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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125585
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】断熱材
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/05 20060101AFI20220822BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20220822BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20220822BHJP
【FI】
F16L59/05
H01M10/658
H01M10/625
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023253
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄紀
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐太朗
【テーマコード(参考)】
3H036
5H031
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB13
3H036AB15
3H036AB23
3H036AB24
3H036AC03
3H036AE01
3H036AE04
5H031EE04
5H031KK02
(57)【要約】
【課題】 多孔質構造体の脱落抑制と難燃性とが両立され、形状保持性および断熱性に優れる断熱材を提供する。
【解決手段】 断熱材1aは、多孔質構造体と、補強繊維と、無機バインダーと、を有する断熱層10と、断熱層10を覆うように配置され複数の孔部を有し難燃性を有する難燃基材20と、を備える。難燃基材20は、断熱層10を挟んで配置される第一難燃部30および第二難燃部40を有する。第一難燃部30は、断熱層10に接して配置され断熱層10の一部が含浸した第一含浸層31と、第一含浸層31の外側に配置され孔部が閉塞され多孔質構造体の脱落を抑制する第一脱落抑制層32と、を有し、第二難燃部40は、断熱層10に接して配置され断熱層10の一部が含浸した第二含浸層41と、第二含浸層41の外側に配置され孔部が閉塞され多孔質構造体の脱落を抑制する第二脱落抑制層42と、を有する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体と、補強繊維と、無機バインダーと、を有する断熱層と、
該断熱層を覆うように配置され複数の孔部を有し難燃性を有する難燃基材と、
を備え、
該難燃基材は、該断熱層を挟んで配置される第一難燃部および第二難燃部を有し、
該第一難燃部は、該断熱層に接して配置され該断熱層の一部が含浸した第一含浸層と、該第一含浸層の外側に配置され該孔部が閉塞され該多孔質構造体の脱落を抑制する第一脱落抑制層と、を有し、
該第二難燃部は、該断熱層に接して配置され該断熱層の一部が含浸した第二含浸層と、該第二含浸層の外側に配置され該孔部が閉塞され該多孔質構造体の脱落を抑制する第二脱落抑制層と、を有することを特徴とする断熱材。
【請求項2】
前記難燃基材は、難燃性不織布からなる請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記第一脱落抑制層および前記第二脱落抑制層は、前記難燃性不織布が厚さ方向に加熱圧縮され、該難燃性不織布において前記断熱層が含浸しない部分が融着することにより形成される請求項2に記載の断熱材。
【請求項4】
前記第一脱落抑制層および前記第二脱落抑制層は、前記難燃性不織布に難燃剤およびバインダーを有する難燃性組成物が含浸されて形成される請求項2に記載の断熱材。
【請求項5】
前記断熱層はシート状を呈し、該断熱層の周側面の少なくとも一部は前記難燃基材に被覆される請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断熱材。
【請求項6】
前記断熱層はシート状を呈し、
前記難燃基材は、一枚の難燃性不織布からなり、
一枚の該難燃性不織布は、該断熱層の厚さ方向の一面側から周側面を覆って他面側に折り返され固着される請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の断熱材。
【請求項7】
前記断熱層はシート状を呈し、
前記難燃基材は、大きさが異なる二枚の難燃性不織布からなり、
二枚の該難燃性不織布の一方は、該断熱層の厚さ方向の一面よりも大きく、該一面側に配置され、
二枚の該難燃性不織布の他方は、該断熱層の厚さ方向の他面と同じかそれよりも小さく、該他面側に配置され、
二枚の該難燃性不織布の一方は、該一面側から該断熱層の周側面を覆って該他面側に折り返され固着される請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の断熱材。
【請求項8】
前記断熱層はシート状を呈し、
前記難燃基材は、二枚の難燃性不織布からなり、
二枚の該難燃性不織布は、各々、該断熱層の厚さ方向に積層される本体部と、該断熱層の周囲に配置される周囲部と、を有し、
該周囲部の一部は、重なった状態で該断熱層の厚さ方向の一面および他面の少なくとも一方に折り返され固着される請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の断熱材。
【請求項9】
前記断熱層はシート状を呈し、
前記難燃基材は、該断熱層の周側面の少なくとも一部に配置される第三難燃部を有し、
該第三難燃部は、該断熱層に接して配置され該断熱層の一部が含浸した第三含浸層と、該第三含浸層の外側に配置され該孔部が閉塞され該多孔質構造体の脱落を抑制する第三脱落抑制層と、を有する請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の断熱材。
【請求項10】
前記断熱層における前記多孔質構造体の含有量は、該断熱層全体を100体積%とした場合の90体積%以上である請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の断熱材。
【請求項11】
前記断熱層の前記無機バインダーは、金属酸化物のナノ粒子を有する請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の断熱材。
【請求項12】
