IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大塚化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-光輝性塗装物及びその製造方法 図1
  • 特開-光輝性塗装物及びその製造方法 図2
  • 特開-光輝性塗装物及びその製造方法 図3
  • 特開-光輝性塗装物及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125609
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】光輝性塗装物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20220822BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220822BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220822BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220822BHJP
   C09D 101/00 20060101ALI20220822BHJP
   C09D 101/08 20060101ALI20220822BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220822BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220822BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
B32B27/20 A
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/65
C09D101/00
C09D101/08
B05D7/24 303B
B05D7/24 303J
B05D3/00 D
B05D7/24 302Y
B05D7/24 303E
B05D7/24 302C
B05D5/06 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023290
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富永 陽子
(72)【発明者】
【氏名】森 宏仁
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AC52
4D075AE03
4D075AE05
4D075BB16X
4D075CA13
4D075CA38
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB01
4D075CB11
4D075DA06
4D075DB18
4D075DC11
4D075DC15
4D075DC18
4D075EA05
4D075EB07
4D075EB43
4D075EB51
4D075EC02
4D075EC07
4D075EC11
4D075EC23
4D075EC30
4D075EC51
4D075EC53
4D075EC54
4F100AA34B
4F100AJ03B
4F100AJ06B
4F100AK01B
4F100AK52B
4F100AK80B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA13B
4F100DE02B
4F100HB01B
4F100JB07
4F100JN21B
4F100JN28B
4F100YY00B
4J038BA011
4J038BA021
4J038CG002
4J038DL082
4J038HA166
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA15
4J038NA01
4J038NA04
4J038NA12
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】粒子感がなく、優れたシルキー感を呈するとともに、耐水密着性に優れ、着色顔料を配合せずとも散乱光による淡い青色(空色)を示す、光輝性塗装物を提供する。
【解決手段】基材2と、基材2の表面2a上に設けられた光輝性塗膜3とを備える、光輝性塗装物1であって、光輝性塗膜3が、光輝性顔料と、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩とを含有し、光輝性顔料は、平均厚さが20nm以上、60nm以下の薄片状チタン酸である、光輝性塗装物1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面上に設けられた光輝性塗膜とを備える、光輝性塗装物であって、
前記光輝性塗膜が、光輝性顔料と、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩とを含有し、
前記光輝性顔料は、平均厚さが20nm以上、60nm以下の薄片状チタン酸である、光輝性塗装物。
【請求項2】
前記基材表面のLh表色系におけるL値が、40未満である、請求項1に記載の光輝性塗装物。
【請求項3】
前記薄片状チタン酸が、層状結晶構造のチタン酸に、前記チタン酸の交換可能イオン容量に対し0.1当量を超え、0.5当量未満の前記塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を作用させることにより、前記層状結晶構造における層間が膨潤され剥離されてなる、薄片状チタン酸である、請求項1又は請求項2に記載の光輝性塗装物。
【請求項4】
前記塩基性基を有する高分子化合物又はその塩が、アミノ変性シリコーンである、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【請求項5】
前記薄片状チタン酸の平均長径が、5μm以上、30μm以下である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【請求項6】
前記光輝性塗膜における光輝性顔料の含有量が、顔料濃度(PWC)で1質量%以上、40質量%以下である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【請求項7】
前記光輝性塗膜が、さらに多糖類誘導体を含有し、
前記多糖類誘導体が、多糖類に含まれるヒドロキシ基における水素原子の少なくとも一部が、有機基で置換されることにより構成されている、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【請求項8】
前記有機基が、置換基を有するアルキル基、置換基を有さないアルキル基、置換基を有するアシル基、及び置換基を有さないアシル基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の光輝性塗装物。
【請求項9】
前記多糖類が、セルロースである、請求項7又は請求項8に記載の光輝性塗装物。
【請求項10】
前記光輝性顔料の前記多糖類誘導体に対する質量比(光輝性顔料/多糖類誘導体)が、5/95以上、50/50以下である、請求項7~請求項9のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【請求項11】
前記光輝性塗膜の膜厚が、10μm以上、150μm以下である、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【請求項12】
請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の光輝性塗装物の製造方法であって、
光輝性顔料と、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩と、溶媒とを含有する、光輝性顔料組成物を準備する工程と、
前記光輝性顔料組成物を基材に塗布することにより、光輝性塗膜を形成する工程とを備える、光輝性塗装物の製造方法。
【請求項13】
