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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125569
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】減速機およびロボット
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220822BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20220822BHJP
   B25J 17/02 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H1/28
B25J17/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023226
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】日本電産シンポ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】大塚 智之
(72)【発明者】
【氏名】前口 裕二
【テーマコード(参考)】
3C707
3J027
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS10
3C707CX03
3C707CY36
3C707HS27
3C707HT25
3J027FA36
3J027FB32
3J027GA01
3J027GB03
3J027GC07
3J027GC13
3J027GC24
3J027GC26
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE11
3J027GE14
3J027GE21
3J027GE22
3J027GE29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】入力される回転数よりも低い回転数で波動発生器を回転させることができ、かつ、小型化しやすい減速機を提供する。
【解決手段】減速機1は、入力シャフト20と、前段減速機構30と、中間回転体40と、フレックスギア52と、インタナルギア54とを備える。入力シャフトは、第1回転数で回転する。前段減速機構は、第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に減速する。中間回転体は、第2回転数で回転する。中間回転体は、波動発生器51を含む。波動発生器、フレックスギア、およびインタナルギアは、第2回転数の回転運動を、第2回転数よりも低い第3回転数の回転運動に減速する。また、中間回転体は、入力シャフトに軸受60を介して支持される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心として第1回転数で回転する入力シャフトと、
前記入力シャフトの前記第1回転数の回転運動を、前記第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に減速する前段減速機構と、
前記中心軸を中心として前記第2回転数で回転し、波動発生器を含む中間回転体と、
前記波動発生器の径方向外側に位置する可撓性の筒状部を有し、前記筒状部の外周面に複数の外歯を有するフレックスギアと、
前記筒状部の径方向外側に位置し、前記中心軸を中心とする円環状の内周面に、複数の内歯を有するインタナルギアと、
を備え、
前記インタナルギアの前記内歯の数と、前記フレックスギアの前記外歯の数とが異なり、
前記複数の外歯のうちの一部の外歯が、前記波動発生器に押されることによって、前記内歯と噛み合い、
前記波動発生器の回転に伴い、前記内歯と前記外歯との噛み合い位置が、前記第2回転数で周方向に移動し、
前記内歯と前記外歯との歯数の差によって、前記インタナルギアおよび前記フレックスギアのいずれか一方が、前記第2回転数よりも低い第3回転数で、前記中心軸を中心として回転し、
前記中間回転体は、前記入力シャフトに軸受を介して支持される、減速機。
【請求項2】
請求項1に記載の減速機であって、
前記前段減速機構は、
前記入力シャフトとともに、前記中心軸を中心として前記第1回転数で回転する太陽ギアと、
前記太陽ギアの径方向外側に位置し、前記中心軸を中心とする円環状の内歯ギアと、
前記太陽ギアおよび前記内歯ギアと噛み合い、前記中心軸と平行な遊星軸を中心として自転する遊星ギアと、
を有し、
前記遊星ギアの前記自転に伴い、前記遊星ギアおよび前記中間回転体が、前記中心軸を中心として前記第2回転数で回転する、減速機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の減速機であって、
前記前段減速機構の少なくとも一部は、前記筒状部の径方向内側に位置する、減速機。
【請求項4】
請求項3に記載の減速機であって、
前記フレックスギアは、
前記筒状部の軸方向の端部から径方向外側へ向けて広がるダイヤフラム部
をさらに有する、減速機。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の減速機であって、
前記前段減速機構と前記波動発生器とが、軸方向の異なる位置に配置され、
前記波動発生器は、前記前段減速機構の一部分と同一の径方向位置に配置される、減速機。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の減速機と、
前記入力シャフトを回転させるモータと、
前記減速機により動作するアームと、
