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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125620
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】有価金属の回収方法及び回収装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20220822BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20220822BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20220822BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20220822BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20220822BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20220822BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B3/06
C22B3/22
C22B3/44 101B
C22B1/02
C22B23/00 102
C22B26/12
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023309
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】倉持 建汰
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】村岡 弘樹
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001AA36
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA09
4K001CA15
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB24
4K001EA06
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン電池に含まれるLi分を添加剤に含まれるNa分及びCa分から分離して回収する。
【解決手段】リチウムイオン電池から取り出した電池滓Mに酸Sを添加して浸出液Eを生成する酸浸出工程S4と、浸出液Eから生成したLi分を含む第3処理濾液F3に炭酸ナトリウムA4を添加して第4処理物P4を生成する第4添加工程S11と、第4処理物P4を濾過して第4処理濾液F4とCa分を含む第4処理残渣R4とに分離する第4濾過工程S12と、第4処理濾液F4を加熱する加熱工程S13と、加熱された第4処理濾液Hに炭酸ガスGを吹き込む第5処理物P5を生成する第5添加工程S14と、第5処理物P5を濾過してNa分を含む第5処理濾液F5とLi分を含む第5処理残渣R5とに分離する第5濾過工程S15とを有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の廃棄物から電池滓を取り出す取出工程と、
前記電池滓に酸を添加して浸出液を生成する酸浸出工程と、
前記浸出液に第1添加剤であるNa分を含む第1硫黄化合物を添加して第1処理物を生成する第1添加工程と、
前記第1処理物を濾過して第1処理濾液とCu分を含む第1処理残渣とに分離する第1濾過工程と、
前記第1処理濾液に第2添加剤であるNa分を含む第2硫黄化合物を添加して第2処理物を生成する第2添加工程と、
前記第2処理物を濾過して第2処理濾液とCo分又は/及びNi分を含む第2処理残渣とに分離する第2濾過工程と、
前記第2処理濾液に第3添加剤である水酸化カルシウムを添加して第3処理物を生成する第3添加工程と、
前記第3処理物を濾過してLi分を含む第3処理濾液と第3処理残渣とに分離する第3濾過工程と、
前記第3処理濾液に第4添加剤である炭酸ナトリウムを添加して第4処理物を生成する第4添加工程と、
前記第4処理物を濾過して第4処理濾液とCa分を含む第4処理残渣とに分離する第4濾過工程と、
前記第4処理濾液を加熱する加熱工程と、
加熱された前記第4処理濾液に炭酸ガスを吹き込むか、あるいは炭酸塩を添加して第5処理物を生成する第5添加工程と、
前記第5処理物を濾過してNa分を含む第5処理濾液とLi分を含む第5処理残渣とに分離する第5濾過工程とを有しており、