前記光輝性顔料組成物が、さらに多糖類誘導体を含有する、請求項12に記載の光輝性塗装物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面上に光輝性顔料を含有する光輝性塗膜が設けられた光輝性塗装物及び該光輝性塗装物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面上に光輝性顔料を含有する光輝性塗膜が設けられた光輝性塗装物が、広く用いられている。光輝性顔料は、光輝感が強く、かつ粒子感(キラキラと輝くように見える光沢感)を有するものであり、塗膜にパール調の光沢を付与する顔料として知られている。このような光輝性顔料としては、マイカ、鱗片状アルミナ、鱗片状ガラスフレーク等の鱗片状材料の表面に、酸化チタン層を設けたものが知られている(特許文献1参照)。もっとも、さらに高級感を有する意匠として、粒子感がなく、シルキー感(絹のような滑らかな輝き)を呈する意匠が求められている。このようなシルキー感を呈する光輝性顔料として、薄片状チタン酸が知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献2には、層状結晶構造のチタン酸塩を酸で処理し、次いで有機塩基性化合物を作用させて層間を膨潤または剥離した薄片状チタン酸が開示されている。上記薄片状チタン酸は、平均長径が5μm~30μmであり、平均厚さが0.5nm~300nmであるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-225610号公報
【特許文献2】特開2006-257179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の薄片状チタン酸からなる光輝性顔料は、粒子感がなく、シルキー感を呈するものの、塗膜にしたときの耐水密着性が十分ではないという問題がある。
【0006】
一方で、塗膜にシルキー感を呈し、色味を持たせる際には、着色顔料を配合する手法が用いられる。しかし、着色顔料の分散度によって色味が変動したり、着色顔料の変退色によって塗膜の色が劣化したりする問題がある。
【0007】
本発明の目的は、粒子感がなく、優れたシルキー感を呈するとともに、耐水密着性に優れ、着色顔料を配合せずとも散乱光による淡い青色(空色)を示す、光輝性塗装物及び該光輝性塗装物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の光輝性塗装物及び該光輝性塗装物の製造方法を提供する。
【0009】
項1 基材と、前記基材の表面上に設けられた光輝性塗膜とを備える、光輝性塗装物であって、前記光輝性塗膜が、光輝性顔料と、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩とを含有し、前記光輝性顔料は、平均厚さが20nm以上、60nm以下の薄片状チタン酸である、光輝性塗装物。
【0010】
項2 前記基材表面のLh表色系におけるL値が、40未満である、項1に記載の光輝性塗装物。
【0011】
項3 前記薄片状チタン酸が、層状結晶構造のチタン酸に、前記チタン酸の交換可能イオン容量に対し0.1当量を超え、0.5当量未満の前記塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を作用させることにより、前記層状結晶構造における層間が膨潤され剥離されてなる、薄片状チタン酸である、項1又は項2に記載の光輝性塗装物。
【0012】
項4 前記塩基性基を有する高分子化合物又はその塩が、アミノ変性シリコーンである、項1~項3のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【0013】
項5 前記薄片状チタン酸の平均長径が、5μm以上、30μm以下である、項1~項4のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【0014】
項6 前記光輝性塗膜における光輝性顔料の含有量が、顔料濃度(PWC)で1質量%以上、40質量%以下である、項1~項5のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【0015】
項7 前記光輝性塗膜が、さらに多糖類誘導体を含有し、前記多糖類誘導体が、多糖類に含まれるヒドロキシ基における水素原子の少なくとも一部が、有機基で置換されることにより構成されている、項1~項6のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【0016】
項8 前記有機基が、置換基を有するアルキル基、置換基を有さないアルキル基、置換基を有するアシル基、及び置換基を有さないアシル基からなる群から選択される少なくとも1種である、項7に記載の光輝性塗装物。
【0017】
項9 前記多糖類が、セルロースである、項7又は項8に記載の光輝性塗装物。
【0018】
項10 前記光輝性顔料の前記多糖類誘導体に対する質量比(光輝性顔料/多糖類誘導体)が、5/95以上、50/50以下である、項7~項9のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【0019】
項11 前記光輝性塗膜の膜厚が、10μm以上、150μm以下である、項1~項10のいずれか一項に記載の光輝性塗装物。
【0020】
項12 項1~項11のいずれか一項に記載の光輝性塗装物の製造方法であって、光輝性顔料と、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩と、溶媒とを含有する、光輝性顔料組成物を準備する工程と、前記光輝性顔料組成物を基材に塗布することにより、光輝性塗膜を形成する工程とを備える、光輝性塗装物の製造方法。
【0021】
項13 前記光輝性顔料組成物が、さらに多糖類誘導体を含有する、項12に記載の光輝性塗装物の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、粒子感がなく、優れたシルキー感を呈するとともに、耐水密着性に優れ、着色顔料を配合せずとも散乱光による淡い青色(空色)を示す、光輝性塗装物及び該光輝性塗装物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る光輝性塗装物を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の光輝性塗装物に設けられた光輝性塗膜の一例を示す断面写真である。
図3図3は、層状結晶構造のチタン酸塩における剥離のメカニズムの一例を説明するための模式図である。
図4図4は、光輝性塗膜に形成されたボイド(空隙)の一例を示す断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0025】
[光輝性塗装物]
図1は、本発明の一実施形態に係る光輝性塗装物を示す模式的断面図である。図1に示すように、光輝性塗装物1は、基材2と、光輝性塗膜3とを備える。
【0026】
基材2の表面2a上に、光輝性塗膜3が設けられている。光輝性塗膜3は、光輝性顔料と、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩とを含有する。また、上記光輝性顔料は、平均厚さが20nm以上、60nm以下の薄片状チタン酸である。
【0027】
本実施形態の光輝性塗装物1は、上記の構成を備えるので、粒子感がなく、優れたシルキー感を呈するとともに、耐水密着性に優れ、着色顔料を配合せずとも散乱光による淡い青色(空色)を示すことができる。
【0028】
従来、薄片状チタン酸からなる光輝性顔料は、図4に示すようなボイド(空隙)が多く存在することから、塗膜にしたときの耐水密着性が十分ではないという問題があった。一方で、塗膜に着色顔料を配合することにより、シルキー感を呈し、色味を持たせる場合には、着色顔料の分散度によって色味が変動したり、着色顔料の変退色によって塗膜の色が劣化したりするという問題があった。
【0029】
これに対して、本発明者らは、光輝性塗膜3に含まれる光輝性顔料としての薄片状チタン酸において、平均厚さを20nm以上、60nm以下とすることにより、着色顔料を配合せずとも淡い青色(空色)を示すことが可能になることを見出した。この点については、薄片状チタン酸の平均厚さを可視光波長の1/10程度とすることによって、レイリー散乱により光輝性塗膜3を淡い青色(空色)に見えるようにできているものと考えられる。