を備えたロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機およびロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業製品の製造ラインにおいて、部品の搬送、加工、組立等の作業を行う産業用ロボットが知られている。産業用ロボットは、アームと、アームを動作させるためのモータ及び減速機を備える。モータおよび減速機は、ロボットの関節に搭載される。モータから出力される回転運動は、減速機により減速されて、アームへ伝達される。これにより、アームが、減速後の速さで回動させる。
【0003】
ロボットに搭載される減速機は、例えば、特開2020-076415号公報に記載されている。
【特許文献1】特開2020-076415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2020-076415号公報に記載の減速機は、いわゆる波動歯車減速機である。波動歯車減速機は、楕円形状の波動発生器と、薄肉状のフレックスギアと、インタナルギアとを備える。波動発生器は、モータから出力される回転数で回転する。フレックスギアは、波動発生器により楕円形状に変形し、当該楕円の長軸の両端に相当する2箇所において、インタナルギアと噛み合う。フレックスギアとインタナルギアの噛み合いの位置は、波動発生器の回転に応じて周方向に移動する。そして、フレックスギアとインタナルギアとの歯数の差によって、フレックスギアまたはインタナルギアが、減速後の回転数で回転する。
【0005】
上記の通り、波動歯車減速機では、インタナルギアに対してフレックスギアが、周方向の2箇所で噛み合う。このため、中心軸に対する波動発生器のごく僅かなミスアライメント等により、フレックスギアとインタナルギアとの間に、波動発生器の回転数の2倍に相当する周波数の振動が生じる場合がある。そして、この振動の周波数が、アームの固有振動数と一致した場合、共振により大きな振動が発生する場合がある。すなわち、モータから波動発生器に、アームの固有振動数の1/2倍に相当する回転数の回転運動が入力された場合に、上述した共振が発生する。
【0006】
このような共振を抑制するためには、波動発生器の回転数を、アームの固有振動数の1/2倍に相当する回転数からずらすことが考えられる。しかしながら、そのためには、波動発生器の回転数をずらすための機構を、波動歯車減速機に追加する必要がある。そうすると、減速機を小型化しにくいという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、入力される回転数よりも低い回転数で波動発生器を回転させることができ、かつ、小型化しやすい減速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、中心軸を中心として第1回転数で回転する入力シャフトと、前記入力シャフトの前記第1回転数の回転運動を、前記第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に減速する前段減速機構と、前記中心軸を中心として前記第2回転数で回転し、波動発生器を含む中間回転体と、前記波動発生器の径方向外側に位置する可撓性の筒状部を有し、前記筒状部の外周面に複数の外歯を有するフレックスギアと、前記筒状部の径方向外側に位置し、前記中心軸を中心とする円環状の内周面に、複数の内歯を有するインタナルギアと、を備え、前記インタナルギアの前記内歯の数と、前記フレックスギアの前記外歯の数とが異なり、前記複数の外歯のうちの一部の外歯が、前記波動発生器に押されることによって、前記内歯と噛み合い、前記波動発生器の回転に伴い、前記内歯と前記外歯との噛み合い位置が、前記第2回転数で周方向に移動し、前記内歯と前記外歯との歯数の差によって、前記インタナルギアおよび前記フレックスギアのいずれか一方が、前記第2回転数よりも低い第3回転数で、前記中心軸を中心として回転し、前記中間回転体は、前記入力シャフトに軸受を介して支持される。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、前段減速機構を設けることにより、入力される第1回転数よりも低い第2回転数で、波動発生器を回転させる。これにより、前段減速機構が無い場合と比べて、フレックスギアとインタナルギアの噛み合いにより生じる振動の周期を、ずらすことができる。その結果、減速機の使用時の共振を抑えることができる。
【0010】
また、本願発明によれば、波動発生器は、固定部に軸受を介して支持されるのではなく、入力シャフトに軸受を介して支持される。これにより、入力シャフトと近接した位置に、波動発生器を配置できる。したがって、減速機の小型化が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ロボットの概要図である。
図2図2は、第1実施形態に係る減速機の縦断面図である。
図3図3は、前段減速機構の横断面図(図2のA-A線断面図)である。
図4図4は、後段減速機構の横断面図(図2のB-B線断面図)である。
図5図5は、第2実施形態に係る減速機の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願の各図では、図の煩雑化を避けるため、一部を除いて、断面を示すハッチングが省略されている。また、本願において「回転数」とは、単位時間あたりに物体が回転する回数(回転速度)を意味する。
【0013】
<1.ロボットについて>
図1は、一実施形態に係る減速機1を搭載したロボット100の概要図である。このロボット100は、工業製品の製造ラインにおいて、部品の搬送、加工、組立等の作業を行う、いわゆる産業用ロボットである。図1に示すように、ロボット100は、ベースフレーム101、アーム102、モータ103、および減速機1を備える。