前記第2処理物のpHは前記第1処理物のpHよりも大きく、前記第3処理物のpHは前記第2処理物のpHよりも大きいことを特徴とする有価金属の回収方法。
【請求項2】
前記酸浸出工程において、前記酸である硫酸と過酸化水素とを前記電池滓に添加することを特徴とする請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項3】
前記第3処理残渣をアルカリ性水溶液により洗浄して洗浄物を生成する洗浄工程と、
前記洗浄物を濾過して前記Li分を含む洗浄濾液と洗浄残渣とに分離する洗浄後濾過工程とを有しており、
前記第4添加工程においては、前記第3処理濾液及び前記洗浄濾液から前記第4処理物を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の有価金属の回収方法。
【請求項4】
前記電池滓は、Ni又は/及びCoを含む正極活物質とグラファイトを含む負極活物質とを有し、
前記電池滓を焼成することにより、前記グラファイトを酸化して炭酸ガスを生成する焼成工程をさらに有しており、
前記酸浸出工程においては、焼成された前記電池滓に前記硫酸を添加することを特徴とする請求項2に記載の有価金属の回収方法。
【請求項5】
リチウムイオン電池の廃棄物から電池滓を取り出す取出装置と、
前記電池滓に酸を添加して浸出液を生成する酸浸出装置と、
前記浸出液に第1添加剤であるNa分を含む第1硫黄化合物を添加して第1処理物を生成する第1添加装置と、
前記第1処理物を濾過して第1処理濾液とCu分を含む第1処理残渣とに分離する第1濾過装置と、
前記第1処理濾液に第2添加剤であるNa分を含む第2硫黄化合物を添加して第2処理物を生成する第2添加装置と、
前記第2処理物を濾過して第2処理濾液とCo分又は/及びNi分を含む第2処理残渣とに分離する第2濾過装置と、
前記第2処理濾液に第3添加剤である水酸化カルシウムを添加して第3処理物を生成する第3添加装置と、
前記第3処理物を濾過してLi分を含む第3処理濾液と第3処理残渣とに分離する第3濾過装置と、
前記第3処理濾液に第4添加剤である炭酸ナトリウムを添加して第4処理物を生成する第4添加装置と、
前記第4処理物を濾過して第4処理濾液とCa分を含む第4処理残渣とに分離する第4濾過装置と、
前記第4処理濾液を加熱する加熱装置と、
加熱された前記第4処理濾液に炭酸ガスを吹き込むか、あるいは炭酸塩を添加して第5処理物を生成する第5添加装置と、
前記第5処理物を濾過してNa分を含む第5処理濾液とLi分を含む第5処理残渣とに分離する第5濾過装置とを備えており、
前記第2処理物のpHは前記第1処理物のpHよりも大きく、前記第3処理物のpHは前記第2処理物のpHよりも大きいことを特徴とする有価金属の回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属の回収方法及び回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、リチウムイオン電池の廃棄物から回収した電池滓に酸を添加して浸出液を生成し、浸出液に水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウム(添加剤)を添加して処理物を生成し、処理物を固液分離して濾液(リチウム溶解液)と残渣とに分離し、濾液に含まれるLi分を炭酸化して回収する技術が記載されている。
【0003】
しかし、下記特許文献1に記載の技術において、添加剤として水酸化ナトリウムを使用した場合、Na分が多量に混入するため、炭酸リチウム製造時のNa分の洗浄負荷が高まる。一方で、添加剤として水酸化カルシウムを用いた場合、炭酸リチウム製造時にCa分がLi分と共に炭酸化され、この濾液から製造した炭酸リチウムに難溶性の炭酸カルシウムが混入する。よって、回収したLi分を有効に利用することが難しくなる。また、特許文献2では、水酸化カルシウムを添加剤とした場合、炭酸化と再溶解、Ca分析出、固液分離によってCa分を除去しており、工程が煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-160429号公報