前記断熱層の前記補強繊維は、ガラス繊維およびアルミナ繊維から選ばれる一種以上を有する請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の断熱材。
【請求項13】
前記断熱層は、さらに増粘剤を有し、
該増粘剤は、重量平均分子量が5万以上80万以下の第一増粘剤と、重量平均分子量が90万以上600万以下の第二増粘剤と、を有する請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の断熱材。
【請求項14】
前記第一増粘剤の含有量は、前記断熱層全体を100質量%とした場合の0.1質量%以上20質量%以下である請求項13に記載の断熱材。
【請求項15】
前記第二増粘剤の含有量は、前記断熱層全体を100質量%とした場合の0.1質量%以上20質量%以下である請求項13または請求項14に記載の断熱材。
【請求項16】
前記第一増粘剤は、カルボキシメチルセルロースおよびポリビニルアルコールの少なくとも一方を有する請求項13ないし請求項15のいずれかに記載の断熱材。
【請求項17】
前記第二増粘剤は、ポリエチレンオキサイドおよびグルコマンナンの少なくとも一方を有する請求項13ないし請求項16のいずれかに記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカエアロゲルなどの多孔質構造体を用いた断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車には、複数のバッテリーセルを収容したバッテリーパックが搭載される。バッテリーパックにおいては、複数のバッテリーセルが積層されてなるバッテリーモジュールが、積層方向の両側から締結部材により固定された状態で筐体内に収容される。例えば特許文献1には、複数のバッテリーセルと、隣接するバッテリーセル間に配置されバッテリーセル同士の短絡を防止するセパレータと、を有する電源装置が記載されている。当該セパレータは、シート状の断熱材を有し、一つのバッテリーセルの温度が上昇した際、隣接するバッテリーセルへの熱の伝達を抑制する。断熱材としては、繊維間にシリカエアロゲルなどが担持された繊維シートが使用されている。シリカエアロゲルは、シリカ微粒子が連結して骨格をなし10~50nm程度の大きさの細孔構造を有する多孔質材料である。この種の多孔質材料の熱伝導率は、空気の熱伝導率よりも小さい。よって、当該多孔質材料を用いた断熱材は、高い断熱性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/054227号
【特許文献2】特表2015-528071号公報
【特許文献3】特開2017-15205号公報
【特許文献4】特開2017-36745号公報
【特許文献5】特開2019-44956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリカエアロゲルを不織布などの繊維シートに担持しただけの断熱材においては、シリカエアロゲルが脱落しやすい。この点、特許文献2には、エアロゲル含有粒子およびバインダーの混合物が不織布に含浸されてなる可撓性絶縁体が記載されている。バインダーとしては、硫酸カルシウム半水和物などの無機材料、ポリウレタンなどの有機材料が挙げられている(段落[0051]-[0053])。しかしながら、有機バインダーを含有する可撓性絶縁体を高温雰囲気で使用した場合、有機バインダーの分解、劣化によりガスが発生したりクラックが生じたりして、形状が保持できないおそれがある。また、同文献の請求項11、段落[0078]-[0080]には、可撓性絶縁体をフィルムなどのカバー層で被覆する形態が記載されている。シリカエアロゲルを含有する断熱層をカバー層で被覆すれば、シリカエアロゲルが脱落したとしても、それが外部に飛散することは防止できる。しかしながら、カバー層が断熱層に固定されていないと、脱落したシリカエアロゲルがカバー層の内側で移動し偏在して、断熱性能にばらつきが生じる他、製品としての断熱材の厚さにもばらつきが生じてしまう。前述したバッテリーパックのように、隣接するバッテリーセル間にシート状の断熱材を縦置き(側面を下にして立設)する場合には、使用時の振動などにより脱落したシリカエアロゲルが下方に偏在しやすいため、断熱性能や厚さのばらつきが特に問題になる。
【0005】
シリカエアロゲルの脱落抑制を目的とした断熱材として、特許文献3には、繊維にシリカエアロゲルが担持された複合層と、繊維同士が融着された融着層と、を有する断熱材が記載されている。特許文献4には、第一繊維にシリカエアロゲルが担持された第一複合層と、第二繊維にシリカエアロゲルが担持された第二複合層と、の積層体であり、第一繊維と第二繊維の目付量が異なる断熱材が記載されている。特許文献5には、繊維にシリカエアロゲルが担持された繊維層と、該繊維層の少なくとも一面に配置された支持層と、該支持層が溶融して該繊維層内に入り込むことで該支持層と該繊維層とが結合した結合層と、を有する断熱材が記載されている。しかしながら、いずれの断熱材も、シリカエアロゲルを含有する断熱層は、繊維にシリカエアロゲルが担持されているだけでバインダー成分を含まない。このため、シリカエアロゲルが脱落しやすい。また、特許文献5に記載されている断熱材によると、溶融した支持層(ポリエチレンシート)が、シリカエアロゲルを含有する繊維層(断熱層)に入り込むため、断熱性が低下してしまう。
【0006】
近年では電気自動車の航続距離延長のため、バッテリーセルのエネルギー密度が高くなり搭載量も増加している。バッテリーパックにおける安全性を確保するための対策の一つとして、断熱材には難燃性が要求される。しかしながら、特許文献3~5に記載された断熱材は、難燃性を有していないため、バッテリーパックなどには不向きであり用途が限られる。なお、前述した特許文献2の段落[0060]には、エアロゲルを含んだ混合物に難燃剤を配合できることが記載されている。しかしながら、断熱層に難燃剤を配合すると、難燃剤を配合した分だけエアロゲルの含有比率が低下するため、断熱性の低下を招く。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、多孔質構造体の脱落抑制と難燃性とが両立され、形状保持性および断熱性に優れる断熱材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の断熱材は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体と、補強繊維と、無機バインダーと、を有する断熱層と、該断熱層を覆うように配置され複数の孔部を有し難燃性を有する難燃基材と、を備え、該難燃基材は、該断熱層を挟んで配置される第一難燃部および第二難燃部を有し、該第一難燃部は、該断熱層に接して配置され該断熱層の一部が含浸した第一含浸層と、該第一含浸層の外側に配置され該孔部が閉塞され該多孔質構造体の脱落を抑制する第一脱落抑制層と、を有し、該第二難燃部は、該断熱層に接して配置され該断熱層の一部が含浸した第二含浸層と、該第二含浸層の外側に配置され該孔部が閉塞され該多孔質構造体の脱落を抑制する第二脱落抑制層と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
