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  • 特開-溶湯サンプリング治具 図1
  • 特開-溶湯サンプリング治具 図2
  • 特開-溶湯サンプリング治具 図3
  • 特開-溶湯サンプリング治具 図4
  • 特開-溶湯サンプリング治具 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125576
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】溶湯サンプリング治具
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/00 20060101AFI20220822BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20220822BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
B22D41/00 C
F27D21/00 D
G01N1/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023237
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 充俊
(72)【発明者】
【氏名】高和 潤弥
(72)【発明者】
【氏名】関口 達也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】関根 伸仁
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 豊
【テーマコード(参考)】
2G052
4E014
4K056
【Fターム(参考)】
2G052AA11
2G052AB01
2G052AC23
2G052AD06
2G052AD26
2G052BA18
2G052DA26
2G052JA15
4E014AB02
4K056AA05
4K056BA04
4K056CA01
4K056FA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】溶湯内の比較的に深い位置を含め、任意の位置から試料をピンポイントに採取することを可能にする治具を提供する。
【解決手段】溶湯サンプリング治具は、第1の方向Pに操作することにより溶湯を採取するものであって、溶湯が流入可能な室5を囲み、第1の方向に向き室に流体連通した第1の開口7と、第1の方向とは逆に向き室に流体連通した第2の開口9と、を備えた容器本体3と、開閉可能に容器本体に取り付けられ、容器本体が第1の方向に向けて動くと溶湯による流体圧を受けて第1の開口を閉塞する第1の蓋と、開閉可能に容器本体に取り付けられ、容器本体が第1の方向に向けて動くと溶湯による流体圧を受けて第2の開口を閉塞する第2の蓋と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に操作することにより溶湯を採取するための治具であって、
前記溶湯が流入可能な室を囲み、前記第1の方向に向き前記室に流体連通した第1の開口と、前記第1の方向とは逆に向き前記室に流体連通した第2の開口と、を備えた容器本体と、
開閉可能に前記容器本体に取り付けられ、前記容器本体が前記第1の方向に向けて動くと前記溶湯による流体圧を受けて前記第1の開口を閉塞する第1の蓋と、
開閉可能に前記容器本体に取り付けられ、前記容器本体が前記第1の方向に向けて動くと前記溶湯による流体圧を受けて前記第2の開口を閉塞する第2の蓋と、
を備えた治具。
【請求項2】
前記第1の蓋および前記第2の蓋は、それぞれ前記容器本体に軸支されている、請求項1の治具。
【請求項3】
前記第1の蓋は、前記第1の開口を閉塞したときにおいても前記溶湯の流入を許すように寸法付けられ、前記第2の蓋は、前記第2の開口を閉塞したときには前記溶湯の流出を妨げるように寸法付けられている、請求項1または2の治具。
【請求項4】
前記第2の開口は、少なくとも前記第2の蓋に接する面において、前記第1の方向とは逆向きにテーパとなっている、請求項1から3までの何れか1項の治具。
【請求項5】
前記第2の蓋は、少なくとも前記第2の開口に接する面において、前記第1の方向とは逆向きにテーパとなっている、請求項1から4までの何れか1項の治具。
【請求項6】
前記容器本体、前記第1の蓋、および前記第2の蓋の一以上は、アルミナ系、マグネシア系、カルシア系セラミックスまたはモリブデンよりなる、請求項1から5までの何れか1項の治具。
【請求項7】
前記容器本体、前記第1の蓋、および前記第2の蓋の一以上は、アルミナシリケートよりなる被覆材により被覆されている、請求項1から6までの何れか1項の治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合金の溶湯から試料を採取するためのサンプリング治具に関し、特に、溶湯内の比較的に深い位置を含め、任意の位置から試料をピンポイントに採取することができるサンプリング治具に関する。
【背景技術】
【0002】
合金のインゴットは、原料金属を所望の成分比となるよう配合し、例えば真空炉を利用してこれを溶解することにより作成される。溶湯には、自然対流や気泡の生成による攪拌、あるいは意図的に印加される電磁気力による攪拌が生じ、これらを利用して合金成分を混合し、組成の均一化が図られる。ところが得られたインゴットにおいて、しばしば目的の組成からのずれが生じることがある。かかる組成ずれが不十分な混合によるものか、特別な偏析現象によるものかにより、その対策は著しく異なる。