【特許文献2】特開2019-11518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、リチウムイオン電池に含まれるLi分を添加剤に含まれるNa分及びCa分から分離して回収することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一項目に係る有価金属の回収方法は、リチウムイオン電池の廃棄物から電池滓を取り出す取出工程と、前記電池滓に酸を添加して浸出液を生成する酸浸出工程と、前記浸出液に第1添加剤であるNa分を含む第1硫黄化合物を添加して第1処理物を生成する第1添加工程と、前記第1処理物を濾過して第1処理濾液とCu分を含む第1処理残渣とに分離する第1濾過工程と、前記第1処理濾液に第2添加剤であるNa分を含む第2硫黄化合物を添加して第2処理物を生成する第2添加工程と、前記第2処理物を濾過して第2処理濾液とCo分又は/及びNi分を含む第2処理残渣とに分離する第2濾過工程と、前記第2処理濾液に第3添加剤である水酸化カルシウムを添加して第3処理物を生成する第3添加工程と、前記第3処理物を濾過してLi分を含む第3処理濾液と第3処理残渣とに分離する第3濾過工程と、前記第3処理濾液に第4添加剤である炭酸ナトリウムを添加して第4処理物を生成する第4添加工程と、前記第4処理物を濾過して第4処理濾液とCa分を含む第4処理残渣とに分離する第4濾過工程と、前記第4処理濾液を加熱する加熱工程と、加熱された前記第4処理濾液に炭酸ガスを吹き込むか、あるいは炭酸塩を添加して第5処理物を生成する第5添加工程と、前記第5処理物を濾過してNa分を含む第5処理濾液とLi分を含む第5処理残渣とに分離する第5濾過工程とを有している。前記第2処理物のpHは前記第1処理物のpHよりも大きく、前記第3処理物のpHは前記第2処理物のpHよりも大きい。なお、本出願において、有価金属とはLi,Ni,Coを含むが、その他の金属を含んでもよい。
【0007】
第一項目によれば、各処理物(第1処理物~第3処理物)におけるpHを複数段階に分けて上昇させて各処理残渣(第1処理残渣~第3処理残渣)を回収する。これにより、各工程で発生する残渣の総量が減少するので、残渣に付着するLi量を減らして収率を向上できる。
【0008】
ここで、第1,2処理残渣は、それぞれCuとNi,Coの硫化物が少量であるのに対し、第3処理残渣は、第1,2添加・濾過工程を設けることにより、2つの要因で大きく減少する。(1)すでにCuとNi,Coが除去されている分、第3処理残渣が減少する。(2)第1,2添加・濾過工程によりpHが上昇しているので、添加する水酸化カルシウムの量が少なくてよく、CaSOの沈殿が減り、第3処理残渣が減少する。よって、電池滓に含まれるLi分を従来技術よりも第3処理濾液から効率よく回収することができる。
【0009】
また、第一項目によれば、Caを含む第3添加剤で中和を実施するので、Na塩を用いる場合に比べて安価に中和することができ、また、Liとの分離が困難なNaの混入を避けることができる。Ca塩を含む第3添加剤由来のCaを除去するために第4添加剤として炭酸ナトリウムを使用するが、ここで添加されるNa量は、中和に必要なNa塩の量に比べて少ないので、LiとNaの分離負荷を抑えることができる。
【0010】
また、第一項目によれば、第4添加工程において第3処理濾液に含まれるCa分のみを効率よく分離することができる。その理由としては、溶解度の高い炭酸ナトリウムを第4添加剤として使用していること、Ca分は室温でも炭酸イオンと反応し、炭酸カルシウムとして沈殿するが、Li分が炭酸リチウムとして生成する温度は50℃以上であることが挙げられる。これにより、第4処理物(第3処理濾液から生成したもの)に含まれるCa分を第4濾過工程において効率よく除去することができる。このようにして、リチウムイオン電池に含まれるLi分を第3添加剤に含まれるCa分から分離することができる。
【0011】
さらに、第一項目によれば、第5添加工程において第4処理濾液に含まれるLi分を効率よく炭酸化することができる。これにより、第5処理物(第4処理濾液から生成したもの)に含まれるLi分を第5濾過工程において効率よく回収することができる。このようにして、リチウムイオン電池に含まれるLi分を第1添加剤、第2添加剤及び第4添加剤に含まれるNa分から分離することができる。なお、本発明において第4添加剤として使用する炭酸ナトリウムは、水和物であってもよい。
【0012】
本発明の第二項目に係る有価金属の回収方法は、前記酸浸出工程において前記酸である硫酸と過酸化水素とを前記電池滓に添加するものである。
【0013】
第二項目によれば、電池滓に含まれるNi分又は/及びCo分を過酸化水素により2価に還元して効率よく硫酸に浸出させることができる。これにより、第2処理残渣として多くのNi分又は/及びCo分を回収することができる。
【0014】
本発明の第三項目に係る有価金属の回収方法は、前記第3処理残渣をアルカリ性水溶液により洗浄して洗浄物を生成する洗浄工程と、前記洗浄物を濾過して前記Li分を含む洗浄濾液と洗浄残渣とに分離する洗浄後濾過工程とを有するものである。ここで、前記第4添加工程においては、前記第3処理濾液及び前記洗浄濾液から前記第4処理物を生成する。