【0014】
アーム102は、ベースフレーム101に対して、回動可能に支持されている。モータ103および減速機1は、ベースフレーム101とアーム102との間の関節部に、組み込まれている。モータ103に駆動電流が供給されると、モータ103から回転運動が出力される。また、モータ103から出力される回転運動は、減速機により減速されて、アーム102へ伝達される。これにより、ベースフレーム101に対してアーム102が、減速後の速さで回動する。
【0015】
<2.減速機について>
続いて、減速機1の詳細な構造について説明する。
【0016】
なお、以下では、減速機1の中心軸A1と平行な方向を「軸方向」、中心軸A1に直交する方向を「径方向」、中心軸A1を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0017】
<2-1.第1実施形態>
図2は、第1実施形態に係る減速機1の縦断面図である。減速機1は、モータ103の軸方向一方側に位置する。図2に示すように、減速機1は、固定部10、入力シャフト20、前段減速機構30、中間回転体40、および後段減速機構50を備える。
【0018】
固定部10は、ベースフレーム101に対して固定される部分である。図2に示すように、固定部10は、第1固定部材11と、第2固定部材12とを含む。第1固定部材11および第2固定部材12は、いずれも、中心軸A1を中心とする円環状の部材である。第1固定部材11と第2固定部材12とは、軸方向に並んでいる。第2固定部材12は、第1固定部材11よりも、軸方向一方側に位置する。第1固定部材11および第2固定部材12は、後述するフレックスギア52の取付部523とともに、ベースフレーム101に対して、ボルトにより固定される。
【0019】
入力シャフト20は、中心軸A1に沿って延びる円筒状の部材である。入力シャフト20の軸心は、減速機1の中心軸A1と一致する。入力シャフト20は、モータ103の出力軸に固定される。したがって、モータ103に駆動電流が供給されると、モータ103は、入力シャフト20を、中心軸A1を中心として回転させる。以下では、中心軸A1を中心とする入力シャフト20の回転数を「第1回転数」とする。
【0020】
前段減速機構30は、入力シャフト20の第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に減速する機構である。図3は、前段減速機構30の横断面図(図2のA-A線断面図)である。前段減速機構30は、いわゆる遊星減速機構である。図2および図3に示すように、前段減速機構30は、太陽ギア31、内歯ギア32、および複数の遊星ギア33を有する。
【0021】
太陽ギア31は、入力シャフト20とともに、中心軸A1を中心として第1回転数で回転するギアである。本実施形態では、入力シャフト20と太陽ギア31とが、単一の部品となっている。これにより、入力シャフト20と太陽ギア31を別部品とする場合に比べて、減速機1の部品点数が低減される。ただし、入力シャフト20と太陽ギア31を別部品としてもよい。その場合、入力シャフト20と太陽ギア31とが、相対回転不能な状態で固定されていればよい。太陽ギア31は、外周面に複数の外歯311を有する。複数の外歯311は、周方向に一定のピッチで設けられている。各外歯311は、径方向外側へ向けて突出する。
【0022】
内歯ギア32は、中心軸A1を中心とする円環状のギアである。内歯ギア32は、太陽ギア31の径方向外側に位置する。本実施形態では、第1固定部材11と内歯ギア32とが、単一の部品となっている。これにより、第1固定部材11と内歯ギア32とを別部品とする場合に比べて、減速機1の部品点数が低減される。ただし、第1固定部材11と内歯ギア32とを別部品としてもよい。その場合、第1固定部材11と内歯ギア32とが、相対回転不能な状態で固定されていればよい。内歯ギア32は、内周面に複数の内歯321を有する。複数の内歯321は、周方向に一定のピッチで設けられている。各内歯321は、径方向内側へ向けて突出する。
【0023】
複数の遊星ギア33は、太陽ギア31と内歯ギア32との間に位置する。図3に示すように、本実施形態の前段減速機構30は、2つの遊星ギア33を有する。ただし、前段減速機構30が有する遊星ギア33の数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。各遊星ギア33は、中心軸A1と平行な遊星軸A2を中心として、自転可能に支持されている。また、遊星ギア33は、複数の外歯331を有する。遊星ギア33の外歯331は、太陽ギア31の外歯311と噛み合う。また、遊星ギア33の外歯331は、内歯ギア32の内歯321とも噛み合う。
【0024】
太陽ギア31が、中心軸A1を中心として第1回転数で回転すると、太陽ギア31の外歯311と遊星ギア33の外歯331との噛み合いにより、遊星ギア33が、遊星軸A2を中心として自転する。また、遊星ギア33の外歯331は、内歯ギア32の内歯322とも噛み合うため、遊星ギア33は、遊星軸A2を中心として自転しながら、中心軸A1を中心として公転する。このとき、中心軸A1を中心とする遊星ギア33の回転数は、第1回転数よりも低い第2回転数となる。
【0025】
中間回転体40は、中心軸A1を中心とする円環状の部材である。中間回転体40は、複数の遊星ギア33の軸方向一方側に位置する。図2に示すように、中間回転体40は、キャリア41、円筒部42、および波動発生器51を含む。キャリア41、円筒部42、および波動発生器51は、軸方向他方側から軸方向一方側へ向けて、この順に並ぶ。本実施形態では、中間回転体40が、キャリア41、円筒部42、および波動発生器51を含む単一の部品となっている。ただし、中間回転体40は、複数の部品により構成されていてもよい。その場合、当該複数の部品が、相対回転不能な状態で、互いに固定されていればよい。