【0003】
攪拌中の溶湯の挙動を解明するべく、種々のコンピュータシミュレーションが工夫されている。精緻な解析を可能にするためには、実際の溶湯の各位置から試料を採取して組成を把握し、これを解析に反映し、あるいは解析結果と照合する必要がある。
【0004】
特許文献1から3は、サンプリングのための治具および方法について関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-3072号公報
【特許文献2】特開平8-21832号公報
【特許文献3】特開2002-71888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術文献より理解される通り、種々のサンプリング治具が工夫されているが、溶湯において試料を採取できる位置は限られている。例えば溶湯の表面から治具を挿入して比較的に深い位置の試料を採取しようとしても、採取された試料が挿入から引き上げに至る何れの時点のものを反映しているかは定かでない。一旦治具内を試料が満たしたとしても、治具を引き上げる過程において他の位置における溶湯と混合し、甚だしくは完全に置換されてしまいかねないからである。すなわち従来のサンプリング治具によれば、溶湯の任意の位置をピンポイントに採取して組成の分布を調査することは期待できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に開示する治具は、上述の課題を解決するために工夫されたものである。
【0008】
かかる治具は、第1の方向に操作することにより溶湯を採取するものであって、前記溶湯が流入可能な室を囲み、前記第1の方向に向き前記室に流体連通した第1の開口と、前記第1の方向とは逆に向き前記室に流体連通した第2の開口と、を備えた容器本体と、開閉可能に前記容器本体に取り付けられ、前記容器本体が前記第1の方向に向けて動くと前記溶湯による流体圧を受けて前記第1の開口を閉塞する第1の蓋と、開閉可能に前記容器本体に取り付けられ、前記容器本体が前記第1の方向に向けて動くと前記溶湯による流体圧を受けて前記第2の開口を閉塞する第2の蓋と、を備える。
【0009】
好ましくは、前記第1の蓋および前記第2の蓋は、それぞれ前記容器本体に軸支されている。また好ましくは、前記第1の蓋は、前記第1の開口を閉塞したときにおいても前記溶湯の流入を許すように寸法付けられ、前記第2の蓋は、前記第2の開口を閉塞したときには前記溶湯の流出を妨げるように寸法付けられている。より好ましくは、前記第2の開口は、少なくとも前記第2の蓋に接する面において、前記第1の方向とは逆向きにテーパとなっている。さらに好ましくは、前記第2の蓋は、少なくとも前記第2の開口に接する面において、前記第1の方向とは逆向きにテーパとなっている。
【発明の効果】
【0010】
治具は、溶湯内の比較的に深い位置を含め、任意の位置から試料をピンポイントに採取することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態による治具の斜視図である。
図2図2は、他の実施形態による治具の斜視図である。
図3図3は、治具の立面断面図である。
図4図4は、治具の平面断面図であって、図3のIVA-IVA線およびIVB-IVB線から取られたものである。
図5図5は、底面の開口と蓋との関係を特に表す部分立面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面を参照して以下にいくつかの例示的な実施形態を説明する。図面は必ずしも正確な縮尺により示されておらず、従って相互の寸法関係は図示されたものに限られないことに特に注意を要する。
【0013】
例えば図1を参照するに、本実施形態による溶湯サンプリング治具1は、溶湯に沈めた後に方向Pに操作したときにのみ蓋が閉じ、当該位置の試料をピンポイントに採取するよう構成されている。方向Pは、通常には鉛直に上向きだが、これは必然ではない。
【0014】
治具1は、溶湯による高温に耐え、かつ溶湯と反応を起こしにくい適宜の素材よりなる。かかる素材は、例えば溶湯よりも比重が大きいものであり、金属およびセラミックスが例示できる。例えば所謂ニッケル基またはコバルト基超合金の溶湯に適用するに、これらは1400℃以上であって、溶湯の採取に要する時間の程度においてかかる温度域においても形状を維持できる程度に十分に反応性の低い金属を利用することができ、そのような金属としてモリブデンを例示することができる。またアルミナ系、マグネシア系、カルシア系セラミックスが好適に利用できる。
【0015】
また治具1の表面は、例えば溶湯に対する反応性をさらに低減する目的で、適宜の素材により被覆することができる。かかる被覆材としては、例えば所謂ニッケル基またはコバルト基超合金の溶湯に適用するに、アルミナシリケートを例示することができる。
【0016】
図1に組み合わせて図3を参照するに、治具1は容器本体3を備え、かかる容器本体3は溶湯が流入可能な室5を囲むように寸法づけられている。容器本体3は、例えば平面的な側面3sにより構成されて概して直方体のごとき形状だが、図2に例示するごとく側面3sの一以上は円筒面であってもよく、さらにあるいは円錐面やその他の回転対称形であってもよい。言うまでもなく内面も平面、円筒面または円錐面により構成することができる。これらの形状は加工が容易になる点で有利である。あるいは加工性以外の他の要素を考慮することができ、例えば流線的な形状や砲弾型の形状を採用してもよい。これらは溶湯の流れを乱しにくい点で有利である。