【0015】
第三項目によれば、第3処理残渣に含まれる水酸化物(第3添加工程において生成した水酸化物)を再溶解させることなく、第3処理残渣に付着しているLi分をアルカリ性水溶液で洗い落とすことができる。これにより、このLi分は、洗浄濾液に含まれることになる。よって、このLi分と第3処理濾液に含まれるLi分との両方を回収することができる。
【0016】
本発明の第四項目に係る有価金属の回収方法は、前記電池滓は、Ni又は/及びCoを含む正極活物質とグラファイトを含む負極活物質とを有し、前記電池滓を焼成することにより、前記グラファイトを酸化して炭酸ガスを生成する焼成工程をさらに有している。前記酸浸出工程においては、焼成された前記電池滓に前記硫酸を添加する。
【0017】
第四項目によれば、焼成工程において電池滓中の正極活物質に含まれるNi分又は/及びCo分と負極活物質に含まれるグラファイトとを接触させ、グラファイトに含まれる電子をNi分又は/及びCo分に移動させて炭酸ガスを生成することができる。よって、電池滓中の正極活物質に含まれるNi分又は/及びCo分を2価に還元して効率よく硫酸に浸出させることができる。また、電池滓を焼成により減容させることができる。そして、電池滓を減容させたものに対して硫酸を添加するため、少量の硫酸を添加するだけで電池滓中の正極活物質に含まれるNi分及びCo分を硫酸に浸出させることができる。よって、電池滓に含まれるNi分及びCo分を第2処理残渣として効率よく回収することができる。
【0018】
本発明の第五項目に係る有価金属の回収装置は、リチウムイオン電池の廃棄物から電池滓を取り出す取出装置と、前記電池滓に酸を添加して浸出液を生成する酸浸出装置と、前記浸出液に第1添加剤であるNa分を含む第1硫黄化合物を添加して第1処理物を生成する第1添加装置と、前記第1処理物を濾過して第1処理濾液とCu分を含む第1処理残渣とに分離する第1濾過装置と、前記第1処理濾液に第2添加剤であるNa分を含む第2硫黄化合物を添加して第2処理物を生成する第2添加装置と、前記第2処理物を濾過して第2処理濾液とCo分又は/及びNi分を含む第2処理残渣とに分離する第2濾過装置と、前記第2処理濾液に第3添加剤である水酸化カルシウムを添加して第3処理物を生成する第3添加装置と、前記第3処理物を濾過してLi分を含む第3処理濾液と第3処理残渣とに分離する第3濾過装置と、前記第3処理濾液に第4添加剤である炭酸ナトリウムを添加して第4処理物を生成する第4添加装置と、前記第4処理物を濾過して第4処理濾液とCa分を含む第4処理残渣とに分離する第4濾過装置と、前記第4処理濾液を加熱する加熱装置と、加熱された前記第4処理濾液に炭酸ガスを吹き込むか、あるいは炭酸塩を添加して第5処理物を生成する第5添加装置と、前記第5処理物を濾過してNa分を含む第5処理濾液とLi分を含む第5処理残渣とに分離する第5濾過装置とを備えている。前記第2処理物のpHは前記第1処理物のpHよりも大きく、前記第3処理物のpHは前記第2処理物のpHよりも大きい。
【0019】
第四項目によれば、第一項目と同様の効果を生じさせることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、リチウムイオン電池に含まれるLi分を添加剤に含まれるNa分及びCa分から分離して回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る有価金属の回収方法の手順を説明するための説明図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る有価金属の回収装置を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る有価金属の回収方法について説明する。この回収方法は、いわゆるリチウムイオン電池の処理に適用されたものである。図1は、この回収方法の手順を説明するための説明図である。図2は、この回収方法を実施するための有価金属の回収装置100を模式的に示している。
【0023】
この回収方法は、図1に示すように、熱処理工程S1、破砕工程S2、取出工程S3、酸浸出工程S4、第1添加工程S5、第1濾過工程S6、第2添加工程S7、第2濾過工程S8、第3添加工程S9、第3濾過工程S10、第4添加工程S11、第4濾過工程S12、加熱工程S13、第5添加工程S14、及び第5濾過工程S15を有する。
【0024】