【0030】
また、本発明者らは、上記のような光輝性顔料に加えて、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を含有する光輝性塗膜3とすることにより、耐水密着性をも高められることを見出した。
【0031】
特に、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を用いた場合、図2に示すように、薄片状チタン酸を塗膜中できれいに配向させられるので、シルキー感や耐水密着性をより一層向上させることができる。
【0032】
従って、本実施形態の光輝性塗装物1によれば、粒子感がなく、優れたシルキー感を呈するとともに、耐水密着性に優れ、着色顔料を配合せずとも散乱光による淡い青色(空色)を示すことができる。
【0033】
このような光輝性塗装物1は、自動車、家庭用電気機器、OA機器等に好適に用いることができる。
【0034】
なお、上記実施形態では、基材2の一方側の表面2aにのみ光輝性塗膜3が設けられているが、基材2の両側の表面2a,2bに光輝性塗膜3が設けられていてもよい。
【0035】
以下、光輝性塗装物1などの本発明の光輝性塗装物における各部材の詳細について説明する。
【0036】
(基材)
基材の材質としては、例えば、鋼材、アルミニウム、真鍮、銅、ステンレス鋼、ブリキ、亜鉛メッキ鋼、合金化亜鉛(Zn-Al、Zn-Ni、Zn-Feなど)メッキ鋼等の金属材料;ポリエチレン、ポリプロピレンなどに代表されるポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリカーボネート-ポリブチレンテレフタレート(PC/PBT)樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)樹脂などのスチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂など又はこれらのハイブリッド樹脂や繊維強化プラスチック(Fiber-Reinforced Plastics)などやエンジニアリング樹脂などのプラスチック材料(合成樹脂成形品);ガラスセメント、コンクリートなどの無機材料;木材;繊維材料(紙、布など)等が挙げられる。これらの素材に応じて適宜、脱脂処理や表面処理して被塗物とすることができる。さらに、上記被塗物に下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させたものを被塗物とすることもできる。
【0037】
上記下塗り塗膜とは、素材表面を隠蔽したり、素材に防食性、防錆性等を付与するために形成されるものであり、下塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。下塗り塗料は、特に限定されず、例えば、電着塗料、溶剤型プライマー等を挙げることができる。
【0038】
上記中塗り塗膜とは、素材表面や下塗り塗膜を隠蔽したり、付着性、耐チッピング性等を付与するために形成されるものであり、素材表面や下塗り塗膜上に、中塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。中塗り塗料は、特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂組成物及び着色材(顔料、染料等)を含有する有機溶剤系又は水系の中塗り塗料を好ましく使用できる。
【0039】
基材表面のLh表色系におけるL値は、好ましくは40未満であり、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下である。基材表面のL値が上記上限値未満又は上限値以下である場合、透過光をより一層吸収することができ、散乱光により呈する淡い青色をより一層際立たせることができる。なお、基材表面のL値の下限値は、特に限定されず、例えば、1とすることができる。
【0040】
基材表面のL値をより一層小さくする観点から、基材は、黒色基材であることが好ましい。もっとも、基材は、白色基材であってもよく、基材の色味は特に限定されない。
【0041】
(光輝性塗膜)
光輝性塗膜は、光輝性顔料と、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩とを含有する。また、光輝性塗膜は、さらに多糖類誘導体を含有していてもよい。この場合、耐水密着性をより一層向上させることができる。
【0042】
光輝性塗膜の膜厚は、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。光輝性塗膜の膜厚が上記範囲内にある場合、粒子感がなく、より一層優れたシルキー感を呈するとともに、散乱光により呈する淡い青色(空色)をより一層際立たせることができる。
【0043】
光輝性顔料;
光輝性顔料としての薄片状チタン酸は、例えば、層状結晶構造のチタン酸に、チタン酸の交換可能イオン容量に対し0.1当量を超え、0.5当量未満の塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を作用させて、層状結晶構造における層間を膨潤させ剥離することにより得ることができる。
【0044】
層状結晶構造のチタン酸(以下、層状チタン酸と称する)は、例えば、層状結晶構造のチタン酸塩(以下、層状チタン酸塩と称する)を酸処理し、交換可能な金属カチオンを水素イオン又はヒドロニウムイオンで置換することにより得られる。
【0045】
酸処理に使用する酸は、特に限定されるものではなく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの鉱酸、あるいは有機酸でもよい。層状チタン酸の種類、酸の種類及び濃度、層状チタン酸のスラリー濃度は、金属カチオンの交換率に影響する。一般に、酸濃度が低く、スラリー濃度が大きいほど、層間金属カチオンの残存量が多くなり、層間剥離しにくくなるため、剥離後の薄片状チタン酸の平均厚さが大きくなる。
【0046】
金属カチオンが除きにくい場合は、必要に応じて酸処理を繰り返し行ってもよい。
【0047】
原料となる層状チタン酸塩は、例えば、特許第2979132号公報に開示の方法に従い、炭酸セシウムと二酸化チタンをモル比1:5.3で混合し、800℃で焼成することにより得られたCs0.7Ti1.83が挙げられる。
【0048】
また、国際公開第99/11574号公報に開示の方法に従い、炭酸カリウムと炭酸リチウムと二酸化チタンをK/Li/Ti=3/1/6.5(モル比)で混合して摩砕し、800℃で焼成することにより得られたK0.80.27Ti1.73が挙げられる。
【0049】
また、特許第3062497号公報に開示の方法に従い、アルカリ金属又はアルカリ金属のハロゲン化物もしくは硫酸塩をフラックスとし、フラックス/原料の質量比が0.1~2.0となるように混合した混合物を700℃~1200℃で焼成することにより得られた、一般式ATi2-(Y+Z)[式中、A及びMは互いに異なる価数1~3価の金属を示し、□はTiの欠陥部位を示す。Xは0<X<1.0を満たす正の実数であり、Y及びZは0<Y+Z<1を満たす0または正の実数である]で表される層状チタン酸塩が挙げられる。
【0050】
なお、上記一般式におけるAは、価数1価~3価の金属であり、好ましくは、K、Rb、及びCsからなる群から選択される少なくとも一種である。Mは、金属Aとは異なる価数1~3価の金属であり、好ましくは、Li、Mg、Zn、Cu、Fe、Al、Ga、Mn、及びNiからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0051】
具体的な例としては、K0.80Li0.27Ti1.73、Rb0.75Ti1.75Li0.25、Cs0.70Li0.23Ti1.77、Cs0.700.18Ti1.83、Cs0.70Mg0.35Ti1.65、K0.8Mg0.4Ti1.6、K0.8Ni0.4Ti1.6、K0.8Zn0.4Ti1.6、K0.8Cu0.4Ti1.6、K0.8Fe0.8Ti1.2、K0.8Mn0.8Ti1.2、K0.76Li0.22Mg0.05Ti1.73、K0.67Li0.2Al0.07Ti1.73等が挙げられる。
【0052】
