしまって、耐ピッチング性や曲げ疲労強度が不十分となってしまうことが実証された。
【0119】
[実施例6-1~6-9、比較例6-1~6-4]
複数の円筒状のリングギアに対して(鋼種は異なり得る)、ピット型の熱処理炉201を用いて、
図11として示す表6の条件に従って、2段階の窒化処理が実施された。
【0120】
実施例6-1~6-9、比較例6-1~6-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程は、同一のピット型の熱処理炉201内で順次に実施された。
【0121】
また、実施例6-1~6-9、比較例6-1~6-4の第1窒化処理工程では、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、NH3ガス及びAXガスの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、第1窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第1窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0122】
また、実施例6-1~6-9、比較例6-1~6-4の第2窒化処理工程でも、NH3ガスとAXガスとN2ガスとの3種類のガスが使用され、NH3ガス及びAXガスの一方の導入量を一定としながら他方の導入量を変えることによって、第2窒化処理工程中の窒化ポテンシャルが目標の第2窒化ポテンシャル(KN)となるように制御された。
【0123】
実施例6-1~6-9、比較例6-1~6-4において、第1窒化処理工程及び第2窒化処理工程の前後には、
図4を用いて説明した各工程が実施された。
【0124】
表6における相の同定方法及び化合物層厚さは、表1乃至表5におけるそれらと同様に判定された。
【0125】
表6に示す結果から分かるように、実施例6-1~6-9により、ピット炉において前記の3種類のガスを用いる制御態様において、第1窒化処理工程が500℃~590℃の温度下で実施され、第2窒化処理工程も500℃~590℃の温度下で実施され、第1窒化ポテンシャルが0.300~10.000の範囲内の値であり、第2窒化ポテンシャルが第1窒化ポテンシャルよりも低く0.253~0.600の範囲内の値である、ことを特徴とする本発明の有効性が実証された。
【0126】
一方、比較例6-1~6-4により、500℃~590℃という温度範囲においては、第2窒化処理工程での窒化ポテンシャルを0.25以下にすると、γ’相よりも硬さが低いα相も析出してしまって、耐ピッチング性や曲げ疲労強度が不十分となってしまうことが実証された。
【符号の説明】
【0127】
1 熱処理炉
10 搬入部
11 加熱室
12 搬送室
13 搬出コンベア
20 ケース
21 扉
22 入口フード
26 ファン
27 中間扉
30 エレベータ
31 冷却室(油槽)
35 扉
36 出口フード
201 熱処理炉
211 炉壁
212 炉蓋
213 ファン
214 ファンモータ
221 レトルト
222 ガス案内筒