断熱層を構成する多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する。多孔質構造体の骨格と骨格との間に形成される微細な細孔により、熱の移動が阻害される。よって、当該断熱層を有する本発明の断熱材は、優れた断熱効果を発揮する。
【0010】
断熱層は、バインダー成分が無機材料である無機バインダーを有する。多孔質構造体および補強繊維は、無機バインダーを介して結合されるため、多孔質構造体が脱落しにくい。また、高温雰囲気で使用しても、バインダー成分の分解、劣化によるガスの発生やクラックの発生が生じない。よって、断熱層は、高温下においても形状保持性に優れる。断熱層は、補強繊維を有する。補強繊維は、多孔質構造体の周りに物理的に絡み合って存在する。これにより、多孔質構造体の脱落を抑制し、断熱層が圧縮されても潰れにくく割れにくくなる(耐圧縮性が向上する)。このため、本発明の断熱材をバッテリーパックに使用して、バッテリーセルの積層方向両側から加圧された状態においても、断熱性が低下しにくい。このように、断熱層においては、無機バインダーと補強繊維との両方の作用により、多孔質構造体の脱落(粉落ち)が抑制され、高温下を含む環境において形状保持性が高い。
【0011】
難燃基材は、断熱層を挟んで配置される第一難燃部および第二難燃部を有する。すなわち、断熱層は、難燃基材により挟持される。ここで、第一難燃部は、断熱層の一部が含浸した第一含浸層を有し、第二難燃部も、断熱層の一部が含浸した第二含浸層を有する。第一含浸層および第二含浸層により、難燃基材と断熱層とは結合されている。また、第一難燃部は、第一含浸層の外側に配置され孔部が閉塞された第一脱落抑制層を有し、第二難燃部も、第二含浸層の外側に配置され孔部が閉塞された第二脱落抑制層を有する。断熱層を覆う難燃基材の外側において、孔部が閉塞された第一脱落抑制層および第二脱落抑制層が配置されるため、多孔質構造体の脱落が抑制される。このように、難燃基材は、断熱層と結合し、多孔質構造体の脱落を抑制する第一脱落抑制層および第二脱落抑制層を有するため、多孔質構造体の脱落が抑制されると共に、脱落した多孔質構造体の偏在が抑制される。結果、断熱性能がばらつかず均質化される。また、断熱材の厚さが変化しにくいため、製品としての厚さ設計がしやすくなる。加えて、断熱層と難燃基材とが固定された積層構造を有するため、剛性が大きくなり、強度が向上する。
【0012】
難燃基材は、難燃性を有する。これにより、断熱層に難燃剤を配合しなくても、断熱材に難燃性を付与することができる。難燃基材は、必ずしも断熱層の全体を被覆しなくてもよいが、全体を被覆することにより、難燃効果をより高めることができる。以上より、本発明の断熱材は、バッテリーパックなどの難燃性が要求される用途にも好適である。本発明の断熱材が隣接するバッテリーセル間に挟装されることにより、一つのバッテリーセルの温度が上昇したとしても、そのバッテリーセルから隣のバッテリーセルへの熱の伝達が抑制され、温度上昇の連鎖を抑制することができる。また、本発明の断熱材は燃焼しにくいため、バッテリーパックの安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第一実施形態の断熱材の上面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3図1のIII-III断面図である。
図4A】第一実施形態の断熱材の製造方法における難燃性不織布準備工程を示す図である。
図4B】同製造方法における組成物塗布工程を示す図である。
図4C】同製造方法における短辺部折り返し工程を示す図である。
図4D】同製造方法における長辺部折り返し工程を示す図である。
図5】第二実施形態の断熱材の上面図である。
図6図5のVI-VI断面図である。
図7】第三実施形態の断熱材の厚さ方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第一実施形態>
[構成]
まず、第一実施形態の断熱材の構成を説明する。図1に、本実施形態の断熱材の上面図を示す。図2に、図1のII-II断面図を示す。図3に、図1のIII-III断面図を示す。図1図3に示すように、断熱材1aは、断熱層10と難燃基材20とを有している。
【0015】
断熱層10は、厚さ2mmの長方形シート状を呈している。断熱層10は、シリカエアロゲルと、ガラス繊維と、シリカ粒子と、カルボキシルメチルセルロース(CMC、重量平均分子量:9万)と、ポリエチレンオキサイド(PEO、重量平均分子量:500万)と、を有している。シリカ粒子は、平均粒子径が12nmのナノ粒子であり、バインダーとしての役割を果たしている。すなわち、シリカエアロゲルおよびガラス繊維は、シリカ粒子を介して結合されている。シリカエアロゲルの含有量は、断熱層10全体の体積を100体積%とした場合の90体積%である。CMCの含有量は、断熱層10全体の質量を100質量%とした場合の2.8質量%である。PEOの含有量は、断熱層10全体の質量を100質量%とした場合の2.8質量%である。シリカエアロゲルは、本発明における多孔質構造体の概念に含まれる。ガラス繊維は、本発明における補強繊維の概念に含まれる。シリカ粒子は、本発明における無機バインダーの概念に含まれる。CMCは、本発明における第一増粘剤の概念に含まれる。PEOは、本発明における第二増粘剤の概念に含まれる。
【0016】