また、国際公開第03/037797号公報に開示の方法に従い、K0.80.27Ti1.73を酸洗後、焼成して得られたK0.5~0.70.27Ti1.733.85~3.95であってもよい。
【0053】
薄片状チタン酸は、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸を得た後、層状チタン酸の交換可能イオン容量に対し0.1当量を超え、0.5当量未満の塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を作用させて、層状結晶構造における層間を膨潤させ剥離することにより得ることができる。
【0054】
薄片状チタン酸の平均長径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。薄片状チタン酸の平均長径が上記下限値以上である場合、シルキー感をより一層向上させることができる。一方、薄片状チタン酸の平均長径が上記上限値以下である場合、塗膜中でより一層均一にかつ平行に分散させることができる。
【0055】
薄片状チタン酸の平均長径は、薄片状チタン酸の厚み方向に垂直な面方向における粒径を意味している。平均長径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)などによる観察によって測定することができる。具体的には、塗膜中に薄片状チタン酸を配合し、塗膜断面をTEM観察することにより測定することができる。なお、平均長径は、例えば、このようにして測定した100個の薄片状チタン酸における粒子径の平均とすることができる。
【0056】
薄片状チタン酸の平均厚さは、好ましくは30nm以上、より好ましくは35nm以上であり、好ましくは55nm以下、より好ましくは50nm以下である。薄片状チタン酸の平均厚さが上記範囲内である場合、散乱光により呈する淡い青色をより一層際立たせることができる。
【0057】
薄片状チタン酸の平均厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)などによる観察によって測定することができる。具体的には、塗膜中に薄片状チタン酸を配合し、塗膜断面をTEM観察することにより測定することができる。なお、平均厚さは、例えば、このようにして測定した100個の薄片状チタン酸における厚さの平均とすることができる。
【0058】
なお、薄片状チタン酸は、層状チタン酸が完全に剥離されてなる単層のチタン酸ナノシートであることが好ましいが、2層~300層のチタン酸ナノシートの積層体であってもよい。チタン酸ナノシートの積層体は、10層~300層のチタン酸ナノシートの積層体であることが望ましい。また、単層のチタン酸ナノシートと、チタン酸ナノシートの積層体が混在していてもよい。もっとも、この場合、薄片状チタン酸の平均厚さが、上述した範囲内となるように混在していることが望ましい。
【0059】
光輝性塗膜における光輝性顔料の含有量は、顔料濃度(PWC)で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。光輝性顔料の含有量が上記範囲内にある場合、より優れたシルキー感を得ることができ、しかも散乱光により呈する淡い青色をより一層際立たせることができる。
【0060】
塩基性基を有する高分子化合物又はその塩;
塩基性基を有する高分子化合物又はその塩は、層状結晶構造のチタン酸の層間膨潤作用がある高分子化合物であれば、特に限定されない。上記塩基性基としては、原料入手および合成の容易さから1級~3級アミノ基であることが好ましい。
【0061】
塩基性基を有する高分子化合物又はその塩としては、例えば、塩基性基を有する(メタ)アクリル重合体、アミノ変性シリコーン等が挙げられ、好ましくはアミノ変性シリコーンである。本明細書において「(メタ)アクリル」は、「アクリルおよびメタクリルの少なくとも一方」をいう。なお、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0062】
アミノ変性シリコーンとは、(-Si-O-)の繰り返しからなるポリシロキサン骨格を有し、そのケイ素原子のアルキル側鎖の一部がアミノ変性基により変性されたものである。アミノ変性基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合してもよいし、末端と結合していてもよい。アミノ変性基としては、例えば、1級~3級のアミノ基、1級~3級のアミノ基を有する有機基等が挙げられる。1級~3級のアミノ基を有する有機基としては、-R-NH(Rは2価の有機基を示す。)等が挙げられる。これらのなかでも、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0063】
【化1】
【0064】
(式(1)中、Rは-NH又は-R-NHを示し、複数あるRは互いに同一であっても異なっていてもよく、nは任意の整数を示す。Rは2価の有機基を示す。)
【0065】
nは、好ましくは1~2,000の整数である。
【0066】
の2価の有機基としては、アルキレン基、アレーンジイル基等が挙げられる。
【0067】
アルキレン基としては、炭素数1~10のアルキレン基が好ましい。このようなアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。
【0068】
アレーンジイル基としては、炭素数6~10のアレーンジイル基が好ましい。このようなアレーンジイル基としては、例えば、フェニレン基等が挙げられる。
【0069】
アミノ変性シリコーンは、25℃における動粘度が、好ましくは10mm/s~2000mm/s、より好ましくは15mm/s~600mm/s、さらに好ましくは20mm/s~100mm/sである。動粘度が10mm/sより小さい、又は2000mm/sより大きいと有機溶媒中で分散しにくくなる。動粘度は、動粘度測定装置で測定することができる。
【0070】
アミノ変性シリコーンの官能基当量(アミノ当量)は、好ましくは50g/mol~100000g/mol、より好ましくは300g/mol~3000g/mol、さらに好ましくは1000g/mol~2000g/molである。官能基当量を上記範囲内とすることで剥離度をより一層高め、有機溶媒中での分散安定性をより一層向上させることができる。
【0071】
アミノ変性シリコーンは、水不溶性であることが好ましい。水不溶性とは25℃において水1Lへの溶解量が10g以下であることをいう。
【0072】
アミノ変性シリコーンとしては、例えば、下記式(2)に示す両末端型アミノ変性シリコーンを挙げることができる。なお、式(2)中のRは、メチレン基、フェニレン基等である。
【0073】
【化2】
【0074】
アミノ変性シリコーンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上からなる混合物を用いてもよい。
【0075】
塩基性基を有する高分子化合物又はその塩の含有量は、光輝性塗膜(光輝性塗膜を構成する光輝性顔料組成物)の固形分100質量%中において、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。塩基性基を有する高分子化合物又はその塩の含有量が上記下限値以上である場合、耐水密着性をより一層向上させることができる。塩基性基を有する高分子化合物又はその塩の含有量が上記上限値以下である場合、シルキー感をより一層向上させることができる。
【0076】
なお、層間膨潤作用のある塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を作用させるためには、酸処理又は温水処理後の層状チタン酸を水性媒体に分散させた分散液に、撹拌下、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を直接、あるいは塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を水又は水系媒体で希釈したものを加えれば良い。
【0077】
塩基性基を有する高分子化合物又はその塩の配合量としては、層状チタン酸の交換可能イオン容量に対し、0.1当量を超え、0.5当量未満の塩基性基を有する高分子化合物又はその塩とすることが好ましく、より好ましくは0.2当量以上、0.4当量以下である。塩基性基を有する高分子化合物又はその塩の配合量が、層状チタン酸の交換可能イオン容量に対し、0.1当量以下では、層間剥離が望めない場合がある。また、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩の配合量が、層状チタン酸の交換可能イオン容量に対し、0.5当量以上では、散乱光による淡い青色(空色)の発色が望めないことがある。