熱処理工程S1は、リチウムイオン電池の廃棄物W1を熱処理装置1(図2)により加熱して熱処理する工程である。熱処理は、例えば、過熱水蒸気又は/及び窒素雰囲気で500℃、1時間の条件で実施する。この工程では、廃棄物W1に含まれる電解液を加熱して揮発させることにより廃棄物W1を無害化することができる。廃棄物W1には、Li分、Ni分、Co分、Mn分、Al分及びCu分などの金属が含まれている。熱処理工程S1においては、廃棄物W1が熱処理されて廃棄物W2が得られる。
【0025】
破砕工程S2は、廃棄物W2を破砕装置2(図2)により破砕して破砕物Cを製造する工程である。破砕装置2には、例えば、二軸破砕機及びハンマークラッシャーを使用することができる。
【0026】
取出工程S3は、取出装置3(図2)により破砕物Cから不純物Iを除去して電池滓Mを取り出す工程である。取出装置3には、振動篩等の篩を使用することができる。篩を使用する場合、例えば篩目0.5mm程度の篩を用い、篩通過分が電池滓Mであって篩残分が不純物Iである。電池滓Mは、廃棄物W1に含まれていた正極活物質及び負極活物質を有する混合粉末である。不純物Iは、廃棄物W1に含まれていたアルミニウム片を含んでいる。
【0027】
酸浸出工程S4は、酸浸出装置4(図2)において電池滓Mに酸Sを添加することにより、電池滓Mに含まれる金属(Li分、Ni分、Co分、Mn分、Al分及びCu分など)を酸Sに浸出させる工程である。酸浸出工程S4においては、電池滓Mと酸Sとの混合液である浸出液Eが生成される。酸Sには、例えば硫酸及び過酸化水素の混合物を使用することができる。
【0028】
第1添加工程S5は、第1添加装置5(図2)において浸出液Eに第1添加剤A1(第1硫黄化合物)を添加することにより、浸出液Eに含まれるCu分の硫化物を生成する工程である。第1添加工程S5においては、浸出液Eと第1添加剤A1との混合物である第1処理物P1が生成される。第1添加剤A1としては、Na分を含む硫黄化合物を使用し、具体的には硫化水素ナトリウムを使用することができる。第1添加剤A1の添加については、第1処理物P1のpHが1以下であってORP(酸化還元電位)が0mV以下(vs Ag/AgCl)になるようになされることが好ましい。
【0029】
第1濾過工程S6は、第1濾過装置6(図2)において第1処理物P1を濾過して第1処理濾液F1と第1処理残渣R1とに分離する工程である。第1処理残渣R1には、Cu分の硫化物が含まれている。第1処理濾液F1には、Li分、Ni分、Co分、Mn分、Al分及びNa分(Na分は第1添加剤A1由来のもの)が含まれている。第1処理濾液F1には、Cu分はほぼ含まれていない(この点については後述する試験例で説明する)。このように、Li分をCu分から分離する。
【0030】
第2添加工程S7は、第2添加装置7(図2)において第1処理濾液F1に第2添加剤A2(第2硫黄化合物)を添加することにより、第1処理濾液F1に含まれるNi分及びCo分の硫化物を生成する工程である。第2添加工程S7においては、第1処理濾液F1と第2添加剤A2との混合物である第2処理物P2が生成される。第2添加剤A2としては、Na分を含む硫黄化合物を使用し、具体的には硫化水素ナトリウムを使用することができる。第2添加剤A2の添加については、第2処理物P2のpHが2以上3以下(第1処理物P1のpHよりも大きい)であってORP(酸化還元電位)が-420mV以下(vs Ag/AgCl)になるようになされることが好ましい。
【0031】
第2濾過工程S8は、第2濾過装置8(図2)において第2処理物P2を濾過して第2処理濾液F2と第2処理残渣R2とに分離する工程である。第2処理残渣R2には、Ni分及びCo分の硫化物が含まれている。第2処理濾液F2には、Li分、Mn分、Al分及びNa分(第1添加剤A1及び第2添加剤A2由来のもの)が含まれている。第2処理濾液F2には、Ni分及びCo分はほぼ含まれていない(この点については後述する試験例で説明する)。このように、Li分をNi分及びCo分から分離する。
【0032】
第3添加工程S9は、第3添加装置9(図2)において第2処理濾液F2に第3添加剤A3を添加することにより、第2処理濾液F2に含まれるAl分及びMn分などの水酸化物を生成する工程である。第3添加工程S9においては、第2処理濾液F2と第3添加剤A3との混合物である第3処理物P3が生成される。第3添加剤A3としては、水酸化カルシウムを使用する。第3添加剤A3の添加については、第3処理物P3のpHが10以上(第2処理物P2のpHよりも大きい)になるようになされることが好ましい。
【0033】
第3濾過工程S10は、第3濾過装置10(図2)において第3処理物P3を濾過して第3処理濾液F3と第3処理残渣R3とに分離する工程である。第3処理残渣R3には、Al分及びMn分の水酸化物が含まれている。第3処理濾液F3には、Li分、Na分及びCa分(第3添加剤A3由来のもの)が含まれている。第3処理濾液F3には、Al分及びMn分はほぼ含まれていない(この点については後述する試験例で説明する)。このように、Li分をAl分及びMn分から分離する。