難燃基材20は、一枚の難燃性不織布を用いて製造されており、断熱層10の全体を被覆している。難燃基材20は、第一難燃部30と、第二難燃部40と、第三難燃部50と、を有している。第一難燃部30と第二難燃部40とは、断熱層10を厚さ方向に挟んで配置されている。断熱層10の厚さ方向を上下方向として、第一難燃部30は、断熱層10の下面に配置されている。第一難燃部30は、内側から順に第一含浸層31と、第一脱落抑制層32と、を有している。第一含浸層31は、断熱層10に接して配置されている。第一含浸層31は、難燃性不織布の孔部に断熱層10の一部が含浸して形成されている。第一脱落抑制層32は、第一含浸層31の外側(下側)に配置されている。第一脱落抑制層32においては、難燃性不織布の繊維が融着され孔部が閉塞されている。第二難燃部40は、断熱層10の上面に配置されている。第二難燃部40は、内側から順に第二含浸層41と、第二脱落抑制層42と、を有している。第二難燃部40の構成は第一難燃部30の構成と同じである。すなわち、第二含浸層41は、断熱層10に接して配置されている。第二含浸層41は、難燃性不織布の孔部に断熱層10の一部が含浸して形成されている。第二脱落抑制層42は、第二含浸層41の外側(上側)に配置されている。第二脱落抑制層42においては、難燃性不織布の繊維が融着され孔部が閉塞されている。断熱層10の下面は、本発明における断熱層の一面の概念に含まれ、断熱層10の上面は、本発明における断熱層の他面の概念に含まれる。第三難燃部50は、断熱層10の四つの周側面に配置されている。第三難燃部50は、第一難燃部30および第二難燃部40と同様に、内側から順に第三含浸層51と、第三脱落抑制層52と、を有している。第三含浸層51および第三脱落抑制層52の構成は、各々、第一含浸層31および第二含浸層41の構成、第一脱落抑制層32および第二脱落抑制層42の構成と同じである。
【0017】
[製造方法]
次に、本実施形態の断熱材の製造方法を説明する。図4A図4Dに、断熱材1aの製造工程の一部を示す。図4Aは、難燃性不織布準備工程を示す。図4Bは、組成物塗布工程を示す。図4Cは、短辺部折り返し工程を示す。図4Dは、長辺部折り返し工程を示す。図4B図4Cにおいては、説明の便宜上、塗布された組成物にハッチングを施して示す。
【0018】
まず、図4Aに示すように、一枚の難燃性不織布21を準備する。難燃性不織布21は、四隅を切り欠いた長方形状を呈している。難燃性不織布21は、長方形状の主面部22(図4A中、一点鎖線枠で示す)と、主面部22の四方に延在する一対の短辺部23a、23bおよび一対の長辺部24a、24bと、を有している。難燃性不織布21の厚さは0.1mmである。次に、図4Bに示すように、難燃性不織布21の主面部22に、断熱層10を製造するための組成物11を塗布する。組成物11は、シリカエアロゲル、ガラス繊維、コロイダルシリカ(シリカ粒子の水分散液)、CMC、およびPEOを有している。それから、図4Cに矢印Y1で示すように、一対の短辺部23a、23bを内側に折り返す。続いて、図4Dに矢印Y2で示すように、長辺部24aを内側に折り返してから、長辺部24bを内側に折り返す。長辺部24bの長辺端部は、長辺部24aの長辺端部に重ねられる。このようにして、組成物11の全体を一対の短辺部23a、23bおよび一対の長辺部24a、24bを折り返して包み込み、被覆体を製造する。
【0019】
被覆体をこの状態のまま成形型に配置して、150℃程度の温度下で加熱しながら加圧する。加熱により組成物11は膨張し、難燃性不織布21の孔部に含浸しながら固化して断熱層10になる。組成物11が含浸することにより、難燃性不織布21の断熱層10と接する部分には、第一含浸層31、第二含浸層41、第三含浸層51が形成される(前出図2図3参照)。また、難燃性不織布21における組成物11が含浸しない部分においては、加熱圧縮により繊維が融着して孔部が閉塞される。これにより、第一脱落抑制層32、第二脱落抑制層42、第三脱落抑制層52が形成される(前出図2図3参照)。また、長辺部24aと長辺部24bとの重なり部も固着され、断熱材1aの上面に難燃性不織布21の接合部が配置される。このようにして、難燃基材20が断熱層10に固定された断熱材1aが製造される。
【0020】
[作用効果]
次に、本実施形態の断熱材の作用効果を説明する。断熱材1aは、シリカエアロゲル(多孔質構造体)、ガラス繊維(補強繊維)、シリカ粒子(無機バインダー)、CMC(第一増粘剤)、PEO(第二増粘剤)を有する断熱層10を備える。断熱層10によると、バインダー成分として有機材料を使用しないため、高温雰囲気で使用しても、バインダー成分の分解、劣化によるガスの発生やクラックの発生が生じない。よって、断熱層10は、高温下においても形状保持性に優れる。断熱層10は、ガラス繊維を有するため、シリカエアロゲルの脱落が抑制され、圧縮されても潰れにくく割れにくい。断熱層10は、CMCおよびPEOを有するため、柔軟性が向上し、ひび割れおよびシリカエアロゲルの脱落抑制に効果的である。
【0021】
断熱材1aによると、断熱層10の全体が難燃基材20に被覆される。難燃基材20は、第一含浸層31、第二含浸層41、第三含浸層51を有し、これらにより断熱層10に結合される。難燃基材20は、第一脱落抑制層32、第二脱落抑制層42、第三脱落抑制層52を有し、これらによりシリカエアロゲルの脱落が抑制される。したがって、断熱材1aにおいては、シリカエアロゲルの脱落および偏在が抑制される。断熱材1aにおいては、断熱性能のばらつきが少なく、厚さが変化しにくい。また、断熱層10と難燃基材20とが固定された積層構造を有するため、剛性および強度が大きい。また、難燃基材20は、難燃性不織布21を用いて製造され、難燃性を有する。よって、断熱層10に難燃剤を配合しなくても、難燃性を有する断熱材1aを構成することができる。
【0022】
難燃基材20は、一枚の難燃性不織布21を用いて製造される。すなわち、断熱材1aは、一枚の難燃性不織布21を、塗布された組成物11を包むように折り返し、その状態で加熱および加圧して製造される。このため、部材点数が少なくて済み、製造が容易である。難燃基材20における第一脱落抑制層32、第二脱落抑制層42、第三脱落抑制層52は、難燃性不織布21が厚さ方向に加熱圧縮され、組成物11が含浸しない部分が融着することにより形成される。よって、難燃性不織布の孔部が閉塞されシリカエアロゲルの脱落を抑制する脱落抑制層を、容易に形成することができる。
【0023】
断熱材1aにおいては、断熱層10の周側面が全て難燃基材20に被覆される。このため、断熱材1aは難燃性に優れる。また、断熱層10の全ての周側面には、難燃基材20の第三難燃部50が配置される。したがって、断熱層10の周側面においても、シリカエアロゲルの脱落が抑制される。
【0024】
<第二実施形態>
本実施形態の断熱材と第一実施形態の断熱材との相違点は、断熱層の組成と、難燃基材が上側基材および下側基材の二つで構成されている点である。ここでは、主に相違点を説明する。図5に、本実施形態の断熱材の上面図を示す。図6に、図5のVI-VI断面図を示す。図6は、前出図3に対応しており、図3と同じ部位については同じ符号で示す。
【0025】
[構成]
まず、本実施形態の断熱材の構成を説明する。図5図6に示すように、断熱材1bは、断熱層12と難燃基材60とを有している。断熱層12は、厚さ2mmの長方形シート状を呈している。断熱層12は、シリカエアロゲルと、ガラス繊維と、シリカ粒子と、を有している。シリカ粒子、シリカエアロゲルの含有量については、第一実施形態と同じである。