【0026】
キャリア41は、中間回転体40の最も軸方向他方側に位置する。キャリア41の軸方向他方側の端面には、複数のキャリアピン44が固定されている。各キャリアピン44は、遊星軸A2に沿って、軸方向に延びる。キャリアピン44は、遊星ギア33の中央に設けられた円孔に挿入される。これにより、遊星ギア33は、キャリアピン44に対して、回転可能に支持される。
【0027】
円筒部42は、キャリア41から軸方向一方側へ向けて延びる。円筒部42は、中心軸A1を中心とする円筒状である。円筒部42の外径は、キャリア41の外径および波動発生器51の外径よりも、小さい。これにより、円筒部42の外径が、キャリア41または波動発生器51の外径と同等である場合と比べて、中間回転体40を軽量化できる。
【0028】
入力シャフト20と中間回転体40との間には、2つの軸受60が介在する。2つの軸受60は、軸方向に並んで配置される。中間回転体40は、入力シャフト20に対して、2つの軸受60を介して支持される。したがって、中間回転体40は、入力シャフト20とは異なる回転数で、中心軸A1を中心として回転することが可能である。軸受60には、例えば、ボールベアリングが用いられる。ただし、ボールベアリングに代えて、滑り軸受などの他方式の軸受が用いられてもよい。
【0029】
上述の通り、中心軸A1を中心として遊星ギア33が公転すると、キャリアピン44も、中心軸A1を中心として回転する。したがって、複数の遊星ギア33、複数のキャリアピン44、および中間回転体40が、中心軸A1を中心として、第2回転数で回転する。
【0030】
後段減速機構50は、中間回転体40の第2回転数の回転運動を、第2回転数よりも低い第3回転数の回転運動に減速する機構である。図4は、後段減速機構50の横断面図(図2のB-B線断面図)である。図4では、軸受60および後述する可撓性軸受53を簡略化して示している。後段減速機構50は、いわゆる波動歯車減速機構である。図2および図4に示すように、後段減速機構50は、波動発生器51、フレックスギア52、可撓性軸受53、およびインタナルギア54を有する。
【0031】
波動発生器51は、フレックスギア52に周期的な撓み変形を与える要素である。本実施形態の波動発生器51は、上述した中間回転体40の一部分である。ただし、波動発生器51は、中間回転体40とは別の部品であってもよい。その場合、波動発生器51は、中間回転体40に対して、相対回転不能な状態で固定されていればよい。
【0032】
図4に示すように、本実施形態の波動発生器51は、楕円状のカムである。すなわち、波動発生器51の外周面は、中心軸A1を中心とする楕円形状である。波動発生器51は、長軸と短軸とを有する。中心軸A1を中心とする波動発生器51の外径は、長軸の位置において最も大きくなり、短軸の位置において最も小さくなる。したがって、波動発生器51の外径は、中心軸A1を中心とする180度の周期で変化する。
【0033】
フレックスギア52は、撓み変形可能な薄肉状のギアである。図2に示すように、フレックスギア52は、筒状部521、ダイヤフラム部522、および取付部523を有する。筒状部521は、波動発生器51の径方向外側、かつ、インタナルギア54の径方向内側に位置する。筒状部521は、軸方向に延びる筒状である。また、筒状部521は、薄肉状であるため、可撓性を有する。フレックスギア52は、筒状部521の外周面に、複数の外歯524を有する。複数の外歯524は、周方向に一定のピッチで設けられている。各外歯524は、径方向外側へ向けて突出する。
【0034】
ダイヤフラム部522は、筒状部521の軸方向他方側の端部から、径方向外側へ向けて広がる。ダイヤフラム部522は、中心軸A1を中心とする略円板状である。取付部523は、ダイヤフラム部522の径方向外側に位置する。取付部523は、中心軸A1を中心とする円環状である。取付部523の軸方向の厚みは、ダイヤフラム部522の軸方向の厚みおよび筒状部521の径方向の厚みよりも、厚い。取付部523は、第1固定部材11と第2固定部材12との間に挟まれる。第1固定部材11、取付部523、および第2固定部材12は、ボルト14により、互いに固定される。したがって、フレックスギア52は、固定部10に対して回転不能である。
【0035】
可撓性軸受53は、波動発生器51の径方向外側、かつ、フレックスギア52の筒状部521の径方向内側に位置する。可撓性軸受53が介在することにより、フレックスギア52が非回転であるのに対して、波動発生器51は、中心軸A1を中心として回転することが可能となる。また、可撓性軸受53は、柔軟に撓み変形可能である。したがって、波動発生器51の回転により、可撓性軸受53を介して筒状部521が、径方向に撓む。
【0036】
インタナルギア54は、筒状部521の径方向外側に位置する。インタナルギア54は、中心軸A1を中心とする円環状である。インタナルギア54は、中心軸A1を中心とする円環状の内周面に、複数の内歯541を有する。複数の内歯541は、周方向に一定のピッチで設けられている。各内歯541は、径方向内側へ向けて突出する。
【0037】
また、本実施形態の減速機1は、接続部材55を有する。接続部材55は、インタナルギア54の軸方向他方側に位置する。インタナルギア54と接続部材55とは、ボルト56により、互いに固定される。接続部材55は、第2固定部材12の径方向内側に位置する。第2固定部材12と接続部材55との間には、交互に向きを変えて配置された複数のローラ70が介在する。すなわち、第2固定部材12、接続部材55、および複数のローラ70は、第2固定部材12を外輪とし、接続部材55を内輪とする、クロスローラベアリングを構成している。インタナルギア54は、このクロスローラベアリングを介して、固定部10に対して、回転可能に支持される。