【0017】
各図において特段に描かれていないが、治具1を操作する目的で、側面3sの何れかに適宜の長さの棒のごとき操作用具が取り付けられる。取り付けのために、例えばボルトのごとき固定具を利用することができるが、これは必須ではない。治具1を溶湯に沈め、また引き上げる操作は、直接にはかかる操作用具を操作することによる。
【0018】
主に図3を参照するに、溶湯の流入を許容するべく、容器本体3は開口を備える。容器本体3の天面3aに一方の開口7が開口し、底面3bに他方の開口9が開口し、何れも室5に流体連通している。言うまでもなく、方向Pを鉛直にしたときには、開口7は方向Pに向き、開口9は方向Pとは逆に向いている。
【0019】
開口7,9をそれぞれ閉塞するべく、開閉可能な天蓋11と底蓋13とが容器本体3に取り付けられている。それぞれ閉塞したときには、天蓋11は天面3aに密着し、底蓋13は底面3bに密着するべく寸法づけられており、以って室5に流入した溶湯を外部から隔離し、また流出を妨げて室5内に保持する。そのような閉塞を可能にするべく、天蓋11は図4(a)に示すごとく開口7よりも僅かに大きく、底蓋13は図4(b)に示すごとく開口9と嵌め合いになるよう、寸法づけることができる。あるいは後に説明する通り、天蓋11と開口7または天面3aとは、閉塞したときにおいても溶湯の流入を許すよう、僅かな隙間を残すように寸法づけられていてもよい。
【0020】
天蓋11および底蓋13は、それぞれ容器本体3に軸支されていてもよい。支軸11P,13Pは、それぞれ天蓋11,底蓋13の基端近傍を貫き、容器本体3に固定され、以って天蓋11および底蓋13を開閉可能に支持する。図1,2に例示されるよう、支軸11P,13Pは容器本体3をも貫通してその両端が外部に露出していてもよいが、これは組み立ての便宜のためであって必須ではない。天蓋11および底蓋13は、図3に実線で示された閉塞位置と、二点鎖線で示された開放位置との間で開閉可能となる。天蓋11および底蓋13がそれぞれの開放位置を超えて回動しないよう、容器本体3は、これらに当接するリブを備えてもよく、あるいはリブに代えて、または加えて、他の適宜の構造物を備えてもよい。
【0021】
治具1が方向Pと逆向きに操作される(溶湯中に沈む)ときには、室5に流入する溶湯による流体圧が天蓋11および底蓋13に作用してこれらを押し上げて開き、治具1を方向Pに引き上げると流体圧を受けて天蓋11および底蓋13は閉じる。なお、仮に天蓋11が先行して開口7を閉塞してしまえば、底蓋13はもはや流体圧を受けることができず開口9の閉塞が不十分になりかねない。そこで既に述べた通り、僅かな溶湯の流入を許す隙間を残すように、天蓋11、開口7および天面3aが寸法づけられていてもよい。一旦底蓋13が開口9を閉塞した後には、室5内の溶湯はもはや流出することができなくなり、外部の溶湯が開口7から流入することもなくなるので、僅かな隙間が残っていても室5内の試料が外部と物質的交換を起こすことはなく、試料の信頼性が損なわれることはない。
【0022】
底蓋13による開口9の閉塞性は、試料の信頼性を向上する上で重要である。相互の密着性を高めるべく、底蓋13および開口9の一方または両方は、互いに接する面において斜めになったベベル面13s,9Bを備えてもよい。図5(a)に示すごとく、ベベル面13s,9Bは、方向Pとは逆向きにテーパであって、底蓋13が閉じるときに楔のように働いて相互の密着を強める。ベベル面9Bの有無に関わらず、開口9の下側は方向Pの向きにテーパとなったベベル面9Cを備えてもよい。これは溶湯の流入を促すのに有利である。もちろん図5(b)に示すごとく、ベベル面9Bは開口9の下縁まで連続していてもよい。
【0023】
ベベル面13s、9Bは平面でなくてもよく、その一方または両方は、図5(c)に示すごとく、曲面であってもよい。例えばベベル面13sは外方に向かって凸な曲面にすることができ、ベベル面9Bは凹曲面にすることができる。あるいは図5(d)に示すごとく、それぞれ階段状にすることができる。開口9が閉塞した後には、互いに接したベベル面13s、9Bはラビリンスのように働き、内部の試料の流出をよりよく防止する。
【0024】
以上の説明より理解される通り、治具1を溶湯に沈めると、流体圧を受けて蓋11,13は共に開き、溶湯は容易に室5内に流入する。治具1を方向Pに操作すると、流体圧を受けて蓋11,13はともに閉じ、室5内に流入した溶湯を試料として採取することができる。蓋13は開口9を密に閉塞し、またこれにより開口7を通って新たな溶湯が流入することは防止され、また室5の内外で物質的交換が起こることもない。治具1を方向Pに操作し始めたピンポイントにおいて、試料を的確に採取することができ、またその信頼性も確保することができる。従来技術によれば、採取された試料がどの位置における組成を反映するのか十分な信頼性が得られなかったが、本実施形態によればピンポイントかつ十分な信頼性をもって試料を採取することができる。
【0025】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 治具
3 容器本体
3a 天面
3b 底面
3s 側面
5 室
7 開口
9 開口
9B ベベル面
9C ベベル面
11 天蓋
11P 支軸
13 底蓋
13P 支軸
13s ベベル面
P 方向
図1
図2
図3
図4
図5