【0026】
難燃基材60は、断熱層12の全体を被覆している。難燃基材60は、二枚の難燃性不織布を用いて製造されており、下側基材61と上側基材62とを有している。下側基材61は、断熱層12の下面よりも大きい難燃性不織布からなり、断熱層12の下面および周側面を被覆し、上側基材62の四辺の端部に固着されている。上側基材62は、断熱層12の上面と同じ大きさの難燃性不織布からなり、断熱層12の上面を被覆している。
【0027】
難燃基材60は、第一難燃部30と、第二難燃部40と、第三難燃部50と、を有している。このうち、第一難燃部30および第三難燃部50は下側基材61に配置され、第二難燃部40は上側基材62に配置されている。第一難燃部30、第二難燃部40、および第三難燃部50の構成は、第一実施形態と同じである。
【0028】
[製造方法]
次に、本実施形態の断熱材の製造方法を説明する。まず、大きさが異なる二枚の難燃性不織布を準備する。難燃性不織布はいずれも長方形状を呈し、厚さは0.3mmである。二枚の難燃性不織布のうち、一方は断熱層12の下面よりも大きく、他方は断熱層12の上面と同じ大きさである。次に、一方(大きい方)の難燃性不織布の表面の中央付近に、断熱層12を製造するための組成物を塗布する。当該組成物は、シリカエアロゲル、ガラス繊維、コロイダルシリカ(シリカ粒子の水分散液)を有している。続いて、塗布した組成物に、他方(小さい方)の難燃性不織布を重ね合わせる。それから、一方の難燃性不織布の四つの辺部(組成物が塗布されていない周縁部)を内側に折り返し、他方の難燃性不織布の四辺の端部に重ね合わせる。このようにして、組成物の全体を二枚の難燃性不織布で包み込み、被覆体を製造する。そして、被覆体をこの状態のまま成形型に配置して、150℃程度の温度下で加熱しながら加圧する。加熱により組成物は膨張し、難燃性不織布の孔部に含浸しながら固化して断熱層12になる。組成物が含浸することにより、難燃性不織布の断熱層12と接する部分には、第一含浸層31、第二含浸層41、第三含浸層51が形成される。また、難燃性不織布における組成物が含浸しない部分においては、加熱圧縮により繊維が融着して孔部が閉塞される。これにより、第一脱落抑制層32、第二脱落抑制層42、第三脱落抑制層52が形成される。また、二枚の難燃性不織布の重なり部も固着され、断熱材1bの上面に二枚の難燃性不織布の接合部が配置される。このようにして、難燃基材60が断熱層12に固定された断熱材1bが製造される。
【0029】
[作用効果]
次に、本実施形態の断熱材の作用効果を説明する。本実施形態の断熱材と、第一実施形態の断熱材とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態の断熱材1bは、難燃基材60が下側基材61および上側基材62の二つで構成される。下側基材61は、断熱層12の下面よりも大きい難燃性不織布を用いて製造され、上側基材62は、断熱層12の上面と同じ大きさの難燃性不織布を用いて製造される。断熱材1bは、大きい方の難燃性不織布を、塗布された組成物を包むように折り返し、組成物の上面に配置された小さい方の難燃性不織布の四辺の端部に重ね合わせ、その状態で加熱および加圧して製造される。このため、製造が容易である。断熱材1bにおいても、断熱層12の周側面が全て難燃基材60に被覆される。このため、断熱材1bは難燃性に優れる。また、断熱層12の全ての周側面には、難燃基材60の第三難燃部50が配置される。したがって、断熱層12の周側面においても、シリカエアロゲルの脱落が抑制される。
【0030】
<第三実施形態>
本実施形態の断熱材と第二実施形態の断熱材との相違点は、大きさが略同じ二枚の難燃性不織布を用いて、難燃基材を構成する上側基材および下側基材を製造した点である。ここでは、主に相違点を説明する。図7に、本実施形態の断熱材の厚さ方向断面図を示す。図7は、前出図6に対応しており、図6と同じ部位については同じ符号で示す。
【0031】
[構成]
まず、本実施形態の断熱材の構成を説明する。図7に示すように、断熱材1cは、断熱層12と難燃基材63とを有している。難燃基材63は、断熱層12の全体を被覆している。難燃基材63は、大きさが略同じ二枚の難燃性不織布を用いて製造されており、下側基材64と上側基材65とを有している。下側基材64は、断熱層12の下面に配置される本体部640と、断熱層12の周囲に配置される周囲部641と、を有している。上側基材65も同様に、断熱層12の上面に配置される本体部650と、断熱層12の周囲に配置される周囲部651と、を有している。周囲部641および周囲部651の一部は、断熱層12の上面側に折り返され、上側基材65の本体部650の四辺の端部に固着されている。
【0032】
難燃基材63は、第一難燃部30と、第二難燃部40と、第三難燃部50と、を有している。このうち、第一難燃部30は下側基材64の本体部640に配置され、第二難燃部40は上側基材65の本体部650に配置されている。第三難燃部50は、下側基材64の周囲部641および上側基材65の周囲部651の両方に跨がって配置されている。第一難燃部30、第二難燃部40、および第三難燃部50の構成は、第一実施形態と同じである。
【0033】
[製造方法]
次に、本実施形態の断熱材の製造方法を説明する。まず、大きさが略同じ二枚の難燃性不織布を準備する。難燃性不織布はいずれも長方形状を呈し、厚さは0.3mmである。次に、一方の難燃性不織布の表面の中央付近(下側基材64の本体部640に対応する部分)に、断熱層12を製造するための組成物を塗布する。続いて、塗布した組成物を挟むようにして、一方の難燃性不織布に他方の難燃性不織布を重ね合わせる。それから、二枚の難燃性不織布における組成物を囲む部分(下側基材64の周囲部641、上側基材65の周囲部651に対応する部分)をまとめて内側に折り返し、他方の難燃性不織布の四辺の端部に重ね合わせる。このようにして、組成物の全体を二枚の難燃性不織布で包み込み、被覆体を製造する。そして、被覆体をこの状態のまま成形型に配置して、150℃程度の温度下で加熱しながら加圧する。加熱により組成物は膨張し、難燃性不織布の孔部に含浸しながら固化して断熱層12になる。組成物が含浸することにより、難燃性不織布の断熱層12と接する部分には、第一含浸層31、第二含浸層41、第三含浸層51が形成される。また、難燃性不織布における組成物が含浸しない部分においては、加熱圧縮により繊維が融着して孔部が閉塞される。これにより、第一脱落抑制層32、第二脱落抑制層42、第三脱落抑制層52が形成される。また、二枚の難燃性不織布の重なり部も固着され、断熱材1cの上面に二枚の難燃性不織布の接合部が配置される。このようにして、難燃基材63が断熱層12に固定された断熱材1cが製造される。