【0038】
可撓性軸受53は、波動発生器51の外周面に沿った楕円形状に変形する。したがって、フレックスギア52の筒状部521も、波動発生器51の外周面に沿った楕円形状に変形する。その結果、当該楕円の長軸の両端に相当する2箇所において、フレックスギア52の一部の外歯524が、可撓性軸受53を介して波動発生器51に押されることによって、インタナルギア54の内歯541と噛み合う。周方向の他の位置においては、外歯524と内歯541とが噛み合わない。
【0039】
波動発生器51が第2回転数で回転すると、フレックスギア52の上述した楕円の長軸も、第2回転数で回転する。そうすると、外歯524と内歯541との噛み合い位置も、周方向に第2回転数で移動する。また、フレックスギア52が有する外歯524の数と、インタナルギア54が有する内歯541の数とは、僅かに異なる。この歯数の差によって、波動発生器51の1回転ごとに、外歯524と内歯541との噛み合い位置が、周方向に移動する。その結果、フレックスギア52に対してインタナルギア54が、中心軸A1を中心として、第2回転数よりも低い第3回転数で回転する。
【0040】
また、インタナルギア54は、アーム102に固定されている。このため、アーム102は、インタナルギア54とともに、第3回転数で回動する。
【0041】
上述の通り、フレックスギア52とインタナルギア54は、波動発生器51の長軸の両端に相当する2箇所において噛み合う。このため、中心軸A1に対する波動発生器51のごく僅かなミスアライメント等により、フレックスギア52とインタナルギア54の噛み合いに起因する振動が生じる場合がある。この振動は、波動発生器51の回転数の2倍に相当する周波数となる。そして、この振動の周波数が、アーム102の固有振動数と一致した場合、共振により大きな振動が発生する場合がある。従来のように、前段減速機構30がなければ、モータから入力シャフトに供給される回転数で、波動発生器が回転する。したがって、モータから入力シャフトに、アームの固有振動数の1/2倍の回転数の回転運動が入力された場合に、上述した共振が発生する。
【0042】
しかしながら、本実施形態の減速機1は、波動歯車減速機構である後段減速機構50の入力側に、前段減速機構30を有する。このため、入力シャフト20よりも低い第2回転数で、波動発生器51を回転させることができる。これにより、前段減速機構30が無い場合と比べて、フレックスギア52とインタナルギア54の噛み合いにより生じる振動の周波数を、ずらすことができる。したがって、モータ103から入力シャフト20に、アーム102の固有振動数の1/2倍の回転数の回転運動が入力された場合でも、本実施形態の減速機1では、共振を抑えることができる。
【0043】
また、本実施形態の減速機1の構造では、波動発生器51を含む中間回転体40が、固定部10に軸受を介して支持されるのではなく、入力シャフト20に軸受60を介して支持されている。これにより、小径の軸受60を用いることができる。また、入力シャフト20と近接した位置に、波動発生器51を配置できる。したがって、減速機1の小型化が容易となる。
【0044】
また、本実施形態の減速機1の構造では、前段減速機構30が、フレックスギア52の筒状部521の径方向内側に位置する。すなわち、フレックスギア52の筒状部521の径方向内側のスペースに、前段減速機構30が収容されている。このようにすれば、前段減速機構30を、フレックスギア52とは異なる軸方向の位置に配置する場合と比べて、減速機1全体の軸方向の寸法を抑制できる。したがって、減速機1の小型化が、より容易となる。
【0045】
なお、前段減速機構30の一部分のみが、フレックスギア52の筒状部521の径方向内側に配置され、前段減速機構30の他の部分が、フレックスギア52から軸方向にはみ出していてもよい。
【0046】
また、本実施形態の減速機1の構造では、フレックスギア52のダイヤフラム部522が、筒状部521の軸方向他方側の端部から、径方向内側ではなく、径方向外側へ広がる。このため、ダイヤフラム部522により制限されることなく、フレックスギア52の径方向内側に、前段減速機構30を配置できる。これにより、減速機1の小型化が、より容易となる。
【0047】
また、仮に、前段減速機構30と波動発生器51とを、軸方向の同じ位置に配置し、前段減速機構30の径方向外側に波動発生器51を配置すると、波動発生器51の径方向の寸法が大きくなる。しかしながら、本実施形態の減速機1の構造では、前段減速機構30と波動発生器51とが、軸方向の異なる位置に配置されている。そして、波動発生器51が、前段減速機構30の一部分(本実施形態では遊星ギア33)と同一の径方向位置に配置されている。これにより、波動発生器51の径方向の寸法が抑制される。したがって、減速機1全体を径方向に小型化できる。
【0048】
<2-2.第2実施形態>
図5は、第2実施形態に係る減速機1の縦断面図である。減速機1は、モータ103の軸方向一方側に位置する。図5に示すように、減速機1は、固定部10、入力シャフト20、前段減速機構30、中間回転体40、後段減速機構50、および出力部材80を備える。
【0049】