【0034】
第4添加工程S11は、第4添加装置11(図2)において、第3処理濾液F3に第4添加剤A4を添加することにより、第3処理濾液F3に含まれるLi分を沈澱化させずにCa分を沈澱化させる工程である。第4添加工程S11においては、第3処理濾液F3と第4添加剤A4との混合物である第4処理物P4が生成される。第4添加剤A4としては、炭酸ナトリウム又は炭酸ナトリウム水和物のいずれかを使用するか、あるいは、これらを組み合わせて使用する。
【0035】
第4濾過工程S12は、第4濾過装置12(図2)により、第4処理物P4を濾過して第4処理濾液F4と第4処理残渣R4とに分離する工程である。第4処理残渣R4にはCa分の炭酸塩が含まれており、第4処理濾液F4にはLi分及びNa分が含まれている。この工程において、Li分をCa分から分離する。第4濾過工程S12においては、Li分がCa分と共に炭酸塩になってCa分と共に第4処理残渣R4として排出されることを防止するため、第4処理物P4を50℃未満(好ましくは20℃以上30℃以下)に維持した状態で第4処理濾液F4と第4処理残渣R4とに分離することが好ましい。
【0036】
加熱工程S13は、加熱装置13(図2)により、第4処理濾液F4を50℃以上(好ましくは60℃以上80℃以下)に加熱して高温濾液Hを生成する工程である。
【0037】
第5添加工程S14は、第5添加装置14(図2)により、高温濾液Hに炭酸ガスGを吹き込むことにより、高温濾液Hに含まれるLi分を炭酸化する工程である。第5添加工程S14においては、高温濾液Hと炭酸ガスGとの混合物である第5処理物P5が生成される。なお、高温濾液Hに炭酸ガスGを吹き込むことに代えて、あるいは、高温濾液Hに炭酸ガスGを吹き込むと共に、高温濾液Hに炭酸塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム水和物)を添加することができる。
【0038】
第5濾過工程S15は、第5濾過装置15(図2)により、第5処理物P5を濾過して第5処理濾液F5と第5処理残渣R5とに分離する工程である。第5処理残渣R5にはLi分の炭酸塩が含まれており、第5処理濾液F5にはNa分が含まれている。この工程において、Li分をNa分から分離する。第5濾過工程S15においては、Li分を炭酸化することを目的として、第5処理物P5を50℃以上(好ましくは60℃以上80℃以下)に維持した状態で第5処理濾液F5と第5処理残渣R5とに分離することが好ましい。
【0039】
次に、本発明の一実施形態に係る有価金属の回収方法及び回収装置における試験例について説明する。以下、この試験例における各工程を上記実施形態に対応させて説明する。また、以下において、特に記載していない事項は上記一実施形態と同様である。
【0040】
(熱処理工程~酸浸出工程)
リチウムイオン二次電池の廃棄物から回収した電池滓14.5gに硫酸(濃度2mol/l)100ml及び過酸化水素水(濃度30質量%)5mlを添加して浸出液を生成した。浸出液を60℃に加熱して4時間攪拌した。その後、この浸出液を室温まで放冷した。
【0041】
(第1添加工程)
室温まで放冷した浸出液にNaSH水溶液(濃度200g/l)を添加して第1処理物を生成した。NaSH水溶液の添加は、第1処理物のORP(酸化還元電位)が0mV(vs Ag/AgCl)に達するまで行った。次に、第1処理物にNaOH水溶液(濃度25質量%)を添加した。NaOH水溶液の添加については、第1処理物のpHが3.5程度になるように行った。
【0042】
(第1濾過工程)
NaOH水溶液を添加した第1処理物を濾過して第1処理濾液と第1処理残渣とに分離した。
【0043】
(第2添加工程)
第1処理濾液にNaSH水溶液(濃度200g/l)を添加して第2処理物を生成した。NaSH水溶液の添加については、第2処理物のORP(酸化還元電位)が-420mVになるように行った。
【0044】
(第2濾過工程)
第2処理物を濾過して第2処理濾液と第2処理残渣とに分離した。
【0045】
(第3添加工程)
第2処理濾液に水酸化カルシウム水溶液を添加して第3処理物を生成した。水酸化カルシウム水溶液の添加は、第3処理物のpHが10.0以上になるように行った。
【0046】
(第3濾過工程)
第3処理物を濾過して第3処理濾液と第3処理残渣とに分離した。
【0047】
【表1】
【0048】