【0034】
[作用効果]
次に、本実施形態の断熱材の作用効果を説明する。本実施形態の断熱材と、第二実施形態の断熱材とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態の断熱材1cは、難燃基材63が下側基材64および上側基材65の二つで構成される。下側基材64および上側基材65は、略同じ大きさの二枚の難燃性不織布を用いて製造される。断熱材1cは、二枚の難燃性不織布で組成物を挟み、組成物を囲む部分をまとめて内側に折り返し、上側の難燃性不織布の四辺の端部に重ね合わせ、その状態で加熱および加圧して製造される。このため、製造が容易である。
【0035】
<その他の実施形態>
以上、本発明の断熱材を実施する三つの形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に限定されるものではない。本発明の断熱材は、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0036】
[断熱層]
断熱層は、多孔質構造体と、補強繊維と、無機バインダーと、を有する。多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する。多孔質構造体の構造、形状、大きさなどは、特に限定されない。例えば、骨格をなす粒子(一次粒子)の直径は2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは10~50nm程度であることが望ましい。
【0037】
多孔質構造体の形状としては、球状、異形状の塊状などがあるが、球状が望ましい。球状の場合、分散性が向上するため、断熱層を製造するための組成物(以下、単に「組成物」、「断熱層用組成物」と称する場合がある)の調製が容易になる。また、最密充填しやすいため充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。また、表面積が小さくなるため、熱伝導率が比較的大きい無機バインダーの量を低減することができ、断熱性の向上につながる。
【0038】
多孔質構造体の最大長さを粒子径とした場合、多孔質構造体の平均粒子径は1~200μm程度が望ましい。多孔質構造体の粒子径が大きいほど、表面積が小さくなり細孔(空隙)容積が大きくなるため、断熱性を高める効果は大きくなる。例えば、平均粒子径が10μm以上のものが好適である。他方、断熱層を製造するための組成物の安定性や塗工のしやすさを考慮すると、平均粒子径が100μm以下のものが好適である。また、粒子径が異なる二種類以上を併用すると、小径の多孔質構造体が大径の多孔質構造体間の隙間に入りこむため、充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。
【0039】
多孔質構造体の種類は特に限定されない。一次粒子として、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが挙げられる。なかでも化学的安定性に優れるという観点から、一次粒子がシリカである多孔質構造体が望ましい。例えば、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルが挙げられる。なお、エアロゲルを製造する際の乾燥方法の違いにより、常圧で乾燥したものを「キセロゲル」、超臨界で乾燥したものを「エアロゲル」と呼び分けることがあるが、本明細書においては、その両方を含めて「エアロゲル」と称す。
【0040】
多孔質構造体は、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する。表面に疎水部位を有すると、水分などの染み込みを抑制することができるため、細孔構造が維持され、断熱性が損なわれにくい。例えば、少なくとも表面に疎水部位を有するシリカエアロゲルは、製造過程において、疎水基を付与するなどの疎水化処理を施して製造することができる。
【0041】
多孔質構造体の含有量は、断熱層の熱伝導率、硬さ、強度などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、熱伝導率を小さくし所望の強度を実現するという観点では、多孔質構造体の含有量は、断熱層全体を100体積%とした場合の80体積%以上であることが望ましい。85体積%以上、90体積%以上であるとより好適である。他方、多孔質構造体が多すぎると組成物の成膜性が低下したり、脱落しやすくなる。よって、多孔質構造体の含有量は、断熱層全体を100体積%とした場合の96体積%以下であることが望ましい。
【0042】
補強繊維は、多孔質構造体の周りに物理的に絡み合って存在する。補強繊維は、多孔質構造体の脱落を抑制すると共に強度の向上に寄与する。補強繊維の種類は特に限定されないが、高温雰囲気で使用した場合における有機成分の分解、劣化を回避するという観点から、無機系の繊維材料が望ましい。例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維などのセラミック繊維が好適である。
【0043】
補強繊維の大きさは、断熱層の断熱性、強度などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、補強繊維が細すぎると、凝集しやすくなるため、組成物の粘度上昇を招いて成膜性が低下するおそれがある。好適な補強繊維の直径は、6.5μm以上である。反対に、補強繊維が太すぎると、補強効果が小さくなるため、強度が低下したり、熱の伝達経路が形成されやすくなるため熱伝導率が大きくなり断熱性が低下するおそれがある。好適な補強繊維の直径は、18μm以下である。また、補強繊維が短すぎると、補強効果が小さくなるため、強度が低下するおそれがある。好適な長さは、3mm以上である。反対に、補強繊維が長すぎると、凝集しやすくなるため、組成物の粘度上昇を招いて成膜性が低下するおそれがある。また、熱の伝達経路が形成されやすくなるため熱伝導率が大きくなり断熱性が低下するおそれがある。好適な補強繊維の長さは、25mm以下である。
【0044】
補強繊維の含有量は、断熱層の成膜性、強度などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、成膜性を確保し、所望の強度を実現するという観点では、補強繊維の含有量は、多孔質構造体および補強繊維を除く成分の100質量部に対して5質量部以上であることが望ましい。他方、補強繊維が多すぎると凝集し、組成物の粘度上昇を招いて成膜性が低下するおそれがある。また、熱の伝達経路が形成されやすくなるため熱伝導率が大きくなり断熱性が低下するおそれがある。よって、補強繊維の含有量は、多孔質構造体および補強繊維を除く成分の100質量部に対して200質量部以下、さらには130質量部以下であることが望ましい。