固定部10は、ベースフレーム101に対して固定される部分である。図5に示すように、固定部10は、第1固定部材11、第2固定部材12、および第3固定部材13を含む。第1固定部材11、第2固定部材12、および第3固定部材13は、いずれも、中心軸A1を中心とする円環状の部材である。第1固定部材11、第2固定部材12、および第3固定部材13は、軸方向に並んでいる。第2固定部材12は、第1固定部材11よりも、軸方向一方側に位置する。第3固定部材13は、第2固定部材12よりも、軸方向一方側に位置する。第1固定部材11、第2固定部材12、および第3固定部材13は、ベースフレーム101に対して、ボルトにより固定される。
【0050】
入力シャフト20は、中心軸A1に沿って延びる円筒状の部材である。入力シャフト20の軸心は、減速機1の中心軸A1と一致する。入力シャフト20は、モータ103の出力軸に固定される。したがって、モータ103に駆動電流が供給されると、モータ103は、入力シャフト20を、中心軸A1を中心として回転させる。以下では、中心軸A1を中心とする入力シャフト20の回転数を「第1回転数」とする。
【0051】
前段減速機構30は、入力シャフト20の第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に減速する機構である。前段減速機構30は、いわゆる遊星減速機構である。図5に示すように、前段減速機構30は、太陽ギア31、内歯ギア32、および複数の遊星ギア33を有する。
【0052】
太陽ギア31は、入力シャフト20とともに、中心軸A1を中心として第1回転数で回転するギアである。本実施形態では、入力シャフト20と太陽ギア31とが、単一の部品となっている。これにより、入力シャフト20と太陽ギア31を別部品とする場合に比べて、減速機1の部品点数が低減される。ただし、入力シャフト20と太陽ギア31を別部品としてもよい。その場合、入力シャフト20と太陽ギア31とが、相対回転不能な状態で固定されていればよい。太陽ギア31は、外周面に複数の外歯311を有する。複数の外歯311は、周方向に一定のピッチで設けられている。各外歯311は、径方向外側へ向けて突出する。
【0053】
内歯ギア32は、中心軸A1を中心とする円環状のギアである。内歯ギア32は、太陽ギア31の径方向外側に位置する。本実施形態では、内歯ギア32が、固定部10ではなく、後述する出力部材80に対して固定される。内歯ギア32は、内周面に複数の内歯321を有する。複数の内歯321は、周方向に一定のピッチで設けられている。各内歯321は、径方向内側へ向けて突出する。
【0054】
複数の遊星ギア33は、太陽ギア31と内歯ギア32との間に位置する。各遊星ギア33は、中心軸A1と平行な遊星軸A2を中心として、自転可能に支持されている。また、遊星ギア33は、複数の外歯331を有する。遊星ギア33の外歯331は、太陽ギア31の外歯311と噛み合う。また、遊星ギア33の外歯331は、内歯ギア32の内歯321とも噛み合う。
【0055】
太陽ギア31が、中心軸A1を中心として第1回転数で回転すると、太陽ギア31の外歯311と遊星ギア33の外歯331との噛み合いにより、遊星ギア33が、遊星軸A2を中心として自転する。また、遊星ギア33の外歯331は、内歯ギア32の内歯322とも噛み合うため、遊星ギア33は、遊星軸A2を中心として自転しながら、中心軸A1を中心として公転する。このとき、中心軸A1を中心とする遊星ギア33の回転数は、第1回転数よりも低い第2回転数となる。
【0056】
中間回転体40は、中心軸A1を中心とする円環状の部材である。中間回転体40は、複数の遊星ギア33の軸方向他方側に位置する。図5に示すように、中間回転体40は、キャリア41、および波動発生器51を含む。波動発生器51は、キャリア41の軸方向他方側に位置する。本実施形態では、中間回転体40が、キャリア41および波動発生器51を含む単一の部品となっている。ただし、中間回転体40は、複数の部品により構成されていてもよい。その場合、当該複数の部品が、相対回転不能な状態で、互いに固定されていればよい。
【0057】
キャリア41は、中間回転体40の最も軸方向一方側に位置する。キャリア41の軸方向一方側の端面には、複数のキャリアピン44が固定されている。各キャリアピン44は、遊星軸A2に沿って、軸方向に延びる。キャリアピン44は、遊星ギア33の中央に設けられた円孔に挿入される。これにより、遊星ギア33は、キャリアピン44に対して、回転可能に支持される。
【0058】
入力シャフト20と中間回転体40との間には、2つの軸受60が介在する。2つの軸受60は、軸方向に並んで配置される。中間回転体40は、入力シャフト20に対して、2つの軸受60を介して支持される。したがって、中間回転体40は、入力シャフト20とは異なる回転数で、中心軸A1を中心として回転することが可能である。軸受60には、例えば、ボールベアリングが用いられる。ただし、ボールベアリングに代えて、滑り軸受などの他方式の軸受が用いられてもよい。
【0059】
上述の通り、中心軸A1を中心として遊星ギア33が公転すると、キャリアピン44も、中心軸A1を中心として回転する。したがって、複数の遊星ギア33、複数のキャリアピン44、および中間回転体40が、中心軸A1を中心として、第2回転数で回転する。
【0060】
後段減速機構50は、中間回転体40の第2回転数の回転運動を、第2回転数よりも低い第3回転数の回転運動に減速する機構である。後段減速機構50は、いわゆる波動歯車減速機構である。図2および図4に示すように、後段減速機構50は、波動発生器51、フレックスギア52、可撓性軸受53、およびインタナルギア54を有する。
【0061】
波動発生器51は、フレックスギア52に周期的な撓み変形を与える要素である。本実施形態の波動発生器51は、上述した中間回転体40の一部分である。ただし、波動発生器51は、中間回転体40とは別の部品であってもよい。その場合、波動発生器51は、中間回転体40に対して、相対回転不能な状態で固定されていればよい。