表1は、浸出液、第1処理濾液、第2処理濾液及び第3処理濾液の化学組成を示している。表1に示すように、浸出液においては、Li分の他に、Ni分、Co分、Mn分、Al分、Cu分、Fe分、Mg分及びZn分が多く含まれている。第1処理濾液においては、Cu分の濃度が0.01g/l未満まで低下している。第2処理濾液においては、さらにNi分及びCo分の濃度が0.10g/l未満まで低下している。第3処理濾液においては、Li分の濃度は4.14g/lであったのに対し、Li分以外の金属(Ni分、Co分、Mn分、Al分、Cu分、Fe分、Mg分及びZn分)の濃度は全て0.01g/l未満まで低下している。
【0049】
以上により、上記一実施形態によれば、熱処理工程S1~第3濾過工程S10(あるいは熱処理装置1~第3濾過装置10)を有することにより、リチウムイオン電池の廃棄物W1に含まれるLi分をそれ以外の金属から分離して効率よく回収することができる。
【0050】
また、上記一実施形態によれば、第4添加工程S11~第5濾過工程S15を有することにより、リチウムイオン電池の廃棄物W1に含まれるLi分を、第1添加剤A1、第2添加剤A2及び第4添加剤A4に含まれていたNa分並びに第3添加剤A3に含まれていたCa分から分離して回収することができる。
【0051】
さらに、上記一実施形態によれば、第1処理残渣R1としてCu分を回収し、第2処理残渣R2としてNi分及びCo分を回収し、第3処理残渣R3としてAl分及びMn分を回収することができる。よって、これら回収した金属を有効に利用することができる。特に、酸浸出工程S4において酸Sとして硫酸及び過酸化水素を添加することにより、電池滓Mに含まれるNi分及びCo分を3価又は4価から2価に還元して多く硫酸に浸出させることができるため、第2処理残渣R2としてNi分及びCo分を多く回収することができる。
【0052】
なお、上記一実施形態において、熱処理工程S1及び破砕工程S2を適宜省略することができる。
【0053】
また、上記一実施形態において、第3処理残渣R3をアルカリ性水溶液により洗浄して洗浄物を生成する洗浄工程と、洗浄物を濾過してLi分を含む洗浄濾液と洗浄残渣とに分離する洗浄後濾過工程とを設けることもできる。この場合、第4添加工程S11においては、第3処理濾液F3及び洗浄濾液から第4処理物P4を生成する。
【0054】
これによれば、第3処理残渣R3に含まれる水酸化物(第3添加工程において生成した水酸化物)を再溶解させることなく、第3処理残渣の表面等に付着しているLi分をアルカリ性水溶液で洗い落とすことができる。これにより、このLi分は洗浄濾液に含まれることになる。よって、このLi分と第3処理濾液F3に含まれるLi分との両方を回収することができる。
【0055】
アルカリ性水溶液としては、Ca分を含む溶液を使用する。具体的には、例えば水酸化カルシウム水溶液を使用することができる。アルカリ性水溶液は、第3処理残渣R3に含まれるMn分などを溶解させないため、pH10以上であることが好ましい。
【0056】
さらに、上記一実施形態において、Ni又は/及びCoを含む正極活物質とグラファイトを含む負極活物質とを有する電池滓Mを焼成することにより、前記グラファイトを酸化して炭酸ガスを生成する焼成工程をさらに設けることもできる。この場合、焼成工程は、取出工程S3の後に実施され、酸浸出工程S4においては、焼成された電池滓Mに硫酸を添加する。
【0057】
これによれば、焼成工程において電池滓M中の正極活物質に含まれるNi分又は/及びCo分と負極活物質に含まれるグラファイトとを接触させ、グラファイトに含まれる電子をNi分又は/及びCo分に移動させて炭酸ガスを生成することができる。よって、電池滓中の正極活物質に含まれるNi分又は/及びCo分を焼成により2価に還元して効率よく硫酸に浸出させることができる。また、電池滓Mを減容させることができる。そして、電池滓Mを減容させたものに対して硫酸を添加するため、少量の硫酸を添加するだけで電池滓中の正極活物質に含まれるNi分及びCo分を硫酸に浸出させることができる。よって、電池滓に含まれるNi分及びCo分を第2処理残渣R2として効率よく回収することができる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-08-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の廃棄物から電池滓を取り出す取出工程と、
前記電池滓に酸を添加して浸出液を生成する酸浸出工程と、
前記浸出液に第1添加剤であるNa分を含む第1硫黄化合物を添加して第1処理物を生成する第1添加工程と、
前記第1処理物を濾過して第1処理濾液とCu分を含む第1処理残渣とに分離する第1濾過工程と、