【0045】
無機バインダーとしては、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、ジルコニアなどの金属酸化物を有するものが挙げられる。なかでも、多孔質構造体や補強繊維と相溶しやすく、安価で入手しやすいという理由から、シリカを有するバインダーが好適である。また、金属酸化物がナノ粒子(ナノメートルオーダーの粒子)である場合には、無機材料を有することによる硬さや脆さの欠点を改善することができる。例えば、シリカのナノ粒子を有するバインダーとしては、ケイ酸ナトリウム溶液、水を分散媒とするコロイダルシリカなどを用いればよい。チタニアのナノ粒子を有するバインダーとしては、チタニアの水分散液などを用いればよい。
【0046】
断熱層の形状、厚さなどは特に限定されない。例えば、断熱層がシート状を呈する場合、断熱性の観点から、厚さは0.5mm以上、さらには1.0mm以上であることが望ましい。一方、断熱層が厚すぎると、コスト高になるだけでなく、強度が低下して脆くなる。よって、断熱層断の厚さは、10.0mm以下、さらには5.0mm以下であることが望ましい。
【0047】
断熱層は、多孔質構造体、補強繊維、無機バインダーに加えて、他の成分を有してもよい。例えば、増粘剤、分散剤、界面活性剤の他、赤外線を反射、散乱、または吸収する赤外線作用材などが挙げられる。赤外線作用材としては、酸化チタン、炭化ケイ素、カーボンブラックなどが挙げられる。断熱層は、所定の成分を配合して調製された組成物(断熱層用組成物)を60~200℃程度の温度下で固化させて製造される。断熱層用組成物の分散媒は、特に限定されないが、多孔質構造体の細孔への浸入を抑制するという観点から、疎水性の液体ではなく水(純水、水道水などを含む)などの親水性の液体を用いることが望ましい。
【0048】
前述したように、多孔質構造体の含有量を多くすると、断熱材の断熱性を高めることができる。しかしながら、多孔質構造体の含有量を多くすると、断熱材が硬くなり、変形に追従しにくくなる。加えて、バインダー成分として無機材料を使用するため、断熱材が硬く、脆くなりやすい。このため、断熱材を湾曲させて使用する場合などには、ひび割れが生じるおそれがある。
【0049】
例えば、増粘剤を配合すると、断熱層に柔軟性を付与することができるため、ひび割れの抑制に効果的である。さらに、多孔質構造体の脱落抑制にも効果的である。また、断熱層を製造するための組成物を調製する際に、多孔質構造体の分散性を向上させることもできる。増粘剤の種類は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が所定の範囲に特定された第一増粘剤および第二増粘剤の二種類を使用することが望ましい。以下に、第一増粘剤および第二増粘剤について説明するが、重量平均分子量が以下に示す範囲以外の増粘剤の使用が排除されるものではない。本明細書においては、特にことわりがない限り、「分子量」は「重量平均分子量」を意味する。重量平均分子量の測定は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により行えばよい。
【0050】
(1)第一増粘剤
第一増粘剤としては、重量平均分子量が5万以上80万以下のものが好適である。第一増粘剤は、比較的分子量が小さいため、水との相溶性が高く、組成物中に均一に分散しやすい。よって、組成物の硬化物全体に均一に柔軟性を付与することができる。分子量が5万未満になると、柔軟性を付与する効果が小さくなる。他方、分子量が80万を超えると粘性が増加するため、第一増粘剤が組成物中に均一に分散しにくくなる。よって、断熱層全体に均一に柔軟性を付与することが難しくなる。第一増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどを用いればよい。第一増粘剤の含有量は、柔軟性付与などの所望の効果を発揮させるため、断熱層全体を100質量%とした場合の0.1質量%以上であることが望ましい。0.5質量%以上であるとより好適である。また、組成物を調製する際の分散媒に対する溶解性および高粘度化による塗工性の悪化などを考慮すると、20質量%以下であることが望ましい。10質量%以下であるとより好適である。
【0051】
(2)第二増粘剤
第二増粘剤としては、重量平均分子量が90万以上600万以下のものが好適である。第二増粘剤は、比較的分子量が大きいため、組成物を高粘度化することができる。すなわち、組成物の粘性を高めて、多孔質構造体を分散媒から分離しにくくし、分散しやすくする。これにより、多孔質構造体の分散に要する時間を短縮することができ、組成物の調製が容易になる。分子量が90万未満になると、組成物の増粘効果が小さくなる。このため、組成物の粘着性による分散媒中への多孔質構造体の取り込み効果を充分に向上させることができず、組成物の調製時間の短縮化は難しい。他方、分子量が600万を超えると、組成物の粘度が上昇しすぎるため、攪拌が難しくなり、成分が均一に混合された組成物を調製することが難しくなる。第二増粘剤としては、ポリエチレンオキサイド、グルコマンナンなどを用いればよい。第二増粘剤の含有量は、増粘効果を発揮させるため、断熱層全体を100質量%とした場合の0.1質量%以上であることが望ましい。0.5質量%以上であるとより好適である。また、組成物の粘度を考慮すると、20質量%以下であることが望ましい。10質量%以下であるとより好適である。
【0052】
[難燃基材]
難燃基材は、断熱層を覆うように配置される。難燃基材が「断熱層を覆う」形態には、断熱層の全体が被覆される形態の他、断熱層の端面などの一部が露出する形態を含む。後述するように、断熱層は難燃基材で挟持される。例えば、断熱層がシート状を呈する場合、断熱層の表裏面だけでなく周側面も被覆されることにより、断熱材の難燃性がより向上する。よって、断熱層の厚さ方向の二面(表裏面)に加えて、周側面の少なくとも一部も難燃基材に被覆されることが望ましい。
【0053】
難燃基材は、複数の孔部を有し難燃性を有するものであればよく、布帛、不織布、シート材などから適宜選択すればよい。難燃基材は、材料自体が難燃性を有するものでも、材料に難燃加工を施したものでもよい。例えば、ガラス繊維や金属繊維などの無機繊維から製造される布帛または不織布、合成繊維や再生繊維から製造され難燃加工が施された布帛または不織布、あるいは難燃加工が施されたポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレンなどの発泡樹脂製のシート材が挙げられる。なかでも、熱伝導率が比較的小さく、高温下においても形状保持性が高く、入手しやすいなどの理由から、難燃性繊維を用いた難燃性不織布、ポリエステル不織布やレーヨン不織布などに難燃加工を施した難燃性不織布が好適である。難燃基材は、一層から構成されるものでも、二層以上の積層体でもよい。