【0078】
交換可能イオン容量とは、交換可能な金属イオン量であり、例えば層状チタン酸塩が一般式ATi2-(y+z)で表される場合、Aの価数をm、Mの価数をnとするときのmx+nyで表される値をいう。また、当量は、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩と、層状チタン酸に存在する水素イオン又はヒドロニウムイオンとが反応することにより生成する陽イオン性基の量を意味する。
【0079】
薄片状チタン酸の平均長径は、層状チタン酸塩に塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を0.5当量以上作用させて層間剥離させる工程で強い剪断力での撹拌をしない限り、原料である層状チタン酸塩の平均長径をほぼ保つことができる。
【0080】
なお、本発明において、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩は、分子量が500以下の低分子アミンではないことが好ましく、光輝性塗膜は、このような低分子アミンを含有しないことが好ましい。
【0081】
多糖類誘導体;
光輝性塗膜は、さらに多糖類誘導体を含有していてもよい。この場合、耐水密着性をより一層向上させることができる。この点については、以下のようにして説明することができる。
【0082】
塩基性基を有する高分子化合物又はその塩として、図3に示すように疎水部分が長い、疎水性アミン12を用いた場合、層状チタン酸塩11(層状結晶構造を有するチタン酸塩)の層間を膨潤させ剥離しつつ、薄片状チタン酸13の表面に疎水性を付与することができる。もっとも、このような塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を剥離剤として使用すると、水中で剥離後、凝集し、餅状の凝集体になる傾向がある。これに対して、多糖類誘導体14を含有させることで、有機溶媒中においても、層状チタン酸塩11の分散性を高めることができ、ひいてはバインダーのように耐水密着性をより一層高めることができる。
【0083】
多糖類誘導体は、主骨格に多糖類骨格を有し、多糖類に含まれるヒドロキシ基の水素原子の少なくとも一部が有機基で置換されることにより構成されている。
【0084】
有機基としては、置換基を有するアルキル基、置換基を有さないアルキル基、置換基を有するアシル基、又は置換基を有さないアシル基を挙げることができる。これらの有機基は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0085】
アルキル基としては、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。また、アルキル基が有する置換基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基が挙げられる。
【0086】
アシル基としては、炭素数2~5のアシル基が好ましい。このようなアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0087】
多糖類としては、セルロース、デンプン等が挙げられる。多糖類は、好ましくはセルロースである。セルロースは、下記式(3)で示されるβ-D-グルコース分子(β-D-グルコピラノース)が、β-1,4-グリコシド結合により重合した直鎖状の高分子である。セルロースを構成する各グルコース単位は3つのヒドロキシ基を有している(下記式(3)中のmは自然数を示す)。
【0088】
【化3】
【0089】
多糖類誘導体としては、このようなセルロースに、上記のヒドロキシ基を利用して上記有機基が導入されたものである。セルロースは、草木類の主成分であり、草木類からリグニン等の他の成分を分離処理することによって得られる。このように得られたものの他、セルロース含有量の高い綿(例えばコットンリンター)やパルプ(例えば木材パルプ)を精製してあるいはそのまま用いることができる。原料に用いるセルロース又はその誘導体の形状やサイズ、形態は、反応性や固液分離、取り扱い性の点から、適度な粒子サイズ、粒子形状を持つ粉末形態のものを用いることが好ましい。
【0090】
セルロースの重合度は、グルコース重合度(平均重合度)として、50~5000の範囲が好ましい。重合度が低すぎると、光輝性顔料の分散などが十分でない場合がある。逆に、重合度が高すぎると有機溶媒との相溶性に支障をきたす場合がある。
【0091】
セルロースのグルコース単位あたりに導入された上記有機基の平均個数(DSLO)(有機基導入比率)、すなわちグルコース単位あたりの上記有機基で置換されたヒドロキシ基の平均個数(水酸基置換度)は、目的の光輝性顔料組成物に要求される物性、製造時の効率に応じて適宜設定することができるが、例えば、0.1~2.9の範囲に設定することができ、好ましくは1.8~2.8であり、より好ましくは2.3~2.7である。
【0092】
多糖類誘導体としては、セルロースエステル類、セルロースエーテル類が挙げられる。
【0093】
セルロースエステル類の具体例としては、例えば、セルロースジアセテート(DAC)、セルローストリアセテート(TAC)などのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースC3-5アシレート;セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)などのセルロースアセテートC3-5アシレートなどのセルロースアシレートなどが挙げられる。
【0094】
セルロースエーテル類としては、例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、アルキル-カルボキシアルキルセルロースなどが挙げられる。
【0095】
アルキルセルロースとしては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロースなどのC1-4アルキルセルロースなどが挙げられる。
【0096】
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などのヒドロキシC2-4アルキルセルロースなどが挙げられる。
【0097】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2-4アルキルC1-4アルキルセルロースなどが挙げられる。
【0098】
カルボキシアルキルセルロースとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが挙げられる。
【0099】
アルキル-カルボキシアルキルセルロースとしては、例えば、メチルカルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0100】
なかでも、セルロースエステル類、セルロースエーテル類が好ましく、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレート(CAB)がより好ましい。
【0101】
なお、これらの多糖類誘導体は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0102】
多糖類誘導体の含有量は、光輝性塗膜(光輝性塗膜を構成する光輝性顔料組成物)の固形分100質量%中において、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。多糖類誘導体の含有量が上記下限値以上である場合、耐水密着性をより一層向上させることができる。多糖類誘導体の含有量が上記上限値以下である場合、シルキー感をより一層向上させることができる。
【0103】