前記第1処理濾液に第2添加剤であるNa分を含む第2硫黄化合物を添加して第2処理物を生成する第2添加工程と、
前記第2処理物を濾過して第2処理濾液とCo分又は/及びNi分を含む第2処理残渣とに分離する第2濾過工程と、
前記第2処理濾液に第3添加剤である水酸化カルシウムを添加して第3処理物を生成する第3添加工程と、
前記第3処理物を濾過してLi分を含む第3処理濾液と第3処理残渣とに分離する第3濾過工程と、
前記第3処理濾液に第4添加剤である炭酸ナトリウムを添加して第4処理物を生成する第4添加工程と、
前記第4処理物を濾過して第4処理濾液とCa分を含む第4処理残渣とに分離する第4濾過工程と、
前記第4処理濾液を加熱する加熱工程と、
加熱された前記第4処理濾液に炭酸ガスを吹き込むか、あるいは炭酸塩を添加して第5処理物を生成する第5添加工程と、
前記第5処理物を濾過してNa分を含む第5処理濾液とLi分を含む第5処理残渣とに分離する第5濾過工程とを有しており、
前記第2処理物のpHは前記第1処理物のpHよりも大きく、前記第3処理物のpHは前記第2処理物のpHよりも大きいものとされており、
前記第2添加工程における前記第2添加剤としての前記第2硫黄化合物は、硫化水素ナトリウムであり、
前記第2添加剤の添加は、前記第2処理物のpHが2以上3以下であって、ORP(酸化還元電位)が-420mV以下(vs Ag/AgCl)になるようになされる
ことを特徴とする有価金属の回収方法。
【請求項2】
前記酸浸出工程において、前記酸である硫酸と過酸化水素とを前記電池滓に添加することを特徴とする請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項3】
前記第3処理残渣をアルカリ性水溶液により洗浄して洗浄物を生成する洗浄工程と、
前記洗浄物を濾過して前記Li分を含む洗浄濾液と洗浄残渣とに分離する洗浄後濾過工程とを有しており、
前記第4添加工程においては、前記第3処理濾液及び前記洗浄濾液から前記第4処理物を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の有価金属の回収方法。
【請求項4】
前記電池滓は、Ni又は/及びCoを含む正極活物質とグラファイトを含む負極活物質とを有し、
前記電池滓を焼成することにより、前記グラファイトを酸化して炭酸ガスを生成する焼成工程をさらに有しており、
前記酸浸出工程においては、焼成された前記電池滓に前記硫酸を添加することを特徴とする請求項2に記載の有価金属の回収方法。
【請求項5】
前記加熱工程は、前記第4処理濾液を60℃以上80℃以下に加熱して、前記加熱された第4処理濾液を得るものである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の有価金属の回収方法。
【請求項6】
リチウムイオン電池の廃棄物から電池滓を取り出す取出装置と、
前記電池滓に酸を添加して浸出液を生成する酸浸出装置と、
前記浸出液に第1添加剤であるNa分を含む第1硫黄化合物を添加して第1処理物を生成する第1添加装置と、
前記第1処理物を濾過して第1処理濾液とCu分を含む第1処理残渣とに分離する第1濾過装置と、
前記第1処理濾液に第2添加剤であるNa分を含む第2硫黄化合物を添加して第2処理物を生成する第2添加装置と、
前記第2処理物を濾過して第2処理濾液とCo分又は/及びNi分を含む第2処理残渣とに分離する第2濾過装置と、
前記第2処理濾液に第3添加剤である水酸化カルシウムを添加して第3処理物を生成する第3添加装置と、
前記第3処理物を濾過してLi分を含む第3処理濾液と第3処理残渣とに分離する第3濾過装置と、
前記第3処理濾液に第4添加剤である炭酸ナトリウムを添加して第4処理物を生成する第4添加装置と、
前記第4処理物を濾過して第4処理濾液とCa分を含む第4処理残渣とに分離する第4濾過装置と、
前記第4処理濾液を加熱する加熱装置と、
加熱された前記第4処理濾液に炭酸ガスを吹き込むか、あるいは炭酸塩を添加して第5処理物を生成する第5添加装置と、
前記第5処理物を濾過してNa分を含む第5処理濾液とLi分を含む第5処理残渣とに分離する第5濾過装置とを備えており、
前記第2処理物のpHは前記第1処理物のpHよりも大きく、前記第3処理物のpHは前記第2処理物のpHよりも大きいものとされており、
前記第2添加装置により添加される前記第2添加剤としての前記第2硫黄化合物は、硫化水素ナトリウムであり、
前記第2添加装置は、前記第2添加剤を、前記第2処理物のpHが2以上3以下であって、ORP(酸化還元電位)が-420mV以下(vs Ag/AgCl)になるように添加する構成となっている
ことを特徴とする有価金属の回収装置。