【0054】
難燃基材は、断熱層を挟んで配置される第一難燃部および第二難燃部を有する。換言すると、断熱層は、難燃基材の第一難燃部と第二難燃部との間に挟持される。例えば、断熱層がシート状を呈する場合、第一難燃部は断熱層の厚さ方向の一面側に配置され、第二難燃部は断熱層の厚さ方向の他面側に配置される。
【0055】
第一難燃部は、第一含浸層と第一脱落抑制層とを有する。第一含浸層は、断熱層に接して配置されており、難燃基材の孔部に断熱層の一部が含浸することにより形成される。第一含浸層により難燃基材と断熱層とは結合される。第一脱落抑制層は、第一含浸層の外側に配置される。第一脱落抑制層においては、難燃基材の孔部が閉塞されている。これにより、多孔質構造体の脱落が抑制される。第二難燃部の構成は、第一難燃部の構成と同じである。すなわち、第二難燃部は、第二含浸層と第二脱落抑制層とを有する。第二含浸層は、断熱層に接して配置されており、難燃基材の孔部に断熱層の一部が含浸することにより形成される。第二含浸層により難燃基材と断熱層とは結合される。第二脱落抑制層は、第二含浸層の外側に配置される。第二脱落抑制層においては、難燃基材の孔部が閉塞されている。これにより、多孔質構造体の脱落が抑制される。第一脱落抑制層および第二脱落抑制層においては、必ずしも孔部の全体が塞がれていなくてもよい。すなわち、第一脱落抑制層および第二脱落抑制層における「孔部が閉塞される」とは、難燃基材が元々有する孔部の大きさが小さくなっていればよく、孔部の全体が塞がれる形態と、一部に空隙が残存する形態と、の両方が含まれる。
【0056】
第一含浸層と第二含浸層との厚さは特に限定されず、同じでも異なってもよい。多孔質構造体および補強繊維によるアンカー効果を発揮させるという観点から、第一含浸層および第二含浸層の厚さは、10μm以上であるとよい。第一脱落抑制層と第二脱落抑制層との厚さも特に限定されず、同じでも異なってもよい。多孔質構造体の脱落抑制を高めるという観点から、第一脱落抑制層および第二脱落抑制層の厚さは、10μm以上であるとよい。第一脱落抑制層および第二脱落抑制層の孔部の開口径(断熱層に積層される面方向における最大長さ)は、多孔質構造体の脱落抑制を考慮すると、100μm以下が望ましい。
【0057】
第一含浸層および第二含浸層は、断熱層を製造するための組成物を固化させる際に、難燃基材用の材料の孔部に含浸させて製造すればよい。第一脱落抑制層および第二脱落抑制層は、難燃基材用の材料を加熱圧縮したり、別の難燃性組成物を含浸させたりして製造すればよい。例えば、難燃基材として難燃性不織布を用いる場合、難燃性不織布を厚さ方向に加熱圧縮し、断熱層用組成物が含浸しない部分を融着させればよい。あるいは、難燃性不織布に難燃剤およびバインダーを有する難燃性組成物を含浸させればよい。後者の場合、難燃剤としては、ハロゲン系、リン系、金属水酸化物系などの公知のものを使用すればよい。環境負荷を考慮すると、リン系難燃剤が好適である。リン系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム、赤リン、リン酸エステル、リン酸グアニジンなどが挙げられる。なかでも、使用中に水分と接触しても難燃剤が流出しにくいという理由から、水に不溶なものが望ましく、例えばポリリン酸アンモニウムが好適である。バインダーとしては、バインダー成分が無機材料のものでも、樹脂でもゴムなどの有機材料のものでもよいが、難燃性を考慮すると、前述した無機バインダーが望ましい。
【0058】
前述したように、断熱層がシート状を呈する場合、難燃性を向上させるという観点から、断熱層の周側面の少なくとも一部も難燃基材に被覆される形態が望ましい。この場合、難燃基材を、断熱層の周側面の少なくとも一部に配置される第三難燃部を有する構成にすることができる。第三難燃部は、断熱層に接して配置され断熱層の一部が含浸した第三含浸層と、第三含浸層の外側に配置され孔部が閉塞され多孔質構造体の脱落を抑制する第三脱落抑制層と、を有する。第三含浸層および第三脱落抑制層については、第一難燃部における第一含浸層および第一脱落抑制層、第二難燃部における第二含浸層および第二脱落抑制層と同じである。
【0059】
難燃基材は、上記第一実施形態のように一つの基材で構成してもよく、上記第二、第三実施形態のように二つの基材を組み合わせて、または二つ以上の基材を組み合わせて構成してもよい。断熱層がシート状を呈し、難燃基材を一つの基材で構成する場合には、一つの基材を、断熱層の厚さ方向の一面側から周側面を覆って他面側に折り返せばよい。この場合、基材の折り返し方は限定されない。上記第一実施形態においては、長方形の難燃性不織布(基材)の四辺を各々折り返したが、帯状の基材を断熱層の周囲に巻き付けてもよい。断熱層がシート状を呈し、難燃基材を二つの基材で構成する場合には、断熱層を挟むように二つの基材を配置すればよい。二つの基材の大きさが異なる場合には、上記第二実施形態のように、大きい方の基材を、断熱層の厚さ方向の一面側から周側面を覆って他面側に折り返せばよい。また、二つの基材の大きさが略同じ場合には、二つの基材の各々を、断熱層の厚さ方向の二面に配置すればよい。あるいは、上記第三実施形態のように、断熱層の周囲に配置される周囲部同士を重ね合わせて、断熱層の厚さ方向の一面および他面の少なくとも一方に折り返せばよい。いずれの形態においても、断熱層の周側面の全てを基材で被覆する必要はなく、断熱層の周側面の一部が露出された状態でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の断熱材は、バッテリーパックの他、自動車用断熱内装材、住宅用断熱材、家電用断熱材、電子部品用断熱材、保温保冷容器用断熱材などに好適である。
【符号の説明】
【0061】
1a、1b、1c:断熱材、10:断熱層、11:組成物、12:断熱層、20:難燃基材、21:難燃性不織布、22:主面部、23a、23b:短辺部、24a、24b:長辺部、30:第一難燃部、31:第一含浸層、32:第一脱落抑制層、40:第二難燃部、41:第二含浸層、42:第二脱落抑制層、50:第三難燃部、51:第三含浸層、52:第三脱落抑制層、60:難燃基材、61:下側基材、62:上側基材、63:難燃基材、64:下側基材、65:上側基材、640:本体部、641:周囲部、650:本体部、651:周囲部。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7