光輝性顔料の多糖類誘導体に対する質量比(光輝性顔料/多糖類誘導体)は、好ましくは5/95以上、より好ましくは7/93以上、さらに好ましくは9/91以上、好ましくは50/50以下、より好ましくは40/60以下、さらに好ましくは35/65以下である。上記質量比(光輝性顔料/多糖類誘導体)が上記下限値以上である場合、シルキー感をより一層向上させることができる。上記質量比(光輝性顔料/多糖類誘導体)が上記上限値以下である場合、耐水密着性をより一層向上させることができる。
【0104】
その他添加剤;
光輝性塗膜には、意匠を損なわない範囲で、硬化剤、バインダー樹脂、薄片状チタン酸を除く他の光輝性顔料、着色材(顔料、染料等)、体質顔料、防錆顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、分散剤、レベリング剤、表面調製剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、沈降防止剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適宜含有することができる。
【0105】
硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂、ポリカルボン酸化合物等が挙げられ、好ましくはポリイソシアネート化合物及びアミノ樹脂から選ばれる少なくとも1種である。硬化剤を含有することで、光輝性塗膜の耐水密着性をより一層高めることができる。
【0106】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート類;これらの脂肪族ポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物、アロファネートタイプ付加物、ウレトジオンタイプ付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン-2,4-もしくは-2,6-ジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類;これらの脂環族ジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,4-ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート化合物;これらの芳香族ジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;水添MDI及び水添MDIの誘導体;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;これらのウレタン化付加物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等を挙げることができる。
【0107】
ポリイソシアネート化合物はブロック化されていてもよい。ブロック化ポリイソシアネート化合物としては、上記のポリイソシアネート化合物のイソシアネート基にブロック剤を付加させたものである。付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温においては安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常約80℃~約200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生し得るものであることが望ましい。このような要件を満たすブロック剤としては、例えば、フェノール系、ラクタム系、アルコール系、エーテル系、オキシム系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、イミド系、アミン系、イミダゾール系、ピラゾール系等のブロック剤が挙げられる。これらのうち特に、活性メチレン系やピラゾール系のブロック剤によるブロック化ポリイソシアネート化合物を好適に用いることができる。
【0108】
ポリイソシアネート化合物を使用する場合には、その含有量が多糖類誘導体の合計固形分量100質量部に対して、1質量部~300質量部の範囲内であることが好ましい。
【0109】
アミノ樹脂としては、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等が挙げられる。また、このメチロール化アミノ樹脂を適当なアルコールによってエーテル化したものも使用できる。エーテル化に用いられるアルコールの例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノールなどが挙げられる。アミノ樹脂としては、メラミン樹脂が好ましく、なかでもメチロール基の少なくとも一部をアルキルエーテル化したメチロール化メラミン樹脂を好適に用いることができる。
【0110】
アミノ樹脂を使用する場合には、その含有量は上記多糖類誘導体の合計固形分量100質量部に対して、1質量部~300質量部の範囲内であることが好ましい。
【0111】
バインダー樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられ、好ましくはアクリル樹脂である。
【0112】
アクリル樹脂は、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを主成分とするラジカル重合性モノマーをラジカル重合させて得られる単独重合体または共重合体が挙げられる。重合体の分子中には、ヒドロキシ基、カルボキシ基などの架橋性官能基を有していることが好ましい。
【0113】
アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1~20の1価のアルコ-ルとのモノエステルが挙げられ、具体的にはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリルなどが挙げられる。
【0114】
また、上記架橋性官能基を含有するモノマーとしては、ヒドロキシエチルアクリレ-ト、ヒドロキシエチルメタクリレ-ト、ヒドロキシプロピルアクリレ-ト、ヒドロキシプロピルメタクリレ-ト、カプロラクトンヒドロキシエチルアクリレ-ト、カプロラクトンヒドロキシエチルメタクリレ-ト、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。また、上記以外にも、上記モノマーとラジカル共重合が可能なその他のモノマーを用いることができ、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル、ビニルメチルエ-テル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレンなどの1分子中に1個以上の重合性二重結合を有する不飽和化合物を用いることができる。
【0115】
アクリル樹脂の酸価は、3mgKOH/g~50mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。酸価が低すぎると塗膜としての付着性が低下することがあり、逆に酸価が高すぎると耐水性が低下することがある。
【0116】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、200,000~1,000,000の範囲内であることが好ましい。重量平均分子量が低すぎると、硬化前の塗膜状態において、光輝性顔料の配向を安定して維持するという本発明の効果が十分に得られない場合がある。数量平均分子量が高すぎると、光輝性顔料組成物の溶剤への溶解性が悪くなったり、光輝性顔料組成物の粘度が高くなりすぎるなどハンドリング性が悪くなる場合がある。なお、重量平均分子量はスチレンポリマーを標準とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により求めることができる。上記多糖類誘導体と上記バインダー樹脂の使用比は、耐水密着性、耐候性等をより一層高める観点から、固形分質量比で多糖類誘導体/バインダー樹脂=10/90~90/10の範囲内であることが好ましく、より好ましくは30/70~70/30であり、さらに好ましくは40/60~60/40である。
【0117】
他の光輝性顔料としては、マイカ(人工マイカ、合成マイカ等)、シリカ、アルミナ、ガラスフレークなどの鱗片状粒子や、それら粒子表面にTiO、SnO、ZrO、Fe、ZnO、Cr、V等の金属酸化物による複層膜が設けられた鱗片状粒子; 着色アルミニウムフレーク顔料;金属チタンフレーク顔料;ステンレスフレーク顔料;板状酸化鉄顔料;ホログラム顔料等が挙げられる。