【0062】
本実施形態の波動発生器51は、楕円状のカムである。すなわち、波動発生器51の外周面は、中心軸A1を中心とする楕円形状である。波動発生器51は、長軸と短軸とを有する。中心軸A1を中心とする波動発生器51の外径は、長軸の位置において最も大きくなり、短軸の位置において最も小さくなる。したがって、波動発生器51の外径は、中心軸A1を中心とする180度の周期で変化する。
【0063】
フレックスギア52は、撓み変形可能な薄肉状のギアである。図5に示すように、フレックスギア52は、筒状部521、ダイヤフラム部522、および取付部523を有する。筒状部521は、波動発生器51の径方向外側、かつ、インタナルギア54の径方向内側に位置する。筒状部521は、軸方向に延びる筒状である。また、筒状部521は、薄肉状であるため、可撓性を有する。フレックスギア52は、筒状部521の外周面に、複数の外歯524を有する。複数の外歯524は、周方向に一定のピッチで設けられている。各外歯524は、径方向外側へ向けて突出する。
【0064】
ダイヤフラム部522は、筒状部521の軸方向他方側の端部から、径方向内側へ向けて広がる。ダイヤフラム部522は、中心軸A1を中心とする略円板状である。取付部523は、ダイヤフラム部522の径方向内側に位置する。取付部523は、中心軸A1を中心とする円環状である。取付部523の軸方向の厚みは、ダイヤフラム部522の軸方向の厚みおよび筒状部521の径方向の厚みよりも、厚い。取付部523は、内歯ギア32と出力部材80との間に挟まれる。内歯ギア32、取付部523、および出力部材80は、ボルト56により、互いに固定される。
【0065】
可撓性軸受53は、波動発生器51の径方向外側、かつ、フレックスギア52の筒状部521の径方向内側に位置する。可撓性軸受53が介在することにより、フレックスギア52は、波動発生器51とは異なる回転数で、中心軸A1を中心として回転することが可能となる。また、可撓性軸受53は、柔軟に撓み変形可能である。したがって、波動発生器51の回転により、可撓性軸受53を介して筒状部521が、径方向に撓む。
【0066】
インタナルギア54は、筒状部521の径方向外側に位置する。インタナルギア54は、中心軸A1を中心とする円環状である。インタナルギア54は、固定部10に対して回転不能である。本実施形態では、第2固定部材12とインタナルギア54とが、単一の部品となっている。これにより、第2固定部材12とインタナルギア54とを別部品とする場合に比べて、減速機1の部品点数が低減される。ただし、第2固定部材12とインタナルギア54とを別部品としてもよい。その場合、第2固定部材12とインタナルギア54とが、相対回転不能な状態に固定されていればよい。
【0067】
インタナルギア54は、中心軸A1を中心とする円環状の内周面に、複数の内歯541を有する。複数の内歯541は、周方向に一定のピッチで設けられている。各内歯541は、径方向内側へ向けて突出する。
【0068】
可撓性軸受53は、波動発生器51の外周面に沿った楕円形状に変形する。したがって、フレックスギア52の筒状部521も、波動発生器51の外周面に沿った楕円形状に変形する。その結果、当該楕円の長軸の両端に相当する2箇所において、フレックスギア52の一部の外歯524が、可撓性軸受53を介して波動発生器51に押されることによって、インタナルギア54の内歯541と噛み合う。周方向の他の位置においては、外歯524と内歯541とが噛み合わない。
【0069】
波動発生器51が第2回転数で回転すると、フレックスギア52の上述した楕円の長軸も、第2回転数で回転する。そうすると、外歯524と内歯541との噛み合い位置も、周方向に第2回転数で移動する。また、フレックスギア52が有する外歯524の数と、インタナルギア54が有する内歯541の数とは、僅かに異なる。この歯数の差によって、波動発生器51の1回転ごとに、外歯524と内歯541との噛み合い位置が、周方向に移動する。その結果、インタナルギア54に対してフレックスギア52が、中心軸A1を中心として、第2回転数よりも低い第3回転数で回転する。
【0070】
出力部材80は、中心軸A1を中心とする円環状の部材である。出力部材80は、フレックスギア52の軸方向一方側に位置する。また、出力部材80は、第3固定部材13の径方向内側に位置する。第3固定部材13と出力部材80との間には、交互に向きを変えて配置された複数のローラ70が介在する。すなわち、第3固定部材13、出力部材80、および複数のローラ70は、第3固定部材13を外輪とし、出力部材80を内輪とする、クロスローラベアリングを構成している。出力部材80は、このクロスローラベアリングを介して、固定部10に対して、回転可能に支持される。
【0071】
上述の通り、出力部材80、フレックスギア52の取付部523、および内歯ギア32は、ボルト56により、互いに固定される。したがって、フレックスギア52が中心軸A1を中心として第3回転数で回転すると、内歯ギア32および出力部材80も、中心軸A1を中心として第3回転数で回転する。
【0072】
また、出力部材80は、アーム102に固定されている。このため、アーム102は、出力部材80とともに、第3回転数で回動する。
【0073】
上述の通り、フレックスギア52とインタナルギア54は、波動発生器51の長軸の両端に相当する2箇所において噛み合う。このため、中心軸A1に対する波動発生器51のごく僅かなミスアライメント等により、フレックスギア52とインタナルギア54の噛み合いに起因する振動が生じる場合がある。この振動は、波動発生器51の回転数の2倍に相当する周波数となる。そして、この振動の周波数が、アーム102の固有振動数と一致した場合、共振により大きな振動が発生する場合がある。従来のように、前段減速機構30がなければ、モータから入力シャフトに供給される回転数で、波動発生器が回転する。したがって、前段減速機構30がなければ、モータから入力シャフトに、アームの固有振動数の1/2倍の回転数の回転運動が入力された場合に、上述した共振が発生する。