【0118】
体質顔料としては、バリタ粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、マイカ粉等が挙げられる。
【0119】
防錆顔料としては、トリポリリン酸二水素アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0120】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系吸収剤、トリアジン系吸収剤、サリチル酸誘導体系吸収剤、ベンゾフェノン系吸収剤等が挙げられる。
【0121】
[光輝性塗装物の製造方法]
本発明の光輝性塗装物の製造方法は、光輝性顔料と、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩と、溶媒とを含有する、光輝性顔料組成物を準備する工程と、光輝性顔料組成物を基材に塗布することにより、光輝性塗膜を形成する工程とを備える。
【0122】
具体的には、以下のようにして、本発明の光輝性塗装物を製造することができる。
【0123】
まず、層状チタン酸塩を酸又は温水で処理して層状チタン酸を得た後、層間膨潤作用を有する塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を作用させて、層状結晶構造における層間が膨潤され剥離されてなる、薄片状チタン酸を得る。塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を作用させるに際しては、チタン酸の交換可能イオン容量に対し0.1当量を超え、0.5当量未満の量で作用させる。
【0124】
次に、溶媒中に薄片状チタン酸を添加し撹拌することにより、薄片状チタン酸が溶媒中に分散した光輝性顔料組成物を得ることができる。なお、多糖類誘導体を用いる場合は、有機溶媒中に多糖類誘導体を添加することにより溶液を用意することが好ましい。得られた溶液に上記の薄片状チタン酸を添加し撹拌することにより、薄片状チタン酸が有機溶媒中に分散した光輝性顔料組成物を得ることができる。
【0125】
溶媒は、有機溶媒であってもよく、水であってもよい。従って、光輝性顔料組成物は、溶剤系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0126】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル等のエステル;四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール等のアルコール類;n-ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類が挙げられる。なかでも、有機溶媒は、芳香族炭化水素又はエステルであることが好ましい。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0127】
有機溶媒の含有量は、特に限定されず、適宜調整することができる。例えば、塗布に適した粘度を考慮して、光輝性顔料組成物100質量%中において60質量%以上、90質量%以下とすることができる。
【0128】
次に、得られた光輝性顔料組成物を、基材上に塗布し、乾燥させることにより、本発明の光輝性塗装物を得ることができる。光輝性塗装物を構成する塗膜は、通常、硬化膜厚で1μm~200μmであることが好ましく、10μm以上、150μm以下であることがより好ましく、20μm以上、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0129】
なお、塗布時において、光輝性顔料組成物は固形分濃度を、10質量%以上、40質量%以下とすることが、より優れたシルキー感を得られるために好ましい。
【0130】
光輝性顔料組成物の塗布方法としては、例えば、スピンコート、スプレー塗装、ローラーコート、ディップコート、フローコート、ナイフコート、静電塗装、バーコート、ダイコート、ハケ塗り、液滴を滴下する方法等により塗布することができる。
【0131】
光輝性顔料組成物の塗膜形成方法における、加熱条件は特に限定されないが、例えば、60℃~200℃で5分間~30分間保持することにより行なうことができる。
【0132】
得られた光輝性塗膜上には、クリヤ塗料などの塗料を塗布しトップコート層を設けてもよい。クリヤ塗料としては、溶剤型塗料、水系塗料、水分散型塗料、粉体塗料等が挙げられる。クリヤ塗料は着色されたクリヤ塗料であってもよい。クリヤ塗料の含有成分は、特に限定されず、塗膜形成性熱硬化性樹脂及び硬化剤等を含有するものを利用できる。
【0133】
溶剤型クリヤ塗料の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、あるいはカルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0134】
また、水性型クリヤ塗料の例としては、上記溶剤型クリヤ塗料の例として挙げたものに含有される塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものを挙げることができる。この中和は重合の前または後に、ジメチルアミノエタノール及びトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0135】
一方、粉体型クリヤ塗料としては、熱可塑性及び熱硬化性粉体塗料のような通常の粉体塗料を用い得ることができる。良好な物性の塗膜が得られるため、熱硬化性粉体塗料が好ましい。熱硬化性粉体塗料の具体的なものとしては、エポキシ系、アクリル系及びポリエステル系の粉体クリヤ塗料等が挙げられるが、耐候性が良好なアクリル系粉体クリヤ塗料が特に好ましい。
【0136】
本発明の光輝性塗装物は、基材の表面上に設けられた光輝性塗膜が、優れたシルキー感を呈するとともに、着色顔料を配合せずとも散乱光による淡い青色(空色)を示し、耐水密着性に優れるので、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体の外板部;自動車部品;冷蔵庫、洗濯機、スマートフォン、オーディオ機器等の家庭電器製品の外板部等を挙げることができ、なかでも自動車車体の外板部及び自動車部品に好適に用いることができる。
【実施例0137】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0138】
<薄片状チタン酸の合成>
(合成例1~合成例4)
酸化チタン67.01g、炭酸カリウム26.78g、塩化カリウム12.04gおよび水酸化リチウム5.08gを乾式で粉砕混合した原料を1020℃にて4時間焼成した。得られた粉末の10.9%水スラリー7.9kgを調製し、10%硫酸水溶液470gを加えて2時間撹拌し、スラリーのpHを7.0に調製した。分離、水洗したものを110℃で乾燥した後、600℃で12時間焼成した。得られた白色粉末は、層状結晶構造のチタン酸塩K0.6Li0.27Ti1.733.9であり、平均長径15μmであった。
【0139】
この層状結晶構造のチタン酸塩32.5gを脱イオン水474.8gに分散して撹拌しながら、95%硫酸25.2gを添加し、室温で1時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。得られた固形分において再度同様の工程を行った。得られた層状チタン酸のKO残量は2.0%であり、金属イオン交換率は94%であった。
【0140】
得られた層状チタン酸全量を脱イオン水と合わせて2.5kgとなるように脱イオン水に添加し、分散して撹拌しながら、両末端型アミノ変性シリコーン(信越シリコーン社製)を下記表1に示す添加量にて添加し、室温で1時間撹拌させた。その後、吸引濾過で分離し、水洗することにより、薄片状チタン酸を得た。
【0141】
【表1】
【0142】
なお、表1に示すアミノ変性シリコーンA~Bは、以下の通りである。
【0143】
アミノ変性シリコーンA:両末端型アミノ変性シリコーン(信越シリコーン社製、X-22-161A、側鎖:メチル基、動粘度25℃:25mm/s、官能基当量:800g/mol)
アミノ変性シリコーンB:両末端型アミノ変性シリコーン(信越シリコーン社製、X-22-161B、側鎖:メチル基、動粘度25℃:55mm/s、官能基当量:1500g/mol)
【0144】
(合成例5)
合成例1~合成例4と同様にして得られた層状チタン酸全量を脱イオン水と合わせて800gとなるように脱イオン水に添加し、分散して撹拌しながら、ジメチルエタノールアミン17.3g(層状チタン酸に対して1当量)を脱イオン水182.8gに溶解した液を添加し、室温で12時間撹拌して薄片状チタン酸を得た。
【0145】
<光輝性顔料組成物及び光輝性塗膜の調製>
(実施例1)
合成例2で得られた薄片状チタン酸をPWC(顔料濃度)10質量%になるように、エチルセルロース(水酸基置換度:2.54、有機基:エチル基)10質量%溶液(溶媒:キシレン)と脱泡コンディショニングミキサー「あわとり練太郎AR-250」(株式会社シンキー社製)を用いて撹拌(自転:800rpm、公転:2000rpm)を10分間行った後、脱泡(自転:60rpm、公転:2200rpm)を2分間行い、光輝性顔料組成物(薄片状チタン酸含有塗料組成物)を得た。得られた光輝性顔料組成物は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、十分な分散安定性を有していた。
【0146】
次に、隠蔽率試験紙(黒下地)に上記光輝性顔料組成物をクリアランス200μmのフィルムアプリケーターで2回塗装した。この工程において塗装する毎に室温で乾燥させることにより光輝性塗膜を形成して、光輝性塗装物を得た。得られた光輝性塗膜の膜厚は、30μmであった。また、得られた光輝性塗膜は、平均厚さ40nmかつ平均長径15μmの薄片状チタン酸が、非常に密な状態で樹脂塗膜中に均一かつ平行に分散配向していることが確認された。なお、実施例及び比較例において、薄片状チタン酸の平均長径及び平均厚さは、塗膜断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察することにより測定した。SEMとしては、日立社製、品番「S-4000」を用いた。平均長径は、測定した100個の薄片状チタン酸における粒子径の平均とし、平均厚さは、測定した100個の薄片状チタン酸における厚さの平均とした。
【0147】
(実施例2)
合成例2で得られた薄片状チタン酸をPWC20質量%になるように用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で光輝性顔料組成物及び光輝性塗膜を調製し、光輝性塗装物を得た。得られた光輝性塗膜の膜厚は、32μmであった。
【0148】
(実施例3)
合成例2で得られた薄片状チタン酸をPWC30質量%になるように用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で光輝性顔料組成物及び光輝性塗膜を調製し、光輝性塗装物を得た。得られた光輝性塗膜の膜厚は、34μmであった。
【0149】
(実施例4)
合成例4で得られた薄片状チタン酸をPWC10質量%になるように用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で光輝性顔料組成物及び光輝性塗膜を調製し、光輝性塗装物を得た。得られた光輝性塗膜の膜厚は、29μmであった。
【0150】
(比較例1)
合成例1で得られた薄片状チタン酸をPWC10質量%になるように用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料組成物及び塗膜を調製し、塗装物を得た。得られた塗膜の膜厚は、28μmであった。
【0151】
(比較例2)
合成例3で得られた薄片状チタン酸をPWC10質量%になるように用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料組成物及び塗膜を調製し、塗装物を得た。得られた塗膜の膜厚は、31μmであった。
【0152】
(比較例3)
合成例5で得られた薄片状チタン酸をPWC10質量%になるように用いたこと、及びエチルセルロース(水酸基置換度:2.54、有機基:エチル基)の代わりに水系ウレタン塗料(ウレタン樹脂)と混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料組成物及び塗膜を調製し、塗装物を得た。得られた塗膜の膜厚は、26μmであった。
【0153】
(比較例4)
隠蔽率試験紙として白下地のものを用いたこと以外は、比較例3と同様の方法で顔料組成物及び塗膜を調製し、塗装物を得た。得られた塗膜の膜厚は、26μmであった。
【0154】
(比較例5)
薄片状チタン酸の代わりに、従来のパール顔料である酸化チタン被覆鱗片状アルミナ(商品名「シラリックT50-10」、メルク社製)をPWC10質量%になるように用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料組成物及び塗膜を調製し、塗装物を得た。得られた塗膜の膜厚は、35μmであった。
【0155】
(比較例6)
隠蔽率試験紙として白下地のものを用いたこと以外は、比較例5と同様の方法で顔料組成物及び塗膜を調製し、塗装物を得た。得られた塗膜の膜厚は、35μmであった。
【0156】
<塗膜の評価>
実施例1~実施例4および比較例1~比較例6で得られた塗装物について、意匠性(粒子感、シルキー感、測色)を下記の試験方法で評価した。また、実施例1~実施例4および比較例1~比較例4における顔料組成物を白色塗板に実施例1と同様の方法で塗装した光輝性塗装物について、耐水密着性を下記の試験方法で評価した。
【0157】
[粒子感]
塗膜の粒子感を目視で以下の評価基準により評価した。
【0158】
〇:粒子感なし
×:粒子感あり
【0159】
[シルキー感]
得られた塗膜(隠蔽率試験紙黒下地部分)に対して、多角度分光光度計(MA68II、X-Rite社製)を用いて入射角45°に対して受光角15°、25°、45°、75°、110°における明度(L値)を測定し、そこから算出されるフロップインデックス値(FI値)にて評価した。なお、FI値が高いほどシルキー感が優れていることを示す。
【0160】
[測色]
得られた塗膜に対して、多角度分光光度計(MA68II、X-Rite社製)を用いて入射角45°に対して受光角15°、25°、45°、75°、110°における彩度c値、色相角度h値を測定した。なお、彩度c値が大きいほど鮮やかなことを示し、色相角度h=270°が青色方向を示す。また、下記表2のc値、h値(°)は、受光角15°、25°、45°、75°、110°における平均値を示す。
【0161】
[耐水密着性(クロスカット試験)]
「JIS K5400 塗料一般試験方法」に従い、光輝性塗装物を40℃の温水に5時間浸漬させた後、クロスカット(2mm角、100マス目)によるテープ剥離試験を行い、耐水密着性を評価した。
【0162】
<塗膜の評価結果>
結果を下記の表2に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
塗膜の評価結果から明らかなように、実施例1~実施例4は、比較例5及び比較例6に比べ、粒子感が全く無く、実施例4においてはシルキー感も勝っており、優れた意匠性を有している。また、平均厚さが20nm以上、60nm以下の薄片状チタン酸を含む光輝性顔料組成物を塗装した実施例1~4においては、c値が高く、h値が270°に近いことから、青色に発色していることがわかる。一方で、平均厚さが20nm以上、60nm以下の範囲にない薄片状チタン酸を含む顔料組成物を塗装した比較例1及び比較例2においては、c値が低いことから、青色を十分に発色できていないことがわかる。これにより、平均厚さが20nm以上、60nm以下の薄片状チタン酸を含む光輝性顔料組成物を基材表面に塗装することにより、粒子感が全くなく、かつ非常に優れたシルキー感を呈し、散乱光により淡い青色(空色)を示す光輝性塗膜が形成された光輝性塗装物を得られることがわかる。加えて、塩基性基を有する高分子化合物又はその塩を用いた実施例1~4では、低分子アミンを用いた比較例3及び比較例4と比較して、耐水密着性に優れていることもわかる。
【符号の説明】
【0165】
1…光輝性塗装物
2…基材
2a,2b…表面
3…光輝性塗膜
11…層状チタン酸塩
12…疎水性アミン
13…薄片状チタン酸
14…多糖類誘導体
図1
図2
図3
図4