【0074】
しかしながら、本実施形態の減速機1は、波動歯車減速機構である後段減速機構50の入力側に、前段減速機構30を有する。このため、入力シャフト20よりも低い第2回転数で、波動発生器51を回転させることができる。これにより、前段減速機構30が無い場合と比べて、フレックスギア52とインタナルギア54の噛み合いにより生じる振動の周波数を、ずらすことができる。したがって、モータ103から入力シャフト20に、アーム102の固有振動数の1/2倍の回転数の回転運動が入力された場合でも、本実施形態の減速機1では、共振を抑えることができる。
【0075】
また、本実施形態の減速機1の構造では、波動発生器51を含む中間回転体40が、固定部10に軸受を介して支持されるのではなく、入力シャフト20に軸受60を介して支持されている。これにより、小径の軸受60を用いることができる。また、入力シャフト20と近接した位置に、波動発生器51を配置できる。したがって、減速機1の小型化が容易となる。
【0076】
また、本実施形態の減速機1の構造では、前段減速機構30が、フレックスギア52の筒状部521の径方向内側に位置する。すなわち、フレックスギア52の筒状部521の径方向内側のスペースに、前段減速機構30が収容されている。このようにすれば、前段減速機構30を、フレックスギア52とは異なる軸方向の位置に配置する場合と比べて、減速機1全体の軸方向の寸法を抑制できる。したがって、減速機1の小型化が、より容易となる。
【0077】
なお、前段減速機構30の一部分のみが、フレックスギア52の筒状部521の径方向内側に配置され、前段減速機構30の他の部分が、フレックスギア52から軸方向にはみ出していてもよい。
【0078】
また、仮に、前段減速機構30と波動発生器51とを、軸方向の同じ位置に配置し、前段減速機構30の径方向外側に波動発生器51を配置すると、波動発生器51の径方向の寸法が大きくなる。しかしながら、本実施形態の減速機1の構造では、前段減速機構30と波動発生器51とが、軸方向の異なる位置に配置されている。そして、波動発生器51が、前段減速機構30の一部分(本実施形態では内歯ギア32)と同一の径方向位置に配置されている。これにより、波動発生器51の径方向の寸法が抑制される。したがって、減速機1全体を径方向に小型化できる。
【0079】
<3.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0080】
上記の実施形態では、波動発生器51が、楕円形状のカムであった。しかしながら、波動発生器51は、他の形状のカムであってもよい。例えば、波動発生器51を略三角形状のカムとし、周方向の3カ所で、フレックスギア52の筒状部521をインタナルギア54へ向けて押圧するようにしてもよい。その場合、前段減速機構30がなければ、モータから入力シャフトに、アームの固有振動数の1/3倍の回転数の回転運動が入力された場合に、上述した共振が発生する。しかしながら、前段減速機構30を設けることによって、波動発生器の回転数をずらせるため、共振を抑制できる。
【0081】
また、波動発生器51は、カムではなく、複数のローラにより、フレックスギア52の筒状部521をインタナルギア54へ向けて押圧するものであってもよい。
【0082】
また、上記の実施形態では、入力シャフト20と中間回転体40との間に、2つの軸受60が設けられていた。しかしながら、入力シャフト20と中間回転体40との間に設けられる軸受60の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0083】
また、上記の実施形態では、ロボット100のベースフレーム101とアーム102との間の関節部に、モータ103および減速機1が搭載されていた。しかしながら、ロボット100は、複数のアームを備えた多関節型であってもよい。その場合、アーム同士の間の関節部に、モータ103および減速機1が設けられていてもよい。
【0084】
また、上記の実施形態では、ロボット100に搭載される減速機1について説明した。しかしながら、本発明の減速機は、ロボット以外の機器に搭載されるものであってもよい。
【0085】
その他、減速機の細部の構造および形状については、本願の各図に示された構造および形状と異なっていてもよい。また、上記の実施形態または変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に取捨選択してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、減速機およびロボットに利用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 減速機
10 固定部
11 第1固定部材
12 第2固定部材
13 第3固定部材
20 入力シャフト
30 前段減速機構
31 太陽ギア
32 内歯ギア
33 遊星ギア
40 中間回転体
41 キャリア
42 円筒部
44 キャリアピン
50 後段減速機構
51 波動発生器
52 フレックスギア
53 可撓性軸受
54 インタナルギア
55 接続部材
60 軸受
70 ローラ
80 出力部材
100 ロボット
101 ベースフレーム
102 アーム
103 モータ
521 筒状部
522 ダイヤフラム部
523 取付部
A1 中心軸
A2 遊星軸

図1
図2
図3
図4
図5